説明

ウェイストゲート筐体およびウェイストゲート

【課題】ターボチャージャによる過給エンジンに適用されるウェイストゲートにおいて、ウェイストゲート筐体を軽量化する。
【解決手段】ロアーケーシング21およびアッパーケーシング22からなるウェイストゲート筐体2であって、ロアーケーシング21およびアッパーケーシング22のうち少なくとも1つが、液晶ポリエステルから構成されている。ウェイストゲート筐体2を構成するロアーケーシング21、アッパーケーシング22の材料として液晶ポリエステルを採用したので、ウェイストゲート筐体2を軽量化することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャによる過給エンジンにおいて、タービンに付与される圧力を適正に抑える目的で、排気ガスの余剰分を分流させてタービンへの流入量を調節するために使用されるウェイストゲート(アクチュエータ)と、このウェイストゲートを構成する筐体、つまりウェイストゲート筐体とに関するものである。
【0002】
ここで、ウェイストゲートは、内蔵型(ターボチャージャに内蔵されるタイプ)であると外付け型(ターボチャージャとは別に独立して設置されるタイプ)であるとを問わない。
【背景技術】
【0003】
一般に、圧力式のウェイストゲートは、ウェイストゲート筐体の内部にダイアフラムを設置して作動圧室と大気開放室とを画定し、作動圧室の圧力と大気開放室の圧力(大気圧)との差圧を利用して作動ロッドを作動させる構造を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このウェイストゲート筐体の材料としては、従来、主に耐熱性を確保する観点から、鉄やステンレスなどの金属が採用されていた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−210707号公報(段落〔0010〕〔0011〕の欄、図1)
【特許文献2】特開平9−303153号公報(段落〔0003〕〔0018〕の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こうしたウェイストゲート筐体では、その材料が金属であるため、ウェイストゲート筐体が重くなり、その分だけウェイストゲート全体も重くなるという欠点があった。
【0007】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、ウェイストゲート筐体を軽量化することを第1の目的とする。また、ウェイストゲート筐体を備えたウェイストゲートを軽量化することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、1つ以上の部材からなるウェイストゲート筐体であって、前記部材のうち少なくとも1つが、液晶ポリエステルから構成されていることを特徴としている。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位を有することを特徴としている。
(1)−O−Ar1 −CO−
(Ar1 は、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表す。Ar1 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルが、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有することを特徴としている。
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または下記式(4)で表される基を表す。XおよびYは、それぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(−NH−)を表す。Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4 −Z−Ar5
(Ar4 およびAr5 は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表す。)
【0011】
さらに、請求項4に記載の発明は、ウェイストゲートであって、請求項1乃至3のいずれかに記載のウェイストゲート筐体を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ウェイストゲート筐体を構成する部材の材料として液晶ポリエステルを採用したので、ウェイストゲート筐体を軽量化することが可能となる。
【0013】
また、このようなウェイストゲート筐体を用いることにより、ウェイストゲートを軽量化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係るウェイストゲートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0016】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。
【0017】
この実施の形態1に係るウェイストゲート1は、図1に示すように、ウェイストゲート筐体2を有しており、このウェイストゲート筐体2は、ロアーケーシング21とアッパーケーシング22とから構成されている。
【0018】
ここで、ロアーケーシング21は、図1に示すように、カップ状のロアーケーシング本体21aを有しており、ロアーケーシング本体21aには、ロアーケーシング21を取付ベース4上に載置するための段付き部21bが水平に形成されている。一方、アッパーケーシング22は、カップ状のアッパーケーシング本体22aを有しており、アッパーケーシング本体22aには、吸気用チューブ3を嵌着するための円筒状の導管(ニップル)22bが一体に形成されている。そして、ロアーケーシング21の周縁部21cとアッパーケーシング22の周縁部22cとが互いに溶着されて気密封止されることにより、ウェイストゲート筐体2が形成されている。
【0019】
また、ウェイストゲート筐体2内には、図1に示すように、金属製のダイアフラム10が、ウェイストゲート筐体2の内部空間を作動圧室14と大気開放室15とに上下に二分するように設置されている。このダイアフラム10の周縁部10aは、ロアーケーシング21およびアッパーケーシング22とともに溶着された形でウェイストゲート筐体2に固定されている。なお、ロアーケーシング21のロアーケーシング本体21aには、通気孔(図示せず)が形成されており、この通気孔を通じて、ウェイストゲート筐体2の外部と大気開放室15とが連通している。
【0020】
このダイアフラム10の中心部10bには、図1に示すように、その上側(作動圧室14側)にリテーナプレート11が添設されているとともに、その下側(大気開放室15側)にリテーナプレート12が添設されている。一方、ロアーケーシング21の底部21d上には、保持カップ5が載置されており、保持カップ5内には、ポリイミドからなる円筒状の軸ガイド7およびOリング8が嵌着されている。そして、大気開放室15にはコイルスプリング6が、ダイアフラム10を常に上方へ弾性的に付勢するようにリテーナプレート12と保持カップ5との間に縮設されている。
【0021】
