エアバッグ装置
【課題】開口部での膨張用ガスの流通を適切に調整し、エアバッグの内圧を好適に調圧する。
【解決手段】エアバッグの膨張部46を区画部材50により上流側膨張部47及び下流側膨張部に区画する。区画部材50に、スリットからなる内開口部71と一対の弁体部とを有する調圧弁70を設ける。両弁体部は、上流側膨張部47による乗員拘束前には、同膨張部47内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触することで、内開口部71での膨張用ガスの流通を規制し、乗員拘束時には、その拘束に伴い加わる外力により、区画部材50を通じて撓んで互いに離間することで、内開口部71での膨張用ガスの流通を許容する。内開口部71での膨張用ガスの流通方向に直交する面Sに対し区画部材50が投影される投影面PRは、スリットに直交する方向の寸法L3の、スリットの延びる方向の寸法L4に対する比(L3/L4)が1.1〜5.0となる楕円部PR1を有する。
【解決手段】エアバッグの膨張部46を区画部材50により上流側膨張部47及び下流側膨張部に区画する。区画部材50に、スリットからなる内開口部71と一対の弁体部とを有する調圧弁70を設ける。両弁体部は、上流側膨張部47による乗員拘束前には、同膨張部47内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触することで、内開口部71での膨張用ガスの流通を規制し、乗員拘束時には、その拘束に伴い加わる外力により、区画部材50を通じて撓んで互いに離間することで、内開口部71での膨張用ガスの流通を許容する。内開口部71での膨張用ガスの流通方向に直交する面Sに対し区画部材50が投影される投影面PRは、スリットに直交する方向の寸法L3の、スリットの延びる方向の寸法L4に対する比(L3/L4)が1.1〜5.0となる楕円部PR1を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突等により乗物に衝撃が加わった場合に、乗物用シートに着座している乗員に接近した箇所でエアバッグを展開膨張させて、乗員を衝撃から保護するエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
側突等により車両に側方から衝撃が加わった場合に、その衝撃から乗員を保護する装置として、エアバッグ及びインフレータを備えたサイドエアバッグ装置が広く知られている。このサイドエアバッグ装置では、エアバッグが折り畳まれた状態でインフレータとともに、車両用シートのシートバック(背もたれ)内に組み込まれている。このサイドエアバッグ装置では、車両の側部を構成する部材(ボディサイド部)、例えばサイドドア等に対し側方から衝撃が加わると、インフレータから膨張用ガスがエアバッグ内に供給される。この膨張用ガスによりエアバッグが展開膨張し、一部をシートバック内に残した状態で車両用シートから飛び出す。このエアバッグは、車両用シートに着座した乗員とボディサイド部との間の狭い空間において、シートバックから車両前方へ向けて展開膨張する。展開膨張したエアバッグが、乗員と車内側へ進入してくるボディサイド部との間に介在して乗員を拘束するとともに、ボディサイド部を通じて乗員へ伝わる側方からの衝撃を緩和する。
【0003】
ところで、サイドエアバッグ装置では、車内側へ進入してくるボディサイド部によってエアバッグが乗員に押付けられる。この押付けに伴い、乗員はエアバッグを通じて衝撃の荷重を受ける。この荷重は、乗員がエアバッグから圧力を受ける面積(乗員のエアバッグ側の受圧面積)と、エアバッグの内圧との積によって決定される。この荷重は、乗員を衝撃から保護する観点からは、ボディサイド部の進入開始後短時間で所定値に到達し、その後は、ボディサイド部の進入量(ストローク)に拘らず所定値に維持されることが望ましい。
【0004】
この点、エアバッグ内が仕切られていないタイプのサイドエアバッグ装置では、ボディサイド部の進入量(ストローク)の増加に伴い内圧及び受圧面積が増加することから、乗員がエアバッグから受ける荷重は、ボディサイド部の進入が進むにつれて徐々に増加する。荷重は、ボディサイド部がある程度進入してからでないと所定値に達しない。しかも、荷重は所定値に到達した後も増加し続け、最終的には所定値を超過する。その結果、荷重が所定値に到達するまでは、乗員の充分な保護が開始されない。荷重が所定値に到達した後には、乗員はエアバッグを通じて、所定値よりも大きな荷重を受ける。
【0005】
これについては、エアバッグの内圧を調整(調圧)することで、荷重についての上記要求に応えようとするサイドエアバッグ装置が種々提案されている。
例えば、特許文献1に記載された「車体側部のエネルギ吸収構造」では、エアバッグを上部エアバッグと下部エアバッグとに仕切る仕切り部に、開口部を有する調圧弁(圧力制御弁)が設けられている。なお、部材名称に続くかっこ内の語句は、特許文献1で使用されている部材名称を示している。このエネルギ吸収構造では、調圧弁(圧力制御弁)により開口部が開閉されることで、同開口部での膨張用ガスの流通が調整され、下部エアバッグが上部エアバッグよりも先に展開膨張させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−67297号公報(図9、図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献1では、開口部を有する調圧弁(圧力制御弁)が、仕切り部において乗員を直接拘束しない箇所に設けられている。そのため、下部エアバッグの内圧上昇のみによって調圧弁(圧力制御弁)が作動して開口部を開くものと考えられる。その結果、エアバッグを通じて乗員が受ける荷重の特性が上述したような望ましい特性となるように、エアバッグの内圧を調整(調圧)することが難しい。
【0008】
なお、こうした問題は、上記サイドエアバッグ装置に限らず、他の種類のエアバッグ装置にも共通して起こり得る。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、開口部での膨張用ガスの流通を適切に調整し、エアバッグの内圧を好適に調圧することのできるエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、乗物への衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、乗物用シートに着座した乗員に接近した箇所で展開膨張する膨張部が設けられたエアバッグを備え、前記膨張部を、面状の区画部材により、前記膨張用ガスが供給される上流側膨張部と、前記上流側膨張部に隣接し、かつ前記上流側膨張部を経由した膨張用ガスが供給される下流側膨張部とを少なくとも含む複数の部位に区画し、前記乗員を前記膨張部で拘束するエアバッグ装置であって、前記区画部材には、前記衝撃の加わる方向に延びるスリットからなる開口部と、一対の弁体部とを有する調圧弁が設けられ、前記両弁体部は、前記上流側膨張部による乗員拘束前には、同上流側膨張部内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触することで、前記開口部での膨張用ガスの流通を規制し、前記上流側膨張部による乗員拘束時には、その拘束に伴い加わる外力により、前記区画部材を通じて撓んで互いに離間することで、前記開口部での膨張用ガスの流通を許容するものであり、前記開口部での前記膨張用ガスの流通方向に直交する面に対し前記区画部材が投影される投影面は、前記スリットに直交する方向の寸法の、前記スリットの延びる方向の寸法に対する比が1.1〜5.0となる楕円部を有していることを要旨とする。
【0010】
上記の構成によれば、乗物に衝撃が加わると、エアバッグの上流側膨張部が膨張用ガスの供給を受けて展開膨張を開始する。この上流側膨張部が乗員を拘束する前には、区画部材に対し、スリットに直交する方向や、スリットの延びる方向(衝撃の加わる方向)にテンションが掛かって、同区画部材が緊張状態になろうとする。
【0011】
ここで、開口部での膨張用ガスの流通方向に直交する面に対し区画部材が投影される投影面は、楕円部を有している。しかも、この楕円部では、スリットに直交する方向の寸法の、スリットの延びる方向の寸法に対する比が「1.1」以上に設定されている。
【0012】
従って、区画部材は、スリットの延びる方向に対するよりも、スリットに直交する方向に長い形状をなしていることとなり、区画部材では、スリットの延びる方向に対し、スリットに直交する方向に対するよりも強いテンションが掛かりやすい。そのため、開口部は、開く方向よりも閉じる方向に強く引っ張られる。また、一対の弁体部が上流側膨張部内の膨張用ガスによって押圧されて互いに接触し、開口部での膨張用ガスの流通を規制する。上流側膨張部内の膨張用ガスは、開口部を通じ下流側膨張部へ流れないか、流れたとしても僅かである。その結果、膨張部のうち専ら上流側膨張部の内圧が上昇する。
【0013】
一方、前記衝撃により、乗物を構成する部材(乗物構成部材)が乗物の内側へ進入して、エアバッグが乗員に押付けられると、その乗員は主として上流側膨張部によって拘束される。このときには、乗員拘束に伴い加わる外力によって膨張部が押圧されて変形する。これに伴い、区画部材に対しスリットの延びる方向に強く掛かっていたテンションが減少し、直交する方向に掛かるテンションが増加する。これらのテンションの変化により、両方向のテンションの差が小さくなり、開口部が開かれる。また、区画部材を通じて両弁体部が撓んで互いに離間する。上記流通規制が解除され、上流側膨張部内の膨張用ガスは、開口部を通じて下流側膨張部へ流出することを許容される。
【0014】
なお、閉じていた開口部を開かせるために必要な、乗員拘束に伴い膨張部に加わる外力と、楕円部の上記比との間には相関関係が見られる。比が大きくなる(楕円部が、スリットに直交する方向に長くなる)に従い、大きな外力が必要となる。しかし、大きな外力が膨張部に加われば、乗員拘束時にエアバッグから乗員に加わる荷重も大きくなる。
【0015】
この点、請求項1に記載の発明では、楕円部の上記比が「5.0」以下に設定されていて、外力が加わっても、乗員に加わる荷重は許容範囲に収まる。開口部を開かせるために必要な外力が過大となることが抑制される。その結果、乗員拘束に伴い適度な大きさの外力が膨張部に加わったときに、上記両方向のテンションの差が小さくなり、開口部が開くようになる。この際に、乗員に過大な荷重が加わることが起こりにくい。
【0016】
上記開口部を通じた膨張用ガスの流出により、上流側膨張部の内圧が低下し、下流側膨張部の内圧が上昇する。下流側膨張部が展開膨張し、膨張部が、上流側膨張部に加え下流側膨張部においても乗員に押付けられるようになる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記区画部材は、2つの部材の端縁同士を合致させた状態で端部同士を帯状に重ね合わせ、さらに前記両部材を、非重ね合わせ部と重ね合わせ部との境界部分で結合することにより形成され、前記開口部は、前記両部材の結合部分の一部について結合を解除させることにより形成され、前記重ね合わせ部において前記開口部に対応する箇所が前記両弁体部とされることを要旨とする。
【0018】
上記の構成によれば、区画部材は、2つの部材の端縁同士を合致させた状態で端部同士を帯状に重ね合わせ、さらに同両部材を、非重ね合わせ部と重ね合わせ部との境界部分で結合することにより形成される。この結合部分の一部の結合が解除される(両部材が結合されない)ことにより、開口部が形成される。また、重ね合わせ部において開口部に対応する箇所が両弁体部とされる。このように、2つの部材における非重ね合わせ部と重ね合わせ部との境界部分を、一部を残した状態で結合することにより、区画部材、開口部及び両弁体部の各々が一度に形成される。開口部の形成、及び両弁体部の形成のために特別な作業は不要である。
【0019】
特に、両弁体部は区画部材に対し一体となっている。そのため、両弁体部が区画部材とは異なる部材からなる場合に比べ、部品点数が少なくてすむばかりか、同部材を区画部材に結合する作業が不要である。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記エアバッグの前記膨張部は、前記乗物用シートの側方から前記乗物に加わる衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの側方で前方へ向けて展開膨張するものであることを要旨とする。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記エアバッグの前記膨張部は、前記乗物用シートの前方から前記乗物に加わる衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの前方から前記乗員の下肢に向けて展開膨張するものであることを要旨とする。
【0022】
上記請求項3(又は請求項4)に記載の発明の構成によれば、乗物に対し、乗物用シートの側方(又は前方)から衝撃が加わると、上流側膨張部が膨張用ガスの供給を受けて展開膨張を開始する。開口部を構成するスリットは、衝撃の加わる方向である、乗物用シートの幅方向(又は前後方向)に延びている。また、区画部材の投影面における楕円部では、上記比が「1.1」以上に設定されている。そのため、上流側膨張部による乗員の上半身(又は下肢)の拘束前には、区画部材では、スリットの延びる方向である乗物用シートの幅方向(又は前後方向)に対し、直交する方向に対するよりも強いテンションが掛かりやすい。開口部は、開く方向よりも閉じる方向に強く引っ張られる。また、一対の弁体部が上流側膨張部内の膨張用ガスによって押圧されて互いに接触する。開口部での膨張用ガスの流通が規制され、専ら上流側膨張部の内圧が上昇する。
【0023】
一方、前記衝撃により、乗物構成部材が乗物用シートの側方(又は前方)から乗員側へ進入し、エアバッグが乗員の上半身に対し側方から(又は下肢に対し前方から)押付けられると、その乗員の上半身(又は下肢)は主として上流側膨張部によって拘束される。この拘束に伴い加わる外力によって膨張部が押圧されて変形する。これに伴い、両方向のテンションの差が小さくなり、開口部が開かれる。ここで、上記比が「5.0」以下に設定されているため、開口部を開かせるために必要な外力が過大となることを抑制され、乗員の上半身(又は下肢)に過大な荷重が加わることが起こりにくい。
【0024】
上記膨張部の変形時には、区画部材を通じて両弁体部が撓んで互いに離間する。上記流通規制が解除され、上流側膨張部内の膨張用ガスは、開口部を通じて下流側膨張部へ流出することを許容される。開口部を通じた膨張用ガスの流出により上流側膨張部の内圧が低下し、下流側膨張部の内圧が上昇する。下流側膨張部が展開膨張し、膨張部が、上流側膨張部に加え下流側膨張部においても乗員の上半身(又は下肢)に押付けられるようになる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のエアバッグ装置によれば、開口部での膨張用ガスの流通を適切に調整し、エアバッグの内圧を好適に調圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態において、サイドエアバッグ装置が設けられた車両用シートを乗員とともに示す側面図。
【図2】第1実施形態において、車両用シート、乗員及びボディサイド部の位置関係を示す平断面図。
【図3】第1実施形態において、シートバックの収納部に組み込まれたエアバッグモジュールを示す部分平断面図。
【図4】第1実施形態において、エアバッグが非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールを示す側面図。
【図5】図4のA−A線に沿った区画部材等の断面構造を模式的に示す部分拡大断面図。
【図6】図3の状態からエアバッグが一部をシートバック内に残して車両用シートから飛び出して展開膨張した状態を示す部分平断面図。
【図7】(A)は、図4の非膨張展開状態のエアバッグが車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールを、車両用シート及び乗員とともに示す部分側断面図、(B)は、上記(A)におけるT部を拡大して示す部分側断面図。
【図8】第1実施形態のエアバッグが展開膨張して区画部材が緊張したエアバッグモジュールの内部構造について、上流側膨張部側から見た状態を示す断面図。
【図9】第1実施形態を示す図であり、区画部材における調圧弁の近傍部分について上流側膨張部側から見た状態を示す部分斜視図。
【図10】第1実施形態において、楕円体としてモデル化された上流側膨張部を示す模式図。
【図11】第1実施形態において、区画部材の投影面における楕円部についての寸法の比と、張力差との関係を示す特性図。
【図12】(A)〜(C)は、第1実施形態における調圧弁の動作を示す模式図。
【図13】第1実施形態において、車内側へ進入するボディサイド部によってエアバッグが乗員に押付けられる際の内圧、受圧面積及び荷重と、ボディサイド部の進入量(ストローク)との関係を示す特性図。
【図14】本発明を具体化した第2実施形態を示す図であり、サイドエアバッグ装置が設けられた車両用シートを乗員とともに示す側面図。
【図15】第2実施形態において、エアバッグが非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールを示す側面図。
【図16】(A)は、図15の非膨張展開状態のエアバッグが車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールを、車両用シート及び乗員とともに示す部分側断面図、(B)は、上記(A)におけるU部を拡大して示す部分側断面図。
【図17】(A)は、第2実施形態のエアバッグが展開膨張して区画部材が緊張したエアバッグモジュールの内部構造について、上流側膨張部側から見た状態を示す断面図、(B)は、上記(A)の投影面における楕円部の寸法関係を説明する模式図。
【図18】本発明を、膝保護用エアバッグ装置に適用した第3実施形態を示す図であり、同エアバッグが設けられたステアリングコラムの近傍部分を、乗員の下肢とともに示す部分側面図。
【図19】第3実施形態において、エアバッグが非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールを示す正面図。
【図20】図19のエアバッグモジュールの内部構造を示す断面図。
【図21】第3実施形態のエアバッグが展開膨張して区画部材が緊張したエアバッグモジュールについて、投影面における楕円部の寸法関係を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
