説明

インパルス無線伝送装置、およびインパルス無線伝送装置の送信方法

【課題】 本発明は、インパルスを利用してデータの無線伝送を行なうインパルス無線伝送装置に関するものである。
【解決手段】 本発明のインパルス無線伝送装置は、データ信号の論理“1”に基づいて短パルスを出力する短パルス発生器と、短パルスを受け取って通信で使用する周波数帯域のRFパルス信号を抽出するバンドパスフィルタと、抽出されたRFパルス信号を増幅する送信増幅器と、増幅されたRFパルス信号を出力するアンテナとを備え、短パルス発生器は、データ信号の伝送速度がバンドパスフィルタを通過できる最大伝送速度より遅い場合に、最大伝送速度より周波数が速いオーバーレートした短パルスを出力する、よう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパルスを利用してデータの無線伝送を行なうインパルス無線伝送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インパルス無線は、RFパルス信号を伝送媒体とする無線伝送であり、従来では不可欠であった発振器やミキサなどを削減できることからシンプルな構成とすることができ、小型化と共に低コスト化を実現できる特徴がある。このようなインパルス無線は、10Gbpsを超える広帯域無線通信システムへの適用が期待されている。
【0003】
インパルス無線伝送装置10の一般的な構成は図8に示され、RF送信部20が短パルス発生器21、バンドパスフィルタ22、送信増幅器23、およびアンテナ24で構成され、RF受信部30はアンテナ31、受信増幅器32、バンドパスフィルタ33および検波器34で構成される。
【0004】
RF送信部20において、入力信号20aであるデータ信号(例えば、10Gbps)は短パルス発生器21によって短パルス20bに変換されバンドパスフィルタ22に入力する。短パルス20bは広い周波数成分を有し、バンドパスフィルタ22により通信に使用する周波数成分のみが抽出され、RFパルス信号20cとして出力される。このときのRFパルス信号20cのパルス幅は、バンドパスフィルタ22の通過周波数帯域幅で可能な最大伝送速度の逆数の値となる。送信増幅器23はバンドパスフィルタ22から出力されたRFパルス信号20cを規定の電力まで増幅し、増幅されたRFパルス信号20dをアンテナを介して空間に放射する。アンテナから放射される信号は、RFパルス信号20dの存在する部分がデータ信号の「1」に対応し、RFパルス信号20dのない部分がデータ信号の「0」に対応する。受信部30においては、アンテナを介して入力されたRFパルス信号30aを受信増幅器32で増幅した後、バンドパスフィルタ33により濾波し、検波器34によって包絡線検波を行なってデータ信号30bに復号する。
【0005】
短パルス発生器21によって発生した短パルス20bは、前述したように広い周波数成分(直流から高い周波数までのスペクトル)を有し、図9に示すようなエネルギーを有している。短パルス20bがバンドパスフィルタ22を通過することにより、図9の斜線で示すバンドパスフィルタ22の通過帯域Bbpfのエネルギーを持った周波数スペクトルが抽出されることになる。
【0006】
この構成のインパルス無線伝送装置10は、バンドパスフィルタ22の通過周波数帯域幅Bbpfを割り当てられた周波数帯域幅と等しくしたとき、データ信号の伝送速度Brはその通過周波数帯域幅Bbpfを通過できる最大伝送速度Bmaxにまで高めることができる。しかし、一般には天候等に起因する伝送通信路の状態により常に最大伝送速度Bmaxを発揮できることは稀で、最大伝送速度Bmaxより低い伝送速度で運用される場合が多い。
【0007】
低い伝送速度で送信する場合、SNR(信号対雑音比)が劣化することが問題となる。例えば最大伝送速度10Gbpsのところを2.5Gbpsで運用する場合を図10を用いて考える。図10(a)はデータ信号の伝送速度Brを10Gbpsで送信した場合のデータ信号の波形に対するRFパルス信号の波形を示している。これに対し、図10(b)はBr=2.5Gbpsで送信した場合のデータ信号の波形に対するRFパルス信号の波形を示している。両図から分かるようにRFパルス信号の波形は同一であるが、2.5Gbpsで送信した場合の1シンボル時間tsにおけるパルス出現頻度は10Gbpsに比べて1/4である。
【0008】
一方、RF受信部30の雑音電力Pnは次式で示されるように周波数帯域幅Bbpfに比例する(kはボルツマン定数、Tは絶対温度)。
【0009】
Pn=kTBbpf(W)
