説明

インクジェット用硬化組成物及びプリント配線基板の製造方法

【課題】50℃以上に加温されるインクジェット装置内の環境下でもポットライフが長く、耐熱性に優れるインクジェット用硬化組成物を提供する。
【解決手段】インクジェット用硬化組成物は、(A)(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物と、(B)分子内に熱硬化性官能基を2つ以上有する化合物と、(C)硬化剤がシェルにより内包されてなるコアシェル粒子、硬化剤を包摂している包摂化合物粒子、及び硬化剤を内部に含む樹脂粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の粒子と、(D)光ラジカル重合開始剤とを含有し、光照射により光硬化すると共に、加熱されることにより熱硬化剤がシェルの外部に放出されることによって熱硬化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用硬化組成物及びプリント配線基板の製造方法に関し、特に、ポットライフが長く、耐熱性に優れた、ソルダーレジスト形成用のインクジェット用硬化組成物、及びそれにより形成されたソルダーレジストパターンを有するプリント配線基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線板として、基板上に配線と共にソルダーレジストからなるパターンが形成されているプリント配線板が多く使用されている。このようなプリント配線板においては、電子機器の小型化及び高密度化に伴い、より一層微細なソルダーレジストパターンが求められている。
【0003】
微細なソルダーレジストパターンを形成する方法としては、インクジェット法によりソルダーレジストインクを塗布する方法が種々提案されている。また、このインクジェット法によれば、例えば、スクリーン印刷法によりソルダーレジストパターンを形成する場合よりも、工程数を2工程以上少なくすることができる。このため、インクジェット法によれば、ソルダーレジストパターンを容易に形成することができる。
【0004】
ところで、従来のソルダーレジストの粘度は、20000mPa・s程度であり、インクジッェトで塗布可能な5〜50mPa・sとは大きくかけ離れている。このため、大量の希釈剤でソルダーレジストを希釈しなければ、インクジェット法に好適な粘度のインクジェット用硬化組成物を得ることは困難であった。一方、大量の希釈剤を用いてソルダーレジストを希釈すれば、インクジェット法に好適な粘度のインクジェット用硬化組成物を調製できる場合があるものの、その場合は、ソルダーレジストパターンに要求される耐熱性、耐薬品性などの物性が大きく低下してしまう。さらに、ソルダーレジストの希釈に揮発性の溶剤を用いた場合は、不揮発分が非常に少なくなり、ソルダーレジストパターンを十分に厚く形成することが困難であった。
【0005】
このような問題に鑑み、例えば、下記の特許文献1では、(A)分子内に(メタ)アクリロイル基と熱硬化性官能基を有するモノマー、(B)重量平均分子量700以下の前記(A)成分以外の光反応性希釈剤、及び(C)光重合開始剤を含有し、粘度が25℃で150mPa・s以下であるインクジェット用硬化組成物が提案されている。
【0006】
特許文献1には、特許文献1に記載のインクジェット用硬化組成物であれば、加温することによって塗布時における粘度を、約20mPa・s以下というインクジェット法に好適な粘度とすることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2004/099272 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、特許文献1のインクジェット用硬化組成物は、加温した状態で塗布されるものであるにも関わらず、熱硬化性官能基を有するモノマーを含有している。このため、特許文献1に記載のインクジェット用硬化組成物には、ポットライフが短いという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、50℃以上に加温されるインクジェット装置内の環境下でもポットライフが長く、耐熱性に優れるインクジェット用硬化組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るインクジェット用硬化組成物は、(A)(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物と、(B)分子内に熱硬化性官能基を2つ以上有する化合物と、(C)硬化剤がシェルにより内包されてなるコアシェル粒子、硬化剤を包摂している包摂化合物粒子、及び硬化剤を内部に含む樹脂粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の粒子と、(D)光ラジカル重合開始剤とを含有し、光照射により光硬化すると共に、加熱されることにより熱硬化剤がシェルの外部に放出されることによって熱硬化する。
【0011】
