説明

インクジェット記録方法及び装置

【課題】着弾ドットの位置ずれのない、安定した画像を形成する。
【解決手段】インクを記録媒体16に吐出して画像形成を行うインクジェット記録装置10において、記録媒体16上に処理液を付与する処理液付与部11と、処理液上にインクを吐出するインク吐出部12K,12M,12C,12Yと、を備え、インク吐出部12K,12M,12C,12Yでは、インク吐出後で処理液表面着弾前のインクの液滴直径Dが27μm以下となるようにインクを吐出するとともに、インクの密度ρ、インクの表面張力σ、インクの粘度μ、で示されるオーネゾルゲ数が、0.10以上0.25以下であるインクを用い、処理液付与部11では、インクが処理液に着弾するときの処理液の液体層の厚みh0が1μm以上7μm以下になるように付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録方法及び装置に係り、特に、インクの画像形成性を向上させる処理液を記録媒体に付与し,処理液上にインクを吐出して画像形成を行うインクジェット記録方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は低騒音、低ランニングコスト、装置小型化の容易性の点から、家庭用から業務用まで幅広い分野で使用されている。しかし、インクジェット記録装置において、カラーブリーディング、フェザリング、紙へのインク吸収による濃度不足等の課題が残されている。これらの課題は、インクジェット方式では液滴を長期安定的に吐出させるために、色材自体の濃度をそれ程高く設定できないことによる。そこで、インクジェット方式において、より良好な画像を得る為に、インク吸収層を備えたインクジェット専用紙が使用されてきた。インクジェット専用紙で得られる画像は滲みの無い良好なものであるが、専用紙を用いることでランニングコストがユーザーへの負荷となること、専用紙はインク吸収層の分だけ厚みがあり、風合いも印刷で多く使用されている紙とは異なること等により全てのユーザーによって好ましい解決手段にはならなかった。
【0003】
そこで、さまざまな記録方式が検討されており、その1つとして、処理液とインクとからなる2液系の記録方式がある。この記録方法は、インクのにじみを低減することができる。そして、特許文献1には、処理液と、カチオン性樹脂微粒子と有機顔料とを組合せたインクと、で耐光性の良好なインクジェット記録方式が開示されている。また、このインクジェット記録方式によって普通紙でもフェザリングやブリーディングの無い良好な画像が得られる様になった.
【特許文献1】特開平8−281934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インクのみで記録を行う1液系においては従来から着弾解析が進められおり、例えば、Akira Asai , Makoto Shioya, Shinichi Hirasawa , and Takeshi Okazaki (Canon,Inc.), Impact of an Ink Drop on Paper, Journal of Imaging Science and Technology,Vol.37 , No.2 , 205-207 (1993)や、Shin-Chin Gong, Spreading of Droplets Impacting on Smooth Solid Surface, Japanese Journal of Applied Physics , Vol.44 , No.5A , 3323-3324 (2005)には、Re(=d・v/ν),We(=ρ・d・v/σ)でインク等の着弾条件を設定することで着弾液滴が最大に拡がる際の拡がり率、即ち最大拡がり率を適切に得られることが示されている。メディアに非浸透系材料を用いた際には着弾ドットは一度最大拡がり率まで拡がった後、収縮するため最大拡がり率はあまり意味を成さないが、メディアに浸透系材料を用いた際には最大拡がり率まで拡がった際の着弾ドット直径が画像の1ドット直径とほぼ等しいので、最大拡がり率は1ドットの直径、さらには解像度を決定する重要な因子である。
【0005】
特許文献1は、2液系システムに従来の1液系の概念を拡張したもので、着弾時のインク飛散というスプラッティング現象の発生を定量的に抑制することを目的としたものである。実施例では液滴直径が35μm以上の体積で検証を行なっているが、現在用いられているピエゾ型のインクジェットやサーマル型のインクジェットにおいては、特許文献1が出願された当時よりもインク液滴の微液滴化が進み、液滴量は1.0〜10pl、液滴直径に換算すると12〜27μm程度となっている。また、インクジェットにおけるインク物性値は、当時とそれほど差はなく、粘度は1.5〜20cP、表面張力は20〜35mN/m、インク密度は1000〜1500kg/m、インク飛翔速度は1〜15m/sであるため、特許文献1での式(1)におけるRe・Weは0.2以上19000以下となり、Re・We<25000という条件は一般のインクジェット方式で描画した際には必ず範囲に入る。即ち、特許文献1によれば、微液滴化が進んでいる現在のインクジェット方式では、2液系システムで用いた際に、スプラッタという現象はほぼ確実に発生しないということになる。
【0006】
しかしながら、本発明者は、インクジェットのインク液滴が微液化した結果、液滴が被画像形成体に付着せずに処理液上で浮いてしまい、搬送時に受ける慣性力、振動、さらには他の液滴が着弾した際の波によって着弾ドットの位置ずれが発生するということを見出した。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、微細化した液滴であっても、着弾条件、さらにはインクの条件で着弾ドットの位置ずれのない、安定した画像が形成することができるインクジェット記録方式及び装置を提供することを目的とする。尚、本出願はインクが10pl以下に微液滴化されたインクジェット記録方法及び装置に有効である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、インクの画像形成性を向上させる処理液を記録媒体に付与し、該処理液上に前記インクを吐出して画像形成を行うインクジェット記録方法において、 前記インク吐出後で前記処理液表面着弾前の前記インクの液滴直径Dが27μm以下であるとともに、
前記インクの密度ρ、前記インクの表面張力σ、前記インクの粘度μ、で示されるオーネゾルゲ数
【0009】
【数1】

【0010】
が、0.10以上0.25以下であり、
前記インクが前記処理液に着弾するときの前記処理液の液体層の厚みh0が1μm以上7μm以下であることを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
【0011】
