説明

インクジェットヘッド

【課題】 既存の方式のインクジェットヘッドが有していた課題を解決するとともに、高速かつ高精細で経時安定した品質の画像プリントを可能にする。
【解決手段】 平行に形成された複数の液室と該液室からインクを吐出するためのノズルを有し、該液室の容積を変化させることでインクを吐出するインクジェットヘッドにおいて、該平行に形成された複数の液室に対して垂直方向の磁界を発生させる手段、および可撓性と該液室に平行な導電性を有する液室間を隔てる隔壁とを配置することを特徴とするインクジェットヘッド。ローレンツ力により隔壁を変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
インク滴を吐出するノズル・ノズルに連通する液室・液室の一部に形成された振動板を含み、振動板の変位により液室に圧力を発生させインクを滴を吐出させるオンデマンド方式インクジェットヘッドに本発明は関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オンデマンド方式のインクジェットヘッドには種々のインク吐出方式のものが提案されている。
【0003】
その1つには、熱エネルギを利用した所謂サーマルインクジェット方式があり、インク吐出口内方に設けられた電気熱変換体(吐出ヒータ)を通電加熱し、発生した熱で液体(インク)を発泡させ、発泡の圧力によりインクを例えば小液滴として吐出口から吐出させ、これをプリント媒体上に付着させてプリントを行う方式である。この技術は、例えば特開昭54−59936号公報や、キヤノン(株)製バブルジェット(登録商標)プリンタBJ−10vに添付された操作説明書等に原理図および記録装置の構造などが詳説されている。
【0004】
別のインク吐出方式によるインクジェットヘッドとしては、ピエゾ素子などの圧電体を利用したものがある。これは、ピエゾ素子に通電し、素子の変形により発生した圧力をインクに与えることでインクを小液滴として吐出させるものである。本方式の記録ヘッドは、特開昭47−2006号公報(発明者エドモンド・エル・カイザー)に開示されており、今日のインクジェットヘッドの原点とも言うべき技術である。近年の例としては、特開平5−24189号公報に開示されており、同号公報開示のヘッドはセイコーエプソン社製インクジェットプリンタHG5130,Sty1us800などに搭載されている。
【0005】
さらに他のインク吐出方式によるインクジェットヘッドとしては、静電駆動方式によるものがあり、特開平6−8449号公報などに開示されている。その動作原理は、狭い空間に電位を与え、クーロン力で電極を変位させ、その圧力でインクを押し出すというものである。
【特許文献1】特開昭54−59936号公報
【特許文献2】特開昭47−2006号公報
【特許文献3】特開平5−24189号公報
【特許文献4】特開平6−8449号公報
【特許文献5】特開平2−273241号公報
【非特許文献1】キヤノン(株)製バブルジェット(登録商標)プリンタBJ−10vに添付された操作説明書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら各種方式のうち、サーマルインクジェット方式は、水を主成分として、染料などの色剤と有機溶剤とからなるインクを使用している。このインクを吐出ヒータ上で好ましく発泡させるには約300℃の温度が必要である一方、300℃程度以上の高温では染料が分解して吐出ヒータ表面に分解物が堆積していわゆるコゲーションを生成することがある。コゲーションは発泡の均一性を損ない、吐出されるインクの体積や吐出速度の変動をもたらし、画像品質をさらに向上する上での課題となりつつある。また、泡が消える瞬間に起こるキャビテーション衝撃により吐出ヒータ表面が機械的損傷を受け、インクジェットヘッドの寿命に影響を与えるため、更なる長寿命化技術が望まれている。
【0007】
また、ピエゾ素子方式においては、液滴吐出に必要十分な圧力を発生させるためにはピエゾ素子を大きくしなければならず、多数のノズルを高密度に実装することが困難である。また、インクジェットヘッドの製造工程では、主にセラミックであるピエゾ素子を製作するのに機械加工を伴うが、インクジェットヘッド内の各ノズルのインク吐出量が揃うように精密な機械加工を施すことが比較的困難である。さらに、発生圧力が弱いため、インク中に泡が生成ないし混入すると、この泡に圧力を吸収されてしまい、吐出が不安定になる場合がある。
【0008】
さらに、静電駆動方式のインクジェットヘッドは、ピエゾ方式より簡単な構成を有するものの、クーロン力が極めて微弱であるため、必要なサイズのインク滴を吐出できるようにするためにはアクチュエータ部の寸法を大きくせざるを得ず、従って多数のノズルを高密度に実装することが困難である。また、アクチュエータ部のサイズの大きさがインク流路の設計を制約し、高速記録のための構成に課題を残している。
