インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法
【課題】廃インク量を抑えつつ記録ヘッドの各ノズルの吐出性能を良好な状態に保ち得るインクジェット記録装置および記録方法の提供を目的とする。
【解決手段】予備吐出動作における各吐出口からのインクの吐出数を、前回の予備吐出動作からの経過時間と、吐出口付近の雰囲気条件とに基づいて制御することで、最適な予備吐出を行う。
【解決手段】予備吐出動作における各吐出口からのインクの吐出数を、前回の予備吐出動作からの経過時間と、吐出口付近の雰囲気条件とに基づいて制御することで、最適な予備吐出を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出可能な複数のノズルを備えた記録ヘッドを用いて行う記録動作と、ノズルの吐出性能の回復及び維持を行うための予備吐出を実行可能とするインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にインクジェット記録装置(以下、単に記録装置とも言う)では、記録の休止時に記録ヘッドに備えられたノズルの先端部に形成されている吐出口などからインク内の溶剤(水分)が蒸発して記録ヘッド内のインクが増粘することがある。この場合、休止後の記録時においてノズルがインク吐出不能状態に陥るとか、インク吐出量が変動するといった吐出不良が生じ、記録された画像に濃度ムラなどが発生して画像の品位を低下させるという不都合が発生する。このため、ノズルにおける吐出不良の防止あるいは、吐出不良に陥っているノズルの吐出性能の回復を目的として、記録媒体の存在位置から外れた非記録領域へと、記録とは無関係にインクを吐出させる、いわゆる予備吐出が行われている。
【0003】
例えば、記録ヘッドが搭載されたキャリッジを往復走査させ、その間に記録媒体への記録動作を行う、いわゆるシリアル型のインクジェット記録装置では、キャリッジの往復走査時、あるいは往走査から復走査への反転時などに予備吐出が行われている。これによれば、吐出不良による画像の乱れや濃度ムラの発生を低減することができる。但し、予備吐出で吐出されるインクは、記録に関与しないインク(以下では廃インクと称す)であるため、予備吐出量はできるだけ少ないことが好ましく、廃インク量を低減化することが課題となっている。
【0004】
このような課題を解決する手段として、記録ヘッドの各ノズルにおける予備吐出数の適正化を図り、不要な予備吐出により生じる無駄な廃インク量を低減させる制御が特許文献1に提案されている。すなわち、特許文献1には、複数のノズルが共通液室に連通している記録ヘッドにおいて、共通液室の端部近傍に位置するノズルの予備吐出数を、共通液室の中央部近傍に位置するノズルの予備吐出数よりも大きくする予備吐出制御が開示されている。これは、共通液室の端部近傍に存在するインクの方が共通液室の中央部に存在するインクよりも増粘し易いことに着目したものである。また、特許文献1には、記録ヘッド内のインクの温度によって予備吐出時に吐出させるインク量を変化させることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−128049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1に開示の技術では、記録ヘッドのノズルの位置や記録ヘッド内のインクの温度に応じて予備吐出量を制御することが開示されている。これによれば、各ノズルに対して一律に同数の予備吐出を行うものに比べて、予備吐出による廃インク量を削減することが可能になる。しかし、この特許文献1に開示の技術にあっては、記録ヘッド内のインクが増粘する要因、つまりインクに含まれる溶剤を揮発させる要因が未だ十分に反映されているとは言えず、予備吐出による廃インク量の制御をより精密に行うことが求められている。
【0007】
本発明者等は、インクの溶剤が揮発する要因について鋭意検討した結果、記録ヘッドの走査速度、雰囲気湿度、雰囲気温度が記録ヘッド内のインクの溶剤を蒸発させる要因になっているという知見を得るに至った。
本発明は、記録ヘッドの走査速度に応じて予備吐出量を制御することにより、廃インク量を抑えつつ記録ヘッドの各ノズルの吐出性能を良好な状態に保ち得るインクジェット記録装置および記録方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のインクジェット記録装置は以下の構成を有する。
【0009】
すなわち、本発明の第1の形態は、複数のノズルを配列した記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ前記ノズルから記録媒体へとインクを吐出させて行う記録動作と、前記記録媒体への記録と無関係に前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出動作とを実行可能とするインクジェット記録装置であって、前記予備吐出動作における各吐出口からのインクの吐出数を、前回の予備吐出動作からの経過時間と、前記吐出口付近の雰囲気条件とに基づいて制御する制御手段を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の形態は、複数のノズルを配列した記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ前記ノズルから記録媒体へとインクを吐出させて行う記録動作と、前記記録媒体への記録と無関係に前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出動作とを実行可能とするインクジェット記録方法であって、前記予備吐出動作における各吐出口からのインクの吐出数を、前回の予備吐出動作からの経過時間と、前記吐出口付近の雰囲気条件とに基づいて制御する制御工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気条件を反映させた精密な予備吐出数制御を行うことにより、廃インク量の抑制、および記録ヘッドにおける各ノズルの吐出性能の維持をより適切に行うことが可能になる。このため、本発明によれば、画像品位の向上およびインク消費に伴うランニングコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の実施形態を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態において用いられるキャリッジに搭載された記録ヘッドを示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態における制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に用いられる記録ヘッドの各吐出口のY方向における配列位置と、所定の吐出休止時間経過後に各ノズルを正常な吐出状態へと回復させるために必要な予備吐出数との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施形態において走査時の記録ヘッドと記録媒体との間に発生している気流の大きさおよび方向を示す模式図であり、(a)は側面図、(b)は底面図である。
【図6】(a)は本発明の実施形態における予備吐出制御のフローチャート、(b)および(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。
【図7】本発明の実施形態における予備吐出モードAからFにおける記録ヘッドの吐出口3aの位置と予備吐出数との関係を示す模式図である。
【図8】(a)は本発明の実施形態における前回の予備吐出から所定の時間が経過した後の普通紙モードと光沢紙モードの各記録モードにおける予備吐出制御動作の一例を示す模式図である。
【図9】(a)は本発明の実施形態に係わる予備吐出制御のフローチャート、(b)および(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。
【図10】本発明の実施形態における予備吐出モードGからLを示す模式図である。
【図11】(a)は本発明の実施形態における予備吐出制御のフローチャート、(b)および(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。
【図12】本発明の実施形態における予備吐出モードMからRを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
