説明

インサート及び成形品

【課題】インサートが含むOVD層に白化が生じるのを抑制する。
【解決手段】本発明のインサート10は、インサート成形に使用するインサートであって、基材11と、前記基材11上に形成されたOVD層12と、前記OVD層12を挟んで前記基材11と向き合うと共に前記OVD層12と接触した耐熱樹脂層13とを具備し、前記耐熱樹脂層13の表面は前記インサート10の最表面を構成し、前記耐熱樹脂層13が含む各層は溶液塗布法又は印刷法によって形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート及び成形品に係り、特には、OVD(optically variable device)層を含んだインサート及びこれを用いてインサート成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
物体が呈する色には、物体色と構造色とがある。物体色は、物体が光を吸収した結果として生じる色である。構造色は、干渉、屈折、分散、散乱及び回折などの光学現象の結果として生じる色である。
【0003】
OVD又はDOVID(diffractive optically variable imaging device)と呼ばれる光学素子は、構造色を呈する素子であって、照明方向及び/又は観察方向等に応じた色変化(カラーシフト)を生じる。ホログラム、回折格子及び多層膜は、代表的なOVDである。
【0004】
これらOVDの製造には、高度な技術が必要である。そして、OVDは、独特な視覚効果を有している。これらの特徴から、クレジットカード、有価証券及び証明書類などの物品では、それらの偽造を防止すべく、OVDを使用することがある。
【0005】
また、近年では、OVDの装飾性が注目を集めており、プラスチック成形品に装飾性を付与するためにOVDを使用することがある。例えば、携帯電話の筐体、電気機器や音響機器のハウジング、自動車の内装部品、文具及び玩具などのプラスチック成形品でOVDを使用することがある。
【0006】
プラスチック成形品でOVDを使用する場合、従来は、プラスチック成形品にOVD層を貼り付けていた。しかしながら、このような方法では、プラスチック成形品の曲面にOVD層を支持させることは難しい。加えて、この方法では、剥離の問題は避けられない。
【0007】
特許文献1には、OVD層を含んだインサートを用いてインサート成形することが記載されている。このインサートは、基材上に、ホログラム形成層と蒸着層と保護層とをこの順に積層した構造を有しており、ホログラム形成層と蒸着層との積層体がOVD層を構成している。このインサートにおいて、ホログラム形成層は、例えば塩化ビニル樹脂からなる。また、蒸着層は、例えばアルミニウムからなる。保護層は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂からなり、溶融押出しにより形成される。保護層は、インサート成形の際に溶融樹脂の熱によりホログラム形成層が白化するのを防止する役割を果たす。
【0008】
インサート成形によると、プラスチック成形品の曲面にOVD層を支持させることは比較的容易であり、また、剥離の問題は生じ難い。しかしながら、本発明者は、このインサートには、その製造の段階で、ホログラム形成層に白化を生じる可能性があることを見出している。
【特許文献1】特開2005−3853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、インサートが含むOVD層に白化が生じるのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1側面によると、インサート成形に使用するインサートであって、基材と、前記基材上に形成されたOVD層と、前記OVD層を挟んで前記基材と向き合うと共に前記OVD層と接触した耐熱樹脂層とを具備し、前記耐熱樹脂層の表面は前記インサートの最表面を構成し、前記耐熱樹脂層が含む各層は溶液塗布法又は印刷法によって形成されたことを特徴とするインサートが提供される。
本発明の第2側面によると、第1側面に係るインサートを用いてインサート成形してなる成形品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、インサートが含むOVD層に白化が生じるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明の一態様に係るインサートを概略的に示す断面図である。
このインサート10は、基材11とOVD層12と耐熱樹脂層13とを含んでいる。
【0014】
