インクジェットヘッドの製造方法
【課題】インク漏れを防止できるインクジェットヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】一つの実施の形態に係るインクジェットヘッドの製造方法において、インクジェットヘッドは、圧力室が設けられた基材と、前記圧力室の内面を覆って形成された電極と、前記圧力室を塞ぐように前記基材に取り付けられるとともに、前記圧力室に向かって開口するノズルが設けられたノズルプレートと、を備える。まず、前記ノズルプレートに保護フィルムを貼り付ける。前記保護フィルムと前記ノズルプレートとを貫通する前記ノズルを形成する。前記圧力室内の前記電極と、前記圧力室に面する前記ノズルプレートの内面と、前記ノズルの内面と、前記保護フィルムの外面とを覆う保護膜を形成する。前記保護フィルムの外面の前記保護膜を除去する。前記保護フィルムを除去し、前記保護膜よりも濡れ性が低い前記ノズルプレートの外面を露出させる。
【解決手段】一つの実施の形態に係るインクジェットヘッドの製造方法において、インクジェットヘッドは、圧力室が設けられた基材と、前記圧力室の内面を覆って形成された電極と、前記圧力室を塞ぐように前記基材に取り付けられるとともに、前記圧力室に向かって開口するノズルが設けられたノズルプレートと、を備える。まず、前記ノズルプレートに保護フィルムを貼り付ける。前記保護フィルムと前記ノズルプレートとを貫通する前記ノズルを形成する。前記圧力室内の前記電極と、前記圧力室に面する前記ノズルプレートの内面と、前記ノズルの内面と、前記保護フィルムの外面とを覆う保護膜を形成する。前記保護フィルムの外面の前記保護膜を除去する。前記保護フィルムを除去し、前記保護膜よりも濡れ性が低い前記ノズルプレートの外面を露出させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタのインクジェットヘッドは、例えば2つの圧電材料を貼り合わせて形成された基材と、この基材に取り付けられたノズルプレートとを備える。基材には溝状の複数の圧力室が設けられ、この圧力室には圧電材料に電圧を印加するための電極が形成される。圧力室の容積は、電極を介して基材にかけられる電圧に応じて膨張または縮小する。圧力室に供給されたインクは、圧力室の容積変化によって加圧されることで、ノズルプレートに設けられたノズルから吐出される。
【0003】
インクに電流が流れると、インクが変質することにより印刷の品質低下に繋がる。このため、圧力室内に保護膜が形成され、電極から圧力室内のインクに電流が流れることが防止される。この保護膜は、例えばレーザ加工によってノズルプレートにノズルを形成した後、蒸着重合法によって圧力室内に形成される。さらに、この保護膜は、ノズルの内面やノズルプレートの外面にも形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−266691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のインクジェットヘッドにおいて、保護膜が形成されている箇所は互いに同じ濡れ性を有する。このため、保護膜が形成された圧力室内、ノズルの内面、およびノズルプレートの外面が全て同じ濡れ性を有し、圧力室内のインクがノズルから外部に漏れるおそれがある。インクがノズルから漏れると、印刷時のインク吐出が不安定になってしまう。
【0006】
本発明の目的は、インク漏れを防止できるインクジェットヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの実施の形態に係るインクジェットヘッドの製造方法は、
圧力室が設けられた基材と、前記圧力室の内面を覆って形成された電極と、前記圧力室を塞ぐように前記基材に取り付けられるとともに、前記圧力室に向かって開口するノズルが設けられたノズルプレートと、を備えたインクジェットヘッドの製造方法である。まず、前記ノズルが形成される前の前記ノズルプレートの外面に保護フィルムを貼り付ける。前記保護フィルムと前記ノズルプレートとを貫通する前記ノズルを形成する。前記圧力室内の前記電極と、前記圧力室に面する前記ノズルプレートの内面と、前記ノズルの内面と、前記保護フィルムの外面とを覆う保護膜を形成する。前記保護フィルムの外面に形成された前記保護膜を除去する。前記保護フィルムを除去することで、前記保護膜よりも濡れ性が低い前記ノズルプレートの外面を露出させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施の形態に係るインクジェットヘッドを一部切り欠いて示す斜視図。
【図2】第1の実施の形態のインクジェットヘッドのノズル周辺を図1のF2−F2線に沿って示す断面図。
【図3】第1の実施形態において、蓋部材およびノズルプレートが取り付けられる前の基材を示す斜視図。
【図4】第1の実施形態における製造工程の途中のインクジェットヘッドを示す斜視図。
【図5】第1の実施形態における製造工程の途中のインクジェットヘッドを図4のF5−F5線に沿って示す断面図。
【図6】第1の実施形態において、保護膜の一部が除去された製造工程の途中のインクジェットヘッドを示す断面図。
【図7】第2の実施の形態に係る分解されたインクジェットヘッドおよびマニホールドを示す斜視図。
【図8】第2の実施形態のインクジェットヘッドおよびマニホールドを図7のF8−F8線に沿って示す断面図。
【図9】第2の実施形態のインクジェットヘッドのノズル周辺を拡大して示す断面図。
【図10】第2の実施形態における製造工程の途中のインクジェットヘッドを示す断面図。
【図11】第2の実施形態における保護膜の一部が除去された製造工程の途中のインクジェットヘッドを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図1ないし図6を参照して、インクジェットヘッドの製造方法の第1の実施の形態について説明する。図1は、インクジェットヘッド10を一部切り欠いて示す斜視図である。図2は、図1のF2−F2線に沿ってインクジェットヘッド10のノズル29周辺を示す断面図である。
【0010】
図1に示すように、インクジェットヘッド10は、いわゆるエンドシュータ方式のインクジェットヘッドであって、基材13と、蓋部材14と、ノズルプレート15とを備えている。蓋部材14は、基材13の上面13aに取り付けられている。ノズルプレート15は、基材13の前面13bに取り付けられている。
【0011】
基材13は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)製の2枚の圧電板17,18を互いの分極方向を反対向きとするように貼り合わせて形成されている。基材13に、複数の圧力室21が設けられている。
