説明

ウイルス除去フィルター

【課題】カテキンと光触媒とを含有するウイルス除去フィルターを提供する。
【解決手段】セルロース繊維、化学繊維、セラミックス等のフィルター構成材、酸化チタン結晶の酸素サイトの一部を窒素原子で置換したTi−O−N基を含む可視光応答型光触媒と、バインダーからなる調合体によりフィルター原型を製造し、該フィルター原型の表面に、浸漬や吹き付けによりカテキンを添着、または、該フィルター原型と、別途作製したカテキン含有フィルターを積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス除去フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒(例えば、酸化チタン)は、その光触媒反応に基づき、強い酸化力を発揮する。光触媒は、接触する有機物を酸化分解してしまうため、すぐれた消臭作用、抗菌作用及び有機汚れの分解作用を発揮する。これらの理由から、光触媒は、消臭剤、抗菌剤、防汚剤として広く利用されている。但し、光触媒は、接触する有機物を分解してしまうため、有機材料と共に用いると、その有機材料自体を劣化させてしまう。
【0003】
一方、カテキンは、強い抗酸化作用を持つ有機材料である。そのため、健康維持の目的、老化防止の目的、生活習慣病の予防と治療の目的、さらには美白作用の目的で健康食品(サプリメント)、食品添加物(酸化防止剤)、医薬部外品及び医薬品として広く利用されている。
しかし、カテキンと光触媒とを共に用いると、光触媒の酸化力によってカテキンが分解されてしまう。このため、光触媒とカテキンとを組み合わせることは、非常に困難な技術であった。
これに対し、光触媒の表面の一部を被覆し、この被覆部分にカテキンを付着させることにより、両者の作用を組み合わせるという開発がなされている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−81971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法では、光触媒表面を部分的に覆ってしまうので、光触媒機能が落ちてしまうことや、製造方法が複雑であるのでコスト高になるなどの課題があり、更なる工夫が求められていた。
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、カテキンと光触媒とを含有するウイルス除去フィルター及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、次の発明を完成するに至った。
[1] カテキンと光触媒とを含有することを特徴とするウイルス除去フィルター。
[2] 前記カテキンは、非重合型カテキン(A)と重合型カテキン(B)とを含んでおり、非重合型カテキンの含有率(A/(A+B))が0.5〜1であることを特徴とする[1]に記載のウイルス除去フィルター。
[3] 前記カテキンは、非重合型カテキンと重合型カテキンとを含み、このうち非重合型カテキンは、カテキンガレートとエピカテキンガレートとガロカテキンガレートとエピガロカテキンガレートとを含むガレート体(C)と、カテキンとエピカテキンとガロカテキンとエピガロカテキンとを含む非ガレート体(D)とを含んでおり、ガレート率(C/(C+D))が0.3〜1であることを特徴とする[1]または[2]に記載のウイルス除去フィルター。
【0006】
[4] 前記カテキンは、エピカテキンとエピガロカテキンとエピカテキンガレートとエピガロカテキンガレートとを含むエピ体(E)と、カテキンとガロカテキンとカテキンガレートとガロカテキンガレートとを含む非エピ体(F)とを含んでおり、エピ体率(E/(E+F))が0.8〜1であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
[5] 前記ウイルスは、インフルエンザウイルスであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
[6] 前記光触媒は、酸化チタンを含むことを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
[7] 前記光触媒は、可視光応答型光触媒であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
【0007】
[8] 前記光触媒は、酸化チタン結晶の酸素サイトの一部を窒素原子で置換したTi−O−N構成を含む可視光応答型光触媒であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
