説明

イオン源

【課題】より弱い電界で原料ガスを電界電離してイオン化できるイオン源を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、イオンビームを照射するためのイオン源10であって、容器20に供給される原料ガスをラジカル化する誘電体バリア放電手段50を備え、誘電体バリア放電手段50は、第一電極52及びこの第一電極52に対向する第二電極53とこれら第一及び第二電極52,53間に印加するための交流電源54とを有し、第一及び第二電極52,53は、少なくとも一方が誘電体で被覆されると共に、電界電離電極23の後端よりも後方側で且つ原料ガスが当該第一及び第二電極52,53間を通過した後、容器20に供給されるような位置に配置されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高輝度のイオンビームを利用した、表面物理分析装置や半導体製造の検査装置、欠陥リペア装置用イオンプローブ、イオン注入、イオンビーム露光、イオンビーム堆積、イオンビームエッチング、イオンビーム描画、走査イオン顕微鏡等に用いられる微小径イオンビーム発生用のイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体工業等の分野では、サブミクロン以下に集束したイオンビームのイオン源としては、一般に、液体金属イオン源が用いられていた。この液体金属イオン源からは、高輝度のイオンビームを得ることができる。しかし、例えば、ガリウムを用いた液体金属イオン源から得られるイオンビームでは、スパッタリング効果が大きく、照射される物質表面へのダメージが大きい。そのため、分析用途に用いるには問題があった。また、照射した金属イオンが物質中に残留する等の問題もあった。
【0003】
そこで、このような問題を避けるためにヘリウムやアルゴン等の不活性ガスや酸素を用いてイオンビームを得ることが考えられ、ガス相の電界電離型イオン源が利用され始めた。図2に示されるように、この電界電離型イオン源100は、先端が尖った針状の電界電離電極123と、中央部に孔122が穿設された板状の引出電極140を有する容器120とを備える。電界電離電極123は、先端を前記孔141に向けて、且つ照射するイオンビームのビーム軸K’に沿うように前記容器120内に配置されている。一方、引出電極140は、中央部の孔141の中心が前記イオンビームのビーム軸K’と一致し、且つこのイオンビームのビーム軸K’に対向するように配置されている。また、容器120には、外部から不活性ガスや酸素等の原料ガスを供給する供給管130が接続されている。電界電離電極123と引出電極140との間には電位差が生じるように電源160及びアース162がそれぞれ接続されている(特許文献1参照)。
【0004】
このようなイオン源100において、針状の電界電離電極123が、その先端部半径を1nm〜100nm程度となるように尖らされ、容器120内の圧力が10-1Pa程度となるように原料ガスを供給される。そして、この電界電離電極123の先端部周辺に5〜50V/nm程度の強電界が形成されるように、電界電離電極123に対して印加する。このように構成されることで、針状の電解電離電極123の先端部周辺のガス分子は、電界電離現象によりイオンと電子とに分離される。このように分離されたイオンを引出電極140の孔141から容器120外に引き出すことで、前記不活性ガスや酸素の集束イオンビームが得られる。
【特許文献1】特許第2605692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようなガス相の電界電離型イオン源100で原料ガスをイオン化するには、針状の電界電離電極123の先端部近傍に5〜50V/nmのような強電界を形成する必要があった。電界電離電極123の先端部近傍に上記のような強電界を形成するためには、電界電離電極123に対して通常20〜30kV以上の電圧を印加する必要がある。このような大きな電圧を印加するためには、印加用電源160のサイズが大きくなる。