図1において、1は記録媒体の搬送系ユニット(図示せず)を含む各種の機構部を備えた記録装置本体を示している。記録装置本体1は、シリアル型のインクジェット記録装置であり、記録ヘッドから記録媒体へとインクを吐出する記録録動作と、記録ヘッドの吐出性能の回復及び維持を図るために画像の記録とは無関係にインクを吐出する予備吐出動作とを実行可能となっている。このシリアル型記録装置は、搬送系ユニットによって記録媒体をY方向(副走査方向)へと間欠的に搬送すると共に、記録ヘッド3を副走査方向と直交する主走査方向(X方向)へと移動させながら記録動作を行う。また、図1に示す記録装置本体1は、比較的大判の記録媒体(例えば、A1サイズ)への記録を行えるよう、X方向におけるサイズを大型化した構成となっている。
【0015】
また、図1において、2はキャリッジを示している。このキャリッジ2は、X方向に沿って配置されたガイド軸4に沿って移動可能に支持されると共に、ガイド軸4と略平行に移動する無端ベルト5に固定されている。無端ベルト5は、キャリッジモータ(CRモータ)の駆動力によって往復移動し、それによってキャリッジ2をX方向に往復移動させる。また、キャリッジ2は、記録ヘッド3を着脱可能に搭載できるようになっており、前述の無端ベルト5の移動によって記録ヘッド3と共にX方向に沿って往復移動する。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態に係わるキャリッジ2に搭載された記録ヘッド3の模式図である。記録ヘッド3には、図2の模式図に示されるように吐出口形成面3bに形成される複数の吐出口3aと、個々の吐出口3aに対応して形成された複数の液路(図示せず)と、複数の液路にインクを供給する共通液室(図示せず)とが形成されている。図2ではキャリッジ2には2個の記録ヘッド3が搭載された状態を示しているが、キャリッジ2に搭載される記録ヘッドの数は2個に限定されるものではない。例えば、1個または3個以上の記録ヘッドをキャリッジ2に搭載させて走査を行う構成を採ることも可能である。なお、以下の説明は、異なる色のインクを吐出する4個の記録ヘッドを搭載した例を想定して行う。
【0017】
また、各記録ヘッド3に形成されている吐出口3aは、記録媒体の搬送方向(X方向)との直交方向である主走査方向(Y方向)に沿って吐出口列が形成されている。図示の例では、Y方向に沿って2本の吐出口列が並設されており、各吐出口はY方向において一定の間隔を介して異なる位置に配置されている。また、図中、CLはY方向と平行しかつ記録ヘッド3のY方向における中央部を通過する軸線を示しており、この軸線CLより記録媒体搬送方向における上流側部分3Uと下流側部分3Dとは軸線CLを中心として対称となっている。さらに、記録ヘッド3に形成されている吐出口3aは、上流側部分3Uにおいて、前記軸線CLからの距離が異なるように配置されている。この吐出口3aと軸線CLとの距離関係は、下流側部分においても同様である。
【0018】
また、本実施形態の各記録ヘッド3には、記録媒体が搬送される副走査方向(Y方向)に同色のインクが1200dpi(ドット/インチ)の密度で、1280個の吐出口3aが配列されている。記録ヘッド3の各液路には、インクを吐出口3aから吐出させるための吐出エネルギーを発生させるエネルギー発生素子が配置されている。このエネルギー発生素子として、本実施形態では、インクを局所的に加熱して膜沸騰を起こさせ、その際に生じる圧力によってインクを吐出させる電気熱変換素子が用いられている。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、電気機械変換素子を用いることも可能である。なお、以下の説明においては、吐出口3aと液路とを含めてノズルと称す。
【0019】
キャリッジ2に搭載された記録ヘッド3には、異なる色材を含む複数種のインクを別個に収容した複数のインクタンクより供給される。本実施形態では、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの色材を含有する4種類のインクを収容した4個のインクタンク(図示せず)が本体に備えられている。各インクタンクは、対応する記録ヘッド3のインク供給口にチューブ(図示せず)を介して連結されており、このチューブを介して各インクタンクから内のインクが4個の記録ヘッドそれぞれに一色ずつ供給される。なお、インクジェット記録装置に適用可能なインクセットは、記録装置本体の構成に従って任意に設定可能なものであり、特に上記の例に限定されない。
【0020】
再び図1を参照するに、7は記録ヘッド3の各吐出口3aからのインク吐出性能を良好な状態に保つための回復処理装置を示している。この回復処理装置7は、インクジェット記録装置本体1の所定の位置に保持固定されている。この回復処理装置7は吸引回復機構7A及び7Bと、これを昇降させる昇降機構(図示せず)と、ワイピング回復装置9と、インク受容箱8とを備える。
【0021】
吸引回復機構7A及び7Bは、回復処理の一形態である吸引回復処理を行う。ここで、吸引回復処理とは、記録ヘッドに形成された複数のノズルから強制的にインクを吸引することによって、ノズル内のインクを吐出に適した状態のインクに置き換える処理をいう。具体的には、この吸引回復機構7A及び7Bは、吐出口形成面3bを覆うことが可能なキャップと、そのキャップに連通するポンプ(図示せず)とを備える。吸引回復動作時には、キャップにより吐出口形成面3bを覆い、ポンプによってキャップ内に負圧を発生させることにより、負圧によって吐出口3aからノズル内のインクを強制的に吸引し、外部へと排出させる。各吸引回復機構7A及び7Bは、それぞれ2つの記録ヘッドのノズルに対して処理を行う。なお、この吸引回復処理は、多量のインクを排出させるものであるため、通常は実行頻度が少なく、後述の予備吐出とは異なるタイミングで実行される。
【0022】
また、ワイピング回復装置9は、記録ヘッド3の走査経路における基準位置(例えば走査経路の端部(図1では右端部))に上下に移動可能に設けられている。ワイピング回復装置9は、記録ヘッドの吐出口形成面3bをワイピング部材(ブレード)10で払拭するワイピング機構と、このブレード10の稼動部とを備える。
【0023】
図3は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の装置本体1に搭載される制御系(制御手段)の構成を示すブロック図である。図3において、100は主制御部を示している。この主制御部100は演算、制御、判別、設定などの処理動作を実行するCPU101と、このCPU101によって実行すべき制御プログラム等を格納するROM102を備える。さらに主制御部100は、インクの吐出/非吐出を表す2値の記録データを格納するバッファ、及びCPU101による処理のワークエリアおよび種々のデータを格納するエリアを有するRAM103と、入出力ポート104などを備える。
【0024】
前記入出力ポート104には、搬送ユニットにおける搬送モータ(LFモータ)113、キャリッジモータ(CRモータ)114、記録ヘッド3、回復処理装置7などを駆動するための各駆動回路105,106,107,108が接続されている。さらに、入出力ポート104には、種々のセンサ類が接続されている。本実施形態では、例えば、記録ヘッドの温度を検出するヘッド温度センサ(ヘッド温度検出手段)112やキャリッジ2に固定されたエンコーダセンサ111や装置本体1の使用環境である温度と湿度とを検知する温湿度センサ109などのセンサ類が接続されている。また、前記主制御部100はインターフェース回路110を介してホストコンピュータ115に接続されている。
【0025】
116は回復処理装置7によって記録ヘッド3から強制的にインクを排出させた場合に、そのインク吐出量をインク吐出数に換算してカウントする回復処理カウンタ(吐出数計数手段)である。また、117は記録開始前、記録終了時、および記録中に行われる予備吐出の吐出数をカウントする予備吐出カウンタである。118はふち無し記録を行う場合に記録媒体上の領域外に吐出されるインクをカウンタするふち無しインクカウンタである。また、119は、画像を記録する記録動作におけるインク吐出数をカウントする吐出数カウンタである。
【0026】
次に、以上の構成を有するインクジェット記録装置によって実行される記録動作を説明する。ホストコンピュータ115からインターフェース回路110を介して記録データを受信すると、その記録データはRAM103のバッファに展開される。そして、記録動作が指示されると、搬送ユニット(図示せず)が作動し、記録媒体を記録ヘッド3との対向位置へと搬送する。ここで、キャリッジ2はX方向に配置されたガイド軸4に沿って主走査を行う。キャリッジ2の主走査に伴って、記録ヘッド3のノズルからは記録データに従ってインクが吐出され、吐出口3aのY方向における配列幅に対応する画像(1バンド幅の画像)が記録される。この後、搬送ユニットにより、記録媒体はキャリッジ2と直交するY方向に所定距離だけ搬送される。以上の動作を繰り返すことにより、記録媒体には所定の画像が形成される。
【0027】
