説明

インバータ制御装置

【課題】インバータの制御がPWM領域においてはスイッチング周波数に悪影響を及ぼさず、1パルス領域においては運転周波数に関らず電流偏差量の少ない電流応答が得られる制御装置を提供する。
【解決手段】実施形態は、PWM用補正電流基準と電動機電流との比較に基づいて、電動機を駆動するインバータのスイッチング制御信号を直接発生し、制御モードが電動機の中低速域ではPWM制御、高速域では1パルス制御と自動移行する電流追従型PWM制御回路を用いたインバータ制御装置において、電動機の磁束及びトルクを制御すべくベクトル演算して得られた電流基準と、電動機電流との偏差を増幅する定常偏差補正回路と、前記定常偏差補正回路出力信号を前記電流基準に加算してPWM用補正電流基準を演算する加算回路と、電流追従制御型PWM制御回路がPWM制御モードで動作しているとき、前記定常偏差補正回路での制御を積分制御に設定し、1パルスモードで動作しているとき比例積分制御に切換える切換え回路とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力・産業・交通などの諸分野で広く用いられている電圧形インバータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は誘導電動機の速度制御装置の構成例を示す。
【0003】
図3において、1は電動機に駆動パワーを供給する直流電源、2は平滑コンデンサ、3は直流電力を3相交流電力に変換するインバータ、4は誘導電動機、5U、5V、5Wは電動機電流を検出する、回転センサ6は電動機の回転子の位置を検出するホールCTである。
【0004】
回転検出回路7は回転センサ6の出力信号から回転子の位置に応じた電気角信号θr及び速度ωrを求めて出力する。減算器8は速度基準ωr*と速度検出値ωrとの差を演算する。この速度基準ωr*は、例えばATCあるいはATO時の速度指令又は運転台の運転士による速度指令等に対応する値である。速度制御回路9は減算器8が出力する速度偏差が0となるようなPI制御を行い、速度ωrが速度基準ωr*に追従するようトルク指令Trq*を発生する。
【0005】
ベクトル演算回路10は磁束基準Φ*及びトルク基準Trq*を、トルク分電流基準i*、磁束分電流基準i*に変換すると共に、磁束基準Φ*及びトルク基準Trq*に基づいてすべり角θ*を演算して出力する。加算器11は、回転子位置信号θrとすべり角θ*を加算して磁束位置信号θを出力する。この磁束位置信号θは電動機のd軸電気角基準である。電流検出回路12はホールCT(5U、5V、5W)の出力信号を、本制御回路内で使用できる値にスケーリングして電流検出値i、i、iとして出力する。座標変換回路13は磁束位置信号θを用いて、電流検出値i、i、iを電動機の磁束に同期したdq軸座標上の磁束分電流検出値i、トルク分電流検出値iに変換する。ここでd軸は、回転子に発生している磁束の軸であり、q軸はd軸に直交する方向の軸である。また、電流検出値i、iは直流値であって、電流検出値i、i、i(正弦波)に比べあまり変化しない値である。
【0006】
減算器14d、14qはd軸、q軸それぞれの電流基準i*、i*と電流検出値i、iとの差を演算する。定常偏差補正回路15d、15qは減算器14d、14qが出力する電流偏差を増幅する。リミッタ16はq軸側の補正回路15qが出力する補正信号iqc*をリミットする。加算器17dは補正回路15dが出力する補正信号idc*と電流基準i*とを加算して、電流追従形PWM用電流基準i**を出力する。加算器17qはリミッタ16出力とi*とを加算し、電流追従形PWM用電流基準i**を出力する。減算器18はq軸側補正回路15q出力iqc*と弱め制御開始レベルiqCLIM*との差を演算する。
【0007】
磁束弱め制御回路19は減算器18の出力を増幅(PI制御)する。リミッタ20は磁束弱め制御回路の出力の下限を零に制限する。減算器21は強め磁束指令値Φ**から磁束弱め制御回路出力を減算して、電動機の状態に応じた磁束指令Φ*を出力するである。ここで、強め磁束指令値Φ**は、電動機の回転速度に応じて変化する値あるいは予め適切に設定した一定値であり得る。
【0008】
座標変換回路22は、電流追従形PWM用電流基準i**、i**を、磁束位置θに基づいて、固定子静止座標の3相電流基準i*、i*、i*に変換する。減算器23U、23V、23Wは3相電流基準i*、i*、i*と3相電流検出値i、i、iとのそれぞれの差を取り、電流追従形PWM制御回路24に与える。
【0009】
電流追従形PWM制御回路24は、電流検出値i、i、iが電流基準i*、i*、i*に追従するようなPWM信号を生成し、このPWM信号に基づくゲート信号Gu、Gv、Gw、Gx、Gy、Gzを出力する。インバータ3を構成するスイッチング素子はゲート信号Gu、Gv、Gw、Gx、Gy、Gzによりオンオフ制御される。
【0010】
スイッチング周波数制御回路25は、ゲート信号Gu、Gv、Gw、Gx、Gy、Gz、速度ωr、トルク分電流指令i*を入力し、電流追従型PWM制御回路24の許容誤差領域の広さを定めるヒステリシスHysを出力する。インバータ直流電圧Vdcが広範囲に変化するバッテリ駆動装置や電車などでは、直流電圧VdcによってもヒステリシスHysを調整した方が良い。
【0011】
