説明

エアバッグ装置を備えたステアリングホイール

【課題】 ドーナツ型エアバッグと呼ばれるバッグ部26を有するエアバッグ装置25を備えたステアリングホイール16において、パッド部18のカバー部材35の外側面においてカバー中央部35cを挟んで互いに反対側にある第1部分35eと第2部分35fとの傾斜状態が互いに異なっているために、収容部において上記第1部分35eに対応する部分の容積が上記第2部分35fに対応する部分の容積よりも小さくなった場合に、バッグ部26を局部的に偏らせることなく確実に略リング状に膨張展開させる。
【解決手段】 展開カバー部において上記第1部分35eに対応する位置にある第1分割部(前側分割部52a)の内側面の表面積を上記第2部分35fに対応する位置にある第2分割部(後側分割部52b)の内側面の表面積よりも大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング部とパッド部とからなり、該パッド部内に配設されたエアバッグ装置を備えたステアリングホイールに関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の運転手が把持するリング部と、該リング部の中心側に位置しかつ該リング部とスポーク部を介して接続されたパッド部とからなり、該パッド部内にエアバッグ装置が配設されたステアリングホイールはよく知られており、このものでは、パッド部のカバー部材の略中央部に、断面V字状の破断溝が、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見て例えばH字状に形成されており、エアバッグ装置のバッグ部の膨張展開時に、カバー部材が該破断溝の形成部分で破断して展開することで開口部が形成され、この開口部からバッグ部が膨張展開するようになっている。
【0003】
また、近年では、例えば特許文献1に示されているように、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見てパッド部内に設けた収容部に略リング状に収容されかつ車両前突時に該運転手頭部側に略リング状に膨張展開するバッグ部(所謂ドーナツ型エアバッグ)を有するエアバッグ装置が知られている。このエアバッグ装置が配設されたパッド部のカバー部材において、上記収容されたバッグ部の中心部に対応する部分は展開されず、その周囲の部分が、バッグ部がパッド部外側に膨張展開するための略リング状の開口部を形成するように該バッグ部の膨張展開圧により展開される(この展開される部分を展開カバー部という)。そして、上記パッド部におけるカバー部材が展開されない部分(通常、パッド部の中央部であり、固定カバー部という)の内部には、ホーンやエンブレム等のアクセサリが配設されている。
【特許文献1】特開2004−224145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなドーナツ型エアバッグと呼ばれるバッグ部を有するエアバッグ装置においては、そのバッグ部が収容される収容部は、通常、上記カバー部材と、該カバー部材に対してリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に設けられた基部との間に略リング状に形成され、その中心部にはインフレータが配設される。そして、そのカバー部材の外側面(運転手頭部側面)は、デザイン的な観点等から、上記固定カバー部と展開カバー部との境界近傍からパッド部径方向外側に向かってリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜し、その傾斜状態が、特にカバー部材において固定カバー部に対して車両前側に位置する車両前側部分と車両後側に位置する車両後側部分とでは異なっている場合が多くある。
【0005】
しかし、上記のように、カバー部材の外側面の車両前側部分と車両後側部分との傾斜状態が異なっていると、そのカバー部材の内側にある収容部の車両前側部分の容積と車両後側部分部分の容積とが互いに異なってしまう。このため、バッグ部の膨張展開初期において、バッグ部内における上記容積が小さい側に位置する部分の膨張展開圧が高くなり、この結果、展開カバー部における上記容積が小さい側の部分が先に展開して、バッグ部が局部的に偏って膨張展開する虞れがある。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上記のようなドーナツ型エアバッグと呼ばれるバッグ部を有するエアバッグ装置を備えたステアリングホイールにおいて、パッド部のカバー部材の運転手頭部側面において固定カバー部と展開カバー部における該固定カバー部に対してパッド部径方向の第1の側に位置する部分との境界近傍から該カバー部材の該第1の側端近傍に至るまでの第1部分と、カバー部材の運転手頭部側面において固定カバー部と展開カバー部における該固定カバー部に対してパッド部径方向の上記第1の側とは反対側である第2の側に位置する部分との境界近傍から該カバー部材の該第2の側端近傍に至るまでの第2部分との傾斜状態が互いに異なっているために、収容部において上記第1部分に対応する部分の容積が上記第2部分に対応する部分の容積よりも小さくなった場合に、バッグ部を局部的に偏らせることなく確実に略リング状に膨張展開させるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、展開カバー部において第1部分に対応する位置にある第1分割部の表面積を第2部分に対応する位置にある第2分割部の表面積よりも大きくするか、又は、破断部において第1部分に対応する位置にある第1分割部を区画する部分を、第2部分に対応する位置にある第2分割部を区画する部分よりも破断し難いようにした。
【0008】
具体的には、請求項1の発明では、車両の運転手が把持するリング部と、該リング部の中心側に位置しかつ該リング部とスポーク部を介して接続されたパッド部とからなり、該パッド部内に配設されたエアバッグ装置を備えたステアリングホイールを対象とする。
【0009】
そして、上記エアバッグ装置は、上記リング部中心軸方向の運転手頭部側から見て上記パッド部内に設けた収容部に略リング状に収容されかつ車両前突時に該運転手頭部側に膨張展開するバッグ部を有し、上記パッド部におけるバッグ部膨張展開側の部分は、カバー部材により構成されていて、上記収容されたバッグ部の中心部に対応しかつ該バッグ部の膨張展開時に展開されないように固定された固定カバー部と、該固定カバー部の周囲に設けられ、バッグ部の膨張展開時にバッグ部がパッド部外側に膨張展開するための略リング状の開口部を形成するように該バッグ部の膨張展開圧により展開される展開カバー部とを有し、上記カバー部材の運転手頭部側面において上記固定カバー部と上記展開カバー部における該固定カバー部に対してパッド部径方向の第1の側に位置する部分との境界近傍から該カバー部材の該第1の側端近傍に至るまでの第1部分が、該境界近傍から該第1の側端に向かってリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜し、上記カバー部材の運転手頭部側面において上記固定カバー部と上記展開カバー部における該固定カバー部に対してパッド部径方向の上記第1の側とは反対側である第2の側に位置する部分との境界近傍から該カバー部材の該第2の側端近傍に至るまでの第2部分が、上記第1部分とは異なる傾斜状態で、該境界近傍から該第2の側端に向かってリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜しており、上記収容部は、上記カバー部材と、該カバー部材に対してリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に設けられた基部との間に形成されていて、上記第1部分及び第2部分の傾斜状態により、該収容部における上記第1部分に対応する部分の容積が上記第2部分に対応する部分の容積よりも小さくなる形状をなし、上記展開カバー部は、その展開時に互いに分割されてそれぞれ分割片となるように設定された複数の分割部からなっており、上記展開カバー部において上記第1部分に対応する位置にある第1分割部の表面積が上記第2部分に対応する位置にある第2分割部の表面積よりも大きいものとする。
