説明

インバータカバー

【課題】成形性に優れ且つ生産効率の良い、接触抵抗の小さな、電磁波ノイズのシールド性に優れたインバータカバーを提供すること。
【解決手段】インバータが内部に収容せしめられる金属製容器本体の開口部を閉塞するように取り付けられるインバータカバー6を、その外面側にポリエステル樹脂系塗料からなる潤滑性塗膜12が形成される一方、内面側には球状のNiフィラーを配合せしめたポリエステル樹脂系塗料からなる導電性塗膜14が形成されてなるアルミニウム板材10にて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータが内部に収容せしめられる金属製容器本体の開口部を閉塞するように取り付けられるインバータカバーに係り、特に、走行用の駆動力源として電動機を用いる電気自動車において、インバータで発生する電磁波ノイズが外部に放出されるのを防止する金属製容器の一部を構成するインバータカバーの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、直流・交流間の電力変換手段としてのインバータが、各種の分野において用いられてきており、例えば、電気自動車、具体的にはバッテリーから供給される電気エネルギーによって作動せしめられる電動機を、走行用の主駆動力源として、或いは補助駆動力源として備えている電気自動車においては、スイッチング動作によって、バッテリーの直流エネルギーを交流エネルギーに変換して、必要な電力を電動機に供給すべく、インバータが設けられている。
【0003】
しかしながら、そのようなインバータにあっては、そのスイッチング動作等に起因して、車載ラジオや車載無線機等の受信障害となる電磁波ノイズが発生することとなるところから、特開平7−7810号公報や特開平8−98328号公報等に明らかにされているように、インバータ或いはインバータと共にバッテリーや電動機等を金属製ケース内に収容して、静電シールドし、電磁波ノイズが金属製ケースの外部へ漏れないようにした構造が、採用されることとなる。
【0004】
しかして、かくの如き金属製ケースを用いたインバータの静電シールド構造にあっては、一般に、図1に例示される如く、インバータ2を、アルミダイキャスト品等からなる所定の金属製容器本体4内に収容せしめる一方、かかる金属製容器本体4の開口部に対して、それを閉塞するように、インバータカバー6が取り付けられ、それら容器本体4とカバー6の合わせ面において外方に延びるフランジ部において、ボルト8等にて、それら容器本体4とカバー6とが、小さな抵抗接触の下において締結せしめられて、それらの間の良好な電気的導通が図られ得るようになっているのである。なお、7はシールゴムであって、それら容器本体4とカバー6との合わせ面間に介装されて、それらの間の液密性が確保されるようになっている。
【0005】
ところで、かかるインバータカバー6として、これまでは、その軽量性等の特徴から、アルミニウム製のものが用いられており、所定のアルミニウム板材にプレス加工等の適当な成形操作を施して、目的とする形状を有するものとして、用いられているのであるが、従来にあっては、そのようなアルミニウム板材の成形加工操作において、その成形性を高めるために、潤滑剤が用いられており、そして、その成形加工操作が終了した後に、カバーの防錆性を確保すべく、アルマイト(陽極酸化皮膜)処理が実施されているのであるが、そのような成形品に対するアルマイト処理は面倒であり、また工程数の増加にも繋がって、その生産効率、更には製品コストにも大きな影響をもたらしているのである。
【0006】
加えて、そのようなアルマイト処理に際しては、形成されるアルマイト皮膜が電気的な導通性を低下せしめるものとなるところから、かかる成形品の、金属製容器本体4に対する突き合わせ面に、アルマイト皮膜が形成されないようにマスク処理を施す必要もあったのであり、このようなマスク処理が、また、その生産効率の低下や製品コストの上昇に大きな影響をもたらしているのである。
【0007】
一方、アルミニウム板材の表面に潤滑性の樹脂塗膜を形成して、その成形性を向上せしめることも考えられ、また、そのような樹脂塗膜の形成によって、アルミニウム板材の防錆性も確保され得ることとなるのであるが、かかる樹脂塗膜の形成によって、カバー6表面には電気絶縁膜が形成されることとなり、そのために、カバー本来の目的である静電シールド性に悪影響をもたらすのみならず、金属製容器本体4との間の電気的導通も充分ではなくなるのであり、このために、単純に所定の樹脂塗膜を形成せしめたアルミニウム板材を用いればよいという訳でもなかったのである。