本発明に係るインクジェット用硬化組成物のある特定の局面では、化合物(B)の熱硬化性官能基が、(メタ)アクリロイル基以外の炭素−炭素二重結合を含む官能基、エポキシ基及びオキセタニル基よりなる群から選ばれた少なくとも1種である。
【0012】
本発明に係るインクジェット用硬化組成物の別の特定の局面では、粒子(C)は、熱硬化剤が放出されるときの最低温度が、100℃〜180℃の範囲内となるように構成されている。
【0013】
本発明に係る配線基板の製造方法は、ソルダーレジストパターンを有するプリント配線基板の製造方法であって、上記本発明に係るインクジェット用硬化組成物を、インクジェットプリンターで描画し、光照射及び加熱により硬化させることにより前記ソルダーレジストパターンを形成する。
【0014】
本発明に係る配線基板の製造方法のある特定の局面では、描画されたインクジェット用硬化組成物に光照射することにより一次硬化させた後に、加熱することにより硬化させることにより、ソルダーレジストパターンを形成する。この場合、光硬化と熱硬化とが併用されるため、耐熱性に優れたソルダーレジストパターンを形成することができる。また、熱硬化の前に、光照射を行うことにより、一次硬化させるため、インクジェット用硬化組成物の濡れ拡がりを抑制することができ、ソルダーレジストパターンを高精度に形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るインクジェット用硬化組成物は、硬化剤がシェルにより内包されてなるコアシェル粒子、硬化剤を包摂している包摂化合物粒子、及び硬化剤を内部に含む樹脂粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の粒子(C)を含んでおり、光照射により光硬化すると共に、加熱されることにより熱硬化剤がシェルの外部に放出されることによって熱硬化する。このように、本発明では、粒子(C)が採用されているため、インクジェット用硬化組成物の塗布時にインクジェット用硬化組成物が加熱されても、熱硬化剤がシェルから放出されるまでは熱硬化反応は進行しない。従って、長いポットライフを実現することができる。また、本発明に係るインクジェット用硬化組成物は、光と熱を併用する硬化反応により硬化するため、本発明に係るインクジェット用硬化組成物を用いることにより、高い耐熱性を持つソルダーレジストを作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0017】
本発明に係るインクジェット用硬化組成物は、(A)(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物と、(B)分子内に熱硬化性官能基を2つ以上有する化合物と、(C)硬化剤がシェルにより内包されてなるコアシェル粒子、硬化剤を包摂している包摂化合物粒子、及び硬化剤を内部に含む樹脂粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の粒子と、(D)光ラジカル重合開始剤とを含有し、光が照射されると共に加熱されることにより熱硬化剤がシェルの外部に放出されることによって硬化する。
【0018】
(A)(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物
化合物(A)は、分子内に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有するため、光の照射によりラジカル重合が進行し、硬化する。このため、塗工後に光を照射することにより、形状を保持することができ、濡れ拡がりを効果的に抑制することができる。
【0019】
化合物(A)の具体例としては、多価アルコールの(メタ)アクリル酸付加物、多価アルコールのアルキレンオキサイド変性物の(メタ)アクリル酸付加物、ウレタン(メタ)アクリレート類、ポリエステル(メタ)アクリレート類などが挙げられる。多価アルコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0020】
なお、本発明では、1種の(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物(A)が用いられてもよく、2種以上の(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物(A)が用いられてもよい。
【0021】
(B)分子内に熱硬化性官能基を2つ以上有する化合物
化合物(B)は、分子内に熱硬化性官能基を2つ以上有するため、本発明に係るインクジェット用硬化組成物は、加熱により、後述する粒子(C)に含まれる熱硬化剤と化合物(B)とが反応することにより硬化する。従って、上記光硬化する化合物(A)と、熱硬化する化合物(B)とを含む本発明に係るインクジェット用硬化組成物は、光の照射により一次硬化させ、加熱により二次硬化させることができる。よって、本発明に係るインクジェット用硬化組成物を用いることにより、微細なパターン形状を高精度に形成することができる。また、耐熱性に優れたソルダーレジストパターンを形成することができる。
【0022】
