説明

インクジェット印刷装置及びそのパージ方法

【課題】簡易な制御によりチョーク吸引を行いつつも、インク消費を低減することができる。
【解決手段】制御部45は、インクジェットヘッド19にキャップ29を密着させた後、インク供給制御弁27を閉止させ、三方弁41を大気開放側に切り換えさせた後、ダイアフラムポンプ39を作動させ、三方弁41をキャップ29側に切り換えさせてキャップ29内を減圧させる。この状態でインク供給制御弁27を開放させると、インクが気泡とともにキャップ29内に一気に排出される。これらの一連の動作は、インク供給制御弁27及び三方弁41及びダイアフラムポンプ39の動作タイミングで主として構成されるので、簡単にチョーク吸引を行わせることができる。また、インクの排出後の所定時間T1後にインク供給制御弁27を閉止させるので、無駄なインクの排出を抑制でき、インク消費を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドと印刷用紙とを相対的に移動させつつインクジェットヘッドからインク滴を吐出して印刷用紙に印刷を行うインクジェット印刷装置及びそのパージ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置は、印刷用紙と離間して配置されたインクジェットヘッドからインクを打滴して印刷を行う。印刷の解像度が高くなるにつれ、インクジェットヘッドの複数個のノズルが微小化されており、そのためにノズル詰まり(インク滴の不吐出)が生じやすくなっている。ノズル詰まりには、インク滴がノズルを塞いだり、インク滴の供給路に気泡が侵入したりすることにより生じる。これを解消する方法の一つには、インクジェットヘッドの各ノズルにキャップを装着し、キャップ内を負圧にしてノズル詰まりを解消するパージというものがある。
【0003】
このようなパージでは、ノズルを塞いだインク滴を排除することが可能であるものの、供給路に侵入した気泡を排除するのは困難である。そこで、供給路に侵入した気泡をも排除できるようにする手法として、「チョーク吸引」が提案されている。
【0004】
この種のチョーク吸引を行う第1の装置として、インクジェットヘッドの各ノズルとインクタンクとを連通接続した複数本の供給管と、インクジェットヘッドの各供給管におけるインク供給の上流側に配置されたチョーク機構とを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この第1の装置では、チョーク機構により供給管を閉止した後に、インクジェットヘッドに取り付けたキャップ内を負圧にする。その後、インクの供給圧を急速に上昇させ、チョーク機構を開放する。これにより、供給管からノズルを通してインクを一気に排出するようになっている。
【0006】
また、チョーク吸引を行う第2の装置として、インクジェットヘッドとインクタンクとを連通接続した複数本の供給管と、各供給管に配置されたダイアフラムポンプとを備えたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
この第2の装置では、チョーククリーニング動作を行う際には、ダイアフラムポンプのポンプ室にインクを充填し、次いでインクジェットヘッドのノズルを閉塞するキャップを取り付ける。そして、キャップ内を吸引して負圧にするとともに、ダイアフラムポンプを作動させて、ポンプ室内に充填されているインクを圧送してノズルから排出させる。これにより、供給管からノズルを通してインクを一気に排出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許4687063号公報(段落「0029」)
【特許文献2】特開2010−58303号公報(段落「0086」、「0094」〜「0099」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、従来の第1の装置は、チョーク機構の開放に先だってインクの供給圧を急速に上昇させる必要があり、制御が複雑になるとともにインクの消費が激しいという問題がある。
【0010】