【0008】
【特許文献1】特開平7−7810号公報
【特許文献2】特開平8−98328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、成形性に優れ且つ生産効率の良い、接触抵抗の小さな、電磁波ノイズのシールド性に優れた有用なインバータカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明にあっては、そのような課題の解決のために、インバータが内部に収容せしめられる金属製容器本体の開口部を閉塞するように取り付けられるインバータカバーにして、かかるカバーの外面側となる面に、インナーワックスが配合されてなるポリエステル樹脂系塗料にて形成された潤滑性塗膜を有する一方、該カバーの内面側となる面に、球状のNiフィラーと共に、該潤滑性塗膜形成用ポリエステル樹脂系塗料中のインナーワックス量に対して0.2〜0.8倍量のインナーワックスが配合されてなるポリエステル樹脂系塗料にて形成された導電性塗膜を有するアルミニウム板材を用いて、形成されていることを特徴とするインバータカバーを、その要旨としているのである。
【0011】
なお、かかる本発明に従うインバータカバーの好ましい態様の一つによれば、前記アルミニウム板材が、前記潤滑性塗膜の設けられた側の面において、外方に突出する形状となるように、プレス加工により、目的とするカバー形状に成形せしめられている構成が採用されることとなる。
【0012】
また、本発明に従うインバータカバーの別の好ましい態様の一つによれば、前記球状のNiフィラーは、前記導電性塗膜の膜厚に対して1倍〜2倍の大きさの粒径を有している。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従うインバータカバーにあっては、それぞれの面に所定のポリエステル樹脂系塗料を用いて潤滑性塗膜及び導電性塗膜が形成されてなるアルミニウム板材を用いて、形成されるものであるところから、その一方の面に形成された潤滑性塗膜を利用して所定の成形操作を実施し、目的とするカバー形状のインバータカバーを成形性良く得ることが出来るのであり、また他方の面に形成された導電性塗膜が、カバー内面側となるようにすることによって、カバー内面の導電性が効果的に高められ得ると共に、金属製容器本体に重ね合わされるインバータカバー周縁部の当接面にも、そのような導電性塗膜が存在することとなることにより、それらインバータカバーと金属製容器本体との間の電気的導通性が良好に確保され得、以て電磁波ノイズのシールド性も効果的に高められ得るのである。
【0014】
しかも、そのようなインバータカバーを与えるアルミニウム板材の両面には、それぞれ所定のポリエステル樹脂系塗料を用いて塗膜が形成されていることによって、インバータカバーとして、防錆性は充分に確保され得ているのであり、このため、従来のインバータカバーの如きアルマイト処理は何等必要とされるものではなく、また、金属製容器本体に対する良好な導通性の確保のためのマスク処理も必要ではないところから、インバータカバーを、アルミニウム板材から、生産効率よく製造することが出来ることとなり、これによって、製品コストの低減にも効果的に寄与し得ることとなるのである。
【0015】
また、かかるインバータカバーの内面を与えるアルミニウム板材の面に形成される導電性塗膜は、球状のNiフィラーの配合によって導電性が付与されていることにより、金属製容器本体の周縁部に対する取付けに際し、それらインバータカバーと金属製容器本体との間の電気的導通が効果的に確保され得て、それらの間の接触抵抗を著しく低減せしめ得るのである。
【0016】