このことは、送信するデータの伝送速度に係わらず同一の周波数帯域幅Bbpfのバンドパスフィルタを用いて受信すれば、同一の雑音電力で受信することになる。従って2.5GHzの信号を受信した場合、前述したようにそのデータ信号の電力は1/4となるのでSNRは1/4に低下することになる。
【0010】
SNRの低下を抑制するために、バンドパスフィルタの通過帯域Bbpfを割り当てられた周波数帯域幅と等しくし、1シンボル時間内にRFパルス信号を繰り返し出力することが知られている。例えば、図11に示すように、バンドパスフィルタの通過帯域Bbpfが10GHz(即ち、最大伝送速度Bmaxを10GHzとすることができる)で、データ信号を伝送速度2.5Gbpsで送信する場合に、10Gbpsの場合と同じパルス幅のRFパルス信号を1シンボル時間ts(400ps)内に4個繰り返し出力するものである。図11(a)は、図10(a)と同様に10Gbpsの伝送速度におけるデータ信号とRFパルス信号を示し、図11(b)は2.5Gbpsの伝送において4個のRFパルス信号を出力した状態を示している(点線で囲んだ3個のRFパルス信号を付け加え、4個のRFパルス信号とした状態を示している)。このようにすることで信号電力が4倍となり、図10(b)で示したものと較べSNRは向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−74432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記したように、インパルス無線伝送装置では通信路状態によって最大伝送速度より遅い速度でデータ送信することが行なわれるが、その場合にSNRが低下するという問題がある。インパルス無線伝送装置にデータの伝送速度に応じた通過帯域を持つバンドパスフィルタを備えるようにすれば、SNRが低下する問題は解決する。しかし、データの伝送速度に合わせてバンドパスフィルタを切替える構造が必要となり、サイズやコストの面で不利となる。また、バンドパスフィルタはミリ波信号の通過経路でもあり、その部分に切替え機構を設けることはRFパルス信号の特性劣化を引き起こすことにもなりかねない、と言う問題もある。
【0013】
また、上記に述べた1シンボル時間内に繰り返しRFパルス信号を挿入する方法は、挿入しない場合に較べてSNRは向上するものの、繰り返しRFパルス信号が独立しているために受信した信号からクロック信号を抽出できず、データの再生においてなんらかの工夫が必要となる。また、SNRの改善量としては充分とは言えず、より改善することが必要である。
【0014】
本発明は、低伝送速度のデータ送信において、送信側で信号電力を高めたRFパルス信号の送信を行ない、受信側で容易にデータの再生が行なえ、SNRの改善ができるインパルス無線伝送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の一観点によれば、本発明のインパルス無線伝送装置は、データ信号の論理“1”に基づいて短パルスを出力する短パルス発生器と、短パルスを受け取って通信で使用する周波数帯域のRFパルス信号を抽出するバンドパスフィルタと、抽出されたRFパルス信号を増幅する送信増幅器と、増幅されたRFパルス信号を出力するアンテナとを備え、短パルス発生器は、データ信号の伝送速度がバンドパスフィルタを通過できる最大伝送速度より遅い場合に、最大伝送速度より周波数が速いオーバーレートした短パルスを出力する、インパルス無線伝送装置が提供される。
【0016】
発明の別の一観点によれば、本発明のインパルス無線伝送装置の送信方法は、データ信号の論理“1”に基づいて短パルスを出力する短パルス発生器と、短パルスを受け取って通信で使用する周波数帯域のRFパルス信号を抽出するバンドパスフィルタと、抽出されたRFパルス信号を増幅する送信増幅器と、増幅されたRFパルス信号を出力するアンテナとを備えるインパルス無線伝送装置の送信方法であって、短パルス発生器において、周波数帯域を通過できる最大伝送速度より遅い場合に、最大伝送速度より周波数が速いオーバーレートした短パルスを出力する、インパルス無線伝送装置の送信方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
低伝送速度において、送信側でデータ信号の1シンボル時間内を連続するRFパルス信号が占めるようにしたので、RFパルス信号の電力量を増大でき、受信側でSNRを大幅に改善したインパルス無線伝送装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のインパルス無線伝送装置の構成例を示す図である。
