説明

ウォーターポンプにおけるインペラ

【課題】エンジン回転数が低回転領域では吐出流量比率を一定にすることで吐出性能を維持し、高回転領域では吐出流量比率を低下させること。
【解決手段】収納ケース1と、複数の孔22a及び複数の円弧状長孔22bが設けられたインペラベース2と、内周側に回転軸32及び外周側に摺動軸33がそれぞれ設けられた羽根体3と、円板部の外周に長溝42aが形成された板カム4と、一つのねじりばね5とからなること。ねじりばね5及び板カム4は収納ケース1とインペラベース2内に収納され、この上面には複数の羽根体3が設けられていること。回転軸32がインペラベース2の孔22aに回転可能に挿入され、摺動軸33がインペラベース2の円弧状長孔22b及び板カム4の長溝42aに遊挿されていること。ねじりばね5の弾発力にてエンジンの低回転領域には摺動軸33がインペラベース2の円弧状長孔22bの外周に位置するように構成されること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン回転数が低回転領域では、吐出流量比率を一定にすることで吐出性能を維持し、高回転領域では、吐出流量比率を低下させるウォーターポンプにおけるインペラに関する。なお、本明細書では、吐出流量とはウォーターポンプが実際に吐き出す単位時間当たりの冷却水の流量のことを言い、吐出性能とは単位回転数当たりの吐出流量のことを言う。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の低燃費化に対する要請は益々高まってきている。それに対応するため、車両に搭載された各構成部品の高効率化に対する要望も益々高まってきている。車両に搭載された構成部品の中で、ウォーターポンプはエンジンや各種電子回路やヒータコア等の温度を調整し、最適な温度に保つという大事な機能を有する部品である。そのウォーターポンプには大きく分けて、機械駆動式のウォーターポンプと電気駆動式のウォーターポンプの2種類が存在する。電気駆動式のウォーターポンプは近年採用が増加しつつあるが、価格が高価であるため、使用されている割合としては機械駆動式のウォーターポンプの方が多いというのが現状である。
【0003】
一般にエンジンを冷却するために必要な冷却水の循環量は、エンジン回転数に対する比率で見た場合、高回転領域よりも低,中回転領域の方が比率は大きくなる傾向にある。これは、低,中回転領域のノッキングを抑制するためである。そのため、エンジン回転数が低い領域では絶対値は小さいものの、割合多くの冷却水の流量を必要とする。
【0004】
逆にエンジン回転数が高い領域では絶対値は大きいものの、必要とする冷却水の流量は比例ほどには上昇しない。またあまり冷却水の流量を多くするとキャビテーションが発生する恐れもある。しかしウォーターポンプの吐出流量は通常、回転数に比例する。そのような冷却水の要求流量に対応したウォーターポンプとして特許文献1が挙げられる。特許文献1の構成としては、インペラの中心部が板ばね支持部25とされ、インペラの内周寄りには各羽根ごとに変形する板ばね24が配置され、板ばね24の一端が羽根13に支持され、板ばね24の他端が板ばね支持部25に支持されている。インペラの外周寄りには変形しないが移動する構造体である羽根13が配置される。
【0005】
ウォーターポンプのインペラが高回転になればなるほど、羽根13の回転速度も速くなるため、羽根13に作用する水圧の力も大きくなり、羽根13は回転方向と反対方向に向かって揺動する。具体的には特許文献1の図2で言えば、羽根13は実線から点線に移動する。これによって羽根13の外径はウォーターポンプのインペラが高回転になればなるほど小さくなり、ウォーターポンプの吐出流量は絶対値は大きいものの、回転数の比例よりは少なくなるものである。このような制御を行うことによって、エンジン回転数が低回転領域での冷却水の流量の確保とエンジン回転数が高回転領域での無駄仕事の削減及びキャビテーションの抑制を図っている。なお、本明細書で羽根の外径とは羽根の最外周の通過する仮想円の外径を指す。
【0006】