さらに、外方に凸なる形状のインバータカバーをプレス成形するに際して、潤滑性塗膜がカバー外面側に存在せしめられる場合には、プレス加工時におけるダイス側には潤滑性塗膜が存在する一方、ポンチ側には導電性塗膜が存在するように、アルミニウム板材が配置されて、プレス加工され、それにより、目的とするカバー形状に良好に成形せしめられることとなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ところで、図2には、本発明に従うインバータカバーの所定の形状を有するものの一例が示されており、そこにおいて、インバータカバー6は、一方の面に所定の潤滑性塗膜12が形成され、また他方の面には、所定の導電性塗膜14が形成されてなる、所定厚さのアルミニウム板材10を用いて、それを、外方に凸なる蓋体形状を呈するようにプレス成形して、得られたものである。従って、かかるインバータカバー6の外面(外側面)には、潤滑性塗膜12が位置せしめられている一方、その内面(内側面)には、導電性塗膜が位置するようにして、成形されているのである。また、このインバータカバー6の周縁部には、外フランジが形成されており、そこに、従来と同様なシールゴム(7)を取り付けるための凹所(周溝)やボルト(8)等による取付孔が設けられている。
【0018】
そして、かかるインバータカバー6を与えるアルミニウム板材10としては、従来からインバータカバー素材として用いられている各種のアルミニウム若しくはアルミニウム合金からなる板材が適宜に用いられ、また、その厚さとしても、適宜に選定されることとなるが、通常、0.5〜3mm程度の厚さのものが、好適に用いられることとなる。そして、そのようなアルミニウム板材10の表面に対して、従来と同様にして、下地処理が施される。なお、この下地処理としては、クロム酸クロメートやリン酸クロメート等によるクロメート処理:クロム化合物以外のリン酸チタンやリン酸ジルコニウム、リン酸モリブデン、リン酸亜鉛等によるノンクロメート処理等の化学皮膜処理(化成処理)が、好適に採用される。このような下地処理によって形成される下地処理層の存在によって、アルミニウム板材10の表面に形成される潤滑性塗膜12や導電性塗膜14の密着性が効果的に高められ得ると共に、塩水等に対する優れた耐食性も、有利に実現せしめられ得るのである。
【0019】
また、そのようなアルミニウム板材10の一方の面に形成される潤滑性塗膜12や他方の面に形成される導電性塗膜14は、何れも、基本的には、ポリエステル樹脂系塗料を用いて形成されるものであり、そこでは、特に、炭素数が400〜1000のポリエステル樹脂を主成分として含有するポリエステル樹脂系塗料が、好適に採用されることとなる。また、そのようなポリエステル樹脂系塗料には、インナーワックスが所定の割合において含有せしめられていることが望ましく、これによって、潤滑性塗膜12の潤滑性、ひいてはプレス成形性が、より一層効果的に向上せしめられ得るのである。なお、そのようなインナーワックスとしては、従来から公知の各種のものが採用され得、例えば、ラノリン等の動物ワックス;カルナバ等の植物ワックス;ポリエチレンワックスやフィッシャートロプッシュワックス等の合成ワックス;パラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油ワックス等を例示することが出来、これらの1種又は2種以上が、適宜に選択されて、用いられることとなる。
【0020】
そして、潤滑性塗膜12を形成するに際しては、前記したポリエステル樹脂系塗料へのインナーワックスの配合割合として、塗料樹脂たるポリエステル樹脂の100重量部に対して0.2〜5.0重量部となる割合が採用されるのであり、また、そのような潤滑性塗膜12は、一般に、5〜30μm程度の膜厚において形成され、これによって、優れた潤滑特性に基づくところの有効な成形性、プレス加工性、曲げ加工性等の特性を確保しつつ、耐食性に優れた塗膜として形成せしめられ得るのである。
【0021】
また、アルミニウム板材10の他方の面に形成される導電性塗膜14においても、前記した潤滑性塗膜12の場合と同様なポリエステル樹脂系塗料が用いられることとなるが、導電性塗膜14の場合にあっては、更に、そのようなポリエステル樹脂系塗料に対して、球状のNiフィラーが配合、含有せしめられ、これによって、形成される塗膜が導電性を有するように構成されるところに、大きな特徴を有している。特に、そのような球状のNiフィラーとしては、有利には、その短径/長径比が0.7〜1.0の範囲にある真球状に近い球状形状のNiフィラーが好適に採用され得、それによって、Niフィラーが導電性塗膜14内において層状に連なることなく、その一部が導電性塗膜14の表面に露呈し、或いはそれから突出するように位置せしめられるようになるのであり、以て、極めて優れた導電性が実現され得ると共に、アルミニウム板材10の表面の全面が、Niフィラーによって覆われてしまうことなく、アルミニウム板自身の金属光沢が、充分高度に確保され得ることとなるのであり、更に、プレス加工に際しても、塗膜割れ等の問題の発生が有利に防止され得て、極めて優れたプレス成形性も実現され得るという特徴を発揮する。
