インクジェット印刷装置
【課題】装置構成の複雑化および大型化を回避しつつ、メンテナンス動作による装置内の汚染を抑制できるインクジェット印刷装置を提供する。
【解決手段】インクジェット印刷装置1は、インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッド31と、インクジェットヘッド31へインクを供給する経路を加圧することによりノズルからインクを押し出させる加圧部と、インクジェットヘッド31を駆動してインクを吐出させるヘッド駆動部6と、インクジェットヘッド31のメンテナンス時において、加圧部により経路を所定時間加圧してインクを押し出させてから、ヘッド駆動部6によりインクジェットヘッド31に吐出動作を行わせるよう制御する制御部8とを備える。
【解決手段】インクジェット印刷装置1は、インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッド31と、インクジェットヘッド31へインクを供給する経路を加圧することによりノズルからインクを押し出させる加圧部と、インクジェットヘッド31を駆動してインクを吐出させるヘッド駆動部6と、インクジェットヘッド31のメンテナンス時において、加圧部により経路を所定時間加圧してインクを押し出させてから、ヘッド駆動部6によりインクジェットヘッド31に吐出動作を行わせるよう制御する制御部8とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置では、待機中や使用中にインク溶媒の揮発などにより、インクジェットヘッドのノズルに析出物などが付着することがある。このような付着物等があると、ノズルからのインクの吐出方向の乱れや不吐出などの吐出不良が発生し、記録品質の低下を招く。
【0003】
上記のような付着物等によるインクの吐出不良を解消するために、インクジェット印刷装置においては、メンテナンス動作が行われている。メンテナンス動作として、印字動作の合間などに、印字に使用しないインクの吐出を行うことによりノズルから付着物等を取り除くフラッシング動作が知られている。また、他のメンテナンス動作として、インクジェットヘッドへインクを供給する経路を加圧してノズルからインクを押し出すパージ動作を行い、押し出されたインクとともに、ノズル面に付着したゴミ等をワイパで除去する動作が知られている。
【0004】
フラッシング動作では、パージ動作よりも個々のノズルに対して高い圧力を加えることができ、ノズルから付着物等を取り除く効果が高い。フラッシング動作を行う場合は、吐出されるインクや、吐出により発生するインクミストを受ける手段が必要になる。そこで、フラッシング動作時にインクジェットヘッドの下方に配置され、インクやインクミストを受けるトレー状のインク受け部材を設けた装置が知られている。
【0005】
しかし、上記のようにインクジェットヘッドの下方にインク受け部材を設けても、インクジェットヘッドとインク受け部材との間に空間があるため、吐出されたインクやインクミストが浮遊して装置内を汚染することがある。特に、ノズル内に異物や増粘したインク等がある状態で吐出駆動すると、吐出が乱れ、細かいミスト状のインクが吐出されてしまったり、インクが下方向に正常に吐出されない状態が発生したりする。このため、装置内に浮遊するインクミスト等が増加し、装置内の汚染が悪化するおそれがある。また、吐出回復能力を高めるために、ノズル圧が高くなるようにインクジェットヘッドを駆動した場合も同様に、インクの吐出状態が乱れやすくなり、装置内の汚染が悪化するおそれがある。
【0006】
そこで、フラッシング動作を行う際、インクジェットヘッドのノズル面をキャップで覆い、吸引ポンプを用いてキャップ内に吐出されたインクおよびインクミストを吸引回収する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、吐出されたインクやインクミストにより装置内が汚染されることを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−106304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のように、フラッシング動作で吐出されたインクやインクミストを吸引回収するためには、インクジェットヘッドに密着し密閉可能なキャップ、インクやインクミストを吸引するための吸引ポンプおよび吸引経路等の構成を設ける必要がある。このような構成を設けることは、装置構成の複雑化および大型化を招く。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、装置構成の複雑化および大型化を回避しつつ、メンテナンス動作による装置内の汚染を抑制することができるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴は、インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドへインクを供給する経路を加圧することにより前記ノズルからインクを押し出させる加圧部と、前記インクジェットヘッドを駆動してインクを吐出させるヘッド駆動部と、前記インクジェットヘッドのメンテナンス時において、前記加圧部により前記経路を所定時間加圧して前記ノズルからインクを押し出させてから、前記ヘッド駆動部により前記インクジェットヘッドに吐出動作を行わせるよう制御する制御部とを備えることにある。
【0011】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴は、前記制御部は、前記メンテナンス時に前記インクジェットヘッドの吐出動作を行う際は、通常の印刷時の吐出動作を行う場合よりも高い圧力を前記ノズルに加えるよう前記ヘッド駆動部を制御することにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴によれば、メンテナンス時において、インクジェットヘッドにインクを供給する経路を所定時間加圧してノズルからインクを押し出させてから、インクジェットヘッドの吐出動作を行う。これにより、ノズル面においてノズルがインクで覆われた状態でインクジェットヘッドの吐出動作を行うので、インクやインクミストの飛散が抑えられ、装置内の汚染を抑制することができる。
【0013】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴によれば、メンテナンス時には、通常の印刷時の吐出動作を行う場合よりも高い圧力をノズルに加えるようにインクジェットヘッドを駆動することで、吐出の回復が困難な状態のインクジェットヘッドでも、吐出を回復することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の概略構成図である。
【図2】インク循環機構の概略構成図である。
【図3】インクジェットヘッドを構成する単位ヘッドの概略構成を一部断面で示す斜視図である。
【図4】図3に示す単位ヘッドに蓋体を備えた状態のA−A線に沿った断面図である。
【図5】図3におけるB−B線に沿った断面図である。
【図6】メンテナンスユニットの平面図である。
【図7】メンテナンスユニットおよびインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図8】図6におけるA−A線に沿った断面図である。
【図9】図1に示すインクジェット印刷装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図10】図1に示すインクジェット印刷装置におけるメンテナンス動作の手順を示すフローチャートである。
【図11】メンテナンスユニットの移動を説明するための図である。
【図12】メンテナンスユニットの移動を説明するための図である。
【図13】メンテナンスユニットの移動を説明するための図である。
【図14】擬似キャップ状態を示す図である。
【図15】インクジェットヘッドの駆動波形の一例を示す図である。
【図16】インクジェットヘッドの吐出動作を説明するための図である。
【図17】インクジェットヘッドの吐出動作を説明するための図である。
【図18】従来のフラッシング動作によるインクの吐出状態を示す図である。
【図19】擬似キャップ状態において吐出動作を行ったときのノズル面の状態を示す図である。
【図20】インクジェットヘッドの駆動波形の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0016】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の概略構成図、図2は、インク循環機構の概略構成図、図3は、インクジェットヘッドを構成する単位ヘッドの概略構成を一部断面で示す斜視図、図4は、図3に示す単位ヘッドに蓋体を備えた状態のA−A線に沿った断面図、図5は、図3におけるB−B線に沿った断面図、図6は、メンテナンスユニットの平面図、図7は、メンテナンスユニットおよびインクジェットヘッドの分解斜視図、図8は、図6におけるA−A線に沿った断面図、図9は、図1に示すインクジェット印刷装置の制御系の構成を示すブロック図である。以下の説明において、ユーザが位置する図1の紙面表方向を前方とする。また、図1に示すように、ユーザから見て、上下左右を上下左右方向とする。
【0018】
図1に示すように本実施の形態に係るインクジェット印刷装置1は、搬送部2と、ヘッドユニット3と、メンテナンスユニット4とを備える。
【0019】
搬送部2は、ヘッドユニット3に対向して設けられた搬送ベルト21と、搬送ベルト21を周回駆動させる駆動ローラ22と、駆動ローラ22に従動する従動ローラ23,24,25とを備える。
