説明

ウィルスのような様々な標的と結合するためのインプリントされた重合体物質

テンプレートと選択的に結合するインプリントされた重合体物質。微生物(例えばウィルス若しくはバクテリア)又は生体高分子(例えばタンパク質若しくはDNA)を含む様々な種類のテンプレートを、インプリントされた重合体物質の標的としうる。インプリントされた重合体物質を、テンプレートと相互作用するモノマー単位を使用する、テンプレート指向的合成法によって形成しうる。テンプレートの周囲にポリマーマトリクスを形成させるために、モノマー単位を使用する。ポリ両性電解質ポリマーを含有する、架橋されたポリマーマトリクスを含有するインプリントされた重合体物質もまた開示される。ポリマーマトリクスは、テンプレートと選択的に結合することができる結合キャビティーを有する。かかるインプリントされた重合体物質の様々な使用もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子レベルでインプリントされた重合体物質に関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルスを分離及び/又は精製する能力は、医学、公衆衛生及びバイオテクノロジーにおいて非常に多くの潜在的利点を有する。例えば、ワクチンを製造する方法は、未加工の調製物(例えば、感染鶏卵又は細胞培養液から回収されたウィルス)からのウィルスの分離及び精製を含む。実際、この分離及び精製工程は、ワクチンの製造における製造コストのかなりの割合を占めかねない。多くの場合、ウィルスの精製は、ワクチン製造における使用に好適なウィルス調製物を得るために順次実施される抽出、沈殿、遠心分離、懸濁、超遠心分離、及び再懸濁の工程を含む、多段階の工程を含む(これには数日を要し得る)。それ故、ウィルスを分離及び精製するためのより効率的な技術により、ワクチン製造に要するコストと時間を削減することができるだろう。
【0003】
別の例として、HIVウィルスに感染した患者において、ウィルス負荷を減少することは、治療の重要な一態様である。従来法においては、ウィルス負荷を減少させるために、抗ウィルス薬がHIV感染患者に投与される。しかしながら、かかる抗ウィルス薬の多くは、重大かつ有害な副作用を有する。したがって、患者の血流からウィルスを分離及び抽出する能力は、HIV感染に対する治療の代替様式を提供することができるだろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様において、本発明は、テンプレート(template article)と選択的に結合することができる結合キャビティー(binding cavity)を有する架橋されたポリマーマトリクスからなるインプリントされた(imprinted)重合体物質であって、該ポリマーマトリクスがポリ両性電解質ポリマーからなる前記重合体物質を提供する。
【0005】
別の態様において、本発明は、(a)水溶液中のテンプレートを提供(供給又は準備)する;(b)第1のモノマー単位を該水溶液に加える(ここで第1のモノマー単位は該水溶液中で静電的電荷を示す);(c)第2のモノマー単位を該水溶液に加える(ここで第2のモノマー単位は第1のモノマー単位とは異なる);(d)テンプレートを含有するポリマーマトリクスを形成させる(ここで該ポリマーマトリクスを形成させる工程は、モノマー単位を重合させることを含む);及び(e)テンプレートをポリマーマトリクスから除去する;工程を含む、インプリントされた重合体物質を形成させる方法を提供する。いくつかの場合において、前記方法は、第3のモノマー単位を前記水溶液に加える(ここで第3のモノマー単位は第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位とは異なる)工程をさらに含む。
【0006】
他の態様において、本発明はインプリントされた重合体物質の様々な使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】図1A〜図1Fは、本発明の一実施形態に係るインプリントされた重合体物質を作製するためのテンプレート指向的合成法のスキームを示す図である。
【図1B】図1A〜図1Fは、本発明の一実施形態に係るインプリントされた重合体物質を作製するためのテンプレート指向的合成法のスキームを示す図である。
【図1C】図1A〜図1Fは、本発明の一実施形態に係るインプリントされた重合体物質を作製するためのテンプレート指向的合成法のスキームを示す図である。
【図1D】図1A〜図1Fは、本発明の一実施形態に係るインプリントされた重合体物質を作製するためのテンプレート指向的合成法のスキームを示す図である。
【図1E】図1A〜図1Fは、本発明の一実施形態に係るインプリントされた重合体物質を作製するためのテンプレート指向的合成法のスキームを示す図である。