但し特許文献1では次のような課題が残されている。特許文献1の羽根13は水圧の力を受け、その水圧の力と板ばね24の力のバランスによって羽根13の揺動する量が決まるが、板ばね24や羽根13の個々の特性・形状にはどうしてもバラツキがあることから、羽根13の揺動する量(傾き角度)もそれぞれの羽根13ごとに異なるものとなる。羽根13の揺動する量がそれぞれの羽根13ごとに異なると、それぞれの羽根13に作用する水圧の力がより一層バラついてしまい、それによってより一層、羽根13の揺動する量
がバラついてしまうという悪循環となる。このようにそれぞれの羽根13の揺動する量がバラつくと、ウォーターポンプの吐出性能もバラついてしまい、所望の吐出性能とすることは難しいという欠点がある。
【0007】
特許文献1のような水圧の力によるインペラの移動では無く、水温によるインペラの移動ではあるが、それぞれの羽根の移動量を均一にした構成として特許文献2が挙げられる。特許文献2では1枚の可動板13に羽根の枚数と同数の直状スリット16が設けられ、この直状スリット16にピン14aを係合したポンプインペラ14が直状スリット16内を移動可能、且つピン14aを中心に旋回可能に枢支されている。またポンプインペラ14の上流且つ中心にはバイメタル(感熱駆動源)15が配置され、バイメタル15は冷却水の温度によって変形して可動板13にバネ力を付与する。
【0008】
冷却水温度の高低によってバイメタル15は伸縮し、それに伴って可動板13は回転方向に回動する。ポンプインペラ14は可動板13に接続されているため、可動板13が回動することで、ポンプインペラ14も移動する。具体的には冷却水温度が高い時はポンプインペラ14を径方向の外側に移動させることで、ポンプインペラ14の外径が大きくなり、ウォーターポンプの吐出性能が増加する。冷却水の温度が低い時はポンプインペラ14を内周側に移動させることで、ポンプインペラ14の外径が小さくなり、ウォーターポンプの吐出性能は減少する。
【0009】
このようにして冷却水の温度が高い時はオーバーヒートを抑制し、冷却水の温度が低い時は無駄仕事を抑制している。しかし特許文献2の構成では、バイメタル(感熱駆動源)15で全部のポンプインペラ14を回動駆動させているため、特許文献1のような回転数の大小による羽根駆動は行えない。またバイメタル15がポンプインペラ14の上流且つポンプインペラ14の外部にはみ出して配置されているため、バイメタル15によって冷却水の流れが乱され、吐出性能が低下したり、キャビテーションの発生要因となったりする恐れがある。またバイメタルは刻々に変化する冷却水の温度に対してレスポンスが良く反応できない恐れがある。これによってエンジン回転数が高い領域での吐出性能と効率の低下が懸念される。特に、特許文献2の図1では、バイメタル15は回転軸11に軸支されているが、一般にウォーターポンプの回転軸11は強度を保つために軸受鋼であるため非常に硬く、図1のように回転軸11の先端に軸を設ける加工は時間と費用がかかるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−208393
【特許文献2】特開平10−122177
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このため、本発明が解決しようとする課題(技術的課題又は目的等)は、遠心力が作用しながらも、エンジン回転数が低回転領域では羽根の外径を大きくすることで吐出性能を高くし、エンジン回転数が高回転領域では羽根の外径を小さくすることで吐出性能を低くすることで無駄仕事の削除及びキャビテーションの抑制を図ったウォーターポンプのインペラを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、収納ケースと、仮想内周円側に複数の孔及び仮想外周円側に複数の円弧状長孔がそれぞれ設けられ且つ前記収納ケース上に固定するインペラベースと、内周側に回転軸及び外周側
に摺動軸がそれぞれ設けられた羽根体と、円板部の外周側に長溝が形成された板カムと、一つのねじりばねとからなり、該ねじりばね及び前記板カムは前記収納ケースとインペラベース内に収納され、該インペラベース上面には前記複数の羽根体が設けられ、該羽根体の回転軸が前記インペラベースの孔に回転可能に挿入され、前記羽根体の摺動軸が前記インペラベースの円弧状長孔及び前記板カムの長溝に遊挿され、前記ねじりばねの弾発力にてエンジンの低回転領域には前記摺動軸が前記インペラベースの円弧状長孔の外周側に位置するように構成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラとしたことにより、前記課題を解決した。