本発明の請求項1によれば、インクの画像形成性を向上させる処理液を記録媒体に付与し、処理液上に前記インクを吐出して画像形成を行うインクジェット記録方法において、インク吐出後で前記処理液表面着弾前のインクの液滴直径Dが27μm以下(液滴量10pL以下に相当)であるとともに、インクのオーネゾルゲ数Ohが0.10以上0.25以下であり、前記インクが前記処理液に着弾するときの前記処理液の液体層の厚みh0が1μm以上7μm以下であることで、着弾ドットの位置ずれのない安定した画像が形成することができるインクジェット記録方式を提供することができる。
【0012】
請求項2は請求項1において、前記インクが前記処理液に着弾するときの前記処理液の液体層の厚みh0が1μm以上5.7μm未満であることを特徴とする。
【0013】
請求項2によれば、インクが処理液に着弾するときの処理液の液体層の厚みが1μm以上5.7μm未満であることが好ましく、前記条件の下では、微小な液滴直径においても着弾後の液滴が記録媒体に接触し、適切な画像を取得することができる。
【0014】
請求項3は請求項1又は2において、前記インクには、溶媒不溶性材料を含有することを特徴とする。
【0015】
請求項3によれば、インクに溶媒不溶性材料を含有させていることが好ましい。インクに含まれる溶媒不溶性材料は記録媒体に付着し、固定化されるからである。
【0016】
請求項4は、前記インクにおける前記溶媒不溶性材料の粒子数密度が、5.1×10個/kg未満であることを特徴とする。
【0017】
請求項4によれば、インクにおける前記溶媒不溶性材料の粒子数密度が、5.1×10個/kg未満であることが好ましい。この条件では溶媒不溶性材料の影響が少なく、安定的にインクジェット記録で描画ができるからである。
【0018】
請求項5は請求項3又は4において、溶媒不溶性材料には、少なくとも1種のラテックスを含むことを特徴とする。
【0019】
請求項5によれば、インクに適切な材料を高濃度に添加し、且つ、粘度上昇を抑えるには、ラテックスを添加するのが有効である。ラテックスは画像のメディアへの付着性を向上させるのに効果があり、画像の耐擦性が大きく向上する。その効果はラテックスの最低造膜温度よりも高い温度を画像部に掛けることで、より効果的となる。
【0020】
本発明の請求項6は、インクを記録媒体に吐出して画像形成を行うインクジェット記録装置において、前記記録媒体上に処理液を付与する処理液付与部と、該処理液上に前記インクを吐出するインク吐出部と、を備え、前記インク吐出部では、前記インク吐出後で前記処理液表面着弾前の前記インクの液滴直径Dが27μm以下となるように前記インクを吐出するとともに、前記インクの密度ρ、前記インクの表面張力σ、前記インクの粘度μ、で示されるオーネゾルゲ数
【0021】
【数2】

【0022】
が、0.10以上0.25以下であるインクを用い、 前記処理液付与部では、前記インクが前記処理液に着弾するときの前記処理液の液体層の厚みh0が1μm以上7μm以下になるように付与することを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【0023】
請求項6の発明は、請求項1の発明である記録方法を装置発明として構成したものである。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、微細化した液滴であっても、インクの画像形成性を向上させる処理液を記録媒体に付与し、処理液上にインクを吐出して画像形成を行うインクジェット記録において、着弾ドットの位置ずれのない安定した画像が形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面に従って本発明のインクジェット記録装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0026】
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は画像形成装置の一形態としてのインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示すように、インクジェット記録装置10は、処理液を吐出するための処理液用ヘッド(処理液付着手段に相当)11と、黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の各色のインクを吐出するために各色に対応して設けられた複数の印字ヘッド(インク液吐出手段に相当)12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、処理液用ヘッド11に供給する処理液を貯蔵しておく処理液貯蔵/装填部13と、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給する色インクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録媒体16を供給するメディア供給部18と、記録媒体16のカールを除去するデカール処理部20と、前記処理液用ヘッド11及び印字部12のノズル面(液吐出面)に対向して配置され、記録媒体16の平面性を保持しながら記録媒体16を搬送する吸着ベルト搬送部(搬送手段に相当)22と、記録済みの記録媒体16(プリント物)を外部に排出する排出部26と、を備えている。
【0027】
記録媒体16の供給系に関して図1では、メディア供給部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジン19が示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0028】
複数種類の記録媒体を利用可能な構成にした場合、記録媒体の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される記録媒体の種類(メディア種)を自動的に判別し、メディア種に応じて適切な処理液及びインクの吐出を実現するように吐出制御を行うことが好ましい。
【0029】
メディア供給部18から送り出される記録媒体16はマガジン19に装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録媒体16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0030】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0031】
デカール処理後、カットされた記録媒体16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
【0032】
