説明

ウィルスセンサおよびその製造方法、ウィルス検出法およびウィルスセンサ装置

【課題】生体由来のサンプルあるいは大気中のエアロゾルとして存在しているウィルスを、簡易に測定可能なセンサを提供する。
【解決手段】ウィルス核を破壊する酵素を内部に含み、かつ検出すべきウィルスを結合するタンパクを修飾したリン質小胞体内部に、前記タンパクによって取り込まれたウィルス核の破壊によって露出したウィルスゲノムによって離脱する結合鎖の一端を固定し、前記結合鎖を前記リン質小胞体外部まで伸長するとともに、前記結合鎖の他端をセンシング面に固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウィルスセンサおよびその製造方法、ウィルス検出法およびウィルスセンサ装置に関し、更に詳細には、生体由来の触媒を使って生体物質を測定するバイオセンサ技術において、新規センシング材料の開発およびその材料に適したセンシング原理の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウィルスが原因となる疾病は太古の昔から人間社会における大きな問題である。近年、SARSウィルス、西ナイルウィルス、鳥インフルエンザなど、感染性および致死性の高いウィルスが引き起こす疾病が、国境をまたがる広範囲な範囲に広がる事態が問題となっている。
【0003】
これらのウィルスは、人の体液を介して侵入し、ターゲットとする細胞の表面にとりつき、自身のウィルスゲノムであるDNAあるいはRNAを標的細胞に注入させる。そして、感染した細胞の機能を利用し、ウィルスは自身のゲノムを複製し、新たな宿主となる別の細胞へ次々と遺伝子を移動させていく。このプロセスによって、ウィルスは生体内で増殖する。その結果、インフルエンザウィルスの場合には、人間が保有する免疫あるいは投薬による増殖抑制が間に合わずに、感染細胞数が一千個から一万個程度にまで増殖し、インフルエンザを発症する。
【0004】
また、感染性、致死性の高いウィルスが、どこに存在するか検知できないことが、人・物の移動に伴う感染地域の拡大、感染者数の増大というリスクを増やしている。さらには、感染への恐怖心に根ざした社会心理的な問題を引き起こす可能性がある。そこで、簡易かつ簡便にウィルスを測定する技術の開発が望まれている。
【0005】
ウィルスの同定方法として一般に知られるのは、感染が疑われる人から採血を行い、血清を取り出してDNAを抽出し、一般的なPCR法で増幅させてからDNA構造を読み取って、データベースと照らし合わせることで決定する方法である(非特許文献1)。これは、感染者あるいは感染が疑われる人の感染有無を特定するために行う方法であり、未だ感染者が確認されていない地域へのウィルス汚染の有無を検知するセンシング技術としては適当ではない。
【0006】
一方、ウィルスに感染させた生物が、ウィルスに対抗するために体内で生成した抗体を使い、抗原−抗体反応を基本とする高感度免疫測定法であるELISA(酵素免疫吸収法)を応用したセンサシステム(非特許文献2)、あるいは感度は低いながらも簡易測定システムが実現されている(非特許文献3)。高感度測定が可能なセンサシステムについては、ウィルスが存在すると考えられる唾液、涙、血液など、人から少量のサンプルを得て測定する。したがって、化学分析操作に関する知識の無い人にとっては技術的に複雑で時間を要する点が問題になる。また、ELISAを応用したセンサシステムでは、生物感染していないウィルスの検出を行うことは困難である。さらに、危険なウィルス感染症が特定地域にて発見されたとき、ウィルスとそのゲノムが特定されても、抗体を生成できなければELISAを基本としたウィルスセンサは実現できない。
【非特許文献1】宮代 守、若月 紀代子、樋脇 弘、「RT−PCRおよびダイレクトシーケンスによるエンテロウィルス属の同定について」福岡県衛試報28号,2002年,84ぺージ。
【非特許文献2】Q.−Z.Zhu,H.−H.Yang,D.−H.Li,Q.−Y.Chen,J.−G.Xu,A novel mimetic enzymatic fluorescence immunoassay for hepatitis B surface antigen by using thermal phase separating polymer, Analyst,125号,2000年,2260ぺージ。
