説明

ウレタン発泡成形体およびその製造方法

【課題】 所望の吸音特性を有すると共に熱伝達性の高いウレタン発泡成形体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 ウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配合され鎖状に繋がって配向している磁性体と、を有し、相手部材と接触して熱を伝達する熱伝達面が該磁性体の配向方向と交わるように配置され、該熱伝達面の光沢度は10%以上である。このウレタン発泡成形体は、発泡ウレタン樹脂原料と磁性体とを含む発泡原料を発泡型のキャビティ内に注入し、磁場中で発泡成形して製造される。使用する発泡型における熱伝達面成形型面の表面粗さは、0.5μm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば吸音材や振動吸収材等として用いられるウレタン発泡成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン発泡成形体は、吸音材、振動吸収材等として、自動車等の様々な分野で用いられている(例えば特許文献1参照)。ウレタン発泡成形体は、内部に多数のセル(気泡)を有するため熱伝導率が低い。このため、発熱を伴うエンジン、モーター等の周囲に配置した場合、熱が蓄積され不具合を生じるおそれがある。このような問題を解消するため、ウレタン発泡成形体の放熱性を向上させる試みがなされている。例えば、特許文献2に開示されている防音タイヤは、ポリウレタンフォームにアルミナ粉末等の熱伝導材を配合した吸音材を備えている。熱伝導材を配合して吸音材の放熱性を向上させ、走行時におけるタイヤと路面との摩擦熱によるタイヤの熱老化を抑制している。また、特許文献3には、配向した磁性体粒子を有するポリウレタンフォーム製の吸音材が開示されている。熱伝導率の高い磁性体粒子を一方向に配向させることにより、吸音材の放熱性を向上させている。
【特許文献1】特開2005−48023号公報
【特許文献2】特開2005−104314号公報
【特許文献3】特開2007−230544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献2に開示されている吸音材のように、ポリウレタンフォームからなる基材に熱伝導材を配合すると、熱伝導材同士の接触により熱の伝達経路が形成されて、放熱性が向上する。しかし、放熱性を高くするためには、多量の熱伝導材が必要となる。熱伝導材の配合量を多くすると、発泡成形に影響を及ぼすと共に、吸音特性が低下するおそれがある。この点、特許文献3に開示されている吸音材によると、磁性体粒子を配向させることにより、比較的少量の磁性体粒子で放熱性を向上させることができる。
【0004】
しかし、これら従来の吸音材の表面は、発泡体であるがゆえに粗い。すなわち、吸音材の表面には、セルの開口部や発泡型の型面転写により微細な凹凸が存在する。このため、相手部材と接触させた時の接触面積が小さくなり、その分だけ熱伝達性が低下してしまう。したがって、例えば磁性体粒子の配向により吸音材内部の放熱性が向上していても、表面状態が悪いことにより、相手部材との間で熱が伝達されにくい。よって、吸音材全体として、放熱性の向上効果が充分に発揮されないおそれがある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、所望の吸音特性を有すると共に熱伝達性の高いウレタン発泡成形体、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するため、本発明のウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配合され鎖状に繋がって配向している磁性体と、を有し、相手部材と接触して熱を伝達する熱伝達面が該磁性体の配向方向と交わるように配置され、該熱伝達面の光沢度は10%以上であることを特徴とする(請求項1に対応)。
【0007】
本発明のウレタン発泡成形体において、基材中の磁性体は、鎖状に繋がって配向している。すなわち、磁性体は、ある規則性を持って所定の方向に配置されていればよい。例えば、ウレタン発泡成形体の一端と他端(一端に対して180°対向した端部でなくてもよい)との間に直線状に配置されていても、曲線状に配置されていてもよい。また、中心から外周に向かって放射状に配置されていてもよい。また、これらの形状を組み合わせた形状に配置されていてもよい。