[9] 前記フィルターは、セルロース繊維、化学繊維、多孔質セラミックスのうちから選択される材質によって構成されていることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
[10] [1]〜[9]のいずれかに記載のウイルス除去フィルターを製造する方法であって、(1)フィルターを構成する材質と光触媒とを混合した後に、光触媒を含むフィルター原型を形成する工程、(2)フィルター原型にカテキンを添着させる工程を備えることを特徴とするウイルス除去フィルターの製造方法。
[11] [1]〜[9]のいずれかに記載のウイルス除去フィルターを製造する方法であって、(4)フィルターを構成する材質と光触媒とを混合した後に、光触媒フィルターを製造する工程、(5)カテキンを含有するカテキンフィルターを製造する工程、及び(6)少なくとも1枚以上の光触媒フィルターと、少なくとも1枚以上のカテキンフィルターとを積層して2層以上のウイルス除去フィルターを製造する工程、を備えることを特徴とするウイルス除去フィルターの製造方法。
[12] [1]〜[9]のいずれかに記載のウイルス除去フィルターを製造する方法であって、(7)不織布に光触媒を付着させて光触媒フィルターを製造する工程、(8)不織布にカテキンを付着させてカテキンフィルターを製造する工程、及び(9)2層の上記光触媒フィルターの間に、上記カテキンフィルターを挟み付けて3層以上のウイルス除去フィルターを製造する工程、を備えることを特徴とするウイルス除去フィルター。
【発明の効果】
【0008】
光環境下において抗菌作用のある光触媒とカテキンの効果が相乗的に作用するので、従来よりも良好なウイルス除去能を備えたフィルターを安価に提供することができる。また、可視光応答型光触媒とカテキンの組み合わせの場合、室内可視光環境下で良好なウイルス除去能を備えたフィルターを提供することができる。このウイルス除去フィルターは、例えば、エアコン・自動車・空気清浄機・掃除機・美顔器などの空気透過用フィルター、マスク・ガーゼ・パック・シーツ・医用医療などの衛生用品用フィルターなど紫外光または可視光下において使用するフィルターに応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について、詳細に説明する。本発明の技術的範囲は、下記の実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0010】
本発明に用いられるカテキンとは、茶などの植物に多く含まれる水溶性の多価フェノールである。カテキンには、カテキン(C)、エピカテキン(EGC)、ガロカテキン(GC)、カテキンガレート(Cg)、エピカテキンガレート(ECg)、ガロカテキンガレート(GCg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、エピガロカテキン(EGC)及びこれらの誘導体、立体異性体などの非重合型カテキンとこれらのカテキンが2分子以上重合した構造をもつ重合型カテキンが挙げられる。
また非重合型カテキンはその構造によって、EC、EGC、EGCg、ECgからなるエピ体とC、GC、GCg、Cgからなる非エピ体に分類される。
さらに、非重合型カテキンは、ガレート基を有する構造をもつ、EGCg、GCg、ECg、Cgからなるガレート体と、ガレート基を有しないC、GC、EGC、ECからなる非ガレート体に分類される。一般的に、非重合型カテキンの含有率が高いほど、抗ウイルス効果が高いことが知られている。そのため本発明の効果を十分に得るためには、非重合型カテキンの含有率(A/(A+B))が0.5〜1であることが好ましく、0.8〜1がさらに好ましい。
また、ガレート体は、非ガレート体に比べると、抗ウイルス効果が高いことが知られている。このため、ガレート率が高いほど、抗ウイルス効果が高い。そのため、本発明の効果を十分に得るためには、ガレート率(C/(C+D))が0.3〜1であることが好ましく、0.6〜1がさらに好ましい。
【0011】
光触媒とは、光を吸収することにより触媒作用を示す物質の総称である。この触媒作用は、通常の触媒では困難な化学反応を常温で引き起こしたり、化学物質の自由エネルギーを増加させる(光エネルギーを蓄える)反応を起こす場合が知られている。代表的な光触媒として、酸化チタン(TiO2)が知られている。光触媒の触媒作用を利用して、セルフクリーニング部材、抗菌材・衛生用品等への応用が知られている。但し、酸化チタンは、紫外光照射下において触媒活性を示し、可視光下においてはほとんど触媒活性を示さない。このため、紫外線がほとんどない室内環境などでは、良好な触媒活性を示し難い事態が予想される。そこで、光触媒として、可視光応答型光触媒を用いることが好ましい。可視光応答型光触媒とは、例えば酸化チタン結晶の酸素サイトの一部を窒素原子で置換した酸窒化チタン(Ti−O−N)を含む酸化チタンがある。この酸窒化チタンを含む酸化チタンは、本発明者らが開発した技術(例えば、特許第3589177号)を用いて製造することができる。
