説明

インビボでの持続性が増加したアデノウイルスベクターを用いる方法

【課題】本発明は、哺乳類において外来核酸を発現させる方法を提供する。
【解決手段】該方法は、中皮細胞および肝細胞に形質導入する能力の低減した複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量を血流に徐々に放出することを含む。投与後24時間にわたるアデノウイルスの正規化平均血流濃度は、少なくとも約1%である。また、投与後24時間にわたる正規化平均血流濃度は、野生型アデノウイルスベクターの同等用量の正規化平均血流濃度より少なくとも約5倍大きい。哺乳類において腫瘍細胞を破壊する方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、循環におけるアデノウイルスベクターの持続性の増加を達成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
遺伝子治療は、いろいろな病気の治療に有用であると科学界において受け入れられつつある。アデノウイルス由来の遺伝子導入ベクターは、実質的および一過性の遺伝子発現、高力価で増殖する能力、および多種多様の細胞種に形質導入する能力を含め、遺伝子治療において多くの魅力的な特性を有することが証明されている。これらの有利な特性にかかわらず、アデノウイルスベクターは、体内における広範囲の送達達成に関して他の遺伝子導入ベクターと同様制限を受けている。
【0003】
ウイルスベクターは、生得的に宿主の免疫系により認識される抗原性エピトープをコードしおよび/または提示する。アデノウイルスベクターを含むウイルスベクターの免疫原性は、インビボでのこれらの遺伝子導入ビヒクルの使用における主な障害である。例えば、ヒト集団の大半はアデノウイルスにさらされており、それゆえ、ヒトアデノウイルス血清型に基づくアデノウイルスベクターに対する既存の免疫を有しており、そのことが遺伝子導入ベクターとしての該ウイルスの有効性を制限している。既存の免疫のほかに、アデノウイルスベクター投与は炎症を誘導し、先天的および後天的両方の免疫メカニズムを活性化する。アデノウイルスベクターは抗原特異的 (例えば、T細胞依存性) 免疫反応を活性化し、そのことがベクターの初回の投与後の導入遺伝子発現の持続時間を制限する。さらに、アデノウイルスベクターへの曝露はB細胞による中和抗体の産生を刺激し、そのことがその後のアデノウイルスベクターの投与からの遺伝子発現を妨げる(Wilson & Kay, Nat. Med., 3(9), 887-889 (1995))。実際に、ベクターの反復投与の有効性は、宿主の免疫によりひどく制限され得る。例えば、動物実験は、アデノウイルス血清型2または5ベクターの静脈内または局所投与は、1〜2週間後に投与される同じ血清型ベクターからの発現を妨げる、ベクターに対する中和抗体の産生をもたらし得ることを明らかにする(例えば、Kass-Eisler et al., Gene Therapy, 1, 395-402 (1994)、およびKass-Eisler et al., Gene Therapy, 3, 154-162 (1996)参照)。
【0004】
体液性免疫の刺激に加えて、細胞媒介免疫機能は、体からのウイルスのクリアランスを担っている。ウイルスの迅速なクリアランスは、先天的な免疫メカニズムに起因し( 例えば、Worgall et al., Human Gene Therapy, 8, 37-44 (1997)参照)、肝臓内で見出されるクッパー細胞を含むと思われる。アデノウイルスベクターは、標準的には数分以内に循環から除去され、約7−10日以内に体から除去される。感染の始めの2日以内に、アデノウイルスベクターDNAのおよそ90%が除去される(Elkon et al., PNAS, 94, 9814-9819 (1997))。アデノウイルスベクターの迅速なクリアランスは、循環時間を減少させ、播種性癌のような疾患を治療するのに必要であろう体循環を介した標的細胞への効率的な送達を妨げる。
【0005】
体内における持続に関するアデノウイルスベクターの欠点に対処すべく、アデノウイルス粒子の抗原決定基の改変がもくろまれてきた。体のクリアランスメカニズムを回避することで循環における時間の量を増加させ、それにより投与のポイントから遠位の標的細胞に形質導入する可能性を増加させるだろうと推論される。アデノウイルスファイバー、ペントン、およびヘキソンタンパク質は、これらが宿主の免疫およびクリアランス系へのウイルスの初めの曝露を象徴するので、最大の注目を受けている。例えば、米国特許6,153,435(Crystal et al.)には、対応する野生型アデノウイルス外殻タンパク質に対する中和抗体に認識される能力が低下した、または認識され得ないキメラアデノウイルス外殻タンパク質を有するアデノウイルスベクターが記載されている。アデノウイルス外殻タンパク質の遺伝子操作は、若干制限されるが、宿主免疫の回避の成功をもたらしている。
【0006】
アデノウイルスベクターの抗原性を調節する進歩にもかかわらず、インビボでのアデノウイルスベクターの使用方法の改良は、体内におけるアデノウイルスベクターの保持を増加させ、よりよい分配を得、標的細胞への形質導入を増加させることが求められている。本発明は、循環における持続の増加を獲得するための、そのようなアデノウイルスベクターの使用方法を提供する。本発明のこれらのおよび他の長所およびさらなる発明の特性は、本明細書で提供される本発明の説明から明白となろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、哺乳類において外来核酸を発現させる方法を提供する。該方法は、一回用量の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターを哺乳類の血流に徐々に放出することを含む。該アデノウイルスベクターは、野生型アデノウイルスと比べ中皮細胞および肝細胞に形質導入する能力が低下している。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターはさらに外来核酸を含む。投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの正規化平均血流濃度は、少なくとも1%である。あるいは、投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの正規化平均血流濃度は、同等用量の野生型アデノウイルスについての正規化平均血流濃度より少なくとも約5倍大きい。哺乳類の宿主細胞は、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターにより形質導入され、外来核酸が発現する。
【0008】
本発明はさらに、哺乳類において腫瘍細胞を破壊する方法を提供する。該方法は、(a)殺腫瘍因子をコードする核酸配列および(b)コクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(CAR)を介したアデノウイルス侵入を媒介しないアデノウイルスファイバータンパク質を含む、一回用量の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターを血流に徐々に送達することを含み、それにより殺腫瘍因子が産生され、哺乳類における腫瘍細胞が破壊される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(発明の詳細な説明)
本発明は、少なくとも一部は、遺伝子導入ベクター、特にアデノウイルス遺伝子導入ベクターは、以前に達成されたよりも、遺伝子導入ベクターの一回用量のより大きな画分が少なくとも投与後24時間の間血流に残存するように哺乳類の体循環に送達され得るという驚くべき発見に基礎を置く。アデノウイルスベクターは、標準的には数分以内に循環から除去される。循環においてアデノウイルスベクターを保持できないと、標的細胞、特に投与のポイントから遠位の標的細胞への導入遺伝子の送達における一回用量のアデノウイルス遺伝子導入ベクターの有効性が制限される。例えば、一回用量のアデノウイルスベクターを標的組織へ送達する最も効果的な方法は、該組織内へのウイルスの直接注入であり、それにより該用量の大部分が標的細胞に接触する。しかしながら、注入では標的組織に容易に到達できない場合、または標的細胞が全身に散在している場合、標的組織への直接注入は実行できない。本発明は、全身に分配するためにアデノウイルス遺伝子導入ベクターを哺乳類の循環系に送達する方法を提供するが、それによって標的細胞形質導入の可能性を増加させるためのアデノウイルスベクターの用量の最大限の保持が可能になる。循環中に投与後数分、好ましくは数時間またはそれ以上、すなわち、1、3、5、または7日残存し、細胞に形質導入するまたは増殖する能力の残存しているアデノウイルスベクターは、インビボにおける半減期が延長され、持続性が増加し、または循環時間が延長されていると言われている。
【0010】
特に、本発明は哺乳類において外来核酸を発現させる方法を提供する。該方法は、外来核酸を含む一回用量の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターを哺乳類の血流に徐々に放出することを含む。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、野生型アデノウイルスと比較して中皮細胞および肝細胞を形質導入する能力が減少している。投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの正規化平均血流濃度は、少なくとも1%である。哺乳類の宿主細胞は形質導入され、外来核酸が該細胞内で発現する。
【0011】
アデノウイルスベクター
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターのウイルスゲノム源として、任意の起源のアデノウイルス、任意のサブタイプ、サブタイプの混合物、または任意のキメラアデノウイルスが用いられ得る。非ヒトアデノウイルス (例えば、サル、 トリ、イヌ、ヒツジ、またはウシアデノウイルス)が複製欠損アデノウイルスベクターを生成するのに用いることができるが、好ましくは、ヒトアデノウイルスが本発明の方法の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターのウイルスゲノム源として用いられる。アデノウイルスベクターはいかなる亜群または血清型のものであってもよい。例えば、アデノウイルスは亜群A(例えば血清型12、18、および31)、亜群B(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34、35、および50)、亜群C(例えば、血清型1、2、5、および6)、亜群D(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22−30、32、33、36−39、および42−48)、亜群E(例えば、血清型4)、亜群F(例えば、血清型40、および41)、分類されていない血清群(例えば、血清型49および51)、またはいかなる他のアデノウイルス血清型のものであってもよい。アデノウイルス血清型1から51はAmerican Type Culture Collection (ATCC, Manassas, VA)から入手可能である。好ましくは、アデノウイルスベクターはヒト亜群C、特に血清型2またはいっそう望ましくは血清型5である。血清型35または血清型41のアデノウイルスベクターもまた、本発明において用いるのに適切である。
【0012】
「複製欠損」とは、アデノウイルスベクターが少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能を欠くアデノウイルスゲノムを含むことを意味する(すなわち、これによりアデノウイルスベクターは、通常の宿主細胞、特に本発明に従う治療の過程でアデノウイルスベクターに感染し得るであろうヒト患者における細胞において複製しない)。ここで使用される遺伝子、遺伝子機能、あるいは遺伝子領域またはゲノム領域における欠損は、その核酸配列の全部または一部が欠失した遺伝子の機能を減退または破壊する、ウイルスゲノムの十分な遺伝物質の欠失と定義される。複製に必須な遺伝子機能は、複製(例えば、増殖)に必要な遺伝子機能であり、例えば、アデノウイルス初期領域(例えば、E1、E2、およびE4領域)、後期領域(例えば、L1−L5領域)、ウイルスパッケージングに関与する遺伝子(例えば、IVa2遺伝子)、およびウイルス関連RNAs(例えば、VA−RNA1および/またはVA−RNA−2)によりコードされている。より好ましくは、複製欠損アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの1以上の領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能を欠損したアデノウイルスゲノムを含む。好ましくは、アデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要なアデノウイルスゲノムのE1領域の少なくとも1つの遺伝子機能が欠損している(E1−欠損アデノウイルスベクターと示す)。E1領域における欠損に加えて、組換えアデノウイルスはまた、国際特許出願WO 00/00628に論じられているように、主要後期プロモーター(MLP)に変異を有することができる。最も好ましくは、アデノウイルスベクターはE1領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能(望ましくは全ての複製に必須な遺伝子機能)および必須でないE3領域の少なくとも一部(例えば、E3領域のXba I欠失)が欠損している(E1/E3−欠損アデノウイルスベクターと示す)。E1領域に関して、アデノウイルスベクターは、E1A領域の一部または全ておよびE1B領域の一部または全て、例えば、E1AおよびE1B領域それぞれの少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能を欠損し得る。アデノウイルスベクターがアデノウイルスゲノムの1つの領域における少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能を欠損する場合(例えば、E1−またはE1/E3−欠損アデノウイルスベクター)、該アデノウイルスベクターを、「単複製欠損」という。特に好ましい単複製欠損アデノウイルスベクターは、本明細書の実施例に記載されるものである。
【0013】
アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの2以上の領域のそれぞれにおいて1以上の複製に必須な遺伝子機能が欠損していることを意味する「多重複製欠損」であってよい。例えば、前述のE1−欠損またはE1/E3−欠損アデノウイルスベクターは、E4領域(E1/E4−またはE1/E3/E4−欠損アデノウイルスベクターと示す)、および/またはE2領域(E1/E2−またはE1/E2/E3−欠損アデノウイルスベクターと示す)、好ましくはE2A領域(E1/E2A−またはE1/E2A/E3−欠損アデノウイルスベクターと示す)の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能をさらに欠損させることができる。理想的には、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの初期領域にコードされる複製に必須な遺伝子機能のみの複製に必須な遺伝子機能を欠乏しているが、しかしながらこれは本発明のすべての状況において必要というわけではない。好ましい多重欠損アデノウイルスベクターは、E1領域のヌクレオチド457−3332、E3領域のヌクレオチド28593−30470、E4領域のヌクレオチド32826−35561、および、任意で、VA−RNA1をコードする領域のヌクレオチド10594−10595の欠失を有するアデノウイルスゲノムを含む。しかしながら、他の欠失が適切かもしれない。ヌクレオチド356−3329または356−3510は、複製に必須なE1遺伝子機能における欠損を生み出すために除去され得る。ヌクレオチド28594−30469はアデノウイルスゲノムのE3領域から欠失させ得る。上に列挙した特定のヌクレオチドの指定はアデノウイルス血清型5ゲノムに対応するが、非血清型5アデノウイルスゲノムについて対応するヌクレオチドは、当業者であれば容易に確定することができる。
【0014】
アデノウイルスベクターは、特にE1およびE4領域の複製に必須な遺伝子機能において多重複製欠損の場合、好ましくは単複製欠損アデノウイルスベクター、特にE1−欠損アデノウイルスベクター、でなされるのと同様に、相補細胞株におけるウイルス増殖を提供するためのスペーサーエレメントを含む。スペーサーエレメントは、所望の長さのいかなる1または複数の配列を含むことができ、例えば配列は少なくとも約15塩基対(例えば、約15塩基対と約12,000塩基対の間)、好ましくは約100塩基対〜約10,000塩基対、より好ましくは約500塩基対〜約8,000塩基対、いっそう好ましくは約1,500塩基対〜約6,000塩基対、最も好ましくは約2,000〜約3,000塩基対の長さである。スペーサーエレメント配列は、アデノウイルスゲノムに関しコーディングまたは非コーディングおよび生来または非生来であり得るが、欠損領域の複製に必須な機能を回復させない。スペーサーの非存在下、多重複製欠損アデノウイルスベクターのファイバー蛋白質の産生および/またはウイルス増殖は、単一複製欠損アデノウイルスベクターのものと比べて減じられている。しかし、欠損アデノウイルス領域の少なくとも1つへの(好ましくは、E4領域)、スペーサーの導入は、ファイバー蛋白質の産生およびウイルス増殖でのこの減少を妨げ得る。アデノウイルスベクターにおけるスペーサーの使用は、米国特許5,851,806に記載されている。本発明の方法の一実施態様では、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、L5ファイバー領域は保持されており、スペーサーがL5ファイバー領域と右側ITRの間に位置しているE1/E4−欠損アデノウイルスベクターである。より好ましくは、このようなアデノウイルスベクターにおいて、E4ポリアデニル化配列は単独で存在するか、あるいは、最も好ましくは、他の配列と組み合わせて、L5ファイバー領域と右側ITRの間に存在し、保持されたL5ファイバー領域を右側ITRから十分に隔てるようにしており、そうすることで、このようなベクターのウイルス産生は、単複製欠損アデノウイルスベクター、特にE1−欠損アデノウイルスベクターのそれと近づく。
【0015】
アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの初期領域のみ、アデノウイルスゲノムの後期領域のみ、およびアデノウイルスゲノムの初期および後期領域の両方の複製に必須な遺伝子機能を欠損していてもよい。アデノウイルスベクターはまた、実質的に全アデノウイルスゲノムが除去されてもよく、そのような場合において少なくともウイルス逆位末端反復(ITRs)および1以上のプロモーターか、ウイルスITRsおよびパッケージングシグナル(すなわち、アデノウイルス単位複製配列)のどちらかは損なわれていないことが好ましい。ITRsおよびパッケージング配列を含むアデノウイルスゲノム5’または3’領域は、ウイルスゲノムの残りと同じアデノウイルス血清型由来である必要はない。例えば、アデノウイルス血清型5ゲノムの5’領域(すなわち、5’からアデノウイルスE1領域のゲノム領域)を、アデノウイルス血清型2ゲノムの相当する領域で置換(例えば、5’からアデノウイルスゲノムのE1領域のAd5ゲノム領域をAd2ゲノムのヌクレオチド1−456で置換)してもよい。多重複製欠損アデノウイルスベクターを含む、適切な複製欠損アデノウイルスベクターは、米国特許5,837,511;5,851,806;5,994,106;および6,127,175;米国公開特許出願2001/0043922 A1;2002/0004040 A1;2002/0031831 A1;および2002/0110545 A1、ならびに国際特許出願WO 94/28152;WO 95/02697;WO 95/34671;WO 96/22378;WO 97/12986;およびWO 97/21826に開示されている。理想的には、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、アデノウイルスベクター組成物、特に実質的に複製能のあるアデノウイルス(RCA)の混入がない医薬組成物(例えば、組成物は約1%未満のRCA混入を含む)の形態で本発明において用いられる。最も望ましくは、該組成物はRCAの混入がない。RCAの混入がないアデノウイルスベクター組成物およびストックは、米国特許5,944,106および6,482,616、米国公開特許出願2002/0110545 Al、ならびに国際特許出願WO 95/34671に記載されている。
【0016】
複製欠損アデノウイルスベクターは、通常は、高感染力のウイルスベクターストックを生みだすために、複製欠損アデノウイルスベクターに存在しないが、ウイルス増殖に必要である遺伝子機能を適切なレベルで提供する相補細胞株中で産生される。好ましい細胞株は、複製欠損アデノウイルスに存在しない少なくとも1の、好ましくは全ての複製に必須な遺伝子機能を相補する。相補細胞株は、初期領域、後期領域、ウイルスパッケージング領域、ウイルス関連RNA領域、またはそれらの組み合わせにコードされ、全てのアデノウイルス機能(例えば、アデノウイルス単位複製配列の増殖を可能とする) を含む少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能の欠損を相補し得る。最も好ましくは、相補細胞株はアデノウイルスゲノムのE1領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能(例えば、2以上の複製に必須な遺伝子機能)の欠損、特にE1AおよびE1B領域のそれぞれの複製に必須な遺伝子機能の欠損を相補する。さらに、相補細胞株はアデノウイルスゲノムのE2(特にアデノウイルスDNAポリメラーゼおよび末端タンパク質に関する)および/またはE4領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能における欠損を相補し得る。望ましくは、E4領域の欠損を相補する細胞は、E4−ORF6遺伝子配列を含み、E4−ORF6タンパク質を産生する。このような細胞は、望ましくは少なくともORF6を含み、アデノウイルスゲノムのE4領域の他のORFを含まない。細胞株は好ましくは、アデノウイルスベクターと重複しないように相補遺伝子を含むことを特徴とし、そのことはベクターゲノムが細胞のDNAと組換えする可能性を最小限にし、事実上は排除する。従って、複製能のあるアデノウイルス(RCA)の存在は、ベクターストックにおいて避けられないまでも最小限にされ、したがって、それはある治療目的、特に遺伝子治療目的に適切である。ベクターストックにおけるRCAの欠乏は、非相補細胞におけるアデノウイルスベクターの複製を回避する。このような相補細胞株の構築は、標準的な分子生物学および細胞培養技術を含み、例えばSambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, 2d edition, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)、およびAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons, New York, N.Y. (1994) に記載されている。
【0017】
アデノウイルスベクターを製造するための相補細胞株は、限定されないが、293細胞(例えば、Graham et al., J. Gen. Virol., 36, 59-72 (1977)に記載)、PER.C6細胞(例えば、国際特許出願WO 97/00326、ならびに米国特許5,994,128および6,033,908に記載)、および293-ORF6細胞(例えば、国際特許出願WO 95/34671およびBrough et al., J. Virol., 71, 9206-9213 (1997)に記載)が挙げられる。場合によっては、相補細胞は、全ての必要なアデノウイルス遺伝子機能を相補しないだろう。ヘルパーウイルスを用いて、アデノウイルスベクターの複製を可能とするための、細胞またはアデノウイルスゲノムにコードされていない遺伝子機能をトランスで提供することができる。アデノウイルスベクターは、例えば、米国特許5,965,358、5,994,128、6,033,908、6,168,941、6,329,200、6,383,795、6,440,728、6,447,995、および6,475,757、米国特許出願公開No. 2002/0034735 Al、ならびに国際特許出願WO 98/53087、WO 98/56937、WO 99/15686、WO 99/54441、WO 00/12765、WO 01/77304、およびWO 02/29388、並びにここで特定される他の引例に示される材料および方法を用いて構築、増殖、および/または精製され得る。アデノウイルス血清型35ベクターを含む非C群アデノウイルスベクターは、例えば、米国特許5,837,511および5,849,561、ならびに国際特許出願WO 97/12986およびWO 98/53087に示される方法を用いて産生され得る。さらに、多くのアデノウイルスベクターが市販されている。
【0018】
アデノウイルスベクターが複製欠損でないのなら、理想的にはアデノウイルスベクターは、標的組織内でベクターの複製を制限するように操作される。例えば、アデノウイルスベクターは、実行者により前もって決定された条件下で複製するように操作された条件つき複製アデノウイルスベクターであり得る。例えば、アデノウイルス初期領域によりコードされる遺伝子機能のような複製に必須な遺伝子機能は、プロモーターのような誘導できる、抑制できる、または組織特異的な転写調節配列に機能可能に連結し得る。この実施態様において、複製には、転写調節配列と相互作用する特異的な因子の存在または不在が必要である。条件つき複製アデノウイルスベクターは、標的細胞を破壊する目的で外来核酸を送達するのに特に有用である。アデノウイルスベクターの複製は標的組織に限られ得、それによって複製サイクルの間に細胞を溶解するアデノウイルスの天然の能力を有効に利用しながら組織のいたるところへのベクターのより大きな分配が可能となる。癌治療において、条件つき複製アデノウイルスは、致死外来核酸の送達に加えて腫瘍細胞の破壊方法を提供する。条件つきで複製するアデノウイルスベクターは、米国特許5,998,205にさらに記載されている。
【0019】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターと同じ血清型の野生型アデノウイルスと比較して、中皮細胞および肝細胞に形質導入する能力が減少している。いくつかの非ヒトアデノウイルスのような、中皮細胞および肝細胞に自然には形質導入しないアデノウイルスは、本発明において用いられ得る。しかしながら、生来、中皮および肝臓の細胞に感染するヒトアデノウイルスの血清型に基づくアデノウイルスベクターは、これらの細胞への結合を減少するように改変される。「減少した」形質導入または結合とは、中皮細胞または肝細胞のような標的細胞の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターによる形質導入レベルが、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターと同じ血清型の野生型アデノウイルスにより媒介される形質導入レベルよりも、少なくともおよそ3倍少ない(例えば、少なくともおよそ5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、35倍、45倍、または50倍少ない)ことを意味する。好ましくは、形質導入効率における減少は、実質的な減少である(少なくとも1桁、好ましくはそれ以上のような)。望ましくは、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、中皮細胞または肝細胞に形質導入しない。
【0020】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの生来の結合および形質導入を減らすために、細胞侵入を媒介するアデノウイルス外殻タンパク質、例えば、ファイバーおよび/またはペントンベース上に位置する生来の結合サイトは欠損または破壊される。2以上のアデノウイルス外殻タンパク質が、細胞表面への接着を媒介すると考えられている(例えば、ファイバーおよびペントンベース)。宿主細胞(例えば、中皮細胞または肝細胞)への生来の結合を変化させる任意の適切な手法が用いられ得る。例えば、生来の細胞への結合を除去するように異なるファイバー長を利用することは、ペントンベースまたはファイバーノブへの結合配列の付加を介して達成され得る。この付加は、直接的、または二重特異性もしくは多重特異性結合配列を介して間接的のどちらかでなされ得る。あるいは、アデノウイルスファイバータンパク質を改変して、ファイバーシャフトにおけるアミノ酸の数を減らすことができ、それにより「短シャフト化」ファイバーを生み出す(例えば、米国特許5,962,311に記載のとおり)。いくつかのアデノウイルス血清型のファイバータンパク質は、生来的に他のものより短く、これらのファイバータンパク質を生来のファイバータンパク質と置き換えるのに用いてアデノウイルスのその生来の受容体との生来の結合を低減することができる。例えば、血清型5アデノウイルス由来のアデノウイルスベクターの生来のファイバータンパク質を、アデノウイルス血清型40または41由来のファイバータンパク質に入れ替えることができる。
【0021】
他の実施態様において、生来の基質結合に関連する核酸残基を変異させることにより(例えば、国際特許出願WO 00/15823;Einfeld et al., J. Virol., 75(23), 11284- 11291 (2001);およびvan Beusechem et al. , J. Viol., 76 (6), 2753-2762 (2002)参照)変異した核酸残基を組み込んだアデノウイルスベクターが、その生来の基質に結合する能力を低下させることができる。例えば、アデノウイルス血清型2および5は、コクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(CAR)へのアデノウイルスファイバータンパク質の結合および細胞表面上に位置するインテグリンへのペントンタンパク質の結合を介して細胞に形質導入する。従って、本発明の方法の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、CARへの生来の結合を欠き、および/またはインテグリンへの生来の結合の減少を呈することができる。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの宿主細胞への生来の結合を減少させるため、生来のCARおよび/またはインテグリン結合サイト(例えば、アデノウイルスペントンベースに位置するRGD配列)は、除去または破壊される。
【0022】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターはまた、基質(すなわち、リガンド)に結合する非生来のアミノ酸配列を含むキメラ外殻タンパク質を含むことができる。本発明の方法はアデノウイルスベクターが循環中に長期間残存することを可能とするので、本発明の方法は、優先的に標的細胞に結合する非生来のアミノ酸配列を含む「ターゲッティングされる」アデノウイルスベクターの使用に特に適している。キメラアデノウイルス外殻タンパク質の非生来のアミノ酸配列は、キメラ外殻タンパク質を含むアデノウイルスベクターが、非生来のアミノ酸配列無しの対応するアデノウイルスによって天然には感染されない宿主細胞(すなわち、対応する野生型アデノウイルスによっては感染されない宿主細胞)と結合し、望ましくは、それに感染することを可能とし、非生来のアミノ酸配列無しの対応するアデノウイルスよりも大きなアフィニティをもって、対応するアデノウイルスによって天然に感染される宿主細胞に結合することを可能とし、または非標的細胞よりも大きなアフィニティをもって、特定の標的細胞に結合することを可能とする。「非生来」アミノ酸配列は、アデノウイルス外殻タンパク質に天然には存在しないアミノ酸配列またはアデノウイルス外殻に見出されるがカプシド内の非生来の位置に位置するアミノ酸配列を含み得る。「優先的に結合する」は、非生来アミノ酸配列が、非生来のリガンドが、例えば、αvβ1インテグリンなどの異なるのレセプターと結合するよりも、少なくとも約3倍大きいアフィニティ(例えば、少なくとも約5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、35倍、45倍、または50倍大きいアフィニティ)をもって、例えば、αvβ3インテグリンなどのレセプターと結合することを意味する。
【0023】
非生来アミノ酸配列は、任意のアデノウイルス外殻タンパク質に共役させてキメラ外殻タンパク質を形成させ得る。したがって、例えば、本発明の非生来アミノ酸配列は、ファイバータンパク質、ペントンベースタンパク質、ヘキソンタンパク質、タンパク質IX、VI、またはIIIa等に共役、挿入、または付着し得る。このようなタンパク質の配列、およびこれらを組換えタンパク質に使用する方法は、当技術分野でよく知られている (例えば、米国特許5,543,328;5,559,099;5,712,136;5,731,190;5,756,086;5,770,442;5,846,782;5,962,311;5,965,541;5,846,782;6,057,155;6,127,525;6,153,435;6,329,190;6,455,314;6,465,253;および6,576,456;米国特許出願公開2001/0047081および2003/0099619;ならびに国際特許出願WO 96/07734、WO 96/26281、WO 97/20051、WO 98/07877、WO 98/07865、WO 98/40509、WO 98/54346、WO 00/15823、WO 01/58940、およびWO 01/92549参照)。キメラ外殻タンパク質の外殻タンパク質部分は、リガンドドメインが付加される全長アデノウイルス外殻タンパク質であってもよく、あるいは、例えば、内側でまたはCおよび/またはN末端で切り詰められていてもよい。外殻タンパク質部分は、それ自体、アデノウイルスベクター生来のものである必要はない。例えば、外殻タンパク質は、アデノウイルス血清型5ベクター中に組み込まれたアデノウイルス血清型4(Ad4)ファイバータンパク質であり得、そこでAd4ファイバーの生来のCAR結合モチーフは好ましくは除去されている。同様に、サルアデノウイルス25型(SAV-25)ファイバータンパク質は、アデノウイルス血清型35カプシドに組み込まれ得る。SAV-25ファイバーの生来の結合はファイバータンパク質のABループおよびβシートを変異することにより除去され得、そして、任意で、非生来のアミノ酸配列はファイバータンパク質のH1ループに挿入またはC末端に付着され得る。(非生来のアミノ酸の存在を含めて)どんなに改変されようが、キメラ外殻タンパク質は好ましくはその生来の対応する外殻タンパク質としてのアデノウイルスカプシド中に組み入ることができる。一旦所定の非生来のアミノ酸配列が同定されれば、それを基質と相互作用可能なウイルスの任意の位置(すなわち、ウイルス表面)に組み込むことができる。例えば、リガンドは、ファイバー、ペントンベース、ヘキソン、タンパク質 IX、VI、またはIIIa、あるいは他の適した位置に組み込まれ得る。リガンドがファイバータンパク質に付着する場合、それはウイルスタンパク質間またはファイバーモノマー間の相互作用を妨げないことが好ましい。従って、非生来アミノ酸配列は、アデノウイルスファイバーの三量体化ドメインと不利に相互作用し得るので、それ自身がオリゴマー化ドメインではないことが好ましい。好ましくはリガンドは、ウイルス粒子タンパク質に付加され、基質に対して非生来アミノ酸配列を最大限に提示すべく容易に基質に対して曝露されるように(例えば、タンパク質のNまたはC末端で、基質に面した残基に付着させて、基質と接触するペプチドスペーサー上に位置させて等)組み込まれる。理想的には、非生来アミノ酸配列を、ファイバータンパク質のC末端で(およびスペーサーを介して付着させて)アデノウイルスファイバータンパク質に組み込むか、ファイバーの露出したループ(例えば、HIループ)に組み込んで、キメラ外殻タンパク質を生み出す。非生来アミノ酸配列がペントンベースの一部に付着するか、それと置換される場合、好ましくは、それは基質に接触するのを確かなものとするために超可変領域内にある。非生来アミノ酸配列がヘキソンに付着する場合、好ましくは、それは超可変領域内にある(Miksza et al., J. Virol., 70 (3), 1836-44 (1996))。アデノウイルス粒子の表面から離れて非生来アミノ酸配列を伸ばすためにスペーサー配列を使用することは、非生来アミノ酸配列が受容体への結合により利用でき、非生来アミノ酸配列とアデノウイルスファイバーモノマーの間のいかなる立体的相互作用も低減されるという点で有利となり得る。
【0024】
