説明

インクジェットヘッド

【課題】複数のアクチュエータ列の相互間の電気的な干渉によるノイズの発生を防ぐことができ、常に安定した動作が可能な信頼性にすぐれた液体吐出装置を提供する。
【解決手段】圧電部材で形成された基台1におけるアクチュエータ列Aとアクチュエータ列Bとの間に、低誘電率部材10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばインクジェット方式のプリンタなどに用いられる液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式のプリンタなどに用いられる液体吐出装置いわゆるインクジェットヘッドは、複数の圧力室、これら圧力室と対応する位置に設けられる複数の圧電素子、これら圧電素子に駆動電圧を印加するための複数の電極、各圧力室に連通する複数のノズルを有し、各圧電素子の駆動により、各圧力室にインク液滴吐出用の圧力を加える。各圧電素子および各電極は、アクチュエータと称される。
【0003】
このようなインクジェットヘッドでは、印字の解像度を高め、また印字の速度を向上するために、多数のノズルおよびアクチュエータが設けられる。
【0004】
ヘッドがシリアルスキャンするタイプのインクジェットプリンターの場合、ヘッドの走査方法のエ夫で印字の解像度を上げることができるが、そうすると印字速度が低下することから、特にノズルの数が重要となる。なお、ヘッドと用紙を一回だけ相対移動して印字するシングルパス式のインクジェットプリンターの場合は、上記のような動作ができないので、解像度とノズル数の両方が重要である。
【0005】
しかし、アクチュエータの微細化には限界があり、ノズルピッチが200dpiを超えると、それ以上の微細化は困難になる。また、粗いピッチでノズル数を増して行くと、ヘッドの全長が長くなり、扱い難い。そこで、各アクチュエータの列を複数たとえば2列並べて2倍のドット密度と2倍のノズル数を得るようにした複数列構成のインクジェットヘッドが提案されている(例えば特許文献1)。
【0006】
このような複数列構成を有するシェアモードシェアアドゥォールのインクジェットヘッドの一例を図19に示す。すなわち、圧電部材で形成された基台1の一側縁に沿って圧電部材2が設けられ、基台1の他側縁に沿って別の圧電部材2が設けられ、これら圧電部材2および基台1の上面を被う状態にノズルプレート3が設けられている。ノズルプレート3には、一側縁側の圧電部材2と基台1との境界部分に沿ってインク吐出用の複数のノズル4が互いに所定間隔で一列に並んで形成され、他側縁側の圧電部材2と基台1との境界部分に沿って同じくインク吐出用の複数のノズル4が互いに所定間隔で一列に並んで形成されている。
【0007】
そして、図示していないが、一側縁側の圧電部材2と基台1との重合部における各ノズル4と対応する位置にそれぞれ圧力室が形成され、これら圧力室の相互間に存する圧電部材2および基台1は分極方向が互いに対向する状態にあり、それが壁状の一対の圧電素子となる。これら圧電素子に駆動電圧を印加するための電極が各圧力室の内壁に設けられ、これら圧電素子および電極によってヘッド駆動用の複数のアクチュエータが構成され、これらアクチュエータにより各ノズル4の一方の列に沿うアクチュエータ列Aが形成されている。
【0008】
同様に、図示していないが、他側縁側の圧電部材2と基台1との重合部における各ノズル4と対応する位置にもそれぞれ圧力室が形成され、これら圧力室の相互間に存する圧電部材2および基台1は分極方向が互いに対向する状態にあり、それが壁状の一対の圧電素子となる。これら圧電素子に駆動電圧を印加するための電極が各圧力室の内壁に設けられ、これら圧電素子および電極によってヘッド駆動用の複数のアクチュエータが構成され、これらアクチュエータにより各ノズル4の他方の列に沿うアクチュエータ列Bが形成されている。
【0009】
また、各圧電部材2上にカバー5が設けられ、そのカバー5内に各圧力室に連通する液室が形成されている。そして、カバー5の上面に流入口6が設けられ、この流入口6に供給されるインク(液体)が上記液室を通って各圧力室に導かれる。各圧力室の内壁の電極からは導電部材7が導出され、それが基台1上の回路基板8に接続される。
【特許文献1】特開2000−218802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、アクチュエータ列A,Bを有するインクジェットヘッドの場合、アクチュエータ列Aとアクチュエータ列Bとの間の電気的な干渉によってノイズが発生し、誤動作を起こし易いという間題がある。
【0011】
