説明

イオン性のゲル化剤、ゲル、ゲルの製造方法および架橋剤

【課題】導電性が高く、かつ電気化学デバイス等に用いた際に、ゲルと接触する金属部位の腐食を抑制することができる電解液のゲル、および当該ゲルを形成するためのゲル化剤と架橋剤を提供する。
【解決手段】複数のフルオロアルキル化スルホニルアミド基を有する架橋剤と、当該架橋剤とオニウム塩を形成可能な基を有する高分子化合物とを含むゲル化剤、および、当該ゲル化剤で有機溶媒、イオン性液体および/または電解質溶液を含む液性媒体をゲル化してなるイオン性ゲル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性のゲル化剤、ゲル、ゲルの製造方法および架橋剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲルは、構造、物性などの基礎研究から食料品、医薬品、化粧品、電池などの応用研究まで幅広い分野において注目されている。また、電解液のゲル化技術は、各種電気化学デバイスの分野において、薬傷、爆発の可能性のある有害な電解液漏洩を防ぐ技術としても注目されている。
【0003】
しかしながら、一般に電解液をゲル化すると、電解液の導電率が低下してしまう問題がある。この対策として、ゲル化剤にイオン性を付与することで、ゲル化時の導電率低下を改善する試みがある。
イオン性のゲルとして、高分子に対して多価のハロゲン化アルキルまたは有機酸で架橋したゲルが色素増感太陽電池の分野で開発されている(特許文献1〜3、非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、これらの文献に記載のゲル内には、高濃度の有機酸またはハロゲン化物イオンを含有することにより、電気化学デバイス中においてゲルと接触する金属部位が腐食されるといった問題があった。
この問題により、電気化学デバイスの寿命は短くなってしまう、また、使用可能な金属材料が限定されるため、特定の分野にしか適用できず、様々な電気化学デバイス分野において適用するには不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001‐160427
【特許文献2】特開2003‐86258
【特許文献3】特開2003‐203520
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Kato, A. Okazaki and S. Hayase, Chem.Commun., 2005, 363-365
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題を解決すべく、本発明者らは、鋭意研究するなかで、上記特許文献1〜3に記載のゲルは、高濃度の有機酸またはハロゲン化物イオンを含有することにより、電気化学デバイス中においてゲルと接触する金属部位が腐食される結果、電気化学デバイスの耐久性を低下させている、また、使用可能な金属材料が限定されるという点に着目し、これらの問題を解決することで、耐久性を向上し、より汎用性のあるゲルを製造することができるという知見を得るに至った。
すなわち、本発明の目的は、従来技術の問題点を解消し、導電性を保持し、電気化学デバイス等においてゲルと接触する金属部位の腐食しないゲルを提供することにある。また、上記ゲルの形成に用いられるゲル化剤、上記ゲルを容易に製造するためのゲルの製造方法および上記ゲルを形成するための架橋剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような現状を踏まえ、本発明者らは、さらに検討を重ねたところ、特定の架橋剤と、窒素、リンおよび/または硫黄原子を有する高分子化合物とを含むゲル化剤により、上記課題を解決できるゲルを形成できることを見出し、さらなる研究の結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下に関する。
(a)架橋剤と高分子化合物とを含み、これらがオニウム塩を形成することにより網目構造を形成し得るゲル化剤であって、
架橋剤が、同一または異なっていてもよい、以下の式で表される複数の置換基
【化1】

式中、
は、互いに独立して、フルオロ基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基およびヘプタフルオロプロピル基からなる群より選択される、
を有する、
ヘテロ原子を含んでいてもよい、飽和炭化水素、不飽和炭化水素または芳香族炭化水素を含み、
高分子化合物が、N、PおよびSからなる群から選択される1種または2種以上の元素を有するモノマー単位を1種または2種以上含む、
前記ゲル化剤。
【0009】
(b)架橋剤が、以下の式:
【化2】

式中、
およびRは、互いに独立して、Hまたは置換基を有していてもよいアルキル基であり、
は、1〜30の整数であり、
およびmは、互いに独立して、0〜15の整数であり、
xは、2または3であり、
は、0〜15の整数であり、
は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、
yは、1〜15の整数であり、
zは、2〜10の整数である、
で表される化合物からなる群より選択される、1種または2種以上を含む、
(a)に記載のゲル化剤。
【0010】
(c)架橋剤が、以下の式:
【化3】

【化4】

式中、
は、1〜30の整数である、
で表される化合物からなる群より選択される、1種または2種以上を含む、
(a)または(b)に記載のゲル化剤。
【0011】
(d)架橋剤が、2〜5個の置換基Aを有する、(a)〜(c)のいずれかに記載のゲル化剤。
【0012】
(e)高分子化合物が、以下の式:
【化5】

で表される1種または2種以上のモノマー単位を含み、
さらに、前記高分子化合物が、以下の式:
【化6】

式中、
およびRは、互いに独立して、水素またはメチル基であり、
Dは、N、PおよびSからなる群から選択される1種または2種以上の元素を有する基であり、
Eは、有機基であり、
基Dが結合する主鎖の炭素原子と基Eが結合する主鎖の炭素原子とが隣り合う場合には、DおよびEは主鎖の各炭素原子とともに互いに結合して環を形成してもよい、
で表されるモノマー単位からなる群から選択される1種または2種以上を含んでもよく、
ここで、
式(11)で表されるモノマー単位が含まれる場合には、式(11)で表されるモノマー単位の当量比が、式(10)で表されるモノマー単位の当量比に対して、1:9〜9:1である、
(a)〜(d)のいずれかに記載のゲル化剤。
【0013】
(f)高分子化合物が、以下の式:
【化7】