化合物(B)が有する熱硬化性官能基は、(メタ)アクリロイル基以外の炭素−炭素二重結合、エポキシ基及びオキセタニル基よりなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
(メタ)アクリロイル基以外の炭素−炭素二重結合を含む官能基としては、ビニル基や、アリル基が挙げられる。熱硬化性官能基としてビニル基を有するビニル基含有化合物の具体例としては、ジエチレングリコールジビニルエーテルなどが挙げられる。熱硬化性官能基としてアリル基を有するアリル基含有化合物の具体例としては、トリアリルイソシアヌレートなどが挙げられる。
【0024】
熱硬化性官能基としてエポキシ基を有するエポキシ基含有化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などの公知慣用のエポキシ類、上記多価アルコールの(ポリ)グリシジルエーテル類、ヘキサヒドロフタル酸等の(ポリ)グリシジルエステル類などが挙げられる。
【0025】
熱硬化性官能基としてオキセタニル基を有するオキセタニル基含有化合物の具体例としては、例えば、特許第3074086号公報に例示されるような化合物が挙げられる。
【0026】
(C)粒子
本発明では、上記硬化剤を含有している粒子(C)として、上記のように、1)硬化剤がシェルにより内包されてなるコアシェル粒子、2)硬化剤を包摂している包摂化合物粒子、及び3)硬化剤を内部に含む樹脂粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の粒子が用いられる。
【0027】
(C−1)硬化剤がシェルにより内包されてなるコアシェル粒子
本発明で用いられるコアシェル粒子は、熱硬化剤がシェルの外部に放出されるときの最低温度が少なくとも50℃以上となるように構成されていることが好ましい。硬化剤の反応開始温度が、インクジェットヘッドの温度よりも高い場合は、コアシェル粒子の熱硬化剤がシェルの外部に放出されるときの最低温度は、50℃〜100℃であってもよい。但し、コアシェル粒子は、熱硬化剤がシェルの外部に放出されるときの最低温度が100℃〜180℃の範囲内となるように構成されていることがより好ましい。この場合、インクジェットヘッドの温度を自由に設定することができるためである。換言すれば、インクジェットヘッドの設定温度がどのような温度であってもインクジェット用硬化組成物を用いることができるためである。
【0028】
熱硬化剤の具体例としては、例えば、疎水性イミダゾール化合物などのイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィン、アミン化合物等が挙げられる。ここで、疎水性イミダゾール化合物とは、水に最大限溶解させたときの濃度が5重量%未満であるイミダゾール化合物を意味する。上記疎水性イミダゾール化合物は、炭素数11以上の炭化水素基を有するものであることが好ましい。炭素数11以上の炭化水素基を有するイミダゾール化合物として、例えば、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−シアノエチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)−エチル−s−トリアジン等が挙げられる。なかでも、上記疎水性イミダゾール化合物として、2−ウンデシルイミダゾールを用いることが好ましい。
【0029】
シェルは、例えば、ポリマーにより構成することができる。ポリマーは、親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーを含有するものであってもよい。
【0030】
上記親水性基は特に限定されない。上記親水性基の具体例としては、例えば、グリシジル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン基等が挙げられる。
【0031】
上記疎水性基も特に限定されない。上記疎水性基の具体例としては、例えば、フェニル基、メチル基、エチル基、プロピル基、メタクリル基等が挙げられる。
【0032】
上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの具体例としては、例えば、ポリスチレン誘導体、ポリメタクリル酸誘導体等が挙げられる。ポリスチレン誘導体は、上記親水性基としてグリシジル基を有し、上記疎水性基としてポリスチレン骨格に由来するフェニル基を有するものであってもよい。
【0033】
上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーでは、分子中の親水性基の数と疎水性基の数との比が0.5:9.5〜3.5:6.5であることが好ましく、2.0:8.0〜3.1:6.9であることがより好ましい。親水性基の数が少なすぎると、上記ポリマーの疎水性が大きくなりすぎて、コアシェル粒子が好適に形成できない場合がある。親水性基の数が多すぎると、上記ポリマーの親水性が大きくなりすぎて、コアシェル粒子のアスペクト比が大きくなりすぎることがある。
【0034】