ここで、アクチュエータ列Aおよびアクチュエータ列Bを含むインクジェットヘッドの等価回路を図20に示す。アクチュエータ列Aの各アクチュエータに対しA列駆動回路21から駆動電圧が印加され、アクチュエータ列Bの各アクチュエータに対しB列駆動回路22から駆動電圧が印加される。A列駆動回路21には各アクチュエータに充電用の瞬時電流を供給するための平滑キャパシタCaxが設けられ、B列駆動回路22には各アクチュエータの充電用の瞬時電流を供給するための平滑キャパシタCbxが設けられている。A−B間容量Cabは、アクチュエータ列Aとアクチュエータ列Bとの間に存在する静電容量である。
【0012】
各アクチュエータに供給される充電電流はアクチュエータ列A側の回路およびアクチュエータ列B側の回路でそれぞれ閉じているため、平滑キャパシタCax,Cbxが駆動回路21,22に十分近い場所に設けられていれば、その充電電流によってグラウンドGnd電位が振られることはない。このとき、仮に、駆動回路21,22が全く同じ動作をしていれば、A−B間容量Cabが充放電されることはない。しかしながら、一般に、駆動回路21,22は互いに異なる動作(印字)を行う。
【0013】
例えば、アクチュエータ列A側を駆動することによってアクチュエータ列A側の平均電位が立ち上がり、その間、アクチュエータ列B側が静止していれば、破線矢印で示すように、平滑キャパシタCax、A列駆動回路21、A−B間容量Cab、B列駆動回路22、グラウンドGndライン、平滑キャパシタCaxというループでスパイク電流が発生する。このスパイク電流がグラウンドGndラインを浮かせ、制御信号ラインとグラウンドGndラインとの間にノイズ電圧が発生してしまう。このノイズ電圧は、インクジェットヘッドの誤動作の原因となり、また周囲に放射されるため周囲の機器に影響を与えるという問題がある。
【0014】
この発明は、上記の事情を考慮したもので、その目的は、複数のアクチュエータ列の相互間の電気的な干渉によるノイズの発生を防ぐことができ、常に安定した動作が可能な信頼性にすぐれた液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明の液体吐出装置は、第1圧電部材と、この第1圧電部材の一側部に設けられた第2圧電部材と、前記第1圧電部材の他側部に設けられた第3圧電部材と、前記第1圧電部材と前記第2圧電部材との合わせ部分に互いに所定間隔で形成された複数の第1圧力室と、前記第1圧電部材と前記第3圧電部材との合わせ部分に互いに所定間隔で形成された複数の第2圧力室と、前記各第1圧力室の相互間に存する第1圧電部材および第2圧電部材により形成される複数の第1圧電素子、およびこれら第1圧電素子に対する駆動電圧印加用の複数の第1電極を有し、前記各第1圧力室に液滴吐出用の圧力を加える第1アクチュエータ列と、前記各第2圧力室の相互間に存する第1圧電部材および第3圧電部材により形成される複数の第2圧電素子、およびこれら第2圧電素子に対する駆動電圧印加用の複数の第2電極を有し、前記各第2圧力室に液滴吐出用の圧力を加える第2アクチュエータ列と、前記各圧力室上に設けられたノズルプレートと、このノズルプレートに設けられ、前記各圧力室に連通する複数のノズルと、前記第1圧電部材における前記各アクチュエータ列の相互間に設けられた低誘電率部材と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
この発明の液体吐出装置によれば、複数のアクチュエータ列の相互間の電気的な干渉を低減することができる。これにより、ノイズの発生を防ぐことができて、常に安定した動作が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面において、図19と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
図1に示すように、圧電部材で形成された基台(第1圧電部材)1の一側縁に沿って圧電部材(第2圧電部材)2が設けられ、基台1の他側縁に沿って別の圧電部材(第3圧電部材)2が設けられ、これら圧電部材2および基台1の上面を被う状態にノズルプレート(オリフィスプレートともいう)3が設けられている。ノズルプレート3には、一側縁側の圧電部材2と基台1との境界部分に沿ってインク吐出用(液体吐出用)の複数のノズル4が互いに所定間隔で一列に並んで形成され、他側縁側の圧電部材2と基台1との境界部分に沿って同じくインク吐出用の複数のノズル4が互いに所定間隔で一列に並んで形成されている。
【0018】
