説明

インサート及びその釘保持部除去工具

【課題】1本の釘でコンクリートの型枠に簡易に固定し、釘の打込み時には型枠に安定して据付け、また、釘を型枠に対して真直ぐに打込めるように保持し、案内するとともに、釘は型枠の撤去時に型枠側には残さず、脱型後にインサートから楽に除去する。
【解決手段】型枠61に当接する当接面24と、ボルト体が螺着する螺着部13と、前記当接面24側に開口する中空空間27を形成する空間形成部26とを有するインサート本体2、及び前記インサート本体2に螺着により離脱可能に一体化され、釘51を筒状部42で保持する釘保持部41を備え、前記釘保持部41は、釘51がその頭部53を叩打されて型枠61に打ち込み可能に形成するとともに、中空空間27内に突出している突出部48の外面に工具を係止させて回動することにより前記インサート本体2から離脱するよう形成し、前記中空空間27は、前記工具を挿入可能な大きさに形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重天井のコンクリートスラブ内に吊ボルトを吊設したり、コンクリート壁に工事用足場を形成するボルトを取着するために、コンクリート型枠に釘で固定された後コンクリートが打設されることによってコンクリート内に埋設されるインサート及びその釘保持部除去工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種のインサートは、コンクリートの型枠と当接する台座に複数本の釘を挿通し、前記型枠に打付けて固定し、コンクリートを打設した後、型枠を取外すことによってコンクリートに埋設していた。しかし、複数本の釘を型枠に打付けなければならず、また、型枠の取外し後は安全のためコンクリート面から突出する複数本の残存する釘を1本ずつ工具で切断したり、折曲げたりしなければならず、その作業に大変手間取っていた。
【0003】
このため、1本の釘で型枠に固定すべく、インサートの中央に1本の釘を配置して型枠に打込むタイプのものが使用されるようになった。ところが、この1本の釘を用いるタイプのインサートにおいても、釘の先端がインサートから外部に突出しているため、取扱い時や運搬、梱包時に危険であり、また、取扱い、運搬中に障害物に当たって釘の先端が曲がったり、擦れてしまうという不具合があった。更に、型枠への釘の打込むとき、従来の複数本の釘で固定するタイプのものは、型枠へのインサートの据付状態が安定しているのに対し、1本の釘を用いるインサートの場合は、1本の釘で支えることになるため、安定性がなく、必ずインサートに手を添えて支えながら型枠に打込む必要があり、作業性は良くなかった。また、型枠に対して斜めに打込んでしまうことがあった。
【0004】
そこで、これらの不具合を改善すべく、型枠への固定時に1本の釘を備えたインサートを安定して型枠に据置くことができるものが、実開昭57−54507号公報、特開2000−301520公報に開示されている。これらの公報に掲載のインサートは、インサート本体とインサート受治具とを別体に用意し、まず、型枠と当接する台座を有するインサート受治具に1本の釘を保持させて型枠に固定した後、前記インサート受治具にインサート本体を打ち嵌めて固定し、コンクリート打設後、型枠を取外せば、この型枠とともにインサート受治具及び釘が一体に取外される。
【0005】
しかし、これらの公報に掲載されたインサートは、型枠に釘で固定してインサートをコンクリートに埋設する作業を行なう都度、インサート本体とインサート受治具とを必ず組付ける必要があり、面倒であった。また、インサート本体及びインサート受治具の両方を保管、運搬しなければならず、その部品管理が煩わしかった。
【0006】
そのため、インサート本体とインサート受治具とを一体化してその組付けを不要とするタイプのインサートが、実開昭61−26807号公報、実開平6−4204号公報に開示されている。これらの公報に掲載のインサートは、釘の先端を型枠との当接面より外部に突出させず、釘の頭部側をコンクリートの内部方向に突出させた状態で1本の釘をインサートに組付けたものであるから、当接面を型枠に当接させて安定して据付けることができるとともに、インサート本体とインサート受治具とを組付けることなく、単に釘を打込むだけで型枠に固定することができる。
【特許文献1】実開昭57−54507号公報
【特許文献2】特開2000−301520公報
【特許文献3】実開昭61−26807号公報
【特許文献4】実開平6−4204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前記実開昭61−26807号公報、実開平6−4204号公報に掲載のインサートにおいても、以下の不具合を生じていた。即ち、まず、前記実開昭61−26807号公報に掲載のインサートは、釘保持部材であるスリーブで釘の軸部を局部的に短かい部分でしか保持していないため、型枠への打込み時に斜めに打込んでしまう恐れがあり、この場合は、インサートが傾斜して型枠と密接せず、打設時に隙間からコンクリートが侵入してしまったり、型枠の除去作業を阻害する恐れがあった。
【0008】
また、前記2つの公報に掲載のインサートは、いずれも、釘は、脱型時に釘保持部材とともにインサート本体から離脱するよう該インサート本体に仮保持されているものであるため、コンクリート面から型枠を撤去した後、釘は型枠に打ち込まれたままの状態で取外されるから、多数のインサートを埋設した後は、多数の釘が型枠側に残存することとなる。ここで、型枠は一般には再使用される。また、通常、この種の工事、施工においては複数の業者が携わっており、他の業者との関係上、型枠に釘が残ったままの状態にしておくことは好ましくない。これらのことから、脱型後は釘を型枠から除去しておく必要があるが、その作業が余分に必要となり、また、釘は型枠に強固に固定されるので、これを引抜いて除去するには多大な労力を必要とした。
【0009】
ここで、釘は、脱型時に釘保持部材とともにインサート本体から離脱して型枠とともにコンクリート面から取外されるものではなく、インサート本体との保持力を高めて脱型時に釘がインサート本体から離脱して型枠側についていくことがないようにすることも考えられる。それにより、脱型後、釘は型枠側には残らないので、型枠から釘を除去する作業は不要となる。
【0010】
ところが、釘はインサート本体には保持され、コンクリート面から外方に突出するので、工具等で掴持して引抜いておく必要がある。しかし、釘は細いし、釘の突出量が小さければ掴みにくい。逆に、釘が長ければ、型枠に固定したときに釘の先端部が型枠の反対側に飛び出して危険であるし、インサートの保管時には釘が長く突出して邪魔になる。また、釘を掴持しているときに工具が滑って外れると危険であり、更に、引抜き時には相当の力で掴持することが必要となる。なお、実開平3−129604号公報に開示されているように、釘の外面を特殊形状とするなど特別な滑り防止加工を施すことも考えられるが、釘が高価なものとなってしまうという難点がある。
【0011】