【図1F】図1A〜図1Fは、本発明の一実施形態に係るインプリントされた重合体物質を作製するためのテンプレート指向的合成法のスキームを示す図である。
【図2】別の実施形態に係る、ウィルスカプシドタンパク質を含有する結合キャビティーを有するポリマーマトリクスを示す図である。
【図3】図3A及び図3Bは、さらに別の実施形態に係るクロマトグラフィーカラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、テンプレートと選択的に結合するようにデザインされているインプリントされた重合体物質を提供する。微生物(例えばウィルス若しくはバクテリア)又は生体高分子(例えばタンパク質若しくはDNA)を含む様々な種類のテンプレートが、インプリントされた重合体物質により標的とされうる。
【0009】
一態様において、本発明は、テンプレート指向的合成法(template-directed synthesis)によって、かかるインプリントされた重合体物質を形成させる方法を提供する。当該方法は、水溶液(例えばバッファー溶液)中のテンプレートを、該テンプレートの官能基と相互作用するモノマー単位と混合することを含む。前記モノマー単位は、イオン結合、親水的/疎水的相互作用、立体的相互作用、静電的相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、金属配位、又は他の相互作用を含む様々な結合タイプのいずれかを介してテンプレートと相互作用しうる。いくつかの場合において、モノマー単位は、アミン、ヒドロキシル、カルボキシル、スルフヒドリル、金属キレート、及びこれらの任意の組み合わせ(例えばジカルボキシレート、ジアミン等)のような官能基を始めとして、この相互作用に関与する官能基を有しうる。
【0010】
ある実施形態において、モノマー単位は水溶液中で静電的電荷を示すことができる。いくつかの場合において、モノマー単位は、適切なpH条件下で、それぞれ負又は正の静電的電荷を示す酸性又は塩基性であってよい。酸性/塩基性モノマー単位は、様々なレベルの酸性度/塩基性度を有しうるが、これは該モノマー単位がその水溶液のpHレベルで、アニオン性/カチオン性の形態で存在する程度を決定する。酸性モノマー単位に関して、該モノマー単位は強酸(負電荷を示す能力はほぼpH非依存的である)、又は弱酸(負電荷を示す能力はpH依存的である)であってよい。塩基性モノマー単位に関して、該モノマー単位は強塩基(正電荷を示す能力はほぼpH非依存的である)、又は弱塩基(正電荷を示す能力はpH依存的である)であってよい。
【0011】
強酸であるモノマー単位の例としては、2-アクリルアミドプロピル-2-メチルプロパンスルホン酸 (AMPSA)のような、リン酸基又はスルホン酸基を有するものがある。弱酸であるモノマー単位の例としては、アクリル酸、マレイン酸、2-アミノメタクリレート塩酸塩 (AMA)、及び2-ジメチルアミノエチルメタクリレート (DMAEMA)のような、カルボキシル基を有するものがある。強塩基であるモノマー単位の例としては、3-アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド (AMPTAC)のような、アンモニウム基を有するものがある。弱塩基であるモノマー単位の例としては、3-N-アミノプロピルメタクリルアミド及びジメチルアミノエチルメタクリレートのような、アミノ基を有するものがある。モノマー単位はまた、溶液中で静電的電荷を示さない中性モノマーであってもよい。かかるモノマーの例としては、アクリルアミド (Am)、N-tert-ブチルアクリルアミド (NTBAAm)、N-イソプロピルアクリルアミド (NIPAAm)及びN,N'-ジメチルアクリルアミド (DMAAm)がある。
【0012】
モノマー単位はまた、テンプレートと相互作用する能力を決定する親水性/疎水性又は空間的構造のような他の性質も有しうる。それ故、モノマー単位を、これらの様々な性質に基づいて、テンプレートとの有利な相互作用のために選択することができる。例えば、水溶液中で正の電荷を示す親水性モノマー単位を、親水性で、かつ負に帯電しているテンプレートの一部分と(それぞれ親水的相互作用を介して、また静電引力を介して)有利に相互作用することができる能力によって選択することができる。
【0013】
テンプレート及びモノマー単位を含有する水溶液のpHレベルは、個々の場合により様々な値をとることができる。テンプレートの電荷及びモノマー単位の電荷担持能力は、(特に弱酸又は弱塩基である官能基を有するモノマー単位については)水溶液のpHレベルによって様々な値をとることができるので、テンプレート及び/又はモノマー単位における所望の正電荷特性を達成するために、pHレベルを調節することができる。
【0014】
