説明

インクジェット捺染用前処理インク、インクジェット捺染用前処理インクの製造方法、及びインクジェット捺染方法

【課題】布帛への少量付与により、効率よく発色性向上、にじみ防止を行うことができ、経時劣化がなく、長期間の保存に耐え、安定した出射が可能なインクジェット捺染用前処理インクとその製造方法、及びそれを用いたインクジェット捺染方法を提供する。
【解決手段】2−イミダゾリジノン、ニトロベンゼンスルホン酸またはその塩及びアルカリ成分を含有することを特徴とするインクジェット捺染用前処理インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のインクジェット捺染用前処理インク、インクジェット捺染用前処理インクの製造方法及びインクジェット捺染用前処理インクを用いたインクジェット捺染方法に関し、詳しくは、2−イミダゾリジノン類を含有するインクジェット捺染用前処理インクとその製造方法、及びそれを用いてインクジェット方式により高品質のプリント物を作製することができるインクジェット捺染方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の捺染分野では、プリント物の作製方法としては、主に平板状のスクリーンや円筒状のスクリーンを使用するスクリーン捺染方法によって行われている。一方、インクジェット方式を用いたインクジェット捺染方法が知られている。このインクジェット捺染方法は、無版であり、少量多品種対応に適しており、短納期でプリント物を作製することができるという特徴を備えている。
【0003】
インクジェット方式で直接布帛上にプリントする場合、にじみが発生してしまうケースが生じる。そのため、通常は布帛ににじみ防止や色材と布帛との定着性向上を目的とした前処理が施される。具体的には、前処理液としては、にじみ防止のための高分子化合物や、定着性向上のためのアルカリ剤やヒドロトロピー剤として尿素などを含有する水溶液を、布帛にディッピングあるいはコーティングした後、乾燥する処理が施されている。
【0004】
このような布帛に対する前処理工程は、インクジェット方式のインクジェット捺染方法にはなくてはならないものであるが、現在採用されている前処理方法では、下記に示すような様々な課題を抱えている。
【0005】
1)前処理に時間を要し、プリントの納期が遅れる
2)前処理工程分のコストがかかる
3)前処理した布帛が経時で劣化を起こし、長期間保存することができない
以上の様な各課題に対して、プリントの前工程で、布帛の前処理を行う方法が提案されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、布帛に対する前処理を、インクジェット方式を用いて行う方法が開示されている。
【0006】
この様に、布帛に対する前処理を、インクジェット方式を用いてオンラインで行うことにより、上記の課題を解決できるとされている。しかしながら、インクジェット方式を用いて、前処理インクを布帛に付与する場合、従来のディッピング方式あるいはコーティング方式による多量の前処理液を付与する方法に比べて、インクジェット方式では布帛への前処理インクの付与量が少なくなる為、効果的ににじみを防止しきれない、色材と布帛の定着性が不十分等の問題を起こしやすい状況にある。逆に、インクジェット方式により、多くの前処理インクを付与しようとすると、処理能力が低下したり、前処理インクを付与した後の乾燥負荷が高くなったりして、実用的ではなくなってしまう。
【0007】
一方、従来、ヒドロトロピー剤として用いられてきた尿素は、加水分解してしまう為、前処理インクを長期間にわたり保存した際、経時劣化を起こし、長期保存することができないという課題を抱えていた。また、尿素の加水分解によってアンモニアおよび炭酸ガスが発生する為、前処理インク中に気泡が生じ、インクジェットヘッドからの前処理インクの出射性が不安定になる。その為、インクジェットプリンターにセットした前処理インクを、頻繁に交換しなければならなくなり、実用的ではないという問題がある。
【0008】
この様な課題に対する対応策に関しては、上記特許文献1には何ら示されていない。また、上記特許文献2には、アルカリ剤を含む定着促進組成物を、インクジェット法で布帛に付与する方法は開示されている。この方法によれば、アルカリ剤に起因する布帛の経時劣化(黄変)を防止でき、前述の3)の課題を解決できるとされている。しかしながら、この方法では、布帛全体を予め非アルカリ前処理液で処理しておく必要があるため、前述の1)及び2)の課題は引き続き抱えた状態である。また、尿素の加水分解に起因する前述の問題を防ぐことはできていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−232633号公報
【特許文献2】特開2006−214030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、布帛への少量付与により、効率よく発色性向上、にじみ防止を行うことができ、経時劣化がなく、長期間の保存に耐え、安定した出射が可能なインクジェット捺染用前処理インクとその製造方法、及びそれを用いたインクジェット捺染方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0012】
1.2−イミダゾリジノン、ニトロベンゼンスルホン酸またはその塩及びアルカリ成分を含有することを特徴とするインクジェット捺染用前処理インク。
【0013】
2.前記アルカリ成分が、炭酸塩または炭酸水素塩であることを特徴とする前記1記載のインクジェット捺染用前処理インク。
【0014】
3.前記アルカリ成分の炭酸塩または炭酸水素塩が、ナトリウム塩またはカリウム塩であり、インク全質量における該ナトリウム塩の含有量が、該カリウム塩の含有量よりも多いことを特徴とする前記2記載のインクジェット捺染用前処理インク。
【0015】
4.前記アルカリ成分は、炭酸塩及び炭酸水素塩の総量に対する前記炭酸塩の含有比率が、60質量%以上であることを特徴とする前記2記載のインクジェット捺染用前処理インク。