【0008】
磁性体は熱伝導率が高い。このため、本発明のウレタン発泡成形体に加わった熱は、主に磁性体を介して伝達される。磁性体は配向しているため、比較的少ない量で熱伝達性の向上効果が得られる。よって、発泡成形への影響、および製造コストを低減することができる。また、吸音特性の低下も抑制することができる。
【0009】
本発明のウレタン発泡成形体は、相手部材と接触して熱を伝達する熱伝達面を持つ。熱伝達面は、磁性体の配向方向と交わるように配置されている。ここで、熱伝達面の光沢度は10%以上である。光沢度は、JIS Z8741(1997)に準じて測定される。すなわち、屈折率が可視波長範囲全域にわたって、一定値1.567であるガラス表面において、入射角60°での鏡面光沢度を基準とし、この値を100%として表している。本発明のウレタン発泡成形体では、光沢度が大きいほど、熱伝達面の表面の凹凸が少なく平滑であるとみなす。
【0010】
光沢度が10%以上である熱伝達面は、通常のウレタン発泡成形体の表面状態と比較して、凹凸が少なく滑らかである。このため、熱伝達面と相手部材との接触面積(伝熱面積)が大きくなり、両者間で伝達される熱量が大きくなる。例えば、相手部材から熱伝達面(一端)に伝達された熱は、ウレタン発泡成形体の内部において主に磁性体を介してその配向方向他端に伝達され、他端から速やかに放熱される。このように、本発明のウレタン発泡成形体によると、内部の磁性体による熱伝達性向上効果を、熱伝達面の表面状態により阻害することなく充分に発揮させることができる。その結果、ウレタン発泡成形体全体としての熱伝達性をより向上させることができる。
【0011】
(2)上述したように、本発明のウレタン発泡成形体の熱伝達面は、相手部材との接触面積を大きくして熱伝達量を大きくするという観点から、できるだけ平滑であることが望ましい。熱伝達面を平滑に成形する手法として、例えば発泡型の型面にシリコーングリース等の離型剤を塗布して発泡成形する方法が考えられる。しかし、離型剤を使用すると、得られるウレタン発泡成形体の表面に離型剤が付着して、吸音特性等の諸特性に影響を与えるおそれがある。加えて、付着した離型剤が劣化して、不具合が生じるおそれもある。また、離型剤の塗りむら等により、熱伝達面の表面状態がかえって悪くなるおそれがある。また、離型剤の材料費や、塗布工程の追加等により製造コストが増大する。
【0012】
そこで、さらなる検討を重ねて完成された本発明のウレタン発泡成形体の製造方法は、発泡ウレタン樹脂原料と磁性体とを含む発泡原料を調製する発泡原料調製工程と、該発泡原料を発泡型のキャビティ内に注入し磁場中で発泡成形する発泡成形工程と、を有し、該発泡型において、ウレタン発泡成形体の熱伝達面を成形する熱伝達面成形型面の表面粗さは0.5μm以下であることを特徴とする(請求項4に対応)。
【0013】
本発明のウレタン発泡成形体の製造方法では、熱伝達面を成形する熱伝達面成形型面の表面粗さが0.5μm以下である発泡型を使用する。本明細書では、表面粗さとして、JIS B0601(2001)に準拠して算出される算術平均粗さ(Ra)の値を採用する。発泡型における熱伝達面成形型面の表面粗さを0.5μm以下とすることにより、凹凸の少ない平滑な熱伝達面を成形することができる。すなわち、本発明の製造方法によると、例えば光沢度が10%以上の熱伝達面を備えるウレタン発泡成形体を、容易に得ることができる。また、離型剤を使用しなくてもよいため、上述した離型剤の付着等による問題はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のウレタン発泡成形体およびその製造方法の実施形態について説明する。なお、本発明のウレタン発泡成形体およびその製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0015】
<ウレタン発泡成形体>
上述したように、本発明のウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配合され鎖状に繋がって配向している磁性体と、を有する。ポリウレタンフォームは、ポリイソシアネート成分およびポリオール成分等の発泡ウレタン樹脂原料から製造される。詳細は、後述する本発明のウレタン発泡成形体の製造方法において説明する。
【0016】
