説明

インク受容膜形成用塗工液、インク受容膜、積層基板および配線材料

【課題】 基板に、金属ペーストや、金属ナノ粒子を含むインクを印刷して焼成するプロセスを経て配線材料を作製する際に好適に用いられる、インク受容膜形成用塗工液を提供する。
【解決手段】
ケイ素、チタン、ジルコニウムおよびアルミニウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、一次粒子が2個以上結合した凝集体粒子を含む凝集体粒子含有物(A)と、
酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物を、加水分解−縮合反応してなる縮合物(B)とを含むことを特徴とするインク受容膜形成用塗工液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク受容膜形成用塗工液、インク受容膜、積層基板および配線材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属ナノ粒子や、金属ペーストを利用した材料の開発が盛んになってきており、特にこれらを含むインクを用いて、インクジェットやスクリーンなどの印刷方法により基板上に受容層を介して直接配線を形成する技術が注目されている(例えば、特許文献1参照)。この手法では、マスクやエッチングなどの工程無しに配線を形成できることや、比較的低温(160〜250℃程度)プロセスであることが特徴とされており、得られた配線材料は、パソコンや携帯電話の表示部を構成する透明基板等として利用されている。
【0003】
上記配線材料は、透明性が高く、コストが低いものが求められるようになってきており、また、配線材料の基板としては、軽量で、割れにくいものが求められるため、これ等の観点から、配線材料の基板として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの有機フィルムが用いられるようになってきている。特に、金属ペーストや金属ナノ粒子などを含む配線形成用インクを用いて基板上に直接印刷する場合、比較的低温で配線を形成できることが利点の一つであるが、その配線形成温度自体は、許される範囲で高ければ高いほど、配線の信頼性、インクの選択性などの面で有利な点が多いことから、配線材料基板として耐熱性の比較的高い有機フィルム(耐熱温度160℃以上)を用いることの技術的意義は大きい。
【0004】
ところで、金属ペーストや、金属ナノ粒子を含む配線形成用インクを、インクジェット方式などで基板上に直接印刷する場合、インク吸収性などの印刷特性を向上させるために、通常基板表面に予め受容層(インク受容膜)を設けることが行われており(例えば、特許文献1参照)、上記インク受容膜としては、ポリビニルアルコールなどの水溶性樹脂バインダーと、球状コロイダルシリカ粒子が平面状に繋がった数珠状コロイダルシリカとを含む水分散液からなる塗工液を塗布、乾燥したもの等が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上記インク受容膜も、基板と同様に、少なくとも160℃以上、好ましくは200℃以上の耐熱性が要求されるが、従来の樹脂バインダーを用いたインク受容膜は、クラックの発生、分解またはそれに伴う変色が生じてしまうという課題を有していた。
【0006】
加えて、従来のインク受容膜においては、印刷時における滲みの発生等により印刷性が十分でない場合があり、また、インク受容膜表面に印刷された配線の密着性が十分でない場合があることから、品質面において更なる向上が求められるようになっていた。
【特許文献1】特開2006−59983号公報
【特許文献2】国際公開第00/15552号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情のもとで、特に有機フィルムからなる基板表面に形成されたインク受容膜上に、金属ペースト等を含むインクによって配線を直接形成する際に、クラックの発生や黄色化などを抑制し、印刷性、密着性を向上し得るインク受容膜形成用の塗工液、該塗工液を用いて基板上に形成してなるインク受容膜、該インク受容膜を有する積層基板および上記インク受容膜上に配線を形成してなる配線材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ケイ素、チタン、ジルコニウムおよびアルミニウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、一次粒子が2個以上結合した凝集体粒子を含む凝集体粒子含有物(A)と、酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物を、加水分解−縮合反応してなる縮合物(B)とを含むインク受容膜形成用塗工液により、その目的を達成し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ケイ素、チタン、ジルコニウムおよびアルミニウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、一次粒子が2個以上結合した凝集体粒子を含む凝集体粒子含有物(A)と、
酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物を、加水分解−縮合反応してなる縮合物(B)とを含むことを特徴とするインク受容膜形成用塗工液、
