説明

インサート支持用金具

【課題】耐久性を高めることの容易なインサート支持用金具を提供する。
【解決手段】インサート支持用金具11は、側壁部13と上壁部14とを有する金具本体12を備えている。側壁部13の下部には、保持用ねじ15が挿通される取付部16が突設されている。側壁部13の背面には、側壁部13を型枠に吸着させる磁石部として、ゴム又はエラストマーをマトリックスとする磁石シート21が設けられている。インサート支持用金具11は、型枠内にコンクリートを打設する施工の際に、型枠にインサート31を支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠にインサートを支持させるインサート支持用金具に関する。
【背景技術】
【0002】
型枠にインサートを支持させるインサート支持用金具としては、側壁部と上壁部とを備えた金具本体と、側壁部に設けられ、インサートを保持するインサート保持部とを備えたものが知られている(特許文献1参照)。特許文献1のインサート支持用金具では、側壁部にドーナツ状の磁石が設けられている。この磁石により、側壁部が型枠に吸着されることで、インサート支持用金具の型枠に対する位置ずれが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平07−052886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インサート支持用金具は、型枠内にコンクリートを打設し、型枠を取り外した後に、コンクリート構造体から取り外される。取り外されたインサート支持用金具は、再利用される。ここで、インサート支持用金具がコンクリート構造体に密着している場合には、金具本体を例えばハンマーで叩く等して金具本体に衝撃を加えることで、コンクリート構造体からインサート支持用金具を容易に脱離させることができる。このとき、金具本体から磁石に衝撃が伝わることで、例えば磁石に亀裂が生じるおそれがある。すなわち、インサート支持用金具の耐久性について未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐久性を高めることの容易なインサート支持用金具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のインサート支持用金具は、型枠内にコンクリートを打設する施工の際に、前記型枠にインサートを支持するインサート支持用金具であって、側壁部と上壁部とを有する金具本体と、前記側壁部に設けられ、前記インサートを保持するインサート保持部と、前記側壁部に設けられ、前記側壁部を前記型枠に吸着させる磁石部とを備え、前記磁石部がゴム又はエラストマーをマトリックスとする磁石シートからなることを要旨とする。
【0007】
この発明では、磁石部は磁石シートから構成され、この磁石シートのマトリックスはゴム状弾性を有しているため、例えば、焼結体からなる磁石部よりも、磁石部の耐衝撃性が得られるようになる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインサート支持用金具において、前記型枠上にアンカー定規を配置した後に前記コンクリートを打設する施工に用いられるインサート支持用金具であって、前記型枠と前記アンカー定規との間に前記上壁部を配置した状態で前記アンカー定規に係止される係止部を前記上壁部に設けたことを要旨とする。
【0009】
型枠内にコンクリートを打設するに際して、インサートにコンクリートの荷重が加わることになる。このとき、磁石シートの型枠に対する吸着力に抗して側壁部が型枠から離間することで、側壁部が傾斜した状態となるおそれがある。この点、上記構成によれば、アンカー定規に係止部が係止されることで、側壁部の傾斜を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐久性を高めることの容易なインサート支持用金具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は、実施形態におけるインサート支持用金具を示す斜視図、(b)は、インサート支持用金具を示す背面図、(c)は、インサート保持部及びインサートを示す部分断面図。
【図2】インサート支持用金具、型枠及びアンカー定規の配置を示す斜視図。
【図3】(a)は、インサート支持用金具の配置を示す部分断面図、(b)は、係止部の作用を説明する部分断面図。