そこで、本発明は、1本の釘によりコンクリートの型枠に簡易に固定でき、釘の打込み時には型枠に安定して据付けることができ、また、釘を型枠に対して真直ぐに打込めるように保持し、案内するとともに、型枠の撤去時に釘は型枠とともに離脱して型枠側に残されることがなく、しかも、脱型後にはコンクリート側から釘を楽に離脱させることのできるインサート及びその釘保持部除去工具の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1のインサートは、コンクリート型枠に1本の釘で固定され、コンクリート内に埋設されるものであって、インサート本体と、前記インサート本体に離脱可能に一体化され、筒状に形成された筒状部で前記釘をその軸部に沿って保持する釘保持部とを備えている。更に、前記インサート本体は、前記型枠に当接する当接面と、前記当接面からコンクリート内部側に離間して設けられ、ボルト体が螺着する螺着部と、前記螺着部と前記当接面との間に設けられ、前記当接面側に開口する中空空間を形成し、前記中空空間内にコンクリートが侵入するのを防止する空間形成部とを有している。
【0013】
そして、前記釘保持部は、前記釘の軸部が前記螺着部内を貫通し、前記釘の先端が前記当接面から突出せず、前記釘の頭部がインサート本体から前記当接面と反対側の外方に突出する状態で、前記筒状部の内部に前記釘の軸部を保持するとともに、釘の頭部が叩打されることによって前記筒状部内を前記釘の軸部が摺動して型枠に打ち込み可能に形成されている。更に、前記筒状部の一部が前記中空空間内に突出していて、前記型枠を取外し後に前記筒状部の外面に工具を係止させて該筒状部の中心軸を軸として回動されることによって前記釘とともに前記インサート本体から離脱するように形成されている。また、前記中空空間は、前記工具を前記当接面側の開口から内部に挿入可能な大きさに形成されている。
【0014】
前記インサート本体の螺着部に螺着されるボルト体は螺着によって二重天井のコンクリートスラブに吊設される吊ボルトなどコンクリート面に取着されるものである。前記螺着部は前記ボルト体に対する十分な支持強度を有するとともに、ボルト体のねじ部と螺合するものであって形状安定性を有することから、一般には金属製であるのが望ましい。一方、他の構成部分は合成樹脂製でもよく、或いはその方が望ましいこともあることから、インサートは金属材及び合成樹脂材からなる2物品を予め一体化したものとして構成される。勿論、全ての構成部分を同一の金属材或いは合成樹脂材で一体に形成することもできる。逆に、各構成部分を別体とし、これを予め一体に組付けたものとしてもよい。なお、前記螺着部と他の構成部分とは、例えば、前記他の構成部分に一体化された釘保持部の外周壁に雄ねじを形成してこれを被螺着部とし、インサート本体の螺着部に螺合して一体化することができるが、螺合によらず、他の圧入、係合などの手段によって一体化することもできる。
【0015】
当接面は型枠に密接状態で当接すべく平面に形成される。型枠と密接しない場合は、コンクリート打設時に、隙間からコンクリートのトロが侵入する恐れがあるからである。
【0016】
前記釘保持部は連結状態でインサート本体と一体成形を行なうことにより、または別体としてこれをインサート本体に圧入する或いは螺着部に螺着する手段等によって組付けることにより、前記インサート本体に一体化されている。この釘保持部は筒状に形成された筒状部で釘をその軸部に沿って保持するものであり、例えば、前記筒状部の内径を釘の直径より僅かに小さく形成して、その筒状部内に釘の軸部を圧入して保持させることができる。釘は、その軸部が前記螺着部内を貫通し、先端は前記当接面から外方に突出せず、頭部がインサート本体から前記当接面と反対側の外方に突出する状態で、前記釘保持部に保持される。但し、前記釘の先端は実質的に当接面から突出していなければよく、安定した据付けの妨げにならない程度であれば、僅かに外方に突出していてもよい。
【0017】
型枠への固定時においては、釘の頭部が工具で叩打されることによって前記筒状部内を前記釘の軸部が摺動して型枠に打ち込まれる。即ち、釘は工具で叩打されて釘保持部内を摺動した相当長さ分が型枠に打ち込まれる。なお、釘の頭部の突出長さは打ち込まれた釘が型枠の反対側に突き出ない大きさとするのが望ましい。
【0018】
更に、前記釘保持部は筒状部の一部が空間形成部によって形成された中空空間内に突出しており、前記型枠を取外し後に前記突出した筒状部の外面に工具を係止させて該筒状部の中心軸を軸として回動されることによって釘保持部全体が前記釘とともに前記インサート本体から離脱するようになっている。このことは、前記釘保持部は工具によって回動操作される前は、螺着等の手段によってインサート本体に保持されて、前記インサート本体から離脱するのが阻止されることを意味し、脱型時であっても、工具によって回動操作される前は、釘保持部はインサート本体に保持され、釘とともに型枠に付随して取外されてしまうことがないことを意味する。
【0019】
ここで、脱型時に、釘保持部が釘とともに型枠に付随して取外されてしまうのを阻止するのは、型枠の取外しに伴って、釘び釘保持部が型枠側に残存するのを防止し、その後に多大な労力を費やして型枠から釘を引き抜く作業を不要とするためである。
【0020】
次に、当接面側に開口する中空空間を形成する空間形成部は、螺着部と当接面との間に設けられ、前記中空空間は工具を当接面側の開口から内部に挿入可能な大きさに形成されている。これにより、一部が中空空間内に突出している釘保持部の筒状部の外面に工具を確実に係止させることができ、該釘保持部全体を釘とともにインサート本体から円滑に離脱させることができる。
【0021】
請求項2のインサートは、釘保持部が、インサート本体の螺着部と螺合している。具体的には、釘保持部の外周壁に雄ねじが形成され、前記螺着部の雌ねじと螺合している。これにより、前記螺着部と螺合している釘保持部は中心軸を軸として回動しない限り前記螺着部との螺合は解除されない。その結果、コンクリート打設後に該型枠を取外すとき、型枠に打ち込まれた釘が該型枠に引張られて、該釘と圧着状態にある釘保持部がともにインサート本体から離脱するのが阻止される。
【0022】
請求項3のインサートは、特に、釘保持部が、破断可能な連結部を介してインサート本体に取着されている。前記連結部は、具体的には、例えば、釘保持部の筒状部の周壁に周方向に間隔をおいて複数の破断可能な接続箇所を形成してなり、螺着部と空間形成部との境界域などに設けられている。このような構造としたことで、釘保持部を工具を使用して筒状部の軸を中心に回動させれば、剪断力により連結部は周方向に破断されてインサート本体から離脱する。
【0023】
請求項4のインサートは、釘保持部が、空間形成部内に螺合するものである。請求項2では、釘保持部は螺着部に螺合するものであるのに対し、この請求項4では、空間形成部内に螺合する。但し、釘保持部は空間形成部内と螺着部との双方に螺着するものであってもよい。このような構成であるから、請求項2のインサートと同様に作用する。
【0024】
請求項5のインサートは、釘保持部において中空空間内に突出して外面に工具が係止する筒状部が多角柱状に形成されている。これにより、請求項7に記載のような、釘保持部の筒状部の外形に合致する係止孔を備えた工具を使用して、これを釘保持部の下方から、中空空間内に突出している筒状部に嵌着し、係止させて釘保持部を回動させることができる。また、ペンチやプライヤなどの挟持工具で釘保持部の筒状部を確実に挟持して回動させることもできる。
