説明

インプリント装置、それを用いた物品の製造方法

【課題】スループットの向上に有利なインプリント装置を提供する。
【解決手段】このインプリント装置1は、型6を引き付けて保持する保持機構11を有する型保持部3と、基板10を保持する基板保持部4と、保持機構11に保持された状態の型6を、該型6に接する空間13の圧力を調整することで基板10に向かい凸形に変形させる圧力調整部15と、凸形に変形した型6と、未硬化樹脂16との押し付け動作中に、型6の姿勢を変化させることで型6と未硬化樹脂16とが接触する接触領域24の位置を移動可能とする駆動部18と、接触領域24の状態を示す画像情報を取得する測定部23と、画像情報に基づいて接触領域24の図心25の平面座標を算出し、該図心25の平面座標の位置が、画像情報に基づいて算出した、または予め取得した基板10上のパターン形成領域の図心26の平面座標の位置に向かうように駆動部18の動作を制御する制御部5と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置、それを用いた物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMSなどの微細化の要求が進み、従来のフォトリソグラフィー技術に加え、基板上の未硬化樹脂を型(モールド)で成形し、樹脂のパターンを基板上に形成する微細加工技術が注目を集めている。この技術は、インプリント技術とも呼ばれ、基板上に数ナノメートルオーダーの微細な構造体を形成することができる。例えば、インプリント技術の1つとして、光硬化法がある。この光硬化法を採用したインプリント装置では、まず、基板(ウエハ)上のインプリント領域であるショットに紫外線硬化樹脂(インプリント材、光硬化性樹脂)を塗布する。次に、この樹脂(未硬化樹脂)を型により成形する。そして、紫外線を照射して樹脂を硬化させたうえで引き離すことにより、樹脂のパターンが基板上に形成される。
【0003】
上記技術を採用したインプリント装置では、基本的に内部の雰囲気が気体(大気)であるため、型と基板上の樹脂とを互いに押し付けると樹脂内に気泡が混入する場合がある。この気泡が混入した状態で樹脂が硬化すると、形成されるパターンに欠陥が生じる可能性が高い。そこで、このパターン欠陥の発生を回避するために、特許文献1は、一旦型を基板に向かい凸形に撓ませ、基板上の樹脂に押し付けた後、型を徐々に平面に戻してパターン全面を樹脂に押し付けることにより、型と樹脂との間の気体を除去する方法を開示している。この方法によれば、型と樹脂との間の気体を内側から外側へと押し出すことができるので、樹脂内に混入する気泡を減少させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−518207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に示す装置のように、型を変形させながら基板上の樹脂との押し付けを実施すると、型と樹脂との接触領域は、押し付け動作が進行するに従って徐々に大きくなり、最終的にパターン形成領域(樹脂の面積)にまで拡がる。しかしながら、型の撓み状態やパターンのレイアウトによっては、押し付け動作の途中で接触領域の図心がパターン形成領域の中心からずれる。したがって、このように接触領域の位置がXY平面で偏る場合には、接触領域の境界とパターン形成領域の端部との距離が他の部分と比較して長くなる部分が発生し、押し付け時間が増大する可能性がある。
【0006】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、スループットの向上に有利なインプリント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、基板上の未硬化樹脂を型により成形して硬化させて、基板上に硬化した樹脂のパターンを形成するインプリント装置であって、型を引き付けて保持する保持機構を有する型保持部と、基板を保持する基板保持部と、保持機構に保持された状態の型を、該型に接する空間の圧力を調整することで基板に向かい凸形に変形させる圧力調整部と、凸形に変形した型と、未硬化樹脂との押し付け動作中に、型の姿勢を変化させることで型と未硬化樹脂とが接触する接触領域の位置を移動可能とする駆動部と、接触領域の状態を示す画像情報を取得する測定部と、画像情報に基づいて接触領域の図心の平面座標を算出し、該図心の平面座標の位置が、画像情報に基づいて算出した、または予め取得した基板上のパターン形成領域の図心の平面座標の位置に向かうように駆動部の動作を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、スループットの向上に有利なインプリント装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインプリント装置の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る図心調整前のインプリント装置の状態を示す図である。