【0020】
搬送ベルト21は、駆動ローラ22および従動ローラ23,24,25に掛け渡され、印刷時において、駆動ローラ22の駆動により無端移動し、左側に設けられた図示しない給紙台から供給される用紙を保持して搬送する。
【0021】
搬送部2は、印刷時における位置である印刷位置と、その下方の退避位置との間で移動可能に構成されている。搬送部2の退避位置への移動は、ヘッドユニット3のメンテナンスを行う際に、メンテナンスユニット4を搬送部2とヘッドユニット3との間に移動させるために行われる。
【0022】
ヘッドユニット3は、ライン型のインクジェットヘッド31K,31C,31M,31Yを有し、搬送ベルト21により搬送される用紙にインクを吐出して画像を印刷するものである。インクジェットヘッド31K,31C,31M,31Yは、搬送部2の上方において、左右方向に所定間隔で配列される。インクジェットヘッド31K,31C,31M,31Yは、それぞれ、K(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の色の、異なる種類のインクを吐出する。
【0023】
図6、図7に示すように、インクジェットヘッド31Kは、3×2の千鳥型のマトリックス状に配置された6個の単位ヘッド311Kから構成されている。インクジェットヘッド31C,31M,31Yも同様に、それぞれ6個の単位ヘッド311C,311M,311Yから構成されている。
【0024】
なお、色の区別が必要ない場合等に、符号における色を示すアルファベットの添え字(K,C,M,Y)を省略して、例えば、インクジェットヘッドの符号を「31」、単位ヘッドの符号を「311」のように表記することがある。
【0025】
インクジェット印刷装置1は、インク循環型のインクジェット印刷装置であり、図2に示すような、インクボトルのインクを循環させるインク循環機構(図1では図示略)を有する。インク循環機構は、各色のインクジェットヘッド31K,31C,31M,31Yに対応してそれぞれ設けられる。各色に対応するインク循環機構5K,5C,5M,5Yは、同様の構成である。
【0026】
図2に示すように、インク循環機構5は、インクボトル51と、上流タンク52と、下流タンク53と、ポンプ54とを備える。また、インク循環機構5は、インクボトル51から下流タンク53につながる供給経路DRと、下流タンク53から上流タンク52、インクジェットヘッド31を通って下流タンク53に戻る循環経路CRとを備える。
【0027】
インクボトル51から供給されたインクは、供給経路DRを通って下流タンク53に一時的に溜められる。また、循環経路CRでは、下流タンク53に溜められたインクが、ポンプ54により上流タンク52に送られてから、インクジェットヘッド31に導かれる。インクジェットヘッド31で印刷に用いられなかったインクは下流タンク53に戻される。印刷で消費されたインク分はインクボトル51から供給経路DRに設けられた開閉弁55を介して下流タンク53に補給される。
【0028】
インクジェットヘッド31には、各単位ヘッド311にインクを供給するための分配器と、各単位ヘッド311から印刷に用いられなかったインクを集めるための集合器(いずれも図示せず)とが備えられている。
【0029】
インクジェットヘッド31におけるノズル面は、下流タンク53より高い位置に配置され、上流タンク52は、インクジェットヘッド31のノズル面より高い位置に配置されている。この位置関係に基づく水頭差により、上流タンク52からインクジェットヘッド31へのインクの供給およびインクジェットヘッド31から下流タンク53へのインクの帰還が行われる。
【0030】
上流タンク52および下流タンク53には、タンク内を密閉状態と大気開放状態との間で切り替える大気開放弁521,531がそれぞれ設けられている。また、循環経路CRにおけるインクジェットヘッド31と下流タンク53との間には、開閉弁56が設けられている。
【0031】
メンテナンス時に、インクジェットヘッド31にインクを供給する経路を加圧してインクジェットヘッド31からインクを押し出すパージ動作を行う際は、上流タンク52の大気開放弁521を閉じて密閉するとともに、開閉弁56を閉じてインクジェットヘッド31から下流タンク53への経路を閉じた状態で、ポンプ54が駆動される。これにより、インクジェットヘッド31にインクを供給する経路が加圧され、インクジェットヘッド31からインクが押し出される。ポンプ54は、本発明の加圧部として機能する。
【0032】
インクジェットヘッド31の単位ヘッド311には、図3〜図5に示すように、セラミック等からなる基板11とカバープレート12との間に、2つの圧電部材13a,13bからなる複数の隔壁13が配置されている。圧電部材13a,13bは、例えば、PZT(PbZrO3−PbTiO3)等の公知の圧電材料からなる。圧電部材13a,13bは、図5中の矢印で示すように、互いに異なる方向に分極している。
【0033】
基板11、カバープレート12、および隔壁13の先端には、ノズルプレート14が固定されている。これにより、基板11、カバープレート12、隔壁13、およびノズルプレート14に囲まれた複数のインク室15が並列して形成される。ノズルプレート14には、複数のノズル16が設けられている。インク室15の一端側はノズル16に連通されている。インク室15の他端側は、インク流入口17に連通している。インク流入口17は、図4に示すように蓋体18で覆われている。インク流入口17には、全インク室15が連通している。インク流入口17には、循環経路CRを介してインクが供給されるようになっている。
【0034】
インク室15の側面を構成する隔壁13および底面を構成する基板11の表面には、電極19が密着形成されている。インク室15内の電極19は、圧電部材13aの後部側表面まで延びている。各電極19には、異方導電性フィルム(図示せず)を介してフレキシブルケーブル20が接続されている。このフレキシブルケーブル20を介して電極19に駆動電圧が印加されるようになっている。
【0035】
電極19は、駆動電圧が印加されると、隔壁13をせん断変形させることによりインク室15の容積およびインク室15内の圧力を変化させる。これにより、ノズル16からインク室15内のインクが吐出される。
【0036】
メンテナンスユニット4は、インクジェットヘッド31のノズル面であるノズルプレート14の表面のクリーニングを行うものである。メンテナンスユニット4は、印刷時には、図1において実線で示す待機位置に配置される。待機位置は、搬送部2の右側の下方にある。メンテナンスユニット4は、メンテナンス動作を行う際には、図1において破線で示すメンテナンス位置に移動される。メンテナンス位置は、搬送部2とインクジェットヘッド31との間にある。
【0037】
図6〜図9に示すように、メンテナンスユニット4は、インク受け部材41と、駆動部42と、ワイパ部43と、移動モータ44と、上下モータ45とを備える。なお、図6〜図8は、メンテナンスユニット4がメンテナンス位置に配置された状態における図である。
【0038】
インク受け部材41は、クリーニングよって除去されたインク等を受けるものである。インク受け部材41は、メンテナンスユニット4の各部材を保持する。インク受け部材41は、直方体形状に形成されている。インク受け部材41の中央部には、インク等を受けるための凹部41aが形成されている。凹部41aは、平面視にて、インクジェットヘッド31が配置されている領域よりも大きくなるように形成されている。インク受け部材41の上側は、開口されている。
【0039】
駆動部42は、メンテナンス時にワイパ部43を前後方向に移動させるものである。駆動部42は、ワイパ駆動モータ421と、駆動ベルト422と、1対の駆動プーリ423a,423bと、1対のネジ歯車424a,424bとを備える。
【0040】
ワイパ駆動モータ421は、回転駆動力を生じさせる。ワイパ駆動モータ421は、インク受け部材41の前面の外側に配置されている。ワイパ駆動モータ421は、出力ギヤ421aを有する。出力ギヤ421aは、駆動ベルト422にワイパ駆動モータ421の回転駆動力を伝達する。出力ギヤ421aは、駆動ベルト422の中央部に配置されている。駆動ベルト422は、ワイパ駆動モータ421から伝達された回転駆動力を駆動プーリ423a,423bへと伝達する。駆動ベルト422は、駆動プーリ423aと駆動プーリ423bとの間に掛け渡されている。
【0041】
1対の駆動プーリ423a,423bは、駆動ベルト422から伝達された回転駆動力をネジ歯車424a,424bへと伝達する。駆動プーリ423aと駆動プーリ423bとは、左右方向に所定の間隔を開けて、同じ高さに配置されている。駆動プーリ423a,423bは、インク受け部材41の前面部に回転可能に支持されている。
【0042】
ネジ歯車424a,424bは、ワイパ駆動モータ421から伝達された回転駆動力によってワイパ部43を前後方向に移動させる。ネジ歯車424a,424bは、凹部41aの前後方向の略全長にわたって設けられている。ネジ歯車424a,424bの前端部は、それぞれ駆動プーリ423a,423bの後端に固定されている。ネジ歯車424a,424bの後端部は、インク受け部材71の右壁に回転可能に支持されている。これにより、ネジ歯車424a,424bは、それぞれ駆動プーリ423a,423bとともに回転される。
【0043】
ワイパ部43は、メンテナンス時において、インクジェットヘッド31の単位ヘッド311のノズル面311aをワイプして、ノズル面311aに付着したインク等を除去するものであり、取付台431と、8枚のワイパ432とを備える。