そのため、このような印加用電源160を備えるイオン源100の運転電力が大きくなると共に、このような印加用電源160を備えるイオン源100に必要な絶縁対策も複雑なものとなるといった問題が生じていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、より弱い電界で原料ガスを電界電離してイオン化することができるイオン源を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、上記課題を解消すべく、本発明に係るイオン源は、イオンビームを照射するためのものであって、微小開孔を有し、外部から原料ガスが供給される容器と、前記容器に原料ガスを供給して前記微小開孔から前記原料ガスを噴出させる原料ガス供給管と、前記イオンビームのビーム軸方向に沿って延びると共に先端が尖り、この先端を前記微小開孔に向けて、若しくは前記先端を前記微小開孔から外部に僅かに突出させるように前記容器内に配置される電界電離電極と、前記微小開孔を介して前記電界電離電極と対向するよう、前記容器の外部に配置される引出電極と、この引出電極と前記電界電離電極との間に電圧を印加することにより、前記電界電離電極の先端部に強電界を形成し、この強電界によって前記微小開孔から噴出する原料ガスを電界電離してイオン化し、このイオン化された原料ガスを前記引出電極に引き出させる印加用電源と、前記容器に供給される原料ガスをラジカル化する誘電体バリア放電手段と、を備え、前記誘電体バリア放電手段は、第一電極及びこの第一電極に対向する第二電極と、これら第一及び第二電極間に印加するための交流電源とを有し、前記第一及び第二電極の少なくとも一方が誘電体で被覆され、前記第一及び第二電極は、前記電界電離電極の後端よりも後方側で、且つ原料ガスが当該第一及び第二電極間を通過したあと前記容器に供給されるような位置に配置されることを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、誘電体バリア放電手段の第一及び第二電極間を通過した原料ガスがイオン化エネルギーの低いラジカル(活性種)の状態、即ち、ラジカル化される。このラジカル化された原料ガスが、容器内に供給され、電界電離電極の先端部に供給されることで引出電極に対する電界電離電極に印加する電圧をより低くしても、イオンビームを得ることができる。換言すると、ラジカル化されていない原料ガスを電界電離してイオン化する場合よりも、電界電離電極と引出電極との間に印加する電圧をより低くすることができる。その理由は、以下のとおりである。
【0009】
図3に示されるように、金属表面に強電界Fが加わると、ガス分子の電子のポテンシャルエネルギーは、金属表面からの距離xに比例してeFxだけ上側に移り、高さがI、幅がI/eFを持った三角形状で近似できるポテンシャル障壁ができる(eは電子の電荷、Fは電界の強さ、Iはイオン化エネルギー)。この幅(=Δx=I/eF)が不確定性原理を満足する程度、
【0010】
【数1】

【0011】
であれば、原子内の電子は、トンネル効果を示す。ここで、hはプランク定数、Δpは運動量の不確定性量である。
【0012】
上記(1)式から
【0013】
【数2】

【0014】
となり、この(2)式から、
【0015】
【数3】

【0016】
が得られる。
【0017】
この(3)式から分かるように、トンネル効果により電子が前記ポテンシャル障壁を通過してガス分子から分離し、このガス分子がイオン化するのに必要な電界強度Fは、Iの値が小さいほど小さくなる。即ち、ガス分子のイオン化エネルギーが小さいほど、電界電離現象による分子のイオン化が起こり易くなる。従って、前記針状の電界電離電極の先端部近傍にイオン化エネルギーの小さなガス分子(原料ガス)を供給することができれば、上記問題を解消することができる。
【0018】
また、前記誘電体バリア放電手段の第一及び第二電極は、中心軸に沿って延びる中心電極及びこの中心電極を同心状に囲む筒状電極で構成されてもよい。
【0019】
かかる構成によれば、前記誘電体バリア放電手段の第一及び第二電極全体の体積を小さくしつつ、前記第一及び第二電極間での放電領域を大きくできる。そのため、電極全体の大きさに対し、ラジカル化される原料ガスの量がより増加し、照射されるイオンビームの電流量がより多くなる。
【0020】
また、前記中心電極及び筒状電極の中心軸と前記電界電離電極の中心軸とが一致若しくは略一致するように配置されてもよい。
【0021】
かかる構成において、前記誘電体バリア放電手段の第一及び第二電極が形成する電界だけに着目すると、前記中心電極及び筒状電極の中心軸を中心にして回転対称に形成される。また、電界電離電極の周囲に形成される電界電離のための電界だけに着目すると、電界電離電極の中心軸を中心にして回転対称に形成される。
【0022】