ベルト33は、記録媒体16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引穴(不図示)が形成されている。ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによって記録媒体16がベルト33上に吸着保持される。
【0033】
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図7中符号88)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の反時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録媒体16は図1の右から左へと搬送される。
【0034】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので、画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。吸着の方式は、上記した吸引吸着(真空吸着)に限らず、静電吸着によるものでもよい。
【0035】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0036】
処理液用ヘッド11及び印字ヘッド12K,12C,12M,12Yは、当該インクジェット記録装置10が対象とする記録媒体16の最大紙幅に対応する長さを有し(図2参照)、そのノズル面には最大サイズの記録媒体の少なくとも一辺を超える長さ(描画可能範囲の全幅)にわたりインク吐出用のノズル又は処理液吐出用のノズルが配列されたフルライン型のヘッドとなっている。
【0037】
図1に示したように、印字ヘッド12K,12C,12M,12Yは、記録媒体16の送り方向に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色順に配置され、印字部12の更に上流側に処理液用ヘッド11が配置されている。各ヘッド11,12K,12C,12M,12Yは、記録媒体16の搬送方向と略直交する方向に沿って延在するように固定設置される。
【0038】
かかるヘッド配置により、印字部12で各色のインクを打滴する前に、処理液用ヘッド11によって記録媒体16の記録面(被印字面)に処理液を付着させることができる。インクが処理液に着弾するときの処理液の液体層の厚みh0が1μm以上7μm以下となるように付与する。尚、好ましくは液体層の厚みh0が1μm以上5.7μm未満である。また、吸着ベルト搬送部22により記録媒体16を搬送しつつ、処理液を付着させた記録媒体16に向けて印字ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ異色のインクを吐出することにより記録媒体16上にカラー画像を形成することができる。インク吐出後で処理液表面着弾前の黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の各色のインクの液滴直径Dが27μm以下となるように、印字ヘッド12K,12C,12M,12Yによりインクを吐出する。このとき、記録媒体16上にあらかじめ打滴された処理液と、その後、記録媒体16上に打滴されたインクと、が記録媒体16上で反応し、凝集物を生成する。
【0039】
このように、紙幅の全域をカバーするノズル列を有するフルライン型の処理液用ヘッド11及び印字ヘッド12K,12C,12M,12Yを設ける構成によれば、紙送り方向(副走査方向)について記録媒体16と印字部12を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録媒体16の全面に画像を記録することができる。これにより、記録ヘッドが紙搬送方向と直交する方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0040】
本実施の形態では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについてはこれに限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。また、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0041】
処理液貯蔵/装填部13は、処理液を貯蔵する処理液タンクを有し、該タンクは適宜の管路を介して処理液用ヘッド11と連通されている。処理液タンクから供給された処理液は処理液用ヘッド11から液滴として吐出される。処理液貯蔵/装填部13は、処理液の残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備える。
【0042】
インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するインクタンク14K,14C,14M,14Yを有し、各タンクは不図示の管路を介して印字ヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0043】
こうして、生成されたプリント物(印字によって生成された結果物)は排出部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える不図示の選別手段が設けられている。
【0044】
なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)38によってテスト印字の部分を切り離す。このカッター38は、排出部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。
【0045】
本実施形態では、処理液用ヘッド11から処理液を吐出することによって記録媒体16上に処理液を付与する態様としたが、本発明の実施に際しては、処理液の付与方法は特に限定されるものではない。
【0046】
本実施形態の変形例として、処理液用ヘッド11に代えて、塗布ローラを用いて中記録媒体16上に処理液を塗布する態様もある。記録媒体16上のインク滴が着弾する画像領域を含むほぼ全面に処理液を容易に付与することができる。本変形例において、インクが前記処理液に着弾するときの処理液の液体層の厚みh0が1μm以上7μm以下となるように塗布する。好ましくは、厚みh0を1μm以上5.7μm未満とする。記録媒体16上の処理液の厚みを一定にする手段を設けてもよい。例えば、エアナイフを用いる方法や、尖鋭な角を有する部材を処理液厚みの規定量のギャップを記録媒体16との間に設けて設置する方法がある。
【0047】
〔記録媒体〕