【0044】
取付台431は、ワイパ432が取り付けられるものであり、前後方向に細長い角柱状の部材により構成されている。取付台431には、1対のネジ孔431a,431bが形成されている。ネジ孔431a,431bには、それぞれネジ歯車424a,424bが貫通され、かつ、螺合されている。これにより、ネジ歯車424a,424bが回転されると、取付台431は前後方向に移動する。
【0045】
ワイパ432は、インクジェットヘッド31の単位ヘッド311のノズル面311aを摺動することによってインク等を除去する。ワイパ432は、弾性変形可能なゴム等の材料で構成されている。ワイパ432を構成する材料は、ノズル面311aを破損させない程度の弾力を有する材料であることが好ましい。ワイパ432は、長方形の薄板状に形成されている。ワイパ432の下端部は、図示しない固定具によって取付台431の後面に固定されている。図6に示すように、8枚のワイパ432は、平面視にて、前後方向に配列された単位ヘッド311の各列の延長線上に配置されている。図8に示すように、ワイパ432の上端部は、取付台431の上面よりも高くなるように構成されている。ワイパ432の上端部は、メンテナンス位置において、単位ヘッド311のノズル面311aよりも高くなるように配置されている。これにより、ワイパ432は、前後方向に移動されて単位ヘッド311と接すると、弾性変形されてノズル面311aを摺動する。
【0046】
移動モータ44は、メンテナンスユニット4を図1に示した待機位置と後述する退避位置との間で移動させるものである。
【0047】
上下モータ45は、搬送部2とともにメンテナンスユニット4を上下に移動させるものである。これにより、上下モータ45は、搬送部2およびメンテナンスユニット4を図1に示したメンテナンス位置、印刷位置、および退避位置の間で移動させる。
【0048】
また、図9に示すように、インクジェット印刷装置1は、ヘッド駆動部6と、入力部7と、制御部8とを備える。
【0049】
ヘッド駆動部6は、インクジェットヘッド31を駆動してインクを吐出させる。具体的には、ヘッド駆動部6は、フレキシブルケーブル20を介して単位ヘッド311の電極19に駆動電圧を印加し、これにより隔壁13を変形させてインク室15の容積およびインク室15内の圧力を変化させ、ノズル16からインクを吐出させる。
【0050】
入力部7は、各種操作ボタン、タッチパネル(いずれも図示せず)等を有し、ユーザによる入力操作を受け付け、操作に応じた操作信号を出力する。
【0051】
制御部8は、CPU、メモリ(いずれも図示せず)等を備えて構成され、インクジェット印刷装置1全体の動作を統括的に制御するものである。
【0052】
インクジェットヘッド31のメンテナンス動作に関する制御内容として、制御部8は、インク循環機構5を制御してインクジェットヘッド31にインクを供給する経路を所定時間加圧してインクジェットヘッド31からインクを押し出させてから、インクジェットヘッド31に吐出動作を行わせるようヘッド駆動部6を制御する。
【0053】
次に、インクジェット印刷装置1におけるメンテナンス動作について説明する。
【0054】
メンテナンス動作は、予め定められたタイミングや、ユーザの入力部7の操作による開始指示が入力されたタイミング等で行われる。
【0055】
図10は、インクジェット印刷装置1におけるメンテナンス動作の手順を示すフローチャートである。
【0056】
まず、ステップS10において、制御部8は、メンテナンスユニット4をメンテナンス位置に移動させる。この際、まず、制御部8は、上下モータ45を駆動させて、図11に示すように、搬送部2を印刷位置から下方の退避位置へと移動させる。次いで、制御部8は、移動モータ44を駆動させて、図12に示すように、メンテナンスユニット4を待機位置から左上方の退避位置へと移動させる。その後、制御部8は、上下モータ45を駆動させて、図13に示すように、搬送部2を退避位置から上方のメンテナンス位置へと移動させる。これにより、メンテナンスユニット4が、退避位置からメンテナンス位置へと移動する。ここで、メンテナンスユニット4がメンテナンス位置に移動されると、図8に示したように、ワイパ432の上端部は、インクジェットヘッド31の単位ヘッド311のノズル面311aよりも上方に位置する。また、図6のように、ワイパ432は、前後方向において、最も前側の単位ヘッド311の前方に配置されている。
【0057】
次いで、ステップS20において、制御部8は、パージ動作によりインクジェットヘッド31からインクを押し出すために、インクジェットヘッド31にインクを供給する経路の加圧を開始するようインク循環機構5を制御する。具体的には、制御部8は、上流タンク52の大気開放弁521を閉じて密閉するとともに、開閉弁56を閉じてインクジェットヘッド31から下流タンク53への経路を閉じる。この状態で、制御部8は、ポンプ54を駆動させる。これにより、循環経路CRにおけるインクジェットヘッド31へのインク供給経路内が加圧される。これにより、単位ヘッド311においてノズル16からインクが押し出される。
【0058】
次いで、ステップS30において、制御部8は、加圧を開始してから、予め設定された所定時間が経過したか否かを判断する。所定時間が経過した場合(ステップS30:YES)、ステップS40に進み、所定時間が経過していない場合(ステップS30:NO)、制御部8は、所定時間が経過するまで加圧を続けるよう制御する。
【0059】
ステップS40では、制御部8は、ステップS20で開始した加圧を終了してパージ動作を終了するようインク循環機構5を制御する。具体的には、制御部8は、ポンプ54の駆動を停止し、上流タンク52の大気開放弁521および開閉弁56を開ける。
【0060】
上記パージ動作により押し出されたインク9は、図14に示すように、ノズル面311a上でノズル16を覆うように広がる。これにより、ノズル16は、インク9によりキャップされたような状態(擬似キャップ状態)となる。
【0061】
次いで、ステップS50において、制御部8は、ヘッド駆動部6にインクジェットヘッド31の吐出駆動(フラッシング動作)を開始させる。ヘッド駆動部6は、各単位ヘッド311の電極19に対して、図15のような波形で示される電圧の印加を行う。図15は、1回の吐出動作のために電極19に印加される電圧の波形図である。
【0062】
ここで、図15のような電圧が電極19に印加されたときの単位ヘッド311における吐出動作について説明する。図5中における中央のインク室15が吐出動作する場合について説明する。
【0063】
図5に示す定常状態から、ヘッド駆動部6は、吐出対象である図中中央のインク室15の両側に隣接するインク室15の電極19を接地し、中央のインク室15の電極19に、図15に示す負電圧−VAの拡張パルスP1を印加する。これにより、中央のインク室15の両側の隔壁13を構成する圧電部材13a,13bの分極方向に垂直な方向の電界が生じる。これにより、圧電部材13a,13bの接合面にズリ変形が生じ、図16に示すように、中央のインク室15の両側の隔壁13は互いに離反する方向に変形し、中央のインク室15の容積が拡張する。この結果、中央のインク室15内のインクに負圧が生じて、インク流入口17からインク室15にインクが流れ込む。
【0064】
拡張パルスP1のパルス長は1ALである。AL(Acoustic Length)は、容積が拡張したインク室15にインクが流入することによる圧力波が、インク室15の全域を伝播してノズル16に達するまでの時間であり、単位ヘッド311の構造や、インクの密度等に依存して決まるものである。
【0065】
拡張パルスP1の印加後、ヘッド駆動部6は、図15に示すように、印加する電圧を接地電位に戻す。これにより、中央のインク室15の両側の隔壁13は、図16の状態から、図5のような中立位置に戻る。この結果、中央のインク室15内のインクが急激に加圧され、対応するノズル16からインクが吐出される。
【0066】
中央のインク室15の電極19に印加する電圧を接地電位に戻してから1ALの休止時間が経過すると、ヘッド駆動部6は、中央のインク室15の電極19に正電圧VAの収縮パルスP2を印加する。収縮パルスP2のパルス長は1ALである。この収縮パルスP2の印加により、図17に示すように、中央のインク室15の両側の隔壁13は互いに接近する方向に変形し、中央のインク室15の容積が収縮する。
【0067】
インクは、拡張パルスP1の印加終了直後にインク室15内の圧力がピークを迎えることで吐出される。圧力がピークを迎えた後、インク室15内には負圧が生じる。収縮パルスP2を印加してインク室15内の容積を収縮させて加圧力を発生させることで、インク吐出後のインク室15内の負圧が抑えられ、インク室15内におけるインクの残留振動が減衰される。これにより、次回の吐出動作を安定して行うことができる。
【0068】
収縮パルスP2の印加後、ヘッド駆動部6は、中央のインク室15の電極19に印加する電圧を接地電位とし、図5の状態に戻す。以上により1回の吐出動作が終了する。
【0069】
ここで、図3〜図5に示したようなシェアモード型のインクジェットヘッド(単位ヘッド311)では、上述のように隔壁13の変形を利用してインク吐出を行うので、隣接したインク室15を同時に吐出駆動することはできない。このため、制御部8は、単位ヘッド311が有する全インク室15を2つおきに同じグループに属するように3つのグループに分割する。そして、制御部8は、グループごとに順にインク室15を駆動させてノズル16からインクを吐出させ、3つのグループの駆動を1周期とし、これを繰り返すよう駆動制御する。
【0070】