【0012】
ウイルスとは、DNAまたはRNAをゲノムとして持ち、宿主細胞内でのみ複製する細菌よりも小さな濾過性の病原体を意味している。これらのウイルスのうち、本発明のフィルターは、二本鎖DNAウイルス(例えば、パポバウイルス科などの環状二本鎖DNAウイルス、アデノウイルス科・ヘルペスウイルス科などの直鎖上二本鎖DNAウイルスを含む)、一本鎖DNAウイルス(例えば、ジェミニウイルス科などの環状一本鎖DNAウイルス、パルボウイルス科などの直鎖一本鎖DNAウイルスを含む)、二本鎖RNAウイルス(例えば、レオウイルス科を含む)、一本鎖RNAウイルス(例えば、ピコルナウイルス科・トガウイルス科などの一本鎖プラス鎖RNAウイルス、オルトミクソウイルス科(例えば、インフルエンザウイルスを含む))・パラミクソウイルス科などの一本鎖マイナス鎖RNAウイルスを含む)に加え、レトロウイルス科のウイルスなどに応用できる。また、ウイルスは、エンベロープ(脂質二重膜)を持つものと、そのような膜を持たないものとに分類することができる。本発明のウイルスは、いずれのウイルスに対しても応用できる。
【0013】
多孔質セラミックスとは、多孔を有するセラミックスを意味している。ここで、セラミックスとは、シリコンのような半導体、炭化物、窒化物、ホウ化物などの無機化合物の成形体、粉末、膜など無機固体材料の総称を意味している。本発明に用いる多孔質セラミックスには、固体状のものの他に、繊維状のセラミックス繊維も含まれる。
【0014】
本願発明のフィルターを製造するには、例えばフィルターを構成する材質(例えば、セルロース繊維、化学繊維、多孔質セラミックス)と、光触媒とバインダーとの調合体を混合した後に、これをフィルター原型として製造する。フィルター原型とは、本発明のウイルス除去フィルターとなる前段階であって、フィルターの形状自体は備えられているものを意味する。光触媒とバインダーとの調合体において、バインダー比率は光触媒に対し質量比で1%〜30%が望ましい。バインダーは、ビニルアルコ−ル系、セルロース系、アクリルシリコン系、有機シリコン系などが望ましい。また、フィルター構成物に対し、光触媒は質量比で0.5%〜30%が望ましい。
【0015】
次いで、このフィルター原型の表面にカテキンを添着する。添着の方法としては、例えばカテキンを含有する溶液中にフィルター原型を浸漬する方法、カテキン溶液をフィルター原型の表面に吹き付ける方法などが例示される。
本発明者らの実験結果(詳細については、後述する)によれば、特定の素材の組合せを用いることにより、光触媒とカテキンとを同じフィルターに添着させた場合であっても、カテキンの抗菌効果が失われにくいことが分かった。すなわち、光触媒の効果によって、近傍の有機物は分解してしまう懸念がある。このため、従来の考え方によれば、光触媒とカテキンとを同じフィルターに添着させると、カテキンが分解されてしまい、その抗菌効果が減弱してしまうことになる。しかしながら、このような常識に反する発見をした。
また、別法のフィルターの製造方法として、それぞれ別個に製造した光触媒フィルターとカテキンフィルターとを積層させるという方法がある。
具体的には、次の通りである。例えば、フィルターを構成する材質(例えば、セルロース繊維、化学繊維、多孔質セラミックス)と、光触媒とバインダーとの調合体を混合した後に、これを光触媒フィルターとして製造する。光触媒とバインダーとの調合体において、バインダー比率は光触媒に対し質量比で1%〜30%が望ましい。バインダーは、ビニルアルコ−ル系、セルロース系、アクリルシリコン系、有機シリコン系などが望ましい。また、フィルター構成物に対し、光触媒は質量比で0.5%〜30%が望ましい。また別の方法としては、不織布を製造する工程の中で繊維に光触媒を定着させることにより、光触媒フィルターを製造する。
【0016】
一方、カテキンを含有するカテキンフィルターを製造しておく。カテキンフィルターの製造方法としては、(A)まずフィルターを製造しておき、そのフィルターにカテキンを含有させて(例えば、フィルターをカテキン溶液中に浸漬する、カテキン溶液を噴霧するなどの方法)製造する方法、(B)予めフィルターを構成する材質(例えば、セルロース繊維、化学繊維、多孔質セラミックス)とカテキンとの調合体を混合した後に、これをカテキンフィルターとして製造する方法などが例示される。カテキンの含有濃度としては、フィルターの質量あたり0.0001%〜1%であることが望ましい。
【0017】