そのため、上記構成によれば、前記電界電離のための電界は、前記第一及び第二電極が形成する電界によって、その対称性を乱されない、若しくはごく僅かしか乱されない。従って、前記第一及び第二電極が形成する電界と前記電界電離のための電界との合成電界は、前記イオンビームのビーム軸を中心に回転対称、若しくは略回転対象に形成される。その結果、電界電離電極先端部で安定して原料ガスのイオン化が行われる。
【0023】
また、前記筒状電極の直径が前記電界電離電極の直径と略同径となるように形成され、前記中心電極及び筒状電極は、前記電界電離電極の後端近傍に配置されてもよい。
【0024】
かかる構成によれば、前記誘電体バリア放電手段の第一及び第二電極が形成する電界が電界電離電極の周囲に形成される電界電離のための電界に与える影響をより低くすることができる。さらに、原料ガスのラジカル化された状態は所定の寿命を有するが、前記第一及び第二電極間でラジカル化された原料ガスは、すぐに容器内に供給されてイオン化されるため、より効率良くイオン化が行われる。
【0025】
また、前記誘電体バリア放電手段の筒状電極と前記電界電離電極とは、同電位であってもよい。
【0026】
かかる構成によれば、前記筒状電極と前記電界電離電極との間に電位差が生じない。そのため、前記筒状電極と前記電界電離電極との間での放電を抑制できる。
【0027】
また、前記微小開孔は、イオン化された原料ガスの引き出し方向に向かって先細りのテーパ形状であってもよい。
【0028】
かかる構成によれば、容器に供給され、微小開孔から噴出する原料ガスが、微小開孔先端部での絞り効果により、電界電離電極先端部周辺でより高圧となる。そのため、前記微小開孔先端部と前記微小開孔の噴出側との圧力勾配がより急となり、効率よく原料ガスをイオン化すると共にイオン化された原料ガスが雰囲気ガスと衝突する確率、即ち、イオン消滅確率を低くすることができる。
【0029】
また、内部を真空にすることができる真空容器をさらに備え、前記容器と引出電極とが前記真空容器内に配設され、前記容器外を真空領域とする構成であってもよい。
【0030】
かかる構成によれば、容器から噴出する原料ガスの前記微小開孔先端部と前記微小開孔の噴出側とではより急激な圧力勾配が発生する。そのため、電界電離電極先端でイオン化された原料ガスが引き出される際に、前記イオン消滅確率をより低くすることができる。
【0031】
また、前記容器に供給する原料ガスの供給量を制御するための原料ガス量制御手段を原料ガス供給管にさらに備え、この原料ガス量制御手段は、前記ガス導入室よりも上流側に設けられてもよい。
【0032】
かかる構成によれば、前記容器に供給する原料ガスの量を制御することで、容易に所望の電流量のイオンビームを得ることができる。
【発明の効果】
【0033】
以上より、本発明によれば、より弱い電界で原料ガスを電界電離してイオン化することができるイオン源を提供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0035】
本実施形態に係るイオン源は、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガスや酸素からなるイオン原料ガス(原料ガス)を電界電離し、高輝度のイオンビームを得るためのイオン源である。図1に示されるように、イオン源10は、微小開孔22を有し、外部からイオン原料ガスが充填(供給)される容器20と、この容器20にイオン原料ガスを供給する原料ガス供給管30と、容器20内に配置される針状の電界電離電極(以下、単に「ニードル電極」とも称する。)23と、この容器20の前方に配置される引出電極40と、容器20に供給される前記イオン原料ガスをラジカル(活性種)化する誘電体バリア放電手段50と、を備える。これら、容器20、ニードル電極23、引出電極40及び誘電体バリア放電手段50は、真空容器11内に配設されている。また、ニードル電極23と引出電極40とには、ニードル電極23の先端部に強電界を形成するための印加用電源60が接続されている。尚、本実施形態において、照射されるイオンビームの照射方向を前方とする(図1(a)においては下方向)。
【0036】