本実施の形態では、各ノズル16から所定回数(例えば数十回)の吐出動作を行う。図10のステップS60において、制御部8は、各ノズル16から所定回数の吐出動作が終了したか否かを判断する。所定回数の吐出動作が終了した場合(ステップS60:YES)、ステップS70において、制御部8は、吐出駆動(フラッシング動作)を終了するようヘッド駆動部6を制御する。所定回数の吐出動作が終了していない場合(ステップS60:NO)、制御部8は、吐出動作の回数が所定回数になるまでヘッド駆動部6に吐出駆動を行わせる。
【0071】
上記の吐出駆動は、前述の図14に示したような擬似キャップ状態で行われる。従来のフラッシング動作では、図18に示すようにインクが吐出され、吐出されたインクやインクミストを吸引回収等する手段を設けなければ、吐出されたインクやインクミストが装置内を浮遊して装置を汚染する。これに対し、本実施の形態で形成される擬似キャップ状態では、ノズル16がインク9で覆われているため、吐出動作によりノズル16にかかる圧力が高くなってもノズル16の圧力損失でノズル面311aのインク9には高い圧力は加わらない。また、ノズル面311aにインク9が広がっていることで、吐出動作によりノズル16から出てくるインクは分散され、インク滴としては吐出されない。このため、擬似キャップ状態で吐出動作を行うと、図19に示すように、ノズル面311aにインク9が溜まった状態になり、そこからインクは垂れ落ちる。したがって、インクやインクミストの飛散が抑えられる。ノズル16に付着した付着物等は、吐出動作によりインクとともに排出される。
【0072】
吐出駆動を終了すると、ステップS80において、制御部8は、ワイパ駆動モータ421を駆動させることにより、ワイパ432を移動させて、インクジェットヘッド31のワイプを行う。
【0073】
ワイパ駆動モータ421が駆動されると、ワイパ駆動モータ421の回転駆動力が、出力ギヤ421a、駆動ベルト422、駆動プーリ423a,423bを伝達して、ネジ歯車424a,424bを回転させる。この結果、ワイパ432が、ネジ歯車424a,424bに螺合されている取付台431とともに後方へと移動する。ワイパ432の上部が単位ヘッド311と接触する位置まで移動すると、ワイパ432は単位ヘッド311に押圧されて弾性変形する。この状態でさらにワイパ432が後方へ移動すると、ワイパ432の後面が、単位ヘッド311のノズル面311aを摺動する。
【0074】
このように行われるワイプにより、ノズル面311aに付着したインク9が、ノズル面311aに付着したゴミ等とともに除去される。これにより、正常なインク吐出が可能な状態となる。ワイパ432が最も後方の単位ヘッド311よりも後方まで移動すると、制御部8は、ワイパ駆動モータ421を停止する。これにより、ワイパ432および取付台431が停止する。なお、制御部8は、ワイパ432の位置を位置検出センサやロータリーエンコーダ等により検出する。
【0075】
次いで、ステップS90において、制御部8は、ワイパ432を初期位置に戻すよう制御する。具体的には、制御部8は、上下モータ45を駆動させて、搬送部2とともにメンテナンスユニット4を下方の退避位置へと移動させる。この退避位置では、ワイパ432の上端部は、単位ヘッド311のノズル面311aよりも下方に位置する。次いで、制御部8は、ワイパ駆動モータ421を駆動させて、ワイパ432を前方へと移動させ、図6に示した初期位置までワイパ432が移動すると、ワイパ駆動モータ421を停止させる。ここで、メンテナンスユニット4は退避位置に配置されているので、ワイパ432は、単位ヘッド311と接触することなく移動する。
【0076】
そして、ステップS100において、制御部8は、移動モータ44を駆動させて、メンテナンスユニット4を図1において実線で示す待機位置まで移動させる。そして、制御部8は、上下モータ45を駆動させて、搬送部2を図1に示す印刷位置へと移動させる。以上により、一連のメンテナンス動作が終了する。
【0077】
以上説明したように本実施の形態によれば、メンテナンス動作において、まずパージ動作により、ノズル面311aにおいてノズル16をインク9で覆う擬似キャップ状態を形成し、その状態でインクジェットヘッド31の吐出駆動(フラッシング動作)を行う。これにより、インクやインクミストの飛散が抑えられ、装置内の汚染を抑制することができる。
【0078】
また、単位ヘッド311を覆うキャップや吸引ポンプ等の、フラッシング動作で吐出されるインクやインクミストを吸引回収するための構成を設ける必要がなく、装置構成の複雑化および大型化を招くことなく、装置内の汚染を抑制することができる。
【0079】
なお、上記実施の形態では、パージ動作におけるインク経路の加圧を終了してから、インクジェットヘッド31の吐出動作を行ったが、吐出動作を開始させた後も、インク経路の加圧を継続するようにしてもよい。例えば、所定回数の吐出動作を終了するまでインク経路の加圧を継続してもよい。
【0080】
擬似キャップ状態でインクジェットヘッド31を吐出駆動しているとき、吐出駆動によってノズル16からインクが出て、擬似キャップを形成するインク量が多くなって、ノズル面311aから垂れ落ちてしまうおそれがある。インク9が垂れ落ちてノズル16を覆うインク9(擬似キャップ)がなくなってしまうと、図18のように、吐出駆動により通常のフラッシング動作時と同様にインクが吐出されてしまう。こうなると、インクやインクミストが飛散して装置内の汚染を招く。
【0081】
そこで、吐出動作を開始させた後もインク経路の加圧を継続すれば、上記のようにインクが垂れ落ちても、インク経路の加圧によりノズル16から押し出されるインクがノズル面311aに供給され続けるので、擬似キャップ状態を維持できる。これにより、インクやインクミストの飛散が抑えられ、装置内の汚染を抑制することができる。
【0082】
また、インクジェットヘッド31の吐出動作を行う際、通常の印刷時の吐出動作を行う場合よりも高い圧力をノズル16に加えるようにインクジェットヘッド31を駆動してもよい。
【0083】
前述した図15の波形は、通常の印刷時にヘッド駆動部6が用いる駆動波形(通常波形)である。これに対し、ノズル16により高い圧力を加えるためには、例えば、ヘッド駆動部6により、図20に示すような波形の電圧を電極19に印加する。
【0084】
図20の駆動波形では、図15の通常波形のような拡張パルスP1と収縮パルスP2との間の休止時間を省略し、拡張パルスP1に連続して、正電圧VAの収縮パルスP3を電極19に印加する。これにより、インク室15は、図16の状態から直接、図17の状態に移行する。このため、インク室15内のインクが急激に加圧され、ノズル16に高い圧力が加わる。この結果、通常の印刷時と同様の吐出動作では除去できない付着物等があって吐出の回復が困難な状態のインクジェットヘッド31でも、高い圧力をノズル16に加えることで付着物等を除去して吐出を回復することが可能となる。
【0085】
なお、図20に示した波形に限らず、通常波形を用いた場合よりもノズル16に高い圧力を加えられる駆動波形であればどのようなものを用いてもよい。
【0086】
上記実施の形態では、パージ動作により、インク経路を所定時間、加圧しているが、この加圧時間を、環境温度に応じて変動させてもよい。
【0087】
環境温度が低温の場合は、インクの粘度が大きくなって、パージ動作時にインクが押し出されにくい。逆に、環境温度が高温の場合は、インクの粘度が小さくなり、パージ動作時にインクが押し出されやすい。そこで、環境温度が低くなるにつれて、パージ動作時の加圧時間が長くなるようにして、ノズル16から押し出されるインク量が適量になるようにしてもよい。
【0088】
また、ユーザが入力部7を操作することにより、パージ動作時の加圧時間を設定できるようにしてもよい。
【0089】
上記実施の形態のメンテナンス時におけるインクジェットヘッド31の吐出動作を行う時間の長さを、ユーザが入力部7を操作することにより設定できるようにしてもよい。この場合、制御部8は、設定された時間で可能な回数の吐出動作を行うようヘッド駆動部6を制御する。このようにすれば、ユーザが、印刷物を見て吐出不良の程度を判断し、その判断に基づいて、メンテナンス時の吐出動作の時間(回数)を設定できる。
【0090】
上記実施の形態においては、ライン型のインクジェット印刷装置で説明したが、本発明はこれに限らず、ライン型以外のインクジェット印刷装置にも適用可能である。
【0091】
また、上記実施の形態においては、インク循環型のインクジェット印刷装置で説明したが、インクを循環させない方式のインクジェット印刷装置にも本発明は適用可能である。
【0092】
また、上記実施の形態においては、シェアモード型のインクジェットヘッドを用いたインクジェット印刷装置で説明したが、本発明はこれに限らず、他の方式のインクジェットヘッドを用いたインクジェット印刷装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 インクジェット印刷装置
2 搬送部
3 ヘッドユニット
4 メンテナンスユニット
5 インク循環機構
6 ヘッド駆動部
7 入力部
8 制御部
16 ノズル
31 インクジェットヘッド
54 ポンプ
311 単位ヘッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置では、待機中や使用中にインク溶媒の揮発などにより、インクジェットヘッドのノズルに析出物などが付着することがある。このような付着物等があると、ノズルからのインクの吐出方向の乱れや不吐出などの吐出不良が発生し、記録品質の低下を招く。
【0003】