【図4】(a)は、コンクリートを打設した状態を示す部分断面図、(b)は、基礎から型枠及びアンカー定規を取り外した状態を示す部分断面図、(c)は、インサートが埋設された基礎を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)に示すインサート支持用金具11は、型枠内にコンクリートを打設する施工の際に、型枠にインサート31を支持するものである。インサート支持用金具11の金具本体12は、全体として逆L字状をなし、金属板を曲げ加工することで形成されている。金具本体12は、平板状をなす側壁部13と同じく平板状をなす上壁部14とから構成され、それらの基端部で一体となっている。金具本体12は、例えば鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、各種合金等の金属材料から形成される。
【0013】
側壁部13の下部には、保持用ねじ15が挿通される取付部16が正面側に向けて突設されている。取付部16は、金属板を膨出させることで、側壁部13と一体に形成されている。保持用ねじ15は、取付部16に貫設される取付孔16aに挿通されることで、取付部16に回動可能に支持されている。詳述すると、図1(b)及び図1(c)に示すように、取付部16の背面側となる凹所16bには、保持用ねじ15の頭部が収容されるとともに、取付部16の正面側には、保持用ねじ15の雄ねじ部が突出されている。図1(c)に示すように、凹所16bには、取付孔16aを縮径するように突出する規制片17が固定され、保持用ねじ15の軸方向への移動が規制されている。すなわち、規制片17は、保持用ねじ15が取付部16から外れることを防止している。保持用ねじ15の有する雄ねじ部には、インサート31の有する雌ねじ部が螺合される。このように、取付部16及び保持用ねじ15は、インサート31を保持するインサート保持部として構成されている。
【0014】
側壁部13の背面には、磁石部として磁石シート21が設けられている。磁石シート21は、ゴム又はエラストマーをマトリックスとして構成されている。ゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム、シリコンゴム、天然ゴム等が挙げられる。エラストマーとしては、例えばオレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー等が挙げられる。マトリックスとしては、ゴム及びエラストマーから選ばれる一種であってもよいし、ゴム及びエラストマーから選ばれる複数種をブレンドしたものであってもよい。
【0015】
磁石シート21には、磁性粉体が含有されている。磁性粉体としては、特に限定されず、例えばフェライト系磁石の粉体及び希土類磁石の粉体から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。磁石シート21は、ゴム又はエラストマーと、磁性粉体とを含む材料をシート化した市販品から選択して用いることができる。磁石シート21の厚みは、例えば0.5mm〜5mmとされる。磁石シート21には、その他の成分として、補強繊維、紫外線吸収剤、分散剤、難燃剤、無機フィラー等を含有させることもできる。
【0016】
磁石シート21は、側壁部13の外形に沿った外形をなすとともに凹所16bの開口に合わせて貫設された開口部21aを有し、側壁部13の背面全体に設けられている。磁石シート21は、例えば打ち抜き加工等によって所定の形状とされ、市販の接着剤により側壁部13に接着されることで側壁部13に固定されている。
【0017】
上壁部14の先端部には、上方に突出する係止部22が設けられている。係止部22は、金属板の端部を曲げ加工することで形成されている。この係止部22は、型枠上にアンカー定規を配置した後にコンクリートを打設する施工において、型枠とアンカー定規との間に上壁部14を配置した状態でアンカー定規に係止される。係止部22の中央には、上壁部14の先端部まで切り欠かれた切り欠き部23が形成されている。この切り欠き部23を型枠やアンカー定規に予め表示された目印に合わせることで、インサート支持用金具11の位置合わせを行うことができる。
【0018】
次に、インサート支持用金具11の使用方法及び作用を説明する。
まず、保持用ねじ15とインサート31とを螺合することで、インサート支持用金具11にインサート31を装着する。次に、図2及び図3(a)に示すように、鋼製の型枠41の上面に上壁部14を載置するようにして、型枠41にインサート支持用金具11を装着する。このとき、側壁部13は、磁石シート21の吸着力により、型枠41の内面に吸着される。すなわち、磁石シート21の吸着力により、インサート支持用金具11は、型枠41の所定位置に位置決めされた状態となる。
【0019】