【0013】
請求項2の発明を、請求項1において、エンジンの高回転領域には前記羽根体に加わる水圧の力にて前記ねじりばねの弾発力に抗して前記摺動軸が前記インペラベースの円弧状長孔の内周側に位置するように構成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラとしたことにより、前記課題を解決した。また、請求項3の発明を、請求項1又は2において、前記板カムの長溝は前記円板部の最外周の周縁に外周側が開放されるように構成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラとしたことにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明においては、エンジンの低回転領域ではねじりばねの弾発力が相対的に最も大きいため、羽根体の外径を大きくできるため、割合の多くの冷却水の流量が必要なエンジンの低回転領域における冷却水の流量の確保及びエンジンのノッキングを抑制できる。また本発明は一つのねじりばねにて全ての羽根体の位置を移動させているため、それぞれの羽根体の位置がバラつくことが無い。本特徴により、ウォーターポンプの吐出性能がバラつくことが無く、所望の吐出性能とすることができる。更に本発明はインペラ部分のみで構成されており、インペラ部分以外に、はみ出すような部材は配置されていないので、冷却水の流れが乱れることが無く、十分な吐出性能を確保できる。またインペラ部分以外のウォーターポンプ部分は全く変更する必要が無いため、既存品への適応も容易に行える利点がある。
【0015】
請求項2の発明においては、エンジンの高回転領域ではねじりばねの弾発力、羽根体にかかる水圧の力、羽根体にかかる遠心力の釣り合いにより羽根体の外径を小さくできるため、エンジンの高回転領域におけるウォーターポンプの無駄仕事の削減及びキャビテーションの抑制を図ることができる効果を奏する。請求項3の発明においては、板カムの長孔は円板部の最外周の外周側が開放されているため、板カムの円板部の外径を極力小さくすることができる。これにより板カムの円板部の径方向外周側に配置された収納ケースの径方向大きさを小さくできるため、インペラの吐出性能に直接寄与しない箇所(収納ケース等)の省スペース化、軽量化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は本発明の平面図、(B)は(A)の(ア)部拡大図、(C)は(A)の適宜な箇所の断面図である。
【図2】本発明を分解した各要素の斜視図である。
【図3】(A)は低回転領域における本発明の平面図、(B)は(A)においてねじりばね及び板カムが作用している状態図、(C)は高回転領域における本発明の平面図、(D)は(C)においてねじりばね及び板カムが作用している状態図である。
【図4】(A)は低回転領域における本発明の要部平面図、(B)は(A)における(イ)箇所の拡大状態図、(C)は高回転領域における本発明の要部平面図、(D)は(C)における(ウ)箇所の拡大状態図である。
【図5】吐出流量又は吸入圧とエンジン(ポンプ)回転数との作動時特性グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1乃至図2は本発明の実施形態を示すものである。本発明のウォーターポンプのインペラは、主に、収納ケース1,インペラベース2,羽根体3,板カム4,ねじりばね5とから構成されている。前記収納ケース1は、中央のボス部11の下端より外方に底部円板12が形成され、該底部円板12の最外周に立上り部13が形成されている。また前記収納ケース1は一体部材とすれば製造上有利である。前記ボス部11と立上り部13とは同等高さに形成されている。前記ボス部11と底部円板12と立上り部13との収納箇所に、前記板カム4及びねじりばね5が収納される。前記ボス部11には、ウォーターポンプの回転軸Sが挿入固定される。なお、ボス部11の孔部11aと回転軸との固定手段としては、インペラベース2と同様に、キー止め若しくは圧入等であるが、キー止めの場合は前記ボス部11の孔部11a内にキー溝が設けられることもある。
【0018】