式中、
、n、nおよびnは、互いに独立して、1〜10の整数であり、
は、0〜10の整数であり、
Aは、N(SOCFであり、
は、炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アリル基、ビニル基、置換基を有してもよいベンジル基、置換基を有してもよいフェニル基、および炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のフルオロアルキル基からなる群から選択される、
で表されるモノマー単位からなる群から選択される、1種または2種以上を含み、
ただし、式(18)〜(20)のいずれかがモノマー単位として選択された場合は、式(12)〜(17)の少なくとも1種のモノマーを含む、
(a)〜(e)のいずれかに記載のゲル化剤。
【0014】
(g)高分子化合物の数平均分子量が、1,000〜1,000,000である、(a)〜(f)のいずれかに記載のゲル化剤。
【0015】
(h)有機溶媒、イオン液体および/または電解質溶液を含む液性媒体をゲル化させる、(a)〜(g)のいずれかに記載のゲル化剤。
【0016】
(i)有機溶媒が、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、メトキシプロピオニトリル(MPN)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、塩化メチレン、メトキシアセトニトリル(MAN)、N−メチルピロリジノン(NMP)、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、アニソール、モノグライム、プロピオニトリル、4−メチル−2−ペンタノン、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、1,2−ジクロロエタン、ジメトキシエタン、ギ酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ビニレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルチオホルムアミド、スルホラン、3−メチル−スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、ニトロメタン、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタンおよび四塩化炭素などからなる群から選択される、1種または2種以上である、(h)に記載のゲル化剤。
【0017】
(j)有機溶媒が、ジメチルアセトアミド(DMA)、メトキシアセトニトリル(MAN)、N−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、メトキシプロピオニトリル(MPN)、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタンおよび四塩化炭素からなる群から選択される、1種または2種以上である、(h)または(i)に記載のゲル化剤。
【0018】
(k)イオン液体が、陽イオン種および陰イオン種を含み、前記陽イオンは、例えば、置換基を有してもよい、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、テトラアルキルホスニウムイオン、ピラゾリウムイオン、トリアルキルスルホニウムイオン、モルホリウムイオンおよびグアジニウムイオンなどからなる群から選択される、1種または2種以上であり、前記陰イオンは、例えば、ハロゲン化物イオン(フッ素、塩素、ヨウ素、臭素)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(TFSA)、チオシアン酸イオン(SCN)、硝酸イオン(NO)、硫酸イオン(SO2−)、チオ硫酸イオン(S2−)、炭酸イオン(CO2−)、炭酸水素イオン(HCO)、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ハロゲン酸化物酸イオン(XO、XO、XOまたはXO、ここで、Xは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素である)、ハロゲン化酢酸イオン((CX3−n)COO、ここで、Xは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、nは、1〜3である)、テトラフェニルホウ酸イオン(BPh)およびその誘導体(B(Aryl)であり、ここで、Aryl=置換基を有するフェニル基)などからなる群から選択される、1種または2種以上である、(h)に記載のゲル化剤。
【0019】
(l)電解質溶液が、例えば、ヨウ素とヨウ化物とを含む溶液、リチウムイオンを含む溶液およびテトラアルキルアンモニウム塩を含む溶液などからなる群から選択される、1種または2種以上である、(h)に記載のゲル化剤。
(m)高分子化合物の含有量が、ゲル化剤に対して15〜75重量%である、(a)〜(l)のいずれかに記載のゲル化剤。
【0020】
(n)架橋剤の含有量が、ゲル化剤に対して25〜85重量%である、(a)〜(m)のいずれかに記載のゲル化剤。
(o)ゲルの形成に際して、液性媒体の合計の含有量が、0.1〜50重量%である、(h)〜(n)のいずれかに記載のゲル化剤。
【0021】
(p)電極に接する部位に用いられるゲルの形成に用いられる、(a)〜(o)のいずれかに記載のゲル化剤。
(q)(a)〜(p)のいずれかに記載のゲル化剤を用いて形成されたことを特徴とするゲル。
【0022】
(r)(a)〜(p)のいずれかに記載のゲル化剤の形成に用いられる、架橋剤。
(s)(a)〜(p)のいずれかに記載のゲル化剤を用いてゲルを製造する方法であって、
ゲル化剤と、液性媒体とを混合する工程を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来技術の問題点を解消し、電解液の導電性を大きく低下させることなく、また、ゲルが接する金属部位が腐食されないゲルを提供することができる。さらには、上記ゲルの形成に用いられるゲル化剤、上記ゲルを容易に製造することにできるゲルの製造方法および上記ゲルを形成するための架橋剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】腐食試験として、LSV測定により、LiTFSA−PC溶液、1,12−ジブロモドデカンで架橋したゲル、N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメチルスルホニル)−ドデカンジアミンで架橋したゲルのアノード測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のイオン性のゲル化剤、ゲル、ゲルの製造方法および架橋剤について説明する。
<ゲル化剤>
本発明のゲル化剤は、架橋剤と高分子化合物とを含む。そして、これらがオニウム塩を形成することにより、ゲルを形成するものである。
ここで、オニウム塩とは、化学結合に関与しない電子対を有する化合物が、当該電子対によって、他の陽イオン形の化合物と配位結合して生ずる化合物をいう。
例えば、ピリジンとアルキル化TFSAが反応し、アルキルピリジニウムの陽イオンとTFSAの陰イオンが配位結合し、オニウム塩を形成することにより、ゲルを形成するものである。
【0026】
(架橋剤)
まず、架橋剤について説明する。
本発明の架橋剤は、以下の式で表される複数の置換基A:
【化8】