また、ウェイストゲート筐体2には、図1に示すように、金属からなる円柱状の作動ロッド9が、ロアーケーシング21の底孔21eを通ってウェイストゲート筐体2の内外を貫通する形で、矢印A、B方向に進退自在に取り付けられている。作動ロッド9の後端部9aは、ウェイストゲート筐体2の内部でダイアフラム10およびリテーナプレート11、12に固定されている。作動ロッド9の先端部は、ウェイストゲート筐体2の外部でウェイストゲートバルブ13に接続されている。
【0022】
ここで、ウェイストゲート筐体2を構成するロアーケーシング21およびアッパーケーシング22は、いずれも液晶ポリエステルから構成されている。この液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示すポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよく、液晶ポリエステルエーテルであってもよく、液晶ポリエステルカーボネートであってもよく、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0023】
この液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、およびポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部または全部に代えて、その重合可能な誘導体を用いてもよい。
【0024】
芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、およびカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオールおよび芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0025】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」という。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」という。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」という。)とを有することがより好ましい。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(Ar1 は、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または下記式(4)で表される基を表す。XおよびYは、それぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(−NH−)を表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4 −Z−Ar5
(Ar4 およびAr5 は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表す。)
【0026】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基およびn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基および2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基ごとに、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0027】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基および2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0028】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1 がp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、およびAr1 が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0029】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2 がp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2 がm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2 が2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、およびAr2 がジフェニルエーテル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0030】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミンまたは芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3 がp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノールまたはp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、およびAr3 が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルまたは4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0031】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計含有量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%である。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計含有量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計含有量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上しやすいが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなりやすく、成形に必要な温度が高くなりやすい。
【0032】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0033】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計含有量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0034】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、XおよびYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが、溶融粘度が低くなりやすい点で好ましく、繰返し単位(3)として、XおよびYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することが、より好ましい。