【0012】
複数の圧力室21は、それぞれ溝状に形成され、基材13の長手方向に互いに平行に並んで設けられている。圧力室21は、それぞれ基材13の上面13aと前面13bとに開口している。圧力室21は、蓋部材14と、ノズルプレート15とによって塞がれている。
【0013】
図2に示すように、複数の圧力室21に電極22がそれぞれ形成されている。電極22は、例えばニッケル薄膜によって形成されているが、これに限らず、例えば金や銅で形成されていても良い。
【0014】
電極22は、圧力室21の内面を覆って形成されている。なお、電極22は、少なくとも圧力室21の一対の側面21aを覆っていて、かつ両側面の電極は接続している。一対の側面21aは、圧力室21の内面に含まれる。電極22に電圧が印加されると、圧電材料によって形成された基材13が変形し、圧力室21の容積が膨張または縮小する。
【0015】
図1に示すように、基材13の上面13aに複数の配線24が設けられている。複数の配線24は、例えば上面13aに形成されたニッケル薄膜を、レーザーパターニングすることによって形成されている。複数の配線24は、上面13aの後端と複数の電極22との間に亘ってそれぞれ設けられる。配線24の一端は、電極22に接続されている。
【0016】
一方、配線24の他端は、例えばインクジェットプリンタのプリント回路板に接続される。このプリント回路板は、インクジェットプリンタの制御部から入力される信号に基づいて、配線24を介して電極22に電圧を印加し、基材13を変形させる。
【0017】
蓋部材14は、例えば接着によって基材13の上面13aに取り付けられている。蓋部材14に、インク供給経路26が設けられている。インク供給経路26は、複数の圧力室21にそれぞれ開口するとともに、インクタンクに連結される。インクタンクのインクは、インク供給経路26を介して各圧力室21に供給される。
【0018】
ノズルプレート15は、ポリイミド製の矩形のフィルムによって形成されている。なお、ノズルプレート15の材料はこれに限らず、レーザ加工が可能な材料であれば良い。ノズルプレート15の厚みは、例えば10〜100μmである。ノズルプレート15は、例えば接着によって、基材13の前面13bに取り付けられている。図2に示すように、ノズルプレート15の内面15aは、圧力室21に面している。
【0019】
ノズルプレート15は、撥インク膜27を含んでいる。撥インク膜27は、ノズルプレート15の部材本体28に塗布され、ノズルプレート15の外面15bを形成する。撥インク膜27は、例えばフッ素系コート剤によって形成されている。撥インク膜の厚さは、例えば約0.1μmである。
【0020】
ノズルプレート15に、孔である複数のノズル29が設けられている。複数のノズル29は、複数の圧力室21に対応し、ノズルプレート15の長手方向に並んで配置されている。複数のノズル29は、複数の圧力室21に開口している。
【0021】
図2に示すように、圧力室21の電極22と、ノズルプレート15の内面15aと、複数のノズル29の内面29aの一部とを覆う保護膜31が形成されている。保護膜31は、例えばパラキシレン系ポリマーによって形成される。具体的に例示すると、いわゆるパリレンC(ポリクロロパラキシリレン)、パリレンN(ポリパラキシリレン)、およびパリレンD(ポリジクロロパラキシリレン)のようなパラキシリレン系ポリマーが適用される。なお、保護膜31はこれに限らず、例えばポリイミドやポリアミドのような他の物質によって形成されても良い。
【0022】
保護膜31の厚さは、例えば1〜10μmである。保護膜31の濡れ性は、ノズルプレート15の外面15bを形成する撥インク膜27の濡れ性よりも高い。保護膜31は、圧力室21の一対の側面21aにそれぞれ形成された電極22を覆うことで、圧力室21に供給されたインクから電極22を保護する。
【0023】
以下に、前記構成のインクジェットヘッド10の製造方法の一例について説明する。図3は、蓋部材14およびノズルプレート15が取り付けられる前の基材13を示す斜視図である。まず、例えば熱硬化性の接着剤を、例えばスクリーン印刷によって一方の圧電板17に塗布する。なお、これに限らず、例えばスピンコータ、スプレー塗布、および刷毛塗りのような、他の方法で接着剤を塗布しても良い。接着剤を塗布した圧電板17に他方の圧電板18を積層する。例えばオートクレーブ装置によって接着剤を熱硬化させることにより、基材13を形成する。なお、接着剤は後の工程で熱硬化させても良い。
【0024】
次に、基材13に、複数の圧力室21を形成する。複数の圧力室21は、例えば、ICウェハーの切断に用いられているダイシングソーのダイヤモンドホイールによって、基材13を切削することで形成される。
【0025】
次に、各圧力室21の内面に、電極22を形成する。さらに、基材13の上面13aに配線24を形成する。電極22および配線24は、例えば無電解メッキ法を用いて形成される。次に、レーザ照射によりパターニングを行い、電極22および配線24以外の部位からニッケル薄膜を除去する。
【0026】
図4は、製造工程の途中のインクジェットヘッド10を示す斜視図である。図5は、図4のF5−F5線に沿って製造工程の途中のインクジェットヘッド10を示す断面図である。基材13に電極22および配線24を形成した後、熱硬化性の接着剤を用いて、基材13の上面13aに蓋部材14を取り付けるとともに、基材13の前面13bにノズル29が形成される前のノズルプレート15を取り付ける。接着剤を熱硬化させることにより、基材13に蓋部材14およびノズルプレート15を固定する。なお、ここで同時に圧電板17,18に塗布された接着剤を熱硬化させても良い。
【0027】
ノズルプレート15は、例えばバーコーターを用いて部材本体28に撥インク膜27を塗布することによって形成されている。図4に示すように、あらかじめノズルプレート15の外面15bに、保護フィルム32が貼り付けられている。
【0028】
保護フィルム32は、例えばポリエステルによって形成される。保護フィルム32の厚さは、例えば10〜30μmである。保護フィルム32は、ノズルプレート15の外面15bの全体を覆っている。
【0029】
次に、このノズルプレート15にエキシマレーザのレーザ光を照射して複数のノズル29を形成する。複数のノズル29は、保護フィルム32とノズルプレート15とを貫通し、圧力室21に開口する。なお、これに限らず、例えばあらかじめノズル29が形成されたノズルプレート15を基材13に接着しても良い。
【0030】
次に、化学気相成長法(CVD)によって保護膜31を形成する。図5に示すように、保護膜31は、各圧力室21内の電極22と、ノズルプレート15の内面15aと、各ノズル29の内面29aと、保護フィルム32の外面32aとを覆って成膜される。