(2)凝集体粒子含有物(A)が、平均粒子径が2〜200nmの範囲内にある一次粒子が2個以上結合した凝集体粒子を、25〜100質量%含むものである上記(1)に記載のインク受容膜形成用塗工液、
(3)縮合物(B)が、酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を有するアルコキシシランを、加水分解−縮合反応してなるものである上記(1)または(2)に記載のインク受容膜形成用塗工液、
(4)凝集体粒子含有物(A)と縮合物(B)との合計量に対する凝集体粒子含有物(A)の含有量の割合が40〜95質量%である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のインク受容膜形成用塗工液、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の塗工液を塗布してなることを特徴とするインク受容膜、
(6)上記(5)に記載のインク受容膜を、基板上に形成してなることを特徴とする積層基板、
(7)基板が有機基板である上記(6)に記載の積層基板、
(8)上記(6)または(7)に記載の積層基板上のインク受容膜表面に配線を形成してなることを特徴とする配線材料、および
(9)配線が、スクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、ディスペンサーによる印刷のいずれかにより形成してなるものである上記(8)に記載の配線材料
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗工液は、凝集体粒子のバインダーとして、酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物を、加水分解−縮合反応してなる縮合物を含んでいる。このため、本発明の塗工液によりインク受容膜を形成し、該インク受容膜上に配線を形成した場合、インク受容膜を構成する上記縮合物中に残存する非加水分解性基が、配線材料を構成する金属ペースト等と相互作用することにより、配線の密着性を向上させ得ると考えられる。
また、上記縮合物を用いることにより、インク受容膜上に配線を形成後、焼成処理しても、クラックの発生や変色などを抑制することができる。
さらに、本発明の塗工液により得られるインク受容膜は、凝集体粒子が、上記縮合物をバインダーとして、基板上に一定の厚みを持ちつつ3次元的に存在する状態にあると考えられ、上記インク受容膜において、凝集体粒子は、インク受容膜表面に細孔を形成して、インク吸収性(印刷特性)を向上させ得ると考えられる。
【0011】
従って、本発明によれば、有機フィルムからなる基板表面に形成されたインク受容膜上に、金属ペースト等を含むインクにより配線を直接形成する際に、クラックの発生や黄色化などを抑制し、印刷性、密着性を向上し得るインク受容膜形成用の塗工液を提供することができる。
さらに、本発明によれば、上記塗工液を用いて基板上に形成されたインク受容膜、該インク受容膜を有する積層基板および上記インク受容膜上に配線が形成されてなる配線材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<インク受容膜形成用塗工液>
まず、本発明のインク受容膜形成用塗工液(以下、本発明の塗工液と称することがある)について説明する。
【0013】
本発明の塗工液は、ケイ素、チタン、ジルコニウムおよびアルミニウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、一次粒子が2個以上結合した凝集体粒子を含む凝集体粒子含有物(A)と、酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物を、加水分解−縮合反応してなる縮合物(B)とを含むことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の塗工液において、凝集体粒子含有物(A)は、ケイ素、チタン、ジルコニウムおよびアルミニウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、一次粒子が2個以上結合した凝集体粒子を含むものである。
【0015】
上記凝集体粒子を形成する金属の酸化物としては、シリカ、チタニア、ジルコニアおよびアルミナが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
凝集体粒子を構成する一次粒子の平均粒子径は、2〜200nmであることが好ましく、5〜50nmであることがより好ましく、10〜30nmであることがさらに好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径とは、特に断らない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定した粒子径の平均値を意味する。
【0017】
上記凝集体粒子は、一次粒子が2個以上結合してなるものであり、連結した一次粒子数は多いほど好ましいが、インク受容膜形成時における基板の透明性を保持するという観点から、2〜100個が好ましく、3〜100個がより好ましく、5〜50個がさらに好ましく、7〜30個が特に好ましい。