【図2】伝送速度が低い場合のSNR改善を説明する図である。
【図3】オーバーレート短パルス発生器の回路例とタイムチャート例を示す図である。
【図4】本発明のRFパルス信号の波形例を示す図である。
【図5】n逓倍オーバーレート短パルス発生回路とタイムチャート例を示す図である。
【図6】2倍と3倍のオーバーレート短パルスによるRFパルス信号作成例を示す図である。
【図7】バンドパスフィルタの作成例を示す図である。
【図8】インパルス無線伝送装置の一般的な構成例を示す図である。
【図9】短パルスのスペクトル例を示す図である。
【図10】伝送速度が低い場合のSNR低下を説明する図を示す図である。
【図11】繰り返しRFパルス信号によるSNR低減例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のインパルス無線伝送装置100の構成を図1に示す。図1は、前述した図8に対応して描いたもので、同一の構成要素と信号波形に対しては同じ符号を記している。インパルス無線伝送装置100はRF送信部200とRF受信部30とを有し、RF受信部30の構成は図8と同一の構成である。RF送信部200の構成は、オーバーレート短パルス発生器210、バンドパスフィルタ22、送信増幅器23、およびアンテナ24で構成され、図8の短パルス発生器21がオーバーレート短パルス発生器210に置き換わった構成である。
【0020】
オーバーレート短パルス発生器210は、データ信号200aとクロック信号201aとに基づいてバンドパスフィルタ22において通過し得る最大伝送速度Bmaxの2倍に相当する出現頻度で短パルス列を発生する。発生した短パルス列をここではオーバーレート短パルス200bという。バンドパスフィルタ22は、生成されたオーバーレート短パルス200bに含まれるバンドパスフィルタ22の周波数帯域Bbpfの周波数スペクトルを抽出し、パルス幅の大きなRFパルス信号200cを出力する。送信増幅器23はバンドパスフィルタ22から出力されたRFパルス信号200cを規定の電力まで増幅し、増幅されたRFパルス信号200dをアンテナ24を介して空間に放射する。
【0021】
受信部30は、図8で示したものと同一の構成でパルス幅の大きなRFパルス信号300aを処理することになる。即ち、アンテナを介して入力された微弱のRFパルス信号300aを受信増幅器32で増幅した後、バンドパスフィルタ33により濾波し、検波器34によって包絡線検波を行なってデータ信号300bに復号する。RFパルス信号300aは図8のRFパルス信号30aに較べて信号電力が大きいためSNRは改善されることになる。
【0022】
オーバーレート短パルス発生器210によって発生するオーバーレート短パルス200bとこれにより生成されるパルス幅の大きなRFパルス信号200cについて、図2〜図4を用いてより詳細に説明する。
【0023】
図2(a)は図1に示したRF送信部200におけるオーバーレート短パルス発生器210とバンドパスフィルタ22の部分を切り出した図である。ここでは、データ信号200aの伝送速度Brを2.5Gbps、バンドパスフィルタ22の周波数帯域Bbpfを10GHzとする。オーバーレート短パルス発生器210においては、クロック信号201aによりバンドパスフィルタ22を通過できる最大伝送速度Bmaxの2倍の出現頻度でオーバーレート短パルスを発生させるものとする。バンドパスフィルタ22の周波数帯域Bbpfが10GHzであるから最大伝送速度Bmaxは10GHzとなり、この2倍の周波数である20GHzでオーバーレート短パルス200bを発生させることになる。
【0024】
図2(b)は、図2(a)に示すデータ信号に対してオーバーレート短パルス発生器210で発生したオーバーレート短パルス200bと、入力されたオーバーレート短パルス200bからバンドパスフィルタ22により出力されたRFパルス信号200cのそれぞれの波形を示す。
【0025】
図2(b)示すデータ信号200aは“1011”のデータを示したもので、1シンボル時間は400ps(1/2.5Gbps)である。オーバーレート短パルス200bは、20GHzで短パルスを発生するので1シンボル時間内に8個の短パルス(短パルスの時間間隔は50psとなる)を発生している。バンドパスフィルタ22は、1個の短パルスからパルス幅100ps(1/10GHz)のRFパルス信号を変換するので、1シンボル時間の400psに8個のRFパルス信号200c(RFパルス信号の時間間隔は50ps)が変換されることになる。従って、1シンボル時間内において、この8個のRFパルス信号は重複して連続したものとなり、結果として1シンボル時間に等しいパルス幅のRFパルス信号200cに変換されることになる。図2(b)のRFパルス信号200cは、幅の広い波形であることを示している。
