説明

インク組成物およびカラー画像形成方法

【課題】 良好な顔料分散性と色調と耐候性を兼備した,シアン色または二次色(オレンジ色,グリーン色)の水性インク組成物を得る。また,印刷品質に優れ,より演色範囲の大きい印刷方法を提供する。
【解決手段】 樹脂で被覆されたオレンジ色顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料がイミダゾロン顔料であるインク組成物(1)。樹脂で被覆されたグリーン色顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料が少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料であるインク組成物(2)。樹脂で被覆されたシアン色顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の混合体であるインク組成物(3)。これらのうち少なくとも一つを用いた3色以上の多色のカラー画像形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂で被覆された顔料を着色剤とするインクを用いたカラー画像形成方法に関し,詳しくは,特定の化学構造を有する顔料を樹脂で被覆した着色剤とするインクと,そのインクを組み合わせて画像形成を行うカラー画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の記録用インク,特にインクジェト記録用水性インクの多くは着色剤として水溶性染料を用いているため耐水性や耐光性が悪いという欠点を有していた。また,染料が分子レベルで溶解しているため,オフィスで一般に使用されているコピー用紙などのいわゆる普通紙に印刷すると髭状のフェザリングと呼ばれるブリードを生じて著しい印刷品質の低下を招いていた。
【0003】
上記欠点を改良するためにいわゆる顔料インクが過去に様々に提案されており,例えばバインダー兼分散剤として水溶性樹脂を用いてカ−ボンブラックや有機顔料を分散させた樹脂溶解型のインクやポリマーラテックスあるいはマイクロカプセルとして着色剤を被覆する樹脂分散型のインクが各種提案されている。
【0004】
顔料インクを用いて高品質のカラー画像を得るには,用いる顔料の種類とその組合せに大きく影響する。そのため,特定のカラーインデックス(C.I.)番号を有するイエロー,マゼンタ,シアンの顔料を含有する各色インクを組み合わせて画像形成を行うカラー画像形成方法が検討されている(特許文献1参照)。そしては少なくともイエロー,マゼンタ,シアン,ブラック色を呈する顔料を樹脂成分を溶解した非水系溶媒に分散したインクジェットプリンタ用カラーインクが提案されている(特許文献2参照)。さらに本発明者等は,少なくともイエロー,マゼンタ,シアン,ブラック色を呈するマイクロカプセル化した顔料を水性媒体に分散したインクジェットプリンタ用カラーインクを提案した(特許文献3参照)。
【0005】
また,上記公報に記載されているような4色系に比べて,より演色範囲の大きい印刷方法としてシアン,イエロー,マゼンタ,ブラックに加えてそれらを組み合わせた二次色に相当する色のうち,イエローとマゼンタを組み合わせた二次色に相当するオレンジ,シアンとイエローを組み合わせた二次色に相当するグリーンを加えた6色のインクを用いたいわゆるハイファイカラーも知られている。
【0006】
しかしながら,従来ハイファイカラーに用いられていたインクにおいて,色純度に優れた顔料を安定して分散するのは容易でなく,かつ,これら顔料を着色剤として組み合わせたインクを用いてカラー印刷を行う場合,各インクの色のバランス,日光等の曝露に伴う退色バランスが画質及びその安定性に大きく影響していた。
【0007】
また顔料表面が樹脂で被覆されたいわゆるマイクロカプセルにおいて,4色系に限らず6色系においても,当然のことながら,各色顔料によってマイクロカプセル化にバラツキを生じ,一定粒子径のマイクロカプセルが得られず,各色の分散安定性を一定レベルに保つことが難しいという問題を有していた。
【特許文献1】特開平05−155006
【特許文献2】特開平05−320551
【特許文献3】特開平10−052925
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は,フルカラーの色再現性・耐候性に優れ,かつ分散性に優れたインクおよびそのインクを組み合わせたカラー画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は,上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果,本発明を解決するに至った。
【0010】
即ち,本発明は,樹脂で被覆された顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,オレンジ顔料がイミダゾロン顔料で,好ましくはC.I.ピグメントオレンジ36からなるオレンジ色インク組成物,グリーン色顔料が少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料で,好ましくはC.I.ピグメントグリーン36からなるグリーン色インク組成物,シアン色顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と多臭化フタロシアニン顔料の混合体で,好ましくはハロゲン化されていないフタロシアニン顔料が少なくともC.I.ピグメントブルー15:3か15:4から選ばれ,多臭化フタロシアニン顔料がC.I.ピグメントグリーン36からなるシアン色インク組成物を提供する。
【0011】
また,本発明は,樹脂で被覆された顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料のみからなるシアン色インクか,あるいはハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料からなるシアン色インク(以下,顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料を必須成分としてなるシアン色インク,という場合がある。)と,キナクリドン顔料からなるマゼンタ色インクと,ベンズイミダゾロン顔料からなるイエロー色インクの少なくとも3色のインクを用いて画像形成を行うカラー画像形成方法と,さらに加えて前述のオレンジ色およびグリーン色のインクの少なくとも計5色のインクを用いて画像形成を行うカラー画像形成方法を提供する。
【0012】
