説明

ウォームホイール及びその製造方法並びに電動パワーステアリング装置

【課題】小型、安価で且つ強度、耐久性に優れたウォームホイールを提供すること。
【解決手段】ウォームホイール31が、金属製の歯部32と、歯部32の軸方向X1の中央部を横切る周溝34とを備える。歯面37の軸方向X1の中央部が、周溝34によって欠落している。歯部32の歯面37は、鍛造により形成される。周溝34は歯底36に達し、歯面37は周溝34の両側の一対の部分37a,37bに分割されている。周溝34を潤滑剤の供給経路として、周溝34から歯面37の一対の部分37a,37bへ潤滑剤を潤沢に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームホイール及びその製造方法並びに電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
減速ギヤとしてのウォームホイールを、芯金と、芯金の外周に配置された樹脂製のギヤ部とで構成する電動パワーステアリング装置の減速機構が提案されている(例えば特許文献1,2を参照)。
バックラッシに起因する歯打ち音を低減するために、特許文献1では、ギヤ部を軸方向に分割されて軸方向に相対移動可能な一対の半体で構成し、前記半体を付勢部材によって接近する方向に付勢している。また、特許文献2では、ウォームホイール全体を、軸方向に分割されて軸方向に相対移動可能な一対の半体で構成し、付勢部材によって前記半体を互いに接近する方向に付勢している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−355700号公報
【特許文献2】特開2004−26102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電動パワーステアリング装置の高出力化に伴って、減速機構が大型化しており、電動パワーステアリング装置の車両へのレイアウトが非常に厳しくなってきている。特許文献1,2のように、ウォームホイールのギヤ部として樹脂を用いた場合、強度を満足するためにウォームホイールが大型になる傾向にある。また、高強度に耐え得る樹脂は高価であり、製造コストが高くなる。
【0005】
そこで、金属ギヤを用いることが考えられる。しかしながら、円筒形のウォーム(例えば横断面歯形が台形であるJIS3形)と鼓形のウォームホイール(横断面歯形がインボリュートである)とを噛み合わせた場合、両ギヤの接触線とウォームの滑り方向とのなす角度(交差角)が小さい領域(ウォームホイールの歯面の軸方向の中央部に略相当)において、潤滑油膜が切れ易いという問題がある。したがって、ウォームホイールの前記領域において、摩耗や発熱を生じ、耐久性が悪くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、小型、安価であり且つ強度および耐久性に優れたウォームホイール及びその製造方法並びに電動パワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、歯面(37;137;337)を含む金属製の歯部(32;132;332)と、前記歯部の軸方向(X1)の中央部を横切る周溝(34;134;334)と、を備え、前記歯面の軸方向の中央部が、前記周溝によって欠落しているウォームホイール(31;131;231;331)を提供する。
また、請求項2のように、前記歯面において、前記歯面のなすウォームホイール歯形およびウォーム(20)の接触線(CL)と、前記ウォームの滑り方向(S1)とのなす角度(B)が閾値(B1)以下(B≦B1)である領域(E1)が、前記周溝によって欠落している場合がある。
【0008】
また、請求項3のように、前記歯部は、単一の材料で一体に形成されており、前記歯面は、鍛造により形成されている場合がある。
また、請求項4のように、前記金属製の前記歯部を、軸方向に分割された一対の半体(51,52)で構成し、前記一対の半体間に介在し、両半体を連結した弾性体(40)を備え、前記一対の半体間に、前記周溝が形成されている場合がある。
【0009】
また、請求項5のように、前記周溝は、歯底(36;336)に達しており、前記歯面は、前記周溝の両側に配置された一対の部分(37a,37b;137a,137b;337a,337b)に分割されている場合がある。
また、請求項6のように、前記周溝は、歯底に向かうにしたがって幅が拡がる幅広部(138;338)を含む場合がある。
【0010】
また、請求項7の発明は、前記に記載のウォームホイールとウォームとを含む減速機構(19)を介して、電動モータ(18)の回転を減速する電動パワーステアリング装置(1)を提供する。
また、請求項8の発明は、鍛造により形成された歯面を含み、単一の材料で一体に形成された金属製の歯部と、前記歯部の軸方向の中央部を横切る周溝と、を備え、前記歯面の軸方向の中央部が、前記周溝によって欠落しており、前記周溝は、歯底に向かうにしたがって幅が広くなる幅広部を含むウォームホイールの製造方法であって、製造用中間体(M)の歯部(M2)の歯先(M3)を加圧することにより、前記製造用中間体の周溝(M1)の入口の幅を狭めて、前記幅広部を得るウォームホイールの製造方法を提供する。
【0011】
