インパルスレーダ
【課題】ノイズ対策を十分に施したMUSIC法による信号処理を行うインパルスレーダを提供する。
【解決手段】送信アンテナから放射されたインパルス波の反射波を受信アンテナで受信し、この受信信号をA/D変換して得られた受信データから物標で反射した反射波を求める演算処理手段と、を有し、前記演算処理手段は、MUSIC法を用いた信号処理を行う第1演算部と、前記受信データを周波数領域においてデータ列に区分を設け、区分けしたデータ列の位置を数次ずらして新たなデータ列を複数作成するサブアレイ化処理を行う第2演算部と、第2演算部によるサブアレイ化処理により作成された複数の各データ列に基づいて空間平滑化共分散行列を求めて前記第1演算部に出力する第3演算部とを有し、前記第2演算部は前記データ列の数であるデータ数を調整可能とする。
【解決手段】送信アンテナから放射されたインパルス波の反射波を受信アンテナで受信し、この受信信号をA/D変換して得られた受信データから物標で反射した反射波を求める演算処理手段と、を有し、前記演算処理手段は、MUSIC法を用いた信号処理を行う第1演算部と、前記受信データを周波数領域においてデータ列に区分を設け、区分けしたデータ列の位置を数次ずらして新たなデータ列を複数作成するサブアレイ化処理を行う第2演算部と、第2演算部によるサブアレイ化処理により作成された複数の各データ列に基づいて空間平滑化共分散行列を求めて前記第1演算部に出力する第3演算部とを有し、前記第2演算部は前記データ列の数であるデータ数を調整可能とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアルタイムデータ収集機能に優れ、且つ、広く使われるインパルスレーダに係り、特に物体に対する検知信号のS/N比(SNR)を向上させたインパルスレーダに関する。詳しくは、物体から反射した受信データを周波数領域においてサブアレイ化(以後、「スナップショット」と称する)し、且つ、空間平滑化共分散行列を求めて、超解像法等と云われるMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いた信号処理を行って物体を認識するインパルスレーダにおいて、スナップショットのデータ点数を調整することにより上記検知信号のSNRを向上させるインパルスレーダに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダは、送信波の変調の方法によって、無変調(CWレーダ)、周波数変調(FMCWレーダ)、パルス変調(インパルスレーダ)に分類される。
【0003】
FMCWレーダにおいて、受信した信号の処理にMUSIC法を用いることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1のFMCWレーダは、周波数変調された連続波を送信し、物標に当たり戻ってきた受信信号(反射波)を送信波で検波し、検波出力の自己相関行列を求め、MUSIC法により時間に関する評価関数を求め、この評価関数より距離を測定する。
【特許文献1】特開平10-031065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のFMCWレーダにおいて、MUSIC法を用いることにより、多方向から到来する反射波の中から物標を高精度に測定できるが、FMCWレーダは周波数掃引に時間を有するため、リアルタイムデータ収集性において不利である。
【0006】
これに対し、インパルスレーダはリアルタイムデータ収集性に優れているため、インパルスレーダにMUSIC法を導入することで、レーダとしての機能を大幅に向上させることが期待される。
【0007】
ところで、本発明者は、MUSIC法を導入したインパルスレーダにより、地下に埋設された物標を探知することを目的としてシミュレーションを行ったが、得られた結果にノイズが多く存在した。このノイズの原因として、実際に物体からの反射波を受信する受信機自身が有する帯域やノイズが考えられるが、これらのノイズに対して適切な措置を講ずることは為されていないのが現状である。
【0008】
本発明の目的は、ノイズ対策を十分に施したMUSIC法による信号処理を行うインパルスレーダを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を実現するインパルスレーダの第1の構成は、請求項1に記載のように、インパルス波を放射する送信アンテナと、前記送信アンテナから放射されたインパルス波の反射波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信した受信信号をA/D変換して得られた受信データから物標で反射した反射波を求める演算処理手段と、を有し、前記演算処理手段は、MUSIC法を用いた信号処理を行うための第1演算部と、前記受信データを周波数領域においてデータ列に区分を設け、区分けしたデータ列の位置を数次ずらして新たなデータ列を複数作成するサブアレイ化処理を行う第2演算部と、第2演算部によるサブアレイ化処理により作成された複数の各データ列に基づいて空間平滑化共分散行列を求めて前記第1演算部に出力する第3演算部とを有し、前記第2演算部は前記データ列の数であるデータ数を調整可能とすることを特徴とする。
【0010】
本発明の目的を実現する第2の構成は、請求項2に記載のように、上記した第1の構成において、前記演算処理手段は、サブアレイ化処理により作成したデータ数をM、前記データ列である受信波のサンプル数をLとすると、MがL/2と等しいかL/2未満としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、サブアレイ化処理により作成したデータ数Mを調整することにより、SN比を向上させることができ、物標を高精度に探査することが可能となる。また本発明は、物標として地雷・水道管、地下の空洞あるいは遺跡の探知といった地下に存在するものの他に、積雪量や氷厚を計測するような環境計測の分野にも適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1はインパルスレーダのシステムブロック図、図2は検知データから空間平均化共分散行列を求めるための手段となる周波数領域サブアレイ配列を示す図、図3は図1の演算部10による信号処理を示すフローチャートである。