非生来のアミノ酸配列の細胞受容体への結合アフィニティは、任意の適切なアッセイにより測定でき、種々のそのようなアッセイは公知であり、アデノウイルス外殻タンパク質に組み込むための非生来のアミノ酸配列を選択するのに有用である。望ましくは、宿主細胞の形質導入レベルが、相対的結合効率を測定するのに利用される。従って、例えば、細胞表面上にαvβ3インテグリンを提示する宿主細胞(例えば、MDAMB435細胞)を、キメラ外殻タンパク質を含む複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターと、非生来アミノ酸配列無しの対応するアデノウイルスとに曝露した後、形質導入効率を比較して、相対的結合アフィニティを測定できる。同様に、細胞表面上にαvβ3インテグリンを提示する宿主細胞(例えば、MDAMB435細胞)と、細胞表面上にαvβ1を主に提示する宿主細胞(例えば、293細胞)とを、キメラ外殻タンパク質を含むアデノウイルスベクターに曝露した後、形質導入効率を比較して、結合アフィニティを測定できる。
【0025】
非生来のアミノ酸配列は、狭い分類の細胞種(例えば、腫瘍細胞、心筋、骨格筋、平滑筋等)またはいくつかの細胞種を含むより広いグループに存在する特定の細胞受容体に結合することができる。適当な細胞特異的リガンドを組み込むことにより、ウイルス粒子を用いて、例えば、神経細胞、グリア細胞、内皮細胞(例えば、組織因子受容体、FLT-1、CD31、CD36、CD34、CD105、CD13、ICAM-1(McCormick et al., J. Biol. Chem., 273, 26323-29 (1998))、トロンボモジュリン受容体(Lupus et al., Suppl., 2, S 120 (1998))、VEGFR-3(Lymboussaki et al., Am. J. Pathol., 153(2), 395-403 (1998)、マンノース受容体、VCAM-1(Schwarzacher et al., Atherocsclerosis, 122, 59-67 (1996))、または他の受容体を介して)、血塊(例えば、フィブリノーゲンまたはaIIbb3ペプチドによって)、上皮細胞(例えば、VCAM-1、ICAM-1等の選別を介して炎症組織)、ケラチノサイト、卵胞細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、造血または他の幹細胞、筋芽細胞、筋原線維、心筋細胞、平滑筋、体細胞、破骨細胞、骨芽細胞、歯芽細胞、軟骨細胞、メラニン細胞、造血細胞等、および上記の細胞種のいずれかに由来する癌細胞(例えば、前立腺(PSMA 受容体を介するような(例えば、Schuur et al., J. Biol. Chem., 271 (12), 7043-7051 (1996); Cancer Res., 58, 4055 (1998)参照))、乳腺、肺、脳(例えば、グリア芽腫)、白血病/リンパ腫、肝臓、肉腫、骨、結腸、睾丸、卵巣、膀胱、咽喉、胃、膵臓、直腸、皮膚(例えば、メラノーマ)、腎臓、等)のような任意の所望の細胞種をターゲッティングすることができる。
【0026】
他の実施態様において(例えば、特定の操作した細胞種での精製または増殖を容易にするために)、非生来のアミノ酸(例えば、リガンド)は細胞表面タンパク質以外の化合物と結合することができる。このように、リガンドは、血液および/またはリンパ由来タンパク質(例えば、アルブミン)、ポリアミノ酸(例えば、ポリリシン、ポリヒスチジン、等)のような合成ペプチド配列、人工ペプチド配列(例えば、FLAG)、およびRGDペプチドフラグメント(Pasqualini et al., J. Cell. Biol., 130, 1189 (1995))に結合することができる。リガンドは、プラスチック(例えば、Adey et al., Gene, 156, 27 (1995))、ビオチン(Saggio et al., Biochem. J., 293, 613 (1993))、DNA配列(Cheng et al., Gene, 171, 1 (1996); Krook et al., Biochem. Biophys., Res. Commun., 204, 849 (1994))、ストレプトアビジン (Geibel et al., Biochemistry, 34, 15430 (1995); Katz, Biochemistry, 34, 15421 (1995))、ニトロストレプトアビジン(nitrostreptavidin)(Balass et al., Anal. Biochem., 243, 264 (1996))、ヘパリン(Wickham et al., Nature Biotechnol., 14, 1570-73 (1996))、または他の可能性のある基質のような非ペプチド基質にさえ結合し得る。
【0027】
本発明の方法に用いるのに適した非生来アミノ酸配列およびそれらの基質の例としては、限定されないが、短い(例えば、6アミノ酸以下の)直線状に伸びた、インテグリンに認識されるアミノ酸、並びに例えばポリリジン、ポリアルギニン等のようなポリアミノ酸配列が挙げられる。複数のリシンおよび/またはアルギニンの挿入は、ヘパリンおよびDNAの認識を提供する。キメラアデノウイルス外殻タンパク質を生じるための適した非生来アミノ酸配列は米国特許6,455,314および国際特許出願WO 01/92549にさらに記載されている。
【0028】
好ましくは、アデノウイルス外殻タンパク質は、αvβ3、αvβ5、またはαvβ6インテグリンに結合する非生来アミノ酸配列を含む。ターゲッティング効率を上昇させるために、コクサッキーおよびアデノウイルス受容体(CAR)のような、生来のアデノウイルス細胞表面受容体へのアデノウイルス外殻タンパク質の生来の結合は、本明細書に記載した通りに除去される。好ましくは、非生来アミノ酸配列がαvβ3インテグリンに結合する場合、該非生来のアミノ酸配列がαvβ1インテグリンに結合するよりも少なくとも約10倍大きなアフィニティーで結合する。αvβ3インテグリンは、腫瘍組織血管系、転移性乳癌、メラノーマ、およびグリオーマにおいてアップレギュレートされる。RGDモチーフのようなαvβ3インテグリンに特異的なリガンドを提示するアデノウイルスベクターは、そのような程度までインテグリンを発現していない細胞と比べて細胞表面上により多くのαvβ3インテグリン部分を持つ細胞に感染し、それによりベクターを目的の特異的な細胞へターゲッティングする。一実施態様では、RGDモチーフは、1または2組のシステイン残基に挟まれている。実際、複製欠損アデノウイルスベクターのファイバータンパク質へのRGDモチーフの組込み(例えば、Koivunen et al., Biotechnology, 13, 265 (1995)参照)は、CAR発現の低い腫瘍細胞の形質導入を増加させ、腹腔内投与後の非標的器官への遺伝子導入を減じ、アデノウイルスベクターがTNF-αをコードしている場合、腹膜癌モデルにおいて強力な抗腫瘍活性を示すことが観察されている。
【0029】
代わりに、または加えて、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、αvβ6インテグリンに結合する非生来アミノ酸配列を含むキメラ外殻タンパク質を含む。αvβ6インテグリンは、正常上皮および内皮上にはほぼまたは完全に不在であり、肺、結腸、および卵巣癌を含むいくつかの癌においてアップレギュレートされる。αvβ6インテグリン結合モチーフ、RTDLXXL(配列番号1)(ここでXは任意のアミノ酸であり得る)のアデノウイルスファイバータンパク質への組み込みは、結果として生じたアデノウイルスベクターのαvβ6インテグリンを提示する癌細胞への特異性を増加させ、標的腫瘍組織における治療的に有意なレベルの遺伝子発現を可能とする。制限されないが、口蹄疫ウイルスのαvβ6インテグリン結合モチーフ(FMV; Jackson et al., J. Virol., 74, 4949-4956 (2000))、LAP-1アミノ酸配列(Munger et al., Cell, 96, 319-328 (1999))、およびRXDL(配列番号2)およびRX1DLX1X1X2(配列番号3)(ここでX1は任意のアミノ酸であり得、X2はL、I、F、Y、V、またはPである)を含むKraft et al., J. Biol. Chem., 274, 1979-1985 (1999)に記載されているアミノ酸配列を含む他のαvβ6インテグリン結合モチーフが、アデノウイルス外殻タンパク質に組み込む非生来のアミノ酸配列として用いられ得る。
【0030】
腫瘍はしばしば腫瘍細胞、血管系、および腫瘍マトリクスの不均一な塊を含む。間質の腫瘍マトリクスはコラーゲン、グリコサミノグリカン(GAGs)、およびプロテオグリカンから成る。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターを腫瘍細胞にターゲッティングするために、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターのアデノウイルス外殻タンパク質は、優先的に腫瘍マトリクスに結合する非生来のアミノ酸配列を含み得る。適した非生来のアミノ酸配列には、例えば、Hall et al., Human Gene Therapy, 11, 983-993 (2000)に記載のWREPSFAMLS(配列番号4)およびWREPGRMELN(配列番号5)のようなコラーゲン結合モチーフ、またはディスプレイ技術(例えば、レトロウイルスディスプレイライブラリー)により同定される他の腫瘍マトリクス結合モチーフが挙げられる。腫瘍マトリクス成分にターゲッティングされた複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、腫瘍細胞の近傍に集まり、それにより腫瘍細胞形質導入の可能性を増加させる。
【0031】
他の実施態様において、アデノウイルスベクターは、特定のタイプの真核細胞に選択的でないキメラウイルス外殻タンパク質を含む。該キメラ外殻タンパク質は、内部外殻タンパク質配列の中に、またはその代わりに非生来のアミノ酸配列が挿入されていることにより、あるいは外殻タンパク質のNまたはC末端に非生来のアミノ酸配列が付着していることにより、野生型外殻タンパク質とは異なっている。例えば、約5〜約9のリシン残基(好ましくは7リシン残基)を含むリガンドが、非コーディングスペーサー配列を介してアデノウイルスファイバータンパク質のC末端に付着している。この実施態様において、キメラウイルス外殻タンパク質は、国際特許出願WO 97/20051に記載されているように、野生型ウイルス外殻よりも広い範囲の真核細胞に効率的に結合する。腫瘍は癌細胞の均質な集団を含まないので、このようなアデノウイルスベクターはいくつかの実施態様において好ましいであろう。
【0032】
もちろん、アデノウイルスベクターが可能性のある宿主細胞を認識する能力は、外殻タンパク質を遺伝子操作せずに、すなわち、二重特異性分子の使用を介して、調節することができる。例えば、アデノウイルスをペントンベース結合ドメインおよび特定の細胞表面結合サイトに選択的に結合するドメインを含む二重特異性分子と複合体化することにより、アデノウイルスベクターの特定の細胞種へのターゲッティングが可能となる。
【0033】
適切なアデノウイルスベクターの変異は米国特許5,543,328、5,559,099、5,712,136、5,731,190、5,756,086、5,770,442、5,846,782、5,871,727、5,885,808、5,922,315、5,962,311、5,965,541、6,057,155、6,127,525、6,153,435、6,329,190、6,455,314、および6,465,253、米国公開出願2001/0047081 A1、2002/0099024 A1、および2002/0151027 A1、ならびに国際特許出願WO 96/07734、WO 96/26281、WO 97/20051、WO 98/07865、WO 98/07877、WO 98/40509、WO 98/54346、WO 00/15823、WO 01/58940、およびWO 01/92549に記載されている。
【0034】
血流における複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの持続性をさらに増強するために、アデノウイルスファイバータンパク質を、それが先天的または後天的な宿主の免疫系と相互作用する能力を低くならしめるように改変し得る。例えば、生来のファイバータンパク質の1以上のアミノ酸を、野生型ファイバーよりも中和抗体により認識される能力が低い組換えファイバータンパク質にならしめるように変異させ得る(例えば、国際特許出願WO 98/40509(Crystal et al.)参照)。ファイバーはまた、細網内皮系(RES)との相互作用を媒介する1以上のアミノ酸を欠くように改変され得る。例えば、ファイバーは1以上のグリコシル化またはリン酸化部位を欠くように改変され得、ファイバー(またはファイバーを含むウイルス)はグリコシル化またはリン酸化のインヒビターの存在下で産生され得、あるいはアデノウイルス表面は推定上のヘパリン硫酸プロテオグリカン結合ドメインを欠くように変異され得る(例えば、Dechecchi et al., Virology, 268, 382-390 (2000)およびDechecchi et al., J. Virol., 75, 8772-8780 (2001)参照)。
【0035】
代わりに、または加えて、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、抗体による認識およびRESのような他の哺乳類の防御/クリアランスメカニズムからアデノウイルス粒子を「マスク」するように、その表面で免疫学的に不活性な分子と結びつく(例えば、Moghimi and Hunter, Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems, 18(6), 537-550 (2001)参照)。不活性分子は理想的には、免疫系、中和抗体、および他の血液由来のタンパク質、スカベンジャー細胞、および細網内皮系を回避する。不活性分子はまた、分解酵素への耐性を助長する。免疫学的に不活性な分子には、限定されないが、ポロキサマー(poloxamer)、ポロキサミン、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(2−エチル−オキサゾリン)、ポリ[N−(2−ヒドロキシルプロピル)メチルアクリルアミド]、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ブチル−2−シアノアクリレート)、またはポリ(エチレングリコール)(PEG)が挙げられる。PEGに関して、ウイルス粒子タンパク質は、コレクチンおよび/またはオプソニンアフィニティーあるいはRESのクッパー細胞または他の細胞により除去されるのを減じるために、第1級アミン基、エポキシ基、またはジアシルグリセロール(diacylclycerol)基を含むPEGの脂質誘導体に結合し得る(例えば、Kilbanov et al., FEBS Lett., 268, 235 (1990)、Senior et al., Biochem. Biophys. Acta., 1062, 11 (1991)、Allen et al., Biochem. Biophys. Acta., 1066, 29 (1991)、およびMori et al., FEBS Lett., 284, 263 (1991)参照)。ウイルス表面への免疫学的に不活性な分子の結合は、当技術分野で知られている。例えば、アデノウイルスのPEG化は、Croyle et al., J. Virol., 75(10), 4792-4801 (2001)、および米国特許6,399,385(Croyle et al.)に記載されている。ウイルス表面への付着に異なるアミノ酸(例えば、リシンまたはシステイン)を活用するPEG分子のいくつかの変形物は、市販されている。PEG分子のウイルス表面への結合を促進および制御するために、アデノウイルス外殻タンパク質を、このような付着サイトを含むように改変し得る。従って、本発明の方法の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターが、外殻タンパク質に遺伝的に組込まれている1以上のシステインおよび/またはリシン残基を含むことは適切である。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターを標的細胞へターゲッティングするために非生来のアミノ酸配列をアデノウイルス外殻に組込むこともまた有利となり得る。このような非生来のアミノ酸配列はPEG分子に対する付着部位を含まないことが好ましく、そのことが非生来のアミノ酸リガンド上の細胞表面結合サイトの遮断をもたらし得るだろう。従って、一実施態様では、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターはPEG化しており、非生来のアミノ酸配列は、その上でPEG分子が非生来のアミノ酸配列に付着し細胞の形質導入を妨げ得るであろうシステインまたはリシンを含まない。この構築ストラテジーは、活性を保持しながらのウイルス粒子のPEG化を可能とする。
【0036】
外来核酸
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、少なくとも1つの外来核酸を含む。アデノウイルスベクターにとって生来でないいかなる核酸も「外来」である。外来核酸は、例えば、生物学的障害に関連するまたはそれを治療するペプチドのような、宿主細胞において生物学的効果を発揮するペプチドをコードする。外来核酸は、例えば、自然のものから単離、合成的に生成、遺伝子操作した生物からの単離等の任意の起源から得ることができる。
【0037】
本発明の一実施態様では、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、TNF-αをコードする核酸配列を含む。FasリガンドおよびCD40リガンドのようなTNFファミリーのタンパク質の他のメンバーが多くの疾患の治療に有用であるのと同時に、TNF-αは効果的な抗癌剤であると証明されてきている。癌に対するTNF-αの効果は、アポトーシスおよび腫瘍壊死の誘導を含む多元的なものである。TNF-αは、血管内皮の好中球および血小板への接着を誘導し、トロンボモジュリン産生を減少させる(Koga et al., Am. J. Physiol., 268, 1104-1113 (1995))。その結果は、腫瘍脈管構造新生における凝血塊形成およびそれに続く腫瘍の出血性壊死である。TNF-αをコードする核酸配列は、米国特許4,879,226に詳細に記載されている。ヒトTNFをコードするアデノウイルスベクターは、米国特許6,579,522にさらに記載されている。
【0038】