式中、
は、互いに独立して、フルオロ基、またはフルオロ基を有するアルキル基またはアリール基であり、前記アルキル基または前記アリール基は置換基を有していてもよい、
を有し、
ヘテロ原子を含んでいてもよい、飽和炭化水素、不飽和炭化水素または芳香族炭化水素を含む。
【0027】
このような架橋剤は、後述する高分子化合物とオニウム塩を形成し得るものである。また、このような架橋剤は、置換基Aを基点として架橋を行うものであるが、結果として、ゲルを形成した際に、ハロゲン化物イオンや有機酸は含まれない。したがって、当該ゲルと接する電極等の金属部位が腐食されない。また、この架橋剤は、常温で架橋反応が進行しにくい。一方、加熱等のエネルギーを与えることで容易に架橋反応が進行する。したがって、本発明のゲル化剤は、ゲルの形成条件を容易に選択できる。その結果、ゲルの製造を容易にし、例えば、ゲルの形成性を優れたものとすることができる。
【0028】
飽和炭化水素としては、例えば、アルカンおよびシクロアルカンなどが挙げられる。なお、上記飽和炭化水素は、置換基A以外の置換基を有していてもよく、また、直鎖状または分岐状であってもよい。
不飽和炭化水素としては、例えば、アルケン、シクロアルケン、アルキンおよびシクロアルキンなどが挙げられる。なお、上記不飽和炭化水素は、置換基A以外の置換基を有していてもよく、また、直鎖状または分岐状であってもよい。
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、ビフェニル、ナフタレンおよびアントラセンなどが挙げられる。なお、上記芳香族炭化水素は、置換基A以外の置換基を有していてもよい。
【0029】
は、フルオロ基、またはフルオロ基を有するアルキル基またはアリール基であれば特に限定されない。典型的には、フルオロ基を有するアルキル基は、フルオロ基を有する炭素数1〜20のアルキル基であって、好ましくはフルオロ基を有する炭素数1〜10のアルキル基であり、より好ましくはフルオロ基を有する炭素数1〜3のアルキル基であり、さらに好ましくは、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基およびヘプタフルオロプロピル基である。
置換基Aとしては、例えば、−N(SOF)、−N(SOCF、−N(SO、−N(SO、−N(SOCHF、−N(SOCHF)などが挙げられる。
【0030】
これらのうち、置換基Aは、入手が容易であるとの観点から、好ましくは、−N(SOCF、−N(SOおよび−N(SOである。
置換基A以外の上記置換基としては、これらに限定されるものではないが、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基および炭素数1〜30のエステル基などが挙げられる。
【0031】
上記アルキル基、アルコキシ基およびエステル基は、さらにアミノ基およびシアノ基などで置換されていてもよく、また、直鎖状または分岐状であってもよい。
ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、リン原子、硫黄原子などが挙げられる。上述した中でも、ヘテロ原子としては、入手が容易であるとの観点から、好ましくは、窒素原子および硫黄原子であり、より好ましくは、窒素原子である。
【0032】
上記飽和炭化水素、不飽和炭化水素、または芳香族炭化水素を含む架橋剤としては、具体的には、例えば、以下の式(1)〜(4)で表される化合物などが挙げられる。
【0033】
【化9】

【0034】
およびRは、互いに独立して、Hまたは置換基を有していてもよいアルキル基である。
は、1〜30の整数であり、好ましくは、3〜30であり、より好ましくは、6〜30である。上記範囲内であると、多様な液性媒体をゲル化することができる。
【0035】
およびmは、互いに独立して、1〜30の整数であり、好ましくは、1〜10であり、より好ましくは、2〜5である。
xは、2または3であり、好ましくは、3である。
は、1〜15の整数であり、好ましくは、1〜10であり、より好ましくは、2〜5である。
【0036】
は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、これらのうち、好ましくは、1〜10であり、より好ましくは、1〜5である。
yは、1〜15の整数であり、好ましくは、3〜15である。
【0037】
zは、2〜10の整数であり、ゲル化能の観点から、好ましくは、4〜10である。
前記置換基としては、特に限定されないが、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、エステル基、チオール基、スルフィド基、アミド基およびイミド基などが挙げられ、該アルキル基、アルコキシ基、エステル基、チオール基、スルフィド基、アミド基およびイミド基は、さらに、アルキル基、アルコキシ基、エステル基、チオール基、スルフィド基、アミド基およびイミド基などの置換基を有していてもよく、また、直鎖状または分岐状であってもよい。
【0038】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。
【0039】
より好ましい上記飽和炭化水素、不飽和炭化水素、または芳香族炭化水素としては、例えば、以下の式(5)〜(9)で表される化合物などが挙げられる。
【化10】


【0040】
は、1〜30の整数であり、好ましくは、3〜20であり、より好ましくは、6〜15である。
架橋剤に含まれる上記飽和炭化水素、不飽和炭化水素、または芳香族炭化水素が有する置換基Aの個数は、2〜30個であり、特に限定されないが、合成が容易との観点から、好ましくは、2〜5個である。
ゲル化剤に対する架橋剤の含有量は、特に限定されないが、25〜85重量%であり、導電率の観点から、好ましくは、25〜50重量%であり、より好ましくは、25〜30重量%である。
【0041】
(高分子化合物)
次に、高分子化合物について説明する。
高分子化合物は、N、PおよびSからなる群から選択される1種または2種以上の元素を有するモノマー単位を含む。
【0042】
このような高分子化合物は、上述したモノマー単位を含むものであれば特に限定されないが、例えば、以下の式:
【化11】