【0018】
凝集体粒子の形態としては、一次粒子が数珠状に連結した長鎖構造を有するもの、連結した凝集体粒子が分枝したものおよび/または屈曲したものを挙げることができる。
このような凝集体粒子は、例えば、球状金属酸化物からなる一次粒子を、2価以上の金属イオン、例えばCa2+、Zn2+、Mg2+、Ba2+、Al3+、Ti4+などを介在させて連結することにより、得ることができる。また、特許文献2に記載の方法を適用して数珠状のシリカ粒子を作製し、これを本発明の凝集体粒子として用いることもできる。
【0019】
凝集体粒子含有物は、一次粒子が2個以上結合してなる凝集体粒子を、25〜100質量%含むものであり、40〜100質量%含むものであることが好ましく、60〜100質量%含むものであることがより好ましい。
【0020】
凝集体粒子含有物(A)において、凝集体粒子の含有量の調整方法に特に制限はないが、例えば実質的に100%凝集している粒子と、実質的に凝集していない粒子(一次粒子)を混合する方法が、簡便で好ましい。
【0021】
本発明の塗工液において、縮合物(B)は、バインダーとして用いられるものであり、酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物を、加水分解−縮合反応してなるものである。
【0022】
上記非加水分解性基を構成する酸素原子以外の不対電子含有原子としては、硫黄原子、窒素原子、リン原子等を挙げることができる。
【0023】
また、上記非加水分解性基としては、メルカプト基、3−メルカプトプロピル基等のメルカプトアルキル基、3−アミノプロピル基やN−(2−アミノエチル)3−アミノプロピル基等のアミノアルキル基、ジメチルアミノ基やフェニルアミノ基等のアルキルアミノ基を挙げることができる。
【0024】
上記縮合物(B)の具体例としては、一般式(I)
M(ORm−n …(I)
(式中、Rは酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、Mはケイ素、チタン、ジルコニウムおよびアルミニウムの中から選ばれる金属原子を示し、mは金属原子Mの価数で、3または4であり、nは、mが4の場合は1または2、mが3の場合は1であり、Rが複数ある場合、各Rはたがいに同一であっても異なっていてもよく、ORが複数ある場合、各ORはたがいに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される金属アルコキシド化合物を、加水分解−縮合反応してなるものを挙げることができる。
【0025】
上記一般式(I)で表される化合物において、Rは酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を示し、例えば、上述した非加水分解性基と同様のものを挙げることができる。
【0026】
上記一般式(I)で表される化合物において、Rは炭素数1〜6のアルキル基であって、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0027】
上記一般式(I)で表される化合物において、Mはケイ素、チタン、ジルコニウムおよびアルミニウムの中から選ばれる金属原子を示し、mは金属原子Mの価数で、アルミニウムの場合3であり、ケイ素、チタンまたはジルコニウムの場合4である。nは、mが4の場合は1または2、mが3の場合は1である。
が複数ある場合、各Rはたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、またORが複数ある場合、各ORはたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0028】
上記一般式(I)で表される化合物において、Mが4価のケイ素であって、mが4で、nが1または2である場合のアルコキシド化合物の例としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N-ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0029】
上記一般式(I)で表される化合物において、Mが4価のチタンまたはジルコニウムであって、mが4で、nが1または2である場合のアルコキシド化合物の例としては、上で例示したシラン化合物におけるシランを、チタンまたはジルコニウムに置き換えた化合物を挙げることができる。
【0030】
これらの非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物以外の金属アルコキシド化合物を混合して用いても良い。また、本発明の塗工液の製造においては、上記各種金属アルコキシド化合物とともに、予め上記各種金属アルコキシド化合物を加水分解、縮合して得たアルコキシシランオリゴマーなどのオリゴマーを用いることもできる。
【0031】
上記一般式(I)で表されるアルコキシド化合物の加水分解−縮合反応は、例えば、アルコール系、セロソルブ系、ケトン系、エーテル系などの適当な極性溶剤中において、上記アルコキシド化合物を、塩酸、硫酸、硝酸などの酸、あるいは固体酸としてのカチオン交換樹脂を用いた酸性条件下、通常0〜60℃、好ましくは20〜40℃の温度にて加水分解処理し、固体酸を用いた場合には、それを除去したのち、さらに、所望により溶剤を留去または添加することにより行うことができ、上記反応により、M−O(Mは前記と同じである。)の繰り返し単位を主骨格とする縮合物(B)を所定濃度で含む液体(バインダー液)を得ることができる。