以下、本発明を、乗物としての車両に適用されるサイドエアバッグ装置に具体化した第1実施形態について、図1〜図13を参照して説明する。
【0028】
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方として説明し、車両の後進方向を後方として説明する。また、以下の記載における上下方向は車両の上下方向を意味する。さらに、車両の幅方向(車幅方向)についての中央部を基準とし、その中央部に近付く側を「車内側」とし、中央部から遠ざかる側を「車外側」とするものとする。
【0029】
図1及び図2に示すように、車両10においてボディサイド部11の車内側(図2の上側)の近傍には、乗物用シートとして車両用シート12が配置されている。ここで、ボディサイド部11とは、車両10の側部に配置された車両構成部材(乗物構成部材)を指し、主としてドア、ピラー等がこれに該当する。例えば、前席に対応するボディサイド部11は、フロントドア、センターピラー(Bピラー)等である。また、後席に対応するボディサイド部11は、サイドドア(リヤドア)の後部、Cピラー、タイヤハウスの前部、リヤクォータ等である。
【0030】
車両用シート12は、シートクッション(座部)13と、そのシートクッション13の後側から起立し、かつ傾き調整機構(図示略)により傾斜角度を調整されるシートバック(背もたれ)14とを備えている。車両用シート12は、シートバック14が前方を向く姿勢で車両10に配置されている。このように配置された車両用シート12の幅方向は、車幅方向と合致する。
【0031】
次に、シートバック14における車外側の側部の内部構造について説明する。
シートバック14内には、その骨格をなすシートフレームが配置されている。シートフレームの一部は、図3に示すように、シートバック14内の車外側(図3では下側)部分に配置されており、この部分(以下「サイドフレーム部15」という)は、金属板を曲げ加工することによって形成されている。サイドフレーム部15を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド16が配置されている。また、シートフレームの後側には、合成樹脂等によって形成された硬質のバックボード17が配置されている。なお、シートパッド16は表皮によって被覆されているが、図3ではその表皮の図示が省略されている。後述する図6についても同様である。
【0032】
シートパッド16内において、サイドフレーム部15の車外側近傍には収納部18が設けられている。収納部18の位置は、車両用シート12に着座した乗員Pの斜め後方近傍となる(図2参照)。この収納部18には、サイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールAMが組み込まれている。
【0033】
収納部18の車外側かつ前側の角部からは、斜め前車外側に向けてスリット19が延びている。シートパッド16の前側の角部16Cとスリット19とによって挟まれた箇所(図3において二点鎖線の枠で囲んだ箇所)は、後述するエアバッグ40によって破断される破断予定部21を構成している。
【0034】
シートバック14の側部において、サイドフレーム部15、エアバッグモジュールAM、シートパッド16等の周りには、エアバッグ40の展開性向上を目的として、伸びの少ない材料によって帯状に形成された力布(図示略)が巻付けられている。力布は、エアバッグ40の展開膨張の初期に伸長した状態となることにより、所定の展開方向とは異なる方向へのエアバッグ40の膨張を抑制する。また、力布は、シートパッド16の変形や表皮の伸びを抑制し、自身が破断されることで破断予定部21の破断のきっかけとする。
【0035】
上記シートバック14に組み込まれるエアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ30及びエアバッグ40を主要な構成部材として備えている。
次に、これらの構成部材の各々について説明する。ここで、本実施形態では、エアバッグモジュールAM及びその構成部材について「上下方向」、「前後方向」というときは、図1に示すように、車両用シート12のシートバック14を基準としている。シートバック14の起立する方向をエアバッグモジュールAM等の「上下方向」とし、シートバック14の厚み方向をエアバッグモジュールAM等の「前後方向」としている。上述したように、通常、シートバック14は後方へ多少傾斜した状態で使用されることから、エアバッグモジュールAM等の「上下方向」は厳密には車両10の上下方向(鉛直方向)と合致しておらず、多少傾斜している。同様に、エアバッグモジュールAM等の「前後方向」は、車両10の前後方向(水平方向)と合致しておらず、多少傾斜している。
【0036】
<インフレータアセンブリ30>
図3及び図4に示すように、インフレータアセンブリ30は、ガス発生源としてのインフレータ31と、そのインフレータ31の外側に装着されたリテーナ32とを備えている。本実施形態では、インフレータ31として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ31は略円柱状をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ31の長さ方向についての一方の端部(本実施形態では下端部)には、同インフレータ31への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0037】
なお、インフレータ31としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)が用いられてもよい。
【0038】
一方、リテーナ32は、ディフューザとして機能するとともに、上記インフレータ31をエアバッグ40と一緒にサイドフレーム部15に締結する機能を有する部材である。リテーナ32の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって略筒状に形成されている。リテーナ32には窓部33が設けられており、インフレータ31から噴出された膨張用ガスGの多くが、この窓部33を通じてリテーナ32の外部へ噴き出される。
【0039】
リテーナ32には、これを上記サイドフレーム部15に取付けるための係止部材として、複数本のボルト34が固定されている。表現を変えると、複数本のボルト34が、リテーナ32を介してインフレータ31に間接的に固定されている。
【0040】
なお、インフレータアセンブリ30は、インフレータ31とリテーナ32とが一体になったものであってもよい。
<エアバッグ40>
図1及び図2に示すように、エアバッグ40は、車両10の走行中等に側突等により衝撃が車両用シート12の側方から同車両10(ボディサイド部11)に加わったときに、インフレータ31から膨張用ガスGの供給を受ける。このエアバッグ40は、自身の一部(後部)を上記収納部18内に残した状態で同収納部18から略前方へ向けて飛び出す。エアバッグ40は、標準的な体格を有する乗員P(大人)が、標準的な姿勢で車両用シート12に着座しているときの、その乗員Pに接近した箇所、ここでは同乗員Pの上半身(胸部PT等)とボディサイド部11との間で展開膨張することにより、上記側突の衝撃から乗員Pの上半身(胸部PT等)を保護する。ここで、胸部PT等には、胸部PTのほか、その周辺部分、特に胸部PTよりも後側(背側)の部分も含まれる。
【0041】
図4は、エアバッグ40が膨張用ガスGを充填させることなく平面状に展開させられた状態(以下「非膨張展開状態」という)のエアバッグモジュールAMを示している。また、図7は、エアバッグモジュールAMの内部構造を示すべく、図4の非膨張展開状態のエアバッグ40が車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールAMを、車両用シート12及び乗員Pとともに示している。
【0042】
図4及び図7に示すように、エアバッグ40は、1枚の布片41(基布、パネル布等とも呼ばれる)を、その中央部分に設定した折り線42に沿って二つ折りして車幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成されている。ここでは、エアバッグ40の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、車内側に位置するものを布部43(図7参照)といい、車外側に位置するものを布部44(図4参照)というものとする。
【0043】
なお、本実施形態では、折り線42がエアバッグ40の前端部に位置するように布片41が二つ折りされているが、折り線42が他の端部、例えば後端部に位置するように布片41が二つ折りされてもよい。また、エアバッグ40は折り線42に沿って分割された2枚の布片からなるものであってもよい。この場合には、エアバッグ40は、2枚の布片を車幅方向に重ね合わせ、両布片を、袋状となるように結合させることにより形成される。さらに、エアバッグ40は3枚以上の布片からなるものであってもよい。
【0044】
エアバッグ40においては、両布部43,44の外形形状が、折り線42を対称軸として互いに線対称の関係にある。各布部43,44の形状・大きさは、エアバッグ40が車両用シート12及びボディサイド部11間で展開膨張したときに、その車両用シート12に着座している乗員Pの上半身の一部(胸部PT等)に対応する領域を占有し得るように設定されている。
【0045】
上記布部43,44としては、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。
【0046】
両布部43,44の上記結合は、それらの周縁部に設けられた周縁結合部45においてなされている。本実施形態では、周縁結合部45は、両布部43,44の周縁部のうち、後下端部及び前端部(折り線42の近傍部分)を除く部分を、縫製(縫糸で縫合)することにより形成されている。この点は、後述する外結合部54,55及び内結合部63についても同様である。さらには、周縁結合部84、仕切り部91についても同様である。
【0047】
上記縫製に関し、図4、図7〜図9、さらには図15〜図17(A)、図19、図20では、2つの線種によって縫製部分が表現されている。一方の線種は、一定長さの太線を断続的に並べて表現した線(破線の一種)であり、これは、縫合の対象となる布部43,44の外側(布部43,44間ではない)における縫糸の状態を示している(図4等参照)。他方の線種は、点を一定間隔おきに並べて表現した線(破線の一種)であり、これは、縫合の対象となる布部43,44間における縫糸の状態を示している(図7における周縁結合部45参照)。すなわち、縫製が後者の態様で表現されている図は、縫製部分を通る断面に沿った断面構造を示している。
【0048】
図4及び図7に示すように、両布部43,44間であって、周縁結合部45によって囲まれた空間は、膨張用ガスGによって乗員Pの上半身(胸部PT等)の側方で展開膨張することにより、同上半身の一部(胸部PT等)を拘束して衝撃から保護するための膨張部46となっている。
【0049】
なお、周縁結合部45は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。この点は、後述する外結合部54,55及び内結合部63、さらには下流側膨張部89及び仕切り部91についても同様である。
【0050】
上記インフレータアセンブリ30は、前側ほど低くなるように傾斜させられた姿勢で、エアバッグ40内の後端下部に配設されている。そして、リテーナ32のボルト34が、車内側の布部43に挿通されている(図3参照)。こうした挿通により、インフレータアセンブリ30がエアバッグ40に対し位置決めされた状態で係止されている。さらに、エアバッグ40の後部下端は、インフレータアセンブリ30の下端部に対し、環状の締結具37(図4、図7の各二点鎖線参照)によって気密状態で締付けられている。
【0051】
エアバッグ40の膨張部46は、面状の区画部材50により複数の部位に区画されている。区画部材50は、一般的にテザーと呼ばれるものと同様の構成を有している。
図5は、図4のA−A線に沿った断面構造を示している。この図5では、各部材が厚みを省略して描かれるとともに、各内結合部63がジグザグ状に描かれている。図5及び図7に示すように、エアバッグ40が非膨張展開状態となっているときには、区画部材50は、上下方向に延びる折り線51に沿って折り返されることにより、相対向する対向端部52,53を接近させてなる二つ折り状態にされている。この二つ折り状態の区画部材50は、折り線51を両対向端部52,53よりも上流側(インフレータ31に近い側)に位置させた状態で膨張部46内に配設されている。
【0052】
図8及び図9に示すように、上記区画部材50は、膨張部46の展開膨張に伴い面状に緊張させられたとき、折り線51に沿う方向(以下「長手方向」という)の長さL1が、折り線51に直交する方向(以下「短手方向」という)の長さL2よりも長い長尺状をなす。区画部材50は、両対向端部52,53の各々において、上下方向へ延びる外結合部54,55によって、エアバッグ40の両布部43,44にそれぞれ結合されている。
【0053】
区画部材50は、上記の結合により、車内側の布部43と車外側の布部44との間に架け渡されている。区画部材50は、エアバッグ40が非膨張展開状態となったときには、二つ折りされた状態となる(図5、図7参照)。また、区画部材50は、膨張部46が展開膨張したとき、車両用シート12の幅方向(車幅方向)に緊張させられた状態となり(図8、図9参照)、同膨張部46の同方向の厚みを規制する。
【0054】
また、二つ折り状態の上記区画部材50は、折り線51に沿う方向の両端部において、エアバッグ40に結合されている。すなわち、区画部材50の上端部及び下端部は、上述した周縁結合部45(図7参照)によってエアバッグ40の両布部43,44の上端部及び下端部に結合(共縫い)されている。
【0055】
ここで、図7において、区画部材50の対向端部52,53をエアバッグ40の布部43,44に結合する外結合部54,55が、仮に、折り線51に対し平行に延びている場合(図示略)には、外結合部54,55と折り線51との間隔が、長手方向のどの箇所でも同一となる。
【0056】
一方、区画部材50は、膨張部46の膨張に伴い、その膨張方向に直交する面状に緊張させられる。区画部材50の両対向端部52,53が、外結合部54,55によってエアバッグ40の布部43,44に結合されているのに対し、区画部材50の折り返し部分は、長手方向の両端部においてのみ、周縁結合部45によって上記布部43,44に結合されている。そのため、区画部材50が上記のように面状に緊張させられるときには、区画部材50の折り線51に沿った折り返し部分が、膨張部46の膨張方向についての外結合部54,55側(前側)へ引っ張られて移動する。折り返し部分の布部43,44との結合部、すなわち折り線51の周縁結合部45との交差部51Cも、折り返し部分のほかの箇所と同様に外結合部54,55側へ引っ張られて移動する。この際、外結合部54,55から大きく離れている上記交差部51Cの移動量が多く、それに伴い同交差部51Cに作用する引っ張り力が大きくなる。その結果、上記交差部51Cに応力が集中するおそれがある。
【0057】
そこで、図7に示すように、外結合部54,55と折り線51との間隔が、同外結合部54,55の周縁結合部45との交差部54Cにおいて、長手方向についての中間部分よりも小さくなるように設定されている。本実施形態では、外結合部54,55が前方へ膨らむ円弧状に形成されている。そのため、各外結合部54,55が折り線51に対し平行である場合(図示略)に比べ、折り線51の周縁結合部45との交差部51Cと、各外結合部54,55との間隔が小さくなる。折り線51の周縁結合部45との交差部51Cが外結合部54,55側へ引っ張られて移動する量が少なくなり、同交差部51Cに作用する引っ張り力が小さくなって、同交差部51Cに対する応力集中が緩和される。
【0058】
図4及び図7に示すように、上記区画部材50により膨張部46は、その後半部分を構成し、かつインフレータアセンブリ30の配置された後側の上流側膨張部47と、同膨張部46の前半部分を構成し、かつインフレータアセンブリ30の配置されていない前側の下流側膨張部48とに区画されている。こうした構成により、インフレータ31からの膨張用ガスGは、上流側膨張部47に最初に供給される。上流側膨張部47を経由した膨張用ガスGは、次に、上流側膨張部47の前側に隣接する下流側膨張部48に供給される。
【0059】
区画部材50は、図8及び図9に示すように、折り線51に沿う方向である上下方向(長手方向)に並べられた2つの部材56,57からなる。各部材56,57は、エアバッグ40の布部43,44と同様の素材を用いてシート状に形成されている。両部材56,57は、膨張部46内において、その膨張部46が展開膨張したときに乗員Pの上半身における前後方向についての中間部の側方となる箇所に設けられている。
【0060】
上下両部材56,57では、それらの端部58,59の端縁58E,59E同士が合致させられた状態で、端部58,59同士が帯状に重ね合わされている。上下両部材56,57は、それぞれ帯状をなす一対の重ね合わせ部61と、それ以外の箇所(以下「非重ね合わせ部62」という)との境界部分において、折り線51に直交する方向(短手方向)へ延びる内結合部63によって結合されている。この境界部分は、上記端縁58E,59Eから長手方向に一定距離離れている。
【0061】
上記区画部材50において、長手方向及び短手方向の両方向についての略中央部分には、膨張部46への膨張用ガスGの供給期間の初期には閉弁して上流側膨張部47から下流側膨張部48への膨張用ガスGの流通を規制し、同供給期間の途中からは、乗員拘束に伴い加わる外力により開弁して前記規制を解除する調圧弁70が設けられている。
【0062】
次に、この調圧弁70の構成について説明すると、内結合部63は、その一部(本実施形態では折り線51を跨ぐ部分)において結合を解除されている。表現を変えると、両重ね合わせ部61と非重ね合わせ部62との境界部分において、折り線51を跨ぐ部分では、上下両部材56,57を結合させる内結合部63が設けられていない。このように内結合部63が設けられていない部分である、結合を解除された箇所は、短手方向に延びて、上流側膨張部47と下流側膨張部48とを連通させるスリットからなる内開口部71を構成している。この内開口部71は、特許請求の範囲における開口部に該当する。ここでの短手方向は、車両10に対し衝撃の加わる方向と同じである。
【0063】