容器20は、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガスや酸素などの常温で気体状態のイオン原料ガスが充填される容器であり、アルミナセラミクスやジルコニウム系セラミクス、ガラス等の絶縁体(本実施形態では、アルミナセラミクス)で形成されている。容器20の前方側は板状体21で構成され、この板状体21には、容器20内にイオン原料ガスが充填されることでこのイオン原料ガスが噴出する微小開孔22が穿設されている。容器20の後方側には、絶縁体で形成された支持体70を介して誘電体バリア放電手段50のガス導入室51が接続されている。このガス導入室51は、内部を通過するイオン原料ガスをラジカル化するための部位である。ガス導入室51のさらに後方側には、原料ガス供給管30が接続されている。この原料ガス供給管30によって供給されるイオン原料ガスは、ガス導入室51内を通過した後、容器20に導入される。この容器20の内部には、イオンビームのビーム軸K方向に沿って延びると共に先端が尖った、即ち、細長い針状のニードル電極23が配置されている。このニードル電極23は、先端が微小開孔22に向くように支持体70によって支持されている。
【0037】
微小開孔22は、容器20の内部に配設されたニードル電極23の中心軸(イオンビームのビーム軸K)にその中心を一致させ、容器20の内部と外部とを連通するように容器20前方側を構成する板状体21に穿設されている。この微小開孔22は、容器20内にイオン原料ガスが充填されることでこのイオン原料ガスを噴出し、内部から外部に向かって、即ち、イオンの引き出し方向に向かって先細りのテーパ形状に形成されている。また、微小開孔22の小径側(容器20の外面側)の孔径は、5〜100μmとなるように穿設されている。また、この微小開孔22が形成されている板状体21の厚さは、0.01〜1mmである。本実施形態においては、微小開孔22の小径側の孔径は、20μmであり、板状体21の厚さは、0.5mmである。
【0038】
原料ガス供給管30は、イオン原料ガスを、ガス導入室51の後述する電極42,43間を通過させた後、容器20に供給できるよう、ガス導入室51の後方側に接続されている。この原料ガス供給管30の上流側には、容器20へ供給するイオン原料ガスの量を制御する原料ガス供給量制御手段31が設けられている。
【0039】
ニードル電極23は、イオン原料ガスを電界電離してイオン化するために、その先端部に強電界を発生させるための電極である。このニードル電極23は、タングステン、イリジウム等の金属やシリコン、又はそれらを含む合金、若しくはそれらに貴金属、高融点金属、高融点金属の炭化物若しくは窒化物等でコーティング処理を施したものであってもよい。また、ニードル電極23は、中心軸が照射されるイオンビームのビーム軸Kと一致し、先端が微小開孔22近傍若しくは僅かに微小開孔22から容器20外へ突出するように支持体70によって支持されている。このニードル電極23は、先端が尖った細長の針状で、その先端半径が100nm以下となるように形成されている。本実施形態において、ニードル電極23は、タングステン製で、長さが20mmであり、また、先端半径が50nmとなるように電界研磨により形成されている。そして、その先端が微小開孔22から僅かに容器20外へ突出している。
【0040】
支持体70は、絶縁体で構成され、ニードル電極23、ガス導入室51及び容器20をそれぞれ絶縁状態で接続又は支持している。また、支持体70の内部にはイオン原料ガスを通過させる孔71が穿設されており、この孔71は、ガス導入室51の後述する放電領域と容器20の内部とを連通する(図1(b)参照)。
【0041】
引出電極40は、ニードル電極23の先端部(詳細には先端部近傍)に強電界を発生させ、当該強電界によってイオン原料ガスをイオン化すると同時に、このイオン化されたイオン原料ガスをイオンビームとして引き出す役目を担う。イオン化されたイオン原料ガスをイオンビームの照射方向に引き出すための電極である。この引出電極40は、ステンレス製の板状の電極で、イオンビームの通過するイオンビーム通過孔41が中央に穿設されている。このように構成される引出電極40は、容器20の前方側に、微小開孔22を介してニードル電極23の先端と対向するように配置されている。即ち、引出電極40は、中央に穿設されたイオンビーム通過孔41の中心が微小開孔22の中心と同一直線上(イオンビームのビーム軸K上)に位置するように配置されている。
【0042】