基材11は、例えば、樹脂フィルム又は樹脂シートなどの樹脂層である。この樹脂層の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、耐熱塩化ビニル、又はポリカーボネートを使用することができる。基材11は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
【0015】
OVD層12は、基材11上に形成されている。OVD層12は、構造色を呈する層である。図1に示す例では、OVD層12は、OVD形成層12aとOVD効果層12bとを含んでいる。OVD効果層12bのOVD形成層12a側の主面又はその裏面は、レリーフ型の回折格子又はホログラムを形成している。
【0016】
OVD形成層12aは、基材11上に形成されている。OVD形成層12aの表面には、凹構造及び/又は凸構造が設けられている。この凹構造及び/又は凸構造が、OVD層12の構造色を発現させる。
【0017】
OVD形成層12aの材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂又はビニル樹脂を使用することができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、メラミン樹脂又はフェノール樹脂を使用することができる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシアクリル樹脂、エポキシメタクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂又はウレタンメタクリレート樹脂を使用することができる。これら樹脂は、単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。また、OVD形成層12aは、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
【0018】
表面に凹構造及び/又は凸構造を有するOVD形成層12aは、例えば、以下に説明するように、版を用いた転写により形成することができる。
【0019】
まず、表面に凹構造及び/又は凸構造を有するマスター版を製造する。マスター版は、例えば、光学的な撮影を利用した方法又は電子線描画を利用した方法により製造する。或いは、マスター版は、誘起表面レリーフ形成法により製造してもよい。
【0020】
ここで、誘起表面レリーフ形成法について説明する。例えば、側鎖にアゾベンゼンを有しているポリマーを含んだアモルファス層に、波長が青色乃至緑色の範囲内にある比較的弱い光(数10mW/cm2程度)を照射すると、数μmのスケールで分子の移動が生じる。誘起表面レリーフ形成法は、このような現象を利用して表面レリーフ構造を形成する方法である。
【0021】
次に、上述した方法により製造したマスター版を用いて、プレス版を製造する。プレス版は、例えば、マスター版の凹構造及び/又は凸構造が設けられている面に、電気めっき法を利用してニッケル層を形成することにより製造する。
【0022】
その後、このプレス版を用いてOVD形成層12aを形成する。
OVD形成層12aの材料として熱可塑性樹脂を使用する場合には、まず、基材11上に熱可塑性樹脂層を形成する。次いで、この熱可塑性樹脂層にプレス版を押し当てると共に、熱可塑性樹脂層を加熱する。これにより、プレス版に設けられた凹構造及び/又は凸構造を、熱可塑性樹脂層に転写する。その後、熱可塑性樹脂層からプレス版を取り除く。以上のようにして、OVD形成層12aを得る。
【0023】
OVD形成層12aの材料として熱硬化性樹脂を使用する場合には、まず、未硬化の熱硬化性樹脂層を間に挟んで、基材11とプレス版とを重ね合わせる。次いで、この状態で、熱硬化性樹脂層を加熱し、これを硬化させる。その後、熱硬化性樹脂層からプレス版を取り除く。以上のようにして、表面に凹構造及び/又は凸構造が設けられたOVD形成層12aを得る。
【0024】
OVD形成層12aの材料として光硬化性樹脂を使用する場合には、まず、未硬化の光硬化性樹脂層を間に挟んで、基材11とプレス版とを重ね合わせる。次いで、この状態で、光硬化性樹脂層に紫外線又は電子線などのエネルギー線を照射し、これを硬化させる。その後、光硬化性樹脂層からプレス版を取り除く。以上のようにして、表面に凹構造及び/又は凸構造が設けられたOVD形成層12aを得る。
【0025】
OVD効果層12bは、OVD形成層12a上に形成されている。OVD効果層12bは、光反射性を有している層であって、OVD形成層12aが発現させる構造色をより視認し易くする層である。
【0026】