重ね合わせ部61であって、内開口部71に対応する部分(近傍部分)は、一対の弁体部73,74を構成している。より正確には、内開口部71と端縁58Eとの間の部分によって弁体部73が構成され、同内開口部71と端縁59Eとの間の部分によって弁体部74が構成されている。両弁体部73,74が、それらの少なくとも一部、例えば先端部73T,74Tにおいて互いに接触することで、内開口部71での膨張用ガスGの流通が規制される(図12(B)参照)。また、内開口部71が開かれ、かつ弁体部73の全体が弁体部74の全体から離間することで、内開口部71での膨張用ガスGの流通が許容される(図12(C)参照)。
【0064】
さらに、上記のように、両弁体部73,74を有する両重ね合わせ部61は、膨張部46の展開膨張前には上流側膨張部47に配置されている。
そして、両重ね合わせ部61は非重ね合わせ部62との境界部分において、上方又は下方(本実施形態では上方)へ折り曲げられて、同非重ね合わせ部62に重ねられている。さらに、折り曲げられた帯状の両重ね合わせ部61は、内結合部63に沿う方向(短手方向)の両端部において、前述した外結合部54,55により、エアバッグ40の対応する布部43,44及び区画部材50の非重ね合わせ部62に結合(共縫い)されている(図5、図7(A),(B)参照)。
【0065】
ところで、図3に示すように、インフレータアセンブリ30及びエアバッグ40を主要な構成部材として有する上記エアバッグモジュールAMは、非膨張展開状態のエアバッグ40(図4、図7参照)が折り畳まれることにより、コンパクトな形態(以下「収納用形態」という)にされている。これは、エアバッグモジュールAMを、シートバック14における限られた大きさの収納部18に対し、収納に適したものとするためである。
【0066】
上記収納用形態にされたエアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ30を後側に位置させ、かつエアバッグ40の多くを前側に位置させた状態で、シートバック14の収納部18に配設されている。そして、上述したように、リテーナ32から延びてエアバッグ40(布部43)に挿通されたボルト34がサイドフレーム部15に挿通され、ナット36によって締付けられている。この締付けにより、インフレータアセンブリ30がエアバッグ40と一緒にサイドフレーム部15に固定されている。
【0067】
なお、インフレータアセンブリ30は、上述したボルト34及びナット36とは異なる手段によって車両10(サイドフレーム部15)に固定されてもよい。
ここで、上記エアバッグ40においては、上流側膨張部47が展開膨張したとき、区画部材50が縦長の楕円体における前半部のように前側へ膨らむ。このことから、図10に示すように、上流側膨張部47を楕円体としてモデル化して考えることができる。内開口部71での膨張用ガスGの流通方向に直交する面Sに対し区画部材50が投影される投影面PRは、楕円部PR1からなる。上記膨張用ガスGの流通方向は、調圧弁70を挟んで上流側膨張部47及び下流側膨張部48の隣り合う方向(本実施形態では前後方向)ということもできる。なお、図10中、網点が付された箇所が、この楕円部PR1を示している。
【0068】
この楕円体の長径(長軸の長さ)は、楕円部PR1において、スリットに直交する方向の寸法L3に相当し、前述した区画部材50の長手方向の長さL1に対応する。また、楕円体の短径(短軸の長さ)のうち車幅方向に延びるものは、楕円部PR1において、スリットの延びる方向の寸法L4に相当し、上記区画部材50の短手方向の長さL2に対応する。
【0069】
上記楕円部PR1の形状は、上記寸法L3の寸法L4に対する比(L3/L4)によって表現することができる。比(L3/L4)が「1.0」よりも大きければ、楕円部PR1は、縦長となる。
【0070】
ここで、上流側膨張部47の展開膨張に伴い区画部材50が湾曲面状に緊張したときには、その区画部材50において、スリットからなる内開口部71の設けられた箇所にテンション(張力)が掛かる。このテンション(張力)のうち、スリットの延びる方向に掛かるものと、スリットに直交する方向に掛かるものとの差(張力差)と、上記比(L3/L4)との間には相関関係が見られる。図11は、寸法L3を一定の値(250mm)に保持しつつ寸法L4を変化させることにより、比(L3/L4)を変化させていった場合に、上記張力差が比(L3/L4)に応じてどのように変化するかを示している。
【0071】
上記図11からは、次のことがいえる。比(L3/L4)が「1.0」のとき、すなわち投影面PRが円形であるとき、スリットに直交する方向のテンション(張力)と、スリットの延びる方向のテンション(張力)とは互いに同一となり、張力差が「0」となり、内開口部71が開きやすくなる。上記張力の差は、比(L3/L4)が「1.6」以下の領域では、その比(L3/L4)の増加に従い増加し、比(L3/L4)が「1.6」のときに最大となり、比(L3/L4)が「1.6」よりも大きな領域では、比(L3/L4)の増加に従い減少する。この張力差が大きいと、内開口部71を閉じる力が開く力よりも充分に強く、内開口部71が閉じられやすい。比(L3/L4)が「1.6」のときには、張力差が最大となり、内開口部71が最も閉じられやすい。比(L3/L4)が1.1〜5.0の領域では、張力差は、内開口部71を閉じることのできる大きさであると考えられる。
【0072】
一方、側突等により、ボディサイド部11が車内側へ進入すると、このボディサイド部11により、膨張状態の膨張部46が乗員Pの上半身(胸部PT等)に押付けられ、同上半身(胸部PT等)が拘束される。
【0073】
このときには、乗員拘束に伴い加わる外力によって膨張部46が押圧されて変形する。これに伴い、区画部材50に対し、車両用シート12の幅方向に強く掛かっていたテンション(張力)が減少し、スリットに直交する方向(上下方向)に掛かるテンション(張力)が増加する。これらのテンション(張力)の変化により張力差が小さくなり、区画部材50を通じて両弁体部73,74が撓んで互いに離間し、内開口部71が開かれるようになる。
【0074】
なお、閉じていた内開口部71を開かせるために必要な、乗員拘束に伴い膨張部46に加わる外力と、上記比(L3/L4)との間には相関関係が見られる。比(L3/L4)が大きくなる(楕円部PR1が上下方向に長くなる)に従い、閉じていた内開口部71を開かせるために、乗員拘束に伴い膨張部46に対し大きな外力が加わることが必要となる。しかし、大きな外力が膨張部46に加われば、乗員拘束時にエアバッグ40から乗員Pの上半身(胸部PT等)に加わる荷重も大きくなる。実験によると、比(L3/L4)が「5.0」以下であれば、外力が加わっても、乗員Pに対する荷重を許容範囲に収めることが可能である。ちなみに、比(L3/L4)が「5.0」のときの張力差は、同比(L3/L4)が上記「1.1」のときのテンション(張力)の差と同程度となる。
【0075】
上記の点を考慮すると、乗員拘束前には内開口部71を閉じ、乗員拘束時には乗員Pに過大な荷重が加わるのを抑制しつつ内開口部71を開かせる観点からは、比(L3/L4)が1.1〜5.0であることが重要である。この比(L3/L4)は、1.2〜4.5であることが好ましく、1.4〜2.0であることがさらに好ましい。乗員Pの上半身(主として胸部PT)を保護対象とし、寸法L3が比較的短い本実施形態のサイドエアバッグ装置では、比(L3/L4)が「1.6」に設定されている。
【0076】
図1に示すように、サイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールAMのほかに衝撃センサ75及び制御装置76を備えている。衝撃センサ75は加速度センサ等からなり、車両10のボディサイド部11(図2参照)等に設けられており、同ボディサイド部11に側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置76は、衝撃センサ75からの検出信号に基づきインフレータ31の作動を制御する。
【0077】
さらに、車両には、車両用シート12に着座した乗員Pを拘束するためのシートベルト装置が装備されているが、図1等ではこのシートベルト装置の図示が省略されている。
上記のようにして、第1実施形態のサイドエアバッグ装置が構成されている。次に、このサイドエアバッグ装置の作用として、代表的な動作の態様(モード)について、図12(A)〜(C)を参照して説明する。これらの図12(A)〜(C)は、調圧弁70等の形態が、膨張用ガスGの供給開始後、時間とともに変化する様子を模式的に示したものであり、細部については省略・簡略化されている。また、図13は、上流側及び下流側の各膨張部47,48内の膨張用ガスGの圧力(内圧)と、乗員Pの各膨張部47,48側の受圧面積と、乗員Pがエアバッグ40から受ける荷重とが、衝撃により車内側へ進入するボディサイド部11の進入量(ストローク)に応じてどのように変化するかを示している。荷重は、内圧と受圧面積との積によって決定される。
【0078】
このサイドエアバッグ装置では、側突等により車両10(ボディサイド部11)に対し側方から衝撃が加わらないときには、制御装置76からインフレータ31に対し、これを作動させるための作動信号が出力されず、インフレータ31から膨張用ガスGが膨張部46(上流側膨張部47)に供給されない。エアバッグ40は、収納用形態でインフレータアセンブリ30とともに収納部18に収納され続ける(図3参照)。このとき、エアバッグ40では、両布部43,44が互いに接近している。区画部材50は、折り線51を対向端部52,53よりも上流側に位置させてなる二つ折り状態となっている。両弁体部73,74は上流側膨張部47内で重なり合っている。ボディサイド部11の進入量(ストローク)は「0」である。各膨張部47,48の内圧はともに低く(略大気圧)、受圧面積及び荷重はともに「0」である。
【0079】
これに対し、車両10の走行中に、側突等により同車両10(ボディサイド部11)に所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ75によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置76からインフレータ31に対し、これを作動させるための作動信号が出力される。このときのボディサイド部11の進入量(ストローク)をS0とする。この作動信号に応じて、インフレータ31では、ガス発生剤が高温高圧の膨張用ガスGを発生する。この膨張用ガスGは、まず上流側膨張部47に供給されて、同上流側膨張部47が展開膨張を開始する。
【0080】
膨張部46内では、二つ折り状態の区画部材50が、折り線51を対向端部52,53よりも上流側に位置させた状態で配設されている。しかも、その区画部材50は、両対向端部52,53の各々において、外結合部54,55によってエアバッグ40の対応する布部43,44に結合されている(図5参照)。また、区画部材50は、折り線51に沿う方向の両端部(上端部及び下端部)の各々において、周縁結合部45によって両布部43,44に結合されている(図7参照)。そのため、上記のように上流側膨張部47の展開膨張が開始すると、二つ折り状態の区画部材50は引っ張られて、楕円体(図10参照)の前半部のような湾曲面状となる。区画部材50に対し、湾曲面上においてスリットに直交する方向や、スリットの延びる方向にテンション(張力)が掛かって、区画部材50が緊張状態になろうとする(図8参照)。
【0081】
ただし、区画部材50では、その全体が均一に緊張状態となるわけではない。上述した区画部材50の布部43,44に対する結合態様から、上流側膨張部47の展開膨張時の縦断面が、図8に示すような、上下両端部近傍部分で曲率が大きく、それ以外の部分で曲率の小さな縦長の略楕円形状となるからである。こうした異形(非円形)の断面であることから、区画部材50の上部P2及び下部P3には、それらの間の部分(中間部分P1)に比べスリットに直交する方向及びスリットの延びる方向にテンション(張力)が掛かりにくい。そのため、区画部材50の上部P2及び下部P3は、中間部分P1が前側に膨らむ湾曲面状の緊張状態となったときにも、折り線51を対向端部52,53よりも上流側に位置させた屈曲状態(ただし、二つ折り状態よりは開いた状態)となる(図12(A)参照)。
【0082】
上流側膨張部47に位置する両弁体部73,74に対しては、その重なり方向(厚み方向)から内圧PIが加わる。この内圧PIは、膨張部46による乗員Pの拘束時ほど高くない。両弁体部73,74は、この内圧PIにより面全体で互いに密着し、両弁体部73,74間での膨張用ガスGの流通を規制する自己シール状態となる。さらに、折り曲げられて区画部材50の非重ね合わせ部62に重ねられた重ね合わせ部61が、内圧PIによりその非重ね合わせ部62に押付けられる(図9参照)。これらのことからも、両弁体部73,74が一層閉じられやすくなる。
【0083】
ここで、図10に示すように、区画部材50の投影面PRを構成する楕円部PR1では、比(L3/L4)が「1.6」となる外形形状を有している。表現を変えると、区画部材50は、スリットに直交する方向(上下方向)には、スリットの延びる方向(車両用シート12の幅方向、車幅方向)よりも1.6倍程度長くなっている。このことから、区画部材50の上記中間部分P1では、スリットに直交する方向よりもスリットの延びる方向に強いテンション(張力)が掛かりやすい。本実施形態では、スリットからなる内開口部71が、この強いテンション(張力)の掛かりやすい方向に延びているため、内開口部71が閉じられやすい。
【0084】
ただし、上記のようなテンション(張力)の強弱関係があるとはいえ、内開口部71を開かせようとする、スリットに直交する方向(上下方向)にもテンション(張力)が掛かるため、内開口部71が確実に閉じるとは限らず、内開口部71が開くおそれもある。しかし、この場合であっても、両弁体部73,74が少なくとも自身の先端部73T,74Tにおいて閉じられる。これは、中間部分P1が緊張することで内開口部71が引っ張られて、これを開かせようとする力が作用したとしても、その力は、内開口部71において最も大きく、内開口部71から遠ざかるに従い小さくなり、両弁体部73,74の先端部73T,74Tにおいて最小となるからである。
【0085】
さらに、本実施形態では、非重ね合わせ部62側へ折り曲げられた重ね合わせ部61が、スリット(内結合部63)の延びる方向の両端部において外結合部54,55により、対向端部52,53とともに布部43,44に結合されている(図9参照)。このため、上流側膨張部47が展開膨張したときには、区画部材50の中間部分P1に対し、スリットの延びる方向に強いテンション(張力)が掛かるだけでなく、重ね合わせ部61に対しても同方向に強いテンション(張力)が掛かる。
【0086】
両弁体部73,74が、それらの少なくとも一部において互いに接触すると、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、両弁体部73,74間及び内開口部71を通って下流側膨張部48へ流出することを規制される。上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、内開口部71を通じ下流側膨張部48へ流れないか、流れたとしても僅かである。そのため、上流側膨張部47に膨張用ガスGが溜まり、進入量(ストローク)S0以降、専ら上流側膨張部47の内圧が上昇し始める。
【0087】
本実施形態では、膨張部46が区画部材50によって上流側膨張部47及び下流側膨張部48に区画されていることから、上流側膨張部47の容積は、膨張部46が区画されていない場合のその膨張部46の容積よりも小さい。そのため、上流側膨張部47の内圧は、膨張部46が区画されていない場合よりも早く上昇を開始し、しかも高くなる。特に、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、両弁体部73,74間においてのみ流通を許容され、両弁体部73,74間を経由せずに下流側膨張部48へ流出することはない。従って、膨張用ガスGの上記流出が原因で上流側膨張部47の内圧の上昇速度が低下することがない。
【0088】
なお、このときには、エアバッグ40(膨張部46)が未だ乗員Pに接しておらず、従って、受圧面積及び荷重はともに依然として「0」である。
そして、上流側膨張部47の上記展開膨張により、同上流側膨張部47が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消(展開)しながら膨張していくと、力布がエアバッグ40によって押圧されて破断されるとともに、シートバック14のシートパッド16が上流側膨張部47によって押圧され、破断予定部21(図3参照)において破断される。エアバッグ40は、図6に示すように、一部(インフレータアセンブリ30の近傍部分)をシートバック14内に残した状態で、破断された箇所を通じて同シートバック14から飛び出す。
【0089】
その後も膨張用ガスGの供給される上流側膨張部47は、図2に示すように、ボディサイド部11と、車両用シート12に着座した乗員Pの上半身(胸部PT等)の後半部との間で前方へ向けて折り状態を解消しながら展開する。
【0090】
ボディサイド部11の進入量(ストローク)がS1となり、このボディサイド部11によって膨張部46が乗員Pの上半身(胸部PT等)に押付けられ始める。この押付けにより、乗員Pは主として上流側膨張部47によって上半身(胸部PT等)を拘束され始める。
【0091】
この拘束に際し、膨張部46では専ら上流側膨張部47が展開膨張していることから、乗員Pが膨張部46の圧力を受けながら接触する箇所は専ら上流側膨張部47である。そのため、乗員Pが膨張部46の圧力を受ける面の面積(膨張部46側の受圧面積)は、上流側膨張部47の圧力を受ける面の面積(上流側膨張部47側の受圧面積)と同じであって小さい。ただし、この上流側膨張部47側の受圧面積は、側突の衝撃に応じたボディサイド部11の車内側への進入が進む(進入量(ストローク)が増加する)につれて増大する。
【0092】
乗員Pが膨張部46を通じて受ける衝撃の荷重もまた、受圧面積及び内圧の増加に伴い増加する。上述したように、上流側膨張部47の内圧が早く上昇を開始することから、荷重が増加を開始する進入量(ストローク)S1は、膨張部46が区画されていない場合(図13では比較例にて図示)において、荷重が増加を開始する進入量(ストローク)S10よりも小さくなる。表現を変えると、膨張部46が区画されていない場合よりも早いタイミングで荷重が増加し始め、その分早く、乗員Pの上半身(胸部PT等)を衝撃から保護するための所定値βに到達する(図13参照)。
【0093】
両弁体部73,74がそれらの面全体で密着した(閉じられた)状態で、上流側膨張部47内に膨張用ガスGが供給され続ける一方、ボディサイド部11の進入量(ストローク)がS2となることで、同ボディサイド部11から加わる外力により、同上流側膨張部47の内圧が値αまで上昇すると、調圧弁70が開弁し始める。