【0022】
なお、そのような球状のNiフィラーは、一般に、塗料中の塗料樹脂の100重量部に対して、1〜20重量部となる割合において配合せしめられ、また、その粒径としては、充分な導電性を得る上において、導電性塗膜14の膜厚に対して1倍〜2倍の大きさのものが、好適に採用される。余りにも大きな粒径のNiフィラーは、塗膜からの脱離や耐食性の低下等の問題を新たに惹起することとなるところから、避けることが望ましいのである。ここで、導電性塗膜14の膜厚としては、充分な耐食性を確保しつつ、塗装ムラの発生やプレス成形性の低下等の問題の発生を避ける等の観点よりして、1〜20μmの範囲内の膜厚が採用されることとなる。
【0023】
さらに、この導電性塗膜14を形成するための塗料にあっても、前記した潤滑性塗膜を形成するための塗料と同様に、インナーワックスが所定の割合において含有せしめられていることが望ましく、これによって、導電性塗膜14のプレス成形性が、より一層効果的に向上せしめられることとなる。なお、この導電性塗膜14形成用の塗料中におけるインナーワックスの割合としては、塗料中の塗料樹脂の100重量部に対して、0.1〜4.0重量部となる割合が、好適に採用される。また、この導電性塗膜14形成用塗料中におけるインナーワックス量と潤滑性塗膜12形成用塗料中におけるインナーワックス量との比は、0.2/1〜0.8/1となる値が、特に好適に採用され、これによって、潤滑性塗膜12と導電性塗膜14とをそれぞれの面に有するアルミニウム板材10の成形加工性が一段と向上せしめられ、以て、目的とするカバー形状のインバータカバー6を有利に得ることが出来るのである。
【0024】
ところで、上述の如き二つのポリエステル樹脂系塗料を用いて、潤滑性塗膜12及び導電性塗膜14が、それぞれ、アルミニウム板材10の片面ずつに設けられてなる両面塗装材を得るに際しては、従来と同様な塗装手法が採用されることとなる。例えば、アルミニウム板材10の表面に対して、先ず、所定の下地処理を施した後、上述せる如き二つのポリエステル樹脂系塗料がロールコート法、バーコート法、浸漬塗布法、スプレー法等の、従来から公知の各種の手法に従って塗布され、その後、硬化せしめられることによって、目的とする潤滑性塗膜12及び導電性塗膜14がそれぞれ形成されることとなる。なお、それら潤滑性塗膜12や導電性塗膜14を形成せしめるための硬化操作(焼付け操作)は、それぞれの塗膜に応じて別個に実施することが可能であるが、ここでは、それら塗膜の形成のための塗料として同じ樹脂系のものが用いられているところから、一度に両面の焼付けを同時に行うことが可能である。
【0025】
そして、本発明にあっては、かくの如くして、潤滑性塗膜12及び導電性塗膜14がそれぞれの面に形成されてなる両面塗装アルミニウム板材10を用いて、目的とするインバータカバー6が形成されることとなるのであるが、そのようなアルミニウム板材10の表面には潤滑性塗膜12が形成され、また、導電性塗膜14にあっても、優れた潤滑性を示すものであるところから、そのような両面塗装アルミニウム板材10を用いたインバータカバー6の成形に際して、その成形操作を容易に且つ有利に行い得るのであり、例えば、絞り加工や曲げ加工等といったプレス加工にて、深底容器形状の成形品が容易に得られ、そして、それをインバータカバー6として有利に用いることが出来るのである。
【0026】
なお、そのようなインバータカバー6を得るためのアルミニウム板材10の成形操作において、かかるアルミニウム板材10の一方の面に形成された潤滑性塗膜12が、インバータカバー6の外面側となるようにして、特に潤滑性塗膜12の設けられた側の面において外方に突出する形状となるようにして、前記したプレス加工を実施して、目的とするカバー形状に成形せしめるようにすれば、そのようなアルミニウム板材10の潤滑性塗膜12を設けた側の面が、ダイス側となり、ポンチは、導電性塗膜14形成側の面に対して作用するものとなるところから、目的とするカバー形状の成形操作が、極めて効果的に為され得ることとなるのである。