前記インペラベース2は、円板形状であり、平面的には前記収納ケース1と同形状をなしている。中央箇所には、前記ボス部11と平面的には同形状で、高さが低いボス部片21が形成され、該ボス部片21の中心には孔部21aも形成され、前記ボス部11の孔部11aと同径である。前記ボス部片21の外周には上部主板22が設けられ、該上部主板22の最外周が前記インペラベース2の外径と一致しており、前記インペラベース2が前記収納ケース1の上側に載置されて蓋としての役割をなす。
【0019】
また、前記ボス部片21の孔部21aと回転軸とは、前記収納ケース1と同様に固定される。前記インペラベース2の上部主板22の内周寄りの仮想内周円には等間隔に孔22aが設けられている。また、前記インペラベース2の上部主板22の外周寄りの仮想外周円には等間隔に円弧状長孔22bが設けられている。
【0020】
前記羽根体3は、単位羽根31と、該単位羽根31の付け根の内周側には回転軸32が、その付け根の外周側には摺動軸33がそれぞれ設けられている。前記回転軸32は、前記上部主板22の孔22aに挿入され、前記摺動軸33は前記上部主板22の円弧状長孔22bに遊挿され、このために、前記羽根体3は、インペラベース2上で回転軸32を中心として適宜の角度揺動可能に構成されている。
【0021】
前記羽根体3の単位羽根31は側面から見て山形状で薄肉に形成され、該単位羽根31の下端には、厚肉の補強部34が設けられている。該補強部34の下側に前記回転軸32及び摺動軸33が形成されている。さらに、高回転領域となって単位羽根31相互が近接するようになったときに、より重なるように凹部35が形成されている。特に、前記回転軸32は前記上部主板22の厚さを若干超える程度の長さ、摺動軸33は上部主板22の厚さを超えて前記板カム4の下面まで達するように構成され、そこで抜け落ちないようにクリップなどで固定されている。
【0022】
前記板カム4は、前記インペラベース2内に収納される部材であって、前記板カム4の中央には、円筒部41が形成され、該円筒部41の外周側に円板部42が形成されている。該円板部42の外径は、前記収納ケース1内に収納されるように僅かに小径となるように形成されている。具体的には、前記板カム4の円筒部41が、前記ボス部11の外周部に回転可能に遊挿されつつ、円板部42が収納ケース1内に収納される。前記円板部42の外周側の全周囲に等間隔をおいて前記羽根体3と同数の長溝42aが放射方向に形成されている。該長溝42aは径方向に長く形成される。この長溝42aには前記羽根体3の外周側の摺動軸33が遊挿される。前記長溝42aは径方向外周側(外側)が開放されるように形成されている。
【0023】
前記ねじりばね5は、輪状のスプリングであり、前記収納ケース1と前記板カム4との間に設けられている。つまり、前記板カム4の円板部42の下面と、前記底部円板12の上面との間に、前記ねじりばね5が介在され、インペラを回転方向に弾発するように設けられている。具体的には、前記円板部42の下面であって、前記ボス部11の外周位置の係止部43に渦巻き形状(輪状に近い)の前記ねじりばね5の内側屈曲端5aが係止され、且つ前記底部円板12の上面であって、前記収納ケース1の立上り部13内に形成された係止部14に前記ねじりばね5の外側屈曲端5bが係止されている。
【0024】
このように、前記板カム4をインペラの回転方向に弾発させることによって、羽根体3をインペラの回転方向に付勢する。前記ねじりばね5の力の大きさとしては、エンジンの狙い回転数にて前記羽根体3に加わる水圧の力及び羽根体3に加わる遠心力と同等とするように設定する。狙い回転数としては、アイドリング回転数及びMAX回転数以外の回転数領域で適宜設定される。
【0025】
インペラベース2の仮想外周円側の複数の円弧状長孔22bについて説明する。該円弧状長孔22bの外周側の位置〔図1(B)で上側〕に前記羽根体3の摺動軸33が位置したときは〔図1(B)においてのインペラベース2の中心Oを中心としたときに外周側となる〕、ウォーターポンプが低回転領域の羽根体3のセット位置である〔図3(A)及び(B)参照〕。つまり、ウォーターポンプが低回転領域には、羽根体3は、回転軸32を中心として摺動軸33が円弧状長孔22bの外周側の位置に摺動して、前記羽根体3の単位羽根31の外径が最も大きくなり、且つ単位羽根31の傾斜角も最大となっている。傾斜角とは一般にウォーターポンプ分野で使用される出口角の意味である。
【0026】