【0010】
上記の構成により、収容部において第1部分に対応する部分の容積が第2部分に対応する部分の容積よりも小さいために、バッグ部の膨張展開初期に、該バッグ部内の第1部分に対応する部分の圧力が第2部分に対応する部分よりも高くなる。一方、展開カバー部において第1部分に対応する位置にある第1分割部の表面積が第2部分に対応する位置にある第2分割部の表面積よりも大きいので、第1分割部と第2分割部との内側面(運転手頭部と反対側面)に同じ押圧力が作用したときには、第2分割部の方が第1分割部よりも先に分割展開する。しかし、上記の膨張展開圧によって、第1分割部の内側面には第2分割部よりも大きな押圧力が作用するので、第1分割部と第2分割部とは略同じタイミングで展開することになる。よって、バッグ部を局部的に偏らせることなく確実に略リング状に膨張展開させるようにすることができる。
【0011】
請求項2の発明では、車両の運転手が把持するリング部と、該リング部の中心側に位置しかつ該リング部とスポーク部を介して接続されたパッド部とからなり、該パッド部内に配設されたエアバッグ装置を備えたステアリングホイールを対象とする。
【0012】
そして、上記エアバッグ装置は、上記リング部中心軸方向の運転手頭部側から見て上記パッド部内に設けた収容部に略リング状に収容されかつ車両前突時に該運転手頭部側に膨張展開するバッグ部を有し、上記パッド部におけるバッグ部膨張展開側の部分は、カバー部材により構成されていて、上記収容されたバッグ部の中心部に対応しかつ該バッグ部の膨張展開時に展開されないように固定された固定カバー部と、該固定カバー部の周囲に設けられ、バッグ部の膨張展開時にバッグ部がパッド部外側に膨張展開するための略リング状の開口部を形成するように該バッグ部の膨張展開圧により展開される展開カバー部とを有し、上記カバー部材の運転手頭部側面において上記固定カバー部と上記展開カバー部における該固定カバー部に対してパッド部径方向の第1の側に位置する部分との境界近傍から該カバー部材の該第1の側端近傍に至るまでの第1部分が、該境界近傍から該第1の側端に向かってリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜し、上記カバー部材の運転手頭部側面において上記固定カバー部と上記展開カバー部における該固定カバー部に対してパッド部径方向の上記第1の側とは反対側である第2の側に位置する部分との境界近傍から該カバー部材の該第2の側端近傍に至るまでの第2部分が、上記第1部分とは異なる傾斜状態で、該境界近傍から該第2の側端に向かってリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜しており、上記収容部は、上記カバー部材と、該カバー部材に対してリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に設けられた基部との間に形成されていて、上記第1部分及び第2部分の傾斜状態により、該収容部における上記第1部分に対応する部分の容積が上記第2部分に対応する部分の容積よりも小さくなる形状をなし、上記展開カバー部は、その展開時に互いに分割されてそれぞれ分割片となるように設定された複数の分割部と、該各分割部を区画しかつ展開時に破断する破断部とを有しており、上記破断部において上記第1部分に対応する位置にある第1分割部を区画する部分が、上記第2部分に対応する位置にある第2分割部を区画する部分よりも破断し難いように構成されているものとする。
【0013】
このことにより、請求項1の発明と同様に、収容部において第1部分に対応する部分の容積が第2部分に対応する部分の容積よりも小さいために、バッグ部の膨張展開初期に、該バッグ部内の第1部分に対応する部分の膨張展開圧が高くなる。一方、破断部において第1部分に対応する位置にある第1分割部を区画する部分が上記第2部分に対応する位置にある第2分割部を区画する部分よりも破断し難くなっているので、第1分割部と第2分割部との内側面に同じ押圧力が作用したときには、第2分割部を区画する部分の方が第1分割部を区画する部分よりも先に破断し、これにより、第2分割部の方が第1分割部よりも先に展開する。しかし、上記の膨張展開圧の差によって、第1分割部の内側面には第2分割部よりも大きな押圧力が作用するので、第1分割部と第2分割部とは略同じタイミングで展開することになる。よって、請求項1の発明と同様の作用効果が得られる。
【0014】
請求項3の発明では、請求項2の発明において、破断部は、溝の形成により薄肉部とされており、上記破断部において第1分割部を区画する部分の肉厚が第2分割部を区画する部分の肉厚よりも大きいものとする。
【0015】
こうすることで、破断部において第1分割部を区画する部分を第2分割部を区画する部分よりも破断し難くする構成を容易に実現することができる。
【0016】
請求項4の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、車両の前方直進走行状態において、第1の側は車両前側であり、第2の側は車両後側であり、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見たときに、カバー部材における固定カバー部の車両前側端と該カバー部材の車両前側端との間の距離が、該カバー部材における固定カバー部の車両後側端と該カバー部材の車両後側端との間の距離よりも小さいものとする。
【0017】
すなわち、パッド部は、通常、車両の前方直進走行状態において、リング部に対して車両後側に寄った位置に設けられており、このような位置に設けられたパッド部からバッグ部が膨張展開したとき、その膨張展開したバッグ部の中心部は、リング部の中心からずれてしまい、このため、バッグ部の展開先端面において運転手の頭部(顔面)が当接する位置が、ステアリングホイールのリング部中心軸回りの回転位置(舵角位置)によって異なることになる。しかし、この発明では、固定カバー部がパッド部の車両前後方向中央よりも車両前側に寄った位置に設けられているので、膨張展開したバッグ部の中心部をリング部の中心に略一致させるようにすることができ、この結果、ステアリングホイールの舵角位置に関係なく、常に同じ形態で運転手を保護することができるようになる。そして、このように固定カバー部がパッド部の車両前後方向中央よりも車両前側に寄っていると、通常は、収容部の車両前側部分の容積が車両後側部分よりもかなり小さくなるが、本発明では、展開カバー部において第1部分に対応する位置にある第1分割部の表面積を第2部分に対応する位置にある第2分割部の表面積よりも大きくしたり、破断部において第1部分に対応する位置にある第1分割部を区画する部分を、第2部分に対応する位置にある第2分割部を区画する部分よりも破断し難くしたりすることで、第1分割部と第2分割部とを略同じタイミングで展開させることができ、バッグ部を局部的に偏らせることなく確実に略リング状に膨張展開させることができる。
