説明

インクジェット式記録ヘッドの製造方法及びインクジェット式記録ヘッド、インクジェット式記録装置

【課題】接着剤によるノズル開口部の塞がりを防止できるようにしたインクジェット式記録ヘッドの製造方法及びインクジェット式記録ヘッド、インクジェット式記録装置を提供する。
【解決手段】圧力発生室内の圧力変化によりインク液をノズル開口部から吐出するインクジェット式記録ヘッド100の製造方法であって、基板1の表面に圧力発生室となる溝部51を形成する工程と、溝部51の底面にノズル開口部となる溝部52を形成する工程と、溝部51、52に犠牲膜53を埋め込むように形成する工程と、犠牲膜53及び基板1の表面上に振動膜20を形成する工程と、振動膜20上に圧電素子30を形成する工程と、基板1の裏面を研削して溝部52の底面を開口させる工程と、基板1の表面側から犠牲膜53を露出する開口部を形成する工程と、この開口部を介して犠牲膜53をエッチングし除去する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法及びインクジェット式記録ヘッド、インクジェット式記録装置に関し、特に、接着剤によるノズル開口部の塞がりを防止できるようにした技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図7(a)に示すように、従来例に係るインクジェット式記録ヘッド200は、圧電素子(即ち、ピエゾ素子)201と、圧電素子を駆動するためのドライバ回路203と、圧電素子を封止するための封止板205と、外部からインク液の供給を受けるリザーバ207と、振動板209及び圧力発生室211を有する基板210と、ノズル開口部213が形成されたノズル板220と、を備える。このような構成のインクジェット式記録ヘッド200は、図7(b)に示すように、上記各部位が接着剤で接着されると共に、圧電素子201とドライバ回路203とがワイヤーボンディングで接続することにより、組み上げられている。
【0003】
また、近年では、ノズル開口部の配置間隔の高密度化が進んでおり、ワイヤーボンディングによる圧電素子201とドライバ回路203の接続は技術的限界に近づきつつある。このような流れを受けて、上記の基板や封止板にドライバ回路を直接形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1、2参照。)。この方法によれば、圧電素子とドライバ回路の接続を、フォトリソグラフィー技術による金属配線の形成や、フリップチップ実装により行うので、ワイヤーボンディングよりも微細な接続が可能である。このため、ノズル開口部の配置間隔の高密度化に対応することができる。
【特許文献1】特開2001−205815号公報
【特許文献2】特開2001−162794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1、2等に開示された方法では、接着剤が接合面からはみ出してノズル開口部を塞いでしまう可能性があった。このような可能性は、ノズル開口部が小径化しその配置間隔が高密度化するほど増大すると考えられる。
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、接着剤によるノズル開口部の塞がりを防止できるようにしたインクジェット式記録ヘッドの製造方法及びインクジェット式記録ヘッド、インクジェット式記録装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔発明1〜4〕 発明1のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、インク液の供給を受ける圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、を備えるインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、第1基板の一方の面に前記圧力発生室となる第1溝部を形成する工程と、前記第1溝部の底面に前記ノズル開口部となる第2溝部を形成する工程と、前記第1溝部及び前記第2溝部に犠牲膜を形成する工程と、前記犠牲膜及び前記第1基板の一方の面上に振動膜を形成する工程と、前記振動膜上に圧電素子を形成する工程と、前記第1基板の他方の面を研削して前記第2溝部の底面を開口させる工程と、前記基板の一方の面に前記犠牲膜を露出する開口部を形成する工程と、前記開口部を介して前記犠牲膜を除去する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0006】
ここで、「犠牲膜」には、「第1基板」に対してエッチングの選択性が高い膜(即ち、第1基板よりもエッチングされ易い膜)を用いることが好ましい。例えば、第1基板がシリコン(Si)からなる場合、犠牲膜にはシリコン酸化(SiO2)膜又はシリコンゲルマニウム(SiGe)膜を用いることができる。犠牲膜としてのSiO2膜は、エッチングレートが比較的速いPSG(Phospho Silicate Glass)膜でも良い。
【0007】
発明2のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、発明1のインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記圧電素子と対向する領域に凹部を有する第2基板を前記第1基板の一方の面に接合して、前記圧電素子を前記凹部内に封止する工程、をさらに含むことを特徴とするものである。
