説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の回復方法

【課題】記録動作に寄与しないインクの消費を低減しつつ、吐出性能の回復を図ることが可能な信頼性の高いインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】キャップM5000によって記録ヘッドH1001の吐出口を覆いつつ前記吸引力を発生させることにより吐出口から廃インク流路内105へとインクを排出させる。この際、廃インク流路105内におけるインクの流動状態を検出手段106によって検出し、その検出結果に応じて吸引力発生手段107の作動を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出する記録ヘッドを用いて記録動作を行うインクジット記録装置に関し、特に、記録ヘッドのインク吐出性能を回復させる回復手段を備えたインクジェット記録装置、およびインクジェット記録装置における回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、記録媒体などを衝打しない、いわゆるノンインパクト記録方式の記録装置であるため、記録時における騒音が少なく、様々な記録媒体に対して高速に記録できるという利点を有する。また、複数種のインクを用いて記録を行うことにより、カラー画像を安価に形成することが可能であるという利点も有している。このため、インクジェット記録装置は、プリンター、複写機、ファクシミリ、ワードプロセッサ等の記録機構を担う装置として、広く採用されている。
【0003】
このようなインクジェット記録装置に搭載される記録ヘッドとしては、そのインク吐出方式によって次のようなものが主に用いられている。すなわち、ピエゾ素子などの電気機械変換素子を用いたもの、電気熱変換素子を用いたもの、あるいはレーザなどの電磁波を照射してインクを発熱させ、その発熱作用でインク滴を吐出させるものなどが用いられている。
【0004】
このうち、電気熱変換素子を用いた記録ヘッドは、インクを吐出するノズルを高密度に形成することができることから、高画質の画像形成に適したものとして知られている。この記録ヘッドでは、ノズル内に設けられた電気熱変換素子に記録信号となる電気パルスを供給することで電気熱変換素子を発熱させ、その熱エネルギによってノズル内のインクを発泡させ、その発泡時の圧力を利用して、微小な吐出口からインク滴を吐出させる。
【0005】
このような記録ヘッドを用いたインクジェット記録装置では、非記録時において記録ヘッドのノズル内にインクが残留した状態となる。このノズル内に残留したインクは、吐出口が開放された状態のまま放置されると、増粘あるいは固化し、インク滴の吐出性能が低下するという問題が生じる。そこで、従来のインクジェット記録装置では、記録ヘッドの吐出口が形成された面(以下、吐出口面と称す)に密着し、吐出口を外気から遮断するキャッピング部材を備えたものが知られている。このキャッピング部材により吐出口を覆う(キャッピングする)ことにより、ノズル内のインクの乾燥および粘度の増加を軽減することができる。しかしながら長時間記録を休止するような場合には上記のようなキャッピングを行っても、インクの変質(増粘、固化など)などを完全に回避することは困難である。
【0006】
このため、一般にインクジェット記録装置には、ノズル内で増粘、固化したインクを強制的に排出させてノズルの吐出性能を回復させる回復機構が設けられている。この回復機構としては、負圧によって吐出口からノズル内のインクを強制的に吸引する吸引回復機構、あるいはノズル内に正圧を加えて吐出口からインクを排出させる加圧回復機構などが知られている。
【0007】
上記のようなインクの強制排出を行う回復機構を備えたインクジェット記録装置としては、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1には、吐出口周辺に温度、湿度を検知する手段を設け、使用環境条件に応じて吸引回復動作を可変にする制御手段を備えたものが開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平3−227652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示のインクジェット記録装置は、インクジェット記録装置の電源がオンされると、その都度、インクが排出されるようになっている。このため、電源を頻繁にオン/オフした場合、インクが記録に適した状態であっても、吸引回復によって排出されることとなり、大量のインクが無駄に消費されることとなる。
【0010】
また、インクジェット記録ヘッドの吐出口周辺の温度、湿度を検出し、その結果に応じて排出量を設定するという構成は、検出した温度、湿度などの条件に基いて、ノズル内に残るインクの増粘状態などを間接的に評価する構成であるといえる。従って、適正なインク排出量を設定するという観点からすれば未だ十分なものとはなっていない。