【0026】
図3は図2に示したオーバーレート短パルス発生器210の回路例と各信号の波形を示したものである。図3(a)に示すように、オーバーレート短パルス発生器210は一つの否定論理積回路(NAND)211、それに続く排他的論理和回路(XOR)212、および遅延回路213で構成される。否定論理積回路211にはデータ信号(同図の“A”)とクロック信号(同図“B”)が供給され、データ信号とクロックの否定論理積211を演算する。データ信号はNRZ(Non Return to Zero)信号で、図3(b)に示すように信号パルスのレベルが、ハイ(高)、またはロー(低)でパルス幅の間で変化しない信号である。クロック信号の周波数は、図4のバンドパスフィルタ22の通過周波数帯域幅Bbpfで可能な最大伝送速度Bmaxに合わせている。否定論理積回路211におけるデータ信号とクロック信号の否定論理積の演算は、NRZ信号のデータからRZ(Return to Zero)信号のデータを作り出している(同図“C”)。否定論理積回路211から出力されるRZデータは2系統に分配され(同図“C”と“D”)、一方は直接後段の排他的論理和回路212に入力し、他方は遅延回路213によりδだけ遅れて排他的論理和回路212に入力する。排他的論理和回路212の演算により、1シンボル時間内に短パルスがクロック信号の2倍の頻度で出力されることになる(同図“E”)。
【0027】
図3(b)に示すように、データ信号の伝送速度Br2.5Gbps、クロック信号10GHzが入力され遅延時間δを5psとすれば、1シンボル時間の400ps内に、パルス幅5psの短パルスが20GHzの頻度で出現する。すなわち、短パルスは1シンボル時間内に8個出力される。図2に戻って、この短パルスがオーバーレート短パルス発生器210の次段のバンドパスフィルタ22に入ることになる。バンドパスフィルタ22の通過周波数帯域Bbpfは10GHzとしているので、オーバーレート短パルス発生器210から出力される短パルス列からバンドパスフィルタ22により生成されるRFパルス信号は互いに重なり合うことになる。したがって、RFパルス信号としては1シンボル時間内全体に拡散する。前述した繰り返しRFパルス信号を用いる.方法では、RFパルス信号は近接するものの独立に出現するのに対し、本発明ではRFパルス信号は重なり合うために1シンボル時間内で一つのパルスを形成した信号波形となる。
【0028】
図4は、図3に示したオーバーレート短パルス発生器210(データ信号の伝送速度Br2.5Gbps、クロック信号10GHz、遅延時間5ps)を用いてオーバーレート短パルスを発生させ、バンドパスフィルタ22を通過させて生成したRFパルス信号の波形を示したものである。図4に示すように、本発明で生成したRFパルス信号は振幅変調(ASK:Amplitude Shift Keying)信号と類似の信号波形となる。
【0029】
バンドパスフィルタ22をガウシアンフィルタで構成すると、前述の繰り返しRFパルス信号と本発明のRFパルス信号と比較すると、その電力比は約3dBとなり、本発明の方法によりSNRは3dB改善する効果が得られることになる。また、本発明のRFパルス信号は、繰り返しRFパルス信号とは異なり連続した波形であるためクロックの抽出は容易となる。
【0030】
上記では2倍のオーバーレート短パルスを発生させてRFパルス信号の信号電力を大きくしてSNRを改善することを行なったが、よりレートを上げることができるオーバーレート短パルス発生器について説明する。図5(a)は1〜n逓倍の短パルスを発生するn逓倍オーバーレート短パルス発生器220の回路例を示し、n逓倍オーバーレート短パルス発生器220は1〜n倍に逓倍できる逓倍回路221と、2つの論理積回路(AND)222、224、および遅延回路223で構成される。
【0031】
逓倍回路221には、バンドパスフィルタ22の通過周波数帯域幅Bbpfで可能な最大伝送速度Bmaxに合わせたクロック信号Hとオーバーレートを切り換えるレート切替信号とが入力され、レート切替信号に基づいてクロック信号Hをn逓倍する。レート切替信号によるオーバーレートの切替えは、例えば図5(a)の部分拡大図に示した構成で実現できる。即ち、×1〜×nに逓倍する回路のそれぞれにクロック信号Hを入力し、その出力をレート切替信号に基づいてセレクタで選択すればよい(セレクタから出力される逓倍化したクロック信号を逓倍クロックIということにする)。