発明3のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、発明2のインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記圧力発生室に連通するリザーバを前記第2基板に形成する工程、をさらに含むことを特徴とするものである。
【0008】
発明4のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、発明2又は発明3のインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記圧電素子を前記凹部内に封止する工程の前に、前記凹部の底面に集積回路を形成する工程、をさらに含むことを特徴とするものである。ここで、集積回路は、例えば、インクジェット式記録ヘッドを駆動するためのドライバ回路である。
【0009】
発明1〜4のインクジェット式記録ヘッドの製造方法によれば、例えば、圧電素子を封止したり、リザーバを形成したりするための第2基板を第1基板の一方の面に配置すると共に、ノズル開口部の開口端を第1基板の他方の面に配置することができる。第1基板の他方の面には第2基板を配置する必要がなく、第2基板をノズル開口部の開口端から遠ざけることができるので、第1基板と第2基板との接合面から接着剤がはみ出した場合でも、このはみ出した接着剤によりノズル開口部が塞がれてしまうことを防ぐことができる。このため、インクジェット式記録ヘッドを歩留まり高く製造することが可能となる。
【0010】
〔発明5〕 発明5のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、発明4のインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記集積回路の能動面にバンプ電極を形成する工程と、前記圧電素子の下部電極又は上部電極に繋がる配線を形成する工程と、をさらに含み、前記圧電素子を前記凹部内に封止する工程では、前記バンプ電極を前記配線に重ね合わせた状態で前記第2基板を前記第1基板の一方の面に接合する、ことを特徴とするものである。ここで、「能動面」とは回路形成面のことである。
このような方法によれば、集積回路と圧電素子とをワイヤーボンディングよりも微細に(即ち、狭ピッチで、厚みが小さくなるように)接続することが可能であり、インクジェット式記録ヘッドの小型化に寄与することができる。
【0011】
〔発明6〕 発明6のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、発明1から発明5の何れか一のインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記犠牲膜を除去する工程では、前記開口部と、前記第1基板の他方の面に開口した前記第2溝部の底面とを介して、前記犠牲膜を除去することを特徴とするものである。
このような方法によれば、犠牲膜をエッチングする際に、第2溝部の底面(即ち、ノズル開口部の吐出口)からもエッチング液又はエッチングガスを供給することができるため、犠牲膜を効率良く除去することができる。
【0012】
〔発明7、8〕 発明7のインクジェット式記録ヘッドは、インク液の供給を受ける圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、を備えるインクジェット式記録ヘッドであって、一方の面に前記圧力発生室が形成され、前記圧力発生室の底面から他方の面にかけて前記ノズル開口部が形成された第1基板と、前記第1基板の一方の面上に形成されて前記圧力発生室を覆う振動膜と、前記振動膜上に形成された圧電素子と、を備えることを特徴とするものである。
【0013】
発明8のインクジェット式記録ヘッドは、発明7のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記圧電素子と対向する領域に凹部を有し、前記第1基板の一方の面に接合されて前記圧電素子を前記凹部内に封止する第2基板、をさらに備えることを特徴とするものである。
発明7、8のインクジェット式記録ヘッドによれば、接着剤によるノズル開口部の塞がりが防止されたインクジェット式記録ヘッドを提供することができる。
【0014】
〔発明9〕 発明9のインクジェット式記録装置は、発明7又は発明8のインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするものである。
このような構成であれば、接着剤によるノズル開口部の塞がりが防止されたインクジェット式記録ヘッドを具備することができる。そして、このようなインクジェット式記録ヘッドは、低コストで、歩留まり高く製造することができるので、インクジェット式記録装置の安価化に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、その重複する説明は省略する。
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す断面図である。図1に示すように、このインクジェット式記録ヘッド100は、例えば基板1と、振動膜20と、圧電素子(即ち、ピエゾ素子)30と、圧電素子30と対向する領域に凹部41を有する封止板40と、を備える。