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題に着目してなされたもので、記録動作に寄与しないインクの消費を低減しつつ、吐出性能の回復を図ることが可能な信頼性の高いインクジェット記録装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
【0013】
すなわち、本発明の第1の形態は、記録ヘッドのインク吐出口を覆うことが可能なキャップと、前記キャップに連結された廃インク流路と、前記キャップ内に前記廃インク流路を介して吸引力を発生させる吸引力発生手段とを備え、前記キャップによって前記吐出口を覆いつつ前記吸引力を発生させることにより前記インク吐出口から廃インク流路内へとインクを排出させる吸引回復動作を可能とするインクジェット記録装置であって、前記インク流路内におけるインクの流動状態を検出する検出手段と、前記検出手段によって得られる検出結果に応じて前記吸引力発生手段を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第2の形態は、記録ヘッドのインク吐出口を覆うことが可能なキャップと、前記キャップに連結された廃インク流路と、前記キャップ内に前記廃インク流路を介して吸引力を発生させる吸引力発生手段とを備え、前記キャップによって前記吐出口を覆いつつ前記吸引力を発生させることにより前記インク吐出口から廃インク流路内へとインクを排出させるようにしたインクジェット記録装置の回復方法であって、前記インク流路内におけるインクの流動状態を検出する検出工程と、前記検出工程によって得られる検出結果に応じて前記吸引力発生手段を制御する工程とを備えた特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、記録動作に寄与しないインクの消費を抑えつつ、記録ヘッドの吐出性能を良好に保つことが可能となり、ランニングコストの低減および記録品質の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
1.インクジェット記録装置の全体的構成
図1は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置(ケースを除いた状態)の全体を示す斜視図、図2は、図1における記録ヘッドカートリッジの底面側から視た拡大斜視図である。
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。なお、以下の実施形態に係るインクジェット記録装置は、インクの吐出を行う記録ヘッドを保持するキャリッジと共に記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ、記録ヘッドからインクを吐出して記録を行う、いわゆるシリアルスキャン方式を採るものとなっている。
【0018】
図1は本実施形態に係るインクジェット記録装置の一例を示す模式的平面図である。
この記録装置は、図2に示す記録ヘッドH1001を位置決めして交換可能に搭載するキャリッジM4001を有する。キャリッジM4001には、記録ヘッドH1001上の外部信号接続端子を介して各吐出部に駆動信号等を伝達するための電気接続部が設けられている。
キャリッジM4001は、主走査方向に延在して装置本体に設置されたガイドシャフトM4021に沿って往復移動可能に支持されている。そして、キャリッジM4001は、キャリッジモータ(CRモータ)E0001によりモータプーリM4024、従動プーリM4020およびタイミングベルトM4006等の伝動機構を介して駆動されるとともに、その位置および移動が制御される。また、キャリッジM4001には不図示のホームポジションセンサが設けられており、これによってキャリッジM4001のホームポジションとなる位置が検出される。
【0019】
紙やプラスチック薄板等の記録媒体は、オートシートフィーダ(ASF)M3022の給紙トレイM3023に積載され、ここから一枚ずつ分離して給紙される。さらに、記録媒体は、搬送モータE0002によりギアM1302を介して駆動される搬送ローラM3001の回転により、記録ヘッドH1001の吐出口が形成された面(吐出口面)と対向する位置(記録領域)を通って搬送(副走査)される。
【0020】
また、記録媒体は、記録領域において平坦な被記録面を形成するように、その裏面側からプラテンM2001により支持される。この場合、キャリッジM4001に搭載された記録ヘッドH1001は、それらの吐出口面がキャリッジM4001から下方へ突出して記録媒体108と平行になるように保持され、記録領域を主走査される。
【0021】
記録ヘッドH1001は、各吐出部における吐出口の配列方向がキャリッジM4001の主走査方向に対して交差する方向(例えば副走査方向)になるようにキャリッジM4001に搭載されている。そして、主走査の過程でこれらの吐出口列からインクを吐出することにより、吐出口配列範囲に対応した幅の記録を行う。
【0022】
2.記録ヘッド
