説明

インクジェットプリンタ

【課題】インクジェットプリンタの動作状態に応じて、ヒータを備えたインクジェットプリンタにおいても、インクジェットヘッド内のインクの乾燥、増粘を抑えることのできるインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】媒体を搬送する媒体搬送機構と、媒体搬送機構による搬送中の媒体を加熱する加熱機構と、媒体に対してインクを吐出して画像を形成するインクジェットヘッドと、を備えるインクジェットプリンタであって、インクジェットプリンタの動作状態に応じて、微振動及び予備吐出の一方又は両方をインクジェットヘッドに実行させる制御部をさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタ、とくに、幅の広い、又は、長尺の媒体に画像を形成するインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
媒体上にインクを吐出して画像を形成するインクジェットプリンタにおいては、インクジェットヘッドでのインクの乾燥、及び乾燥に伴う増粘を防止して、形成する画像の品質を一定に保つことが求められており、このために種々の対策が提案されている。例えば、特許文献1や特許文献2では、画像形成をしていないときに、インクジェットヘッドのノズル内のインクに対して吐出しない程度の微振動を与えることによって、増粘を防止することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−221482号公報
【特許文献2】特開2004−42314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、幅の広い、又は、長尺の媒体に画像を形成する大型のインクジェットプリンタでは、特許文献1、2に提案されているようにインクに微振動を与えるだけではインクの乾燥、増粘を抑えるには充分とは言えなかった。すなわち、大型のインクジェットプリンタでは、媒体に対して長い時間に渡って画像形成を行うため、この間にインクを吐出していないノズルについては乾燥、増粘が起きるおそれがある。さらに、インクジェットヘッドのクリーニング時や媒体のセット時に、インクジェットヘッドを走査するときもその移動量が媒体に対応して大きくなるため、その間にインクが乾燥、増粘することがある。
【0005】
また、媒体上のインクの乾燥を促進するために、媒体が搬送される経路にヒータを設けて媒体を加熱させるものがある。これは、例えば、画像形成後にロール状に巻き取る必要のある長尺状の媒体に画像を形成する場合である。さらに、画像品質の安定の観点から、インクジェットヘッドを加熱して一定の温度とするものもある。このようなヒータを備えるインクジェットプリンタでは、インクジェットヘッド内のインクの乾燥が進みやすい。
【0006】
そこで本発明は、インクジェットプリンタの動作状態に応じて、ヒータを備えたインクジェットプリンタにおいても、インクジェットヘッド内のインクの乾燥、増粘を抑えることのできるインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のインクジェットプリンタは、媒体を搬送する媒体搬送機構と、媒体搬送機構による搬送中の媒体を加熱する加熱機構と、媒体に対してインクを吐出して画像を形成するインクジェットヘッドと、を備えるインクジェットプリンタであって、インクジェットプリンタの動作状態に応じて、微振動及び予備吐出の一方又は両方をインクジェットヘッドに実行させる制御部をさらに備えることを特徴としている。
【0008】
本発明のインクジェットプリンタにおいて、インクジェットプリンタの動作状態には、インクジェットプリンタに媒体をセットしたときに行うメディアセットシークエンスを含み、メディアセットシークエンスにおいては、インクジェットヘッドを搭載するキャリッジが備える媒体検出センサによって、複数の位置で媒体の厚さが測定され、制御部は、メディアセットシークエンスにおいて微振動を実行させることが好ましい。
【0009】
本発明のインクジェットプリンタにおいて、インクジェットプリンタの動作状態には、インクジェットヘッドノズル面にキャップを密着させてインクを吸引する吸引工程と、ブレードによってノズル面のインクを拭き取る拭き取り工程と、の少なくとも一方を行うクリーニングシークエンスを含み、クリーニングシークエンスにおいては、吸引工程以外ではインクジェットヘッドとキャップは互いに離間しており、制御部は、クリーニングシークエンスにおいてインクジェットヘッドを走査させている領域で微振動を実行させることが好ましい。
【0010】
本発明のインクジェットプリンタにおいて、制御部は、インクジェットヘッドによって画像を形成する画像形成領域以外の領域で予備吐出を実行させることが好ましい。
【0011】