【0035】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性よく製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよい。この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾールなどの含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0036】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、通常270℃以上、好ましくは270〜400℃、より好ましくは280〜380℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上しやすいが、あまり高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなりやすく、その成形に必要な温度が高くなりやすい。
【0037】
なお、流動開始温度は、フロー温度または流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mmおよび長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポアズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、(株)シーエムシー出版、1987年6月5日発行を参照)。
【0038】
液晶ポリエステルは、これに充填材(フィラー)、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂などの他の成分を1種以上配合して、液晶ポリエステル樹脂組成物として用いてもよい。
【0039】
充填材は、繊維状充填材であってもよく、板状充填材であってもよく、繊維状および板状以外で、球状その他の粒状充填材であってもよい。また、充填材は、無機充填材であってもよく、有機充填材であってもよい。繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などの炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維などのセラミック繊維;およびステンレス繊維などの金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカーなどのウイスカーも挙げられる。繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維およびアラミド繊維が挙げられる。板状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウムおよび炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよく、金雲母であってもよく、フッ素金雲母であってもよく、四ケイ素雲母であってもよい。粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素および炭酸カルシウムが挙げられる。
【0040】
なお、この充填材の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0〜100質量部である。ただし、熱膨張係数の増大を抑制する観点からは、液晶ポリエステル100質量部に対して、30質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましい。
【0041】
添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤および着色剤が挙げられる。添加剤の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0〜5質量部である。
【0042】
液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミドなどの液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;およびフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。液晶ポリエステル以外の樹脂の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0〜20質量部である。
【0043】
液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステルおよび必要に応じて用いられる他の成分を押出機で溶融混練し、ペレット状に押し出すことにより調製することが好ましい。この押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリュウと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口とを有するものが、好ましく用いられ、さらに、シリンダーに設けられた1箇所以上のベント部を有するものが、より好ましく用いられる。
【0044】
液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステル樹脂組成物を成形することにより、ウェイストゲート筐体2を得ることができる。このときの成形法としては、溶融成形法が好ましい。溶融成形法としては、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法などの押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法およびプレス成形を例示することができるが、これらの中でも射出成形法が好ましい。
【0045】
ウェイストゲート1は以上のような構成を有するので、ターボチャージャによる過給エンジンにこのウェイストゲート1を装着すれば、排気ガスの余剰分を分流させてタービンへの流入量を調節することにより、タービンに付与される圧力を適正に抑えることができる。
【0046】
すなわち、タービン入口室の圧力が所定値を越えると、作動圧室14の圧力と大気開放室15の圧力(大気圧)との差圧がコイルスプリング6の弾性力より大きくなるため、ダイアフラム10がリテーナプレート11、12とともに押し下げられる。これに連動して、作動ロッド9が軸ガイド7に案内されつつ下方(図1の矢印A方向)に前進し、ウェイストゲートバルブ13が開く。その結果、排気ガスの一部(余剰分)がタービン室の手前でバイパスし、タービンへの流入量が減少するため、タービンに付与される圧力が抑えられることになる。
【0047】
逆に、タービン入口室の圧力が所定値未満になると、作動圧室14の圧力と大気開放室15の圧力(大気圧)との差圧がコイルスプリング6の弾性力より小さくなるため、ダイアフラム10がリテーナプレート11、12とともに押し上げられる。これに連動して、作動ロッド9が軸ガイド7に案内されつつ上方(図1の矢印B方向)に後退し、ウェイストゲートバルブ13が閉じる。その結果、排気ガスはすべてタービンへ流れ込み、過給エンジンのパワーが上昇することになる。
【0048】
このように、ウェイストゲート1を構成するウェイストゲート筐体2は、ロアーケーシング21およびアッパーケーシング22がともに液晶ポリエステルから構成されており、この液晶ポリエステルは、鉄やステンレスなどの金属に比べて比重が小さいので、ウェイストゲート筐体2を軽量化し、ひいてはウェイストゲート1全体を軽量化することができる。