本実施形態の記録ヘッドH1001は、インクタンク部を分離不能に一体化した構成を有する。すなわち、記録ヘッドH1001は、3色のカラーインク(シアンインク、マゼンタインク、イエローインク)がそれぞれ充填されたインク収納部と、各インク収納部から供給されるカラーインクを吐出する各吐出部とを有する。記録ヘッドH1001は、キャリッジM4001上に、位置決め手段および電気的接点によって固定支持されるとともに、キャリッジM4001に対して着脱可能なカートリッジの形態となっている。そして、充填されているインクが消費されてなくなった場合は、記録ヘッドを交換する。
【0023】
図2〜図3を参照して、本実施形態で用いる記録ヘッドH1001の基本的構成を説明する。なお、図2(a)および(b)は、図1の記録装置に搭載可能な記録ヘッドH1001の構成例を示す分解斜視図、図3は記録ヘッドに設けられる記録素子基板H1101の構成を説明するために一部を破断して示す斜視図である。
【0024】
図2(a)および(b)に示すように、記録ヘッドH1001は、主として、本体部材1501、記録素子基板H1101、および電気配線テープH1301などを備える。
【0025】
本体部材H1501は、インクタンク機能とインク供給機能とを備えるものであり、吐出部を構成する記録素子基板H1101および電気配線部材である電気配線テープH1301を支持する支持部材としての機能も併せ持つ。すなわち、図3(b)に示すように、内部にシアン、マゼンタおよびイエローのインクを保持するための負圧を発生するインク吸収体H1601、H1602、H1603をそれぞれ独立して収納するための空間を有することでインクタンク機能を実現している。また、記録素子基板H1100の各インク供給口H1102にそれぞれインクを導くための独立したインク流路を形成する流路部材(不図示)を組み込むことでインク供給機能を実現している。この本体部材1501の上部開口には、蓋部材H1901が溶着され、これにより、本体部材H1501内部の独立した空間がそれぞれ閉塞される。
【0026】
また、電気配線テープH1301は、記録素子基板H1101に対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成するものである。
【0027】
一方、本実施形態の記録素子基板H1101は、電気信号に応じて膜沸騰をインクに対して生じせしめるための熱エネルギを生成する電気熱変換素子を用いたものである。また、この記録素子基板H1101は、電気熱変換素子とインク吐出口とが対向するように配置され、基板の主平面に対して垂直な方向にインクを吐出させる、いわゆるサイドシュータと称される形態を採るものとなっている。
【0028】
記録素子基板H1101は、Si基板H1110に、シアン、マゼンタおよびイエローの各色インク用の3個の長穴状のインク供給口H1102を並列に形成してなるものである。それぞれのインク供給口H1102を挟んでその両側には、電気信号に応じて膜沸騰をインクに生じさせるための熱エネルギを生成する電気熱変換素子H1103の列が1列ずつ配置されている。各列間の電気熱変換素子同士は、配列方向すなわち副走査方向に配列ピッチの1/2だけずれて配置されている。この記録素子基板H1101上に、樹脂材料にフォトリソグラフィ技術によってインク流路壁H1106や吐出口H1107を形成した吐出口形成部材H1109を、各電気熱変換素子と吐出口と位置合わせして接合する。これにより、各色の吐出部H1108(各色あたり2列の吐出口列を単位としたもの)が構成される。
【0029】
また、Si基板H1110上には、電気熱変換素子H1103に電力を供給するAlなどからなる電気配線、ヒューズなどが形成されている。またSi基板H1110上には、記録データに応じて電気熱変換素子を駆動するためのロジック回路、および、これら各部を外部と電気的に接続するための電極部H1104なども形成されている。さらに、電極部H1104には、Au等のメッキバンプ形態の電極端子H1105が形成されている。なお、電気熱変換素子H1103等は、既存の成膜技術を利用して形成することができる。
【0030】
なお、インクを吐出するために利用されるエネルギを発生する素子としては、通電に応じてインクを加熱発泡させる熱エネルギを発生する電気熱変換素子に限られず、その他のものでもよい。また、電気熱変換素子が配列された基板の主平面に対して、平行な方向にインクを吐出させる形態のもの(エッジシュータと称される)であってもよい。
【0031】
3.回復部
また、回復部M5000は、記録ヘッドH1001の往復移動経路の端部付近、例えば、記録ヘッドH1001のホームポジションに設けられている。この回復部M5000は、記録ヘッドH1001に設けられた記録素子基板H1100(図2および図3参照)に付着した異物を除去するためのクリーニング機構や、記録素子基板H1100に形成された各ノズル内のインクの正常化を図る吸引回復機構を備える。クリーニング機構は、記録ヘッドH1001が回復部に位置するとき、記録素子基板H1100の吐出口面H1002を、ワイパーブレード(不図示)などによって払拭するものである。
【0032】