【0032】
論理積回路222には逓倍回路221から出力された逓倍クロック信号Iとデータ信号Gとを入力し、論理積演算されたパルス信号Jを出力する。このパルス信号Jは2系統に分配され、一方は直接後段の論理積回路224に入力し、他方は遅延回路223によりδだけ遅れて論理積回路224に入力する。論理積回路224の論理積演算により、1シンボル時間内の短パルスが逓倍クロック信号の頻度で出力される。
【0033】
上記の回路の波形は図5(b)に示される。ここでは図2、3と同様にデータ信号Gは2.5Gbps、クロック信号Hを10GHzとし、レート切替信号により3倍のオーバーレートを行なった波形を示している。逓倍クロック信号Iはクロック信号Hの3倍の周波数のパルスとなっている(データ信号Gの2.5Gbpsの1シンボル時間中に、クロック信号Hのパルス4個に対し、逓倍クロック信号Iでは12個のパルスとなっている)。パルス信号Jは、逓倍クロック信号Iとデータ信号Gとが論理積演算された波形で、データ信号Gの“1”に対応する部分のみ30GHzのパルス列を有する波形となる。パルス信号Kは、パルス信号Jが遅延回路223によって遅延時間δ遅れた波形である。オーバーレート短パルスLは、パルス信号Jとパルス信号Kとが論理積演算されて得られる。
【0034】
図2、3で説明したオーバーレート短パルス発生器210は、シンプルな回路構成で2倍のオーバーレート短パルスを発生させるものであった。これに対し、n逓倍オーバーレート短パルス発生器220は、任意に逓倍したオーバーレート短パルスを発生させることができる。
【0035】
次に、オーバーレートを高くした場合のSNRの改善について説明する。図6は、2倍と3倍のオーバーレート短パルスを発生してRFパルス信号を作成した例を示した図である(2倍は比較のために示した)。図6においても、図2と同様にデータ信号の伝送速度Brを2.5Gbps、バンドパスフィルタ22の周波数帯域Bbpfを10GHzとしている。図6(a)は2倍にオーバーレートした例で、1シンボル時間に8個の短パルスを発生し、それによりバンドパスフィルタでRFパルス信号を生成した例である(即ち、図2(b)と同一)。図6(a)の4つの波形は、上からデータ信号、オーバーレート短パルス、重なり前のRFパルス信号、そしてRFパルス信号が重なった波形に対する包絡線を示している(以下、図6(b)も同様)。なお、包絡線の中に個々のRFパルス信号を点線で示している。1シンボルのRFパルス信号はこの実線で示した包絡線で示される信号となるが、包絡線のうねりは飽和電力増幅器で解消される。
【0036】
図6(b)は3倍のオーバーレート短パルス(1シンボル時間に12個の短パルスを発生)によるRFパルス信号の例を示した図である。3倍のオーバーレートは2倍のオーバーレートに較べてRFパルス信号の包絡線の信号振幅が増加していること分かる。このため、2倍より3倍の方が信号電力が増大するのでSNRはより改善される。即ち、レートを上げるほど信号振幅を増加し、SNR改善の効果は上がることになる。
【0037】
次に、図1で示したバンドパスフィルタ22の作成例を図7を用いて説明する。図7(a)の左の図に示すように、バンドパスフィルタ22は裏面にアース面22cを形成したアルミナ基板22a上にマイクロストリップライン22bを形成し、マイクロストリップライン22b間およびマイクロストリップライン22bとアース面22c間の電気的結合でバンドパスフィルタを形成している。図7(a)の右の図は、アルミナ基板22a上に形成したマイクロストリップライン22bのパターンを示し、左方から入力された短パルスの電気信号はフィルタリングされて通過帯域の周波数成分のRFパルス信号として右方から出力する。
【0038】
図7(b)は、図7(a)に示したバンドパスフィルタ22の通過損(信号がフィルタを通過するときの減衰量)と反射損(信号源からフィルタに電力を供給するときに反射される電力の割合)の計算値(点線)と実測値(実線)とを示した図で、略計算値通りの性能を有している。このバンドパスフィルタ22の通過帯域は78〜93GHz(帯域幅15GHz)で、挿入損失は1.5±0.3dBである。
【0039】
以上、本発明のインパルス無線伝送装置の実施例を説明したが、これらは上記した内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得るものである。