本発明で用いることのできる記録媒体16としては、通常の非コート紙、コート紙などの他、いわゆる軟包装に用いられる各種非吸収性のプラスチックおよびそのフィルムを用いることができ、各種プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、延伸ポリスチレン(OPS)フィルム、延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、延伸ナイロン(ONy)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムを挙げることができる。その他のプラスチックとしては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS、ポリアセタール、PVA、ゴム類などが使用できる。また、金属類や、ガラス類にも適用可能である。
【0048】
これら各種プラスチックフィルムの表面エネルギーは、素材の特性により大きく異なり、記録媒体によってはインク着弾後のドット径が変わってしまうことが、従来から問題となっていた。本発明の構成では、表面エネルギーの低いOPPフィルム、OPSフィルムや表面エネルギーの比較的大きいPETまでを含む、表面エネルギーが35〜60mN/mの広範囲の記録媒体に良好な高精細な画像を形成できる。
【0049】
また、包装の費用や生産コスト等の記録材料のコスト、プリントの作製効率、各種のサイズのプリントに対応できる等の点で、長尺(ウェブ)な記録媒体を使用する方が有利である。
【0050】
〔インクの説明〕
本発明に係るインクは、インクの密度ρ、前記インクの表面張力σ、前記インクの粘度μ、で示されるオーネゾルゲ数
【0051】
【数3】

【0052】
が、0.10以上0.25以下である。
【0053】
そして、本発明に係るインクには、溶媒不溶性材料が含有することが好ましく、インクにおける溶媒不溶性材料の粒子数密度が、5.1×10個/kg未満であることが好ましい。また、溶媒不溶性材料には、少なくとも1種のラテックスを含むことが好ましい。
【0054】
インクに使用される色材は、顔料あるいは染料と顔料とを混合して用いることができる。処理液との接触時における凝集性の観点から、インク中で分散状態にある顔料の方がより効果的に凝集するため好ましい。顔料の中でも、分散剤により分散されている顔料、自己分散顔料、樹脂により顔料表面を被覆された顔料(マイクロカプセル顔料)、及び高分子グラフト顔料が特に好ましい。また、顔料凝集性の観点から、解離度の小さいカルボキシル基によって修飾されている形態がより好ましい。
【0055】
マイクロカプセル顔料の樹脂は、限定されるものではないが、水に対して自己分散能又は溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性)を有する高分子の化合物であるのが好ましい。この樹脂は、通常、数平均分子量が1,000〜100,000範囲程度のものが好ましく、3、000〜50、000範囲程度のものが特に好ましい。また、この樹脂は有機溶剤に溶解して溶液となるものが好ましい。樹脂の数平均分子量がこの範囲であることにより、顔料における被覆膜として、又はインク組成物における塗膜としての機能を十分に発揮することができる。
【0056】
前記樹脂は、自己分散能あるいは溶解するものであっても、又はその機能が何らかの手段によって付加されたものであってもよい。例えば、有機アミンやアルカリ金属を用いて中和することにより、カルボキシル基、スルホン酸基、またはホスホン酸基等のアニオン性基を導入されてなる樹脂であってもよい。また、同種または異種の一又は二以上のアニオン性基が導入された樹脂であってもよい。本発明にあっては、塩基をもって中和されて、カルボキシル基が導入された樹脂が好ましくは用いられる。
【0057】
本発明に用いる顔料は、シアン色の顔料としては、C.I.Pigment Blue−1、C.I.Pigment Blue−2、C.I.Pigment Blue−3、C.I.Pigment Blue−15、C.I.Pigment Blue−15:2、C.I.Pigment Blue−15:3、C.I.Pigment Blue−15:4、C.I.Pigment Blue−16、C.I.Pigment Blue−22等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
マゼンタ色の顔料としては、C.I.Pigment Red−5、C.I.Pigment Red−7、C.I.Pigment Red−12、C.I.Pigment Red−48、C.I.Pigment Red−48:1、C.I.Pigment Red−57、C.I.Pigment Red−112、C.I.Pigment Red−122、C.I.Pigment Red−123、C.I.Pigment Red−146、C.I.Pigment Red−168、C.I.Pigment Red−184、C.I.Pigment Red−202、C.I.Pigment Red−207等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
イエローの顔料としては、C.I.Pigment Yellow−12、C.I.Pigment Yellow−13、C.I.Pigment Yellow−14、C.I.Pigment Yellow−16、C.I.Pigment Yellow17、C.I.Pigment Yellow−74、C.I.Pigment Yellow−83、C.I.Pigment Yellow−93、C.I.PigmentYellow−95、C.I.Pigment Yellow−97、C.I.Pigment Yellow−98、C.I.Pigment Yellow−114、C.I.等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
ブラック用の顔料としては、C.I.Pigment Black−1、C.I.Pigment Black−6、C.I.Pigment Black−7等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
本発明に用いるインクに含まれる色材の濃度は、使用する色材により最適な値を選択すればよいが、インクの全重量に対し、0.1重量%〜40質量%の範囲にするのが好ましい。より好ましくは、1重量%〜30質量%、さらに好ましくは2重量%〜20質量%である。
【0062】
本発明に係るインクには、処理液と反応する成分として、着色剤を含まないラテックスを添加することが好ましい。ラテックスは、処理液との反応によりインクの増粘作用、凝集作用を強め、画像品位の向上させることができる。
【0063】
インクでの分散方法はエマルジョンに限定するものではなく、溶解していても、コロイダルディスパージョン状態で存在していてもよい。
【0064】
ラテックスは、乳化剤を用いて分散させたものであっても、また、乳化剤を用いないで分散させたものであってもよい。乳化剤としては、通常、低分子量の界面活性剤が用いられているが、高分子量の界面活性剤を乳化剤として用いることもできる。
【0065】