【0018】
請求項5の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、リング部は、車幅方向から見て鉛直方向に対して40°以上90°以下の傾斜角で傾斜し、インストルメントパネルにおける上記リング部の車両前方部分に、計器が配置されており、車両の前方直進走行状態において、第1の側は車両前側であり、第2の側は車両後側であり、カバー部材の運転手頭部側面の第1部分は、運転手が、パッド部の車両前側におけるパッド部とリング部との間の空間を通して上記計器を視認可能となるように、車両前側に向かってリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜しているものとする。
【0019】
この構成により、トラック等の車両のように、リング部が、車幅方向から見て鉛直方向に対して40°以上90°以下の傾斜角で傾斜している場合に、運転手の計器の視認性を向上させることができる。一方、このような構成を採用することで、通常は、収容部の車両前側部分の容積が車両後側部分よりもかなり小さくなるが、この発明においても、請求項4の発明と同様に、第1分割部と第2分割部とを略同じタイミングで展開させることができ、バッグ部を局部的に偏らせることなく確実に略リング状に膨張展開させることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明のエアバッグ装置を備えたステアリングホイールによると、展開カバー部において第1部分に対応する位置にある第1分割部の表面積を第2部分に対応する位置にある第2分割部の表面積よりも大きくするか、又は、破断部において第1部分に対応する位置にある第1分割部を区画する部分を、第2部分に対応する位置にある第2分割部を区画する部分よりも破断し難いようにしたことにより、展開カバー部の第1分割部と第2分割部とを略同じタイミングで展開させるようにすることができ、パッド部のデザインの自由度を向上させつつ、バッグ部を局部的に偏らせることなく確実に略リング状に膨張展開させるようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るステアリングホイール16が設けられた車両1(本実施形態では、トラックやバス等を含む車高が高いワンボックスカー)における運転席シート2近傍の概略構成を示し、この車両1の車室内の前端部には、樹脂製のインストルメントパネル3が配設されており、このインストルメントパネル3の上方にはフロントガラス4が設けられている。
【0023】
図2に示すように、上記インストルメントパネル3の車幅方向中央部には、空調装置の温度調節や風量調節を行うための空調操作スイッチ7、空調空気吹出し用のセンタベンチレータ8、オーディオ装置9等が配設されている。また、インストルメントパネル3における運転席シート2の車両前側部分には、スピードメータ、エンジン回転計、エンジン冷却水の水温計等の計器11が配設され、インストルメントパネル3における運転席シート2側の端部(本実施形態では、車両右側端部)にはサイドベンチレータ12等が配設されている。
【0024】
上記インストルメントパネル3の計器11の下側には、車両後方に向かって上側に傾斜して延びるステアリングシャフト15が設けられており、このステアリングシャフト15の上端部にステアリングホイール16がコラム20を介して取り付けられている。
【0025】
上記ステアリングホイール16は、図3に拡大して示すように、車両1の乗員である運転手D(本実施形態では、アメリカ成人男性の平均の体格を有する者)が把持するリング部17と、該リング部17の中心側に位置しかつ該リング部17と2つのスポーク部19を介して接続されたパッド部18とからなっている。このパッド部18内には、後に詳細に説明するように、車両前突時に膨張展開するバッグ部26を有するエアバッグ装置25(図4参照)が配設されている。上記リング部17は、車幅方向から見て鉛直方向に対して40°以上90°以下の傾斜角θ(図1参照)で傾斜している。この傾斜角θの好ましい範囲は、45°以上85°以下である。以下、ステアリングホイール16については、車両1が前方直進走行状態にあるときの回転位置にある(舵角が0である)として説明する。
【0026】
上記ステアリングホイール16のパッド部18は、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見て、リング部中心軸(上記ステアリングシャフト15の軸心と一致する)よりも車両後側に寄った位置に設けられている。そして、上記2つのスポーク部19は、パッド部18における左右両側縁部の車両後側部分とリング部17の内周面における左右両側部の車両後側部分とをそれぞれ接続しており、これにより、パッド部18の車両前側及び後側におけるパッド部18とリング部17との間には、それぞれ空間が形成されることになる。これら2つの空間のうちパッド部18の車両前側の方が後側よりも大きく形成されている。このパッド部18の車両前側の空間を通して、運転手Dが、リング部17の車両前側に配設された上記計器11を視認するようになっている。
【0027】
上記パッド部18におけるリング部中心軸方向の運転手頭部側の部分(後述のように上記バッグ部26が膨張展開する側の部分)は、図4に示すように、ポリプロピレン等の樹脂からなるカバー部材35によって構成されている。このカバー部材35の内側面(運転手頭部と反対側面)における外周縁近傍には、リング部中心軸方向の運転手頭部と反対側(コラム20側)に延びる筒状の支持部35aが形成されており、この支持部35aに、カバー部材35との間に空間を形成するように、金属板からなる基部30が、ピン31のかしめにより支持固定されている。
【0028】
上記カバー部材35の略中央部には、コラム20側に凹む凹部35bが形成されており、この凹部35bの開口は、化粧カバー36によって覆われている。この化粧カバー36には、エンブレム等のアクセサリ、若しくはオーディオ装置9や空調装置の操作スイッチ、又は液晶やELによる表示装置等を配設することが好ましい。このように化粧カバー36に操作スイッチを配設する場合には、その操作スイッチの機構部を上記凹部35b内に設ければよい。以下、上記化粧カバー36を含めてカバー部材35における凹部35bの側周壁部及び底壁部をカバー中央部35cといい、カバー部材35における該カバー中央部35cよりも外周側の部分(上記支持部35bを除く)をカバー外周部35dということにする。
【0029】