また、従来の第2の装置は、供給管にダイアフラムポンプを設ける必要があって、構造が複雑化するとともにコスト上昇を招く。さらに、ダイアフラムポンプの制御も行う必要があって制御も複雑になる上、やはりインクの消費が激しいという問題がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、簡易な制御によりチョーク吸引を行いつつも、インク消費を低減することができるインクジェット印刷装置及びパージ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、インクジェットヘッドと印刷用紙とを相対的に移動させて印刷を行うインクジェット印刷装置において、インク滴を吐出可能な複数個のノズルを備えたインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドの各ノズルに連通接続され、インクを供給するための供給管と、前記供給管に設けられ、インクの流通を制御するためのインク供給制御弁と、前記インクジェットヘッドの複数個のノズルを閉塞するキャップと、前記キャップ内を減圧する減圧手段と、前記キャップと前記減圧手段とを連通接続する減圧配管と、前記減圧配管に設けられ、前記キャップと前記減圧手段との連通を操作する減圧制御弁と、前記インクジェットヘッドの全ノズルを閉塞するように前記キャップを前記インクジェットヘッドに密着させた後、前記インク供給制御弁及び前記減圧制御弁を閉止させ、前記減圧手段を作動させた後、前記減圧制御弁を開放させて前記キャップ内を減圧させ、前記インク供給制御弁を開放させて所定時間後に前記インク供給制御弁を閉止させた後、前記減圧制御弁を閉止させて前記減圧手段を停止させ、前記キャップを前記インクジェットヘッドから離反させる制御手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0013】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、制御手段は、インクジェットヘッドにキャップを密着させた後、インク供給制御弁及び減圧制御弁を閉止させ、減圧手段を作動させた後、減圧制御弁を開放させてキャップ内を減圧させる。この状態では、インクは負圧によりキャップ内に向かう力が加わったチョーク吸引の状態にある。そして、この状態でインク供給制御弁を開放させると、インクが気泡とともにキャップ内に一気に排出される。所定時間後にインク供給制御弁を閉止させた後、減圧制御弁を閉止させて減圧手段を停止させてキャップ内を大気圧に戻し、インクジェットヘッドからキャップを離反させる。これらの一連の動作は、インク供給制御弁及び減圧制御弁及び減圧手段の動作タイミングで主として構成されるので、簡単にチョーク吸引を行わせることができる。また、インクの排出後の所定時間後にインク供給制御弁を閉止させるので、無駄なインクの排出を抑制でき、インク消費を低減できる。
【0014】
また、本発明において、前記所定時間は、インク及び流路の特性を考慮して、インクとともに気泡が排出できる時間に設定されていることが好ましい(請求項2)。
【0015】
インク供給制御弁は、インクが排出され始めてから所定時間後に閉止されるが、この所定時間は、インクの粘度や、インクが流通する流路の抵抗等によって変わる。したがって、予め実験を行って、インクに含まれる気泡が排出できる時間を測定し、その時間を所定時間として設定する。これにより、インクに含まれる気泡を確実に排出できるとともに、インク消費を抑制できる。
【0016】
また、本発明において、前記減圧制御弁は、三方弁で構成され、前記キャップと前記減圧手段の連通及び前記キャップと大気の連通を切り換え可能であって、大気側にはリークバルブが設けられ、大気側に連通された際に低速で前記キャップ内を大気圧に戻すことが好ましい(請求項3)。
【0017】
インクの排出後に減圧制御弁によりキャップ内を大気圧に急激に戻すと、キャップからインクが吹き上げたり、空気がインクに侵入したりして、インクジェットヘッド内に悪影響を及ぼす恐れがある。そこで、減圧制御弁を三方弁とし、大気側にリークバルブを設ける。そして、大気圧に開放する際に低速で行うことにより、そのような不都合を回避することができる。
【0018】