次に、上記光触媒フィルター(光触媒F)とカテキンフィルター(カテキンF)とを積層させて、ウイルス除去フィルターを製造する。この場合に、各フィルターは少なくとも1枚以上を使用し、2層以上のフィルターを積層させる。積層順としては、特に限定されないが、光を必要とする光触媒Fが外層に位置するように積層することが好ましい。但し、光触媒Fを内層においても、照射された分の光に対応する抗酸化作用を示すので、光触媒Fを内層においてもよい。このため、例えば[光触媒F/カテキンF/光触媒F]の3層、[光触媒F/カテキンF/カテキンF/光触媒F]の4層、[光触媒F/カテキンF/光触媒F/カテキンF/光触媒F]の5層などが例示される。
このように製造された本願発明のフィルターは、光触媒機能が劣化することもなく、また、光触媒の酸化力によってカテキンを分解することもなく、良好なウイルス除去能を発現することができる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例および試験例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例および試験例によって限定されるものではない。
カテキンと光触媒を含有するフィルターを製造し、このフィルターがインフルエンザウイルスに対して如何なる作用を示すかを、次のようにして確認した。
【0019】
<試験方法>
1.各種フィルターの製造
試験用のフィルターとして、カテキン(緑茶カテキン(サンフェノン:太陽化学株式会社製))を含有するカテキンフィルター(「CAT−F」、或いは「サンフェノン」と表記する)、光触媒(酸窒化チタンを含む可視光型光触媒(V−CAT:豊田通商株式会社)を含有する光触媒フィルター(「TiO−F」、或いは「V−CAT」と表記する)、カテキンと光触媒の両者を同じフィルター中に含有するカテキン・光触媒フィルター(「CAT・TiO−F」、「サンフェノン+V−CAT」、或いは「V−CAT+サンフェノン」と表記する)、および1枚のCAT−Fと2枚のTiO−Fを交互に重ねた光触媒/カテキン/光触媒フィルター(「TiO/CAT/TiO−F」、或いは「V−CAT/サンフェノン/V−CAT」と表記する)を用意した。
本実施例に使用したカテキンについては、非重合型カテキンの含有率は、0.82であった。また、ガレート率は、0.76であった。
カテキンフィルターは、カテキンを水に分散した溶液中に基材(セルロース繊維と化学繊維(クラレ社製ポリエステル繊維)とを混抄した湿式不織布。セルロース繊維と化学繊維との質量比は、42:28であった。なお、この質量比としては、10:90〜90:10の範囲で適当に変化させることもできる)を含浸させてカテキンを固着させることにより作製した。このときカテキンは、通常の水に分散させたものを用いた。カテキンは、湿式不織布への付着量を基材目付けの30%となるように設定した。なお、カテキンの付着量は、コストや機能などの目的に応じて、カテキンの効果を発現できる程度の量(例えば、湿式不織布への付着量を基材目付けの1%〜30%、好ましくは10%〜20%)とすることができる。
【0020】
光触媒フィルターは、湿式不織布を製造する工程の中でアクリル繊維(三菱レーヨン社製アクリル繊維)と化学繊維(クラレ社製ポリエステル繊維)とを混抄した湿式不織布。アクリル繊維と化学繊維との質量比は、10:60であった。なお、この質量比としては、10:90〜90:10の範囲で適当に変化させることもできる)に光触媒を定着させることにより製造した。定着剤は、光触媒によって劣化しにくい接着剤(例えば、無機系バインダーなど)を選定した。完成品目付けの30%の光触媒がフィルターに付着するように設定した。光触媒の付着量は、コストや機能などの目的に応じて、光触媒の効果を発現できる程度の量(例えば、湿式不織布への付着量を基材目付けの0.5%〜30%、好ましくは1%〜20%)とすることができる。
【0021】
カテキン・光触媒フィルターは、上記光触媒フィルターを製造するときと同様に、湿式不織布を製造する工程の中で繊維(三菱レーヨン社製アクリル繊維)と化学繊維(クラレ社製ポリエステル繊維)とを混抄した湿式不織布。アクリル繊維と化学繊維との質量比は、10:60であった。なお、この質量比としては、10:90〜90:10の範囲で適当に変化させることもできる))に光触媒を定着させることにより光触媒フィルターを製造した後、カテキンを水に分散した溶液中にこの光触媒フィルターを含浸させてカテキンを固着させることにより作製した。こうして作製したカテキン・光触媒フィルターにおいては、カテキン:光触媒の質量比は、計算値として、30:30であった。この質量比は、10:30〜30:10の範囲で適当に変化させることもできる。