本実施形態では、上記カバー中央部35cは、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見て略円形状をなしているとともに、カバー中央部35cの外側面(運転手頭部側面)の外周縁部は、カバー外周部35dの外側面(運転手頭部側面)における内周縁部に対して略面一(例えば±0.5cm以内の段差)とされているが、必ずしもこのようにする必要はない。
【0030】
上記パッド部18内におけるカバー中央部35cに対応する部分には、上記エアバッグ装置25の一部であるインフレータ27が設けられており、このインフレータ27は、カバー中央部35cと略同径の略円筒状のケース27aを有していて、上記基部30の略中央部に対し貫通した状態で固定されている。そして、上記カバー部材35と基部30との間における上記インフレータ27の周囲の空間が、上記バッグ部26が収容される収容部29とされている。この収容部29は、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見て略リング状をなしており、バッグ部26は該収容部29に、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見て略リング状に折り畳まれて収容されていることになる。
【0031】
上記インフレータ27は、ケース27a内にガスを発生させるためのガス発生剤(図示せず)が封入されたものであって、車両前突時に点火プラグ(図示せず)により該ガス発生剤に着火することによってガスを発生させ、このガスを、上記ケース27aの側周面に設けたガス噴出口27bよりバッグ部26へ噴出供給して、バッグ部26を膨張展開させるようになっている。
【0032】
上記基部30には、上記インフレータ27を跨ぐように支持ブラケット32が取付固定されている。この支持ブラケット32は、インフレータ27の車幅方向両側部分で基部30に取り付けられていて、そこから上記カバー中央部35cにおける凹部35bの底壁部に向かってそれぞれ延びる2つの側板部32aと、インフレータ27と上記底壁部との間を通って該両側板部32aの先端部同士を連結する天板部32bとを有している。この天板部32bと上記底壁部とが互いにボルト締結されている(ボルトは、図示を省略している)。
【0033】
上記バッグ部26は、袋状をなしていて、その開口縁部が基部30側を向いて上記インフレータ27を包むように上記収容部29に収容されている。このバッグ部26の開口縁部全周が基部30におけるインフレータ27の周囲に取付固定され、バッグ部26の袋底部の中央部分が、上記カバー中央部35cにおける凹部35bの底壁部と支持ブラケット32の天板部32bとの間に挟持されている。この収容部29に収容されたバッグ部26の中心部に対応する部分に、上記カバー中央部35cが位置することになる。
【0034】
上記コラム20は、上記パッド部18のリング部中心軸方向の運転手頭部と反対側を覆うように、上記ステアリングシャフト15の上端部に芯材21を介して回転一体に取付固定されている。この芯材21のパッド部18側の面には、車両後方へ向かって延びるホーンプレート41が固定されており、このホーンプレート41の先端部には、リング部中心軸方向に沿って延びる支持ピン42が固定されている。一方、上記基部30における車両後側部分のコラム20側の端部には、受け皿部材43が固定されており、この受け皿部材43が支持ピン42に対し摺動可能に嵌合されている。この受け皿部材43は、圧縮コイルスプリング44によりパッド部18側へ付勢されて、支持ピン42の大径とされた先端部に当接している。そして、運転手Dがパッド部18をコラム20側へ押圧すると、上記受け皿部材43が、圧縮コイルスプリング44の付勢力に抗して支持ピン42に対しホーンプレート41側へ摺動するようになっている。
【0035】
上記受け皿部材43における支持ピン42と嵌合する内周部には、第1接点45が受け皿部材43に一体に設けられている一方、支持ピン42のホーンプレート41側には、第2接点46が設けられており、上記受け皿部材43のホーンプレート41側への摺動により上記両接点45,46同士が接し、これにより、ホーン回路が閉成されて、ホーンが鳴るようになっている。
【0036】
図3及び図4に示すように、上記パッド部18のカバー部材35の内側面には、断面略V字状の破断溝51が形成されている。すなわち、この破断溝51は、カバー部材35の内側面において、カバー中央部35cとカバー外周部35dとの境界部分、カバー外周部35dにおける支持部35aの根元のカバー中央側部分、及び、カバー外周部35dにおける周方向の6箇所に形成されている。以下、カバー中央部35cとカバー外周部35dとの境界部分に形成された破断溝51を内側破断溝51aといい、カバー外周部35dにおける支持部35aの根元のカバー中央側部分に形成された破断溝51を外側破断溝51bといい、カバー外周部35dにおける周方向の6箇所に形成された破断溝51を中間破断溝51cということにする。
【0037】
上記中間破断溝51cは、内側破断溝51aから外側破断溝51cまでカバー外周部35dの径方向外側に向かって延びている。このことで、これら内側破断溝51a、外側破断溝51b及び中間破断溝51cにより、カバー外周部35dにおける外周端部を除く部分が、周方向において6つの分割部52に区画されている。以下、本実施形態において、カバー中央部35cに対して、車両前側に位置する分割部52を前側分割部52aといい、車両後側に位置する分割部52を後側分割部52bといい、車両左前側に位置する分割部52を左前側分割部52cといい、車両右前側に位置する分割部52を右前側分割部52dといい、車両左後側に位置する分割部52を左後側分割部52eといい、車両右後側に位置する分割部52を右後側分割部52fということにする。上記左後側及び右後側分割部52e,52fは、上記2つのスポーク部19にそれぞれ対応した位置に設けられている。
【0038】
上記外側破断溝51bは、上記各分割部52におけるカバー外周部35dの周方向の略中央部に相当する部分において所定長さに亘って途切れている。この各途切れた部分は、後述の如く各分割部52が展開するときのヒンジ部60として設定された部分である。
【0039】
上記カバー部材35における破断溝51の形成部分は、エアバッグ装置25のバッグ部26の膨張展開時に、その膨張展開圧を受けて破断するようになっている。このとき、外側破断溝51bの途切れた部分であるヒンジ部60は破断しない。これにより、上記前側分割部52aは、その両隣に位置する左前側及び右前側分割部52c,52dとは分離した状態になるとともに、当該前側分割部52aのヒンジ部60を中心にして車両前側に回動して、パッド部18の車両前側位置へ展開することになる(図5参照)。また、後側分割部52bは、その両隣に位置する左後側及び右後側分割部52e,52fとは分離した状態になるとともに、当該後側分割部52bのヒンジ部60を中心にして車両後側に回動して、パッド部18の車両後側位置へ展開することになる。さらに、同様に、左前側、右前側、左後側及び右後側分割部52c〜52fも、互いに分離した状態になるとともに、それぞれのヒンジ部60を中心にして回動して、パッド部18の車両左前側、右前側、左後側及び右後側の位置へそれぞれ展開することになる。このように各分割部52は、バッグ部26の膨張展開圧により、互いに分割された分割片となってそれぞれ展開することになる。
【0040】