【0016】
5.水溶性高分子ポリマーを含有することを特徴とする前記1から4のいずれか1項に記載のインクジェット捺染用前処理インク。
【0017】
6.前記1から5のいずれか1項に記載のインクジェット捺染用前処理インクを製造することを特徴とするインクジェット捺染用前処理インクの製造方法。
【0018】
7.前記1から5のいずれか1項に記載のインクジェット捺染用前処理インクを用いるインクジェット捺染方法であって、インクジェットヘッドを用いて該インクジェット捺染用前処理インクを布帛に付与した後、記録インクを該布帛に付与することを特徴とするインクジェット捺染方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、布帛への少量付与により、効率よく発色性向上、にじみ防止を行うことができ、経時劣化がなく、長期間の保存に耐え、安定した出射が可能なインクジェット捺染用前処理インクとその製造方法、及びそれを用いたインクジェット捺染方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】インクジェット捺染装置の構成の一例を示す部分概略図である。
【図2】図1に示すインクジェット捺染装置のキャリッジを上方から見た部分概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、2−イミダゾリジノン、ニトロベンゼンスルホン酸またはその塩及びアルカリ成分を含有することを特徴とするインクジェット捺染用前処理インクにより、布帛への少量付与により、効率よく発色性向上、にじみ防止を行うことができ、経時劣化がなく、長期間の保存に耐え、安定した出射が可能なインクジェット捺染用前処理インクを実現できることを見出し、本発明を完成するに至った次第である。
【0023】
《インクジェット捺染用前処理インク》
本発明のインクジェット捺染用前処理インク(以下、単に前処理インクともいう)は、2−イミダゾリジノンと、ニトロベンゼンスルホン酸またはその塩とアルカリ成分とを含有することを特徴とする。
【0024】
本発明の前処理インクには、その他に、にじみ防止の為の高分子化合物や、必要に応じてその他の添加剤等を含有させることができる。また、前処理インクをインクジェット法で布帛に付与する際は、水溶性有機溶剤を含有させることができる。
【0025】
以下、本発明のインクジェット捺染用前処理インクの各構成要素の詳細について説明する。
【0026】
(2−イミダゾリジノン)
本発明の前処理インクでは、ヒドロトロピー剤として、2−イミダゾリジノンを含有することを一つの特徴とする。ヒドロトロピー剤とは、プリント後の発色工程において、一旦乾燥された色材の再溶解を促進し、発色濃度を向上させる効果を備えた添加剤である。
【0027】
本発明の前処理インクにおける2−イミダゾリジノンの含有量としては、5〜30質量%の範囲であることが好ましい。含有量が5質量%以上であれば、本発明の目的効果を十分に得ることができる。また、30質量%以下であれば、2−イミダゾリジノンの布帛への付与量が適量となり、スチーミング時での滲み防止や、前処理インクの粘度が高くなりすぎるのを抑制でき、インクジェット法で付与しようとした際に、インクジェットヘッドから安定して吐出させることができる観点から好ましい。
【0028】
なお、2−イミダゾリジノンを布帛へ付与する方法として、2−イミダゾリジノンを、色材を含有する記録インクに含有させる方法も考えられるが、その場合には、画像濃度を高くしようとして記録インクの布帛への付量を多くすると、それに比例して2−イミダゾリジノンの布帛に対する付量も相対的に多くなってしまう為、プリント時やスチーミング時ににじみを生じ易くなる。従って、本発明で規定するように2−イミダゾリジノンを前処理インクに添加することにより、その付量を記録インクの布帛への付量に係わらず最適にすることができる為、にじみの発生を効果的に防止することができる。
【0029】
(還元防止剤)
本発明の前処理インクでは、還元防止剤としてニトロベンゼンスルホン酸またはその塩を含有することを特徴の1つとする。本発明に係るニトロベンゼンスルホン酸塩としては、m−ニトロベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、特にm−ニトロベンゼンスルホン酸のナトリウム塩を用いることが好ましい。
【0030】
還元防止剤の含有量は、前処理インク全質量の0.1〜7質量%の範囲であることが好ましい。
【0031】
(アルカリ成分)
本発明の前処理インクには、アルカリ成分を含有させることを特徴の一つとする。
【0032】
本発明に適用可能なアルカリ成分(以下、アルカリ剤ともいう)としては、有機塩基、無機塩基から選択することが出来るが、水溶性の無機塩基が、発色性、臭気耐性、前処理インクへの溶解性、排水負荷などの点で好ましい。
【0033】
本発明に係るアルカリ成分としては、炭酸塩または炭酸水素塩であることが好ましく、また、このアルカリ成分の炭酸塩または炭酸水素塩が、ナトリウム塩またはカリウム塩であることが好ましい。前処理インクをインクジェット法で付与する場合は、本発明に係るアルカリ成分としてナトリウム塩またはカリウム塩を用いることは、前処理インクからの析出が起こり難く、インクジェットヘッドからの吐出が安定する観点から好ましい。
【0034】
更に、本発明の前処理インクにおいては、インク全質量におけるナトリウム塩の含有量が、カリウム塩の含有量よりも多い構成であることが好ましい。
【0035】
本発明に係るアルカリ成分として用いることのできる無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、第三リン酸ナトリウム等を用いることができる。
【0036】
本発明に係るアルカリ剤の含有量は、前処理インク全質量の0、1〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0037】
(水溶性高分子ポリマー)