【0094】
すなわち、膨張部46への膨張用ガスGの供給期間の途中からは、乗員拘束に伴う外力が加わって膨張部46が押圧されて変形する。これに伴い、区画部材50に対しスリットの延びる方向(車両用シート12の幅方向)に強く掛かっていたテンション(張力)が減少し、スリットに直交する方向(上下方向)に掛かるテンション(張力)が増加する。これらのテンション(張力)の変化により、両方向のテンション(張力)の差が小さくなる。
【0095】
また、膨張部46の上記変形に伴い上流側膨張部47の内圧がさらに上昇して、区画部材50の中間部分P1が下流側膨張部48側へ押圧されて(図12(B)参照)、同中間部分P1に掛かるテンション(張力)が変化する。また、上昇した上記内圧により、区画部材50の上部P2及び下部P3が押圧されて下流側膨張部48側へ膨らむように変形する。上述したように、上部P2及び下部P3は、乗員拘束前には、折り線51を対向端部52,53よりも上流側に位置させた屈曲状態となっている(図12(A)参照)。乗員拘束時には、上部P2及び下部P3は、乗員拘束前の形状(図12(B)の二点鎖線参照)から反転したような形状に変形する。上部P2及び下部P3のこうした形状変化(反転)により、中間部分P1においてテンション(張力)の変化が容易に発生する。そして、このテンション(張力)の変化により、中間部分P1に位置する内開口部71の変形が許容され、同中間部分P1に位置する弁体部73,74の作動が許容されるようになる。
【0096】
この際、上部P2及び下部P3の上記反転により、区画部材50においてテンション(張力)の掛かっている領域が、これに直交する方向へ拡がっていく。区画部材50の上側の部材56に対しては上方へ向かうテンション(張力)が強まり、下側の部材57に対しては下方へ向かうテンション(張力)が強まる。これらのテンション(張力)の変化により、内開口部71を構成するスリットが上下方向に引っ張られて開きやすくなる。
【0097】
一方、重ね合わせ部61は非重ね合わせ部62に重ねられ、スリット(内結合部63)の延びる方向についての両端部において、外結合部54,55によってエアバッグ40の布部43,44に結合されている。そのため、重ね合わせ部61において外結合部54,55に近い部分では、重ね合わされた状態を維持しようとする力が強い。しかし、この力は、外結合部54,55から遠ざかるに従い小さくなり、スリット(内結合部63)の延びる方向についての中央部分、すなわち両弁体部73,74において最小となる。このため、スリットに直交する方向(上下方向)へ引っ張られた重ね合わせ部61は、弁体部73,74及びその近傍部分においてのみ同方向へ変形する。
【0098】
内開口部71がある程度開くと、重ね合わせ部61では、上流側膨張部47の高い内圧PIを受けた両弁体部73,74においてのみ、内開口部71を通って下流側膨張部48へ押し出される(反転される)。この内開口部71の上下方向の幅W1が狭いときには、先端部73T,74T同士が接触し合い、両弁体部73,74が先端部73T,74Tにおいて閉じている(図12(B)参照)。この状態は、内開口部71の上記幅W1が、各弁体部73,74の幅W2(図12(C)参照)の合計値(=2・W2)よりも狭い期間続く。
【0099】
そして、内開口部71の幅W1がこの合計値(=2・W2)よりも大きくなると、先端部73T,74Tが離れ(図12(C)参照)、上記流通規制が解除される。この規制解除により、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、内開口部71及び両弁体部73,74間を順に通って下流側膨張部48へ流出することを許容される。
【0100】
ここで、上述したように、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1の上記比(L3/L4)が大きくなる(楕円部PR1がスリットに直交する方向(上下方向)に長くなる)に従い、内開口部71を開かせるために大きな外力が必要となる。しかし、大きな外力が膨張部46に加われば、乗員拘束時にエアバッグ40から乗員Pの上半身(胸部PT等)に加わる荷重も大きくなる。
【0101】
この点、比(L3/L4)が「5.0」以下であれば、外力が加わっても、乗員Pに対する荷重は許容範囲に収まる。本実施形態では、比(L3/L4)が「5.0」よりも小さな「1.6」に設定されている。そのため、比(L3/L4)についての上記適切な設定により、内開口部71を開かせるために必要な外力が過大となることを抑制される。その結果、乗員拘束に伴い適度な大きさの外力が膨張部46に加わったときに、上記両方向のテンション(張力)の差が小さくなり、内開口部71が開くようになる。内開口部71が開く際に、乗員Pに過大な荷重が加わることが起こりにくい。
【0102】
上記膨張用ガスGの流出により、上流側膨張部47の内圧が上昇から低下に転ずる。ただし、ボディサイド部11は車内側へ依然として進入し続けていて、膨張部46が上流側膨張部47において乗員Pに押付けられるため、乗員Pの上流側膨張部47側の受圧面積は増加し続ける。
【0103】
また、進入量(ストローク)S2以降、膨張用ガスGにより下流側膨張部48が展開膨張を開始し、それに伴い同下流側膨張部48の内圧が上昇を開始する。また、内圧の上昇開始から少し遅れて、進入量(ストローク)がS3となったところで、車内側へ進入するボディサイド部11により、上流側膨張部47に加え、下流側膨張部48が乗員Pに接触し押付けられるようになる。乗員Pの上半身(胸部PT等)が上流側膨張部47及び下流側膨張部48によって拘束され始め、同乗員Pが下流側膨張部48の圧力を受ける面の面積(下流側膨張部48側の受圧面積)が増加し始める。
【0104】
なお、上流側膨張部47の内圧と下流側膨張部48の内圧とは、進入量(ストローク)S4以降、等しくなる。
上記のように、調圧弁70の開弁(進入量(ストローク)S2)後には、上流側膨張部47の内圧が低下するとともに下流側膨張部48の内圧が上昇する。また、乗員Pの上流側膨張部47側の受圧面積、及び下流側膨張部48側の受圧面積が時間差をもって増加する。このため、進入量(ストローク)S2以降、乗員Pが膨張部46の全体から受ける荷重、すなわち、上流側膨張部47から受ける荷重と下流側膨張部48から受ける荷重との合計は、膨張部46が区画されていない場合(図13の比較例)の最大値よりも低く、しかも略一定の値(所定値β)となる。
【0105】
また、膨張用ガスGの供給期間の初期には、乗員Pが膨張部46から受ける荷重が早期に増加すること、かつ、その後は同荷重が低い値(略所定値β)に維持されることから、膨張部46のエネルギ吸収量は、膨張部46が区画されていない場合(図13の比較例)のエネルギ吸収量と同程度となる。本実施形態のストローク−荷重特性は、膨張部46が区画されていない場合(図13の比較例)について、膨張部への膨張用ガスの供給期間の後半における荷重の高い領域(右上がりの斜線で示す部分Q)が、同供給期間の前半における荷重の低い領域(右下がりの斜線で示す部分R)にシフトしたような形態となる。部分Qと部分Rとでは形状が異なるが、面積は互いに略同一である。
【0106】
ところで、下流側膨張部48の上記展開膨張により、同下流側膨張部48が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消しようとする。下流側膨張部48は、ボディサイド部11と乗員Pの上半身の前半部(胸部PT)との間で、前方へ向けて、折り状態を解消(展開)する(図2参照)。
【0107】
このようにして、エアバッグ40が、乗員Pの上半身(胸部PT等)と、車内側へ進入してくるボディサイド部11との間に介在する。このエアバッグ40によって上半身(胸部PT等)が車内側へ押圧されて拘束される。そして、ボディサイド部11を通じて上半身(胸部PT等)へ伝わる側方からの衝撃がエアバッグ40によって緩和されて同上半身(胸部PT等)が保護される。
【0108】
ここで、乗員Pの上半身に対し側方から衝撃が加わった場合の耐衝撃性は、一般に、後半部において前半部よりも勝っている。これは、後半部には背骨があり、肋骨がその後部において背骨に接続されているのに対し、肋骨の前部は、上記背骨のような強度を有するものに接続されていないからである。そのため、エアバッグ40の展開膨張に伴い乗員Pの上半身に側方から作用する膨張部46の内圧は、前半部において後半部よりも低いことが望ましい。
【0109】
この点、本実施形態では、膨張部46は、前後方向については、区画部材50が、上半身の前半部と後半部との境界部分の近傍に位置するように展開膨張する。エアバッグ40の膨張部46が展開膨張した状態では、上半身の後半部の側方には上流側膨張部47が位置し、前半部の側方には下流側膨張部48が位置する(図2参照)。従って、エアバッグ40による乗員Pの拘束初期には、乗員Pの上半身のうち前半部よりも耐衝撃性の高い後半部は、早期に内圧が高くなる上流側膨張部47によって押圧される。また、同拘束初期には、乗員Pの上半身のうち耐衝撃性の比較的低い前半部は、内圧が上流側膨張部47ほど高くならない下流側膨張部48によって押圧される。
【0110】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)エアバッグ40の膨張部46を、面状の区画部材50により、膨張用ガスGが供給される上流側膨張部47と、上流側膨張部47の前側に隣接し、かつ上流側膨張部47を経由した膨張用ガスGが供給される下流側膨張部48とに区画する。この区画部材50には、車両10に対し衝撃の加わる方向(車両用シート12の幅方向)に延びるスリットからなる内開口部71と、一対の弁体部73,74とを有する調圧弁70を設ける。さらに、内開口部71での膨張用ガスGの流通方向に直交する面Sに対し区画部材50が投影される投影面PRを、楕円部PR1によって構成する。この楕円部PR1での、スリットに直交する方向の寸法L3の、スリットの延びる方向の寸法L4に対する比(L3/L4)を1.1〜5.0に設定している(図10)。
【0111】
そのため、上流側膨張部47による乗員拘束前には、内開口部71を閉じるとともに、両弁体部73,74を互いに接触させることで、内開口部71での膨張用ガスGの流通を規制し、上流側膨張部47の内圧を上昇させることができる。また、上流側膨張部47による乗員拘束時には、乗員Pに過大な荷重が加わらないようにしつつ内開口部71を開くとともに、両弁体部73,74を互いに離間させることで、内開口部71での膨張用ガスGの流通を許容し、上流側膨張部47の内圧を低下させ、下流側膨張部48の内圧を上昇させることができる。
【0112】
このように、内開口部71での膨張用ガスGの流通を適切に調整して上流側膨張部47及び下流側膨張部48の各内圧を好適に調圧することができる。
(2)2つの部材56,57の端縁58E,59E同士を合致させた状態で、両部材56,57の端部58,59同士を帯状に重ね合わせる。さらに、両重ね合わせ部61と非重ね合わせ部62との境界部分に設けた内結合部63によって両部材56,57を結合することにより、区画部材50を形成する。内結合部63の一部において両部材56,57の結合を解除させることにより、内開口部71を形成する。そして、両重ね合わせ部61において内開口部71に対応する箇所(近傍部分)を両弁体部73,74としている(図9)。
【0113】
そのため、2つの部材56,57における非重ね合わせ部62と重ね合わせ部61との境界部分を、一部を残した状態で結合することにより、区画部材50、内開口部71及び両弁体部73,74を一度に形成することができる。内開口部71の形成、及び両弁体部73,74の形成のために特別な作業を行わなくてもすむ。
【0114】
特に、両弁体部73,74が区画部材50に一体となっている。より正確には、一方の弁体部73が部材56に一体となり、他方の弁体部74が部材57に一体となっている。そのため、両弁体部73,74が区画部材50(部材56,57)とは異なる部品からなる場合に比べ、部品点数を少なくすることができる。また、同部品を区画部材50(部材56,57)に結合する作業を行わなくてもすむ。
【0115】
(第2実施形態)
次に、本発明を車両用サイドエアバッグ装置に具体化した第2実施形態について、図2、図3、図5、図6、図9等に加え、図14〜図17を参照して説明する。
【0116】
第2実施形態では、エアバッグ40の構成が第1実施形態と異なっている。図14は、エアバッグ40を乗員P及び車両用シート12とともに示している。図15は、エアバッグ40が非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールAMを示している。また、図16は、エアバッグモジュールAMの内部構造を示すべく、図15の非膨張展開状態のエアバッグ40が車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールAMを、車両用シート12及び乗員Pとともに示している。
【0117】
図14に示すように、エアバッグ40の形状・大きさは、標準的な体格を有する乗員P(大人)が、標準的な姿勢で着座している状況下で、エアバッグ40が車両用シート12及びボディサイド部11間で展開膨張した場合、上半身の多くの部分(腰部PPから胸部PT及び肩部PSにかけての部位)に対応する領域を占有し得るように設定されている。このエアバッグ40は、第1実施形態でのエアバッグ40よりも下方へ長い。
【0118】
図15及び図16(A)に示すように、第2実施形態では、折り線42がエアバッグ40の後端部に位置するように1枚の布片41が二つ折りされている。
膨張部46は、区画部材50により、上流側膨張部47及び下流側膨張部48に区画されている。区画部材50は、膨張部46が展開膨張したとき、乗員Pの上半身の後半部と前半部との境界部分の近傍に位置するように配置されている。上流側膨張部47は、乗員Pの上半身の後半部のうち、腰部PPの後部から肩部PSにかけての領域の側方で展開膨張する部位であり、上下方向に細長い。この上流側膨張部47による乗員Pの保護部位を区別するために、同上流側膨張部47の上部であって、肩部PSの後端PSRと中心PSCとを少なくとも含む領域の側方で展開膨張する部位を肩保護膨張部64というものとする。また、上記上流側膨張部47の下部であって、腰部PPの後部側方で展開膨張する部位を腰保護膨張部65というものとする。肩保護膨張部64は、展開膨張する過程で、シートバック14の破断予定部21(図3参照)を破断して、収納部18の外部へ飛び出す。これに対し、腰保護膨張部65は、シートバック14の内部で展開膨張する。なお、図14及び図16におけるエアバッグ40は、非膨張展開状態を示しており、腰保護膨張部65がシートバック14から前方に飛び出た状態で図示されている。
【0119】
一方、下流側膨張部48は、胸部PTの側方で展開膨張する部位であり、その大部分は、上記肩保護膨張部64の前側に位置している。
図17(A),(B)に示すように、区画部材50の投影面PRは、上半部に楕円部PR1を有している。この楕円部PR1では、寸法の比(L3/L4)が1.1〜5.0に設定されている。
【0120】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
上記の構成を有する第2実施形態のサイドエアバッグ装置では、内開口部71を構成するスリットは、衝撃の加わる方向である、車両用シート12の幅方向(車幅方向)に延びている。
【0121】
図3及び図16(A),(B)に示すように、車両10(ボディサイド部11)に対し、車両用シート12の側方から衝撃が加わると、インフレータ31から膨張用ガスGが上流側膨張部47に供給されて、同上流側膨張部47が展開膨張を開始する。上流側膨張部47の展開膨張時であって乗員Pを拘束する前には、区画部材50に対し、スリットに直交する方向(上下方向)や、スリットの延びる方向(車両用シート12の幅方向)にテンション(張力)が掛かって、同区画部材50が緊張状態になろうとする。
【0122】
ここで、図16(A),(B)及び図17(A),(B)に示すように、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、上記比(L3/L4)が1.1以上に設定されていて、区画部材50は、車両用シート12の幅方向に対するよりも、上下方向に長い形状をなしている。このことから、区画部材50では、車両用シート12の幅方向に対し、上下方向に対するよりも強いテンション(張力)が掛かりやすい。そのため、内開口部71は、開く方向よりも閉じる方向に強く引っ張られる。また、一対の弁体部73,74が上流側膨張部47内の膨張用ガスGによって押圧されて互いに接触する。上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、内開口部71を通じて下流側膨張部48へ流通することを規制され、専ら上流側膨張部47の内圧が上昇する。
【0123】
そして、上流側膨張部47が、折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消(展開)しながら膨張していくと、シートバック14のシートパッド16がエアバッグ40によって押圧され、破断予定部21(図3参照)において破断される。肩保護膨張部64は、その一部を収納部18に残した状態で、破断された箇所を通じてシートバック14から前方へ飛び出す。その後も膨張用ガスGの供給される肩保護膨張部64は、ボディサイド部11と、車両用シート12に着座した乗員Pの肩部PSとの間で前方へ向けて折り状態を解消しながら展開する(図2参照)。ボディサイド部11によって膨張部46が乗員Pの肩部PSに押付けられ始める。この押付けにより、肩部PSが車内側へ押圧される。
【0124】
これに対し、上流側膨張部47の腰保護膨張部65はシートバック14内で展開膨張する。この腰保護膨張部65により、シートバック14における車外側の側部(サイドサポート部)の下部が押圧されて、前側や斜め前車内側へ膨らむ。この膨らんだサイドサポート部により、車両用シート12に着座している乗員Pの腰部PPの後部が車内側へ押される。
【0125】
そして、上記肩保護膨張部64による肩部PSの押圧と、腰保護膨張部65による腰部PPの押圧とによって、乗員Pが車内側へ移動させられる。この移動により、乗員Pとボディサイド部11との間隔が拡げられる(図2参照)。この際、肩部PSは、乗員Pの上半身のなかでも最も車外側(ボディサイド部11側)へ飛び出している部位である。そのため、膨張部46は、乗員Pの上半身のうち肩部PS以外の部位を押圧する場合に比べ、車内側への少ない膨張量で、同上半身(肩部PS)を車内側へ押圧し始める。しかも、膨張部46(肩保護膨張部64)による乗員Pの押圧は、同膨張部46(肩保護膨張部64)の展開膨張開始から短い時間で、すなわち、早い時期から開始される。また、乗員Pの上半身に対し側方から衝撃が加わった場合の耐衝撃性は、背中部分や胸部PTよりも肩部PSにおいて勝っている。そのため、早期に内圧の高くなる肩保護膨張部64によって肩部PSが強く押圧される。
