説明

エアバッグ用基布およびその製造方法

【課題】織物に対するコート樹脂層の耐剥離性と、防融性、耐熱性とに優れるとともに、低通気性を有するエアバッグ用基布およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のエアバッグ用基布6は、織物5表面にエラストマー樹脂層3が形成されてなるものである。エラストマー樹脂層3の厚さは、25μm〜700μmの範囲であり、樹脂層内部に存在する直径50μm以上の気泡4の数は、100個/cm以下である。このエアバッグ用基布は、織物の表面にエラストマー樹脂を塗布する工程を含み、エラストマー樹脂の塗布工程を複数回に分けて塗液を多層に塗布することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に樹脂コートがされたエアバッグ用基布およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の乗物には、車輌衝突時に乗員を保護するために、運転室内で瞬間的にエアバッグを膨張させるエアバッグ装置が搭載されている。
【0003】
かかるエアバッグ装置は、ガス発生装置であるインフレーターと、インフレーターガスが吹き込まれて膨張展開するエアバッグと、これらを収納するエアバッグケースとから構成されている。
【0004】
上記エアバッグは、大別すると、織物表面に樹脂を塗布せずそのまま用いるノンコートエアバッグと、織物表面に樹脂を塗布して用いるコートエアバッグとに分かれる。かかるコートエアバッグの基布に塗布する樹脂量はできるだけ少なくし、基布の柔軟性を追求したものが多く発明されている。例えば、基布に偏在するエラストマー樹脂の膜厚を規定することで、エアバッグ用基布として必要な耐熱性を有しつつ、軽量で風合いの柔らかい、また、収納性にも優れたエアバッグ用基布が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
ところで、コートエアバッグには、織物表面と樹脂層との界面において、樹脂層に耐剥離性があることが要求される。その理由は、コートエアバッグの使用部位において、自動車横転時の乗員放出防止および頭部保護を目的とした、ロールオーバー対応カーテンエアバッグはエアバッグ展開後、十数秒間一定内圧を保持する必要があるため、縫製部からのガス漏れを防止する技術が必要となり、この部分で樹脂層に耐剥離性が要求されるからである。すなわち、縫製部でのガス漏れ防止技術の一例として、エアバッグ用基布を2枚重ねて縫製するときに、縫製ラインに沿って、コート樹脂に接着するシール剤を塗布し縫製することで、エアバッグ展開時に縫製部からの通気を防止する方法が利用されており、該カーテンエアバッグ展開時にシール剤とコート樹脂界面もしくは織物とコート樹脂界面で剥離が発生すると、縫製部からのガス漏れが発生し、一定内圧を保持できず、結果として乗員を保護できない場合があるからである。よって、コートエアバッグには、バッグ作動時のシール剤を塗布した縫製部において、いわゆる「コート樹脂剥離」が生ぜず、「シール剤凝集破壊」が生じることが求められる。かかる「コート樹脂剥離」の問題は、上記特許文献1では解決されておらず、他の文献を含めても見当たらないのが現状である。
【0006】
また、運転席および助手席などには、前記構成品に加え、高温のインフレーターガスが直接当たる部分に補強布やヒートパッチなどが具備されており、カーテンエアバッグなどには、インフレーターガスを導入するのにインフレーターガス導入分配ホースが具備されている。
【0007】
しかし、エアバッグ展開時は、インフレーター付近のガス圧およびガス温度は非常に高いため、インフレーターガス導入部付近の基布の繊維が切断されてエアバッグの膨張展開が不十分となるか、極端な場合にはエアバッグが破裂するため、乗員を保護できない場合がある。
【0008】
また、最近では、エアバッグの装着部位および装着率の増加に伴い、エアバッグモジュールのコストダウン要求が厳しくなっている。これに伴い、インフレーターでは安価なパイロ型インフレーターを使用することが多くなっている。
【0009】
しかし、パイロ型インフレーターは、火薬を爆発させることによりガスを発生させるタイプのインフレーターであるため、インフレーター作動時に火薬の残渣が周囲に飛散し、インフレーター周辺部のバックが破損するという問題がある。
【0010】
この場合、仮に織物上に樹脂層の薄い部分があると、この部分では耐熱性が劣るため、エアバッグ展開時にインフレーター付近に生じる部分的な圧力上昇や、インフレーターの火薬残渣の飛散等が直接の引き金となって当該部分からのバッグ破損やバースト発生を招いたり、このような危険に至らないまでも、エアバッグが乗員を保護する内圧に到達しないために乗員を保護できない場合がある。