【0014】
図1において、コントローラー1は、インパルス発生器2にインパルス波を発生させるための送信トリガとなるパルスを繰り返し(例えば1μs間隔にて)送信する。インパルス発生器2は、コントローラー1より繰り返しトリガを受け、最大電力は約30dBmであり、パルス幅は約1n秒のインパルス波を送信アンテナ3に対して繰り返し送信する。
【0015】
送信アンテナ3は、周波数が0.3GHzから2GHzにかけて効率よく電波を放射する広帯域のアンテナ、例えば、人間が携帯可能な大きさ(A5サイズ)のボウタイ型ダイポールアンテナを使用し、インパルス発生器2よりインパルス波を受け、この電気信号を電波に変換し、電磁波を地中に向けて放射する。その際、送信アンテナ3および後述の受信アンテナは矢印に示す操作方向に地表面(GL)に沿って移動する。
【0016】
受信アンテナ4は、送信アンテナ3より放射された電波から直接カップリングする電波の他、地表面及び地中、もしくは地中に埋設された物標(13,14,15)、例えば、埋設管等の金属物や地雷等の非金属物から反射された複合波を受信し、これを電気信号に変換した後に増幅器5を介してサンプルホールド回路6に送信する。
【0017】
サンプルホールド回路6は、入力される信号のうちの1波の一部を瞬間的、例えば128psの間に捉える機能を有し、コントローラー1によって制御される移相器7により、繰り返し入力される信号を遅延時間調整、例えば128psの間隔で時間遅延した後に検波し、ローパスフィルタ(LPF)8を介してA/D変換器9に送信する。
【0018】
A/D変換器9は、サンプルホールド回路6より受信する電気信号を繰り返しA/D変換し、コントローラー1に送信する。
【0019】
コントローラー1は、A/D変換器9より受信したディジタルデータを内部に設けられた内部メモリ(不図示)に格納する。前記内部メモリには、2のべき乗分のデータ量(本実施形態では128検波分又は256検波分)×複数分のデータが格納される。
【0020】
ここで、「2のべき乗分のデータ量」とは、これらを結合させることにより、受信アンテナ4が出力する電気信号をディジタル的に復元できる仕組みになっていることを意味する。また、「複数分」とは、S/N比(SNR)向上のためにデータを積算する量を意味し、本実施形態では100としている。
【0021】
演算部10は、DSP(Digital Signal Processor)などから構成され、コントローラー1の前記内部メモリに格納されたデータを一定間隔(例えば、0.1sec毎)で吸上げ、図3に示すフローチャートに従った信号処理を実施し、インターフェイス(I/F)11を介してレベル変換した後に、汎用パーソナルコンピュータ(PC)12に送信する。
【0022】
汎用PC12は、I/F11を介して演算部10から受信したデータをメモリに取り込み、1次元(Aモード:横軸を時間軸とし縦軸を振幅とするモード)もしくは2次元(Bモード:例えば横軸を距離とし縦軸を深さとするモード)のデータ表示を行うとともに、内蔵される記録媒体に格納する。
【0023】
また、汎用PC12は演算部10及びコントローラー1を制御するソフトウエアが搭載されており、計測の開始及び停止等の計測の操作を行う機能を有する。
【0024】
上述した構成の本実施形態におけるインパルスレーダは、演算部10において、時間領域で物質を検知するレーダで取得されたデータ(生データ)に対して、前処理として高速フーリエ変換(FFT)処理を実施することにより周波数領域のデータを算出し、この算出した周波数領域のデータにMUSIC法による信号処理を組み合わせたものである。
【0025】
本実施形態において、MUSIC法による信号処理アルゴリズムを図3に示すフローチャートの流れに従って以下に説明する。
【0026】
図3に示すフローチャートにおいて、ステップ(Sと略す)1からS5まではMUSIC法による処理を行う前の生データの処理を示す。
【0027】
上述のように、レーダで取得された生データであるインパルスレーダの信号は一般的に式(1)の方程式によって示される。なお、式(1)において、Lは後記する受信波のサンプル数を示す。
【0028】
【数1】
【0029】
式(1)は時間領域における信号であり、前処理(MUSIC法は処理するデータが周波数であるため)として高速フーリエ変換処理(以下、「FFT処理」と称する)を実施することにより、得られる周波数領域のデータは式(2)で示される。
【0030】
【数2】
【0031】
ここで、fは周波数、τiは遅延時間であり、yiは任意の基準位置における複素量で表される入力信号である。
【0032】
一方、受信信号には、内部雑音と信号雑音が相互に独立して含まれているので、式(2)は式(3)のように書き換えられる。
【0033】
【数3】
【0034】
ここで、w(ω)は雑音のベクトルを表している。
式(2)の詳細は式(3a)で示されるが、説明の便宜上、式(3b)と簡素化する。
【0035】
【数4】
【0036】
MUSIC法を適用するための一般式は式(4)で与えられる。
【0037】
x=Ay+w (4)
ここで、式(3b)と見比べると、下式のように対応することが可能である。
【0038】
【数5】
【0039】
ここで、ベクトルAはL行k列の遅延パラメータ行列であり、その中で記述されるLは受信波のサンプル数である。yは周波数fkにおけるL番目の反射点(サンプル)に対する反射係数である。wはノイズベクトルである。xの自己相関行列Sは式(5)のように表される。
【0040】
【数6】
【0041】
ここで、*は転置行列である。
【0042】
【数7】
【0043】
入力波形とノイズは無相関である。要素yで表される入力波は無相関と想定される。すなわち、(yy*=P)はL行L列の対角線行列である。しかし、要素yにより入力波形が部分的又は完全に関係づけられている場合、(yy*=P)は対角線行列とならない。到達波と内部雑音が関係付けされない場合、xの相関行列Sは式(8)で表される。