【0126】
両弁体部73,74がそれらの面全体で密着した(閉じられた)状態で、上流側膨張部47内に膨張用ガスGが供給され続ける一方、ボディサイド部11の進入量が増えることで、同ボディサイド部11から加わる外力により、調圧弁70が開弁し始める。
【0127】
すなわち、膨張部46への膨張用ガスGの供給期間の途中からは、乗員拘束に伴う外力が加わって膨張部46が押圧されて変形する。これに伴い、区画部材50に対し車両用シート12の幅方向に強く掛かっていたテンション(張力)が減少し、上下方向に掛かるテンション(張力)が増加する。これらのテンション(張力)の変化により、両方向のテンション(張力)の差が小さくなって、内開口部71の変形が許容され、弁体部73,74の作動が許容されるようになる。
【0128】
内開口部71が上下方向にある程度開くと、両弁体部73,74が内開口部71を通って下流側膨張部48へ押し出される(反転される)。両弁体部73,74が互いに離間し、上記流通規制が解除される。この規制解除により、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、調圧弁70を通って下流側膨張部48へ流出することを許容される。
【0129】
ここで、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、上記比(L3/L4)が「5.0」以下に設定されているため、内開口部71を開かせるために必要な外力が過大となることを抑制される。その結果、乗員拘束に伴い適度な大きさの外力が膨張部46に加わったときに、上記両方向のテンション(張力)の差が小さくなり、内開口部71が開くようになる。内開口部71が開く際に、乗員Pに過大な荷重が加わることが起こりにくい。
【0130】
膨張用ガスGの流出により上流側膨張部47の内圧が低下し、下流側膨張部48の内圧が上昇し、同下流側膨張部48が展開膨張する。また、車内側へ進入するボディサイド部11により、上流側膨張部47に加え、下流側膨張部48が乗員Pに接触し押付けられるようになる。乗員Pの胸部PTが下流側膨張部48によって拘束され始める。
【0131】
下流側膨張部48が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消しようとする。ボディサイド部11と乗員Pの胸部PTとの間隔は、上記のように肩保護膨張部64及び腰保護膨張部65によって拡げられている。下流側膨張部48は、上記のように間隔を拡げられた空間において、前方へ向けて展開膨張する。胸部PTが下流側膨張部48によって車内側へ押圧されて拘束される。そして、ボディサイド部11を通じて胸部PTへ伝わる側方からの衝撃が下流側膨張部48によって緩和されて同胸部PTが保護される。
【0132】
このように、第2実施形態によれば、エアバッグ83による乗員Pの保護対象部位が増え、またエアバッグ83の展開膨張の態様が異なるものの、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、比(L3/L4)が1.1〜5.0に設定されていることから、上記(1),(2)と同様の効果が得られる。そのほかにも、次の効果が得られる。
【0133】
(3)膨張部46の上半部を、区画部材50により、前後2つの部位(肩保護膨張部64、下流側膨張部48)に区画する。区画部材50に調圧弁70を設けることで、膨張部46の展開膨張初期に下流側膨張部48を展開膨張させないようにしている。
【0134】
そのため、膨張部46の上記展開膨張初期に、仮に、下流側膨張部48が展開膨張する予定の領域(シートバック14の前方)に障害物が存在していても、その障害物が下流側膨張部48によって押圧されるのを抑制することができる。
(第3実施形態)
次に、本発明を膝保護用エアバッグ装置に具体化した第3実施形態について、図18〜図21を参照して説明する。
【0135】
図18に示すように、膝保護用エアバッグ装置は、標準的な体格を有する乗員P(大人)が、標準的な姿勢で着座している状況下で、前突等により車両に対し、車両用シート(図示略)の前方から衝撃が加わった場合に、乗員Pの前方から下肢に向けて展開膨張することにより、同乗員Pの脛部PDから膝部PKにかけての部位を保護するものである。膝保護用エアバッグ装置は、例えばステアリングコラム81の下方に設けられた収納部82に収納されている。なお、この収納部82は、インストルメントパネル80において助手席の乗員の前下方に設けられてもよい。
【0136】
車両に対し前突等による前方からの衝撃が加わると、膝保護用エアバッグ装置のエアバッグ83は膨張用ガスGにより展開膨張を開始し、収納部82から後方側へ出て、乗員Pの下肢とステアリングコラム81との間において、乗員Pの両足の脛部PDから膝部PKにかけての領域で展開膨張する。
【0137】
第3実施形態では、図18及び図19に示すように、膝保護用エアバッグ装置のエアバッグ83は、前後一対の布部83Aを、その周縁部に設けた周縁結合部84で袋状に結合することによって形成されている。エアバッグ83の膨張部85は、インフレータアセンブリ30が収容されるインフレータ収容部86と、膝部PKを保護する上流側膨張部87と、インフレータ収容部86内の膨張用ガスGを上流側膨張部87へ導く一対のガス通路部88と、上流側膨張部87の下流側(図19の下側)に位置する下流側膨張部89とを備えている。下流側膨張部89は、上流側膨張部87及びインフレータ収容部86間に形成されている。両ガス通路部88は、車両用シートの幅方向(車幅方向:図19の左右方向)についての下流側膨張部89の両側に形成されている。インフレータ収容部86及び両ガス通路部88と、下流側膨張部89とは、それらの間に正面略U字状に設けられた仕切り部91によって仕切られている。仕切り部91は、エアバッグ83の前後両布部83A間に布片を架設してなるテザーによって構成されてもよいし、前後両布部83Aを互いに接触させた状態で縫合(結合)してなるシームによって構成されてもよい。
【0138】
図19及び図20に示すように、上流側膨張部87及び下流側膨張部89間には、二つ折り状態の区画部材50が設けられている。区画部材50は、非膨張展開状態の膨張部85において、折り線51を対向端部52,53よりも上流側(図19、図20の各上側)に位置させた状態で配設されている。両対向端部52,53は、外結合部54,55によって対応する布部83Aにそれぞれ結合されている。区画部材50の折り線51に沿う方向の両端部(図19、図20の左右両端部)は、上記仕切り部91の一部(上端部)によって両布部83Aに結合されている。
【0139】
区画部材50は、上述した第1及び第2実施形態と同様、折り線51に沿う方向である車幅方向に並べられた2つの部材56,57からなる。両部材56,57は、折り線51に直交する方向へ延びる内結合部63によって結合されている。折り線51を跨ぐ部分では、両部材56,57を結合させる内結合部63が設けられていない。このように内結合部63が設けられていない部分である、結合を解除された箇所は、衝撃の加わる方向(車両用シート12(車両10)の前後方向)に延びるスリットからなり、上流側膨張部87と下流側膨張部89とを連通させる内開口部71を構成している。両部材56,57において、内開口部71の近傍には、一対の弁体部(図示略)が設けられている。
【0140】
図20及び図21に示すように、内開口部71での膨張用ガスGの流通方向に直交する面Sに対し区画部材50が投影される投影面PRは、楕円部PR1を有している。この楕円部PR1では、上記比(L3/L4)が、1.1〜5.0に設定されている。
【0141】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
上記の構成を有する第3実施形態の膝保護用エアバッグ装置では、図18〜図20に示すように、車両に対し、乗物用シートの前方から衝撃が加わると、インフレータ31から膨張用ガスGが噴出される。この膨張用ガスGが両ガス通路部88を通って上流側膨張部87に供給されることで、同上流側膨張部87が展開膨張を開始する。上流側膨張部87の展開膨張時であって乗員Pの下肢を拘束する前には、区画部材50に対し、スリットに直交する方向(車両用シートの幅方向、車幅方向)や、スリットの延びる方向(乗物用シートの前後方向)にテンション(張力)が掛かって、同区画部材50が緊張状態になろうとする。
【0142】
ここで、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、上記比(L3/L4)が、「1.1」以上に設定されている(図21参照)ため、区画部材50は、前後方向に対するよりも、車両用シートの幅方向(車幅方向)に長い形状をなしている。このことから、区画部材50では、前後方向に対し、車両用シートの幅方向(車幅方向)に対するよりも強いテンション(張力)が掛かりやすい。そのため、区画部材50は、開く方向よりも閉じる方向に強く引っ張られる。また、両弁体部が上流側膨張部87内の膨張用ガスGによって押圧されて互いに接触する。上流側膨張部87内の膨張用ガスGは、内開口部71を通じて下流側膨張部89へ流通することを規制され、専ら上流側膨張部87の内圧が上昇する。
【0143】
一方、前記衝撃により、乗物構成部材(インストルメントパネル80等)が乗物用シートの前方から乗員P側へ進入し、エアバッグ83が乗員Pの下肢に押付けられると、その下肢は主として上流側膨張部87によって拘束される。
【0144】
このときには、乗員拘束に伴い加わる外力によって膨張部85が押圧されて変形する。これに伴い、区画部材50に対し前後方向に強く掛かっていたテンション(張力)が減少し、車両用シート(車両)の幅方向に掛かるテンション(張力)が増加する。両方向のテンション(張力)の差が小さくなり、内開口部71が開かれる。両弁体部が互いに離間し、上記流通規制が解除され、上流側膨張部87内の膨張用ガスGは、内開口部71を通じて下流側膨張部89へ流出することを許容される。
【0145】
ここで、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、上記比(L3/L4)が「5.0」以下に設定されている(図21参照)ため、内開口部71を開かせるために必要な外力が過大となることを抑制される。その結果、乗員拘束に伴い適度な大きさの外力が膨張部85に加わったときに、上記両方向のテンション(張力)の差が小さくなり、内開口部71が開くようになる。内開口部71が開く際に、乗員Pの下肢に過大な荷重が加わることが起こりにくい。
【0146】
上記内開口部71を通じた膨張用ガスGの流出により上流側膨張部87の内圧が低下する。また、下流側膨張部89の内圧が上昇し、同下流側膨張部89が展開膨張する。膨張部85が、上流側膨張部87に加え下流側膨張部89においても乗員Pの下肢に押付けられるようになり、同下肢が上流側膨張部87及び下流側膨張部89によって拘束される。
【0147】
上記のように、上流側膨張部87による乗員拘束前には、内開口部71での膨張用ガスGの流通が規制されて、専ら上流側膨張部87の内圧が上昇する。また、上流側膨張部87による乗員拘束時には、乗員Pの下肢に過大な荷重が加わることなく、内開口部71での膨張用ガスGの流通が許容される。上流側膨張部87の内圧が低下し、下流側膨張部89の内圧が上昇する。
【0148】
また、乗員Pの下肢のうち、耐衝撃性の比較的高い膝部PKは、内圧が早く上昇する上流側膨張部87によって早期に拘束・保護される。また、耐衝撃性の比較的低い脛部PDは、上流側膨張部87よりも遅れて内圧が上昇する下流側膨張部89によってソフトに拘束・保護される。
【0149】
このように、第3実施形態によれば、エアバッグ83による乗員Pの保護対象部位が異なるものの、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、比比(L3/L4)が1.1〜5.0に設定されていることから、上記(1),(2)と同様の効果が得られる。
【0150】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<区画部材50について>
・区画部材50における部材56,57の少なくとも一方は、折り線51に沿って2枚に分割されてもよい。
【0151】
・区画部材50の対向端部52,53は、エアバッグ40の布部43,44に対し、上流側膨張部47内で結合されてもよいし、下流側膨張部48内で結合されてもよい。
また、対向端部52,53の一方が上流側膨張部47内で結合され、他方が下流側膨張部48内で結合されてもよい。
【0152】
・内開口部71及び内結合部63は、区画部材50の折り線51に直交する方向に限らず、斜めに交差する方向に沿って設けられてもよい。
・区画部材50として、単一の部材(布片)からなるものが用いられてもよい。
【0153】
・重ね合わせ部61において、両弁体部73,74として機能するのは、内開口部71に対応する部分(内開口部71の近傍部分、より正確には、内開口部71と端縁58E,59Eとの間の部分)である。そのため、上流側膨張部47の展開膨張時に、両弁体部73,74の少なくとも先端部73T,74Tが接触して閉じられるのであれば、重ね合わせ部61において、内開口部71に対応しない部分(非近傍部分)の形態が変更されてもよい。例えば、重ね合わせ部61において内開口部71に対応しない部分(非近傍部分)については、部分的又は全体的に結合されてもよい。この結合の手段としては、縫合であってもよいし、接着であってもよい。このように変更されることで、重ね合わせ部61において内開口部71に対応する部分だけ両弁体部73,74として作動させ、対応しない部分が不要に動く現象、例えばばたつく現象を抑制することができる。
【0154】
そのほかにも、重ね合わせ部61において内開口部71に対応しない箇所の少なくとも一部に切欠きが入れられてもよい。
・区画部材50と両弁体部73,74とは、互いに異なる部材によって構成されてもよい。
【0155】
・二つ折り状態の区画部材50における折り線51は、エアバッグモジュールAMの上下方向に対し多少傾斜していてもよい。
・両内結合部63間の結合を解除される箇所は、必ずしも折り線51を跨ぐ部分に設けられなくてもよく、折り線51から、同折り線51に直交する方向へ外れた箇所に設けられてもよい。
【0156】
・両内結合部63間の結合を解除される箇所は、複数設けられてもよい。
・両弁体部73,74を含む一対の重ね合わせ部61は、膨張部46の展開膨張前に上流側膨張部47に代えて、下流側膨張部48に配置されてもよい。
【0157】
・長手方向に延びる折り線51に沿って折り返されることにより、相対向する対向端部52,53を接近させてなる二つ折り状態の区画部材50は、折り線51を対向端部52,53よりも下流側に位置させた状態で非膨張展開状態の膨張部46に配設されてもよい。この場合、両弁体部73,74を含む重ね合わせ部61が、膨張部46の展開膨張前に下流側膨張部48に配置されてもよい。
【0158】
・区画部材50の両部材56,57では、それらの端部58,59の端縁58E,59E同士が合致していない状態で、端部58,59同士が帯状に重ね合わされてもよい。
<膨張部46について>
・エアバッグ40は、その略全体が上記第1〜第3実施形態のように膨張部46からなるものであってもよいが、膨張用ガスGが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0159】
・膨張部46は区画部材によって3つ以上の部位に区画されてもよい。この場合、膨張部46において区画部材を挟んで膨張用ガスGの流れ方向に隣り合う2つの部位について、上流側(インフレータ31に近い側)に位置するものが上流側膨張部とされ、下流側(インフレータ31から遠い側)に位置するものが下流側膨張部とされる。そして、これらの上流側膨張部及び下流側膨張部間の区画部材に調圧弁が設けられる。
【0160】
・楕円部PR1における寸法L3,L4は、それらの比(L3/L4)が1.1〜5.0となることを条件に変更されてもよい。
・第2実施形態における腰保護膨張部65は、シートバック14のシートパッド16を破断して前方へ飛び出すものであってもよい。
【0161】
<インフレータアセンブリ30について>
・インフレータアセンブリ30はエアバッグ40の外部に設けられてもよい。この場合には、インフレータ31と上流側膨張部47とが管によって繋がれ、この管を介してインフレータ31からの膨張用ガスGが上流側膨張部47に供給されてもよい。
【0162】
<エアバッグモジュールAMの収納部18について>
・車両用シート12のシートバック14に代えて、ボディサイド部11に収納部18が設けられ、ここにエアバッグモジュールAMが組み込まれてもよい。
【0163】
<その他>
・本発明をサイドエアバッグ装置に適用した場合の保護対象は、胸部PT等(第1実施形態)、腰部PPから肩部PSにかけての部位(第2実施形態)に限られない。本発明は、胸部PTから頭部にかけての部位、腰部から頭部にかけての部位等、種々の部位を側突等の衝撃から保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0164】
・本発明は、シートバック14が車両の前方とは異なる方向、例えば側方を向く姿勢で車両用シート12が配置された車両において、その車両用シート12に対し側方(車両の前後方向)から衝撃が加わった場合に、同衝撃から乗員Pを保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0165】
・膝保護用エアバッグ装置としては、第3実施形態で説明したもの以外にも、エアバッグモジュールAMが、グラブボックスの開口部を開閉するグラブドアに設けられたものであってもよい。
【0166】
・本発明は、サイドエアバッグ装置(第1実施形態、第2実施形態)及び膝保護用エアバッグ装置とは異なる種類のエアバッグ装置にも適用可能である。
・本発明のサイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
【0167】
・本発明は、車両に限らず、航空機、船舶等のほかの乗物における乗物用シートに装備されるエアバッグ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0168】