で表される、1種または2種以上のモノマー単位を含むものとすることができる。
このような高分子化合物は、上述した架橋剤により好適に架橋されるものである。
【0043】
式中、Rは、水素またはメチル基であり、Dは、N、PおよびSからなる群から選択される1種または2種以上の元素を有する基である。
上述したDは、入手が容易であるとの観点から、好ましくは、窒素原子を有する基である。
式(10)のモノマー単位としては、例えば、ビニルピリジン単位、ビニルピロリジン単位、ビニルピロール単位、ビニルジメチルアミン単位、ビニルイミダゾール単位、ジメチルアミノアルキルアクリレート単位、ジメチルアミノアルキルメタクリレート単位、ジメチルアミノアルキルアクリルアミド単位、ビニルホスフィン単位、ビニルチオフェン単位およびビニルスルフィド単位などが挙げられる。なお、上記モノマー単位は、置換基を有していてもよい。
【0044】
前記置換基としては、これらに限定されるものではないが、炭素数1〜30のアルキル基、アルコキシ基、エステル基、チオール基、スルフィド基、アミド基およびイミド基などが挙げられ、該アルキル基、アルコキシ基、エステル基、チオール基、スルフィド基、アミド基およびイミド基は、さらにアルキル基、アルコキシ基、エステル基、チオール基、スルフィド基、アミド基およびイミド基などの置換基を有していてもよく、また、直鎖状または分岐状であってもよい。
【0045】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。
【0046】
上記式(10)により表されるモノマー単位のうち、ゲル化が容易であるとの観点から、下記に示す式:
【化12】

で表されるモノマー単位が好ましく、式(12)、(13)および(15)で表されるモノマー単位がより好ましい。
【0047】
式(14)中、nは、1〜10の整数であり、入手が容易であるとの観点から、好ましくは1〜5であり、より好ましくは2〜3である。
式(15)中、nは、1〜10の整数であり、入手が容易であるとの観点から、好ましくは1〜5であり、より好ましくは2〜3である。
【0048】
式(16)中、nは、0〜10の整数であり、入手が容易であるとの観点から、好ましくは1〜5であり、より好ましくは2〜3である。
高分子化合物は、上記モノマー単位以外のモノマー単位を含んで構成されていてもよい。
例えば、前記高分子化合物は、以下の式:
【化13】

で表される、1種または2種以上のモノマー単位をさらに含んでいてもよい。
【0049】
式中、Rは、水素またはメチル基であり、Eは、有機基である。前記Eとしては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、スルフィド基、エステル基、アリール基およびヘテロアリール基などが挙げられ、これらは、置換基を有していてもよく、また、直鎖状または分岐状であってもよい。
これらのうち、溶媒に対する溶解性の観点から、好ましくは、アルキル基および4級のヘテロアリール基である。
【0050】
式(11)により表されるモノマー単位のうち、有機溶媒に対する溶解性およびゲル化能を向上させるとの観点から、下記に示す式:
【化14】

が好ましい。
【0051】
式(18)中、nは、0〜10の整数であり、入手が容易であるとの観点から、好ましくは、0〜2であり、より好ましくは0である。
式(19)中、nは、1〜10の整数であり、好ましくは、1〜6であり、より好ましくは1〜3である。
Aは、N(SOCFである。
【0052】
としては、置換基および/またはヘテロ原子を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などが挙げられる。
これらのうち、Rは、入手が容易であるとの観点から、好ましくは、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、アリル基、ビニル基、置換基を有してもよいベンジル基、置換基を有してもよいアリール基、および炭素数1〜30の直鎖状、分岐状もしくは環状のフルオロアルキル基である。
【0053】
およびnの数に依存することなく、架橋反応は良好に進行する。
前記高分子化合物が、式(10)で表されるモノマー単位を含み、さらに、式(11)で表されるモノマー単位を含む場合には、式(10)および式(11)のモノマー単位は、以下の4種の結合のうちのいずれであってもよい。
【化15】

また、少なくとも式(12)で表されるモノマー単位を含み、さらに、式(18)、(19)および(20)からなる群から選択される、1種または2種以上を含むことが好ましい。
ただし、式(18)〜(20)のいずれかがモノマー単位として選択された場合は、式(12)〜(17)の少なくとも1種のモノマーを含む。
【0054】
基Dが結合する主鎖の炭素原子と基Eが結合する主鎖の炭素原子とが隣り合う場合には、DおよびEは主鎖の各炭素原子とともに互いに結合して環を形成してもよく、該モノマー単位は、特に限定されないが、例えば、以下の式:
【化16】