分散手法として、低分子量の界面活性剤を用いていないラテックスは、高分子量の界面活性剤を用いたラテックス、乳化剤を使用しないラテックスを含めてソープフリーラテックスと呼ばれている。例えば、スルホン酸基、カルボン酸基等の水に可溶な基を有するポリマー(可溶化基がグラフト結合しているポリマー、可溶化基を持つ単量体と不溶性の部分を持つ単量体とから得られるブロックポリマー)を乳化剤として用いたラテックスはこれに含まれる。
【0066】
本発明では、特にこのソープフリーラテックスを用いることが好ましく、ソープフリーラテックスは従来の乳化剤用いて重合したポリマー微粒子にくらべ、乳化剤がポリマー微粒子の反応凝集や造膜を阻害したり、遊離した乳化剤がポリマー微粒子の造膜後に表面に移動し、顔料とポリマー微粒子の混合した凝集体と記録媒体との接着性を低下させる懸念がない。
【0067】
インクにラテックスとして添加する樹脂成分としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられる。定着性向上といった機能を充分に発現させるには、比較的高分子のポリマーを高濃度1重量%〜20重量%に添加することが必要である。しかし、上記材料を液体に溶解させて添加しようとすると高粘度化し吐出性が低下する。適切な材料を高濃度に添加し、かつ粘度上昇を抑えるには、ラテックスとして添加する手段が有効である。ラテックス材料としては、アクリル酸アルキル共重合体、カルボキシ変性SBR(スチレン−ブタジエンラテックス)、SIR(スチレン−イソプレン)ラテックス、MBR(メタクリル酸メチル−ブタジエンラテックス)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンラテックス)等が考えられる。ラテックスのガラス転移点Tgはプロセス上、定着時に影響の強い値で、常温保存時の安定性と加熱後の転写性を両立するために、50℃以上120℃以下であることが好ましい。さらに最低造膜温度MFTはプロセス上、定着時に影響の強い値で、低温で充分な定着を得る為に100℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。
【0068】
市販のラテックスの例としては、ジョンクリル537、7640(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、ジョンソンポリマー株式会社製)、マイクロジェルE−1002、E−5002(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001(アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)、ボンコート5454(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE−1014(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン株式会社製)、ジュリマーET−410(アクリル系樹脂エマルジョン、日本純薬株式会社製)、アロンHD−5、A−104(アクリル系樹脂エマルジョン、東亞合成株式会社製)、サイビノールSK−200(アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学株式会社製)、ザイクセンL(アクリル系樹脂エマルジョン、住友精化株式会社製)などが挙げられるが、これに限定するものではない。
【0069】
インクに添加するラテックスの分子量は融着したときの接着力を鑑みて、5,000以上が好ましい。5,000未満だと、凝集したときのインク凝集体の内部凝集力向上や記録媒体に画像の定着性に効果が不足し、また画質改善効果が不足する。
【0070】
ラテックスの平均粒径は、10nm〜1μmの範囲が好ましく、10〜500nmの範囲がより好ましく、20〜200nmの範囲が更に好ましく、50〜200nmの範囲が特に好ましい。10nm以下では、凝集しても画質の改善効果、転写性の向上に効果があまり期待できない。1μm以上では、インクのヘッドからの吐出性や保存安定性が悪化するおそれがある。また、ラテックスの粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。
【0071】
また、ラテックスを、インク内に2種以上混合して含有させて使用してもよい。
【0072】
本発明のインクに添加するpH調整剤としては中和剤として、有機塩基、無機アルカリ塩基を用いることができる。
【0073】
本発明のインクは、乾燥によってインクジェットヘッドのノズルが詰まるのを防止する目的から、水溶性有機溶媒を含有することが好ましい。このような水溶性有機溶媒には、湿潤剤及び浸透剤が含まれる。
【0074】
有機溶媒としては、処理液の場合と同様に、例えば、多価アルコール類、多価アルコール類誘導体、含窒素溶媒、アルコール類、含硫黄溶媒等が挙げられる。具体例としては、多価アルコール類では、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1、5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン等が挙げられる。多価アルコール誘導体としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジグリセリンのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。含窒素溶媒としては、ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、トリエタノールアミン等が、アルコール類としてはエタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類が、含硫黄溶媒としては、チオジエタノール、チオジグリセロール、スルフォラン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その他、炭酸プロピレン、炭酸エチレン等を用いることもできる。
【0075】
本発明のインクには、界面活性剤を含有することができる。
【0076】
界面活性剤の例としては、炭化水素系では脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&Chemicals社)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。
【0077】