また、前記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、金属製の歯部を用いるので、安価に高強度を達成することができる。また、潤滑油膜切れを起こし易い、歯面の軸方向の中央部に、周溝を設けており、その周溝が、潤滑剤の供給経路となるので、周溝から歯面の残りの部分へ潤滑剤が潤沢に供給される。したがって、潤滑性が向上する。潤滑性が向上するので、大型化せずとも耐久性を向上することができ、可及的に小型化を達成することができる。また、周溝の形成による材料低減によって、より小型化を達成することができる。
【0013】
また、請求項2の発明によれば、周溝によって、ウォームホイール歯形およびウォームの接触線とウォームの滑り方向とのなす角度が閾値以下の領域が欠落している。この領域を除く領域では、前記接触線と前記滑り方向とのなす角度が閾値を超えた値となるので、歯面全体として油膜切れを生じ難く、円滑な潤滑を確保することができる。したがって、長期にわたって摩耗を抑制して耐久性を格段に向上することができる。
【0014】
また、請求項3の発明によれば、一方向からの鍛造のときにアンダーカットとなるおそれのある部分が、欠落した構成であるので、鍛造によって歯面を容易に形成することができる。
また、請求項4の発明によれば、歯部を、軸方向に分割されて弾性体で連結された一対の半体で構成し、一対の半体間に周溝を形成したので、金属製の歯部を軸方向からの鍛造で容易に形成することができ、また、歯部を横切る周溝を有するウォームホイールを容易に形成することができる。弾性体としては、射出成形のときに一対の半体に固定される樹脂であってもよい。
【0015】
請求項5の発明によれば、歯面が周溝の両側の一対の部分に完全に2分割される一方、歯底まで達する深い周溝に十分な量の潤滑剤を溜めることができる。その結果、2分割された歯面に、周溝から潤沢に潤滑剤を供給することができる。
また、請求項6の発明によれば、幅広部を有する周溝に十分な潤滑剤を保持することができ、潤滑性をより向上することができる。
【0016】
また、請求項7の発明によれば、小型、安価で強度、耐久性に優れた電動パワーステアリング装置を実現することができる。
また、請求項8の発明によれば、周溝が形成された製造用中間体の歯部の歯先を加圧することにより、周溝の入口の幅を狭めて、容易に幅広部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係るウォームホイールが適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】ウォームホイールの要部の拡大斜視図である。
【図3】ウォームホイールの要部の断面図である。
【図4】凹部を設けない場合のウォームホイールとウォームの噛み合い状態を示す参考図としての模式的断面図である。
【図5】本発明の別の実施の形態に係るウォームホイールの要部の断面図である。
【図6】図5のウォームホイールの一製造工程を示す断面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施の形態に係るウォームホイールの要部の断面図である。
【図8】本発明のさらに別の実施の形態に係るウォームホイールの要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は本発明の一実施の形態のウォームホイールが適用された電動パワーステアリング装置1の模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、操舵部材としてのステアリングホイール2と、ステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を操舵する操舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と操舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0019】
本実施の形態では、操舵補助機構5がステアリングシャフト6にアシスト力(操舵補助力)を与える例に則して説明する。しかしながら、本発明を、操舵補助機構5が後述するピニオン軸にアシスト力を与える構造に適用することも可能である。
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。
【0020】
ステアリングシャフト6の周囲に配置されたトルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に入力された操舵トルクを検出する。トルクセンサ11のトルク検出結果は、操舵補助のためのモータ制御装置としてのECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)12に入力される。また、車速センサ90からの車速検出結果がECU12に入力される。中間軸7は、ステアリングシャフト6と操舵機構4とを連結している。
【0021】
操舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示せず)を介して転舵輪3が連結されている。
ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端(図1では下端)には、ピニオン16が設けられている。
【0022】