10…車両(乗物)、12…車両用シート(乗物用シート)、40,83…エアバッグ、46,85…膨張部、47,87…上流側膨張部、48,89…下流側膨張部、50…区画部材、56,57…部材、58,59…端部、58E,59E…端縁、61…重ね合わせ部、62…非重ね合わせ部、70…調圧弁、71…内開口部(開口部)、73,74…弁体部、G…膨張用ガス、L3…スリットに直交する方向の寸法、L4…スリットの延びる方向の寸法、P…乗員、PR…投影面、PR1…楕円部、S…面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突等により乗物に衝撃が加わった場合に、乗物用シートに着座している乗員に接近した箇所でエアバッグを展開膨張させて、乗員を衝撃から保護するエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
側突等により車両に側方から衝撃が加わった場合に、その衝撃から乗員を保護する装置として、エアバッグ及びインフレータを備えたサイドエアバッグ装置が広く知られている。このサイドエアバッグ装置では、エアバッグが折り畳まれた状態でインフレータとともに、車両用シートのシートバック(背もたれ)内に組み込まれている。このサイドエアバッグ装置では、車両の側部を構成する部材(ボディサイド部)、例えばサイドドア等に対し側方から衝撃が加わると、インフレータから膨張用ガスがエアバッグ内に供給される。この膨張用ガスによりエアバッグが展開膨張し、一部をシートバック内に残した状態で車両用シートから飛び出す。このエアバッグは、車両用シートに着座した乗員とボディサイド部との間の狭い空間において、シートバックから車両前方へ向けて展開膨張する。展開膨張したエアバッグが、乗員と車内側へ進入してくるボディサイド部との間に介在して乗員を拘束するとともに、ボディサイド部を通じて乗員へ伝わる側方からの衝撃を緩和する。
【0003】
ところで、サイドエアバッグ装置では、車内側へ進入してくるボディサイド部によってエアバッグが乗員に押付けられる。この押付けに伴い、乗員はエアバッグを通じて衝撃の荷重を受ける。この荷重は、乗員がエアバッグから圧力を受ける面積(乗員のエアバッグ側の受圧面積)と、エアバッグの内圧との積によって決定される。この荷重は、乗員を衝撃から保護する観点からは、ボディサイド部の進入開始後短時間で所定値に到達し、その後は、ボディサイド部の進入量(ストローク)に拘らず所定値に維持されることが望ましい。
【0004】
この点、エアバッグ内が仕切られていないタイプのサイドエアバッグ装置では、ボディサイド部の進入量(ストローク)の増加に伴い内圧及び受圧面積が増加することから、乗員がエアバッグから受ける荷重は、ボディサイド部の進入が進むにつれて徐々に増加する。荷重は、ボディサイド部がある程度進入してからでないと所定値に達しない。しかも、荷重は所定値に到達した後も増加し続け、最終的には所定値を超過する。その結果、荷重が所定値に到達するまでは、乗員の充分な保護が開始されない。荷重が所定値に到達した後には、乗員はエアバッグを通じて、所定値よりも大きな荷重を受ける。
【0005】
これについては、エアバッグの内圧を調整(調圧)することで、荷重についての上記要求に応えようとするサイドエアバッグ装置が種々提案されている。
例えば、特許文献1に記載された「車体側部のエネルギ吸収構造」では、エアバッグを上部エアバッグと下部エアバッグとに仕切る仕切り部に、開口部を有する調圧弁(圧力制御弁)が設けられている。なお、部材名称に続くかっこ内の語句は、特許文献1で使用されている部材名称を示している。このエネルギ吸収構造では、調圧弁(圧力制御弁)により開口部が開閉されることで、同開口部での膨張用ガスの流通が調整され、下部エアバッグが上部エアバッグよりも先に展開膨張させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−67297号公報(図9、図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献1では、開口部を有する調圧弁(圧力制御弁)が、仕切り部において乗員を直接拘束しない箇所に設けられている。そのため、下部エアバッグの内圧上昇のみによって調圧弁(圧力制御弁)が作動して開口部を開くものと考えられる。その結果、エアバッグを通じて乗員が受ける荷重の特性が上述したような望ましい特性となるように、エアバッグの内圧を調整(調圧)することが難しい。
【0008】
なお、こうした問題は、上記サイドエアバッグ装置に限らず、他の種類のエアバッグ装置にも共通して起こり得る。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、開口部での膨張用ガスの流通を適切に調整し、エアバッグの内圧を好適に調圧することのできるエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、乗物への衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、乗物用シートに着座した乗員に接近した箇所で展開膨張する膨張部が設けられたエアバッグを備え、前記膨張部を、面状の区画部材により、前記膨張用ガスが供給される上流側膨張部と、前記上流側膨張部に隣接し、かつ前記上流側膨張部を経由した膨張用ガスが供給される下流側膨張部とを少なくとも含む複数の部位に区画し、前記乗員を前記膨張部で拘束するエアバッグ装置であって、前記区画部材には、前記衝撃の加わる方向に延びるスリットからなる開口部と、一対の弁体部とを有する調圧弁が設けられ、前記両弁体部は、前記上流側膨張部による乗員拘束前には、同上流側膨張部内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触することで、前記開口部での膨張用ガスの流通を規制し、前記上流側膨張部による乗員拘束時には、その拘束に伴い加わる外力により、前記区画部材を通じて撓んで互いに離間することで、前記開口部での膨張用ガスの流通を許容するものであり、前記開口部での前記膨張用ガスの流通方向に直交する面に対し前記区画部材が投影される投影面は、前記スリットに直交する方向の寸法の、前記スリットの延びる方向の寸法に対する比が1.1〜5.0となる楕円部を有していることを要旨とする。
【0010】
上記の構成によれば、乗物に衝撃が加わると、エアバッグの上流側膨張部が膨張用ガスの供給を受けて展開膨張を開始する。この上流側膨張部が乗員を拘束する前には、区画部材に対し、スリットに直交する方向や、スリットの延びる方向(衝撃の加わる方向)にテンションが掛かって、同区画部材が緊張状態になろうとする。
【0011】
ここで、開口部での膨張用ガスの流通方向に直交する面に対し区画部材が投影される投影面は、楕円部を有している。しかも、この楕円部では、スリットに直交する方向の寸法の、スリットの延びる方向の寸法に対する比が「1.1」以上に設定されている。
【0012】
従って、区画部材は、スリットの延びる方向に対するよりも、スリットに直交する方向に長い形状をなしていることとなり、区画部材では、スリットの延びる方向に対し、スリットに直交する方向に対するよりも強いテンションが掛かりやすい。そのため、開口部は、開く方向よりも閉じる方向に強く引っ張られる。また、一対の弁体部が上流側膨張部内の膨張用ガスによって押圧されて互いに接触し、開口部での膨張用ガスの流通を規制する。上流側膨張部内の膨張用ガスは、開口部を通じ下流側膨張部へ流れないか、流れたとしても僅かである。その結果、膨張部のうち専ら上流側膨張部の内圧が上昇する。
【0013】
一方、前記衝撃により、乗物を構成する部材(乗物構成部材)が乗物の内側へ進入して、エアバッグが乗員に押付けられると、その乗員は主として上流側膨張部によって拘束される。このときには、乗員拘束に伴い加わる外力によって膨張部が押圧されて変形する。これに伴い、区画部材に対しスリットの延びる方向に強く掛かっていたテンションが減少し、直交する方向に掛かるテンションが増加する。これらのテンションの変化により、両方向のテンションの差が小さくなり、開口部が開かれる。また、区画部材を通じて両弁体部が撓んで互いに離間する。上記流通規制が解除され、上流側膨張部内の膨張用ガスは、開口部を通じて下流側膨張部へ流出することを許容される。
【0014】
なお、閉じていた開口部を開かせるために必要な、乗員拘束に伴い膨張部に加わる外力と、楕円部の上記比との間には相関関係が見られる。比が大きくなる(楕円部が、スリットに直交する方向に長くなる)に従い、大きな外力が必要となる。しかし、大きな外力が膨張部に加われば、乗員拘束時にエアバッグから乗員に加わる荷重も大きくなる。
【0015】
この点、請求項1に記載の発明では、楕円部の上記比が「5.0」以下に設定されていて、外力が加わっても、乗員に加わる荷重は許容範囲に収まる。開口部を開かせるために必要な外力が過大となることが抑制される。その結果、乗員拘束に伴い適度な大きさの外力が膨張部に加わったときに、上記両方向のテンションの差が小さくなり、開口部が開くようになる。この際に、乗員に過大な荷重が加わることが起こりにくい。
【0016】
上記開口部を通じた膨張用ガスの流出により、上流側膨張部の内圧が低下し、下流側膨張部の内圧が上昇する。下流側膨張部が展開膨張し、膨張部が、上流側膨張部に加え下流側膨張部においても乗員に押付けられるようになる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記区画部材は、2つの部材の端縁同士を合致させた状態で端部同士を帯状に重ね合わせ、さらに前記両部材を、非重ね合わせ部と重ね合わせ部との境界部分で結合することにより形成され、前記開口部は、前記両部材の結合部分の一部について結合を解除させることにより形成され、前記重ね合わせ部において前記開口部に対応する箇所が前記両弁体部とされることを要旨とする。
【0018】
上記の構成によれば、区画部材は、2つの部材の端縁同士を合致させた状態で端部同士を帯状に重ね合わせ、さらに同両部材を、非重ね合わせ部と重ね合わせ部との境界部分で結合することにより形成される。この結合部分の一部の結合が解除される(両部材が結合されない)ことにより、開口部が形成される。また、重ね合わせ部において開口部に対応する箇所が両弁体部とされる。このように、2つの部材における非重ね合わせ部と重ね合わせ部との境界部分を、一部を残した状態で結合することにより、区画部材、開口部及び両弁体部の各々が一度に形成される。開口部の形成、及び両弁体部の形成のために特別な作業は不要である。
【0019】
特に、両弁体部は区画部材に対し一体となっている。そのため、両弁体部が区画部材とは異なる部材からなる場合に比べ、部品点数が少なくてすむばかりか、同部材を区画部材に結合する作業が不要である。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記エアバッグの前記膨張部は、前記乗物用シートの側方から前記乗物に加わる衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの側方で前方へ向けて展開膨張するものであることを要旨とする。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記エアバッグの前記膨張部は、前記乗物用シートの前方から前記乗物に加わる衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの前方から前記乗員の下肢に向けて展開膨張するものであることを要旨とする。
【0022】
上記請求項3(又は請求項4)に記載の発明の構成によれば、乗物に対し、乗物用シートの側方(又は前方)から衝撃が加わると、上流側膨張部が膨張用ガスの供給を受けて展開膨張を開始する。開口部を構成するスリットは、衝撃の加わる方向である、乗物用シートの幅方向(又は前後方向)に延びている。また、区画部材の投影面における楕円部では、上記比が「1.1」以上に設定されている。そのため、上流側膨張部による乗員の上半身(又は下肢)の拘束前には、区画部材では、スリットの延びる方向である乗物用シートの幅方向(又は前後方向)に対し、直交する方向に対するよりも強いテンションが掛かりやすい。開口部は、開く方向よりも閉じる方向に強く引っ張られる。また、一対の弁体部が上流側膨張部内の膨張用ガスによって押圧されて互いに接触する。開口部での膨張用ガスの流通が規制され、専ら上流側膨張部の内圧が上昇する。
【0023】
一方、前記衝撃により、乗物構成部材が乗物用シートの側方(又は前方)から乗員側へ進入し、エアバッグが乗員の上半身に対し側方から(又は下肢に対し前方から)押付けられると、その乗員の上半身(又は下肢)は主として上流側膨張部によって拘束される。この拘束に伴い加わる外力によって膨張部が押圧されて変形する。これに伴い、両方向のテンションの差が小さくなり、開口部が開かれる。ここで、上記比が「5.0」以下に設定されているため、開口部を開かせるために必要な外力が過大となることを抑制され、乗員の上半身(又は下肢)に過大な荷重が加わることが起こりにくい。
【0024】
上記膨張部の変形時には、区画部材を通じて両弁体部が撓んで互いに離間する。上記流通規制が解除され、上流側膨張部内の膨張用ガスは、開口部を通じて下流側膨張部へ流出することを許容される。開口部を通じた膨張用ガスの流出により上流側膨張部の内圧が低下し、下流側膨張部の内圧が上昇する。下流側膨張部が展開膨張し、膨張部が、上流側膨張部に加え下流側膨張部においても乗員の上半身(又は下肢)に押付けられるようになる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のエアバッグ装置によれば、開口部での膨張用ガスの流通を適切に調整し、エアバッグの内圧を好適に調圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態において、サイドエアバッグ装置が設けられた車両用シートを乗員とともに示す側面図。
【図2】第1実施形態において、車両用シート、乗員及びボディサイド部の位置関係を示す平断面図。
【図3】第1実施形態において、シートバックの収納部に組み込まれたエアバッグモジュールを示す部分平断面図。
【図4】第1実施形態において、エアバッグが非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールを示す側面図。
【図5】図4のA−A線に沿った区画部材等の断面構造を模式的に示す部分拡大断面図。
【図6】図3の状態からエアバッグが一部をシートバック内に残して車両用シートから飛び出して展開膨張した状態を示す部分平断面図。
【図7】(A)は、図4の非膨張展開状態のエアバッグが車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールを、車両用シート及び乗員とともに示す部分側断面図、(B)は、上記(A)におけるT部を拡大して示す部分側断面図。
【図8】第1実施形態のエアバッグが展開膨張して区画部材が緊張したエアバッグモジュールの内部構造について、上流側膨張部側から見た状態を示す断面図。
【図9】第1実施形態を示す図であり、区画部材における調圧弁の近傍部分について上流側膨張部側から見た状態を示す部分斜視図。
【図10】第1実施形態において、楕円体としてモデル化された上流側膨張部を示す模式図。
【図11】第1実施形態において、区画部材の投影面における楕円部についての寸法の比と、張力差との関係を示す特性図。
【図12】(A)〜(C)は、第1実施形態における調圧弁の動作を示す模式図。
【図13】第1実施形態において、車内側へ進入するボディサイド部によってエアバッグが乗員に押付けられる際の内圧、受圧面積及び荷重と、ボディサイド部の進入量(ストローク)との関係を示す特性図。
【図14】本発明を具体化した第2実施形態を示す図であり、サイドエアバッグ装置が設けられた車両用シートを乗員とともに示す側面図。
【図15】第2実施形態において、エアバッグが非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールを示す側面図。
【図16】(A)は、図15の非膨張展開状態のエアバッグが車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールを、車両用シート及び乗員とともに示す部分側断面図、(B)は、上記(A)におけるU部を拡大して示す部分側断面図。
【図17】(A)は、第2実施形態のエアバッグが展開膨張して区画部材が緊張したエアバッグモジュールの内部構造について、上流側膨張部側から見た状態を示す断面図、(B)は、上記(A)の投影面における楕円部の寸法関係を説明する模式図。
【図18】本発明を、膝保護用エアバッグ装置に適用した第3実施形態を示す図であり、同エアバッグが設けられたステアリングコラムの近傍部分を、乗員の下肢とともに示す部分側面図。
【図19】第3実施形態において、エアバッグが非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールを示す正面図。
【図20】図19のエアバッグモジュールの内部構造を示す断面図。
【図21】第3実施形態のエアバッグが展開膨張して区画部材が緊張したエアバッグモジュールについて、投影面における楕円部の寸法関係を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
以下、本発明を、乗物としての車両に適用されるサイドエアバッグ装置に具体化した第1実施形態について、図1〜図13を参照して説明する。
【0028】
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方として説明し、車両の後進方向を後方として説明する。また、以下の記載における上下方向は車両の上下方向を意味する。さらに、車両の幅方向(車幅方向)についての中央部を基準とし、その中央部に近付く側を「車内側」とし、中央部から遠ざかる側を「車外側」とするものとする。
【0029】
図1及び図2に示すように、車両10においてボディサイド部11の車内側(図2の上側)の近傍には、乗物用シートとして車両用シート12が配置されている。ここで、ボディサイド部11とは、車両10の側部に配置された車両構成部材(乗物構成部材)を指し、主としてドア、ピラー等がこれに該当する。例えば、前席に対応するボディサイド部11は、フロントドア、センターピラー(Bピラー)等である。また、後席に対応するボディサイド部11は、サイドドア(リヤドア)の後部、Cピラー、タイヤハウスの前部、リヤクォータ等である。
【0030】
車両用シート12は、シートクッション(座部)13と、そのシートクッション13の後側から起立し、かつ傾き調整機構(図示略)により傾斜角度を調整されるシートバック(背もたれ)14とを備えている。車両用シート12は、シートバック14が前方を向く姿勢で車両10に配置されている。このように配置された車両用シート12の幅方向は、車幅方向と合致する。