【図3】押型工程における動作シーケンスを示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態に係る図心調整中のインプリント装置の状態を示す図である。
【図5】第2実施形態に係る図心調整前のインプリント装置の状態を示す図である。
【図6】第2実施形態に係る図心調整中のインプリント装置の状態を示す図である。
【図7】第3実施形態に係るインプリント装置の状態を示す図である。
【図8】第4実施形態に係るウエハの端部における接触領域の状態を示す図である。
【図9】従来の押型工程におけるインプリント装置の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係るインプリント装置について説明する。図1は、インプリント装置の構成を示す図である。本実施形態におけるインプリント装置は、物品としての半導体デバイスなどのデバイスの製造に使用され、被処理基板であるウエハ上(基板上)の未硬化樹脂をモールド(型)で成形し、ウエハ上に樹脂のパターンを形成する装置である。なお、ここでは光硬化法を採用したインプリント装置とする。また、以下の図においては、ウエハ上の樹脂に対して紫外線を照射する照明系の光軸に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内に互いに直交するX軸およびY軸を取っている。インプリント装置1は、まず、光照射部2と、モールド保持機構3と、ウエハステージ4と、塗布部と、制御部5とを備える。
【0012】
光照射部2は、インプリント処理の際に、モールド6に対して紫外線7を照射する。この光照射部2は、不図示の光源と、この光源から射出された紫外線7をインプリントに適切な光に調整するための光学素子とから構成される。なお、本実施形態では光硬化法を採用するために光照射部2を設置しているが、例えば熱硬化法を採用する場合には、光照射部2に換えて、熱硬化性樹脂を硬化させるための熱源部を設置することとなる。
【0013】
モールド6は、外周形状が矩形であり、ウエハ10に対する面に3次元状に形成されたパターン部(例えば、回路パターンなどの転写すべき凹凸パターン)6aを含む。また、モールド6の材質は、石英など紫外線7を透過させることが可能な材料である。さらに、モールド6は、以下のような変形を容易とするために、紫外線7が照射される面に、平面形状が円形で、かつ、ある程度の深さを有するキャビティ(凹部)が形成された形状としてもよい。
【0014】
モールド保持機構(型保持部)3は、まず、モールド6を保持するモールドチャック(保持機構)11と、このモールドチャック11を保持し、モールド6(モールドチャック11)を移動させるモールド駆動機構12とを有する。モールドチャック11は、モールド6における紫外線7の照射面の外周領域を真空吸着力や静電力により引き付けることでモールド6を保持し得る。例えば、モールドチャック11が真空吸着力によりモールド6を保持する場合には、モールドチャック11は、外部に設置された不図示の真空ポンプに接続され、この真空ポンプのON/OFFによりモールド6の脱着が切り替えられる。また、モールドチャック11およびモールド駆動機構12は、光照射部2から射出された紫外線7がウエハ10に向けて照射されるように、中心部(内側)に開口領域を有する。この開口領域には、開口領域の一部とモールド6とで囲まれる空間13を密閉空間とする光透過部材(例えばガラス板)14が設置され、真空ポンプなどを含む圧力調整装置(圧力調整部)15により空間13内の圧力が調整される。圧力調整装置15は、例えば、モールド6とウエハ10上の樹脂16との押し付けに際し、空間13内の圧力をその外部よりも高く設定することで、パターン部6aをウエハ10に向かい凸形に撓ませ、樹脂16に対してパターン部6aの中心部から接触させる。これにより、パターン部6aと樹脂16との間に気体(空気)が閉じ込められるのを抑え、パターン部6aの凹凸部に樹脂16を隅々まで充填させることができる。さらに、モールド保持機構3は、不図示であるが、モールドチャック11におけるモールド6の保持側に、モールド6の側面に外力または変位を与えることによりモールド6(パターン部6a)の形状を補正する倍率補正機構を有する。