本発明のインクジェットプリンタにおいて、インクジェットプリンタの動作状態には、媒体にインクを吐出して画像を形成する画像形成状態を含み、制御部は、画像形成状態において、インクジェットヘッドによって画像を形成する画像形成領域以外の領域で予備吐出を実行させることが好ましい。
【0012】
本発明のインクジェットプリンタにおいて、インクジェットプリンタの動作状態には、インクジェットヘッドの温度、加熱機構の温度、又は、インクジェットプリンタの筐体温度を含み、制御部は、これらの温度のいずれかがそれぞれについて設定した所定温度を超えたときに、微振動及び予備吐出の両方をインクジェットヘッドに実行させ、これらの温度がいずれも設定温度以下であるときは、微振動のみを実行させることが好ましい。
【0013】
本発明のインクジェットプリンタにおいて、制御部は、画像形成状態以外の動作状態では、加熱機構の動作を停止させることが好ましい。
【0014】
本発明のインクジェットプリンタにおいて、媒体搬送機構は、媒体をインクジェットヘッドによる画像形成領域へ案内する給送側ガイドと、画像形成領域の媒体を排出方向へ案内する排出側ガイドと、を備え、加熱機構は、給送側ガイド及び排出側ガイドにそれぞれ設けられたヒータを備えることが好ましい。
【0015】
本発明のインクジェットプリンタにおいて、インクジェットヘッドの内部に充填されたインクが所定温度になるように加熱するヒータを備えることが好ましい。
【0016】
本発明のインクジェットプリンタにおいて、インクジェットヘッドによって画像を形成する画像形成領域を挟んでインクジェットヘッドの走査方向両端に、インクジェットヘッド内のインクをノズル面から吸引するキャップユニットと、ブレードによってノズル面のインクを拭き取るワイプユニットと、がそれぞれ設けられていることが好ましい。
【0017】
本発明のインクジェットプリンタにおいて、キャップユニットは、インクジェットプリンタに用いるインクを溶解する溶剤をノズル面に対して供給する溶剤供給部を備えることが好ましい。
【0018】
本発明のインクジェットプリンタにおいて、予備吐出は、インクジェットヘッドによって画像を形成する画像形成領域とキャップユニットとの間の領域、及び、画像形成領域とワイプユニットとの間の領域、の少なくとも一方で実行させることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、インクジェットプリンタの動作状態に応じて、ヒータを備えたインクジェットプリンタにおいても、インクジェットヘッド内のインクの乾燥、増粘を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタの構成を示す、媒体排出側上方から見た斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタにおける媒体の搬送経路に関連する構成を示す側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタのクリーニングシークエンスの工程を示す正面図であって、(a)は吸引中の状態を、(b)は吸引後に大気を導入した状態を、(c)は吸引後にインクジェットヘッドとキャップを離間させた状態を、(d)はワイプユニットによる拭き取り工程中の状態を、それぞれ示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタのメディアセットシークエンスの工程を示す正面図であって、(a)はインクジェットヘッドをキャップで覆った状態を、(b)はインクジェットヘッドとキャップを離間させた状態を、(c)はインクジェットヘッドの媒体センサがプラテン上から媒体の一端の上方へ移った状態を、(d)は媒体センサが媒体の他端の上方からプラテン上へ移った状態を、をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタについて図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0022】
本実施形態に係るインクジェットプリンタ10は、図1、図2、又は図3に示すように、媒体搬送機構20と、インクジェットヘッド31と、加熱機構としてのプリヒータ25、アフターヒータ26、プラテンヒータ41と、ヘッドヒータ32と、制御部としての制御回路70と、を備える。
【0023】
制御回路70は、専用の回路として構成することができるほか、汎用のCPU(Central Processing Unit)がROM(Read Only Memory)内に予め記憶された制御プログラムにしたがって動作することによっても実現できる。
【0024】