【0031】
図6は、保護膜31の一部が除去された製造工程の途中のインクジェットヘッド10を示す断面図である。保護膜31が形成された後、保護フィルム32の外面32aに形成された保護膜31をプラズマ処理することによって除去する。
【0032】
プラズマ処理には、例えばヤマト科学製プラズマ照射装置PDC−510をRIEモードで用いる。処理時の条件の一例として、プラズマ出力が100〜200W、ガスは酸素、酸素流量は30ccである。以上の条件で、保護フィルム32の外面32aに向かって30〜120分の間プラズマ処理を行なう。これにより、保護フィルム32の外面32aと、ノズル29の内面29aの一部とに形成された保護膜31が除去される。この際、保護フィルム32の外面32aも多少削れるが、保護フィルム32によってノズルプレート15は保護される。なお、プラズマ処理が不要な部分は、プラズマ処理を行なう前に治具やマスキングテープで覆う。
【0033】
次に、保護フィルム32をノズルプレート15から剥がして除去する。これにより、図2に示すように、ノズルプレート15の外面15bが外部に露出する。以上により、インクジェットヘッド10の製造工程が終了する。
【0034】
前記構成のインクジェットヘッド10の製造方法によれば、圧力室21内の電極22が保護膜31に覆われるとともに、ノズルプレート15の外面15bが保護膜31よりも濡れ性が低い撥インク膜27によって形成されている。このため、圧力室21内の濡れ性とノズルプレート15の外面15bの濡れ性との間に差が生じる。したがって、印字休止時に圧力室21に供給されたインクがノズル29から漏れることを防止でき、印刷時のインク吐出が安定する。
【0035】
次に、図7ないし図11を参照して、インクジェットヘッドの製造方法の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施形態のインクジェットヘッド10と同一の機能を有する構成部分には同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0036】
図7は、分解されたインクジェットヘッド40およびマニホールド41を示す斜視図である。図8は、図7のF8−F8線に沿ってインクジェットヘッド40およびマニホールド41を示す断面図である。
【0037】
図7に示すように、インクジェットヘッド40は、いわゆるサイドシュータ方式のインクジェットヘッドであって、基材43と、枠部材44と、ノズルプレート45とを備えている。基材43は、基材本体46と、一対の圧電部材47とを有している。図8に示すように、基材43と、枠部材44と、ノズルプレート45との内側に、インク室49が形成されている。一対の圧電部材47は、インク室49の内部に位置している。
【0038】
基材本体46は、例えばアルミナのようなセラミックスによって、矩形の板状に形成されている。基材本体46は、平坦な第1の面51と、第1の面51の反対側に位置する第2の面52とを有している。第2の面52は、マニホールド41に取り付けられる。基材本体46に、複数の供給口53と、複数の第1の排出口54と、複数の第2の排出口55とが設けられている。
【0039】
図7に示すように、複数の供給口53は、基材本体46の中央部に設けられている。複数の供給口53は、基材本体46の長手方向に並んでいる。複数の供給口53は、インク室49に開口している。
【0040】
供給口53は、インクジェットヘッド40がマニホールド41に取り付けられると、マニホールド41を介してインクタンクに連結される。インクタンクのインクは、供給口53からインク室49に供給される。
【0041】
複数の第1の排出口54は、基材本体46の一方の側縁46aに沿って並んで設けられている。複数の第2の排出口55は、基材本体46の他方の側縁46bに沿って並んで設けられている。第1の排出口54と第2の排出口55との間に、供給口53が挟まれている。第1の排出口54と第2の排出口55とは、インク室49に開口している。
【0042】
第1の排出口54および第2の排出口55は、インクジェットヘッド40がマニホールド41に取り付けられると、マニホールド41を介してインクタンクにそれぞれ連結される。インク室49内のインクは、第1の排出口54および第2の排出口55からインクタンクに戻される。
【0043】
枠部材44は、例えば接着によって、基材本体46の第1の面51に隙間無く取り付けられている。枠部材44は、一対の圧電部材47、供給口53、第1の排出口54、および第2の排出口55を囲んでいる。
【0044】
ノズルプレート45は、ポリイミド製の矩形のフィルムによって形成されている。ノズルプレート45は、例えば接着によって、枠部材44に隙間無く取り付けられている。ノズルプレート45は、基材本体46の第1の面51に対向している。
【0045】
ノズルプレート45に、孔である複数のノズル58が設けられている。複数のノズル58は、一対の圧電部材47に対応し、基材本体46の長手方向に沿って二列に並んで配置されている。
【0046】
図9は、インクジェットヘッド40のノズル58周辺を拡大して示す断面図である。図9に示すように、ノズルプレート45は、撥インク膜59を含んでいる。撥インク膜59は、ノズルプレート45の部材本体60に塗布され、ノズルプレート45の外面45bを形成する。撥インク膜59は、第1の実施形態の撥インク膜27と同じく、例えばフッ素系コート剤によって形成されている。撥インク膜の厚さは、例えば約0.1μmである。
【0047】
図7に示すように、一対の圧電部材47は、基材本体46の第1の面51にそれぞれ取り付けられ、基材本体46の長手方向に互いに平行に延びている。一方の圧電部材47は、供給口53と第1の排出口54との間に配置されている。他方の圧電部材47は、供給口53と第2の排出口55との間に配置されている。
【0048】
一対の圧電部材47は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)製の2枚の圧電板を互いの分極方向を反対向きとするように貼り合わせてそれぞれ形成されている。一対の圧電部材47は、台形状の断面を有する棒状にそれぞれ形成されている。
【0049】
一対の圧電部材47に、複数の圧力室61がそれぞれ形成されている。複数の圧力室61は、圧電部材47が延びる方向とそれぞれ交差する溝である。複数の圧力室61は、それぞれ複数のノズル58と対応して、並んで設けられている。
【0050】
図8に示すように、複数の圧力室61に、電極62がそれぞれ形成されている。電極62は、圧力室61の側面および底面に形成されている。電極62に電圧が印加されると、圧電部材47が変形し、圧力室61の容積が膨張または縮小する。