【非特許文献3】日本ベクトン・ディッキンソン株式会社,アデノウィルス抗原検出試薬「キャピリア R アデノ」説明書。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生体由来のサンプルあるいは大気中のエアロゾルとして存在しているウィルスを、簡易に測定可能なセンサを実現する。また、ゲノムが特定されたウィルスについて、抗体が産成されなくても、ウィルスセンシングを可能とするセンサを実現する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明によるウィルスセンサは、ウィルス核を破壊する酵素を内部に含み、かつ検出すべきウィルスを結合するタンパクを修飾したリン質小胞体内部に、前記タンパクによって取り込まれたウィルス核の破壊によって露出したウィルスゲノムによって離脱する結合鎖の一端を固定し、前記結合鎖を前記リン質小胞体外部まで伸長するとともに、前記結合鎖の他端をセンシング面に固定したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明によるウィルスセンサの製造方法は、金属面にリン質小胞体を形成可能なスペースを形成可能なスペーサパターンを形成する工程、チオール基を介して検出すべきウィルスのウィルスゲノムによって分離される結合鎖をスペーサパターン以外の前記金属面に固定する工程、基板にリン質膜を形成する工程、前記リン質膜と前記金属面が相対するように重ね合わせるとともに、前記結合鎖をリン質膜に結合する工程、導入されるウィルス核を破壊しウィルスゲノムを露出させる酵素を含む弱アルカリ溶液で前記酵素を含むリン質小胞体を形成する工程、前記小胞体の表面にウィルスを結合するタンパクを結合する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明によるウィルス検出方法は、前記ウィルスセンサのセンシング面より前記リン質小胞体が離脱することにより生じる質量変化、誘電率変化あるいは質量変化を検出しウィルスを同定することを特徴とする。
【0011】
更に本発明のウィルスセンサ装置は前記ウィルスセンサと前記ウィルスセンサのセンシング面にウィルスを導入するウィルス導入装置部と、前記センシング面より前記リン質小胞体が離脱することにより生じる質量変化、誘電率変化あるいは質量変化を検出する検出装置部を備えたことを特徴とする。
【0012】
具体的には、擬似的な細胞の役割を果たすリン脂質小胞体からなるセンサデバイスを作製する。リン脂質小胞体に、ウィルスの種類によって異なる結合用の糖タンパクが形成されており、そのリン脂質小胞体の外部表面にあるウィルス結合用の糖タンパクにウィルスが吸着し、擬似的に感染すると、ウィルス自身がウィルスゲノムをリン脂質小胞体内に送り込む。ウィルスゲノムを取り込んだリン脂質小胞体内では、ゲノムであるDNAあるいはRNAによって切断される、または分離される構造を持つDNAあるいはRNAなど(結合鎖)が組み込まれているため、ゲノムDNAあるいはRNAを認識すると同時に、リン脂質小胞体のセンシング面との結合を切断または脱離させ、ウィルスの有無の確認および特定につながる屈折率、吸光度、質量変化を誘導する。
【0013】
ウィルスゲノムの一部あるいは全体と相補する対ゲノムを含むDNAあるいはRNAが貫通した球形のリン脂質小胞体で、さらに、脂質小胞体の膜表面に、ウィルス結合用の糖タンパクが修飾され、リン脂質小胞体内にウィルス核を分解する酵素を含むリン脂質小胞体を作製する。このとき、リン脂質小胞体は、質量変化、誘電率変化、あるいは屈折率変化を検出できるトランスデューサの金属電極あるいは光導波路材料である基板上(センシング面)に結合されている。
【発明の効果】
【0014】
簡易型吸光測定装置および簡易型水晶振動子を用い、本発明品である結合鎖貫通・リン脂質小胞体を形成したチップを用い、ウィルスの測定が可能となる。
【0015】