ここで、図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタ10の構成を示す、媒体排出側上方から見た斜視図である。図2は、媒体の搬送経路に関連する構成を示す側面図である。また、図3は、インクジェットプリンタ10の構成を示すブロック図である。図4は、インクジェットプリンタ10のクリーニングシークエンスの工程を示す図であって、(a)は吸引中の状態を、(b)は吸引後に大気を導入した状態を、(c)は吸引後にインクジェットヘッドとキャップを離間させた状態を、(d)はワイプユニットによる拭き取り工程中の状態を、それぞれ示す図である。図5は、インクジェットプリンタ10のメディアセットシークエンスの工程を示す図であって、(a)はインクジェットヘッドをキャップで覆った状態を、(b)はインクジェットヘッドとキャップを離間させた状態を、(c)はインクジェットヘッドの媒体センサがプラテン上から媒体の一端の上方へ移った状態を、(d)は媒体センサが媒体の他端の上方からプラテン上へ移った状態を、をそれぞれ示す図である。図4及び図5は、プラテン40、ワイプユニット50、及び、キャップユニット60を媒体排出側から見た正面図である。
【0025】
以下に、各部材の詳細な構成について説明する。
【0026】
媒体搬送機構20は、画像形成の対象となる媒体を、インクジェットヘッド31とプラテン40との間の画像形成領域へ給送するとともに、インクジェットヘッド31によって画像が形成された媒体を排出する。ここで、媒体とは、インクジェットヘッド31による画像形成の対象であって、長尺、ロール状のものを含み、例えば、紙、布を挙げることができる。
【0027】
ここで、プラテン40は、長板状をなし、例えばアルミニウムの押出加工で形成し、インクジェットプリンタ10の本体12に設けた固定部13の上面に固定される。図2に示すように、プラテン40は、その幅方向Wが媒体の搬送方向に平行になるように、インクジェットヘッド31の下方に配置される。プラテン40には、厚さ方向に貫通する、図示しない吸引孔が複数形成されている。インクジェットプリンタ10の本体12内に設けた、図示しない吸引装置の動作により、吸引孔内を負圧とすることにより、プラテン40上を搬送される媒体を吸引することができる。
【0028】
プラテン40には、その下面に形成した複数の溝部に線状の電気抵抗体からなるプラテンヒータ41がそれぞれ配置されている。このプラテンヒータ41は、制御回路70によりその動作が制御される。プラテン40の温度は、プラテンヒータ41が備える温度センサによって測定し、測定結果は制御回路70へ出力される。
【0029】
なお、プラテンヒータ41は、プラテン40全体を均一に加熱することができれば、線状の電気抵抗体以外の形態、材料としても良い。また、長板状のプラテン40に代えて、円筒状又はドラム状のプラテンを用いることもできる。この場合は、例えば、内部に柱状の電気抵抗体を配置して、プラテンを加熱する。
【0030】
媒体搬送機構20は、媒体をプラテン40上へ案内する湾曲板状の給送側ガイド21と、画像形成後の媒体をプラテン40から離れる方向へ案内する湾曲板状の排出側ガイド22と、を備える。媒体は、給送側ガイド21により図2、図3に示す給送方向F1に沿って搬送され、排出側ガイド22により図2、図3に示す排出方向F2に沿って搬送される。
【0031】
給送側ガイド21は、例えば鉄で構成すると剛性を高めることができる。排出側ガイド22は、例えばアルミニウムで構成すると軽量化可能となり、輸送、梱包などの場面で容易に取り外すことができる。また、媒体の搬送方向は、プラテン40の上流では給送方向F1であり、プラテン40の下流では排出方向F2となる。
【0032】
媒体は、ロール状である場合は、給送側ガイド21よりも搬送方向上流側に配置された不図示の供給部から供給され、排出側ガイド22よりも下流側に配置された不図示の巻き取り部で巻き取られる。供給部、巻き取り部、及び、給送側ガイド21とプラテン40との間に配置した搬送ローラ23a、23b、により、媒体には所定の張力がかかる。搬送ローラは、下側のローラ23bが回転駆動されると、上側のローラ23aは従動回転し、この2つに挟まれて媒体は搬送される。
【0033】
媒体搬送機構20は、制御回路70によってその動作を制御される。
【0034】
図2に示すように、キャリッジ30は内部にインクジェットヘッド31を保持している。キャリッジ30が保持するインクジェットヘッド31の数は、インクジェットプリンタ10の仕様に応じて任意に定める。
【0035】
キャリッジ30は、キャリッジ駆動機構33により走査方向に往復移動する。この走査方向は、長板状のプラテン40が延びる方向に沿っており、媒体の搬送方向に直交する方向である。キャリッジ駆動機構33は、制御回路70によってその動作を制御される。
【0036】
インクジェットヘッド31は、下方にインクを吐出するノズルを所定数備え、媒体搬送機構20によって給送された媒体に対してインクを吐出する。インクは、形成する画像に応じた一又は二以上のノズルから吐出される。媒体上には、インクの吐出と媒体の搬送を繰り返すことにより、所望の画像が形成される。なお、インクジェットヘッド31の構成については、その詳細な説明は省略する。
【0037】