また、吸引回復機構は、記録ヘッドH1001が回復部M5000に位置するとき、記録素子基板H1100と対向するキャップM5001を備える。このキャップM5001は、図外の昇降機構によって昇降し、上昇時には記録素子基板H1100の周囲の部材(例えば、図2に示す電極テープ)に接触して、記録素子基板H1100を覆い、インクの吐出口が直接外気に曝されるのを防止する。また、キャップM5001には、後述の負圧発生手段としてのポンプが連結されており、このポンプ107の駆動力によってキャップM5001内に負圧を発生させることが可能となっている。従って、キャップM5001により記録素子基板H1100の周囲を覆い、ポンプを作動させることにより、キャップM5001内に発生した負圧によって、各ノズルから強制的にインクが吸引排出させることができる。
【0033】
4.制御系
図4は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
前述のように、インクジェット記録装置には、キャリッジM4001を主走査方向に移動させるためのCRモータE0001、および記録シートPを副走査方向に搬送するためのLFモータE0002が設けられている。さらに他のモータとしては、記録ヘッド10のインク吐出性能を良好に保つための回復手段を駆動し、かつASF140に積載された記録シートPを記録領域まで給送機構を駆動するためのPGモータ(給紙モータ兼用)E003が備えられている。
【0034】
そして、インクジェット記録装置の制御系には、前記モータの駆動、および記録ヘッド10の駆動を等をはじめとする各部の制御を司る制御手段としてのメイン制御基板180が設けられている。このメイン制御基板180は、図1に示すキャリッジFFC(フレキシブル・フラットケーブル)22によってキャリッジ基板23に接続されている。また、メイン制御基板180には、電源ユニット190や操作用のフロントパネル200が接続されている。なお、必要に応じてオプションインターフェースボード210も接続される。さらに、メイン制御基板180には、各種センサが接続されている。このセンサとしては、一般に、記録シートPの端部を検出するペーパーエンドセンサ181a、オートシートフィーダ140のホームポジションセンサ181b、回復手段のホームポジションセンサ181c、インクタンク160のインク無しセンサ181d等がある。さらに、本実施形態では、吸引回復時に使用するキャップから廃インク吸収体に至る廃インク流路内の所定の位置にインクが存在するか否かを検出するための電極センサ181eが設けられている。なお、この電極センサ106については後述する。
【0035】
メイン制御基板180上には、外部のホストコンピュータやスキャナなどのホスト装置との接続を行うためのインターフェース回路182が設けられている。また、メイン制御基板には、各部の制御動作を実行するマイクロプロセッサ形態のMPU183、MPU183によって実行される制御プログラムなどを格納するマスクROM184、および記録データなどを一時的に格納するRAM185が備えられている。さらに、メイン制御基板180上には、MPU183からの指示に従って前記各モータを駆動するドライバが設けられている。すなわち、図3において、186aはCRモータE0001を駆動するCRモータドライバ、186bはLFモータE0002を駆動するLFモータドライバ、186cはPGモータE0003を駆動するPGモータドライバである。なお、187は各回路や素子を相互に接続するためのゲートアレイである。
【0036】
また、MPU183は、インターフェース回路182を介してホストコンピュータやスキャナなどのホスト装置に接続されており、マスクROM184内の制御プログラムに基づいて記録動作を制御する。すなわち、RAM185内に格納されたホスト装置からの記録データに基づき、CRモータE0001、LFモータE0002及びPGモータE0003を制御すると共に、ヘッドドライバを介して記録ヘッド10を制御する。
【0037】
なお、フロントパネル200にはディップスイッチ、キースイッチ、発光ダイオードによる表示素子(不図示)が備えられている。キャリッジ20には、記録ヘッドカートリッジ10が取り外し可能に搭載されるとともに、キャリッジ20の位置を検出するためのエンコーダセンサ24が備えられている。
【0038】
4.特徴構成
次に、以上の基本的構成に適用される本発明の特徴構成に関する実施形態を説明する。
【0039】
4.1 第1の実施形態
図5は、本発明の特徴構成である回復部M5000の実施形態を示す図であり、回復部の各部の連結状態を模式的に示している。
図5に示すように、回復部M5000に設けられたキャップM5001は、主走査方向(紙面と直交する方向(X方向))へと移動する記録ヘッドの往復移動経路と対向する位置に保持されている。記録動作中は、記録ヘッドH1001と干渉しないような下降位置に保持されている。また、回復動作時には回復位置(例えばホームポジション)へと移動した記録ヘッドと対向し、昇降機構により上昇して記録素子基板H1101の周囲の部材に接触し、吐出口と外気との連通を遮断する。
【0040】
また、キャップM5001は、チューブ等で構成された廃インク流路105を介して廃インク吸収体108に連結されている。この廃インク流路105には、インクの有無を検出する検出センサ(検出手段)106と、吸引回復動作に用いるポンプ(吸引力発生手段)107とが設置されている。本実施形態では、ポンプ107としてチューブポンプを用いている。