本発明の前処理インクには、水溶性高分子ポリマーを含有させることが好ましい。本発明において、水溶性高分子ポリマーは糊剤として作用する。本発明に適用可能な水溶性高分子ポリマーとしては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム等の天然ガム類、澱粉類、アルギン酸ソーダ、ふのり等の海草類、ペクチン酸等の植物皮類、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、焙焼澱粉、アルファ澱粉、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉等の加工澱粉、シラツガム系、ローストビーンガム系等の加工天然ガム、アルギン誘導体、あるいは、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸エステル等の合成糊、エマルジョン等を用いることができる。
【0038】
前処理インクをインクジェット方式により布帛上に付与する場合、水溶性高分子ポリマーとしては、特に、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合物、グリセリンのポリエチレンオキサイド付加物、グリセリンのポリプロピレン付加物、ジグリセリンのポリエチレンオキサイド付加物、ジグリセリンのポリプロピレン付加物を用いることが好ましい。
【0039】
インクジェット捺染用前処理インクにおける水溶性高分子ポリマーの含有量は、前処理インク全質量の1〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0040】
(水溶性有機溶剤)
本発明の前処理インクをインクジェット方式により布帛上に付与する場合には、水溶性有機溶剤を含有させることができる。
【0041】
本発明の前処理インクに適用可能な水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール等)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等)、グリコールエーテル類(例えば、エチレングリコールアルキルエーテル、ジエチレングリコールアルキルエーテル、トリエチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、ジプロピレングリコールアルキルエーテル、トリプロピレングリコールアルキルエーテル等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)等が挙げられる。
【0042】
水溶性有機溶剤の含有量は、前処理インク全質量の5〜40質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0043】
(界面活性剤)
本発明の前処理インクには、界面活性剤を含有させることができる。界面活性剤としては、陽イオン性、陰イオン性、両性、非イオン性のいずれも用いることができ、陽イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、N−アシル−N−メチルグリシン塩、N−アシル−N−メチル−β−アラニン塩、N−アシルグルタミン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第二級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、第二級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン二級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、エマルゲン911)、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例えば、ニューポールPE−62、三洋化成工業社製)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール等が挙げられる。
【0044】
これらの界面活性剤を使用する場合、単独又は二種類以上を併用することができ、前処理インク全質量に対して、0.001〜1.0質量%の範囲で添加することができる。
【0045】
(その他添加剤)
本発明の前処理インクには、上記の各添加剤の他に、防腐剤、防黴剤を添加することができる。防腐剤、防黴剤としては、例えば、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK、バイエル社製)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(例えば、PROXEL GXL、ICI社製)等が挙げられる。
【0046】
(前処理インクのpH)
本発明の前処理インクのpHとしては、25℃において9.5以上、11.5以下であることが好ましく、より好ましくは10.0以上、11.0以下である。本発明の前処理インクのpHは、例えば、東亜電波工業株式会社のデジタルpHメーターHM−30S等を用い、25℃におけるpH値として測定する。
【0047】
(前処理インクの脱気)
本発明の前処理インクをインクジェット方式により布帛に付与する場合、前処理インク中に溶存気体が含まれていると、インクジェットヘッドから吐出させる際に前処理インク中に微細な気泡が発生し、吐出不良を引き起こす要因となる。そこで、そのような溶存気体を前処理インク中から除去することが好ましく、その脱気方法としては、大きく分けて、煮沸や減圧等の物理的方法により脱気する方法と、吸収剤を前処理インク中に添加混合させる化学的方法とがある。
【0048】
本発明においては、いかなる手段にて脱気を行うことも可能ではあるが、特に、気体透過性のある中空糸膜内に前処理インクを通液し、中空糸膜の外表面側を減圧することにより、前処理インク中の溶存気体を透過、除去する方法は、前処理インクの物性に悪影響を与えずに効率よく前処理インク中の溶存気体を除去することができ、好ましい。