なお、キャリッジ2の位置は、キャリッジ2の移動に伴ってエンコーダセンサ111から出力されるパルス信号を主制御部100でカウントすることにより検出される。すなわち、エンコーダセンサ111は、X方向に沿って配置されたエンコーダフィルム6(図1参照)に一定の間隔で形成された検出部を検出することによってパルス信号を主制御部100へ出力する。主制御部100はこのパルス信号をカウントすることにより、キャリッジ2の位置を検出する。キャリッジ2の基準位置及びその他の位置への移動は、エンコーダセンサ111からの信号に基づいて行われる。
【0028】
図4は、記録ヘッドからのインク吐出が所定時間休止した後、各吐出口の吐出性能を正常な吐出状態に復帰させるために必要とされる予備吐出数の例を示す図である。ここで、図4(a)はキャリッジの走査速度(記録ヘッドの走査速度)が12.5インチ/秒であるときを、図4(b)は25インチ/秒であるときを、図4(c)は40インチ/秒であるときをそれぞれ示している。
【0029】
図4(a)〜(c)に示すように、いずれの走査速度においても、記録ヘッド3のノズルの中で、Y方向における吐出口の位置が端部に近いものほど、正常な吐出性能へと復帰させるために必要とされる予備吐出数が多いことが判る。すなわち、記録ヘッドの軸線CL(図2参照)に対する吐出口の距離が小さいノズルほど、多くのインクを予備吐出によって吐出させることが必要となる。この理由を、図5を用いて説明する。
【0030】
図5は、走査時の記録ヘッド3と記録媒体11との間に発生する気流を模式的に示す図である。図5(a)は記録ヘッド3を記録媒体の搬送方向(Y方向)から見た場合の気流の発生状態を、図5(b)は記録ヘッド2の吐出口形成面側(記録媒体11側)から記録ヘッド3を見た場合の気流の発生状態を、それぞれ示している。なお、図中、破線矢印の方向は気流の向きを、破線矢印の大きさは気流の速度の大きさを模式的に示している。
【0031】
前述のように本実施形態におけるインクジェット記録装置はシリアル型であり、記録時にキャリッジ2と共に記録ヘッドがX方向に主走査を行う。このため、図5(a)に示すように記録ヘッド3と記録媒体11の間には記録ヘッドの走査方向とは逆方向X1に気流Afが生じる。この気流Afの方向や速度が図5(b)に示すように吐出口列の両端部と中央部とで異なる。この気流Afの発生速度の違いが、吐出口近傍の雰囲気湿度に分布を生じさせ、各吐出口3aにおける蒸発状態に差異を生じさせる。すなわち、記録ヘッド3の吐出口列の両端部の雰囲気湿度が中央部の雰囲気湿度に比べて低くなる。この現象は、キャリッジ2の走査速度が大きいほど顕著になる。その理由は、キャリッジ2の主走査速度が大きいほど前述の気流速度の差異が強調されるためであり、これによって、端部での乾燥がより進行することとなる。また、記録ヘッド3に設けられている吐出口3a全体の乾燥の程度も、記録ヘッド3の走査速度によって変化する。すなわち、記録ヘッド3の走査速度が速いほど、吐出口列の両端部だけでなく、中央部においても乾燥は進行する。
【0032】
本実施形態では、上記のように記録ヘッド3と記録媒体11との間の気流速度に依存して変化する吐出口付近の雰囲気湿度に着目し、キャリッジ2の走査速度に応じて記録中の予備吐出数を精密に制御することにより、廃インク量をさらに適切に減少させる。すなわち、本実施形態では、記録ヘッド3の吐出口付近の雰囲気条件として、記録ヘッドと記録媒体との間の気流速度を変化させるキャリッジの走査速度(記録ヘッドの走査速度)に基づき吐出口3aの予備吐出数を制御するようになっている。
【0033】
ここで、図6及び図7を用いて、本実施形態における予備吐出制御について説明する。図6(a)は本実施形態における予備吐出制御の各工程を示すフローチャート、図6(b)及び図6(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。また、図7は各予備吐出モードにおいて各吐出口の吐出性能を適正な状態まで回復させるために必要とされる予備吐出数を示す図であり、この予備吐出数は予め実験的に定めた値となっている。
【0034】
図6(a)に示すように、まず、前回の予備吐出が終了したときから現在実行しようとしている予備吐出(以下、今回の予備吐出と称す)までの経過時間を取得する(ステップ1)。この経過時間としては、タイマーで直接計時した時間を用いてもよいし、記録画像の幅に基づいて算出した時間を用いてもよい。
【0035】
次に、現在までにキャリッジの走査速度を判定する(ステップ2)。このキャリッジの走査速度は、図3に示すCRモータ106の駆動回路106に入力される制御信号に基づいて計測することができる。次に、図6(b)及び図6(c)に示す予備吐出モード決定テーブルに定められている予備吐出モードA〜Fの中から、計測された経過時間と予備吐出の速度との組み合わせに対応する予備吐出モードを決定する(ステップ3)。その後、決定した予備吐出モードに従って予備吐出を実行する(ステップ4)。なお、図6(a)に示すフローチャートはあくまで一例であり、前回の予備吐出からの経過時間の取得と、キャリッジの走査速度の判定とは前後してもよく、また、並行して行ってもよい。さらに、図6(b)及び図6(c)に示す経過時間と走査速度との組み合わせ、および図7に示す予備吐出数はあくまで一例であり、この限りではない。
【0036】
以上の予備吐出制御を具体的な画像の例を用いて説明する。以下では、一回のキャリッジの走査速度が40インチ/秒である場合と、25インチ/秒である場合の2種類を切換え得る構成を想定して説明するが、キャリッジの走査速度は他の速度であってもよく、また走査途中でキャリッジ速度を変化させてもよい。さらに、ここでは双方向記録を行う場合について説明するが、片方向記録を行う場合にも本実施形態における制御は適用可能である。
【0037】
図8(a)は普通紙モード(キャリッジの走査速度:40インチ/秒)における、予備吐出制御動作の一例を示す模式図である。図8(b)は光沢紙モード(キャリッジの走査速度:25インチ/秒)における、予備吐出動作制御の一例を示す模式図である。ここでは、前回の予備吐出から今回の予備吐出を行うまでの経過時間が、図8(a)に示す予備吐出と、図8(b)に示す予備吐出とで同一(いずれも2秒)である場合について説明する。なお、記録する画像は図8に示すような罫線を記録する場合に限定されない。
【0038】
まず、図8(a)を参照しつつ、キャリッジの走査速度が40インチ/秒の場合の予備吐出動作制御について説明する。基準位置からキャリッジ(図示せず)が往方向(X1方向)へと走査して行き、記録媒体11に罫線Rを記録する。その後キャリッジ2は、反転位置201で反転する。ここで、記録媒体11がY方向に搬送された後、記録ヘッド3は復方向(X2方向)へと走査し、先の走査によって記録された罫線Rに続いて罫線Rを記録する。この復方向への走査の後、距離l200インチを40インチ/秒の走査速度で基準側まで走査し、反転位置202で走査方向を転じ、予備吐出位置203に至る。このとき、前回の予備吐出から現在までの経過時間を2秒と判定し、この計時時間とキャリッジ速度40インチ/秒とに基づき、今回の予備吐出のモードを予備吐出モードCと決定し、これに従って予備吐出位置203において予備吐出を行う。
【0039】
一方、キャリッジの走査速度が25インチ/秒の場合も同様に、経過時間とキャリッジの走査速度との組み合わせに基づいて、図8に示すように予備吐出位置303で実行すべき今回の予備吐出モードを予備吐出モードBと決定し、予備吐出を実行する。なお、予備吐出位置を図8では基準側のみとしたが、非基準側のみとしてもよいし、基準側と非基準側の両方にしてもよい。さらに、予備吐出を実行するタイミングは各走査の反転時毎に行うことも可能であり、また、複数回の走査毎に実行してもよい。
【0040】
以上の予備吐出制御を行うことで、予備吐出数を最適にすることができ、廃インクを削減することが可能になる。本発明者らの検討によると、前回の予備吐出からの経過時間が2秒で、キャリッジ速度が25インチ/秒であった場合、キャリッジ速度を勘案しない従来の予備吐出制御では吐出口からの予備吐出数は各吐出口16発ずつであった。これに対し、本実施形態による制御では同上の条件においては図7に示す予備吐出モードBを実行することとなり、これによって全体としての予備吐出数は従来の予備吐出数に比べて約1/3に減少され、廃インク量は大幅に減少した。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。この第2の実施形態においては、記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気条件を、記録中の記録ヘッドの雰囲気温度とし、この雰囲気温度に応じて各ノズルにおける記録中の予備吐出数を個別に設定する。
【0042】
以下、図9及び図10を用いて、本実施形態における予備吐出制御について説明する。図9(a)はこの第2の実施形態における予備吐出制御のフローチャート、図9(b)及び図9(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。また、図10は各予備吐出モードにおいて各吐出口の吐出性能を適正な状態まで回復させるために必要とされる予備吐出数を示す図である。