で表される。
【0055】
式(11)で表されるモノマー単位は、式(10)で表されるモノマー単位に対して、当量比で、1:9〜9:1であり、架橋反応の容易性の観点から、好ましくは、1:9〜5:5であり、より好ましくは、3:7〜5:5である。
高分子化合物の数平均分子量は、特に限定されないが、1,000〜1,000,000であり、ポリマー溶解性の観点から、10,000〜200,000であり、より好ましくは、10,000〜100,000である。
【0056】
高分子化合物の共重合体形式は、特に限定されないが、例えば、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体またはこれらの組み合わせであってもよい。
架橋剤と高分子化合物との重量比は、特に限定されないが、ゲル化速度の観点から、好ましくは、1:2〜1:30であり、より好ましくは、1:2〜1:10である。
【0057】
以上、本発明のゲル化剤は、ゲル形成後にイオン性を有するため、導電性を有する。また、本発明のゲル化剤は、ゲル形成時においてハロゲン化物イオンや有機酸を副生しないため、該ゲルが接する金属部位の腐食を促進することはない。したがって、当該ゲル化剤により形成されたゲルを適用すると耐久性に優れたデバイスの製造を可能にするという効果を奏する。また、本発明のゲル化剤は、極めて広範な種類の液性媒体をゲル化することができる。さらに、本発明のゲル化剤により、高い熱安定性および透明性を有するゲルを形成することができる。さらに、本発明のゲル化剤は、常温では反応が抑制されているため、不本意なゲル化が防止することができる。また、加熱等によってゲル化を容易に行うことができるため、ゲルの成型性にも優れている。
また、ゲル化剤は、上述した成分以外の成分を含んでいてもよい。
【0058】
<ゲル>
上述したようなゲル化剤を用いて形成される、本発明のゲルについて説明する。本発明のゲルは、上述したゲル化剤と液性媒体とを用いて形成されるものである。
ゲル化剤としては、上述したものを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0059】
本発明のゲル化剤によってゲル化される液性媒体(液状媒質)は、特に限定されないが、例えば、各種液状無機物、有機溶媒、またはイオン液体などを用いることができる。これらのうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、好適に液性媒体をゲル化することができる。
液状無機物としては、例えば、水などが挙げられる。
【0060】
有機溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、メトキシプロピオニトリル(MPN)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、塩化メチレン、メトキシアセトニトリル(MAN)、N−メチルピロリジノン(NMP)、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、アニソール、モノグライム、プロピオニトリル、4−メチル−2−ペンタノン、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、1,2−ジクロロエタン、ジメトキシエタン、ギ酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ビニレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルチオホルムアミド、スルホラン、3−メチル−スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、ニトロメタン、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタンおよび四塩化炭素などが挙げられる。導電率の観点から、好ましくは、ジメチルアセトアミド(DMA)、メトキシアセトニトリル(MAN)、N−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、メトキシプロピオニトリル(MPN)、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタンおよび四塩化炭素である。
【0061】
イオン液体としては、例えば、陽イオン種および陰イオン種を含み、前記陽イオンは、置換基を有してもよい、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、テトラアルキルホスニウムイオン、ピラゾリウムイオン、トリアルキルスルホニウムイオン、モルホリウムイオンおよびグアジニウムイオンからなる群から選択される、1種または2種以上であり、前記陰イオンは、ハロゲン化物イオン(フッ素、塩素、ヨウ素、臭素)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(TFSA)、チオシアン酸イオン(SCN)、硝酸イオン(NO)、硫酸イオン(SO2−)、チオ硫酸イオン(S2−)、炭酸イオン(CO2−)、炭酸水素イオン(HCO)、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ハロゲン酸化物酸イオン(XO、XO、XOまたはXO、ここで、Xは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素である)、ハロゲン化酢酸イオン((CX3−n)COO、ここで、Xは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、nは、1〜3である)、テトラフェニルホウ酸イオン(BPh)およびその誘導体(B(Aryl)であり、ここで、Aryl=置換基を有するフェニル基)などが挙げられる。
【0062】
電解質溶液としては、例えば、ヨウ素とヨウ化物とを含む溶液、リチウムイオンを含む溶液、テトラアルキルアンモニウム塩を含む溶液およびイオン液体を含む溶液などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ヨウ素とヨウ化物とを含む溶液、リチウムイオンを含む溶液、テトラアルキルアンモニウム塩を含む溶液である。
【0063】
液性媒体は上述した中でも、アセトニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル系溶媒、γ−ブチロラクトン、プロピオンカーボネートおよびプロピルメチルイミダゾールヨーダイドからなる群から選択される、1種または2種以上を含むことが好ましい。
ゲル中の液性媒体の合計の含有量は、特に限定されないが、ゲル化剤100重量部に対して200〜100,000重量部を用い、好ましくは、1,000〜5,000重量部である。液性媒体の合計の含有量が前記範囲内である場合、ゲル形成が良好に進行する。
【0064】
また、本発明の実施態様においては、ゲルは導電性物質を含むものである。前記導電性物質としては、ゲルの導電性の向上に寄与するものであり、例えば、電解質および導電性微粒子などが挙げられる。
電解質は、液性媒体に溶解させることにより、導電性を向上させるものである。このような電解質としては、特に限定されないが、ヨウ素とヨウ化物、リチウム塩およびテトラアルキルアンモニウム塩などが挙げられ、1種または2種以上を含むことができる。
【0065】
また、導電性粒子は、液性媒体中に分散して存在するものであり、液性媒体に導電性を付与するものであれば、特に限定されない。
【0066】
本発明のゲルは、ゲル化剤がゲル形成後にイオン性を有するため、導電性物質がなくても導電性を有するものである。
【0067】
上述したゲルは、当該ゲル中におけるハロゲンイオンが遊離しないため、電気化学デバイス等における金属部位の腐食を抑制するものである。したがって、電極等に接する部位に用いることができる。
上述したゲルは、例えば、太陽光発電、リチウムイオン電池および電気二重層キャパシタなどに使用可能である。
【0068】
<ゲルの製造方法>
次に、本発明のゲル化剤を用いてゲルを製造する方法について説明する。
本発明のゲルの製造方法は、上述したゲル化剤と液性媒体とを混合する工程を含む。本実施態様においては、さらに加熱する工程を含む。
【0069】
前記方法において、混合方法としては特に限定されないが、例えば、ゲル化剤に高分子化合物および液性媒体を混合してもよく、また、高分子化合物に架橋剤及び液性媒体を混合してもよい。
前記方法において、加熱温度としては特に限定されないが、経済性および反応性を考慮すると、好ましくは、40〜120℃であり、より好ましくは、40〜80℃である。加熱温度が前記範囲内である場合、ゲル形成が良好に進行する。
【0070】
前記方法において、上述したゲルは、架橋剤、高分子化合物および液性媒体の含有量に応じて製造できる。
本発明のゲルを製造する方法においては、架橋反応が常温で進行しにくい一方で、加熱等によって好適にゲル化が可能である。したがって、架橋反応の制御が可能となり、ゲルの成型が容易となる効果を有する。これにより、ハロゲン化アルキルの高い反応性により、室温において反応が急激に進行すること、さらにこの急激な反応の進行により、得られたゲルを各用途に応じたセル等に充填することが困難といった非特許文献1に記載の問題を生じない。したがって、上述した製造方法は、幅広い分野の電気化学デバイス等のためのゲルの製造方法として用いることができる。
【0071】
ところで、上記ゲルの形成において、架橋剤と高分子化合物との架橋反応の機構の詳細は定かでないが、以下のような反応によりオニウム塩を形成することにより架橋が起こり、網目構造のゲルが形成されていると考えられる。
この重合反応の一例を以下に示す。
TFSAは、N(SOCFを表し、Phはフェニル基を表す。
【0072】
【化17】