【0049】
《前処理インクの付与方法》
本発明のインクジェット捺染方法においては、インクジェットヘッドを用いて前処理インクを布帛に付与する方法を用いる。
【0050】
この場合、インクジェット捺染装置としては、前処理インクを付与する為のインクジェットヘッドをプリンターに搭載し、色材を含有する記録インクとインラインで布帛に付与する機能を備えていることが好ましい。
【0051】
具体的には、(1)前処理インクを布帛に付与する工程、(2)付与した前処理インクを乾燥する工程、(3)記録インクを付与して画像を形成する工程、この一連の作業工程を1台のプリンター内で完結できるように構成する。
【0052】
本発明において、布帛に前処理インクを付与した後、10秒以内に色材を含有する記録インクを布帛に付与するように構成することにより、プリンターの構造をシンプルかつコンパクトにすることができる観点から好ましい。しかしながら、前処理インクを付与してから記録インクを付与するまでの時間が短いと、前処理インクを乾燥する時間を十分に取ることができず、前処理インクの乾燥が不十分になることがあり、このような場合には、記録インクを付与した際ににじみを生じたり、布帛に付与された前処理インクが布帛の厚手方向に拡散して効力が低下し、発色性が低下したりすることがある。
【0053】
この様な上記課題に対し、本発明の前処理インクを適用することにより、記録インクのにじみを防止して、十分な発色性を、短時間の作業内で得ることができる。
【0054】
本発明の前処理インクをインクジェット法で布帛に付与する場合、前処理インクの粘度は、3〜20mPa・sであることが好ましい。また、表面張力は、25〜70mN/mであることが好ましい。粘度および表面張力の調整は、前述の水溶性高分子ポリマー、水溶性有機溶剤および界面活性剤の種類や添加量を適宜調製することにより行うことができる。
【0055】
また、本発明の前処理インクの布帛に対する付与量としては、5〜20ml/mであることが好ましい。付与量が5ml/m以上であれば、本発明が目的とする効果を得ることができ、また、20ml/m以下であれば、乾燥負荷を低減することができる。
【0056】
《記録インク》
次いで、本発明のインクジェット捺染方法で用いる記録インクについて説明する。
【0057】
本発明に係る記録インクは、少なくとも色材として染料、水溶性有機溶媒、及び水から構成されていることが好ましい。
【0058】
(染料)
本発明においては、記録インク中に色材として染料を含むことが好ましく、更に好ましくは色材として反応性染料を含むことが好ましい。
【0059】
本発明に係る記録インクに適用可能な反応性染料としては、付加反応型染料、置換反応型染料のいずれも用いることができるが、特に反応性基としてモノクロロトリアジン基を有する反応性染料を適用することが好ましい。
【0060】
以下に、本発明に好ましく用いられる反応性染料の具体的化合物を示すが、本発明はこれら例示した化合物に限定されるものではない。
【0061】
本発明に好ましく用いられる反応性染料としては、
C.I.Reactive Yellow;2、3、7、15、17、18、22、23、24、25、27、37、39、42、57、69、75、76、81、84、85、86、87、92、95、102、105、111、125、135、136、137、142、143、145、151、160、161、165、167、168、175、176、
C.I.Reactive Orange;1、4、5、7、11、12、13、15、16、20、30、35、56、64、67、69、70、72、74、82、84、86、87、91、92、93、95、107、
C.I.Reactive Red;2、3、3:1、5、8、11、21、22、23、24、24:1、28、29、31、33、35、43、45、49、55、56、58、65、66、78、83、84、106、111、112、113、114、116、120、123、124、128、130、136、141、147、158、159、171、174、180、183、184、187、190、193、194、195、198、218、220、222、223、226、228、235、
C.I.Reactive Violet;1、2、4、5、6、22、23、33、36、38、
C.I.Reactive Blue;2、3、4、7、13、14、15、19、21、25、27、28、29、38、39、41、49、50、52、63、69、71、72、77、79、89、104、109、112、113、114、116、119、120、122、137、140、143、147、160、161、162、163、168、171、176、182、184、191、194、195、198、203、204、207、209、211、214、220、221、222、231、235、236、
C.I.Reactive Green;8、12、15、19、21、
C.I.Reactive Brown;2、7、9、10、11、17、18、19、21、23、31、37、43、46、
C.I.Reactive Black 5、8、13、14、31、34、39、
等が挙げられる。
【0062】
本発明において、記録インク全質量に対する色材の含有量としては0.1〜20質量%が好ましく、0.2〜13質量%がより好ましい。
【0063】
(水溶性有機溶剤)
本発明に係る記録インクに用いられる水溶性有機溶剤としては、前述の前処理インクに用いるものと同様のものを用いることができる。水溶性有機溶剤の含有量としては、記録インク全質量に対して10〜60質量%であることが好ましい。
【0064】
(界面活性剤)
本発明に係る記録インクにおいて用いられる界面活性剤としては、前述の前処理インクに用いるものと同様のものを用いることができる。
【0065】
これらの界面活性剤を使用する場合、単独又は2種類以上を併用することができ、記録インク全質量に対して、0.001〜1.0質量%の範囲で添加することにより、記録インクの表面張力を任意に調整することができ好ましい。