磁性体としては、いわゆる磁性材料であれば特に限定されるものではない。例えば、鉄、ニッケル、コバルト、ガドリニウム、ステンレス鋼等の強磁性体、MnO、Cr、FeCl、MnAs等の反強磁性体、およびそれらを用いた合金類が好適である。なかでも、熱伝導率が高く加工性に優れる点から、ステンレス鋼、銅鉄合金等が好適である。ここで、ステンレス鋼は、防錆性能に優れ、ポリウレタンフォームとの接合強度も高い。また、銅鉄合金は、銅および鉄の共晶合金であり、例えば特公平3−064583号公報に記載されているような半硬質磁性銅鉄合金が望ましい。このような銅鉄合金は、細かく粉砕しても銅と鉄の剥離を生じない。このため、銅が有する高い熱伝導率と鉄が有する磁性との2つの特徴を合わせ持つ。よって、同じ含有量であっても他の磁性体と比較して、より熱伝達性が向上する。
【0017】
磁性体の大きさ、形状等は、特に限定されるものではない。例えば、磁性流体(Magnetic fluid;MF)を構成するナノサイズの粒子、磁気粘性流体(Magneto−Rheological流体;MR流体)を構成するミクロンサイズの粒子であってもよい。また、球状(真球状または略真球状)、楕円球状、長円球状(一対の対向する半球を円柱で連結した形状)、水滴形状、柱状、薄板状、箔状、繊維状、針状等の種々の形状を有する磁性フィラーであってもよい。磁性フィラーの大きさ(最大長さ)は、分散性、配向性、製造するウレタン発泡成形体の大きさ等を考慮して決定すればよい。例えば、0.1mm以上5mm以下のものが入手しやすく好適である。
【0018】
例えば、磁性フィラーが球以外の形状をなす場合には、配向した磁性フィラー同士が、点ではなく、線および面の少なくとも一方で接触する。このため、点で接触する場合と比較して、磁性フィラー同士の接触面積が大きくなる。これより、熱の伝達経路が確保されやすくなると共に、伝達される熱量も大きくなる。また、球状の磁性体を同量配合した場合と比較して、配向方向に嵩高くなる。よって、磁性体の配合量が少量であっても、熱伝達性を向上させやすい。
【0019】
球以外の形状をなす磁性フィラーを採用する場合、熱伝達性をより高くするという観点から、磁性フィラーのアスペクト比は2以上であることが望ましい。本明細書では、アスペクト比を次式(1)により定義する。
アスペクト比=b/(a・a’)・・・式(1)
式(1)において、bは磁性フィラーの最大長さ、aは軸直方向断面横辺の長さ、a’は軸直方向断面縦辺の長さを示す。ここで、「軸直方向断面横辺の長さ」、「軸直方向断面縦辺の長さ」は次のようにして決定される。すなわち、磁性フィラーの最大長さbを軸として、当該軸と垂直な方向(軸直方向)の断面形状が内接する四角形を定め、この四角形を平面視した時の横方向の長さを「軸直方向断面横辺の長さa」とし、縦方向の長さを「軸直方向断面縦辺の長さa’」とする。以下、具体的な形状を挙げて、説明する。
【0020】
図1に、磁性フィラーの各形状における最大長さ、軸直方向断面横辺の長さ、軸直方向断面縦辺の長さを示す。図1において(a)は円柱状の場合を、(b)は薄板状の場合を、(c)は繊維状の場合を、各々示す。なお、図1(a)〜(c)に示した形状は例示にすぎず、磁性フィラーはこれらの形状に限定されるものではない。まず、(a)に示す円柱状の場合には、軸方向の長さが最大長さbとなる。軸直方向断面形状は円となる。当該円が内接する四角形の横方向の長さが「軸直方向断面横辺の長さa」となり、縦方向の長さが「軸直方向断面縦辺の長さa’」となる。次に、(b)に示す薄板状の場合には、長手方向が軸方向となり、長手方向の長さが最大長さbとなる。軸直方向断面形状は長方形となるため、この長方形の横方向の長さが「軸直方向断面横辺の長さa」となり、縦方向の長さ(厚さに相当)が「軸直方向断面縦辺の長さa’」となる。次に(c)に示す繊維状の場合には、軸方向の長さが最大長さbとなる。軸直方向断面形状は略楕円となる。しかしながら、(c)の繊維状の場合、長手方向中央部が大きく両端部が小さい「細長い樽」のような形状を呈している。このため、長手方向全長において、軸直方向断面の大きさが一定ではない。すなわち、位置αと位置βと位置γとでは、楕円の断面積が異なる。この場合は、断面積が最大となる位置βの楕円が内接する四角形の横方向の長さが「軸直方向断面横辺の長さa」となり、縦方向の長さが「軸直方向断面縦辺の長さa’」となる。
【0021】