ある実施形態において、1つ以上の異なる種類のモノマー単位を組み合わせて使用しうる。例えば、酸性モノマー単位、塩基性モノマー単位、及び中性モノマー単位を組み合わせて使用しうる。この特徴は、溶液中でしばしば異なる電荷の混合状態を示す生体物質(例えば、ウィルスのような微生物、又はタンパク質のような高分子)を結合させるためのインプリントされた重合体物質を合成するときに有用となりうる。この場合、酸性モノマー単位(溶液中でアニオン性の形態で存在している)は、正の静電的電荷を示すテンプレートの一部分と相互作用し;塩基性モノマー単位(溶液中でカチオン性の形態で存在している)は、負の静電的電荷を示すテンプレートの一部分と相互作用し;中性モノマー単位は、電荷を有しないテンプレートの一部分と相互作用しうる。
【0015】
さらに、いくつかの場合において、それぞれ異なる種類のモノマー単位のモル比は、溶液中のテンプレートの電荷比と実質的に相補的であってよい。多くのウィルスについて、ウィルスカプシド又は外被タンパク質のアミノ酸構造は公知である。したがって、ウィルスカプシド又は外被タンパク質の中性、負、及び正の電荷比を(所定のpHに対して)決定し、ウィルスカプシドタンパク質のこの電荷比と実質的に相補的なモル比で、異なるモノマー単位を提供することができる。また、他の多くの種類のタンパク質のアミノ酸構造も公知であるから、該タンパク質の中性、負及び正の電荷比を(所定のpHに対して)決定し、該タンパク質のこの電荷比と実質的に相補的なモル比で、異なるモノマー単位を提供することができる。
【0016】
異なる種類のモノマー単位を組み合わせて用いる場合、異なるモノマー単位を、同時に又は連続的に、テンプレートとともに混合しうる。異なるモノマー単位の連続的な添加は、モノマー単位とテンプレートとの相互作用を妨害し得る異なるモノマー単位間(例えば、反対の電荷を有するモノマー単位間)の相互作用を避けるために有用となりうる。
【0017】
テンプレートの異なる部分との相互作用により、モノマー単位は該テンプレートの周囲に分布する。ひとたびこのように配置されると、重合(異なるモノマー単位が関与する場合には共重合も包含される)や、またある場合には、結果として得られたポリマーのさらなる架橋によって、該モノマー単位は所定の位置に固定される。化学的方法(例えば、フリーラジカル開始剤及び/又は触媒を用いる方法)、光化学的方法(例えば、UV照射に曝露する方法)、又は電気化学的方法を含む当業界で公知の様々な技術のいずれかを用いることにより、モノマー単位の重合を達成することができる。同様に、溶液への架橋剤の添加を含む当業界で公知の様々な技術のいずれかを用いることにより、架橋を達成することができる。ある場合には、重合開始剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)を、触媒としてN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン (TEMED)を添加することによって、重合を実施しうる。ある場合には、架橋剤は二官能性モノマーのN,N'-メチレンビスアクリルアミド (BIS)、エピクロロヒドリン (EPI)、又はエチレングリコールジグリシジルエーテル (EDGE)である。重合及び架橋は同時に、又は任意の順序で連続的に実施しうる。したがって、重合開始剤、触媒、及び/又は架橋剤を、同時に、又は任意の順序で連続的に、溶液に加えうる。
【0018】
異なる電荷特性を有するモノマー単位の組み合わせを用いる場合、結果として得られるポリマーはポリ両性電解質ポリマーとなりうる。本明細書において、「ポリ両性電解質ポリマー」は、適切なpH条件下で、ポリマーが正及び負の電荷の両方を有するように、(中性モノマー単位だけでなく)酸性及び塩基性官能基の両方を有する荷電したポリマーを意味する。したがって、上記で説明したように、ポリ両性電解質ポリマーは、溶液中で異なる電荷の混合状態を示すテンプレート(例えば、ウィルスのような微生物、又はタンパク質のような高分子を含む生体物質)と相互作用させるのに有用となりうる。また、上記で説明したように、ポリ両性電解質ポリマーのそれぞれの種類の電荷(正、負又は中性)の比は、溶液中のテンプレートの電荷比と実質的に相補的でありうる。
【0019】
モノマー単位の重合(及びある場合には架橋)により、ポリマーマトリクスがテンプレートの周囲に形成される。結果として、テンプレートの周囲のポリマーマトリクスは、テンプレートの相補的な官能基と整列する位置に配置されている官能基を有する。テンプレートはその後、溶媒洗浄(例えば、酸、塩基、界面活性剤、バッファー、若しくはイオン性溶液による洗浄)又は化学的切断を含む様々な抽出技術のいずれかを用いてポリマーマトリクスから除去される。
【0020】
例えば、図1A〜図1Fは、テンプレート指向的合成法によりインプリントされた重合体物質を形成するための本発明の一実施形態を示す。図1Aに示すように、ウィルス10はカプシドタンパク質14で覆われたウィルスカプシド20を有する。それぞれのカプシドタンパク質14は多数の異なる官能基を有することができるが、単純化するために、それぞれのカプシドタンパク質14に対して単一の官能基(22、24又は26)のみを示す。それぞれの官能基22、24及び26は、異なる電気化学的特性を有する(図では、異なる形状によって概念的に表されている)。ウィルス10は、官能基22が負の電荷を有し、官能基24が正の電荷を有し、かつ官能基26が電荷を有さない(中性である)ようなpHレベルを有する水溶液中に提供される。