上記分割部52の展開により、カバー部材35において分割部52が展開前に存在していた箇所に、バッグ部26がパッド部18外側に膨張展開するための略リング状の開口部が形成されることとなる。一方、上記カバー中央部35cは、支持ブラケット32を介して基部30に固定されているため、バッグ部26の膨張展開時に展開することはない。このことより、カバー中央部35cは、収容部29に収容されたバッグ部26の中心部に対応しかつ該バッグ部26の膨張展開時に展開されないように固定された固定カバー部に相当し、上記分割部52は、バッグ部26の膨張展開時にバッグ部26がパッド部18外側に膨張展開するための略リング状の開口部を形成するように展開される展開カバー部に相当する。また、この展開カバー部は、その展開時に互いに分割されてそれぞれ分割片となるように設定された複数の分割部52(52a〜52f)からなっていることになる。さらに、カバー部材35における破断溝51の形成部分が、各分割部52を区画しかつ展開時に破断する破断部に相当し、この破断部は、上記破断溝51の形成により薄肉部とされていることになる。
【0041】
図4に示すように、カバー部材35の外側面(つまり運転手頭部側面)においてカバー中央部35cと前側分割部52a(展開カバー部における固定カバー部に対してパッド部径方向の第1の側に位置する部分)との境界近傍からカバー部材35の車両前側端(第1の側端)近傍に至る第1部分35eは、運転手Dが、パッド部18の車両前側におけるパッド部18とリング部17との間の空間を通して上記計器11を視認可能となるように、該境界近傍から該車両前側端(第1の側端)に向かって(つまり車両前側に向かって)リング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜している。これにより、カバー部材35の車両前側端ないしその近傍部分は、リング部17に対してリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側(リング部17の運転手頭部側端から運転手頭部とは反対側に所定値xの距離だけ離れた位置、好ましくは、リング部17の運転手頭部と反対側端から所定値yの距離だけ離れた位置)に位置しており、このカバー部材35の車両前側端近傍に上記前側分割部52aのヒンジ部60が設定されている。
【0042】
また、カバー部材35の外側面においてカバー中央部35cと後側分割部52b(展開カバー部における固定カバー部に対してパッド部径方向の第1の側とは反対側である第2の側に位置する部分)との境界近傍からカバー部材35の車両後側端(第2の側端)近傍に至る第2部分35fは、上記第1部分35eと同様に、該境界近傍から該車両後側端(第2の側端)に向かって(つまり車両後側に向かって)リング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜している。これにより、カバー部材35の車両後側端ないしその近傍部分は、リング部17に対してリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に位置しており、このカバー部材35の車両後側端近傍に上記後側分割部52bのヒンジ部60が設定されている。
【0043】
上記第1部分35eと第2部分35fとの傾斜状態は互いに異なっている。すなわち、上記第1部分35eにおけるカバー中央部35cと前側分割部52aとの境界近傍の傾斜角は、上記第2部分35fにおけるカバー中央部35cと後側分割部52bとの境界近傍の傾斜角よりも大きい一方、第1部分35eにおけるカバー部材35の車両前側端近傍の傾斜角は、第2部分35fにおけるカバー部材35の車両後側端近傍の傾斜角よりも小さくなっている。この第1部分35eの傾斜により、運転手Dが、パッド部18の車両前側におけるパッド部18とリング部17との間の空間を通して上記計器11を視認し易くなっている。この結果、収容部29において上記第1部分35eに対応する部分(車両前側部分)の容積が上記第2部分35fに対応する部分(車両後側部分)の容積よりも小さくなっている。尚、基部30において上記第1部分35eに対応する部分(車両前側部分)と上記第2部分35fに対応する部分(車両後側部分)とは、リング部中心軸方向において同じ位置にある。
【0044】
また、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見たときに、カバー中央部35cの中心は、パッド部18の車両前後方向中央よりも車両前側に寄った位置にあり、このことで、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見たときに、カバー部材35におけるカバー中央部35cの車両前側端と該カバー部材35の車両前側端との間の距離L1が、該カバー部材35におけるカバー中央部35cの車両後側端と該カバー部材35の車両後側端との間の距離L2よりも小さくなっている(図4参照)。これに伴い、収容部29の中心(カバー中央部35cの中心と略一致)も、パッド部18の車両前後方向中央よりも車両前側に寄っていることになる。この結果、上記傾斜状態と相俟って、収容部29において上記第1部分35eに対応する部分(車両前側部分)の容積が上記第2部分35fに対応する部分(車両後側部分)の容積よりもかなり小さくなっている。
【0045】
そして、上記破断部において上記第1部分35eに対応する位置にある第1分割部(つまり前側分割部52a)を区画する部分(図3において○印を付した破断溝51の形成部分)が、上記第2部分35fに対応する位置にある第2分割部(つまり後側分割部52b)を区画する部分(図3において×印を付した破断溝51の形成部分)よりも破断し難いように構成されている。具体的には、破断溝51において前側分割部52aを区画する部分の深さが後側分割部52bを区画する部分の深さよりも小さくされ、これにより、破断部において前側分割部52aを区画する部分の肉厚が後側分割部52bを区画する部分の肉厚よりも大きくされている。この両者の肉厚の差は、後述の如く前側分割部52aと後側分割部52bとが略同じタイミングで展開するような値に設定されている。また、本実施形態では、図3において●印を付した破断溝51の形成部分の肉厚は、前側分割部52aを区画する部分の肉厚と同じとし、残りの印を付していない破断溝51の形成部分の肉厚は、後側分割部52bを区画する部分の肉厚と同じにしている。尚、上記のように破断部に肉厚差を設ける代わりに、カバー部材35の材料を部分的に変更することで、破断部において破断し易い部分と破断し難い部分とを設けるようにすることもできる。
【0046】