磁性体の配合量は、熱伝達性の向上効果、吸音特性、コスト等を考慮して適宜決定すればよい。例えば、熱伝達性の向上効果を発現させるためには、磁性体の配合量を、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の0.1体積%以上とすることが望ましい。1体積%以上とするとより好適である。一方、磁性体の分散性、吸音特性への影響等を考慮して、磁性体の配合量を10体積%以下とすることが望ましい。また、磁性体の配合量が10体積%を超えると、発泡成形に悪い影響が生じ、良好なウレタン発泡成形体を得にくくなる。よって、磁性体の配合量を3体積%以下とするとより好適である。
【0022】
本発明のウレタン発泡成形体は、相手部材と接触して熱を伝達する熱伝達面を有する。相手部材は、発熱体でも吸熱体でもよい。熱伝達面は、磁性体の配向方向と交わるように配置されている。熱伝達面は一つでもよく、二つ以上あってもよい。また、熱伝達面の光沢度は10%以上である。熱伝達面と相手部材との接触面積をより大きくして、熱伝達性をより向上させるためには、光沢度を15%以上とするとよい。
【0023】
ところで、発泡ウレタン樹脂原料を密閉された発泡型内で発泡成形すると、発泡ウレタン樹脂原料が発泡型の型面と接触し、発泡が抑制されることにより、密度の高いスキン層が形成される。磁性体や、発泡により生じたセルは、スキン層により封止され、表面には表出しにくい。したがって、スキン層の表面を熱伝達面とすることが望ましい。スキン層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば20μm以下とすればよい。スキン層の形成の有無、厚さ等は、発泡型への原料の充填量、発泡時間、発泡温度等により調整すればよい。次に、本発明のウレタン発泡成形体の好適な製造方法について詳述する。
【0024】
<ウレタン発泡成形体の製造方法>
本発明のウレタン発泡成形体の製造方法は、発泡原料調製工程と発泡成形工程とを有する。以下、各工程について説明する。
【0025】
(1)発泡原料調製工程
本工程は、発泡ウレタン樹脂原料と磁性体とを含む発泡原料を調製する工程である。発泡ウレタン樹脂原料は、ポリイソシアネート成分およびポリオール成分等の既に公知の原料から調製すればよい。ポリイソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、およびこれらの誘導体(例えばポリオール類との反応により得られるプレポリマー類、変成ポリイソシアネート類等)等の中から適宜選択すればよい。また、ポリオール成分としては、多価ヒドロキシ化合物、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリマーポリオール類、ポリエーテルポリアミン類、ポリエステルポリアミン類、アルキレンポリオール類、ウレア分散ポリオール類、メラミン変性ポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、アクリルポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、フェノール変性ポリオール類等の中から適宜選択すればよい。
【0026】
さらに、触媒、発泡剤、整泡剤、架橋剤、難燃剤、帯電防止剤、減粘剤、安定剤、充填剤、着色剤等を適宜配合してもよい。例えば、触媒としては、テトラエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン系触媒や、ラウリン酸錫、オクタン酸錫等の有機金属系触媒が挙げられる。また、発泡剤としては水が好適である。水以外には、塩化メチレン、フロン、COガス等が挙げられる。また、整泡剤としてはシリコーン系整泡剤が、架橋剤としてはトリエタノールアミン、ジエタノールアミン等が好適である。
【0027】
上記発泡ウレタン樹脂原料と磁性体とを含む発泡原料としては、以下の態様を採用することができる。例えば、磁性体として上述した磁性フィラーを用いる場合には、発泡原料を、発泡ウレタン樹脂原料と磁性フィラーとを混合した混合材料とすればよい。なお、磁性フィラーの種類、形状、アスペクト比、配合量等については、上述した通りであるためここでは説明を省略する。あるいは、発泡原料を、発泡ウレタン樹脂原料と磁性体含有流体とを混合した混合材料としてもよい。ここで、「磁性体含有流体」は、広く「溶媒中に磁性体の微粒子が分散された流体」を意味する。したがって、「磁性体含有流体」には、ミクロンサイズの磁性体粒子を含有するMR流体、ナノサイズの磁性体粒子を含有するMF、MFにミクロンサイズの磁性体粒子を混合した磁気混合流体(Magnetic compound fluid;MCF)等が含まれる。ここでいう磁気混合流体(MCF)は、例えば特開2002−170791号公報に記載されている粒子分散型混合機能性流体のようなものである。本工程にて調製された発泡原料は、速やかに次の発泡成形工程に供される。