また、請求項4に記載の発明は、インクジェットヘッドと印刷用紙とを相対的に移動させて印刷を行うインクジェット印刷装置のパージ方法において、インクジェットヘッドの全ノズルを閉塞するようにインクジェットヘッドにキャップを密着させる過程と、インクジェットヘッドの各ノズルに連通接続され、インクを供給するための供給配管に設けられて、インクの流通を制御するためのインク供給制御弁と、キャップ内を減圧する減圧手段とキャップとを連通接続する減圧配管に設けられ、キャップと減圧手段との連通を操作する減圧制御弁とをともに閉止させる過程と、減圧手段を作動させる過程と、減圧制御弁を開放させて、キャップ内を減圧させる過程と、インク供給制御弁を開放させる過程と、所定時間後にインク供給制御弁を閉止させる過程と、減圧制御弁を閉止させるとともに減圧手段を停止させる過程と、インクジェットヘッドからキャップを離反させる過程と、をその順に実施することを特徴とするものである。
【0019】
[作用・効果]請求項4に記載の発明によれば、インクジェットヘッドにキャップを密着させ、インク供給制御弁と減圧制御弁とをともに閉止させた状態で減圧手段を作動させる。これにより、インクは負圧によりキャップ内に向かう力が加わったチョーク吸引の状態にある。そして、減圧制御弁を開放させてキャップ内を減圧させると、インクが気泡とともにキャップ内に一気に排出される。所定時間後にインク供給制御弁を閉止させて減圧手段を停止させ、インクジェットヘッドからキャップを離反させる。これらの一連の動作は、インク供給制御弁と、減圧制御弁と、減圧手段との動作タイミングが主として構成されるので、簡単にチョーク吸引を行わせることができる。また、インク排出後の所定時間後にインク供給制御弁を閉止させるので、無駄なインクの排出を抑制でき、インク消費を低減できる。
【0020】
また、本発明において、前記所定時間は、インク及び流路の特性を考慮して、気泡が排出できる時間に設定されていることが好ましい(請求項5)。
【0021】
インク供給制御弁は、インクが排出され始めてから所定時間後に閉止されるが、この所定時間は、インクの粘度や、インクが流通する流路の抵抗等のインク及び流路の特性によって変わる。したがって、予め実験を行って、インクに含まれる気泡が排出できる時間を測定し、その時間を所定時間として設定する。これにより、インクに含まれる気泡を確実に排出できるとともに、インク消費を抑制できる。
【0022】
また、本発明において、前記インクジェットヘッドからキャップを離反させる過程の前に、前記キャップ内の圧力を低速で大気圧に戻す過程を実施することが好ましい(請求項6)。
【0023】
インクの排出後に減圧制御弁によりキャップ内を大気圧に急激に戻すと、キャップからインクが吹き上げたり、空気がインクに侵入したりして、インクジェットヘッド内に悪影響を及ぼす恐れがある。そこで、減圧制御弁を三方弁とし、大気側にリークバルブを設ける。そして、インクジェットヘッドからキャップを離反させる前に、リークバルブを介して低速で大気圧に戻すことにより、そのような不都合を回避できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るインクジェット印刷装置によれば、制御手段は、インクジェットヘッドにキャップを密着させた後、インク供給制御弁及び減圧制御弁を閉止させ、減圧手段を作動させた後、減圧制御弁を開放させてキャップ内を減圧させる。この状態では、インクは負圧によりキャップ内に向かう力が加わったチョーク吸引の状態にある。そして、この状態でインク供給制御弁を開放させると、インクが気泡とともにキャップ内に一気に排出される。所定時間後にインク供給制御弁を閉止させた後、減圧制御弁を閉止させて減圧手段を停止させてキャップ内を大気圧に戻し、インクジェットヘッドからキャップを離反させる。これらの一連の動作は、インク供給制御弁及び減圧制御弁及び減圧手段の動作タイミングで主として構成されるので、簡単にチョーク吸引を行わせることができる。また、インクの排出後の所定時間後にインク供給制御弁を閉止させるので、無駄なインクの排出を抑制でき、インク消費を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例に係るインクジェット印刷システムの全体を示す概略構成図である。
【図2】インクジェットヘッド及び周辺の制御系を示すブロック図である。
【図3】キャップ内の圧力変化を示すグラフである。
【図4】パージの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
図1は、実施例に係るインクジェット印刷システムの全体を示す概略構成図である。