これらの画像形成方法においてカーボンブラックを着色剤とするブラック色インクを組み合わせることによってより色再現性に富んだフルカラー画像形成が可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインク組成物は,樹脂で被覆された特定シアン色顔料,同オレンジ色顔料または同グリーン色顔料を着色剤とする記録用水性インク組成物であるので,従来のより色調や耐候(耐光)性に優れ,これらインク組成物を用いた本発明のカラー画像形成方法は,特にノズル目詰まりもなく,安定したインクジェット噴射特性を可能にし,かつ印刷品質・耐候性(耐光)に優れた記録を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で用いるシアン色インク組成物は,例えば,樹脂で被覆された顔料として,樹脂で被覆されたハロゲン化されていないフタロシアニン顔料を必須成分として含むシアン色インク組成物であり,ここには,当該樹脂被覆された顔料が,樹脂被覆されたハロゲン化されていないフタロシアニン顔料のみである場合(I)と,結果的に,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料とが,結果的に両方含まれている場合(II)の両方が包含される。
【0015】
つまり前記(II)の形態として,本発明で用いるシアン色樹脂被覆顔料は,粒子内混合系たる,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の顔料混合体を樹脂被覆した樹脂被覆顔料(II−a),または,粒子間混合系たる,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料のみの樹脂被覆顔料と,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料のみの樹脂被覆顔料との混合体たる樹脂被覆顔料(II−b)である場合がある。
【0016】
本発明で用いるシアン色インク組成物は,樹脂で被覆されたシアン色顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料との混合体たる樹脂被覆顔料であるインク組成物である。
【0017】
また本発明で用いるもう一つのシアン色インク組成物は,樹脂で被覆された顔料を着色剤とするシアン色記録用水性インクにおいて,樹脂で被覆されたハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,樹脂で被覆された少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料と樹脂被覆顔料の混合体であるインク組成物である。
【0018】
つまり,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料(X)と,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料(Y)の両方を用いてシアン色インクとする場合には,次の2通りがある。
【0019】
1)予めこれらの各顔料自体をシアン色となる様に混合して顔料混合体とし,これの全体を樹脂被覆して樹脂被覆顔料として用いる場合。この場合には,樹脂被覆顔料粒子1粒子中に顔料(X)と(Y)とが併存する(上記II−aの場合)。
2)これら各顔料を各々別々に樹脂被覆して個々の色の樹脂被覆顔料を予め得て,これらをシアン色となる様に混合して用いる場合。この場合には,顔料(X)のみの樹脂被覆顔料粒子と,顔料(Y)のみの樹脂被覆顔料粒子との樹脂被覆顔料の混合体となる(上記II−bの場合)。
【0020】
以下,特段の断りがない限り,形態(II−a)でも形態(II−a)でも用いる顔料そのものについての好適な使用形態等は共通である。
【0021】
本発明のカラー画像形成方法におけるシアン色顔料としては,色調及び耐候性の点からフタロシアニン顔料であることが必要である。フタロシアニン顔料としては,具体的には無金属フタロシアニン,銅フタロシアニンあるいはクロル化銅フタロシアニン,その他各種金属フタロシアニン等が挙げられる。シアン色顔料は,これらのなかでも銅フタロシアニンから選択されるのが好ましい。
【0022】
シアン色顔料としては,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料を必須成分として含むのが好ましく,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の混合体であることがより好ましく,前記混合体のなかでも,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料が混在した二次粒子であることが,特に好ましい。
【0023】
ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料としては,特に他のカラー顔料と組み合わせた時の色調及び分散性の点でC.I.ピグメントブルー15:3または15:4がより好ましい。これらの顔料による色調はやや赤みがかったシアン色であり,必要に応じてグリーン色のフタロシアニン顔料を併用して調色することが可能であるが,色分離がなく,樹脂で被覆された顔料着色剤の分散安定性を損ねないハロゲン化されたフタロシアニン顔料との組み合わせ,及び樹脂で被覆された顔料を着色剤とするシアン色記録用水性インクにおいて,樹脂で被覆されたハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,樹脂で被覆されたハロゲン化されたフタロシアニン顔料との組み合わせとして,ハロゲン化されたフタロシアニン顔料としては,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料,より好ましくは,塩素化構造部分を有しない臭素化のみの構造を有する臭素化フタロシアニン顔料,特に多臭化フタロシアニン顔料を用いるのが好ましい。C.I.ピグメントブルー15:3または15:4との組み合わせにおいて,より少ない使用量でシアン色に調色できる点で,特に好ましいハロゲン化されたフタロシアニン顔料はC.I.ピグメントグリーン36である。
【0024】
つまり,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料自体の混合体,及び樹脂で被覆された顔料を着色剤とするシアン色記録用水性インクにおいて,樹脂で被覆されたハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と樹脂で被覆された少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の樹脂被覆顔料の混合体に用いる顔料としては,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料が少なくともC.I.ピグメントブルー15:3か15:4から選ばれ,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料がC.I.ピグメントグリーン36である場合が最適である。この組み合わせは,本来のシアン色より赤味が強くなってしまうブルー15:4単独系より,色調補正が容易に可能であるうえ,耐光性が低下する心配も少ない。