上記エアバッグ装置25のバッグ部26は、図5に示すように、上記分割部52の展開により形成された開口部から、該バッグ部26の中心部に中空部26aが形成されかつ該中空部26a内に上記カバー中央部35cが位置するように膨張展開するようになっている。これにより、バッグ部26は、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見て、該運転手頭部側に略リング状に膨張展開することになる。このバッグ部26の膨張展開初期における分割部52の展開前では、上記のように収容部29において上記第1部分35eに対応する部分の容積が上記第2部分35fに対応する部分の容積よりも小さくなっているので、膨張展開初期のバッグ26部内の上記第1部分35eに対応する部分の圧力が上記第2部分35fに対応する部分よりも高くなる。一方、破断部において上記第1部分35eに対応する位置にある前側分割部52aを区画する部分が上記第2部分35fに対応する位置にある後側分割部52bを区画する部分よりも破断し難くなっているので、前側分割部52aと後側分割部52bとの内側面に同じ押圧力が作用したときには、後側分割部52bを区画する部分の方が前側分割部52aを区画する部分よりも先に破断し、これにより、後側分割部52bの方が前側分割部52aよりも先に展開する。しかし、上記の膨張展開圧の差によって、前側分割部52aの内側面には後側分割部52bよりも大きな押圧力が作用するので、両分割部52a,52bは略同じタイミングで展開し、バッグ部26は局部的に偏ることなく略リング状に膨張展開する。
【0047】
そして、図6に示すように、バッグ部26は、その膨張展開完了時には、該バッグ部26の中心部におけるカバー中央部35cよりも運転手頭部側において上記中空部26aの内周面全周が中空部26a内側に膨出して該中空部26aが潰れた状態になるように構成されている。また、バッグ部26は、膨張展開完了時に、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見て、ステアリングホイール16のリング部17よりも大きい外径を有してリング部17を覆うようになっている。
【0048】
本実施形態では、上記の如く、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見たときに、カバー中央部35cの中心が、パッド部18の車両前後方向中央よりも車両前側に寄った位置にあるので、膨張展開したバッグ部26の中心部をリング部17の中心に近づけるようにすることができる。すなわち、パッド部18がリング部17に対して車両後側に寄った位置に設けられているが、カバー中央部35cの中心、つまり収容部29の中心を車両前側に寄せることで、収容部29の中心をリング部17の中心に近づけることができ、これにより、膨張展開したバッグ部26の中心部もリング部17の中心に近づけることが可能になる。この結果、後述の如く運転手Dの顔面がバッグ部26の展開先端面に当接する際、ステアリングホイールの舵角位置に関係なく、バッグ部26の展開先端面において略同じ位置(中心部)に当接して、常に同じ形態で運転手Dを保護することができるようになる。
【0049】
本実施形態の車両1は、図1に示すように、車両前突時に運転手Dの上体の車両前方への移動量を所定範囲内に制限するシートベルト装置70を備えている。すなわち、このシートベルト装置70は、シートベルト71を巻き取るリトラクタ部72と、このリトラクタ部72から引き出されたシートベルト71の先端部が取り付けられた不図示のラップアンカー部と、シートベルト71の長さ方向中間部に配設されたタング74が着脱可能に係合するバックル部75とを有する3点式に構成されている。上記バックル部75は、運転席シート2の車幅方向内側で車体に固定されている一方、リトラクタ部72及びラップアンカー部は、運転席シート2を挟んでバックル部75とは反対側である車幅方向外側で車体に固定されている。上記リトラクタ部72から引き出されたシートベルト71は、運転席シート2の車幅方向外側の上方位置に設けられたスリップガイド76により、その引き出し方向が上向きから下向きに変換されて、その先端部が上記ラップアンカー部に取り付けられている。上記タング74は、上記スリップガイド76とラップアンカー部との間でシートベルト71に対して摺動可能に設けられており、このタング74が上記バックル部75に係合されることで、運転手Dがシートベルト71を着用した状態となる。そして、上記リトラクタ部72には、図示を省略する周知のロードリミッター機構が配設されており、車両前突時に、運転手Dの上体が倒れながら車両前方へ移動しようとするときに、ロードリミッター機構のシャフトがねじれることにより、シートベルト71が張力を一定に保ちながら引き出されて、運転手Dの上体の車両前方への移動量を所定範囲内に制限するようになっている。本実施形態では、車両1が30km/hで前方直進走行中に障害物に衝突したときに、運転手Dの胸面(胸骨に対応する部分)の上下方向中央の前方移動量を、20cm以上30cm以下の範囲内に制限する。
【0050】
図7に示すように、車両前突時において上記のように運転手Dの上体が倒れたときに、該運転手Dの顔面は、上記バッグ部26の展開先端面(リング部中心軸方向の運転手頭部側の面)において上記中空部26aが潰れた状態にある中心部に当接するようになっている。本実施形態では、運転手Dの顔面の中心が、バッグ部26の展開先端面において該バッグ部26の中心(つまり中空部26aの中心)から半径20cm以内(好ましくは10cm以内)の部分に当接するようにしている。すなわち、バッグ部26の展開先端面における中心部は、中空部26aが潰れた状態にあるといえども、展開先端面における他の部分と同じ状態ではなく、圧縮力に対して、他の部分よりも弾性が低くて大きく変形する。これにより、バッグ部26の展開先端面における中心部に運転手Dの顔面が当接するようにすれば、運転手Dの顔面に作用する衝撃力を低減することができる。
【0051】
尚、ステアリングホイール16のリング部17が、車幅方向から見て鉛直方向に対して上記傾斜角θで傾斜している場合には、通常、展開したバッグ部26の外側周側面の車両後側部分に運転手Dの胸部が当接するとともに、展開先端面に顔面が当接するので、バッグ部26の展開先端面の半径を、運転手Dの胸部から顔面の中心までの距離と略一致するように設定しておけば、バッグ部26の展開先端面における中心部に運転手Dの顔面を容易に当接させるようにすることができる。
【0052】
ここで、車両前突時には、その衝撃度の大きさによって、ステアリングホイール16がステアリングシャフト15を介して運転手頭部側へ移動する場合があり、この場合には、上体が車両前方に倒れた運転手Dの顔面がバッグ部26の展開先端面に当接する前に、該運転手Dの胸部が、そのステアリングホイール16のリング部17の車両後側部分に当接する可能性があるが、上述の如く、バッグ部26の膨張展開完了時の外径がリング部17よりも大きいので、胸部がリング部17に当接する前にバッグ部26の外側周側面の車両後側部分に当接し、これにより、運転手Dの胸部をも保護することができるようになる。
【0053】
したがって、上記実施形態1では、破断部において上記第1部分35eに対応する位置にある第1分割部(前側分割部52a)を区画する部分が、第2部分35fに対応する位置にある第2分割部(後側分割部52b)を区画する部分よりも破断し難いように構成されているので、収容部29において上記第1部分35eに対応する部分(車両前側部分)の容積が上記第2部分35fに対応する部分(車両後側部分)の容積よりも小さくなっていたとしても、前側分割部52aと後側分割部52bとを略同じタイミングで展開させることができ、よって、バッグ部26を局部的に偏らせることなく確実に略リング状に膨張展開させるようにすることができる。
【0054】
