説明

エアバッグカバー

【課題】 従来技術では、扉予定部のエアバッグ対向面から下方に突出部を設け、中央破断部を優先的に開裂させるようされているが、リッド自体は基本的に変形しない平面に近い形状のまま押圧力が加わっているため、扉予定部の回動力で強引に中央破断部を裂こうとする。しかし、扉予定部が平面のまま押圧されているため、左右破断部にも力が加わり易く、扉予定部全体が持ち上げられる状態が発生してしまい、扉予定部の開放がスムーズに行われないという問題があった。
【解決手段】 車体に収納されたエアバッグを覆い、エアバッグの膨張力で開裂する扉予定部13を備えたエアバッグカバーであって、エアバッグ11の膨張力で車幅方向に開裂する破断部に沿って扉予定部13のエアバッグ対向面から下方に部分的に突出するように設けられた突出部である凸形状8と車両前後方向に沿って扉予定部13のエアバッグ対向面に設けられた除肉部4を備えてなるエアバッグカバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエアバッグ装置のドア部をインストルメントパネル等の車両用内装部材に設けたエアバッグドア部を有する助手席用エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
助手席用エアバッグ装置は、乗員を受け止めると共に、衝撃を緩和するエアバッグと、エアバッグを膨らませるためのガスを発生するインフレータと、起動前の状態として折り畳まれたエアバッグを収納するとともにエアバッグとインフレータとを接続状態に支持する容器部とからなり、用途に応じて適宜樹脂や布などで構成したカバー等からなっている。
近年、安全性の向上のため助手席用のエアバッグや、いわゆるサイドエアバッグを設けることが行われつつあり、この場合、エアバッグはインパネやドアトリム等の合成樹脂製内装部材の内側に設置されて、この内装部材に設けられたエアバッグ膨出口より車室内へ膨出するようになっている。そして、通常、エアバッグ膨出口は、エアバッグの膨張時に容易に破断する薄肉部を有する蓋体(エアバッグカバー)で閉鎖されている。このエアバッグカバーはエアバッグの膨張時に所定の扉を形成するように開口可能にするため、要求される可撓性や引っ張り強度といった物理的特性がインパネ等とは異なっている。このため従来は硬質合成樹脂材等よりなるインパネ等とは別体でエアバッグカバーを製造して、エアバッグ膨出口の開口部にビス止め等により覆着している。
従来技術としては、本体部と同一の硬質樹脂材料で射出成形により一体成形もしくは別体成形されたエアバッグドア部を有する車両用内装部材において、前記エアバッグドア部に一般厚よりも薄いティア部を形成すると共に、該ティア部の両側もしくは片側に一般厚よりも厚い厚肉部をティアラインの少なくとも一部に沿って形成したエアバッグドア部を有する車両用内装部材(例えば、特許文献1参照)が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−301398号公報(特許請求の範囲の欄、発明の詳細な説明の欄、及び図1〜図21を参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術である特許文献1は、扉予定部のエアバッグ対向面から下方に突出部を設け、膨張するエアバッグに突出部を押圧させて中央破断部を優先的に開裂させるようされているが、リッド自体は基本的に変形しない平面に近い形状のまま押圧力が加わっているため、扉予定部の回動力で強引に中央破断部を裂こうとすることになってしまう。扉予定部が平面のまま押圧されているため、左右破断部にも力が加わり易く、結果として扉予定部全体が持ち上げられるような、いわゆるリフトアップに近い状態が発生してしまうことがあり、扉予定部の開放がスムーズに行われないという問題点があった。
本発明は、上記の問題を解決した助手席用エアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決することができる本発明の第1発明は、請求項1に記載された通りのエアバッグカバーであり、次のようなものである。
車体に収納されたエアバッグを覆い、エアバッグの膨張力で開裂する扉予定部を備えたエアバッグカバーであって、エアバッグの膨張力で車幅方向に開裂する破断部に沿って扉予定部のエアバッグ対向面から下方に部分的に突出するように設けられた突出部を備えてなる構成である。
【0006】
上記の課題を解決することができる本発明の第2発明は、請求項2に記載された通りのエアバッグカバーであり、次のようなものである。
請求項1に記載の発明に加えて、前記突出部は、扉予定部の車幅方向略中央を含む一部に限定して設けられてなる構成である。