ウィルス固有のゲノムを解読するだけで、ウィルスセンサを開発することができる。小型化に適していることから、複数種類のウィルスに対応したアレイセンサシステムを構築することができる。簡易なウィルス警報器となることから、飛行場や駅などの公共の場、あるいは、オフィス、学校、家庭におけるウィルスの有無の検出に適用でき、生物的脅威に対する安心・安全確保を目的としたセンシングネットワーク構築が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ウィルスがリン脂質小胞体の外膜に結合し、ウィルス自身がその核を注入すると、リン脂質小胞体内の酵素により、核は分解され、ウィルスゲノムであるDNAあるいはRNAが露出される。次に、ウィルスゲノムに擬似的に感染したリン脂質小胞体内部では、感染したウィルスのDNAあるいはRNAによる反応が起こる。その結果、リン脂質小胞体とセンシング面との結合に関与している部分(結合鎖)の結合が切断あるいは離脱される。そして、リン脂質小胞体そのものがセンシング面より脱離する。
【0017】
本発明においては、上述のような作用を示すウィルスセンサを提供する。したがって、疑似細胞を構成するリン脂質小胞体に、前記ウィルス核を分解する酵素が設けられている。このような酵素は、検出するウィルスによって種々選択可能である。
【0018】
また、リン脂質小胞体には、結合鎖が設けられている。この結合鎖は前記リン脂質小胞体内部に固定され、前記内部より前記リン脂質小胞体の壁を貫通して外部まで伸長し、かつセンシング面と、例えばチオール基を介して結合している。
【0019】
このような結合鎖は、前述のように前記酵素によって分解されたウィルス核から露出するウィルスゲノムによって、分離可能なものである。たとえば、測定対象となるウィルスゲノムに相補的なDNA、RNAまたは人工的に作製したポリマー鎖、あるいはウィルスゲノムのRNAによって切断される構造をもつDNA、RNAまたはポリマー鎖である。前者の結合鎖は、相互に相補的なDNAあるいはRNAが絡み合って結合した形態をしており、この絡み合ったDNAあるいはRNAを、より相補性の大きなウィルスゲノムのRNAによって、絡み合いをほどき、離脱させる作用を行う。たとえばインフルエンザウィルスにおいては、ゲノムRNAが、共通的に特異な構造を有しており、特異構造を持つRNAを切断する機能を持っている。したがって、ゲノムRNAによって切断される構造を有するRNAを結合鎖として有するリン脂質小胞体を用いて、インフルエンザウィルスセンサを作製できる。
【0020】
さらに、リン脂質小胞体には検出すべきウィルスを、たとえば選択的に結合するタンパクを修飾し、所定のウィルスを疑似細胞のリン脂質小胞体内に取り入れるようにしている。
【0021】
センシング面としては、たとえば吸光測定用の導波路に設けられた金属面あるいは表面プラズモン共鳴測定の屈折率測定用の金属面あるいは水晶振動子に設けられた質量検知用の金属面であることができ、たとえばチオール基を介して固定されている。このような金属面は、たとえば金、銀、銅、白金、イリジウム、パラジウム、インジウムであることができる。
【0022】
本発明によるウィルスセンサの製造方法によれば、図1に示すように、スライドガラス、水晶振動子、あるいは光導波路上などの基板11に金属薄膜(金、銀、銅、白金、イリジウム、パラジウム、インジウム)(センシング面)12を作製する。前記金属薄膜12上に、リソグラフィーによりスペーサパターン13を形成する。金属が露出している部分に、チオール基Sを介して結合鎖14を固定し、結合鎖固定基板1を作製する(1−1)。
【0023】
次いで、たとえば卵由来のリン脂質であるフォスファジルコリンとジパルミトイルグリセロフォスフォエタノールアミンピリジルジチオプロピオネートを含む脂質混合物を溶解したクロロフォルム溶液を調製し、基板21上に展開後に溶媒を揮発させてリン脂質膜22を形成し、リン脂質膜基板2を作製する(1−2)。
【0024】
結合鎖固定基板1をリン脂質膜基板2の上に、前記リン質膜22と前記金属面(センシング面)12が相対するように重ね合わせるとともに、結合反応用試薬を投入して、結合鎖14の先端とリン脂質膜22の表面との結合を生成する(1−3)。
【0025】
所定の酵素3を含有した弱アルカリ溶液を投入し、リン脂質膜22の小胞体化を行い、酵素含有結合鎖貫通・リン脂質小胞体4を形成し、基板21を除去する(1−4)。
【0026】
結合鎖貫通・リン脂質小胞体4表面にタンパク(糖)を化学反応により結合させ、ウィルスセンサVSとする。
【0027】