【0025】
本発明で用いるマゼンタ色インク組成物は,例えば,顔料がキナクリドン顔料からなるインク組成物であり,好ましくは樹脂で被覆されたキナクリドン顔料を着色剤とする記録用水性インクである。
【0026】
マゼンタ色顔料としては,色調及び耐候性の点からキナクリドン顔料であることが必要である。キナクリドン顔料としては,具体的にはジメチルキナクリドン,ジクロルキナクリドン等が挙げられる。これらのなかでも,特に他のカラー顔料と組み合わせた時の色調及び分散性の点でC.I.ピグメントレッド122が好ましい。
【0027】
本発明で用いるイエロー色インク組成物は,例えば,顔料がベンズイミダゾロン顔料からなるインク組成物であり,好ましくは樹脂で被覆されたベンズイミダゾロン顔料を着色剤とする記録用水性インクである。
【0028】
イエロー色顔料としては,色調及び耐候性の点からベンズイミダゾロン顔料であることが必要である。ベンズイミダゾロン顔料としては,具体的にはC.I.ピグメントイエロー120,C.I.ピグメントイエロー151,C.I.ピグメントイエロー154,C.I.ピグメントイエロー156,C.I.ピグメントイエロー175が挙げられる。これらのなかでも他のカラー顔料と組み合わせた時の色調及び分散性の点でC.I.ピグメントイエロー151が最も好ましい。
【0029】
本発明で用いるブラック色インク組成物は,前記3色の顔料を混合するようにして得たブラック色インク組成物であってもよいが,例えば,顔料がカーボンブラックからなるインク組成物であり,好ましくは樹脂で被覆されたカーボンブラックを着色剤とする記録用水性インクである。
【0030】
ブラック色顔料としては,特に制限はないが色調及び耐候性の点からカーボンブラックが好ましい。
【0031】
本発明は,上記4色の二次色に相当する,オレンジ色インク組成物と,グリーン色インク組成物に最大の特徴を有する。
【0032】
本発明のオレンジ色インク組成物は,樹脂で被覆されたオレンジ色顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料がイミダゾロン顔料であるインク組成物である。オレンジ色顔料としては,ジスアゾ,ピラゾロン系のオレンジ色顔料であるC.I.ピグメントオレンジ13より鮮やかなオレンジ色が得られるC.I.ピグメントオレンジ36が特に好ましい。
【0033】
一方,本発明のグリーン色インク組成物は,樹脂で被覆されたグリーン色顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料が少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料であるインク組成物である。この少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料には,臭素化のみがなされたフタロシアニン顔料と,臭素化と塩素化の両方がなされたフタロシアニン顔料がある。グリーン色顔料としては,塩素化フタロシアニン系のグリーン色顔料であるC.I.ピグメントグリーン7より,さらに明るいグリーン色が得られる,臭素化と塩素化の両方がなされたフタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントグリーン36が特に好ましい。
【0034】
前記各色顔料は単独あるいは組み合わせて用いることが可能で,必要に応じて他の種類の染顔料を併用してインクとし,カラー画像形成を行っても良い。
【0035】
前記顔料を用いてインクとするには,分散媒は環境衛生上の点から水が好ましく,その他の成分として必要に応じて分散剤,バインダー樹脂,有機溶剤,防菌防腐剤,安定剤等の各種添加剤を用いることができるが,分散剤を用いる従来の顔料分散では顔料の分散安定性や色再現範囲が狭いため,着色剤としては顔料を樹脂で被覆したいわゆるマイクロカプセルを分散媒に分散したいわゆるマイクロカプセルインクが好ましい。
【0036】
本発明においては,シアン色インク組成物と,オレンジ色インク組成物と,グリーン色インク組成物は,いずれも,顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセルを分散媒に分散した,その他の分散剤やバインダー樹脂を実質的に含まないインクとすれば良いが,その他のマゼンタ色インク組成物,イエロー色インク組成物,ブラック色インク組成物の1色,2色または3色の全てを,顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセルを分散媒に分散した,その他の分散剤やバインダー樹脂を実質的に含まないインクとするほうが,技術的にも好ましい。
【0037】
前記6色の各色のインク組成物を各々得るに当たっての,顔料のマイクロカプセル化には従来知られている様々な手法が応用可能であるが,本発明カラー画像形成方法で用いる顔料を安定性の高いマイクロカプセルインクとするには,顔料を被覆する樹脂が,酸価が50以上280以下の合成樹脂(a)の少なくとも一部の酸基が塩基(b)で中和されてなる自己水分散性樹脂(A)で,該着色樹脂粒子が水を必須成分とする水性媒体中に分散しているインクとすることが好ましい。
【0038】
顔料を被覆する樹脂の一部又は全部は架橋されていてもよく,架橋手段としては,従来から知られている方法が利用可能であり,たとえば顔料と架橋性モノマー成分を含有させて重合を行う方法,顔料を分散させかつ架橋性モノマーを含む合成樹脂溶液をマイクロカプセル化後,カプセル内部に取り込まれた架橋性モノマーを架橋させる方法,自己水分散性樹脂(A)のアニオン性の官能基の少なくとも一部が一価の塩基で中和され,かつ該官能基の他の少なくとも一部が多価金属イオンによるイオン結合により分子間架橋した構造となる自己水分散性アイオノマー樹脂(B)によって顔料表面を被覆する方法等が挙げられる。
【0039】
合成樹脂(a)の酸基としては,例えばカルボン酸基,スルホン酸基,スルフィン酸基等であって特に限定されるものではないが,このうちカルボン酸基は一般的であり,良好な自己水分散性樹脂(A)を与える。
【0040】