【0025】
請求項6のインサートは、空間形成部の内面が、コンクリート埋設後にボルト体の端部が当接面の開口から中空空間内に挿入されて螺着部に螺回動される際に、前記ボルト体の端部を螺着部に向けて移動させるべく案内する案内面に形成されている。前記空間形成部の内面は、例えば、当接面から螺着部までの間が半球殻状の連続した湾曲面に形成されている。これにより、仮に、ボルト体の端部が当接面の開口において中心から離れた位置から挿入されても、前記連続した湾曲面に形成された空間形成部の案内面に案内されて中央側に移動し、螺着部内に導かれる。
【0026】
請求項7のインサートの釘保持部除去工具は、インサートの釘保持部を除去するための工具であって、釘保持部の筒状部の外面に係止する係止部を備えた工具本体と、一端側が前記工具本体に連結され、他端側に、把持されて棒軸を中心に回動されることにより前記工具本体を回動操作可能な把持部を備えた延長棒部材とを具備する。
【0027】
工具本体は、具体的には、全体を筒状に形成し、その一端に係止部を設け、その係止部を釘保持部の筒状部の外形に合致する係止孔で形成し、前記係止孔内に釘保持部の筒状部が嵌入する形態とすることができる。この形態とすれば、釘保持部の下方から、工具本体の係止部を中空空間に突出している釘保持部の筒状部に嵌着し、係止させて前記釘保持部を回動させることができる。このとき、釘保持部の先端から突出している釘の先端部も釘保持部とともに工具本体の係止孔内に収容されるので、係止部を係止させるときの妨げになることはない。
【0028】
ところで、前記工具本体の係止部は、筒状の部分の側壁の一部に、釘保持部の側方から軸に平行に近接させながら該釘保持部或いは釘を内部に挿入できる挿入開口を形成した、断面が略C字形状をなす筒状のものとしてもよい。この場合は、前記係止部の側壁に形成した挿入開口を通して釘保持部の筒状部或いは釘の側方から該係止部を係止させることもでき、釘保持部に係止し易くなる。
【0029】
ここで、釘保持部つまりは釘をインサート本体から離脱させるための工具は釘を掴持するのではなく釘保持部に係止するものとしたのは、釘は細径でかつ円柱状であるために滑って掴持し難いからであり、また、掴みが滑ったときに危険だからである。なお、工具本体は、釘保持部の筒状部に係止孔を係止させる形態の他、前記釘保持部の筒状部を両側面から挟持して係止させるものとしてもよく、その形態は問わない。
【0030】
請求項7の工具は、工具本体に延長棒部材が連結されているので、コンクリートスラブの天井などの高所に埋設されたインサートに対して、梯子や脚立に載ることなく床面に立った姿勢で遠隔操作によりインサート本体から釘保持部及び釘を離脱させることができる。なお、必要に応じて延長棒部材を外して工具本体単独で使用することも可能であり、インサートが作業者に近い位置にあるときは、工具本体を把持して使用することができる。
【発明の効果】
【0031】
請求項1のインサートは、コンクリート型枠に1本の釘のみで固定されるので、型枠への釘の打込み作業及びコンクリート埋設後の釘の除去作業にかかる手間を減らすことができるし、脱型時に型枠に打ち込まれている釘の数が少ない分、前記型枠の取外しに要する力を小さくできる。また、型枠に当接する当接面を備えているので、型枠に安定して据付けることができる。更に、釘保持部はその一部が中空空間内に突出し、釘をその軸部に沿って保持する。加えて、釘は普通には釘保持部の筒状部に圧入されるものである。このため、釘保持部は型枠への釘の打ち込みにおける案内としても機能するから、釘を傾くことなく真直ぐに打ち込むことができる。
【0032】
そして、釘保持部は脱型後に中空空間内に突出している筒状部の外面に工具が係止され、前記工具を回動することによってインサート本体から離脱するよう形成されており、工具による回動前は、前記釘保持部はインサート本体に螺合による強い結合力で一体化された状態にあるから、脱型に釘を介して型枠に引張られる力が加わっても、型枠とともにインサート本体から抜け外れてしまうことはない。したがって、型枠が撤去された後も、釘保持部はインサート本体に保持され、それに伴って釘もインサート本体側にあって型枠側に付随していくことはない。その結果、型枠に強固に固定されている釘を多大な労力を費やして引抜いて除去するという面倒な作業を不要とすることができる。一方、インサート本体側に保持されている釘保持部は筒状部に工具を係止させて該工具を回動するだけの簡単な操作でかつ小さい力で離脱させることができ、それに伴って、釘も工具で掴持し易くするために高価な特殊加工を施すことなく通常のものを用いて、インサート本体から楽に除去することができる。
【0033】
請求項2のインサートは、釘保持部が、インサート本体の螺着部と螺合しているから、前述のように、前記釘保持部は強固にインサート本体に保持される。これにより、脱型時に、前記釘保持部が釘とともにインサート本体から離脱するのを阻止し、脱型後に、釘が型枠側に残存するのを確実に防止できる。その結果、脱型後に、多大な労力を費やして型枠から釘を引き抜く作業を省くことができるとともに、強固に保持されているインサート本体から釘保持部を離脱させるときは、該釘保持部の筒状部を工具を使用して回動し、インサート本体との螺合を解除すればよい。
【0034】
請求項3のインサートは、釘保持部が、破断可能な連結部を介してインサート本体に取着されているので、前記釘保持部を一体成形によって簡単にインサート本体に一体化させることができる。そして、脱型後は、工具を使用して筒状部の中心軸を軸に前記釘保持部を回動するだけで連結部は周方向に簡単に破断されるので、釘保持部を楽にインサート本体から離脱させることができる。
【0035】
請求項4のインサートは、釘保持部が、空間形成部内に螺合するものであり、請求項3のインサートと同様の効果が得られる。
【0036】
請求項5のインサートは、釘保持部において中空空間内に突出する筒状部が多角柱状に形成されているので、工具を前記筒状部に確実に係止させて、或いは挟持工具で前記筒状部を確実に挟持して、釘保持部を安定した状態で回動させることができる。
【0037】
請求項6のインサートは、空間形成部の内面が、ボルト体の端部を螺着部に向けて移動させるべく案内する案内面に形成されているので、コンクリートに埋設後のインサートにボルト体を取着する際、前記空間形成部の内面が前記ボルト体の端部を螺着部に導く。これにより、ボルト体を円滑にインサートに取着することができ、作業性が向上する。特に高所に埋設されているインサートに取着する場合にその効果は大きい。
【0038】