上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの重量平均分子量は特に限定されない。上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの重量平均分子量は、5000〜10万程度であることが好ましい。熱可塑性ポリマーの重量平均分子量が小さすぎると、コアシェル粒子の耐熱性が低下し、熱硬化剤がシェルの外部に放出されるときの最低温度が低くなりすぎたり、貯蔵安定性が低くなりすぎたりする場合がある。熱可塑性ポリマーの重量平均分子量が大きすぎると、上記ポリマーの析出速度が速くなりすぎて粒子がコアシェル粒子とならない場合があったり、コアシェル粒子のアスペクト比が大きくなりすぎたりする場合がある。
【0035】
シェルを構成しているポリマーは、上記のような有機のポリマーに加えて、無機ポリマーをさらに含有してもよい。無機ポリマーを含有させることにより、コアシェル粒子の耐溶剤性を向上でき、溶剤と混合して使用する場合にも好適に使用できるコアシェル粒子を得ることができる。
【0036】
上記無機ポリマーは、例えば、分子中に2個以上の炭素数1〜6のアルコキシ基を有し、かつ、Si、Al、Zr及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含有する有機金属化合物の重合体等により構成することができる。有機金属化合物の重合体の具体例として、例えば、シリコーン樹脂、ポリボロシロキサン樹脂、ポリカルボシラン樹脂、ポリシラスチレン樹脂、ポリシラザン樹脂、ポリチタノカルボシラン樹脂等が挙げられる。なかでも、シリコーン樹脂が好ましく用いられ、グリシジル基を有するシリコーン樹脂がより好ましく用いられる。
【0037】
シェルを構成しているポリマーが無機ポリマーを含有している場合、上記親水性基と疎水性基とを有する熱可塑性ポリマーの配合量と、上記無機ポリマーの配合量との重量比は、4:6〜7:3であることが好ましく、5:5〜6:4であることがより好ましい。熱可塑性ポリマーの配合量が少なすぎると、コアシェル粒子のアスペクト比が大きくなりすぎたり、コアシェル粒子の耐熱性が高くなりすぎ、加熱しても熱硬化剤が放出されなくなったりする場合がある。熱可塑性ポリマーの配合量が多すぎると、コアシェル粒子の耐薬品性が低くなりすぎる場合がある。
【0038】
なお、本発明において、シェルの厚みは特に限定されない。シェルの厚みは、例えば、0.05μm〜1.0μm程度であることが好ましく、0.1μm〜0.5μmであることがより好ましい。
【0039】
本発明において、コアシェル粒子の平均粒子径は特に限定されない。コアシェル粒子の平均粒子径は、0.5μm〜5.0μmであることが好ましく、0.5μm〜3.0μmであることがより好ましい。コアシェル粒子の平均粒子径が小さすぎると、シェルの厚みが薄くなりすぎ、コアシェル粒子の保持性が低くなりすぎる場合がある。コアシェル粒子の平均粒子径が大きすぎると、加熱により熱硬化剤が放出された後に大きなボイドが生じ、硬化物の信頼性が低くなることがある。
【0040】
なお、熱硬化剤は、シェルにより完全に被覆されていなくてもよい。硬化剤は、シェルにより実質的に被覆されていればよく、熱硬化剤がシェルにより覆われているときに熱硬化剤が化合物(B)と反応できないのであれば部分的に被覆されていない箇所があってもよい。従って、熱硬化剤は、加熱によりシェルを破壊して表面に出てきてもよく、加熱によりシェルの隙間から表面に出てきてもよい。
【0041】
(C−2)包摂化合物粒子
本発明で用いられる上記包摂化合物粒子の具体例としては、テトラキスフェノール類化合物などによりイミダゾール等の熱硬化剤が包摂されてなる包摂化合物粒子(例えば、日本曹達製TEP−2E4MZ、HIPA−2E4MZなど)が挙げられる。このような包摂化合物粒子は、加熱により錯体構造が破壊されることにより熱硬化剤が放出されるものであってもよい。
【0042】
(C−3)硬化剤を内部に含む粉砕された樹脂粒子
本発明で用いられる上記樹脂粒子の具体例としては、例えば、メチルメタクリレート樹脂やスチレン樹脂等からなるシェルで被覆されたトリフェニルホスフィン(熱硬化剤)の粉末(例えば、日本化薬社製EPCAT−P、EPCAT−PSなど)や、特許第3031897号公報や特許第3199818号公報に記載されている、ポリウレア系重合体やラジカル重合体からなるシェル内に、アミンなどの熱硬化剤が内包されたものなどが挙げられる。
【0043】
一方、加熱により熱硬化剤を放出する上記樹脂粒子の具体例としては、例えば、変性イミダゾールなどの熱硬化剤をエポキシ樹脂中に分散させて閉じ込め、粉砕することにより得られた化合物(旭化成イーマテリアルズ社製ノバキュアHXA3792、HXA3932HP)や、特許第3098061号公報に記載されている、熱可塑性高分子内に硬化剤を分散含有させたもの等が挙げられる。
【0044】