この電流追従型PWM方式は三角波搬送波を使用せずに、電動機電流が指令値に追従するようなPWM信号を直接生成するので電流応答が極めて速い。また、通常の三角波PWM方式では、電動機回転数が高くなると演算制御が間に合わなくなり、三角波PWM方式から同期PWM方式に切換える必要がある。このとき、切換えを滑らかに行うために特別な制御が必要となる。しかし電流追従型PWM方式では、電動機運転周波数によってPWM波形が自動的、連続的に切り換わってゆくので、同期PWM方式等への意図的な制御の切替は必要ない。また電流追従型PWM方式は、三角波比較PWMとdq軸電流制御の組合わせによる制御方式のように、高速領域で制御不能に陥ることがなく、PWM領域から1パルス方式(同期PWM方式を含む)の領域まで連続して電流制御できるなどの特徴を有する。
【0012】
しかし電流追従形PWMには、原理的に以下のような定常誤差が存在する。すなわち電流追従型PWMは、固定子静止座標上の電流基準と電流検出値をコンパレータで比較し、その大小関係だけでPWM信号を発生するから、比例ゲインは無限大である。そのまま動作させるとスイッチング周波数が高くなり過ぎる。このため、ヒステリシスによる不感帯やタイマによる遅延時間を設けてスイッチング周波数を制限する。この不感帯や遅延時間で定常誤差が生じる。
【0013】
ヒステリシス幅(不感帯)が広いほど、インバータ3のスイッチング周波数が低くくなり、定常誤差(実際の電動機電流平均値と電流基準との差)は大きくなる。すなわち、スイッチング周波数が低いほど定常誤差は大きく、電動機の制御性能低下の要因となることがある。
【0014】
電流追従形PWMはスイッチング周波数に関らず高速応答が得られることが大きなメリットである。大電流のスイッチング素子を使用する産業用大型ドライブ、電車用主機ドライブなどに電流追従形PWMを適用すればスイッチング周波数を上げることなく電流応答を高速化できるので性能を飛躍的に向上させることができる。積極的にスイッチング周波数を下げ、性能・効率双方を向上させることも考えられる。しかし、これらの用途に電流追従形PWMを適用するためには、定常偏差のない電流制御を実現する必要がある。定常偏差補正回路15d、15qはこのためのものである。
【0015】
もしも電流検出値i、iが電流基準i*、i*より小さければ、補正回路15d、15qがその出力idc*、iqc*を増やす。これにより補正電流基準i**、i**が増加するので、電流追従型PWMによって電動機電流i、iが増加して、電流検出値i、iと電流基準i*、i*との差が小さくなる。補正回路15d、15qが積分要素を持っていれば、減算器14d、14qが出力する偏差が微小なものであってもそれを積分して、補正電流基準i**、i**を修正するので、d軸q軸いずれも定常偏差を零にできる。
【0016】
電動機の中低速領域では誘導電動機の誘起電圧が小さいので、電流指令i*と電流検出値iはほぼ等しい。従って、補正回路15qが出力する補正信号iqc*が微小なので弱め制御回路19の出力信号は負となり、リミッタ20にて下限値0にリミットされる。このためベクトル演算回路10に与えられる磁束指令Φ*は強め磁束指令Φ**と等しい。
【0017】
電動機の回転が高速になると、誘起電圧が増加し電動機に電流、特にq軸電流を流し込めなくなる。これは、回転子d軸方向の磁束Φに対して、誘起電圧(ωΦ)は90°進んだ位相、すなわちq軸方向に発生するからである(このとき、d軸方向磁束Φはほとんど変わらない)。この結果、電流検出値iqが小さくなり、q軸側の定常偏差補正回路15qの出力信号は増大する。15qの出力信号が弱め開始レベルiqCLIM*を超えると、減算器18の出力が正に転じ、弱め制御回路19の出力は増加し始める。これによりベクトル演算回路10に入力される磁束指令Φ*は、強め磁束指令Φ**から弱め制御回路19の出力を減じたものとなり、弱まり始める。ベクトル演算回路10から出力されるi*が小さくなり電動機磁束Φは小さくなる。これによって誘起電圧の増加が制限され、補正回路15qの出力信号の値はリミット値iqCLIMに制御される。
【0018】
q軸側補正回路15q出力iqc*はリミッタ16を介して加算器17qにて電流基準I*と加算されているが、このリミッタ16がないと磁束弱めが間に合わず制御不能に陥る場合がある。たとえば大振幅の力行トルク指令が与えられたとき、過渡的にiqc*が大信号となるので磁束弱めが動作する。この結果、d軸側電流基準id*が絞られ、電流検出値iよりも小さくなる。これによりidc*が負側に振れる。一方iqc*は大トルク指令により正側に振れる。トルク指令が大振幅ステップ変化だとq軸側の電流偏差は大きくiqc*の増加は速い。1パルス領域では、磁束が弱まらなければq軸電流は流れることができない。このためリミッタ16が無いとiqc*はますます正方向に増加する。一方磁束電流基準idc*が絞られることによってidc*も負側に増加する。電流追従型PWM制御がこの補正の入った電流基準i**、i**に基づいて、d軸側、q軸側いずれも定常偏差なく電流制御しようとしても、それがためにd軸側、q軸側いずれも基準通りの電流を流せなくなってしまう。
【0019】
リミッタ16によってq軸側については過渡的に偏差を許容して制御することになる。一方、d軸側はリミットされていないのでiqc*が弱め制御開始レベルを超えている間、磁束を弱めつづける。最終的には充分に磁束が弱まりiqc*は弱め制御開始レベルの一定値に制御される。定常偏差補正回路15d、15qは積分要素を持っているので、iqc*が一定値に制御されるということはiがi*に等しく制御されているということである。一方、d軸側電流は常に偏差がないように制御されるので、1パルス領域でもi、iいずれの電流も基準値どおりに制御できることになる。