【0044】
【数8】
【0045】
ただし、雑音ベクトルwの平均はゼロ、σ2が分散値、Iが単位行列である。
【0046】
各々の反射位置での遅延時間は、MUSIC関数(Pmusic)のピーク位置により求められる。
【0047】
【数9】
【0048】
ここで、a(τ)は遅延時間ベクトル、ENはL×(L-k)の雑音行列であり、(L-k)行は雑音固有値である。
【0049】
レーダ信号の問題を取り除くために非相関処理を実行する。本実施形態ではこの非相関処理を空間平滑化処理(以降、「SSP(Spatial Smoothing Process)処理」と称する)によって行う。
【0050】
SSP処理を以下に説明する。
【0051】
図2において、受信データを(1,2,3・・・・N,N+1,・・・・L-1,L)というようなL個の反射係数をもつ周波数領域の配列とした場合、すなわち受信波のサンプル数をLとした場合、この周波数領域に対して、長さN(周波数f1からfN)の領域を抜き出し(この抜き出した一つの領域をスナップショットと称する)、長さを1ずつずらしたスナップショットをM個重なり合わせるように作成する(以下これをサブアレイ分割と称す)。その関係は式(10)のように表される。
【0052】
【数10】
【0053】
サブアレイ分割により得られたスナップショットにおいて、x1(配列番号)は1番目のスナップショット、x2は2番目のスナップショットとなり、xMまでスナップショットが重なり合うように存在する。スナップショットの数Mは任意に設定する。式(4)において、k番目の要素は式(11)のように書かれる。
【0054】
【数11】
【0055】
そして、xkの自己相関行列Skは式(12)のように与えられる。
【0056】
【数12】
【0057】
また、空間平滑化共分散行列は、スナップショットの平均値として定義され、式(13)のように表現される。
【0058】
【数13】
【0059】
MUSIC法による信号処理を図1に示す演算部10で実施するために、インパルスレーダの周波数領域のデータx(ω)を図2に示すようにサブアレイ分割する。
【0060】
スナップショットxkの複素共役行列xk*を各々作成し、式(12)で示すように自己相関行列Skを算出する。
【0061】
さらに、式(13)で示すように、SSP処理を行い、式(14)で示される固有ベクトルENを固有値分解により求める。
【0062】
【数14】
【0063】
ここで、DはENの正準形で、主対角線上にENの固有値をもつ行列である。また、行列ENはモダール行列で、各列がSSSPの固有ベクトルである。複数の物体(物標)から反射される信号間の干渉を抑圧するために、ENをMUSIC法の評価関数である式(9)に代入する。この処理の流れを図3のフローチャートのS6、S7に示す。
【0064】
ところで、FFT処理を行うための入力信号のSNRと、FFT処理が行われた出力信号のSNRの関係は概ね線形特性である。
【0065】
これに対して、一般的なMUSIC法による信号処理は雑音に大きく影響される可能性があるため、入力信号のSNRが低い場合の振る舞いが不透明である。
【0066】
そこで、本実施形態では、入力信号に雑音が混入した場合に、空間平滑化処理(SSP)を実行するためのスナップショットの数Mの数値選択により、MUSIC法の性能(出力信号のSNR)を改善している。
【0067】
このMUSIC法の性能改善のシミュレーションを以下に説明する。
【0068】
入力信号のSNR(S/N)iは式(15)によって与えられる。
【0069】
【数15】
【0070】
ここで、Siは入力信号の全エネルギー、Niは入力される雑音の全エネルギーである。これらは式(16)及び式(17)にて表現される。
【0071】
【数16】
【0072】
まず、シミュレーションの第一段階は、MUSIC法による信号処理を信号のみ(すなわちノイズのない状態)で実行する。
【0073】
図4(a)の上段に示す信号は生データ(時間領域データ)、下段に示す信号はFFT処理した後の目標信号の周波数領域スペクトルである。図4(b)の雑音に対する応答を示すMUSIC処理後の時間領域データにおいては、0からピーク値(VO−P)に測定される振幅量から算出される。
【0074】
次に、シミュレーションの第二段階は、MUSIC処理を雑音のみで実行する。この場合、図4(c)に示すような雑音を設定する(上段は生データ、下段がFFT処理後を示す)。雑音の場合も、目標信号のみの場合と同様に計算される(図4(d))。
【0075】
雑音の場合(ノイズ出力:NO)は、全データのrms(2乗平均)で評価され、式(18)によって計算される。
【0076】
【数17】
【0077】
シミュレーションの第三段階は、図4(e)に例示するように、目標信号と雑音を受信信号の中に混在させる(上段は生データ、下段がFFT処理後を示す)。そして、上述したように、MUSIC法による信号処理を行う。その結果は、図4(f)に示す波形となる。この場合、SNRは式(19)のように計算される。
【0078】
【数18】
【0079】
出力側のSNRと入力側のSNRは独立性があるが、この傾向はスナップショットの数Mに依存することを本発明者は見出した。
【0080】
図5はスナップショットの数Mをパラメータ(10,20,30,50、75,100,125,150,175,200、230、240)とし、50nsに物標が存在するとしたシミュレーション結果を示し、スナップショットの数Mを増大すると非相関性とSNRが改善され、Mが減少すると非相関性とSNR性能は低下することが確認された。なお、地中埋設物の探知を例にすると、横軸のTime(ns)は物標の深さに対応する。
【0081】
上述したスナップショットの数Mが増大すると非相関性とSNRが改善され、スナップショットの数Mが減少すると非相関性とSNR性能は低下することを、図6に示すシミュレーション結果によって説明する。
【0082】