そして、図2に示すように、一側縁側の圧電部材2と基台1との重合部における各ノズル4と対応する位置にそれぞれ切り欠き状の開口(第1開口)11が互いに所定間隔で形成され、これら開口11を含んでそこから圧電部材2の上面にかけて傾斜する形状の圧力室(第1圧力室)12がそれぞれ形成されている。これら圧力室12の相互間に存する圧電部材2および基台1は、分極方向が互いに対向する状態に重ね合わせた形の壁状の一対の圧電素子となる。これら圧電素子に駆動電圧を印加するための電極12aが各圧力室12の内壁に設けられている。これら圧電素子および電極12aによってヘッド駆動用の複数のアクチュエータ13が構成され、これらアクチュエータ13により各ノズル4の一方の列に沿うアクチュエータ列Aが形成されている。
【0019】
さらに、他側縁側の圧電部材2と基台1との重合部における各ノズル4と対応する位置にもそれぞれ切り欠き状の開口(第2開口)11が互いに所定間隔で形成され、これら開口11を含んでそこから圧電部材2の下面にかけて傾斜する形状の圧力室(第2圧力室)12がそれぞれ形成されている。これら圧力室12の相互間に存する圧電部材2および基台1は、分極方向が互いに対向する状態に重ね合わせた形の壁状の一対の圧電素子となる。これら圧電素子に駆動電圧を印加するための電極12aが各圧力室12の内壁に設けられている。これら圧電素子および電極12aによってヘッド駆動用の複数のアクチュエータ13が構成され、これらアクチュエータ13により各ノズル4の他方の列に沿うアクチュエータ列Bが形成されている。
【0020】
各圧電部材2上にはカバー5が設けられ、そのカバー5内に各圧力室12に連通する液室が形成されている。そして、カバー5の上面にインク流入口6が設けられ、このインク流入口6に供給されるインク(液体)が上記液室を通って各圧力室12に導かれる。各圧力室12の内壁の電極12aからは導電部材7が導出され、それが基台1上の回路基板8に接続される。
【0021】
このような構成において、基台1におけるアクチュエータ列A,Bの相互間位置に例えばアルミナを用いた低誘電率部材10が設けられる。この低誘電率部材10により、アクチュエータ列A,Bの相互間に存在する静電容量であるA−B間容量Cabが200pF以下、望ましくは100pF以下に低減される。
【0022】
したがって、アクチュエータ列A側の動作とアクチュエータ列B側の動作とが異なる場合に、A−B間容量Cabの充放電に伴って発生するスパイク電流を小さくすることができる。
【0023】
A−B間容量Cabの異なるいくつかのインクジェットヘッドを試作して、発生するノイズの電圧を評価した。評価に使用したインクジェットヘッドは例えばシェアモードシェアドウオールの圧電インクジェットヘッドで、アクチュエータ列A,Bを有し、これらアクチュエータ列A,Bはそれぞれ318個のアクチュエータ、合計636個のアクチュエータを持つ。1つのアクチュエータの静電容量は隣接するチャネルとの間で各々200pFである。このようなインクジェットヘッドにおけるA−B間容量Cabを以下の方法で測定した。
【0024】
ノイズ発生の原因となるA−B間容量Cabは、アクチュエータの1つ1つに対応する静電容量ではなく、アクチュエータ列Aとアクチュエータ列Bとの間の静電容量である。そこで、A−B間容量Cabは、図3のように、A列駆動回路21のグラウンドGndとB列駆動回路22のグラウンドGndとを分離して、各々のグラウンドGnd間の静電容量を静電容量測定器(LCRメータ)30を用いて測定した。
【0025】
一方、ノイズは、A列駆動回路21およびB列駆動回路22の各々において、グラウンドGndを基準とする制御信号(高レべル)の電圧波形を測定した。このとき、A列駆動回路21およびB列駆動回路22の各々から制御信号を発する制御回路までの接続ケーブルの長さは約50cmである。A−B間容量Cabが370pF、110pF、30pFの場合の制御信号の電圧波形を測定すると、図4の結果が得られた。すなわち、制御信号の電圧はアクチュエータの駆動タイミングにおいて上下に振動しており、その振動がノイズとなって現われる。このノイズの電圧レベルは、A−B間容量Cabが370pFでは大きく、110pFで小さくなり、30pFでほとんどなくなる。
【0026】
このインクジェットヘッドで使われているCMOS論理回路では、3.5V以上に制御信号を確実に“高レべル(論理“1”レべル)”と認識する。これは、電圧5Vで動作するCMOS論理回路の最も一般的な仕様である。A−B間容量Cabが370pFの時はノイズによって制御信号が2.68Vまで落ち込み、許容範囲である3.5Vよりも低くなっている。これは、CMOS論理回路にとってきわめて不安定な動作状態であるといえる。このデータから、A−B間容量Cabとノイズにより落ち込む入力信号レベルの最低値との関係をまとめたのが図5であり、両者にはほぼ直線状の相関関係が見られる。
【0027】