【0028】
(2)発泡成形工程
本工程は、上記発泡原料調製工程にて調製した発泡原料を発泡型のキャビティ内に注入し磁場中で発泡成形する工程である。本工程では、製造されるウレタン発泡成形体の熱伝達面を成形する熱伝達面成形型面の表面粗さが0.5μm以下の発泡型を使用する。すなわち、発泡型の型面のうち、少なくとも熱伝達面を成形する部分(熱伝達面成形型面)の表面粗さ(Ra)が、0.5μm以下となっていればよい。なお、発泡型における全ての型面の表面粗さが0.5μm以下であっても構わない。熱伝達面成形型面の表面粗さは、0.3μm以下、さらには0.1μm以下であるとより好適である。
【0029】
このような発泡型は、例えば、熱伝達面成形型面に研磨等の表面処理を施して得ることができる。また、離型用樹脂フィルムを使用してもよい。すなわち、表面粗さが0.5μm以下の離型用樹脂フィルムを、少なくとも熱伝達面成形型面を含むよう、発泡型の型面に沿って配置すればよい。この場合、熱伝達面成形型面は、当該離型用樹脂フィルムにより形成される。離型用樹脂フィルムを使用すれば、現状の金型をそのまま使用することができる。また、離型剤を塗布する必要もない。離型用樹脂フィルムは、ウレタン発泡成形体へ付着しにくいものが望ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シリコーン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフィルムが挙げられる。離型用樹脂フィルムは、市販のものを切断して、あるいは真空成形、射出成形、ブロー成形等の公知の方法により所定の型面形状に成形して使用すればよい。
【0030】
磁場は、磁性体を配向させる方向に形成すればよい。例えば、磁性体を直線状に配向させる場合、発泡型のキャビティ内の磁力線が、キャビティの一端から他端に向かって略平行になるよう形成することが望ましい。この場合、例えば発泡型を挟むように、発泡型の一端および他端の両面近傍に磁石を配置すればよい。磁石には、永久磁石または電磁石を用いればよい。電磁石を用いると、磁場形成のオン、オフを瞬時に切り替えることができ、磁場の強さの制御が容易である。このため、発泡成形を制御しやすい。ここで、磁場を構成する磁力線は閉ループを形成していることが望ましい。こうすることで、磁力線の漏洩が抑制され、キャビティ内に安定した一様磁場を形成することができる。なお、発泡型の外部に配置した磁石により、発泡型の内部に磁場を形成させるため、発泡型としては透磁率の低い材質、つまり非磁性の材質のものを使用するとよい。例えば、通常ポリウレタンの発泡成形に使用されるアルミニウムやアルミニウム合金製の発泡型であれば問題ない。この場合、電磁石等の磁力源から発生する磁場、磁力線が影響を受けにくく、磁場状態のコントロールがしやすい。ただし、必要とする磁場、磁力線の状態に応じて適宜、磁性材料のものを使用してもよい。
【0031】
発泡型に作用する磁場の磁束密度は、該発泡型のキャビティ内において略均一であることが望ましい。例えば、発泡型のキャビティ内における磁束密度の差が、±10%以内であるとよい。±5%以内、さらには±3%以内であるとより好適である。発泡型のキャビティ内に一様な磁場を形成することで、磁性体の偏在を抑制することができ、所望の配向状態を得ることができる。
【0032】
磁場は、発泡ウレタン樹脂原料の粘度が比較的低い間にかけられることが望ましい。発泡ウレタン樹脂原料が増粘し、発泡成形がある程度終了した時に磁場をかけると、磁性体が配向しにくいため、所望の熱伝達性、吸音特性を得ることが難しい。なお、発泡成形を行う時間のすべてにおいて磁場をかける必要はない。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0034】
(1)ウレタン発泡成形体の製造