OVD効果層12bとしては、例えば、反射層を使用することができる。反射層の材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及び金(Au)などの金属又はそれらの合金を使用することができる。
【0027】
OVD効果層12bは、光反射性に加え、光透過性をさらに有していてもよい。そのようなOVD効果層12bとしては、例えば、OVD形成層12aのOVD効果層12bと接触している部分と比較してより大きな屈折率を有している高屈折率層を使用することができる。それらの屈折率の差が大きい場合,例えば0.2以上である場合,には、OVD形成層12aとOVD効果層12bとの界面で十分な光反射を生じさせることができる。高屈折率層の材料としては、例えば、硫化亜鉛(ZnS)又は二酸化チタン(TiO2)を使用することができる。
【0028】
OVD効果層12bの厚さは、例えば、5nm乃至1000nmの範囲内とする。OVD効果層12bは、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。OVD効果層12bは、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0029】
OVD効果層12bは、パターニングされていてもよい。OVD効果層12bは、例えば、エッチング又はレーザ光照射によりパターニングすることができる。
【0030】
光反射性及び光透過性を有しているOVD効果層12bとして、バインダ樹脂とその中で分散した微粒子,例えば平均粒径が500nm以下の微粒子,とを含有した層を使用してもよい。バインダ樹脂としては、透明樹脂を使用することができる。微粒子の材料としては、例えば、金属材料又は高屈折率材料を使用することができる。金属材料としては、例えば、反射層について例示したのと同様の材料を使用することができる。高屈折率材料としては、例えば、高屈折率層について例示したのと同様の材料を使用することができる。
【0031】
バインダ樹脂及び微粒子を含有したOVD効果層12bは、例えば、印刷法又は塗布法により形成することができる。このOVD効果層12bも、反射層や高屈折率層と同様にパターニングされていてもよい。
【0032】
耐熱樹脂層13は、OVD層12上に形成されている。耐熱樹脂層13は、単層構造又は多層構造を有しており、耐熱樹脂層13が含んでいる各層は、溶液塗布法又は印刷法によって形成された層である。耐熱樹脂層13の一方の主面はOVD層12と接触しており、他方の主面はインサート10の一方の最表面を構成している。耐熱樹脂層13は、インサート10を用いたインサート成形の際に、溶融樹脂の熱によりOVD層12,特にはOVD形成層12a,が白化するのを防止する役割を果たす。
【0033】
耐熱樹脂層13は、ガラス転移温度(Tg)が比較的高い層を含んでいる。例えば、耐熱樹脂層13が含んでいる少なくとも1つの層は、OVD層12が含んでいる樹脂層,この例ではOVD形成層12a,と比較してガラス転移温度がより高い。典型的には、耐熱樹脂層13が含んでいる少なくとも1つの層は、OVD層12が含んでいる樹脂層及び基材11と比較してガラス転移温度がより高い。
【0034】
耐熱樹脂層13のガラス転移温度は、例えば150℃以上とし、典型的には170℃以上とする。例えば、耐熱樹脂層13の材料として、例えば、ガラス転移温度が170℃以上の樹脂を60質量%以上含有した材料を使用する。
【0035】
インサート成形では、例えば、280℃乃至350℃に加熱した溶融樹脂を金型に流し込む。そのため、耐熱樹脂層13のガラス転移温度が低いと、溶融樹脂を金型に流し込んだ際に耐熱樹脂層13が流動化する。その結果、OVD層12に微細な変形を生じ、白く濁ったように見える白化現象を生じることがある。
【0036】
耐熱樹脂層13のガラス転移温度が十分に高ければ、溶融樹脂を金型に流し込んだ際に耐熱樹脂層13が流動化することはない。したがって、OVD層12に微細な変形が生じるのを防止でき、それゆえ、白化現象が生じるのを防止することができる。
【0037】
耐熱樹脂層13は、主成分として、ガラス転移温度が例えば170℃以上の樹脂を含有している。そのような樹脂としては、例えば、ガラス転移温度が170℃以上の環状ポリオレフィン共重合体、ガラス転移温度が170℃以上の変性ノルボルネン樹脂、ガラス転移温度が190℃以上のポリアリレート樹脂、ガラス転移温度が190℃以上のポリスルホン樹脂、ガラス転移温度が220℃以上のポリエーテルスルホン樹脂、ガラス転移温度が200℃以上のポリエーテルイミド樹脂、ガラス転移温度が200℃以上のポリアミドイミド樹脂、又はガラス転移温度が250℃以上のポリイミド樹脂を使用することができる。
【0038】