インクジェットヘッド31からのインクの吐出は、メモリ71に記憶された画像データに基づいて、制御回路70の制御によって行われる。画像データは予めメモリ71に記憶させたもののほか、図示しない入力装置から入力されたデータを用いても良い。メモリ71は、仕様に応じて任意の記憶装置を用いることができる。
【0038】
キャリッジ30は、インクジェットヘッド31のほかに、ヘッドヒータ32、温度センサ34、及び媒体検出センサ35を備える。
【0039】
ヘッドヒータ32は、インクジェットヘッド31内のインクを加熱して予め定めた温度に維持するものであって、例えば電気抵抗体素子を用いる。ヘッドヒータ32がインクジェットヘッド31近傍に設けることが好ましく、インクジェットヘッド31上又はインクジェットヘッド31内に配置してもよい。ヘッドヒータ32は、制御回路70によってその動作を制御される。
【0040】
温度センサ34は、インクジェットヘッド31の温度を測定するためのものであって、例えばサーミスタを用いる。温度センサ34による検知結果は、制御回路70へ出力され、メモリ71に記憶される。
【0041】
媒体検出センサ35は、プラテン40上に搬送された媒体の幅及び厚さを検知するセンサであって、例えば、反射光の強度によって検知する光学式センサを用いる。媒体の幅及び厚さの検知は、制御回路70による制御のもと、メディアセットシークエンスにおいてキャリッジ30を媒体上で走査しつつ行う。検知結果は、制御回路70へ出力され、メモリ71に記憶される。
【0042】
加熱機構としては、プラテンヒータ41のほかに、プリヒータ25及びアフターヒータ26が設けられている。プリヒータ25及びアフターヒータ26は、例えばアルミニウムの箔状体上に電気抵抗体からなるヒータ線を所定形状に引き回したものからなる。プリヒータ25及びアフターヒータ26は、例えば両面テープによって、給送側ガイド21の下面及び排出側ガイド22の下面にそれぞれ固定される。なお、プリヒータ25及びアフターヒータ26は、給送側ガイド21、排出側ガイド22をそれぞれ均一に加熱することができれば、線状の電気抵抗体以外の形態、材料であっても良い。
【0043】
プリヒータ25及びアフターヒータ26は、制御回路70によってその動作が制御され、インクジェットプリンタ10の動作状態及び環境に応じた温度に維持される。温度は、プリヒータ25及びアフターヒータ26がそれぞれ備える温度センサによって測定され、測定結果は制御回路70へそれぞれ出力される。
【0044】
さらに、排出側ガイド22の下方には裏板24が配置されている。裏板24は、排出側ガイド22と同じ熱膨張係数を備えた材料で形成することが好ましく、熱による伸縮にともなうゆがみを防止できる。このように裏板24を配置することによりアフターヒータ26の下部に空間を形成して、熱が逃げることを防ぐことができる。また、裏板24と排出側ガイド22との間に断熱材を介在させると裏板24に熱が伝わりにくくなり、排出側ガイド22の熱を保持することができる。
【0045】
排出側ガイド22の上方には、媒体から離間した位置において、プラテン40の長手方向Lに平行になるように、棒状のガイドバー14が配置されている。ガイドバー14を設けたことにより、インクジェットプリンタ10の使用者又はインクジェットプリンタ10の周辺物が、媒体、又は、排出側ガイド22の表面の高温部に触れることを防ぐことができる。
【0046】
図4、図5に示すように、プラテン40の長手方向、すなわちキャリッジ30の走査方向の左側にはキャップユニット60が設けられ、右側にはワイプユニット50が設けられている。また、プラテン40が固定されている固定部13の上面であって媒体Mが搬送されない両端部には、スピットエリア42、43がそれぞれ設けられている。
【0047】
ワイプユニット50は、弾性を備えたブレード状のワイパー51と、ワイパー51を駆動する駆動機構52と、を備える。ワイパー51は、例えばゴムからなり、駆動機構により副走査方向、すなわちキャリッジ30の走査方向に直交する方向に移動する。このように移動することによって、ワイパー51の先端面は、プラテン40上からワイプユニット50の上方の所定位置まで移動して停止したインクジェットヘッド31のノズル面を拭き取ることができる。このようにノズル面を清浄にすることにより、ノズルから吐出されるインクを所望の軌跡で媒体Mに到達させることができる。なお、駆動機構52の動作は、制御回路70によって制御される。
【0048】
キャップユニット60は、キャップ61と、昇降機構62と、ポンプ63と、バルブ64と、を備える。キャップ61は、インクジェットヘッド31のノズル面を下側から気密状態で覆うものであって、昇降機構62によって昇降する。ポンプ63は、キャップ61を通じてノズル面からインクを吸引する。バルブ64は、キャップ61とポンプ63との間に大気を導入した状態と、キャップ61とポンプ63とを互いに連通して大気を遮断した状態と、を切り替える。昇降機構62、ポンプ63、バルブ64はそれぞれ、制御回路70によって動作が制御される。