入力信号の“高レベル(論理“1”レべル)“を確実に保つには、3.5V以上であることが必須である。温度やその他の変動要因を加味してマージンを見れば、4V以上であることが望ましい。
【0028】
すなわち、ノイズにより制御信号の電圧レベルが落ち込んだとしても、少なくとも3.5V以上、より望ましくは4V以上の電圧レベルを維持したい。従って、A−B間容量Cabは、少なくとも200pF以下、より望ましくは100pF以下とすればよい。これを達成するべく、アクチュエータ列Aとアクチュエータ列Bとの間に存する低誘電率部材10の誘電率と厚みを適度に選べばよい。さらに、望ましくは、A−B間容量Cabを30pF以下とすれば、ノイズはほとんど発生しなくなる。
【0029】
ところで、インクジェットヘッドの動作はインクの温度に敏感である。それは、インクの温度変化がインクの粘度を変化させ、吐出量や吐出速度を変化させてしまうからである。対策として、図6に要部を示すように、アクチュエータ列A,Bの相互間に金属などの導電性部材14を設け、その導電性部材14によって温度制御、放熱、熱拡散を行うことがある。
【0030】
この場合、A−B間容量Cabは、図7に示すように、アクチュエータ列Aが形成される圧電部材2の静電容量Caとアクチュエータ列Bが形成される圧電部材2の静電容量Cbとを導電性部材14を介して直列接続したものに相当し、無視できないほど大きな値となる。
【0031】
このような構造のインクジェットヘッドにおいてA−B間容量Cabを低減するには、図8に示すように、アクチュエータ列Aと導電性部材14との間に低誘電率部材41を介挿したり、あるいはアクチュエータ列Bと導電性部材14との間に低誘電率部材42を介挿すればよい。この低誘電率部材41,42については、どちらか片方だけ設けても、あるいは両方とも設けても、どちらでもよい。
【0032】
この場合、A−B間容量Cabは、図9に示すように、アクチュエータ列Aの静電容量Ca、低誘電率部材41の静電容量41c、アクチュエータ列B2の静電容量Cb、低誘電率部材42の静電容量42cを導電性部材14を介して直列接続したものに相当する。低誘電率部材41,42の誘電率および厚さを適度に選べば、A−B間容量Cabを少なくとも200pF以下、より望ましくは100pF以下、更に望ましくは30pF以下に低減することができる。
【0033】
一方、図10のインクジェットヘッドは、面構造のインクジェットヘッドであり、低誘電率部材の例えばアルミナで形成した板状の基板50の上面(平面)に枠部材51を接着し、その枠部材51にノズルプレート52を接着し、枠部材51の内側にアクチュエータ列Aおよびアクチュエータ列Bを並べて設けたものである。
【0034】
上記ノズルプレート52は、方形のポリイミド製のフィルムで形成されている。このノズルプレート52に、一対のノズル列53が設けられている。これらノズル列53は、それぞれ複数のノズル54の配列により形成されている。
【0035】
アクチュエータ列A,Bは、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)製の2枚の圧電部材を互いの分極方向を対向させるように且つ台形状に上下に張り合わせたもので、ノズル列53,53にそれぞれ沿って配列され、表面が溝状に切削形成された複数の圧力室55を有している。これら圧力室55は上記各ノズル54と対応しており、各圧力室55内のインクが圧力を受けることにより、各ノズル54からインクが吐出される。
【0036】
基板50において、アクチュエータ列A,Bの相互間に円形の複数のインク流入口56が配設されるとともに、アクチュエータ列A,Bを両側から挟む位置に複数のインク流出口57が配設されている。
【0037】
なお、アクチュエータ列A,Bの各圧力室55に設けられる各電極およびその各電極への通電用の導電パターンは、基板50上に形成したメッキがレーザビームで焼き切られる処理(いわゆるサブトラクト法)により、同メッキの残り部分で形成される。
【0038】
このような構造のインクジェットヘッドにおいて、隣接するチャンネル間の静電容量、即ち各アクチュエータの静電容量は200pFである。このインクジェットヘッドに2本の列間分離線が形成された例を参考として図11および図12に示す。
図11および図12において、アクチュエータ列A,Bを横切る方向の実線は、レーザビームにより基板50上のメッキが焼き切られて除去された跡であり、各電極間の絶縁部に相当するチャネル間分離線Lcとなる。このチャネル間分離線Lcと交差する状態に、かつ基台1の一端部から他端部にかけてアクチュエータ列Aの台形状の圧電部材の内側端部の傾斜面を列方向に通る状態に、チャネル間分離線Lcと同様の列間分離線Laがレーザビームによって形成される。さらに、チャネル間分離線Lcと交差する状態に、かつ基台1の一端部から他端部にかけてアクチュエータ列Bの台形状の圧電部材の内側端部の傾斜面を列方向に通る状態に、同様の列間分離線Lbがレーザビームによって形成される。
