説明

インクジェット記録装置

【課題】 記録ヘッドとインクタンクとを連通するインク供給流路の連通状態を切り替える弁機構を有する記録装置において、記録装置が傾いて配置された場合であってもインク漏れや吐出不良といった問題を起こしにくいインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】 記録ヘッドとインクタンクとを連通するインク供給流路は第1液路5cおよび第2液路5dを含むように構成されており、この流路には遮断弁10が配置されている。遮断弁10は、ダイヤフラム10aをレバー11によって上下移動させて流路を開閉するものであり、レバー11は水平部材11aと鉛直部材11bとで構成されている。鉛直部材11bは、第2の回転軸12によって回動自在に保持されており、その下部側が常に鉛直方向下向きに向くように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブなどによって構成されたインク供給流路を通じてインクタンクから記録ヘッドへとインクが供給される構成であって、そのインク供給流路上に弁機構が配置されたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的なインクジェット記録装置(単に記録装置ともいう)として、インクジェット記録ヘッド(単に記録ヘッドともいう)を搭載するキャリッジと、記録紙などの被記録媒体を搬送する搬送手段と、これらの駆動を制御する制御手段とを有し、キャリッジを移動させながら記録を行うシリアル型のものがある。
【0003】
この種の記録装置において、記録ヘッドへのインクの供給方式としては、インクを収容するインクタンクを記録ヘッドと一体化させた、いわゆる「ヘッドタンク一体供給方式」や、インクタンクと記録ヘッドとをチューブで接続した、いわゆる「チューブ供給方式」や、インクタンクと記録ヘッドとを別々に設け、必要に応じて記録ヘッドをインクタンクの位置まで移動させて両者を接続し、その状態でインクタンクから記録ヘッドへインクを供給する、いわゆる「ピットイン方式」が知られている。そして、シリアル型の記録装置に対しては、「チューブ供給方式」および「ピットイン方式」が採られることが多く、特に、「チューブ供給方式」は、インク供給のために記録動作を停止する必要がないという利点を有している。
【0004】
図7は、例えば特許文献1に開示された従来のインクジェット記録装置の構成説明するための概略図である。
【0005】
図7に示すインクジェット記録装置250は、大別して、インクを吐出するための記録ヘッド201と、記録ヘッド201にインクを供給するためのインク供給ユニット205と、記録ヘッド201に対して回復動作を行う回復ユニット207とに分けられる。
【0006】
記録ヘッド201は、その下面に、インクを吐出する複数の吐出ノズル201gを有している。記録ヘッド201は、また、メインタンク204に対して高低差がつけられた状態で比較的高い位置に配置され、これにより記録ヘッド201内が所定の負圧状態となるように構成されている。
【0007】
インク供給ユニット205は、メインタンク204からインクを取り出すためのインク供給針205aと、メインタンク204内へ大気を導入させるための大気導入針205bとを有し、図示するように、メインタンク204が装着された状態で針205a、205bのそれぞれの先端がメインタンク204の内部に連通するように構成されている。
【0008】
大気導入針205bの下端は、メインタンク204の下方に配置されたバッファ室205fの内部に連通するように構成されている。これにより、大気導入針205bを介してメインタンク204内部とバッファ室205f内部とが連通した状態となっている。バッファ室205fの他端側には逆U字状に形成された通路が設けられており、この通路の下端部が大気連通口205gとなっている。このように構成されたバッファ室205fは、例えば外気圧の変化などにより、メインタンク204からインクが溢れ出した場合に、そのインクを一時的に貯留するものである。したがって、バッファ室205fは、メインタンク204の容量に応じた所定量のインクを貯留することができるように、所定の大きさの内部空間を有している。吐出ノズル201gの下面と、バッファ室205f内の液面(水頭面)との高低差が水頭差となっており、吐出ノズル面201gでインクがメニスカスを形成している。またバッファ室205fの内部空間の高さは、吐出ノズル201gにおいて、ノズル内への外気の進入や、ヘッドからの吐出時以外のインク漏れが発生しないように、メニスカスが最適となるようメインタンク204とバッファ室205fとの位置関係や、それに基づくインクの圧力差等を考慮して適宜設定されている。
【0009】
一方、インク供給針205aの下端は、インクを記録ヘッド201aに移送するためのインク供給流路に接続されている。このインク供給流路上には、同流路を開閉制御するための遮断弁210が配置されている。なお、インク供給流路のうち、遮断弁210より下流側(記録ヘッド201側)が可撓性を有する供給チューブ206によって構成されている。
【0010】
遮断弁210は、支持軸によって回動自在に支持された逆L字状のレバー211によって、開放/閉塞の状態が切換わるようになっている。このレバー211の移動の駆動源は、回復ユニット207の構成要素として設けられたカム制御モータ207gである。すなわち、カム制御モータ207gの回転動力が第2のカム207fを介してリンク207eの水平移動に変換され、リンク207eが図示右側に移動したときにレバー211が押し上げられるように構成されている。なお、カム制御モータ207gは、吸引キャップ207aの上下移動の駆動源も兼ねている。
【0011】
このように構成されたインクジェット記録装置250では、その記録動作の際には、吸引キャップ207aは記録ヘッド201から退避した位置となり、また、リンク207eが図示右側に移動することによって遮断弁210が開放された状態となる。こうすることで、記録ヘッド201からのインクの吐出と、メインタンク4から記録ヘッド1へのインク供給との双方ができるようになっている。