【0020】
電流追従制御型PWMでスイッチング周波数をヒステリシスによって制限している場合、スイッチング周波数は電動機のインダクタンス、インバータ直流電圧、電動機回転数、電流の大きさなどさまざまな要因によって変動する。大容量スイッチング素子のスイッチング周波数が高い側に変動する傾向があると、大きな冷却能力が要求され冷却フィンを大型化しなければならない。本方式の高速追従性を利用して、従来よりも低いスイッチング周波数でインバータ損失を減らそうとするとき、スイッチング周波数の高い側への変動は好ましくない。スイッチング周波数制御回路25はこのためのものである。
【0021】
スイッチング周波数制御回路の一例を図4に示す。図4において30はスイッチング周波数検出回路、31は減算器、32は積分器、33は逆数回路、34はリミッタ、35はルックアップテーブル回路、36は加算器である。
【0022】
図4において、スイッチング周波数検出回路30は、Gu、Gv、Gw、Gx、Gy、Gzの各ゲート信号について所定時間における立ち上がり、立ち下がり回数を測定し、それらの総和をスイッチング周波数検出値fswとして出力する。スイッチング周波数は6アーム用ゲート信号の代わりに、ゲート信号の前段階の3相PWM信号から検出することもできるが、ゲート信号から検出するほうが好ましい。ゲート信号は上下アームの短絡を防ぐためのデッドタイムが入った後の信号なので、ゲート信号ではPWM信号のデッドタイム中に除去されるパルスのカウントがなくなる。またPWM信号に含まれている非常に狭い幅のパルスは素子にダメージを与えるため、ゲート信号ではパルスの最小幅が確保される。狭幅パルスは最小幅まで広げられることもあるが、デッドタイムとの関係で除去されることもあり、PWM信号とゲート信号とではパルス数が異なってくる。このため、実際に素子に与えられるゲート信号を用いてスイッチング周波数を計数した方が正確である。またゲート信号の場合、最小幅以下の周期のクロックパルスで計数すれば計数もれがないので、正確な検出回路を容易に作れるというメリットもある。
【0023】
減算器31にてスイッチング周波数検出値fswとスイッチング周波数指令値fsw*との差(fsw*−fsw)が演算され、この偏差(fsw*−fsw)は積分器32にて積分される。スイッチング周波数を下げるにはヒステリシスを広げなければならないので、積分値は逆数回路33にてその積分値の逆数が取られる。リミッタ34によって逆数回路出力信号の下限値を0にリミットして、フィードバック制御によるスイッチング周波数制御信号HysIとする。この制御信号HysIは、スイッチング周波数指令値fsw*が小さい(低い)ほど大きな値となる。
【0024】
ルックアップテーブル回路35はi*の各電流値ごとに、スイッチング周波数が所定値となるヒステリシスと運転周波数ωrとの関係を示すヒステリシステーブルを内蔵しており、適宜補間をおこなって、与えられるωrとi*とに応じたスイッチング周波数制御信号HysFFを出力する。2つのスイッチング周波数制御信号HysIとHysFFは加算器36で加算され、図3の電流追従型PWM制御回路24にヒステリシスHysとして与えられる。
【0025】
電流追従型PWM制御は従来のdq軸電流制御と三角波比較PWM制御との組合わせ方式とは異なり、スイッチング周波数によって電流応答の速さが左右されないという特徴を持っている。したがって電流追従型PWM制御を用いれば、制御性能を下げることなくスイッチング周波数を下げ、素子の発熱を抑制して冷却装置の小型化が可能となる。しかし具体的な冷却装置の設計には、単に従来よりスイッチング周波数を減らせるというだけでなく、スイッチング周波数が所定周波数以上には上がらないという明確な保証が必要であり、そのためにはスイッチング周波数の管理が必要になってくる。
【0026】
電流追従型PWM制御のスイッチング周波数を左右するヒステリシス幅の制御を、積分制御だけで行なうと、電流基準のステップ変化、運転周波数の急変等の時にスイッチング周波数のオーバーシュートは避けられない。つまり、ヒステリシスHysの幅変化は、運転周波数(速度基準ω*)の変化に遅れて発生する。従って、電流基準あるいは運転周波数が急変した後一定値になっても、スイッチング周波数(ヒステリシスHysの幅)の変化は継続し、スイッチング周波数が変化しすぎる現象が発生する。特に、スイッチング周波数を低く制御しなければならない場合には、1回のスイッチング周波数演算処理に要する時間が長くなるため応答が遅く、スイッチング周波数が所定値以上となる期間も長くなる。また積分制御のみの場合は、制御装置は1パルス領域近傍までスイッチング周波数を指令値どおりに制御しようとする。しかし、1パルス領域では運転周波数とスイッチング周波数が等しくなるから、切り換わるポイント付近でスイッチング周波数制御が不安定気味となる。
【0027】
一方、スイッチング周波数を所定値に保つために必要なヒステリシスは、種々の要因で値が変動するので、すべての要因に対し対応できるようなフィードフォワード制御は極めて困難である。
【0028】
従って図4のスイッチング周波数制御回路のように、フィードフォワード(ヒステリシステーブル35を介した経路)とフィードバック(回路30〜34を含む経路)が組合わせられる。つまり、概算値をフィードフォワードで与え、フィードバック制御で精密に合わせ込むことによって、スイッチング周波数の過渡応答と制御精度の双方を満足させる。