【0039】
ここで、アクチュエータ列A,Bにおける各アクチュエータの不要な静電容量を減らすためには、列間分離線La,Lbを各アクチュエータの動作限界点に位置させることが望ましい。ところが、そのような条件の場所は台形状の圧電部材の上(内側端部の傾斜面)になってしまうので、しかも圧電部材が高い誘電率であることから、列間分離線La,Lbの相互間に存する電極および導電パターンとアクチュエータ列Aにおける列間分離線Laより外側位置の電極との間、および列間分離線La,Lbの相互間に存する電極および導電パターンとアクチュエータ列Bにおける列間分離線Lbより外側位置の電極との間に、それぞれ比較的大きな静電容量が生じてしまう。この場合、アクチュエータ列Aにおける列間分離線Laで分離される両電極間の静電容量Caが800pF、アクチュエータ列Bにおける列間分離線Lbで分離される両電極間の静電容量Cbが800pFとなり、これら静電容量Ca,Cbが直列接続された状態となる。よって、アクチュエータ列A,B間のA−B間静電容量Cabは400pFと大きくなってしまう。
【0040】
そこで、図13に示すように、アクチュエータ列Aにおいて、上記列間分離線Laと同じ位置に同様の列間分離線La1をレーザビームにより形成するとともに、基板50の上面におけるアクチュエータ列A,B間の導電パターンの領域のアクチュエータ列A寄りの位置を通る列間分離線La2をレーザビームにより形成する。さらに、アクチュエータ列Bにおいて、上記列間分離線Lbと同じ位置に同様の列間分離線Lb1をレーザビームにより形成するとともに、基板50の上面におけるアクチュエータ列A,B間の導電パターンの領域のアクチュエータ列B寄りの位置を通る列間分離線Lb2をレーザビームにより形成する。これら列間分離線La2,Lb2が形成される部分は、低誘電率部材である基板50が露出した状態となる。
【0041】
この場合、図14に示すように、アクチュエータ列Aにおける列間分離線La1で分離される両電極間の静電容量Ca1が800pF、列間分離線La1と列間分離線La2との間に存する電極および導電部と列間分離線La1,Lb1の相互間に存する導電部との間の静電容量Ca2が30pF、列間分離線La1,Lb1の相互間に存する導電部と列間分離線Lb2と列間分離線Lb1との間に存する導電部および電極との間の静電容量Cb2が30pF、アクチュエータ列Bにおける列間分離線Lb1で分離される両電極間の静電容量Cb1が800pFとなり、これら静電容量Ca1,Ca2,Cb2,Cb1が直列接続された状態となる。つまり、アクチュエータ列A,B間のA−B間静電容量Cabは14.5pFまで小さくなる。
【0042】
なお、2本の列間分離線La2,Lb2を形成する場合について述べたが、そのどちらか1本の列間分離線のみ形成してもよい。あるいは、アクチュエータ列A,B間の導電パターンの領域の例えば中央部分に、1本の列間分離線を形成してもよい。
【0043】
また、図15に示すように、第1アクチュエータ列Aの内側端部の傾斜面を列方向に通る線、アクチュエータ列A,Bの相互間の導電パターンの領域の第1アクチュエータ列A寄りの位置を通る線、およびこれらの2本の線の両端部を結ぶ2本の線からなる矩形状の列間分離線La0を列間分離線La1,La2に代えて形成するとともに、第2アクチュエータ列Bの内側端部の傾斜面を列方向に通る線、アクチュエータ列A,Bの相互間の導電パターンの領域の第2アクチュエータ列B寄りの位置を通る線、およびこれらの2本の線の両端部を結ぶ2本の線からなる矩形状の列間分離線Lb0を列間分離線Lb1,Lb2に代えて形成してもよい。
【0044】
この矩形状の列間分離線La0,Lb0を採用した場合、その列間分離線La0,Lb0の両端部の外側の領域には分離線が無いため、その領域がアクチュエータ列A,B間のA−B間静電容量Cabを増加させることになる。ただし、その増加の割合が小さければ、A−B間静電容量Cabとして十分に小さい値を確保できる。
【0045】
矩形の列間分離線La0,Lb0を採用する利点は、インクジェットヘッドの長手方向の寸法が大きい場合に、列間分離線の描画範囲を小さくできるため、製造が容易になる点である。すなわち、列間分離線がレーザビームによるメッキの切除による形成であれば、レーザビームの走査範囲を節約できることになる。列間分離線がフォトリソグラフィによる形成であれば、その露光サイズを節約できる。
【0046】
