説明

インバータ制御装置

【課題】インバータ制御装置の運転停止中に誘導電動機が負荷機械側の外力により回された後に再起動したとき、誘導電動機が予想外に動くことを防止できるようにしたインバータ制御装置を得る。
【解決手段】誘導電動機3をベクトル制御によって駆動するインバータ制御装置10において、インバータの運転信号が停止している間、インバータ出力電圧及び電流の座標変換に用いる基準位相を保持する手段17、18を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、誘導電動機をベクトル制御によって可変速駆動するためのインバータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導電動機をベクトル制御するインバータ制御装置の制御回路は、速度帰還信号が速度基準に追従するように制御してトルク電流基準を出力する速度制御器と、トルク電流基準及び励磁電流基準に夫々トルク電流帰還、励磁電流帰還が追従するように制御して夫々トルク電圧基準、励磁電圧基準を出力するトルク電流制御器、励磁電流制御器と、これらのトルク電圧基準、励磁電圧基準を2相/3相変換器に入力し、3相電圧指令を出力する回路等を有する。そして、3相電圧指令に基づきPWM変換器によってゲート信号を生成して、このゲート信号をインバータに与えることによって誘導電動機に流れる電流と周波数を制御する。ここで、トルク電流帰還、励磁電流帰還は電流検出器による検出電流帰還を2相/3相変換器によって分解することによって検出される。
【0003】
上記において、出力電圧の2相/3相変換および検出電流帰還の3相/2相変換に使用される基準位相は、速度センサによって検出された速度帰還とトルク電流と励磁電流によって計算されたスベリを加算した周波数を積分することによって求めている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−49798号公報(第4−7頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の誘導電動機のベクトル制御回路は特許文献1に示すように構成されているが、インバータ制御装置が運転停止中に、誘導電動機が負荷機械側の外力により回された後に再起動した場合、誘導電動機が予想外の動きを行ってしまい、場合によっては負荷機械が扱っている製品に悪影響を与えるという問題点があった。
【0006】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、インバータ制御装置の運転停止中に誘導電動機が負荷機械側の外力により回された後に再起動したとき、誘導電動機が予想外に動くことを防止できるようにしたインバータ制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のインバータ制御装置は、誘導電動機をベクトル制御によって駆動するインバータ制御装置において、インバータの運転信号が停止している間、インバータ出力電圧及び電流の座標変換に用いる基準位相を保持する手段を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、誘導電動機をベクトル制御するインバータ制御装置において、インバータ制御装置の運転停止中に誘導電動機が負荷機械側の外力により回された後に再起動したとき、誘導電動機が予想外に動くことを防止できるようにしたインバータ制御装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るインバータ制御装置の回路構成図。
【図2】停止時と再運転時の励磁電流の位相差を示す説明図。
【図3】運転信号と基準位相の関係を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態を図1乃至図3に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明に係るインバータ制御装置の回路構成図である。コンバータ1は交流電源を受け、これを所望の電圧の直流に変換してインバータ2に与える。インバータ2は通常電圧型インバータであり、この場合は直流リンク部に平滑用の直流コンデンサが接続されるが、その図示は省略している。インバータ2は直流を交流電圧に変換して誘導電動機3を駆動する。コンバータ1及びインバータ2は、通常パワーデバイスをブリッジ接続した主回路を備えている。インバータ2のパワーデバイスはインバータ制御部10から与えられるゲート信号によってオンオフ制御されている。交流電動機3には速度検出器4が取り付けられており、この出力は速度帰還信号(速度fbk)としてインバータ制御部10に与えられる。また、インバータ2の出力側には電流検出器5が設けられ、この出力も電流帰還信号(電流fbk)としてインバータ制御部10に与えられる。