耐熱樹脂層13の厚さは、例えば0.5μm乃至10μmの範囲内とし、典型的には0.5μm乃至2μmの範囲内とする。溶液塗布法又は印刷法によると、耐熱樹脂層13を厚く形成することも可能であるが、溶融押出し法と比較して、耐熱樹脂層13をより薄く形成することができる。耐熱樹脂層13は、例え薄くても、白化現象が生じるのを防止することができる。そして、耐熱樹脂層13を薄くすると、製造コストの低減に有利である。加えて、耐熱樹脂層13を薄くすると、インサート10の柔軟性が向上するため、インサート10を成形品の曲面に支持させることなどがさらに容易になる。
【0039】
ところで、例えば、溶融押出し法によりポリエチレンテレフタレートをラミネートする場合、ポリエチレンテレフタレートは270℃程度に加熱する必要がある。そのため、耐熱樹脂層13を溶融押出し法により形成すると、OVD12が高温に熱せられ、白化現象を生じる可能性がある。しかも、耐熱樹脂層13を溶融押出し法により形成する場合、大掛かりな設備が必要である。
【0040】
これに対し、溶液塗布法又は印刷法により耐熱樹脂層13を形成する場合、加熱は塗膜から溶剤を揮発させるためにのみ行えばよく、通常、この乾燥温度は80℃乃至150℃程度と比較的低温である。そのため、耐熱樹脂層13を形成することに伴って白化現象を生じることはない。また、溶液塗布法又は印刷法によると、例えばスクリーン印刷機及びグラビア印刷機などの印刷機又はコーティング機を用いて耐熱樹脂層13を形成することができる。すなわち、溶液塗布法又は印刷法によると、大掛かりな設備は不要である。
【0041】
OVD形成層12aとOVD効果層12bとの界面に設ける凹構造及び/又は凸構造は、視覚効果が異なる複数の画素をマトリクス状に並べることにより構成してもよい。これら画素の各々の視覚効果が分かっていれば、それらの並べ替えによって得られる像の予想は容易である。それゆえ、デジタル画像データから、各画素に採用すべき構造を容易に決定することができる。したがって、凹構造及び/又は凸構造を二次元的に配列した複数の画素で構成すると、インサート10の設計が容易になる。
【0042】
凹構造及び/又は凸構造には、様々な画像を表示させることができる。例えば、凹構造及び/又は凸構造に、二次元画像又は三次元画像を表示させることができる。二次元画像としては、例えば、星などの図形や、肉眼では判別不可能な微細な文字,所謂、マイクロ文字,などの文字を表示させることができる。また、凹構造及び/又は凸構造には、多色の画像を表示させることや、観察角度等に応じて異なる画像を表示させることも可能である。
【0043】
OVD層12には、様々な構造を採用することができる。例えば、レリーフ型の回折格子又はホログラムを含んだOVD層12の代わりに、体積型の回折格子又はホログラムを含んだOVD層を使用してもよい。但し、量産性や製造コストを考慮した場合、レリーフ型は、体積型と比較して有利である。
【0044】
或いは、OVD層12として、コレステリック液晶層を使用してもよい。コレステリック液晶層において、液晶分子は、右回り又は左回りの螺旋構造を形成している。法線方向から自然光を照射した場合、コレステリック液晶層は、この螺旋のピッチと等しい右円偏光又は左円偏光を選択的に反射する。そして、コレステリック液晶層が選択的に反射する光の波長は、照明光の入射角に応じて変化する。すなわち、コレステリック液晶層を用いた場合にも、カラーシフトを生じさせることができる。
【0045】
OVD層12として、多層膜を使用してもよい。多層膜は、光透過性を有している薄膜の積層体であり、隣り合う薄膜は屈折率が互いに異なっている。各薄膜の光学的厚さは、その薄膜で干渉を生じさせるべき光の波長に応じて定められている。各薄膜で干渉により強め合う光の波長は、その薄膜への光の入射角に応じて変化する。すなわち、多層膜を用いた場合にも、カラーシフトを生じさせることができる。
【0046】
OVD層12として、バインダ樹脂とその中で分散した超微粒子とを含有した層を使用してもよい。バインダ樹脂としては、透明樹脂を使用することができる。超微粒子としては、例えば、還元二酸化チタン被覆雲母又は酸化鉄被覆雲母を使用することができる。このような層は、フリップ・フロップ効果によりカラーシフトを生じ得る。
【0047】
これら層の2以上を含んだ積層体をOVD層12として使用してもよい。この場合、より複雑な色表示が可能となる。
【0048】
インサート10の装飾性を高めるために、これが含む1以上の層を着色してもよく、層間に印刷層を介在させてもよい。また、OVD層12の視覚効果を高めるべく、黒色や青色の着色層をさらに使用してもよい。
【0049】