【0021】
ウィルス10と相互作用させるために、3種類の異なるモノマー単位、すなわち当該水溶液のpHで正の電荷を示す塩基性モノマー単位30;当該水溶液のpHで負の電荷を示す酸性モノマー単位34;及び電荷を有しない中性モノマー単位32が提供される。ウィルスカプシドタンパク質14のアミノ酸構造が公知であれば、(当該水溶液のpHにおける)ウィルスカプシドタンパク質14の中性、負及び正の電荷比を決定することができる。したがって、ウィルスカプシドタンパク質14のこの電荷比と相補的となるように、異なるモノマー単位のモル比を選択することができる。例えば、ウィルスカプシドタンパク質14が5(中性):3(正):2(負)の電荷比を有すると決定される場合には、モノマー単位のモル比は5(中性):3(負):2(正)となりうる。
【0022】
図1Bに示すように、正に帯電している(塩基性の)モノマー単位30を、ウィルス10を含有する溶液に加える。すると、正に帯電しているモノマー単位30は、ウィルスカプシドタンパク質14の負に帯電している官能基22と結合する。次に、図1Cに示すように、中性モノマー単位32を溶液混合物に加える。すると、中性モノマー単位32は、ウィルスカプシドタンパク質14の中性官能基24と結合する。次に、図1Dに示すように、負に帯電している(酸性の)モノマー単位34を溶液混合物に加える。すると、負に帯電しているモノマー単位34は、ウィルスカプシドタンパク質14の正に帯電している官能基26と結合する。結果として、モノマー単位30、32及び34は、ウィルス10のカプシド20の電荷の分布と相補的になるようにウィルス10の周囲に配置される。
【0023】
次いで、図1Eに示すように、重合開始剤及び架橋剤39を溶液混合物に加える。重合開始剤は、(共有結合38を介する)モノマー単位の重合を引き起こし、ポリ両性電解質ポリマー鎖を形成させる。架橋剤39は、(一本のポリマー鎖を内的に、他のポリマー鎖との間を外的に、又はその両方で)ポリマー鎖を架橋することに役立つ。
【0024】
重合及び架橋の後、溶媒洗浄によりウィルス10を除去する。結果として、図1Fに示すように、架橋されているポリマーマトリクス12を有するインプリントされた重合体物質が形成される。ポリマーマトリクス12は、(今やウィルス10により空席となった)キャビティー18を有する。キャビティー18は、ウィルス10の幾何学的形態と相補的な幾何学的形態(大きさ及び形状など)を有する。また、ポリマーマトリクスは、キャビティー18の周囲に配置されており、ウィルス10の官能基と相補的に配列されている官能基を有する。それ故、結果として得られるインプリントされた重合体物質は、ウィルス10と選択的かつ可逆的に結合することができる。
【0025】
別の態様において、本発明の一実施形態は、テンプレートと選択的に結合することができる結合キャビティーを有する架橋されたポリマーマトリクスを含み、この架橋されたポリマーマトリクスがポリ両性電解質ポリマーを含む、インプリントされた重合体物質を提供する。このインプリントされた重合体物質は、上記で述べた技術を含む様々な技術のいずれかを用いて合成しうる。
【0026】
結合キャビティーは、テンプレートと相補的な幾何学的形態(大きさ及び形状など)を有することができる。結合キャビティーの形状は、テンプレートに応じて様々である。例えば、ウィルスは、球状、二十面体状、又は棒状を含む様々な形状を有することが知られている。したがって、テンプレートがウィルスである場合には、結合キャビティーの形状を球状、二十面体状、又は棒状とすることができる。結合キャビティーの大きさもまた、テンプレートに応じて様々である。ある場合には、結合キャビティーの大きさ(最長の軸に沿って測定される大きさ)は、1 nm〜1 μmの範囲であることができる。ある場合には、結合キャビティーの大きさ(最長の軸に沿って測定される大きさ)は、10 nm〜500 nmの範囲であることができ、この範囲の大きさを有する結合キャビティーは、通常同様にこの範囲の大きさを有するウィルスを選択的に結合するのに有用となりうる。結合キャビティーは、ポリマーマトリクスの内部(例えば、ポリマーマトリクスの内部に完全に内包される)、又はポリマーマトリクスの表面(例えば、ポリマーマトリクスによって部分的に包囲される)を含む様々な位置のいずれかでポリマーマトリクス内に含有されうる。
【0027】