【0051】
図7に示すように、基材本体46の第1の面51に、複数の配線64が設けられている。複数の配線64は、例えば第1の面51に形成されたニッケル薄膜を、レーザーパターニングすることによって形成されている。
【0052】
幾つかの配線64は、基材本体46の一方の側縁46aと一方の圧電部材47との間に亘って設けられ、一方の圧電部材47の複数の電極62に接続されている。余の配線64は、基材本体46の他方の側縁46bと他方の圧電部材47との間に亘って設けられ、一方の圧電部材47の複数の電極62に接続されている。
【0053】
複数の配線64には、一対の圧電部材47を駆動するためのICが接続される。このICは、インクジェットプリンタの制御部から入力される信号に基づいて、配線64を介して電極62に電圧を印加し、圧電部材47を変形させる。
【0054】
図9に示すように、圧力室61の電極62と、ノズルプレート45の内面45aと、複数のノズル58の内面58aの一部とを覆う保護膜71が形成されている。保護膜71は、第1の実施形態の保護膜31と同様に、例えばパラキシリレン系ポリマーによって形成される。
【0055】
保護膜71の厚さは、例えば1〜10μmである。保護膜71の濡れ性は、ノズルプレート45の外面45bを形成する撥インク膜59の濡れ性よりも高い。保護膜71は、圧力室61の内面にそれぞれ形成された電極62を覆うことで、圧力室61に供給されたインクから電極62を保護する。
【0056】
以下に、前記構成のインクジェットヘッド40の製造方法について説明する。まず、焼成前のセラミックスシート(セラミックスグリーンシート)で構成される基材本体46に、プレス成形によって供給口53と、第1の排出口54と、第2の排出口55とを形成する。続いて、基材本体46を焼成する。
【0057】
次に、基材本体46に一対の圧電部材47を接着する。一対の圧電部材47は、治具を介して基材本体46に位置決めされ、基材本体46に取り付けられる。続いて、一対の圧電部材47のそれぞれの角部に、いわゆるテーパ加工を行う。これによって、一対の圧電部材47のそれぞれの断面が台形状になる。
【0058】
次に、一対の圧電部材47に、複数の圧力室61を形成する。複数の圧力室61は、例えば、ICウェハーの切断に用いられているダイシングソーのダイヤモンドホイールによって形成される。
【0059】
次に、複数の圧力室61のそれぞれの内面に、電極62を形成する。さらに、基材本体46の第1の面51に複数の配線64を形成する。電極62および配線64は、無電解メッキ法を用い、例えばニッケル薄膜によって形成される。次に、レーザ照射によりパターニングを行い、電極62および配線64以外の部位からニッケル薄膜を除去する。
【0060】
図10は、製造工程の途中のインクジェットヘッド40を示す断面図である。電極62および配線64を形成した後、基材本体46に枠部材44を接着する。基材本体46に取り付けられた枠部材44に、ノズルプレート45を接着する。
【0061】
ノズルプレート45は、例えばバーコーターを用いて部材本体60に撥インク膜59を塗布することによって形成されている。図10に示すように、ノズルプレート45の外面45bに、あらかじめ保護フィルム73が貼り付けられている。
【0062】
保護フィルム73は、例えばポリエステルによって形成される。保護フィルム73の厚さは、例えば10〜30μmである。保護フィルム73は、ノズルプレート45の外面45bの全体を覆っている。
【0063】
次に、このノズルプレート45にレーザ光を照射して複数のノズル58を形成する。複数のノズル58は、保護フィルム73とノズルプレート45とを貫通し、インク室49内の圧力室61に向かって開口する。なお、これに限らず、例えばあらかじめノズル58が形成されたノズルプレート45を基材43に接着しても良い。
【0064】
次に、CVDによって保護膜71を形成する。図10に示すように、保護膜71は、各圧力室61内の電極62と、インク室49を形成するノズルプレート45の内面45aおよび基材本体46の第1の面51と、各ノズル58の内面58aと、保護フィルム73の外面73aとを覆って成膜される。
【0065】
図11は、保護膜71の一部が除去された製造工程の途中のインクジェットヘッド40を示す断面図である。保護膜71が形成された後、第1の実施形態と同様に、保護膜71にプラズマ処理を施す。
【0066】
プラズマ処理によって、保護フィルム73の外面73aと、ノズル58の内面58aの一部とに形成された保護膜71が除去される。この際、保護フィルム73の外面73aも多少削れるが、保護フィルム73によってノズルプレート45は保護される。
【0067】
次に、保護フィルム73をノズルプレート45から剥がして除去する。これにより、図9に示すように、ノズルプレート45の外面45bが外部に露出する。次に、前記ICを基材本体46の第1の面51に固定して配線64に接続する。以上により、インクジェットヘッド40の製造工程が終了する。
【0068】
以上のように、第1の実施の形態のインクジェットヘッド10とは異なる方式のインクジェットヘッド40を製造する場合であっても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
10,40…インクジェットヘッド,13,43…基材,15,45…ノズルプレート,15a,45a…ノズルプレートの内面,15b,45b…ノズルプレートの外面,21,61…圧力室,22,62…電極,27,59…撥インク膜,29,58…ノズル,29a,58a…ノズルの内面,31,71…保護膜,32,73…保護フィルム,32a,73a…保護フィルムの外面。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタのインクジェットヘッドは、例えば2つの圧電材料を貼り合わせて形成された基材と、この基材に取り付けられたノズルプレートとを備える。基材には溝状の複数の圧力室が設けられ、この圧力室には圧電材料に電圧を印加するための電極が形成される。圧力室の容積は、電極を介して基材にかけられる電圧に応じて膨張または縮小する。圧力室に供給されたインクは、圧力室の容積変化によって加圧されることで、ノズルプレートに設けられたノズルから吐出される。
【0003】