【0032】
本発明の塗工液においては、凝集体粒子含有物(A)と縮合物(B)との合計量に対する凝集体粒子含有物(A)の含有量の割合が固形分基準で40〜95質量%であることが好ましく、55〜92質量%であることがより好ましい。
【0033】
上記割合を上述した範囲内に制御することにより、インク吸収性をはじめとする印刷適性のバランスなどを良好な範囲に制御することが可能になる。
また、本発明の塗工液における固形分濃度は、塗工に適した濃度であれば特に制限はないが、通常2〜30質量%であり、好ましくは5〜20質量%である。
【0034】
本発明の塗工液は、さらに帯電防止剤を含んでもよい。帯電防止剤としては、導電性の金属酸化物、金属、カーボン等の粒子を含む分散体や、導電性高分子、イオン性液体、界面活性剤などが使用可能であるが、インク受容膜の耐熱性を阻害しないものを選定することが好ましい。帯電防止剤の含有量は、帯電防止剤の種類および性能発現の原理に応じて、また、本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜調整すればよい。
また、本発明の塗工液は、本発明の効果を阻害しない範囲内で公知の添加剤、例えば成膜助剤、可塑剤、滑剤、界面活性剤、耐熱剤、耐候剤などを含有することもできる。
【0035】
次に、本発明のインク受容膜形成用塗工液を製造する方法について説明する。
本発明の塗工液を製造する方法としては、例えば、
(a)ケイ素、チタン、ジルコニウムおよびアルミニウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、平均粒子径が2〜200nmの範囲内にある一次粒子が2個以上結合した凝集体粒子を25〜100質量%含む凝集体粒子含有物(A)の分散液を調製する工程、
(b)酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物を、加水分解−縮合反応してなる縮合物(B)
を含むバインダー液を調製する工程、および
(c)前記凝集体粒子含有物(A)の分散液およびM−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物(B)を含むバインダー液を混合する工程
を含む方法を挙げることができる。
【0036】
上記(a)工程において、凝集体粒子含有物およびその調製方法の好ましい態様としては、上記したものと同様の態様を挙げることができ、凝集体粒子含有物を分散する分散媒体としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコール等の多価アルコール系溶剤やその誘導体、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤やその誘導体、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤を挙げることができ、その他、トルエン、キシレン、ヘキサン、ジメチルアセトアミド、エーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等を挙げることができる。
【0037】
また、上記(b)工程において、酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物を、加水分解−縮合反応してなる縮合物(B)としては、上記したものと同様の縮合物を挙げることができる。
【0038】
上記縮合物を含むバインダー液を得る方法としては、例えば、アルコール系、セロソルブ系、ケトン系、エーテル系などの適当な極性溶剤中において、一般式(I)で表されるアルコキシド化合物を、塩酸、硫酸、硝酸などの酸、あるいは固体酸としてのカチオン交換樹脂等を用いた酸性条件下、通常0〜60℃、好ましくは20〜40℃の温度にて加水分解処理し、固体酸を用いた場合には、それを除去したのち、さらに、所望により溶剤を留去または添加する方法を挙げることができ、上記反応により、M−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物を所定濃度で含むバインダー液を得ることができる。
【0039】
上記(c)工程においては、(a)工程で得られた分散液と、(b)工程で得られた分散液とを混合する。
【0040】
上記混合時には、(a)工程で得られた分散液中の凝集体粒子含有物(A)と、(b)工程で得られたバインダー液中の縮合物(B)との合計量に対する上記凝集体粒子含有物(A)の含有量が、固形分基準で、40〜95質量%の範囲となるように混合することが好ましく、55〜92質量%となるように混合することがより好ましい。
【0041】
また、(c)工程においては、さらに帯電防止剤を混合してもよい。
【0042】
帯電防止剤としては、上記帯電防止剤と同様のものを挙げることができ、帯電防止剤の添加量は、その種類および性能発現の原理に応じて、また、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜設定することができる。
また、本発明の製法により得られる塗工液の効果を阻害しない範囲内で、公知の添加剤、例えば成膜助剤、可塑剤、滑剤、界面活性剤、耐熱剤、耐候剤などを混合することができる。