【0043】
図9(a)に示すフローチャートにおいて、まず、前回予備吐出からの経過時間を取得する(ステップ11)。この経過時間としては、タイマーで直接計時した時間を用いてもよいし、記録画像の幅に基づいて算出した時間を用いてもよい。
【0044】
次に、記録中における記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気温度を判定する(ステップ12)。この雰囲気温度は図3に示す温湿度センサ109及びヘッド温度センサ112によって得られる。次に、図9(b)及び図9(c)に示す予備吐出モード決定テーブルに定められている予備吐出モードG〜Lの中から、取得した経過時間と雰囲気温度との組み合わせに対応する予備吐出モードを決定する(ステップ13)。この後、決定した予備吐出モードに従って予備吐出を実行する(ステップ14)。なお、図9(a)に示すフローチャートはあくまで一例であり、前回の予備吐出からの経過時間の取得と記録中の雰囲気温度の判定は前後してもよく、また、並行して行ってもよい。さらに、図9(b)及び図9(c)に示す雰囲気温度とキャリッジ速度との組み合わせ、および図10の発数はあくまで一例であり、この限りではない。
【0045】
以上の方法により、画像の品質劣化が目立ちやすい記録動作中の雰囲気温度においては、記録動作中に実行される予備吐出数を増加させて画像の品質劣化を軽減する。また、画像の品質劣化が目立ちにくい記録動作中の雰囲気温度においては、無駄な予備吐出を減らして廃インクの発生を抑制する。このように、本実施形態によれば、精密な予備吐出制御を行うことにより、インク消費量の低減しつつ、記録ヘッドのノズルにおける吐出不良を解消することが可能になり、高品位な画像を低ランニングコストで形成することが可能になる。
【0046】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。この第3の実施形態では、記録動作中における記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気湿度を図3に示す温湿度センサによって測定し、これに応じて各吐出口からの記録動作中の予備吐出数を個別に設定する。
【0047】
以下、図11及び図12を用いて、本実施形態における予備吐出制御について説明する。図11(a)は予備吐出制御のフローチャート、図11(b)及び図11(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。また、図12は各予備吐出モードにおいて各吐出口の吐出性能を適正な状態まで回復させるために必要とされる予備吐出数を示す図である。図11(a)に示すように、まず、前回予備吐出から現在までの経過時間を取得する(ステップ31)。この経過時間としては、タイマーで直接計時した時間を用いてもよいし、記録画像の幅に基づいて算出した時間を用いてもよい。次に、記録動作中における記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気湿度を判定する(ステップ32)。この雰囲気湿度は図3に示す温湿度センサ109により得られる。次に、図11(b)及び図11(c)に示す予備吐出モード決定テーブルに定められている予備吐出モードM〜Rの中から、上記のようにして取得した経過時間と雰囲気温度との組み合わせに対応する予備吐出モードを決定する(ステップ23)。この後、決定した予備吐出モードに従って予備吐出を実行する(ステップ24)。なお、図11(a)に示すフローチャートはあくまで一例であり、前回予備吐出からの経過時間の取得と記録中の雰囲気温度の判定は前後してもよく、また、並行して行ってもよい。さらに、図11(b)及び図11(c)に示す雰囲気温度とキャリッジ速度との組み合わせ、および図12の発数はあくまで一例であり、この限りではない。
【0048】
以上の方法により、画像の品質劣化が目立ちやすい記録動作中の雰囲気湿度においては、記録動作中に実行される予備吐出数を増加させて画像の品質劣化を軽減する。また、画像の品質劣化が目立ちにくい記録動作中の雰囲気湿度においては、予備吐出数を減らして廃インクの発生をできる限り抑制する。従って本実施形態によれば、精密な予備吐出制御が可能となり、インク量の低減および記録ヘッドの吐出性能の維持を実現することができる。
【0049】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、雰囲気条件として、キャリッジの記録速度、記録動作中の温度、記録動作中の湿度のうち、いずれか一つを選択した場合を例に採り説明した。しかしながら、前記3つの条件のうち2つの条件を組み合わせて雰囲気条件とし、これに従って予備吐出数を決定するようにしても良い。すなわち、キャリッジ速度と記録中の温度、キャリッジ速度と記録中の湿度、記録中の温度と湿度といった組み合わせを雰囲気条件としてもよい。さらに、前記3つの条件の全て、つまりキャリッジ速度と記録中温度と記録中湿度の全てを組み合わせた雰囲気条件に基づいて予備吐出数を決定するようにすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、紙や布、革、不織布、OHP用紙等、さらには、金属などの記録媒体を用いる機器すべてに適用可能である。具体的な適用機器としては、インクジェット記録方法を用いたプリンタ、複写機、ファクシミリ等の事務機器や、工業用生産機器などを挙げることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 記録装置本体
2 キャリッジ
3 記録ヘッド
3a 吐出口
3b 吐出口形成面
7 回復処理装置
11 記録媒体
100 主制御部
101 CPU
102 RОM
103 RAM
119 温湿度センサ
112 ヘッド温度センサ
115 CRモータ
117 予備吐出カウンタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出可能な複数のノズルを備えた記録ヘッドを用いて行う記録動作と、ノズルの吐出性能の回復及び維持を行うための予備吐出を実行可能とするインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にインクジェット記録装置(以下、単に記録装置とも言う)では、記録の休止時に記録ヘッドに備えられたノズルの先端部に形成されている吐出口などからインク内の溶剤(水分)が蒸発して記録ヘッド内のインクが増粘することがある。この場合、休止後の記録時においてノズルがインク吐出不能状態に陥るとか、インク吐出量が変動するといった吐出不良が生じ、記録された画像に濃度ムラなどが発生して画像の品位を低下させるという不都合が発生する。このため、ノズルにおける吐出不良の防止あるいは、吐出不良に陥っているノズルの吐出性能の回復を目的として、記録媒体の存在位置から外れた非記録領域へと、記録とは無関係にインクを吐出させる、いわゆる予備吐出が行われている。
【0003】
例えば、記録ヘッドが搭載されたキャリッジを往復走査させ、その間に記録媒体への記録動作を行う、いわゆるシリアル型のインクジェット記録装置では、キャリッジの往復走査時、あるいは往走査から復走査への反転時などに予備吐出が行われている。これによれば、吐出不良による画像の乱れや濃度ムラの発生を低減することができる。但し、予備吐出で吐出されるインクは、記録に関与しないインク(以下では廃インクと称す)であるため、予備吐出量はできるだけ少ないことが好ましく、廃インク量を低減化することが課題となっている。
【0004】
このような課題を解決する手段として、記録ヘッドの各ノズルにおける予備吐出数の適正化を図り、不要な予備吐出により生じる無駄な廃インク量を低減させる制御が特許文献1に提案されている。すなわち、特許文献1には、複数のノズルが共通液室に連通している記録ヘッドにおいて、共通液室の端部近傍に位置するノズルの予備吐出数を、共通液室の中央部近傍に位置するノズルの予備吐出数よりも大きくする予備吐出制御が開示されている。これは、共通液室の端部近傍に存在するインクの方が共通液室の中央部に存在するインクよりも増粘し易いことに着目したものである。また、特許文献1には、記録ヘッド内のインクの温度によって予備吐出時に吐出させるインク量を変化させることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−128049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1に開示の技術では、記録ヘッドのノズルの位置や記録ヘッド内のインクの温度に応じて予備吐出量を制御することが開示されている。これによれば、各ノズルに対して一律に同数の予備吐出を行うものに比べて、予備吐出による廃インク量を削減することが可能になる。しかし、この特許文献1に開示の技術にあっては、記録ヘッド内のインクが増粘する要因、つまりインクに含まれる溶剤を揮発させる要因が未だ十分に反映されているとは言えず、予備吐出による廃インク量の制御をより精密に行うことが求められている。