【0011】
このように部分的な圧力上昇および火薬残渣の飛散により生じる問題の改善策として、カーテンエアバッグなどに見られるように、インフレーターガス導入分配ホースを構成する織物の外表面と内表面のうち少なくともどちらか一方にゴムまたは合成樹脂を塗布することによりガス分配孔周辺部の破損を抑えた分配ホースが提案されている(特許文献2参照)。
【0012】
しかし、単に織物の外表面または内表面にゴムまたは合成樹脂を塗布しただけでは、火薬残渣の飛散が多いパイロ型インフレーター使用時においては基布が耐えられないため、インフレーターガス導入分配ホースの破損に続きバッグも破損するという前述の問題点の懸念があり、根本的解決には至っていない。
【0013】
このように、コートエアバッグ用基布に対しては、その要求特性として、前述のコート樹脂の耐剥離性に加えて、耐熱性、難燃性および低通気性が求められている。
【特許文献1】特許第2853936号公報(請求項1、図3)
【特許文献2】特開2004−217203号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来技術の課題を解決し、コート樹脂層の耐剥離性と、防融性、耐熱性とに優れるとともに、低通気性をも有するエアバッグ用基布およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、かかる課題を解決するために、次の手段を採用する。
【0016】
すなわち本発明は、織物表面にエラストマー樹脂層が形成されてなるエアバッグ用基布であって、前記織物の頂点部からエラストマー樹脂層表面に至るまでの厚さが25μm〜350μmの範囲内で、かつ、前記樹脂層の内部に存在する直径50μm以上の気泡の数が100個/cm以下であることを特徴とするエアバッグ用基布である。
【0017】
また本発明は、織物の表面にエラストマー樹脂を塗布する工程を含む、エアバッグ用基布の製造方法であって、エラストマー樹脂の塗布工程を複数回に分けて塗液を複数層に塗布し、全塗布量をエラストマー樹脂換算で100〜400g/mとすることを特徴とするエアバッグ用基布の製造方法である。
【0018】
さらに、上記2回塗り塗布工程の間に得られた織物を複数回の塗布工程の間に150〜200℃の範囲の温度で乾燥する工程を挟んでもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のエアバッグ用基布によれば、織物頂点部からエラストマー樹脂層表面部に至るまでの厚さを25μm〜350μmの範囲とし、かつ、樹脂層内部に存在する直径50μm以上の気泡の数を100個/cm以下としたので、コート樹脂層の耐剥離性と、防融性、耐熱性とに優れるとともに、低通気性を有するエアバッグ用基布を得ることができる。
【0020】
また、本発明のエアバッグ用基布の製造方法によれば、エラストマー樹脂の塗布工程を複数回に分けて塗液を多層に塗布し、全塗布量をエラストマー樹脂換算で100〜400g/mとすることで、上記効果を有するエアバッグ用基布が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を一実施例の図面を参照しながら説明する。なお、図は本発明の一例を示したものであり、これに限定されない。
【0022】
図1は、本発明に係るエアバッグ用基布の平面図、図2は、図1の基布のA−A矢視断面図、図3は、図1の基布のB−B矢視断面図である。
【0023】
図1において、1はタテ糸、2はヨコ糸で、これら両糸が交互に交錯されて平織組織のエアバッグ用基布の原反である織物5が構成されている。そして、織物5表面には、図2の断面図に示すように織物頂点部からエラストマー樹脂層表面に至るまでの厚さがのエラストマー樹脂3がコーティングされて、本発明のエアバッグ用基布6が形成されている。すなわち、本発明において、「織物の頂点部」とは、織物表面から垂直方向に最も高い織物の位置(タテ糸とヨコ糸の交錯点)を指す。
【0024】