上記のような付着物等によるインクの吐出不良を解消するために、インクジェット印刷装置においては、メンテナンス動作が行われている。メンテナンス動作として、印字動作の合間などに、印字に使用しないインクの吐出を行うことによりノズルから付着物等を取り除くフラッシング動作が知られている。また、他のメンテナンス動作として、インクジェットヘッドへインクを供給する経路を加圧してノズルからインクを押し出すパージ動作を行い、押し出されたインクとともに、ノズル面に付着したゴミ等をワイパで除去する動作が知られている。
【0004】
フラッシング動作では、パージ動作よりも個々のノズルに対して高い圧力を加えることができ、ノズルから付着物等を取り除く効果が高い。フラッシング動作を行う場合は、吐出されるインクや、吐出により発生するインクミストを受ける手段が必要になる。そこで、フラッシング動作時にインクジェットヘッドの下方に配置され、インクやインクミストを受けるトレー状のインク受け部材を設けた装置が知られている。
【0005】
しかし、上記のようにインクジェットヘッドの下方にインク受け部材を設けても、インクジェットヘッドとインク受け部材との間に空間があるため、吐出されたインクやインクミストが浮遊して装置内を汚染することがある。特に、ノズル内に異物や増粘したインク等がある状態で吐出駆動すると、吐出が乱れ、細かいミスト状のインクが吐出されてしまったり、インクが下方向に正常に吐出されない状態が発生したりする。このため、装置内に浮遊するインクミスト等が増加し、装置内の汚染が悪化するおそれがある。また、吐出回復能力を高めるために、ノズル圧が高くなるようにインクジェットヘッドを駆動した場合も同様に、インクの吐出状態が乱れやすくなり、装置内の汚染が悪化するおそれがある。
【0006】
そこで、フラッシング動作を行う際、インクジェットヘッドのノズル面をキャップで覆い、吸引ポンプを用いてキャップ内に吐出されたインクおよびインクミストを吸引回収する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、吐出されたインクやインクミストにより装置内が汚染されることを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−106304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のように、フラッシング動作で吐出されたインクやインクミストを吸引回収するためには、インクジェットヘッドに密着し密閉可能なキャップ、インクやインクミストを吸引するための吸引ポンプおよび吸引経路等の構成を設ける必要がある。このような構成を設けることは、装置構成の複雑化および大型化を招く。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、装置構成の複雑化および大型化を回避しつつ、メンテナンス動作による装置内の汚染を抑制することができるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴は、インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドへインクを供給する経路を加圧することにより前記ノズルからインクを押し出させる加圧部と、前記インクジェットヘッドを駆動してインクを吐出させるヘッド駆動部と、前記インクジェットヘッドのメンテナンス時において、前記加圧部により前記経路を所定時間加圧して前記ノズルからインクを押し出させてから、前記ヘッド駆動部により前記インクジェットヘッドに吐出動作を行わせるよう制御する制御部とを備えることにある。
【0011】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴は、前記制御部は、前記メンテナンス時に前記インクジェットヘッドの吐出動作を行う際は、通常の印刷時の吐出動作を行う場合よりも高い圧力を前記ノズルに加えるよう前記ヘッド駆動部を制御することにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴によれば、メンテナンス時において、インクジェットヘッドにインクを供給する経路を所定時間加圧してノズルからインクを押し出させてから、インクジェットヘッドの吐出動作を行う。これにより、ノズル面においてノズルがインクで覆われた状態でインクジェットヘッドの吐出動作を行うので、インクやインクミストの飛散が抑えられ、装置内の汚染を抑制することができる。
【0013】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴によれば、メンテナンス時には、通常の印刷時の吐出動作を行う場合よりも高い圧力をノズルに加えるようにインクジェットヘッドを駆動することで、吐出の回復が困難な状態のインクジェットヘッドでも、吐出を回復することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の概略構成図である。
【図2】インク循環機構の概略構成図である。
【図3】インクジェットヘッドを構成する単位ヘッドの概略構成を一部断面で示す斜視図である。
【図4】図3に示す単位ヘッドに蓋体を備えた状態のA−A線に沿った断面図である。
【図5】図3におけるB−B線に沿った断面図である。
【図6】メンテナンスユニットの平面図である。
【図7】メンテナンスユニットおよびインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図8】図6におけるA−A線に沿った断面図である。
【図9】図1に示すインクジェット印刷装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図10】図1に示すインクジェット印刷装置におけるメンテナンス動作の手順を示すフローチャートである。
【図11】メンテナンスユニットの移動を説明するための図である。
【図12】メンテナンスユニットの移動を説明するための図である。
【図13】メンテナンスユニットの移動を説明するための図である。
【図14】擬似キャップ状態を示す図である。
【図15】インクジェットヘッドの駆動波形の一例を示す図である。
【図16】インクジェットヘッドの吐出動作を説明するための図である。
【図17】インクジェットヘッドの吐出動作を説明するための図である。
【図18】従来のフラッシング動作によるインクの吐出状態を示す図である。
【図19】擬似キャップ状態において吐出動作を行ったときのノズル面の状態を示す図である。
【図20】インクジェットヘッドの駆動波形の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0016】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の概略構成図、図2は、インク循環機構の概略構成図、図3は、インクジェットヘッドを構成する単位ヘッドの概略構成を一部断面で示す斜視図、図4は、図3に示す単位ヘッドに蓋体を備えた状態のA−A線に沿った断面図、図5は、図3におけるB−B線に沿った断面図、図6は、メンテナンスユニットの平面図、図7は、メンテナンスユニットおよびインクジェットヘッドの分解斜視図、図8は、図6におけるA−A線に沿った断面図、図9は、図1に示すインクジェット印刷装置の制御系の構成を示すブロック図である。以下の説明において、ユーザが位置する図1の紙面表方向を前方とする。また、図1に示すように、ユーザから見て、上下左右を上下左右方向とする。
【0018】
図1に示すように本実施の形態に係るインクジェット印刷装置1は、搬送部2と、ヘッドユニット3と、メンテナンスユニット4とを備える。
【0019】
搬送部2は、ヘッドユニット3に対向して設けられた搬送ベルト21と、搬送ベルト21を周回駆動させる駆動ローラ22と、駆動ローラ22に従動する従動ローラ23,24,25とを備える。
【0020】
搬送ベルト21は、駆動ローラ22および従動ローラ23,24,25に掛け渡され、印刷時において、駆動ローラ22の駆動により無端移動し、左側に設けられた図示しない給紙台から供給される用紙を保持して搬送する。
【0021】
搬送部2は、印刷時における位置である印刷位置と、その下方の退避位置との間で移動可能に構成されている。搬送部2の退避位置への移動は、ヘッドユニット3のメンテナンスを行う際に、メンテナンスユニット4を搬送部2とヘッドユニット3との間に移動させるために行われる。
【0022】
ヘッドユニット3は、ライン型のインクジェットヘッド31K,31C,31M,31Yを有し、搬送ベルト21により搬送される用紙にインクを吐出して画像を印刷するものである。インクジェットヘッド31K,31C,31M,31Yは、搬送部2の上方において、左右方向に所定間隔で配列される。インクジェットヘッド31K,31C,31M,31Yは、それぞれ、K(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の色の、異なる種類のインクを吐出する。
【0023】
図6、図7に示すように、インクジェットヘッド31Kは、3×2の千鳥型のマトリックス状に配置された6個の単位ヘッド311Kから構成されている。インクジェットヘッド31C,31M,31Yも同様に、それぞれ6個の単位ヘッド311C,311M,311Yから構成されている。
【0024】
なお、色の区別が必要ない場合等に、符号における色を示すアルファベットの添え字(K,C,M,Y)を省略して、例えば、インクジェットヘッドの符号を「31」、単位ヘッドの符号を「311」のように表記することがある。
【0025】