図6において、スナップショットの数Mに10を設定した場合、入力側のSNRは-2.52dBで出力側のSNRは11.10dBである。
【0083】
これに対して、スナップショットの数Mが240まで増加した場合、入力側のSNRは-2.39dBで出力側のSNRが最高23.97dBまで増大する。従って、スナップショットの数Mを増大させることにより、出力側のSNRを増大することが可能となる。
【0084】
ところで、本シミュレーションにおいて雑音は離散的且つランダムなものを用いているので、出力信号における雑音は抑圧されている。MUSIC法による信号処理ではスナップショットの数Mの値が2より大きく、且つ入力信号のSNRが−20dB以上あれば、動作することが確認されているが、スナップショットの数Mの値が2未満の場合には、入力信号のSNRが10dBあったとしても処理不可能になる。
【0085】
従って、本実施形態では、スナップショットの数Mの値は10又は10より大きい値に設定している。このときの計算条件は、
入力信号のSNR -5.8dB
受信波のサンプル数(L) 150
である。
【0086】
本実施形態では、入力信号に雑音が混入しても高分解能性を有し、スナップショットの数Mが大きい値が選択されれば雑音に対して頑強であることが確認された。
【0087】
これらの事から受信波のサンプル数をL、サンプル数Lに対するスナップショットの数をMとした場合、
【0088】
【数19】
【0089】
になるようスナップショットの数Mの値を調整することにより、受信波のSNR(信号対雑音の比)に対してSNR改善効果が得られる。
【0090】
以上に説明したように、本実施形態はスナップショットの数を調整することにより、SNRの改善が得られるという効果がある。本実施形態は、上記に示すような地雷・水道管などを物標とする地中埋設物探知装置の他に空洞の探知、積雪量や氷厚を計測する環境計測の分野にも適用することができる。
【0091】
上記した演算処理の流れを図3に従って以下に簡単に説明する。
【0092】
例えばDSPで構成される演算部10が内部メモリより、式(1)に示す生データx(t)を読み出し、先ずS1においてこの生データをFFT処理して時間領域データx(ω)に置き換え、式(2)に示すベクトルx(ω)を求める(S2)。
【0093】
次に、S3において、スナップショットの数Mを設定すると共に式(13)に示すSSP処理を行い、S4において、空間平滑化共分散行列SSSPから固有値ベクトルENを求める。
【0094】
S5において、データを時間領域に復元するために、レーダのパラメータを用いて式(4c)から遅延量a(τ)の設定を行う。その際、例えばδτ=128ps、L=128又は256とする。
【0095】
そして、S6において、式(9)に示すMUSIC法評価関数により、PMUSICを算出し、1次元データ(Aモード)を作成する。このAモードとは、図4(a)(b)に示すように、横軸を時間とし、縦軸を振幅とするモードである。
【0096】
S7において、計測データ件数y(地面と平行に送信アンテナ3と受信アンテナ4を走査した場合において、ある一定の間隔、本実施例では数cm、データを取得し、結果として得た総データ数を言う)のデータをつなぎ合わせ、2次元データ(Bモード)PMUSIC(τ,y)を生成してPCの表示部に画像表示を行わせる。
【0097】
この画像表示部に表示される画像は、例えば地下に埋設されている物標を二次元的に表示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明によるインパルスレーダの実施形態の概略構成を示す図。
【図2】周波数領域データのサブアレイ化を説明する図。
【図3】図1のインパルスレーダのデータ処理を示すフローチャート。
【図4(a)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図4(b)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図4(c)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図4(d)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図4(e)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図4(f)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図5】スナップショットの数Mと応答状態を示す波形図。
【図6】スナップショットの数Mに対するSNR特性を示す図。
【符号の説明】
【0099】
1 コントローラー
2 インパルス発生器
3 送信アンテナ
4 受信アンテナ
5 増幅器
6 サンプルホールド回路
7 移相器
8 ローパスフィルタ(LPF)
9 A/D変換器
10 演算部
11 インターフェイス(I/F)
12 汎用パーソナルコンピュータ(PC)
13、14、15 物標
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアルタイムデータ収集機能に優れ、且つ、広く使われるインパルスレーダに係り、特に物体に対する検知信号のS/N比(SNR)を向上させたインパルスレーダに関する。詳しくは、物体から反射した受信データを周波数領域においてサブアレイ化(以後、「スナップショット」と称する)し、且つ、空間平滑化共分散行列を求めて、超解像法等と云われるMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いた信号処理を行って物体を認識するインパルスレーダにおいて、スナップショットのデータ点数を調整することにより上記検知信号のSNRを向上させるインパルスレーダに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダは、送信波の変調の方法によって、無変調(CWレーダ)、周波数変調(FMCWレーダ)、パルス変調(インパルスレーダ)に分類される。
