説明

インクジェットヘッドの製造方法

【課題】アクチュエータに繋がる、電極および配線の幅を均一にして、アクチュエータに加える電圧のばらつきを低減する。
【解決手段】インクが流れる方向の端部に傾斜角を有する各圧力室を隔てる側壁を形成し、その側壁に設けられた電極と配線部を接続する。基板と圧電材を接着剤を用いて接着し、圧電材を加工して溝を形成する。側壁および基板上に電極および配線部となる金属膜を成膜する。レーザ光照射により、基板と圧電材上の非配線部を第1の加工方法で形成する。その後、接着部上の非配線部を第1の加工方法とは異なる第2の加工方法によって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク滴を吐出し画像形成を行うインクジェットヘッドの製造方法に関する。特に、インク滴を吐出させる圧力室を動作させるアクチュエータの電極形成方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧電部材のせん断モード変形を利用しノズルからインク滴を吐出させる、所謂、せん断モード型インクジェットヘッドが記載されている。
【0003】
特許文献1記載のインクジェットヘッドは、基板、およびノズルプレートで囲まれる領域に、複数の圧電材で形成された支柱で挟まれた圧力室を有している。基板は、インクの供給口を有している。支柱の表面には導電性物質である金属膜の電極が設けられている。インクはインク供給口からインクジェットヘッドへ導入され、圧力室を介してノズルから吐出される。
【0004】
金属膜の成膜後に配線部以外の金属膜を除去することにより非配線部が形成されている。非配線部の形成にはレーザービームが用いられている。非配線部は支柱の頂部の長手方向に沿ってレーザービームによって形成している。
【0005】
非配線部を形成するには、圧電材上に形成された金属膜の除去に加え、基板上に形成された配線部以外の金属膜も除去する必要がある。支柱と基板との間の境目では、支柱の長手方向の端部は角度がつけられている斜切部は45度の面とりの角度が好ましいと記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、圧電材のせん断モード変形を利用したインクジェットヘッドの電極および配線の形成方法として、電極および配線形成面全域に金属膜を形成した後、レーザを照射して不要な部分を除去する方法が開示されている。
【0007】
インクジェットヘッドの製造工程において、圧電材を基板に接着剤を用いて接着し、圧電材に溝加工し、電極および配線を形成する面に金属膜をつけ、圧電材から基板にかけてレーザを照射することによって電極、配線および非配線部を形成する。圧電材と基板との間にある接着剤上の金属膜をレーザ照射によって除去すると、接着剤上の金属膜部分が特にレーザ光の幅より広く加工されてしまう(図3)。この原因として、熱伝導率や熱膨張係数といった熱的特性の点で、接着剤(樹脂)と基板(セラミック)や圧電材と大きく異なっているためであることが考えられる。
【0008】
接着部における金属膜除去部の寸法上のばらつきにより、接着部上の非配線部の幅を正確に形成することがレーザ加工では困難となる。接着部上の非配線部の幅が拡がり隣の非配線部にまで及んでしまうこともある。この場合、配線は断線し、圧電材に電圧を印加できず、圧力室は機能しなくなってしまう。
【0009】
ノズル密度の高いインクジェットヘッドでは、ノズルの間隔が狭くなり、支柱の間隔も狭くなる。支柱の間隔が狭くなると非配線部同士の間隔も狭くなる。結果として配線の幅も狭くなる。配線幅が狭いと、レーザ加工によって接着剤上の配線部で、断線の危険性が高まる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明によるインクジェットヘッドの製造方法は、基板と、基板に接着され、圧力室内をインクが流れる方向の端部に傾斜角を有する各圧力室を隔てる側壁を形成し、前記圧力室の容積を可変させる圧電体からなるアクチュエータと、側壁に設けられた金属膜から成る電極と、電極に接続された配線部と、隣接する前記配線部の間にある非配線部と、を具備しているインクジェットヘッドの製造方法において、基板と圧電材を接着剤を用いて接着し、圧電材に溝加工することで、電極および配線部となる金属膜を側壁および基板上に成膜し、基板と圧電材上の非配線部を第1の加工方法で形成し、接着部上の非配線部を第1の加工方法とは異なる第2の加工方法によって形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧電材と基板とを接着する接着剤上に形成される配線の幅のばらつきを小さくすることが可能である。