ニードル電極23と引出電極40とには、ニードル電極23の先端部に強電界を形成するための強電界用電源(印加用電源)60が接続されている。この強電界用電源60は、直流電源であり、引出電極40に対してニードル電極23が5k〜20kV程度、本実施形態の場合、20kVの正電位を印加する電源である。また、ガス導入室51の後述する筒状電極53とニードル電極23とは、無用な放電を避けるため、同電位となるように電線等の接続線61によって接続されている。
【0043】
誘電体バリア放電手段50は、原料ガス供給管30によって供給されたイオン原料ガスを内部でラジカル(活性種)化するためのものである。この誘電体バリア放電手段50は、第一電極52及びこの第一電極52に対向する第二電極53と、これら第一及び第二電極52,53間に印加するための交流電源54と、を有する。
【0044】
第一電極52と第二電極53の少なくとも一方が誘電体によって被覆される必要があり、本実施形態においては、第一及び第二電極52,53が共に被覆されている。また、これら第一及び第二電極52,53は、ガス導入室51内に配置されている。このガス導入室51は、原料ガス供給管30に設けられている。本実施形態においては、ガス導入室51は、原料ガス供給管30の最下流、即ち、容器20と原料ガス供給管30との接続部位に設けられている。また、交流電源54は、第一電極52と第二電極53との間に、1〜20kHz、1kV程度の交流電圧を印加するための交流電源である。
【0045】
より詳細には、第一電極52と第二電極53とは、アルミニウムで形成されており、その表面には厚さ0.5〜1mmのセラミック被膜が施されている。この第一及び第二電極52,53を被覆している誘電体(セラミック被膜)の誘電率は9程度である。第一電極52は中心軸Cに沿って延びる円柱状の中心電極である。また、第二電極53は、前記中心電極52を同心に囲む円筒形状の筒状電極である。中心電極52の外周面と筒状電極53の内周面との間隔(ギャップ)は、1mm程度であり、誘電体バリア放電(無声放電)が行われる放電領域を形成している。また、筒状電極53の直径は、ニードル電極23の直径と同程度(略同径)となるように形成されている。尚、本実施形態において、筒状電極53は、ニードル電極23側の端部が所定長さだけ内側に向かって(中心軸C方向に)延設されている。このように延設されることで、中心電極52と対向する部位の面積が増加し、前記放電領域が増加する。
【0046】
これら中心電極52及び筒状電極53が配置されるガス導入室51は、その中心軸Cがニードル電極23の中心軸と一致するように容器20の後方側に接続されている。即ち、ガス導入室51は、両電極52,53の中心軸Cがニードル電極23の中心軸と一致すると共に、照射されるイオンビームのビーム軸Kと一致するよう、容器20の後方側に支持体70を介して接続されている。
【0047】
真空容器11は、いわゆる真空チャンバーであり、真空ポンプ12が設けられた排気管13が接続されている。この真空容器11の内部は、イオン源10の作動時において、接続された真空ポンプ12によって内部の空気が排気され、高真空状態に保たれる。
【0048】
本実施形態に係るイオン源10は、以上の構成からなり、次に、このイオン源10の作用について説明する。
【0049】
真空容器11内が真空ポンプ12によって真空引きされ、高真空状態となる。そして、原料ガス供給管30を通じて容器20内にイオン原料ガス(本実施形態においては、ヘリウム)が供給される。このとき、容器内の圧力が1Pa〜1MPaとなるように原料ガス供給量制御手段31で容器20内へのイオン原料ガスの供給量を調整する。本実施形態においては、100Paとする。このように容器20に供給されるイオン原料ガスの量を調整することで、後述するようなイオンビームを容易に所望の電流量だけ得ることができる。また、容易に容器20内の圧力を一定に保つことができるため、ニードル電極23の先端部においてイオン原料ガスの安定したイオン化が行われ、その結果、安定したイオンビームも得られる。
【0050】
前記イオン原料ガスは、容器20内に導入される前にガス導入室51に導入されてラジカル化される。具体的には、イオン原料ガスは、原料ガス供給管30からガス導入室51の中心電極52と筒状電極53との間隙、即ち、前記放電領域内に導入される。その際、両電極52,53間には、交流電源54によって前記所定の交流電圧が印加されている。これにより、中心電極52と筒状電極53との間に連続した微小放電である誘電体バリア放電(無声放電)領域が形成される。このように、誘電体バリア放電領域が形成された両電極52,53間を通過することで、イオン原料ガスはラジカル化される。
【0051】