インクジェット印刷装置1は、インク循環型のインクジェット印刷装置であり、図2に示すような、インクボトルのインクを循環させるインク循環機構(図1では図示略)を有する。インク循環機構は、各色のインクジェットヘッド31K,31C,31M,31Yに対応してそれぞれ設けられる。各色に対応するインク循環機構5K,5C,5M,5Yは、同様の構成である。
【0026】
図2に示すように、インク循環機構5は、インクボトル51と、上流タンク52と、下流タンク53と、ポンプ54とを備える。また、インク循環機構5は、インクボトル51から下流タンク53につながる供給経路DRと、下流タンク53から上流タンク52、インクジェットヘッド31を通って下流タンク53に戻る循環経路CRとを備える。
【0027】
インクボトル51から供給されたインクは、供給経路DRを通って下流タンク53に一時的に溜められる。また、循環経路CRでは、下流タンク53に溜められたインクが、ポンプ54により上流タンク52に送られてから、インクジェットヘッド31に導かれる。インクジェットヘッド31で印刷に用いられなかったインクは下流タンク53に戻される。印刷で消費されたインク分はインクボトル51から供給経路DRに設けられた開閉弁55を介して下流タンク53に補給される。
【0028】
インクジェットヘッド31には、各単位ヘッド311にインクを供給するための分配器と、各単位ヘッド311から印刷に用いられなかったインクを集めるための集合器(いずれも図示せず)とが備えられている。
【0029】
インクジェットヘッド31におけるノズル面は、下流タンク53より高い位置に配置され、上流タンク52は、インクジェットヘッド31のノズル面より高い位置に配置されている。この位置関係に基づく水頭差により、上流タンク52からインクジェットヘッド31へのインクの供給およびインクジェットヘッド31から下流タンク53へのインクの帰還が行われる。
【0030】
上流タンク52および下流タンク53には、タンク内を密閉状態と大気開放状態との間で切り替える大気開放弁521,531がそれぞれ設けられている。また、循環経路CRにおけるインクジェットヘッド31と下流タンク53との間には、開閉弁56が設けられている。
【0031】
メンテナンス時に、インクジェットヘッド31にインクを供給する経路を加圧してインクジェットヘッド31からインクを押し出すパージ動作を行う際は、上流タンク52の大気開放弁521を閉じて密閉するとともに、開閉弁56を閉じてインクジェットヘッド31から下流タンク53への経路を閉じた状態で、ポンプ54が駆動される。これにより、インクジェットヘッド31にインクを供給する経路が加圧され、インクジェットヘッド31からインクが押し出される。ポンプ54は、本発明の加圧部として機能する。
【0032】
インクジェットヘッド31の単位ヘッド311には、図3〜図5に示すように、セラミック等からなる基板11とカバープレート12との間に、2つの圧電部材13a,13bからなる複数の隔壁13が配置されている。圧電部材13a,13bは、例えば、PZT(PbZrO3−PbTiO3)等の公知の圧電材料からなる。圧電部材13a,13bは、図5中の矢印で示すように、互いに異なる方向に分極している。
【0033】
基板11、カバープレート12、および隔壁13の先端には、ノズルプレート14が固定されている。これにより、基板11、カバープレート12、隔壁13、およびノズルプレート14に囲まれた複数のインク室15が並列して形成される。ノズルプレート14には、複数のノズル16が設けられている。インク室15の一端側はノズル16に連通されている。インク室15の他端側は、インク流入口17に連通している。インク流入口17は、図4に示すように蓋体18で覆われている。インク流入口17には、全インク室15が連通している。インク流入口17には、循環経路CRを介してインクが供給されるようになっている。
【0034】
インク室15の側面を構成する隔壁13および底面を構成する基板11の表面には、電極19が密着形成されている。インク室15内の電極19は、圧電部材13aの後部側表面まで延びている。各電極19には、異方導電性フィルム(図示せず)を介してフレキシブルケーブル20が接続されている。このフレキシブルケーブル20を介して電極19に駆動電圧が印加されるようになっている。
【0035】
電極19は、駆動電圧が印加されると、隔壁13をせん断変形させることによりインク室15の容積およびインク室15内の圧力を変化させる。これにより、ノズル16からインク室15内のインクが吐出される。
【0036】
メンテナンスユニット4は、インクジェットヘッド31のノズル面であるノズルプレート14の表面のクリーニングを行うものである。メンテナンスユニット4は、印刷時には、図1において実線で示す待機位置に配置される。待機位置は、搬送部2の右側の下方にある。メンテナンスユニット4は、メンテナンス動作を行う際には、図1において破線で示すメンテナンス位置に移動される。メンテナンス位置は、搬送部2とインクジェットヘッド31との間にある。
【0037】
図6〜図9に示すように、メンテナンスユニット4は、インク受け部材41と、駆動部42と、ワイパ部43と、移動モータ44と、上下モータ45とを備える。なお、図6〜図8は、メンテナンスユニット4がメンテナンス位置に配置された状態における図である。
【0038】
インク受け部材41は、クリーニングよって除去されたインク等を受けるものである。インク受け部材41は、メンテナンスユニット4の各部材を保持する。インク受け部材41は、直方体形状に形成されている。インク受け部材41の中央部には、インク等を受けるための凹部41aが形成されている。凹部41aは、平面視にて、インクジェットヘッド31が配置されている領域よりも大きくなるように形成されている。インク受け部材41の上側は、開口されている。
【0039】
駆動部42は、メンテナンス時にワイパ部43を前後方向に移動させるものである。駆動部42は、ワイパ駆動モータ421と、駆動ベルト422と、1対の駆動プーリ423a,423bと、1対のネジ歯車424a,424bとを備える。
【0040】
ワイパ駆動モータ421は、回転駆動力を生じさせる。ワイパ駆動モータ421は、インク受け部材41の前面の外側に配置されている。ワイパ駆動モータ421は、出力ギヤ421aを有する。出力ギヤ421aは、駆動ベルト422にワイパ駆動モータ421の回転駆動力を伝達する。出力ギヤ421aは、駆動ベルト422の中央部に配置されている。駆動ベルト422は、ワイパ駆動モータ421から伝達された回転駆動力を駆動プーリ423a,423bへと伝達する。駆動ベルト422は、駆動プーリ423aと駆動プーリ423bとの間に掛け渡されている。
【0041】
1対の駆動プーリ423a,423bは、駆動ベルト422から伝達された回転駆動力をネジ歯車424a,424bへと伝達する。駆動プーリ423aと駆動プーリ423bとは、左右方向に所定の間隔を開けて、同じ高さに配置されている。駆動プーリ423a,423bは、インク受け部材41の前面部に回転可能に支持されている。
【0042】
ネジ歯車424a,424bは、ワイパ駆動モータ421から伝達された回転駆動力によってワイパ部43を前後方向に移動させる。ネジ歯車424a,424bは、凹部41aの前後方向の略全長にわたって設けられている。ネジ歯車424a,424bの前端部は、それぞれ駆動プーリ423a,423bの後端に固定されている。ネジ歯車424a,424bの後端部は、インク受け部材71の右壁に回転可能に支持されている。これにより、ネジ歯車424a,424bは、それぞれ駆動プーリ423a,423bとともに回転される。
【0043】
ワイパ部43は、メンテナンス時において、インクジェットヘッド31の単位ヘッド311のノズル面311aをワイプして、ノズル面311aに付着したインク等を除去するものであり、取付台431と、8枚のワイパ432とを備える。
【0044】
取付台431は、ワイパ432が取り付けられるものであり、前後方向に細長い角柱状の部材により構成されている。取付台431には、1対のネジ孔431a,431bが形成されている。ネジ孔431a,431bには、それぞれネジ歯車424a,424bが貫通され、かつ、螺合されている。これにより、ネジ歯車424a,424bが回転されると、取付台431は前後方向に移動する。
【0045】
ワイパ432は、インクジェットヘッド31の単位ヘッド311のノズル面311aを摺動することによってインク等を除去する。ワイパ432は、弾性変形可能なゴム等の材料で構成されている。ワイパ432を構成する材料は、ノズル面311aを破損させない程度の弾力を有する材料であることが好ましい。ワイパ432は、長方形の薄板状に形成されている。ワイパ432の下端部は、図示しない固定具によって取付台431の後面に固定されている。図6に示すように、8枚のワイパ432は、平面視にて、前後方向に配列された単位ヘッド311の各列の延長線上に配置されている。図8に示すように、ワイパ432の上端部は、取付台431の上面よりも高くなるように構成されている。ワイパ432の上端部は、メンテナンス位置において、単位ヘッド311のノズル面311aよりも高くなるように配置されている。これにより、ワイパ432は、前後方向に移動されて単位ヘッド311と接すると、弾性変形されてノズル面311aを摺動する。
【0046】
移動モータ44は、メンテナンスユニット4を図1に示した待機位置と後述する退避位置との間で移動させるものである。
【0047】
上下モータ45は、搬送部2とともにメンテナンスユニット4を上下に移動させるものである。これにより、上下モータ45は、搬送部2およびメンテナンスユニット4を図1に示したメンテナンス位置、印刷位置、および退避位置の間で移動させる。
【0048】