本発明は上述のようなウィルスセンサを使用し、ウィルスを検出する場合、図2の(a)に示すような、たとえば小型表面プラズモン共鳴装置を使用する。小型表面プラズモン装置5は、LED光源51とプリズム52、CCDからなる検出器53を備えており、金/スライドガラスの金(センシング面)12とスライドガラス11の界面で光を全反射するように光が入射する光学系が組んである。スライドガラス11とプリズム52の屈折率は一致しており、また、スライドガラス11とプリズム52の間はマッチングオイルあるいはポリマー材料により、光学的に結合している。センシング面(金)12とスライドガラス11の界面で入射光が全反射すると、金のセンシング面12に存在する物質の屈折率に依存して、ある角度にプラズモン共鳴による暗部が観測される。この暗部に相当する角度をCCD検出器53を用いて測定することで、金のセンシング面12に存在する物質の屈折率変化を求めることができる。屈折率が高くなれば、小型表面プラズモン共鳴装置が検出する暗部の角度の位置は高い角度側にずれる。一方、屈折率が低くなれば、暗部の角度は低角度側にずれる。
【0028】
したがってウィルスを含む溶液を前記ウィルスセンサVSの前記センシング面12に流入させ、前記小型表面プラズモン共鳴装置によって屈折率の変化を測定することによって、ウィルスを検出することができる。
【0029】
また、図2(b)に示すような光導波路を使用することもできる。光導波路6のコア部61に直接、金に代表される金属(センシング面)12を形成し、コア部61とセンシング面12との界面で、光源62からの光が全反射する構造になっている。ここで、センシング面12の物質の屈折率に依存して、プラズモン共鳴により、ある波長の光が金属(センシング面)11で喪失され、CCD検出器63へと伝搬する光量が減少する。そこで、簡易型吸光測定装置を用いてグレーティング64により分光し、CCD検出器63により波長スペクトルを測定することで、光吸収スペクトルの位置より、センシング面12の物質の屈折率変化を読み取ることができる。よって、ウィルスによって、センシング面12から物質が喪失すると、屈折率が減少し、光導波路から出てくる光の分光により得られる光吸収スペクトルの位置が低波長側にシフトしてセンシングが可能となる。なお図中、65は偏光板である。
【0030】
図2(c)は水晶振動子を使用したウィルス検出方法である。水晶振動子7の金属面(センシング面)12にウィルス溶液を接触させる。センシング面12と反対の水晶振動子の面71は空気に接触している。測定回路を用い、水晶振動子のバックグラウンドレベルとなる共振周波数を測定する。次に、測定対象であるウィルス溶液に導入し、リン脂質小胞体をセンシング面12より離脱させ、共振周波数を測定し、バックグラウンドレベルとして測定した共振周波数の増加分を読み取る。これが結合鎖の分離の情報と同値であり、すなわち、ウィルス検出が行われたことを意味する。
【0031】
本発明においては、一つの小さなウィルスによって、ウィルス自身に比べると大きなリン脂質小胞体のセンシング面からの脱離を生じさせ、質量変化、誘電率変化、あるいは屈折率変化を読み取る簡易なトランスデューサで読み取りが可能レベルにまで、シグナルを増幅することができる。また、ウィルス自身の持つ感染プロセスを利用することから、感染した人や動物に由来するサンプルではなく、大気中に存在するウィルスからの測定も可能になる。さらに、ウィルスゲノムが特定された時点で、ウィルスセンサ用のセンシング材料の設計が可能になり、センシングに必要な抗体開発を待つ必要がない。
【実施例1】
【0032】
擬似細胞として、酵素を内包し、外側表面にウィルス結合を誘導する糖タンパクを形成した結合鎖貫通・リン脂質小胞体を以下のように形成した(図1)。スライドガラス、水晶、あるいは光導波路等の基板11上に金属薄膜12(金、銀、銅、白金、イリジウム、パラジウム、インジウム)を作製する。金属薄膜12上に、リソグラフィーによりスペーサパターン13を形成する。金属が露出する部分に、チオール基を介して結合鎖14を固定する(1−1)。
【0033】
卵由来のリン脂質であるフォスファジルコリンとジパルミトイルグリセロフォスフォエタノールアミンピリジルジチオプロピオネートを含む脂質混合物を溶解したクロロフォルム溶液を調製し、基板21上に展開後に溶媒を揮発させてリン脂質膜22を形成する(1−2)。
【0034】
結合鎖固定化基板1をリン脂質膜22の上に被せ、結合反応用試薬を投入して、結合鎖14先端とリン脂質膜22との結合を生成する(1−3)。
【0035】
酵素3を含有した弱アルカリ溶液を投入し、リン脂質膜22の小胞体化を行い、酵素含有結合鎖貫通・リン脂質小胞体4を形成する(1−4)。
【0036】
結合鎖貫通・リン脂質小胞体表面に糖8を化学反応により結合させる。