インサート10の層間には、それら層の密着性を向上させるべく、アンカーコート層を介在させてもよい。また、耐熱保護層13は、その最表面に接着層をさらに含んでいてもよい。同様に、基材11の表面には、接着層を形成してもよい。こうすると、インサート10と射出成形樹脂との密着性を向上させることができる。
【0050】
次に、インサート10を用いたインサート成形について説明する。
図2は、図1に示すインサートを用いてインサート成形してなる成形品の一例を概略的に示す断面図である。図3は、図2に示す成形品の製造に利用可能な金型の一例を概略的に示す断面図である。
【0051】
図2に示す成形品20は、例えば、携帯電話の筐体、電気機器や音響機器のハウジング、自動車の内装部品、文具及び玩具などのプラスチック成形品である。この成形品20は、プラスチックからなる成形品本体21とインサート10とを含んでいる。インサート10は、その耐熱樹脂層13が成形品本体21と向き合うように成形品本体21の表面に支持されている。成形品本体21の材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0052】
この成形品は、例えば、以下の方法により製造する。
まず、金型30内にインサート10を設置する。具体的には、インサート10の耐熱樹脂層13及び基材11がそれぞれ上型31及び下型32の凹部底面と向き合うように、上型31と下型32とを組み合わせる。次いで、熱溶融させた射出成形樹脂を、上型31に設けられたゲート33から金型30内に注入する。その後、射出成形樹脂を冷却し、インサート10と一体化した射出成形樹脂,すなわち、成形品本体21,から、上型31及び下型32から取り除く。以上のようにして、図2に示す成形品20を得る。
【0053】
図2に示す成形品20は、インサート10を含んでいるので、独特な視覚効果を発揮する。また、インサート10は白化現象を生じ難いため、この成形品20は高い歩留まりで製造可能である。さらに、耐熱樹脂層13を薄く形成することができるため、インサート10を曲面に支持させた場合であっても、十分に高い歩留まりを達成できる。
【0054】
図2の成形品20では、インサート10は、その耐熱樹脂層13が成形品本体21と向き合うように成形品本体21の表面に支持させているが、インサート10は、その基材11が成形品本体21と向き合うように成形品本体21の表面に支持されていてもよい。或いは、インサート10は、成形品本体21の内部に埋め込まれていてもよい。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の実施例を記載する。
(実施例1)
本例では、図1に示すインサート10を以下の方法により製造した。
【0056】
まず、基材11として、厚さが100μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルムを準備した。
【0057】
次に、基材11の一方の主面上に、以下に配合を示すインキ組成物Aを塗布し、この塗膜を100℃で10秒間の乾燥処理に供した。これにより、厚さが1μmの樹脂層を得た。この樹脂層にロールエンボス処理を施すことにより、表面にレリーフパターンが形成されたOVD形成層12aを得た。
【0058】
・インキ組成物Aの配合
ウレタン樹脂 20.0質量%
メチルエチルケトン 50.0質量%
酢酸エチル 30.0質量%
メチルエチルケトン 40.0質量%
次いで、OVD形成層12a上に、OVD効果層12bとして、厚さが50nmのアルミニウム層を真空蒸着法により形成した。
【0059】
その後、OVD効果層12b上に、以下に配合を示すインキ組成物Bを塗布し、この塗膜を100℃で10秒間の乾燥処理に供した。これにより、厚さが1μmであり、ガラス転移温度が171℃の耐熱樹脂層13を得た。
【0060】
・インキ組成物Bの配合
変性ノルボルネン樹脂(Tg=171℃) 20.0質量%
沈降性硫酸バリウム(比重5.5) 10.0質量%
メチルエチルケトン 40.0質量%
トルエン 30.0質量%
以上のようにして、図1に示すインサート10を完成した。以下、このインサート10を、「インサートI1」と呼ぶ。
【0061】
次に、図3に示す金型を用いて、図2に示す成形品20を製造した。ここでは、成形品20として、縦55mm×横90mm×厚さ5mmのカードを製造した。
【0062】
具体的には、インサートI1の耐熱樹脂層13及び基材11がそれぞれ上型31及び下型32の凹部底面と向き合うように、上型31と下型32とを組み合わせた。次いで、300℃に加熱して熱溶融させたポリカーボネート樹脂を、上型31に設けられたゲート33から金型30内に注入した。その後、ポリカーボネート樹脂を冷却し、インサートI1と一体化したポリカーボネート樹脂,すなわち、成形品本体21,から、上型31及び下型32から取り除いた。以上のようにして、図2に示す成形品20を得た。