【0049】
しかも、液晶ポリエステルは、そもそも耐熱性に優れることに加えて、アッパーケーシング22の一体成形によって導管22bを長くすることが可能であることから、導管22bに嵌着された吸気用チューブ3を発熱源(600〜700℃の高温になる排気ガス)から離した状態でウェイストゲート筐体2をウェイストゲートバルブ13に近づけることができる。その結果、ウェイストゲートバルブ13を開閉する作動ロッド9が短くなるため、ウェイストゲート1によるウェイストゲートバルブ13の動作性能が向上する。したがって、ウェイストゲートバルブ13は、作動時のレスポンスが良好になると同時に揺らぎが減少する。
【0050】
また、液晶ポリエステルは、振動減衰性能に優れるため、ウェイストゲート筐体2に接続された部品(例えば、吸気用チューブ3、作動ロッド9など)の振動による劣化を抑制することができる。
【0051】
また、液晶ポリエステルは、他の汎用樹脂に比べて熱膨張係数が小さいため、ウェイストゲート筐体2の周囲の気温が上昇しても、ロアーケーシング21の底孔21eと作動ロッド9との隙間が拡大して作動ロッド9が横ぶれする事態を回避することができる。
【0052】
さらに、アッパーケーシング22の導管22bはアッパーケーシング本体22aに一体に形成されているため、ウェイストゲート筐体2の製造コストを安価に抑えることができる。
【0053】
また、ウェイストゲート1の組立工程において、ダイアフラム10は、超音波溶着やレーザー溶着により、ロアーケーシング21およびアッパーケーシング22と一度に連結することが可能である。したがって、ウェイストゲート1の製造工程を簡略化し、その生産性を高めることができる。このとき、ロアーケーシング21とアッパーケーシング22との接合部に突起を設けて両者の接合面積を増大させることが好ましい。
【0054】
なお、ウェイストゲート筐体2の厚さは特に限定されない。ただし、ウェイストゲート筐体2の軽量化および振動減衰の観点からは、8mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。また、ロアーケーシング21とアッパーケーシング22とのレーザー溶着の容易性の観点からは、5mm以下が好ましい。このとき、レーザーを吸収するカーボンなどの充填材を含まないことが望ましいのは言及するまでもない。
[発明のその他の実施の形態]
【0055】
なお、上述した実施の形態1では、ウェイストゲート筐体2を構成する2つの部材、つまりロアーケーシング21とアッパーケーシング22の双方が液晶ポリエステルから構成されている場合について説明した。しかし、ロアーケーシング21とアッパーケーシング22のいずれか一方のみを液晶ポリエステルから構成するようにしても構わない。
【0056】
また、上述した実施の形態1では、2つの部材(ロアーケーシング21およびアッパーケーシング22)からなるウェイストゲート筐体2について説明したが、3つ以上の部材からなるウェイストゲート筐体2に本発明を同様に適用することも可能である。
【0057】
また、上述した実施の形態1では、アッパーケーシング22のアッパーケーシング本体22aに導管22bが一体に形成されている場合について説明した。しかし、アッパーケーシング22のアッパーケーシング本体22aとは別個に導管22bを用意しておき、インサート成形などにより、アッパーケーシング本体22aに導管22bを付設するようにしても構わない。
【0058】
また、上述した実施の形態1では、ポリイミド製の軸ガイド7を備えたウェイストゲート1について説明したが、この軸ガイド7の材料としては、ポリイミドに限るわけではない。例えば、動摩擦係数が小さくて耐摩耗性に優れる液晶ポリエステルは、軸ガイド7の材料として好適に使用することができる。
【0059】
さらに、上述した実施の形態1では、ウェイストゲート筐体2内の作動圧室14の圧力と大気開放室15の圧力との差圧を利用して作動ロッド9を作動させる圧力式のウェイストゲート1について説明した。しかし、ウェイストゲート筐体2を備えている限り、その他の方式(例えば、電動式など)のウェイストゲート1に本発明を同様に適用することも勿論できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、ターボチャージャによる過給エンジンに適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1……ウェイストゲート
2……ウェイストゲート筐体
3……吸気用チューブ
4……取付ベース
5……保持カップ
6……コイルスプリング
7……軸ガイド
8……Oリング
9……作動ロッド
9a……後端部
10……ダイアフラム
10a……周縁部
10b……中心部
11、12……リテーナプレート
13……ウェイストゲートバルブ
14……作動圧室
15……大気開放室
21……ロアーケーシング(部材)
21a……ロアーケーシング本体
21b……段付き部
21c……周縁部
21d……底部
21e……底孔
22……アッパーケーシング(部材)
22a……アッパーケーシング本体
22b……導管
22c……周縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の部材からなるウェイストゲート筐体であって、
前記部材のうち少なくとも1つが、液晶ポリエステルから構成されていることを特徴とするウェイストゲート筐体。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位を有することを特徴とする請求項1に記載のウェイストゲート筐体。
(1)−O−Ar1 −CO−
(Ar1 は、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表す。Ar1 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有することを特徴とする請求項2に記載のウェイストゲート筐体。
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または下記式(4)で表される基を表す。XおよびYは、それぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(−NH−)を表す。Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4 −Z−Ar5
(Ar4 およびAr5 は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表す。)
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のウェイストゲート筐体を有することを特徴とするウェイストゲート。

【図1】
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【公開番号】特開2012−177307(P2012−177307A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39257(P2011−39257)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】