このような合成樹脂(a)としては,上記特性を満足していればどれでも良いが,具体例としてスチレンあるいはα−メチルスチレンのような置換スチレン,アクリル酸メチルエステル,アクリル酸エチルエステル,アクリル酸ブチルエステル,アクリル酸2−エチルヘキシルエステル等のアクリル酸エステル,メタクリル酸メチルエステル,メタクリル酸エチルエステル,メタクリル酸ブチルエステル,メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも一つ以上のモノマー単位と,アクリル酸,メタクリル酸から選ばれる少なくとも一つ以上のモノマー単位を含む共重合体が使用可能であり,特に自己水分散性樹脂(A)の必須モノマー成分としてスチレンモノマー,アクリル酸モノマー,メタアクリル酸モノマーを用いてなる共重合体であり,特にこれら必須モノマー成分の構成比率がスチレンモノマー65〜85モル%,アクリル酸モノマー5〜15モル%,メタアクリル酸モノマー10〜20モル%を必須とする場合には,少なくともオレンジ色,グリーン色,シアン色の3色の各インク組成物にこの共重合体を適用すると,本発明の顔料着色剤の分散安定性とカラー画像形成方法における色再現を最大にすることが可能で,かつインクジェット記録用インクとしてノズル目詰まりのない優れた着色樹脂粒子を可能とする。
【0041】
前記合成樹脂(a)の分子量範囲については特に制限はないが1000以上10万以下の分子量のものがより好ましい。勿論,かかる合成樹脂(a)から得られた自己水分散性樹脂(A)が水性媒体との組み合わせで安定な着色樹脂粒子を形成するものであれば,これらに特に限定されるものではなく,同時に2種類以上を混合して使用しても良い。
【0042】
本発明の皮膜形成性樹脂(A)によって着色剤(B)が内包された着色樹脂粒子を作製する方法は特に限定されるものではないが,より好ましい具体的な例は,下記工程にて得ることが出来る。
【0043】
(1)酸価を有する合成樹脂(a)に,少なくとも着色剤(B)を分散または溶解して固形着色コンパウンドを得る樹脂着色工程。
(2)少なくとも,水,合成樹脂(a)を溶解する有機溶媒,塩基(b),前記樹脂着色工程で得られた固形着色コンパウンドを混合し,分散によって少なくとも樹脂の一部が溶解している着色剤懸濁液を得る懸濁工程。
(3)前記懸濁工程で得られた着色剤懸濁液中の着色剤表面に溶解樹脂成分を沈着させる再沈殿工程。
【0044】
(1)の樹脂着色工程は,酸価を有する合成樹脂(a)に,少なくとも着色剤(B)を分散または溶解して固形着色コンパウンドを得る工程である。この工程は,例えば従来知られているロールやニーダーやビーズミル等の混練装置を用いて,溶液や加熱溶融された状態で,着色剤(B)を,酸価を有する合成樹脂(a)に均一に溶解または分散させ,最終的に固体混練物(固形着色コンパウンド)として取り出すことにより行うことが出来る。
【0045】
(2)の懸濁工程は,少なくとも,水,合成樹脂(a)を溶解する有機溶媒,塩基(b),前記樹脂着色工程で得られた固形着色コンパウンドを混合し,分散によって少なくとも樹脂の一部が溶解している着色剤懸濁液を得る工程である。
【0046】
(1)の樹脂着色工程で得られた固形着色コンパウンドを,分散媒として水,酸価を有する合成樹脂(a)を溶解する有機溶媒,塩基(b)を必須とする混合溶媒に加えて,均一に分散する様に攪拌することによって,固形着色コンパウンド表面から,着色剤(B)を包含する酸価を有する合成樹脂(a)が,有機溶媒と塩基の助けを借りて,溶解または自己乳化し,いずれの場合も少なくとも当該樹脂の一部が溶解している着色剤懸濁液が得られる。
【0047】
懸濁液を得るための撹拌方法としては,公知慣用の手法がいずれも採用でき,例えば従来の1軸のプロペラ型の撹拌翼の他に,目的に応じた形状の撹拌翼や撹拌容器を用いて容易に懸濁可能である。
【0048】
懸濁液を得るに当たって,せん断力がない或いは相対的に小さい,単なる混合撹拌のみで,或いは,着色剤(B)が比較的凝集しやすい場合には,それに加えて更に,次いで高せん断力下において,より分散を安定させてもよい。この場合の分散機としては,従来知られているビーズミルや,高圧ホモジナイザーや商品名マイクロフルイダイザーやナノマイザーで知られるビーズレス分散装置等を用いることができる。
【0049】
(3)の再沈殿工程は,前記懸濁工程で得られた着色剤懸濁液中の着色剤表面に,当該溶解樹脂成分を沈着させる工程である。本発明において「再沈殿」とは,着色剤,或いは当該溶解樹脂が着色剤表面に吸着した着色剤を懸濁液の液媒体から,分離沈降させることを意味するものではない。従って,この工程で得られるものは,固形成分と液体成分とが明らか分離した単なる混合物ではなく,当該溶解樹脂が着色剤表面に吸着した着色剤が懸濁液の液媒体に安定的に分散した着色樹脂粒子水性分散液である。
【0050】
この(2)の懸濁工程の着色剤懸濁液中の着色剤表面へ溶解樹脂の沈着は,例えば,少なくとも一部当該樹脂が溶解している着色剤懸濁液に,当該樹脂に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体を加えて行うか,及び/又は,着色剤懸濁液から有機溶媒を除去して行うことによって容易に行うことが出来る。
【0051】
この様にして得られた着色樹脂粒子水分散液から共存している有機溶媒を更に除いて,皮膜形成性樹脂(A)によって着色剤(B)が内包された着色樹脂粒子の安定な水分散液を得る。
【0052】
さらに,工程が終了した後,フィルターろ過や遠心分離等で大粒径粒子を除去することが好ましい。このようにして得られたインクは,フルカラーの色再現性・耐候性に優れ,かつ分散性に優れたインクとして本発明のカラー画像形成方法,とりわけインクジェット記録方法に最適である。
【0053】
前記した合成樹脂(a)の酸基を塩基(b)によって中和する,即ちアルカリ性中和剤による中和は,水分散性樹脂が水に溶解しない程度に中和する必要があり,溶解しない程度であればアルカリ性中和剤を過剰に加えても良いが,合成樹脂(a)の酸基の40モル%以上を中和するのが好ましい。中和率が40モル%以上であると,着色樹脂粒子は粒子径が小さいものが得られ,分散安定性に優れている。
【0054】
顔料の樹脂被覆前においては,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料から構成されたシアン色の未樹脂被覆顔料混合体であること,及び樹脂で被覆された顔料においては,樹脂で被覆されたハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,樹脂で被覆された少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料とから構成されたシアン色の樹脂被覆顔料の混合体であることが,より好ましい。
【0055】
樹脂被覆前において,顔料が,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の混合体である場合には,前記混合体のなかでも,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料が混在した二次粒子であることが特に好ましい。