【0007】
本発明者等は、インクの溶剤が揮発する要因について鋭意検討した結果、記録ヘッドの走査速度、雰囲気湿度、雰囲気温度が記録ヘッド内のインクの溶剤を蒸発させる要因になっているという知見を得るに至った。
本発明は、記録ヘッドの走査速度に応じて予備吐出量を制御することにより、廃インク量を抑えつつ記録ヘッドの各ノズルの吐出性能を良好な状態に保ち得るインクジェット記録装置および記録方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のインクジェット記録装置は以下の構成を有する。
【0009】
すなわち、本発明の第1の形態は、複数のノズルを配列した記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ前記ノズルから記録媒体へとインクを吐出させて行う記録動作と、前記記録媒体への記録と無関係に前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出動作とを実行可能とするインクジェット記録装置であって、前記予備吐出動作における各吐出口からのインクの吐出数を、前回の予備吐出動作からの経過時間と、前記吐出口付近の雰囲気条件とに基づいて制御する制御手段を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の形態は、複数のノズルを配列した記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ前記ノズルから記録媒体へとインクを吐出させて行う記録動作と、前記記録媒体への記録と無関係に前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出動作とを実行可能とするインクジェット記録方法であって、前記予備吐出動作における各吐出口からのインクの吐出数を、前回の予備吐出動作からの経過時間と、前記吐出口付近の雰囲気条件とに基づいて制御する制御工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気条件を反映させた精密な予備吐出数制御を行うことにより、廃インク量の抑制、および記録ヘッドにおける各ノズルの吐出性能の維持をより適切に行うことが可能になる。このため、本発明によれば、画像品位の向上およびインク消費に伴うランニングコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の実施形態を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態において用いられるキャリッジに搭載された記録ヘッドを示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態における制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に用いられる記録ヘッドの各吐出口のY方向における配列位置と、所定の吐出休止時間経過後に各ノズルを正常な吐出状態へと回復させるために必要な予備吐出数との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施形態において走査時の記録ヘッドと記録媒体との間に発生している気流の大きさおよび方向を示す模式図であり、(a)は側面図、(b)は底面図である。
【図6】(a)は本発明の実施形態における予備吐出制御のフローチャート、(b)および(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。
【図7】本発明の実施形態における予備吐出モードAからFにおける記録ヘッドの吐出口3aの位置と予備吐出数との関係を示す模式図である。
【図8】(a)は本発明の実施形態における前回の予備吐出から所定の時間が経過した後の普通紙モードと光沢紙モードの各記録モードにおける予備吐出制御動作の一例を示す模式図である。
【図9】(a)は本発明の実施形態に係わる予備吐出制御のフローチャート、(b)および(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。
【図10】本発明の実施形態における予備吐出モードGからLを示す模式図である。
【図11】(a)は本発明の実施形態における予備吐出制御のフローチャート、(b)および(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。
【図12】本発明の実施形態における予備吐出モードMからRを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
図1において、1は記録媒体の搬送系ユニット(図示せず)を含む各種の機構部を備えた記録装置本体を示している。記録装置本体1は、シリアル型のインクジェット記録装置であり、記録ヘッドから記録媒体へとインクを吐出する記録録動作と、記録ヘッドの吐出性能の回復及び維持を図るために画像の記録とは無関係にインクを吐出する予備吐出動作とを実行可能となっている。このシリアル型記録装置は、搬送系ユニットによって記録媒体をY方向(副走査方向)へと間欠的に搬送すると共に、記録ヘッド3を副走査方向と直交する主走査方向(X方向)へと移動させながら記録動作を行う。また、図1に示す記録装置本体1は、比較的大判の記録媒体(例えば、A1サイズ)への記録を行えるよう、X方向におけるサイズを大型化した構成となっている。
【0015】
また、図1において、2はキャリッジを示している。このキャリッジ2は、X方向に沿って配置されたガイド軸4に沿って移動可能に支持されると共に、ガイド軸4と略平行に移動する無端ベルト5に固定されている。無端ベルト5は、キャリッジモータ(CRモータ)の駆動力によって往復移動し、それによってキャリッジ2をX方向に往復移動させる。また、キャリッジ2は、記録ヘッド3を着脱可能に搭載できるようになっており、前述の無端ベルト5の移動によって記録ヘッド3と共にX方向に沿って往復移動する。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態に係わるキャリッジ2に搭載された記録ヘッド3の模式図である。記録ヘッド3には、図2の模式図に示されるように吐出口形成面3bに形成される複数の吐出口3aと、個々の吐出口3aに対応して形成された複数の液路(図示せず)と、複数の液路にインクを供給する共通液室(図示せず)とが形成されている。図2ではキャリッジ2には2個の記録ヘッド3が搭載された状態を示しているが、キャリッジ2に搭載される記録ヘッドの数は2個に限定されるものではない。例えば、1個または3個以上の記録ヘッドをキャリッジ2に搭載させて走査を行う構成を採ることも可能である。なお、以下の説明は、異なる色のインクを吐出する4個の記録ヘッドを搭載した例を想定して行う。
【0017】
また、各記録ヘッド3に形成されている吐出口3aは、記録媒体の搬送方向(X方向)との直交方向である主走査方向(Y方向)に沿って吐出口列が形成されている。図示の例では、Y方向に沿って2本の吐出口列が並設されており、各吐出口はY方向において一定の間隔を介して異なる位置に配置されている。また、図中、CLはY方向と平行しかつ記録ヘッド3のY方向における中央部を通過する軸線を示しており、この軸線CLより記録媒体搬送方向における上流側部分3Uと下流側部分3Dとは軸線CLを中心として対称となっている。さらに、記録ヘッド3に形成されている吐出口3aは、上流側部分3Uにおいて、前記軸線CLからの距離が異なるように配置されている。この吐出口3aと軸線CLとの距離関係は、下流側部分においても同様である。
【0018】
また、本実施形態の各記録ヘッド3には、記録媒体が搬送される副走査方向(Y方向)に同色のインクが1200dpi(ドット/インチ)の密度で、1280個の吐出口3aが配列されている。記録ヘッド3の各液路には、インクを吐出口3aから吐出させるための吐出エネルギーを発生させるエネルギー発生素子が配置されている。このエネルギー発生素子として、本実施形態では、インクを局所的に加熱して膜沸騰を起こさせ、その際に生じる圧力によってインクを吐出させる電気熱変換素子が用いられている。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、電気機械変換素子を用いることも可能である。なお、以下の説明においては、吐出口3aと液路とを含めてノズルと称す。
【0019】