タテ糸1とヨコ糸2としては、マルチフィラメントが好ましい。マルチフィラメントを構成する単繊維のポリマの例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルや、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリテトラメチレンアジパミド、ポリカプラミド等のポリアミドや、ポリアクリロニトリルや、ポリビニルアルコールや、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンや、芳香族ポリアミドや、芳香族ポリエステル等が挙げられる。中でも、ポリアミドが機械的特性、耐薬品性の点で好ましく、ポリヘキサメチレンアジパミドが耐熱性の点で特に好ましい。また、かかる単繊維には、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの艶消し剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、耐熱剤、耐侯剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤などを含むことも好ましい。
【0025】
単繊維の断面形状としては、丸形の他、楕円形、長方形、菱形、繭型でもよく、左右非対称型のものでもよい。また、突起や凹みや部分的に中空部があるものであってもよい。
【0026】
単繊維の繊度としては、織物5の機械的特性と収納性の点から、1〜12dtexが好ましく、より好ましくは3〜8dtexである。単繊維繊度が1dtexより小さい場合、収納性の点では問題ないが、製糸段階で強力の高い原糸を得ることが難しく、織物5の機械的特性が悪化するため、エアバッグ用基布に必要な性能を満足しない可能性がある。また、単繊維が細いため、製糸工程で糸切れ、毛羽などの欠点が発生しやすく、製糸時および製織時の生産性が悪化する懸念がある。一方、単繊維繊度が12dtexより大きい場合、糸の剛性が高くなることによって、織物5およびコート織物としたときに、バッグの収納性が悪化する場合がある。
【0027】
マルチフィラメントの単繊維数としては、12〜192本が好ましく、より好ましくは24〜154本である。
【0028】
マルチフィラメントの総繊度としては、織物の機械的特性と収納性の点から64〜900dtexが好ましく、より好ましくは150〜700dtexで、さらに好ましくは210〜500dtexである。総繊度が64dtexより小さい場合には、収納性の点では問題ないが、総繊度が細いため耐引裂性が悪化する傾向があり、エアバッグ展開時にバーストする危険性がある。総繊度が900dtexより大きいと、機械的特性は問題ないが、織物の厚みが大きくなるため、エアバッグとしたときの、収納性が悪化する場合がある。
【0029】
織物5の織組織としては、平組織、斜文組織および朱子組織などを採用することができ、なかでも、均一な機械的特性を有する材料を得ることができるだけでなく、大量生産の容易さ、高速生産によるコストダウン、織組織構造の安定性等の点から、平組織が好ましい。
【0030】
基布6においては、前記織物5の少なくとも片側面に、エラストマー樹脂3が被覆される。エアバッグとしての低通気性、耐熱性、ひいては高速展開性と内圧保持性を確保するためである。
【0031】
エラストマー樹脂3としては、耐熱性、耐寒性、難燃性を有する熱硬化型のものが好ましく、例えばシリコーン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂などがあげられる。また、水や溶剤分散させたエラストマー樹脂を用いてもよい。硬化温度については、コート織物の機械的特性を保持するために、織物を構成するマルチフィラメント糸の融点以下で硬化させる必要があるため150〜200℃の範囲内で反応が進行するものが好ましい。かかる樹脂としては、中でもシリコーン樹脂が耐熱性、耐老化性、汎用性の点から特に好ましい。シリコーン樹脂としては、ジメチル系、メチルビニル系、メチルフェニル系、フルオロ系等のシリコーンを用いることができる。
【0032】
本発明においては、織物頂点部からエラストマー樹脂層表面部に至るまでの厚さHが25μm〜350μmの範囲内とすることが必要であり、好ましくは30〜300μm、さらに好ましくは50〜200μmである。たとえば図1において、織物頂点部はA−A線上におけるタテ糸1とヨコ糸2の交錯点上部として表される。
【0033】
当該厚さHが25μm以上であることで、十分な耐熱性を具備したコート織物を得ることが出来る。エラストマー樹脂層の厚さが25μmより薄いと、かかる部分からエアバッグ展開時にインフレーターからの熱風、インフレーター残渣により溶融するので、十分なバッグ内圧に至らず、乗員を保護できない可能性がある。一方、エラストマー樹脂層の厚さが350μmを超えるとコート織物の柔軟性が悪化するため、収納性を損ない、エアバッグの折りたたみ収納作業性が悪化する問題がある。
【0034】