【0049】
キャップユニット60は、インクジェットプリンタ10に用いるインクを溶解可能な溶剤を内部に収容する溶剤供給部を備えてもよい。この構成によれば、インクジェットヘッド31にキャッピングするとノズル面が溶剤供給部に浸されるため、ノズル面でインクが固まることを防ぐことができる。
【0050】
スピットエリア42、43では、あらかじめ定めたパターンで全ノズルについて予備吐出を行う。予備吐出は、メディアセットシークエンス、クリーニングシークエンス、及び、画像形成状態のいずれの動作状態においても行うことが好ましい。さらに、キャリッジ30の温度センサ34で検知した温度が予め定めた温度を超えたときは、予備吐出の頻度を高めるとよい。また、これら以外の動作状態においても、温度センサ34による検知温度が予め定めた温度を超えたときは、予備吐出を行うことが好ましい。
【0051】
スピットエリアは、インクジェットプリンタ10の仕様に応じて任意の位置に、任意の数だけ設定できる。したがって、プラテン40の一方の端部のみに設けてもよい。また、媒体上に予備吐出パターンを形成できる領域がある場合は、その領域をスピットエリアとすることもできる。
【0052】
上述のように、ワイプユニット50とキャップユニット60をキャリッジ30の走査方向両端に配置すると、キャリッジ30の往復の走査においてクリーニングの機会が増えるため、ノズルにおけるインクの乾燥、増粘を抑えることができる。これは、幅の広い媒体Mを用いる場合に効果が高い。
【0053】
また、キャリッジ30の走査経路中にスピットエリアを設けることにより、ノズルにおけるインクの乾燥、増粘防止の効果を高めることができる。さらに、本実施形態に係るインクジェットプリンタ10のようにワイプユニット50とキャップユニット60の間にプラテン40が介在することで離れて配置されている場合、ワイプユニット50におけるワイピングの後にキャリッジ30を、媒体Mを横断して、キャップユニット60へ走査させるときや、キャップユニット60における吸引後にキャリッジ30をワイプユニット50へ走査させるときに、予備吐出を行うことにより、走査中にインクが乾燥、増粘することを抑えることができる。
【0054】
インクジェットプリンタ10では、その動作状態に応じて、制御回路70が、微振動及び予備吐出の一方又は両方をインクジェットヘッド31に実行させて、インクの乾燥、増粘を抑えている。ここで、微振動とは、吐出しない程度にインクを微振動させるように、インクジェットヘッド31を駆動することである。また、予備吐出とは、画像形成領域以外の領域に対して、所定のパターンでインクを吐出させることである。
【0055】
さらに、画像形成状態以外の動作状態では、プリヒータ25、アフターヒータ26、プラテンヒータ41、及びヘッドヒータ32への電力供給を停止し、又は、画像形成開始時の立ち上がり時間を考慮した温度で維持する。
【0056】
以下、クリーニングシークエンス及びメディアセットシークエンスにおける乾燥、増粘防止処理について説明する。
【0057】
図4を参照して、クリーニングシークエンスの工程の一例について説明する。クリーニングシークエンスは、図4(a)、(b)に示すキャップユニット60による吸引工程と、図4(d)に示すワイプユニット50による拭き取り工程と、からなる。吸引工程と拭き取り工程の順序及び処理回数は任意に定めることができる。なお、クリーニングシークエンスは以下の例以外の順序で実行してもよく、吸引工程と拭き取り工程の一方のみを行っても良い。
【0058】
クリーニングシークエンスにおいては、全ての過程においてヘッドヒータ32はオフとする。これによって、吸引工程中及び拭き取り工程中、さらには、吸引工程と拭き取り工程の間に、ワイプユニット50とキャップユニット60との間をキャリッジ30が走査される間にインクが乾燥、増粘することを抑えることができる。
【0059】
さらに、ヘッドヒータ32に加えて、プリヒータ25、プラテンヒータ41、及びアフターヒータ26についても電力供給を停止、すなわちオフとすると、インクの乾燥、増粘防止の効果を高めることができる。これに対して、プリヒータ25、プラテンヒータ41、及びアフターヒータ26については、画像形成時よりも低温にする温度制御を行っても良く、これによってもインクの乾燥、増粘を抑えることができる。
【0060】
なお、画像形成工程の途中でクリーニングシークエンスを実行して、再び画像形成工程に復帰する場合は、インクの乾燥、増粘を抑えつつ、画像形成への復帰がスムーズに行えるように、プリヒータ25、アフターヒータ26、プラテンヒータ41、及びヘッドヒータ32はオン状態のまま加熱温度を低温にすることが好ましい。
【0061】