【0009】
ここで、かかる電磁力を利用したインク吐出方式の従来例として、本発明者は特開平2−273241号公報に開示されたものがあることを見出した。しかし、近年では数百〜千数百dpi(ドット/インチ。参考値)にも及ぶ記録密度で、数ピコリットルのインク滴を用いての高精細なプリントが望まれており、このような要望に対応するためには多数の吐出口を高密度に実装することが不可欠であるが、同号公報には電磁力を利用したインク吐出方式の基本的な概念の開示はあるものの、上記要望に応え得るようなインクジェットヘッドないしはその製造方法についての具体的な示唆は見られない。
【0010】
本発明の主な目的は、電磁力を利用する吐出方式を採用するとともに、その主要部である電磁力作用部としてのアクチュエータに新規な構成を採用することによって、従来の技術の項で述べたような既存の方式のインクジェットヘッドが有していた課題を解決するとともに、高速かつ高精細で経時安定した品質の画像プリントを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのために本発明では、平行に形成された複数の液室と該液室からインクを吐出するためのノズルを有し、該液室の容積を変化させることでインクを吐出するインクジェットヘッドにおいて、該平行に形成された複数の液室に対して垂直方向の磁界を発生させる手段、および可撓性と該液室に平行な導電性を有する液室間を隔てる隔壁とを配置することを特徴とする。効果としては、吐出安定性および吐出パワーを高めることが出来る。また、電磁力を利用する吐出方式の主要部である電磁力作用部としてのアクチュエータやインクジェットヘッドをマイクロマシニング技術を用いて製造することにより多数の吐出口の高密度実装が可能となる。さらにドット単位での階調表現を得ることができる。
【0012】
また前記隔壁が多層構造からなり、該多層構造の少なくとも一層に導電性層が形成されていることを特徴とする。効果としては、ローレンツ力を集中させることが可能となる。
【0013】
前記導電性層が隔壁の高さ方向の中央に対して対称に配置されていることを特徴とする。効果としては、ローレンツ力を隔壁の変位がもっとも大きい部位に働かせることが出来る。
【0014】
前記液室を構成する相対する隔壁に互いに逆向きの電流を流して隔壁を変形させインクの吐出を行い、同時に隣り合ったノズルからは吐出させないことを特徴とする。効果としては、液室容積変化を効率よく行うことが可能となる。
【0015】
前記磁界発生手段が永久磁石であることを特徴とする。効果としては、安価に磁界を発生することが可能である。
【0016】
前記磁界発生手段が電磁コイルであることを特徴とする。効果としては強力な磁界を発生することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば従来のインクジェットヘッドで課題とされていた吐出安定性および吐出パワーを高めることが出来る。また、電磁力を利用する吐出方式の主要部である電磁力作用部としてのアクチュエータやインクジェットヘッドをマイクロマシニング技術を用いて製造することにより多数の吐出口の高密度実装が可能となる。さらにドット単位での階調表現を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
前記従来技術で述べた各種吐出方式にはそれぞれ、長所がある一方で上述のような解決すべき課題もあることに鑑み、本発明者等はそれらとは異なる吐出方式の採用を検討した。その過程で、以下のような方式を見出した。図1のように液室1を隔てる隔壁2に導電性部位3を形成する。液室1に対して垂直方向に磁界を発生させ、さらに導電性部位に電流を流す。発生するローレンツ力による隔壁の変形を利用してノズル5よりインクを吐出する方式である。
【0019】
以下、図2を参照して本発明におけるインクジェットの製造方法を詳細に説明する。尚、以下の工程(a)〜(f)は図2の(a)〜(f)に対応する。図中、2は隔壁、4はノズルプレート、5はノズル、6は基板、7はインク流路、8は絶縁層、9は導電性層、10永久磁石である。例はルーフシューター型である。これは本発明におけるインクジェットヘッドは配線の構成上、ルーフシュータ型に作成するのが容易であるからである。しかしエッジシュータでも配線の構成を工夫すれば実現できる。例えば、基板にスルーホールを形成し裏面から配線に電気信号を与えるという工夫である。ゆえに本発明はルーフシュータ型に限定するものではない。
【0020】
工程(a)
基板を用意する。基板には、シリコン基板・ガラス基板・プラスチック基板などが用いられる。後工程で使用される熱や溶剤への耐性、基板上に作成する膜との密着性、機械的強度など所望の特性であれば他の材料でも構わない。