また、本発明の基布6では、織物表面の単位面積あたりに存在する、直径50μm以上の範囲の気泡4の数が、100個/cm以下であることが重要であり、好ましくは70個/cm以下、より好ましくは50個/cm以下であり、気泡の数は少ないほうが良い。100個/cm以下とすることで、織物5からエラストマー樹脂層3が容易に剥離しないコート織物を得ることができる。該気泡4は、織物にエラストマー樹脂3を塗布するときに、どうしても織物目合い部(交錯点以外の織物空隙部のこと)および織物内に残存し、図2および図3の状態となる。100個/cmを越えると、エアバッグ展開時の熱風および急激なエアバッグの変化時に、エラストマー樹脂が織物に対していわゆる「コート樹脂剥離」を生じ、エアバッグが展開しても十分な内圧に至らず、乗員を保護できない可能性がある。
【0035】
本発明のエアバッグ用基布におけるエラストマー樹脂の塗布量としては、単位面積当たり100〜400g/mが好ましく、より好ましくは130〜300g/m、さらに好ましくは160〜250g/mである。かかる範囲内の塗布量とすることで、エアバッグ展開時にインフレーターからの熱風、インフレーター残渣に対する防融性を満足するコート織物を得ることができる。エラストマー樹脂の塗布量が100g/mより少ない場合には、織物の交錯点上部に存在するエラストマー樹脂層の厚みが25μmより小さくなるため、エアバッグ展開時にインフレーターからの熱風、インフレーター残渣により溶融し、十分な内圧に至らず、乗員を保護できない可能性がある。
【0036】
一方、エラストマー樹脂が400g/mより大きい場合には、コート織物の柔軟性が悪化するため、収納性を損なうだけでなく、エアバッグとしたときの、重量が大きくなるため、エアバッグ展開時、乗員に与える衝撃が大きくなり、エアバッグが乗員を負傷させる場合がある。
【0037】
エアバッグ用基布は、防融性試験において3級以上のものが好ましい。ここで、防融性試験とは、タバコの火などに対する溶融のしにくさの程度を見る試験であり、表面温度を360±3℃に設定した直径8.25mmの円筒にコート織物のエラストマー樹脂塗布面を5秒間接触させ、コート織物が溶融した面積が接触面積に対してどの程度であるかを等級付けしたものである。
【0038】
次に、本発明のエアバッグ用基布の製造方法について、製造工程順に説明する。
【0039】
1.製織工程
まず、前述した織糸材質、繊度等のタテ糸1とヨコ糸2を準備し、例えば、ウォータージェットルーム、エアージェットルーム、レピアルーム等の製織機を用いて、エアバッグの原反である織物を製織する。織組織としては、本発明においては特に限定されないが、平組織、斜文組織および朱子組織などどのような組織に織り上げても良いが、好ましくは平組織に織り上げることで、高速生産によるコストダウンが可能となり、かつ、織布のいずれの部分を使用しても、均一な機械的特性を有する材料を得ることができる。
【0040】
なお、織物は製織後の生機でもよく、また、精練、熱セット等の工程を経たものでもよい。
【0041】
2.エラストマー樹脂の塗布工程
次に上記織物の表面に、前述のエラストマー樹脂をエラストマー樹脂換算で100〜400g/mの範囲の塗布量で塗布する。
【0042】
エラストマー樹脂の粘度としては、3〜50Pa・s(3000〜50000cP)が、気泡の少ないエアバッグ用基布を得る上で好ましい。
【0043】
塗布装置としては、ナイフコート法を採用することで、幅広いエラストマー樹脂粘度のものを塗布可能である。また、気泡の少ないエアバッグ用基布を得る上でも、ナイフコート法が好ましい。また、エラストマー樹脂粘度が低い場合は、直接エラストマー樹脂に浸漬させる方法でもよい。
【0044】
本発明のエアバッグ用基布の製造方法は、エラストマー樹脂の塗布工程を複数回に分けて塗液を複数層に塗布することが重要である。複数回に分けて塗布することにより、エラストマー樹脂換算で100〜400g/mという比較的多量の樹脂を塗布しても、樹脂層の内部に存在する気泡を前記のように少なく抑えることができ、耐剥離性に優れたコート織物を得ることができる。
【0045】
具体的には、エラストマー樹脂換算で5〜40g/mの塗布量で第一回目の塗布をし、次に第二回目のエラストマー樹脂塗布を20g/m以上の塗布量で塗布すると良い。
【0046】
また、複数回の塗布工程の間に乾燥工程を挟んでもよい。
【0047】
3.乾燥工程
塗液を塗布した織物は、150〜200℃の温度で乾燥することが好ましく、より好ましくは160〜190℃である。硬化温度が150℃より低温であると、未反応物がエラストマー樹脂内に残留するだけでなく、本来揮発すべき成分が残留する場合がある。特に溶剤分散したエラストマー樹脂を用いる場合には、十分に溶剤を揮発させることが望ましい。また、乾燥温度が200℃より高温であると、織物に使用している原料の融点に近づくことにより、織物の機械的特性が低下する場合がある。