【0015】
モールド駆動機構12は、モールド6とウエハ10上の樹脂16との押し付け、または引き離しを選択的に行うようにモールド6を各軸方向に移動させる。このモールド駆動機構12は、粗動型ステージ(粗動駆動系)17と、微動型ステージ(微動駆動系)18とから構成される。粗動型ステージ17は、主にZ軸方向に長距離駆動する。一方、微動型ステージ18は、粗動型ステージ17に追従し、主に6軸(X、Y、Z、ωx、ωy、ωz)方向に微小駆動する。なお、モールド駆動機構12に採用可能なアクチュエータとしては、例えばリニアモータやエアシリンダがある。また、インプリント装置1における押し付けおよび引き離し動作は、モールド6をZ軸方向に移動させることで実現してもよいが、ウエハステージ4をZ軸方向に移動させることで実現してもよく、または、その双方を相対的に移動させてもよい。
【0016】
ウエハ10は、例えば、単結晶シリコン基板やSOI(Silicon on Insulator)基板であり、この被処理面には、モールド6に形成されたパターン部6aにより成形される紫外線硬化樹脂(以下「樹脂」という)16が塗布される。
【0017】
ウエハステージ(基板保持部)4は、ウエハ10を保持し、モールド6とウエハ10上の樹脂16との押し付けに際し、モールド6と樹脂16との位置合わせを実施する。このウエハステージ4は、ウエハ10を、吸着力により保持するウエハチャック19と、このウエハチャック19を機械的手段により保持し、各軸方向に移動可能とするステージ駆動機構20とを有する。このステージ駆動機構20も、粗動型ステージ(粗動駆動系)21と、微動型ステージ(微動駆動系)22とから構成される。この場合、粗動型ステージ21は、主にXY平面内で長距離駆動する。一方、微動型ステージ22は、粗動型ステージ21に追従し、主に6軸(X、Y、Z、ωx、ωy、ωz)方向に微小駆動する。なお、ステージ駆動機構20に採用可能なアクチュエータとしては、例えばリニアモータや平面モータがある。
【0018】
塗布部は、不図示であるが、モールド保持機構3の近傍に設置され、ウエハ10上に樹脂(未硬化樹脂)16を塗布する。ここで、この樹脂16は、紫外線7を受光することにより硬化する性質を有する光硬化性樹脂(インプリント材)であり、半導体デバイス製造工程などの各種条件により適宜選択される。また、塗布部の吐出ノズルから吐出される樹脂16の量も、ウエハ10上に形成される樹脂16の所望の厚さや、形成されるパターンの密度などにより適宜決定される。なお、以下の説明で使用する「パターン形成領域(ショット)」は、便宜上、樹脂16の塗布領域と略同一面積であるものと仮定する。
【0019】
制御部5は、インプリント装置1の各構成要素の動作および調整などを制御し得る。制御部5は、例えば、コンピュータなどで構成され、インプリント装置1の各構成要素に回線を介して接続され、プログラムなどにしたがって各構成要素の制御を実行し得る。本実施形態の制御部5は、少なくともモールド保持機構3などの駆動部および圧力調整装置15の動作を制御する。なお、制御部5は、インプリント装置1の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成してもよいし、インプリント装置1の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成してもよい。
【0020】
また、インプリント装置1は、モールド保持機構3の上方、すなわち紫外線7の照射方向の上流側に、モールド6(パターン部6a)とウエハ10上の樹脂16とが接触している際の接触領域の状態を把握するための測定装置(測定部)23を備える。この測定装置23は、例えばCCDカメラなどの撮像装置であり、この場合には接触領域を画像情報として取得する。また、インプリント装置1は、不図示であるが、アライメント計測系や、モールド6を装置外部からモールド保持機構3へ搬送するモールド搬送機構、または、ウエハ10を装置外部からウエハステージ4へ搬送する基板搬送機構などを含み得る。
【0021】