外来核酸は、血管新生ペプチドをコードし得る。「血管新生ペプチド」は、例えば、基底膜崩壊、細胞増殖、細胞遊走、血管壁成熟、管腔形成、血管拡張、メディエーターの産生、血管の枝分かれ等の新しい血管の形成につながる任意の過程に関与するペプチドである。本発明の方法に用いる適した血管新生ペプチドには、限定されないが、内皮マイトジェン、内皮遊走に関連する因子、血管壁成熟に関連する因子、血管壁拡張に関連する因子、細胞外マトリクス分解に関連する因子、または転写因子が挙げられる。内皮マイトジェンには、例えば、血管内皮増殖因子(VEGF、例えば、VEGF121、VEGF145、VEGF165、VEGF189、VEGF206、VEGF-II、およびVEGF-C)、線維芽細胞増殖因子(FGF、例えば、aFGF、bFGF、およびFGF-4)、血小板由来増殖因子(PDGF)、胎盤増殖因子(PLGF)、アンギオジェニン、肝細胞増殖因子(HGF)、腫瘍増殖因子−ベータ(TGF-β)、結合組織増殖因子(CTGF)、および上皮増殖因子(EGF)が挙げられる。内皮遊走は、例えば、Del-1により誘導され得る。血管壁成熟に関連する因子には、限定されないが、アンジオポイエチン(Ang、例えば、Ang-1およびAng-2)、腫瘍壊死因子−アルファ(TNF-α)、ミッドカイン(MK)、COUP-TFII、およびヘパリン結合性神経栄養因子(HBNF、ヘパリン結合増殖因子としても知られている)が挙げられる。血管壁拡張物質には、例えば一酸化窒素合成酵素(例えば、eNOSおよびiNOS)および単球走化性タンパク質−1(MCP-1)が挙げられる。細胞外マトリクス分解は、例えば、Ang-2、TNF-α、およびMKにより促進される。適した転写因子には、例えば、HIF-1aおよびPR39が挙げられる。他の血管新生促進因子には、アクティビン結合タンパク質(ABP)およびメタロプロティナーゼの組織インヒビター(TIMP)が挙げられる。組織因子、FVIIa、FXa、トロンビン、並びにPAR1、PAR2およびPAR3受容体のアクチベーターのような凝固因子もまた、血管新生において役割を果たすと考えられている(例えば、Carmeliet et al., Science, 293, 1602 (2001)参照)。さらなる血管新生促進因子は、公開米国特許出願No. US2003/0027751 A1に記載されている。
【0039】
血管新生促進因子は、米国特許5,194,596(Tischer et al.)、5,219,739(Tischer et al.)、5,240,848(Keck et al.)、5,332,671(Ferrara et al.)、5,338,840(Bayne et al.)、5,532,343(Bayne et al.)、5,169,764(Shooter et al.)、5,650,490(Davis et al.)、5,643,755(Davis et al.)、5,879,672(Davis et al.)、5,851,797(Valenzuela et al.)、5,843,775(Valenzuela et al.)、および5,821,124(Valenzuela et al.);国際特許出願WO 95/24473(Hu et al.)およびWO 98/44953(Schaper);欧州特許文献 0 476 983(Bayne et al.)、0 506 477(Bayne et al.)、および0 550 296(Sudo et al.);日本特許文献1038100、2117698、2279698、および3178996;J. Folkman et al., Nature, 329, 671 (1987);Fernandez et al., Circulation Research, 87, 207-213 (2000)、およびMoldovan et al., Circulation Research, 87, 378-384 (2000)に多岐にわたって記載されている。好ましくは、少なくとも1つの核酸配列は、組織特異的血管新生因子、最も好ましくはVEGF等の内皮特異的血管新生因子をコードしている。
【0040】
あるいは、外来核酸は、哺乳類において新血管形成を阻害または低減する血管新生インヒビターをコードし得る。血管新生インヒビターは、例えば、細胞増殖、細胞遊走、血管形成、細胞外マトリクス分解、メディエーターの産生等を阻害し得る。血管新生インヒビターはまた、血管新生促進剤に対するアンタゴニストであり得、そのようにして血管新生促進因子が中和される(例えば、Sato, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 5843-5844 (1998)参照)。
【0041】
本発明の方法に用いるのに適した血管新生インヒビターは、例えば、抗血管新生因子、細胞毒素、アポトーシス因子、血管新生因子に特異的なアンチセンス分子、リボザイム、血管新生因子に対する受容体(例えば、可溶性VEGF-R1(flt-1)、可溶性VEGF-R2(flk/kdr)、可溶性VEGF-R3(flt-4)、およびVEGF受容体キメラタンパク質(Aiello, Proc. Natl. Acad. Sci., 92, 10457 (1995)))、血管新生因子に結合する抗体、および血管新生因子に対する受容体に結合する抗体が挙げられる。抗血管新生因子には、例えば、アンギオスタチン、トロンボスポンジン、プロタミン、バスキュロスタチン(vasculostatin)、エンドスタチン、血小板因子4、ヘパリナーゼ、インターフェロン(例えば、INFα)等が挙げられる。当業者は、いかなる抗血管新生因子も改変または切り詰め可能であり、抗血管新生活性を保持し得ることを理解するであろう。そのようなものとして、抗血管新生因子の活性フラグメント(すなわち、血管新生を阻害するのに十分な生物活性を有しているこれらのフラグメント)は、本発明の方法に用いるのに適している。抗血管新生因子は、米国特許5,840,686;国際特許出願WO 93/24529およびWO 99/04806;Chader, Cell Different., 20, 209-216 (1987);Dawson et al., Science, 285, 245-248 (1999);およびBrowder et al, J. Biol. Chem., 275, 1521-1524 (2000)にさらに記載されている。
【0042】
多くの細胞毒素およびアポトーシス因子が当技術分野で知られており、例えば、p53、Fas、Fasリガンド、デスドメインを持ったFas-関連タンパク質(FADD)、カスパーゼ−3、カスパーゼ−8(FLICE)、FAIM、Gax、SARP-2、カスパーゼ−10、Apo2L、IkB、DIkB、デスドメインを持った、レセプターと相互作用するタンパク質(RIP)に関連するICH-1/CED-3-ホモローガスタンパク質(RAIDD)、TNF-関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)、DR4、DR5、N末端欠失を含むBcl-2の細胞死誘導コード配列、細胞死を誘導するN末端欠失を含むBcl-xのコード配列、Bax、Bak、Bid、Bad、Bik、Bif-2、c-myc、Ras、Raf、PCKキナーゼ、AKTキナーゼ、Akt/PI(3)−キナーゼ、PITSLRE、死関連タンパク質(DAP)キナーゼ、RIP、JNK/SAPK、Daxx、NIK、MEKK1、ASK1、PKR、およびそれらの変異体(例えば、それらのドミナントネガティブ変異体およびそれらのドミナントポジティブ変異体)、およびそれらのフラグメント(例えば、それらの活性ドメイン)、およびそれらの組合せが挙げられる。アポトーシスの、細胞毒の、および細胞増殖抑制の転写因子には、例えば、E2F転写因子およびその合成の細胞周期非依存型、AP1転写因子、AP2転写因子、SP転写因子(例えば、SP1転写因子)、へリックス−ループ−へリックス転写因子、DP転写因子(例えば、DP1、DP2、およびDP3)、およびそれらの変異体(例えば、それらのドミナントネガティブ変異体およびそれらのドミナントポジティブ変異体)、およびそれらのフラグメント(例えば、それらの活性ドメイン)、およびそれらの組合せが挙げられる。アポトーシスの、細胞毒の、および細胞増殖抑制のウイルスタンパク質には、例えば、アデノウイルスE1A産物、アデノウイルスE4/ORF6/7産物、アデノウイルス E4/ORF4産物、サイトメガロウイルス(CMV)産物(例えば、CMV-チミジンキナーゼ(CMV-TK))、単純ヘルペスウイルス(HSV)産物(例えば、HSV-TK)、ヒトパピローマウイルス(HPV)産物(例えば、HPVX)、およびそれらの変異体(例えば、それらのドミナントネガティブ変異体およびそれらのドミナントポジティブ変異体)、およびそれらのフラグメント(例えば、それらの活性ドメイン)、およびそれらの組合せが挙げられる。細胞毒素およびアポトーシス因子は、重要な血管新生過程である細胞増殖を阻害するのに特に有用である。適した細胞毒素およびアポトーシス因子は、それぞれ、例えば、細胞増殖アッセイおよびTUNELアッセイのような通常の手法を用いて同定することができる。
【0043】
外来核酸はまた、色素上皮由来因子(PEDF)またはその治療フラグメントをコードし得る。初期集団倍加因子−1(early population doubling factor-1: EPC-1)とも称されるPEDFは、セルピンと称されるセリンプロテアーゼインヒビターのファミリーと相同性を有する分泌タンパク質である。PEDFは、大部分は網膜色素上皮細胞によって作られ、体のたいていの組織および細胞種において検出可能である。PEDFは、神経栄養および抗血管新生の両方の特性を有し、それゆえ、多岐にわたる疾患の治療および研究に有用である。神経栄養因子は、成長中の神経細胞の成熟および成熟神経細胞の維持を担っていると考えられている。神経栄養因子は、例えば、失明に関連するニューロンの分解を実際に逆転させ得ると仮定されている。神経栄養因子はパラクラインおよびオートクライン式の両方で機能し、それによりそれらは理想的な治療剤となっている。この点において、PEDFは網膜芽細胞腫細胞における分化を誘導し、神経集団の生存を増強することが観察されている(Chader, Cell Different., 20, 209-216 (1987))。PEDFはさらに静グリア(gliastatic)活性を有し、すなわちグリア細胞の増殖を阻害する能力を有する。PEDFはまた抗血管新生活性を有する。PEDFの抗血管新生誘導体には、国際特許出願WO 99/04806で論じられている、SLEDタンパク質が含まれる。PEDFは細胞老化に関係しているとも仮定されている(Pignolo et al., J. Biol. Chem., 268(12), 8949-8957 (1998))。PEDFは、米国特許5,840,686、6,319,687、および6,451,763、ならびに国際特許出願WO 93/24529、95/33480、およびWO 99/04806においてさらにキャラクタライズされている。PEDFをコードする外来核酸を含むウイルスベクターは、国際特許出願WO 01/58494にさらに記載されている。
【0044】
代わりにまたは加えて、外来核酸はサイトカインまたはケモカインをコードし得る。サイトカインは、一般に、細胞により放出される、細胞−細胞相互作用、細胞情報伝達、および他の細胞活動を調節する生物学的因子である。サイトカインには、例えば、インターフェロン、インターロイキン、およびリンフォカインが挙げられる。ケモカインは、細胞の移動を招きそして促進する。サイトカインには、例えば、マクロファージコロニー刺激因子(例えば、GM-CSF)、インターフェロンアルファ(IFN-α)、インターフェロンベータ(IFN-β)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、インターロイキン(IL-1、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-16、およびIL-18)、TNFファミリーのタンパク質、細胞間接着分子−1(ICAM-1)、リンパ球機能関連抗原−3(LFA-3)、B7-1、B7-2、FMS-関連チロシンキナーゼ3リガンド、(Flt3L)、血管活性腸管ペプチド(VIP)、およびCD40リガンドが挙げられる。ケモカインには、例えば、B細胞誘引ケモカイン−1(BCA-1)、フラクタルカイン、メラノーマ増殖刺激活性タンパク質(MGSA)、ヘモフィルトレート(Hemofiltrate) CC ケモカイン 1(HCC-1)、インターロイキン8(IL8)、インターフェロン刺激T細胞アルファ遊走因子(I-TAC)、リンフォタクチン、単球遊走タンパク質 1(MCP-1)、単球遊走タンパク質3(MCP-3)、単球遊走タンパク質4(MCP-4)、マクロファージ由来ケモカイン(MDC)、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)、血小板因子4(PF4)、RANTES、BRAK、エオタキシン、エクソダス1−3等が挙げられる。サイトカインおよびケモカインは、Invivogen catalog (2002), San Diego, CAを含め、当技術分野で一般に記載されている。
【0045】
外来核酸は、所望のペプチドをコードする生来の核酸またはcDNAであり得るが、とはいえコードする核酸配列の改変および変異は、本発明において可能であり、適当である。例えば、遺伝コードの縮重は、翻訳停止シグナル中と同様に、コードしているポリペプチドの変化なしにポリペプチドコーディング領域のいたるところのヌクレオチドの置換を可能とする。このような代替可能な配列は、例えば、TNF-αの公知のアミノ酸配列またはTNF-αをコードする核酸配列から推定することが可能であり、慣用の合成または部位特異的突然変異誘導手法により構築可能である。合成DNA方法は、Itakura et al., Science, 198, 1056-1063 (1977)、およびCrea et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 5765-5769 (1978)の手法に実質的に従って、実行することができる。部位特異的突然変異誘導手法は、Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, NY (2d ed. 1989)に記載されている。あるいは、核酸配列は、ペプチドが米国特許4,650,674、5,795,967、および5,972,347、ならびに欧州特許168,214および155,549に記載されているTNF-αの殺腫瘍活性のような生物活性を保持するかぎり、タンパク質のNまたはC末端のどちらか一方が延長したペプチドをコードすることができる。
【0046】
さらに、本明細書に記載の任意のペプチドのホモログ、すなわち、該タンパク質にアミノ酸レベルで約70%超の同一性(好ましくは約80%超の同一性、より好ましくは約90%超の同一性、そして最も好ましくは約95%超の同一性) を有し、所望のペプチドと同じレベルの活性を示す任意のペプチドをコードする核酸配列が、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターに組み込まれ得る。アミノ酸同一性の程度は、当技術分野で公知の任意の方法、例えばBLAST配列データベースを用いて決定することができる。さらに、タンパク質のホモログは該タンパク質に少なくとも中程度に、好ましくは高度に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ生物活性を保持するいかなるペプチド、ポリペプチド、またはその部分であってもよい。典型的な中程度にストリンジェントな条件としては、20%ホルムアミド、5×SSC(150 mM NaCl, 15 mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×Denhardt's 溶液、10%硫酸デキストラン、および20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中での37℃、一晩のインキュベーションとその後の1×SSC中約37−50℃でのフィルター洗浄、または実質的にそれと類似の条件、例えば、上述のSambrook et al.,に詳述されている中程度にストリンジェントな条件が挙げられる。高度にストリンジェントな条件は、例えば(1)洗浄に低イオン強度および高温度、例えば50℃で0.015M塩化ナトリウム/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、(2)ハイブリダイゼーションの間変性剤、例えば ホルムアミド、例えば、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)含有50%(v/v)ホルムアミド/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン(PVP)/750mM塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム含有50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を42℃で用い、または(3)42℃で50%ホルムアミド、5×SSC(0. 75 M NaCl, 0.075 M クエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×Denhardt's溶液、超音波分解したサケ精子DNA(50 mg/ml)、0.1%SDS、および10%硫酸デキストランを用い、(i)0.2×SSC中42℃、(ii)50%ホルムアミド中55℃および(iii)0.1×SSC(好ましくはEDTAと組み合わせて)中55℃で洗浄する条件である。ハイブリダイゼーション反応のストレンジェンシーに関するさらなる詳細および説明は、例えば、上述のAusubel et al.,に示されている。
【0047】
核酸配列は、所望のペプチドの機能的な部分、すなわち、天然の完全長タンパク質の生物活性を測定可能なレベルで保持するタンパク質の任意の部分をコードし得る。例えば、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの核酸配列の発現により産生された機能的なTNF-αフラグメントは、該タンパク質のフラグメントをコードする核酸配列で一過性にトランスフェクトしたヒト細胞における該フラグメントの生物活性をアッセイする等の標準的な分子生物学および細胞培養技術を用いて同定することができる。外来核酸はまた、一部には、他の好ましくは機能的なペプチド部分と対をなした目的のタンパク質を含む融合タンパク質をコードし得る。例えば、腫瘍細胞においてその生物学的効果を発揮するのに、TNF-αの有効性を増加させるために、外来核酸は、腫瘍細胞で見出される細胞受容体に対するリガンド、例えば、αvβ3、αvβ5、αvβ6、またはCD13に結合するリガンドに融合したTNF-αまたは生物学的に活性なそのフラグメントを含む融合タンパク質をコードし得る。
【0048】