【0021】
基板にインクタンクから液室へインクを送るためのインク流路を形成する。ドライエッチング・ウェットエッチング・レーザー加工・ブラストなど様々だが、シリコン基板を使用している時には微細加工が容易な異方性エッチングを好適に使用する。
【0022】
工程(b)
変形可能な隔壁を形成する。材料としては、ポリアミド・ポリアセタール・ポリカーボネート・変性PPE・ポリスチレンなどの樹脂や、Ni・Cu・Ag・Alなどの金属や、SiN・SiC、SiOなどのセラミックスなどがあげられる。前記のような樹脂はセラミックや金属と比べて機械的強度が低く。セラミックは振動板などにも使われる機械的強度の強い材料であるが、成膜温度が高くなることや厚膜を形成するのに時間がかかることが問題である。Ni・Cu・Ag・Alなどの金属は、メッキによって厚膜を用意に形成することができ、また機械的強度も強いので本発明において好適に用いられる。特に機械的強度を持つこと、低コストであること、磁性体であることからNiおよびNi合金が好適に用いられる。隔壁に磁性体を使用することで磁界を隔壁部分に集中することが可能となる。
【0023】
形成方法としてはメッキが挙げられる。メッキには電解メッキ・無電解メッキがある。電解メッキは、導電性基板もしくはシード層を形成した基板を金属イオンのメッキ浴の中に浸し通電することによって金属の薄膜を基板上に析出させ、その後フォトリソ技術によりパターニングする方法である。メッキを皮膜する表面が導電性を持たなくてはいけないことや材料利用率が低いということが問題である。
【0024】
一方無電解メッキは、通電を必要としないメッキであり導電性のない基板にも形成できる。また材料利用率は高い。無電解メッキの原理は、メッキすべき金属イオンと還元剤(Red)とが共存するメッキ浴にメッキする材料を浸漬させると、次の式(1)および(2)に示すように、溶液中の還元剤が触媒活性な金属表面で酸化される時に放出される電子によって、金属イオン(Mn+)が還元されて析出するというものである。
【0025】
Red+HO → Ox+H++e- (1)
Mn++ne- → M (2)
このようにしていったん金属の析出反応が始まると、析出した金属の自己触媒作用により、それ以降の反応が継続し、被メッキ体である材料の表面に連続的にメッキ被膜が形成される。
【0026】
成膜プロセスとしては、無電解メッキ用触媒層パターンをフォトリソで形成し、無電解メッキ液に基板を浸漬し金属パターンを形成し、最後に焼成する。このプロセスにおいて、無電解メッキ用触媒層に感光性を含む塗布液を使えばパターンの微細化を容易に行うことが可能となる。無電解メッキ用触媒を含有した感光性塗布液は、Pdとシュウ酸とポリビニルアルコールとから構成されたPd高分子キレート化合物を感光成分として含有するものがあげられる。
【0027】
またこのような無電解メッキ用触媒層の膜厚としては、特に制限されないが乾燥後の厚みで 5〜1000nm程度が好適である。
【0028】
以上より本発明では隔壁を形成する方法として無電解メッキを好適に用いる。しかし本発明において、所望の機械的強度・可撓性・密着性を持つ隔壁を形成することができれば、他の材料・他の方法でも構わない。
【0029】
工程(c)
導電性層を形成する。導電性層の材料としては、Cu・Ag・Pt・Au・Alその他の金属を使用することが出来る。Alがコストの面から好適に用いられる。形成方法としては、スパッタリング・CVD法・蒸着法などがあげられるが薄膜を大面積にわたり均一に形成するにはスパッタリングやCVD法が好適に用いられる。
【0030】
前記工程でメッキによる金属隔壁を形成している場合には、まずSiO・SiNなどで絶縁層をまず形成した後に導電性層を形成する。その後絶縁層を形成する。さらにこれを複数回行ってもよい。導電性層を複数にすることで発生するローレンツ力を大きくすることが可能である。
【0031】
導電性層を形成する位置としては隔壁全体の中央に位置することが好ましい。隔壁の変位が最大になる部分に力を集中するためである。導電性層が複数層ある時には、隔壁全体の中央に対して対称に配置して隔壁の変位が最大になる部分に力を集中させる。また出来るだけ近づけて形成するのが好ましい。
【0032】
工程(d)
工程(b)と同様に隔壁を形成する。
【0033】
工程(e)
ノズルプレートを形成する。ドライフィルムにレーザーやフォトリソでノズルを加工したものや、電鋳法によって作成した金属ノズルプレートを使用する。その後ノズルプレートに撥水処理を行う。
【0034】