インクに電流が流れると、インクが変質することにより印刷の品質低下に繋がる。このため、圧力室内に保護膜が形成され、電極から圧力室内のインクに電流が流れることが防止される。この保護膜は、例えばレーザ加工によってノズルプレートにノズルを形成した後、蒸着重合法によって圧力室内に形成される。さらに、この保護膜は、ノズルの内面やノズルプレートの外面にも形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−266691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のインクジェットヘッドにおいて、保護膜が形成されている箇所は互いに同じ濡れ性を有する。このため、保護膜が形成された圧力室内、ノズルの内面、およびノズルプレートの外面が全て同じ濡れ性を有し、圧力室内のインクがノズルから外部に漏れるおそれがある。インクがノズルから漏れると、印刷時のインク吐出が不安定になってしまう。
【0006】
本発明の目的は、インク漏れを防止できるインクジェットヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの実施の形態に係るインクジェットヘッドの製造方法は、
圧力室が設けられた基材と、前記圧力室の内面を覆って形成された電極と、前記圧力室を塞ぐように前記基材に取り付けられるとともに、前記圧力室に向かって開口するノズルが設けられたノズルプレートと、を備えたインクジェットヘッドの製造方法である。まず、前記ノズルが形成される前の前記ノズルプレートの外面に保護フィルムを貼り付ける。前記保護フィルムと前記ノズルプレートとを貫通する前記ノズルを形成する。前記圧力室内の前記電極と、前記圧力室に面する前記ノズルプレートの内面と、前記ノズルの内面と、前記保護フィルムの外面とを覆う保護膜を形成する。前記保護フィルムの外面に形成された前記保護膜を除去する。前記保護フィルムを除去することで、前記保護膜よりも濡れ性が低い前記ノズルプレートの外面を露出させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施の形態に係るインクジェットヘッドを一部切り欠いて示す斜視図。
【図2】第1の実施の形態のインクジェットヘッドのノズル周辺を図1のF2−F2線に沿って示す断面図。
【図3】第1の実施形態において、蓋部材およびノズルプレートが取り付けられる前の基材を示す斜視図。
【図4】第1の実施形態における製造工程の途中のインクジェットヘッドを示す斜視図。
【図5】第1の実施形態における製造工程の途中のインクジェットヘッドを図4のF5−F5線に沿って示す断面図。
【図6】第1の実施形態において、保護膜の一部が除去された製造工程の途中のインクジェットヘッドを示す断面図。
【図7】第2の実施の形態に係る分解されたインクジェットヘッドおよびマニホールドを示す斜視図。
【図8】第2の実施形態のインクジェットヘッドおよびマニホールドを図7のF8−F8線に沿って示す断面図。
【図9】第2の実施形態のインクジェットヘッドのノズル周辺を拡大して示す断面図。
【図10】第2の実施形態における製造工程の途中のインクジェットヘッドを示す断面図。
【図11】第2の実施形態における保護膜の一部が除去された製造工程の途中のインクジェットヘッドを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図1ないし図6を参照して、インクジェットヘッドの製造方法の第1の実施の形態について説明する。図1は、インクジェットヘッド10を一部切り欠いて示す斜視図である。図2は、図1のF2−F2線に沿ってインクジェットヘッド10のノズル29周辺を示す断面図である。
【0010】
図1に示すように、インクジェットヘッド10は、いわゆるエンドシュータ方式のインクジェットヘッドであって、基材13と、蓋部材14と、ノズルプレート15とを備えている。蓋部材14は、基材13の上面13aに取り付けられている。ノズルプレート15は、基材13の前面13bに取り付けられている。
【0011】
基材13は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)製の2枚の圧電板17,18を互いの分極方向を反対向きとするように貼り合わせて形成されている。基材13に、複数の圧力室21が設けられている。
【0012】
複数の圧力室21は、それぞれ溝状に形成され、基材13の長手方向に互いに平行に並んで設けられている。圧力室21は、それぞれ基材13の上面13aと前面13bとに開口している。圧力室21は、蓋部材14と、ノズルプレート15とによって塞がれている。
【0013】
図2に示すように、複数の圧力室21に電極22がそれぞれ形成されている。電極22は、例えばニッケル薄膜によって形成されているが、これに限らず、例えば金や銅で形成されていても良い。
【0014】
電極22は、圧力室21の内面を覆って形成されている。なお、電極22は、少なくとも圧力室21の一対の側面21aを覆っていて、かつ両側面の電極は接続している。一対の側面21aは、圧力室21の内面に含まれる。電極22に電圧が印加されると、圧電材料によって形成された基材13が変形し、圧力室21の容積が膨張または縮小する。
【0015】
図1に示すように、基材13の上面13aに複数の配線24が設けられている。複数の配線24は、例えば上面13aに形成されたニッケル薄膜を、レーザーパターニングすることによって形成されている。複数の配線24は、上面13aの後端と複数の電極22との間に亘ってそれぞれ設けられる。配線24の一端は、電極22に接続されている。
【0016】
一方、配線24の他端は、例えばインクジェットプリンタのプリント回路板に接続される。このプリント回路板は、インクジェットプリンタの制御部から入力される信号に基づいて、配線24を介して電極22に電圧を印加し、基材13を変形させる。
【0017】
蓋部材14は、例えば接着によって基材13の上面13aに取り付けられている。蓋部材14に、インク供給経路26が設けられている。インク供給経路26は、複数の圧力室21にそれぞれ開口するとともに、インクタンクに連結される。インクタンクのインクは、インク供給経路26を介して各圧力室21に供給される。
【0018】
ノズルプレート15は、ポリイミド製の矩形のフィルムによって形成されている。なお、ノズルプレート15の材料はこれに限らず、レーザ加工が可能な材料であれば良い。ノズルプレート15の厚みは、例えば10〜100μmである。ノズルプレート15は、例えば接着によって、基材13の前面13bに取り付けられている。図2に示すように、ノズルプレート15の内面15aは、圧力室21に面している。
【0019】
ノズルプレート15は、撥インク膜27を含んでいる。撥インク膜27は、ノズルプレート15の部材本体28に塗布され、ノズルプレート15の外面15bを形成する。撥インク膜27は、例えばフッ素系コート剤によって形成されている。撥インク膜の厚さは、例えば約0.1μmである。
【0020】