尚、上記実施形態1では、第1の側を車両前側とし、第2の側を車両後側とした(第1分割部を前側分割部52aとし、第2分割部を後側分割部52bとした)が、第1の側は、カバー中央部35cに対してパッド部径方向のいずれの側(例えば車両左前側)であってもよく、第2の側は、その第1の側と反対側であればよい(第1の側が車両左前側であれば、第2の側は車両右後側となる)。つまり、カバー中央部35cを挟んで互いに反対側に位置する第1部分と第2部分との傾斜状態が互いに異なることで、収容部における上記第1部分に対応する部分の容積が上記第2部分に対応する部分の容積よりも小さくなる場合に、破断部において上記第1部分に対応する位置にある第1分割部を区画する部分を、上記第2部分に対応する位置にある第2分割部を区画する部分よりも破断し難いように構成すればよい。
【0055】
(実施形態2)
図8は本発明の実施形態2を示し(尚、図3と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する)、上記第1部分35eに対応する位置にある第1分割部(前側分割部52a)の内側面の表面積を、上記第2部分35fに対応する位置にある第2分割部(後側分割部52b)の内側面の表面積よりも大きくするようにしたものである。
【0056】
すなわち、本実施形態では、上記第1部分35eと第2部分35fとの傾斜状態及びカバー中央部35cの中心がパッド部18の車両前後方向中央よりも車両前側に寄っていることは、上記実施形態1と同様であり、このため、収容部29において上記第1部分35eに対応する部分(車両前側部分)の容積が上記第2部分35fに対応する部分(車両後側部分)の容積よりも小さくなっている。一方、カバー部材35における破断溝51の形成部分(破断部)の肉厚は、上記実施形態1とは異なり、全て同じになっている。
【0057】
そして、本実施形態では、中間破断溝51cの数が上記実施形態1よりも2つ増えて、展開カバー部は周方向において8つの分割部52に区画され、展開カバー部の車両後半分の部分で分割部52が上記実施形態1よりも2つ増えて5つとなっており、車両前半分の部分では上記実施形態1と同じ3つである。本実施形態においても、カバー中央部35cに対して、車両前側に位置する分割部52を前側分割部52aといい、車両後側に位置する分割部52を後側分割部52bといい、車両左前側に位置する分割部52を左前側分割部52cといい、車両右前側に位置する分割部52を右前側分割部52dという。また、車両左後側に位置する2つの分割部52のうち車両前側にあるものを第1左後側分割部52eといい、車両後側にあるものを第2左後側分割部52fという。さらに、車両右後側に位置する2つの分割部52のうち車両前側にあるものを第1右後側分割部52gといい、車両後側にあるものを第2右後側分割部52hという。
【0058】
上記前側分割部52a(第1部分35eに対応する位置にある第1分割部)の内側面の表面積は、後側分割部52b(第2部分35fに対応する位置にある第2分割部)の内側面の表面積よりも大きくなっている。これら前側分割部52a及び側分割部52bの内側面の表面積の差は、前側分割部52aと後側分割部52bとが略同じタイミングで展開するような値に設定されている。また、本実施形態では、左前側分割部52c及び右前側分割部52dの内側面の表面積は、前側分割部52aの内側面の表面積と略同じとし、第1及び第2左後側分割部52e,52f並びに第1及び第2右後側分割部52g,52hの内側面の表面積は、後側分割部52bの内側面の表面積と略同じにしている。尚、本実施形態では、各分割部52の外側面と内側面とは略同じ表面積を有しているので、各分割部52の外側面の表面積についても、上記内側面の表面積と同じ大小関係にある。
【0059】
したがって、上記実施形態では、前側分割部52aの内側面の表面積を後側分割部52bの内側面の表面積よりも大きくしたので、前側分割部52aと後側分割部52bとの内側面に同じ押圧力が作用したときには、後側分割部52bの方が前側分割部52aよりも先に分割展開するが、上記実施形態1と同様に、収容部29において上記第1部分35eに対応する部分(車両前側部分)の容積が上記第2部分35fに対応する部分(車両後側部分)の容積よりも小さくなっているので、膨張展開初期のバッグ26部内の上記第1部分35eに対応する部分の圧力が上記第2部分35fに対応する部分よりも高くなり、この圧力差によって、前側分割部52aの内側面には後側分割部52bよりも大きな押圧力が作用する。この結果、上記実施形態1と同様に、前側分割部52aと後側分割部52bとを略同じタイミングで展開させることができ、よって、バッグ部26を局部的に偏らせることなく確実に略リング状に膨張展開させるようにすることができる。
【0060】
尚、上記実施形態2においても、上記実施形態1と同様に、第1の側を車両前側とし、第2の側を車両後側としたが、第1の側は、カバー中央部35cに対してパッド部径方向のいずれの側であってもよく、第2の側は、その第1の側と反対側であればよい。つまり、カバー中央部35cを挟んで互いに反対側に位置する第1部分と第2部分との傾斜状態が互いに異なることで、収容部における上記第1部分に対応する部分の容積が上記第2部分に対応する部分の容積よりも小さくなる場合に、展開カバー部において上記第1部分に対応する位置にある第1分割部の内側面の表面積を上記第2部分に対応する位置にある第2分割部の内側面の表面積よりも大きくすればよい。
【0061】
また、上記実施形態1及び2では、リング部17は、車幅方向から見て鉛直方向に対して40°以上90°以下の傾斜角で傾斜させたが、乗用車のように該傾斜角が0°よりも大きくかつ40°よりも小さい場合にも本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、パッド部内に、ドーナツ型エアバッグと呼ばれるバッグ部を有するエアバッグ装置が配設されたステアリングホイールに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態1に係るステアリングホイールが設けられた車両における運転席シート近傍の概略構成を示す側面図である。
【図2】上記車両のインストルメントパネルの一部及びステアリングホイールを示す、車両後方斜め上側から見た図である。
【図3】上記ステアリングホイールをリング部中心軸方向の運転手頭部側から見た図である。
【図4】図3のIV-IV線断面図である。
【図5】エアバッグ装置のバッグ部の膨張展開初期の状態を示す図3相当図である。
【図6】エアバッグ装置のバッグ部の膨張展開完了時の状態を示す車幅方向から見た断面図である。
【図7】エアバッグ装置のバッグ部に運転手が当接した状態を示す図1相当図である。
【図8】実施形態2を示す図3相当図である。
【符号の説明】
【0064】
D 運転手
1 車両
3 インストルメントパネル
11 計器
16 ステアリングホイール
17 リング部
18 パッド部
19 スポーク部
25 エアバッグ装置
26 バッグ部
27 インフレータ
29 収容部
30 基部
35 カバー部材
35c カバー中央部(固定カバー部)
35e 第1部分
35f 第2部分
51 破断溝
52 分割部(展開カバー部)
52a 前側分割部(第1分割部)
52b 後側分割部(第2分割部)