なお、包摂化合物粒子(C−2)、硬化剤を内部に含む粉砕された樹脂粒子(C−3)も、上記コアシェル粒子(C−1)と同様に、熱硬化剤が外部に放出されるときの最低温度が少なくとも50℃以上となるように構成されていることが好ましい。硬化剤の反応開始温度が、インクジェットヘッドの温度よりも高い場合は、粒子(C−2)(C−3)の熱硬化剤が外部に放出されるときの最低温度は、50℃〜100℃であってもよい。但し、粒子(C−2)(C−3)粒子は、熱硬化剤がシェルの外部に放出されるときの最低温度が100℃〜180℃の範囲内となるように構成されていることがより好ましい。
【0045】
次に、粒子(C)の製造方法の一例について説明する。ここでは、具体的には、コアシェル粒子の製造方法の一例について説明する。
【0046】
まず、シェルを作製するためのポリマーと、熱硬化剤とを、上記ポリマーと上記熱硬化剤とを共に溶解することのできる溶剤に溶解させて、上記ポリマーと上記熱硬化剤とを含有する混合溶液を調製する。上記溶剤としては、例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサンとイソプロピルアルコールとの混合溶剤、酢酸エチルとイソプロピルアルコールとの混合溶剤、メチルエチルケトンとイソプロピルアルコールとの混合溶剤等が好適に使用される。
【0047】
次に、上記混合溶液を水性媒体中に乳化分散させる。上記水性媒体としては、例えば、水、又は、水とメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶剤との混合物等が好適に使用される。上記水性媒体の添加量は特に限定されないが、上記水性媒体は、上記混合溶液100重量部に対して、300重量部〜1000重量部程度添加することが好ましい。上記水性媒体は、必要に応じて、乳化剤を含有してもよい。上記乳化剤としては、例えば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が好適に使用される。
【0048】
上記混合溶液を水性媒体中に乳化分散させる方法としては、例えば、上記混合溶液に上記水性媒体を滴下し、ホモジナイザーを用いて攪拌する方法、超音波照射により乳化する方法、マイクロチャネル又はSPG膜を通過させて乳化する方法、スプレーで噴霧する方法、転相乳化法等が例示される。
【0049】
次に、例えば、加熱しながら減圧したり、上記ポリマーの貧溶媒を添加したりすることにより、上記水性媒体中で上記溶剤を除去する。これにより、上記ポリマーと上記熱硬化剤とが相分離し、上記ポリマーが析出してコアシェル構造が形成され、コアシェル粒子分散液が得られる。そのコアシェル粒子分散液から、コアシェル粒子を取り出し、純水などを用いて洗浄することにより、コアシェル粒子を製造することができる。
【0050】
(D)光ラジカル重合開始剤
光ラジカル重合開始剤(D)は、光、レーザー、電子線等によりラジカルを発生し、ラジカル重合反応を開始する化合物であれば特に限定されない。光ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、N,N−ジメチルアミノアセトフェン等のアミノアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体;リボフラビンテトラブチレート;2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール等のチオール化合物;2,4,6−トリス−s−トリアジン、2,2,2−トリブロモエタノール、トリブロモメチルフェニルスルホン等の有機ハロゲン化合物;ベンゾフェノン、4,4´−ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類又はキサントン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。これら公知慣用の光重合開始剤は、単独で又は2種類以上の混合物として使用でき、さらにはN,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類などの光開始助剤を加えることができる。
【0051】
また可視光領域に吸収のあるCGI−784等(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)のチタノセン化合物等を、光反応を促進するために添加してもよい。紫外光もしくは可視光領域で光を吸収し、(メタ)アクリロイル基等の不飽和基をラジカル重合させるものであれば、光重合開始剤、光開始助剤に限らず、単独であるいは複数併用して使用できる。
【0052】
(その他任意成分)
また、本発明に係るインクジェット用硬化組成物は、上記必須成分(A)〜(D)に加えて、以下に例示するような任意成分を含んでいてもよい。
【0053】
(A)成分以外の(メタ)アクリロイル基含有化合物:(メタ)アクリル酸、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の分子内に(メタ)アクリル基を1つ有する化合物
(B)成分以外の熱硬化性基含有化合物:分子内にビニル基、アリル基、エポキシ基、オキセタニル基を1つ有する化合物
着色剤:フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラックなどの着色剤