ノズルプレート15に、孔である複数のノズル29が設けられている。複数のノズル29は、複数の圧力室21に対応し、ノズルプレート15の長手方向に並んで配置されている。複数のノズル29は、複数の圧力室21に開口している。
【0021】
図2に示すように、圧力室21の電極22と、ノズルプレート15の内面15aと、複数のノズル29の内面29aの一部とを覆う保護膜31が形成されている。保護膜31は、例えばパラキシレン系ポリマーによって形成される。具体的に例示すると、いわゆるパリレンC(ポリクロロパラキシリレン)、パリレンN(ポリパラキシリレン)、およびパリレンD(ポリジクロロパラキシリレン)のようなパラキシリレン系ポリマーが適用される。なお、保護膜31はこれに限らず、例えばポリイミドやポリアミドのような他の物質によって形成されても良い。
【0022】
保護膜31の厚さは、例えば1〜10μmである。保護膜31の濡れ性は、ノズルプレート15の外面15bを形成する撥インク膜27の濡れ性よりも高い。保護膜31は、圧力室21の一対の側面21aにそれぞれ形成された電極22を覆うことで、圧力室21に供給されたインクから電極22を保護する。
【0023】
以下に、前記構成のインクジェットヘッド10の製造方法の一例について説明する。図3は、蓋部材14およびノズルプレート15が取り付けられる前の基材13を示す斜視図である。まず、例えば熱硬化性の接着剤を、例えばスクリーン印刷によって一方の圧電板17に塗布する。なお、これに限らず、例えばスピンコータ、スプレー塗布、および刷毛塗りのような、他の方法で接着剤を塗布しても良い。接着剤を塗布した圧電板17に他方の圧電板18を積層する。例えばオートクレーブ装置によって接着剤を熱硬化させることにより、基材13を形成する。なお、接着剤は後の工程で熱硬化させても良い。
【0024】
次に、基材13に、複数の圧力室21を形成する。複数の圧力室21は、例えば、ICウェハーの切断に用いられているダイシングソーのダイヤモンドホイールによって、基材13を切削することで形成される。
【0025】
次に、各圧力室21の内面に、電極22を形成する。さらに、基材13の上面13aに配線24を形成する。電極22および配線24は、例えば無電解メッキ法を用いて形成される。次に、レーザ照射によりパターニングを行い、電極22および配線24以外の部位からニッケル薄膜を除去する。
【0026】
図4は、製造工程の途中のインクジェットヘッド10を示す斜視図である。図5は、図4のF5−F5線に沿って製造工程の途中のインクジェットヘッド10を示す断面図である。基材13に電極22および配線24を形成した後、熱硬化性の接着剤を用いて、基材13の上面13aに蓋部材14を取り付けるとともに、基材13の前面13bにノズル29が形成される前のノズルプレート15を取り付ける。接着剤を熱硬化させることにより、基材13に蓋部材14およびノズルプレート15を固定する。なお、ここで同時に圧電板17,18に塗布された接着剤を熱硬化させても良い。
【0027】
ノズルプレート15は、例えばバーコーターを用いて部材本体28に撥インク膜27を塗布することによって形成されている。図4に示すように、あらかじめノズルプレート15の外面15bに、保護フィルム32が貼り付けられている。
【0028】
保護フィルム32は、例えばポリエステルによって形成される。保護フィルム32の厚さは、例えば10〜30μmである。保護フィルム32は、ノズルプレート15の外面15bの全体を覆っている。
【0029】
次に、このノズルプレート15にエキシマレーザのレーザ光を照射して複数のノズル29を形成する。複数のノズル29は、保護フィルム32とノズルプレート15とを貫通し、圧力室21に開口する。なお、これに限らず、例えばあらかじめノズル29が形成されたノズルプレート15を基材13に接着しても良い。
【0030】
次に、化学気相成長法(CVD)によって保護膜31を形成する。図5に示すように、保護膜31は、各圧力室21内の電極22と、ノズルプレート15の内面15aと、各ノズル29の内面29aと、保護フィルム32の外面32aとを覆って成膜される。
【0031】
図6は、保護膜31の一部が除去された製造工程の途中のインクジェットヘッド10を示す断面図である。保護膜31が形成された後、保護フィルム32の外面32aに形成された保護膜31をプラズマ処理することによって除去する。
【0032】
プラズマ処理には、例えばヤマト科学製プラズマ照射装置PDC−510をRIEモードで用いる。処理時の条件の一例として、プラズマ出力が100〜200W、ガスは酸素、酸素流量は30ccである。以上の条件で、保護フィルム32の外面32aに向かって30〜120分の間プラズマ処理を行なう。これにより、保護フィルム32の外面32aと、ノズル29の内面29aの一部とに形成された保護膜31が除去される。この際、保護フィルム32の外面32aも多少削れるが、保護フィルム32によってノズルプレート15は保護される。なお、プラズマ処理が不要な部分は、プラズマ処理を行なう前に治具やマスキングテープで覆う。
【0033】
次に、保護フィルム32をノズルプレート15から剥がして除去する。これにより、図2に示すように、ノズルプレート15の外面15bが外部に露出する。以上により、インクジェットヘッド10の製造工程が終了する。
【0034】
前記構成のインクジェットヘッド10の製造方法によれば、圧力室21内の電極22が保護膜31に覆われるとともに、ノズルプレート15の外面15bが保護膜31よりも濡れ性が低い撥インク膜27によって形成されている。このため、圧力室21内の濡れ性とノズルプレート15の外面15bの濡れ性との間に差が生じる。したがって、印字休止時に圧力室21に供給されたインクがノズル29から漏れることを防止でき、印刷時のインク吐出が安定する。
【0035】
次に、図7ないし図11を参照して、インクジェットヘッドの製造方法の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施形態のインクジェットヘッド10と同一の機能を有する構成部分には同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0036】
図7は、分解されたインクジェットヘッド40およびマニホールド41を示す斜視図である。図8は、図7のF8−F8線に沿ってインクジェットヘッド40およびマニホールド41を示す断面図である。
【0037】
図7に示すように、インクジェットヘッド40は、いわゆるサイドシュータ方式のインクジェットヘッドであって、基材43と、枠部材44と、ノズルプレート45とを備えている。基材43は、基材本体46と、一対の圧電部材47とを有している。図8に示すように、基材43と、枠部材44と、ノズルプレート45との内側に、インク室49が形成されている。一対の圧電部材47は、インク室49の内部に位置している。