【特許文献1】特開2002−248779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述したような特許文献1の構成では、記録装置が傾いた状態で配置されていると次のような問題が生じる可能性があった。すなわち、図7のインクジェット記録装置250においては、吐出ノズル201g下端での負圧の大きさが、バッファ室205f内に貯留されたインクの気液界面の高さによって変化するものであり、またこのことからバッファ室205fの高さ寸法も、吐出ノズル201f内の負圧の大きさが所定の範囲内に収まるように設定されている。しかし、この高さ寸法の設定は、通常、記録装置250が水平姿勢で配置されることを前提として行われている。記録装置250の水平姿勢が保たれている場合、吐出ノズル201gの下面と、バッファ室205f内の液面(水頭面)との差である水頭差が保たれた状態を維持できる。しかし、記録装置250が傾いた状態で配置された場合には、バッファ室205f内の水頭面が変化し、その結果、吐出ノズル201g下面とバッファ室内の水頭面高低差によって形成されている水頭差が維持できない状況になる。必要な水頭差を確保するためには、バッファ室205fの水頭面を変化させる必要があり、バッファ室内の高さが足りない状況になってしまうこともある。その結果、バッファ室205f内のインクが大気連通口205gから溢れ出す可能性があった。
【0013】
例えば記録動作時、すなわち遮断弁210が開放状態で記録ヘッド201内とメインタンク204内とが連通している時であって、かつ、バッファ室205f内に既に所定量のインクが貯留され、しかも記録装置250が傾いている場合に、水頭差がくずれることによって、吐出ノズル201g側から、外部の空気がサブタンク内へ流入し、ヘッド側へリークしてしまう。その結果、サブタンク内にあったインクや、流入した空気が、供給チューブ206を経由して、開放した遮断弁210を通り、メインタンク204内へ流入する。すると、メインタンク204内のインクは、大気導入針205bから押し出され、バッファ室205f内にインクが逆流し、大気連通口205gからインクが溢れてしまう。一旦、インクが溢れ出すと、インクの水頭面が通常時の水頭面の高さ(針205a、205bの下端に相当)よりも低くなってしまうため、メインタンク204内のインクが全てなくなるまで溢れてしまうこともある。
【0014】
また、記録装置250が傾いた状態にあり、記録ヘッド201内や供給チューブ206内にインクが無く、バッファ室205f内のみに所定量のインクが貯留されており、メインタンク204が針部に装着されていない状態の時に、記録ヘッド201や供給チューブ206内にインクを充填しようとした場合、新しいメインタンク204を針部に装着すると、記録装置250が傾いているので、インク供給ユニット205が、図7の状態よりも下方向に位置し、記録ヘッド201が、図7の状態よりも上方向に位置するような場合がある。この時、インクはバッファ室205fとメインタンク204にのみに存在するので、インクタンク204を装着したことによって、供給針205aの液面とバッファ室205f内の液面が、水頭差の基準面となる。装置が傾いているために、205aの液面よりも、バッファ室205fの液面が下側だった場合には、メインタンク204内のインクがバッファ室205f側に流れてしまい、大気連通口205gから大量のインクが溢れてしまう可能性がある。このような大気連通口205gからのインクの溢れの問題に対し、バッファ室205f内の容積を大きくすることで対応することも可能であるが、このようにバッファ室205を大容積化することは記録装置の大型化に繋がるおそれもある。
【0015】
以上、図7に示した特許文献1の構成を例に挙げて、記録装置が傾いて配置された際の問題点について説明したが、装置が傾いていることに起因した上記のような問題は他の種類の記録装置にも生じうると考えられる。また、その場合の問題点も上記のようなインク漏れに限られるものではなく、例えば記録ヘッド内におけるインクの圧力が所望の範囲内から外れることにより、吐出不良が起こる可能性もある。
【0016】
いずれにしても上記のような問題の原因は、装置が傾いている状態で弁機構を開放してしまうことにあり、したがってこれを防止するためには、記録装置の傾き応じて適切な弁機構の制御を行えるようになっていることが望ましい。
【0017】
そこで本発明の目的は、記録ヘッドとインクタンクとを連通するインク供給流路の連通状態を切り替える弁機構を有する記録装置において、記録装置が傾いて配置された場合であってもインク漏れや吐出不良といった問題を起こしにくいインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット記録装置は、インクを吐出する記録ヘッドへインクタンクに収容されたインクを供給するためのインク供給流路と、該インク供給流路に設けられてその流路を開閉する弁機構と、前記弁機構の開閉動作の駆動源である駆動手段とを有するインクジェット記録装置において、前記弁機構は、前記インクジェット記録装置の傾きに応じて自在に回動変位する回動部材を有し、該回動部材を介して開閉動作されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のインクジェット記録装置によれば、弁機構を構成する一要素として設けられた、記録装置の傾きに応じて自在に回動変位する回動部材を利用することで、記録装置の傾き応じて適切な弁機構の開閉制御を行うことができるようになり、その結果、記録装置が傾いて配置された場合であってもインク漏れや吐出不良といった問題を起こしにくいものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態のインクジェット記録装置におけるインク供給の基本原理を説明するための図である。図2は、本発明の一実施形態のインクジェット記録装置の構成を概略的に示す斜視図である。図3は、図2のインクジェット記録装置における1色分のインク供給流路を説明するための概略図である。