【0016】
これらの中で、基板1は、例えば面方位(100)のバルクシリコン基板である。この基板1は、例えば、150μm〜1mmの厚さを有し、個々に区画された複数のインク流路が形成されている。ここで、インク流路とは、インク液が流れる経路のことであり、その一部として圧力発生室10と、圧力発生室10に連通するノズル開口部12とを有する。図1に示すように、圧力発生室10は基板1の表面側に形成されている。また、ノズル開口部12は、圧力発生室10の底面から基板1の裏面にかけて形成されている。なお、インク液に圧力を与える圧力発生室10の容積と、ノズル開口部22の大きさは、インク液の吐出量とその吐出スピード、吐出周波数などに応じて最適化されている。
【0017】
振動膜20は弾性膜であり、基板1の表面上に形成されて圧力発生室10を覆っている。また、圧電素子30は、振動膜20を介して圧力発生室10の真上に形成されている。この圧電素子30は、下部電極31と、下部電極31上に形成された圧電体32と、圧電体32上に形成された上部電極33とを有する。ここで、下部電極31は、例えば複数の圧電素子30にわたる共通の電極である。また、圧電体32は、電圧を加えると伸長、収縮する、又は、歪みが生じるような誘電体であり、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)である。さらに、上部電極33は、下部電極31とは異なり共通の電極ではなく、個々の圧電体と1:1で対応した個別の電極である。このような構成の圧電素子30は、個々の圧力発生室10の真上にそれぞれ設けられている。また、圧電素子30に繋がる配線34、35が基板1の表面上に形成されている。配線34は下部電極31を引き出すための配線であり、配線35は上部電極33を引き出すための配線である。
【0018】
一方、封止板40は、例えば面方位(100)のバルクシリコン基板からなる。この封止板40の表面であって圧電素子30と対向する領域には、圧電素子30を封止するための凹部41が設けられている。図1に示すように、封止板40は基板1表面に接着剤21等を介して接合されており、圧電素子30は、その運動を阻害しない程度の空間が確保された状態で凹部41内に封止(即ち、密封)されている。また、この凹部41の底面には、圧電素子30を駆動するためのドライバ回路42が一体に形成されている。ドライバ回路42の能動面(即ち、回路形成面)には複数個のバンプ電極43が形成されており、これらのバンプ電極43が配線34、35にそれぞれ電気的に接続されている。さらに、この封止板40には、その表面から裏面にかけて形成された貫通穴が形成されている。この貫通穴が、外部からインク液の供給を受けるリザーバ45である。リザーバ45は、前述の全ての圧力発生室10の容積よりも十分に大きい容積を持つように、大きく形成されている。
【0019】
このような構成のインクジェット式記録ヘッド100は、図示しない外部インク供給手段からリザーバ45にインク液を取り込み、図中の矢印で示すように、リザーバ45からノズル開口部22に至るまでの間をインク液で満たしておく。そして、ドライバ回路42からの記録信号に従い、圧電素子30の上部電極33と下部電極31との間に電圧を印加して圧電体32を伸長、収縮させ、又は、歪みを生じさせる。これにより、振動膜20が変形して圧力発生室10内の圧力が高まり、ノズル開口部22からインク液を吐出される。
【0020】
次に、上記のインクジェット式記録ヘッド100の製造方法について説明する。図2〜図6は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、まず始めに、例えばバルクシリコンからなる基板1を用意する。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、基板1の表面側を部分的にエッチングして、インク流路となる領域に第1の溝部51を形成する。続いて、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、溝部51の底面をさらに部分的にエッチングして、図2(b)に示すように、ノズル開口部となる領域に第2の溝部52を形成する。
【0021】
次に、図2(c)に示すように、基板1の表面全体に犠牲膜53を形成して溝部51、52を埋め込む。犠牲膜53の厚さは、例えば、基板1の表面からの溝部52の底面までの深さと略同一の厚さ、又はそれ以上の厚さとする。次に、例えばCMP(Chemical Mechanical Polish)により、犠牲膜53に平坦化処理を施して、溝部51、52以外の領域から犠牲膜53を除去する。これにより、図3(a)に示すように、溝部51、52の内部にのみ犠牲膜53を残すことができる。
なお、犠牲膜53は、後の工程で除去される。このため、犠牲膜53には、基板1に対してエッチングの選択性が高い膜(即ち、所定のエッチング条件において基板1よりもエッチングされ易い膜)を用いることが好ましい。例えば、基板1がSiからなる場合は、犠牲膜53にはSiO2膜又はSiGe膜を用いることができる。上記のSiO2膜は、エッチングレートが比較的速いPSG膜でも良い。
【0022】