次に、インプリント装置1によるインプリント処理について説明する。まず、制御部5は、基板搬送機構によりウエハステージ4上のウエハチャック19にウエハ10を載置および固定させ、ウエハステージ4を塗布部の塗布位置へ移動させる。次に、塗布部は、塗布工程として、ウエハ10の所定の被処理領域であるパターン形成領域に樹脂16を塗布する。次に、制御部5は、ウエハ10上の前記パターン形成領域がモールド6に形成されたパターン部6aの直下に位置するようにウエハステージ4を移動させる。次に、制御部5は、モールド駆動機構12を駆動させ、ウエハ10上の樹脂16にモールド6を押し付ける(押型工程)。この押し付けにより、樹脂16は、パターン部6aの凹凸部に充填される。この状態で、制御部5は、硬化工程として、光照射部2にモールド6の上面から紫外線7を照射させ、モールド6を透過した紫外線7により樹脂16を硬化させる。そして、樹脂16が硬化した後に、制御部5は、モールド駆動機構12を再駆動させ、モールド6を樹脂16から引き離す(離型工程)。これにより、ウエハ10上の前記パターン形成領域の表面には、パターン部6aの凹凸部に倣った3次元形状の樹脂16のパターン(層)が成形される。このような一連のインプリント動作をウエハステージ4の駆動によりパターン形成領域を変更しつつ複数回実施することで、1枚のウエハ10上に複数の樹脂16のパターンを成形することができる。
【0022】
特に、上記押型工程および離型工程では、制御部5は、上述のとおり圧力調整装置15によりモールド6をウエハ10に向かい凸形に変形させる(撓ませる)。ここで、比較のために、従来のインプリント装置における押し付け動作について説明する。図9は、従来のインプリント装置における押し付け動作時の状態を示す概略図である。図9(a)は、押し付け動作時に、ウエハ100上に形成されたパターン形成領域である樹脂層101からモールド102(パターン部103)を押し付ける途中の状態を示す図である。通常、モールド6を変形させながらウエハ100上の樹脂層101との押し付けを実施すると、パターン部103と樹脂層101との接触領域は、押し付け動作が進行するに従って徐々に大きくなり、最終的に樹脂層101の塗布領域の面積にまで拡がる。しかしながら、この従来のインプリント装置では、モールド102の撓み状態やパターンのレイアウトによっては、押し付け動作の途中で接触領域の図心が樹脂層101の中心からずれる可能性がある。図9(b)は、このような場合の接触領域の状態を示す平面図である。例えば、接触領域104の位置がXY平面で偏っている、すなわち接触領域104の図心105が樹脂層101の中心106からずれている場合、接触領域104の境界107と樹脂層101の端部101aとの距離が場所により異なることになる。したがって、接触領域104の境界107と樹脂層101の端部との距離が他の部分と比較して長くなる部分が発生し、押し付け時間が増大する可能性がある。そこで、本実施形態のインプリント装置1では、押し付け動作中に、接触領域の位置がXY平面で偏らないように、接触領域の図心の位置を適宜調整する。
【0023】
図2は、押型工程における図心調整前の接触領域の状態を示す概略図である。特に、図2(a)は、モールド6が変形状態にある図1に対応したインプリント装置1の状態を示す断面図であり、図2(b)は、このときのパターン部6aと樹脂(樹脂層)16との接触領域24の状態を示す平面図である。また、図3は、この押型工程におけるインプリント装置1の動作シーケンスを示すフローチャートである。まず、押型工程において、制御部5は、測定装置23により、押し付けを実施している間に渡り、接触領域24の画像情報を取得する(ステップS100)。次に、制御部5は、取得した画像情報に基づいて、接触領域24の図心25の位置(平面座標)を算出する(ステップS101)。この図心25の位置は、例えば、取得した接触領域24の面積を、多角形、円、楕円などに適宜置き換えることで算出可能である。さらに、制御部5は、図心25の算出と並行し、取得した画像情報に基づいて、ウエハ10上に塗布された樹脂16の塗布領域の面積、すなわちパターン形成領域の図心26の位置(平面座標)を算出する。なお、この図心26の算出は、押し付け動作に先立ち、予め算出しておいてもよい。ここで、本実施形態のようにパターン形成領域の全てがウエハ10上に存在する場合には、図心26は、樹脂16の塗布領域の面積の中心となる。次に、制御部5は、算出した図心25と図心26との位置を比較する(ステップS102)。次に、制御部5は、押し付け動作中には、図心25の位置が常に図心26の位置に向かう(合致する)ように、モールド駆動機構12の微動型ステージ18を駆動させる(ステップS103)。このとき、制御部5は、モールド駆動機構12の粗動型ステージ17をZ軸方向に上昇させながら、微動型ステージ18におけるモールド保持面のXY軸周りの角度ωx、ωyを変化させる。そして、制御部5は、この一連の動作を所定の頻度で繰り返し(No)、押し付け動作が終了したと判断したら、動作シーケンスを終了する(ステップS104)。