請求項7のインサートの釘保持部除去工具は、釘保持部の外面に係止する係止部を備えた工具本体に延長棒部材が連結されているので、コンクリートスラブなど高所に埋設されたインサートに対して、梯子や脚立に登ることなく床面に立った姿勢で遠隔操作によりインサート本体から釘保持部及び釘を離脱させることができる。これにより、脱型後、インサート本体から釘保持部を離脱させる作業を楽にかつ安全に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。なお、本実施形態においては、二重天井のコンクリートスラブにボルト体として吊ボルトを吊設するためのインサートを示す。ここで、図1は本発明の実施形態のインサートを示す斜視図、図2はその正面図、図3及び図4は断面図、図5及び図6は図1のインサートの組付図であり、図7及び図8は図1の釘保持部の拡大図である。
【0040】
図1乃至図8において、インサート1は、図11に示すコンクリートの型枠61に1本の釘51で固定され、コンクリート内に埋設されるものであって、インサート本体2と、図7及び図8に示す、前記インサート本体2に離脱可能に一体化され、釘51をその軸部52に沿って保持する合成樹脂製の釘保持部41とで構成されている。前記インサート本体2は、図5及び図6に示すように、内部の螺着部13に図15に示す吊ボルトからなるボルト体66が螺着される金属製のインサート金具11と、合成樹脂の一体成形により形成されたベース体21とを一体に組付けてなる。
【0041】
なお、前記インサート金具11は、一般に金属製であるボルト体66と螺合するものであり、相手物との組付けの適合性、強度、形状安定性等の点から金属製としているが、硬質の合成樹脂製のものとすることも可能であり、その場合は、インサート金具11とベース体21とからなるインサート本体2を合成樹脂の一体成形により形成することができる。また、前記釘保持部41は、合成樹脂の一体成形により前記インサート本体2の合成樹脂製のベース体21と一体に形成し、コンクリート埋設の型枠取外し後に、連結部46を破断して前記インサート本体2のベース体21と分離するものとしている。
【0042】
前記インサート金具11は、図5及び図6に示すように、円筒部12と円盤状の鍔部14とが一体に形成され、中心部に軸方向に沿って貫通孔15が形成されている。前記円筒部12の内面には、外周面に雄ねじを有する前記ボルト体66が螺着される雌ねじからなる螺着部13が形成されている。本実施形態においては、このインサート金具11は釘保持部41を介してベース体21と一体化している。即ち、後述するように、インサート金具11の螺着部13に釘保持部41の螺合突部44を螺合して両者を組付けるとともに、前記釘保持部41をベース体21とともに一体成形することによって該ベース体21に離脱可能に連結することにより、前記インサート金具11はベース体21と一体化し、インサート本体2を構成している。
【0043】
前記インサート金具11の鍔部14は、下面が後述するベース体21の補助支柱30の頂部と当接し、これに支持されて水平姿勢を保つとともに、コンクリート打設後に抜け外れを防止するアンカーとして機能する。なお、前記ボルト体66のねじ径は通常いわゆる3分用のW3/8及び4分用のW1/2のものが使用される。
【0044】
次に、前記インサート本体2のベース体21は、高さ方向のほぼ中央部に前記インサート金具11の円筒部12の下部を収容する金具収容スリーブ22を備えるとともに、底部側にコンクリートの型枠61と当接する当接面24を有する正四角形状の当接板23が設けられている。前記金具収容スリーブ22はインサート金具11の円筒部12より僅かに大きい内径を有している。前記当接板23は中央に型枠61側に面する開口25が形成されており、前記開口25はペンチや後述する工具が挿入可能な大きさに形成されている。また、前記当接板23は後述する位置決めを行なうために正四角形状に形成されているが、長方形状、円状、楕円状等に形成してもよい。なお、当接面24は、当然であるが、型枠61と密接すべく平坦面に形成されている。型枠61と密接しない場合には、コンクリート打設時に、隙間からコンクリートのトロが侵入し、インサート1がコンクリート面に対して傾いた状態で埋設されるからである。
【0045】
更に、前記金具収容スリーブ22の下端周縁部からは前記当接板23の当接面24の開口25に向けて半球殻状の湾曲面をなす空間形成部26が形成されている。前記空間形成部26は内部に前記当接面24の開口25において開口する中空空間27を形成するとともに、コンクリート打設時に、前記中空空間27内にコンクリートが侵入するのを防止する。なお、前記金具収容スリーブ22は前記インサート金具11の円筒部12の下部を収容しており、該円筒部12の内面には螺着部13が形成されているので、前記空間形成部26は請求項のように、螺着部13と当接面24との間に設けられていると記載することができる。
【0046】
ここで、前記空間形成部26は前記当接面24からインサート金具11の螺着部13に向かう内面28が、半球殻状の連続した湾曲面に形成され、コンクリート埋設後にインサート1にボルト体66を取着する際に、前記ボルト体66の端部を螺着部13に向けて移動させるべく案内する案内面ともなっている。これにより、ボルト体66の端部が当接面24の開口25において中心から外れた位置から挿入されても、前記連続した湾曲面に形成された空間形成部26の内面28に形成された案内面に案内されて中央側に移動し、螺着部13内に導かれる。
【0047】
そして、特にインサート1が高所に埋設されていて離れた位置からボルト体66の取着操作がしづらい場合には、一旦、ボルト体66の端部を開口25内に挿入しても再び該開口25の外に外れることがあるが、前記空間形成部26は半球殻状の湾曲面に形成されているので、一旦、開口25から挿入されると、ボルト体66の端部は中空空間27の奥側まで導かれるため、安定して中空空間27内に挿入できる。これにより、インサート1が高所に埋設されていても、ボルト体66を前記インサート1に円滑に取着できる。
【0048】
前記金具収容スリーブ22の下端周縁部と空間形成部26との境界部の内面には、該内面に沿って、図3、図4等に示すように、僅かに中心側に突出する環状突部29が設けられており、その先端縁部は、後述する、釘保持部41の連結用突部45に形成された連結部46と離脱可能に連結している。この連結部46を介して、前記ベース体21と釘保持部41とは合成樹脂の一体成形により一体に形成されている。
【0049】
前記インサート1の左右両側には、前記ベース体21の当接板23と空間形成部26との接合部上に一対の補助支柱30が立設されている。前記補助支柱30は対向する位置に支持板31が立設し、該支持板31の対向側の面にリブ32が設けられてなる。前記一対の補助支柱30は、前述のように、その上端面がインサート金具11の鍔部12の下面と当接して支持するとともに、該インサート金具11の鍔部12を水平姿勢に保つ。なお、本実施形態において、前記補助支柱30は省くことも可能であり、この場合は、インサート金具11はその円筒部12の下端を前記金具収容スリーブ22の下端周縁部に形成された環状突部29上に載置することによってベース体21に支持させることができる。
【0050】