このインクジェットヘッドの製造方法によって、配線幅が一様になり、配線抵抗のばらつきが低減する。また配線の断線を防止することができ、アクチュエータを確実に動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のインクジェットヘッドの概略構成を示す図である。
【図2】ノズルプレートと、流路部を示す図である。
【図3】本発明のインクジェットヘッドをインク吐出方向から見た図である。
【図4】本発明のインクジェットヘッドの断面図である。
【図5】本発明のインクジェットヘッドの断面図である。
【図6】インクジェット記録装置の可動部を示す図である。
【図7】第1の実施形態の製造方法の工程を示す図である。
【図8】第1の実施形態の製造方法の工程を示す図である。
【図9】第2の実施形態の製造方法の工程を示す図である。
【図10】第2の実施形態の製造方法の工程を示す図である。
【図11】第3の実施形態の製造方法の工程を示す図である。
【図12】第3の実施形態の製造方法の工程を示す図である。
【図13】第4の実施形態の製造方法の工程を示す図である。
【図14】第4の実施形態の製造方法の工程を示す図である。
【図15】第4の実施形態の製造方法の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1はインクジェットヘッド1全体の構成を示している。また、図2はインクジェットヘッド1をノズルプレートと圧力室とに分けて示したものである。そして図3はインクジェットヘッド1をインク吐出方向から見た図で、ノズルプレート20を透過したインクジェットヘッド1の内部を示している。
【0014】
インクジェットヘッド1の構成を、図1を用いて説明する。インクジェットヘッド1は、ノズルプレート20、圧電材料からなるアクチュエータ27、基板26、枠部材28で構成されている。ノズルプレート20には、インクを吐出するための複数のノズル31が形成されている。ノズル31は、圧力室8側の開口部がインク吐出側の開口部より大きくなるように形成されている。アクチュエータ27は、ノズルプレート20と基板26とアクチュエータ27で囲まれた圧力室8の容積を可変させ、ノズル31からインク滴を吐出させる。基板26には供給側基板穴37と排出側基板穴38が形成されている。ノズルプレート20と基板26で、アクチュエータ27と枠部材28とを挟んで封止し、その内部に供給側共通圧力室33と排出側共通圧力室32が形成されている。複数の圧力室8の一端は供給側共通圧力室33へ接続し、他端は排出側共通圧力室32に接続されている。このインクジェットヘッド1には2つの圧力室列が設けられている。2つの圧力室列の間に供給側共通圧力室33を備え、圧力室列の両外側に排出側共通圧力室32を有している。
【0015】
インクジェットヘッド1は、図3に示すように、フレキシブル配線版30を介してヘッド駆動回路36に接着されている。図4は図3に示すA−A断面図である。図5は図4に示すB−B断面図である。背面カバー29は、インク供給口24を有するインク供給溝51とインク排出口23を有するインク排出溝34が形成され、基板26の圧力室8を設けた面の反対側に接着されている。フレキシブル配線板30はヘッド駆動回路36からのインクジェットヘッド1を駆動するための駆動信号をアクチュエータ27に供給するために設けられている。
【0016】
インク供給口24、インク供給溝51、供給側基板穴37、供給側共通圧力室33、圧力室8、排出側共通圧力室32、排出側基板穴38、インク排出溝34、インク排出口23の順にインクは流れ、この経路はインク循環経路を構成している。圧力室8を通るインクは、アクチュエータによって加圧されノズルから吐出される。吐出されなかったインクは、インク循環経路を通って再びインク供給口から供給される。