結合キャビティーの周囲のポリマーマトリクスは、テンプレートの相補的な官能基と整列することができる位置に配置された官能基を有する。ポリマーマトリクス上の官能基は、イオン的、親水的/疎水的、立体的、静電的、水素結合、又は他の種類の相互作用を含む様々なメカニズムを介してテンプレートと相互作用、配位、その他で結合することができる。例えば、図2は、結合キャビティー42を有するポリマーマトリクス40を示す。(ウィルス上の)ウィルスカプシドタンパク質50は結合キャビティー42の中に入り込んでいる。結合キャビティー42は、ウィルスカプシドタンパク質50の幾何学的形態と相補的な幾何学的形態を有する。さらに、ポリマーマトリクス40の負に荷電したカルボキシル基44は、ウィルスカプシドタンパク質50の正に荷電したアミン基54と整列する位置で結合キャビティー42の周囲に位置している。
【0028】
上記で説明したように、ポリ両性電解質ポリマーは、その構成成分モノマーとして、強酸、弱酸、強塩基、弱塩基、又は中性の分子の様々な組み合わせのいずれかを有しうる。したがって、ポリ両性電解質ポリマーの組成は、テンプレートとの相互作用を最適化するように選択することができる。例えば、テンプレートがウィルスの場合、(所定のpHにおける)溶液中のテンプレートの電荷の比と実質的に相補的な比で電荷(正、負、及び中性)の混合状態を示すようにポリ両性電解質ポリマーをデザインすることができる。ある場合には、架橋されたポリマーマトリクスはポリ両性電解質ポリマーを含むので、重合体物質はハイドロゲルであって良い。かかる場合において、結合キャビティーは、ポリマーマトリクスの水膨潤にもかかわらずその選択的な結合能力を保持するように十分に強固でありうる。この性質は、ポリ両性電解質ポリマーの適切な組成、又は重合体物質の作製に使用される反応条件(例えば、架橋の量及び種類)を選択することによって達成されうる。
【0029】
インプリントされた重合体物質は、テンプレートに対して様々な結合能力を有することができる。例えば、インプリントされた重合体物質のテンプレートに対する結合能力は、テンプレートと選択的に結合することのできる結合キャビティーを欠く架橋されたポリ両性電解質ポリマーマトリクスを有する対照の重合体物質(すなわち、テンプレートの非存在下で合成される「ブランク」の重合体物質)の結合能力より、少なくとも2倍高く、ある場合には少なくとも4倍高く、またある場合には少なくとも6倍高い能力でありうる。
【0030】
用語「選択的な結合」は、インプリントされた重合体物質によって示される、異なる幾何学的構造を有する非テンプレートと比べて、テンプレートに対して優先的に結合することを意味する。テンプレートがウィルスである場合、インプリントされた重合体物質は、異なる幾何学的構造(大きさ及び形状など)を有する別のウィルスと比べて、標的ウィルスと優先的に結合する。例えば、テンプレートがタバコモザイクウィルス(TMV)である場合、インプリントされた重合体物質は、異なる幾何学的構造を有するタバコネクロシスウィルス(TNV)と比べて、優先的にTMVと結合する。別の例において、テンプレートがタンパク質である場合、インプリントされた重合体物質は、異なるアミノ酸配列及び三次構造を有する別の種類のタンパク質と比べて、標的タンパク質と優先的に結合する。選択的な結合には、テンプレートに対するインプリントされた重合体物質の親和性及び特異性の両方が含まれる。
【0031】
インプリントされた重合体物質は、テンプレートに対する様々な程度の結合選択性を有しうる。結合選択性を測定する一つの方法は、異なる幾何学的構造を有する非テンプレートに対する結合能力と比べた、テンプレートに対するインプリントされた重合体物質の結合能力の違いである。したがって、テンプレートがウィルスである場合、異なる幾何学的構造を有する別のウィルスと比べた、標的ウィルスに対するインプリントされた重合体物質の結合能力の違いによって、結合選択性を測定することができる。例えば、インプリントされた重合体物質は、異なる幾何学的構造を有する別のウィルスに対する結合能力より、少なくとも2倍高く、ある場合には少なくとも4倍高く、またある場合には少なくとも6倍高い標的ウィルスに対する結合能力を有しうる。
【0032】
本発明のインプリントされた重合体物質は、様々な用途を有しうる。かかる用途には、テンプレートの分離/精製、又は試料中のテンプレートの感知/検出(例えば、医学的診断における)が含まれる。したがって、他の態様において、本発明は、インプリントされた重合体物質の様々な可能な用途を提供する。
【0033】