【0024】
図4は、押型工程における図心調整中の接触領域の状態を示す概略図である。特に、図4(a)は、微動型ステージ18が駆動状態にある、図2に対応したインプリント装置1の状態を示す断面図であり、図4(b)は、このときのパターン部6aと樹脂(樹脂層)16との接触領域24の状態を示す平面図である。制御部5は、例えば、図4(a)に示すように、微動型ステージ18に対して、モールド保持面のY軸周りの角度ωyを変化させることで、この微動型ステージ18にモールドチャック11を介して保持されたモールド6(パターン部6a)の姿勢を変化させる。ここで、角度ωx、ωyの変化量は、図心25と図心26とのXY平面のオフセット量に基づいて調整される。制御部5は、このように算出したオフセット量に基づいて角度を調整させることで、図4(b)に示すように図心25の位置が移動し、図心25と図心26との位置が合致する。また、制御部5は、図心25の算出タイミングを、図心26の位置制御の精度が保たれ、かつ、微動型ステージ18のモールド保持面の角度の変化量が大きくなり過ぎないように予め設定する。例えば、パターン形成領域のサイズが20×30mmで、ウエハ10上に塗布された樹脂16の液滴間距離が150μmで、また、押し付けに要する時間が0.5secであるとすると、制御部5は、図心25の算出を0.5msecごとに実行することが望ましい。制御部5は、このようなタイミングにて図心25を算出し、微動型ステージ18のモールド保持面の角度の変化量をフィードバック制御することで、図心25の位置制御の精度が維持される。
【0025】
このように、押し付け動作中に、図心25の位置が常に図心26の位置に向かうように微動型ステージ18を駆動させることで、接触領域24がXY平面にて偏った位置となることを防ぐことができる。したがって、接触領域24は、図心26から均一に拡がることになるため、結果的に、押し付け時間の増大を抑え、インプリント装置1全体のスループットの向上につながる。また、押型工程では、モールド6の撓みは、図心26から均等となるので、モールド6におけるXY軸方向での局所的な歪みの発生を抑え、オーバーレイ精度を向上させることができる。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、例えば、スループットの向上に有利なインプリント装置を提供することができる。
【0027】
なお、本実施形態では、接触領域24の図心25の位置を樹脂16の塗布領域の図心26の位置に向かうように駆動する駆動部として、モールド6側の微動型ステージ18を用いたが、ウエハ10側の微動型ステージ22を用いてもよい。この場合、ステージ駆動機構20の粗動型ステージ21と微動型ステージ22とが、上記の説明におけるモールド駆動機構12の粗動型ステージ17と微動型ステージ18とにそれぞれ対応し、動作することになる。
【0028】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るインプリント装置について説明する。図5は、本実施形態に係る押型工程における図心調整前のインプリント装置30の状態を示す概略図である。特に、図5(a)は、インプリント装置30の構成に関する状態を示す断面図である。なお、図5において、図1に示す第1実施形態に係るインプリント装置1の構成要素と同一のものには同一の符号を付し、説明を省略する。このインプリント装置30の特徴は、接触領域24の図心25の位置を樹脂16の塗布領域の図心26の位置に向かうように駆動する駆動部として、吸着面にて複数の吸着溝31を有するモールドチャック32を用いる点にある。この場合、第1実施形態のモールド駆動機構12に対応する本実施形態のモールド駆動機構33は、粗動型ステージと微動型ステージとの2つの駆動系を有するものではなく、少なくともZ軸方向に駆動可能とする単一型の駆動機構であってもよい。同様に、第1実施形態のステージ駆動機構20に対応する本実施形態のステージ駆動機構34も、粗動型ステージと微動型ステージとの2つの駆動系を有するものではなく、少なくともXY軸方向に駆動可能とする単一型の駆動機構であってもよい。
【0029】