続いて、型枠41上にアンカー定規42を載置し、アンカー定規42をピン43で位置決めする。このとき、インサート支持用金具11の位置は、切り欠き部23を利用して位置合わせを行うことができる。なお、アンカー定規42は、一対の型枠41上に沿って平行に延びる一対の長尺板と、それら長尺板を連結する連結部とを備え、その連結部にアンカーが吊下されるように構成されている。連結部には、図示を省略したアンカーボルトが吊下されることで、そのアンカーボルトは型枠41内の所定の位置に配置される。
【0020】
このように型枠41に装着されたインサート支持用金具11の上壁部14は、図3(a)に示すように型枠41とアンカー定規42との間に位置する。このとき、係止部22は、アンカー定規42の側面に係止される。次に、型枠41内にコンクリートが流し込まれる。このとき、コンクリートの荷重がインサート31に加わることで、側壁部13の上部が型枠41から離間する力が生じる。
【0021】
ここで、例えば、型枠41及びアンカー定規42の設置状態によっては、図3(b)に示すように、型枠41の上面とアンカー定規42との間に隙間が生じることがある。この状態において、上記離間する力が大きくなると、係止部22を有しないインサート支持用金具では、図3(b)に二点鎖線で示すように、磁石シート21の型枠41に対する吸着力に抗して側壁部13が型枠41から離間するおそれがある。すなわち、側壁部13及びインサート31が傾斜するおそれがある。この点、本実施形態のインサート支持用金具11では、アンカー定規42に係止部22が係止されることで、インサート支持用金具11は所定の位置に維持され易い。
【0022】
図4(a)に示すように、コンクリートの打設が完了すると、インサート31は基礎51に埋設される。次に、アンカー定規42及び型枠41を取り外して保持用ねじ15を緩めながらインサート支持用金具11をインサート31及びコンクリートから脱離させる。ここで、図4(b)に示すように、インサート支持用金具11とコンクリートとが密着している場合、例えば上壁部14をハンマー等で叩くことで衝撃を加えてインサート支持用金具11とコンクリートとを離間させる。このとき、磁石部は、マトリックスをゴム又はエラストマーとした磁石シート21から構成されているため、磁石部に衝撃が伝わったとしても、磁石部に亀裂等が生じ難い。
【0023】
こうしてインサート支持用金具11が脱離されることで、図4(c)に示すように、所定の位置にインサート31が埋設された基礎51が形成される。インサート31の雌ねじ部には、例えば、ブラケットを固定するボルトが螺着され、そのブラケットには、例えば大引等の構造材が固定される。
【0024】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)磁石シート21のマトリックスはゴム又はエラストマーであるため、磁石部の耐衝撃性が得られるようになる。従って、耐久性を高めることの容易なインサート支持用金具11が提供される。
【0025】
(2)インサート支持用金具11は、型枠41とアンカー定規42との間に上壁部14を配置した状態で、アンカー定規42に係止される係止部22を有している。このため、型枠41内に流し込まれるコンクリートの荷重がインサート31に加わる際に、型枠41と側壁部13との離間を抑制することができる点で有利である。すなわち、このインサート支持用金具11では、磁石シート21の吸着力のみに依存せずに、所定の位置に維持される。なお、型枠41の外側に係止する係止部を上壁部14の先端から下方に突設した場合では、コンクリートの打設後に型枠41を脱離させる際に係止部が障害となるおそれがある。この点、上記係止部22によれば、型枠41の脱離を円滑に行うことができる。
【0026】
(3)インサート31が埋設された基礎51では、図4(c)に示すように取付部16の外形に沿った形状の凹部が形成されることになる。ここで、従来では、凹所16bに磁石を設けているが、本実施形態では、凹所16bには磁石を設けずに、側壁部13の背面のみに磁石シート21を設けているため、凹所16bの寸法、すなわち、側壁部13から膨出した取付部16の寸法を、保持用ねじ15の操作が可能な範囲で小さくすることができる。これにより、基礎51に形成される凹部を小さくすることが可能となる結果、凹部を要因とした基礎51の強度低下を抑制することができる。従って、基礎51の強度を確保することが容易なインサート支持用金具11が提供される。
【0027】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・前記磁石シート21は、側壁部13の背面全体に設けられているが、その背面において部分的に設けてもよい。例えば、側壁部13の背面において周縁部分のみに設けることもできる。また、側壁部13の背面の複数の箇所に磁石シート21を分割して設けてもよい。
【0028】