ある実施形態において、インプリントされた重合体物質を、タンパク質又はウィルスのような生体材料の分離及び/又は精製に使用しうる。例えば、図3A及び図3Bに示す実施形態のように、ウィルスの精製に使用するために、インプリントされた重合体物質はクロマトグラフィーカラムの中に充填される。図3Aのように、吸収剤ビーズ60は、ポリスチレンコア62(又は通常クロマトグラフィーカラムに使用される他の基材)を有しており、インプリントされた重合体物質が樹脂層64としてポリスチレンコア62の表面に付与される。複数のビーズ60が、入口72及び出口74を有するクロマトグラフィーカラム70の中に充填される。標的ウィルスを含有する細胞又は組織抽出物を、入口72を介してクロマトグラフィーカラム70に注入する。この設定において、ビーズ60上のインプリントされた重合体物質は、クロマトグラフィーカラムの中で標的ウィルスに対する吸収剤として働く。したがって、インプリントされた重合体物質は、抽出物中の他の細胞又は組織成分を排除して、標的ウィルスと優先的に結合する。適切なバッファー溶液で洗浄することによって、残余の細胞又は組織成分をクロマトグラフィーカラム70から洗浄除去し、ビーズ60を被覆しているインプリントされた重合体物質に吸収された所望の標的ウィルスを残す。その後、上記の洗浄バッファーとは異なるpH又はイオン強度を有する第2のバッファーでクロマトグラフィーカラム70を洗浄することによって、標的ウィルスを溶出させることができる。精製されたウィルスを含有する溶出溶液78を、フラスコ76の中に回収することができる。
【0034】
特に、この方法を用いるウィルスの精製は、他の従来のウィルス精製技術において必要とされる多くのステップを省くことができる。実際、いくつかの場合において、本発明の方法を用いることで、(他のウィルス精製技術が必要とする数日間に対して)およそ数時間でウィルス精製を実施しうる。精製されたウィルス調製物は、多くの可能な用途を有する。例えば、遺伝子治療又はワクチン製造のようないくつかの用途は、しばしば大スケール量の精製ウィルスを必要とする。したがって、ウィルス精製の本方法は、ワクチン製造のために必要とされる時間及び費用を削減するのに有利となりうる。
【0035】
いくつかの実施形態において、インプリントされた重合体物質を、血液濾過、血液透析、透析、血液透析濾過、血漿分離交換、又はアフェレーシスのような、様々な血液処理に使用することができる。ある場合において、インプリントされた重合体物質を、通常の様々な治療用血液処理システムに使用されるカートリッジの中へ(例えば、フィルター又は透析膜として)充填しうる。例えば、インプリントされた重合体物質を、患者の血液/血漿中のウィルスを吸収及び除去するために、血液濾過装置に使用するための血液/血漿フィルターカートリッジに充填しうる。かかる処理を、HIVのようなウィルスに感染している患者のウィルス負荷を減少させるために使用することができる。
【0036】
上記で述べたように、様々な種類のテンプレートを本発明に使用しうる。テンプレートのさらなる例は、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、酵素、抗体、糖、ペプチド、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、全細胞、及びウィルスのような生体成分を含む。ウィルスの例は、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、HIV、インフルエンザ、パルボウィルスB19、口蹄疫ウィルス、バキュロウィルス、ヒトパピローマウィルス及び水痘帯状疱疹ウィルスを含む。
【0037】
単数形態による構成要素についての言及は、1個以上の構成要素が存在する可能性を排除するものではない。むしろ、単数形態の用語は、その文章が明示的にそうでないことを示していなければ、1個又はそれ以上(あるいは、少なくとも1個)を意味することを意図している。用語「第1」、「第2」等は、それらがある構成要素について言及するものである場合、該構成要素の位置又は順序を示唆することを意図してはいない。むしろ、前記用語は、説明を容易にし、かつ構成要素を互いに区別するための標識として使用されている。
【0038】
上記の記載及び実施例は、本発明を単に例証するために示されたものであって、本発明を限定しようと意図するものではない。本明細書に開示される本発明の態様及び実施形態のそれぞれを、独立して考慮しても良く、あるいは本発明の他の態様、実施形態及び変形と組み合わせて考慮しても良い。本発明の意図及び趣旨を含む、開示される実施形態の改変が当業者により想到されてもよく、かかる改変も本発明の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テンプレートと選択的に結合することができる結合キャビティーを有する架橋されたポリマーマトリクスを含むインプリントされた重合体物質であって、ポリマーマトリクスがポリ両性電解質ポリマーを含む、前記重合体物質。
【請求項2】
結合キャビティーの幾何学的形態がテンプレートの幾何学的形態と相補的である、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項3】
ポリマーマトリクスが、テンプレートの官能基と相補的な位置において結合キャビティーの周囲に空間的に配列されている官能基を含む、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項4】