また、犠牲膜53の形成方法は上記の方法(即ち、CVDによる成膜工程と、CMPによる平坦化工程の組み合わせ)に限定されない。例えば、1μm以下の超微粒子をヘリウム(He)等のガスの圧力によって高速で基板1に衝突させることにより成膜するいわゆるガスデポジション法或いはジェットモールディング法と呼ばれる方法を用いて、犠牲膜53を形成しても良い。このような方法によれば、CMPによる平坦化工程を経なくても、溝部51、52に犠牲膜53を埋め込むように形成する(即ち、充填する)ことができる。
【0023】
次に、図3(b)に示すように、基板1表面及び犠牲膜53上に振動膜20を形成する。振動膜20は上述したように弾性膜であり、例えばSiO2膜又は酸化ジルコニウム(ZrO2)、若しくはこれらを積層した膜からなり、その厚さは例えば1〜2μmである。振動膜20にZrO2を用いる場合は、例えば、O2を含んだプラズマでジルコニウム(Zr)をスパッタ成膜(反応性スパッタ成膜)することにより、ZrO2を形成する。あるいは、基板1表面及び犠牲膜53上にZrを形成し、その後、Zrを500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより、ZrO2を形成すれば良い。なお、振動膜20の材料は上記の種類に限定されないが、犠牲膜53を除去する工程でエッチングされない若しくはエッチングされにくい材料を用いることが好ましい。
【0024】
次に、図4(a)に示すように、個々の圧力発生室10に対応して振動膜20上に圧電素子30を形成する。ここでは、例えば、スパッタリング法により振動膜20上に下部電極膜を形成する。この下部電極膜の材料としては、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等が好適である。その理由は、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体膜は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。下部電極膜の材料には、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持することができるような材料を選択して用いる必要がある。特に、圧電体膜としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないような材料を選択して用いることが望ましい。このような条件を満たす材料として、Pt、Ir等が好適である。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、下部電極膜を部分的にエッチングして、共通電極としての形状を有した下部電極31を形成する。
【0025】
そして、圧電体膜を成膜する。ここでは、例えば、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布し乾燥してゲル化し、さらに高温で焼結すること(即ち、ゾルーゲル法)で圧電体膜を形成する。圧電体膜の材料としては、PZT系の材料が好適であり、その場合の焼結温度は例えば700℃程度である。なお、この圧電体膜の成膜方法は、ゾルーゲル法に限定されず、例えば、スパッタリング法、又は、MOD法(有機金属熱塗布分解法)などのスピンコート法により成膜しても良い。或いは、ゾルーゲル法又はスパッタリング法若しくはMOD法等によりPZTの前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法により成膜しても良い。このような方法により形成される圧電体膜の厚さは、例えば0.2〜5μmである。
【0026】
次に、上部電極膜を成膜する。上部電極膜は、導電性の高い材料であれば良く、Al、金(Au)、ニッケル(Ni)、Pt等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用することができる。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、上部電極膜及び圧電体膜を順次、部分的にエッチングして、所定形状の上部電極33と圧電体32とを形成する。これにより、振動膜20上に、下部電極31と圧電体32と上部電極33とからなる圧電素子30が完成する。
【0027】
なお、本実施形態では、下部電極31を圧電素子30の共通電極とし、上部電極33を圧電素子30の個別電極としているが、ドライバ回路42や配線の都合でこれを逆にしても良い。つまり、下部電極31を個別電極とし、上部電極33を共通電極としても良い。
次に、基板1の表面全体に導電膜を形成する。そして、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、導電膜を部分的にエッチングする。これにより、図4(b)に示すように、共通の電極である下部電極31を基板表面1に引き出す配線34と、個々の圧電素子30の上部電極33を基板表面1に引き出す配線35とを形成する。
【0028】
なお、本実施形態では、図示しないが、配線34、35を形成する前に、圧電素子30を覆うように保護膜を形成しても良い。保護膜は例えばアルミナ(Al23)であり、その形成は例えばスパッタリング法、ALD(Atomic Layer Deposition)、又は、MOCVD(Metal Organic CVD)で行うことができる。このように、圧電素子30を覆う保護膜を形成する場合は、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、保護膜を部分的にエッチングして下部電極31上及び上部電極33上にそれぞれコンタクトホールを形成し、このコンタクトホールを埋め込むように配線34、35を形成すれば良い。