外来核酸配列は、望ましくは発現カセット、すなわち、核酸配列のサブクローニングおよび復元(例えば、1以上の制限部位)または核酸配列の発現(例えば、ポリアデニル化またはスプライス部位)を促進する機能を有する特定のヌクレオチド配列の一部として存在する。外来核酸は、好ましくは、アデノウイルスゲノムのE1領域(例えば、E1領域の全部または一部を置換する)またはE4領域に位置している。例えば、E1領域を外来核酸を含むプロモーター可変発現カセットで置き換え得る。発現カセットは、好ましくは3’−5’方向に挿入され、例えば、それにより発現カセットの転写の方向が周囲の隣接したアデノウイルスゲノムのものと逆になるように方向付けられる。しかしながら、発現カセットが周囲のゲノムの転写の方向に関して5’−3’方向に挿入されるのもまた適切である。外来核酸を含む発現カセットに加えて、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは他の外来核酸を含む他の発現カセットを含んでよく、該カセットはアデノウイルスゲノムの欠失領域のいずれかと置換可能である。発現カセットのアデノウイルスゲノムへの(例えば、ゲノムのE1領域への)挿入は、既知の方法、例えば、アデノウイルスゲノムの所定の位置にユニークな制限部位を導入することにより容易にされ得る。上述のように、好ましくはアデノウイルスベクターのE3領域の全てまたは一部もまた欠失している。
【0049】
好ましくは、外来核酸は、血管新生ペプチドコード配列の3’に位置するポリアデニル化配列などの転写終結領域を(コード配列の転写方向で)含む。合成最適化配列、並びに、BGH(ウシ成長ホルモン)、ポリオーマウイルス、TK(チミジンキナーゼ)、EBV(エプスタインバールウイルス)、およびパピローマウイルス(ヒトパピローマウイルスおよびBPV(ウシパピローマウイルス)を含む)のポリアデニル化配列を含む任意の適切なポリアデニル化配列を使用できる。好ましいポリアデニル化配列は、SV40(ヒト肉腫ウイルス40)ポリアデニル化配列である。
【0050】
好ましくは、外来核酸は、例えば、プロモーター可変発現カセットの一部として、1つ以上のプロモーターおよび/またはエンハンサー要素と機能可能に連結する(即ち、その転写制御下にある)。配列同士を機能可能に連結する技術は、当分野で周知である。任意の適切なプロモーターまたはエンハンサー配列が、本発明で使用できる。適切なウイルスプロモーターとして、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(CMV前初期プロモーター(例えば、米国特許5,168,062および5,385,839に記載)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のプロモーター(HIV長末端リピートプロモーターなど)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター(RSV長末端リピートなど)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、HSVプロモーター(Lap2プロモーターまたはヘルペスチミジンキナーゼプロモーターなど(Wagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 78, 144-145 (1981))、SV40またはエプスタインバールウイルス由来のプロモーター、アデノ随伴ウイルスプロモーター(p5プロモーターなど)などが挙げられる。好ましくは、プロモーターは、CMV前初期プロモーターである。
【0051】
上述したプロモーターの多くは構成性プロモーターである。構成性プロモーターである代わりに、プロモーターは誘導性プロモーター、すなわち、適切なシグナルに応答してアップおよび/またはダウンレギュレートされるプロモーターであってもよい。例えば、化学療法剤によってアップ−レギュレートされる発現制御配列は、癌適用に特に有用である(例えば、化学誘導性プロモーター)。さらに、発現制御配列は、放射エネルギー源または細胞を抑圧する物質によってアップレギュレートされ得る。例えば、発現制御配列は、超音波、光活性化化合物、無線周波数、化学療法、低温凍結によってアップレギュレートされ得る。本発明の好適な複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、TNF−αをコードする外来核酸に機能可能に連結した化学誘導性または放射線誘導性プロモーターを含む。放射線誘導性プロモーターの使用は、例えば、アデノウイルスベクターを含む細胞または宿主への放射線の投与によって、TNF−α産生の局所的制御を可能とし、それによって、全身毒性を最小化する。任意の適切な放射線誘導性プロモーターが、本発明で使用できる。本発明で使用される好適な放射線誘導性プロモーターは、初期増殖領域−1(EGR−1)プロモーター、特にEGR−1プロモーターのCArGドメインである。放射線誘導性を担っていそうなEGR−1プロモーターの領域は、ヌクレオチド−550bp〜−50bpの間に位置する。 EGR−1プロモーターは、米国特許5,206,152および国際特許出願WO 94/06916に詳細に記載されている。別の適切な放射線誘導性プロモーターは、c−Junプロモーターであり、それは、X線によって活性化される。放射線誘導性を担っていそうなc−Junプロモーターの領域は、ヌクレオチド−1.1kb〜740bpの間に位置すると信じられている。c−JunプロモーターおよびEGR−1プロモーターは、例えば、米国特許5,770,581にさらに記載されている。
【0052】
プロモーターはまた、腫瘍細胞選択的プロモーターのような組織または細胞特異的プロモーターであり得る。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターに適した腫瘍細胞選択的プロモーターは、限定されないが、E2FプロモーターおよびDF3(muc-1)プロモーターが挙げられる。プロモーターはまた、flt-1プロモーターのような、腫瘍に関連した内皮細胞に選択的であり得る。
【0053】
投与量および投与の方法
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量は、哺乳類の血流に徐々に放出される。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量は、標的組織のサイズ、任意の副作用の程度、特別の投与経路などを含む多くの要因に依存しよう。望ましくは、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの単回用量は、少なくとも約1×10粒子(粒子ユニットとも言われる)〜少なくとも約1×1013粒子のアデノウイルスベクターを含む。用量は、好ましくは少なくとも約1×10粒子(例えば、約4×10−4×1012粒子)、より好ましくは少なくとも約1×10粒子、より好ましくは少なくとも約1×10 粒子(例えば、約4×10−4×1011粒子)、および最も好ましくは少なくとも約1×10粒子〜少なくとも約1×1010粒子(例えば、約4×10−4×1010粒子)のアデノウイルスベクターである。あるいは、用量は、約1×1014粒子以下、好ましくは約1×1013粒子以下、より一層好ましくは約1×1012粒子以下、より一層好ましくは約1×1011粒子以下、および最も好ましくは約1×1010粒子以下(例えば、約1×10粒子以下)を含む。換言すれば、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの単回用量は、約1×10粒子ユニット(pu)、2×10pu、4×10pu、1×10pu、2×10pu、4×10pu、1×10pu、2×10pu、4×10pu、1×10pu、2×10pu、4×10pu、1×1010pu、2×1010pu、4×1010pu、1×1011pu、2×1011pu、4×1011pu、1×1012pu、2×1012pu、または4×1012puの複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターを含み得る。
【0054】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターを希釈する担体、特に医薬上許容し得る担体の容量は、哺乳類のサイズおよび通常医薬組成物中の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量が投与される期間に依存するであろう。例えば、担体の容量が哺乳類のサイズまたは質量に基づく場合、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量は、哺乳類のキログラム(kg)あたり約20mlまたはそれ以上の生理学的に許容し得る担体を含む医薬組成物中で投与される。好ましくは、医薬組成物は約40mlまたはそれ以上の生理学的に許容し得る担体/哺乳類のkgを含み、より好ましくは約60 mlまたはそれ以上の生理学的に許容し得る担体/哺乳類のkgを含む。さらにより好ましくは、医薬組成物は約80mlまたはそれ以上の生理学的に許容し得る担体/哺乳類のkgあたりを含み、そして最も好ましくは約100mlまたはそれ以上の生理学的に許容し得る担体/哺乳類のkgを含む。あるいは、哺乳類に投与される医薬組成物の容量は、薬理学において日常的に用いられる方法である哺乳類の表面積に基づき計算することができる。この点において、医薬組成物は、哺乳類の表面積の平方メートルあたり約75mlまたはそれ以上(例えば、約100mlまたはそれ以上)の生理学的に許容し得る担体を含む。好ましくは、医薬組成物は、約150mlまたはそれ以上 (例えば、約175mlまたはそれ以上、約200mlまたはそれ以上、あるいは約250mlまたはそれ以上)の生理学的に許容し得る担体/哺乳類の表面積のmを含む。より好ましくは、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量は、275mlまたはそれ以上(例えば、300mlまたはそれ以上)の生理的に許容し得る担体/哺乳類の表面積のmを含む医薬組成物中で投与される。より小さな容量の担体は、例えば、米国特許出願公開2003/0086903に記載されているようにいくつかの実施態様において適当かもしれないということが理解されるであろう。
【0055】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量は、哺乳類の血流に徐々に放出される。「徐々に放出される」とは、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの単回用量が少なくとも約15分にわたって哺乳類の血流に放出されることを意味する。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの用量の徐放は、以前に達成したよりもアデノウイルスベクターの用量のより大きな画分が哺乳類の血流中を循環することを可能とし、それにより複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターが標的組織に到達する可能性を増大させる。一実施態様では、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの用量は、少なくとも約30分(例えば、少なくとも 約45、60、90、120、または150分)にわたって血流に継続的に放出される。好ましくは、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量は、少なくとも約3時間(例えば、少なくとも約3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、または9.5時間)かけて哺乳類に投与される。また好ましくは、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量は、少なくとも約10時間かけて哺乳類に投与される。
【0056】
哺乳類の血流への徐放は、当業者に知られているようないろいろな投与経路により達成され得る。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量は、静脈内または動脈内投与により体循環に直接放出され得る。シリンジの使用が、少なくとも約15分にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの用量の投与に望ましくないかもしれないので、他の器具が徐放を容易にするために用いられ得る。例えば、点滴静注、および貯蔵タンク、注入ポンプ等を付属した送達カテーテル装置は、体循環への物質の徐放に特に適している。同様に、多くの持続性放出インプラントが、血流に複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターを送達するのに適している。体内における物質の持続性放出のための微粒子は、微粒子が分解するにつれて計算された量の治療物を放出する生分解性高分子から構成されることが多い。持続性放出製剤は、例えば、ゼラチン、コンドロイチン硫酸、ポリリン酸エステル(例えばビス−2−ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET))、またはポリ(乳酸−グリコール酸)を含み得る。持続性放出器具および製剤は、例えば、米国特許5,378,475、5,629,008、5,733,567、6,506,410、および6,455,526にさらに記載されている。
【0057】
血流に複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量を直接的に放出する代わりに、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターを循環系に徐々に流れ出る哺乳類の領域に導入することにより、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量を血流に間接的に投与することができ、そうして複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの用量は少なくとも約15分にわたって血流中に放出される。そのような間接的な全身送達の一つの手段は、アデノウイルスベクターの用量をリンパ系に投与することを含む。リンパの機能は、一部は、体の体液平衡維持である。リンパ系は組織から体液を集め、胸管で間質体液を血流に戻す。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量のリンパ系への投与は、体の自然で、定常的な血流中への物質の放出を利用する。
【0058】
当業者に知られている方法のような、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量をリンパに導入するする多くの方法が、本発明の方法に用いるのに適当である。例えば、腹腔は、リンパ系への排液の主な起源である。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量の非経口または腹腔内送達は、リンパを介して血流に投与する一つの方法である。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量は、注入または点滴注入のような任意の適切な手段を用いて腹腔に供給することができる。
【0059】
外来核酸を含む複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量を投与する前に、アデノウイルスベクターのような哺乳類の天然の先天的なクリアランスメカニズムを飽和させる物質の「前用量」を投与することは有利となり得る。前用量は、本明細書に記載した任意のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター構築物を含み得、そして好ましくは同じ血清型の野生型アデノウイルスベクターよりも中皮細胞または肝細胞に形質導入する能力の減少した複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターを含む。いかなる特定の理論にもとらわれることを望まないが、アデノウイルスベクターの前用量の投与は、哺乳類のクリアランスエフェクター細胞を妨害またはそれと相互作用することより、一回用量の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの持続性を増し、それにより一回用量の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターのより大きな画分が血流に到達し循環内に残存することを可能にすると信じられている。代わりにまたは加えて、アデノウイルスベクターの前用量は、哺乳類において複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターに対するトレランスを引き起こし得る。アデノウイルスベクターの前用量は、本明細書に記載したアデノウイルスベクターの用量および生理学的に許容し得る担体の容量のような任意の適した容量の生理学的に許容し得る担体中の任意の適した数のアデノウイルス粒子を含み得る。同様に、アデノウイルスベクターの前用量は、静脈内、動脈内、または腹腔内送達のような任意の投与経路を用いて哺乳類に投与することができ、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量の投与前の任意の時間に起り得、望ましくは前用量の投与は複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量の循環時間を増加させる。前用量は、好ましくは複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量の投与の約5分〜約60分(例えば、約10分〜約45分)前に投与される。例えば、前用量は、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量の投与の約15分〜約30分前に投与され得る。
【0060】
正規化平均血流濃度
本発明は体循環においてアデノウイルスベクターの持続性を増強する方法を提供し、それにより複製欠損または条件つき複製アデノウイルスが標的組織に接触する可能性を増加させる。標的の、遺伝子導入ベクターを含む治療物への相対的な曝露は、一定期間にわたる治療物の平均血流濃度を計算することにより決定され得る。平均血流濃度は、以下に示すように標準的な方法で計算される。
【0061】