【0003】
FMCWレーダにおいて、受信した信号の処理にMUSIC法を用いることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1のFMCWレーダは、周波数変調された連続波を送信し、物標に当たり戻ってきた受信信号(反射波)を送信波で検波し、検波出力の自己相関行列を求め、MUSIC法により時間に関する評価関数を求め、この評価関数より距離を測定する。
【特許文献1】特開平10-031065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のFMCWレーダにおいて、MUSIC法を用いることにより、多方向から到来する反射波の中から物標を高精度に測定できるが、FMCWレーダは周波数掃引に時間を有するため、リアルタイムデータ収集性において不利である。
【0006】
これに対し、インパルスレーダはリアルタイムデータ収集性に優れているため、インパルスレーダにMUSIC法を導入することで、レーダとしての機能を大幅に向上させることが期待される。
【0007】
ところで、本発明者は、MUSIC法を導入したインパルスレーダにより、地下に埋設された物標を探知することを目的としてシミュレーションを行ったが、得られた結果にノイズが多く存在した。このノイズの原因として、実際に物体からの反射波を受信する受信機自身が有する帯域やノイズが考えられるが、これらのノイズに対して適切な措置を講ずることは為されていないのが現状である。
【0008】
本発明の目的は、ノイズ対策を十分に施したMUSIC法による信号処理を行うインパルスレーダを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を実現するインパルスレーダの第1の構成は、請求項1に記載のように、インパルス波を放射する送信アンテナと、前記送信アンテナから放射されたインパルス波の反射波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信した受信信号をA/D変換して得られた受信データから物標で反射した反射波を求める演算処理手段と、を有し、前記演算処理手段は、MUSIC法を用いた信号処理を行うための第1演算部と、前記受信データを周波数領域においてデータ列に区分を設け、区分けしたデータ列の位置を数次ずらして新たなデータ列を複数作成するサブアレイ化処理を行う第2演算部と、第2演算部によるサブアレイ化処理により作成された複数の各データ列に基づいて空間平滑化共分散行列を求めて前記第1演算部に出力する第3演算部とを有し、前記第2演算部は前記データ列の数であるデータ数を調整可能とすることを特徴とする。
【0010】
本発明の目的を実現する第2の構成は、請求項2に記載のように、上記した第1の構成において、前記演算処理手段は、サブアレイ化処理により作成したデータ数をM、前記データ列である受信波のサンプル数をLとすると、MがL/2と等しいかL/2未満としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、サブアレイ化処理により作成したデータ数Mを調整することにより、SN比を向上させることができ、物標を高精度に探査することが可能となる。また本発明は、物標として地雷・水道管、地下の空洞あるいは遺跡の探知といった地下に存在するものの他に、積雪量や氷厚を計測するような環境計測の分野にも適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1はインパルスレーダのシステムブロック図、図2は検知データから空間平均化共分散行列を求めるための手段となる周波数領域サブアレイ配列を示す図、図3は図1の演算部10による信号処理を示すフローチャートである。
【0014】
図1において、コントローラー1は、インパルス発生器2にインパルス波を発生させるための送信トリガとなるパルスを繰り返し(例えば1μs間隔にて)送信する。インパルス発生器2は、コントローラー1より繰り返しトリガを受け、最大電力は約30dBmであり、パルス幅は約1n秒のインパルス波を送信アンテナ3に対して繰り返し送信する。
【0015】
送信アンテナ3は、周波数が0.3GHzから2GHzにかけて効率よく電波を放射する広帯域のアンテナ、例えば、人間が携帯可能な大きさ(A5サイズ)のボウタイ型ダイポールアンテナを使用し、インパルス発生器2よりインパルス波を受け、この電気信号を電波に変換し、電磁波を地中に向けて放射する。その際、送信アンテナ3および後述の受信アンテナは矢印に示す操作方向に地表面(GL)に沿って移動する。
【0016】
受信アンテナ4は、送信アンテナ3より放射された電波から直接カップリングする電波の他、地表面及び地中、もしくは地中に埋設された物標(13,14,15)、例えば、埋設管等の金属物や地雷等の非金属物から反射された複合波を受信し、これを電気信号に変換した後に増幅器5を介してサンプルホールド回路6に送信する。
【0017】
サンプルホールド回路6は、入力される信号のうちの1波の一部を瞬間的、例えば128psの間に捉える機能を有し、コントローラー1によって制御される移相器7により、繰り返し入力される信号を遅延時間調整、例えば128psの間隔で時間遅延した後に検波し、ローパスフィルタ(LPF)8を介してA/D変換器9に送信する。
【0018】
A/D変換器9は、サンプルホールド回路6より受信する電気信号を繰り返しA/D変換し、コントローラー1に送信する。
【0019】
コントローラー1は、A/D変換器9より受信したディジタルデータを内部に設けられた内部メモリ(不図示)に格納する。前記内部メモリには、2のべき乗分のデータ量(本実施形態では128検波分又は256検波分)×複数分のデータが格納される。
【0020】
ここで、「2のべき乗分のデータ量」とは、これらを結合させることにより、受信アンテナ4が出力する電気信号をディジタル的に復元できる仕組みになっていることを意味する。また、「複数分」とは、S/N比(SNR)向上のためにデータを積算する量を意味し、本実施形態では100としている。