【0012】
次にインバータ制御部10の内部構成について説明する。
【0013】
外部から与えられた速度基準(速度ref)は、速度検出器4からの速度帰還信号(速度fbk)と比較され、両者の偏差が速度制御器11の入力となる。速度制御器11においてはこの偏差が最小となるように調節制御し、トルク電流基準(トルク電流ref)を出力する。
【0014】
トルク電流基準(トルク電流ref)は、前述の電流帰還信号(電流fbk)を3相−2相変換器14で変換して得られたトルク電流帰還(トルク電流fbk)と比較され、両者の偏差がトルク電流制御器12の入力となる。トルク電流制御器12においてはこの偏差が最小となるように調節制御してトルク電圧基準を出力する。また、所定の値に設定された励磁電流基準(励磁電流ref)は、同様に電流帰還信号(電流fbk)を3相−2相変換器14で変換して得られた励磁電流帰還(励磁電流fbk)と比較され、両者の偏差が励磁電流制御器13の入力となる。励磁電流制御器13においてはこの偏差が最小となるように調節制御して励磁電圧基準を出力する。
【0015】
トルク電流制御器12の出力であるトルク電圧基準と励磁電流制御器13の出力である
励磁電圧基準は2相−3相変換器15に与えられ、2相−3相変換器15は3相電圧基準(Vuref、Vvref、Vwref)を出力する。この3相電圧基準(Vuref、Vvref、Vwref)はPWM制御器16に与えられる。PWM制御器16はインバータ2の各相の出力電圧が3相電圧基準(Vuref、Vvref、Vwref)となるようにインバータ2の各パワーデバイスに対して、所定のキャリア信号で変調されたゲート信号を供給する。上記説明における3相−2相変換器14及び2相−3相変換器15の相変換のための基準位相の生成方法について以下説明する。
【0016】
トルク電流基準(トルク電流ref)と励磁電流基準(励磁電流ref)を入力とするスベリ演算器17は以下の(1)式に従って誘導電動機3のスベリ周波数を求める。
【0017】
スベリ=(r2/L2)×トルク電流ref/励磁電流ref・・・(1)
ここで、r2とL2は夫々誘導電動機の二次側抵抗とインダクタンスである。(1)式から得られるスベリ周波数に、速度帰還信号(速度fbk)から得られる回転周波数を加算することによってインバータ2の出力周波数が得られ、この出力周波数を積分器18によって積分することによって基準位相が得られる。この基準位相に基づいて3相−2相変換器14及び2相−3相変換器15の相変換を行う。ここで、積分器18の出力は、積分停止指令器19の停止指令を受けたときには、例え入力の周波数が変化していてもその積分動作を行わず、出力の基準位相を保持するようにする。積分停止指令器19には運転信号が与えられており、運転中にこの信号がオフとなってゲートブロックを行ったとき、積分停止指令器19は停止指令を出力するようにする。
【0018】
以下、図2及び図3も参照して上記積分停止指令器19の作用効果について述べる。図2は、インバータ2が停止中に誘導電動機3が外力によって電気角換算でΔθだけ回転させられたときの励磁電流の位相の変化を示している。図2に示したように、図1に示した積分停止指令器19を設けていない場合には、停止時の励磁電流軸(D軸)に対して再運転時の励磁電流軸はΔθだけ変化する。誘導電動機3が同期電動機のように回転位相に対して固定された界磁極(励磁電流軸に相当)を有していれば、図2のように界磁極の回転移動に対応して励磁電流軸をΔθだけ回転させる必要がある。しかし、誘導電動機3の回転子の残留磁束が消磁されている場合は、再運転時の励磁電流位相に追従して励磁電流軸(D軸)が決まることになるので、任意の位相で再運転しても良いことになる。ところが、特に誘導電動機3の回転速度を極端に下げた状態でゲートブロックによって停止した場合は、固定子巻線が停止前に励磁された状態に見合う残留磁束が誘導電動機3の固定子側に残る場合があり、この残留磁束の位相と上記回転位相Δθの位相関係によっては、停止後に再起動したとき、予想外のトルクが生じてしまう場合が生じる。
【0019】
このような予想外のトルク発生を防止するためには、停止中に誘導電動機3の回転子が外力によってΔθだけ回転しても、基準位相を追従させないようにする必要がある。図3は
積分停止指令器19の動作について説明したタイムチャートである。時刻T1までは運転信号がオンの状態で基準位相の積分は行われているが、時刻T1で運転信号がオフとなると、