【0027】
本実施例に係るインクジェット印刷システムは、給紙部1と、インクジェット印刷装置3と、排紙部5とを備えている。給紙部1は、例えば、印刷対象であるロール状の連続紙WPを供給する。インクジェット印刷装置3は、供給された連続紙WPに対して印刷を行う。排紙部5は、印刷された連続紙WPをロール状に巻き取る。
【0028】
給紙部1は、ロール状の連続紙WPを水平軸周りに回転可能に保持し、インクジェット印刷装置3に対して連続紙WPを巻き出して供給する。排紙部5は、インクジェット印刷装置3で印刷された連続紙WPを水平軸周りに巻き取る。連続紙WPの供給側を上流とし、連続紙WPの排紙側を下流とすると、給紙部1はインクジェット印刷装置3の上流側に配置され、排紙部5はインクジェット印刷装置3の下流側に配置されている。
【0029】
インクジェット印刷装置3は、給紙部1からの連続紙WPを取り込むための駆動ローラ7を上流側に備えている。駆動ローラ7によって給紙部1から巻き出された連続紙WPは、複数個の搬送ローラ9に沿って下流側の排紙部5に向かって搬送される。最下流の搬送ローラ9と排紙部5との間には、駆動ローラ11が配置されている。この駆動ローラ11は、搬送ローラ9上を搬送されている連続紙WPを排紙部5に向かって送り出す。
【0030】
インクジェット印刷装置3は、駆動ローラ7と駆動ローラ11との間に、印刷ユニット13と、乾燥部15と、検査部17とを上流側から順に備えている。乾燥部15は、印刷ユニット13によって印刷された部分の乾燥を行う。検査部17は、印刷された部分に汚れや抜け等がないかについて検査する。
【0031】
印刷ユニット13は、インク滴を吐出するインクジェットヘッド19を備えている。印刷ユニット13は、一般的には、連続紙WPの搬送方向に沿って複数個配置されている。例えば、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)イエロー(Y)について個別に4個の印刷ユニット13を備えている。但し、以下の説明においては、発明の理解を容易にするために、1個の印刷ユニット13だけを備えているものとする。また印刷ユニット13は、連続紙WPの搬送方向と直交する水平方向(幅方向)にも複数個のインクジェットヘッド19を備えている。印刷ユニット13は、連続紙WPの幅方向における印刷領域を移動することなく印刷できるだけのインクジェットヘッド19を連続紙WPの幅方向に複数個備えている。つまり、本実施例におけるインクジェット印刷装置3は、インクジェットヘッド19が連続紙WPの搬送方向に直交する水平方向に主走査のために移動することがなく、位置固定のままで連続紙WPを送りながら連続紙WPに対して印刷を行う。この方式は、1パス方式と呼ばれる。
【0032】
ここで、図2を参照して印刷ユニット13について説明する。なお、図2は、インクジェットヘッド及び周辺の制御系を示すブロック図である。
【0033】
印刷ユニット13は、複数個のインクジェットヘッド19を備えている。各インクジェットヘッド19は、連続紙WPの搬送方向及び、搬送方向と直交する水平方向(図2の紙面奥手前方向)に配列された複数個のノズル21を下面に備えている。
【0034】
メインインクタンク23は、インクジェットヘッド19の各ノズル21から吐出するためのインクを貯留している。各インクジェットヘッド19とメインインクタンク23とは、供給管25によって連通接続されている。メインインクタンク23は、例えば、内部が加圧されたり、図示しないポンプにより内部のインクが吸い出されたりして、インクが供給管25に供給される。この供給管25は、各インクジェットヘッド19から延出されて共通する部分に、インクの流通を制御するためのインク供給制御弁27を備えている。
【0035】
各インクジェットヘッド19の下方には、各インクジェットヘッド19のノズル21を全て覆うキャップ29が配置されている。各キャップ29は、図2に示す「待避位置」と、インクジェットヘッド19の全ノズル21を閉塞する「閉塞位置」とにわたり昇降可能に構成されている。各キャップ29の昇降は、キャップ昇降部30により行われる。
【0036】