t = 0での複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの投与後様々な時点(「T」と表される)で測定した哺乳類の血流中の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの量(濃度)([アデノウイルスベクター粒子/血液の単位容量]の単位で「Cv」と表わされる)をプロットし、用量曲線を作成する(Cv 対 T)。得られるCv 対 T曲線の下面積(AUC)([(アデノウイルスベクター粒子/単位容量)(時間)]の単位を有する)は、標的の、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターへの相対的曝露の標準的な薬理学的指標である。例えば、時間=0分での複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの投与に続き、投与後10分、30分、90分、180分、360分および1440分での血流中のアデノウイルスベクター濃度を測定する。各時点での複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの濃度を用いて、アデノウイルスベクター濃度(Cv)対時間(T)曲線をプロットする。AUCは、それからプロットした曲線から以下の方程式に従って計算することができる:
【0062】
【数1】

【0063】
t = 0〜t =Tの一定期間にわたる(例えば、24時間または1440分)血液の単位容量あたりの複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクター粒子として表される平均血流濃度(Cv(ave))は、AUCをTで割ることにより計算される(すなわち、Cv(ave) = AUC/T)。Cv(ave)はそれから、アデノウイルスベクターが決して循環から除去されないとして得た複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの理論上の血流濃度のパーセンテージ(Cv(0))として表すことにより正規化することができる。Cv(0)は、ベクター用量(D;アデノウイルスベクター粒子で表す) を哺乳類の血液容量(Vb)で割ることにより得られる(すなわち、Cv(0) = D/Vb)。決して血流から除去されないアデノウイルスベクターの用量の理論上の血流濃度のパーセンテージ(Cv(0))として表された複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度(Cv(ave)%)は、それからCv(ave)をCv(0)割り、そして100%を掛けることにより計算される(すなわち、Cv(ave)% = [Cv(ave)/Cv(0)]100%)。Cv(ave)%は、同じ方法で哺乳類に投与された2つの異なるアデノウイルスベクターの相対的な血流持続性を比較する便利な指標である。
【0064】
本発明の方法において、決して血流から除去されないアデノウイルスベクターの用量の理論上の血流濃度のパーセンテージとして表した血流における投与後約24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度は、少なくとも約1%(例えば、少なくとも約2%)である。好ましくは、血流における投与後約24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度は、少なくとも約3%(例えば、少なくとも約4%)、より好ましくは少なくとも約5%(例えば、少なくとも約6%または少なくとも約7%)である。さらにより好ましくは、血流における投与後約24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度は、少なくとも約8%(例えば、少なくとも約9%)、そして最も好ましくは少なくとも約10%(例えば、約11%またはそれ以上)である。
【0065】
あるいは、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量の正規化平均血流濃度は、野生型アデノウイルスの同等用量の正規化平均血流濃度、改変していないウイルス表面を含む以外は複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターと同じ血清型のアデノウイルスベクターの同等用量、あるいは中皮細胞または肝細胞に感染する野生型アデノウイルスの能力を有するアデノウイルスベクターの同等用量と比較される。例えば、投与後約24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度は、野生型アデノウイルスベクターの同等用量の正規化平均血流濃度よりも、好ましくは少なくとも約5倍大きい(例えば、少なくとも約6倍、7倍、8倍、または9倍大きい)。より好ましくは、投与後約24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度は、野生型アデノウイルスベクターの同等用量の正規化平均血流濃度よりも、好ましくは少なくとも約10倍大きい(例えば、少なくとも約15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、または45倍大きい)。さらにより好ましくは、投与後約24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度は、野生型アデノウイルスベクターの同等用量の正規化平均血流濃度よりも、好ましくは少なくとも約50倍大きい(例えば、少なくとも約60倍、70倍、80倍、90倍、または100倍大きい)。
【0066】
癌治療
本発明は、哺乳類において腫瘍細胞を破壊する方法をさらに提供する。該方法は、哺乳類の血流に複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量を徐々に送達することを含む。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、本明細書に記載したように、(a)殺腫瘍因子をコードする核酸配列および(b)コクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(CAR)を介したアデノウイルス侵入を媒介しないアデノウイルスファイバータンパク質を含む。腫瘍細胞および/または腫瘍に関連するまたは密接に近接する細胞は、形質導入され、殺腫瘍因子が産生され、それにより哺乳類の腫瘍細胞が破壊される。多くの殺腫瘍因子が本明細書に記載されており、当技術分野で同定されている。好ましい殺腫瘍因子はTNF-αである。理想的には、標的組織は、ヒトにおける固形腫瘍または軟組織と関連した腫瘍(すなわち、軟組織肉腫)である。腫瘍は、口腔と咽頭、消化器系、呼吸器系、骨と関節(例えば、骨転移)、軟組織、皮膚(例えば、メラノーマ)、乳房、性器系、泌尿器系、眼と眼窩、脳と神経系(例えば、グリオーマ)、または内分泌系(例えば、甲状腺や副腎)の(すなわち、そこに位置する)癌と関連し得、必ずしも原発性の腫瘍ではない。口腔と関連した組織として、舌および口組織が挙げられるが、それらに限定されない。癌は、例えば、食道、胃、小腸、結腸、直腸、肛門、肝臓(例えば、肝胆道系癌)、胆嚢、膵臓を含む消化器系の組織で生じうる。呼吸器系の癌は、喉頭、肺、気管支を冒し得、例えば、非小細胞肺癌が挙げられる。腫瘍は、男性および女性性器系を構成する、子宮頚部、子宮体部、卵巣、外陰、膣、前立腺、精巣、ペニスで生じ得、泌尿器系を構成する、膀胱、腎臓、腎盂、尿管で生じ得る。標的組織はまた、リンパ腫(例えば、ホジキン病や非ホジキン病リンパ腫)、多発性ミエローマ、または白血病(例えば、急性リンパ球性白血病、慢性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病など)と関連しうる。本明細書に記載されている組換え遺伝子導入ベクターおよび方法は、一実施態様では、卵巣癌の治療に用いられ、そうして1以上の卵巣の腫瘍は、サイズを減じ、または破壊される。
【0067】
腫瘍は如何なる段階のものでもありえ、他の治療を受け得る。本発明の方法の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、放射線耐性腫瘍などの、癌治療の他の形態に耐性であることが証明された腫瘍を治療(すなわち、腫瘍細胞の破壊または腫瘍サイズの減少)するのに有用である。腫瘍はまた、如何なるサイズでもありうる。本発明の方法の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、最初は大きかった腫瘍のサイズ(例えば、42cm(断面積)または体積で4400cm)の減少を仲介する。理想的には、本発明の方法により、癌(腫瘍)細胞死および/または腫瘍サイズの減少が生じる。腫瘍細胞死は、例えば、支持細胞の存在、血管新生、線維状マトリックス等のために、腫瘍サイズの実質的な減少無しに起こり得ることが理解されよう。従って、腫瘍サイズの減少が好ましいが、癌の治療には必須ではない。
【0068】
以前の癌治療に対する本発明の方法の長所の1つは、非標的組織をよりよく回避しつつ腫瘍細胞をターゲッティングできることである。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの生来の結合を減少させることは、肝臓、脾臓、腎臓、および肺のような非標的組織の形質導入を減じ、それによって標的組織、例えば、腫瘍の形質導入に使用可能である複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量のより大きな画分を提供する。殺腫瘍因子の腫瘍細胞への送達の効率をさらに増強するために、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、腫瘍細胞に発現している細胞受容体に特異的なアデノウイルスファイバータンパク質のような、アデノウイルス外殻タンパク質に組み込まれた、非生来アミノ酸配列(すなわち、リガンド)を含み得る。適当な非生来アミノ酸配列の例には、限定されないが、αvβ3、αvβ5、およびαvβ6インテグリンに結合する非生来アミノ酸配列が挙げられる。本発明の方法を実践することにより、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターによる腫瘍の形質導入レベルの比率は、例えば、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターによる肝臓の形質導入レベルと比べて、少なくとも約0.1:1に達し得る。好ましくは、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターによる腫瘍の形質導入のレベルの比率は、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターによる肝臓の形質導入レベルと比べて、少なくとも 約0.5:1、最も好ましくは少なくとも 約1:1である。
【0069】
医薬組成物
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、望ましくは医薬上許容し得る担体(例えば、生理学的に許容し得る担体)を含む医薬組成物中に存在する。いかなる適切な医薬上許容し得る担体も本発明において使用され得、そしてこのような担体は当技術分野で周知である。担体の選択は、部分的には、医薬組成物が投与される特定の部位および医薬組成物の投与に用いられる特定の方法によって決定されるだろう。
【0070】
適切な製剤としては、水性および非水性溶液、抗酸化物質、緩衝液、静菌剤、および製剤を目的とする受容者の血液または他の体液と等張にする溶質を含む等張滅菌溶液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および保存剤を含む水性および非水性滅菌懸濁液が挙げられる。好ましくは、医薬上許容し得る担体は、緩衝液および塩を含有する液体である。製剤は単位用量または複数回用量を密封した容器、例えばアンプルおよびバイアル中に存在し、使用直前に滅菌液体担体、例えば、水を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存され得る。即席の溶液および懸濁液は、滅菌の粉、顆粒、および錠剤から調製され得る。好ましくは、医薬上許容し得る担体は、緩衝生理食塩溶液である。
【0071】
より好ましくは、医薬組成物は、投与前のダメージからアデノウイルスベクターを防御するように、製剤化される。特定の製剤化は望ましくは、アデノウイルスベクターの光感受性および/または温度感受性を減少させる。事実、医薬組成物は、種々の期間維持されるだろうから、投与時に安定性と最大活性を確保するべく製剤化されるべきである。通常、医薬組成物は、0℃を超える温度で、好ましくは4℃以上(例えば、4〜10℃)で維持される。実施態様によっては、医薬組成物を、温度10℃以上(例えば、10〜20℃)、20℃以上(例えば、20〜25℃)、または30℃以上(例えば、30〜40℃)でさえも、維持するのが望ましいこともある。医薬組成物は、上記温度で、少なくとも1日(例えば、7日(1週間)またはそれ以上)維持しうるが、通常、その期間は、例えば、患者に投与前に、少なくとも3、4、5、もしくは6週とより長く、または例えば、少なくとも10、11、もしくは12週と一層長い。その期間の間、アデノウイルス遺伝子導入ベクターは最適には、活性を全く、またはほぼ全く失わないが、活性の一部の損失は許容でき、特に、比較的保存温度が高い、および/または比較的保存時間が長いときはそうである。好ましくは、アデノウイルスベクター組成物の活性は、上記したいずれの期間の後でも、約20%以下、好ましくは約10%以下、より好ましくは約5%以下しか減少しない。
【0072】
この目的のために、医薬組成物は好ましくは、例えば、上記のものなどの医薬として許容できる液体担体、およびポリソルベート80、L−アルギニン、ポリビニルピロリドン、α−D−グルコピラノシル α−D−グルコピラノシド二水和物(通常、トレハロースとして知られる)、およびそれらの組合せからなる群から選択される安定化剤を含有する。より好ましくは、安定化剤はトレハロース、またはポリソルベート80と組合せてのトレハロースである。安定化剤は、医薬組成物中に任意の適切な濃度で存在しうる。安定化剤がトレハロースである場合、トレハロースは望ましくは、医薬組成物の約2〜10%(重量/体積)、好ましくは、約4〜6%(重量/体積)の濃度で存在する。トレハロースとポリソルベート80が医薬組成物中に存在する場合、トレハロースは好ましくは、約4〜6%(重量/体積)、より好ましくは、約5%(重量/体積)の濃度で存在するが、ポリソルベート80は望ましくは、約0.001〜0.01%(重量/体積)、より好ましくは、約0.0025%(重量/体積)の濃度で存在する。安定化剤、例えば、トレハロース、が医薬組成物に包含される場合、医薬として許容できる液体担体は好ましくは、トレハロース以外の糖を含む。医薬組成物の適切な製剤化は、米国特許6,225,289および6,514,943ならびに国際特許出願WO 00/34444にさらに記載されている。
【0073】
さらに、医薬組成物は、さらなる治療剤または生物活性剤を含みうる。例えば、特定の適応症の治療に有用な治療因子が存在し得る。イブプロフェンやステロイド類などの炎症を制御する因子は、医薬組成物の一部となり、アデノウイルスベクターのインビボ投与および生理的窮迫に関連した腫脹や炎症を減じうる。免疫系抑制剤を医薬組成物と共に投与して、アデノウイルスベクターそれ自体への免疫応答または疾患に関連した免疫応答を減じ得る。あるいは、免疫増強剤を医薬組成物に包含させて、疾患に対する身体のもともとの防衛をアップレギュレートできる。
【0074】
放射線療法
大部分のタイプの癌について治療の典型的コースは放射線療法である。従って、本発明の方法は、一回線量の放射線を対象に投与することをさらに含み得る。放射線療法は、X線やガンマ線などの高エネルギー粒子または波のビームを使用して、細胞DNAに変異を誘導することによって、癌細胞を撲滅する。癌細胞は、正常細胞よりも急速に分裂するという点で、腫瘍組織は、正常組織よりも放射線に対し感受性である。放射線はまた、曝露された細胞での外来性DNA発現を増大させることが示されている。TNF−αをコードする核酸配列を、放射線誘導性プロモーターに機能可能に連結すると、腫瘍細胞を除去する際に観察される放射線とTNF−αとの相加効果または相乗効果に加えて、放射線療法の期間中絶えず、腫瘍部位で、放射線はTNF−α産生を強め、治療レベルのTNF−αを維持する(例えば、Hersh et al., Gene Therapy, 2, 124-131 (1995)、およびKawashita et al., Human Gene Therapy, 10, 1509-1519 (1999)参照)。
【0075】
哺乳類が有意な負の副作用無しに、放射線量に耐えられる限り、任意のタイプの放射線が哺乳類に投与できる。適切なタイプの放射線療法として、例えば、電離(電磁気)放射線療法(例えば、X線又はガンマ線)または粒子ビーム放射線療法(例えば、高リニアエネルギー放射線)が挙げられる。電離放射線は、イオン化する(即ち、電子を獲得又は喪失するために)、十分なエネルギーをもつ粒子または光子を含む放射線として定義される(例えば、米国特許 5,770,581に記載されている)。放射線の効果は、少なくとも部分的には臨床家によって制御されうる。好ましくは、放射線照射量は、最大の標的細胞曝露と毒性減少のために分割される。放射線は、腫瘍細胞を殺すことを増強する放射線感受性剤、または放射線の有害な影響から健康組織を防御する放射線防御剤(例えば、IL-1またはIL-6)と同時に投与できる。同様に、熱の適用、すなわち、温熱療法、または化学療法は、放射線に組織を感受性にする。
【0076】
放射線源は、哺乳類にとって外部にあっても又は内部にあってもよい。外部放射線療法は、最も普通であり、例えば、線形加速器を用いて、皮膚を通過し、腫瘍部位に高エネルギー放射線のビームを向けることを含む。放射線のビームは腫瘍部位に局在化するが、正常で健康な組織の曝露を避けることは、ほぼ不可能である。しかし、外部放射線は通常、患者が十分に耐えられる。内部放射線療法は、ビーズ、ワイヤー、ペレット、カプセルなどの放射線放射源を、腫瘍部位に、又はその近傍で体内に移植することを含む。このようなインプラントは、治療後、除去でき、又は体内に不活性のまま残し得る。内部放射線治療のタイプとして、近接照射療法、間質性放射線治療、腔内放射線療法が挙げられるが、それらに限定されない。内部放射線療法のより一般的ではない形態は、放射線免疫療法であって、それでは、放射活性物質に結合した腫瘍特異性抗体が患者に投与される。抗体は腫瘍抗原を探し出して、それと結合し、それによって、関連組織に一回線量の放射線を効率よく投与する。
【0077】