【0027】
また、このような成形操作によれば、アルミニウム板材10の導電性塗膜14が設けられた側の面が、インバータカバー6の内面側となるのであり、そして、そのような導電性の層の存在によって、電磁波ノイズの吸収、そして、そのシールドが効果的に為され得ると共に、インバータカバー6の周縁部に、容器本体4に対する取付のためのフランジ部が形成されても、そのようなフランジ部の容器本体4に対する対向面となる下面側には、導電性塗膜14が位置せしめられることとなるところから、容器本体4に対する締結に際して、それらの間の接触抵抗を著しく低下せしめ得て、それらの間の電気的導通を効果的に実現し得ることとなるのである。
【0028】
しかも、このようにして得られたインバータカバー6にあっては、その外面及び内面に、それぞれ、ポリエステル樹脂系塗料を用いて、潤滑性塗膜及び導電性塗膜が形成されていることにより、極めて優れた防錆性も備えているのであり、これによって、自動車等の部品に要求されている塩水噴霧等の厳しい耐蝕性試験に対しても、充分な耐久性を発揮すると共に、容器本体4との間の電気的導通性も良好に確保され得ているのである。
【0029】
従って、かかるインバータカバー6にあっては、潤滑性塗膜12と導電性塗膜14の存在によって、優れた防錆性が付与され得ているところから、従来の如き、プレス加工されたインバータカバーに対して、更にアルマイト処理を施して、防錆層を形成せしめる操作も全く不要となったのであり、また、そのようなアルマイト処理を避けるためのマスク処理も施す必要がなく、これによって、インバータカバー6の生産効率の著しい向上が図られ得、また、製造コストの低減にも大きく寄与し得るものとなったのである。
【0030】
以上の説明から明らかなように、本発明に従うインバータカバーは、成形性に優れ且つ生産効率に優れたものであって、その製造コストを有利に低減し得ると共に、接触抵抗の低い、電磁波ノイズのシールド性に優れたものであり、また、耐蝕性や耐久性にも優れたものである。
【0031】
従って、このような特徴を有するインバータカバーは、特に、走行用の駆動力源として電動機を用いる電気自動車に備えられるインバータに対するインバータカバーとして有利に用いられ、電磁波ノイズの抑制に効果的に寄与し得るものとなるのである。
【0032】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明が、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0033】
例えば、インバータ2が内部に収容せしめられる金属製容器本体4としては、一般に、軽量性等の特徴から、アルミニウム材質のものが用いられ、特に、前述の如く、アルミダイキャスト品が有利に使用されることとなるが、また、鉄等の他の金属材質のものであっても、導電性に優れている限りにおいて、利用可能である。
【0034】
また、容器本体4やインバータカバー6の形状にあっても、適宜の形状が採用され得るものであって、インバータカバー6は、そのような容器本体4の開口部の形状に応じて、その開口部に対応する形状とされ、それら容器本体4の開口部にインバータカバー6の外周縁部を重ね合わせた形態において、締め付け、固定され、外部から内部が隔絶された形態において、静電シールドが実現され得るようになっている。
【0035】
その他、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0036】
ところで、このような本発明に従うインバータカバー6の優れた特徴は、以下の実験結果からも、明らかなところである。
【0037】
先ず、アルミニウム板材10として、板厚が1.0mmのAl−Mg合金の板材(O材)を準備し、これに対して、常法に従って下地処理を実施した後、下記の如き2つのポリエステル樹脂系塗料を用いて、板材の両側の面に異なる塗膜が形成されるように、バーコータを用いて塗布せしめ、そして同時焼付け処理することにより、一方の面に潤滑性塗膜12が形成され、他方の面に導電性塗膜14が形成されてなる、両面塗装Al板を作製した。
【0038】
1.潤滑性塗膜12
(1)塗料構成
塗料樹脂:高分子ポリエステル樹脂
インナーワックス(ポリエチレンワックス):約1重量%