また、図9に示すように、インクジェット印刷装置1は、ヘッド駆動部6と、入力部7と、制御部8とを備える。
【0049】
ヘッド駆動部6は、インクジェットヘッド31を駆動してインクを吐出させる。具体的には、ヘッド駆動部6は、フレキシブルケーブル20を介して単位ヘッド311の電極19に駆動電圧を印加し、これにより隔壁13を変形させてインク室15の容積およびインク室15内の圧力を変化させ、ノズル16からインクを吐出させる。
【0050】
入力部7は、各種操作ボタン、タッチパネル(いずれも図示せず)等を有し、ユーザによる入力操作を受け付け、操作に応じた操作信号を出力する。
【0051】
制御部8は、CPU、メモリ(いずれも図示せず)等を備えて構成され、インクジェット印刷装置1全体の動作を統括的に制御するものである。
【0052】
インクジェットヘッド31のメンテナンス動作に関する制御内容として、制御部8は、インク循環機構5を制御してインクジェットヘッド31にインクを供給する経路を所定時間加圧してインクジェットヘッド31からインクを押し出させてから、インクジェットヘッド31に吐出動作を行わせるようヘッド駆動部6を制御する。
【0053】
次に、インクジェット印刷装置1におけるメンテナンス動作について説明する。
【0054】
メンテナンス動作は、予め定められたタイミングや、ユーザの入力部7の操作による開始指示が入力されたタイミング等で行われる。
【0055】
図10は、インクジェット印刷装置1におけるメンテナンス動作の手順を示すフローチャートである。
【0056】
まず、ステップS10において、制御部8は、メンテナンスユニット4をメンテナンス位置に移動させる。この際、まず、制御部8は、上下モータ45を駆動させて、図11に示すように、搬送部2を印刷位置から下方の退避位置へと移動させる。次いで、制御部8は、移動モータ44を駆動させて、図12に示すように、メンテナンスユニット4を待機位置から左上方の退避位置へと移動させる。その後、制御部8は、上下モータ45を駆動させて、図13に示すように、搬送部2を退避位置から上方のメンテナンス位置へと移動させる。これにより、メンテナンスユニット4が、退避位置からメンテナンス位置へと移動する。ここで、メンテナンスユニット4がメンテナンス位置に移動されると、図8に示したように、ワイパ432の上端部は、インクジェットヘッド31の単位ヘッド311のノズル面311aよりも上方に位置する。また、図6のように、ワイパ432は、前後方向において、最も前側の単位ヘッド311の前方に配置されている。
【0057】
次いで、ステップS20において、制御部8は、パージ動作によりインクジェットヘッド31からインクを押し出すために、インクジェットヘッド31にインクを供給する経路の加圧を開始するようインク循環機構5を制御する。具体的には、制御部8は、上流タンク52の大気開放弁521を閉じて密閉するとともに、開閉弁56を閉じてインクジェットヘッド31から下流タンク53への経路を閉じる。この状態で、制御部8は、ポンプ54を駆動させる。これにより、循環経路CRにおけるインクジェットヘッド31へのインク供給経路内が加圧される。これにより、単位ヘッド311においてノズル16からインクが押し出される。
【0058】
次いで、ステップS30において、制御部8は、加圧を開始してから、予め設定された所定時間が経過したか否かを判断する。所定時間が経過した場合(ステップS30:YES)、ステップS40に進み、所定時間が経過していない場合(ステップS30:NO)、制御部8は、所定時間が経過するまで加圧を続けるよう制御する。
【0059】
ステップS40では、制御部8は、ステップS20で開始した加圧を終了してパージ動作を終了するようインク循環機構5を制御する。具体的には、制御部8は、ポンプ54の駆動を停止し、上流タンク52の大気開放弁521および開閉弁56を開ける。
【0060】
上記パージ動作により押し出されたインク9は、図14に示すように、ノズル面311a上でノズル16を覆うように広がる。これにより、ノズル16は、インク9によりキャップされたような状態(擬似キャップ状態)となる。
【0061】
次いで、ステップS50において、制御部8は、ヘッド駆動部6にインクジェットヘッド31の吐出駆動(フラッシング動作)を開始させる。ヘッド駆動部6は、各単位ヘッド311の電極19に対して、図15のような波形で示される電圧の印加を行う。図15は、1回の吐出動作のために電極19に印加される電圧の波形図である。
【0062】
ここで、図15のような電圧が電極19に印加されたときの単位ヘッド311における吐出動作について説明する。図5中における中央のインク室15が吐出動作する場合について説明する。
【0063】
図5に示す定常状態から、ヘッド駆動部6は、吐出対象である図中中央のインク室15の両側に隣接するインク室15の電極19を接地し、中央のインク室15の電極19に、図15に示す負電圧−VAの拡張パルスP1を印加する。これにより、中央のインク室15の両側の隔壁13を構成する圧電部材13a,13bの分極方向に垂直な方向の電界が生じる。これにより、圧電部材13a,13bの接合面にズリ変形が生じ、図16に示すように、中央のインク室15の両側の隔壁13は互いに離反する方向に変形し、中央のインク室15の容積が拡張する。この結果、中央のインク室15内のインクに負圧が生じて、インク流入口17からインク室15にインクが流れ込む。
【0064】
拡張パルスP1のパルス長は1ALである。AL(Acoustic Length)は、容積が拡張したインク室15にインクが流入することによる圧力波が、インク室15の全域を伝播してノズル16に達するまでの時間であり、単位ヘッド311の構造や、インクの密度等に依存して決まるものである。
【0065】
拡張パルスP1の印加後、ヘッド駆動部6は、図15に示すように、印加する電圧を接地電位に戻す。これにより、中央のインク室15の両側の隔壁13は、図16の状態から、図5のような中立位置に戻る。この結果、中央のインク室15内のインクが急激に加圧され、対応するノズル16からインクが吐出される。
【0066】
中央のインク室15の電極19に印加する電圧を接地電位に戻してから1ALの休止時間が経過すると、ヘッド駆動部6は、中央のインク室15の電極19に正電圧VAの収縮パルスP2を印加する。収縮パルスP2のパルス長は1ALである。この収縮パルスP2の印加により、図17に示すように、中央のインク室15の両側の隔壁13は互いに接近する方向に変形し、中央のインク室15の容積が収縮する。
【0067】
インクは、拡張パルスP1の印加終了直後にインク室15内の圧力がピークを迎えることで吐出される。圧力がピークを迎えた後、インク室15内には負圧が生じる。収縮パルスP2を印加してインク室15内の容積を収縮させて加圧力を発生させることで、インク吐出後のインク室15内の負圧が抑えられ、インク室15内におけるインクの残留振動が減衰される。これにより、次回の吐出動作を安定して行うことができる。
【0068】
収縮パルスP2の印加後、ヘッド駆動部6は、中央のインク室15の電極19に印加する電圧を接地電位とし、図5の状態に戻す。以上により1回の吐出動作が終了する。
【0069】
ここで、図3〜図5に示したようなシェアモード型のインクジェットヘッド(単位ヘッド311)では、上述のように隔壁13の変形を利用してインク吐出を行うので、隣接したインク室15を同時に吐出駆動することはできない。このため、制御部8は、単位ヘッド311が有する全インク室15を2つおきに同じグループに属するように3つのグループに分割する。そして、制御部8は、グループごとに順にインク室15を駆動させてノズル16からインクを吐出させ、3つのグループの駆動を1周期とし、これを繰り返すよう駆動制御する。
【0070】
本実施の形態では、各ノズル16から所定回数(例えば数十回)の吐出動作を行う。図10のステップS60において、制御部8は、各ノズル16から所定回数の吐出動作が終了したか否かを判断する。所定回数の吐出動作が終了した場合(ステップS60:YES)、ステップS70において、制御部8は、吐出駆動(フラッシング動作)を終了するようヘッド駆動部6を制御する。所定回数の吐出動作が終了していない場合(ステップS60:NO)、制御部8は、吐出動作の回数が所定回数になるまでヘッド駆動部6に吐出駆動を行わせる。
【0071】
上記の吐出駆動は、前述の図14に示したような擬似キャップ状態で行われる。従来のフラッシング動作では、図18に示すようにインクが吐出され、吐出されたインクやインクミストを吸引回収等する手段を設けなければ、吐出されたインクやインクミストが装置内を浮遊して装置を汚染する。これに対し、本実施の形態で形成される擬似キャップ状態では、ノズル16がインク9で覆われているため、吐出動作によりノズル16にかかる圧力が高くなってもノズル16の圧力損失でノズル面311aのインク9には高い圧力は加わらない。また、ノズル面311aにインク9が広がっていることで、吐出動作によりノズル16から出てくるインクは分散され、インク滴としては吐出されない。このため、擬似キャップ状態で吐出動作を行うと、図19に示すように、ノズル面311aにインク9が溜まった状態になり、そこからインクは垂れ落ちる。したがって、インクやインクミストの飛散が抑えられる。ノズル16に付着した付着物等は、吐出動作によりインクとともに排出される。
【0072】
吐出駆動を終了すると、ステップS80において、制御部8は、ワイパ駆動モータ421を駆動させることにより、ワイパ432を移動させて、インクジェットヘッド31のワイプを行う。
【0073】