【0021】
演算部10は、DSP(Digital Signal Processor)などから構成され、コントローラー1の前記内部メモリに格納されたデータを一定間隔(例えば、0.1sec毎)で吸上げ、図3に示すフローチャートに従った信号処理を実施し、インターフェイス(I/F)11を介してレベル変換した後に、汎用パーソナルコンピュータ(PC)12に送信する。
【0022】
汎用PC12は、I/F11を介して演算部10から受信したデータをメモリに取り込み、1次元(Aモード:横軸を時間軸とし縦軸を振幅とするモード)もしくは2次元(Bモード:例えば横軸を距離とし縦軸を深さとするモード)のデータ表示を行うとともに、内蔵される記録媒体に格納する。
【0023】
また、汎用PC12は演算部10及びコントローラー1を制御するソフトウエアが搭載されており、計測の開始及び停止等の計測の操作を行う機能を有する。
【0024】
上述した構成の本実施形態におけるインパルスレーダは、演算部10において、時間領域で物質を検知するレーダで取得されたデータ(生データ)に対して、前処理として高速フーリエ変換(FFT)処理を実施することにより周波数領域のデータを算出し、この算出した周波数領域のデータにMUSIC法による信号処理を組み合わせたものである。
【0025】
本実施形態において、MUSIC法による信号処理アルゴリズムを図3に示すフローチャートの流れに従って以下に説明する。
【0026】
図3に示すフローチャートにおいて、ステップ(Sと略す)1からS5まではMUSIC法による処理を行う前の生データの処理を示す。
【0027】
上述のように、レーダで取得された生データであるインパルスレーダの信号は一般的に式(1)の方程式によって示される。なお、式(1)において、Lは後記する受信波のサンプル数を示す。
【0028】
【数1】
【0029】
式(1)は時間領域における信号であり、前処理(MUSIC法は処理するデータが周波数であるため)として高速フーリエ変換処理(以下、「FFT処理」と称する)を実施することにより、得られる周波数領域のデータは式(2)で示される。
【0030】
【数2】
【0031】
ここで、fは周波数、τiは遅延時間であり、yiは任意の基準位置における複素量で表される入力信号である。
【0032】
一方、受信信号には、内部雑音と信号雑音が相互に独立して含まれているので、式(2)は式(3)のように書き換えられる。
【0033】
【数3】
【0034】
ここで、w(ω)は雑音のベクトルを表している。
式(2)の詳細は式(3a)で示されるが、説明の便宜上、式(3b)と簡素化する。
【0035】
【数4】
【0036】
MUSIC法を適用するための一般式は式(4)で与えられる。
【0037】
x=Ay+w (4)
ここで、式(3b)と見比べると、下式のように対応することが可能である。
【0038】
【数5】
【0039】
ここで、ベクトルAはL行k列の遅延パラメータ行列であり、その中で記述されるLは受信波のサンプル数である。yは周波数fkにおけるL番目の反射点(サンプル)に対する反射係数である。wはノイズベクトルである。xの自己相関行列Sは式(5)のように表される。
【0040】
【数6】
【0041】
ここで、*は転置行列である。
【0042】
【数7】
【0043】
入力波形とノイズは無相関である。要素yで表される入力波は無相関と想定される。すなわち、(yy*=P)はL行L列の対角線行列である。しかし、要素yにより入力波形が部分的又は完全に関係づけられている場合、(yy*=P)は対角線行列とならない。到達波と内部雑音が関係付けされない場合、xの相関行列Sは式(8)で表される。
【0044】
【数8】
【0045】
ただし、雑音ベクトルwの平均はゼロ、σ2が分散値、Iが単位行列である。
【0046】
各々の反射位置での遅延時間は、MUSIC関数(Pmusic)のピーク位置により求められる。
【0047】
【数9】
【0048】
ここで、a(τ)は遅延時間ベクトル、ENはL×(L-k)の雑音行列であり、(L-k)行は雑音固有値である。
【0049】
レーダ信号の問題を取り除くために非相関処理を実行する。本実施形態ではこの非相関処理を空間平滑化処理(以降、「SSP(Spatial Smoothing Process)処理」と称する)によって行う。
【0050】
SSP処理を以下に説明する。
【0051】
図2において、受信データを(1,2,3・・・・N,N+1,・・・・L-1,L)というようなL個の反射係数をもつ周波数領域の配列とした場合、すなわち受信波のサンプル数をLとした場合、この周波数領域に対して、長さN(周波数f1からfN)の領域を抜き出し(この抜き出した一つの領域をスナップショットと称する)、長さを1ずつずらしたスナップショットをM個重なり合わせるように作成する(以下これをサブアレイ分割と称す)。その関係は式(10)のように表される。
【0052】
【数10】
【0053】
サブアレイ分割により得られたスナップショットにおいて、x1(配列番号)は1番目のスナップショット、x2は2番目のスナップショットとなり、xMまでスナップショットが重なり合うように存在する。スナップショットの数Mは任意に設定する。式(4)において、k番目の要素は式(11)のように書かれる。
【0054】
【数11】
【0055】
そして、xkの自己相関行列Skは式(12)のように与えられる。
【0056】
【数12】
【0057】
また、空間平滑化共分散行列は、スナップショットの平均値として定義され、式(13)のように表現される。
【0058】
【数13】
【0059】
MUSIC法による信号処理を図1に示す演算部10で実施するために、インパルスレーダの周波数領域のデータx(ω)を図2に示すようにサブアレイ分割する。
【0060】
スナップショットxkの複素共役行列xk*を各々作成し、式(12)で示すように自己相関行列Skを算出する。
【0061】
さらに、式(13)で示すように、SSP処理を行い、式(14)で示される固有ベクトルENを固有値分解により求める。
【0062】
【数14】
【0063】