ところで、構造上の理由などにより、アクチュエータ列A,B間のA−B間静電容量Cabを十分に小さくできない場合や、A列側動回路21およびB列駆動回路22の各々と制御信号を発する制御回路との間の接続ケーブルが長くなってしまう場合、ノイズによる誤動作を防ぐには、アクチュエータ列A,B間のグラウンドGndを強化するのがよい。
【0047】
図16に示すように、A列駆動回路21およびB列駆動回路22の各々と制御信号を発する制御回路との間の接続ケーブル71,72の長さは、印字装置の構造上の理由から、通常短い場合で20cm程度、長い場合は1mを超える。特に、印字ヘッドを用紙に対してスキャンさせながら印字する形式のインクジェット印字機では印字ヘッドのスキャン範囲に接続ケーブルを追従させる必要があることから、長くなりがちである。接続ケーブル71,72が長いと、それに伴い、図のようにグラウンドラインも長くなり、たとえアクチュエータ列A,B間のA−B間静電容量Cabが小さくても、駆動時の充放電に伴って大きなノイズ電圧が発生する可能性がある。
【0048】
このような場合には、図17に示すように、接続ケーブル71のグラウンドラインと接続ケーブル72のグラウンドラインとの間に、かつ駆動回路21,22になるべく近い位置に、短絡ラインとして例えば短絡ケーブル73を接続し、アクチュエータ列A,B間のグラウンドGndを強化すればよい。これにより、駆動時の充放電に伴って発生するノイズ電圧を小さくすることができる。
【0049】
先に述べた接続ケーブルの長さが約50cmで、アクチュエータ列A,B間のA−B間容量Cabが110pFの場合でも、アクチュエータ列A,B間のグラウンドGndを10cmの短絡ケーブルの接続によってショートカットすると、制御信号の電圧波形は図18のようになり、先に述べたA−B間静電容量Cabが30pFの場合とほぼ同等のノイズ低減効果が得られる。
【0050】
アクチュエータ列A,B間のA−B間静電容量Cabを十分に低減できない場合、たとえばA−B間静電容量Cabが30pFを超えている場合や、接続ケーブルが長くならざるを得ない場合には、このような短絡ケーブルの接続によるグラウンド強化の手法を用いると効果的である。
【0051】
この手法については、A−B間静電容量Cabの低減と併用してもよい。
【0052】
なお、上記実施形態では、吐出する液体がインクである場合を例に説明したが、インクに限らず、液晶や半導体を製造するための溶液を吐出する場合についても、同様に実施可能である。また、各ノズル4の列が2列の場合について説明したが、3列以上であっても同様に実施可能である。その他、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、用紙を変えない範囲で種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】この発明の一実施形態のインクジェットヘッドの外観を示す斜視図。
【図2】同実施形態における各アクチュエータの構成を示す斜視図。
【図3】同実施形態における各駆動回路および静電容量測定を示すブロック図。
【図4】同実施形態における制御信号電圧の時間経過に伴う変化がA−B間容量に応じてどのように異なるかを3つのA−B間容量を例として示す図。
【図5】同実施形態におけるA−B間静電容量と制御信号電圧との関係を示す図。
【図6】同実施形態の変形例における要部の構成を示す斜視図。
【図7】図6における静電容量を示す図。
【図8】図6における改善策の構成を示す図。
【図9】図8における静電容量を示す図。
【図10】同実施形態の別の変形例における要部の構成を示す斜視図。
【図11】図10に2本の列間分離線が形成された例を参考として示す図。
【図12】図11を側方から見た図。
【図13】図10における改善策の構成を示す図。
【図14】図13を側方から見た図。
【図15】図10における他の改善策の構成を示す図。
【図16】同実施形態における長い接続ケーブルを示す図。
【図17】図16における改善策の構成を示す図。
【図18】図17における制御信号電圧の時間経過に伴う変化を示す図。
【図19】従来装置の外観を示す斜視図。
【図20】図19の等価回路を示すブロック図。
【符号の説明】
【0054】
1…基台、2…圧電部材、3…ノズルプレート、4…ノズル、5…枠板、6…流入口、7…導電部材、8…回路基板、10…低誘電率部材、11…開口、12…圧力室、12a…電極、13…アクチュエータ、14…導電性部材、21,22…駆動回路、41,42…低誘電率部材、50…基台(低誘電率部材)、列間分離線La,Lb,La1,Lb1,La2,Lb2,La0,Lb0、71,72…接続ケーブル、73…短絡ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1圧電部材と、