【0073】
上記反応式(I)は、窒素原子を含有する原子団を1分子当り2以上有する化合物であるポリ(4−ビニルピリジン)と1分子当りのビス(トリフルオロメタンスルホンアミド)基数が2つの有機化合物である1,N,N,N’,N’−テトラ(トリフロメタンスルホニル)−ドデカン−12−ジアミンとの付加反応により、Nを含むオニウム塩の架橋体からなる重合体を合成する反応を示す。
【0074】
【化18】

【0075】
上記反応式(II)は、リン原子を含有する原子団を1分子当り2以上有する化合物であるポリ(ビニルフェニルジフェニルホスフィン)と1分子当りのビス(トリフルオロメタンスルホンアミド)基数が2つの有機化合物である1,N,N,N’,N’−テトラ(トリフロメタンスルホニル)−ドデカン−12−ジアミンとの付加反応により、Pを含むオニウム塩の架橋体からなる重合体を合成する反応を示す。
【0076】
【化19】

【0077】
上記反応式(III)は、硫黄原子を含有する原子団を1分子当り2以上有する化合物であるポリ(4−ビニルフェニルフェニルスルフィド)と1分子当りのビス(トリフルオロメタンスルホンアミド)基数が2つの有機化合物である1,N,N,N’,N’−テトラ(トリフロメタンスルホニル)−ドデカン−12−ジアミンとの付加反応により、Sを含むオニウム塩の架橋体からなる重合体を合成する反応を示す。
【0078】
以上、本発明の好適な実施態様に基づき、本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。
本発明は、上述した任意の構成と組み合わせて用いることができる。例えば、本発明の架橋剤は、同一または異なっていてもよい、以下の式で表される複数の置換基A:
【化20】

式中、
は、互いに独立して、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基およびヘプタフルオロプロピル基からなる群より選択される、
を有する、
ヘテロ原子を含んでいてもよい、飽和炭化水素、不飽和炭化水素または芳香族炭化水素を含むものであればよく、上述した架橋剤に限定されない。
【0079】
また、例えば、本発明の高分子化合物は、N、PおよびSからなる群から選択される1種または2種以上の元素を有するモノマー単位を含んでいればよく、上述した高分子化合物に限定されない。
本発明のゲルの製造方法においては、加熱の代わりにUV等の光エネルギー、圧力等によって架橋させてもよい。
【実施例】
【0080】
次に、下記の各実施例に基づき、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1〜18]ゲル化試験
ゲル化剤として、以下に示す架橋剤および高分子化合物を表1に示す組み合わせにて準備した。
【0081】
架橋剤
N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−プロパン−3−ジアミン(TFSA−(CH−TFSA)
N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−ヘキサン−6−ジアミン(TFSA−(CH−TFSA)
N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−ドデカン−12−ジアミン(TFSA−(CH12−TFSA)
N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−p−キシレンジアミン(TFSA−CH−Ph−CH−TFSA)
N,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサ(トリフルオロメタンスルホニル)−N’’’,N’’’,N’’’−トリス(アミノエチル)アミン(N(C−TFSA)
【0082】
高分子化合物
ポリ(4−ビニルピリジン)(P4VP、分子量:60,000)
ポリ(4−ビニルピリジン−co−4−ビニル−N−アリル−ピリジウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド)(P4VP−Allyl、分子量:60,000)
ポリ(N−ビニル−イミダゾール)(PVIm)
ポリ(ジアリルアミン)(PDAMA)
ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)
上述のゲル化剤および以下に示す液性媒体を混合、加熱することにより、ゲルを調製した。
【0083】
液性媒体
ジメチルスルホキシド(DMF)
ジメチルホルムアミド(DMSO)
炭酸プロピレン(PC)
炭酸エチレン(EC)
γ−ブチロラクトン(GBL)
アセトニトリル(AN)
トルエン(Toluene)
クロロホルム(CHCl
アセトン(Acetone)
炭酸ジメチル(DMC)
ヨウ素/ヨウ化リチウム/tert−ブチルピリジン(I/LiI/t−BuPy)
ホウフッ化テトラエチルアンモニウム(NEtBF
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiTFSA)
プロピルメチルイミダゾリウムヨーダイド(PMImI)
アリルブチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニルアミド)(ABImTFSA)
【0084】
上述した、ゲル化剤および液性媒体の組み合わせ(表1)によるゲルの調製の例として、実施例1、9、17および18の調製方法を以下に示す。
[実施例1]
ポリ(4−ビニルピリジン)(P4VP)(分子量:60,000)50mg(0.47mmol)をDMF0.5mLに溶解し、N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−プロパン−3−ジアミン(TFSA−(CH−TFSA)50mg(0.05mmol)を混合した。80℃に加熱し、30分後にゲルのサンプルを得た。
[実施例9]
ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)50mg(0.26mmol)をトルエン0.5mLに溶解し、N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−ドデカン−1,12−ジアミン(TFSA−(CH12−TFSA)12.5mg(0.02mmol)を混合した。80℃に加熱し30分後にゲルのサンプルを得た。
【0085】
[実施例17]
ポリ(4−ビニルピリジン)(P4VP)20mg(0.19mmol)をアリルブチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニルアミド)0.5mLに溶解し、N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−ドデカン−1,12−ジアミン(TFSA−(CH12−TFSA)12.5mg(0.02mmol)を混合した。100℃に加熱し、30分後に白色不透明なゲルを得た。
[実施例18]
ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)20mg(0.11mmol)をアリルブチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニルアミド)0.5mLに溶解し、N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−ドデカン−1,12−ジアミン(TFSA−(CH12−TFSA)12.5mg(0.02mmol)を混合した。100℃に加熱し、30分後に透明なゲルを得た。
【0086】
[実施例1〜18の結果]
【表1】