ノズルプレートに磁性体薄膜を形成してもよい。磁性体薄膜の材料としてはFeを含む合金材料があげられる。Feを含む合金材料は高透磁率および大きな磁気機械結合係数を備えているからである。例えば、Fe−Ni・Fe−Co−Ni・Tb−Fe・Fe−Co−Si−B・Fe−Pt・Nd−Fe−B・などの各合金で構成されるものがあげられる。加熱した基板上に磁性体薄膜を成膜しながら結晶化することにより膜面に対して垂直な方向に結晶成長させる方法と、磁性体薄膜を成膜後熱処理して結晶化させる方法がある。前者の場合は垂直方向に磁化し、後者の場合は着磁装置により所望の方向に着磁することが可能である。堆積方法としてはスパッタリング・CVD法・蒸着法などがあげられるが、薄膜を大面積にわたり均一に形成するにはスパッタリング・CVD法が好適に用いられる。ノズルプレートに磁性体薄膜を形成することで磁束をヘッドに効率良く与えることができる。
【0035】
得られたノズルプレートを前記工程までで得られた基板に貼り付ける。
【0036】
工程(f)
前記工程で得られた基板を永久磁石基板に貼り付ける。貼り付ける時には図3の様にインク供給口を防がないよう貼り付けるか、永久磁石基板に穴を空けておく。永久磁石としては、フェライト磁石・アルニコ磁石・ネオジム系希土類磁石・サマリウム−コバルト系希土類磁石などがあるが、残留磁束密度・保持力・最大エネルギー積の大きいネオジム系希土類磁石・サマリウム−コバルト系希土類磁石を好適に用いる。
【0037】
またメディア側に永久磁石を配置するのもよい。磁束をヘッドに効率良く与えることができる。
【0038】
ここで永久磁石を電磁コイルで置き換えれば、装置としては複雑になるが強力な磁界を発生することも可能である。
【0039】
以上のようにして得られた基板を所望のパターンで切断すれば、本発明の駆動原理をもつインクジェットヘッドを作成することが可能である。以上は本発明におけるインクジェットヘッドの一例でありこれに限るものではない。また作成方法・工程順もこれに限るものではない。
【0040】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0041】
図4を用いて説明する。尚、以下の工程(a)〜(f)は図4の(a)〜(f)に対応する。図中、2は隔壁、4はノズルプレート、5はノズル、6は基板、7はインク流路、8は絶縁層、9は導電性層、10永久磁石、11はレジストである。
【0042】
工程(a)
(110)面の結晶方位を持ち、厚さ625μm、6インチサイズのシリコン基板裏面に熱酸化SiO膜を2μmの厚さに形成した。裏面の熱酸化SiO膜エッチング保護膜となる。フォトリソ技術によりインク流路が形成されるようにパターニングした。基板に対し異方性エッチングを行いインク流路を形成する。本実施形態では、TMAH22wt%溶液を用いて、エッチング液温度80℃にて所定の時間、異方性エッチングを行った。
【0043】
工程(b)
前工程で得られた基板に無電解メッキ用触媒を含有した感光塗布液をコーティングする。Pdとシュウ酸とポリビニルアルコールとから構成されたPd高分子キレート化合物を感光成分として含有する無電解メッキ用触媒を含有した感光性塗布液を用いた。コーティング方法はスピンコートで行った。膜厚は300Åに設定した。その後乾燥、露光、現像してパターン化し、その後焼成した。
【0044】
形成されたパターンを囲うようにレジストを形成し、その後無電解Niメッキ液に浸漬し隔壁を形成した。レジストは隔壁の横太りを防ぐために形成した。隔壁は幅5μm・厚さ10μmとした。
【0045】
工程(c)
前工程で得られた基板の隔壁上にSiNをスパッタリングで厚み0.5μm成膜し、この上にAlをスパッタリングで厚み1μm成膜した。同様な工程をさらに繰り返し導電性層を2層にした。SiNを全体を覆うように0.5μm形成した。
【0046】
工程(d)
工程(b)と同様にして幅5μm・厚さ10μmの隔壁を形成した。その後レジストは溶剤にて除去した。
【0047】
工程(e)
ノズルプレートをNi電鋳法によって作成した。図5を用いて作成方法を説明する。まず図5(a)のように、厚さ625μm、6インチサイズのシリコン基板12の全面へ蒸着により1μm厚の銅薄膜13を形成した。次に図5(b)のように、絶縁層となるレジスト14を5μm厚にスピンコーターを用いて塗布し、続いてフォトリソ技術により直径130μmの段差形状にレジストを形成する。この部分がノズルとなる。次に図5(c)に示すように、電解メッキにより100ミクロン厚みにメッキ処理を行うことで直径が20ミクロンのノズル穴を持つノズルプレート15を作成する。最後に、ノズルプレートをシリコン基板から離型して研磨すると、ノズルプレートが得られる(図5(d)参照)。
【0048】
ノズルプレートの外表面にNiとPTFEの共析メッキを行い、その後加熱し共析メッキ層の表面に露頭しているPTFEを溶融してノズルプレート表面をPTFEで完全に覆って撥水性を与えた。