【0017】
アクチュエータ27は圧電材の両面に設けられた電極6に電圧を加えることでせん断変形する。アクチュエータ27となる圧電材は、基板26へエポキシ接着剤で固定されている。アクチュエータ27の間に形成された複数の圧力室8の内面には各々電気的に独立な電極6が形成され、電極6は基板26に形成された配線部5を介してフレキシブル配線板30に電気的に接続されている。電極6とはアクチュエータ27を動作させるために圧電材2の側壁25の圧力室8内面に形成された金属膜のことである。配線部5とは電極6とフレキシブル配線基板30とを電気的に接続するために金属膜が形成された部分である。非配線部とは配線部5と電極6以外の部分であり、金属膜が成膜されていない、または除去された部分のことを言う。フレキシブル配線板30との接続部を除いて、絶縁膜が電極6と基板26の配線パターンの表面に形成され、電極6からインクに電流が流れこむのを防止している。アクチュエータ27は互いに分極方向が反対の圧電素子27aと27bで構成され、分極方向に直交する電界が与えられるとせん断変形を生じて圧力室8の容積を可変する。例えば、図5に示すように、電極6cの電圧を高くして電極6bと電極6dの電圧を低くすると、圧力室8cの容積が増加する。逆に、電極6cの電圧を低くして電極6bと電極6dの電圧を高くすると、圧力室8cの容積が減少する。
【0018】
具体的な寸法として、アクチュエータ27の幅は80μm、高さ600μmである。アクチュエータ27の間隔は169μmである。アクチュエータの長手方向の長さは2、5mmである。アクチュエータの長手方向における端部は斜面となっている。基板26に対し斜面は45°の傾斜になっている。一方の列に形成されたノズルは、他方の列に形成されたノズルと長手方向において84μmずれている。当然ながら、アクチュエータ27の幅および間隔はインクジェットヘッド1に要する解像度によって変化する。アクチュエータの長さや高さはインクの必要とされる吐出量によって変化する。
【0019】
インクジェット記録装置の構成を図6に示す。インクジェットヘッド1が固定されたキャリッジ39は矢印Cで示すように左右に移動する。記録媒体40を保持したテーブル41は矢印Dで示す奥行き方向に移動する。周知のインク吸引手段が設けられたノズルキャップ42は矢印Eで示す上下方向に移動する。インクジェットヘッド1はキャリッジ39の移動により主走査(矢印C方向)を行いテーブル41の移動により副走査(矢印D方向)を行って印字する。印字休止中は、キャリッジ39が右端に移動し、ノズルキャップ42が上に移動してノズルプレート20を覆い、インク中の溶剤の蒸発を防いでいる。
【0020】
ノズルプレート20は、厚さ50μmのポリイミドフィルムである。ノズルプレート20には、一列に
並んだ複数個のノズル31が形成され、各ノズル31は、各圧力室8に対応している。インクジェットヘッド1には2列の圧力室列全ての圧力室8に対してノズルが形成されている。ノズルの吐出側の直径は30μmであり、ノズルの圧力室側の直径は50μmである。なお、ノズルプレートの材質は、ポリイミドフィルムに替えてニッケル、シリコンなどの金属プレートとすることも可能である。ノズル31の直径は、必要なインク吐出量によって選択される。
【0021】
基板26と圧電材2との膨張係数との差異と誘電率の差を考慮して、基板26として低誘電率のPZTを用いている。基板26は、アルミナ(Al)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などを用いることが可能である。
【0022】
圧電材2は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)などである。この実施形態では、圧電定数の高いPZTを用いている。
【0023】
電極6は、ニッケルにより形成されている。電極6の膜厚は2μmとなっている。この電極6は、