【0043】
<インク受容膜>
次に、本発明のインク受容膜について説明する。
本発明のインク受容膜は、本発明の塗工膜を塗布してなることを特徴とするものである。
【0044】
インク受容膜は、本発明の塗工液を有機基板上に塗布し、乾燥することにより形成することが好ましく、有機基板としては、軽量性、フレキシブル性、割れにくさ、機械的特性、経済性などのバランスの面から、プラスチックフィルムからなるものが好ましい。このプラスチックフィルムとしては、例えばポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、セロハンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、芳香族ポリアミドフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリシクロオレフィンなどを挙げることができる。しかし、機械的特性、熱的特性、価格などの面からポリエスルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリシクロオレフィンを用いるのが好ましく、中でもポリエステルフィルムが特に好ましい。
【0045】
ポリエステルフィルムはエステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子フィルムの総称であるが、特に好ましいポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンα,β−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレートなどでが好ましい。
【0046】
また、プラスチックフィルムの中に公知の添加剤、例えば、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などを配合してもよい。
【0047】
基板の厚さに特に制限はなく、用途に応じて異なるが、通常1〜500μm、好ましくは10〜300μm、より好ましくは30〜250μmである。
【0048】
また、基板として前記プラスチックフィルムを用いる場合、その表面に設けられるインク受容膜との密着性を向上させる目的で、所望により上記表面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理方はプラスチックフィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。
【0049】
上記の例においては、基板としてプラスチックフィルム等の有機基板を用いる場合について詳述したが、本発明においては、ガラスやシリコンなどからなる無機基板を使用してもよい。
【0050】
前記プラスチックフィルム基板などの基板の表面に、本発明の塗工液を塗布して、インク受容膜を作製する。
【0051】
本発明のインク受容膜を形成する方法としては、上記本発明の塗工液および場合により上記本発明の塗工液と上塗層形成用混合液とを用いて、それぞれ従来公知の方法、例えばディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などにより塗工し、成膜する処理と、自然乾燥または加熱乾燥による乾燥処理を順次施すことにより、本発明のインク受容膜を基板上に形成する。上記塗布、成膜処理後、加熱乾燥する場合は、200℃以下の温度を採用することができる。
【0052】
本発明のインク受容膜の膜厚は、膜強度およびインク吸収能の面から、0.3〜50μmが好ましく、0.3〜30μmがより好ましく、0.5〜20μmがさらに好ましい。
【0053】
透明性が必要な用途に使用する場合、インク受容膜の正味のヘイズ値(Hz)は、6%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましい。ただし、実質的に透明性を必要としない用途に使用する場合は、ヘイズ値が6%以上であってもよい。
【0054】
また、塗工液が帯電防止剤を含む場合、得られるインク受容膜の表面抵抗が10〜1013Ω/cmであることが好ましく、10〜1012Ω/cmであることがより好ましく、10〜1011Ω/cmであることがさらに好ましい。表面抵抗値が上記範囲内にあれば、インク受容層形成後の基板取扱い時にゴミ、異物などの付着が防止できると共に、静電気の発生を抑制することができる。
【0055】
<積層基板>
次に、本発明の積層基板について説明する。
本発明の積層基板は、本発明のインク受容膜を基板上に形成してなることを特徴とするものである。
本発明のインク受容膜としては、上述したものと同様のものを挙げることができ、本発明の積層基板で用いる基板も、上記本発明のインク受容膜において説明した基板と同様のものを挙げることができ、中でも上述した有機基板が好ましく、ポリエステルフィルムからなる基板がより好ましい。
また、基板上へのインク受容膜の形成方法の好ましい態様も、上記本発明のインク受容膜において説明したものと同様の態様が挙げられる。
【0056】
<配線材料>
次に、本発明の配線材料について説明する。
本発明の配線材料は、本発明の積層基板上のインク受容膜表面に配線を形成してなることを特徴とするものである。
【0057】