この第1圧電部材の一側部に設けられた第2圧電部材と、
前記第1圧電部材の他側部に設けられた第3圧電部材と、
前記第1圧電部材と前記第2圧電部材との合わせ部分に互いに所定間隔で形成された複数の第1圧力室と、
前記第1圧電部材と前記第3圧電部材との合わせ部分に互いに所定間隔で形成された複数の第2圧力室と、
前記各第1圧力室の相互間に存する第1圧電部材および第2圧電部材により形成される複数の第1圧電素子、およびこれら第1圧電素子に対する駆動電圧印加用の複数の第1電極を有し、前記各第1圧力室に液滴吐出用の圧力を加える第1アクチュエータ列と、
前記各第2圧力室の相互間に存する第1圧電部材および第3圧電部材により形成される複数の第2圧電素子、およびこれら第2圧電素子に対する駆動電圧印加用の複数の第2電極を有し、前記各第2圧力室に液滴吐出用の圧力を加える第2アクチュエータ列と、
前記各圧力室上に設けられたノズルプレートと、
このノズルプレートに設けられ、前記各圧力室に連通する複数のノズルと、
前記第1圧電部材における前記各アクチュエータ列の相互間に設けられた低誘電率部材と、
を備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記各第1圧電素子は、前記第1圧電部材および前記第2圧電部材をそれぞれの分極方向が互いに対向する状態に重ね合せることにより形成され、
前記各第2圧電素子は、前記第1圧電部材および前記第3圧電部材をそれぞれの分極方向が互いに対向する状態に重ね合せることにより形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記各アクチュエータ列の各圧力室に液体を導くための液室、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記液体は、インクであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記低誘電率部材は、前記各アクチュエータ列の相互間の静電容量を200pF以下に低減する誘電率および厚みであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記低誘電率部材は、前記各アクチュエータ列の相互間の静電容量を200pF以下、望ましくは100pF以下に低減する誘電率および厚みであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記第1圧電部材における前記各アクチュエータ列の相互間位置に設けられる導電性部材をさらに備え、
前記低誘電率部材は、前記導電性部材と前記第1アクチュエータ列との間および前記導電性部材と前記第2アクチュエータ列との間にそれぞれ設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
低誘電率の基板と、
この基板上に設けられ、互いに所定間隔で形成された複数の第1圧電素子、これら第1圧電素子の相互間に形成された複数の第1圧力室、および前記各第1圧電素子に対する駆動電圧印加用の複数の第1電極を有し、前記各第1圧力室に液滴吐出用の圧力を加える第1アクチュエータ列と、
前記基板上に設けられ、互いに所定間隔で形成された複数の第2圧電素子、これら第2圧電素子の相互間に形成された複数の第2圧力室、および前記各第2圧電素子に対する駆動電圧印加用の複数の第2電極を有し、前記各第2圧力室に液滴吐出用の圧力を加える第2アクチュエータ列と、
これら第1および第2アクチュエータ列を被うノズルプレートと、
このノズルプレートに設けられ、前記各圧力室に連通する複数のノズルと、
前記基板における前記各アクチュエータ列の相互間に形成された列間分離線と、
を備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項9】
前記各第1圧電素子は、2つの圧電部材をそれぞれの分極方向が互いに対向する状態に重ね合せることにより形成され、
前記各第2圧電素子は、2つの圧電部材をそれぞれの分極方向が互いに対向する状態に重ね合せることにより形成される、
ことを特徴とする請求項8に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記基板上に形成される導電性部材、をさらに備え、
前記各電極は、前記導電性部材が前記各アクチュエータ列の列方向と直交する方向にレーザビームで焼き切られる処理により、当該各電極への通電用の導電パターンと共に、同導電性部材の残り部分で形成され、