【0029】
これによって電流応答に優れる電流追従型PWMを用いて高精度の電流制御が可能となり、精度・応答の双方に優れた高性能なベクトル制御を実現できる。
【0030】
また、従来のPI制御型のdq軸電流制御と三角波比較PWM制御とを組合わせた方式では、q軸電流制御出力(電圧基準)が実際に出力可能なq軸電圧を超えることのないよう早めに弱めなければならなかった。しかし電流追従型PWM方式では、電流制御のための電圧が不足してきた場合、つまり電動機の誘起電圧がインバータの最大出力電圧を超えた場合(補正回路15qの出力iqc*がiqCLIM*以上になった場合)、磁束弱め回路19が動作して始めて磁束を弱める。これにより、完全な1パルス電圧での磁束弱め制御が可能となり出力容量増大、弱め領域での効率改善が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特許第3267524号公報
【特許文献2】特開2003−235270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
以上説明した方式は、電動機の低速域は低スイッチング周波数のPWM制御、高速域は1パルス制御とし、PWM領域/1パルス領域に関らず、ベクトル演算回路から出力される電流基準i*、i*に忠実に電流i、iを流そうと制御するものである。
【0033】
ここで電動機の運転周波数による電流偏差の違いを考察する。
【0034】
PWM制御を行う中低速域では、電流追従型PWMにより、平均的には正弦波とみなせる電圧が電動機に印加されるので、ほぼ電流基準i*、i*、i*に等しい正弦波電流i、i、iが流れる。電流偏差diu(=i*−i)、div(=i*−i)、diw(=i*−i)が小さいので、dq軸電流偏差did(=i*−i)、diq(=iq*−iq)も小さい。特許文献2、3の方式では、定常偏差の大部分はq軸電流に現れる。また特許文献2、3の方式は「インバータの出力電圧ベクトルを、非ゼロ電圧ベクトルとして電流偏差をゼロに近づけ、十分に電流偏差がゼロに近づいたらゼロ電圧ベクトルに切換える。ゼロ電圧ベクトル出力中は、電流が誘起電圧によって変化することによって電流偏差は増大する。電流偏差の大きさがHysに達したら、インバータの出力電圧ベクトルを再び非ゼロベクトルに切換えて電流偏差を減少させる」という制御を繰り返す。前述したように、誘起電圧はq軸に生じているので、電流偏差のq軸分dIは概ね、ゼロとHysの間にあるように制御される。したがってq軸分定常偏差は、ほぼ0とHysの平均値(Hys/2)となる。d軸分定常偏差はほぼゼロである。どちらも定常偏差の量はほぼ一定である。
【0035】
高速回転時の1パルス領域(モードともいう)では様相が異なる。
【0036】
図5は1パルスモードにおけるインバータ各相(ここではu相)の出力電圧波形を示す。このように1パルスモードでは、インバータの周期(θ=0〜2π)に同期して電圧1パルスが出力され、このパルスの振幅はインバータの最大出力電圧(直流電源1の出力電圧)に一致する。このようにインバータの周期に同期して1以上のパルス状電圧を出力する方式を同期PWM方式という。図中、正弦波は出力電圧の理想波形、点線の波形は同期PWM方式の他の例として3パルスモード時の波形である。3パルスモードでは、出力電圧1周期に3パルスP1、P2、P3が出力される。
【0037】
1パルスモードにて、電動機は高回転かつ最高パワーで運転される。電流追従型PWM制御方式では、回転周波数が高くなるほど電流偏差及びヒステリシスHys幅が大きくなり、回転周波数が減算器23U、23V、23Wの各出力信号の周波数(ゲート信号のスイッチング周波数)に近づき最終的に一致し、1パルスモードに移行する。このように本方式では、回転周波数が上昇してゆくと、制御モードがPWMモードから少数パルスモード、1パルスモードへと自動的に移行する。
【0038】
誘起電圧は正弦波であるがインバータ出力電圧は方形波である。このため電流波形は非正弦波となり電流偏差diu、div、diwは非常に大きく、かつ電気角による変化が大きい。しかも1パルス領域では運転周波数が変わっても、出力電圧は一定で誘起電圧の大きさもほぼ一定だが、誘起電圧の方向変化は、運転周波数が高くなるとともに速くなるので、運転周波数が高くなるほど高い制御ゲインが要求される。簡単のため、全領域一定の制御ゲインで済ませようとする場合、最大運転周波数で安定に制御できる高ゲインを採用せねばならない。
【0039】
しかし補正回路15d、15q等の高ゲインは、1パルス領域の中でも運転周波数の低い領域において、電流偏差が大きくなり、補正量idc*、iqc*が大きくなりすぎて制御が不安定になる、という弊害を生む。
【0040】
このように高ゲインは、PWM領域では電流リップルを大きくしてしまう、あるいは制御の安定性に問題を生じるなどの不都合を生む。高ゲインにより定常偏差補正回路で補正される電流基準i**、i**の変化量が大きくなると、電流追従型PWMの電流応答が高速であるが故に、直ちにスイッチングが行なわれる確率が高くなる。これによりスイッチング周波数fswを一定に保つためにヒステリシスが広げられ、結果として電流リップルが大きくなる。電流リップルが大きくなるとモータ高調波損失が増加する。同一スイッチング周波数なのにモータ損失が増える場合は、定常偏差補正回路の高ゲインが原因である。
【0041】