各キャップ29は、パージ分岐管31によって集積部33と連通接続されている。集積部33は、パージ配管35によって廃液タンク37に連通接続されている。また、集積部33には、内部の圧力を測定する圧力計34が設けられている。パージ配管35には、ダイアフラムポンプ39と、三方弁41とが設けられている。ダイアフラムポンプ39は、パージ分岐管31と、集積部33と、パージ配管35とを通して各キャップ29の内部を減圧する。三方弁41は、ダイアフラムポンプ39側と、大気開放側と、集積部33とに連通接続されており、集積部33との連通を、ダイアフラムポンプ39側と大気開放側とに切り換える。三方弁41の大気開放側には、リークバルブ43が設けられている。このリークバルブ43は、大気開放側からパージ配管35側にのみ空気の流通を許容する。また、リークバルブ43は、空気の流速が単に開放された場合よりも低速になるように設定されている。
【0037】
なお、上述したパージ分岐管31と、集積部33と、パージ配管35とが本発明における「減圧配管」に相当し、ダイアフラムポンプ39が本発明における「減圧手段」に相当する。また、三方弁41が本発明における「減圧制御弁」に相当する。
【0038】
上述したインク供給制御弁27と、キャップ昇降部30と、ダイアフラムポンプ39と、三方弁41とは、制御部45により統括的に制御される。制御部45は、図示しないCPUやメモリ、タイマなどを内蔵している。図示しないメモリには、後述する所定時間T1が予め記憶されている。また、圧力計34の測定値は、制御部45によって読み出される。
【0039】
次に、図3,図4を参照して、上述したインクジェット印刷システムにおけるインクジェットヘッド19のパージについて説明する。なお、図3は、キャップ内の圧力変化を示すグラフであり、図4は、パージの動作を示すフローチャートである。
【0040】
ステップS1
制御部45は、キャップ昇降部30を操作して、待避位置にある各キャップ29を閉塞位置にまで移動させる。これにより、各インクジェットヘッド19は、ノズル21が各キャップ29によって周囲から閉塞された状態となる。
【0041】
ステップS2
制御部45は、インク供給制御弁27を閉止させる。これにより各インクジェットヘッド19は、メインインクタンク23からインクの供給が遮断され、各ノズル21側だけが開放された状態となる。
【0042】
ステップS3
制御部45は、三方弁41を大気開放側に切り換えさせる。
【0043】
ステップS4
制御部45は、ダイアフラムポンプ39を作動させる。この状態では、ダイアフラムポンプ39は、大気開放側から空気を吸い込むだけで、減圧には寄与しない。
【0044】
ステップS5,S6
制御部45は、三方弁41をダイアフラムポンプ39側に切り換えさせる。これによりダイアフラムポンプ39が減圧に寄与し始める。なお、この時点は、図3におけるt1時点である。減圧の目標となる圧力P1(負圧である目標圧)は、例えば、−50kPa程度である。制御部45は、圧力計34からの圧力値が目標圧P1になるまで、この状態を維持させる。この状態は、図3におけるt2時点からt3時点である。なお、このときは、ダイアフラムポンプ39が減圧を行っており、各キャップ21内が減圧されている。しかし、インク供給制御弁27が閉止されたままであるので、各インクジェットヘッド19内のインクが各キャップ29側に引かれるものの排出されるには至らない。
【0045】
ステップS7,S8
制御部45は、インク供給制御弁27を開放させ、所定時間T1が経過するまでその状態を維持させる。この状態は、図3におけるt3時点からt4時点である。所定時間T1は、インクジェットヘッド19に貯留しているインクに含まれている気泡が排出されるまでの時間である。所定時間T1は、インクの粘度や供給管25、ノズル21の流路抵抗などによって異なるので、それらを考慮して決定しておくのが好ましい。より好ましくは、予め実験を行ってインクに含まれている気泡が排出される時間を測定し、その時間に余裕を付加して決定する。インク供給制御弁27が開放されるので、各インクジェットヘッド19内のインクは、チョーク吸引による強力な負圧によって各キャップ29へ一気に排出される。このチョーク吸引を用いたパージにより、インクジェットヘッド29の各ノズル21は、気泡等に起因する不吐出が回復されることになる。
【0046】
ステップS9
制御部45は、インク供給制御弁27を閉止させる。この状態は、図3におけるt4時点である。これにより、チョーク吸引によるインクのパージが停止される。
【0047】