【0022】
なお、本発明の特徴部は主に図4を参照して説明する遮断弁およびその周辺の構造であり、その他の構造部は従来公知のインクジェット記録装置と同一または類似の構成となっている。
【0023】
まず、本実施形態のインクジェット記録装置50における記録ヘッド1へのインク供給の基本原理について図1を参照して説明する。
【0024】
図1に示すように、インクジェット記録装置50では、記録ヘッド1とメインタンク4とが供給チューブ6を通して連通されており、メインタンク4から記録ヘッド1の各吐出ノズル1gまでの流路がインクで満たされている。記録ヘッド1の吐出ノズル1gは、メインタンク4内に収容されたインクの液面よりも高さHだけ高い位置に配置され、記録ヘッド1内の圧力が高さHの水頭差分の負圧に保たれた状態となっている。なお、記録ヘッド1内には、一定量のインクが蓄えられている。
【0025】
記録ヘッド1の吐出ノズル1gは、微細な穴として設けられている。上記の通り記録ヘッド1内が負圧となっていることにより、吐出ノズル1gの内部も負圧とされており、その結果、ノズル内のインクはノズル先端側でメニスカスを張った状態となっている。これにより、吐出ノズル1gからインクが漏れたり、大気から吐出ノズル1g内への空気が進入したりすることが防止される。インクの吐出は、吐出ノズル1g内部に配置したヒータ(不図示)の膜沸騰エネルギーにより、吐出ノズル1g内のインクを押し出すことにより行われる。インクの吐出後、吐出ノズル1gの毛管力によってノズル内に再びインクを満たすサイクルが繰り返され、インクは、供給チューブ6を通してメインタンク4から記録ヘッド1へと再び吸い上げられる。
【0026】
図2に示すように、インクジェット記録装置50は、記録ヘッド1の主走査方向における往復移動(主走査)と、記録用シートSの所定ピッチごとの副走査方向への搬送(副走査)とを繰り返しつつ、これらの動きと同期させながら記録ヘッド1の複数の吐出ノズル1gから選択的にインクを吐出させて記録用シートSに付着させることで、文字や記号、画像等を形成するシリアル型の記録装置である。
【0027】
記録ヘッド1は、2本のガイドレールに摺動自在に支持され不図示のモータ等の駆動手段によりガイドレールに沿って往復移動されるキャリッジ2に着脱可能に搭載されている。記録用シートSは、搬送ローラ3により、記録ヘッド1のインク吐出面に対面し、かつ、インク吐出面との距離を一定に維持するように、キャリッジ2の移動方向と交差する方向(例えば、直行する方向である矢印A方向)に搬送される。また、記録ヘッド1のノズル列は、記録ヘッド1の主走査方向とほぼ直交した方向に延びている。記録ヘッド1から吐出されるインクの色に対応して、複数の独立したメインタンク4が、インク供給ユニット5に着脱可能に装着されるように構成されている。そして、インク供給ユニット5と記録ヘッド1とは、それぞれのインクの色に対応した複数の供給チューブ6によって接続され、メインタンク4をインク供給ユニット5に装着することで、メインタンク4内に収納された各色のインクを、記録ヘッド1の各ノズル列に独立して供給することが可能となっている。
【0028】
回復ユニット7は、記録ヘッド1の往復移動範囲内であって、かつ、記録用シートSの通過範囲外の領域である非記録領域に、記録ヘッド1のインク吐出面と対面するように、また、インク供給ユニット5と隣接するように配置されている。回復ユニット7は、記録ヘッド1の各吐出ノズル1gからそのノズル内のインクまたは空気を強制的に吸い出し、吐出ノズル1gのクリーニングや、記録ヘッド1へのインク充填動作を行う機構である。
【0029】
図3に示すように、インクジェット記録装置50は、インクを吐出するための記録ヘッド1と、記録ヘッド1にインクを供給するためのインク供給ユニット5と、記録ヘッド1に対して回復動作を行う回復ユニット7とに大別される。以下、記録ヘッド1、インク供給ユニット5、および回復ユニット7の各構成について順に説明する。
【0030】
記録ヘッド1の上部側には、インクを一定量保持するためのインク室として構成されたサブタンク部1bが設けられている。サブタンク部1bの下側(図示下側)には、並列に配列された複数の吐出ノズル1gにインクを直接供給する液室1fが形成されている。また、サブタンク1bの側面には供給チューブ6が接続されるコネクタ挿入口1aが設けられている。サブタンク部1bと液室1fとの境界には、開口部1dが形成された仕切部1eが設けられており、フィルタ1cはこの仕切部1e上に設置されている。このようにしてサブタンク部1bは、フィルタ1c、開口部1d、および液室1fを介して各吐出ノズル1gと繋がっている。記録ヘッド1の内部におけるインクの通過経路では、このような構成により、コネクタ挿入口1aから記録ヘッド1に供給されたインクは、サブタンク部1b、フィルタ1c、液室1fを経て各吐出ノズル1gに供給される。また、コネクタ挿入口1aから吐出ノズル1gまでの間は大気に対して気密な状態に保たれている。
【0031】
サブタンク部1bの上面には開口部が形成され、この開口部は、記録ヘッド1の上面に固定されたドーム状の弾性部材1hで覆われている。この弾性部材1hで囲まれた空間(圧力調整室1i)は、開口部を介してサブタンク部1b内と連通しており、サブタンク部1b内の圧力に応じて容積が変化することによって、サブタンク部1b内の圧力を調整する機能を有している。
【0032】
