説明

イメージファイバおよびこれを用いた光学機器、イメージファイバの製造方法

【課題】細径かつ多画素のイメージファイバおよびこれを用いた光学機器、並びに、イメージファイバの製造方法を提供する。
【解決手段】多数のコア11、・・・と、これらコア11、11、・・・に挟まれ、コア11、11、・・・が1つのクラッドを共有するようになされた共通のクラッド12と、このクラッド12の外周に設けられたジャケット管13と、このジャケット管13の外周を覆っている被覆層14とからなり、コア11の長手方向と垂直な断面形状が異方性を有する形状であるイメージファイバ。イメージファイバの端面における画素密度を、その長手方向と垂直な一方向において、他の径方向に対し1.01〜50倍とする。このイメージファイバに曲げまたは捻りを加える。このイメージファイバが偏波保持性を有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用や医療用のファイバスコープの画像伝送媒体として使用される石英系のイメージファイバおよびこれを用いた光学機器、並びに、イメージファイバの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来の石英系のイメージファイバを示す概略断面図である。
このイメージファイバは、コア/クラッド型光ファイバを多数本束ねて溶融し、一体化したものであり、画素を構成する多数のコア1、1、・・・と、これらコア1、1、・・・に挟まれ、コア1、1、・・・が1つのクラッドを共有するようになされた共通のクラッド2と、このクラッド2の外周に設けられたジャケット管3と、このジャケット管3の外周を覆っている被覆層4とから概略構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このイメージファイバのコア1、・・・の長手方向と垂直な断面形状は、円形、六角形状などの等方形状かまたはそれに準ずるものである。
また、石英系イメージファイバのうち、特に、細径、多画素のものは、コア1はゲルマニウムが添加された石英系ガラスからなり、クラッド2はフッ素が添加された石英系ガラスからなるもので、コア1とクラッド2との比屈折率差は4%程度のものである。このような石英系イメージファイバとしては、例えば、外径1.5mmで10万画素、外径0.35mmで1万画素のものが得られている。
【特許文献1】特開平6−230257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イメージファイバの解像度(画質)は、それぞれのイメージファイバを構成するコアの数、すなわち画素数によって決定される。イメージファイバの画素数を増やそうとすると、イメージファイバの外径が大きくなり、それに伴って、このイメージファイバを用いたファイバスコープの対象物への挿入し易さや、可撓性が劣化する。画質を維持したまま、イメージファイバを細径化あるいは多画素化するためには、コアとクラッドとの屈折率差を大きくする必要がある。しかしながら、コアとクラッドとの屈折率差を大きくすることには、技術的、コスト的問題がある。具体的には、コアとクラッドとの屈折率差が小さいと、コアからの漏光などにより、イメージファイバのコントラストが悪化する。あるいは、イメージファイバの入射端において、開口数(NA)を小さくして、コントラストを改善する方法もあるが、この場合、伝搬できる光量が少なくなるため、画像が暗くなるなどの問題がある。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、細径かつ多画素のイメージファイバおよびこれを用いた光学機器、並びに、イメージファイバの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のイメージファイバは、多数のコア/クラッド型石英系光ファイバを溶融一体化して得られ、多数のコアとこれらコアに挟まれた共通のクラッドを有するイメージファイバにおいて、前記コアの長手方向と垂直な断面形状が異方性を有する形状であり、前記多数のコアは、それらの短軸が平行になるように形成されたことを特徴とする。
【0007】
本発明のイメージファイバにおいて、前記異方性を有する形状は、楕円形、長方形、矩形、菱形であることが好ましい。
本発明のイメージファイバにおいて、該イメージファイバに曲げまたは捻りが加えられたことが好ましい。
本発明のイメージファイバにおいて、該イメージファイバが偏波保持性を有することが好ましい。
【0008】
本発明の光学機器は、本発明のイメージファイバと、偏光子および検光子とを備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明のイメージファイバの製造方法は、長手方向と垂直な断面形状が異方性を有するジャケット管内に、画素素線を詰め込んでイメージファイバ母材を形成し、次いで、前記イメージファイバ母材を加熱炉内で加熱しながら線引きし、各々の画素素線のクラッドが一体化して共通のクラッドとなった断面円形のイメージファイバを形成した後、前記イメージファイバの外周に紫外線硬化型樹脂を塗布し、次いで、前記紫外線硬化型樹脂を硬化させ、被覆層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のイメージファイバは、コアとクラッドとの屈折率差を大きくすることなく、細径化、多画素化を図ることができる。
また、本発明の光学機器によれば、より高解像度で、高いコントラストの画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
図1は、本発明のイメージファイバの一例を示す概略断面図である。