【0048】
乾燥装置としては、ピンテンターもしくはクリップテンターなどを用いることで、エラストマー樹脂硬化させるだけでなく、コート織物を熱セットできるため、好ましい。
【実施例】
【0049】
次に、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。なお、得られた織物の測定および評価方法としては以下のものを用いた。
【0050】
[測定方法]
(1)織糸の総繊度
JIS L1013:1999 8.3.1 A法に基づき、112.5mの小かせをサンプル数3にて作り、そしてそれらの質量を測定し、その平均値(g)に10000/112.5をかけ、見掛け繊度に換算した。見かけ繊度から、以下の式に基づいて正量繊度を算出した。
=D×(100+R)/(100+R
但し、F:正量繊度(dtex)
D:見かけ繊度(dtex)
:公定水分率(%)
:平行水分率
とする。
【0051】
(2)織物目付
JIS L1096:1999 6.4.2 に基づき、外形寸法が20cm×20cmの試験片を3枚採取し、それぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0052】
(3)エラストマー樹脂の塗布量
上記(2)および(3)の方法で測定した織物密度と織物目付、およびコート織物密度とコート織物目付を以下の式に基づいて1m当たりの塗布量(g/m)を算出した。
=W−(DRT×DRW)/(DCT×DCW)×W
但し、W:塗布量(g/m
:コート織物目付(g/m
:織物目付(g/m
RT:タテ方向の織物密度(本/2.54cm)
RW:ヨコ方向の織物密度(本/2.54cm)
CT:タテ方向のコート織物密度(本/2.54cm)
CW:ヨコ方向のコート織物密度(本/2.54cm)
とする。
【0053】
(4)コート織物の厚み
JIS L 1096:1999 8.5に基づき、試料の異なる5か所について厚さ測定機を用いて、23.5kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0054】
(5)エラストマー樹脂の厚み
試料の異なる3か所より、外形寸法が1cm×1cmの試験片を採取し、日立製作所製走査型電子顕微鏡を用い、タテ糸方向およびヨコ糸方向それぞれの断面について、倍率100倍で資料のエラストマー樹脂層の厚さを測定し、最も厚さの薄い値をエラストマー樹脂層の厚みとした。
【0055】
(6)コート織物の引張強力
JIS L 1096:1999 8.12.1 A法(ストリップ法)のラベルドストリップ法に基づき、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、試験片を3枚ずつ採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで試験したときの破断強力を測定し、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて平均値を算出した。
【0056】
(7)通気度
JIS L 1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に基づいて測定した。試料の異なる5か所から外形寸法が約20cm×20cmの試験片を採取し、フラジール形試験機を用い、円筒の一端に試験片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量を求め、5枚の試験片についての平均値を算出した。
【0057】
(8)燃焼性(FMVSS302)
FMVSS302法に準拠して測定した。巾102mm、長さ356mmの試験片を織物のタテ方向およびヨコ方向のそれぞれについて5枚ずつ作成し、試験を行い、次式より燃焼速度を算出した。
B=60×(D/T)
但し、B:燃焼速度(mm/min)
D:炎が進行した距離(mm)
T:炎がDmm進行するために要した時間(秒)
得られた燃焼速度の中で、最も速度の早い値を、本測定の燃焼速度とした。
【0058】
(9)防融性
試料の異なる3か所より、外形寸法が5cm×5cmの試験片を採取し、該エラストマー樹脂塗布面を、大栄科学精器製作所株式会社製NM−1型防融試験機を用いて、表面温度360℃に設定した、直径8.25mmの円筒状のコテ先部(熱源)に5秒間静置し、試験片を取り外した後、織物部のみまたはエラストマー樹脂層のみまたはコート織物の最大溶融面積を求め、3枚の平均を等級区分した。等級区分は試験片の熱源接触面積(53.4mm)に対する試験片の溶融面積を比較し決定した。