【0038】
基材本体46は、例えばアルミナのようなセラミックスによって、矩形の板状に形成されている。基材本体46は、平坦な第1の面51と、第1の面51の反対側に位置する第2の面52とを有している。第2の面52は、マニホールド41に取り付けられる。基材本体46に、複数の供給口53と、複数の第1の排出口54と、複数の第2の排出口55とが設けられている。
【0039】
図7に示すように、複数の供給口53は、基材本体46の中央部に設けられている。複数の供給口53は、基材本体46の長手方向に並んでいる。複数の供給口53は、インク室49に開口している。
【0040】
供給口53は、インクジェットヘッド40がマニホールド41に取り付けられると、マニホールド41を介してインクタンクに連結される。インクタンクのインクは、供給口53からインク室49に供給される。
【0041】
複数の第1の排出口54は、基材本体46の一方の側縁46aに沿って並んで設けられている。複数の第2の排出口55は、基材本体46の他方の側縁46bに沿って並んで設けられている。第1の排出口54と第2の排出口55との間に、供給口53が挟まれている。第1の排出口54と第2の排出口55とは、インク室49に開口している。
【0042】
第1の排出口54および第2の排出口55は、インクジェットヘッド40がマニホールド41に取り付けられると、マニホールド41を介してインクタンクにそれぞれ連結される。インク室49内のインクは、第1の排出口54および第2の排出口55からインクタンクに戻される。
【0043】
枠部材44は、例えば接着によって、基材本体46の第1の面51に隙間無く取り付けられている。枠部材44は、一対の圧電部材47、供給口53、第1の排出口54、および第2の排出口55を囲んでいる。
【0044】
ノズルプレート45は、ポリイミド製の矩形のフィルムによって形成されている。ノズルプレート45は、例えば接着によって、枠部材44に隙間無く取り付けられている。ノズルプレート45は、基材本体46の第1の面51に対向している。
【0045】
ノズルプレート45に、孔である複数のノズル58が設けられている。複数のノズル58は、一対の圧電部材47に対応し、基材本体46の長手方向に沿って二列に並んで配置されている。
【0046】
図9は、インクジェットヘッド40のノズル58周辺を拡大して示す断面図である。図9に示すように、ノズルプレート45は、撥インク膜59を含んでいる。撥インク膜59は、ノズルプレート45の部材本体60に塗布され、ノズルプレート45の外面45bを形成する。撥インク膜59は、第1の実施形態の撥インク膜27と同じく、例えばフッ素系コート剤によって形成されている。撥インク膜の厚さは、例えば約0.1μmである。
【0047】
図7に示すように、一対の圧電部材47は、基材本体46の第1の面51にそれぞれ取り付けられ、基材本体46の長手方向に互いに平行に延びている。一方の圧電部材47は、供給口53と第1の排出口54との間に配置されている。他方の圧電部材47は、供給口53と第2の排出口55との間に配置されている。
【0048】
一対の圧電部材47は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)製の2枚の圧電板を互いの分極方向を反対向きとするように貼り合わせてそれぞれ形成されている。一対の圧電部材47は、台形状の断面を有する棒状にそれぞれ形成されている。
【0049】
一対の圧電部材47に、複数の圧力室61がそれぞれ形成されている。複数の圧力室61は、圧電部材47が延びる方向とそれぞれ交差する溝である。複数の圧力室61は、それぞれ複数のノズル58と対応して、並んで設けられている。
【0050】
図8に示すように、複数の圧力室61に、電極62がそれぞれ形成されている。電極62は、圧力室61の側面および底面に形成されている。電極62に電圧が印加されると、圧電部材47が変形し、圧力室61の容積が膨張または縮小する。
【0051】
図7に示すように、基材本体46の第1の面51に、複数の配線64が設けられている。複数の配線64は、例えば第1の面51に形成されたニッケル薄膜を、レーザーパターニングすることによって形成されている。
【0052】
幾つかの配線64は、基材本体46の一方の側縁46aと一方の圧電部材47との間に亘って設けられ、一方の圧電部材47の複数の電極62に接続されている。余の配線64は、基材本体46の他方の側縁46bと他方の圧電部材47との間に亘って設けられ、一方の圧電部材47の複数の電極62に接続されている。
【0053】
複数の配線64には、一対の圧電部材47を駆動するためのICが接続される。このICは、インクジェットプリンタの制御部から入力される信号に基づいて、配線64を介して電極62に電圧を印加し、圧電部材47を変形させる。
【0054】
図9に示すように、圧力室61の電極62と、ノズルプレート45の内面45aと、複数のノズル58の内面58aの一部とを覆う保護膜71が形成されている。保護膜71は、第1の実施形態の保護膜31と同様に、例えばパラキシリレン系ポリマーによって形成される。
【0055】
保護膜71の厚さは、例えば1〜10μmである。保護膜71の濡れ性は、ノズルプレート45の外面45bを形成する撥インク膜59の濡れ性よりも高い。保護膜71は、圧力室61の内面にそれぞれ形成された電極62を覆うことで、圧力室61に供給されたインクから電極62を保護する。
【0056】
以下に、前記構成のインクジェットヘッド40の製造方法について説明する。まず、焼成前のセラミックスシート(セラミックスグリーンシート)で構成される基材本体46に、プレス成形によって供給口53と、第1の排出口54と、第2の排出口55とを形成する。続いて、基材本体46を焼成する。
【0057】
次に、基材本体46に一対の圧電部材47を接着する。一対の圧電部材47は、治具を介して基材本体46に位置決めされ、基材本体46に取り付けられる。続いて、一対の圧電部材47のそれぞれの角部に、いわゆるテーパ加工を行う。これによって、一対の圧電部材47のそれぞれの断面が台形状になる。
【0058】
次に、一対の圧電部材47に、複数の圧力室61を形成する。複数の圧力室61は、例えば、ICウェハーの切断に用いられているダイシングソーのダイヤモンドホイールによって形成される。
【0059】
次に、複数の圧力室61のそれぞれの内面に、電極62を形成する。さらに、基材本体46の第1の面51に複数の配線64を形成する。電極62および配線64は、無電解メッキ法を用い、例えばニッケル薄膜によって形成される。次に、レーザ照射によりパターニングを行い、電極62および配線64以外の部位からニッケル薄膜を除去する。