本発明の配線材料は、スクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、ディスペンサーによる印刷のいずれかにより形成してなるものであることが好ましく、スクリーン印刷またはインクジェット印刷により形成してなるものであることがより好ましい。
【0058】
本発明の配線材料の製造方法としては、例えば、
(x)上記本発明の塗工液を基板、特にポリエステルフィルムからなる基板上に塗工、乾燥してインク受容膜を有する積層基板を形成する工程、
(y)該積層基板上のインク受容膜表面にインクを用いて印刷する工程、および
(z)160〜250℃の温度で焼成する工程
を、上記順序で含む方法を挙げることができる。
【0059】
上記(y)工程において、インク受容膜上に配線を形成するためのインクとしては、銀ペーストなどの金属ペーストや、金属ナノ粒子を含むインクなどを用いることができる。印刷方法としては、スクリーン印刷方式やインクジェット印刷方式などを用いて、インク受容膜上に所定のパターン形状に印刷を施すことが好ましい。
【0060】
次いで、(z)工程において、160〜250℃、好ましくは170〜200℃の温度で30〜60分間程度焼成することにより、インク受容膜表面に所定パターンの配線が形成されてなる本発明の配線材料を得ることができる。
【0061】
本発明においては、インク受容膜を、特定の無機系バインダーを用いた本発明の塗工液を使用して形成しているため、上記のように配線を印刷後、焼成処理しても、クラックの発生や、変色、白濁などの発生を抑制することができ、品質の良好な配線材料を得ることができる。
【実施例】
【0062】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1(塗工液の製造例)
(1)凝集体粒子含有物分散液の調製
一次粒子の平均粒子径が15nmであるシリカ粒子が2個以上結合した凝集体粒子のみからなる凝集体粒子含有物を用い、該含有物を15質量%含む分散液(以下、(A)−1成分分散液という)を調製した。
(2)縮合物含有バインダー液の調製
メルカプトプロピルトリメトキシシラン176.15gとテトラメトキシシランのオリゴマー(三菱化学(株)製、商品名「MS−51」)97.77gをメタノール484.78gに溶解し、これに0.1モル/Lの硝酸21.62g、水150.42gおよびメタノール69.25gの混合液を滴下した後、30℃で24時間反応させて、固形分濃度が30質量%であるSi−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物(B)の含有液(以下、(B)−1成分含有バインダー液という)を調製した。
(3)混合、攪拌処理
上記(1)で得た(A)−1成分分散液900g中に、攪拌しながらシクロヘキサノン50gと、上記(2)で得た(B)−1成分含有バインダー液50gを順次滴下し、室温で1時間攪拌することにより、固形分濃度15質量%のインク受容膜形成用塗工液を調製した。得られた塗工液の組成を表1の「塗工液」欄に示す。
【0063】
比較例1(塗工液の製造例)
実施例1の(2)の工程に代えて、以下の工程、すなわち、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン306.84gとテトラメトキシシランのオリゴマー(三菱化学(株)製、商品名「MS−51」)146.88gをメタノール256.68gに溶解し、これに0.1モル/L濃度の硝酸31.86g、水221.08gおよびメタノール36.67gの混合液を滴下したのち、30℃で24時間反応させる工程により、固形分濃度が30質量%で、Si−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物の含有液(以下、(B)−2成分含有バインダー液という)を得た。
実施例1の(3)の工程において、(B)−1成分含有バインダー液に代え、上記(B)−2成分含有バインダー液を用いた以外は、実施例1と同様にして、インク受容膜形成用塗工液を調製した。得られた塗工液の組成を表1の「塗工液」欄に示す。
【0064】
実施例2(インク受容膜および積層基板の製造例)
実施例1で得た塗工液を用い、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム[帝人デュポンフィルム社製、商品名「テオネックスQ51」、厚さ188μm]に、バーコート法により、乾燥後の厚さが1.0μmになるように塗布した後、120℃で1分間加熱し、60℃で3日間エージングを行うことにより、フィルム上にインク受容膜を形成して、積層基板を作製した。
得られた積層基板を用い、インク受容膜における、クラックの有無を光学顕微鏡(倍率1250倍)にて観察することにより、評価した。得られた結果を、表1の「インク受容膜」欄に示す。表1において、インク受容膜におけるクラックの有無は、インク受容膜を形成した塗工液に対応するように記載している。
表1に示すように、実施例2で得られたインク受容膜には、クラックが観察されなかった。
【0065】
比較例2(インク受容膜および積層基板の製造例)
実施例1で得た塗工液に代えて比較例1で得た塗工液を用いた以外は、実施例2と同様にしてPENフィルム上にインク受容膜を形成して積層基板を作製した。