光触媒フィルターを製造する際に用いる定着剤は、光触媒によって劣化しにくい接着剤(例えば、無機系バインダーなど)を選定した。完成品目付けの30%の光触媒がフィルターに付着するように設定した。光触媒の付着量は、コストや機能などの目的に応じて、光触媒の効果を発現できる程度の量(例えば、湿式不織布への付着量を基材目付けの0.5%〜30%、好ましくは1%〜20%)とすることができる。
【0022】
また、カテキンは、湿式不織布への付着量を基材目付けの30%となるように設定した。なお、カテキンの付着量は、コストや機能などの目的に応じて、カテキンの効果を発現できる程度の量(例えば、湿式不織布への付着量を基材目付けの1%〜30%、好ましくは10%〜20%)とすることができる。
更に、上記2枚の光触媒フィルターと1枚のカテキンフィルターを交互に重ねて、光触媒/カテキン/光触媒として、光触媒フィルターを両外層に位置させて、3層のTiO/CAT/TiO−Fを製造した。
また、コントロールフィルターとして、カテキン及び光触媒を用いない湿式不織布を用いた。
【0023】
また、上記製造方法の他に、湿式不織布を用いて各種フィルターを製造した。すなわち、カテキンフィルターは、バインダーを用いて製造した湿式不織布を、カテキンを分散させた溶液中に浸漬させ、マングルで絞りながら乾燥させることにより製造した。このとき、フィルターとしては、繊維成分としてセルロース繊維とクラレ社製のポリエステル繊維を用い、カテキンとしてサンフェノン(太陽化学株式会社製)を用いた。また、カテキンフィルターの面積質量比としては、フィルター100g/ m2あたり、繊維成分:カテキン=70g/m2:30g/ m2であった。
また、光触媒フィルターは、無機系バインダーと光触媒を調合し、これを用いて三菱レーヨン社製アクリル繊維と化学繊維(クラレ社製ポリエステル繊維)を混合した後、フィルターとして製造した。このとき、繊維成分として三菱レーヨン社製アクリル繊維とクラレ社製のポリエステル繊維を用い、光触媒としてV−CAT(豊田通商株式会社製)を用いた。また、光触媒フィルターの面積質量比としては、フィルター100g/ m2あたり、繊維成分:光触媒=70g/m2:30g/ m2であった。
また、カテキン・光触媒フィルターは、バインダーと光触媒を調合し、これを用いてフィルター原体を製造した後、このフィルター原体をカテキンを分散させた溶液中に浸漬させ、マングル(上記に同じ)で絞りながら乾燥させることにより製造した。このとき、繊維成分として三菱レーヨン社製アクリル繊維とクラレ社製のポリエステル繊維を用い、カテキンとしてサンフェノン(太陽化学株式会社)を用い、光触媒としてV−CAT(豊田通商株式会社製)を用いた。また、カテキン・光触媒フィルターの面積質量比としては、フィルター100g/ m2あたり、繊維成分:カテキン:光触媒=40g/m2:30g/ m2:30g/m2であった。
【0024】
2.評価試験
1)通過阻止試験
HAU(赤血球凝集力価)のヒトインフルエンザウイルスAウイルス液(A/PR/8/34(H1N1)ストレイン)1mLをフィルター上に滴下し、室温で5分間放置した後、フィルターを通過したウイルス液を吸い取った。フィルターを通過したウイルス液を血球凝集試験(hemagglutination assay)または免疫染色試験(immunostaining method)に供した。この試験には、ミリポア1225サンプリング・マニフォールド(Millipore 1225 sampling manifold)を用いた。
【0025】
2)感染抑制試験
フィルターをインフルエンザ溶液(2HAU、A/PR/8/34(H1N1)ストレイン)に浸漬した。この溶液を2000Lxの光量で8時間照射した後、ウイルス量を血球凝集試験または免疫染色試験で測定した。
3)血球凝集試験
血球凝集試験には、96ウエルプレートを用いた。0.01%ゼラチンを含むPBS(pH6.5)を希釈用に用いた。処理後のウイルス液について、0.5%(v/v)赤血球を含有する0.05mLのPBSを用いて、2倍希釈列を作成し、96ウエルプレートのウエルに注いだ後、プレートを4℃にて1時間置いた。赤血球凝集を示す最大の希釈率をウイルス赤血球凝集力価とした。
【0026】
4)ウイルス感染評価免疫染色試験
イヌ腎由来MDCK細胞を各ウエルあたりに6x10個となるように96ウエル培養プレートに播種し、5%COインキュベータにて24時間培養した。コンフルエントとなったMDCK細胞に対し、2倍希釈列としたウイルス液を50μL滴下し、37℃にて1時間培養した。各ウエルをPBSにて洗浄した後、各ウエルに0.1mLのMEMを注いで、細胞を37℃にて10時間培養した。その後、各ウエルに無水メタノールを加え、インフルエンザAウイルスのヌクレオプロテインに反応するモノクローナル抗体(4E6)を加え、37℃にて30分間培養した。モノクローナル抗体溶液を除き、PBSにて各ウエルを洗浄後、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼを結合した抗マウスIgG+IgM(H+L)ヤギ抗体(ジャクソン・イミュノリサーチ・ラボラトリーズ)と共に37℃にて30分間培養した。