また、前記インペラベース2の外周寄りの円弧状長孔22bの内周側の位置〔図1(B)で下側〕はウォーターポンプが高回転領域における羽根体3のセット位置である〔図3(C)及び(D)参照〕。ウォーターポンプが高回転領域時には、羽根体3は、回転軸32を中心として摺動軸33が円弧状長孔22bの内周側の位置に摺動して羽根体3の外径が最も小さくなり、且つ単位羽根31の傾斜角も最小となっている。また別の表現をすれば、インペラベース2の外周寄りの円弧状長孔22bの内周側の位置は羽根体3を断面で見た時のインペラの回転方向後方側の面と回転方向後方側の次の羽根体3とが極近接する位置に配置されれば羽根体3の外径を最も小さくできるためベストである。
【0027】
前述したように、羽根体3は、回転軸32を中心として回動するが、外周側の摺動軸33は、前記板カム4の長溝42aも貫通しているため、前記板カム4が円周方向に回動すると連動して前記ねじりばね5も変形する。該ねじりばね5の変形と同時に前記板カム4が円周方向に回動することで前記全ての羽根体3の摺動軸33を同時に摺動させる。これらは、エンジン回転数による水圧の力に影響される。
【0028】
つまり、エンジン回転数の低回転領域では水圧の力が小さいために、前記ねじりばね5の弾発力にて作用図のように傾斜角が大きくなっているが、エンジン回転数が高回転領域では水圧の力が大きいために、前記ねじりばね5の弾発力に抗して羽根体3の回転面を押圧して前記ねじりばね5に打ち勝って前記板カムが回転方向反対側に回転して羽根体3の傾斜角が小さくなって、回転方向に隣接する羽根体3同士は、極近接する。
【0029】
前記ねじりばね5は、前述したように、前記収納ケース1とインペラベース2との間に収納されており、羽根体3の動作する範囲には露出しない構成となっている。前記ねじりばね5は、渦巻き形状をしたスプリングであるが、実施形態としては、一重巻きとなっており、この力の大きさはスプリングの線径、スプリングの巻き数、スプリングが1周するその1周の径、スプリングの材質等を考慮して適宜決定される。また、ねじりばね5の力に釣り合う水圧の力は、羽根体3が回転することにより「羽根体3が受ける水の圧力」×
「羽根体3の面積」により決定される。つまり、力=圧力×面積である。更に羽根体3に加わる遠心力も考慮する。
【0030】
このような計算に基づいて、エンジン回転数が高回転領域では、ねじりばね5の力と比べて羽根体3が受ける水圧の力の方が大きくなる。エンジン回転数が低回転領域ではねじりばね5の力と比べて羽根体3が受ける水圧の力の方が小さくなる。エンジン回転数が所定回転数になるとねじりばね5によって押さえつけられていた羽根体3の摺動軸33がインペラベース2の円弧状長孔22bの中を内周側に向かって摺動し始める。この状態では、ねじりばね5の力と羽根体3が受ける水圧の力は同一となる。
【0031】
一般にスプリング(ねじりばね5)を圧縮側で使用する場合は、圧縮すればするほどスプリングの力は大きくなっていく。すなわち、羽根体3の摺動軸33が内周側に移動すればするほど、ねじりばね5の力は大きくなっていく。しかしながら、エンジン回転数が更に上昇することにより水圧の力の大きくなるので、エンジン回転数が所定の高回転数になると羽根体3の摺動軸33がインペラベース2の円弧状長孔22bの内周端に到達する。この状態までは、ねじりばね5の力と羽根体3が受ける水圧の力は同一となる。
【0032】
これ以上は羽根体3の摺動軸33は移動できないため、ねじりばね5もこれ以上は圧縮されない。よってこれ以上エンジン回転数が上昇した場合には、上述のようにねじりばね5の力と比べて羽根体3が受ける水圧の力の方が大きくなる。このように、エンジン回転数が低回転領域では羽根体3の摺動軸33は、インペラベース2の円弧状長孔22bの最外周端に位置しており、且つ板カム4の長溝42aの最外周に位置している。エンジン回転数が高回転領域では羽根体3の摺動軸33は、インペラベース2の円弧状長孔22bの最内周端に位置しており、且つ板カム4の長溝42aの最内周端に位置している。
【0033】
以上のような構成において、特に、ねじりばね5(バネ力をF)と水圧の力(羽根体3全体に加わる水圧の力をP)とし、これらの作用を簡単に説明する。図3(A)及び図4(A)において、前記ねじりばね5によって、バネ力Fにて同図において板カム4が左回転するように作用され、その長溝42a及び円弧状長孔22bにて最外周側に位置され〔図3及び4の各(A)並びに図4(B)参照〕、前記回転体3は、単位羽根31の外径が最も大きくなり、且つ単位羽根31の傾斜角α〔図3(A)参照〕も最大となっている。