【0041】
インクセンサ106は、廃インク流路105においてポンプ107とキャップM5001との間に配置されている。本実施形態では、図6(a)に示すような電極センサをインクセンサとして用いている。ここに示す電極センサ106は、廃インク流路105に連結される筒状体107と、この筒状体107の内面に相対向して設けた一対の電極106a106bとを有している。各電極106a,106bは、筒状体107の内部空間に露出させてあり、インクが筒状体107に存在するインクに接触するようになっている。また、両電極106a,106bは、図外の直流電源の陽極と陰極とにそれぞれ接続されており、筒状体107内にインクが存在するときには、通電性を有するインクを介して両電極106aと106bとが導通する。また逆に、筒状体107内にインクが存在しないときには、電極106aと106bとの間は非導通となる。そして、導通時にはインクの存在を示す信号が、非導通時にはインク無しを示す信号が、それぞれメイン制御基板180上のMPU183に送出される。このように、本実施形態におけるインクセンサ106は、両電極間が導通したか否かによって筒状体107内にインクが存在するか否かの検出を行う。
【0042】
また、本実施形態におけるインクジェット記録装置は、記録媒体への記録を行う際に、記録ヘッドH1001の各ノズルに不吐出等の問題が生じないように、予め定めた状況において吸引回復動作を行っている。例えば、電源投入時、キャリッジM4001への記録ヘッドH1001の装着時、および一定量の記録動作を行った時、等にインクの吸引回復動作を行っている。この吸引回復動作によって記録ヘッドH1001の各ノズルから強制的に吸引排出されたインクは、廃インク流路105を通じて廃インク吸収体108へ導かれる。
【0043】
以下、図7に示すフローチャートに基き、本実施形態における一連の吸引回復動作を説明する。
【0044】
まず、ステップS1では、チューブポンプ107の駆動を開始して吸引回復動作を開始すると同時に、メイン制御基板180に設けられたタイマを作動させ、計時動作を開始する。この後、MPU183は、インクセンサ106から出力される信号に基き、インクがインクセンサ106の電極106a,106b間に存在するか否かを判断する(ステップS1)。ここで、インクが両電極106a,106bに存在すると判断された場合には、さらに、ポンプ107の駆動を開始してからインクセンサ106によってインクの存在が検出されるまでの時間が、予め設定した時間T以内であるか否かを判断する(ステップS3)。
【0045】
予め定めた時間T以内にインク存在が検出された場合には、ステップS4において、吸引圧P1、吸引時間T1(T<T1)の条件(吸引回復条件)で吸引回復動作を継続して実行し、吸引時間T1が経過した時点で吸引回復動作を終了する(ステップS6)。なお、このときの吸引圧力P1は、ステップS1にて吸引回復動作を開始したときの吸引圧力と同一となっている。一方、予め定めた時間T以内にインクの存在が検出されなかった場合には、吸引圧P1、吸引時間T2(T<T1<T2)の吸引条件で吸引回復動作を継続し、吸引時間T2が経過した時点で吸引回復動作を終了する(ステップS6)。
【0046】
上記ステップS3において予め定めた時間T以内にインクが検知されないと判断された場合、記録ヘッドH1001の不使用期間や、環境変化などの影響によるインクの増粘が考えられる。このため、本実施形態では、時間T1を越えてインクの存在が検出された場合には、時間T1よりも長い時間T2を設定し、より確実に吸引回復動作行うようになっている。
【0047】
なお、吸引回復動作105が終了すると、MPU183は昇降機構を作動させてキャップM5001を下降させて吐出口から離間させる。この後、再びポンプ107を駆動し、経路内の残留インクを廃インク吸収体側へ排出させる。これにより、センサ106による誤検知を防止することが可能となる。
【0048】
また、ステップS2においてインクの存在が検出されなかった場合には、ステップS4で実行される吸引回復動作時の吸引圧P1よりも高いインク吸引圧P2で回復動作を行う(S7)。この吸引回復動作中、インクセンサ106によってインクが存在するか否かの確認を行い(ステップS8)、インクが存在すると判断されれば、ステップS3以降の制御を行う。また、ステップS8においてインクの存在が検出されなければ、記録ヘッドH1001においてインク切れ等の懸念があるため、表示器などにメッセージを表示し、ユーザにインク無しを報知する(ステップS9)。
【0049】
以上のように、本実施形態では、インクの粘度に直接的に関連するインクの流動状態(流動速度)を検出し、その検出結果に応じて回復条件(吸引圧および吸引時間)を設定するようになっている。このため、確実に記録ヘッドH1001の吐出性能を回復させることが可能になると共に、吸引回復動作に消費するインクを必要最小限に抑えることが可能となり、ランニングコストを大幅に低減することができる。また、廃インク量を適量に抑えることが可能となるため、廃インク吸収体の寿命も最大源に延長することが可能となる。