アクチュエータ27の表面に対して、無電解ニッケルメッキ法によって形成されている。本実施形態では、無電解ニッケルメッキ法を用いて電極6を形成しているが、これに限られるものではない。電極6は、金や銅によっても形成することができる。電極6の成膜方法としては、無電解ニッケルメッキの他、RFマグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法、CVD(化学気相成長)法、イオンプレーティング法、蒸着法、EB(電子ビーム共蒸着)法、などを用いることが可能である。
【0024】
アクチュエータ27は第1の圧電素子27aと第2の圧電素子27bで構成されている。アクチュエータ27は第1の圧電素子27aと分極方向を対向するようにして第1の圧電素子27aに接着された第2の圧電素子27bとで構成される。第1の圧電素子27aと、第2の圧電素子27bとは、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系の圧電セラミックス材料でそれぞれ形成されている。
【0025】
インクジェットヘッド1には、アクチュエータ27を駆動するヘッド駆動回路36、インクジェットプリンタに設けられた制御部に連なるケーブルや、電源に連なる電力ケーブルが接続されている。
【0026】
上記インクジェットヘッド1を有するインクジェットプリンタを用いて印刷を行うには、予め、インクジェットヘッド1の圧力室8にインクを供給しておく必要がある。インク供給口24を介してインクを供給した状態で、ユーザがインクジェットプリンタに対して印刷を指示すると、制御部は、インクジェットヘッド1に対してケーブルおよび電源ケーブルを介して印字信号をヘッド駆動回路36に出力する。印刷信号を受けたヘッド駆動回路36は、駆動パルス電圧をアクチュエータ27に印加する。
【0027】
これにより、左右一対のアクチュエータ27は、第1の圧電素子27aと第2の圧電素子27bとのシェアモード変形により湾曲するように変形する。S1信号によって圧力室8の容積は一度拡張し、次に収縮して圧力室8のインクを加圧することで、ノズル31からインク滴が勢い良く吐出される。その後、アクチュエータ27は初期位置に復帰する。
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の第1〜4の実施形態について説明する。左側の図は正面図であり、右側はそれぞれに対応するA-AおよびB-B断面図である。
【0029】
ここで言うレーザ加工とは、非配線部を形成するためのものである。装置として、ガルバノ光学ユニットを搭載し、かつスポット径がΦ40μmのレーザ加工機を用いた。
【0030】
(第1の実施形態)
まず本発明の第1の実施形態について説明する。図7と9は第1の実施形態の流れを示したものである。図7と9は各工程に沿って図示し、圧電材2で形成するアクチュエータの端部にあたる部分を示している。(a)は、圧電材2と基板26を記した図である。圧電材2は、分極方向9が反対の2枚のPZTを貼り合わせて形成される。ここでは、厚さ400μmのPZTの上に厚さ200μmのPZTを貼りあわせてある。このようにしてできた圧電材2の端部に傾斜部を設ける。傾斜部は圧電材2の端部をダイヤモンドの砥石等を用いる切削加工によって形成した。
【0031】
図7(b)は基板26に前述した貼り合せの圧電材2を接着剤3で接着した状態を示している。接着剤3はエポキシ接着剤を使用する。圧電材2の基板26に対面する面に、接着剤3を薄く塗布し、位置を合わせて基板26へ加圧している。加圧を保って150℃で熱硬化させている。接着の際に加圧するため、接着剤3は僅かに円弧状にはみ出している。接着剤層の厚さは約10μmになっている。
【0032】
図7(c)は溝の切削後の状態を示している。圧電材2にダイヤモンドブレードによる切削加工で溝(圧力室)8を形成する。溝幅は80μm、隣接溝の間隔169μmで深さは400μmで加工している。
【0033】
図7(d)は接着剤3上にレジスト10を形成した状態を示している。レジスト10は感光性材料を使用する。基板26と圧電材2とを接着している接着剤3上であり、非配線部22となる部分にレジスト10を形成する。レジスト10は接着剤3上と、圧電材2、基板26上の非配線部となる部分にまたがって形成することもできる。圧電材2、接着剤3、基板26にまたがって感光性レジスト10を形成することで、圧電材2と接着剤3の境界、接着剤3と基板26の境界で、非配線部内に金属膜が残留するのを防ぐことができる。