【0037】
ここでリン脂質小胞体4に結合させる結合鎖14は、測定対象となるウィルスゲノムに相補的なDNA、RNAおよび人工的に作製したポリマー鎖、あるいはウィルスゲノムのRNAによって切断される構造をもつポリマーである。
【0038】
結合鎖貫通・リン脂質小胞体4を用いたインフルエンザウィルスの検出は以下のように行った(図2(a))。結合鎖貫通・リン脂質小胞体4を形成した金/スライドガラスを、小型表面プラズモン共鳴装置に設置する。まず、緩衝液を結合鎖貫通・リン脂質小胞体を形成した金/スライドガラス上に流し、べースラインとなる表面プラズモン共鳴を観測する。
【0039】
次にインフルエンザウィルスを含む溶液を流すと、ウィルスVの糖8への吸着(2−1)、ウィルスによるヌクレオカプシド(ウィルス核)91のリン脂質小胞体4内への導入(2−2)と内部酵素3によるヌクレオカプシド91の破壊とウィルスゲノム92の露出がおこる(2−3)。インフルエンザウィルスのゲノム8本は、先端にはある構造をもつRNA14’を切断する機能を共通で有するため(2−4)、リン脂質小胞体4内においてRNA(結合鎖)14を切断し、その結果、リン脂質小胞体4のセンシング面12との固定に関与する結合が切断されるため、リン脂質小胞体4がセンシング面12より脱離する(2−5)。これにより、表面プラズモン共鳴の観測される角度にズレが生じ、小型表面プラズモン共鳴装置により角度変化を読み取る(図3および4参照)。
【0040】
また、小型表面プラズモン共鳴装置以外に、全反射型光導波路の表面に形成した金、銀、白金、銅、インジウムからなる表面、および、質量検知デバイスである水晶振動子の表面に形成される金、銀、銅、白金、イリジウム、パラジウム、インジウムからなる表面についても、前記の同プロセスにて結合鎖貫通・リン脂質小胞体の形成が可能である。
【0041】
本発明によるウィルスセンサ装置は、たとえば図5に示すように、ウィルスセンサ100と前記ウィルスセンサ100における前記リン脂質小胞体が離脱することにより生じる質量変化、誘電率変化あるいは質量変化を検出する検出器101とを備えている。そして、大気中の空気をポンプ102で吸引しながら、ウィルスを捕集皿103の上に捕集し、その捕集皿103に溶液104を導入し、前記溶液104で洗い流しながら、ポンプ105の作用によりウィルスセンサ100にウィルスを溶液状で搬送するサンプリング装置を前記ウィルスセンサ100の前段に設けている。また、ウィルスセンサの環境をウィルス感染に最適な相対湿度30%以下の乾燥した状況に維持する調湿装置を設けることもできる。このようなサンプリング装置を使用することにより大気中に浮遊するウィルスの活性を利用した検出が可能になる。
【0042】
また一つのウィルスに関するデバイス部は1×1センチ平方メートルから10センチ平方メートルの大きさで、測定後は廃棄して使い捨てとする。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明はウィルスをセンシングするウィルスセンサに関するものであり、リン脂質膜の殻によって構成された球状のリン脂質小胞体であって、当該リン脂質小胞体の外表面にウィルス結合用の糖タンパクが修飾され、当該リン脂質小胞体の胞内にウィルス核を分解する酵素を保有し、一端が当該リン脂質小胞体の内表面に固定され他端が胞およびリン脂質膜を貫通して当該リン脂質小胞体の外部に飛び出している、ウィルスゲノムに相補的なDNAまたはRNAの結合鎖、あるいはウィルスゲノムのRNAによって切断される結合鎖を有し、この外部に飛び出している他端が、吸光測定や表面プラズモン測定や質量測定などを行う測定デバイス(スライドガラス、水晶、あるいは光導波路の表面に金属薄膜を形成したもの)のセンシング面に結合している構造を特徴とする。
【0044】
糖タンパクに吸着したウィルスの核が胞内に侵入し、胞内の酵素で分解されてウィルスゲノムであるDNAまたはRNAが露出し、このウィルスゲノムであるDNAまたはRNAが、リン脂質小胞体を貫通している上記のウィルスゲノムに相補的なDNAまたはRNA、あるいはウィルスゲノムのRNAによって切断される結合鎖を切断するため、リン脂質小胞体がセンシング面から脱離する。この脱離によるセンシング面での吸光度、屈折率、質量などの変化を検出することによって、ウィルスを検出する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】結合鎖貫通・リン脂質小胞体の製造方法を示す図。