【0031】
次に、シートバック14における車外側の側部の内部構造について説明する。
シートバック14内には、その骨格をなすシートフレームが配置されている。シートフレームの一部は、図3に示すように、シートバック14内の車外側(図3では下側)部分に配置されており、この部分(以下「サイドフレーム部15」という)は、金属板を曲げ加工することによって形成されている。サイドフレーム部15を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド16が配置されている。また、シートフレームの後側には、合成樹脂等によって形成された硬質のバックボード17が配置されている。なお、シートパッド16は表皮によって被覆されているが、図3ではその表皮の図示が省略されている。後述する図6についても同様である。
【0032】
シートパッド16内において、サイドフレーム部15の車外側近傍には収納部18が設けられている。収納部18の位置は、車両用シート12に着座した乗員Pの斜め後方近傍となる(図2参照)。この収納部18には、サイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールAMが組み込まれている。
【0033】
収納部18の車外側かつ前側の角部からは、斜め前車外側に向けてスリット19が延びている。シートパッド16の前側の角部16Cとスリット19とによって挟まれた箇所(図3において二点鎖線の枠で囲んだ箇所)は、後述するエアバッグ40によって破断される破断予定部21を構成している。
【0034】
シートバック14の側部において、サイドフレーム部15、エアバッグモジュールAM、シートパッド16等の周りには、エアバッグ40の展開性向上を目的として、伸びの少ない材料によって帯状に形成された力布(図示略)が巻付けられている。力布は、エアバッグ40の展開膨張の初期に伸長した状態となることにより、所定の展開方向とは異なる方向へのエアバッグ40の膨張を抑制する。また、力布は、シートパッド16の変形や表皮の伸びを抑制し、自身が破断されることで破断予定部21の破断のきっかけとする。
【0035】
上記シートバック14に組み込まれるエアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ30及びエアバッグ40を主要な構成部材として備えている。
次に、これらの構成部材の各々について説明する。ここで、本実施形態では、エアバッグモジュールAM及びその構成部材について「上下方向」、「前後方向」というときは、図1に示すように、車両用シート12のシートバック14を基準としている。シートバック14の起立する方向をエアバッグモジュールAM等の「上下方向」とし、シートバック14の厚み方向をエアバッグモジュールAM等の「前後方向」としている。上述したように、通常、シートバック14は後方へ多少傾斜した状態で使用されることから、エアバッグモジュールAM等の「上下方向」は厳密には車両10の上下方向(鉛直方向)と合致しておらず、多少傾斜している。同様に、エアバッグモジュールAM等の「前後方向」は、車両10の前後方向(水平方向)と合致しておらず、多少傾斜している。
【0036】
<インフレータアセンブリ30>
図3及び図4に示すように、インフレータアセンブリ30は、ガス発生源としてのインフレータ31と、そのインフレータ31の外側に装着されたリテーナ32とを備えている。本実施形態では、インフレータ31として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ31は略円柱状をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ31の長さ方向についての一方の端部(本実施形態では下端部)には、同インフレータ31への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0037】
なお、インフレータ31としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)が用いられてもよい。
【0038】
一方、リテーナ32は、ディフューザとして機能するとともに、上記インフレータ31をエアバッグ40と一緒にサイドフレーム部15に締結する機能を有する部材である。リテーナ32の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって略筒状に形成されている。リテーナ32には窓部33が設けられており、インフレータ31から噴出された膨張用ガスGの多くが、この窓部33を通じてリテーナ32の外部へ噴き出される。
【0039】
リテーナ32には、これを上記サイドフレーム部15に取付けるための係止部材として、複数本のボルト34が固定されている。表現を変えると、複数本のボルト34が、リテーナ32を介してインフレータ31に間接的に固定されている。
【0040】
なお、インフレータアセンブリ30は、インフレータ31とリテーナ32とが一体になったものであってもよい。
<エアバッグ40>
図1及び図2に示すように、エアバッグ40は、車両10の走行中等に側突等により衝撃が車両用シート12の側方から同車両10(ボディサイド部11)に加わったときに、インフレータ31から膨張用ガスGの供給を受ける。このエアバッグ40は、自身の一部(後部)を上記収納部18内に残した状態で同収納部18から略前方へ向けて飛び出す。エアバッグ40は、標準的な体格を有する乗員P(大人)が、標準的な姿勢で車両用シート12に着座しているときの、その乗員Pに接近した箇所、ここでは同乗員Pの上半身(胸部PT等)とボディサイド部11との間で展開膨張することにより、上記側突の衝撃から乗員Pの上半身(胸部PT等)を保護する。ここで、胸部PT等には、胸部PTのほか、その周辺部分、特に胸部PTよりも後側(背側)の部分も含まれる。
【0041】
図4は、エアバッグ40が膨張用ガスGを充填させることなく平面状に展開させられた状態(以下「非膨張展開状態」という)のエアバッグモジュールAMを示している。また、図7は、エアバッグモジュールAMの内部構造を示すべく、図4の非膨張展開状態のエアバッグ40が車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールAMを、車両用シート12及び乗員Pとともに示している。
【0042】
図4及び図7に示すように、エアバッグ40は、1枚の布片41(基布、パネル布等とも呼ばれる)を、その中央部分に設定した折り線42に沿って二つ折りして車幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成されている。ここでは、エアバッグ40の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、車内側に位置するものを布部43(図7参照)といい、車外側に位置するものを布部44(図4参照)というものとする。
【0043】
なお、本実施形態では、折り線42がエアバッグ40の前端部に位置するように布片41が二つ折りされているが、折り線42が他の端部、例えば後端部に位置するように布片41が二つ折りされてもよい。また、エアバッグ40は折り線42に沿って分割された2枚の布片からなるものであってもよい。この場合には、エアバッグ40は、2枚の布片を車幅方向に重ね合わせ、両布片を、袋状となるように結合させることにより形成される。さらに、エアバッグ40は3枚以上の布片からなるものであってもよい。
【0044】
エアバッグ40においては、両布部43,44の外形形状が、折り線42を対称軸として互いに線対称の関係にある。各布部43,44の形状・大きさは、エアバッグ40が車両用シート12及びボディサイド部11間で展開膨張したときに、その車両用シート12に着座している乗員Pの上半身の一部(胸部PT等)に対応する領域を占有し得るように設定されている。
【0045】
上記布部43,44としては、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。
【0046】
両布部43,44の上記結合は、それらの周縁部に設けられた周縁結合部45においてなされている。本実施形態では、周縁結合部45は、両布部43,44の周縁部のうち、後下端部及び前端部(折り線42の近傍部分)を除く部分を、縫製(縫糸で縫合)することにより形成されている。この点は、後述する外結合部54,55及び内結合部63についても同様である。さらには、周縁結合部84、仕切り部91についても同様である。
【0047】
上記縫製に関し、図4、図7〜図9、さらには図15〜図17(A)、図19、図20では、2つの線種によって縫製部分が表現されている。一方の線種は、一定長さの太線を断続的に並べて表現した線(破線の一種)であり、これは、縫合の対象となる布部43,44の外側(布部43,44間ではない)における縫糸の状態を示している(図4等参照)。他方の線種は、点を一定間隔おきに並べて表現した線(破線の一種)であり、これは、縫合の対象となる布部43,44間における縫糸の状態を示している(図7における周縁結合部45参照)。すなわち、縫製が後者の態様で表現されている図は、縫製部分を通る断面に沿った断面構造を示している。
【0048】
図4及び図7に示すように、両布部43,44間であって、周縁結合部45によって囲まれた空間は、膨張用ガスGによって乗員Pの上半身(胸部PT等)の側方で展開膨張することにより、同上半身の一部(胸部PT等)を拘束して衝撃から保護するための膨張部46となっている。
【0049】
なお、周縁結合部45は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。この点は、後述する外結合部54,55及び内結合部63、さらには下流側膨張部89及び仕切り部91についても同様である。
【0050】
上記インフレータアセンブリ30は、前側ほど低くなるように傾斜させられた姿勢で、エアバッグ40内の後端下部に配設されている。そして、リテーナ32のボルト34が、車内側の布部43に挿通されている(図3参照)。こうした挿通により、インフレータアセンブリ30がエアバッグ40に対し位置決めされた状態で係止されている。さらに、エアバッグ40の後部下端は、インフレータアセンブリ30の下端部に対し、環状の締結具37(図4、図7の各二点鎖線参照)によって気密状態で締付けられている。
【0051】
エアバッグ40の膨張部46は、面状の区画部材50により複数の部位に区画されている。区画部材50は、一般的にテザーと呼ばれるものと同様の構成を有している。
図5は、図4のA−A線に沿った断面構造を示している。この図5では、各部材が厚みを省略して描かれるとともに、各内結合部63がジグザグ状に描かれている。図5及び図7に示すように、エアバッグ40が非膨張展開状態となっているときには、区画部材50は、上下方向に延びる折り線51に沿って折り返されることにより、相対向する対向端部52,53を接近させてなる二つ折り状態にされている。この二つ折り状態の区画部材50は、折り線51を両対向端部52,53よりも上流側(インフレータ31に近い側)に位置させた状態で膨張部46内に配設されている。
【0052】
図8及び図9に示すように、上記区画部材50は、膨張部46の展開膨張に伴い面状に緊張させられたとき、折り線51に沿う方向(以下「長手方向」という)の長さL1が、折り線51に直交する方向(以下「短手方向」という)の長さL2よりも長い長尺状をなす。区画部材50は、両対向端部52,53の各々において、上下方向へ延びる外結合部54,55によって、エアバッグ40の両布部43,44にそれぞれ結合されている。
【0053】
区画部材50は、上記の結合により、車内側の布部43と車外側の布部44との間に架け渡されている。区画部材50は、エアバッグ40が非膨張展開状態となったときには、二つ折りされた状態となる(図5、図7参照)。また、区画部材50は、膨張部46が展開膨張したとき、車両用シート12の幅方向(車幅方向)に緊張させられた状態となり(図8、図9参照)、同膨張部46の同方向の厚みを規制する。
【0054】
また、二つ折り状態の上記区画部材50は、折り線51に沿う方向の両端部において、エアバッグ40に結合されている。すなわち、区画部材50の上端部及び下端部は、上述した周縁結合部45(図7参照)によってエアバッグ40の両布部43,44の上端部及び下端部に結合(共縫い)されている。
【0055】
ここで、図7において、区画部材50の対向端部52,53をエアバッグ40の布部43,44に結合する外結合部54,55が、仮に、折り線51に対し平行に延びている場合(図示略)には、外結合部54,55と折り線51との間隔が、長手方向のどの箇所でも同一となる。
【0056】
一方、区画部材50は、膨張部46の膨張に伴い、その膨張方向に直交する面状に緊張させられる。区画部材50の両対向端部52,53が、外結合部54,55によってエアバッグ40の布部43,44に結合されているのに対し、区画部材50の折り返し部分は、長手方向の両端部においてのみ、周縁結合部45によって上記布部43,44に結合されている。そのため、区画部材50が上記のように面状に緊張させられるときには、区画部材50の折り線51に沿った折り返し部分が、膨張部46の膨張方向についての外結合部54,55側(前側)へ引っ張られて移動する。折り返し部分の布部43,44との結合部、すなわち折り線51の周縁結合部45との交差部51Cも、折り返し部分のほかの箇所と同様に外結合部54,55側へ引っ張られて移動する。この際、外結合部54,55から大きく離れている上記交差部51Cの移動量が多く、それに伴い同交差部51Cに作用する引っ張り力が大きくなる。その結果、上記交差部51Cに応力が集中するおそれがある。
【0057】
そこで、図7に示すように、外結合部54,55と折り線51との間隔が、同外結合部54,55の周縁結合部45との交差部54Cにおいて、長手方向についての中間部分よりも小さくなるように設定されている。本実施形態では、外結合部54,55が前方へ膨らむ円弧状に形成されている。そのため、各外結合部54,55が折り線51に対し平行である場合(図示略)に比べ、折り線51の周縁結合部45との交差部51Cと、各外結合部54,55との間隔が小さくなる。折り線51の周縁結合部45との交差部51Cが外結合部54,55側へ引っ張られて移動する量が少なくなり、同交差部51Cに作用する引っ張り力が小さくなって、同交差部51Cに対する応力集中が緩和される。
【0058】
図4及び図7に示すように、上記区画部材50により膨張部46は、その後半部分を構成し、かつインフレータアセンブリ30の配置された後側の上流側膨張部47と、同膨張部46の前半部分を構成し、かつインフレータアセンブリ30の配置されていない前側の下流側膨張部48とに区画されている。こうした構成により、インフレータ31からの膨張用ガスGは、上流側膨張部47に最初に供給される。上流側膨張部47を経由した膨張用ガスGは、次に、上流側膨張部47の前側に隣接する下流側膨張部48に供給される。
【0059】
区画部材50は、図8及び図9に示すように、折り線51に沿う方向である上下方向(長手方向)に並べられた2つの部材56,57からなる。各部材56,57は、エアバッグ40の布部43,44と同様の素材を用いてシート状に形成されている。両部材56,57は、膨張部46内において、その膨張部46が展開膨張したときに乗員Pの上半身における前後方向についての中間部の側方となる箇所に設けられている。
【0060】
上下両部材56,57では、それらの端部58,59の端縁58E,59E同士が合致させられた状態で、端部58,59同士が帯状に重ね合わされている。上下両部材56,57は、それぞれ帯状をなす一対の重ね合わせ部61と、それ以外の箇所(以下「非重ね合わせ部62」という)との境界部分において、折り線51に直交する方向(短手方向)へ延びる内結合部63によって結合されている。この境界部分は、上記端縁58E,59Eから長手方向に一定距離離れている。
【0061】
上記区画部材50において、長手方向及び短手方向の両方向についての略中央部分には、膨張部46への膨張用ガスGの供給期間の初期には閉弁して上流側膨張部47から下流側膨張部48への膨張用ガスGの流通を規制し、同供給期間の途中からは、乗員拘束に伴い加わる外力により開弁して前記規制を解除する調圧弁70が設けられている。
【0062】
次に、この調圧弁70の構成について説明すると、内結合部63は、その一部(本実施形態では折り線51を跨ぐ部分)において結合を解除されている。表現を変えると、両重ね合わせ部61と非重ね合わせ部62との境界部分において、折り線51を跨ぐ部分では、上下両部材56,57を結合させる内結合部63が設けられていない。このように内結合部63が設けられていない部分である、結合を解除された箇所は、短手方向に延びて、上流側膨張部47と下流側膨張部48とを連通させるスリットからなる内開口部71を構成している。この内開口部71は、特許請求の範囲における開口部に該当する。ここでの短手方向は、車両10に対し衝撃の加わる方向と同じである。
【0063】
重ね合わせ部61であって、内開口部71に対応する部分(近傍部分)は、一対の弁体部73,74を構成している。より正確には、内開口部71と端縁58Eとの間の部分によって弁体部73が構成され、同内開口部71と端縁59Eとの間の部分によって弁体部74が構成されている。両弁体部73,74が、それらの少なくとも一部、例えば先端部73T,74Tにおいて互いに接触することで、内開口部71での膨張用ガスGの流通が規制される(図12(B)参照)。また、内開口部71が開かれ、かつ弁体部73の全体が弁体部74の全体から離間することで、内開口部71での膨張用ガスGの流通が許容される(図12(C)参照)。
【0064】
さらに、上記のように、両弁体部73,74を有する両重ね合わせ部61は、膨張部46の展開膨張前には上流側膨張部47に配置されている。
そして、両重ね合わせ部61は非重ね合わせ部62との境界部分において、上方又は下方(本実施形態では上方)へ折り曲げられて、同非重ね合わせ部62に重ねられている。さらに、折り曲げられた帯状の両重ね合わせ部61は、内結合部63に沿う方向(短手方向)の両端部において、前述した外結合部54,55により、エアバッグ40の対応する布部43,44及び区画部材50の非重ね合わせ部62に結合(共縫い)されている(図5、図7(A),(B)参照)。
【0065】
ところで、図3に示すように、インフレータアセンブリ30及びエアバッグ40を主要な構成部材として有する上記エアバッグモジュールAMは、非膨張展開状態のエアバッグ40(図4、図7参照)が折り畳まれることにより、コンパクトな形態(以下「収納用形態」という)にされている。これは、エアバッグモジュールAMを、シートバック14における限られた大きさの収納部18に対し、収納に適したものとするためである。