【0034】
図8(e)は基板26上面と圧電材2の表面に無電界ニッケルメッキによって、Ni膜金属膜11を形成した状態を示している。
【0035】
レーザ光を照射することによって金属膜11を除去し、非配線部22を形成する。図8(f)はA-A断面図でレーザ加工した部分に沿って切り取った断面図、図8(g)はB-B断面図で圧力室の支柱45と支柱45の間を切ったときの断面図ある。図8(f)は接着剤3上の非配線部22にレジスト10を形成したときのA-A断面図で、図8(g)はB-B断面図である。このレーザ光は、アクチュエータ27の頂部の長手方向と、傾斜部35と、基板26上に照射する。レーザ光による金属膜除去部4の幅は40μmであり、非配線部の幅も40μmになる。接着剤3上に形成したレジスト10の部分ではレーザ加工は行なわない。
【0036】
レジスト10上には、無電界ニッケルメッキでは形成されない。すなわち基板26と圧電材2の表面に形成された金属膜を第1の加工方法であるレーザ加工して非配線部を形成し、その後レジスト10を除去し、非配線部を形成している。図8(h)はレジスト10を除去した状態を示す図である。これで配線の加工が完成した状態である。
【0037】
(第2の実施形態)
続いて本発明の第2の実施形態について説明する。図9と図10は第2の実施形態の流れを示したものである。図9(a)は、圧電材2と基板26を示した図である。圧電材2は、分極方向9が反対の2枚のPZTを貼り合わせて形成される。ここでは、厚さ400μmのPZTの上に200μmのPZTを貼りあわせてある。このようにしてできた圧電材2の端部にダイヤモンドの砥石等による切削加工によって傾斜部を設けている。
【0038】
図9(b)は基板26に圧電材2を接着剤3で接着した状態を示している。接着剤3はエポキシ接着剤を使用する。接着の際に加圧するため、接着剤3は僅かに円弧状にはみ出している。また、接着剤3の厚さは10μmになっている。接着剤3のはみ出た円弧状部分の、曲率半径は約10μmになっている。
【0039】
図9(c)はインクの流れる方向に沿って溝(圧力室)8を形成した状態を示す図である。溝の形成はダイヤモンドブレードによる切削加工で行なう。溝幅は80μm、隣接溝の間隔169μmで深さは400μmで加工する。
【0040】
図9(d)は基板上面と溝形成した圧電材2の表面に金属膜11を形成した状態を示している。金属膜11は無電界ニッケルメッキで、圧電材2の表面と基板26の圧電材2を接着した面に形成されている。
【0041】
金属膜11成膜部分にレジスト10を形成する。このときレジスト10として感光性レジストを用いる。接着剤3上の金属膜11が形成された部分で、非配線部22となる部分のレジスト10のみを除去する。図9(e)はレジスト除去部を示している。湿式エッチングで金属膜11を除去した。湿式エッチングの代わりにドライエッチングでも可能である。また図10(f)は、金属膜11をエッチングした構成を示している。レジスト10が除去された部分の金属膜11をエッチングによって除去する。
【0042】
レジスト10を除去する。図10(i) 、図10(j)はレジスト10を除去した状態を示している。接着剤上の非配線部を除いて全面に形成されたレジスト10をレジスト溶解液で除去する。これで配線部の形成が完成する。
【0043】
図10(g)、図10(h)は、非配線部22を形成した状態を示している。接着部を除いた部分の非配線部22にレーザ光を照射し、このレーザ光は、接着部上の非配線部を除いてアクチュエータ27の頂部の長手方向と、傾斜部35と、基板26上に照射する。レーザ光による金属膜除去部4の幅は40μmである。
【0044】
(第3の実施形態)
続いて本発明の第3の実施形態について説明する。図11と図12は第3の実施形態の流れを示したものである。図11(a)は、接着前の圧電材2と基板26を示している。圧電材2と基板26を接着剤を用いて接着する。圧電材2は、分極方向9が反対の2枚のPZTを貼り合わせて形成される。ここでは、厚さ400μmのPZTの上に200μmのPZTを貼りあわせてある。このようにしてできた圧電材2に傾斜部を設ける。傾斜部の形成は第2の実施形態と同様である。