吐出ノズル1gは、断面径が20μm程度の微細な筒状の構造を持ち、吐出ノズル1g内のインクに吐出エネルギーを与えることでインクを吐出ノズル1gから吐出させ、インクの吐出後、吐出ノズル1gの毛管力により吐出ノズル1g内にインクが満たされる。通常、高速な画像形成を目的として、この吐出動作は20kHz以上のサイクルで繰り返される。吐出ノズル1g内のインクに吐出エネルギーを与えるために、記録ヘッド1は、吐出ノズル1gごとにエネルギー発生手段を有している。本実施形態では、エネルギー発生手段として、吐出ノズル1g内のインクを加熱する発熱抵抗素子を用いており、記録ヘッド1の駆動を制御するヘッド制御部(不図示)からの指令(駆動信号)により発熱抵抗素子を選択的に駆動し、所望の吐出ノズル1g内のインクを膜沸騰させ、これにより生じる気泡の圧力を利用して吐出ノズル1gからインクを吐出させている。
【0033】
なお上述したように、インクはメニスカスを形成した状態で吐出ノズル1g内を満たしているおり、これを実現するため、記録ヘッド1の内部、特に吐出ノズル1g内は負圧の状態に保たれている。ここで、この負圧が小さすぎると、吐出ノズル1gの先端に異物やインクが付着した場合、インクのメニスカスが崩れてインクが吐出ノズル1gから漏れ出てしまうことがある。また逆に負圧が大きすぎると、吐出時にインクに与えられるエネルギーよりも吐出ノズル1g内にインクを引き戻す力が強くなってしまい、吐出不良の原因となる。したがって、吐出ノズル1g内における負圧は、大気圧よりも若干低い一定の範囲に保たれていることが好ましい。この負圧の範囲は、吐出ノズル1gの数、断面積、発熱抵抗素子の性能等により異なるが、例えば、−40mmAq(約−0.0040atm=−4.053kPa)〜−200mmAq(約−0.0200atm=−2.0265kPa)(ただし、インクの比重≒水の比重とする)の範囲であることが好ましい。
【0034】
フィルタ1cは、吐出ノズル1gを詰まらせるような異物がサブタンク部1bから液室1fへ流出するのを防止するためのものであって、吐出ノズル1gの断面幅よりも小さい10μm以下の微細孔を有する金属メッシュで構成されている。フィルタ1cは、フィルタ1cの一方の面のみにインクが接触することで各微細孔において毛管力によるインクのメニスカスが形成されている。これにより、フィルタ1cでは、インクは容易に透過するが空気は透過しにくいようになっている。なお、微細孔のサイズが小さいほどメニスカスの強度は強くなり、また、空気をより通しにくくなる。
【0035】
記録ヘッド1内でのインクの移動方向においてフィルタ1cの下流に位置する液室1f内には、所定量の空気が存在している。換言すれば、液室1f内は、インクによって完全に満たされておらず、液室1f内のインクとフィルタ1cとの間に空気の層が存在する状態となっている。なお、液室1f内に蓄えられるインクの量は、最低限、吐出ノズル1gをインクで満たすのに必要な量である。吐出ノズル1g内に液室1fからの空気が浸入すると、インク吐出後の吐出ノズル1gにインクが補充されず吐出不良をおこす可能性がある。特に、記録装置50全体が傾いた場合であっても吐出ノズル1gが液室1f内の空気に曝されない程度に、インクが収容されていることが好ましい。
【0036】
フィルタ1cの上面にはサブタンク部1b内のインクが接触しており、このインクと接触している面積がフィルタ1cの有効面積となっている。フィルタ1cによる圧力損失はフィルタ1cの有効面積に依存している。フィルタ1cの面積は、圧力損失が許容値以下となるように設定されている。圧力損失はフィルタ1cのメッシュが細かいほど、また、インクの流量が多いほど高くなり、逆にフィルタ1cの面積に反比例する。近年の多ノズル、小ドットプリンタにおいては圧力損失が高くなる傾向にあり、フィルタの大きさは例えば10×20mm程度と大きくなっており、フィルタの上流側にサブタンク部、下流側に液室の空間を必要としている。本実施形態では、フィルタ1cを記録ヘッド1cの使用状態において水平となるように配置し、フィルタ1cの上面全体にインクを接触させることによりフィルタの有効面積を最大とし、圧力損失を低くしている。
【0037】
圧力調整室1iは、内部の負圧が高まるにつれてその容積が縮小する部屋であり、圧力調整室1iが弾性部材1hで構成される場合は、弾性部材1hとしてはゴム材等が好ましい。また、弾性部材1hの他に、プラスチックシートとばねとの組み合わせによって構成してもよい。なお、圧力調整室1iを設けない場合、サブタンク部1b内の圧力は、インクがメインタンク4、インク供給ユニット5、および供給チューブ6を通過する際の圧力損失による抵抗を直接受ける。そのため、すべての吐出ノズル1gよりインクを吐出するなど、高い割合でインクを吐出するいわゆる高デューティーの場合には、サブタンク部1b内の圧力は、供給チューブ6やインク供給ユニット5、メインタンク4をインクが通過する際の圧力損失による抵抗を受けるので、吐出されるインクに対して記録ヘッド1に供給されるインクが不足状態となり、負圧が急激に上昇してしまう。吐出ノズル1gの負圧が、前述した限界値である−200mmAq(約−2.0265kPa)を越えると、吐出が不安定になり画像形成の上で不都合な状態となる。シリアル型の記録装置においては、高デューティーでの画像形成を行った後に、キャリッジ2(図2参照)の反転移動の際にインクの吐出を中断する状態が存在する。この場合、圧力調整室1iは、インクの吐出中には容積を縮小させてサブタンク部1b内の負圧の上昇を緩和し、反転時に復元するといった、コンデンサのような役割を果たす。このように、圧力調整室1iにより、インクの吐出の安定化を図ると共に、メインタンク4から記録ヘッド1までのインクの供給流路での圧力損失の影響が抑えられている。そのため、キャリッジ2に従動させる供給チューブ6も直径の細いものを使用することができ、キャリッジ2の移動の負荷低減にも貢献する。
【0038】