【0066】
(無機塩)
本発明に係る記録インクにおいては、インク粘度や染料を安定に保ち発色を良くするために、インク中に無機塩を添加することができる。無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
(その他添加剤)
本発明に係るインクにおいて、インクの長期保存安定性を保つため、防腐剤、防黴剤をインク中に添加することができる。防腐剤、防黴剤としては、例えば、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK、バイエル社製)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(例えば、PROXEL GXL、ICI社製)等が挙げられる。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
《布帛》
本発明のインクジェット捺染方法において、使用する布帛を構成する素材としては、反応性染料で染色可能な繊維を含有するものが好ましく、特に制限はないが、中でも、綿、絹、麻、羊毛、ナイロン繊維、レーヨン繊維及びこれらの混紡から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。布帛としては、上記に挙げた繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。又、本発明で使用し得る布帛としては、色材で染色可能な繊維が100%であることが好適であるが、混紡織布又は混紡不織布等も捺染用布帛として使用することができる。又、上記の様な布帛を構成する糸の太さとしては、10〜100dの範囲が好ましい。
【0069】
本発明においては、均一な染色物を得るために、布帛繊維に付着した天然不純物(油脂、ロウ、ペクチン質、天然色素等)、布帛製造過程で用いた薬剤の残留分(のり剤等)、汚れ等をあらかじめ洗浄しておくことが望ましい。洗浄に用いられる洗浄剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムといったアルカリ、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤といった界面活性剤、酵素等が用いられる。
【0070】
《インクジェット捺染方法》
本発明の前処理インク及び記録インクを用いて、布帛に印字を行うインクジェット捺染方法では、それぞれのインクを出射して画像形成がなされた布帛を乾燥した後巻き取り、加熱により発色し(発色工程)、布帛を洗浄、乾燥させることが望ましい。インクジェット捺染方式においては、記録インクを布帛に印字し、ただ放置しておくだけではうまく染着しない。また、長尺の布帛に長時間印字し続ける場合では、布帛が延々と搬送されるため、床等に印字した布帛が重なることにより、場所を占め、それは不安全でありまた予期せず汚れてしまう場合がある。そのために印字後、巻き取る操作が必要となる。この操作時に布帛と布帛の間に紙や布、ビニール等の印字に関わらない媒体を挟んでもかまわない。ただし途中で切断する場合や短い布帛に対しては必ずしも巻き取る必要はない。
【0071】
発色工程とは、プリント後の布帛表面に付着したのみで、十分布帛に吸着・固着されていない記録インク中の色材を布帛に吸着・固着させることにより、その色材本来の色相を発現させる工程である。その方法としては、蒸気によるスチーミング、過熱蒸気によるHTスチーマー等が利用される。それらはプリントする布帛の素材、記録インクで用いる色材等により適宜選択される。また、印字された布帛は直ちに発色処理しても、しばらくおいてから発色処理しても、用途に合わせて乾燥・発色処理すればよく、本発明においてはいずれの方法を用いてもよい。
【0072】
発色処理後は、洗浄工程が必要である。なぜなら染着に関与しなかった染料が残留することで、色の安定性が悪くなり堅牢度が低下するからである。また、布帛に施した前処理インクを除去することも必要である。そのままにしておくと、堅牢性の低下ばかりでなく布帛が変色する場合がある。そのため、除去対象物や目的に応じた洗浄が必須である。その方法は、プリントする布帛の素材や、使用する前処理インク、記録インクの種類により、適宜選択される。
【0073】
洗浄後は、乾燥が必要である。洗浄した布帛を絞ったり脱水した後、干したりあるいは乾燥機、ヒートロール、アイロン等を使用して乾燥させる。赤外線ヒーター等も使用できる。
【0074】
《インクジェット捺染装置》
本発明のインクジェット捺染方法に適用可能なインクジェット捺染装置の一例について説明する。
【0075】
(インクジェットヘッド)
本発明のインクジェット捺染方法においては、本発明の前処理インクをインクジェットヘッド(以下、単にヘッドともいう)を用いて布帛上に付与する。前処理インクをヘッドで付与することで、必要な部位に必要な量の前処理インクを均一にムラなく付与することができる。
【0076】
前処理インクを付与するヘッドは、記録インクを付与するヘッドを搭載したキャリッジと別キャリッジに搭載することもできるし、同一のキャリッジに搭載することもできる。別キャリッジに前処理インクを付与するヘッドを搭載する場合は、前処理インクを付与した後、記録インクを付与するまでの間に前処理インクを乾燥する乾燥装置を設けることが好ましい。また、同一のキャリッジに前処理インクを付与するヘッドを搭載する場合は、前処理インクを乾燥する乾燥装置をキャリッジ上に、同時に搭載することが好ましい。
【0077】
前処理インクおよび記録インクの吐出に用いるヘッドとしては、ピエゾ方式、サーマル方式、コンティニュアス方式などさまざまな方法から選択することができる。ピエゾ方式、コンティニュアス方式は高分子材料を含むインクなどでも安定に射出する可能性が高く好ましい、特にピエゾ方式は小型で集積度が高く好ましい。
【0078】
(乾燥手段)
本発明で使用するインクジェット捺染装置においては、布帛上に前処理インクを付与した後、布帛を乾燥する乾燥手段を有していることが好ましい。