【0045】
圧電材2の端部に形成される傾斜部は、基板26に対して第1の角度(45°)となっている。図11(b)は基板26に圧電材2を接着剤3で接着した状態を示している。接着剤3はエポキシ接着剤を使用する。接着の際に加圧するため、接着剤3は基板26と圧電材2との間から僅かに円弧状にはみ出している。
【0046】
円弧状にはみ出した接着剤3をならすために、圧力室8内をインクが流れる方向の端部の傾斜角(第1の角度)とは異なる第2の角度の傾斜を、インクの流れる方向と直行する方向に沿って形成する。第2の傾斜部は圧電材2の端部、接着剤3、基板26と圧電材2との接着部3を含めて切削する。切削はダイヤモンドブレードで第2の傾斜部を形成する。
【0047】
図11(d)は溝の切削後の状態を示している。圧電材2にダイヤモンドブレードによる切削加工で溝(圧力室)8を形成する。溝幅は80μm、隣接溝の間隔169μmで深さは400μmで加工している。
【0048】
図11(e)は非配線部のレジストパターンを示している。基板26と圧電材2との接着部3であり、第1の非配線部22となる部分にレジスト10を形成している。レジスト10は感光性材料を使用する。レジストパターンは圧電材2と基板26、接着部3上に均一なレジスト膜を形成し、非配線部を形成するマスクパターンを通して紫外線を照射して、非配線部のレジストを残し他を除去して形成する。
【0049】
図12(f)は基板26上面と圧電材2の表面に無電界ニッケルメッキによって、Ni膜金属膜11を形成した状態を示している。
【0050】
図12(g)はA-A断面図でレーザ加工した部分に沿って切り取った断面図、図12(h)はB-B断面図で圧力室の底面を2分する部分に沿って切り取った断面図ある。接着剤3上のレジスト10部分を除く、非配線部を形成するためにレーザ光照射によって金属膜11を除去し、基板26上とアクチュエータ27上の第2の非配線部22を形成する。このレーザ光は、アクチュエータ27の頂部の長手方向と、傾斜部35と、接着剤3の部分と、基板26上に照射する。レーザ光による金属膜除去部4の幅は40μmである。
【0051】
図12(i)はレジスト10を除去した状態を示している。レジスト10を除去し、アクチュエータ27、接着剤3、基板26上の非配線部が、電極8につながる配線部同士を分ける。そして電極8および配線部5を各圧力室ごとに形成することができる。
【0052】
(第4の実施形態)
続いて本発明の第4の実施形態について説明する。図13と図14と図15は第4の実施形態の流れを示したものである。図13(a)は、接着前の圧電材2と基板26を示している。圧電材2と基板26を接着剤を用いて接着する。圧電材2は、分極方向9が反対の2枚のPZTを貼り合わせて形成される。ここでは、厚さ400μmのPZTの上に200μmのPZTを貼りあわせてある。このようにしてできた圧電材2に傾斜部を設ける。傾斜部の形成は第2の実施形態と同様である。
【0053】
第1の傾斜部と異なる角度を有する第2の傾斜部を設けることで、接着剤3のはみ出しは円弧状にならず、直線上に形成される。接着部3が円弧状になると、接着剤3と圧電材2の境界部、接着剤3と基板26との境界部で金属膜11が残り易い。直線上にすることで、接着剤3と圧電材2、接着剤3と基板境界部でも精度良く非配線を形成でき、結果として配線部の幅もより均一になる。
【0054】
基板26に圧電材2を接着剤3で接着する。図13(b)は、圧電材2と基板26を接着した状態を示す。接着剤3はエポキシ接着剤を使用する。接着の際に加圧するため、接着剤3は基板26と圧電材2との間から僅かに円弧状にはみ出している。
【0055】
円弧状にはみ出した接着剤3をならすために、圧力室8内をインクが流れる方向の端部の傾斜角(第1の角度)とは異なる第2の角度の傾斜を、インクの流れる方向と直行する方向に沿って形成する。第2の傾斜部は圧電材2の端部、接着剤3、基板26と圧電材2との接着部3を含めて切削する。切削はダイヤモンドブレードで基板26に溝を形成すると同時に第2の傾斜部を形成する。