更に、特開昭59−157636号の第(37)〜(38)頁、リサーチ・ディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも使うことができる。また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載されているようなフッ素(フッ化アルキル系)系、シリコーン系の界面活性剤も用いることができる。 これら表面張力調整剤は消泡剤としても使用することができ、フッ素系、シリコーン系化合物やEDTAに代表されるキレート剤等も使用することができる。
【0078】
表面張力を下げて記録媒体上での又は処理液上でのぬれ性を高め、二液の接触面積の増加により効果的に凝集作用がすすむ。
【0079】
インクの表面張力は、10〜50mN/mであることが好ましく、直接記録を行う場合には浸透性記録媒体への浸透性、また中間転写方式によって記録を行う場合には中間転写体上でのぬれ性と液滴の微液滴化および吐出性の両立の観点からは、15〜45mN/mであることが更に好ましい。
【0080】
インクの粘度は、1.0〜20.0cPであることが好ましい。
【0081】
その他必要に応じ、pH緩衝剤、酸化防止剤、防カビ剤、粘度調整剤、導電剤、紫外線吸収剤、等も添加することができる。
【0082】
インクにおける溶媒不溶性材料の粒子数密度が、5.1×10個/kg未満であることが好ましい。溶媒不溶性材料の粒子数密度は、インク中に含まれる顔料粒子、ラテックス粒子を含む、溶媒不溶性材料のインク体積に占める個数であらわしている(単位は個/kg)。
【0083】
具体的には、顔料の平均粒子径をUPAで測定する。それから、顔料作成後の水分散物の状態で単位質量分インクを取り、遠心分離、乾燥を行なって顔料固形分のみ取り出し、質量と固形分体積を測定する。固形分体積とUPAで測定した平均粒子径からインク濃度に換算する。
【0084】
ラテックスの粒子数密度はラテックスメーカーが示している粒子密度と粒径を元に、インクに添加した質量から粒子数に換算した。ラテックスメーカーが示していないものに関しては,顔料の場合と同様に測定を行なった。
【0085】
〔処理液〕
本発明に係る処理液として、インクに含有される顔料およびラテックスを凝集させ、凝集物を生じさせるような処理液が好ましい。
【0086】
処理液の成分として、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等の中から選ばれることが好ましい。
【0087】
また、本発明に係る処理液の好ましい例として、多価金属塩あるいはポリアリルアミンを添加した処理液を挙げることができる。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0088】
本発明に係る処理液はインクとのpH凝集性能の観点からpHは1〜6であることが好ましく、pHは2〜5であることがより好ましく、pHは3〜5であることが特に好ましい。
【0089】
本発明に係る処理液に中における、インクの顔料およびラテックスを凝集させる成分の添加量としては、液体の全重量に対し、0.01重量%以上20重量%以下であることが好ましい。0.01重量%以下の場合は処理液とインクが接触時に、濃度拡散が十分に進まずpH変化による凝集作用が十分に発生しないことがある。また20重量%以上であると、インクジェットヘッドからの吐出性が悪化することがある。
【0090】
本発明に係る処理液は、乾燥によってインクジェットヘッドのノズルが詰まるのを防止する目的から、水,その他添加剤溶性有機溶媒を含有することが好ましい。このような水,その他添加剤溶性有機溶媒には、湿潤剤及び浸透剤が含まれる。
【0091】
これらの溶媒は、水、その他添加剤と共に単独若しくは複数を混合して用いることができる。
【0092】
水、その他添加剤溶性有機溶媒の含有量は処理液の全重量に対し、60重量%以下であることが好ましい。60重量%以上よりも多い場合は処理液の粘度が増加し、インクジェットヘッドからの吐出性が悪化することがある。
【0093】
処理液には、定着性および耐擦性を向上させるため、樹脂成分をさらに含有してもよい。樹脂成分は、処理液をインクジェット方式によって打滴する場合ヘッドからの吐出性を損なわないもの、保存安定性があるものであればよく、水溶性樹脂や樹脂エマルジョンなどを自由に用いることができる。
【0094】
インクと逆極性のポリマー微粒子を処理液に含ませ、インク中の顔料及びポリマー微粒子と凝集させることによってさらに凝集性を高めてもよい。
【0095】
また、インクに含まれるポリマー微粒子成分に対応した硬化剤を処理液に含有し、二液が接触後、インク成分中の樹脂エマルジョンが凝集するとともに架橋又は重合するようにして、凝集性を高めてもよい。
【0096】
本発明に係る処理液は、界面活性剤を含有することができる。
【0097】
界面活性剤の例としては、炭化水素系では脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&Chemicals社)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。
【0098】
更に、特開昭59−157636号の第(37)〜(38)頁、リサーチ・ディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも使うことができる。また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載されているようなフッ素(フッ化アルキル系)系、シリコーン系の界面活性剤も用いることができる。これら表面張力調整剤は消泡剤としても使用することができ、フッ素系、シリコーン系化合物やEDTAに代表されるキレート剤等も使用することができる。
【0099】
表面張力を下げて記録媒体上でのぬれ性を高めるのに効果がある。また、インクを先立って打滴する場合においてもインク上でのぬれ性を高め、二液の接触面積の増加により効果的に凝集作用がすすむ。
【0100】
本発明に係る処理液の表面張力は、10〜50mN/mであることが好ましく、直接記録を行う場合には浸透性記録媒体への浸透性、また中間転写方式によって記録を行う場合には、中間転写体上でのぬれ性と液滴の微液滴化および吐出性の両立の観点からは、15〜45mN/mであることが更に好ましい。
【0101】
本発明に係る処理液の粘度は、1.0〜20.0cPであることが好ましい。
【0102】
その他必要に応じ、pH緩衝剤、酸化防止剤、防カビ剤、粘度調整剤、導電剤、紫外線、吸収剤、等も添加することができる。
【実施例】
【0103】
以下に具体的な実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0104】
〔インク〕
本実施例で用いたインクの詳細な作製法を説明する。
【0105】