【0027】
ウエルをPBSにて2〜3回洗浄後、染色液(100 mM citrate buffer (pH 6.0), 60 mM N,N-dimethyl-p-phenylenediamine dihydrochloride in acetonitrile, 100 mM 4-chloro-1-naphthol in acetonitrile, 3% H2O2 aqueous (5:1:1:0.005 by volume))を注ぎ、室温にて15分間保持した。PBSにて洗浄後、染色された細胞を光学顕微鏡にて観察した。
5)フィルターの安定性試験
各フィルターについて、可視光を80時間および240時間照射した後に、上記感染抑制試験を行った。
【0028】
<試験結果>
1.インフルエンザウイルスの通過阻止試験
各種フィルターのインフルエンザウイルスの通過阻止能を評価したところ、図1に示す通りであった。フィルター通過前のウイルス液(Pre−filter)、コントロールフィルター(Filter)、ブランク(Blank:フィルターを使用していない検体)、TiO−F(TiO)、CAT−F(Catechin)、CAT・TiO−F(TiO+catechin)のHAUは、それぞれ2、2、2、2、2、及び2であった。
CAT−FおよびCAT・TiO−Fを通過させると、コントロールのHAUに比べて、大きくHAUが減少した。しかし、TiO−Fを通過させても、HAUには大きな変化が認められなかった。このデータより、カテキンを含有するフィルターは大きなウイルス通過阻止能を有することが分かった。
【0029】
2.フィルターの抗ウイルス活性
各種フィルターをインフルエンザ溶液(2HAU、A/PR/8/34(H1N1)ストレイン)に浸漬し、この溶液を2000Lxの光量で8時間照射した後、ウイルス量を血球凝集試験または免疫染色試験で測定したときの結果を図2〜図5に示した。
CAT−FおよびCAT・TiO−Fでは、コントロールに比べると、ウイルス感染細胞数が大きく減少した。また、TiO−Fでは、光を照射した場合には、ウイルス感染細胞数が大きく減少した。このデータより、酸化チタンまたは/およびカテキンを含有するフィルターには、強い抗ウイルス活性があることが分かった。
また、図5に示すように、TiO/CAT/TiOの3層フィルター(V−CAT/サンフェノン/V−CAT)は、CAT・TiO−Fと比較しても、更にウィルス感染細胞数を大きく減少させることがわかった。
【0030】
3.フィルターの安定性試験
各フィルターに可視光を80時間および240時間照射した後に、感染抑制試験を行ったときの結果を図6および図7に示した。図6にはウイルス溶液中のフィルターに光照射を行わなかったときの結果を、図7には光照射(2000Lx、8時間)を行ったときの結果を示した。
CAT−F、TiO−F、及びCAT・TiO−Fのいずれについても、可視光を80時間および240時間照射しても、抗ウイルス活性には大きな変化は認められなかった。このことから、本実施形態のウイルス除去フィルターは、光に対する安定性があり、光触媒の酸化力によってカテキンを分解することがなく、良好なウイルス除去能を有することが分かった。
【0031】
このように本実施例によれば、抗菌作用のある光触媒とカテキンの効果が相乗的に作用するので、従来よりも良好なウイルス除去能を備えたフィルターを提供することができた。このウイルス除去フィルターは、例えば、エアコン・自動車・空気清浄機・掃除機・美顔器などの空気透過用フィルター、マスク・ガーゼ・パック・シーツ・医用医療などの衛生用品用フィルターなど紫外光または可視光下において使用するフィルターに応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】フィルターのインフルエンザウイルスの通過阻止能を赤血球凝集試験で評価した結果を示す写真である。
【図2】フィルターの抗ウイルス活性を評価したときの結果を示すグラフである(光照射あり:2000Lx、8時間)。
【図3】フィルターの抗ウイルス活性を評価したときの結果を示すグラフである(光照射なし)。
【図4】図2と図3の結果を並べて比較したグラフである。
【図5】フィルターの抗ウイルス活性を評価したときの結果を示すグラフである(光照射あり:2000Lx、8時間)。