重合禁止剤:ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、tert−ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジン等の公知慣用の重合禁止剤
消泡剤:シリコーン系、フッ素系、高分子系等の消泡剤
レベリング剤:シリコーン系、フッ素系、高分子系等のレベリング剤
密着性付与剤:イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系、シランカップリング剤等の密着性付与剤
【0054】
(インクジェット用硬化組成物の組成)
本発明において、インクジェット用硬化組成物の組成は、特に限定されないが、化合物(A)100重量部に対する化合物(B)の好ましい配合量は、10重量部〜100重量部である。粒子(C)の化合物(B)100重量部に対する好ましい配合量は、1重量部〜50重量部である。光ラジカル重合開始剤(D)の化合物(A)100重量部に対する好ましい配合量は、3重量部〜10重量部である。
【0055】
(インクジェットプリンターとプリント配線板)
次に、本発明のプリント配線板の製造方法について説明する。
【0056】
本発明のプリント配線板の製造方法は、上記本発明のインクジェット用硬化組成物を用いることを特徴とする。すなわち、本発明のプリント配線板の製造方法では、まず、配線などが形成されている基板本体の上に、上記本発明のインクジェット用硬化組成物を用い、インクジェットプリンターでソルダーレジストパターンを直接描画する。ここで、「直接描画する」とは、マスクを用いずに描画することを意味する。
【0057】
次に、描画されたインクジェット用硬化組成物に光照射することにより一次硬化させる。これにより描画されたインクジェット用硬化組成物の濡れ拡がりを抑制することができる。高精度なパターン形成が可能となる。
【0058】
次に、インクジェット用硬化組成物を加熱することにより本硬化させる。これにより、ソルダーレジストパターンを形成する。このように、本発明においては、光硬化と熱硬化とが併用されるため、耐熱性に優れたソルダーレジストパターンを形成することができる。
【0059】
また、上述のように、本発明のインクジェット用硬化組成物は、熱硬化剤をコアシェル粒子として含んでいるため、例えば、インクジェットヘッドにおいてインクジェット用硬化組成物を加熱する場合であっても、インクジェット用硬化組成物のポットライフが長く、また、インクジェット用硬化組成物をインクジェット法に適した粘度となるまで加熱できるため、プリント配線板を好適に製造することができる。
【0060】
本発明において、インクジェット用硬化組成物の塗布時における温度は、インクジェッドヘッドから吐出できる粘度となる温度であれば特に限定されないが、60℃以上100℃未満が適当である。
【0061】
インクジェット用硬化組成物の塗布時におけるインクジェット用硬化組成物の粘度は、インクジェットヘッドから吐出できる範囲であれば特に限定されない。インクジェット用硬化組成物の粘度は、25℃で500mPa・s未満であることが好ましい。
【0062】
(実施例1)
(コアシェル粒子の合成)
エポキシ基含有アクリル樹脂(日本油脂社製、商品名:マープルーフG−0130S)を3重量部と、疎水性イミダゾール化合物としての2−ウンデシルイミダゾール3を2重量部と、シリコーン樹脂(信越化学工業社製、商品名:X−41−1053)を3重量部とを、シクロヘキサンとイソプロピルアルコールとの混合溶剤(シクロヘキサン:イソプロピルアルコール=9重量部:1重量部)170重量部に溶解させて、混合溶液を得た。この混合溶液に、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル2重量%を含有する水1000重量部を滴下して、ホモジナイザーを用いて3000rpmで攪拌することにより乳化分散させた。その後、得られた分散液を減圧装置付反応器で加熱しながら減圧して、溶剤を除去することにより、コアシェル粒子分散液を得た。得られたコアシェル粒子分散液中のコアシェル粒子を、純水を用いて繰り返して洗浄した後、真空乾燥を行い、コアシェル粒子(C)を得た。
【0063】
(インクジェット用硬化組成物の作製)
下記の表1に示す通りの配合量で各成分(A)〜(D)を配合し、60℃に加熱し、それをディスパーで攪拌した後、5μmのメンブレンフィルターでろ過を行うことにより、実施例1に係るインクジェット用硬化組成物を得た。
【0064】
(実施例2〜5)
下記の表1に示す通りの配合量で各成分を配合し、60℃に加熱し、それをディスパーで攪拌した後、5μmのメンブレンフィルターでろ過を行うことにより、実施例2〜5に係るインクジェット用硬化組成物を得た。
【0065】
(比較例1,2)
下記の表1に示す通りの配合量で各成分を配合し、60℃に加熱し、それをディスパーで攪拌した後、5μmのメンブレンフィルターでろ過を行うことにより、比較例1,2に係るインクジェット用硬化組成物を得た。
【0066】
(評価)
<インクジェットプリンターによる描画>