積分停止指令器19によって積分動作は中止され、基準位相は時刻T1のときの状態で保持される。そして、時刻T2で再び運転指令がオンとなると、積分停止指令器19の動作によって基準位相の積分が再開される。
【0020】
以上述べたように、図1における積分停止指令器19の作用によって、図3に示した運転信号がオフである期間中に誘導電動機3の回転子が外力によってΔθだけ回転しても、図2に示したような再運転時の励磁電流位相にはならず、停止時の励磁電流位相で再運転を行うことが可能となり、再運転時に予想外のトルクが生じてしまうことを防止し、再起動時の速度安定性を高めることが可能となる。
【0021】
以上本発明の実施例を説明したが、この実施例は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施例やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0022】
例えば、コンバータ1に代えて他の直流電源を用いても良く、また、コンバータ1とインバータ2をマトリクスコンバータに置き換えても良い。インバータ制御部10はベクトル制御を行うものであれば良く、例えば励磁電流基準は磁束基準から演算で求める構成としても良く、速度等に応じて励磁電流基準を変化させるようにしても良い。また、速度検出器4を省略したセンサレスベクトル制御であっても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 コンバータ
2 インバータ
3 誘導電動機
4 速度検出器
5 電流検出器
10 インバータ制御部
11 速度制御器
12 トルク電流制御器
13 励磁電流制御器
14 3相−2相変換器
15 2相−3相変換器
16 PWM制御器
17 スベリ演算器
18 積分器
19 積分停止指令器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電動機をベクトル制御によって駆動するインバータ制御装置において、インバータの運転信号が停止している間、インバータ出力電圧及び電流の座標変換に用いる基準位相を保持する手段を備えたことを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項2】
交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、
前記コンバータの出力電圧を交流に変換して誘導電動機を駆動するインバータと、
前記インバータの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記交流電動機の速度を実質的に検出する速度検出手段と、
前記インバータの出力を制御するインバータ制御部と
を具備し、
前記インバータ制御部は、
前記速度検出手段によって得られる速度帰還が所定の速度基準となるように制御してトルク電流基準を出力する速度制御手段と、
前記電流検出手段の検出電流を3相−2相変換してトルク帰還電流及び磁束帰還電流を得る3相−2相変換手段と、
前記トルク電流基準と、前記トルク帰還電流とを比較してトルク軸電圧基準を出力するトルク軸電流制御手段と、
所定の励磁電流基準と、前記磁束帰還電流とを比較して磁束軸電圧基準を出力する磁束軸電流制御手段と、
前記トルク軸電圧基準及び前記磁束軸電圧基準を2相−3相変換して前記インバータの各相の電圧基準を得る2相−3相変換手段と、
前記インバータの各相の電圧基準をPWM制御して前記インバータを構成するスイッチング素子へのゲート信号を出力するPWM制御手段と、
前記トルク電流基準と前記励磁電流基準を用いてスベリ周波数を求めるスベリ周波数演算手段と、
前記スベリ周波数と、前記速度帰還から得られる回転周波数を加算して得られるインバータ周波数を積分して前記3相−2相変換手段及び前記2相−3相変換手段の基準位相を得る積分手段と
を具備し、
外部から与えられる運転信号がオフしたとき、前記積分手段の出力を保持し、この運転信号が再びオンしたとき、前記積分手段による積分動作を再開するようにしたことを特徴とするインバータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−5703(P2013−5703A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138103(P2011−138103)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】