前記列間分離線は、前記導電性部材が前記各アクチュエータ列の列方向に沿ってレーザビームで焼き切られる処理により、同導電性部材が除去される部分で形成される、
ことを特徴とする請求項8に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
前記列間分離線は、前記各アクチュエータ列の列方向に沿う少なくとも第1,第2および第3列間分離線であり、
前記第1列間分離線は、前記基板の一端部から他端部にかけて、前記第1アクチュエータ列の内側部を通って形成され、
前記第2列間分離線は、前記基板の一端部から他端部にかけて、前記第2アクチュエータ列の内側部を通って形成され、
前記第3列間分離線は、前記基板の一端部から他端部にかけて、前記各アクチュエータ列の相互間の領域を通って形成される、
ことを特徴とする請求項10に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
前記列間分離線は、前記各アクチュエータ列の列方向に沿う第1および第2列間分離線であり、
前記第1列間分離線は、前記第1アクチュエータ列の内側端部を通る線、前記各アクチュエータ列の相互間の領域の前記第1アクチュエータ列寄りの位置を通る線、およびこれらの2本の線の両端部を結ぶ2本の線により矩形状に形成され、
前記第2列間分離線は、前記第2アクチュエータ列の内側端部を通る線、前記各アクチュエータ列の相互間の領域の前記第2アクチュエータ列寄りの位置を通る線、およびこれらの2本の線の両端部を結ぶ2本の線により矩形状に形成される、
ことを特徴とする請求項10に記載の液体吐出装置。
【請求項13】
前記第1アクチュエータ列の各第1圧電素子への駆動電圧を出力する第1駆動回路と、
前記第2アクチュエータ列の各第2圧電素子への駆動電圧を出力する第2駆動回路と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項14】
前記第1駆動回路に対する制御信号供給用の制御信号ラインおよび同第1駆動回路に対する接地用のグラウンドラインからなる第1接続ケーブルと、
前記第2駆動回路に対する制御信号供給用の制御信号ラインおよび同第2駆動回路に対する接地用のグラウンドラインからなる第2接続ケーブルと、
前記第1接続ケーブルのグラウンドラインと前記第2接続ケーブルのグラウンドラインとの間に接続された短絡ラインと、
をさらに備えることを特徴とする請求項14に記載の液体吐出装置。
【請求項15】
複数の第1圧電素子、これら第1圧電素子の相互間に設けられた複数の第1圧力室、および前記各第1圧電素子に対する駆動電圧印加用の複数の第1電極を有し、前記各第1圧力室に液滴吐出用の圧力を加える第1アクチュエータ列と、
複数の第2圧電素子、これら第2圧電素子の相互間に設けられた複数の第2圧力室、および前記各第2圧電素子に対する駆動電圧印加用の複数の第2電極を有し、前記各第2圧力室に液滴吐出用の圧力を加える第2アクチュエータ列と、
前記第1アクチュエータ列の各第1圧電素子への駆動電圧を出力する第1駆動回路と、
前記第2アクチュエータ列の各第2圧電素子への駆動電圧を出力する第2駆動回路と、
前記第1駆動回路に対する制御信号供給用の制御信号ラインおよび同第1駆動回路に対する接地用のグラウンドラインからなる第1接続ケーブルと、
前記第2駆動回路に対する制御信号供給用の制御信号ラインおよび同第2駆動回路に対する接地用のグラウンドラインからなる第2接続ケーブルと、
前記第1接続ケーブルのグラウンドラインと前記第2接続ケーブルのグラウンドラインとの間に接続された短絡ラインと、
を備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項16】
前記短絡ラインは、前記第1接続ケーブルのグラウンドラインと前記第2接続ケーブルのグラウンドラインとの間に、かつ前記第1駆動回路および第2駆動回路に近い位置に接続されることを特徴とする請求項14または請求項15に記載の液体吐出装置。
【請求項17】
前記各アクチュエータ列の相互間の静電容量は、30pFを超えていることを特徴とする請求項16に記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−32019(P2013−32019A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−239556(P2012−239556)
【出願日】平成24年10月30日(2012.10.30)
【分割の表示】特願2008−232590(P2008−232590)の分割
【原出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】