なお、図2において、図示は省略するが、記録ヘッド1の側面には、記録ヘッド1がキャリッジ2上に搭載された際にキャリッジ2上に設けられた接点(不図示)と接続する電気基板(不図示)が取り付けられている。この電気基板には、記録装置本体からの電源を供給するための端子や、記録装置本体と記録ヘッド1との間で信号のやり取りを行うための端子など、複数の端子が形成されている。それらの端子の中には、2つの端子が短絡しているものがあり、記録装置本体側は、それらの端子に対応する接点がオープンなら記録ヘッド1が取り付けられていない状態(「ヘッドなし」)と判断し、閉じていれば記録ヘッド1がキャリッジ2上に取り付けられている状態(「ヘッドあり」)と判断する。「ヘッドあり」と判断された場合には、その後、記録ヘッド1への電源供給や、記録装置本体と記録ヘッド1との間の信号のやり取りを開始する。
【0039】
次に、インク供給ユニット5およびそれに接続されるメインタンク4について説明する。
【0040】
メインタンク4は、インク供給ユニット5に対して着脱可能な構成であり、剛性を有するケース4aの下部に2つのゴム栓4b、4cが取り付けられてなるものである。メインタンク4は、それ単体では密閉された容器であり、メインタンク4内にはインクが液体のまま収容されている。
【0041】
インク供給ユニット5は、メインタンク4からインクを取り出すためのインク供給針5aと、メインタンク4内へ大気を導入させるための大気導入針5bとを有している。すなわち、メインタンク4の取付け部が、これらインク供給針5aおよび大気導入針5bなどから構成されている。インク供給針5aおよび大気導入針5bはいずれも中空の針であり、メインタンク4のインク供給口および大気導入口の位置に対応させて針先を上方に向けて配置されており、メインタンク4がインク供給ユニット5に装着されることで、インク供給針5a先端および大気導入針5b先端のそれぞれがゴム栓4b、4cを貫通し、メインタンク4の内部に侵入する構成となっている。これにより、メインタンク4内と各針内の流路が連通可能となる。
【0042】
インク供給針5aは、第1液路5c、遮断弁10、および第5液路5dという経路を経て、供給チューブ6と接続され、さらに記録ヘッド1と連通している。なお、特許請求の範囲に記載した「インク供給流路」とは、インク供給針5aから供給チューブ6までの流路に相当するものである。大気導入針5bは、液路5e、バッファ室5f、大気連通口5gを経て大気と連通している。また、インク供給針5aから供給チューブ6までのインク供給流路のうち最も高さの低い位置にある第1液路5cと、大気導入針5bから大気連通口5gまでの流路のうち最も高さの低い位置にある液路5eとは、共に同じ高さとなっている。インク供給針5aおよび大気導入針5bは、インクの流動抵抗を抑えるため、例えばその径が1.6mm程度の比較的太いものが選択されており、また、針の先端にはインクが流れるように針側面に横穴があり、その針穴を通じてインクが針の中を流れるようになっている。針穴の直径は、1〜1.5mm程度であることが好ましい。
【0043】
大気連通針5bに接続されたバッファ室5fは、メインタンク4から流出したインクを一時的に保持するための空間であり、大気導入針5bの下端とバッファ室5fの底部とが略同一高さとなっている。なお、メインタンク4からのインクの流出は、例えば環境温度が上昇したり外気圧が低下したりすることにより、メインタンク4内の空気が膨張した場合に引き起こされるものである。
【0044】
このようにメインタンク4内の空気が膨張する際に、遮断弁10が閉じられていれば、メインタンク4内のインクは記録ヘッド1側に供給されることなく、大気導入針5bおよび液路5eを経てバッファ室5f内に流れ込む。逆に、メインタンク4内の空気が収縮する際には、バッファ室5f内に存在していたインクはメインタンク4内に引き込まれる。また、遮断弁10が開いており、かつ、バッファ室5fにインクが存在している状態で記録ヘッド1からインクを吐出させると、まず、バッファ室5f内のインクがメインタンク4へ戻り、バッファ室5f内のインクがなくなった後にメインタンク4内に空気が導入される。
【0045】
このような機能を有するバッファ室5fの容積Vbは、製品の使用環境(温度環境)を満足するように設定されていればよい。例えば、5℃(278K)〜35℃(308K)の温度範囲内での使用を前提とする製品であれば、メインタンク4の容量を100mlとしたときにVb=100×(308−278)/308=9.7ml以上として設定されていればよい。
【0046】
インク供給針5aと大気導入針5bのそれぞれにはインクの電気抵抗を測定する検出回路5hが接続されており、これにより、メインタンク4内のインクの有無を検出可能となっている。すなわち、検出回路5hは、メインタンク4内にインクが存在している状態ではメインタンク4内のインクを介して検出回路5hに電流が流れるため電気的クローズを検出し、インクが存在しないはまたはメインタンク4が装着されていない状態では電気的オープンを検出する。なお、検出電流は微弱であるため、インク供給針5aと大気導入針5bと間を絶縁することが重要であり、したがって、インク供給針5aから記録ヘッド1までの流路と、大気導入針5bから大気連通口5gまでの流路とを完全に独立させ、メインタンク4内のインクのみの電気抵抗を測定可能なように配慮している。
【0047】
次に、遮断弁10周辺の構造について説明する。遮断弁10は、図4(c)にも示すように、ゴム材からなるダイヤフラム10aを有し、このダイヤフラム10aを上下に変位させることにより第1液路5cと第2液路5dの連通が行われる。ダイヤフラム10aの上面には、押圧ばね10cを内部に保持する筒状のばねホルダ10bが取り付けられており、この押圧ばね10cによりダイヤフラム10aの中央部を押圧してダイヤフラム10aを押し潰すことにより、ダイヤフラム10aの下面によって第5液路5dの開口面が塞がれる。ばねホルダ10bは、後述する回復ユニット7のリンク7eにより動作されるレバー11が係合するフランジを有している。レバー11を動作させて、押圧ばね10cのばね力に抗してばねホルダ10bを持ち上げることで、第1液路5cと第2液路5dの間が連通する。
【0048】
遮断弁10は、記録ヘッド1がインクを吐出している際には開放状態とされ、待機中または休止中には閉塞状態とされ、さらにインク充填動作の際には、回復ユニット7の動作とタイミングを合わせながら開放/閉塞状態の双方とされる。