このようにラジカル化されたイオン原料ガスは、励起した準安定状態で容器20内に導入(充填)される。このとき、ガス導入室51は、容器20の直上流側に接続されている。そのため、ラジカル化されたイオン原料ガスは、寿命によって消滅する前に電界電離されてイオン化される。このようにイオン化されたイオン原料ガスは、引出電極40によってイオンビームとして引き出される。
【0052】
具体的には、容器20内にラジカル化されたイオン原料ガスが導入される際に、引出電極40に対して、ニードル電極23は、10kV程度の正電位が印加されている。これにより、ニードル電極23の先端周り(先端近傍)に強電界が形成される。このとき、ニードル電極23と筒状電極53とが接続線61で接続されて同電位となっている。そのため、両電極23,53間にアーク放電やグロー放電等の無用な放電が生じない。
【0053】
そして、ラジカル化されたイオン原料ガスが微小開孔22から外部に噴出される際に、前記ニードル電極23先端周辺を通過する、即ち、強電界中を通過する。その際、電界電離現象によってイオン原料ガスがイオン化され、このイオン化されたガスがニードル電極23と引出電極40との間の電位差によって引出電極40側に引き出され、イオンビームが形成される。このイオンビームは、引出電極40の中央に穿設されたイオンビーム通過孔41を通過して照射される。
【0054】
このとき、ニードル電極23の先端周辺でイオン原料ガスをイオン化するのに必要な電界強度は、上記の(3)式から、ヘリウムラジカルを用いた場合、I=4eV程度であることから、eF≒4V/nmとなる。これに対し、ヘリウムを用いた場合に必要な電界強度は、I=24.5eVとするとeF≒60V/nmとなる。このように、ヘリウムラジカルを用いることで、ヘリウムを用いる場合に比べ15分の1程度の電界強度で電界電離現象を起こすことが可能となる。
【0055】
また、ガス導入室51が中心軸Cに沿って延びる中心電極52及びこの中心電極52を同心状に囲む筒状電極53で構成されている。そのため、ガス導入室51全体の体積を小さくしつつ、中心電極52及び筒状電極53間の放電領域を大きくすることができる。従って、ガス導入室51の大きさに対し、ラジカル化できるイオン原料ガスの量がより多くなり、照射するイオンビームの電流量をより多くすることができる。
【0056】
さらに、ガス導入室51とニードル電極23とは、ガス導入室51に配置される中心電極52及び筒状電極53の中心軸Cと、ニードル電極23の中心軸と、が一致するように配置されている。そのため、中心電極52及び筒状電極53が形成する電界とニードル電極23が形成する電界との合成電界は、照射するイオンビームのビーム軸Kを中心にして回転対称に形成することができる。そのため、ニードル電極23先端部で安定してイオン原料ガスのイオン化が行われ、安定したイオンビームを照射することができる。
【0057】
微小開孔22は、イオンの引き出し方向に向かって先細りのテーパ形状に形成されているため、イオン化されるイオン原料ガスが微小開孔22から噴出し易く、且つ微小開孔先端部での絞り効果により、容器の噴出側で、より急激な圧力勾配を発生させることができる。
【0058】
そのため、微小開孔22の噴出側近傍では、十分な高真空領域となる。詳細には、微小開孔22の噴出側近傍では、噴出したイオン化されたイオン原料ガス(イオン)以外の雰囲気ガスが前記急激な圧力勾配によって一気に拡散される。その結果、ニードル電極23先端周辺でイオン原料ガスがイオン化されて容器20から引き出された直後の領域は、前記引き出されたイオンが雰囲気ガスと衝突する確率が低い、即ち、イオン消滅確率が低い高真空領域となる。このようにして、イオン源10は、イオン消滅確率を低く抑えてイオンビーム電流を多く発生させることができる。
【0059】
尚、本発明のイオン源は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0060】
本実施形態においては、誘電体バリア放電手段50の第一及び第二電極52,53は、容器20の後方側に接続されているが、これに限定される必要もない。即ち、誘電体バリア放電手段の第一及び第二電極間でラジカル化されたイオン原料ガスが、その状態で電界電離電極の先端部に到達できる距離であれば、前記第一及び第二電極は、原料ガス供給管30における、より上流側に設けられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施形態に係るイオン源における、(a)は概略構成図を示し、(b)は、そのA−A端面図を示す。