ワイパ駆動モータ421が駆動されると、ワイパ駆動モータ421の回転駆動力が、出力ギヤ421a、駆動ベルト422、駆動プーリ423a,423bを伝達して、ネジ歯車424a,424bを回転させる。この結果、ワイパ432が、ネジ歯車424a,424bに螺合されている取付台431とともに後方へと移動する。ワイパ432の上部が単位ヘッド311と接触する位置まで移動すると、ワイパ432は単位ヘッド311に押圧されて弾性変形する。この状態でさらにワイパ432が後方へ移動すると、ワイパ432の後面が、単位ヘッド311のノズル面311aを摺動する。
【0074】
このように行われるワイプにより、ノズル面311aに付着したインク9が、ノズル面311aに付着したゴミ等とともに除去される。これにより、正常なインク吐出が可能な状態となる。ワイパ432が最も後方の単位ヘッド311よりも後方まで移動すると、制御部8は、ワイパ駆動モータ421を停止する。これにより、ワイパ432および取付台431が停止する。なお、制御部8は、ワイパ432の位置を位置検出センサやロータリーエンコーダ等により検出する。
【0075】
次いで、ステップS90において、制御部8は、ワイパ432を初期位置に戻すよう制御する。具体的には、制御部8は、上下モータ45を駆動させて、搬送部2とともにメンテナンスユニット4を下方の退避位置へと移動させる。この退避位置では、ワイパ432の上端部は、単位ヘッド311のノズル面311aよりも下方に位置する。次いで、制御部8は、ワイパ駆動モータ421を駆動させて、ワイパ432を前方へと移動させ、図6に示した初期位置までワイパ432が移動すると、ワイパ駆動モータ421を停止させる。ここで、メンテナンスユニット4は退避位置に配置されているので、ワイパ432は、単位ヘッド311と接触することなく移動する。
【0076】
そして、ステップS100において、制御部8は、移動モータ44を駆動させて、メンテナンスユニット4を図1において実線で示す待機位置まで移動させる。そして、制御部8は、上下モータ45を駆動させて、搬送部2を図1に示す印刷位置へと移動させる。以上により、一連のメンテナンス動作が終了する。
【0077】
以上説明したように本実施の形態によれば、メンテナンス動作において、まずパージ動作により、ノズル面311aにおいてノズル16をインク9で覆う擬似キャップ状態を形成し、その状態でインクジェットヘッド31の吐出駆動(フラッシング動作)を行う。これにより、インクやインクミストの飛散が抑えられ、装置内の汚染を抑制することができる。
【0078】
また、単位ヘッド311を覆うキャップや吸引ポンプ等の、フラッシング動作で吐出されるインクやインクミストを吸引回収するための構成を設ける必要がなく、装置構成の複雑化および大型化を招くことなく、装置内の汚染を抑制することができる。
【0079】
なお、上記実施の形態では、パージ動作におけるインク経路の加圧を終了してから、インクジェットヘッド31の吐出動作を行ったが、吐出動作を開始させた後も、インク経路の加圧を継続するようにしてもよい。例えば、所定回数の吐出動作を終了するまでインク経路の加圧を継続してもよい。
【0080】
擬似キャップ状態でインクジェットヘッド31を吐出駆動しているとき、吐出駆動によってノズル16からインクが出て、擬似キャップを形成するインク量が多くなって、ノズル面311aから垂れ落ちてしまうおそれがある。インク9が垂れ落ちてノズル16を覆うインク9(擬似キャップ)がなくなってしまうと、図18のように、吐出駆動により通常のフラッシング動作時と同様にインクが吐出されてしまう。こうなると、インクやインクミストが飛散して装置内の汚染を招く。
【0081】
そこで、吐出動作を開始させた後もインク経路の加圧を継続すれば、上記のようにインクが垂れ落ちても、インク経路の加圧によりノズル16から押し出されるインクがノズル面311aに供給され続けるので、擬似キャップ状態を維持できる。これにより、インクやインクミストの飛散が抑えられ、装置内の汚染を抑制することができる。
【0082】
また、インクジェットヘッド31の吐出動作を行う際、通常の印刷時の吐出動作を行う場合よりも高い圧力をノズル16に加えるようにインクジェットヘッド31を駆動してもよい。
【0083】
前述した図15の波形は、通常の印刷時にヘッド駆動部6が用いる駆動波形(通常波形)である。これに対し、ノズル16により高い圧力を加えるためには、例えば、ヘッド駆動部6により、図20に示すような波形の電圧を電極19に印加する。
【0084】
図20の駆動波形では、図15の通常波形のような拡張パルスP1と収縮パルスP2との間の休止時間を省略し、拡張パルスP1に連続して、正電圧VAの収縮パルスP3を電極19に印加する。これにより、インク室15は、図16の状態から直接、図17の状態に移行する。このため、インク室15内のインクが急激に加圧され、ノズル16に高い圧力が加わる。この結果、通常の印刷時と同様の吐出動作では除去できない付着物等があって吐出の回復が困難な状態のインクジェットヘッド31でも、高い圧力をノズル16に加えることで付着物等を除去して吐出を回復することが可能となる。
【0085】
なお、図20に示した波形に限らず、通常波形を用いた場合よりもノズル16に高い圧力を加えられる駆動波形であればどのようなものを用いてもよい。
【0086】
上記実施の形態では、パージ動作により、インク経路を所定時間、加圧しているが、この加圧時間を、環境温度に応じて変動させてもよい。
【0087】
環境温度が低温の場合は、インクの粘度が大きくなって、パージ動作時にインクが押し出されにくい。逆に、環境温度が高温の場合は、インクの粘度が小さくなり、パージ動作時にインクが押し出されやすい。そこで、環境温度が低くなるにつれて、パージ動作時の加圧時間が長くなるようにして、ノズル16から押し出されるインク量が適量になるようにしてもよい。
【0088】
また、ユーザが入力部7を操作することにより、パージ動作時の加圧時間を設定できるようにしてもよい。
【0089】
上記実施の形態のメンテナンス時におけるインクジェットヘッド31の吐出動作を行う時間の長さを、ユーザが入力部7を操作することにより設定できるようにしてもよい。この場合、制御部8は、設定された時間で可能な回数の吐出動作を行うようヘッド駆動部6を制御する。このようにすれば、ユーザが、印刷物を見て吐出不良の程度を判断し、その判断に基づいて、メンテナンス時の吐出動作の時間(回数)を設定できる。
【0090】
上記実施の形態においては、ライン型のインクジェット印刷装置で説明したが、本発明はこれに限らず、ライン型以外のインクジェット印刷装置にも適用可能である。
【0091】
また、上記実施の形態においては、インク循環型のインクジェット印刷装置で説明したが、インクを循環させない方式のインクジェット印刷装置にも本発明は適用可能である。
【0092】
また、上記実施の形態においては、シェアモード型のインクジェットヘッドを用いたインクジェット印刷装置で説明したが、本発明はこれに限らず、他の方式のインクジェットヘッドを用いたインクジェット印刷装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 インクジェット印刷装置
2 搬送部
3 ヘッドユニット
4 メンテナンスユニット
5 インク循環機構
6 ヘッド駆動部
7 入力部
8 制御部
16 ノズル
31 インクジェットヘッド
54 ポンプ
311 単位ヘッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドへインクを供給する経路を加圧することにより前記ノズルからインクを押し出させる加圧部と、
前記インクジェットヘッドを駆動してインクを吐出させるヘッド駆動部と、
前記インクジェットヘッドのメンテナンス時において、前記加圧部により前記経路を所定時間加圧して前記ノズルからインクを押し出させてから、前記ヘッド駆動部により前記インクジェットヘッドに吐出動作を行わせるよう制御する制御部と
を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記メンテナンス時に前記インクジェットヘッドの吐出動作を行う際は、通常の印刷時の吐出動作を行う場合よりも高い圧力を前記ノズルに加えるよう前記ヘッド駆動部を制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項1】
インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドへインクを供給する経路を加圧することにより前記ノズルからインクを押し出させる加圧部と、
前記インクジェットヘッドを駆動してインクを吐出させるヘッド駆動部と、
前記インクジェットヘッドのメンテナンス時において、前記加圧部により前記経路を所定時間加圧して前記ノズルからインクを押し出させてから、前記ヘッド駆動部により前記インクジェットヘッドに吐出動作を行わせるよう制御する制御部と
を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記メンテナンス時に前記インクジェットヘッドの吐出動作を行う際は、通常の印刷時の吐出動作を行う場合よりも高い圧力を前記ノズルに加えるよう前記ヘッド駆動部を制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−25067(P2012−25067A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166921(P2010−166921)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】
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