【0056】
本発明のシアン色インク組成物において,ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の混合体から着色樹脂粒子を形成する,及び樹脂で被覆された顔料を着色剤とするシアン色記録用水性インクにおいて,樹脂で被覆されたハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,樹脂で被覆された少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の各着色樹脂粒子を形成するには,前記(1)の樹脂着色工程で両顔料を混合分散するか,(1)の樹脂着色工程で各顔料を別個に分散しておき(2)の懸濁工程で両顔料が混在する着色剤懸濁液を得るか,(3)の再沈殿工程で両顔料が混在した着色剤表面に溶解樹脂成分を沈着させるか,あるいは別個に得た着色樹脂粒子水分散液を合わせて調色してもよい。
【0057】
本発明のシアン色インク組成物を調製するに当たっては,より好適な形態として上記した通り,前記(1)の樹脂着色工程で両顔料を混合分散する場合には,最終的に得られる着色樹脂粒子中のコアとなる顔料はハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の一次粒子が混在した二次粒子を多く含むため,より均一な調色が可能となる。
【0058】
自己水分散性樹脂(A)の使用量は,特に限定されるものではないが,最終的に得られる水性インク中で0.5〜20重量%となるような量が好ましい。
【0059】
塩基(b)(アルカリ性中和剤)としては,例えば水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物,アンモニア,トリエチルアミン,モルホリン等の塩基性物質の他,トリエタノールアミン,ジエタノールアミン,N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミンが使用可能である。
【0060】
樹脂を溶解する際に用いられる有機溶媒としては,樹脂を溶解するものであればどのような有機溶媒であっても使用可能であるが,例えばアセトン,ジメチルケトン,メチルエチルケトン等のケトン系溶媒,メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒,クロロホルム,塩化メチレン等の塩素系溶媒,ベンゼン,トルエン等の芳香族系溶媒,酢酸エチルエステル等のエステル系溶媒,エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒,アミド類等が挙げられる。
【0061】
これらの有機溶媒のうち,樹脂成分がアクリル系樹脂の場合にはケトン系溶媒とアルコール系溶媒から選ばれる少なくとも1種類以上の組み合わせが好ましい。かかる有機溶媒の使用量は,本発明における効果を達成すれば特に規定されないが,合成樹脂/該有機溶媒の重量比が1/1〜1/20となるような量が好ましい。
【0062】
また添加剤として,必要に応じて分散剤,可塑剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤等を溶媒,樹脂,着色剤と共に用いても良い。
【0063】
上記着色樹脂溶液と混合される水性媒体において用いる水は,主としてジェットインクとして用いる場合にはノズル目詰まりを回避するためにイオン交換水以上のグレードの水が好ましい。
【0064】
またインクジェット記録用インクが乾燥するのを防止するためには,水溶性有機溶媒を乾燥防止剤として当該インク中に存在させておくのが好ましい。当該乾燥防止剤は,乳化時にあるいは乳化後に,水性媒体中に添加すれば良い。かかる乾燥防止剤は,インクジェットの噴射ノズル口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり,通常水の沸点以上の沸点を有するものが使用される。
【0065】
このような乾燥防止剤としては,たとえば従来知られているエチレングリコール,プロピレングリコール,ジエチレングリコール,ジプロピレングリコール,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,グリセリン等の多価アルコール類またはそれらのアルキルエーテル類,N−メチル−2−ピロリドン,2−ピロリドン等のピロリドン類,アミド類,ジメチルスルホオキサイド,イミダゾリジノン等が挙げられる。前記乾燥防止剤の使用量は,種類によって異なるが,通常,水100重量部に対して1〜150重量部の範囲から適宜選択される。この範囲のうち,グリセリン及びそれに他の乾燥防止剤を併用したものを使用する場合には10〜50重量部が好ましい。
【0066】
本発明の画像形成方法に用いるインクが水性インクの場合には,必要に応じて水溶性樹脂,pH調整剤,分散・消泡・紙への浸透のための界面活性剤,防腐剤,キレート剤等の添加剤を加えることができる。
【0067】
また,さらに,インクジェット記録方式で画像形成する方法の場合には,必要に応じてジェット噴射して付着したインクを紙によりよく浸透させるために,浸透性付与剤として浸透性付与効果を示す水溶性有機溶媒を加えてもよい。
【0068】
かかる浸透性付与剤としてはエタノール,イソプロピルアルコール等の低級アルコール,ジエチレングリコール−N−ブチルエーテル等のグリコールエーテル等を用いることができるが,これらに限定されるものではない。浸透性付与剤の使用量は,本発明における効果を達成すれば特に規定されないが,最終的に得られる水性インク中で0.1〜10重量%となるような量が好ましい。
【0069】
これら添加剤は,予め水性媒体中に添加しても,着色剤を含む自己水分散性樹脂溶液と水性媒体とを混合するときに添加しても,また,それらの混合後に添加してもよいが,好ましくは最終ろ過後の添加剤の添加は避けたほうがよい。
【0070】
本発明においては,シアン色インク組成物と,マゼンタ色インク組成物と,イエロー色インク組成物の少なくとも3色を用いて,これら色の重ね合わせを含めた多色の画像形成をすることが可能であるが,少なくとも3色を用いる場合には,樹脂で被覆されたシアン色顔料を着色剤とする各色記録用水性インクにおいて,顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の混合体であるシアン色インク組成物と,キナクリドン顔料からなるマゼンタ色インク組成物と,ベンズイミダゾロン顔料からなるイエロー色インク組成物を,少なくとも用いてカラー画像を形成することが出来る。
【0071】
この形態でも,3色のみのインクを用いたときの比較において,従来の3色のみの各色インク組成物を用いた場合よりは,良好な技術的効果が得られる。