得られた積層基板を用い、インク受容膜における、クラックの有無を実施例2と同様の方法により評価した。得られた結果を、表1の「インク受容膜」欄に示す。表1において、インク受容膜におけるクラックの有無は、インク受容膜を形成した塗工液に対応するように記載している。
【0066】
実施例3(配線材料の製造例)
実施例1の塗工液を用いて実施例2で得た積層基板のインク受容膜上に、Agペースト[アルバック(株)製銀ナノペースト、商品名「Ag1TeH」]を、インクジェット印刷法にて、所定のパターン形状に印刷し、230℃で60分間焼成することにより、配線材料を作製した。
得られた配線材料において、クラックの有無と印刷性を以下の方法で評価した。その結果を表1の「配線材料」欄に示す。
また、インクジェット印刷法に代えてスピンコート法で印刷した以外は上記方法と同様の方法で配線材料を作製し、得られた配線材料の密着性を以下の方法で評価した。その結果を表1の「配線材料」欄の「特性」項目に示す。
表1において、配線材料の性能は、配線を形成したインク受容膜に対応するように記載している。
【0067】
(1)クラックの有無
光学顕微鏡(倍率1250倍)にて観察し、クラックの有無を調べた。
(2)印刷性
市販のインクジェットメディア[ピクトリコ(株)製、商品名「ピクトリコ(TPX−1766/2)」]の印刷幅を1とした場合の滲み幅Xを求め、下記の判定基準で印刷性を評価した。
○:0.1≦X≦1.2
△:1.2<X≦1.5
×:1.5<X
(3)密着性
JISK5600に従い、密着性試験を行った(クロスカット試験機:ヨシミツ精機社製「C222」、テープ:ニチバン社製セロテープ(登録商標))。
密着性評価は、光学顕微鏡(倍率1250倍)にて剥離の有無を確認し、剥離部の面積により、以下のとおり評価した。
○:8〜10点
△:6〜8点
×:0〜6点
表1に示すように、実施例3で得られた配線材料においては、クラックの発生は認められず、印刷性および密着性がいずれも良好であった。
【0068】
比較例3(配線材料の製造例)
比較例1の塗工液を用いて比較例2で得た積層基板のインク受容膜上に、実施例3と同様にして配線を形成して、配線材料を得た。
得られた各配線材料の性能を実施例3と同様の方法で評価した。その結果を表1の「配線材料」欄に示す。表1において、配線材料の性能は、配線を形成したインク受容膜に対応するように記載している。
表1に示すように、比較例3で得た配線材料は、密着性が劣るものであった。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、特に有機フィルムからなる基板表面に形成されたインク受容膜上に、金属ペースト等を含むインクによって配線を直接形成する際に、クラックの発生や黄色化などを抑制し、印刷性、密着性を向上し得るインク受容膜形成用の塗工液を提供することができ、上記塗工液を用いて形成してなるインク受容膜、該インク受容膜を有する積層基板および上記インク受容膜上に配線を形成してなる配線材料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素、チタン、ジルコニウムおよびアルミニウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、一次粒子が2個以上結合した凝集体粒子を含む凝集体粒子含有物(A)と、
酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物を、加水分解−縮合反応してなる縮合物(B)とを含むことを特徴とするインク受容膜形成用塗工液。
【請求項2】
凝集体粒子含有物(A)が、平均粒子径が2〜200nmの範囲内にある一次粒子が2個以上結合した凝集体粒子を、25〜100質量%含むものである請求項1に記載のインク受容膜形成用塗工液。
【請求項3】
縮合物(B)が、酸素原子以外の不対電子含有原子を含む非加水分解性基を有するアルコキシシランを、加水分解−縮合反応してなるものである請求項1または請求項2に記載のインク受容膜形成用塗工液。
【請求項4】
凝集体粒子含有物(A)と縮合物(B)との合計量に対する凝集体粒子含有物(A)の含有量の割合が、固形分基準で40〜95質量%である請求項1〜請求項3のいずれかに記載のインク受容膜形成用塗工液。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の塗工液を塗布してなることを特徴とするインク受容膜。
【請求項6】
請求項5に記載のインク受容膜を、基板上に形成してなることを特徴とする積層基板。
【請求項7】
基板が有機基板である請求項6に記載の積層基板。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の積層基板上のインク受容膜表面に配線を形成してなることを特徴とする配線材料。
【請求項9】
配線が、スクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、ディスペンサーによる印刷のいずれかにより形成してなるものである請求項8に記載の配線材料。

【公開番号】特開2009−1615(P2009−1615A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161525(P2007−161525)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】