図5(b)は、モールド6側から見たモールドチャック32の構成、およびこの場合の吸着状態を示す平面図である。このモールドチャック32は、吸着面35のXY平面内の四方の領域(第1領域35a〜第4領域35d)のそれぞれに、一例として、内側から外側に向けて平行に配列された3つの吸着溝31を有する。これらの吸着溝31は、X軸方向の第1領域35aに配置される第1吸着溝31a〜第3吸着溝31c、および第1領域35aに対向する第2領域35bに配置される第4吸着溝31d〜第6吸着溝31fを含む。さらに、吸着溝31は、Y軸方向の第3領域35cに配置される第7吸着溝31g〜第9吸着溝31i、および第3領域35cに対向する第4領域35dに配置される第10吸着溝31j〜第12吸着溝31lを含む。これらの各吸着溝31は、それぞれ切り替え機構を介して真空ポンプ36に接続され、モールド6を吸着保持する際に、制御部5によりそれぞれ独立して吸着のON/OFFが切り替えられる。ここで、図5に示す例では、制御部5は、X軸方向の第1吸着溝31aと、この第1吸着溝31aに対向する第4吸着溝31dとの2つの吸着溝31の吸着をONとしている。なお、図中では、説明上、この吸着がONとなっている吸着溝31を黒塗りで示している。
【0030】
一方、図6は、本実施形態に係る押型工程における図心調整中のインプリント装置30の状態を示す概略図である。特に、図6(a)は、図5(a)に対応し、同様に、図6(b)は、図5(b)に対応している。第1実施形態では、制御部5は、図3に示す動作シーケンスにおけるステップS103にて、モールド駆動機構12の微動型ステージ18を駆動させることで、図心25の位置が常に図心26の位置に向かうように制御する。これに対して、本実施形態では、制御部5は、モールドチャック32の複数の吸着溝31において、吸着をONとする部分を切り替えることで、図心25の位置が常に図心26の位置に向かうように制御する。例えば、図6に示す例では、制御部5は、図5に示す吸着状態から、第1吸着溝31aでの吸着をそのままONとし、一方、第4吸着溝31dでの吸着をOFFとして、その外側に隣設する第5吸着溝31eでの吸着をONとするような吸着状態に変更する。このとき、吸着溝31の選択は、接触領域24の図心25と図心26とのXY平面のオフセット量に基づいて調整される。このように複数の吸着溝31の吸着動作をそれぞれ切り替えることで、モールド6の撓み形状が変化するのでパターン部6aの姿勢が変わり、結果的に接触領域24の図心25の位置を押し付け動作中に移動させることができる。これにより、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0031】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るインプリント装置について説明する。図7は、本実施形態に係る押型工程における図心調整前および図心調整中のインプリント装置40の状態を示す概略図である。特に、図7(a)は、図心調整前のインプリント装置40の状態を示す断面図である。なお、図7において、図1に示す第1実施形態に係るインプリント装置1の構成要素と同一のものには同一の符号を付し、説明を省略する。このインプリント装置40の特徴は、接触領域24の図心25の位置を樹脂16の塗布領域の図心26の位置に向かうように駆動する駆動部として、モールド41をモールドチャック42に吸着保持させたままXY軸方向に移動させる移動機構43を有する点にある。なお、この場合も、第1実施形態のモールド駆動機構12に対応する本実施形態のモールド駆動機構44は、粗動型ステージと微動型ステージとの2つの駆動系を有するものではなく、少なくともZ軸方向に駆動可能とする単一型の駆動機構であってもよい。同様に、第1実施形態のステージ駆動機構20に対応する本実施形態のステージ駆動機構45も、粗動型ステージと微動型ステージとの2つの駆動系を有するものではなく、少なくともXY軸方向に駆動可能とする単一型の駆動機構であってもよい。
【0032】
まず、本実施形態のモールド41の形状は、上記実施形態のモールド6の形状と比較して、外形およびパターン部41aの形状について同様であるが、モールドチャック42に対する吸着面を含む外周部の形状が異なる。すなわち、モールド41の中央部は、ウエハ10に向かい凸形に変形しやすいように薄く、その外周部は、より厚みのある壁部41bで形成されている。結果的に、モールド41の形状は、紫外線7の照射面の中央部に、平面形状が円形で、かつ、ある程度の深さを有するキャビティ(凹部)が形成された形状となる。これに対して、移動機構43は、例えばモールド駆動機構44に設置され、四方の壁部41bの壁面に対して独立して外圧を与えることで、XY軸方向にモールド41を移動させる。この移動機構43としては、例えば、図7(a)に示すように、壁部41bの内側と外側とにそれぞれ接触する、対となる突き当て棒46(46a、46b)を備え、内部に設置されるアクチュエータにより各突き当て棒46をXY軸方向に駆動する構成があり得る。