上記調製のインクジェット用硬化組成物を、下記のインクジェット装置を用い、下記の条件で、銅箔付FR−4基板の表面及び銅箔表面の全面を覆うように塗布し、紫外線及び熱を照射することにより、ソルダーレジストパターンを形成した。
【0067】
インクジェット装置:紫外線照射装置付きピエゾ方式インクジェットプリンター(ヘッド温度:80℃)
インクジェット用硬化組成物の塗布膜厚:20μm
紫外線照射条件:
ソルダ−レジストパターン表面に対する紫外線(波長:365nm)の露光量:1000mJ/cm
熱硬化時の加熱温度:150℃
熱硬化時の加熱時間:30分
【0068】
(貯蔵安定性試験)
上記作製の各インクジェット用硬化組成物を80℃で12時間加熱したのちにインクジェットプリンターでの吐出試験を行い、以下の基準で貯蔵安定性を評価した。結果を下記の表1に示す。
【0069】
○:インクがヘッドから吐出できた。
×:吐出試験を行う前にインクが硬化した、またはインクが増粘しておりヘッドからインクを吐出できなかった。
【0070】
(耐熱性)
上記形成のソルダーレジストパターンを270℃のオーブンで5分間加熱し、目視で外観を検査した。また、ソルダーレジストパターンにセロハンテープを貼付し、90度方向に剥離した。その結果を、以下の基準で評価した。なお、インク吐出不可能であった比較例1については、バーコーターにて膜厚が20μmになるよう基板に塗工して耐熱性の評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0071】
○:外観検査において塗膜の外観に変化がなく、剥離試験において塗膜の剥離が見られなかった。
×:外観検査において塗膜にクラックや剥離が目視で観察されるか、あるいは剥離試験において塗膜の剥離が目視で観察された。
【0072】
【表1】

【0073】
上記表1に示すように、コアシェル粒子の形態ではなく、熱硬化剤を含む比較例1では、貯蔵安定性が劣悪であった。これは、貯蔵中に熱硬化剤が化合物(B)としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂と反応したことにより熱硬化が進行したためであると考えられる。但し、比較例1で使用したインクジェット用硬化組成物は熱硬化剤を含んでいるため、得られたソルダーレジストパターンの耐熱性は良好であった。
【0074】
一方、比較例2では、熱硬化剤を含んでいないインクジェット用硬化組成物を用いたため、貯蔵安定性は良好であったものの、耐熱性に優れたソルダーレジストパターンを得ることはできなかった。
【0075】
それに対して、熱硬化剤をコアシェル粒子の形態で含むインクジェット用硬化組成物を用いた実施例1〜5では、熱硬化剤がシェルにより被覆されているため、貯蔵時には熱硬化が進行せず、加えて、熱硬化により、耐熱性に優れたソルダーレジストパターンが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物と、
(B)分子内に熱硬化性官能基を2つ以上有する化合物と、
(C)硬化剤がシェルにより内包されてなるコアシェル粒子、硬化剤を包摂している包摂化合物粒子、及び硬化剤を内部に含む樹脂粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の粒子と、
(D)光ラジカル重合開始剤とを含有し、
光照射により光硬化すると共に、加熱されることにより前記熱硬化剤が前記シェルの外部に放出されることによって熱硬化する、インクジェット用硬化組成物。
【請求項2】
前記化合物(B)の熱硬化性官能基が、(メタ)アクリロイル基以外の炭素−炭素二重結合を含む官能基、エポキシ基及びオキセタニル基よりなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1に記載のインクジェット用硬化組成物。
【請求項3】
前記粒子(C)は、前記熱硬化剤が放出されるときの最低温度が、100℃〜180℃の範囲内となるように構成されている、請求項1または2に記載のインクジェット用硬化組成物。
【請求項4】
ソルダーレジストパターンを有するプリント配線基板の製造方法であって、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット用硬化組成物を、インクジェットプリンターで描画し、光照射及び加熱により硬化させることによって前記ソルダーレジストパターンを形成する、プリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記描画されたインクジェット用硬化組成物に光照射することにより一次硬化させた後に、加熱することにより硬化させることにより、前記ソルダーレジストパターンを形成する、請求項4に記載のプリント配線板の製造方法。

【公開番号】特開2012−52074(P2012−52074A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198090(P2010−198090)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】