【0029】
次に、図5(a)に示すように、例えばバルクシリコンからなる封止板40を用意する。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、封止板40の表面を部分的にエッチングして、圧電素子を封止するための凹部41を形成する。ここでは、例えば、凹部41の平面視による形状が圧電素子と相似形で且つその面積が大きく、しかも、凹部41の深さが圧電素子の厚さよりも大きくなるように、凹部41を形成する。これにより、圧電素子の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、圧電素子を封止可能な凹部41を形成することができる。
なお、本発明では、圧電素子を個別に封止するのではなく、複数個の圧電素子を1つの凹部41内に配置し、これにより、複数個の圧電素子を1つの凹部41でまとめて封止するようにしても良い。この場合は、複数個の圧電素子をまとめて封止できるように、凹部41を広く形成すれば良い。
【0030】
次に、図5(b)に示すように、凹部41の底面に、圧電素子30を駆動するためのドライバ回路42を形成する。このドライバ回路42の形成は半導体プロセス(即ち、成膜工程、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程など)で行う。そして、図5(c)に示すように、このドライバ回路42の能動面にバンプ電極43を形成する。バンプ電極43の材料には、例えばAu等を使用する。
次に、図5(c)に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、封止板40を部分的にエッチングして貫通させ、貫通穴からなるリザーバ45を形成する。ここでは、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いたウェットエッチング、又は、ドライエッチングにより、リザーバ45を形成する。
【0031】
次に、図6に示すように、リザーバ45が形成された封止板40の表面を、接着剤を介して基板1の表面に接合する。ここでは、凹部41が圧電素子30と正しく重なり、且つ、複数のバンプ電極43が配線34、35とそれぞれ正しく重なるように、封止板40と基板1とを位置合わせする。そして、このように位置合わせした状態で、封止板40の表面を基板1表面に接合する。これにより、圧電素子30が凹部41内に配置されて封止されると共に、バンプ電極43と配線34、35とがそれぞれ電気的に接続される。また、リザーバ45がインク流路と対向して配置される。
【0032】
なお、図6に示す接合工程では、バンプ電極43が配線34、35の表面に接触した後で、凹部41を囲む凸部47が基板1の表面に接触する。そして、凸部47が基板1表面に接触することにより、封止板40の表面と基板1表面との間に一定の離間距離が確保され、凹部41の底面に形成された複数個のバンプ電極43の潰れ具合が自動的に決定される。従って、凹部41の底面において、バンプ電極43の潰れ具合を均一化することができ、バンプ電極43と配線34、35との接触面積のばらつきを少なくすることができる。
【0033】
次に、図6の矢印で示すように、例えばCMPにより、基板1の裏面を研削して溝部52の底面を開口させる。この研削により、基板1の裏面から犠牲膜53の一部が露出することとなる。また、この研削と前後して、封止板40をマスクに振動膜20をエッチングして除去し、犠牲膜53の一部を露出する開口部46(図1参照。)を形成する。そして、リザーバ45及び開口部46と、基板1裏面に開口した溝部52の底面とを介して、犠牲膜53をエッチングする。これにより、犠牲膜53が完全に取り除かれ、圧力発生室10(図1参照。)とノズル開口部12(図1参照。)とが形成される。犠牲膜53のエッチングはドライエッチング又はウェットエッチングのどちらで行っても良いが、ここでは、基板1のエッチング速度よりも犠牲膜53のエッチング速度の方が大きいエッチングガス、又はエッチング液を用いて犠牲膜53をエッチングする。例えば、基板1がSiで、犠牲膜53がSiO2膜の場合には、上記の条件を満たすエッチングガスの一例として四フッ化炭素(CF4)を使用することができ、又、同条件を満たすエッチング液の一例としてフッ化水素溶液(HF)を使用することができる。以上のような工程を経て、図1に示したインクジェット式記録ヘッド100が完成する。
【0034】
このように、本発明の実施形態によれば、圧電素子30を封止したりリザーバ45を形成したりするための封止板40を基板1の表面に配置すると共に、ノズル開口部12の開口端を基板1の裏面に配置することができる。基板1の裏面には封止板40を配置する必要がなく、封止板40をノズル開口部12の開口端から遠ざけることができるので、基板1と封止板40との接合面から接着剤21がはみ出した場合でも、このはみ出した接着剤21によりノズル開口部12が塞がれてしまうことを防ぐことができる。このため、インクジェット式記録ヘッドを歩留まり高く製造することが可能となる。また、このようなインクジェット式記録ヘッドをインクジェット式記録装置に搭載することにより、インクジェット式記録装置の安価化にも寄与することができる。