投与方法が何であれ、好ましくは、本発明で哺乳類に投与される放射線の全線量は、約5グレイ(Gy)〜約70Gyである。より好ましくは、約10Gy〜約65Gy(例えば、約15Gy、20Gy、25Gy、30Gy、35Gy、40Gy、45Gy、50Gy、55Gy、または60Gy)を、治療の期間をかけて投与する。放射線の全線量が、1日の期間で投与できるが、理想的には、全線量は、分割し、数日かけて投与する。望ましくは、放射線療法は、少なくとも 約3日、例えば、少なくとも5、7、10、14、17、21、25、28、32、35、38、42、46、52、または56日(約1−8週間)の期間をかけて投与する。従って、放射線の1日線量は、およそ1−5Gy(例えば、約1Gy、1.5Gy、1.8Gy、2Gy、2.5Gy、2.8Gy、3Gy、3.2Gy、3.5Gy、3.8Gy、4Gy、4.2Gy、または4.5Gy)、好ましくは1−2Gy(例えば、1.5−2Gy)を含もう。放射線誘導性プロモーターに機能可能に連結しているならば、放射線の1日線量は、核酸配列の発現を誘導するのに十分であるべきである。期間が延びるならば、放射線は毎日は投与しないことが好ましく、それによって、対象を休息させ、治療効果が実現されるようにする。例えば、望ましくは、放射線は、治療の各週につき、5連続日に投与し、2日は投与しない、それによって、週当たり2日の休息を可能とする。しかし、治療への患者の応答および起こり得る副作用に応じて、放射線は、1日/週、2日/週、3日/週、4日/週、5日/週、6日/週、または7日全部/週に投与できる。
【0078】
化学療法
放射線同様、化学療法は腫瘍のサイズを減じ、または腫瘍を破壊するための標準的な治療である。1以上の化学療法薬の用量を、TNF-αをコードする核酸配列を含む複製欠損アデノウイルスベクターの投与と併せて哺乳類に投与することができる。化学療法剤は、複製欠損アデノウイルスベクターを投与する前に、複製欠損アデノウイルスベクターを投与した後に、あるいは同じ医薬組成物中でまたは別個の投与として複製欠損アデノウイルスベクターと同時に投与され得る。任意の適した化学療法薬が用いられ得る。適した化学療法薬には、限定されないが、アドリアマイシン、アスパラギナーゼ、ブレオマイシン、ブスルファン、シスプラチン、カルボプラチン、カルムスチン、カペシタビン、クロラムブシル、シタラビン、シクロホスファミド、カンプトセシン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デクスラゾキサン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エトポシド、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ロムスチン、メクロレタミン、メルカプトプリン、メルファラン(meplhalan)、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、ニトロソウレア(nitrosurea)、パクリタキセル、パミドロネート、ペントスタチン、プリカマイシン、プロカルバジン、リツキシマブ、ストレプトゾシン、テニポシド、チオグアニン、チオテパ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、タクソール、トランスプラチナム(transplatinum)、抗血管内皮増殖因子化合物(「抗VEGF」)、抗上皮増殖因子受容体化合物(「抗EGFR」)、5−フルオロウラシル等が挙げられる。対象に投与される化学療法薬のタイプおよび数は、特定の腫瘍タイプに対する標準的な化学療法レジメンに依存するであろう。換言すれば、特定の癌が単独の化学療法剤で一般的に治療されてもよいが、他のものは化学療法剤の組合せで一般的に治療されてもよい。好ましくは、対象に投与される化学療法剤は、5−フルオロウラシル(5-FU)、シスプラチン、パクリタキセル、ゲムシタビン、シクロホスファミド、カペシタビン、および/またはドキソルビシンからなる群より選ばれる。1以上の化学療法薬の任意の適した用量が、哺乳類、例えば、ヒトに投与され得る。上述の適した化学療法薬の用量は当技術分野でよく理解されており、例えば、米国特許出願公開No. 2003/0082685 A1に記載されている。5-FUの用量がヒト患者に投与される実施態様において、用量は好ましくは1日あたり患者の体表面積のmあたり約50mg(すなわち、mg/m/日)〜約1500mg/m/日(例えば、約100mg/m/日、約500mg/m/日、および約1000mg/m/日)を含む。より好ましくは、5-FUの用量は、約100mg/m/日〜約300mg/m/日(例えば、200mg/m/日)または約900mg/m/日〜約1100mg/m/日(例えば、約1000mg/m/日)を含む。シスプラチンの用量がヒト患者に投与される場合、用量は好ましくは約25mg/m/日〜約500mg/m/日(例えば、約50mg/m/日、約100mg/m/日、または約300mg/m/日)を含む。より好ましくは、シスプラチンの用量は約50−100mg/m/日、最も好ましくは75mg/m/日である。カペシタビンの用量が患者に投与される場合、用量は好ましくは約500mg/m/日〜約1500mg/m/日(例えば、約700mg/m/日、約800mg/m/日、または約900mg/m/日)を含む。より好ましくは、カペシタビンの用量は約800mg/m/日〜約1000mg/m/日(例えば、約900mg/m/日)を含む。
【0079】
放射線と同様、期間が延びるならば、化学療法は毎日は投与せず、それによって、対象を休息させ、治療効果が実現されるようにする。例えば、望ましくは、化学療法は、治療の各週につき、5連続日に投与し、2日は投与しない、それによって、週当たり2日の休息を可能とする。しかし、治療への患者の応答および起こり得る副作用に応じて、化学療法は、1日/週、2日/週、3日/週、4日/週、5日/週、6日/週、または7日全部/週に投与できる。
【0080】
いくつかの実施態様においては、用量が対象に長期に渡る期間連続的に投与される1以上の化学療法薬の投与方法を用いることが有利となるかもしれない。例えば、対象への化学療法薬の連続的な注入が望ましいであろう。この点において、1以上の化学療法薬の用量の投与の存続時間は、任意の適した時間の長さであり得る。本明細書記載の化学療法薬の標準的な注入率は当技術分野で知られており、疾患の性質により任意の適した方法で改変することができる。例えば、5-FUが投与される場合、標準的な注入比率は治療週につき約96時間(すなわち、1週間につき5日)である。癌化学療法の他の局面および投与スケジュールは、例えば、Bast et al. (eds.), Cancer Medicine, 5th edition, BC. Decker Inc., Hamilton, Ontario (2000)に記載されている。
【実施例】
【0081】
(実施例)
以下の実施例は本発明をさらに説明するが、もちろん、その範囲になんらの限定を付すものとも解釈されるべきではない。
【0082】
(実施例1)
本実施例は、本発明の方法に従って哺乳類に投与したアデノウイルスベクターが循環において長期に渡る期間存続することを明らかにする。
【0083】
アデノウイルスゲノムのE1領域およびE3領域のコード配列の大半が欠損したアデノウイルス血清型5ベクターを作り出した。該複製欠損アデノウイルスベクターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターに機能可能に連結したルシフェラーゼレポーター遺伝子を含む(AdL)。CARを介したアデノウイルスファイバー媒介形質導入を減少させるため、アデノウイルスファイバータンパク質のABループをCAR結合を破壊するように改変した(AdL.F*)。生来のアデノウイルスと細胞表面での相互作用をさらに減少させるために、アデノウイルスペントンベースタンパク質のインテグリン結合ドメインを破壊した(AdL.F*PB*)。AdL、AdL.F*、およびAdL.F*PB*および生来の向性が減少したアデノウイルスベクターの構築および増殖方法は、Einfeld et al., J. Virol., 75, 11284-11291 (2001)にさらに記載されている。
【0084】
2-4%イソフルレンの吸入により麻酔したC57Bl/6マウスに、1×1011粒子の用量のAdL、AdL.F*、またはAdL.F*PB*を頸静脈を介して静脈内投与した。血流中の有効なウイルス量を、投与後10、60、180、および1440分で定量した。各時点で、注入した用量に対する割合を測定し、ベクターの投与後時間の関数としてグラフ化した(図1を参照)。結果として生じた曲線の下面積(AUC)および各アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度を、本明細書に記載した通りに計算した。結果として生じたデータを表1に示し、各時点のAdLおよびAdL.F*PB*の正規化平均血流濃度は「% AUC」として表す。
【0085】
【表1】

【0086】
投与後24時間(すなわち、1440分)で、正規化平均血流濃度(「% AUC」)は、両アデノウイルスベクター構築物で1%未満であった。
【0087】
他のマウス集団は、500 μlの組成物中1×1011粒子の用量のAdL、AdL.F*、またはAdL.F*PB*を腹腔に投与した。血流に存在するウイルスの量を、投与後90、180、360、および1440分で定量した。各時点で、注入した用量に対する割合(「% 用量」)を測定し、ベクターの投与後時間の関数としてグラフ化した(図2参照)。AdL、AdL.F*、およびAdL.F*PB*の正規化平均血流濃度は、本明細書に記載した通りに計算して表2に示し、正規化平均血流濃度は「% AUC」として表す。
【0088】
【表2】

【0089】
投与後24時間(すなわち、1440分)で、AdLの注入した用量のおよそ 0.0004%が循環中に存在していた。24時間でのAdLの正規化平均血流濃度(「% AUC」)は、およそ0.022%であり、すなわち、1%よりかなり少ない。24時間で、AdL.F*の正規化平均血流濃度はおよそ2.1%であり、AdL.F*PB*の正規化平均血流濃度はおよそ0.05%であった。そのアデノウイルス外殻が改変してないAdLと比較して、24時間でのAdL.F*の正規化平均血流濃度は、AdLのもののおよそ97倍であった。AdL.F*PB*の正規化平均血流濃度は、AdLのもののおよそ2.2倍であった。
【0090】
本実施例は、体循環への送達の経路として宿主細胞受容体への生来の結合を減少するように改変したアデノウイルスベクターの腹腔内投与は、血流からのこのようなベクターのクリアランスを減ずることを明らかにする。
【0091】
(実施例2)
本実施例は、哺乳類にアデノウイルスベクターを前投与することが、循環における複製欠損アデノウイルスベクターの用量の持続性を増加させ得ることを明らかにする。
【0092】
3集団のマウスを、吸入を介し2-4%イソフルレンで麻酔し、2×1011 粒子の前用量のAdNull、すなわちレポーター遺伝子を欠き、その生来の細胞表面結合サイトが破壊されたファイバーおよびペントンタンパク質を含むE1/E3-欠損アデノウイルスを投与した。10分後(t=0)、500 μlの生理学的に許容し得る担体中の1×1011粒子の用量の、実施例1に記載の3つのアデノウイルスベクター構築物のうちの1つを投与した。循環におけるアデノウイルスベクター量を記録した。各時点で、注入した用量に対する割合を測定し、ベクターの投与後時間の関数としてグラフ化した(図3参照)。AdL、AdL.F*、およびAdL.F*PB*の正規化平均血流濃度は本明細書に記載した通りに計算して表3に示し、正規化平均血流濃度は「% AUC」として表す。
【0093】
【表3】

【0094】
表2に示すデータとの比較によると、アデノウイルスベクターの前用量の投与は、3つのアデノウイルスベクター構築物の全てで血流におけるアデノウイルスベクターの半減期を増加させた。循環時間における最大の増加は、二重除去したアデノウイルスベクターであるAdL.F*PB*で観察され、正規化平均血流濃度において210倍の増加を享受した。
【0095】
別の研究において、2-4%イソフルレン麻酔下C57Bl/6マウスに、ビヒクル(5%トレハロース、10 mM MgCl2、および150 mM NaClを含む10 mM Tris/HCl (pH 7.8)緩衝液)、1×1011アデノウイルス粒子の100 μl組成物中に存在するヘキソンタンパク質の量に相当する精製したアデノウイルスヘキソンタンパク質、または100 μlの組成物中2×1011粒子の前用量のAdNullを腹腔内投与した。10分後(t=0)、100 μlの組成物中1×1010または1×1011粒子の用量のAdL.F*PB*を、実施例1に記載した通りに腹腔内に投与した。血流中のAdL.F*PB*の量は、ベクター投与後様々な時点で測定した。各時点で、注入した用量に対する割合を測定し、ベクターの投与後時間の関数としてグラフ化した (図4参照)。AdL.F*PB*の正規化平均血流濃度は本明細書に記載した通りに計算して表4に示し、正規化平均血流濃度は「% AUC」として表す。
【0096】
【表4】

【0097】
ヘキソンタンパク質を前投与することは、ビヒクルを前投与することで見られたのを超える、血流におけるベクターの持続性に及ぼす検出可能な効果を有さなかった。AdNullを前投与することは、投与した両複製欠損アデノウイルスベクターの用量の正規化平均血流濃度を増加させた。投与後24時間で、前投与は、アデノウイルスベクターの前用量なしで投与した同一のアデノウイルスベクターの血流濃度と比べて正規化平均血流濃度を少なくともおよそ800倍増加させた。この結果はまた、組成物の用量および容量の増加は、循環におけるアデノウイルスベクターの最大の持続性をもたらすということを示唆している。
【0098】
本実施例において与えられたデータは、アデノウイルスベクターの前用量の投与が、血流における治療アデノウイルスベクターの用量の循環時間をさらに増加させ得るということを裏付ける。
【0099】
(実施例3)
本実施例は、循環における半減期をさらに増加させるためにアデノウイルスベクターを改変する方法を説明する。
【0100】
実施例1に記載のAdL.F*PB*のウイルス表面を、PEG分子でコーティングした。詳細には、AdL.F*PB*を、アデノウイルスベクターを10%スクロースを含む10 mMリン酸カリウム緩衝液で平衡化したDGカラムの中を通過させることにより脱塩した。AdL.F*PB*(9×1012粒子、0.25 mgタンパク質)を、1 mg/ml mPEG−スクシンイミジルプロピオネート(MW=5000)溶液の添加により1:5および1:50の比率で(アデノウイルスタンパク質重量:PEG試薬重量)PEG化した。PEG化反応は、過剰量の10Xリシンを添加することにより停止させた。PEG化したウイルスの緩衝液は、ベクターをDGカラムの中を通過させることにより5%トレハロース、150 mM NaCl、および10 mM MgCl2を含む10 mM Tris/HCl (pH 7.8)に置き換えた。
【0101】
AdL、AdL.F*PB*、AdL.F*PB*(PEG-5)、またはAdL.F*PB*(PEG-50)の用量(500 μlの生理学的に許容し得る担体に希釈した1×1011puのアデノウイルスベクター)を、2-4%イソフルレンで麻酔したマウスに腹腔内注入した。血流におけるアデノウイルスベクターの量を、投与後様々な時点で測定した。各時点で、注入した用量に対する割合を測定し、ベクターの投与後時間の関数としてグラフ化した。AdL、AdL.F*PB*、AdL.F*PB*(PEG-5)、およびAdL.F*PB*(PEG-50)の正規化平均血流濃度は本明細書に記載した通りに計算して表5に示し、正規化平均血流濃度は「% AUC」として表す。
【0102】
【表5】

【0103】
二重除去したアデノウイルスベクターのPEG化は、血流におけるアデノウイルスベクターの保持を少なくとも2倍に増加した。ウイルス表面に付着したPEG分子濃度が高いほど、アデノウイルスベクターの半減期はさらに増加した。これらの結果は、本発明の方法に従って投与された場合、アデノウイルス粒子の表面のマスキングは、アデノウイルスベクターの用量のクリアランスを減じることを明らかにする。
【0104】
(実施例4)
本実施例は、本発明の方法がインビボで導入遺伝子を含むアデノウイルスベクターを腫瘍組織へ効率的に送達し得ることを説明する。
【0105】
臨床的に適切な皮下腫瘍担持動物モデルであるNCI-H441腫瘍担持ヌードマウスに、その全てがCMVプロモーターに機能可能に連結したルシフェラーゼレポーター遺伝子を含む4つのE1/E3-欠損アデノウイルスベクター構築物のうちの1つを投与した。AdLおよびAdL.F*PB*は、実施例1に記載されている。αvβ3およびαvβ5インテグリンに結合しウイルスの形質導入を媒介するリガンドをAdL.F*PB*のアデノウイルスファイバータンパク質のHIループに挿入し、AdL**RGDを作製した。αvβ6(配列番号1)に結合するリガンドをAdL.F*PB*のアデノウイルスファイバータンパク質のHIループに挿入し、AdL**αvβ6を作製した。マウスは、アデノウイルスベクターの投与前に2-4%イソフルレンの吸入を介し麻酔した。
【0106】
2つの投与方法を用いて、アデノウイルスベクターの用量を送達した。マウスの一部に、100 μlの医薬上許容し得る担体に希釈した1×1011 粒子の用量のアデノウイルスベクターを静脈内投与した。残りのマウスに、腹腔内注入を介して1×1011粒子の用量の複製欠損アデノウイルスベクターを受け入れる10分前に、実施例2に記載の2×1011粒子の前用量のAdNullを腹腔内に注入した。AdL、AdL.F*PB*、AdL**RGD、またはAdL**αvβ6の投与後24時間で腫瘍、肝臓、脾臓、腎臓、および/または肺組織を採取した。サンプルにおける全タンパク質量はBio-Radタンパク質アッセイにより測定し、ルシフェラーゼ活性量は発光により測定し、全タンパク質のミリグラムあたりの相対的光ユニット(RLU)として表した。ルシフェラーゼ発現の強度を用いて、アデノウイルスベクター形質導入を定量化した(図5および6参照)。腫瘍の形質導入と他の組織の形質導入の比率を計算し、表6にまとめた。
【0107】
【表6】

【0108】
他の組織の形質導入と比較した腫瘍の形質導入の比率は、AdLの形質導入のレベルを比較することにより正規化した。正規化したデータを表7に示す。
【0109】
【表7】

【0110】
本実施例は、本発明の方法が静脈内送達よりも遺伝子導入ベクターの腫瘍組織への送達を実質的に増加させることを立証し、そして遺伝子導入ベクターの腫瘍への直接注入の代替物を提供する。細胞表面受容体への生来の結合を減じるようにアデノウイルスベクターを改変することは、肝臓の形質導入と比較して腫瘍組織の形質導入のレベルを増加させ、そしてアデノウイルスファイバータンパク質への非生来のリガンドの挿入は、他の非標的組織を回避しつつ腫瘍組織へのターゲッティングをさらに一層増強する。
【0111】
本明細書中で引用した刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参考文献は、各参考文献が、本明細書中で参考として援用されることが個別におよび具体的に示され、かつその全体が記載されているのと同じ程度に、本明細書中で参考として援用される。
【0112】