そもそも定常偏差補正回路の役割は、PWM領域と1パルス領域とでは全く異なる。PWM領域では電流制御は電流追従型PWM制御が担い、定常偏差補正回路は電流追従型PWM制御が比例制御であるが故に生じる定常偏差を、積分項のみを有する補正回路によって無くすだけでよい。一方、1パルス領域においては電流追従型PWM制御は単に方形波を発生するだけのPWM制御器としてしか機能せず、積極的に電流制御するのは定常偏差補正回路である。
【0042】
本発明の目的はパルスモード、運転周波数に応じて、定常偏差補正回路のゲインを切換え、PWM領域においてスイッチング周波数に悪影響を及ぼさず、1パルス領域においては運転周波数に関らず電流偏差量の少ない電流応答が得られるインバータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0043】
本発明の1実施形態は、PWM用補正電流基準と電動機電流との比較に基づいて、電動機を駆動するインバータのスイッチング制御信号を直接発生し、制御モードが電動機の中低速域ではPWM制御、高速域では1パルス制御と自動移行する電流追従型PWM制御回路を用いたインバータ制御装置において、電動機の磁束及びトルクを制御すべくベクトル演算して得られた電流基準と、電動機電流との偏差を増幅する定常偏差補正回路と、前記定常偏差補正回路出力信号を前記電流基準に加算してPWM用補正電流基準を演算する加算回路と、電流追従制御型PWM制御回路がPWM制御モードで動作しているとき、前記定常偏差補正回路での制御を積分制御に設定し、1パルスモードで動作しているとき比例積分制御に切換える切換え回路とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明によるインバータ制御装置の実施形態の構成を示す。
【図2】実施形態に係るゲイン切換え回路の詳細構成を示す。
【図3】従来の電流追従型PWM制御回路を用いた電動機制御装置の制御構成を示す。
【図4】スイッチング周波数制御回路の詳細構成を示す。
【図5】1パルスモードにおけるインバータ各相(ここではu相)の出力電圧波形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明に係る交流電動機制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0046】
[構成]
図1は、本発明によるインバータ制御装置の実施形態の構成を示す図である。このインバータ制御装置は、電流追従型PWM制御回路を用いたインバータ制御装置であって、図3と同一の構成要素は同一の参照符号を付し詳細な説明は割愛する。
【0047】
図1において、スイッチング周波数制御回路25が出力するヒステリシスHysは倍率器26により1/2倍される。加算器27は加算器17qの出力信号と倍率器26の出力信号を加算する。
【0048】
ゲイン切換え回路28は本実施形態の主要部をなす。図2はゲイン切換え回路28の詳細構成を示す。ゲイン切換え判定部40は、弱め磁束制御開始レベルiqCLIM*とq軸側定常偏差補正信号iqc*とに基づき、ゲイン切換え信号を発生し、積分ゲイン調節器41及び比例ゲイン調節器42に与える。
【0049】
ゲイン切換え判定部40は比較器50、52、ゼロレベル設定器51、RSフリップフロップ53を含み、電流追従型PWM制御部24の動作が1パルス領域であるか否か判定する。比較器50は弱め磁束制御開始レベルiqCLIM*とq軸側定常偏差補正信号iqc*を入力し、q軸側定常偏差補正信号iqc*が弱め磁束制御開始レベルiqCLIM*よりも大き場合に1、そうでない場合に0の論理信号を発生する。比較器52はq軸側定常偏差補正信号iqc*がゼロよりも小さいとき1を発生する。
【0050】
比較器50の出力がRSフリップフロップ53のセット入力、比較器52の出力がRSフリップフロップ53のリセット入力に接続されている。従って、RSフリップフロップ53はq軸側定常偏差補正信号iqC*が、弱め磁束制御開始レベルiqCLIM*を超えるとセットされ、ゼロ以下(負)になるとリセットされる。この結果RSフリップフロップ53は、電流追従型PWM制御部24の動作が1パルス領域の時、1の論理信号を発生する。RSフリップフロップ53出力は、ゲイン切換え信号として積分ゲイン調節器41、比例ゲイン調節器42に与えられる。
【0051】
積分ゲイン調節器41はPWM領域用積分ゲイン設定器54、1パルス領域用積分ゲイン設定器55、積分ゲイン基準周波数設定器56、割り算器57、乗算器58、セレクター59を含み、定常偏差補正回路15d、15qに積分ゲイン(定数)Kiを提供する。PWM領域用積分ゲイン設定器54の設定値Ki2は、1パルス領域用積分ゲイン設定器55の設定値Ki1に等しいか、あるいは小さな値に設定される。積分ゲイン基準周波数設定器56の設定値ωr1によって、電動機の運転周波数ωが設定値ωr1に等しい時、乗算器58出力が設定値Ki1に等しくなる。これは単に説明のためのもので、最初からKi1/ωr1を設定して乗算器58に入力すれば、定数設定器は1つで済み割り算器57は不要である。設定値ωr1を、おおよそ弱め制御開始周波数に近い値とし、PWM領域のゲインKi2と1パルス領域のゲインKi1の値が同一であれば、PWM領域から1パルス領域に切り換わるときのゲインが等しくなり調整の目安がつけやすく、切換わり時に不安定となることはない。1パルス領域のゲインをPWM領域のゲインよりも低く設定する必要性はない。
【0052】