【0056】
図13(d)はインクの流れる方向に沿って溝(圧力室)8を形成した状態を示している。溝の形成はダイヤモンドブレードによる切削加工で行なう。溝幅は80μm、隣接溝の間隔169μmで深さは400μmで加工する。
【0057】
図14(e)は基板上面と溝形成した圧電材2の表面に金属膜11を形成した状態を示している。金属膜11は無電界ニッケルメッキで、圧電材2の表面と基板26の圧電材2を接着した面に形成されている。
【0058】
図14(f)は金属膜11を示している。基板上面と圧電材2の表面に無電界ニッケルメッキで金属膜11を形成する。
【0059】
金属膜11成膜部分にレジスト10を形成する。このとき感光性レジストを用いる。図14(f)は接着剤3上の非配線部22のレジスト10のみを除去した状態を示している。また図14(g)は、レジスト10が除去された部分の金属膜11をエッチングによって除去する。図14(g)は接着剤上の非配線部を示す。
【0060】
図15(h) 、図15(i)はレジスト10を除去した状態を示している。
【0061】
図15(j)、図15(k)は、非配線部22を形成した状態を示している。接着部を除いた部分の非配線部22にレーザ光を照射し、このレーザ光は、接着部上の非配線部を除いてアクチュエータ27の頂部の長手方向と、傾斜部35と、基板26上に照射する。レーザ光による金属膜除去部4の幅は40μmである。
【0062】
本発明の第1から第4では、基板26、圧電材2上の非配線部(第2の非配線部)の形成方法と、接着剤3上の非配線部(第1の非配線部)の形成方法が異なっている。金属膜を除去し第1、第2の非配線部の形成方法を変えることで、接着剤3上の非配線部の幅と基板26、圧電材2上の非配線部の幅を同じにすることができる。これにより電極8、配線部5の幅を均一にできる。電極8、配線部5の幅を一定にすることで、アクチュエータ27に印加される電圧も電極8間で一定になり、アクチュエータ27の動作のばらつきを低減し、インク吐出量のばらつきを減らすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のインクジェットヘッド製造方法によって形成されたインクジェットヘッドは、ノズルを高密度に配線する場合に好適である。また、断線の危険性を低減できるため、歩留まりも高くなる。
【符号の説明】
【0064】
1 インクジェットヘッド
2 圧電材
3 接着剤(接着部)
4 金属膜除去部
5 配線部
6 電極
7 分極方向
8 溝(圧力室)
9 分極方向
10 レジスト
11 金属膜
20 ノズルプレート
21 レジスト除去部
22 非配線部
23 インク排出口
24 インク供給口
25 側壁
26 基板
27 アクチュエータ
27a圧電素子
27b圧電素子
28 枠部材
29 背面カバー
30 フレキシブル配線版
31 ノズル
32 排出側共通圧力室
33 供給側共通圧力室
34 インク排出溝
35 傾斜部
36 ヘッド駆動回路
37 供給側基板穴
38 排出側基板穴
39 キャリッジ
40 記録媒体
41 テーブル
42 ノズルキャップ
45 支柱
46 第一の圧電素子
47 第二の圧電素子
50 無機絶縁膜
51 インク供給溝
52 共通圧力室
S1 インク吐出信号
S2 インク非吐出信号
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【特許文献1】特表2002−529289公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に接着され、圧力室内をインクが流れる方向の端部に傾斜角を有する各圧力室を隔てる側壁を形成し、前記圧力室の容積を可変させる圧電体からなるアクチュエータと、
前記側壁に設けられた金属膜から成る電極と、
前記電極に接続された配線部と、
隣接する前記配線部の間にある非配線部と、
を具備しているインクジェットヘッドの製造方法において、
基板と圧電材を接着剤を用いて接着し、
前記圧電材に溝加工し、
前記電極および配線部となる金属膜を側壁および基板上に成膜し、