【0072】
更に,この3色の各色インク組成物に加えて,カーボンブラックを着色剤とするブラック色インク組成物を組み合わせて,少なくとも4色のインク組成物を組み合わせて用いて画像形成を行うことも出来る。
【0073】
本発明においては,シアン色インク組成物と,マゼンタ色インク組成物と,イエロー色インク組成物に,更に,オレンジ色インク組成物と,グリーン色インク組成物の2色を加えて計5色を少なくとも用いて,これら色の重ね合わせを含めた多色の画像形成をすることも可能であるが,この場合には,樹脂で被覆された顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料を必須成分としてなるシアン色インクと,キナクリドン顔料からなるマゼンタ色インクと,ベンズイミダゾロン顔料からなるイエロー色インクの少なくとも3色のインクと,樹脂で被覆されたオレンジ色顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料がイミダゾロン顔料であるオレンジ色インク組成物と,樹脂で被覆されたグリーン色顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料が少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料であるグリーン色インク組成物を用いて画像形成を行うことも出来る。
【0074】
この形態では,従来の3色のみの各色インク組成物を用いた場合や,本発明の上記3色のみの各色インク組成物を用いた場合や,従来の5色のみの各色インク組成物を用いた場合よりは,良好な技術的効果が得られる。
【0075】
本発明の上記5色の各色インク組成物を用いる画像形成方法においても,シアン色インク組成物としては,3色での画像形成方法において好適であるとしたのと同じ,樹脂で被覆されたシアン色顔料を着色剤とする各色記録用水性インクにおいて,顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の顔料混合体の樹脂被覆顔料,あるいは樹脂で被覆された顔料を着色剤とするシアン色記録用水性インクにおいて,樹脂で被覆されたハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と,樹脂で被覆された少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料とから構成される樹脂被覆顔料の混合体であるシアン色インク組成物を用いるのが同様に好ましい。
【0076】
この5色の各色インク組成物に加えて,カーボンブラックを着色剤とするブラック色インク組成物を組み合わせて,少なくとも6色のインク組成物を組み合わせて用いて画像形成を行うことも出来,これが最適な実施形態である。
【0077】
本発明の各インク組成物は,公知慣用なインク分野に適用可能であるが,インクジェット記録用インクとして用いられるのが好ましい。つまり,本発明のインク組成物をインクジェット記録方法を用いて画像形成を行うことが出来る。
【0078】
この際に画像形成するに用いられる被記録媒体としては,例えば普通紙,樹脂被覆紙,表面処理樹脂フィルム,布帛等が挙げられる。
【0079】
本発明は次の実施形態を含む。
【0080】
1. 樹脂で被覆されたオレンジ色顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料がイミダゾロン顔料であるインク組成物。
【0081】
2. 樹脂で被覆されたグリーン色顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料が少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料であるインク組成物。
【0082】
3. 樹脂で被覆されたシアン色顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の混合体であるインク組成物。
【0083】
4. 樹脂で被覆された顔料を着色剤とするシアン色記録用水性インクにおいて,樹脂で被覆されたハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と樹脂で被覆された少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の混合体であるインク組成物。
【0084】
5. イミダゾロン顔料がC.I.ピグメントオレンジ36である上記1記載のインク組成物。
【0085】
6. 少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料がC.I.ピグメントグリーン36である上記2記載のインク組成物。
【0086】
7. ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料が少なくともC.I.ピグメントブルー15:3か15:4から選ばれ,少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料がC.I.ピグメントグリーン36である上記3および4記載のインク組成物。
【0087】
8. 樹脂で被覆されたシアン色顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の混在した二次粒子からなることを特徴とする上記3および7記載のインク組成物。
【0088】
9. 樹脂が,モノマー比65〜85モル%のスチレンモノマーと,5〜15モル%のアクリル酸マノマーと,10〜20モル%のメタアクリル酸モノマーを必須とする共重合体であることを特徴とする上記1〜8のいずれか1項記載のインク組成物。
【0089】
10 樹脂で被覆された顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料が上記3または4または7または8または9のいずれか1項記載のシアン色インクと,キナクリドン顔料からなるマゼンタ色インクと,ベンズイミダゾロン顔料からなるイエロー色インクの少なくとも3色のインクを用いて画像形成を行うことを特徴とするカラー画像形成方法。
【0090】
11. 樹脂で被覆された顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料を必須成分としてなるシアン色インクと,キナクリドン顔料からなるマゼンタ色インクと,ベンズイミダゾロン顔料からなるイエロー色インクの少なくとも3色のインクと,上記1または5または9のいずれか1項記載のオレンジ色インクと,上記2または6または9いずれか1項記載のグリーン色インクを用いて画像形成を行うことを特徴とするカラー画像形成方法。