熱伝達面成形型面の表面粗さが異なる二種類の発泡型を使用して、ウレタン発泡成形体を製造した。まず、発泡ウレタン樹脂原料を以下のように調製した。ポリオール成分のポリエーテルポリオール(住化バイエルウレタン社製「S−0248」、平均分子量6000、官能基数3、OH価28mgKOH/g)100重量部と、架橋剤のジエチレングリコール(三菱化学社製)2重量部と、発泡剤の水2重量部と、テトラエチレンジアミン系触媒(花王社製「No.31」)1重量部と、シリコーン系整泡剤(日本ユニカ社製「SZ−1313」)0.5重量部と、カーボン系顔料(大日精化工業社製「FT−1576」)2重量部と、を配合し、プレミックスポリオールを調製した。調製したプレミックスポリオールに、ポリイソシアネート成分のジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(BASFINOACポリウレタン社製「NE1320B」、NCO=44.8wt%)を加えて混合し、発泡ウレタン樹脂原料とした。ここで、ポリオール成分とポリイソシアネート成分との配合比(PO:ISO)は、両者の合計重量を100%として、PO:ISO=78.5:21.5とした。
【0035】
次に、調製した発泡ウレタン樹脂原料に、磁性フィラーを混合して発泡原料とした。磁性フィラーには、ステンレスファイバー(虹技社製「KCメタルファイバー SUS430F」:直径約30μm、長さ約2mm)を使用した。このステンレスファイバーのアスペクト比を求めたところ、4444となった。磁性フィラーは、ポリオール成分のポリエーテルポリオール100重量部に対して121重量部配合した。
【0036】
その後、発泡原料をアルミニウム製の発泡型(後述する図2、図3参照。キャビティは直径100mm×厚さ20mmの円筒形。)に注入し、密閉した。続いて、発泡型を磁場発生装置に設置して、発泡成形を行った。図2に、磁場発生装置の斜視図を示す。図3に、磁場発生装置の部分断面図を示す。図2、図3に示すように、磁場発生装置1は、一対の電磁石部2U、2Dと、ヨーク部3と、を備えている。
【0037】
電磁石部2Uは、芯部20Uとコイル部21Uとを備えている。芯部20Uは、強磁性体製であって、上下方向に延びる円柱状を呈している。コイル部21Uは、芯部20Uの外周面に配置されている。コイル部21Uは、芯部20Uの外周面に巻装された導線210Uにより、形成されている。導線210Uは、電源(図略)に接続されている。
【0038】
電磁石部2Dは、発泡型4を挟んで、上記電磁石部2Uの下方に配置されている。電磁石部2Dは、上記電磁石部2Uと同様の構成を備えている。すなわち、電磁石部2Dは、芯部20Dとコイル部21Dとを備えている。コイル部21Dは、芯部20Dの外周面に巻装された導線210Dにより、形成されている。導線210Dは、電源(図略)に接続されている。
【0039】
ヨーク部3は、C字状を呈している。ヨーク部3のC字上端は、電磁石部2Uの芯部20U上端に接続されている。一方、ヨーク部3のC字下端は、電磁石部2Dの芯部20D下端に接続されている。
【0040】
前記発泡型4は、上型40Uと下型40Dとを備えている。発泡型4は、電磁石部2Uの芯部20Uと電磁石部2Dの芯部20Dとの間に、介装されている。上型40Uは、角柱状を呈している。上型40Uの下面には、円筒状の凹部400Uが形成されている。凹部400Uの上底面には、円形の離型用PETフィルム401U(東レフィルム加工社製「セラピール(登録商標):グレードQ」厚さ約145μm)が配置されている。離型用PETフィルム401Uの表面粗さを、粗さ計(東京精密社製「SURFCOM(登録商標) SP−828A」)にて測定したところ、Ra=0.08μmであった。離型用PETフィルム401Uは、熱伝達面成形型面となる。同様に、下型40Dは、角柱状を呈している。下型40Dの上面には、円筒状の凹部400Dが形成されている。凹部400Dの下底面には、離型用PETフィルム401D(同上)が配置されている。離型用PETフィルム401Dは、熱伝達面成形型面となる。なお、図3では、説明の便宜上、離型用PETフィルム401U、401Dの厚さを誇張して記載している。
【0041】
上型40Uと下型40Dとは、互いの凹部400U、400Dの開口同士が向き合うように配置されている。上型40Uと下型40Dとの間には、凹部400U、400D同士が合体することにより、キャビティ41が区画されている。キャビティ41には、前述したように、発泡原料が充填されている。
【0042】