等級 溶融面積
5級 0
4級 1/8
3級 1/4
2級 1/2
1級 1 。
【0059】
(10)気泡の数
日立製作所製走査型電子顕微鏡を用いて、試料の異なる3か所より外形寸法が1cm×1cmの試験片を採取し、タテ糸方向に沿って図3のBの位置を一本ずつ倍率100倍で断面観察し、直径50μm以上の気泡をカウントし、3か所の平均値を気泡の数(個/cm)として算出した。
【0060】
(11)はく離試験
JIS K 6404:1999 A法(接着試験)に準拠して、はく離試験を行った。本試験の接着剤には東レ・ダウコーニング株式会社製SE960を使用し、接着剤の厚みが2mmとなるように貼り合わせた。そして、これを20℃、湿度65%の状態で3日間放置した後、試験片幅を5cmに調整し、引張速度100mm/minではく離試験を行い、試験後のサンプルを観察し、試験片のはく離状態を判定した。判定結果は、次の二種類とした。
判定
凝集破壊 : 接着剤が凝集破壊した場合。
樹脂剥離 : サンプルの破壊が織物とエラストマー樹脂層の界面からエラストマー樹脂と接着剤との界面の間で発生した場合。
【0061】
(12)総合判定
以上の試験および測定結果から総合判定として、次の4種類に区別した。なお、判定基準は次のようにした。
◎ : エラストマー樹脂層の厚さが50μm〜200μm、エラストマー樹脂層内部に存在する気泡の数が50個/cm以下、防融性が4級以上で、かつ、剥離性が凝集破壊。
○ : エラストマー樹脂層の厚さが30μm〜300μm、エラストマー樹脂層内部に存在する気泡の数が70個/cm以下、防融性が3級以上、かつ、剥離性が凝集破壊。
△ : エラストマー樹脂層の厚さが25μm〜350μm、エラストマー樹脂層内部に存在する気泡の数が100個/cm以下、防融性が3級以上、かつ、剥離性が凝集破壊。
× : エラストマー樹脂層の厚さが25μm未満、350μmを越え、エラストマー樹脂層内部に存在する気泡の数が100個/cmを越え、防融性が3級未満、かつ、剥離性が樹脂剥離。
【0062】
[実施例1]
(織物)
図1において、タテ糸1およびヨコ糸2として、単繊維繊度6.5dtex、総繊度470dtex、72フィラメント、強度8.4cN/dtex、伸度23.5%、無撚りのナイロン6,6繊維のマルチフィラメントを用いた。上記マルチフィラメントをウォータージェットルームにて、経糸張力を90g/本になるようにしながら、経糸密度46本/2.54cm、緯糸密度46本/2.54cmの平織りに製織した。
【0063】
(塗液)
粘度12Pa・s(12,000cP)の無溶剤系メチルビニルシリコーン樹脂液を塗液として用いた。
【0064】
(塗布・乾燥)
上記の織物に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で20g/mを塗布し、引き続いて、同じ工程でエラストマー樹脂換算で塗布量150g/mを塗布した。続いて、このコート織物をピンテンター内でこのコート織物をピンテンター内でこのコート織物をピンテンター内でこのコート織物をピンテンター内で190℃で2分間乾燥を行った。
【0065】
得られたエアバッグ用基布6に対し、前述の試験および測定をした結果、部分におけるエラストマー樹脂3の厚さは115μm、エラストマー樹脂層内部に存在する直径50μm以上の気泡数は78個/cmであり、その他の特性値とともに後掲の表1に示す。表1に示すように得られたエアバッグ用基布は、低通気性、防融性に優れ、かつ耐剥離性に優れていた。
【0066】
[実施例2]
(織物)
実施例1で用いたのと同様の織物を用いた。
【0067】
(塗液)
実施例1で用いたのと同様の塗液を用いた。
【0068】
(塗布・乾燥)
上記の織物に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で20g/m塗布し、引き続きピンテンター内で、190℃で1分間乾燥を行い、コート織物を得た。再度このコート織物の塗布面に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で210g/m塗布し、引き続きピンテンター内で、190℃で2分間乾燥を行った。
【0069】
得られたエアバッグ用基布6に対し、前述の試験および測定をした結果、部分におけるエラストマー樹脂3の厚さは180μm、エラストマー樹脂層内部に存在する直径50μm以上の気泡数は10個/cmであり、その他の特性値とともに後掲の表1に示す。このエアバッグ用基布も、低通気性、防融性に優れ、かつ耐剥離性に優れていた。
【0070】
[実施例3]
(織物)