ラック軸14は、自動車の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の途中部には、前記ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることで、転舵輪3を転舵することができる。
【0023】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助用の電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを操舵機構4に伝達するための伝達機構としての減速機構19とを含む。減速機構19は、駆動ギヤとしてのウォーム20と、このウォーム20と噛み合う減速ギヤとしてのウォームホイール31とを含む。減速機構19は、ギヤハウジング21内に収容されている。ギヤハウジング21内において、ウォーム20とウォームホイール31との少なくとも噛み合い領域には、グリース等の潤滑剤が充填されており、ウォーム20およびウォームホイール31の歯面間には、潤滑剤が介在している。
【0024】
ウォーム20は、図示しない継手を介して電動モータ18の回転軸(図示せず)に連結されている。ウォーム20は、電動モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール31は、ステアリングシャフト6とは一体回転可能に連結されている。
電動モータ18がウォーム20を回転駆動すると、ウォーム20によってウォームホイール31が回転駆動され、ウォームホイール31およびステアリングシャフト6が一体回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォーム20を回転駆動することで、転舵輪3が転舵されるようになっている。
【0025】
電動モータ18は、三相ブラシレスモータからなり、モータ制御装置としてのECU12によって制御される。ECU12は、トルクセンサ11からのトルク検出結果、車速センサ90からの車速検出結果等に基づいて電動モータ18を制御する。具体的には、ECU12では、トルクと目標アシスト量との関係を車速毎に記憶したマップを用いて目標アシスト量を決定し、電動モータ18の発生するアシスト力を目標アシスト量に近づけるように制御する。
【0026】
図2に示すように、ウォームホイール31は、歯部32と歯溝33を交互に並べて備えている。歯溝33は径方向外方R1には開放しているが、軸方向X1には開放していない。
また、ウォームホイール31は、歯部32の軸方向X1の中央部を当該ウォームホイール31の全周にわたって横切る周溝34とを備えている。周溝34は、各歯部32の歯先35から歯底36まで達している。これにより、各歯部32の歯面37は、周溝34の両側に配置された一対の部分37a,37bに分割されている。
【0027】
ウォームホイール31が進み角を持っているので、歯すじ方向W1は軸方向X1に対して傾斜している。歯部32の軸方向X1の中央部は、歯すじ方向W1の中央部にも相当している。
複数の歯部32を含むウォームホイール31の全体が単一の材料(例えばS25C等の鋼)で一体に形成されている。歯面37は鍛造により形成されている。
【0028】
本実施の形態によれば、金属製の歯部32を用いるので、安価に高強度を達成することができる。また、潤滑油膜切れを起こし易い、歯面37の軸方向X1の中央部に、周溝34を設けており、その周溝34が、潤滑剤の供給経路となるので、周溝34から歯面37の残りの部分である一対の部分37a,37bへ潤滑剤が潤沢に供給される。
したがって、歯面37の潤滑性が向上する。潤滑性が向上するので、大型化せずとも耐久性を向上することができ、可及的にウォームホイール31の小型化を達成することができる。また、周溝34の形成による材料低減によって、ウォームホイール31をより小型化を達成することができる。ひいては、小型、安価であり且つ強度および耐久性に優れた減速機構19および電動パワーステアリング装置1を実現することができる。
【0029】
図4は、周溝34を設けない場合のウォームホイール歯形を有する歯面37’を含むウォームホイール31’とウォーム20との噛み合い状態を示す参考図としての模式的断面図である。図4では、歯面37’の歯形形状であるウォームホイール歯形とこれに噛み合うウォーム20との接触線CLが実線で示されている。また、ウォーム20の滑り方向S1が、ウォーム20の中心軸線を中心とする同心円として一点鎖線で示されている。
【0030】
図4において、接触線CLと滑り方向S1とのなす角度Bが、閾値B1以下(B≦B1。閾値B1は、5〜10°の範囲内の値、例えば10°に設定される。)となる領域E1では、潤滑剤による油膜の形成が困難である。
したがって、本実施の形態の周溝34は、領域E1を含むように形成されることが好ましい。これにより、周溝34によって歯面37の軸方向X1の中央部とウォーム20との噛み合いが回避される。また、歯面37において、周溝34の両側の部分37a,37bでは、接触線CLとウォーム20の滑り方向S1とのなす角度Bが閾値B1を超えた値(B≧B1)となるので、歯面37全体として油膜切れを生じ難く、円滑な潤滑を確保することができる。したがって、長期にわたって摩耗を抑制して耐久性を格段に向上することができる。
【0031】