この例のイメージファイバは、コア/クラッド型石英系光ファイバを多数本束ねて溶融し、一体化した石英系イメージファイバであり、多数のコア11、・・・と、これらコア11、11、・・・に挟まれ、コア11、11、・・・が1つのクラッドを共有するようになされた共通のクラッド12と、このクラッド12の外周に設けられたジャケット管13と、このジャケット管13の外周を覆っている被覆層14とから概略構成されている。
【0012】
コア11は、純粋石英ガラス、あるいはリンやゲルマニウムなどの酸化物が添加された石英ガラスなどで形成されている。クラッド12は、コア11よりも低屈折率の材料からなるもので、純粋石英ガラス、あるいはフッ素などが添加された石英ガラスなどで形成されている。
また、ジャケット管13は、純粋石英ガラスよりなるものの他に、例えば、石英ガラスに酸化チタンや酸化銅などが添加されたものなどを使用することができる。
被覆層14は、エポキシやアクリル系、ポリイミド、シリコーンなどの樹脂で形成されている。
【0013】
この例のイメージファイバでは、多数のコア11の長手方向と垂直な断面形状が、異方性を有する形状となっている。また、この例のイメージファイバでは、図1に示すように、コア11の断面形状は楕円形となっており、多数のコア11、11、・・・の短軸がほぼ平行になるように形成され、多数のコア11、11、・・・が六方稠密(俵積み)に配列されて、コア11の短軸と平行な直線A―A方向に、画素密度が大きくなっている。異方性を有する形状の具体例としては、楕円形、長方形、矩形、菱形などが挙げられる。
このように、コア11の長手方向と垂直な断面形状を、異方性を有する形状とすることにより、このイメージファイバの長手方向と垂直な断面において、少なくとも1方向のコア11の密度、すなわち画素密度が大きくなり、イメージファイバの解像度が向上する。
具体的には、このイメージファイバの端面における画素密度が、その長手方向と垂直な一方向において、他の径方向に対し1.01〜50倍の密度を有することが好ましい。
なお、本発明のイメージファイバでは、多数のコア11、11、・・・の配列が六方稠密(俵積み)でなくてもよい。コア11の異方性を有する形状とした方向(図1では、コア11の短軸方向)が揃えられていれば、多数のコア11、11、・・・の配列が正方でもランダムであってもよい。
【0014】
ここで、コア11の長径方向の寸法を、図3に示した従来のイメージファイバの円形のコア1の直径と同一とし、コア11の短径方向(短軸方向)の寸法を、コア1の直径の1/X倍とする。そして、イメージファイバの端面における多数のコア11の間隔も1/X倍とすると、図1中のコア11の短軸と平行な直線A―A方向の解像度はX倍になる。このようにすれば、上記の画素密度を実現することができ、本発明のイメージファイバは、従来のイメージファイバよりも画素数が多くなる。
【0015】
また、コア11の短径方向(短軸方向)で反射して伝送するような光線を入射させないか、あるいは十分光量が低くなるように、コア11の短径方向の寸法を、長径方向の寸法よりも小さくしてもよい。具体的には、コア11の短径方向の寸法を、コア11がシングルモード化する寸法とする。
なお、上述のように、コア11の短径方向(短軸方向)の寸法を長径よりも短くすると、コア11の短径方向に反射を繰り返して伝搬する光線や、コア11内を回転しながら伝搬する光線(skew ray)などは、漏れ易くなり、コントラストを悪化させる原因となるが、イメージファイバ全体を細径化するのに比べて影響が少ない。
【0016】
さらに、この例のイメージファイバでは、コア11の短径方向、すなわち直線A―Aと平行な方向のクラッド12の厚さを、コア11の長径方向のクラッド12の厚さと同じか、または、画素密度を下げない程度に若干大きくすると、コントラストが悪化し難くなる。
例えば、コア11の長径/コア11の短径=2の場合、コア11の長径方向におけるコア11の厚さ/クラッド12の厚さ(コア11とコア11の間隔)=1.5とし、コア11の短径方向におけるコア11の厚さ/クラッド12の厚さ(コア11とコア11の間隔)=2とすると、コア11の短径方向のコア密度(解像度)は、図3に示したようなコアの断面形状が円形の従来のイメージファイバの1.5倍になる。
【0017】
そして、この例のイメージファイバでは、曲げまたは捻りが加えられていてもよい。イメージファイバに曲げまたは捻りを加えることにより、コア11の短径方向に染み出してコントラストを悪化させる光を放射モード結合して、コア11の短径方向のコントラストを改善することができる。
【0018】
このようなイメージファイバは、コア11に異方性があるので、偏波保持性を有するものとなる。したがって、この例のイメージファイバは、偏波方向で伝搬定数が異なってしまうために偏波結合し難いものとなる。
そこで、イメージファイバの入射側から、偏光子を透過して、偏波方向によってずれた状態でイメージファイバの入射端から入射され、イメージファイバ内を伝送された画像(光信号)を、イメージファイバの出射側(接眼側)において、検光子を透過させて合成すれば、より解像度の高い画像が得られる。
例えば、図2(a)に示すような対象物20を、この例のイメージファイバで走査すると、図2(b)に示すように対象物20の画像が、X偏波とY偏波となってイメージファイバ内を伝送される。そして、図2(c)に示すように、この画像がイメージファイバの出射側(接眼側)において合成され、倍の画素数で構成された画像と同じとなり、より解像度の高い画像となる。
このようなことから、本発明のイメージファイバと、偏光子および検光子とを備えたファイバスコープなどの光学機器は、従来の光学機器よりも高画素であり、より解像度の高い画像を得ることができる。
【0019】