ポリマーマトリクスの官能基が、テンプレートの相補的な官能基と相互作用することができる、請求項3に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項5】
結合キャビティーの大きさが、結合キャビティーの最長の軸に沿って測定して、1 nm〜1 μmである、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項6】
結合キャビティーの大きさが、結合キャビティーの最長の軸に沿って測定して、10 nm〜500 nmである、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項7】
ポリ両性電解質ポリマーが、強酸であるモノマー単位を含む、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項8】
モノマー単位が2-アクリルアミドプロピル-2-メチルプロパンスルホン酸 (AMPSA)である、請求項7に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項9】
ポリ両性電解質ポリマーが、弱酸であるモノマー単位を含む、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項10】
モノマー単位が、アクリル酸、マレイン酸、2-アミノメタクリレート塩酸塩 (AMA)又は2-ジメチルアミノエチルメタクリレート (DMAEMA)である、請求項9に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項11】
ポリ両性電解質ポリマーが、強塩基であるモノマー単位を含む、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項12】
モノマー単位が3-アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド (AMPTAC)である、請求項11に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項13】
ポリ両性電解質ポリマーが、弱塩基であるモノマー単位を含む、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項14】
モノマー単位が、3-N-アミノプロピルメタクリルアミド又はジメチルアミノエチルメタクリレートである、請求項13に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項15】
ポリ両性電解質ポリマーが、中性であるモノマー単位を含む、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項16】
モノマー単位が、アクリルアミド (Am)、N-tert-ブチルアクリルアミド (NTBAAm)、N-イソプロピルアクリルアミド (NIPAAm)又はN,N'-ジメチルアクリルアミド (DMAAm)である、請求項15に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項17】
テンプレートに対するインプリントされた重合体物質の結合能力が、テンプレートと選択的に結合することのできる結合キャビティーを欠く架橋されたポリ両性電解質ポリマーマトリクスを有する対照のインプリントされた重合体物質の結合能力より、少なくとも2倍高い、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項18】
テンプレートがウィルスである、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項19】
ウィルスに対するインプリントされた重合体物質の結合能力が、異なる幾何学的構造を有する別のウィルスに対するインプリントされた重合体物質の結合能力より、少なくとも4倍高い、請求項18に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項20】
テンプレートが微生物である、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項21】
テンプレートが生体高分子である、請求項1に記載のインプリントされた重合体物質。
【請求項22】
インプリントされた重合体物質を形成させる方法であって、
水溶液中にテンプレートを提供する;
第1のモノマー単位を該水溶液に加える(ここで第1のモノマー単位は該水溶液中で静電的電荷を示す);
第2のモノマー単位を該水溶液に加える(ここで第2のモノマー単位は第1のモノマー単位とは異なる);
テンプレートを含有するポリマーマトリクスを形成させる(ここでポリマーマトリクスを形成させる工程は、モノマー単位を重合させることを含む);
テンプレートをポリマーマトリクスから除去する