【0049】
上記のようなインク供給ユニット5の構成は、レバー11を除いて、各メインタンク4ごと、すなわち、黒、シアン、マゼンタ、イエローそれぞれの色のインクごとに設けられている。レバー11は、全てのメインタンク4に対して共通に設けられており、1つのレバー11が各色ごとの遮断弁10のばねホルダ10bに係合されている。これにより、レバー11を駆動すると、4つの遮断弁10が同期的に開閉制御される。
【0050】
上記の通り構成されたインク供給ユニット5では、記録ヘッド1内のインクが消費されると、その負圧により、インクが随時、メインタンク4から供給チューブ6を介して記録ヘッド1へ供給される。またそれに併せて、メインタンク4から供給されたインクと同量の空気が、大気連通口5gからバッファ室5f、大気導入針5bを経て、メインタンク4内に導入される。
【0051】
次に、回復ユニット7について説明する。回復ユニット7は、吐出ノズル1gからインクまたは空気を吸引する機能と、遮断弁10の開閉を行う機能を有している。回復ユニット7は、記録ヘッド1のインクの吐出面(吐出ノズル1gが開口した面)をキャッピングするキャップ手段としての吸引キャップ7aと、遮断弁10のレバー11を動作させるためのリンク7eとを有している。
【0052】
吸引キャップ7aには、チューブが接続されておりそのチューブの中間位置に吸引ポンプ7cが配置されている。吸引ポンプ7cは、ポンプモータ7dによって駆動されるようになっており、これら吸引キャップ7a、チューブ、吸引ポンプ7c、およびポンプモータ7dが、所定時に記録ヘッド1内のインクを吐出ノズル1gから吸引するための吸引手段として設けられている。
【0053】
吸引キャップ7aは、少なくともインク吐出面と接触する部分がゴム等の弾性部材で構成されており、また、インク吐出面を覆って密閉するキャップ位置と、記録ヘッド1から離間して退避した退避位置との間を往復移動可能に設けられている。吸引ポンプ7cは、複数のコロを備えたチューブ式のポンプであり、ポンプモータ7dを駆動することでインクを連続的に吸引することが可能となっている。また、ポンプモータ7dの回転量に応じて、吸引量を変えることができるように構成されている。
【0054】
吸引キャップ7aの下面に当接するように配置された第1のカム7bは、回転することによって吸引キャップ7aを上記2つの位置の間を上下移動させるものである。カム7bの駆動源には、カム制御7gが設けられている。リンク7eは、水平方向(図示横方向)に移動自在に構成されており、図3ではレバー11に向かって前進した状態が示されている。リンク7eの図示左側の端部には第2のカム7fが当接しており、この第2のカム7fは上記カム制御モータ7gを駆動源として回転するように構成されている。なお、第1のカム7bと第2のカム7fは、同一軸上に配置されており、同期して回転するように構成されている。
【0055】
第1のカム7bは、その径が比較的小さいa部と、径が比較的大きいb、c部とを有している。また、第2のカム7fは、その径が比較的大きいa、c部と、径が比較的小さいb部とを有している。そして、第1のカム7bのa〜c部のそれぞれが吸引キャップ7aに当接するタイミングと、第2のカム7fのa〜c部のそれぞれがリンク7eに当接するタイミングとが一致するように構成されている。
【0056】
各カムのa部が吸引キャップ7aまたはリンク7eに当接する状態では、吸引キャップ7aは記録ヘッド1の吐出口面から離間した位置をとり、リンク7eはレバー11を押し付ける位置(図示右側に移動した位置)をとる。すなわちこれにより、レバー11が図4(c)に記載されているように、回転軸12aを中心に矢印R1上方向に回転し、遮断弁10が押し上げられて開放状態とされる。また、各カムのb部が当接する状態では、吸引キャップ7aが上方に移動した位置をとり、リンク7eは第4図中X方向左側に移動した位置をとる。これにより、記録ヘッド1の吐出口面がキャッピングされ、遮断弁10は閉塞状態とされる。各カムのc部が当接する状態では、吸引キャップ7aは上方に移動した位置を保ち、リンク7eは再びレバー11を押し付ける位置をとる。これにより、記録ヘッド1の吐出口面がキャッピングされたまま、遮断弁10が開放状態となる。すなわち、本実施形態では、各カムのa部に対応して、記録ヘッド1のキャッピングが解除されると共に遮断弁10が開放される状態(「第1の状態」という)と、各カムのb部に対応して、記録ヘッド1がキャッピングされると共に遮断弁10が閉塞される状態(「第2の状態」という)と、各カムのc部に対応して、記録ヘッド1がキャッピングされると共に遮断弁10が開放される状態をとることができるように構成されている。そしてこれらの状態は、記録装置の動作状態に応じて適宜切り替えられ、例えば、記録動作時には「第1の状態」とされ、遮断弁10が開放され、吐出ノズル1gからのインクの吐出およびメインタンク4からのインクの供給を可能とする。また、待機中および休止中を含む非動作時には、「第2の状態」とされ、記録ヘッド1をキャッピングして吐出ノズル1gの乾燥を防止すると共に、遮断弁10を閉じて記録ヘッド1からのインクの逆流を防止する。
【0057】
なお、本実施形態の構成において、吸引キャップ7aの移動動作とリンク7eの移動動作とが共通の駆動源であるカム制御モータ7gによって実施されるため、駆動源の数を少なくすることができる点で好ましい。また、吸引キャップ7aの移動方向と遮断弁10の移動方向とがいずれも上下方向となっており、このように2つの部材の移動方向を一致させることは駆動源を共通化するのに有利である。さらに、第1のカム7bと第2のカム7fとを、同一軸上でカム制御モータ7gによって回転させる構成となっているため、カム制御モータ7gを一方向に所定の角度ずつ回転駆動していくという簡単な制御で、吸引キャップ7aと遮断弁10の一連のシーケンスを実行できる。なお、インクジェット記録装置の本体に制御手段として備えられた制御回路(不図示)は、その記録装置全体の動作、すなわち記録ヘッド1の動作や、キャリッジ2の移動、ポンプモータ7dおよびカム制御モータ7gの駆動なども制御している。