【0091】
12. 樹脂で被覆された顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,上記3または4または7または8または9のいずれか1項記載のシアン色インクと,キナクリドン顔料からなるマゼンタ色インクと,ベンズイミダゾロン顔料からなるイエロー色インクの少なくとも3色のインクと,上記1または5または9のいずれか1項記載のオレンジ色インクと,上記2または6または9のいずれか1項記載のグリーン色インクを用いて画像形成を行うことを特徴とするカラー画像形成方法。
【0092】
13. カーボンブラックを着色剤とするブラック色インクを組み合わせた少なくとも4色のインクを組み合わせて用いて画像形成を行うことを特徴とする上記10記載のカラー画像形成方法。
【0093】
14. カーボンブラックを着色剤とするブラック色インクを組み合わせた少なくとも6色のインクを組み合わせて用いて画像形成を行うことを特徴とする上記11または12記載のカラー画像形成方法。
【0094】
15. キナクリドン顔料がC.I.ピグメントレッド122であることを特徴とする上記10〜14のいずれか1項記載のカラー画像形成方法。
【0095】
16. ベンズイミダゾロン顔料がC.I.ピグメントイエロー151であることを特徴とする上記10〜15のいずれか1項記載のカラー画像形成方法。
【0096】
17. インクジェット記録方法を用いて画像形成を行うことを特徴とする上記10〜16のいずれか1項記載のカラー画像形成方法。
【0097】
本発明は次の好適な実施形態を含む。
1.下記工程にて,着色樹脂粒子水分散液を得る着色樹脂粒子水分散液を製造する。
(1)ガラス転移温度が70〜120℃の合成樹脂(a)(スチレン−アクリル酸−メタクリル酸樹脂)と着色剤(B)(顔料)を二本ロールで分散して固形着色コンパウンドを得る樹脂着色工程。
(2)少なくとも,水,合成樹脂(a)を溶解する有機溶媒(メチルエチルケトン・イソプロピルアルコール),塩基(b)(アルコールアミン),前記樹脂着色工程で得られた固形着色コンパウンドを混合し,分散撹拌機を用いて分散して着色剤懸濁液を得る懸濁工程。
(3)前記懸濁工程で得られた着色剤懸濁液に水を添加して,着色剤表面に溶解樹脂成分を沈着させる再沈殿工程。
2.(3)の再沈殿工程後に脱溶剤を行って水分散物を得る。
3.得られた水分散液をインク調整用薬剤の水溶液に徐々に加え,濃度・物性を調整した後,ろ過を行いインクジェット記録用水性インクとする。
【実施例】
【0098】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚,以下の実施例中における「部」は『重量部』を表わす。
【0099】
(実施例1)C.I.ピグメントオレンジ36の20部とスチレン−アクリル酸−メタクリル酸樹脂(スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/13;分子量5万・酸価160,ガラス転移温度107℃)20部の二本ロール混練物を,水210部,グリセリン35部,トリエタノールアミン8部,メチルエチルケトン90部,イソプロピルアルコール40部の混合溶液に入れ,室温で3時間撹拌し着色剤懸濁液を得た。
【0100】
得られた懸濁液に撹拌しながら,グリセリン30部と水210部の混合液を毎分5mlの速度で滴下し,オレンジ色着色樹脂粒子水分散液を得た。得られたカプセル液をロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコールと水の一部を留去し,顔料分8質量%の最終のオレンジ色着色樹脂粒子水分散液を得た。
【0101】
グリセリン5質量%,プロピレングリコールプロピルエーテル2質量%の混合水溶液50部に前記着色樹脂粒子水分散液50部を攪拌しながら徐々に加え,0.5μmフィルターを用いてろ過を行い,インクジェット記録用水性インクとした。得られたインクのpHは8.4であった。
【0102】
得られた水性インクは凝集物もなく長期にわたって安定な分散を示した。このインクは,C.I.ピグメントオレンジ13を同量用いた以外は同様にして調製したインクに比べて,より鮮やかなオレンジ色を呈した。このインクの耐候性は良好であった。
【0103】
(実施例2)実施例1のC.I.ピグメントオレンジ36に替えてC.I.ピグメントグリーン36を用いて同様にインクを得た。
【0104】
得られた水性インクは凝集物もなく長期にわたって安定な分散を示した。このインクは,C.I.ピグメントグリーン7を同量用いた以外は同様にして調製したインクに比べて,より明るいグリーン色を呈した。このインクの耐候性は良好であった。
【0105】
(実施例3)実施例1のC.I.ピグメントオレンジ36に替えてC.I.ピグメントブルー15:4の15部とC.I.ピグメントグリーン36の5部を用いて同様にインクを得た。
【0106】
得られた水性インクは凝集物もなく長期にわたって安定な分散を示した。このインクは,C.I.ピグメントブルー15:4とC.I.ピグメントグリーン7を併用してインクを調製するのに比べて,より少ないグリーン色顔料の使用量で,鮮やかなシアン色を呈した。このインクの耐候性は良好であった。
【0107】
(実施例4)C.I.ピグメントオレンジ36の20部とスチレン−アクリル酸−メタクリル酸樹脂(スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/13;分子量5万・酸価160,ガラス転移温度107℃)20部の二本ロール混練物を,水210部,グリセリン35部,トリエタノールアミン8部,メチルエチルケトン90部,イソプロピルアルコール40部の混合溶液に入れ,室温で3時間撹拌し着色剤懸濁液を得た。実施例1のC.I.ピグメントオレンジ36に替えてC.I.ピグメントブルー15:4を用いたブルーの着色懸濁液を得た。同様に実施例1のC.I.ピグメントグリーン36を用いたグリーンの着色懸濁液を得た。このブルーの着色懸濁液の15部とグリーンの着色懸濁液の5部を用いて同様にインクを得た。
【0108】
得られた水性インクは凝集物もなく長期にわたって安定な分散を示した。このインクは,C.I.ピグメントブルー15:4とC.I.ピグメントグリーン7を用いて同様にしてインクを調製するのに比べて,より少ないグリーン色顔料の使用量で,鮮やかなシアン色を呈した。このインクの耐候性は良好であった。
【0109】
(実施例5)実施例1のC.I.ピグメントオレンジ36に替えてC.I.ピグメントレッド122を用いて同様にマゼンタインクを得た。 同様にC.I.ピグメントイエロー151を用いて同様にイエローインクを得た。同様にカーボンブラックを用いて同様にブラック色インクを得た。これらのインクと実施例1〜3で得られた計6色のインクを組み合わせて6色ヘッドを有するピエゾ式カラープリンタを用いて印刷を行った。