一方、前記インサート本体2に離脱可能に連結されてインサート1を形成する前記釘保持部41は、図7及び図8に示すように、筒状部42で形成され、その内部には上下に貫通し、釘51が挿通される貫通孔43が設けられている。前記貫通孔43は軸方向のほぼ中間位置で段差が形成され、上半部における上部開口の内径d1は釘51の軸部52より僅かに小さく形成され、前記段部における開口の内径d2はそれより更に小さく形成されて、上部開口から段部に向かうに従って内径は直線的に小さくなっている。これにより、釘51は貫通孔43の上部開口から挿入され、上半部に圧入されることによって釘保持部41に強固に保持されるようになっている。更に、この釘保持部41の上端部の内部側は、釘51が打ち込まれたときに、該釘51の頭部53が上方に飛び出ないようにするため、該頭部53の形状に合致する収容凹部が形成されている。
【0051】
前記釘保持部41の軸方向のほぼ中間位置における筒状部42の外周面には互いに反対側の2箇所に周方向沿って所定長さの一対の螺合突部44が突設されている。前記螺合突部44は1ピッチ分の雄ねじに形成されていて、前記インサート金具11の円筒部12の螺着部13に螺合して、釘保持部41が前記インサート金具11に取着されるようになっている。
【0052】
また、前記釘保持部41の筒状部42の外周面における前記螺合突部44より下方には周方向に沿って所定長さの一対の連結用突部45が一体に突設されており、更に、この連結用突部45には前記ベース体21の環状突部29と連結する連結部46が形成されている。前記連結部46は、図7に示すように、前記一対の連結用突部45において、それぞれの先端周縁に周方向に間隔をおいて複数の小さい接合凸部が形成されるとともに、該接合凸部に切欠47が形成され、この部分で破断される構造となっている。即ち、釘保持部41はこのような構造を有する連結部46を介して前記ベース体21つまりはインサート本体2に離脱可能に連結されている。前記釘保持部41をインサート本体2から離脱させるためには、ベース体21に対して釘保持部41をその中心軸を軸に回動することによって前記連結部46の切欠47の形成部分を周方向に破断して行なうことができる。
【0053】
なお、前記釘保持部41の各一対の螺合突部44及び連結用突部45は、図8に示すように、周方向における形成部分を釘保持部41の端部側から見て互いに重ならない位置に設けており、これにより、射出成形における離型が可能となっている。但し、前記螺合突部44は1ピッチ分のみでなく、数ピッチ分に渡って形成してもよい。
【0054】
前記釘保持部41において前記連結用突部45より更に下方の部分は、筒状部42が六角柱状に形成されている。前記突出部48を六角柱状に形成したのは、型枠61を取外した後、図9、図10等に基づいて後述する釘保持部除去工具71を使用してインサート本体2から釘保持部41を釘51とともに離脱させるとき、釘保持部41の突出部48に前記釘保持部除去工具71の係止部73を係止させるためである。また、他のペンチやプライヤ等の挟持工具を使用して釘保持部41を離脱させるとき、前記突出部48を確実に挟持するためである。前記突出部48の下端部は、前記釘保持部除去工具71の係止孔74への挿入を容易とするため、先細りのテーパ面に形成されている。なお、前記突出部48は六角柱状に限られるものではなく、三角柱状、四角柱状等の多角柱状としてもよく、円柱状、楕円柱状としてもよい。但し、使用する工具との係止状態、把持状態等を考慮すると、六角柱状が最も好ましい。
【0055】
次に、コンクリートを打設してから型枠61を取外した後、釘保持部41をコンクリートに埋設されたインサート本体2から離脱させるための工具を説明する。
図9、図10及び図13において、釘保持部除去工具71は釘保持部41においてインサート本体2の中空空間27内に突出する筒状部42の外面に係止する係止部73を備えた工具本体72と、一端側が前記工具本体72に連結され、他端側を把持されて棒軸を中心に回動されることにより前記工具本体72を回動操作可能な延長棒部材81とで構成されている。
【0056】
前記工具本体72は先端に向かう程小径となる円筒状に形成されており、合成樹脂により一体に形成されている。前記係止部73は前記工具本体72の上端部に形成されており、内部に前記釘保持部41の筒状部42の突出部48が挿入される係止孔74を有している。前記係止孔74は前記釘保持部41の筒状部42の突出部48の形状に対応して断面が六角形状に形成されている。また、前記係止孔74の上端開口の周縁部には半球形状の傾斜面からなるガイド傾斜面75が形成されており、前記釘保持部41の筒状部42の突出部48を係止孔74内に導いて円滑に係止できるようになっている。前記工具本体72の下端部の周壁には一対のねじ孔76が穿設されており、いずれか一方或いは双方のねじ孔76にねじ77が螺着されて延長棒部材81を連結できるようになっている。
【0057】
一方、前記延長棒部材81は長尺な筒状或いは丸棒状の柄部82で形成され、一端側は前記ねじ77を介して工具本体72に着脱自在に連結されている。また、他端側には別体の筒状の把持部材84が取付ねじ85を介して取付けられており、この部分は手で把持可能な把持部83を形成している。
【0058】
前記釘保持部除去工具71はこのように形成されているので、延長棒部材81の把持部83を把持して、インサート1の釘保持部41の下方から工具本体72の係止部73をインサート本体2の中空空間27に突出している前記釘保持部41の筒状部42の突出部48に外嵌し、係止させて前記釘保持部41をその中心軸を軸に回動させることができる。このとき、前記釘保持部41の先端から突出している釘51の先端部54も該釘保持部41の筒状部42の突出部48とともに工具本体72の係止孔74内に収容されるので、係止部73を係止させるときの妨げになることはない。
【0059】
なお、前記工具本体72における円筒状の係止部73は、その側壁の一部に挿入開口を有する、断面が略C字形状をなす筒状のものに形成してもよく、その場合には、前記挿入開口を通して釘保持部41の側方から軸に平行に近接させながら該釘保持部41或いは釘51を係止孔74内に挿入することができ、釘保持部41の下方のみならず側方からも係止部73を釘保持部41に係止させることができる。
【0060】
次に、上記のように構成された本実施形態のインサート1をコンクリートに埋設する方法を図9乃至図14に基づいて説明する。
まず、図11(a)に示すように、型枠61に打ち込まれる釘51は、軸部52がインサート金具11の螺着部13内を貫通し、頭部53及び軸部52の一部がインサート本体2から当接面24と反対側の外方、即ち図11(a)におけるインサート金具11の上方に突出し、前記釘51の先端部54が前記当接面24の開口25から型枠61側に突出しない状態で、釘保持部41内に保持させておく。そして、その状態で、インサート1の当接面24を型枠61の片面に当接させる。但し、前記釘51の先端部54は実質的に当接面24から突出していなければよく、安定した据付けの妨げにならない程度であれば、極く僅かに突出していてもよい。
【0061】