(2)塗膜量:14g/m2(14μm)
焼付温度:230℃
(3)潤滑性能:摩擦係数0.08

2.導電性塗膜14
(1)塗料構成
塗料樹脂:高分子ポリエステル樹脂
真球状Niフィラー 平均粒径10μm 添加量:4重量%
インナーワックス(ポリエチレンワックス):約1重量%
(2)塗膜量:5g/m2(4μm)
焼付温度:230℃ 2分
(3)潤滑性能:摩擦係数0.08
【0039】
次いで、このようにして得られた両面塗装Al板を用いて、その潤滑性塗膜12が形成された側の面をダイス側に位置せしめる一方、導電性塗膜14が形成された側の面をポンチにて押し込むことにより、潤滑油を何等使用することなく、深絞り加工を行い、図2に示される如き形状のインバータカバー6を、塗膜割れ等の存在しない、表面性状の良好なプレス成形品として得た。
【0040】
また、上記の如くして得られた両面塗装Al板を、2N・mの締付力にて、ボックスに締め付けた状態下において、それらの間の接触抵抗(初期)を測定したところ、0.0120Ωであり、また、192時間塩水噴霧後の接触抵抗を測定したところ、0.0190Ωとなり、厳しい塩水噴霧試験後においても、優れた電気的導通性を有していることを認めた。
【0041】
これに対して、導電性塗膜14を形成するためのポリエステル樹脂系塗料中に添加せしめられるNiフィラーとして、球状ではなく、フレーク形状のNiフィラーを用いた場合にあっては、初期の接触抵抗:0.0720Ω、192時間塩水噴霧後の接触抵抗:0.3820Ωとなり、導通性が低下することが認められ、また、それら2種の塗膜12,14が形成されず、単にアルマイト処理の施されたAl板(ただし、ボックスとの接触部はアルマイト処理されていない)にあっては、初期の接触抵抗:0.0010Ω、192時間塩水噴霧後の接触抵抗:0.2230Ωとなった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】インバータを金属製ケース内に収容、配置せしめてなる形態を説明するための断面半図である。
【図2】本発明に従うインバータカバーの一例を示す斜視説明図である。
【図3】図2におけるA−A断面を示す説明図であり、また、その一部が拡大して示されている。
【符号の説明】
【0043】
2 インバータ 4 容器本体
6 インバータカバー 7 シールゴム
8 ボルト 10 アルミニウム板材
12 潤滑性塗膜 14 導電性塗膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータが内部に収容せしめられる金属製容器本体の開口部を閉塞するように取り付けられるインバータカバーにして、かかるカバーの外面側となる面に、インナーワックスが配合されてなるポリエステル樹脂系塗料にて形成された潤滑性塗膜を有する一方、該カバーの内面側となる面に、球状のNiフィラーと共に、該潤滑性塗膜形成用ポリエステル樹脂系塗料中のインナーワックス量に対して0.2〜0.8倍量のインナーワックスが配合されてなるポリエステル樹脂系塗料にて形成された導電性塗膜を有するアルミニウム板材を用いて、形成されていることを特徴とするインバータカバー。
【請求項2】
前記アルミニウム板材が、前記潤滑性塗膜の設けられた側の面において外方に突出する形状となるように、プレス加工により、目的とするカバー形状に成形せしめられている請求項1に記載のインバータカバー。
【請求項3】
前記球状のNiフィラーが、前記導電性塗膜の膜厚に対して1倍〜2倍の大きさの粒径を有している請求項1又は請求項2に記載のインバータカバー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−188594(P2008−188594A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98355(P2008−98355)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【分割の表示】特願2002−93963(P2002−93963)の分割
【原出願日】平成14年3月29日(2002.3.29)
【出願人】(591095328)真和工業株式会社 (10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】