【0060】
図10は、製造工程の途中のインクジェットヘッド40を示す断面図である。電極62および配線64を形成した後、基材本体46に枠部材44を接着する。基材本体46に取り付けられた枠部材44に、ノズルプレート45を接着する。
【0061】
ノズルプレート45は、例えばバーコーターを用いて部材本体60に撥インク膜59を塗布することによって形成されている。図10に示すように、ノズルプレート45の外面45bに、あらかじめ保護フィルム73が貼り付けられている。
【0062】
保護フィルム73は、例えばポリエステルによって形成される。保護フィルム73の厚さは、例えば10〜30μmである。保護フィルム73は、ノズルプレート45の外面45bの全体を覆っている。
【0063】
次に、このノズルプレート45にレーザ光を照射して複数のノズル58を形成する。複数のノズル58は、保護フィルム73とノズルプレート45とを貫通し、インク室49内の圧力室61に向かって開口する。なお、これに限らず、例えばあらかじめノズル58が形成されたノズルプレート45を基材43に接着しても良い。
【0064】
次に、CVDによって保護膜71を形成する。図10に示すように、保護膜71は、各圧力室61内の電極62と、インク室49を形成するノズルプレート45の内面45aおよび基材本体46の第1の面51と、各ノズル58の内面58aと、保護フィルム73の外面73aとを覆って成膜される。
【0065】
図11は、保護膜71の一部が除去された製造工程の途中のインクジェットヘッド40を示す断面図である。保護膜71が形成された後、第1の実施形態と同様に、保護膜71にプラズマ処理を施す。
【0066】
プラズマ処理によって、保護フィルム73の外面73aと、ノズル58の内面58aの一部とに形成された保護膜71が除去される。この際、保護フィルム73の外面73aも多少削れるが、保護フィルム73によってノズルプレート45は保護される。
【0067】
次に、保護フィルム73をノズルプレート45から剥がして除去する。これにより、図9に示すように、ノズルプレート45の外面45bが外部に露出する。次に、前記ICを基材本体46の第1の面51に固定して配線64に接続する。以上により、インクジェットヘッド40の製造工程が終了する。
【0068】
以上のように、第1の実施の形態のインクジェットヘッド10とは異なる方式のインクジェットヘッド40を製造する場合であっても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
10,40…インクジェットヘッド,13,43…基材,15,45…ノズルプレート,15a,45a…ノズルプレートの内面,15b,45b…ノズルプレートの外面,21,61…圧力室,22,62…電極,27,59…撥インク膜,29,58…ノズル,29a,58a…ノズルの内面,31,71…保護膜,32,73…保護フィルム,32a,73a…保護フィルムの外面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室が設けられた基材と、前記圧力室の内面を覆って形成された電極と、前記圧力室を塞ぐように前記基材に取り付けられるとともに、前記圧力室に向かって開口するノズルが設けられたノズルプレートと、を備えたインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記ノズルが形成される前の前記ノズルプレートの外面に保護フィルムを貼り付け、
前記保護フィルムと前記ノズルプレートとを貫通する前記ノズルを形成し、
前記圧力室内の前記電極と、前記圧力室に面する前記ノズルプレートの内面と、前記ノズルの内面と、前記保護フィルムの外面とを覆う保護膜を形成し、
前記保護フィルムの外面に形成された前記保護膜を除去し、
前記保護フィルムを除去することで、前記保護膜よりも濡れ性が低い前記ノズルプレートの外面を露出させることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記ノズルプレートは、前記ノズルプレートの外面を形成する撥インク膜を含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記保護フィルムの外面に形成された前記保護膜を除去する際に、前記ノズルの内面の少なくとも一部に形成された保護膜をさらに除去することを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記保護膜は、プラズマ処理によって除去されることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項1】
圧力室が設けられた基材と、前記圧力室の内面を覆って形成された電極と、前記圧力室を塞ぐように前記基材に取り付けられるとともに、前記圧力室に向かって開口するノズルが設けられたノズルプレートと、を備えたインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記ノズルが形成される前の前記ノズルプレートの外面に保護フィルムを貼り付け、
前記保護フィルムと前記ノズルプレートとを貫通する前記ノズルを形成し、
前記圧力室内の前記電極と、前記圧力室に面する前記ノズルプレートの内面と、前記ノズルの内面と、前記保護フィルムの外面とを覆う保護膜を形成し、
前記保護フィルムの外面に形成された前記保護膜を除去し、
前記保護フィルムを除去することで、前記保護膜よりも濡れ性が低い前記ノズルプレートの外面を露出させることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記ノズルプレートは、前記ノズルプレートの外面を形成する撥インク膜を含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記保護フィルムの外面に形成された前記保護膜を除去する際に、前記ノズルの内面の少なくとも一部に形成された保護膜をさらに除去することを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記保護膜は、プラズマ処理によって除去されることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−86442(P2012−86442A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234623(P2010−234623)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
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