【0033】
一方、図7(b)は、図心調整中のインプリント装置40の状態を示す断面図である。本実施形態では、制御部5は、移動機構43による四方の突き当て棒46の押し出し量を適宜調整することで、図心25の位置が常に図心26の位置に向かうように制御する。例えば、図7に示す例では、制御部5は、図7(a)に示す突き当て棒46の状態から、X軸方向において、一方の側の突き当て棒46の状態をそのままとし、他方の側の突き当て棒46の状態を、壁部41bが内側に向かうように押し出す状態に変更する。このとき、突き当て棒46の押し出し量は、接触領域24の図心25と図心26とのXY平面のオフセット量に基づいて調整される。このように移動機構43による外圧の付加によりモールド41の撓み形状が変化するので、パターン部41aの姿勢が変わり、結果的に接触領域24の図心25の位置を押し付け動作中に移動させることができる。これにより、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0034】
なお、押し付け動作の完了後に、モールド6がモールドチャック42に対してXY軸方向にずれたままである場合には、制御部5は、移動機構43により再度モールド6を移動させて元の状態へと戻す。その後、制御部5は、押し付け動作の前に、モールド6とウエハ10とのXY軸方向の相対位置の計測を行っている場合には、移動機構43よりその計測結果に基づいてモールド6を移動させる(位置合わせを実行する)。一方、制御部5は、押し付け動作の完了後に、モールド6とウエハ10とのXY軸方向の相対位置の計測を行う場合には、移動機構43よりその時点で計測結果に基づいてモールド6を移動させる。このように、硬化工程の前に、予めモールド6のXY軸方向のずれを補正することで、ウエハ10に対するパターンの形成位置の所望の位置からのずれを抑えることができる。
【0035】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係るインプリント装置について説明する。上記実施形態では、被処理領域であるパターン形成領域が、完全にウエハ10上に存在する場合について説明したが、本実施形態では、このパターン形成領域がウエハ10の端部に存在する場合について説明する。ここで、「パターン形成領域がウエハ10の端部に存在する場合」とは、この場合の押し付け位置がウエハ10の端部の一部にかかる場合をいう。図8は、ウエハ10上の端部に存在するパターン形成領域50に対して押し付け動作を実施する場合の接触領域51の状態を示す平面図である。特に、図8(a)は、図心調整前の接触領域51の状態を示す図であり、一方、図8(b)は、図心調整前の接触領域51の状態を示す図である。まず、ウエハ10の端部にて押し付け動作を開始すると、接触領域51は、初期段階ではパターン部6aの中央付近に存在するが、押し付け動作が進行するに従いパターン形成領域(樹脂の塗布領域)50の形状に合わせて徐々に移動しつつ大きくなる。そして、最終段階では、接触領域51は、パターン形成領域50の全体に拡がる。このパターン形成領域50の形状は、図8(a)に示す例に限らず、ウエハ10の端部の場所によりそれぞれ異なる。そこで、制御部5は、押し付け動作中に、まず、第1実施形態に係る図3のステップS101と同様に、測定装置23により取得した画像情報に基づいて、接触領域51の図心52の位置を算出する。さらに、本実施形態では、制御部5は、測定装置23により取得した画像情報に基づいて、ウエハ10上の端部に存在するパターン形成領域50の図心53の位置も算出する。そして、制御部5は、図3のステップS102以下と同様に、算出した図心52と図心53との位置を比較し、図8(b)に示すように図心52の位置が常に図心53の位置に向かうように図心調整を実行する。本実施形態によれば、パターン形成領域がウエハ10の端部に存在している場合でも、接触領域51がパターン形成領域50の図心53から均一に拡がることになるので、押し付け時間の増大を抑え、インプリント装置全体のスループットの向上に有利となる。
【0036】
(物品の製造方法)