このとき、型枠61の所定位置に釘51を打ち込むには、例えば、図12に示すように、型枠61の片面に直交する2本の罫書線62を引き、図12において+印で示す交点63を打設位置として設定する。そこで、インサート1の正四角形状の当接板23の4隅を前記罫書線62上に位置合わせすれば、前記2本の罫書線62の交点63に釘51を打ち込むことができる。また、これにより、型枠61上における当接板23ひいてはインサート1の向きも所定方向に設定することができる。この点からも、前記当接板23は正四角形状に形成しておくのが望ましい。但し、当接板23の4隅部に2本の罫書線63に位置合わせするための目印線、刻印、切欠等からなる指標を表示したり、当接板23に確認窓を設ければ、前記当接板23は正四角形状以外の、長方形状、その他の多角形状、円形状、楕円形状などの形状に形成することもできる。なお、ベース体21を透明な合成樹脂で形成すれば、空間形成部26を通して外部から釘保持部41の下端位置を確認することができ、釘51の先端部54を型枠61の所定位置に当接させることが可能となる。
【0062】
次に、図11(b)に示すように、ハンマー等の工具で釘51の頭部53を直接叩打し、或いは釘51の頭部53にこれより少し細径の丸棒状の工具をあてがい、その頭部を前記ハンマー等の工具で叩打することにより、軸部52の一部及び先端部54を型枠61に打ち込む。このとき、釘51の軸部52は釘保持部41の筒状部42の貫通孔43内に圧入されているが、頭部53を叩打されることによって前記釘保持部41の貫通孔43に案内されてその内部を摺動し、型枠61の面に対して垂直に打ち込まれる。釘51が打ち込まれた後は、その頭部53は釘保持部41の上端部の収容凹部内に埋設され、コンクリート打設時にコンクリートのトロが釘51の頭部53の下側に回って硬化後に釘51が抜け外し不能となるのが回避される。
【0063】
このようにして、釘51を型枠61に打ち込んだ後は、図11(c)に示すように、型枠61上にコンクリートを打設する。ここで、インサート1には空間形成部26が設けられているので、コンクリートが中空空間27に侵入するのが防止される。
【0064】
次に、コンクリートが硬化したら、図11(d)に示すように、型枠61を取外す。このとき、釘保持部41は螺合突部44がインサート金具11の螺着部13に螺合し、強固に取着されているので、前記型枠61を下方に取外しただけでは該型枠61についていかず、釘51とともにインサート本体2側にそのまま保持される。型枠61が取外されると、インサート1はコンクリートスラブ64内に埋設され、当接面24がコンクリート面65から露出し、中空空間27が開口25を通して外部に臨むこととなる。
【0065】
型枠61を取外した後は、コンクリート面65から外部に突出している釘51を除去するため、図13に示すように、前記釘保持部除去工具71を使用して、コンクリートスラブ64内に埋設されているインサート1から釘保持部41を釘51と一体に離脱させる。具体的には、まず、図13(a)に示すように、インサート1の下方から前記釘保持部除去工具71を近接させる。
【0066】
次いで、図13(b)に示すように、前記釘保持部除去工具71の工具本体72における係止部73の係止孔74をインサート1の中空空間27内に突出している釘保持部41の筒状部42の突出部48に外嵌し、係止させる。このとき、インサート本体2の中空空間27は前記釘保持部除去工具71の係止部73を当接面24の開口25から挿入できる大きさに形成されているので、支障なく前記係止部73を中空空間27内に挿入して係止させることができる。また、釘保持部41に保持されている釘51は筒状をなす前記工具本体72の内部に収容され、前記係止の妨げになることはない。更に、前記釘保持部除去工具71は工具本体72に延長棒部材81が連結された長尺なものであるから、床面上に立った姿勢で遠隔操作により係止部73を係止させることができる。ここで、前記釘保持部除去工具71の係止孔74の開口縁部には半球殻状をなすガイド傾斜面75が形成されており、釘保持部41の突出部48を係止孔74内に挿入し易くしている。
【0067】
なお、前述のように、釘保持部除去工具71の係止部73は断面を略C字状に形成し、側面に挿入開口を設けたものとすれば、下方向のみでなく、釘保持部41或いは釘51の側方からも近接させて係止孔74内に挿入することができる。
【0068】
次に、釘保持部除去工具71の係止部73を釘保持部41の突出部48に係止させたら、前記釘保持部除去工具71の把持部83を棒軸を中心に回動し、遠隔操作により前記釘保持部41をその中心軸を軸に回動する。すると、回動による周方向の力により、釘保持部41の連結部46は周方向に間隔をおいて形成された複数の接合凸部における切欠47による薄肉部において剪断による破断を生じ、釘保持部41はベース体21から分離される。連結部46が破断した後は、更に回動を継続することにより、インサート金具11の螺着部13と釘保持部41の螺合突部44との螺合が解除され、前記釘保持部41はインサート本体2から離脱可能な状態となる。
【0069】
なお、このとき、前記釘保持部41はインサート本体2の空間形成部26の内部にあってコンクリートとは接触しておらず、釘保持部除去工具71を回動する際に、コンクリート面との接触抵抗を受けないので、円滑に回動操作を行なうことができる。また、インサート1には一対の補助支柱30が設けられ、当接板23は正四角形状に形成されているから、これらが抵抗となり、前記釘保持部除去工具71を使用して釘保持部41を回動させたとき、これに連結されているインサート本体2も一体となってコンクリートスラブ64内で回動してしまうのが防止される。
【0070】
なお、釘保持部41ではなく釘51の突出している先端部54をペンチやプライヤ等の工具で掴持して釘51を釘保持部41とともに取外すことも可能であるが、釘51は細径かつ円柱状であるため、滑って掴持しにくく、掴みが滑ったときには反動で怪我をすることもあり危険である。その点、前記釘保持部除去工具71はそのような不具合がなく、また、高所にあるインサートに対して、梯子や脚立に登ることなく床面に立った姿勢で遠隔操作できるという利点がある。
【0071】
釘保持部41が離脱可能な状態となったら、図14に示すように、釘保持部除去工具71を引下げれば、釘保持部41は、自重により前記釘保持部除去工具71の係止部73に載置された状態で、或いは、係止孔74内への圧入により前記係止部73に保持された状態で、釘51とともにインサート本体2から離脱し、下方に引出される。以上により、インサート1は釘保持部41及び釘51が除去された状態でコンクリートスラブ64内に埋設され、施工が完了する。
【0072】
なお、この実施形態において、脱型後、インサート1から釘保持部41を離脱させるため、釘保持部41の筒状部42を係止孔74に係止させる釘保持部除去工具71を使用しているが、他のペンチやプライヤ等の工具を使用し、これを中空空間27内に挿入し、釘保持部41の突出部48の両側面を挟持して回動させることもできる。また、前記釘保持部除去工具71は連結用のねじ77を緩めて延長棒部材81を取外し、工具本体72単独で使用することも可能である。
【0073】
次に、本実施形態のインサート1の作用を説明する。
インサート1は、型枠61に1本の釘51のみで固定されるので、型枠61への釘51の打込み作業及びコンクリート埋設後の釘51の除去作業にかかる手間が減る。
【0074】