吸引工程では、図4(a)に示すように、まず、キャップ61をインクジェットヘッド31のノズル面に密着させ、大気を遮断するようにバルブ64を操作した後に、ポンプ63を駆動して、インクジェットヘッド31からインクを吸引する。吸引は、ポンプ63を所定の駆動電圧で所定時間だけ駆動させることによって行う。吸引後は、ポンプ63の駆動を停止し、あらかじめ定めた時間だけ、キャップ61及びバルブ64の状態を維持して所定時間待機する。なお、吸引中及びその後の待機中は微振動を行わせない。
【0062】
つづいて、図4(b)に示すように、バルブ64を開いて大気を導入した状態とする。次に、昇降機構62を駆動して、図4(c)に示すようにインクジェットヘッド31とキャップ61とが離間するように、キャップ61を下方に移動する。この状態からキャリッジ駆動機構33を駆動してキャリッジ30をワイプユニット50側へ走査させる。
【0063】
キャップユニット60からワイプユニット50への走査の過程では、スピットエリア42、43に対して、所定のパターンでインクを予備吐出することが好ましい。これにより、ノズル内のインクのメニスカス形状を調整するとともに、インクの乾燥、増粘を抑えることができる。
【0064】
インクジェットヘッド31とキャップ61を離間させてから、キャリッジ30をワイプユニット50へ走査するまでの間は微振動を行わせる。これにより、インクを吐出することなくノズル面が露出させたことによってインクが乾燥、増粘することを抑えることができる。
【0065】
次に、図4(d)に示すように、ワイプユニット50においては拭き取り工程が実行される。拭き取りは、ワイプユニット50の上方の所定位置でキャリッジ30の走査を停止して、ワイパー51を副走査方向に沿って移動させることによって行う。この移動により、ノズル面についたインクはワイパー51の先端面に拭き取られる。ワイパー51は、制御回路70の制御により、予め定めた速度で所定回数だけ往復移動する。
【0066】
なお、拭き取り工程において、拭き取り中のインクジェットヘッドのノズルについては微振動を行わせないが、拭き取りを行っていないインクジェットヘッドのノズルについては微振動を行わせることが好ましい。
【0067】
なお、ワイパー51はインクジェットヘッド31の数に対応した数だけ設けても良い。
【0068】
拭き取り工程を終えたインクジェットヘッド31は、キャップユニット60に対向する位置までもどり、図4(a)に示す、キャップ61をノズル面に密着した状態に復帰する。キャップユニット60までもどる過程においても微振動を行うことが好ましく、予備吐出を行うとさらによい。
【0069】
つづいて、図5を参照して、メディアセットシークエンスの工程の一例について説明する。
【0070】
メディアセットシークエンスは、図5(a)に示すように、インクジェットヘッド31のノズル面をキャップ61で覆った状態から開始する。一方、媒体Mは媒体搬送機構20によって、インクジェットヘッド31とプラテン40との間を通過した位置まで搬送される。
【0071】
次に、昇降機構62を駆動して、図5(b)に示すようにインクジェットヘッド31とキャップ61とが離間するように、キャップ61を下方に移動する。この状態からキャリッジ駆動機構33を駆動してキャリッジ30をワイプユニット50側へ走査させる。
【0072】
キャリッジ30の走査において媒体検出センサ35は、まず、図5(c)に示すようにキャリッジ30がプラテン40上から媒体M上へ移ったときに媒体Mの一方の端部を検知する。さらに、図5(d)に示すように、ワイプユニット50側へ走査されたキャリッジ30が媒体M上からプラテン40上へ移ったときに、媒体検出センサ35は、他方の端部を検知する。両端部についての検知結果はそれぞれメモリ71に記憶される。制御回路70は、メモリ71に記憶された検知結果に基づいて、媒体Mの幅として、キャリッジ30の走査方向における媒体Mの長さを算出し、メモリ71に記憶する。
【0073】
また、媒体検出センサ35は、媒体M上での走査の途中で媒体Mの厚さを検知する。この厚さ検知は、媒体Mを低速で搬送しながら複数の位置で行う。厚さ検知の結果はメモリ71に記憶される。制御回路70は、記憶された複数回分の厚さ検知結果から、媒体Mの平均厚さを算出する。
【0074】
メディアセットシークエンスは、上述の媒体Mの両端部の検知及び厚さ検知を複数行うことが好ましい。これらの検知が終了すると、制御回路70は、キャリッジ30をキャップユニット60側へ走査して、キャップユニット60上に静止させたインクジェットヘッド31のノズル面にキャップ61を密着させてメディアセットシークエンスを終了する。なお、シークエンス終了後に、ポンプ63を用いてインクを吸引すると、インクの乾燥、増粘防止の効果が高まるため好ましい。
【0075】
メディアセットシークエンスでは、インクジェットヘッド31とキャップ61を離間させてから、再びキャップ61でインクジェットヘッド31をキャッピングして終了するまで微振動を行わせる。これにより、インクを吐出することなくノズル面が露出させた状態であっても、インクが乾燥、増粘することを抑えることができる。
【0076】