【0007】
上記の課題を解決することができる本発明の第3発明は、請求項3に記載された通りのエアバッグカバーであり、次のようなものである。
請求項1または請求項2に記載の発明に加えて、車両前後方向に沿って前記扉予定部のエアバッグ対向面に設けられた除肉部を備えてなる構成である。
【0008】
上記の課題を解決することができる本発明の第4発明は、請求項4に記載された通りのエアバッグカバーであり、次のようなものである。
請求項1〜請求項3のうち、いずれか1項に記載の発明に加えて、扉予定部のインナーに軟質樹脂を用いる構成である。
【0009】
上記の課題を解決することができる本発明の第5発明は、請求項5に記載された通りのエアバッグカバーであり、次のようなものである。
請求項1〜請求項4のうち、いずれか1項に記載の発明に加えて、前記破断部は、車幅方向に設けられた中央破断部と、該中央破断部の両端部と交差し、車両前後方向に沿って設けられた左右破断部を備えてなる構成である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るエアバッグカバーは、上記説明のような構成を有するので、以下に記載する効果を奏する。
(1)扉予定部のエアバッグ対向面に、下方に向けて突出する突出部と車両前後方向に沿って薄肉部を設けたことによって、エアバッグ展開時に左右破断部に先んじて中央破断部が開裂し、扉予定部の回動がよりスムーズに行われる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のエアバッグカバーの特徴を示したもので、(a)リッドをインナー側から見た際の正面図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は(b)の要部を拡大した概略断面図である。
【図2】本発明のエアバッグカバーを取り付けた状態を示す概略断面図である。
【図3】本発明のエアバッグカバーにおけるエアバッグ展開時の扉予定部の開裂動作を示す説明図であり、(a)エアバッグ展開前の状態、(b)はエアバッグ展開の初期段階の状態、(c)はエアバッグ展開時の状態からある程度展開した状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
車体に収納されたエアバッグを覆い、エアバッグの膨張力で開裂する扉予定部を備えたエアバッグカバーであって、エアバッグの膨張力で車幅方向に開裂する破断部に沿って扉予定部のエアバッグ対向面から下方に部分的に突出するように設けられた突出部と車両前後方向に沿って前記扉予定部のエアバッグ対向面に設けられた除肉部を備えてなるエアバッグカバーである。
【実施例1】
【0013】
以下に、本発明の一実施例を添付図面で詳細に説明する。
図1、図2からも理解できるように、本発明である助手席用エアバッグ装置は、エアバッグ10、リテーナ11、インフレータ12、リッド1から構成されており、このリッド1はポリプロピレンのような硬質の樹脂からなるアウター2と、オレフィン系エラストマーのような軟質の樹脂からなるインナー3を振動溶着等により溶着形成されている。
アウター2には、エアバッグ展開時にリッド1が円滑に開裂するために局部的に肉厚を薄くしたテアライン9が形成されている。なお、本実施例では、このテアライン9は外観を良くするために、成型を行った後に加工したが、外観に影響を及ぼさなければ、成形時にこのテアライン9が形成されるようにしても良い。
インナー3には、エアバッグ展開時にアウター2に設けられた扉予定部13をリフトアップ状態にならずに円滑に開くようにするため、扉予定部13が回転した時に必要な長さを持ったヒンジ5が、またアウター2には溶着するための溶着リブ6が設けられている。
前記ヒンジ5は等間隔に複数個に分断されており、ヒンジ5とヒンジ5の間にはインナー3の一般肉厚部から肉を除いた少なくとも2本以上の溝状の除肉部4が車両前後方向に沿うように設定してある。
また、扉予定部13略中央で、且つ除肉部4の間に凸形状8を設定している。この凸形状8は成形性を良くし、かつ膨張するエアバッグとの接触時にエアバッグの押圧力を受けて変形し易くするために中空形状にし、リッド1と完全に固定するために溶着用のリブ6を格子状に設けている。
なお、凸形状8の内部に設けられるリブ6は格子状ではなく、車両前後方向に沿ってのみ設けられるようになっている。また、インナー3とアウター2との溶着強度が保たれるならば、必ずしも凸形状8の中空形状内にリブ6を設けずとも良いものである。
なお、本実施例では、凸形状8はテアライン9の中央近傍にあまり幅を取らないように設ける。これは、凸形状8が車幅方向に長く設けてしまうと、中央のテアライン9に発生する引っ張り力が弱くなってしまうためである。