ここで、DはENの正準形で、主対角線上にENの固有値をもつ行列である。また、行列ENはモダール行列で、各列がSSSPの固有ベクトルである。複数の物体(物標)から反射される信号間の干渉を抑圧するために、ENをMUSIC法の評価関数である式(9)に代入する。この処理の流れを図3のフローチャートのS6、S7に示す。
【0064】
ところで、FFT処理を行うための入力信号のSNRと、FFT処理が行われた出力信号のSNRの関係は概ね線形特性である。
【0065】
これに対して、一般的なMUSIC法による信号処理は雑音に大きく影響される可能性があるため、入力信号のSNRが低い場合の振る舞いが不透明である。
【0066】
そこで、本実施形態では、入力信号に雑音が混入した場合に、空間平滑化処理(SSP)を実行するためのスナップショットの数Mの数値選択により、MUSIC法の性能(出力信号のSNR)を改善している。
【0067】
このMUSIC法の性能改善のシミュレーションを以下に説明する。
【0068】
入力信号のSNR(S/N)iは式(15)によって与えられる。
【0069】
【数15】
【0070】
ここで、Siは入力信号の全エネルギー、Niは入力される雑音の全エネルギーである。これらは式(16)及び式(17)にて表現される。
【0071】
【数16】
【0072】
まず、シミュレーションの第一段階は、MUSIC法による信号処理を信号のみ(すなわちノイズのない状態)で実行する。
【0073】
図4(a)の上段に示す信号は生データ(時間領域データ)、下段に示す信号はFFT処理した後の目標信号の周波数領域スペクトルである。図4(b)の雑音に対する応答を示すMUSIC処理後の時間領域データにおいては、0からピーク値(VO−P)に測定される振幅量から算出される。
【0074】
次に、シミュレーションの第二段階は、MUSIC処理を雑音のみで実行する。この場合、図4(c)に示すような雑音を設定する(上段は生データ、下段がFFT処理後を示す)。雑音の場合も、目標信号のみの場合と同様に計算される(図4(d))。
【0075】
雑音の場合(ノイズ出力:NO)は、全データのrms(2乗平均)で評価され、式(18)によって計算される。
【0076】
【数17】
【0077】
シミュレーションの第三段階は、図4(e)に例示するように、目標信号と雑音を受信信号の中に混在させる(上段は生データ、下段がFFT処理後を示す)。そして、上述したように、MUSIC法による信号処理を行う。その結果は、図4(f)に示す波形となる。この場合、SNRは式(19)のように計算される。
【0078】
【数18】
【0079】
出力側のSNRと入力側のSNRは独立性があるが、この傾向はスナップショットの数Mに依存することを本発明者は見出した。
【0080】
図5はスナップショットの数Mをパラメータ(10,20,30,50、75,100,125,150,175,200、230、240)とし、50nsに物標が存在するとしたシミュレーション結果を示し、スナップショットの数Mを増大すると非相関性とSNRが改善され、Mが減少すると非相関性とSNR性能は低下することが確認された。なお、地中埋設物の探知を例にすると、横軸のTime(ns)は物標の深さに対応する。
【0081】
上述したスナップショットの数Mが増大すると非相関性とSNRが改善され、スナップショットの数Mが減少すると非相関性とSNR性能は低下することを、図6に示すシミュレーション結果によって説明する。
【0082】
図6において、スナップショットの数Mに10を設定した場合、入力側のSNRは-2.52dBで出力側のSNRは11.10dBである。
【0083】
これに対して、スナップショットの数Mが240まで増加した場合、入力側のSNRは-2.39dBで出力側のSNRが最高23.97dBまで増大する。従って、スナップショットの数Mを増大させることにより、出力側のSNRを増大することが可能となる。
【0084】
ところで、本シミュレーションにおいて雑音は離散的且つランダムなものを用いているので、出力信号における雑音は抑圧されている。MUSIC法による信号処理ではスナップショットの数Mの値が2より大きく、且つ入力信号のSNRが−20dB以上あれば、動作することが確認されているが、スナップショットの数Mの値が2未満の場合には、入力信号のSNRが10dBあったとしても処理不可能になる。
【0085】
従って、本実施形態では、スナップショットの数Mの値は10又は10より大きい値に設定している。このときの計算条件は、
入力信号のSNR -5.8dB
受信波のサンプル数(L) 150
である。
【0086】
本実施形態では、入力信号に雑音が混入しても高分解能性を有し、スナップショットの数Mが大きい値が選択されれば雑音に対して頑強であることが確認された。
【0087】
これらの事から受信波のサンプル数をL、サンプル数Lに対するスナップショットの数をMとした場合、
【0088】
【数19】
【0089】
になるようスナップショットの数Mの値を調整することにより、受信波のSNR(信号対雑音の比)に対してSNR改善効果が得られる。
【0090】
以上に説明したように、本実施形態はスナップショットの数を調整することにより、SNRの改善が得られるという効果がある。本実施形態は、上記に示すような地雷・水道管などを物標とする地中埋設物探知装置の他に空洞の探知、積雪量や氷厚を計測する環境計測の分野にも適用することができる。
【0091】
上記した演算処理の流れを図3に従って以下に簡単に説明する。
【0092】
例えばDSPで構成される演算部10が内部メモリより、式(1)に示す生データx(t)を読み出し、先ずS1においてこの生データをFFT処理して時間領域データx(ω)に置き換え、式(2)に示すベクトルx(ω)を求める(S2)。
【0093】
次に、S3において、スナップショットの数Mを設定すると共に式(13)に示すSSP処理を行い、S4において、空間平滑化共分散行列SSSPから固有値ベクトルENを求める。
【0094】