【0110】
これらのインクは目詰まりもなく安定した噴射を示し,得られた印刷物は滲みがなく,単色は勿論,フルカラー印刷で従来のシアン,マゼンタ,イエロー,ブラックの4色の組み合わせと比較して極めて高い発色度を示した。
【0111】
得られた印刷物をキセノンランプで150時間(日光曝露1年相当)照射したところ,一次色,二次色,三次色及びフルカラーの色は照射前と比較してほとんど退色もなかった。さらにキセノンランプで150時間照射(合計300時間,日光曝露2年相当)をしたところ全体にわずかに退色が認められたが,各色とも退色の仕方はバランスがとれており,著しい色変化は認められなかった。
【0112】
(比較例4)実施例1のC.I.ピグメントオレンジ36に替えてC.I.ピグメントオレンジ13(ピラゾロン系),C.I.ピグメントグリーン36に替えてC.I.ピグメントグリーン7(多塩素化フタロシアニン)を用いてオレンジとグリーンのインクを得た。これらのインクを用いて実施例4と同様に計6色のインクを組み合わせて6色ヘッドを有するピエゾ式カラープリンタを用いて印刷を行った。
【0113】
これらのインクは目詰まりもなく安定した噴射を示し,得られた印刷物は滲みがなかったが,単色は勿論,フルカラー印刷で実施例4と比較してややくすんだ色調で得られた色バランスは十分ではなかった。
【0114】
得られた印刷物をキセノンランプで150時間(日光曝露1年相当)照射したところ,照射前と比較して若干の退色を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂で被覆された顔料を着色剤とする記録用水性インクにおいて,前記顔料を被覆する樹脂が、酸価が50以上280以下の合成樹脂の少なくとも一部の酸基が塩基で中和されてなる自己水分散性樹脂であり、顔料がキナクリドン顔料からなるマゼンタ色インクと,顔料がベンズイミダゾロン顔料からなるイエロー色インクと、顔料が少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料を含むもう一色のインクの、少なくとも3色のインクを用いてインクジェット記録方法により画像形成を行うことを特徴とするカラー画像形成方法。
【請求項2】
前記もう一色のインクは、顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と、少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料との混合体であるシアン色インクである請求項1に記載のカラー画像形成方法。
【請求項3】
前記もう一色のインクは、顔料が、少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料からなるグリーン色インクである請求項1または2に記載のカラー画像形成方法。
【請求項4】
さらにカーボンブラックを着色剤とするブラック色インクを組み合わせた少なくとも4色のインクを組み合わせて用いて画像形成を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載のカラー画像形成方法。
【請求項5】
さらにイミダゾロン顔料からなるオレンジ色インクを用いて画像形成を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載のカラー画像形成方法。
【請求項6】
前記少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料はC.I.ピグメントグリーン36である請求項1〜5のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項7】
前記ハロゲン化されていないフタロシアニン顔料は、C.I.ピグメントブルー15:3、またはC.I.ピグメントブルー15:4である請求項2〜6のいずれか1項に記載のカラー画像形成方法。
【請求項8】
前記イミダゾロン顔料はC.I.ピグメントオレンジ36である請求項5〜7のいずれか1項に記載のカラー画像形成方法。
【請求項9】
前記キナクリドン顔料がC.I.ピグメントレッド122である請求項10〜8のいずれか1項に記載のカラー画像形成方法。
【請求項10】
前記ベンズイミダゾロン顔料がC.I.ピグメントイエロー151である請求項1〜9のいずれか1項記載のカラー画像形成方法。
【請求項11】
前記樹脂はモノマー比65〜85モル%のスチレンモノマーと、5〜15モル%のアクリル酸モノマーと、10〜20モル%のメタクリル酸モノマーを必須とする共重合体である請求項1〜11のいずれか1項に記載のカラー画像形成方法。
【請求項12】
前記請求項3〜11のいずれか1項に記載のカラー画像形成方法に用いるインクジェット記録用水性インクであって,樹脂で被覆されたグリーン色顔料を着色剤とし、前記顔料を被覆する樹脂が、酸価が50以上280以下の合成樹脂の少なくとも一部の酸基が塩基で中和されてなる自己水分散性樹脂であり、かつ前記顔料がC.I.ピグメントグリーン36であるインクジェット記録用水性インク。
【請求項13】
前記請求項1〜11のいずれか1項に記載のカラー画像形成方法に用いるインクジェット記録用水性インクであって,樹脂で被覆された顔料を着色剤とし、前記顔料を被覆する樹脂が、酸価が50以上280以下の合成樹脂の少なくとも一部の酸基が塩基で中和されてなる自己水分散性樹脂であり、かつ,前記顔料がハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の混合体であるインクジェット記録用水性インク。
【請求項14】
前記請求項1〜11のいずれか1項に記載のカラー画像形成方法に用いるインクジェット記録用水性インクであって,樹脂で被覆された顔料を着色剤とし、前記顔料を被覆する樹脂が、酸価が50以上280以下の合成樹脂の少なくとも一部の酸基が塩基で中和されてなる自己水分散性樹脂であり、かつ,前記樹脂で被覆されたシアン色顔料が樹脂で被覆されたハロゲン化されていないフタロシアニン顔料と樹脂で被覆された少なくとも一部が臭素化されたフタロシアニン顔料の混合体であるインクジェット記録用水性インク。

【公開番号】特開2007−308712(P2007−308712A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160250(P2007−160250)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【分割の表示】特願平10−364518の分割
【原出願日】平成10年12月22日(1998.12.22)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】