【0014】
ここで、本発明のエアバッグカバーの展開時の動作について図3に基づいて説明する。
エアバッグが展開をする際、エアバッグ展開初期に先ずリッド1に設けられた凸形状8の部分をガスが噴出されて膨張し始めたエアバッグ10が押す。この扉予定部の略中央に設けられた凸形状8が押されることにより、リッド1は平面全体にエアバッグ10の押圧力が加わるより先にリッド1の略中央部に集中的に押圧力が加わるようになる。さらに、インナー3に車両前後方向に沿うように設けられた除肉部4の効果で、リッド1の略中央部を頂部とする車幅方向に沿うような盛り上がりを助長し、扉予定部13が外側に向かってドーム型に変形する。
これは、単に凸形状8を押圧してリッド1を回動させようとする力のみでアウター2の中央のテアライン9を強引に裂こうとするのではなく、テアライン9を含むリッド1を略中央部を頂部として盛り上がらせて弱部であるテアライン9にあらかじめ負荷が加えられた状態からリッド1を回動させようとする力によってテアライン9に引っ張り力を働かせて最初に破断が得られるようにしたため、その後のエアバッグ10(図示せず)の膨張による押圧力で中央のテアライン9を優先的に開裂させられるものである。
また、ヒンジ5が複数個に分かれていることと、ヒンジ5とヒンジ5の間に除肉部4が設定されていることにより、さらにドーム型への変形を補助している。
また、除肉部4はヒンジ5とヒンジ5との間のインナー3の平面部のみに設けているが、中空状の凸形状8自体に前後方向に沿って溝状の除肉部4を設けるようにすれば、さらにドーム型への変形を補助することになる。
このことにより、扉中央部のテアライン9の中心に引き裂きの応力がかかり、扉のテアライン9が円滑に開裂し、スムーズなエアバッグ10の展開を行うことができるものである。
【0015】
なお、上記で示された実施例は、いわゆる観音開き(開裂部が略H字状)の扉形状であるが、片開き(開裂部が略コ字状)の扉形状であっても本発明の特徴が奏されることはいうまでもない。
また、前記実施例の突出部は中空状のものであるが、厚肉状に成形されたものや、中空部内に軟質樹脂が満たされているものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0016】
全ての種類の車両のエアバッグ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0017】
1・・・・リッド
2・・・・アウター
3・・・・インナー
4・・・・除肉部
5・・・・ヒンジ
6・・・・リブ
8・・・・凸形状
9・・・・テアライン
10・・・・エアバッグ
11・・・・リテーナ
12・・・・インフレータ
13・・・・扉予定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に収納されたエアバッグを覆い、エアバッグの膨張力で開裂する扉予定部を備えたエアバッグカバーであって、エアバッグの膨張力で車幅方向に開裂する破断部に沿って扉予定部のエアバッグ対向面から下方に部分的に突出するように設けられた突出部を備えてなることを特徴とするエアバッグカバー。
【請求項2】
前記突出部は、扉予定部の車幅方向略中央を含む一部に限定して設けられてなることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグカバー。
【請求項3】
車両前後方向に沿って前記扉予定部のエアバッグ対向面に設けられた除肉部を備えてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエアバッグカバー。
【請求項4】
扉予定部のインナーに軟質樹脂を用いたことを特徴とする請求項1〜請求項3のうち、いずれか1項に記載のエアバッグカバー。
【請求項5】
前記破断部は、車幅方向に設けられた中央破断部と、該中央破断部の両端部と交差し、車両前後方向に沿って設けられた左右破断部を備えてなることを特徴とする請求項1〜請求項4のうち、いずれか1項に記載の助手席用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−10417(P2013−10417A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144291(P2011−144291)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000229955)日本プラスト株式会社 (740)
【Fターム(参考)】