比例ゲイン調節器42はPWM領域用比例ゲイン設定器60、1パルス領域用比例ゲイン設定器61、セレクター62を含み、定常偏差補正回路15d、15qに比例ゲイン(定数)Kpを提供する。
【0053】
[作用]
図1のスイッチング周波数制御回路25が出力するヒステリシスHysの1/2の値が、倍率器26、加算器27によって、加算器17qの出力に加算されている。これは、本発明の前提としている特許文献1〜3の方式においては、PWM領域におけるq軸分定常偏差が(Hys/2)となるため、予め電流基準に加算しておくものである。これを加算しなくても、q軸側の定常偏差補正によってiqc*が「Hys/2」を負担するから、加算しなくても良いが、その場合ゲイン切換え回路28の構成が異なってくる。実施形態では「Hys/2」を加算することによって、PWM領域においてはd軸、q軸いずれについても定常偏差補正回路の出力がほぼゼロでよくなる。加算しない場合にはゲイン切換え回路28の比較器52のA入力に接続されている設定器51で、設定する値を0でなく(Hys/2)とすればよい。
【0054】
図2において、初期状態ではRSフリップフロップ53の出力(ゲイン切換え信号)を0としておく。PWM領域では誘起電圧が小さく、図1のq軸側定常偏差補正回路15qの出力iqc*はほとんど0なので、比較器50の出力は0であって、RSフリップフロップ53の出力はゼロのままである。これにより、積分ゲイン調節器41はPWM領域用積分ゲイン設定器54の設定値Ki2を出力する。一方、比例ゲイン調節器42はPWM領域用比例ゲイン設定器60の設定値0を出力する。これによって、PWM領域での定常偏差補正動作は積分ゲインKi2に基づくゆるやかな積分制御となる。したがって図1の定常偏差補正回路15d、15qが出力する補正信号が含むリップルは小さく、定常偏差補正回路の出力リップルに起因するインバータ3のスイッチングを抑制できる。
【0055】
電動機の回転数が上昇して1パルス領域に近づくと、誘起電圧上昇によってq軸分電流が流れにくくなるので、定常偏差補正回路15qの出力iqc*が急速に増大する。電動機に実際に流しこむことができるiの値よりもはるかに大きな電流基準i**を電流追従型PWM制御回路24に与えることによって、電圧はPWM波形から1パルス波形に移行する。このとき電流基準i**が大きくとも、過電流になることはない。電流基準はあくまでも、ベクトル演算回路10から出力されるi*であり、この指令値i*に等しい電流iを電動機に流し込むことはできない。これは高回転による大きな誘起電圧が発生しているからである。補正回路15qが出力するiqc*が増え、i**を大きなものとするが、過電流は流れない。
【0056】
ここで、磁束弱め制御開始レベルiqCLIM*を仮にゼロとすると、磁束弱め制御が常に行なわれ、高回転になってもPWMのままで1パルスに移行することはない。磁束弱め制御開始レベルiqCLIMを大きくすれば大きくするほど、磁束弱め制御が高回転側で開始されるので、1パルスに移行しやすくなる。また、1パルスへ移行する直前の3パルス、5パルス等の少数パルスが出現する周波数範囲が狭くなる。iqCLIMの値によって電流指令ベクトル(i**、i**)と電流応答ベクトル(i、i)の位相関係は変わる。すなわち、iqCLIMによって電流指令i*に加算する補償値がリミットされるが、iqCLIMが変わればリミットが働いている時の加算器17qの出力値も変わるので、結果的に電流指令ベクトル(i**、i**)も変わり、電流応答i、iとの位相関係が変わる。実施形態では、d軸側補正回路15dが出力する補正信号idc*によってi**を変化させることにより、ベクトル演算回路10が出力する元のi*、i*に等しい位相の電流を流し続ける。
【0057】
PWM、少数パルス及び1パルス等のモードは、モータの加減速に応じて遷移する。例えばモータが加速する場合、PWM→少数パルス→1パルスと遷移していき、遷移のタイミングはモータの回転数に対応する。磁束弱め制御開始レベルiqCLIMを大きくすると、低い回転数でもすぐに1パルスに移行するようになる。従って、磁束弱め制御開始レベルiqCLIMの値は、主としてPWMと1パルスの切換え時の少数パルスの出現周波数領域を設定するために選択される。
【0058】
図2において、補正信号iqc*が磁束弱め制御開始レベルiqCLIM*に達すると比較器50の出力が1となりRSフリップフロップ53がセットされる。すなわち、インバータ制御モードが1パルスモードである判断される。これにより積分ゲイン調節器41はゲインKi1・(ω/ωr1)を出力し、比例ゲイン調節器42はゲインKp1を出力する。比例ゲインKp1、積分ゲインKi1・(ω/ωr1)が設定されたことで、補正回路15d、15qは積分制御でなく比例積分制御を行なうようになる。比例積分制御となることで、idc*、iqc*の変化が高速になるので、PWMモードよりも高速な制御が可能となる。積分ゲインKi1*(ω/ωr1)は電流制御に必要な応答を得るだけのゲインが必要である。1パルスモード時、インバータ出力電圧は一定値(最大値)だが、回転周波数に応じて誘起電圧が変化する。この変化に応じて積分係数が可変される。すなわち、回転周波数が高いほどKi1を大きくする。
【0059】