前記基板と圧電材上の非配線部を第1の加工方法で形成し、前記接着部上の非配線部を前記第1の加工方法とは異なる第2の加工方法によって形成したことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。

【請求項2】
基板と、
前記基板に接着され、各圧力室を隔てる側壁を形成し、前記圧力室の容積を可変させる圧電体からなるアクチュエータと、
前記側壁に設けられた金属膜から成る電極と、
前記電極に接続された配線部と、
隣接する前記配線部の間にある非配線部と、
を具備しているインクジェットヘッドの製造方法において、
基板と圧電材を接着剤を用いて接着し、
前記圧電材に溝加工し、
前記非配線部を形成するためのレジスト膜を基板と圧電材との接着剤上に形成し、
前記電極および配線部となる金属膜を前記側壁および前記基板上に成膜し、
前記レジスト膜を形成した部分を除く非配線部をレーザ加工によって形成し、
前記レジスト膜を除去することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。

【請求項3】
基板と、
前記基板に接着され、各圧力室を隔てる側壁を形成し、前記圧力室の容積を可変させる圧電体からなるアクチュエータと、
前記側壁に設けられた金属膜から成る電極と、
前記電極に接続された配線部と、
隣接する前記配線部の間にある非配線部と、
を具備しているインクジェットヘッドの製造方法において、
基板と圧電材を接着剤を用いて接着し、
前記圧電材に溝加工をおこなって側壁を形成し、
前記電極および配線部を形成する金属膜を成膜し、
前記金属膜成膜部分にレジストを形成し、接着剤上の非配線部のレジストのみを除去し、
前記レジスト膜を形成した部分を除く非配線部をレーザ加工によって形成することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
基板と、
前記基板に接着され、圧力室内をインクが流れる方向の端部に第1の傾斜角を有する各圧力室を隔てる側壁を形成し、前記圧力室の容積を可変させる圧電体からなるアクチュエータと、
前記側壁に設けられた金属膜から成る電極と、
前記電極に接続された配線部と、
隣接する前記配線部の間にある非配線部と、
を具備しているインクジェットヘッドの製造方法において、
基板と圧電材を接着剤を用いて接着し、
基板の面に対し前記第1の傾斜角とは異なる第2の傾斜角を、前記基板と圧電材の接着部にインクの流れる方向と直行する方向に沿って形成し、
前記非配線部を形成するためのレジスト膜を基板と圧電材との接着剤上に形成し、
前記電極および配線部となる金属膜を側壁および基板上に成膜し、
前記レジスト膜を形成した部分を除く非配線部をレーザ加工によって形成し、
前記レジスト膜を除去することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】
基板と、
前記基板に接着され、圧力室内をインクが流れる方向の端部に第1の傾斜角を有する各圧力室を隔てる側壁を形成し、前記圧力室の容積を可変させる圧電体からなるアクチュエータと、
前記側壁に設けられた金属膜から成る電極と、
前記電極に接続された配線部と、
隣接する前記配線部の間にある非配線部と、
を具備しているインクジェットヘッドの製造方法において、
基板と圧電材を接着剤を用いて接着し、
圧力室内をインクが流れる方向の端部にある傾斜角とは異なる角度の傾斜を、インクの流れる方向と直行する方向に沿って形成し、
前記基板上の配線面のほぼ全域に金属膜を成膜し、
前記基板と圧電材との接着部を含む領域の配線部にレジストを形成し、
前記基板と圧電材との接着部を含む領域の非配線部の金属膜を除去し、
前記レジスト膜を形成した部分を除く非配線部をレーザ加工によって形成することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−37057(P2011−37057A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184256(P2009−184256)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】