【0050】
なお、上記実施形態においては、ステップS4において設定される吸引圧P1を、ステップS1で吸引回復動作を開始した時の吸引圧力(初期の吸引圧力)と同一に設定したが、初期の吸引圧を吸引圧P1と異なる値に設定することも可能である。この初期の吸引圧力は、例えばインクの粘度変化の検出精度に応じて設定することも可能である。すなわち、初期の吸引圧力を低い値に設定した場合には、吸引回復動作の開始からインクセンサ106に到達するまでの時間が粘度差によって大きく変化するため、高精度の粘度変化を検出する上では、初期の吸引圧力を低い値に設定することが望ましい。但し、この場合には、検出までに時間を要することとなる。
【0051】
また、回復動作を開始してから予め設定した時間T内にインクセンサがインクの存在を検出した場合、吸引回復動作を開始してから前記検出手段がインクを検知するまでの時間(検出結果)に応じてインク吸引時間を変更するようにしても良い。
【0052】
また、本実施形態では、ポンプ106とキャップM5000との間にインクセンサ106を設けた場合を例に採り説明したが、インクセンサ106をポンプ106と廃インク吸収体108との間に設けても良い。この場合、検出にやや時間を要することとなるが、本発明の初期の目的は実現可能である。
【0053】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、図6を参照して説明する。
【0054】
上記第1の実施形態では、廃インク流路105内に設置したインクセンサとして、インク有無を検知するセンサに電極センサを用いたが、この第2の実施形態は、前記電極センサに替えて、負圧センサ110(図6(b)参照)を用いたものとなっている。なお、その他の構成は上記第1の実施形態と同様である。
【0055】
この第2の実施形態に用いる負圧センサ110は、廃インク流路105に連結されており、廃インク流路105内に発生する負圧を検出するものである。この負圧センサ110を用いて吸引回復動作時の負圧を検出し、その負圧の値に応じて吸引回復条件(吸引圧および吸引時間)を変化させる。すなわち、記録ヘッドH1001内のインクに増粘が生じている場合には、吸引回復動作においてインクの流動速度が遅くなり、廃インク流路105内に大きな負圧が発生する。このため、予め設定した負圧値よりも大きい負圧が検出された場合には、初期の吸引圧よりも大きな吸引圧で吸引回復を行う。また、負圧センサによって検出された負圧が予め設定した値以下であった場合には、インクが適正な粘度に保たれていると判断し、初期の吸引回復条件で必要最小源の吸引量が得られるような吸引回復を行う。これにより、記録に寄与しないインク消費を最小限に押さえつつ、確実に記録ヘッドの性能回復を実現することができる。
【0056】
なお、上記第1の実施形態では、インクセンサとして、電極センサ、負圧センサを用いたが、インクセンサをさらに他のセンサに置き換えることも可能である。例えば、廃インク流路内の一部または全部を透光性を有するチューブによって形成し、そのチューブ内のインクの存否を光センサを用いて検出するようにすることも可能である。すなわち、チューブに向けて透光部から光を照射し、その透過量を受光部によって検出するようにすれば、チューブ内のインクの存否を検出することが可能となる。これによっても、上記第1の実施形態と同様の効果を期待できる。
【0057】
また、上記各実施形態では、3種類のインクを用いて記録を行う場合を例に採り説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、3種類以外のインク数を用いて記録を行うインクジェット記録装置にも適用可能である。また、複数種類のインクを用いる場合、各インクに対応した記録ヘッド毎に独立したキャップを設け、各キャップ毎に独立した廃インク流路およびインクセンサを設けることも可能である。これによれば、各記録ヘッド毎にインクの増粘状態に応じた回復動作を行うことが可能になり、より効率的かつ確実な回復動作を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、一般的なプリント装置のほか、複写機、通信システムを有するファクシミリ、記録部を有するワードプロセッサ等の装置、あるいは、これらの装置を複合した多機能記録装置等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明を適用可能なインクジェット記録装置(ケースを除いた状態)の全体を示す斜視図である。
【図2】図1に示した記録ヘッドカートリッジの底面側から視た拡大斜視図である。
【図3】図1に示した記録ヘッドに設けられる記録素子基板の構成を説明するために一部を破断して示す斜視図である。
【図4】本実施形態におけるインクジェット記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の特徴構成である回復部の第1の実施形態を模式的に示す図である。
【図6】本発明の実施形態に用いるセンサを示す図であり、(a)は第1の実施形態に用いる電極センサを、(b)は第2の実施形態に用いる負圧センサをそれぞれ示している。