【0049】
得られたノズルプレートを工程(d)で得られた基板に接着した。その後基板をチップごとに切断した。
【0050】
工程(f)
ヘッド形状に加工されたサマリウム・コバルト磁石板を工程(e)で得られた基板に貼り付けた。
【0051】
得られたインクジェットヘッドをインクジェットプリント装置に組み込んで動作評価を行った。粘度2.5mPa・sの油性インクを供給し吐出状態を観察した。連続してインクを吐出させたところ吐出液滴のサイズが常に一定であり、吐出速度の変動もみられなかった。またドット単位の階調表現が可能であることを確認した。さらに本実施形態のインクジェットヘッドに24時間連続してインク吐出を行わせたが、吐出が不安定になることはなかった。
【実施例2】
【0052】
工程(e)において、Ni電鋳法によって作成したノズルプレートの液室側に磁性体薄膜を形成する以外は実施例1と同様に作成した。磁性体薄膜の性膜は以下のように行った。Fe板上にNd及びBのチップを配置したものをターゲットとし、到達真空度2×10−6Torr、Arガス圧5×10−3Torr、高周波電力350Wの条件で、基板への加熱を行わずにRFスパッタリングを行い、厚み約4μm、組成がNd−Fe−Bからなる磁性体薄膜を成膜する。最後に、磁性体薄膜上に300Å厚みのTi薄膜をスパッタリングにて成膜した後、真空中で熱処理を施した。Ti薄膜は、磁性体薄膜の酸化を防止し保磁力の低下防止の役割を持つ。
【0053】
得られたインクジェットヘッドをインクジェットプリント装置において動作評価を行ったところ実施例1と同様に良好なものであった。この時、実施例1よりも少ない電力量で同様な効果をえることができた。
【実施例3】
【0054】
永久磁石の代わりに電磁コイルを使用する以外は実施例1と同様に作成した。磁力は3T程度を得ることができた。永久磁石で得られる磁力の最大が1〜2T程度なので十分に大きい磁力を得ることができた。しかし十分な磁界を与えるため電磁コイルが大きくなりヘッドのサイズは大きくなった。得られたインクジェットヘッドをインクジェットプリント装置において動作評価を行ったところ実施例1と同様に良好なものであった。この時、電磁コイルも含めたヘッド全体で消費する電力量は実施例1よりも大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明における吐出原理
【図2】本発明のインクジェットの製造方法例
【図3】本発明のインクジェットにおける永久磁石の配置例
【図4】実施例1におけるインクジェットヘッドの製造方法
【図5】実施例1におけるインクジェットヘッドのノズルプレ−トの製造方法
【符号の説明】
【0056】
1 液室
2 隔壁
3 導電性部位
4 ノズルプレート
5 ノズル
6 基板
7 インク流路
8 絶縁層
9 導電性層
10 永久磁石
11 レジスト
12 基板
13 銅薄膜
14 レジスト
15 ノズルプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に形成された複数の液室と該液室からインクを吐出するためのノズルを有し、該液室の容積を変化させることでインクを吐出するインクジェットヘッドにおいて、該平行に形成された複数の液室に対して垂直方向の磁界を発生させる手段、および可撓性と該液室に平行な導電性を有する液室間を隔てる隔壁とを配置することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記隔壁が多層構造からなり、該多層構造の少なくとも一層に導電性層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記導電性層が隔壁の高さ方向の中央に対して対称に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記液室を構成する相対する隔壁に互いに逆向きの電流を流して隔壁を変形させインクの吐出を行い、同時に隣り合ったノズルからは吐出させないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記磁界発生手段が永久磁石であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記磁界発生手段が電磁コイルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−194939(P2008−194939A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32194(P2007−32194)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】