まず、インクを分散する方法としてはボールミル、サンドミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等があるが、微細な粒子を比較的単分散できる方法として超音波ホモジナイザーを用いる方法で分散を行った。尚、超音波ホモジナイザーは超音波による溶液中にキャビテーション現象で気泡を発生、消滅させ、その際の衝撃で溶液中の粗大粒子を粉砕することができる。そして、超音波照射時間、照射エネルギー、又はその両方を調整することで、平均粒子径と粗大粒子の含有率を調整することができる。
【0106】
分散剤として、メタクリル酸(A),ベンジルメタクリレート(B),エトキシトリエチレングリコールメタクリレート(C)のABC型のブロックポリマー(A:B:C=13:4:10モル比)として使用した。
【0107】
ポリマー30g、水酸化カリウム45%の水溶液9g、脱イオン水261gとして均一になるまで混合を行った。該ポリマーに、C.I.Pigment Red-122(平均粒径69nm)を150g、及び脱イオン水550gを加えて混合し、ディスパー分散機で30分攪拌して予備混合を行なった。
【0108】
次いでこの予備混合物を内容量2リットルの2重タンクに入れ、18℃の冷水で冷却しながらディスパー羽根にて攪拌しつつ、超音波ホモジナイザーUS-1200T型((株)日本精機製作所)で36mmのチップを用いて30分バッチ照射を行なった。この時の振動振幅は28μm(マイクロメートル)、超音波照射エネルギー密度は110W/cmであった。
【0109】
反応性の自己分散顔料については、前述の方法で作製される。比較として、無反応性顔料(CAB−O−JET 1027R,キャボットコーポレーション製)も用意した。これは、解離性基がスルホン酸の為、単独では処理液と反応凝集しない。
【0110】
前述の方法にて得られた顔料の分散物に、オールアクリル系ラテックス(平均粒径168nm、ウルトラゾールA−25、ガンツ化成製)、スチレンアクリル系ラテックス(平均粒径89nm、ジョンクリル7640、ジョンソンポリマー製)、スチレンアクリル系ラテックス(平均粒径57nm、ジョンクリル537、ジョンソンポリマー製)、アクリル系ラテックス(平均粒径30nm、ジュリマーET-410、日本純薬製)をそれぞれ添加し、グリセリン、ジエチレングリコール、オルフィンE1010(日信化学工業製)、イオン交換水を所定の所望の質量比になるように調液し、混合攪拌を行ない、それぞれのインクを得た。
【0111】
インクは調液後、平均孔径0.5μmのアセチルセルロース膜フィルタ(富士フイルム製)で濾過し、粗大粒子を除去した。
【0112】
最終的に下記の表1に記載のインクを得た。
【0113】
【表1】

【0114】
尚、顔料、ラテックス以外のインク組成物の処方は以下の通り。
・ グリセリン 20重量%
・ ジエチレングリコール 10重量%
・ オルフィンE1010(日信化学工業製) 2重量%
・ 有機カルボン酸(PCA) 10重量%
・ 水酸化リチウム 2重量%
・ イオン交換水 残量
〔処理液〕
・ グリセリン 20重量%
・ ジエチレングリコール 10重量%
・ オルフィンE1010 1重量%
・ pH調整剤 微量
・ イオン交換水 69重量%
また、インクのpHは8.0から8.9、処理液のpHは3.6であった。
【0115】
尚、インクに分散されている顔料や反応性ラテックスは,低pHの処理液と混ざると凝集する。インクと処理液については、Ca2+、Mg2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Cu2+といった多価金属イオンによる凝集反応でも、Polyallylamine, Polyethylene imineといったカチオン性ポリマーが分散されている処理液を用いても実質的な効果は同じである。さらには、全く反応の無いインクと処理液を用いても,インク滴が記録媒体に付着する、又は付着しないについての効果は同じである。例えば,紫外線硬化インクを用いた場合でも、処理液を被記録媒体に付与し、その上にインクで画像を形成するが、本出願の条件で、インク滴が記録媒体に接触することができ、画像乱れの発生を抑えることができる。また,処理液を用いたUVインクにおいて、処理液を記録媒体に1〜2μm程度の厚みで付与し、一度UV照射して半硬化させることがあるが、半硬化分の処理液膜厚と後で付与する処理液膜厚と足し合わせて、処理液厚みとして本件の出願範囲に含まれる。
【0116】
処理液の粘度は3.1mPa・s、表面張力は28.0mN/mであった。
【0117】
粒径は溶媒不溶性材料の濃度をイオン交換水で体積にして1000倍に希釈し、粒度分布計(日機装製、Nanotrac UPA−EX150)により測定を行なった。尚、この粒度分布計は動的光散乱法という測定原理を用いている。粒子は直径数μm以下になると溶媒分子運動の影響を受け、ブラウン運動を生じる。この運動の速さは粒子の大きさによって異なり、小さい粒子は速く、大きい粒子はゆっくり動く。これらの運動した粒子へレーザー光を照射すると、その速度に応じた位相の違う光の散乱が生じ、散乱光を分光するとドップラーシフトが得られる。動的光散乱法とは、ドップラーシフトされた粒子径情報を検出して粒度分布を求める方法である。インク不溶性材料の粒径分布測定では何れも透過モード、非球形として計測を行なっている。
【0118】
以下の実験において、インクの表面張力測定は、25℃標準条件における値を表面張力計(CBVP−Z、協和界面科学製)で測定した。そして、インクの粘度は、25℃標準条件における値をインク粘度計(DV−2+、BROOKFIELD社製)で測定した。また、インクの密度は、1L当たりの体積重量から換算した。
【0119】
そして、着弾前の飛翔速度は、連続吐出している状態で,吐出駆動信号をトリガーとして,ディレイ時間を調整しながらナノパルス光源(ナノパルスライトNP-1A,菅原研究所製)を吐出液滴に照射し、パルス光源が照射している間カメラが開いている状態にして液滴画像を得、ディレイ時間を調整することにより複数の画像を得ることで、ディレイ時間と液滴の移動距離から液滴飛翔速度に換算し、飛翔距離と飛翔速度の関係を得る。従って、ヘッドと記録媒体との間の距離は別途測定装置の構成として分かっているので,着弾直前の飛翔速度が導出できる。
【0120】
また、着弾前の液滴直径は、補正画像から吐出ノズル数を判定し、非浸透メディア(例えば、PETフィルム)に対して全吐出ノズルを用いて10000発の連続吐出を行ない、非浸透メディアの質量増加を測定することで、インク密度は別途測定しているため、1ノズル当たりの吐出量を換算できる。液滴が球形と仮定して、液滴の直径を導出した。
【0121】
〔評価方法と結果〕
ドット位置ずれ測定:PEN又はPETの50mm×50mmのシート上に処理液をバーコーターで塗布し、重量増加分と塗布面積から処理液厚みに換算。尚、処理液厚みを測定後、インクで描画を行ったため、処理液の乾燥の影響は無い。
【0122】
処理液が塗布されたPEN又はPETシートをメディア供給部に供給し、2pl〜11pl,600×300dpiの条件で、液滴同士が比較的離れ、独立する様に描画した。