【0087】
配合比=(架橋剤のモル数)/(高分子化合物に含まれるモノマー単位のモル数)
として算出した。
上述したような本発明のゲル化剤は、表1に示すように、多様な液性媒体を好適にゲル化できるものであった。
【0088】
[実施例19〜23]導電性試験
[実施例19]
ポリジアリルメチルアミン(PDAMA)50mg(0.45mmol)を、I/LiI 0.01mol/L/0.1mol/LのAN溶液0.5mLに溶解し、N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−ドデカン−12−ジアミン(TFSA−(CH12−TFSA)25mg(0.04mmol)を混合した。80℃に加熱し、30分後にゲルのサンプルを得た。
【0089】
[実施例20]
ポリ(4−ビニルピリジン)(P4VP、分子量:60,000)50mg(0.47mmol)をI/LiI 0.01mol/L/0.1mol/LのGBL溶液0.5mLに溶解し、N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−ドデカン−12−ジアミン(TFSA−(CH12−TFSA)25mg(0.04mmol)を混合した。80℃に加熱し、30分後にゲルのサンプルを得た。
【0090】
[実施例21]
ポリ(4−ビニルピリジン−co−ビニル−N−アリルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド)(P4VP−Allyl、分子量60,000)50mg(0.47mmol)をI 0.01mol/LのAN溶液0.5mLに溶解し、N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−ドデカン−1,12−ジアミン(TFSA−(CH12−TFSA)25mg(0.03mmol)を混合した。80℃に加熱し30分後に透明なゲルを得た。
【0091】
[実施例22]
ポリ(ジアリルメチルアミン)(PDAMA)50mg(0.45mmol)をI 0.01mol/LのAN溶液0.5mLに溶解し、N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−ドデカン−1,12−ジアミン(TFSA−(CH12−TFSA)25mg(0.03mmol)を混合した。80℃に加熱し30分後に透明なゲルを得た。
【0092】
[実施例23]
ポリ(4−ビニルピリジン)(P4VP、分子量:60,000)25mg(0.24mmol)をLiTFSA 1.0mol/LのPC溶液0.5mLに溶解し、N,N,N’,N’−テトラ(トリフルオロメタンスルホニル)−ドデカン−1,12−ジアミン(TFSA−(CH12−TFSA)12.5mg(0.02mmol)を混合した。80℃に加熱し30分後に透明なゲルを得た。
【0093】
[参考例1〜4]
参考例として、以下の表2に示す電解液を調製し、導電率を測定した。
【表2】

【0094】
[比較例1]
ポリ(4−ビニルピリジン)(P4VP、分子量:60,000)50mg(0.47mmol)をI/LiI 0.01mol/L/0.1mol/LのGBL溶液0.5mLに溶解し、1,12−ジブロモドデカン(Br−(CH12−Br)13.1mg(0.03mmol)を混合した。80℃に加熱し30分後に透明なゲルを得た。
【0095】
[比較例2]
ポリ(4−ビニルピリジン−co−ビニル−N−アリルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド)(P4VP−Allyl、分子量60,000)50mg(0.47mmol)をI 0.01mol/LのAN溶液0.5mLに溶解し、1,12−ジブロモドデカン(Br−(CH12−Br)13.1mg(0.03mmol)を混合した。80℃に加熱し30分後に透明なゲルを得た。
【0096】
温度27℃、周波数10→10−1において、各サンプルのインピーダンスを測定し(東陽テクニカ社 Modulab)、対応する参考例と比較した結果を表2および3に示す。なお、
導電性維持率(%)=(各実施例のインピーダンス/各参考例のインピーダンス)×100(%)
として算出した。
【0097】
【表3】

【0098】
【表4】

【0099】
表3に示すとおり、ゲル化時に大きな導電率の低下は見られないという結果が得られた。また、表3および4に示すとおり、本願発明のゲル化剤により形成されたゲルは、比較例1および2のゲルより高い導電率を維持できることが示された。
【0100】
[実施例24]腐食試験
腐食試験は、電極に用いた金属の腐食電位測定を以下に示す3種のゲル内部で実施することにより行った。
【0101】
ゲルサンプルは、表5に示すとおりである。
【表5】

【0102】
【表6】

【0103】
実験方法
ポテンショスタット(北斗電工社 HSV−100)を用いてLSV測定(作用極:アルミニウム、対電極:白金、参照電極:Ag/Ag AN)を実施した。サンプル1、2および3におけるアノード測定した結果を図1に示す。サンプル2の臭化物を含むゲル場合、+2Vにおいて大きく酸化されていることから、アルミニウム電極が臭化物イオンに腐食されていることが明らかとなった。一方、サンプル1およびサンプル3(TFSAイオンを含むゲル)は重なっており、本条件では電極を酸化しないことを確認できた。
これにより、本願発明のゲル化剤を用いて形成されたゲルは、ハロゲンを含むゲルよりも電極の腐食の面で有利であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本願発明のゲル化剤により形成されたゲルは、高い導電性を維持しながら、電気化学デバイス中においてゲルと接触する金属部位の腐食を促進することはないことから、種々の電気化学デバイスに用いられる電解液の固体化用途に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋剤と高分子化合物とを含み、これらがオニウム塩を形成することにより網目構造を形成し得るゲル化剤であって、
架橋剤が、同一または異なっていてもよい、以下の式で表される複数の置換基
【化1】