【0079】
前処理インクの乾燥工程においては、付与された前処理インクの機能を最大限に発現する程度まで乾燥することが好ましい。多くの場合、前処理インクの付与により、後続の記録インクでの記録と合わせて、総インク量が増えて、それによりにじみが発生しやすくなるため、可能な限り、布帛に付与された前処理インクの水分及び有機溶剤を乾燥して除去することが好ましい。本発明に係る乾燥工程においては、布帛表面温度を30℃から80℃の範囲で、布帛や前処理インクの組成毎に適した温度設定をして、乾燥処理を施すことが好ましい。
【0080】
上記乾燥工程においては、乾燥により前処理インクが保持していた水分や有機溶剤がプリンター内部に充満すると、乾燥速度が低下するだけでなく、プリンター内部のセンサーなどの電気系統が腐食などを起こす可能性があるので、これらの揮発成分はプリンター外部に排出することが好ましい。例えば、排気塔を設け、ファン等を利用し強制的に排出することが好ましい。
【0081】
本発明に使用するインクジェット捺染装置に適用可能な乾燥手段の具体的な方法としては、温度制御可能な風または温風による乾燥手段、ホットプレートを用いた乾燥手段、可視光或いは遠赤外光を用いた乾燥手段、ヒートローラーを用いた乾燥手段、マイクロ波を照射する手段を用いた乾燥手段等を適宜選択して用いることができる。
【0082】
(インクジェット捺染装置の構成)
以下に、図を用いて上記説明した本発明に適用可能なインクジェット捺染装置の一例について説明するが、本発明は、これら例示する構成にのみ限定されるものではない。
【0083】
図1は、インクジェット捺染装置の構成の一例を示す部分概略図である。
【0084】
図1に記載のインクジェット捺染装置には、粘着性ベルト1と、粘着性ベルトを駆動するローラー3と、前処理インクを付与するヘッドと、記録インクを付与するヘッドとを同一のキャリッジ5とを示したものであり、本発明に用いることができるインクジェット捺染装置においては、その他に、前処理インク及び記録インクを付与するための制御手段等を備えている。
【0085】
図1において、粘着性ベルト1は、サポートロール2及び搬送ロール3に保持され、無端基材ベルト上に粘着手段、特に好ましくは地貼り剤を付与した粘着性ベルトである。
【0086】
右方向より搬送された布帛Pは、ニップロール4と粘着性ベルト1とで狭持され、粘着性ベルト1上に固定される。次いで、前処理インクを、キャリッジ5に搭載された前処理インク吐出用ヘッドより布帛P上に付与した後、同じくキャリッジ5に搭載された記録インク吐出用ヘッドより布帛上に付与して画像形成を行う。その際、キャリッジ5に搭載されたIHヒーター等の乾燥手段により布帛を乾燥する。
【0087】
図2は、図1に示すインクジェット捺染装置のキャリッジ5を上方から見た部分概略図で、キャリッジ上には記録インク吐出用ヘッドC〜Kと前処理インク吐出用ヘッドPTが配置されている。
【0088】
図2において、図面上側から搬送されてきた布帛に、記録インク吐出用ヘッドC、M、Y、Kより上流側に配置された前処理インク吐出用ヘッドPTにより、前処理インクが付与された後、キャリッジ両側に乾燥手段として設けられた遠赤外線ヒーターIRにより乾燥される。次いで、記録インク吐出用ヘッドY、M、C、Kにより記録インクが布帛に付与された後、前処理インクと同様に、遠赤外線ヒーターIRにより乾燥される。尚、図2において、Xはキャリッジの主走査方向を表し、Xは布帛の搬送方向を表す。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0090】
実施例1
《記録インクセットの調製》
〔記録インクセット1の調製〕
(記録インクRY1の調製)
下記の各添加剤を攪拌混合して溶解させた後、0.2μmPTFEフィルターでろ過した。次いで、調製した記録インクRY1を中空糸膜(三菱レイヨン製)内に通液し、中空糸膜の外表面側を真空ポンプで減圧することにより脱気処理を行った。
【0091】
C.I.Reactive Yellow 95 10質量%
エチレングリコール 15質量%
プロピレングリコール 20質量%
グリセリン 5.0質量%
オルフィンE1010(アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製)
0.2質量%
イオン交換水 49.8質量%
(記録インクRM1、RC1、RK1の調製)
上記記録インクRY1の調製において、C.I.Reactive Yellow 95を、それぞれ同量のC.I.Reactive Red 24、C.I.Reactive Blue 72、C.I.Reactive Black 39に変更した以外は同様にして、記録インクRM1、RC1、RK1を調製した。
【0092】
(記録インクセットの調製)
上記調製した記録インクRY1、RM1、RC1、RK1を、記録インクセット1とした。
【0093】
〔記録インクセット2の調製〕
(記録インクRY2の調製)
下記の各添加剤を攪拌混合して溶解させた後、0.2μmPTFEフィルターでろ過した。次いで、調製した記録インクRY2を中空糸膜(三菱レイヨン製)内に通液し、中空糸膜の外表面側を真空ポンプで減圧することにより脱気処理を行った。
【0094】
C.I.Reactive Yellow 95 10質量%
エチレングリコール 15質量%
プロピレングリコール 20質量%
グリセリン 5.0質量%
オルフィンE1010(アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製)
0.2質量%
2−イミダゾリジノン 10質量%
イオン交換水 39.8質量%
(記録インクRM2、RC2、RK2の調製)
上記記録インクRY2の調製において、C.I.Reactive Yellow 95を、それぞれ同量のC.I.Reactive Red 24、C.I.Reactive Blue 72、C.I.Reactive Black 39に変更した以外は同様にして、記録インクRM2、RC2、RK2を調製した。