【図7】本発明の第1の実施形態における回復動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
M4001 キャリッジ
M5000 回復部
H1001 記録ヘッド
H1002 吐出口面
H1101 記録素子基板
H1103 電気熱変換素子
H1107 吐出口
H1501 インク収容部材
H1601、H1602、H1603 インク吸収体
H1701、H1702、H1703 フィルタ
105 インク廃インク流路
106 インクセンサ
107 チューブポンプ
108 廃インク吸収体
109 電極センサ
110 負圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドのインク吐出口を覆うことが可能なキャップと、前記キャップに連結された廃インク流路と、前記キャップ内に前記廃インク流路を介して吸引力を発生させる吸引力発生手段とを備え、前記キャップによって前記吐出口を覆いつつ前記吸引力を発生させることにより前記インク吐出口から廃インク流路内へとインクを排出させる吸引回復動作を可能とするインクジェット記録装置において、
前記インク流路内におけるインクの流動状態を検出する検出手段と、
前記検出手段によって得られる検出結果に応じて前記吸引力発生手段を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記検出手段は、インク流路内の予め定めた位置におけるインクの有無を検出することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記検出手段の検出結果に応じて、前記吸引力発生手段のインク吸引圧を変更することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記検出手段の検出結果に応じて、前記吸引回復手段のインク吸引時間を変更することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記吸引回復動作を開始してから予め設定した時間内に前記検出手段がインクの存在を検出したときには第1の吸引圧で前記吸引回復動作を行い、前記時間内に前記検出手段がインクの存在を検知しなかったときには前記第1の吸引圧より高い第2の吸引圧で前記吸引回復動作を行うよう前記吸引力発生手段を制御することを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記回復動作を開始してから予め設定した時間内に前記検出手段がインクの存在を検出したとき、前記該吸引回復動作を開始してから前記検出手段がインクを検知するまでの時間に応じて前記吸引力発生手段によるインク吸引時間を変更することを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記検出手段は、前記廃インク流路内の内面に相対向して設けられた一対の電極を有し、前記電極間が導通したか否かによってインクの有無を検出することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記検出手段は、前記廃インク流路内の負圧を検出する負圧センサであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記検出手段は、前記廃インク流路内に光を照射する投光部と、前記インク流路内を透過した前記投光部からの光を受光する受光部とを備えることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記吸引力発生手段は、チューブポンプであることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記引回復動作が終了後、前記キャップを前記吐出口から離間させた状態で、さらに吸引力発生手段を動作させることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
記録ヘッドのインク吐出口を覆うことが可能なキャップと、前記キャップに連結された廃インク流路と、前記キャップ内に前記廃インク流路を介して吸引力を発生させる吸引力発生手段とを備え、前記キャップによって前記吐出口を覆いつつ前記吸引力を発生させることにより前記インク吐出口から廃インク流路内へとインクを排出させるようにしたインクジェット記録装置の回復方法において、
前記インク流路内におけるインクの流動状態を検出する検出工程と、
前記検出工程によって得られる検出結果に応じて前記吸引力発生手段を制御する工程とを備えた特徴とするインクジェット記録装置の回復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−149614(P2008−149614A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341388(P2006−341388)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】