本発明を記載する文脈において(特に、添付の特許請求の範囲の文脈において)、用語「a」及び「an」及び「the」及び同様の指示語の使用は、本明細書中で他に特に明記がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を包含するように解釈されるべきである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含む(containing)」という用語は、他に特に明記がない限り、オープンエンドの用語(即ち、「〜を含むが、限定されない」ことを意味する)として解釈されるべきである。本明細書中での値の範囲の記載は、本明細書中で他に特に明記がない限り、その範囲内にある各々の別々の値を個々に言及する略記方法として働くことが単に意図され、そして各々の別々の値は、それが本明細書中で個々に列挙されているかのように本明細書中に含まれるものである。本明細書中に記載される全ての方法は、本明細書中で他に特に明記がない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で行われ得る。本明細書中で提供される任意及び全ての例、又は例示的な言葉(例えば、「などの」)の使用は、本発明をより良く明瞭にすることが単に意図され、そして他に特に主張されない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書中の如何なる言葉も、本発明の実施に必須なものとして主張されていない要素を示すと解釈されるべきではない。
【0113】
本発明の実施に関して、本発明者らが知っている最良の形態を含む、本発明の好適な実施態様を本明細書中に記載する。もちろん、それらの好適な実施態様のバリエーションは、上記の説明を読むと、当業者に明白となるであろう。本発明者らは、当業者が適宜このようなバリエーションを用いることを予想し、そして本発明者らは、本発明が本明細書中に具体的に記載されたものとは別の状態で実施されることを意図する。従って、本発明は、適用法によって許されるように、本明細書に添付の特許請求の範囲に列挙される主題の全ての改変物及び均等物を含む。さらに、その全ての可能なバリエーションにおける上記要素の任意の組合わせは、本明細書中で他に特に明記がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は、アデノウイルスベクター静脈内注入後の、AdLおよびAdL.F*PB*の注入した用量に対する割合(%) 対分のグラフである。
【図2】図2は、アデノウイルスベクター腹腔内注入後の、AdL、AdL.F*、およびAdL.F*PB*の注入した用量に対する割合(%) 対分のグラフである。
【図3】図3は、アデノウイルスベクター腹腔内注入後の、AdL、AdL.F*、およびAdL.F*PB*の注入した用量に対する割合(%) 対分のグラフである。アデノウイルスベクターの投与の10分前に、空のアデノウイルスベクターの前用量が投与された。
【図4】図4は、ベクター注入後の、空のアデノウイルスベクター(Null)の前用量有りまたは無しの1×1010 粒子ユニット(pu)または1×1011 puのAdLまたはAdL.F*PB*の注入した用量に対する割合(%) 対分のグラフである。
【図5】図5は、 腫瘍、肝臓、脾臓、腎臓、および肺組織から採取し、AdL、AdL.F*PB*、AdL.**RGD、またはAdL.**αvβ6の腹腔内送達により生成したサンプルにおける相対的光ユニット(RLU)/mgタンパク質を示す棒グラフである。
【図6】図6は、腫瘍、肝臓、脾臓、腎臓、および肺組織から採取し、AdL、AdL.F*PB*、AdL.**RGD、またはAdL.**αvβ6の静脈内送達により生成したサンプルにおける相対的光ユニット(RLU)/mgタンパク質を示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類において外来核酸を発現させる方法であって、該方法は野生型アデノウイルスと比べ中皮細胞および肝細胞に形質導入する能力が減少し、かつ外来核酸を含む複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量を哺乳類の血流に徐々に放出することを含み、
決して血流から除去されないアデノウイルスベクターの用量の初めの理論上の血流濃度に対する割合として表した、投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの正規化平均血流濃度が少なくとも約1%であり、
そうして哺乳類における宿主細胞に形質導入して、外来核酸を発現させる、方法。
【請求項2】
投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの正規化平均血流濃度が少なくとも約3%である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの正規化平均血流濃度が少なくとも約5%である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの正規化平均血流濃度が少なくとも約8%である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスの正規化平均血流濃度が少なくとも約10%である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
哺乳類において外来核酸を発現させる方法であって、該方法は野生型アデノウイルスベクターと比べ中皮細胞および肝細胞に形質導入する能力が減少し、かつ外来核酸を含む複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量を哺乳類の血流に徐々に送達することを含み、
投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度が野生型アデノウイルスベクターの同等用量の正規化平均血流濃度よりも少なくとも約5倍大きい、方法。
【請求項7】
投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度が野生型アデノウイルスベクターの同等用量の正規化平均血流濃度よりも少なくとも約10倍大きい、請求項6記載の方法。
【請求項8】
投与後24時間にわたる血流における複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度が野生型アデノウイルスベクターの同等用量の正規化平均血流濃度よりも少なくとも約50倍大きい、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターのコクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(CAR)への生来の結合が減少している 、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターが、生来のCAR結合サイトが破壊されたファイバータンパク質を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターのインテグリンへの生来の結合が減少している、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターが、生来のインテグリン結合サイトが破壊されたペントンベースタンパク質を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
該方法が少なくとも約15分にわたって血流に複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量を放出することを含む、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
該方法が少なくとも約3時間にわたって血流に複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量を放出することを含む、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
該方法が少なくとも約10時間にわたって血流に複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量を放出することを含む、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量がリンパを介して血流に送達される、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量が腹腔内に投与される、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
該方法が、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量を投与する前に、複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの前用量を投与することを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの前用量が静脈内に投与される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの前用量が腹腔内に投与される、請求項18記載の方法。
【請求項21】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターが細胞の受容体に結合する非生来のアミノ酸配列を含むキメラ外殻タンパク質を含む、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
キメラ外殻タンパク質が少なくともアデノウイルスファイバータンパク質の一部を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
キメラ外殻タンパク質がさらにスペーサーを含む、請求項21または22記載の方法。
【請求項24】
非生来のアミノ酸配列がアデノウイルスファイバータンパク質の露出したループに組み込まれる、請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
非生来のアミノ酸配列がアデノウイルスファイバータンパク質のC末端に位置している、請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターがその表面でポロキサマー、ポロキサミン、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(2−エチル−オキサゾリン)、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メチルアクリルアミド]、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ブチル−2−シアノアクリレート)またはポリ(エチレングリコール)(PEG)と結びついている、請求項1〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
1以上のシステインおよび/またはリシン残基が複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの外殻タンパク質に遺伝的に組み込まれている、請求項26記載の方法。
【請求項28】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターがPEG化し、かつ非生来のアミノ酸配列がリシンを含まない、請求項21〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターがPEG化し、かつ非生来のアミノ酸配列がシステインを含まない、請求項21〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターがアデノウイルスゲノムのE1領域およびE4領域の1以上の複製に必須な遺伝子機能を欠損している、請求項1〜29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
宿主細胞が腫瘍細胞である、請求項1〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターがスペーサーを介してアデノウイルスファイバータンパク質のC末端に付着している非生来のアミノ酸配列を含むキメラアデノウイルスファイバータンパク質を含み、該非生来のアミノ酸配列が腫瘍細胞上の腫瘍細胞受容体に結合する、請求項1〜31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
非生来のアミノ酸配列が腫瘍細胞上のαvβ6インテグリンに結合する、請求項32記載の方法。
【請求項34】
非生来のアミノ酸配列が腫瘍細胞に発現しているαvβ3および/またはαvβ5インテグリンに結合する、請求項32記載の方法。
【請求項35】
腫瘍が腫瘍マトリクスと関連し、かつ非生来のアミノ酸配列が該腫瘍マトリクスに結合する、請求項32記載の方法。
【請求項36】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量が20mlまたはそれ以上の生理学的に許容し得る担体/哺乳類のkgまたは75mlまたはそれ以上の生理学的に許容し得る担体/哺乳類の表面積mを含む医薬組成物中で投与される、請求項1〜35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量が100mlまたはそれ以上の生理学的に許容し得る担体/哺乳類のkgまたは300mlまたはそれ以上の生理学的に許容し得る担体/哺乳類の表面積mを含む医薬組成物中で投与される、請求項1〜36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
哺乳類において腫瘍細胞を破壊する方法であって、(a)殺腫瘍因子をコードする核酸配列および(b)コクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(CAR)を介したアデノウイルス侵入を媒介しないアデノウイルスファイバータンパク質を含む複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターを血流に徐々に送達し、そうして殺腫瘍因子を産生させ、哺乳類における腫瘍細胞を破壊することを含む、方法。
【請求項39】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターが野生型アデノウイルスと比べて中皮細胞および肝細胞に形質導入する能力が減少している、請求項38記載の方法。
【請求項40】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量がリンパを介して血流に送達される、請求項38または39記載の方法。
【請求項41】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの用量が腹腔への投与を介して血流に送達される、請求項38または39記載の方法。
【請求項42】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターのインテグリンへの生来の結合が減少している、請求項38〜41のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度が少なくとも約1%である、請求項38〜42のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度が少なくとも約3%である、請求項38〜43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
投与後24時間にわたる複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの正規化平均血流濃度が少なくとも約8%である、請求項38〜44のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターが腫瘍に発現している細胞表面受容体に結合する非生来のアミノ酸配列を含むキメラ外殻タンパク質を含む、請求項38〜46のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
非生来のアミノ酸配列が腫瘍細胞上のαvβ6インテグリンに結合する、請求項46記載の方法。
【請求項48】
非生来のアミノ酸配列がαvβ3および/またはαvβ5インテグリンに結合する、請求項46記載の方法。
【請求項49】
腫瘍が腫瘍マトリクスと関連し、かつ非生来のアミノ酸配列が腫瘍マトリクスに結合する、請求項46記載の方法。
【請求項50】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターによる腫瘍の形質導入レベルの比率が複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターによる肝臓の形質導入のレベルと比べて少なくとも約0.1:1である、請求項38〜49のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターによる腫瘍の形質導入レベルの比率が複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターによる肝臓の形質導入レベルと比べて少なくとも約0.5:1である、請求項38〜50のいずれかに記載の方法。
【請求項52】
複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターによる腫瘍の形質導入レベルの比率が複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターによる肝臓の形質導入レベルと比べて少なくとも約1:1である、請求項38〜51のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
殺腫瘍因子が腫瘍壊死因子−アルファ(TNF-α)である、請求項38〜52のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−518595(P2006−518595A)
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503711(P2006−503711)
【出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/004922
【国際公開番号】WO2004/076627
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(500129085)ジェンベク、インコーポレイティッド (13)
【出願人】(000238201)扶桑薬品工業株式会社 (42)
【Fターム(参考)】