ステップS10
制御部45は、三方弁41をダイアフラムポンプ39側から大気開放側へと切り換えさせる。この時点は、図3におけるt5時点である。三方弁41の大気開放側には、リークバルブ43が設けられているので、負圧はt5時点からt6時点までの間にわたって低速で解消される。なお、t5a〜t6時点まで点線で示したのは、スローバルブを設けずに、直接的に大気開放を行った場合の例である。このように短時間で大気開放を行うと、急激に流入した空気によってキャップ29からインクが内部に吹き上げる等の不都合が生じる恐れがある。しかし、本実施例装置では、リークバルブ43を介して低速で負圧解消を図ることでそのような不都合が生じることを回避している。
【0048】
ステップS11,S12
制御部45は、ダイアフラムポンプ39を停止させ、キャップ昇降部30を操作して、閉塞位置にある各キャップ29を待機位置にまで移動させる。
【0049】
上述したように、本実施例装置によると、制御部45は、インクジェットヘッド19にキャップ29を密着させた後、インク供給制御弁27を閉止させ、三方弁41を大気開放側に切り換えさせた後、ダイアフラムポンプ39を作動させ、三方弁41をキャップ29側に切り換えさせてキャップ29内を減圧させる。この状態では、インクは負圧によりキャップ29内に向かう力が加わったチョーク吸引の状態にある。そして、この状態でインク供給制御弁27を開放させると、インクが気泡とともにキャップ29内に一気に排出される。所定時間後にインク供給制御弁27を閉止させた後、三方弁41を大気開放側に切り換えさせてダイアフラムポンプ39を停止させてキャップ29内を大気圧に戻し、インクジェットヘッド19からキャップ29を離反させる。これらの一連の動作は、インク供給制御弁27及び三方弁41及びダイアフラムポンプ39の動作タイミングで主として構成されるので、簡単にチョーク吸引を行わせることができる。また、インクの排出後の所定時間T1後にインク供給制御弁27を閉止させるので、無駄なインクの排出を抑制でき、インク消費を低減できる。
【0050】
また、本実施例装置は、各インクジェットヘッド19に連通した供給管25のうち、その共通部に一つのインク供給制御弁27を備え、この一つのインク供給制御弁27の開閉を制御している。各インクジェットヘッド19に個別にインク供給制御弁27を設けた場合は、開閉のタイミング制御が複雑化する上、負圧解消時に閉止が遅れたインク供給制御弁27があると、そこに接続されたインクジェットヘッド19に他のインクジェットヘッド19からのインクが逆流するような不都合も生じない。
【0051】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0052】
(1)上述した実施例では、キャップ29をインクジェットヘッド19から離反させるデキャップは、負圧を解消した後としている。本実施例装置のようなインクジェットヘッド19が連続紙WPの幅方向に移動しない、いわゆる1パス機は、インクジェットヘッド19が幅方向に長く構成されている。したがって、インクジェットヘッド19が幅方向に移動するマルチパス機に比較して、負圧が完全に解消されないとデキャップが困難であるからである。したがって、マルチパス機の場合には、完全に負圧が解消される前にデキャップを行うようにしてもよい。
【0053】
(2)上述した実施例では、ロール状の連続紙WPに印刷するインクジェット印刷装置を例にとって説明した。しかし、本発明はこのような連続紙WPに限定されるものではなく、各種の印刷用紙に印刷するインクジェット印刷装置に適用できる。
【0054】
(3)上述した実施例では、減圧制御弁として三方弁41を用い、大気開放側にリークバルブ43を設けているが、本発明は必ずしもスローバルブを備える必要はない。また、三方弁41に代えて二個の開閉弁を組み合わせて構成してもよい。
【0055】
(4)上述した実施例は、減圧手段としてダイアフラムポンプ39を例示したが、本発明の減圧手段はダイアフラムポンプ39に限定されるものではない。他の減圧手段としては、例えば、チューブポンプ、ロータリーポンプ、拡散ポンプ等が挙げられる。
【符号の説明】
【0056】
1 … 給紙部
3 … インクジェット印刷装置
5 … 排紙部
19 … インクジェットヘッド
21 … ノズル
25 … 供給管
27 … インク供給制御弁