【符号の説明】
【0040】
10 インパルス無線伝送装置
20 RF送信部
20a データ信号
20b 短パルス
20c RFパルス信号
20d RFパルス信号
21 短パルス発生器
22 バンドパスフィルタ
22a アルミナ基板
22b マイクロストリップライン
22c アース面
23 送信増幅器
24 アンテナ
30 RF受信部
30a RFパルス信号
30b データ信号
31 アンテナ
32 受信増幅器
33 バンドパスフィルタ
34 検波器
100 インパルス無線伝送装置
200 RF送信部
200a データ信号
201a クロック信号
200b オーバーレート短パルス
200c RFパルス信号
200d RFパルス信号
210 オーバーレート短パルス発生器
211 否定論理積回路(NAND)
212 排他的論理和回路(XOR)
213 遅延回路
220 n逓倍オーバーレート短パルス発生器
221 逓倍回路
222 論理積回路
223 遅延回路
224 論理積回路
300a RFパルス信号
300b データ信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ信号の論理“1”に基づいて短パルスを出力する短パルス発生器と、
前記短パルスを受け取って通信で使用する周波数帯域のRFパルス信号を抽出するバンドパスフィルタと、
抽出された前記RFパルス信号を増幅する送信増幅器と、
増幅された前記RFパルス信号を出力するアンテナとを備え、
前記短パルス発生器は、前記データ信号の伝送速度が前記バンドパスフィルタを通過できる最大伝送速度より遅い場合に、該最大伝送速度より周波数が速いオーバーレートした前記短パルスを出力する
ことを特徴とするインパルス無線伝送装置。
【請求項2】
前記オーバーレートした短パルスは、前記最大伝送速度の2倍以上の周波数である
ことを特徴とする請求項1に記載のインパルス無線伝送装置。
【請求項3】
前記短パルス発生器は、否定論理積回路と排他的論理和回路と所定時間遅延する遅延回路とを含んで構成され、
前記否定論理積回路にはNRZのデータ信号と前記最大伝送速度の周波数のクロック信号が供給され、該データ信号と該クロック信号との否定論理積を演算してRZデータを生成し、該RZデータを2系統に分配して一方を前記排他的論理和回路に入力し、他方を前記遅延回路を経て該排他的論理和回路に入力し、該排他的論理和回路にて排他的論理和を演算して該最大伝送速度の2倍の周波数のオーバーレート短パルスを出力する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインパルス無線伝送装置。
【請求項4】
前記短パルス発生器は、n倍の逓倍回路と第1の論理積回路と第2の論理積回路と所定時間遅延する遅延回路とを含んで構成され、
前記逓倍回路には前記最大伝送速度の周波数の第1のクロック信号とオーバーレート切替信号とが供給され、該オーバーレート切替信号に基づいて第1のクロック信号を逓倍化した第2のクロック信号を出力し、前記第1の論理積回路には、NRZのデータ信号と該第2のクロック信号が供給され、該データ信号と該第2のクロック信号との論理積を演算してRZデータを生成し、該RZデータを2系統に分配して一方を前記第2の論理積回路に入力し、他方を前記遅延回路を経て該第2の論理積回路に入力し、該第2の論理積回路にて論理積を演算して該オーバーレート切替信号に基づいた周波数のオーバーレート短パルスを出力する
ことを特徴とする請求項1に記載のインパルス無線伝送装置。
【請求項5】
データ信号の論理“1”に基づいて短パルスを出力する短パルス発生器と、前記短パルスを受け取って通信で使用する周波数帯域のRFパルス信号を抽出するバンドパスフィルタと、抽出された前記RFパルス信号を増幅する送信増幅器と、増幅された前記RFパルス信号を出力するアンテナと、を備えるインパルス無線伝送装置の送信方法であって、
前記短パルス発生器において、前記周波数帯域を通過できる最大伝送速度より遅い場合に、該最大伝送速度より周波数が速いオーバーレートした前記短パルスを出力する
ことを特徴とするインパルス無線伝送装置の送信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−191537(P2012−191537A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54949(P2011−54949)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】