【0034】
エンジン回転数が低回転領域(いわゆるアイドリング回転数近傍)でも無く、高回転領域(MAX回転数近傍)でも無い、いわゆる中回転領域である所定の回転数では羽根体3の摺動軸33は、インペラベース2の円弧状長孔22b内を外周端から内周側に向けて移動し始めるようになる。
【0035】
そして、エンジンの回転数が増加し、高回転領域に達すると、前記羽根体3全体に水圧の力Pが加わると、今度は、前記ねじりばね5の弾発力に抗して羽根体3の水圧の力Pが打ち勝って前記板カムが回転方向反対側〔図3(C)及び(D)において右方向〕(図)に回転して羽根体3の傾斜角αが小さくなって、回転方向に隣接する羽根体3同士は、極近接して、単位羽根31の外径が最も小さくなり傾斜角α〔図3(C)参照〕も最小となる。高回転領域では羽根体3に加わる遠心力も大きくなり、該遠心力は径方向外周側に加わる。よって右回転する力としてはP−F(−遠心力)となる。
【0036】
このような構成において、インペラを安定して高速回転するためには、バランス構成が必要になる。つまり、一例としては、前記板カム4の円板の外周寄り且つ下側には、重りの機能を有する略四角形状の突起部を一体形成することで、回転時のバランスを保持する。さらに、収納ケース1の円板の径方向外周寄りにはやや大きめの貫通孔が設けられ、これによってアンバランスの除去を図る。さらに、具体的には、材質、構成によってバラン
ス保持構成が行われる。
【0037】
また、図5に示すように、吐出流量又は吸入圧とエンジン(ポンプ)回転数との作動時特性において、エンジンが所定回転数以下である低回転領域では、インペラ外径が最大となって、吐出性能を高く(吐出流量を多くでき:ポンプ容量大)でき、エンジン回転数が高回転領域では吐出性能を低く(吐出流量を少なくでき:ポンプ容量小)できる。また、図5においては、消費動力の推移により高回転域におけるウォーターポンプの無駄仕事が削減されていることが読み取れる。
【符号の説明】
【0038】
1…収納ケース、2…インペラベース、22a…孔、22b…円弧状長孔、
3…羽根体、32…回転軸、33…摺動軸、4…板カム、42…円板部、42a…長溝、5…ねじりばね。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納ケースと、仮想内周円側に複数の孔及び仮想外周円側に複数の円弧状長孔がそれぞれ設けられ且つ前記収納ケース上に固定するインペラベースと、内周側に回転軸及び外周側に摺動軸がそれぞれ設けられた羽根体と、円板部の外周側に長溝が形成された板カムと、一つのねじりばねとからなり、該ねじりばね及び前記板カムは前記収納ケースとインペラベース内に収納され、該インペラベース上面には前記複数の羽根体が設けられ、該羽根体の回転軸が前記インペラベースの孔に回転可能に挿入され、前記羽根体の摺動軸が前記インペラベースの円弧状長孔及び前記板カムの長溝に遊挿され、前記ねじりばねの弾発力にてエンジンの低回転領域には前記摺動軸が前記インペラベースの円弧状長孔の外周側に位置するように構成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラ。
【請求項2】
請求項1において、エンジンの高回転領域には前記羽根体に加わる水圧の力にて前記ねじりばねの弾発力に抗して前記摺動軸が前記インペラベースの円弧状長孔の内周側に位置するように構成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記板カムの長溝は前記円板部の最外周の周縁に外側が開放されるように構成されてなることを特徴とするウォーターポンプにおけるインペラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−226343(P2011−226343A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95539(P2010−95539)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】