29 … キャップ
31 … パージ分岐管
34 … 圧力計
35 … パージ配管
39 … ダイアフラムポンプ
41 … 三方弁
43 … リークバルブ
45 … 制御部
T1 … 所定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドと印刷用紙とを相対的に移動させて印刷を行うインクジェット印刷装置において、
インク滴を吐出可能な複数個のノズルを備えたインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドの各ノズルに連通接続され、インクを供給するための供給管と、
前記供給管に設けられ、インクの流通を制御するためのインク供給制御弁と、
前記インクジェットヘッドの複数個のノズルを閉塞するキャップと、
前記キャップ内を減圧する減圧手段と、
前記キャップと前記減圧手段とを連通接続する減圧配管と、
前記減圧配管に設けられ、前記キャップと前記減圧手段との連通を操作する減圧制御弁と、
前記インクジェットヘッドの全ノズルを閉塞するように前記キャップを前記インクジェットヘッドに密着させた後、前記インク供給制御弁及び前記減圧制御弁を閉止させ、前記減圧手段を作動させた後、前記減圧制御弁を開放させて前記キャップ内を減圧させ、前記インク供給制御弁を開放させて所定時間後に前記インク供給制御弁を閉止させた後、前記減圧制御弁を閉止させて前記減圧手段を停止させ、前記キャップを前記インクジェットヘッドから離反させる制御手段と、
を備えていることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット印刷装置において、
前記所定時間は、インク及び流路の特性を考慮して、インクとともに気泡が排出できる時間に設定されていることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェット印刷装置において、
前記減圧制御弁は、三方弁で構成され、前記キャップと前記減圧手段の連通及び前記キャップと大気の連通を切り換え可能であって、大気側にはリークバルブが設けられ、大気側に連通された際に低速で前記キャップ内を大気圧に戻すことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項4】
インクジェットヘッドと印刷用紙とを相対的に移動させて印刷を行うインクジェット印刷装置のパージ方法において、
インクジェットヘッドの全ノズルを閉塞するようにインクジェットヘッドにキャップを密着させる過程と、
インクジェットヘッドの各ノズルに連通接続され、インクを供給するための供給配管に設けられて、インクの流通を制御するためのインク供給制御弁と、キャップ内を減圧する減圧手段とキャップとを連通接続する減圧配管に設けられ、キャップと減圧手段との連通を操作する減圧制御弁とをともに閉止させる過程と、
減圧手段を作動させる過程と、
減圧制御弁を開放させて、キャップ内を減圧させる過程と、
インク供給制御弁を開放させる過程と、
所定時間後にインク供給制御弁を閉止させる過程と、
減圧制御弁を閉止させるとともに減圧手段を停止させる過程と、
インクジェットヘッドからキャップを離反させる過程と、
をその順に実施することを特徴とするインクジェット印刷装置のパージ方法。
【請求項5】
請求項4に記載のインクジェット印刷装置のパージ方法において、
前記所定時間は、インク及び流路の特性を考慮して、気泡が排出できる時間に設定されていることを特徴とするインクジェット印刷装置のパージ方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のインクジェット印刷装置のパージ方法において、
前記インクジェットヘッドからキャップを離反させる過程の前に、前記キャップ内の圧力を低速で大気圧に戻す過程を実施することを特徴とするインクジェット印刷装置のパージ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−71290(P2013−71290A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210827(P2011−210827)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】