この実施形態では、基板1が本発明の「第1基板」に対応し、基板1の表面が本発明の「基板の一方の面」に対応し、基板1の裏面が本発明の「基板の他方の面」に対応している。また、溝部51が本発明の「第1溝部」に対応し、溝部52が本発明の「第2溝部」に対応している。さらに、ドライバ回路42が本発明の「集積回路」に対応している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す図。
【図2】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その1)。
【図3】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その2)。
【図4】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その3)。
【図5】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その4)。
【図6】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その5)。
【図7】従来例に係るインクジェット式記録ヘッド200の構成例を示す図。
【符号の説明】
【0036】
1 基板、10 圧力発生室、12 ノズル開口部、20 振動膜、21 接着剤、30 圧電素子、31 下部電極、32 圧電体、33 上部電極、34、35 配線、40 封止板、41 凹部、42 ドライバ回路、43 バンプ電極、45 リザーバ、46 開口部、51、52 溝部、53 犠牲膜、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク液の供給を受ける圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、を備えるインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、
第1基板の一方の面に前記圧力発生室となる第1溝部を形成する工程と、
前記第1溝部の底面に前記ノズル開口部となる第2溝部を形成する工程と、
前記第1溝部及び前記第2溝部に犠牲膜を形成する工程と、
前記犠牲膜及び前記第1基板の一方の面上に振動膜を形成する工程と、
前記振動膜上に圧電素子を形成する工程と、
前記第1基板の他方の面を研削して前記第2溝部の底面を開口させる工程と、
前記基板の一方の面に前記犠牲膜を露出する開口部を形成する工程と、
前記開口部を介して前記犠牲膜を除去する工程と、を含むことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記圧電素子と対向する領域に凹部を有する第2基板を前記第1基板の一方の面に接合して、前記圧電素子を前記凹部内に封止する工程、をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記圧力発生室に連通するリザーバを前記第2基板に形成する工程、をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記圧電素子を前記凹部内に封止する工程の前に、前記凹部の底面に集積回路を形成する工程、をさらに含むことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記集積回路の能動面にバンプ電極を形成する工程と、
前記圧電素子の下部電極又は上部電極に繋がる配線を形成する工程と、をさらに含み、
前記圧電素子を前記凹部内に封止する工程では、前記バンプ電極を前記配線に重ね合わせた状態で前記第2基板を前記第1基板の一方の面に接合する、ことを特徴とする請求項4に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記犠牲膜を除去する工程では、
前記開口部と、前記第1基板の他方の面に開口した前記第2溝部の底面とを介して、前記犠牲膜を除去することを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
インク液の供給を受ける圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、を備えるインクジェット式記録ヘッドであって、
一方の面に前記圧力発生室が形成され、前記圧力発生室の底面から他方の面にかけて前記ノズル開口部が形成された第1基板と、
前記第1基板の一方の面上に形成されて前記圧力発生室を覆う振動膜と、
前記振動膜上に形成された圧電素子と、を備えることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項8】
前記圧電素子と対向する領域に凹部を有し、前記第1基板の一方の面に接合されて前記圧電素子を前記凹部内に封止する第2基板、をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−226796(P2009−226796A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76377(P2008−76377)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】