・前記インサート支持用金具11では、側壁部13のみに磁石シート21を設けているが、さらに上壁部14の下面に磁石シートを設けてもよい。この場合、インサート支持用金具の型枠41に対する吸着力を高めることが容易である。
【0029】
・前記磁石シート21は、側壁部13に接着することで設けられているが、例えば、ゴム又はエラストマーと磁性粉体とを含む塗料をコーティングすることにより、磁石シート21の形成と接着とを同時に行ってもよい。
【0030】
・前記実施形態では、予め着磁された磁石シート21を側壁部13に設けているが、着磁されていない磁石素材シートを側壁部13に設けた後に着磁させることで磁石シート21としてもよい。
【0031】
・前記金具本体12、取付部16、及び係止部22は、一枚の金属板から形成されているが、取付部16及び係止部22の少なくとも一方を金具本体12とは別体で形成した後に、溶接等により一体としてもよい。
【0032】
・前記係止部22の形状や数は特に限定されず、例えば柱状の突起に変更することもできる。また、前記係止部22は、上壁部14の先端部から突出しているが、上壁部14の先端よりも基端側から突出するように設けてもよい。
【0033】
・前記切り欠き部23の位置や寸法は、特に限定されず、例えば係止部22のみを切り欠くように形成されていてもよいし、係止部22の側部に形成されていてもよい。なお、前記切り欠き部23を省略することもできる。
【0034】
・前記係止部22を設けずにインサート支持用金具を構成してもよい。
・前記凹所16bに、ゴム又はエラストマーをマトリックスとする磁石を補助的に設けてもよい。また、前記凹所16bに、焼結体からなる磁石を補助的に設けてもよい。
【0035】
・インサート支持用金具11の金属部分に、めっきや樹脂コーティングを施すことで、金属部分の腐食を抑制してもよい。
・前記実施形態のインサート支持用金具11は、基礎51用の型枠41にインサート31を支持させているが、例えば、柱用や壁用の型枠にインサート31を支持させるインサート支持用金具としてもよい。すなわち、インサート支持用金具は、各種コンクリート構造体を形成する施工に用いることができる。
【0036】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記インサート保持部は、前記インサートに螺合される保持用ねじと、前記保持用ねじの頭部が収容される凹所とを備え、前記凹所は、金属板を膨出して形成されることで、前記側壁部と一体とされているインサート支持用金具。この場合、インサート支持用金具を容易に製造することができる。
【0037】
(ロ)前記インサート保持部は、前記インサートに螺合される保持用ねじと、前記保持用ねじの頭部が収容される凹所とを備え、前記凹所以外の箇所である前記金具本体のみに磁石部を設けたインサート支持用金具。この場合、凹所の寸法を小さくすることで、凹所に基づいてコンクリート構造体に形成される凹部を小さくすることが容易となる。その結果、コンクリート構造体の強度を確保することが容易なインサート支持用金具が提供される。
【0038】
(ハ)前記磁石シートが、さらに前記上壁部に設けられることで、前記上壁部が前記型枠に吸着される構成としたインサート支持用金具。
【符号の説明】
【0039】
11…インサート支持用金具、12…金具本体、13…側壁部、14…上壁部、15…保持用ねじ、16…取付部、16a…取付孔、16b…凹所、21…磁石シート、31…インサート、41…型枠、42…アンカー定規、51…基礎。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠内にコンクリートを打設する施工の際に、前記型枠にインサートを支持するインサート支持用金具であって、
側壁部と上壁部とを有する金具本体と、
前記側壁部に設けられ、前記インサートを保持するインサート保持部と、
前記側壁部に設けられ、前記側壁部を前記型枠に吸着させる磁石部とを備え、
前記磁石部がゴム又はエラストマーをマトリックスとする磁石シートからなることを特徴とするインサート支持用金具。
【請求項2】
前記型枠上にアンカー定規を配置した後に前記コンクリートを打設する施工に用いられるインサート支持用金具であって、
前記型枠と前記アンカー定規との間に前記上壁部を配置した状態で前記アンカー定規に係止される係止部を前記上壁部に設けたことを特徴とする請求項1に記載のインサート支持用金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214998(P2012−214998A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79846(P2011−79846)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】