式中、
は、互いに独立して、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基およびヘプタフルオロプロピル基からなる群より選択される、
を有する、
ヘテロ原子を含んでいてもよい、飽和炭化水素、不飽和炭化水素または芳香族炭化水素を含み、
高分子化合物が、N、PおよびSからなる群から選択される1種または2種以上の元素を有するモノマー単位を1種または2種以上含む、
前記ゲル化剤。
【請求項2】
架橋剤が、以下の式:
【化2】

式中、
およびRは、互いに独立して、Hまたは置換基を有していてもよいアルキル基であり、
は、1〜30の整数であり、
およびmは、互いに独立して、0〜15の整数であり、
xは、2または3であり、
は、0〜15の整数であり、
は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、
yは、1〜15の整数であり、
zは、2〜10の整数である、
で表される化合物からなる群より選択される、1種または2種以上を含む、
請求項1に記載のゲル化剤。
【請求項3】
架橋剤が、以下の式:
【化3】

式中、
は、1〜30の整数である、
で表される化合物からなる群より選択される、1種または2種以上を含む、
請求項1または2に記載のゲル化剤。
【請求項4】
架橋剤が、2〜5個の置換基Aを有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【請求項5】
高分子化合物が、以下の式:
【化4】

で表される1種または2種以上のモノマー単位を含み、
さらに、前記高分子化合物が、以下の式:
【化5】

式中、
およびRは、互いに独立して、水素またはメチル基であり、
Dは、N、PおよびSからなる群から選択される1種または2種以上の元素を有する基であり、
Eは、有機基であり、
基Dが結合する主鎖の炭素原子と基Eが結合する主鎖の炭素原子とが隣り合う場合には、DおよびEは主鎖の各炭素原子とともに互いに結合して環を形成してもよい、
で表されるモノマー単位からなる群から選択される1種または2種以上を含んでもよく、
ここで、
式(11)で表されるモノマー単位が含まれる場合には、式(11)で表されるモノマー単位の当量比が、式(10)で表されるモノマー単位の当量比に対して、1:9〜9:1である、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【請求項6】
高分子化合物が、以下の式:
【化6】

【化7】

式中、
、n、nおよびnは、互いに独立して、1〜10の整数であり、
は、0〜10の整数であり、
Aは、N(SOCFであり、
は、炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アリル基、ビニル基、置換基を有してもよいベンジル基、置換基を有してもよいフェニル基、および炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のフルオロアルキル基からなる群から選択される、
で表されるモノマー単位からなる群から選択される、1種または2種以上を含み、
ただし、式(18)〜(20)のいずれかがモノマー単位として選択された場合は、式(12)〜(17)の少なくとも1種のモノマーを含む、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【請求項7】
高分子化合物の数平均分子量が、1,000〜1,000,000である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【請求項8】
有機溶媒、イオン液体および/または電解質溶液を含む液性媒体をゲル化させる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【請求項9】
有機溶媒が、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、メトキシプロピオニトリル(MPN)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、塩化メチレン、メトキシアセトニトリル(MAN)、N−メチルピロリジノン(NMP)、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、アニソール、モノグライム、プロピオニトリル、4−メチル−2−ペンタノン、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、1,2−ジクロロエタン、ジメトキシエタン、ギ酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ビニレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルチオホルムアミド、スルホラン、3−メチル−スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、ニトロメタン、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタンおよび四塩化炭素からなる群から選択される、1種または2種以上である、請求項8に記載のゲル化剤。
【請求項10】
有機溶媒が、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)メトキシプロピオニトリル(MPN)、メトキシアセトニトリル(MAN)、N−メチルピロリジノン(NMP)、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタンおよび四塩化炭素からなる群から選択される、1種または2種以上である、請求項8または9に記載のゲル化剤。
【請求項11】
イオン液体が、陽イオン種および陰イオン種を含み、前記陽イオンは、置換基を有してもよい、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、テトラアルキルホスニウムイオン、ピラゾリウムイオン、トリアルキルスルホニウムイオン、モルホリウムイオンおよびグアジニウムイオンからなる群から選択される、1種または2種以上であり、前記陰イオンは、ハロゲン化物イオン(フッ素、塩素、ヨウ素および臭素)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(TFSA)、チオシアン酸イオン(SCN)、硝酸イオン(NO)、硫酸イオン(SO2−)、チオ硫酸イオン(S2−)、炭酸イオン(CO2−)、炭酸水素イオン(HCO)、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ハロゲン酸化物酸イオン(XO、XO、XOおよびXO、ここで、Xは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素である)、ハロゲン化酢酸イオン((CX3−n)COO、ここで、Xは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、nは、1〜3である)、テトラフェニルホウ酸イオン(BPh)およびその誘導体(B(Aryl)であり、ここで、Aryl=置換基を有するフェニル基)からなる群から選択される、1種または2種以上である、請求項8に記載のゲル化剤。
【請求項12】
電解質溶液が、ヨウ素とヨウ化物とを含む溶液、リチウムイオンを含む溶液およびテトラアルキルアンモニウム塩を含む溶液からなる群から選択される、1種または2種以上である、請求項8に記載のゲル化剤。
【請求項13】
高分子化合物の含有量が、ゲル化剤に対して15〜75重量%である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【請求項14】
架橋剤の含有量が、ゲル化剤に対して25〜85重量%である、請求項1〜13のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【請求項15】
ゲルの形成に際して、液性媒体の合計の含有量が、0.1〜50重量%である、請求項8〜14のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【請求項16】
電極に接する部位に用いられるゲルの形成に用いられる、請求項1〜15のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のゲル化剤を用いて形成されたことを特徴とするゲル。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のゲル化剤の形成に用いられる、架橋剤。
【請求項19】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のゲル化剤を用いてゲルを製造する方法であって、
ゲル化剤と、液性媒体とを混合する工程を含む、前記方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−117010(P2012−117010A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270392(P2010−270392)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】