閾値B1は、図示していないが、ウォームホイール歯形形状にウォームに相当する円筒を線接触させ、その円筒を閾値B1に相当する角度だけ傾斜させて滑らせたときに、ウォームホイール歯形形状における油膜の形成状況を実験的に求めることにより、好ましい値に決定される。
また、ウォームホイール31では、一方向からの鍛造のときにアンダーカットとなるおそれのある部分(歯面37の軸方向X1の中央部)が、欠落した構成であるので、鍛造によって歯面37を容易に形成することができる。
【0032】
次いで、図5は本発明の別の実施の形態のウォームホイールの要部の断面図である。本実施の形態が図3の実施の形態と異なる構成は下記である。すなわち、図3の実施の形態では、周溝34の深さに拘らず幅が実質的に一定(厳密には、鍛造型の抜き勾配があるので、深さが深くなるにしたがって幅が漸減する状態)であった。これに対して、本実施の形態では、ウォームホイール131の周溝134が、深さが深くなるにしたがって幅が広くなる幅広部138を有している。
【0033】
ウォームホイール131は単一の材料(例えばS25C等の鋼)で一体に形成されている。ウォームホイール131は、歯溝133を有している。ウォームホイール131の歯部132の歯面137が、周溝134の両側の一対の部分131a,131bに分割されている。
具体的には、図6に示すように、深さに拘らず幅が一定である周溝M1が形成された製造用中間体Mの、歯部M2の歯先M3を加圧することにより、図中、一点鎖線で示すように、周溝M1の両壁を内側へ迫り出させて、周溝M1の入口の幅を狭め、図5に示すような幅広部138を有するウォームホイール131を得る。図6では、示されていないが、製造用中間体Mが軸方向X1に拡がらないように、製造用中間体Mの軸方向X1の端面が両側から押さえられている必要がある。
【0034】
本実施の形態では、図3の実施の形態と同じく、小型、安価で強度、耐久性に優れたウォームホイール131を実現することができる。しかも、幅広部138を有する周溝134に十分な潤滑剤を保持することができ、潤滑性をより向上することができる。また、鍛造によって、周溝134に幅広部138を容易に形成することができる。
次いで、図7は本発明のさらに別の実施の形態のウォームホイールの要部の断面図である。本実施の形態が図5の実施の形態と異なるのは下記である。すなわち、図5の実施の形態では、ウォームホイール131の歯溝133が、軸方向X1に開放していなかった。これに対して、本実施の形態では、ウォームホイール231の歯溝233が、軸方向X1の両側に開放している。ウォームホイール231は単一の材料(例えばS25C等の鋼)で一体に形成されている。
【0035】
本実施の形態の構成要素において、図5の実施の形態の構成要素と同じ構成要素には、図5の実施の形態の構成要素の参照符号と同じ参照符号を付してある。本実施の形態によれば、図5の実施の形態と同じく、小型、安価で強度、耐久性に優れたウォームホイール231を実現することができる。しかも、ウォームホイール231を軸方向X1に一層小型化することができる。また、歯溝233が軸方向X1に開放しているので、周溝134からだけでなく、軸方向X1の両側からも歯溝233内へ潤滑剤が供給される。したがって、潤滑性がより向上する。
【0036】
次いで、図8は、本発明のさらに別の実施の形態を示している。本実施の形態が図5の実施の形態と異なるは、下記である。すなわち、図5の実施の形態では、ウォームホイール131が単一の材料(例えばS25C等の鋼)で一体に形成されていた。これに対して、本実施の形態では、ウォームホイール331が、出力軸9に同伴回転可能に連結された弾性体40と、環状をなす歯部332とで構成されている。歯部332は、軸方向X1に分割された環状の一対の半体51,52で構成されている。一対の半体51,52は、互いに対称な形状をなし、周溝334を挟んだ両側に配置されている。
【0037】
すなわち、一対の半体51,52間に周溝334が形成されている。周溝334は、歯先335から歯溝333の底である歯底336よりも下方に達している。周溝334は、深さが深くなるにしたがって幅が拡がる幅広部338を有している。ウォームホイール331の歯面337は、周溝334の両側に配置された一対の部分337a,337bに分割されている。歯面337の一方の部分337aが一方の半体51に配置され、他方の部分337bが他方の本体52に配置されている。
【0038】
弾性体40は、環状の本体41と、本体41の軸方向X1の中央部から径方向外方R1へ延びる環状板42とを備えている。環状板42は一対の半体51,52間に介在している。また、弾性体40は、環状板42から両側方へ延び、それぞれ対応する半体51,52を連結する連結部43,44を備えている。周溝334の底は、弾性体40の環状板42の外周によって区画されている。
【0039】
弾性体40の各連結部43,44は、大径部43a,44aと、小径部43b,44bとを有している。また、各半体51,52は、対応する連結部43,44が嵌合された連結孔53,54を有している。各連結孔53,54は、対応する連結部43,44の大径部43a,44aが嵌合した大径部53a,54aと、対応する連結部43,44の小径部43b,44bが嵌合した小径部53b,54bとを有している。
【0040】