導線210Uに接続された電源および導線210Dに接続された電源を、共にオンにすると、上方の電磁石部2Uの芯部20Uの上端がS極に、下端がN極に磁化される。このため、芯部20Uに、上方から下方に向かって磁力線L(図2に点線で示す)が発生する。また、下方の電磁石部2Dの芯部20Dの上端がS極に、下端がN極に磁化される。このため、芯部20Dに、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。また、芯部20U下端はN極であり、芯部20D上端はS極である。このため、芯部20Uと芯部20Dとの間には、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。以上説明したように、電磁石部2U、2D間には、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。下方の電磁石部2Dの芯部20D下端から放射された磁力線Lは、ヨーク部3を通って、上方の電磁石部2Uの芯部20U上端に流入する。このように、磁力線Lは閉ループを構成するため、磁力線Lの漏洩を抑制することができる。
【0043】
前述したように、発泡型4は、芯部20Uと芯部20Dとの間に介装されている。このため、発泡型4のキャビティ41内には、上方から下方に向かって略平行な磁力線Lにより一様な磁場が形成されている。キャビティ41内の磁束密度は、約200mTであった。発泡型4を磁場発生装置1に設置した後、最初の約2分間は、磁場をかけながら発泡成形を行った。続く約5分間は、磁場をかけないで、発泡成形を行った。
【0044】
発泡成形が終了した後、脱型して、上下面に熱伝達面を持つ円柱状のウレタン発泡成形体を得た。得られたウレタン発泡成形体を実施例の発泡成形体とした。実施例の発泡成形体における磁性フィラーの配合量は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の1体積%であった。
【0045】
また、上記同様の発泡原料を、発泡型4において離型用PETフィルム401U、401Dを配置しないで発泡成形し、上下面に熱伝達面を持つ円柱状のウレタン発泡成形体を得た。この場合、上型40Uの下面に形成された凹部400Uの上底面、および下型40Dの上面に形成された凹部400Dの下底面が、各々熱伝達面成形型面となる。凹部400Uの上底面および凹部400Dの下底面の表面粗さを、粗さ計(同上)にて測定したところ、Ra=0.66μmであった。得られたウレタン発泡成形体を、比較例の発泡成形体とした。
【0046】
(2)熱伝達面の光沢度測定
まず、図4〜図7に、実施例および比較例の発泡成形体の熱伝達面(上面)の写真を示す。図4は実施例の発泡成形体の上面写真であり、図5はマイクロスコープにより撮影された同発泡成形体上面の拡大写真である(倍率175倍)。また、図6は比較例の発泡成形体の上面写真であり、図7はマイクロスコープにより撮影された同発泡成形体上面の拡大写真である(倍率175倍)。図4、図6を比較すると、実施例の発泡成形体の方が光沢があることがわかる。また、図5、図7を比較すると、実施例の発泡成形体の上面には、上型凹部上底面の凹凸が転写されていないのに対して、比較例の発泡成形体の上面には上型凹部上底面の凹凸が転写されていることがわかる。
【0047】
次に、両発泡成形体の上面の光沢度を測定した。光沢度の測定には、スガ試験機械社製のデジタル変角光沢計「UGV−5K」を使用した(入射角60°)。その結果、実施例の発泡成形体の上面の光沢度は17.1%であり、比較例の発泡成形体の上面の光沢度は9.5%であった。つまり、実施例の発泡成形体の上面の光沢度は、比較例のそれの1.8倍となった。このように、発泡型の熱伝達面成形型面の表面粗さを0.5μm以下とすることで、光沢度が10%以上の熱伝達面を成形することができた。
【0048】
(3)熱伝導率の測定
実施例および比較例の発泡成形体の熱伝導率を測定した。熱伝導率の測定には、京都電子工業社製のホットディスク法熱物性測定装置「TPA−501」を使用した。熱伝導率の測定では、実施例および比較例の発泡成形体を各々二つずつ準備した。そして、各々の一対の発泡成形体を熱伝達面が対向するよう配置し、両者の間に上記測定装置のセンサを挟持して熱伝導率を測定した。本測定によると、センサを熱伝達面と接触させるため、熱伝達面の表面状態が測定値に反映される。その結果、実施例の発泡成形体の熱伝導率は0.12W/(m・K)、比較例の発泡成形体の熱伝導率は0.10W/(m・K)となった。つまり、実施例の発泡成形体の熱伝導率は、比較例のそれの1.2倍となった。表1に、実施例および比較例の発泡成形体の熱伝導率、および熱伝達面の光沢度の値を、使用した発泡型の熱伝達面成形型面の表面粗さと共にまとめて示す。