また、型枠61に当接する当接面24を備えているので、コンクリート打設時に型枠61に安定して据付けられる。更に、釘保持部41は釘51をその軸部52に沿って保持するとともに、釘51は釘保持部41の筒状部42の貫通孔43内に圧入されている。このため、釘保持部41は型枠61に釘51を打ち込む際の案内としても機能するから、釘51を型枠61に真直ぐ打ち込むことができ、インサート1を前記型枠61に対して垂直姿勢に保持できる。
【0075】
そして、釘保持部41は、釘保持部除去工具71による回動前は、インサート金具11の螺着部13との螺合及び連結部46における連結によってインサート本体2に大きな結合力で一体化された状態にある。このため、前記釘保持部41は、脱型時に、打ち込まれた釘51を介して型枠61に引張られても、インサート本体2から抜け外れてしまうことはない。その結果、型枠61に釘51が残された場合に、強固に固定されている釘51を多大な労力を費やして引抜いて除去するという面倒な作業を行なう必要がない。一方、脱型後もインサート本体2側に保持されている釘保持部41は、筒状部42に釘保持部除去工具71の係止部73を係止させて回動するだけの簡単な操作でかつ小さい力で釘51とともにインサート本体2から離脱され、コンクリート埋設後に釘51がコンクリート面65から突出したままの状態となるのが防止される。
【0076】
更に、釘保持部41は破断可能な連結部46を介してインサート本体2に取着されているので、一体成形によって簡単にインサート本体2に一体化することができる。そして、脱型後は、工具を使用して筒状部42の軸を中心に回動するだけで連結部46は周方向に簡単に破断され、釘保持部41はインサート本体2から離脱可能となる。
【0077】
加えて、釘保持部41において中空空間27内に突出する筒状部42が六角柱状に形成されているので、工具を前記筒状部42に確実に係止或いは挟持せしめ、安定した状態で釘保持部41を回動させることができる。
【0078】
ところで、上記実施形態の釘保持部41は、インサート金具11の螺着部13に螺合させているが、ベース体21の空間形成部26内において螺合するものとしてもよく、前記インサート金具11の螺着部13及び前記ベース体21の空間形成部26の双方において螺合するものとしてもよい。この場合は、請求項4の態様に相当する。
【0079】
更に、上記実施形態におけるインサート本体2と釘保持部41とを連結する連結部46は、前記連結部46は、釘保持部41の一対の連結用突部45の先端周縁に周方向に間隔をおいて複数の小さい接合凸部を設けて形成しているが、これに限られるものではなく、前記釘保持部41の外周面に環状に薄肉の鍔部を設け、この薄肉の鍔部において破断可能に連結するものとしてもよい。
【0080】
また、上記実施形態の連結部46は、インサート本体2と釘保持部41との連結力、結合力を、脱型時に該釘保持部41が型枠61に引張られてインサート本体2から抜き取られる力より大きく、しかも、脱型後に中心軸を軸に回動されて周方向の力を受けたときは切欠47の形成部分において破断するような大きさに設定することも可能である。この場合は、釘保持部41は脱型時に型枠61側に引き抜かれるのを防止するための、インサート金具11の螺着部13に螺合する螺合突部44は不要とすることもでき、前記連結部46のみによって、脱型時においては釘保持部41のインサート本体2からの離脱を防ぎ、脱型後においては前記離脱を可能とすることができる。そのような連結部46を形成するには、例えば、釘保持部41の連結用凸部45の先端周縁に周方向に間隔をおいて形成された複数の小さい接合凸部の形状を、軸方向即ち引抜き方向には長く、周方向即ち回動方向には短かい細長のものとし、軸方向には破断し難いが、周方向には小さい力で破断するものとすることによって可能となる。
【0081】
更に、上記実施形態のインサート本体2においては、インサート金具11及びベース体21は、釘保持部41の螺合突部44が前記インサート金具11の螺着部13に螺合するとともに、前記釘保持部41の連結部46においてベース体21と連結することにより、即ち、釘保持部41を介する螺着及び連結により、一体化されている。しかし、これに限られるものではなく、前記インサート金具11及びベース体21は、ベース体21の金具収容スリーブ22にインサート金具11の円筒部12を圧入したり、前記円筒部12の外面と前記金具収容スリーブ22とを螺合することなどにより、直接一体化することもできる。
【0082】
そして、上記実施形態の釘保持部41は、破断可能な連結部46を介して合成樹脂の一体成形によりインサート本体2に離脱可能に一体化しているが、別体に形成し、これをインサート本体2に圧入したり螺着するなどの手段により組付けて一体化するものとしてもよい。また、前記インサート金具11、ベース体21及び釘保持部41を別体の3物品とし、前記釘保持部41において、連結用突部45及び連結部46に代え、その下側の外周面に外方に突出する鍔部を設け、前記釘保持部41の螺合突部44をインサート金具11の螺着部13に螺合することにより、図7及び図14において示す、前記ベース21の環状突部29をインサート金具11の円筒部12の下端面と前記釘保持部41の鍔部とで上下方向から挟持して、前記3物品を一体化するものとしてもよい。
【0083】
また、上記実施形態のインサート1のベース体21は、左右両側に一対の補助支柱30を設けてインサート金具11を支持し、その鍔部14を水平姿勢に保つようにしているが、前記補助支柱30がなくてもインサート金具11を一定姿勢に安定して保持できれば、必ずしも要するものではない。
【0084】
加えて、上記実施形態の当接板23は、系統別に、青色、黄色、赤色など各種に色分けしておけば、その素材色がコンクリート面65から露出し、識別機能を発揮するので、インサート1をコンクリートに埋設後、他の業者が、該インサート1に取着されるボルト体66の種類や工事内容を直ちに確認することができる。また、これらの事項は当接面24に刻印により表示してもよい。
【0085】
そして、上記実施形態の当接面24は、正四角形状の当接板23に形成されているが、開口25の外側のはみ出し部分を除去し、開口25の外周部、即ち空間形成部26の下端における環状端面のみで形成してもよい。この場合、当接面24は円形であるので、インサート1の向きの方向性がなく、インサート1を型枠61に固定する際、該インサート1は任意方向に配置できる。また、外観的に、インサート1がコンクリート面65から外方に臨む部分はほぼ開口25そのものとなる。
【0086】
更に、前記インサート金具11の鍔部13は、円盤状に形成しているが、この形状に限られるものではない。また、前記鍔部13は、補助支柱30に支持されて一定姿勢を保つため、及びアンダーカットとして機能してコンクリート埋設後にインサート1がコンクリートスラブ64から抜け外れるのを防止するために設けられているが、他の手段によりインサート1を一定姿勢に保つことができるとともに、他の部分にアンダーカットを設けてコンクリート埋設後の抜け外れを確実に防止できれば、不要とすることもできる。
【0087】
そして、前記ベース体21の空間形成部26は、半球殻状に形成しているが、工具の端部を中空空間27内に円滑に挿入できれば、中空多角柱状、中空多角錐状、半楕円球殻状など任意の形状に形成することができる。但し、半球殻状であれば、方向性がなく、ペンチ等の挟持工具を任意の方向から中空空間27内に挿入できる。