【0095】
(記録インクセットの調製)
上記調製した記録インクRY2、RM2、RC2、RK2を、記録インクセット2とした。
【0096】
《前処理インクの調製》
〔前処理インクPT−1の調製〕
下記の各添加剤を攪拌混合して溶解させた後、0.2μmPTFEフィルターでろ過した。次いで、調製した前処理インクPT−1を中空糸膜(三菱レイヨン製)内に通液し、中空糸膜の外表面側を真空ポンプで減圧することにより脱気処理を行った後、前処理インクPT−1を2分割して真空パックにそれぞれ充填し、一方を40℃で4週間保管し、他方を25℃で4週間保管とした。
【0097】
アルカリ成分:炭酸ナトリウム 3.8質量%
2−イミダゾリジノン 5.0質量%
ニトロベンゼンスルホン酸塩:m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム
1.0質量%
有機溶媒:プロピレングリコール 17.5質量%
界面活性剤:オルフィンE1010(アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製) 0.10質量%
水溶性高分子ポリマー:PEG6000(ポリエチレングリコール6000、関東化学社製) 4.0質量%
イオン交換水 69.4質量%
〔前処理インクPT−2〜PT−8の調製〕
上記前処理インクPT−1の調製において、アルカリ成分(炭酸ナトリウム)の添加量、2−イミダゾリジノンの添加の有無と添加量、尿素の添加の有無を、表1に記載の条件に変更した以外は同様にして、前処理インクPT−2〜PT−8を調製した。なお、イオン交換水の添加量は、総量が100質量%となるように適宜調整した。なお、前処理インクPT−2については、前処理インクPT−1と同様に、2分割して真空パックにそれぞれ充填し、一方を40℃で4週間保管し、他方を25℃で保管とした。その他の前処理インクは、25℃で4週間の保管のみとした。
【0098】
なお、下記表1に略称で記載した各添加剤の詳細は、以下の通りである。
【0099】
〈ニトロベンゼンスルホン酸塩〉
NBSA:m−ニトロベンゼンスルホン酸
NBSA・Na:m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム
NBSA・K:m−ニトロベンゼンスルホン酸カリウム
〈有機溶媒〉
PG:プロピレングリコール
〈界面活性剤〉
E−1010:オルフィンE1010(アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製)
〈水溶性重合性モノマー〉
PEG6000:ポリエチレングリコール6000、関東化学社製
【0100】
【表1】

【0101】
《プリント物の作製》
〔プリント物1の作製〕
図1、2に記載のインクジェット捺染プリンターを用いて、プリント物1を作製した。
【0102】
まず、キャリッジ5の前処理インク吐出用ヘッドPTに前処理インクPT−1を充填し、記録インク吐出用ヘッドY、M、CおよびKに、記録インクセット1を装填した。
【0103】
次に、布帛として綿ブロード(色染社製)を用い、この布帛を図2に示すX方向に搬送しながら、キャリッジ5の前処理インク吐出用ヘッドPTから、前処理インクPT−1を12ml/mの付量となるように布帛全面に一様に付与した。
【0104】
続いて、記録インク吐出用ヘッドY、M、CおよびKから記録インクセット1を布帛に付与して、評価画像をプリントした。この間、キャリッジ5の両脇に取り付けた遠赤外ヒーターIRにより、付与したそれぞれのインクを乾燥させた。また、前処理インクが布帛に付与されてから、同じ位置に記録インクが付与されるまでの間隔が7秒となるように、前処理インク吐出用ヘッドと記録インク吐出用ヘッドとの間隔aを調整した。
【0105】
評価画像としては、540dpi×540dpiにて全てのピクセルに記録インクセットの各インクを吐出した時を100%とした際、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色を100%出力した単色のベタ画像、イエロー、マゼンタの各色を同一エリアに100%ずつ出力した2色混合のベタ画像、マゼンタ、シアンの各色を同一エリアに100%ずつ出力した2色混合のベタ画像、イエロー、シアンの各色を同一エリアに100%ずつ出力した2色混合のベタ画像およびイエロー、マゼンタ、シアンの各色を同一エリアに100%ずつ出力した3色混合のベタ画像を印字した。なお、本発明で言うdpiは、2.54cm当たりのドット数を表す。なお、単色ベタ画像における記録インクの付量を9ml/mとした。
【0106】
次いで、プリント済の布帛を温度100℃で15分間のスチーミング処理を行い、水洗後、60℃にてソーピング処理を行い、更に水洗を行った後、乾燥して、プリント物1を得た。
【0107】
〔プリント物2〜15の作製〕
上記プリント物1の作製において、前処理インクの種類(含む保存条件違い)、記録インクセットの種類、及び布帛の種類を、表2に記載の組み合わせに変更した以外は同様にして、プリント物2〜15を作製した。なお、表2に記載の布帛である綿帆布は、色染社製のものを使用した。
【0108】
《前処理インクの評価》
〔出射安定性の評価〕
図1、図2に記載のインクジェット捺染プリンターを用いて、キャリッジ5の前処理インク吐出用ヘッドPTに各前処理インクを充填し、布帛として綿ブロード(色染社製)を用い、この布帛を図2に示すX方向に搬送しながら、キャリッジ5の前処理インク吐出用ヘッドPTから、各前処理インクを12ml/mの付量となるように布帛全面に一様に付与してベタ印字を行った。
【0109】
次いで、その状態で1時間経過させた後、あらかじめpH指示薬としてフェノールフタレインを水に溶解してしみこませた紙を乾燥させた試験紙を搬送し、上記と同様に各前処理インクを吐出してベタ印字を行い、アルカリ発色した画像の均一性とそれに関連するノズル欠の有無を目視評価し、下記の基準に従って出射安定性の評価を行った。
【0110】
◎:フェノールフタレイン含有記録紙上のベタ画像は均一であり、ノズル欠の発生は全く認められない