【0063】
(実施例2)
本例では、インキ組成物Bの代わりに、以下に配合を示すインキ組成物Cを使用したこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により図1に示すインサート10を製造した。なお、このインサート10において、耐熱樹脂層13のガラス転移温度は150℃であった。以下、このインサート10を、「インサートI2」と呼ぶ。
【0064】
・インキ組成物Cの配合
ポリカーボネート樹脂(Tg=150℃) 16質量%
沈降性硫酸バリウム(比重5.5) 8質量%
メチルエチルケトン 60質量%
トルエン 16質量%
次に、インサートI1の代わりにインサートI2を使用したこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により図2に示す成形品20を製造した。
【0065】
(比較例)
インキ組成物Bを用いて耐熱樹脂層13を形成する代わりに、以下の方法で耐熱樹脂層13を形成したこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により図1に示すインサート10を製造した。すなわち、本例では、溶融押出し法により、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる耐熱樹脂層13を形成した。なお、この溶融押出しに当り、ポリエチレンテレフタレート樹脂は270℃に加熱した。また、この耐熱樹脂層13のガラス転移温度は70℃であった。以下、このようにして得られたインサート10を、「インサートI3」と呼ぶ。
【0066】
次に、インサートI1の代わりにインサートI3を使用したこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により図2に示す成形品20を製造した。
【0067】
以下の表に、インサートI1乃至I3の各々について、インサート成形の前後で行った外観評価結果を纏める。
【表1】

【0068】
上記表に示すように、インサート成形前において、インサートI1及びI2は白化現象を生じなかった。これに対し、インサートI3は、インサート成形前において、これを単独で観察した場合に確認できる程度の白化現象を生じた。
【0069】
また、インサート成形後においては、インサートI1は白化現象を生じなかったのに対し、インサートI2及びI3は白化現象を生じた。但し、インサートI3に生じた白化現象は、これを単独で観察した場合に確認できる程度のものであったのに対し、インサートI2に生じた白化現象は、これを単独で観察した場合には殆ど確認できず、インサートI1と対比することにより確認できる程度の僅かなものであった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一態様に係るインサートを概略的に示す断面図。
【図2】図1に示すインサートを用いてインサート成形してなる成形品の一例を概略的に示す断面図。
【図3】図2に示す成形品の製造に利用可能な金型の一例を概略的に示す断面図。
【符号の説明】
【0071】
10…インサート、11…基材、12…OVD層、12a…OVD形成層、12b…OVD効果層、13…耐熱樹脂層、20…成形品、21…成形品本体、30…金型、31…上型、32…下型、33…ゲート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート成形に使用するインサートであって、基材と、前記基材上に形成されたOVD層と、前記OVD層を挟んで前記基材と向き合うと共に前記OVD層と接触した耐熱樹脂層とを具備し、前記耐熱樹脂層の表面は前記インサートの最表面を構成し、前記耐熱樹脂層が含む各層は溶液塗布法又は印刷法によって形成されたことを特徴とするインサート。
【請求項2】
前記耐熱樹脂層はガラス転移温度が150℃以上の層を含んだことを特徴とする請求項1に記載のインサート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインサートを用いてインサート成形してなる成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−183736(P2008−183736A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16853(P2007−16853)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】