【図2】本発明によるウィルスセンサ装置の一例を示す図。
【図3】本発明によるウィルス検出方法の検出原理を示す図。
【図4】本発明によるウィルス検出方法の検出原理を示す図。
【図5】ウィルス捕集部を示す図。
【符号の説明】
【0046】
1 結合鎖固定基板
11 基板
12 金属薄膜(センシング面)
13 スペーサパターン
14 結合鎖
2 リン脂質膜基板
21 基板
22 リン脂質膜
3 酵素
4 リン脂質小胞体
5 小型表面プラズモン装置
51 光源
52 プリズム
53 CCD検出器
6 光導波路
61 コア部
62 光源
63 CCD検出器
64 グレーティング
65 偏光板
7 水晶振動子
71 面
8 タンパク
9 ウィルス
91 ウィルス核
92 ウィルスゲノム
100 ウィルスセンサ
101 検出器
102 ポンプ
103 捕集皿
104 溶液
105 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウィルス核を破壊する酵素を内部に含み、かつ検出すべきウィルスを結合するタンパクを修飾したリン脂質小胞体内部に、前記タンパクによって取り込まれたウィルス核の破壊によって露出したウィルスゲノムによって分離する結合鎖の一端を固定し、前記結合鎖を前記リン脂質小胞体外部まで伸長するとともに、前記結合鎖の他端をセンシング面に固定したことを特徴とするウィルスセンサ。
【請求項2】
前記結合鎖は、測定するウィルスのウィルスゲノムに相補的なDNA、RNAまたは人工的に作製したポリマーあるいは前記ウィルスゲノムのRNAによって切断されるポリマーまたはRNAであることを特徴とする請求項1記載のウィルスセンサ。
【請求項3】
前記センシング面は、吸光測定用の導波路に設けられた金属面あるいは表面プラズモン共鳴測定の屈折率測定用の金属面あるいは水晶振動子に設けられた質量検知用の金属面であることを特徴とする請求項1または2記載のウィルスセンサ。
【請求項4】
前記金属面は金、銀、銅、白金、イリジウム、パラジウム、インジウムのいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のウィルスセンサ。
【請求項5】
金属面にリン脂質小胞体を形成可能なスペースを形成可能なスペーサパターンを形成する工程、チオール基を介して検出すべきウィルスのウィルスゲノムによって分離される結合鎖をスペーサパターン以外の前記金属面に固定する工程、基板にリン脂質膜を形成する工程、前記リン脂質膜と前記金属面が相対するように重ね合わせるとともに、前記結合鎖をリン脂質膜に結合する工程、導入されるウィルス核を破壊しウィルスゲノムを露出させる酵素を含む弱アルカリ溶液で前記酵素を含むリン脂質小胞体を形成する工程、前記小胞体の表面にウィルスを結合するタンパクを結合する工程を含むことを特徴とするウィルスセンサの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載のウィルスセンサのセンシング面より前記リン脂質小胞体が離脱することにより生じる質量変化、誘電率変化あるいは質量変化を検出しウィルスを同定することを特徴とするウィルス検出方法。
【請求項7】
請求項1記載のウィルスセンサと前記ウィルスセンサのセンシング面にウィルスを導入するウィルス導入装置部と、前記センシング面より前記リン脂質小胞体が離脱することにより生じる質量変化、誘電率変化あるいは質量変化を検出する検出器を備えたことを特徴とするウィルスセンサ装置。
【請求項8】
前記ウィルス導入装置は、大気をポンプで吸引し、ウィルスを捕集する捕集皿と、前記捕集されたウィルスを洗浄し、その他の微小物質を分離する捕集皿溶液とを備えたことを特徴とする請求項7記載のウィルスセンサ装置。
【請求項9】
前記センシング面を相対湿度30%以下に保持する調湿装置部が備えられた請求項7または8記載のウィルスセンサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−170885(P2006−170885A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365792(P2004−365792)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】