また、キャリッジ30の走査中はスピットエリア42、43において所定のパターンで予備吐出することが好ましい。これにより、ノズル内のインクのメニスカス形状を調整するとともに、インクの乾燥、増粘を抑えることができる。
【0077】
また、メディアセットシークエンスにおいては、全ての過程においてヘッドヒータ32はオフとする。これによって、シークエンス実行中にインクが乾燥、増粘することを抑えることができる。
【0078】
さらに、ヘッドヒータ32に加えて、プリヒータ25、プラテンヒータ41、及びアフターヒータ26についてもオフとすると、インクの乾燥、増粘防止の効果を高めることができる。これに対して、プリヒータ25、プラテンヒータ41、及びアフターヒータ26については、画像形成時よりも低温にする温度制御を行っても良く、これによってもインクの乾燥、増粘を抑えることができる。
【0079】
本実施形態においては、インクジェットプリンタ10の動作状態に応じて、微振動の有無、及び、ヘッドヒータ32、プリヒータ25、プラテンヒータ41、及びアフターヒータ26のオン・オフを調整するととともに、予備吐出を実行する。このため、インクの乾燥、増粘が発生したときに必要な、多くのインクを吸引して行うクリーニングが不要となるため、インクの消費量を抑えることができる。また、このようなクリーニングの時間がないため、生産性が高まるとともに、クリーニングによるインクジェットヘッド31へのダメージを減らすことができ、インクジェットヘッド31の寿命を延ばすことができる。
【0080】
また、長尺の媒体Mに画像を形成する場合、安定したインク吐出を確保するために、媒体Mを所定長さ搬送するごとにクリーニングシークエンスを実行する。上述のように、本実施形態では、クリーニングシークエンスの実行中にインクジェットプリンタ10の動作状態に応じて、ヘッドヒータ32、プリヒータ25、プラテンヒータ41、及びアフターヒータ26のオン・オフ及び微振動の有無を調整する。このため、クリーニングシークエンスの前後で確実にインク吐出性を維持することができ、これにより連続して画像形成を行う場合の安定性が向上する。
【0081】
さらに、制御回路70は、給送側ガイド21、排出側ガイド22、インクジェットヘッド31、プラテン40、及びインクジェットプリンタ10の筐体の温度に応じて、微振動の有無、予備吐出の有無、予備吐出波形の周波数、吐出回数、ヘッドヒータ32、プリヒータ25、プラテンヒータ41、及びアフターヒータ26のオン・オフ、ヘッドヒータ32、プリヒータ25、プラテンヒータ41、及びアフターヒータ26の発熱温度を設定することが好ましい。
【0082】
インクジェットヘッド31について言えば、設定温度をあらかじめメモリ71に記憶させ、この設定温度と温度センサ34によって測定した温度とを比較して、測定温度の方が高い場合は、微振動及び予備吐出の両方をインクジェットヘッド31に実行させ、設定温度以下であるときは、微振動のみを実行させるとよい。
【0083】
インクジェットヘッド31以外の部材についても、その温度を測定するセンサ、又は、インクジェットプリンタ10内の雰囲気温度を測定するセンサを設けるとともに、設定温度をメモリ71に予め記憶させ、設定温度とセンサによって測定した温度とを比較して、測定温度の方が高い場合は、微振動及び予備吐出の両方をインクジェットヘッド31に実行させ、設定温度以下であるときは、微振動のみを実行させるとよい。
【0084】
このような制御により、インクの乾燥、増粘を防止する効果をさらに高めることができる。
【0085】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上のように、本発明に係るインクジェットプリンタは、幅の広い、又は長尺の媒体に画像を形成するインクジェットプリンタに有用である。
【符号の説明】
【0087】
10 インクジェットプリンタ
12 本体
13 固定部
20 媒体搬送機構
21 給送側ガイド
22 排出側ガイド
23a、23b 搬送ローラ
24 裏板
25 プリヒータ
26 アフターヒータ
30 キャリッジ
31 インクジェットヘッド
32 ヘッドヒータ
33 キャリッジ駆動機構
34 温度センサ
35 媒体検出センサ
40 プラテン
41 プラテンヒータ
42、43 スピットエリア
50 ワイプユニット
51 ワイパー
52 駆動機構
60 キャップユニット
61 キャップ
62 昇降機構
63 ポンプ
64 バルブ
70 制御回路
71 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体を搬送する媒体搬送機構と、
前記媒体搬送機構による搬送中の前記媒体を加熱する加熱機構と、
前記媒体に対してインクを吐出して画像を形成するインクジェットヘッドと、
を備えるインクジェットプリンタであって、