キャリッジ2に搭載された記録ヘッド3には、異なる色材を含む複数種のインクを別個に収容した複数のインクタンクより供給される。本実施形態では、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの色材を含有する4種類のインクを収容した4個のインクタンク(図示せず)が本体に備えられている。各インクタンクは、対応する記録ヘッド3のインク供給口にチューブ(図示せず)を介して連結されており、このチューブを介して各インクタンクから内のインクが4個の記録ヘッドそれぞれに一色ずつ供給される。なお、インクジェット記録装置に適用可能なインクセットは、記録装置本体の構成に従って任意に設定可能なものであり、特に上記の例に限定されない。
【0020】
再び図1を参照するに、7は記録ヘッド3の各吐出口3aからのインク吐出性能を良好な状態に保つための回復処理装置を示している。この回復処理装置7は、インクジェット記録装置本体1の所定の位置に保持固定されている。この回復処理装置7は吸引回復機構7A及び7Bと、これを昇降させる昇降機構(図示せず)と、ワイピング回復装置9と、インク受容箱8とを備える。
【0021】
吸引回復機構7A及び7Bは、回復処理の一形態である吸引回復処理を行う。ここで、吸引回復処理とは、記録ヘッドに形成された複数のノズルから強制的にインクを吸引することによって、ノズル内のインクを吐出に適した状態のインクに置き換える処理をいう。具体的には、この吸引回復機構7A及び7Bは、吐出口形成面3bを覆うことが可能なキャップと、そのキャップに連通するポンプ(図示せず)とを備える。吸引回復動作時には、キャップにより吐出口形成面3bを覆い、ポンプによってキャップ内に負圧を発生させることにより、負圧によって吐出口3aからノズル内のインクを強制的に吸引し、外部へと排出させる。各吸引回復機構7A及び7Bは、それぞれ2つの記録ヘッドのノズルに対して処理を行う。なお、この吸引回復処理は、多量のインクを排出させるものであるため、通常は実行頻度が少なく、後述の予備吐出とは異なるタイミングで実行される。
【0022】
また、ワイピング回復装置9は、記録ヘッド3の走査経路における基準位置(例えば走査経路の端部(図1では右端部))に上下に移動可能に設けられている。ワイピング回復装置9は、記録ヘッドの吐出口形成面3bをワイピング部材(ブレード)10で払拭するワイピング機構と、このブレード10の稼動部とを備える。
【0023】
図3は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の装置本体1に搭載される制御系(制御手段)の構成を示すブロック図である。図3において、100は主制御部を示している。この主制御部100は演算、制御、判別、設定などの処理動作を実行するCPU101と、このCPU101によって実行すべき制御プログラム等を格納するROM102を備える。さらに主制御部100は、インクの吐出/非吐出を表す2値の記録データを格納するバッファ、及びCPU101による処理のワークエリアおよび種々のデータを格納するエリアを有するRAM103と、入出力ポート104などを備える。
【0024】
前記入出力ポート104には、搬送ユニットにおける搬送モータ(LFモータ)113、キャリッジモータ(CRモータ)114、記録ヘッド3、回復処理装置7などを駆動するための各駆動回路105,106,107,108が接続されている。さらに、入出力ポート104には、種々のセンサ類が接続されている。本実施形態では、例えば、記録ヘッドの温度を検出するヘッド温度センサ(ヘッド温度検出手段)112やキャリッジ2に固定されたエンコーダセンサ111や装置本体1の使用環境である温度と湿度とを検知する温湿度センサ109などのセンサ類が接続されている。また、前記主制御部100はインターフェース回路110を介してホストコンピュータ115に接続されている。
【0025】
116は回復処理装置7によって記録ヘッド3から強制的にインクを排出させた場合に、そのインク吐出量をインク吐出数に換算してカウントする回復処理カウンタ(吐出数計数手段)である。また、117は記録開始前、記録終了時、および記録中に行われる予備吐出の吐出数をカウントする予備吐出カウンタである。118はふち無し記録を行う場合に記録媒体上の領域外に吐出されるインクをカウンタするふち無しインクカウンタである。また、119は、画像を記録する記録動作におけるインク吐出数をカウントする吐出数カウンタである。
【0026】
次に、以上の構成を有するインクジェット記録装置によって実行される記録動作を説明する。ホストコンピュータ115からインターフェース回路110を介して記録データを受信すると、その記録データはRAM103のバッファに展開される。そして、記録動作が指示されると、搬送ユニット(図示せず)が作動し、記録媒体を記録ヘッド3との対向位置へと搬送する。ここで、キャリッジ2はX方向に配置されたガイド軸4に沿って主走査を行う。キャリッジ2の主走査に伴って、記録ヘッド3のノズルからは記録データに従ってインクが吐出され、吐出口3aのY方向における配列幅に対応する画像(1バンド幅の画像)が記録される。この後、搬送ユニットにより、記録媒体はキャリッジ2と直交するY方向に所定距離だけ搬送される。以上の動作を繰り返すことにより、記録媒体には所定の画像が形成される。
【0027】
なお、キャリッジ2の位置は、キャリッジ2の移動に伴ってエンコーダセンサ111から出力されるパルス信号を主制御部100でカウントすることにより検出される。すなわち、エンコーダセンサ111は、X方向に沿って配置されたエンコーダフィルム6(図1参照)に一定の間隔で形成された検出部を検出することによってパルス信号を主制御部100へ出力する。主制御部100はこのパルス信号をカウントすることにより、キャリッジ2の位置を検出する。キャリッジ2の基準位置及びその他の位置への移動は、エンコーダセンサ111からの信号に基づいて行われる。
【0028】
図4は、記録ヘッドからのインク吐出が所定時間休止した後、各吐出口の吐出性能を正常な吐出状態に復帰させるために必要とされる予備吐出数の例を示す図である。ここで、図4(a)はキャリッジの走査速度(記録ヘッドの走査速度)が12.5インチ/秒であるときを、図4(b)は25インチ/秒であるときを、図4(c)は40インチ/秒であるときをそれぞれ示している。
【0029】
図4(a)〜(c)に示すように、いずれの走査速度においても、記録ヘッド3のノズルの中で、Y方向における吐出口の位置が端部に近いものほど、正常な吐出性能へと復帰させるために必要とされる予備吐出数が多いことが判る。すなわち、記録ヘッドの軸線CL(図2参照)に対する吐出口の距離が小さいノズルほど、多くのインクを予備吐出によって吐出させることが必要となる。この理由を、図5を用いて説明する。
【0030】
図5は、走査時の記録ヘッド3と記録媒体11との間に発生する気流を模式的に示す図である。図5(a)は記録ヘッド3を記録媒体の搬送方向(Y方向)から見た場合の気流の発生状態を、図5(b)は記録ヘッド2の吐出口形成面側(記録媒体11側)から記録ヘッド3を見た場合の気流の発生状態を、それぞれ示している。なお、図中、破線矢印の方向は気流の向きを、破線矢印の大きさは気流の速度の大きさを模式的に示している。
【0031】
前述のように本実施形態におけるインクジェット記録装置はシリアル型であり、記録時にキャリッジ2と共に記録ヘッドがX方向に主走査を行う。このため、図5(a)に示すように記録ヘッド3と記録媒体11の間には記録ヘッドの走査方向とは逆方向X1に気流Afが生じる。この気流Afの方向や速度が図5(b)に示すように吐出口列の両端部と中央部とで異なる。この気流Afの発生速度の違いが、吐出口近傍の雰囲気湿度に分布を生じさせ、各吐出口3aにおける蒸発状態に差異を生じさせる。すなわち、記録ヘッド3の吐出口列の両端部の雰囲気湿度が中央部の雰囲気湿度に比べて低くなる。この現象は、キャリッジ2の走査速度が大きいほど顕著になる。その理由は、キャリッジ2の主走査速度が大きいほど前述の気流速度の差異が強調されるためであり、これによって、端部での乾燥がより進行することとなる。また、記録ヘッド3に設けられている吐出口3a全体の乾燥の程度も、記録ヘッド3の走査速度によって変化する。すなわち、記録ヘッド3の走査速度が速いほど、吐出口列の両端部だけでなく、中央部においても乾燥は進行する。
【0032】
本実施形態では、上記のように記録ヘッド3と記録媒体11との間の気流速度に依存して変化する吐出口付近の雰囲気湿度に着目し、キャリッジ2の走査速度に応じて記録中の予備吐出数を精密に制御することにより、廃インク量をさらに適切に減少させる。すなわち、本実施形態では、記録ヘッド3の吐出口付近の雰囲気条件として、記録ヘッドと記録媒体との間の気流速度を変化させるキャリッジの走査速度(記録ヘッドの走査速度)に基づき吐出口3aの予備吐出数を制御するようになっている。
【0033】