S5において、データを時間領域に復元するために、レーダのパラメータを用いて式(4c)から遅延量a(τ)の設定を行う。その際、例えばδτ=128ps、L=128又は256とする。
【0095】
そして、S6において、式(9)に示すMUSIC法評価関数により、PMUSICを算出し、1次元データ(Aモード)を作成する。このAモードとは、図4(a)(b)に示すように、横軸を時間とし、縦軸を振幅とするモードである。
【0096】
S7において、計測データ件数y(地面と平行に送信アンテナ3と受信アンテナ4を走査した場合において、ある一定の間隔、本実施例では数cm、データを取得し、結果として得た総データ数を言う)のデータをつなぎ合わせ、2次元データ(Bモード)PMUSIC(τ,y)を生成してPCの表示部に画像表示を行わせる。
【0097】
この画像表示部に表示される画像は、例えば地下に埋設されている物標を二次元的に表示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明によるインパルスレーダの実施形態の概略構成を示す図。
【図2】周波数領域データのサブアレイ化を説明する図。
【図3】図1のインパルスレーダのデータ処理を示すフローチャート。
【図4(a)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図4(b)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図4(c)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図4(d)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図4(e)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図4(f)】シミュレーションによる確認を示す波形図。
【図5】スナップショットの数Mと応答状態を示す波形図。
【図6】スナップショットの数Mに対するSNR特性を示す図。
【符号の説明】
【0099】
1 コントローラー
2 インパルス発生器
3 送信アンテナ
4 受信アンテナ
5 増幅器
6 サンプルホールド回路
7 移相器
8 ローパスフィルタ(LPF)
9 A/D変換器
10 演算部
11 インターフェイス(I/F)
12 汎用パーソナルコンピュータ(PC)
13、14、15 物標
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インパルス波を放射する送信アンテナと、前記送信アンテナから放射されたインパルス波の反射波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信した受信信号をA/D変換して得られた受信データから物標で反射した反射波を求める演算処理手段と、を有し、
前記演算処理手段は、MUSIC法を用いた信号処理を行うための第1演算部と、前記受信データを周波数領域においてデータ列に区分を設け、区分けしたデータ列の位置を数次ずらして新たなデータ列を複数作成するサブアレイ化処理を行う第2演算部と、第2演算部によるサブアレイ化処理により作成された複数の各データ列に基づいて空間平滑化共分散行列を求めて前記第1演算部に出力する第3演算部とを有し、前記第2演算部は前記データ列の数であるデータ数を調整可能とすることを特徴とするインパルスレーダ。
【請求項2】
前記演算処理手段は、サブアレイ化処理により作成したデータ数をM、前記データ列である受信波のサンプル数をLとすると、MがL/2と等しいかL/2未満としたことを特徴とする請求項1に記載のインパルスレーダ。
【請求項1】
インパルス波を放射する送信アンテナと、前記送信アンテナから放射されたインパルス波の反射波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信した受信信号をA/D変換して得られた受信データから物標で反射した反射波を求める演算処理手段と、を有し、
前記演算処理手段は、MUSIC法を用いた信号処理を行うための第1演算部と、前記受信データを周波数領域においてデータ列に区分を設け、区分けしたデータ列の位置を数次ずらして新たなデータ列を複数作成するサブアレイ化処理を行う第2演算部と、第2演算部によるサブアレイ化処理により作成された複数の各データ列に基づいて空間平滑化共分散行列を求めて前記第1演算部に出力する第3演算部とを有し、前記第2演算部は前記データ列の数であるデータ数を調整可能とすることを特徴とするインパルスレーダ。
【請求項2】
前記演算処理手段は、サブアレイ化処理により作成したデータ数をM、前記データ列である受信波のサンプル数をLとすると、MがL/2と等しいかL/2未満としたことを特徴とする請求項1に記載のインパルスレーダ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図4(d)】
【図4(e)】
【図4(f)】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図4(d)】
【図4(e)】
【図4(f)】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2007−333404(P2007−333404A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162117(P2006−162117)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(592004714)
【出願人】(000244110)明星電気株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(592004714)
【出願人】(000244110)明星電気株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
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