【0058】
次いで、図4を参照して本発明の特徴部である遮断弁10周辺の構造についてより詳細に説明する。図4は、図3の記録装置における遮断弁周辺の構造を説明するための図であり、図4(a)、図4(b)はレバーの構成および動作を示す斜視図であり、図4(c)は遮断弁周辺を拡大して示す拡大平面図である。
【0059】
レバー11は、図4(a)、(b)に示すように、水平方向(図示X方向)に延びるように配置された水平部材11a(押圧部材)と、水平部材11aに直交して鉛直方向に延びる鉛直部材11b(回動部材)とから構成されている。なお、図4(a)において、実線はレバー11がリンク7eによって押し付けられていない通常時の状態を示しており、点線はレバー11がリンク7eによって押し付けられて回転変位した状態を示している。
【0060】
水平部材11aは、図中X−Y平面方向に延びて配置されており、回転軸12aを回転中心として、その片端が図中矢印R1方向に回転自在に支持されている。一方の鉛直部材11bは、水平部材11aの側面のうち、上記回転軸12aによって支持された側の側面に取り付けられ、図中Z−Y平面方向に延びて配置されている。鉛直部材11bの上部側が回動軸12bを中心として、図中矢印R2方向に回動自在に支持されている。
【0061】
このように鉛直部材11bの上部側が支持されていることによって、鉛直部材11bの下部側は常に鉛直方向下向きに向くように構成されている。記録装置が傾いて配置された場合、鉛直部材11bは、図4(b)に示すように、回転軸12bを回転中心として図示R2方向に回動変位する。これに対してリンク7eは記録装置と一体的に移動するため鉛直部材11bとリンク7eは相対移動し、図4(b)の状態では、リンク7eを前進させても鉛直部材11bに当接しないこととなる。一方、図4(a)に示すように記録装置が水平姿勢で配置された場合には、リンク7eは鉛直部材11bに当接できるようになっている。したがって、リンク7eを前進させて鉛直部材11bを押圧すると、鉛直部材11bおよび水平部材11aは、回転軸12aを回転中心として図示R1 上方向に一体的に回転変位する。その結果、図4(a)の点線にて示すように水平部材11aの先端側が上方に移動し、これにより遮断弁10のばねホルダ10bが持ち上げられる。
【0062】
なお、鉛直部材11bの、装置の傾きによる回動軌跡は、回動軸12bの軸線方向に直交する垂直平面(Z−Y平面)内に収まるものである。このような構成では、記録装置50の傾き方向が回動軸12b周りの方向(図4(b)のR2方向)であるときに、その傾きを良好に検出できる。また、回動軸12bの軸線方向は厳密に水平方向(例えばX方向)となっている必要はなく、鉛直部材11bによって装置の傾きを検出できる範囲でれば水平方向に対して多少傾斜していてもよい。また、装置が傾いた場合であっても鉛直部材11bの下部側が鉛直方向下方に向く構造であれば、鉛直部材11bの取付け構造も特に限定されるものでない。
【0063】
以上のように構成されたレバー11を含む遮断弁10を利用すれば、記録装置50が傾いて配置された場合であっても〔発明が解決しようとする課題〕の中で述べたようなインク漏れの問題が起こりにくいものとなる。
【0064】
すなわち、記録装置50を水平姿勢にて配置した場合、鉛直部材11bとリンク7eとが係合するため、水平部材11aは回転軸12aを中心として図R1上方向に押し上げられ、結果的に遮断弁10は開放状態となる。一方、記録装置50が傾いて配置された場合、鉛直部材11bとリンク7eとは係合しなくなり、水平部材11aは押し上げられず、結果的に遮断弁10は閉塞状態を保つこととなる。このように、本実施形態の構成では、記録装置50の傾きに応じて遮断弁10の開閉が適切に制御されるため、前述したような、装置が傾いている状態で弁を開放してしまうことに起因したインク漏れなどの問題が起こりにくいものとなる。
【0065】
なお、以上の説明では鉛直部材11bおよびリンク7eの形状については特に触れなかったが、図4の鉛直部材11bおよびリンク7eは、具体的には図5(a)に示すように、いずれも断面形状が矩形の部材で構成されている。もっとも、これらの形状は種々変更可能であり例えば図5(b)に示すようなものであってもよい。図5(b)に示すリンク17は、その先端側の角部のところに湾曲状のR部17aが形成されている。また、鉛直部材21も同様に、リンク17に対向する面の両側のところにR部21aが形成されている。このような構成によれば、リンク17のR部と鉛直部材21のR部21aとが当接した状態では、リンク17を前進させたとしても鉛直部材21は回動軸12b周り(図4参照)に回動してしまうため、遮断弁10を開放状態とすることができない。したがって、記録装置の傾きと遮断弁10の開放条件との関係をより厳密に規定できるものとなる。なお、このような利点を得ることができるR部21a、17aは各部材17、21の一方側のみに形成されていてもよい。
【0066】
また、図5(c)、(d)に示すような構成であってもよく、これらの構成では、リンク部材7e、17と、鉛直部材11b、21とが接触する部分に、それぞれ丸みを帯びた形状に形成された突起部7r、11r、17r、21rが形成されている。図5(c)の構成を例として説明すると、突起部7r、11r同士は、面接触ではなく線接触(または点接触)するようになっており、このように、2つの部材が接触する面積をより小さく設定することで、装置がわずかでも傾くと2つの部材の接触がはずれることになり、さらに厳密に遮断弁の開放条件を規定できるようになる。
【0067】