【図2】従来の電界電離型イオン源の概略構成図を示す。
【図3】電界中におかれた金属表面近くのガス分子のポテンシャル図を示す。
【符号の説明】
【0062】
10 イオン源
20 容器
22 微小開孔
23 電界電離電極(ニードル電極)
30 原料ガス供給管
40 引出電極
50 誘電体バリア放電手段
52 第一電極(中心電極)
53 第二電極(筒状電極)
54 交流電源
60 印加用電源(強電界用電源)
K ビーム軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを照射するためのイオン源であって、
微小開孔を有し、外部から原料ガスが供給される容器と、
前記容器に原料ガスを供給して前記微小開孔から前記原料ガスを噴出させる原料ガス供給管と、
前記イオンビームのビーム軸方向に沿って延びると共に先端が尖り、この先端を前記微小開孔に向けて、若しくは前記先端を前記微小開孔から外部に僅かに突出させるように前記容器内に配置される電界電離電極と、
前記微小開孔を介して前記電界電離電極と対向するよう、前記容器の外部に配置される引出電極と、
この引出電極と前記電界電離電極との間に電圧を印加することにより、前記電界電離電極の先端部に強電界を形成し、この強電界によって前記微小開孔から噴出する原料ガスを電界電離してイオン化し、このイオン化された原料ガスを前記引出電極に引き出させる印加用電源と、
前記容器に供給される原料ガスをラジカル化する誘電体バリア放電手段と、を備え、
前記誘電体バリア放電手段は、第一電極及びこの第一電極に対向する第二電極と、これら第一及び第二電極間に印加するための交流電源とを有し、
前記第一及び第二電極の少なくとも一方が誘電体で被覆され、
前記第一及び第二電極は、前記電界電離電極の後端よりも後方側で、且つ原料ガスが当該第一及び第二電極間を通過したあと前記容器に供給されるような位置に配置されることを特徴とするイオン源。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン源において、
前記誘電体バリア放電手段の第一及び第二電極は、中心軸に沿って延びる中心電極及びこの中心電極を同心状に囲む筒状電極で構成されることを特徴とするイオン源。
【請求項3】
請求項2に記載のイオン源において、
前記中心電極及び筒状電極の中心軸と前記電界電離電極の中心軸とが一致若しくは略一致するように配置されることを特徴とするイオン源。
【請求項4】
請求項3に記載のイオン源において、
前記筒状電極の直径が前記電界電離電極の直径と略同径となるように形成され、前記中心電極及び筒状電極は、前記電界電離電極の後端近傍に配置されることを特徴とするイオン源。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載のイオン源において、
前記誘電体バリア放電手段の筒状電極と前記電界電離電極とは、同電位であることを特徴とするイオン源。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のイオン源において、
前記微小開孔は、イオン化された原料ガスの引き出し方向に向かって先細りのテーパ形状であることを特徴とするイオン源。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のイオン源において、
内部を真空にすることができる真空容器をさらに備え、前記容器と引出電極とが前記真空容器内に配設され、前記容器外を真空領域とすることを特徴とするイオン源。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のイオン源において、
前記容器に供給する原料ガスの供給量を制御するための原料ガス量制御手段を原料ガス供給管にさらに備え、この原料ガス量制御手段は、前記ガス導入室よりも上流側に設けられることを特徴とするイオン源。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−59627(P2009−59627A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226942(P2007−226942)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】