○:フェノールフタレイン含有記録紙上のベタ画像はほぼ均一であり、一部で弱いノズル欠の発生は認められるが、実用上は問題のない特性である
×:フェノールフタレイン含有記録紙上のベタ画像に発色ムラ及びノズル欠の発生は認めら、実用上問題となる特性である
《プリント物の評価》
上記作製した各プリント物について、下記の方法に従って発色性、にじみ耐性の評価を行った。
【0111】
〔発色性の評価〕
上記方法に従って形成した各色ベタ画像の反射濃度を、反射濃度計(X−rite938)を用いてそれぞれ測定し、下記の基準に従って発色性の評価を行った。
【0112】
◎:設定した画像濃度が得られた
○:ほぼ設定した画像濃度が得られ、実用上十分な発色性である
△:設定した画像濃度にやや到達しない品質で、実用上懸念される品質である
×:明らかに設定した画像濃度に到達しない品質で、実用に耐えない品質である
〔にじみ耐性の評価〕
上記形成した単色のベタ画像、2色混合のベタ画像、3色混合のベタ画像のベタ画像部分と白地部との境界領域を、ルーペを用いてにじみ発生の有無を観察し、下記の基準に従ってにじみ耐性の評価を行った。
【0113】
◎:3色混合のベタ画像の境界部まで、にじみの発生が全く認められず、極めて鮮明な画像である
○:2色混合のベタ画像の境界部までにじみの発生が全く認められず、極めて鮮明な画像である。3色混合のベタ画像の境界部では僅かなにじみの発生が認められるが、鮮明で良好な画像である
△:単色のベタ画像では境界部までにじみの発生が全く認められず、極めて鮮明な画像である。2色混合のベタ画像の境界部では僅かなにじみの発生が認められるが、鮮明で良好な画像である
×:単色のベタ画像の境界部で強いにじみの発生が認められる
以上により得られた結果を、表2に示す。
【0114】
【表2】

【0115】
2−イミダゾリジノン、ニトロベンゼンスルホン酸またはその塩及びアルカリ成分を含有する本発明の前処理インクは出射安定性に優れ、かつ形成した画像のにじみ耐性及び発色性に優れていることが分かる。
【0116】
実施例2
《前処理インクの調製》
〔前処理インクPT−9〜PT−14の調製〕
実施例1に記載の前処理インクPT−1の調製において、アルカリ成分の組み合わせと添加量を、表3に記載の様に変更した以外は同様にして、前処理インクPT−9〜PT−14を調製した。なお、前処理インクは、25℃で4週間保存した後、各評価に用いた。
【0117】
なお、下記表3に略称で記載した各添加剤で、実施例1で記載した以外の詳細は、以下の通りである。
【0118】
〈アルカリ成分〉
SC:炭酸ナトリウム
SBC:重炭酸ナトリウム
PC:炭酸カリウム
【0119】
【表3】

【0120】
《プリント物の作製》
実施例1に記載のプリント物1の作製において、前処理インクの種類を、表4に記載の組み合わせに変更した以外は同様にして、プリント物16〜21を作製した。
【0121】
《前処理インク及びプリント物の評価》
上記調製した前処理インクPT−9〜PT−14及び作製したプリント物16〜21について、実施例1に記載の方法と同様にして、前処理インクの出射安定性と、プリント物の発色性及びにじみ耐性の評価を行い、得られた結果を表4に示す。
【0122】
【表4】

【0123】
表4に記載の結果より明らかなように、本発明の前処理インクにおいて、炭酸ナトリウムの比率が、炭酸塩中の50%以上である前処理インク、あるいは炭酸塩の比率が、炭酸塩と炭酸水素塩との総量の60%以上である前処理インクを用いて形成した画像は、発色性が更に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0124】
1 粘着性ベルト
2 サポートロール
3 搬送ロール
4 ニップロール
5 キャリッジ
P 布帛
PT 前処理インク吐出用ヘッド
C、M、Y、K 記録インク吐出用ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−イミダゾリジノン、ニトロベンゼンスルホン酸またはその塩及びアルカリ成分を含有することを特徴とするインクジェット捺染用前処理インク。
【請求項2】
前記アルカリ成分が、炭酸塩または炭酸水素塩であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット捺染用前処理インク。
【請求項3】
前記アルカリ成分の炭酸塩または炭酸水素塩が、ナトリウム塩またはカリウム塩であり、インク全質量における該ナトリウム塩の含有量が、該カリウム塩の含有量よりも多いことを特徴とする請求項2記載のインクジェット捺染用前処理インク。
【請求項4】
前記アルカリ成分は、炭酸塩及び炭酸水素塩の総量に対する前記炭酸塩の含有比率が、60質量%以上であることを特徴とする請求項2記載のインクジェット捺染用前処理インク。
【請求項5】
水溶性高分子ポリマーを含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット捺染用前処理インク。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット捺染用前処理インクを製造することを特徴とするインクジェット捺染用前処理インクの製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット捺染用前処理インクを用いるインクジェット捺染方法であって、インクジェットヘッドを用いて該インクジェット捺染用前処理インクを布帛に付与した後、記録インクを該布帛に付与することを特徴とするインクジェット捺染方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−167394(P2012−167394A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28263(P2011−28263)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】