前記インクジェットプリンタの動作状態に応じて、微振動及び予備吐出の一方又は両方を前記インクジェットヘッドに実行させる制御部をさらに備えることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記インクジェットプリンタの動作状態には、前記インクジェットプリンタに前記媒体をセットしたときに行うメディアセットシークエンスを含み、
前記メディアセットシークエンスにおいては、前記インクジェットヘッドを搭載するキャリッジが備える媒体検出センサによって、複数の位置で前記媒体の厚さが測定され、
前記制御部は、前記メディアセットシークエンスにおいて前記微振動を実行させる請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記インクジェットプリンタの動作状態には、
前記インクジェットヘッドノズル面にキャップを密着させてインクを吸引する吸引工程と、ブレードによって前記ノズル面のインクを拭き取る拭き取り工程と、の少なくとも一方を行うクリーニングシークエンスを含み、
前記クリーニングシークエンスにおいては、前記吸引工程以外では前記インクジェットヘッドと前記キャップは互いに離間しており、
前記制御部は、前記クリーニングシークエンスにおいて前記インクジェットヘッドを走査させている領域で前記微振動を実行させる請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記制御部は、前記インクジェットヘッドによって画像を形成する画像形成領域以外の領域で予備吐出を実行させる請求項2又は請求項3に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記インクジェットプリンタの動作状態には、前記媒体にインクを吐出して画像を形成する画像形成状態を含み、
前記制御部は、前記画像形成状態において、前記インクジェットヘッドによって画像を形成する画像形成領域以外の領域で前記予備吐出を実行させる請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記インクジェットプリンタの動作状態には、前記インクジェットヘッドの温度、前記加熱機構の温度、又は、前記インクジェットプリンタの筐体温度を含み、
前記制御部は、これらの温度のいずれかがそれぞれについて設定した所定温度を超えたときに、前記微振動及び前記予備吐出の両方を前記インクジェットヘッドに実行させ、これらの温度がいずれも設定温度以下であるときは、微振動のみを実行させる請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記制御部は、前記画像形成状態以外の動作状態では、前記加熱機構の動作を停止させる請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記前記媒体搬送機構は、前記媒体を前記インクジェットヘッドによる画像形成領域へ案内する給送側ガイドと、前記画像形成領域の前記媒体を排出方向へ案内する排出側ガイドと、を備え、前記加熱機構は、前記給送側ガイド及び前記排出側ガイドにそれぞれ設けられたヒータを備える請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項9】
前記インクジェットヘッドの内部に充填されたインクが所定温度になるように加熱するヒータを備える請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項10】
前記インクジェットヘッドによって画像を形成する画像形成領域を挟んで前記インクジェットヘッドの走査方向両端に、前記インクジェットヘッド内のインクをノズル面から吸引するキャップユニットと、ブレードによって前記ノズル面のインクを拭き取るワイプユニットと、がそれぞれ設けられている請求項3に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項11】
前記キャップユニットは、前記インクジェットプリンタに用いるインクを溶解する溶剤を前記ノズル面に対して供給する溶剤供給部を備える請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項12】
前記予備吐出は、前記インクジェットヘッドによって画像を形成する画像形成領域と前記キャップユニットとの間の領域、及び、前記画像形成領域と前記ワイプユニットとの間の領域、の少なくとも一方で実行させる請求項10に記載のインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−188583(P2010−188583A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34319(P2009−34319)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(395003187)株式会社セイコーアイ・インフォテック (173)
【Fターム(参考)】