さらに、遮断弁10を開閉させるレバーおよびその周辺構造は図6に示すようなものであってもよい。図6の構成では、符号31が遮断弁10を開放させるレバーであり、このレバー31(押圧部材)は、水平方向に延びる水平部31aと鉛直方向に延びる鉛直部31bとが一体に形成されると共にレバー31は回転中心軸12c周りに回転自在に構成されている。鉛直部31bの下端には、リンク7e側に向かって突出した突起部30aが形成されている。レバー31とリンク7eとの間には、回動中心軸12d(図6(b)参照)周りに回動自在に構成された鉛直部材20(回動部材)が別部材として配置されている。鉛直部材20の下端には、上記突起部30aに対向する突起部20aが形成されている。
【0068】
鉛直部材20は、リンク7eの移動方向にも移動できるように構成されており、これによりリンク7eを前進させたときに鉛直部材20も同期して移動し、レバー31の鉛直部31b下端を押圧できるようになっている。上記のように設けられた図6の構成であっても、鉛直部材20の下部側が常に鉛直方向下向き(重力方向下側)に向くため、図4の構成と同様に記録装置の傾きを検出することができる。
【0069】
なお、図6(c)に示すように、鉛直部材20がリンク7eと接触する側面に、図5(c)、(d)を参照して説明したような突起部20rを設けても良い。同様に、リンク部材7eの先端部分で、鉛直部材20と接触する部分に突起部7rを設けても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態のインクジェット記録装置におけるインク供給の基本原理を説明するための図である。
【図2】本発明の一実施形態のインクジェット記録装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【図3】図2のインクジェット記録装置における1色分のインク供給流路を説明するための概略図である。
【図4】図3の記録装置における遮断弁周辺の構造を説明するための図であり、図4(a)、図4(b)はレバーの構成および動作を示す斜視図であり、図4(c)は遮断弁周辺を拡大して示す拡大平面図である
【図5】図4の鉛直部材およびリンクと、それらの変形例を示す斜視図である。
【図6】遮断弁を開閉させるレバーおよびその周辺構造の他の例を示す斜視図である。
【図7】従来のインクジェット記録装置の構成を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0071】
1 記録ヘッド
1g 吐出ノズル
4 メインタンク
5 インク供給ユニット
5c 第1液路
5d 第2液路
5f バッファ室
6 供給チューブ
7 回復ユニット
7b、7f カム
7e、17 リンク
7r、11r、17r、20a、20r、21r 突起部
10 遮断弁
10a ダイヤフラム
10b ばねホルダ
10c 押圧ばね
11、31 レバー
11a 水平部材
11b、20、21 鉛直部材(回動部材)
12a 回転軸
12b 回動軸
12c 回動中心軸
12d 回転中心軸
17a、21a R部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する記録ヘッドへインクタンクに収容されたインクを供給するためのインク供給流路と、該インク供給流路に設けられてその流路を開閉する弁機構と、前記弁機構の開閉動作の駆動源である駆動手段とを有するインクジェット記録装置において、
前記弁機構は、前記インクジェット記録装置の傾きに応じて自在に回動変位する回動部材を有し、該回動部材を介して開閉動作されることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記回動部材を押圧する状態である第1の位置と、前記回動部材を押圧しない状態である第2の位置とに移動可能に設けられたリンク部材を有し、前記弁機構は、前記リンク部材が第1の位置にあるときに開放状態となる、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記回動部材は、部材上部側に回動中心軸が設けられ、部材下部側に重心がある、請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記回動中心軸は略水平方向に設けられている、請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記回動部材は、前記リンク部材によって押圧される部位の少なくとも一部に湾曲部を有することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記リンク部材は、前記回動部材と接する部位の少なくとも一部に湾曲部を有することを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記駆動手段は、前記リンク部材を一定範囲内で往復移動させるためのカムをさらに有している、請求項2から6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記弁機構は、前記インク供給流路を開閉するため開閉可能に設けられた流路開閉部材と、該流路開閉部材を移動させる押圧部材とをさらに有し、前記回動部材は前記押圧部材に取り付けられている、請求項1から7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記弁機構は、前記インク供給流路を開閉するため開閉可能に設けられた流路開閉部材と、該流路開閉部材を移動させる押圧部材とをさらに有し、前記回動部材は、前記押圧部材とは独立した状態で、前記押圧部材と前記リンク部材との間に配置されている、請求項2から7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−110900(P2006−110900A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301670(P2004−301670)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】