工程を含む、前記方法。
【請求項23】
第2のモノマー単位が中性であるか、又は第1のモノマー単位の電荷と反対の静電的電荷を示す、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
第1及び第2のモノマー単位が逐次的に水溶液に添加される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
第1のモノマー単位が第2のモノマー単位の前に添加される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
第2のモノマー単位が第1のモノマー単位の前に添加される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
第1及び第2のモノマー単位が同時に水溶液に添加される、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
第3のモノマー単位を水溶液に加える(ここで第3のモノマー単位は第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位とは異なる)工程をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
3種類のモノマー単位の1つが水溶液中で正の電荷を示し、別の1つが水溶液中で負の電荷を示し、残りの1つが水溶液中で中性である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
正に帯電したモノマー単位:負に帯電したモノマー単位:中性のモノマー単位のモル比が、テンプレートの露出された表面の、負に帯電した官能基:正に帯電した官能基:中性の官能基の比と実質的に同一である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
水溶液が、第1のモノマー単位が静電的電荷を示すことができ、かつテンプレートが第1のモノマー単位の静電的電荷とは反対の少なくとも1つの静電的電荷を示すことができるpH値である、請求項22に記載の方法。
【請求項32】
ポリマーマトリクスを形成させる工程が、モノマー単位の重合によって生じるポリマーを架橋することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項33】
テンプレートを除去する工程が、テンプレートと選択的に結合することのできる結合キャビティーをポリマーマトリクス内に形成させる、請求項22に記載の方法。
【請求項34】
テンプレートを除去する工程が溶媒抽出によって実施される、請求項22に記載の方法。
【請求項35】
請求項1に記載のインプリントされた重合体物質を含む製造物。
【請求項36】
インプリントされた重合体物質を含有する、血液又は血漿処理に使用するためのカートリッジをさらに含む、請求項35に記載の製造物。
【請求項37】
カートリッジが透析カートリッジである、請求項36に記載の製造物。
【請求項38】
カートリッジが血液又は血漿フィルターカートリッジである、請求項36に記載の製造物。
【請求項39】
インプリントされた重合体物質を含有するクロマトグラフィーカラムをさらに含む、請求項35に記載の製造物。
【請求項40】
インプリントされた重合体物質と結合するテンプレートの存在を感知するためのセンサーをさらに含む、請求項35に記載の製造物。
【請求項41】
センサーを含む医学的診断装置をさらに含む、請求項40に記載の製造物。
【請求項42】
ウィルス抽出物を精製する方法であって、
細胞又は組織源から抽出されたウィルスを提供する;
請求項1に記載のインプリントされた重合体物質を含有するクロマトグラフィーカラムを提供する;
ウィルス抽出物をクロマトグラフィーカラムに注入する;
クロマトグラフィーカラムを洗浄する;
ウィルスをクロマトグラフィーカラムから溶出させる
工程を含む、前記方法。
【請求項43】
ワクチンの製造方法であって、
請求項42に記載の方法によってウィルスを精製する;
精製されたウィルスを、該ウィルスに対するワクチンを製造するために使用する;
工程を含む、前記方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−522810(P2010−522810A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501066(P2010−501066)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/057048
【国際公開番号】WO2008/118662
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(509267465)ユニバーシティー オブ メリーランド,カレッジ パーク (4)
【Fターム(参考)】