ここで、図6及び図7を用いて、本実施形態における予備吐出制御について説明する。図6(a)は本実施形態における予備吐出制御の各工程を示すフローチャート、図6(b)及び図6(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。また、図7は各予備吐出モードにおいて各吐出口の吐出性能を適正な状態まで回復させるために必要とされる予備吐出数を示す図であり、この予備吐出数は予め実験的に定めた値となっている。
【0034】
図6(a)に示すように、まず、前回の予備吐出が終了したときから現在実行しようとしている予備吐出(以下、今回の予備吐出と称す)までの経過時間を取得する(ステップ1)。この経過時間としては、タイマーで直接計時した時間を用いてもよいし、記録画像の幅に基づいて算出した時間を用いてもよい。
【0035】
次に、現在までにキャリッジの走査速度を判定する(ステップ2)。このキャリッジの走査速度は、図3に示すCRモータ106の駆動回路106に入力される制御信号に基づいて計測することができる。次に、図6(b)及び図6(c)に示す予備吐出モード決定テーブルに定められている予備吐出モードA〜Fの中から、計測された経過時間と予備吐出の速度との組み合わせに対応する予備吐出モードを決定する(ステップ3)。その後、決定した予備吐出モードに従って予備吐出を実行する(ステップ4)。なお、図6(a)に示すフローチャートはあくまで一例であり、前回の予備吐出からの経過時間の取得と、キャリッジの走査速度の判定とは前後してもよく、また、並行して行ってもよい。さらに、図6(b)及び図6(c)に示す経過時間と走査速度との組み合わせ、および図7に示す予備吐出数はあくまで一例であり、この限りではない。
【0036】
以上の予備吐出制御を具体的な画像の例を用いて説明する。以下では、一回のキャリッジの走査速度が40インチ/秒である場合と、25インチ/秒である場合の2種類を切換え得る構成を想定して説明するが、キャリッジの走査速度は他の速度であってもよく、また走査途中でキャリッジ速度を変化させてもよい。さらに、ここでは双方向記録を行う場合について説明するが、片方向記録を行う場合にも本実施形態における制御は適用可能である。
【0037】
図8(a)は普通紙モード(キャリッジの走査速度:40インチ/秒)における、予備吐出制御動作の一例を示す模式図である。図8(b)は光沢紙モード(キャリッジの走査速度:25インチ/秒)における、予備吐出動作制御の一例を示す模式図である。ここでは、前回の予備吐出から今回の予備吐出を行うまでの経過時間が、図8(a)に示す予備吐出と、図8(b)に示す予備吐出とで同一(いずれも2秒)である場合について説明する。なお、記録する画像は図8に示すような罫線を記録する場合に限定されない。
【0038】
まず、図8(a)を参照しつつ、キャリッジの走査速度が40インチ/秒の場合の予備吐出動作制御について説明する。基準位置からキャリッジ(図示せず)が往方向(X1方向)へと走査して行き、記録媒体11に罫線Rを記録する。その後キャリッジ2は、反転位置201で反転する。ここで、記録媒体11がY方向に搬送された後、記録ヘッド3は復方向(X2方向)へと走査し、先の走査によって記録された罫線Rに続いて罫線Rを記録する。この復方向への走査の後、距離l200インチを40インチ/秒の走査速度で基準側まで走査し、反転位置202で走査方向を転じ、予備吐出位置203に至る。このとき、前回の予備吐出から現在までの経過時間を2秒と判定し、この計時時間とキャリッジ速度40インチ/秒とに基づき、今回の予備吐出のモードを予備吐出モードCと決定し、これに従って予備吐出位置203において予備吐出を行う。
【0039】
一方、キャリッジの走査速度が25インチ/秒の場合も同様に、経過時間とキャリッジの走査速度との組み合わせに基づいて、図8に示すように予備吐出位置303で実行すべき今回の予備吐出モードを予備吐出モードBと決定し、予備吐出を実行する。なお、予備吐出位置を図8では基準側のみとしたが、非基準側のみとしてもよいし、基準側と非基準側の両方にしてもよい。さらに、予備吐出を実行するタイミングは各走査の反転時毎に行うことも可能であり、また、複数回の走査毎に実行してもよい。
【0040】
以上の予備吐出制御を行うことで、予備吐出数を最適にすることができ、廃インクを削減することが可能になる。本発明者らの検討によると、前回の予備吐出からの経過時間が2秒で、キャリッジ速度が25インチ/秒であった場合、キャリッジ速度を勘案しない従来の予備吐出制御では吐出口からの予備吐出数は各吐出口16発ずつであった。これに対し、本実施形態による制御では同上の条件においては図7に示す予備吐出モードBを実行することとなり、これによって全体としての予備吐出数は従来の予備吐出数に比べて約1/3に減少され、廃インク量は大幅に減少した。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。この第2の実施形態においては、記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気条件を、記録中の記録ヘッドの雰囲気温度とし、この雰囲気温度に応じて各ノズルにおける記録中の予備吐出数を個別に設定する。
【0042】
以下、図9及び図10を用いて、本実施形態における予備吐出制御について説明する。図9(a)はこの第2の実施形態における予備吐出制御のフローチャート、図9(b)及び図9(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。また、図10は各予備吐出モードにおいて各吐出口の吐出性能を適正な状態まで回復させるために必要とされる予備吐出数を示す図である。
【0043】
図9(a)に示すフローチャートにおいて、まず、前回予備吐出からの経過時間を取得する(ステップ11)。この経過時間としては、タイマーで直接計時した時間を用いてもよいし、記録画像の幅に基づいて算出した時間を用いてもよい。
【0044】
次に、記録中における記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気温度を判定する(ステップ12)。この雰囲気温度は図3に示す温湿度センサ109及びヘッド温度センサ112によって得られる。次に、図9(b)及び図9(c)に示す予備吐出モード決定テーブルに定められている予備吐出モードG〜Lの中から、取得した経過時間と雰囲気温度との組み合わせに対応する予備吐出モードを決定する(ステップ13)。この後、決定した予備吐出モードに従って予備吐出を実行する(ステップ14)。なお、図9(a)に示すフローチャートはあくまで一例であり、前回の予備吐出からの経過時間の取得と記録中の雰囲気温度の判定は前後してもよく、また、並行して行ってもよい。さらに、図9(b)及び図9(c)に示す雰囲気温度とキャリッジ速度との組み合わせ、および図10の発数はあくまで一例であり、この限りではない。
【0045】
以上の方法により、画像の品質劣化が目立ちやすい記録動作中の雰囲気温度においては、記録動作中に実行される予備吐出数を増加させて画像の品質劣化を軽減する。また、画像の品質劣化が目立ちにくい記録動作中の雰囲気温度においては、無駄な予備吐出を減らして廃インクの発生を抑制する。このように、本実施形態によれば、精密な予備吐出制御を行うことにより、インク消費量の低減しつつ、記録ヘッドのノズルにおける吐出不良を解消することが可能になり、高品位な画像を低ランニングコストで形成することが可能になる。
【0046】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。この第3の実施形態では、記録動作中における記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気湿度を図3に示す温湿度センサによって測定し、これに応じて各吐出口からの記録動作中の予備吐出数を個別に設定する。
【0047】
以下、図11及び図12を用いて、本実施形態における予備吐出制御について説明する。図11(a)は予備吐出制御のフローチャート、図11(b)及び図11(c)は予備吐出モード決定テーブルを示す図である。また、図12は各予備吐出モードにおいて各吐出口の吐出性能を適正な状態まで回復させるために必要とされる予備吐出数を示す図である。図11(a)に示すように、まず、前回予備吐出から現在までの経過時間を取得する(ステップ31)。この経過時間としては、タイマーで直接計時した時間を用いてもよいし、記録画像の幅に基づいて算出した時間を用いてもよい。次に、記録動作中における記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気湿度を判定する(ステップ32)。この雰囲気湿度は図3に示す温湿度センサ109により得られる。次に、図11(b)及び図11(c)に示す予備吐出モード決定テーブルに定められている予備吐出モードM〜Rの中から、上記のようにして取得した経過時間と雰囲気温度との組み合わせに対応する予備吐出モードを決定する(ステップ23)。この後、決定した予備吐出モードに従って予備吐出を実行する(ステップ24)。なお、図11(a)に示すフローチャートはあくまで一例であり、前回予備吐出からの経過時間の取得と記録中の雰囲気温度の判定は前後してもよく、また、並行して行ってもよい。さらに、図11(b)及び図11(c)に示す雰囲気温度とキャリッジ速度との組み合わせ、および図12の発数はあくまで一例であり、この限りではない。