弾性体40は、射出成形のときに一対の半体51,52に固定された成形樹脂により構成されている。具体的には、弾性体40としては、十分な弾性変形量を確保でき且つ耐久性にも優れた、例えば66ナイロン等のポリアミドを用いることが好ましい。
本実施の形態によれば、小型、安価で強度、耐久性に優れたウォームホイール331を実現することができる。しかも、環状をなす歯部332を、軸方向X1に分割されて弾性体40で連結された一対の半体51,52で構成し、一対の半体51,52間に周溝334を形成したので、アンダーカット部分の有無に拘らず、金属製の歯部332の歯面337を軸方向に鍛造して形成することが可能となる。また、歯部332を横切る周溝334を有するウォームホイール331を容易に形成することができる。
【0041】
また、弾性体40が弾性変形することによって、歯形の精度誤差や組付誤差を吸収することができるので、適正な歯当たりを確保することができる。特に、歯面337が受ける衝撃や振動を弾性体40によって吸収することができ、歯打ち音を格段の低減することができる。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、図8の実施の形態において、一対の半体51,52の位置をウォームホイール331の回転方向にずらして配置しておいてもよいし、また軸方向C1にずらしておいてもよい。これらの場合、ウォームホイール331がウォーム20と噛み合ったときに弾性体40が弾性変形する。その弾性体40の復元力によって、歯面337の部分337a,337bを確実にウォーム20の歯面に隙間なく押し当てることができ、偏当たりの発生を防止することができる。
【0042】
その他、本発明は、請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0043】
1…電動パワーステアリング装置、4…操舵機構、5…操舵補助機構、6…ステアリングシャフト、18…電動モータ、19…減速機構、20…ウォーム、31;131;231;331…ウォームホイール、32;132;332…歯部、33;133;233;333…歯溝、34;134;334…周溝、35;335…歯先、36;336…歯底、37;137;337…歯面、37a,37b;137a,137b;337a,337b…(一対の)部分、138;338…幅広部、40…弾性体、43,44…連結部、43a,44a…大径部、43b,44b…小径部、51,52…(一対の)半体、53,54…連結孔、53a,54a…大径部、53b,54b…小径部、B…角度、B1…閾値、CL…接触線、M…製造用中間体、M1…周溝、M2…歯部、M3…歯先、S1…滑り方向、X1…軸方向、W1…歯すじ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯面を含む金属製の歯部と、
前記歯部の軸方向の中央部を横切る周溝と、を備え、
前記歯面の軸方向の中央部が、前記周溝によって欠落しているウォームホイール。
【請求項2】
請求項1において、前記歯面において、前記歯面のなすウォームホイール歯形およびウォームの接触線と、前記ウォームの滑り方向とのなす角度が閾値以下である領域が、前記周溝によって欠落しているウォームホイール。
【請求項3】
請求項1また2において、前記歯部は、単一の材料で一体に形成されており、
前記歯面は、鍛造により形成されているウォームホイール。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記金属製の前記歯部を、軸方向に分割された一対の半体で構成し、
前記一対の半体間に介在し、両半体を連結した弾性体を備え、
前記一対の半体間に、前記周溝が形成されているウォームホイール。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項において、前記周溝は、歯底に達しており、
前記歯面は、前記周溝の両側に配置された一対の部分に分割されているウォームホイール。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項において、前記周溝は、歯底に向かうにしたがって幅が拡がる幅広部を含むウォームホイール。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載のウォームホイールとウォームとを含む減速機構を介して、電動モータの回転を減速する電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
鍛造により形成された歯面を含み、単一の材料で一体に形成された金属製の歯部と、
前記歯部の軸方向の中央部を横切る周溝と、を備え、
前記歯面の軸方向の中央部が、前記周溝によって欠落しており、
前記周溝は、歯底に向かうにしたがって幅が広くなる幅広部を含むウォームホイールの製造方法であって、
製造用中間体の歯部の歯先を加圧することにより、前記製造用中間体の周溝の入口の幅を狭めて、前記幅広部を得るウォームホイールの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−167734(P2012−167734A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28847(P2011−28847)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】