60 ヒンジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転手が把持するリング部と、該リング部の中心側に位置しかつ該リング部とスポーク部を介して接続されたパッド部とからなり、該パッド部内に配設されたエアバッグ装置を備えたステアリングホイールであって、
上記エアバッグ装置は、上記リング部中心軸方向の運転手頭部側から見て上記パッド部内に設けた収容部に略リング状に収容されかつ車両前突時に該運転手頭部側に膨張展開するバッグ部を有し、
上記パッド部におけるバッグ部膨張展開側の部分は、カバー部材により構成されていて、上記収容されたバッグ部の中心部に対応しかつ該バッグ部の膨張展開時に展開されないように固定された固定カバー部と、該固定カバー部の周囲に設けられ、バッグ部の膨張展開時にバッグ部がパッド部外側に膨張展開するための略リング状の開口部を形成するように該バッグ部の膨張展開圧により展開される展開カバー部とを有し、
上記カバー部材の運転手頭部側面において上記固定カバー部と上記展開カバー部における該固定カバー部に対してパッド部径方向の第1の側に位置する部分との境界近傍から該カバー部材の該第1の側端近傍に至るまでの第1部分が、該境界近傍から該第1の側端に向かってリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜し、
上記カバー部材の運転手頭部側面において上記固定カバー部と上記展開カバー部における該固定カバー部に対してパッド部径方向の上記第1の側とは反対側である第2の側に位置する部分との境界近傍から該カバー部材の該第2の側端近傍に至るまでの第2部分が、上記第1部分とは異なる傾斜状態で、該境界近傍から該第2の側端に向かってリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜しており、
上記収容部は、上記カバー部材と、該カバー部材に対してリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に設けられた基部との間に形成されていて、上記第1部分及び第2部分の傾斜状態により、該収容部における上記第1部分に対応する部分の容積が上記第2部分に対応する部分の容積よりも小さくなる形状をなし、
上記展開カバー部は、その展開時に互いに分割されてそれぞれ分割片となるように設定された複数の分割部からなっており、
上記展開カバー部において上記第1部分に対応する位置にある第1分割部の表面積が上記第2部分に対応する位置にある第2分割部の表面積よりも大きいことを特徴とするエアバッグ装置を備えたステアリングホイール。
【請求項2】
車両の運転手が把持するリング部と、該リング部の中心側に位置しかつ該リング部とスポーク部を介して接続されたパッド部とからなり、該パッド部内に配設されたエアバッグ装置を備えたステアリングホイールであって、
上記エアバッグ装置は、上記リング部中心軸方向の運転手頭部側から見て上記パッド部内に設けた収容部に略リング状に収容されかつ車両前突時に該運転手頭部側に膨張展開するバッグ部を有し、
上記パッド部におけるバッグ部膨張展開側の部分は、カバー部材により構成されていて、上記収容されたバッグ部の中心部に対応しかつ該バッグ部の膨張展開時に展開されないように固定された固定カバー部と、該固定カバー部の周囲に設けられ、バッグ部の膨張展開時にバッグ部がパッド部外側に膨張展開するための略リング状の開口部を形成するように該バッグ部の膨張展開圧により展開される展開カバー部とを有し、
上記カバー部材の運転手頭部側面において上記固定カバー部と上記展開カバー部における該固定カバー部に対してパッド部径方向の第1の側に位置する部分との境界近傍から該カバー部材の該第1の側端近傍に至るまでの第1部分が、該境界近傍から該第1の側端に向かってリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜し、
上記カバー部材の運転手頭部側面において上記固定カバー部と上記展開カバー部における該固定カバー部に対してパッド部径方向の上記第1の側とは反対側である第2の側に位置する部分との境界近傍から該カバー部材の該第2の側端近傍に至るまでの第2部分が、上記第1部分とは異なる傾斜状態で、該境界近傍から該第2の側端に向かってリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜しており、
上記収容部は、上記カバー部材と、該カバー部材に対してリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に設けられた基部との間に形成されていて、上記第1部分及び第2部分の傾斜状態により、該収容部における上記第1部分に対応する部分の容積が上記第2部分に対応する部分の容積よりも小さくなる形状をなし、
上記展開カバー部は、その展開時に互いに分割されてそれぞれ分割片となるように設定された複数の分割部と、該各分割部を区画しかつ展開時に破断する破断部とを有しており、
上記破断部において上記第1部分に対応する位置にある第1分割部を区画する部分が、上記第2部分に対応する位置にある第2分割部を区画する部分よりも破断し難いように構成されていることを特徴とするエアバッグ装置を備えたステアリングホイール。
【請求項3】
請求項2記載のエアバッグ装置を備えたステアリングホイールにおいて、
破断部は、溝の形成により薄肉部とされており、
上記破断部において第1分割部を区画する部分の肉厚が第2分割部を区画する部分の肉厚よりも大きいことを特徴とするエアバッグ装置を備えたステアリングホイール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のエアバッグ装置を備えたステアリングホイールにおいて、
車両の前方直進走行状態において、第1の側は車両前側であり、第2の側は車両後側であり、リング部中心軸方向の運転手頭部側から見たときに、カバー部材における固定カバー部の車両前側端と該カバー部材の車両前側端との間の距離が、該カバー部材における固定カバー部の車両後側端と該カバー部材の車両後側端との間の距離よりも小さいことを特徴とするエアバッグ装置を備えたステアリングホイール。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のエアバッグ装置を備えたステアリングホイールにおいて、
リング部は、車幅方向から見て鉛直方向に対して40°以上90°以下の傾斜角で傾斜し、
インストルメントパネルにおける上記リング部の車両前方部分に、計器が配置されており、
車両の前方直進走行状態において、第1の側は車両前側であり、第2の側は車両後側であり、カバー部材の運転手頭部側面の第1部分は、運転手が、パッド部の車両前側におけるパッド部とリング部との間の空間を通して上記計器を視認可能となるように、車両前側に向かってリング部中心軸方向の運転手頭部とは反対側に傾斜していることを特徴とするエアバッグ装置を備えたステアリングホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−30713(P2007−30713A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217868(P2005−217868)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】