【0048】
以上の方法により、画像の品質劣化が目立ちやすい記録動作中の雰囲気湿度においては、記録動作中に実行される予備吐出数を増加させて画像の品質劣化を軽減する。また、画像の品質劣化が目立ちにくい記録動作中の雰囲気湿度においては、予備吐出数を減らして廃インクの発生をできる限り抑制する。従って本実施形態によれば、精密な予備吐出制御が可能となり、インク量の低減および記録ヘッドの吐出性能の維持を実現することができる。
【0049】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、雰囲気条件として、キャリッジの記録速度、記録動作中の温度、記録動作中の湿度のうち、いずれか一つを選択した場合を例に採り説明した。しかしながら、前記3つの条件のうち2つの条件を組み合わせて雰囲気条件とし、これに従って予備吐出数を決定するようにしても良い。すなわち、キャリッジ速度と記録中の温度、キャリッジ速度と記録中の湿度、記録中の温度と湿度といった組み合わせを雰囲気条件としてもよい。さらに、前記3つの条件の全て、つまりキャリッジ速度と記録中温度と記録中湿度の全てを組み合わせた雰囲気条件に基づいて予備吐出数を決定するようにすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、紙や布、革、不織布、OHP用紙等、さらには、金属などの記録媒体を用いる機器すべてに適用可能である。具体的な適用機器としては、インクジェット記録方法を用いたプリンタ、複写機、ファクシミリ等の事務機器や、工業用生産機器などを挙げることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 記録装置本体
2 キャリッジ
3 記録ヘッド
3a 吐出口
3b 吐出口形成面
7 回復処理装置
11 記録媒体
100 主制御部
101 CPU
102 RОM
103 RAM
119 温湿度センサ
112 ヘッド温度センサ
115 CRモータ
117 予備吐出カウンタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルを配列した記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ前記ノズルから記録媒体へとインクを吐出させて行う記録動作と、前記記録媒体への記録と無関係に前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出動作とを実行可能なインクジェット記録装置であって、
前記予備吐出動作における各吐出口からのインクの吐出数を、前回の予備吐出動作からの経過時間と、前記吐出口付近の雰囲気条件とに基づいて制御する制御手段を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記吐出口付近の雰囲気条件は、前記記録ヘッドの走査速度を含み、
前記制御手段は、前記記録ヘッドの走査速度が高いほど、前記予備吐出動作において前記各吐出口からのインクの吐出数を多くするように制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記吐出口付近の雰囲気条件は、前記記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気温度を含み、
前記制御手段は、前記雰囲気温度が高いほど、前記各吐出口からのインクの吐出数を多くするように制御することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記吐出口付近の雰囲気条件は、前記記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気湿度を含み、
前記制御手段は、前記記録中の湿度が低いほど、前記各吐出口からの予備吐出数を多くするように制御することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドは、複数のノズルの吐出口が前記主走査方向との直交方向に沿って配列され、
前記制御手段は、前記主走査方向との直交しかつ前記記録ヘッドの中央部を通る軸線との距離が小さい吐出口を有するノズルほど、前記吐出口からの予備吐出数を多くするように制御することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
複数のノズルを配列した記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ前記ノズルから記録媒体へとインクを吐出させて行う記録動作と、前記記録媒体への記録と無関係に前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出動作とを実行可能なインクジェット記録方法であって、
前記予備吐出動作における各吐出口からのインクの吐出数を、前回の予備吐出動作からの経過時間と、前記吐出口付近の雰囲気条件とに基づいて制御する制御工程を備えることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項1】
複数のノズルを配列した記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ前記ノズルから記録媒体へとインクを吐出させて行う記録動作と、前記記録媒体への記録と無関係に前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出動作とを実行可能なインクジェット記録装置であって、
前記予備吐出動作における各吐出口からのインクの吐出数を、前回の予備吐出動作からの経過時間と、前記吐出口付近の雰囲気条件とに基づいて制御する制御手段を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記吐出口付近の雰囲気条件は、前記記録ヘッドの走査速度を含み、
前記制御手段は、前記記録ヘッドの走査速度が高いほど、前記予備吐出動作において前記各吐出口からのインクの吐出数を多くするように制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記吐出口付近の雰囲気条件は、前記記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気温度を含み、
前記制御手段は、前記雰囲気温度が高いほど、前記各吐出口からのインクの吐出数を多くするように制御することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記吐出口付近の雰囲気条件は、前記記録ヘッドの吐出口付近の雰囲気湿度を含み、
前記制御手段は、前記記録中の湿度が低いほど、前記各吐出口からの予備吐出数を多くするように制御することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドは、複数のノズルの吐出口が前記主走査方向との直交方向に沿って配列され、
前記制御手段は、前記主走査方向との直交しかつ前記記録ヘッドの中央部を通る軸線との距離が小さい吐出口を有するノズルほど、前記吐出口からの予備吐出数を多くするように制御することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
複数のノズルを配列した記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ前記ノズルから記録媒体へとインクを吐出させて行う記録動作と、前記記録媒体への記録と無関係に前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出動作とを実行可能なインクジェット記録方法であって、
前記予備吐出動作における各吐出口からのインクの吐出数を、前回の予備吐出動作からの経過時間と、前記吐出口付近の雰囲気条件とに基づいて制御する制御工程を備えることを特徴とするインクジェット記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−161897(P2011−161897A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30380(P2010−30380)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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