物品としてのデバイス(半導体集積回路素子、液晶表示素子等)の製造方法は、上述したインプリント装置を用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板)にパターンを形成する工程を含む。さらに、該製造方法は、パターンを形成された基板をエッチングする工程を含み得る。なお、パターンドメディア(記録媒体)や光学素子などの他の物品を製造する場合には、該製造方法は、エッチングの代わりにパターンを形成された基板を加工する他の処理を含み得る。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0037】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 インプリント装置
3 モールド保持機構
4 ウエハステージ
5 制御部
6 モールド
10 ウエハ
11 モールドチャック
15 圧力調整装置
16 樹脂
18 微動型ステージ
23 測定装置
24 接触領域
25 図心
26 図心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の未硬化樹脂を型により成形して硬化させて、前記基板上に硬化した樹脂のパターンを形成するインプリント装置であって、
前記型を引き付けて保持する保持機構を有する型保持部と、
前記基板を保持する基板保持部と、
前記保持機構に保持された状態の前記型を、該型に接する空間の圧力を調整することで前記基板に向かい凸形に変形させる圧力調整部と、
前記凸形に変形した前記型と、前記未硬化樹脂との押し付け動作中に、前記型の姿勢を変化させることで前記型と前記未硬化樹脂とが接触する接触領域の位置を移動可能とする駆動部と、
前記接触領域の状態を示す画像情報を取得する測定部と、
前記画像情報に基づいて前記接触領域の図心の平面座標を算出し、該図心の平面座標の位置が、前記画像情報に基づいて算出した、または予め取得した前記基板上のパターン形成領域の図心の平面座標の位置に向かうように前記駆動部の動作を制御する制御部と、
を有することを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記型と前記未硬化樹脂との押し付け位置が前記基板の端部にかかる場合には、前記接触領域の図心の平面座標の算出と並行して前記パターン形成領域の図心の平面座標の算出を実行することを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記駆動部は、前記型保持部に設置され、前記基板の平面に対する前記保持機構での前記型の保持面の角度を変化させる駆動系であることを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記駆動部は、前記基板保持部に設置され、前記型の面に対する前記基板保持部での前記基板の保持面の角度を変化させる駆動系であることを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記駆動部は、前記型を吸着する複数の吸着溝と、該複数の吸着溝のそれぞれの吸着を独立して切り替え可能とする切り替え機構とを含む前記保持機構であることを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記駆動部は、前記保持機構に保持されつつ前記基板に向かい凸形に変形した状態の前記型を、前記基板の平面に対して平行に移動させる移動機構であることを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記押し付け動作の完了後に、平行に移動した状態を前記移動機構により元に戻させることを特徴とする請求項6に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記押し付け動作の前の前記型と前記基板との相対位置の計測結果に基づいて位置合わせを実行することを特徴とする請求項7に記載のインプリント装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記押し付け動作の完了後の前記型と前記基板との相対位置の計測結果に基づいて位置合わせを実行することを特徴とする請求項7に記載のインプリント装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて基板上に樹脂のパターンを形成する工程と、
前記工程で前記パターンを形成された基板を加工する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−58517(P2013−58517A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194584(P2011−194584)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】