これに対しPWMモードにおける積分ゲインKi2は小さくてかまわない。PWMモードにおけるスイッチング周波数は、使用するスイッチング素子電力容量とその冷却能力とから定められるので、大電力スイッチング素子を小型の冷却器で使用する場合、スイッチング周波数はかなり低くせざるをえない。スイッチング周波数を計算する場合、所定時間の間に発生したスイッチングの数を数えて、スイッチング周波数に変換する。この所定時間をサンプリング時間とする。またスイッチング周波数を計算する場合、スイッチングのサンプル数はある程度多くないと、十分な精度が得られない。従って、スイッチング周波数が低い場合はサンプリング時間が長くなるので、スイッチング周波数制御も必然的に遅くなってしまう。この点からもPWM領域の積分ゲインK12は、1パルス領域の積分ゲインKi1よりも小さくて良い。
【0060】
尚、スイッチング周波数が速ければ、Ki2とKi1の値が等しくてもかまわない可能性があり、Ki2>Ki1でなければならないという必然性はない。本実施形態により、PWM領域の定常偏差補正の速さを、1パルス領域における電流制御の速さとは無関係に設定できるので、定常偏差補正量を、PWM領域におけるスイッチング周波数制御に悪影響を及ぼさない程度まで小さくすることができる。
【0061】
さらに運転周波数が上がり、誘起電圧が上昇しようとすると、q軸電流が流れにくくなり、iqc*が増加しようとする。iqc*がiqCLIM*を超えると、磁束弱め制御回路19により磁束が弱められるので、誘起電圧は一定値に制御されiqc*の増加が抑制される。
【0062】
運転周波数が上昇すると電流基準i*、i*、i*及び誘起電圧の変化速度が速くなる。本実施形態で用いている電流追従型PWM制御は三相瞬時値ベースなので、運転周波数が高くなるほど高速な応答が要求されるが、積分ゲインをKi1・(ω/ωr1)と周波数比例としているので、運転周波数が高くなっても追従性の良い電流制御が可能となる。
【0063】
運転周波数が下がると、磁束が一定であれば誘起電圧が下がる。従って電流が流れやすくなるので、定常偏差補正回路出力iqc*が小さくなる。これによって磁束弱め制御回路19の出力が減り、磁束指令Φn*が徐々に強められる。結果として、運転周波数が下がっても、誘起電圧は一定に保たれ、定常偏差補正回路出力iqc*も一定に保たれる。さらに運転周波数が下がり、磁束弱め制御回路19の出力がゼロまで下がると、それ以上磁束は強められず一定となる。これ以下の運転周波数では、運転周波数とともに誘起電圧が下がりはじめ、電流が流れやすくなる。定常偏差補正回路出力iqc*は徐々に減少しゼロに至る。ここで必ずオーバシュートがありiqc*が負になるので、図・2の比較器52は1を出力し、RSフリップフロップ53がリセットされる。
【0064】
この結果、積分ゲインはPWM領域用の低ゲインKi2に、比例ゲインはゼロに設定される。PWM領域になるとスイッチング周波数を制御するために、ヒステリシスHysを調節する図1のスイッチング周波数制御回路25が動作し始める。この場合、定常偏差補正回路の制御応答はKi2の低い値に抑えられているので、定常偏差補正がスイッチング周波数制御に悪影響を与えることはない。またPWM領域においては電流追従型PWMにより高速電流制御が行なわれ、定常偏差補正回路はd軸、q軸側ともほぼ一定の定常偏差を提供し、応答が高速である必要はない。
【0065】
[効果]
スイッチング周波数の増大は、素子の冷却装置のサイズ・重量の増大に直結する。このためスイッチング損失の大きい大型半導体素子を用いたドライブ装置では、スイッチング周波数を抑えることはきわめて重要である。
【0066】
本実施形態のような電流追従型PWM制御は、従来のdq軸電流制御と三角波比較PWM制御との組合わせ方式とは異なり、電流応答の速さがスイッチング周波数に左右されないという特徴を持っている。したがって電流追従型PWM制御を用いれば、制御性能を下げることなく、スイッチング周波数を下げ、素子の発熱を抑制して冷却装置を小型化することが可能となる。
【0067】
しかし具体的な冷却装置の設計のためには、単に従来よりスイッチング周波数を減らせるというだけでなく、スイッチング周波数が所定周波数以上には上がらないという明確な保証が必要であり、そのためにスイッチング周波数の管理が必要になってくる。従来は、スイッチング周波数を制御するために定常偏差補正が悪影響を受け、同一スイッチング周波数であるにもかかわらず電流リップルが増加し、モータ効率を悪化させるという結果を招いた。
【0068】
本実施形態はそれを回避するためになされたものである。PWM領域においては電流追従型PWM制御が高速応答を担い、定常偏差はPWM全領域においてほぼ一定である。このため本実施形態では、PWM領域における定常偏差補正を低ゲインの積分制御とする。これによってスイッチング周波数制御への悪影響を避けることができる。PWM全領域においてほぼ一定の定常偏差を補正するだけであるから、定常偏差補正の応答性は遅くてもかまわない。電流指令のステップ状変化、負荷側の変化による電流変化等に対しては、電流追従型PWM制御回路が対応する。
【0069】
1パルス領域では電流追従型PWM制御回路は単なる方形波発生器として動作し、積極的に電流制御するのは定常偏差補正回路であるから、定常偏差補正は高速でなければならない。本実施形態では1パルス領域の定常偏差補正を高ゲインの比例積分制御とする。また積分ゲインについては周波数比例とする。これによって1パルス領域における高速電流制御が可能となる。
【0070】
以上によって定常偏差補正とスイッチング周波数制御の干渉による電流リップル増加、ひいてはモータ効率の悪化を避けることができる。
【0071】
[他の実施形態]