【0123】
尚、ここで、処理液の付与方法については、バー塗布で行なったが、インクジェット描画を行っても、処理液の膜は形成可能であり、さらにインクジェット描画法によっては、処理液の付与範囲を選択できるため、有効な手段である。
【0124】
インクの液滴が着弾後に記録媒体に付着せず、色材移動が発生する条件を調べた。色材が移動するものについては、肉眼で簡単に観察することができ、その移動量は数10秒で数10〜数100μmになる。全てのドットで移動が観察されるものを×、一部のドットで移動するものを△、全くされないものを○としている。
[処理液厚み]
【0125】
【表2】

【0126】
表2から分かるように、インクの液滴を同条件(7pl,液滴飛翔速度5m/s)で着弾させた場合、処理液厚みが9μmより薄いとインク液滴が記録媒体の一部付着する様になり、7μm以下であれば50mm×50mmの領域内でドット位置ずれが全く確認されなかった。
【0127】
[インク粘度効果]
インク1にPVPを0.1重量%又は0.2重量%添加して粘度を上昇させ、それぞれ3.2mPa・s、4.2mPa・s、5.8mPa・sのインクを得た。それぞれのインクに対して、処理液付与厚みを変えて調べた。
【0128】
【表3】

【0129】
表3から分かるように、液滴を同条件(10pl,液滴飛翔速度5m/s)で着弾させた場合、インクの粘度によらず、処理液厚みが7μmを超えると液滴が被記録体に一部付着せず、処理液上を浮遊し、画像が乱れることが分かった。処理液厚みが7μm以下であれば、50mm×50mmの範囲内で位置ずれは確認されなかった。
【0130】
[粒子密度]
【0131】
【表4】

【0132】
表4から分かるように、液滴を同条件(9pl液滴飛翔速度5mm/s)で着弾させた場合、インクの着弾については処理液厚みが7μm以下であれば,着弾後のドット位置ずれは殆んど生じなかった。更に5.7μm未満では全く確認されなかった。
【0133】
また、処理液の粘度と表面張力については、前述した条件を満たす範囲では、描画後の画像位置ずれが発生しないことが分かっている。これにより、画像が被記録体に付着する条件には,処理液の粘度と表面張力は寄与しないことを示している。
【0134】
以上の表2〜表4の結果から、10pl以下のインクの液滴を着弾させるのに、インクの液滴がインク吐出後で処理液表面着弾前の処理液厚みは1μm以上7μm以下が良好であることがわかる。
【0135】
尚、処理液の厚みが1μm未満となると、打滴されるインク量に対して処理液量が少ないため、打滴干渉防止性能及び滲み防止性能として不十分である。処理液の厚みが1μm未満となると、何れの条件のいても隣接ドット間で着弾ドット同士が合一する現象が確認された。
【0136】
以上の表2〜表4の結果を纏めると、インク吐出後で処理液表面着弾前のインクの液滴直径Dが27μm以下であるとともに、インクの密度ρ、インクの表面張力σ、インクの粘度μ、で示されるオーネゾルゲ数
【0137】
【数4】

【0138】
が、0.10以上0.25以下であり、インクが前記処理液に着弾するときの処理液の液体層の厚みh0が1μm以上7μm以下であるという条件が必要なことが分かった。
【0139】
さらに、上記実施例より、粒子数密度(粒子濃度)の上昇により拡がり率が低下する傾向も確認された。凝集反応を用いた2液(処理液とインク)のインクジェット記録方法においては、粒子数密度の制御が必要ということが分かる。特に液滴量が10pl以下の微液滴での描画の場合は、拡がり率は2以上がドットの重なりという観点から必要な条件である。処理液厚みが1μm以上7μm以下という条件において、拡がり率2以上を得られる条件としては、粒子数密度が5.1×10個/kg未満である。
【0140】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の全体構成の概念図
【符号の説明】
【0142】
10…インクジェット記録装置、11…処理液用ヘッド(処理液付与部)、12K,12M,12C,12Y…印字ヘッド(インク吐出部)、16…記録媒体、33…搬送ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクの画像形成性を向上させる処理液を記録媒体に付与し、該処理液上に前記インクを吐出して画像形成を行うインクジェット記録方法において、
前記インク吐出後で前記処理液表面着弾前の前記インクの液滴直径Dが27μm以下であるとともに、
前記インクの密度ρ、前記インクの表面張力σ、前記インクの粘度μ、で示されるオーネゾルゲ数
【数1】

が、0.10以上0.25以下であり、
前記インクが前記処理液に着弾するときの前記処理液の液体層の厚みh0が1μm以上7μm以下であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記インクが前記処理液に着弾するときの前記処理液の液体層の厚みh0が1μm以上5.7μm未満であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記インクには、溶媒不溶性材料を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記インクにおける前記溶媒不溶性材料の粒子数密度が、5.1×10個/kg未満であることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記溶媒不溶性材料には、少なくとも1種のラテックスを含むことを特徴とする請求項3又は4に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
インクを記録媒体に吐出して画像形成を行うインクジェット記録装置において、
前記記録媒体上に処理液を付与する処理液付与部と、
該処理液上に前記インクを吐出するインク吐出部と、を備え、
前記インク吐出部では、
前記インク吐出後で前記処理液表面着弾前の前記インクの液滴直径Dが27μm以下となるように前記インクを吐出するとともに、
前記インクの密度ρ、前記インクの表面張力σ、前記インクの粘度μ、で示されるオーネゾルゲ数
【数2】

が、0.10以上0.25以下であるインクを用い、
前記処理液付与部では、前記インクが前記処理液に着弾するときの前記処理液の液体層の厚みh0が1μm以上7μm以下になるように付与することを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−265324(P2008−265324A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86715(P2008−86715)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】