【0088】
なお、上記実施形態のインサート1は、脱型後、連結部46で破断して釘保持部41をベース体21から離脱させているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、連結部46を破断不能なものとして釘保持部41をベース体21に一体化し、脱型後、釘保持部41の筒状部42を工具で回動することによりインサート金具11の螺着部13との螺合を解除して、前記釘保持部41を前記ベース体21と一体にインサート金具11から離脱させることも可能である。この場合は、最終的には、インサート金具11のみがコンクリートスラブ64内に埋設されることになる。但し、この場合、ベース体21の空間形成部26も回動して釘保持部41と一体となって離脱することになるが、前記空間形成部26の外周面はコンクリートスラブ64と接触しているので、回動時にコンクリートスラブ64面から摺動抵抗を受けることとなる。なお、ベース体21の空間形成部26の外周面に離型剤等を塗布することにより前記摺動抵抗を軽減できる可能性はある。
【0089】
ところで、上記実施形態では、二重天井のコンクリートスラブ64内にボルト体66としての吊ボルトを吊設するためのインサートを示したが、コンクリート壁に工事用足場を形成するボルトを取着するためのインサートなど各種インサートにも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施形態のインサートを示す斜視図である。
【図2】図1のインサートの正面図である。
【図3】図1のA−A切断線による断面図である。
【図4】図1のB−B切断線による断面図である。
【図5】図1のインサートを形成する状態を示す分解斜視図である。
【図6】図5の断面図である。
【図7】図5の釘保持部を示す拡大断面図である。
【図8】図7の釘保持部を示す拡大斜視図である。
【図9】本発明の実施形態のインサートの釘保持部除去工具を示す正面図である。
【図10】図9の工具本体の斜視図である。
【図11】図1のインサートの埋設方法を示す断面図であり、(a)はインサートを型枠に据付ける状態を示し、(b)は型枠に釘を打ち込んだ状態、(c)はコンクリートを打設した状態、(d)は型枠を取外す状態を示す。
【図12】図1のインサートを型枠の所定位置に据付ける状態を示す平面図である。
【図13】脱型後、図3のインサート本体から釘保持部を離脱させる方法を示す断面図であり、(a)はインサートの下方から釘保持部除去工具を近接させる状態を示し、(b)は釘保持部除去工具の係止部を釘保持部の筒状部に係止させた状態を示す。
【図14】図13のインサート本体から釘保持部を離脱させた状態を示す断面図である。
【図15】コンクリート埋設された本実施形態のインサートにボルト体を取着した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 インサート
2 インサート本体
11 インサート金具
13 螺着部
21 ベース体
24 当接面
25 開口
26 空間形成部
27 中空空間
41 釘保持部
42 筒状部
43 貫通孔
46 連結部
47 切欠
48 突出部
51 釘
52 軸部
53 頭部
54 先端部
61 型枠
64 コンクリートスラブ
66 ボルト体
71 釘保持部除去工具
72 工具本体
73 係止部
81 延長棒部材
83 把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート型枠に1本の釘で固定されてコンクリート内に埋設され、ボルト体が取付けられるインサートであって、
前記型枠に当接する当接面と、前記当接面からコンクリート内部側に離間して設けられ、前記ボルト体が螺着する螺着部と、前記螺着部と前記当接面との間に設けられ、前記当接面側に開口する中空空間を形成し、前記中空空間内にコンクリートが侵入するのを防止する空間形成部とを有するインサート本体と、
前記インサート本体に離脱可能に一体化され、筒状に形成された筒状部で前記釘をその軸部に沿って保持する釘保持部と
を備え、
前記釘保持部は、前記釘の軸部が前記螺着部内を貫通し、前記釘の先端が前記当接面から外方に突出せず、前記釘の頭部がインサート本体から前記当接面と反対側の外方に突出した状態で、前記筒状部の内部に前記釘の軸部を保持するとともに、釘の頭部が叩打されることによって前記筒状部内を前記釘の軸部が摺動して型枠に打ち込み可能に形成され、更に、前記筒状部の一部が前記中空空間内に突出し、前記型枠を取外し後に前記突出している筒状部の外面に工具を係止させて該筒状部の中心軸を軸に回動されることによって前記釘とともに前記インサート本体から離脱するよう形成されており、
前記中空空間は、前記工具を前記当接面側の開口から内部に挿入可能な大きさに形成されたことを特徴とするインサート。
【請求項2】
前記釘保持部は、螺着部と螺合していることを特徴とする請求項1に記載のインサート。
【請求項3】
前記釘保持部は、回動により破断可能な連結部を介してインサート本体に取着されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインサート。
【請求項4】
前記釘保持部は、空間形成部内に螺合していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のインサート。
【請求項5】
前記釘保持部は、中空空間内に突出して外面に工具が係止する筒状部が多角柱状に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のインサート。
【請求項6】
前記空間形成部は、その内面が、コンクリート埋設後にボルト体の端部が当接面の開口から中空空間内に挿入されて螺着部に螺回動される際に、前記ボルト体の端部を螺着部に向けて移動させるべく案内する案内面に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のインサート。
【請求項7】
請求項1に記載されたインサートから釘保持部を除去するためのインサートの釘保持部除去工具であって、
前記釘保持部の筒状部の外面に係止する係止部を備えた工具本体と、
一端側が前記工具本体に連結され、他端側に、把持されて棒軸を中心に回動されることにより前記工具本体を回動操作可能な把持部を備えた延長棒部材と
を具備することを特徴とするインサートの釘保持部除去工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−75395(P2008−75395A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258132(P2006−258132)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000243803)未来工業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】