なお使用する素子のスイッチング速度が高速でスイッチング周波数制御回路が不要な電動機制御装置の場合には、定常偏差補正回路によって、スイッチング周波数が高くなってしまうのを避けるために、及び1パルス領域の広い運転周波数範囲にわたり追従性の良い電流制御を実現するために本発明は有効である。
【0072】
上記実施形態では、PWMモードと1パルスモードの判別をi*の大きさに基づき、図2のゲイン切換え判定部40で行っている。しかし、1パルスモードではスイッチング周波数と運転周波数が一致し、PWMモードではスイッチング周波数が運転周波数よりも高くなることから、スイッチング周波数と運転周波数との比較結果をゲイン切換え信号として、図2の積分ゲイン調整器41及び比例ゲイン調整42に提供しても良い。この場合、比較結果が1のとき1パルス用の積分ゲイン及び比例ゲインが補正回路15d、15qに提供される。
【0073】
以上の説明はこの発明の実施の形態であって、この発明の装置及び方法を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができるものである。例えば、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を構成できる。
【符号の説明】
【0074】
1…直流電源、2…コンデンサ、3…インバータ、4…モータ、5U、5V、5W…ホールCT、6…回転センサ、7…回転検出回路、8…減算器、9…速度制御回路、10…磁束弱め関数発生器、10…ベクトル演算回路、11…加算器、12…電流検出値器、13…座標変換回路、14d、14q…減算器、15d、15q…定常偏差補正回路16…リミッタ、17d、17q…加算器、18…減算器、19…磁束弱め制御回路、20…リミッタ、21…減算器、22…座標変換回路、23U、23V、23W…減算器、24…電流追従型PWM制御回路、25…スイッチング周波数制御回路、26…倍率器、27…加算器、28…ゲイン切換え回路、30…スイッチング周波数検出回路、31…減算器、32…積分器、33…逆数回路、34…リミッタ、35…ルックアップテーブル回路、36…加算器、40…ゲイン切換え判定部、41…積分ゲイン調節器、42…比例ゲイン調節器、50、51…比較器、52…ゼロレベル設定器、53…RSフリップフロップ、54…PWM領域用積分ゲイン設定器54、55…1パルス領域用積分ゲイン設定器、56…積分ゲイン基準周波数設定器、57…割り算器、58…乗算器、59…セレクター、60…PWM領域用比例ゲイン設定器、61…1パルス領域用比例ゲイン設定器、62…セレクター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWM用補正電流基準と電動機電流との比較に基づいて、電動機を駆動するインバータのスイッチング制御信号を直接発生し、制御モードが電動機の中低速域ではPWM制御、高速域では1パルス制御と自動移行する電流追従型PWM制御回路を用いたインバータ制御装置において、
電動機の磁束及びトルクを制御すべくベクトル演算して得られた電流基準と、電動機電流との偏差を増幅する定常偏差補正回路と、
前記定常偏差補正回路出力信号を前記電流基準に加算してPWM用補正電流基準を演算する加算回路と、
電流追従制御型PWM制御回路がPWM制御モードで動作しているとき、前記定常偏差補正回路での制御を積分制御に設定し、1パルスモードで動作しているとき比例積分制御に切換える切換え回路と、
を具備するインバータ制御装置。
【請求項2】
前記切換え回路は、前記定常偏差補正回路出力信号を基に、前記電流追従型PWM制御回路がPWM制御モードであるか、1パルス制御モードであるかを判定することを特徴とする請求項1記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
前記切換え回路は、スイッチング制御信号の周波数と電動機運転周波数との比較結果を基に、前記電流追従型PWM制御回路がPWM制御モードであるか、1パルス制御モードであるか判定することを特徴とする請求項1記載のインバータ制御装置。
【請求項4】
前記切換え回路は、1パルスモードにおける定常偏差補正回路の積分ゲインを運転周波数に比例して変化させることを特徴とする請求項1乃至3のうち1項記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
PWM用補正電流基準と電動機電流との比較に基づいて、電動機を駆動するインバータのスイッチング制御信号を直接発生し、制御モードが電動機の中低速域ではPWM制御、高速域では1パルス制御と自動移行する電流追従型PWM制御手段を用いたインバータ制御装置における制御方法であって、
前記電動機の磁束及びトルクを制御すべく、ベクトル演算して得られた電流基準iq*と、電動機電流iqとの偏差を定常偏差補正手段にて増幅し、
前記定常偏差補正手段出力信号を前記電流基準に加算してPWM用補正電流基準を演算し、
電流追従制御型PWM制御手段がPWM制御モードで動作しているとき、前記定常偏差補正手段での制御を積分制御に設定し、1パルスモードで動作しているとき比例積分制御に切換えることを具備するインバータ制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−175756(P2012−175756A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33436(P2011−33436)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】