実施例1で用いたのと同様の織物を用いた。
【0071】
(塗液)
実施例1で用いたのと同様の塗液を用いた。
【0072】
(塗布・乾燥)
上記の織物に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で30g/m塗布し、乾燥を行うことなく、引き続き、再度このコート織物の塗布面に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で250g/m塗布し、引き続きピンテンター内で、190℃で2分間乾燥を行った。
【0073】
得られたエアバッグ用基布6に対し、前述の試験および測定をした結果、部分におけるエラストマー樹脂の厚さは232μm、エラストマー樹脂層内部に存在する直径50μm以上の気泡数は32個/cmであり、その他の特性値とともに後掲の織物の特性を表1に示す。このエアバッグ用基布も、低通気性、防融性に優れ、かつ耐剥離性に優れていた。
【0074】
[実施例4]
(織物)
実施例1で用いたのと同様の織物を用いた。
【0075】
(塗液)
実施例1で用いたのと同様の塗液を用いた。
【0076】
(塗布・乾燥)
上記の織物に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で塗布量30g/mでコーティングし、引き続いてピンテンター内にて190℃で2分間乾燥を行った。再度このコート織物の塗布面に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で90g/m塗布し、引き続きピンテンター内で、190℃で2分間乾燥を行った。
【0077】
得られたエアバッグ用基布6に対し、前述の試験および測定をした結果、部分におけるエラストマー樹脂の厚さは55μm、エラストマー樹脂層内部に存在する直径50μm以上の気泡数は59個/cmであり、その他の特性値とともに後掲の織物の特性を表1に示す。このエアバッグ用基布も、低通気性、防融性に優れ、かつ耐剥離性に優れていた。
【0078】
[実施例5]
(織物)
実施例1で用いたのと同様の織物を用いた。
【0079】
(塗液)
実施例1で用いたのと同様の塗液を用いた。
【0080】
(塗布・乾燥)
上記の織物に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で30g/m塗布し、引き続きピンテンター内で、190℃で1分間乾燥を行い、コート織物を得た。再度このコート織物の塗布面に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で350g/m塗布し、引き続きピンテンター内で、190℃で2分間乾燥を行った。
【0081】
得られたエアバッグ用基布6に対し、前述の試験および測定をした結果、部分におけるエラストマー樹脂の厚さは325μm、エラストマー樹脂層内部に存在する直径50μm以上の気泡数は15個/cmであり、その他の特性値とともに後掲の表1に示す。このエアバッグ用基布も、低通気性、防融性に優れ、かつ耐剥離性に優れていた。
【0082】
[比較例1]
(織物)
実施例1で用いたのと同様の織物を用いた。
【0083】
(塗液)
実施例1で用いたのと同様の塗液を用いた。
【0084】
(塗布・乾燥)
上記の織物に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で60g/m塗布し、引き続きピンテンター内で、190℃で2分間乾燥を行った。
【0085】
得られたエアバッグ用基布6に対し、前述の試験および測定をした結果、部分におけるエラストマー樹脂の厚さは20μm、エラストマー樹脂層内部に存在する直径50μm以上の気泡数は20個/cmであり、その他の特性値とともに後掲の織物の特性を表1に示す。このエアバッグ用基布は、低通気性、かつ耐剥離性に優れていたが、防融性に劣っていた。
【0086】
[比較例2]
(織物)
実施例1で用いたのと同様の織物を用いた。
【0087】
(塗液)
実施例1で用いたのと同様の塗液を用いた。
【0088】
(塗布・乾燥)
上記の織物に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で360g/m塗布し、引き続きピンテンター内で、190℃で2分間乾燥を行った。
【0089】
得られたエアバッグ用基布6に対し、前述の試験および測定をした結果、部分におけるエラストマー樹脂の厚さは320μm、エラストマー樹脂層内部に存在する直径50μm以上の気泡数は322個/cmであり、その他の特性値とともに後掲の表1に示す。このエアバッグ用基布は、低通気性、防融性には優れていたが、耐剥離性に劣っていた。