【表1】

【0049】
ちなみに、磁性体を含まないウレタン発泡成形体の熱伝導率(理論値)は、0.03W/(m・K)である。この値と比較すると、熱伝導率は、配向した磁性体を含むことで向上し、さらに、磁性体の配向方向と交差する熱伝達面の光沢度を10%以上とすることで、より向上することがわかる。熱伝達面の光沢度が10%以上の場合、熱伝達面と相手部材との接触面積が大きくなり、両者間で伝達される熱量が大きくなる。このため、磁性体の配向による熱伝達性向上効果が充分に発揮され、ウレタン発泡成形体全体としての熱伝達性がより向上すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のウレタン発泡成形体は、自動車、電子機器、建築等の幅広い分野において用いることができる。例えば、路面の凹凸に起因する騒音を低減するための防音タイヤ、エンジンの騒音を低減するために車両のエンジンルームに配置されるエンジンカバーやサイドカバー、車室内の天井やピラー部等の吸音材、OA(Office Automation)機器や家電製品のモーター用吸音材、パソコン等の電子機器の放熱性吸音材、家屋の内外壁用吸音材等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】磁性フィラーの各形状における最大長さ、軸直方向断面横辺の長さ、軸直方向断面縦辺の長さについての説明図である。
【図2】実施例のウレタン発泡成形体の製造に使用した磁場発生装置の斜視図である。
【図3】同磁場発生装置の部分断面図である。
【図4】実施例の発泡成形体の上面写真である。
【図5】マイクロスコープにより撮影された同発泡成形体上面の拡大写真である(倍率175倍)。
【図6】比較例の発泡成形体の上面写真である。
【図7】マイクロスコープにより撮影された同発泡成形体上面の拡大写真である(倍率175倍)。
【符号の説明】
【0052】
1:磁場発生装置
2U、2D:電磁石部 20U、20D:芯部 21U、21D:コイル部
210U、210D:導線
3:ヨーク部
4:発泡型 40U:上型 40D:下型 400U、400D:凹部
401U、401D:離型用PETフィルム 41:キャビティ L:磁力線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配合され鎖状に繋がって配向している磁性体と、を有し、
相手部材と接触して熱を伝達する熱伝達面が該磁性体の配向方向と交わるように配置され、該熱伝達面の光沢度は10%以上であることを特徴とするウレタン発泡成形体。
【請求項2】
前記磁性体は、アスペクト比が2以上の磁性フィラーである請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項3】
前記磁性体の配合量は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の0.1体積%以上10体積%以下である請求項1または請求項2に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項4】
発泡ウレタン樹脂原料と磁性体とを含む発泡原料を調製する発泡原料調製工程と、
該発泡原料を発泡型のキャビティ内に注入し磁場中で発泡成形する発泡成形工程と、
を有し、
該発泡型において、ウレタン発泡成形体の熱伝達面を成形する熱伝達面成形型面の表面粗さは0.5μm以下であることを特徴とするウレタン発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
前記発泡型は、型面に沿って配置された離型用樹脂フィルムを有し、
前記熱伝達面成形型面は、該離型用樹脂フィルムにより形成されている請求項4に記載のウレタン発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
前記発泡成形工程における前記磁場の磁束密度は、前記キャビティ内において略均一である請求項4または請求項5に記載のウレタン発泡成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−178968(P2009−178968A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20815(P2008−20815)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】