【図6】フィルターの可視光に対する安定性を評価した結果を示すグラフである(光照射なし)。
【図7】フィルターの可視光に対する安定性を評価した結果を示すグラフである(光照射あり::2000Lx、8時間)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテキンと光触媒とを含有することを特徴とするウイルス除去フィルター。
【請求項2】
前記カテキンは、非重合型カテキン(A)と重合型カテキン(B)とを含んでおり、非重合型カテキンの含有率(A/(A+B))が0.5〜1であることを特徴とする請求項1に記載のウイルス除去フィルター。
【請求項3】
前記カテキンは、非重合型カテキンと重合型カテキンとを含み、このうち非重合型カテキンは、カテキンガレートとエピカテキンガレートとガロカテキンガレートとエピガロカテキンガレートとを含むガレート体(C)と、カテキンとエピカテキンとガロカテキンとエピガロカテキンとを含む非ガレート体(D)とを含んでおり、ガレート率(C/(C+D))が0.3〜1であることを特徴とする請求項1または2に記載のウイルス除去フィルター。
【請求項4】
前記カテキンは、エピカテキンとエピガロカテキンとエピカテキンガレートとエピガロカテキンガレートとを含むエピ体(E)と、カテキンとガロカテキンとカテキンガレートとガロカテキンガレートとを含む非エピ体(F)とを含んでおり、エピ体率(E/(E+F))が0.8〜1であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
【請求項5】
前記ウイルスは、インフルエンザウイルスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
【請求項6】
前記光触媒は、酸化チタンを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
【請求項7】
前記光触媒は、可視光応答型光触媒であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
【請求項8】
前記光触媒は、酸化チタン結晶の酸素サイトの一部を窒素原子で置換したTi−O−N構成を含む可視光応答型光触媒であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
【請求項9】
前記フィルターは、セルロース繊維、化学繊維、多孔質セラミックスのうちから選択される材質によって構成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のウイルス除去フィルター。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のウイルス除去フィルターを製造する方法であって、(1)フィルターを構成する材質と光触媒とを混合した後に、光触媒を含むフィルター原型を形成する工程、(2)フィルター原型にカテキンを添着させる工程を備えることを特徴とするウイルス除去フィルターの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載のウイルス除去フィルターを製造する方法であって、(4)フィルターを構成する材質と光触媒とを混合した後に、光触媒フィルターを製造する工程、(5)カテキンを含有するカテキンフィルターを製造する工程、及び(6)少なくとも1枚以上の光触媒フィルターと、少なくとも1枚以上のカテキンフィルターとを積層して2層以上のウイルス除去フィルターを製造する工程、を備えることを特徴とするウイルス除去フィルターの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載のウイルス除去フィルターを製造する方法であって、(7)不織布に光触媒を付着させて光触媒フィルターを製造する工程、(8)不織布にカテキンを付着させてカテキンフィルターを製造する工程、及び(9)2層の上記光触媒フィルターの間に、上記カテキンフィルターを挟み付けて3層以上のウイルス除去フィルターを製造する工程、を備えることを特徴とするウイルス除去フィルターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−119312(P2008−119312A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307888(P2006−307888)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【出願人】(596136866)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】