また、本発明のイメージファイバと、このイメージファイバに付設され、イメージファイバに対する入射角または出射角を、これらの方向に応じて異なる制限をする光学架とを備えたファイバスコープなどの光学機器を製造することもできる。
このような光学機器は、上記の入射側または出射側に設けられた光学系で、コア11の短径方向に伝搬する光の入射角または出射角を異形(矩形など)の絞りなどによって制限すると、円形の絞りなどで対称に全体を絞るより、光量への影響は少ない(光量の減少が少ない)にもかかわらず、画像のコントラストが向上する。
【0020】
本発明のイメージファイバの製造方法について説明する。
まず、その長手方向と垂直な断面形状が楕円形、長方形などの異方性を有する石英ガラスなどからなるジャケット管内に、画素(コア)のもとになる画素素線を詰め込んで、イメージファイバ母材とする。画素素線としては、通常、断面円形のコアと、コアの外周に被覆されたクラッドよりなるコア/クラッド型石英系光ファイバが用いられる。
次いで、このイメージファイバ母材を加熱炉内で加熱しながら、線引きし、各々の画素素線のクラッドが一体化して共通のクラッドとなった断面円形のイメージファイバを得る。この線引きにおいて、イメージファイバの断面形状は表面張力によって円形になろうとするため、コアの断面形状は、ジャケット管のもとの断面形状の短径方向に延ばされて異方性を有するものとなるか、または、長径側が短径側より圧縮されることによって、結果的に、異方性を有するものとなる。
その後、このイメージファイバを被覆材塗布装置に通して、その外周に紫外線硬化型樹脂を所定厚さに塗布する。次いで、紫外線硬化型樹脂が塗布されたイメージファイバを硬化装置に通して、紫外線硬化型樹脂を硬化させ、被覆層を形成する。
このようにして得られたイメージファイバは、巻き取り装置で巻き取って回収される。
【0021】
上述のイメージファイバの製造方法では、断面形状が異方性を有する形状のジャケット管を用いて、コアの断面形状を、異方性を有する形状に形成したが、本発明のイメージファイバの製造方法はこれに限定されるものではなく、以下に示すような2つの方法を用いてもよい。
第1の方法としては、まず、研磨などによって断面形状が異方性を有する形状としたコア材の外周にクラッド材を被覆し、異方性を有する形状を維持したまま線引きして、断面形状が異方性を有する形状の画素素線を作製する。次いで、円筒形のジャケット管内に、この画素素線を詰め込んで、イメージファイバ母材とし、上述のように線引きして、コアの断面形状が異方性を有する形状のイメージファイバを得る。
第2の方法としては、上述のような方法でイメージファイバを線引きした後、このイメージファイバを加熱変形させるか、または、圧力をかけて加熱変形させて、コアの断面形状が異方性を有する形状のイメージファイバを得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のイメージファイバの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の光学機器の特性を説明する図である。
【図3】従来の石英系のイメージファイバを示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0023】
11・・・コア、12・・・クラッド、13・・・ジャケット管、14・・・被覆層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のコア/クラッド型石英系光ファイバを溶融一体化して得られ、多数のコアとこれらコアに挟まれた共通のクラッドを有するイメージファイバにおいて、
前記コアの長手方向と垂直な断面形状が異方性を有する形状であり、
前記多数のコアは、それらの短軸が平行になるように形成されたことを特徴とするイメージファイバ。
【請求項2】
請求項1記載のイメージファイバにおいて、
前記異方性を有する形状は、楕円形、長方形、矩形、菱形であることを特徴とするイメージファイバ。
【請求項3】
請求項1または2記載のイメージファイバにおいて、
該イメージファイバに曲げまたは捻りが加えられたことを特徴とするイメージファイバ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のイメージファイバにおいて、
該イメージファイバが偏波保持性を有することを特徴とするイメージファイバ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のイメージファイバと、偏光子および検光子とを備えたことを特徴とする光学機器。
【請求項6】
長手方向と垂直な断面形状が異方性を有するジャケット管内に、画素素線を詰め込んでイメージファイバ母材を形成し、次いで、前記イメージファイバ母材を加熱炉内で加熱しながら線引きし、各々の画素素線のクラッドが一体化して共通のクラッドとなった断面円形のイメージファイバを形成した後、前記イメージファイバの外周に紫外線硬化型樹脂を塗布し、次いで、前記紫外線硬化型樹脂を硬化させ、被覆層を形成することを特徴とするイメージファイバの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−9451(P2008−9451A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219657(P2007−219657)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【分割の表示】特願2002−249137(P2002−249137)の分割
【原出願日】平成14年8月28日(2002.8.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】