【0090】
[比較例3]
(織物)
実施例1で用いたのと同様の織物を用いた。
【0091】
(塗液)
実施例1で用いたのと同様の塗液を用いた。
【0092】
(塗布・乾燥)
上記の織物に、上記の塗液を、フローティングナイフコーターにより、エラストマー樹脂換算で230g/m塗布し、引き続きピンテンター内で、190℃で2分間乾燥を行った。
【0093】
得られたエアバッグ用基布6に対し、前述の試験および測定をした結果、部分におけるエラストマー樹脂の厚さHは175μm、エラストマー樹脂層内部に存在する直径50μm以上の気泡数は239個/cmであり、その他の特性値とともに後掲の表1に示す。このエアバッグ用基布は、低通気性、防融性には優れていたが、耐剥離性に劣っていた。
【0094】
以上の結果を纏めたのが次の表1である。
【0095】
【表1】

【0096】
上記表1より、実施例1〜5のコート織物は、織物表面にエラストマー樹脂層が形成されてなるエアバッグ用基布であって、前記織物頂点部からエラストマー樹脂層表面に至るまでの厚さが25μm〜350μmの範囲で、かつ、前記樹脂層内部に存在する直径50μm以上の気泡の数が100個/cm以下であるため、コート樹脂層の耐剥離性と、防融性、耐熱性に優れるとともに、低通気性を有するエアバッグ用基布を得ることができた。また、比較例1よりエラストマー樹脂層の厚さが25μm以下であると、防融性が劣ることが分かった。比較例2、3よりエアラストマー樹脂層内部に残留した気泡が100個/cmを超えると、コート樹脂剥離が発生し、エアバッグ展開時に、縫製部からガス漏れする可能性が高いコート織物となった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のエアバッグ用基布およびその製造方法は、自動車等の車両用途のみならず、防犯対策、車椅子転倒時の乗員保護等の分野にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】この図は、エラストマー樹脂を塗布した本発明に係るエアバッグ用基布の平面図である。
【図2】この図は、図1の基布のA−A矢視の断面図である。
【図3】この図は、図1の基布のB−B矢視の断面図である。
【符号の説明】
【0099】
1 タテ糸
2 ヨコ糸
3 エラストマー樹脂層
4 気泡
5 織物
6 エアバッグ用基布(本発明)
A,B 切断線
H 織物頂点部からエラストマー樹脂層表面に至るまでの厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物表面にエラストマー樹脂層が形成されてなるエアバッグ用基布であって、前記織物の頂点部からエラストマー樹脂層表面に至るまでの厚さが25μm〜350μmの範囲内で、かつ、前記樹脂層の内部に存在する直径50μm以上の気泡の数が100個/cm以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
エラストマー樹脂の塗布量が、織物の単位面積当たり100〜400g/mの範囲内である請求項1記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
防融性が3級以上である請求項1または請求項2記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
エアバッグ用補強布として用いる請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
インフレーターガス分配ホースとして用いる請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【請求項6】
ヒートパッチとして用いる請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【請求項7】
織物の表面にエラストマー樹脂を塗布する工程を含む、エアバッグ用基布の製造方法であって、エラストマー樹脂の塗布工程を複数回に分けて塗液を複数層に塗布し、全塗布量をエラストマー樹脂換算で100〜400g/mとすることを特徴とするエアバッグ用基布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−2003(P2008−2003A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171100(P2006−171100)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】