【0066】
上記収納用形態にされたエアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ30を後側に位置させ、かつエアバッグ40の多くを前側に位置させた状態で、シートバック14の収納部18に配設されている。そして、上述したように、リテーナ32から延びてエアバッグ40(布部43)に挿通されたボルト34がサイドフレーム部15に挿通され、ナット36によって締付けられている。この締付けにより、インフレータアセンブリ30がエアバッグ40と一緒にサイドフレーム部15に固定されている。
【0067】
なお、インフレータアセンブリ30は、上述したボルト34及びナット36とは異なる手段によって車両10(サイドフレーム部15)に固定されてもよい。
ここで、上記エアバッグ40においては、上流側膨張部47が展開膨張したとき、区画部材50が縦長の楕円体における前半部のように前側へ膨らむ。このことから、図10に示すように、上流側膨張部47を楕円体としてモデル化して考えることができる。内開口部71での膨張用ガスGの流通方向に直交する面Sに対し区画部材50が投影される投影面PRは、楕円部PR1からなる。上記膨張用ガスGの流通方向は、調圧弁70を挟んで上流側膨張部47及び下流側膨張部48の隣り合う方向(本実施形態では前後方向)ということもできる。なお、図10中、網点が付された箇所が、この楕円部PR1を示している。
【0068】
この楕円体の長径(長軸の長さ)は、楕円部PR1において、スリットに直交する方向の寸法L3に相当し、前述した区画部材50の長手方向の長さL1に対応する。また、楕円体の短径(短軸の長さ)のうち車幅方向に延びるものは、楕円部PR1において、スリットの延びる方向の寸法L4に相当し、上記区画部材50の短手方向の長さL2に対応する。
【0069】
上記楕円部PR1の形状は、上記寸法L3の寸法L4に対する比(L3/L4)によって表現することができる。比(L3/L4)が「1.0」よりも大きければ、楕円部PR1は、縦長となる。
【0070】
ここで、上流側膨張部47の展開膨張に伴い区画部材50が湾曲面状に緊張したときには、その区画部材50において、スリットからなる内開口部71の設けられた箇所にテンション(張力)が掛かる。このテンション(張力)のうち、スリットの延びる方向に掛かるものと、スリットに直交する方向に掛かるものとの差(張力差)と、上記比(L3/L4)との間には相関関係が見られる。図11は、寸法L3を一定の値(250mm)に保持しつつ寸法L4を変化させることにより、比(L3/L4)を変化させていった場合に、上記張力差が比(L3/L4)に応じてどのように変化するかを示している。
【0071】
上記図11からは、次のことがいえる。比(L3/L4)が「1.0」のとき、すなわち投影面PRが円形であるとき、スリットに直交する方向のテンション(張力)と、スリットの延びる方向のテンション(張力)とは互いに同一となり、張力差が「0」となり、内開口部71が開きやすくなる。上記張力の差は、比(L3/L4)が「1.6」以下の領域では、その比(L3/L4)の増加に従い増加し、比(L3/L4)が「1.6」のときに最大となり、比(L3/L4)が「1.6」よりも大きな領域では、比(L3/L4)の増加に従い減少する。この張力差が大きいと、内開口部71を閉じる力が開く力よりも充分に強く、内開口部71が閉じられやすい。比(L3/L4)が「1.6」のときには、張力差が最大となり、内開口部71が最も閉じられやすい。比(L3/L4)が1.1〜5.0の領域では、張力差は、内開口部71を閉じることのできる大きさであると考えられる。
【0072】
一方、側突等により、ボディサイド部11が車内側へ進入すると、このボディサイド部11により、膨張状態の膨張部46が乗員Pの上半身(胸部PT等)に押付けられ、同上半身(胸部PT等)が拘束される。
【0073】
このときには、乗員拘束に伴い加わる外力によって膨張部46が押圧されて変形する。これに伴い、区画部材50に対し、車両用シート12の幅方向に強く掛かっていたテンション(張力)が減少し、スリットに直交する方向(上下方向)に掛かるテンション(張力)が増加する。これらのテンション(張力)の変化により張力差が小さくなり、区画部材50を通じて両弁体部73,74が撓んで互いに離間し、内開口部71が開かれるようになる。
【0074】
なお、閉じていた内開口部71を開かせるために必要な、乗員拘束に伴い膨張部46に加わる外力と、上記比(L3/L4)との間には相関関係が見られる。比(L3/L4)が大きくなる(楕円部PR1が上下方向に長くなる)に従い、閉じていた内開口部71を開かせるために、乗員拘束に伴い膨張部46に対し大きな外力が加わることが必要となる。しかし、大きな外力が膨張部46に加われば、乗員拘束時にエアバッグ40から乗員Pの上半身(胸部PT等)に加わる荷重も大きくなる。実験によると、比(L3/L4)が「5.0」以下であれば、外力が加わっても、乗員Pに対する荷重を許容範囲に収めることが可能である。ちなみに、比(L3/L4)が「5.0」のときの張力差は、同比(L3/L4)が上記「1.1」のときのテンション(張力)の差と同程度となる。
【0075】
上記の点を考慮すると、乗員拘束前には内開口部71を閉じ、乗員拘束時には乗員Pに過大な荷重が加わるのを抑制しつつ内開口部71を開かせる観点からは、比(L3/L4)が1.1〜5.0であることが重要である。この比(L3/L4)は、1.2〜4.5であることが好ましく、1.4〜2.0であることがさらに好ましい。乗員Pの上半身(主として胸部PT)を保護対象とし、寸法L3が比較的短い本実施形態のサイドエアバッグ装置では、比(L3/L4)が「1.6」に設定されている。
【0076】
図1に示すように、サイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールAMのほかに衝撃センサ75及び制御装置76を備えている。衝撃センサ75は加速度センサ等からなり、車両10のボディサイド部11(図2参照)等に設けられており、同ボディサイド部11に側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置76は、衝撃センサ75からの検出信号に基づきインフレータ31の作動を制御する。
【0077】
さらに、車両には、車両用シート12に着座した乗員Pを拘束するためのシートベルト装置が装備されているが、図1等ではこのシートベルト装置の図示が省略されている。
上記のようにして、第1実施形態のサイドエアバッグ装置が構成されている。次に、このサイドエアバッグ装置の作用として、代表的な動作の態様(モード)について、図12(A)〜(C)を参照して説明する。これらの図12(A)〜(C)は、調圧弁70等の形態が、膨張用ガスGの供給開始後、時間とともに変化する様子を模式的に示したものであり、細部については省略・簡略化されている。また、図13は、上流側及び下流側の各膨張部47,48内の膨張用ガスGの圧力(内圧)と、乗員Pの各膨張部47,48側の受圧面積と、乗員Pがエアバッグ40から受ける荷重とが、衝撃により車内側へ進入するボディサイド部11の進入量(ストローク)に応じてどのように変化するかを示している。荷重は、内圧と受圧面積との積によって決定される。
【0078】
このサイドエアバッグ装置では、側突等により車両10(ボディサイド部11)に対し側方から衝撃が加わらないときには、制御装置76からインフレータ31に対し、これを作動させるための作動信号が出力されず、インフレータ31から膨張用ガスGが膨張部46(上流側膨張部47)に供給されない。エアバッグ40は、収納用形態でインフレータアセンブリ30とともに収納部18に収納され続ける(図3参照)。このとき、エアバッグ40では、両布部43,44が互いに接近している。区画部材50は、折り線51を対向端部52,53よりも上流側に位置させてなる二つ折り状態となっている。両弁体部73,74は上流側膨張部47内で重なり合っている。ボディサイド部11の進入量(ストローク)は「0」である。各膨張部47,48の内圧はともに低く(略大気圧)、受圧面積及び荷重はともに「0」である。
【0079】
これに対し、車両10の走行中に、側突等により同車両10(ボディサイド部11)に所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ75によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置76からインフレータ31に対し、これを作動させるための作動信号が出力される。このときのボディサイド部11の進入量(ストローク)をS0とする。この作動信号に応じて、インフレータ31では、ガス発生剤が高温高圧の膨張用ガスGを発生する。この膨張用ガスGは、まず上流側膨張部47に供給されて、同上流側膨張部47が展開膨張を開始する。
【0080】
膨張部46内では、二つ折り状態の区画部材50が、折り線51を対向端部52,53よりも上流側に位置させた状態で配設されている。しかも、その区画部材50は、両対向端部52,53の各々において、外結合部54,55によってエアバッグ40の対応する布部43,44に結合されている(図5参照)。また、区画部材50は、折り線51に沿う方向の両端部(上端部及び下端部)の各々において、周縁結合部45によって両布部43,44に結合されている(図7参照)。そのため、上記のように上流側膨張部47の展開膨張が開始すると、二つ折り状態の区画部材50は引っ張られて、楕円体(図10参照)の前半部のような湾曲面状となる。区画部材50に対し、湾曲面上においてスリットに直交する方向や、スリットの延びる方向にテンション(張力)が掛かって、区画部材50が緊張状態になろうとする(図8参照)。
【0081】
ただし、区画部材50では、その全体が均一に緊張状態となるわけではない。上述した区画部材50の布部43,44に対する結合態様から、上流側膨張部47の展開膨張時の縦断面が、図8に示すような、上下両端部近傍部分で曲率が大きく、それ以外の部分で曲率の小さな縦長の略楕円形状となるからである。こうした異形(非円形)の断面であることから、区画部材50の上部P2及び下部P3には、それらの間の部分(中間部分P1)に比べスリットに直交する方向及びスリットの延びる方向にテンション(張力)が掛かりにくい。そのため、区画部材50の上部P2及び下部P3は、中間部分P1が前側に膨らむ湾曲面状の緊張状態となったときにも、折り線51を対向端部52,53よりも上流側に位置させた屈曲状態(ただし、二つ折り状態よりは開いた状態)となる(図12(A)参照)。
【0082】
上流側膨張部47に位置する両弁体部73,74に対しては、その重なり方向(厚み方向)から内圧PIが加わる。この内圧PIは、膨張部46による乗員Pの拘束時ほど高くない。両弁体部73,74は、この内圧PIにより面全体で互いに密着し、両弁体部73,74間での膨張用ガスGの流通を規制する自己シール状態となる。さらに、折り曲げられて区画部材50の非重ね合わせ部62に重ねられた重ね合わせ部61が、内圧PIによりその非重ね合わせ部62に押付けられる(図9参照)。これらのことからも、両弁体部73,74が一層閉じられやすくなる。
【0083】
ここで、図10に示すように、区画部材50の投影面PRを構成する楕円部PR1では、比(L3/L4)が「1.6」となる外形形状を有している。表現を変えると、区画部材50は、スリットに直交する方向(上下方向)には、スリットの延びる方向(車両用シート12の幅方向、車幅方向)よりも1.6倍程度長くなっている。このことから、区画部材50の上記中間部分P1では、スリットに直交する方向よりもスリットの延びる方向に強いテンション(張力)が掛かりやすい。本実施形態では、スリットからなる内開口部71が、この強いテンション(張力)の掛かりやすい方向に延びているため、内開口部71が閉じられやすい。
【0084】
ただし、上記のようなテンション(張力)の強弱関係があるとはいえ、内開口部71を開かせようとする、スリットに直交する方向(上下方向)にもテンション(張力)が掛かるため、内開口部71が確実に閉じるとは限らず、内開口部71が開くおそれもある。しかし、この場合であっても、両弁体部73,74が少なくとも自身の先端部73T,74Tにおいて閉じられる。これは、中間部分P1が緊張することで内開口部71が引っ張られて、これを開かせようとする力が作用したとしても、その力は、内開口部71において最も大きく、内開口部71から遠ざかるに従い小さくなり、両弁体部73,74の先端部73T,74Tにおいて最小となるからである。
【0085】
さらに、本実施形態では、非重ね合わせ部62側へ折り曲げられた重ね合わせ部61が、スリット(内結合部63)の延びる方向の両端部において外結合部54,55により、対向端部52,53とともに布部43,44に結合されている(図9参照)。このため、上流側膨張部47が展開膨張したときには、区画部材50の中間部分P1に対し、スリットの延びる方向に強いテンション(張力)が掛かるだけでなく、重ね合わせ部61に対しても同方向に強いテンション(張力)が掛かる。
【0086】
両弁体部73,74が、それらの少なくとも一部において互いに接触すると、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、両弁体部73,74間及び内開口部71を通って下流側膨張部48へ流出することを規制される。上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、内開口部71を通じ下流側膨張部48へ流れないか、流れたとしても僅かである。そのため、上流側膨張部47に膨張用ガスGが溜まり、進入量(ストローク)S0以降、専ら上流側膨張部47の内圧が上昇し始める。
【0087】
本実施形態では、膨張部46が区画部材50によって上流側膨張部47及び下流側膨張部48に区画されていることから、上流側膨張部47の容積は、膨張部46が区画されていない場合のその膨張部46の容積よりも小さい。そのため、上流側膨張部47の内圧は、膨張部46が区画されていない場合よりも早く上昇を開始し、しかも高くなる。特に、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、両弁体部73,74間においてのみ流通を許容され、両弁体部73,74間を経由せずに下流側膨張部48へ流出することはない。従って、膨張用ガスGの上記流出が原因で上流側膨張部47の内圧の上昇速度が低下することがない。
【0088】
なお、このときには、エアバッグ40(膨張部46)が未だ乗員Pに接しておらず、従って、受圧面積及び荷重はともに依然として「0」である。
そして、上流側膨張部47の上記展開膨張により、同上流側膨張部47が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消(展開)しながら膨張していくと、力布がエアバッグ40によって押圧されて破断されるとともに、シートバック14のシートパッド16が上流側膨張部47によって押圧され、破断予定部21(図3参照)において破断される。エアバッグ40は、図6に示すように、一部(インフレータアセンブリ30の近傍部分)をシートバック14内に残した状態で、破断された箇所を通じて同シートバック14から飛び出す。
【0089】
その後も膨張用ガスGの供給される上流側膨張部47は、図2に示すように、ボディサイド部11と、車両用シート12に着座した乗員Pの上半身(胸部PT等)の後半部との間で前方へ向けて折り状態を解消しながら展開する。
【0090】
ボディサイド部11の進入量(ストローク)がS1となり、このボディサイド部11によって膨張部46が乗員Pの上半身(胸部PT等)に押付けられ始める。この押付けにより、乗員Pは主として上流側膨張部47によって上半身(胸部PT等)を拘束され始める。
【0091】
この拘束に際し、膨張部46では専ら上流側膨張部47が展開膨張していることから、乗員Pが膨張部46の圧力を受けながら接触する箇所は専ら上流側膨張部47である。そのため、乗員Pが膨張部46の圧力を受ける面の面積(膨張部46側の受圧面積)は、上流側膨張部47の圧力を受ける面の面積(上流側膨張部47側の受圧面積)と同じであって小さい。ただし、この上流側膨張部47側の受圧面積は、側突の衝撃に応じたボディサイド部11の車内側への進入が進む(進入量(ストローク)が増加する)につれて増大する。
【0092】
乗員Pが膨張部46を通じて受ける衝撃の荷重もまた、受圧面積及び内圧の増加に伴い増加する。上述したように、上流側膨張部47の内圧が早く上昇を開始することから、荷重が増加を開始する進入量(ストローク)S1は、膨張部46が区画されていない場合(図13では比較例にて図示)において、荷重が増加を開始する進入量(ストローク)S10よりも小さくなる。表現を変えると、膨張部46が区画されていない場合よりも早いタイミングで荷重が増加し始め、その分早く、乗員Pの上半身(胸部PT等)を衝撃から保護するための所定値βに到達する(図13参照)。
【0093】
両弁体部73,74がそれらの面全体で密着した(閉じられた)状態で、上流側膨張部47内に膨張用ガスGが供給され続ける一方、ボディサイド部11の進入量(ストローク)がS2となることで、同ボディサイド部11から加わる外力により、同上流側膨張部47の内圧が値αまで上昇すると、調圧弁70が開弁し始める。
【0094】
すなわち、膨張部46への膨張用ガスGの供給期間の途中からは、乗員拘束に伴う外力が加わって膨張部46が押圧されて変形する。これに伴い、区画部材50に対しスリットの延びる方向(車両用シート12の幅方向)に強く掛かっていたテンション(張力)が減少し、スリットに直交する方向(上下方向)に掛かるテンション(張力)が増加する。これらのテンション(張力)の変化により、両方向のテンション(張力)の差が小さくなる。
【0095】
また、膨張部46の上記変形に伴い上流側膨張部47の内圧がさらに上昇して、区画部材50の中間部分P1が下流側膨張部48側へ押圧されて(図12(B)参照)、同中間部分P1に掛かるテンション(張力)が変化する。また、上昇した上記内圧により、区画部材50の上部P2及び下部P3が押圧されて下流側膨張部48側へ膨らむように変形する。上述したように、上部P2及び下部P3は、乗員拘束前には、折り線51を対向端部52,53よりも上流側に位置させた屈曲状態となっている(図12(A)参照)。乗員拘束時には、上部P2及び下部P3は、乗員拘束前の形状(図12(B)の二点鎖線参照)から反転したような形状に変形する。上部P2及び下部P3のこうした形状変化(反転)により、中間部分P1においてテンション(張力)の変化が容易に発生する。そして、このテンション(張力)の変化により、中間部分P1に位置する内開口部71の変形が許容され、同中間部分P1に位置する弁体部73,74の作動が許容されるようになる。
【0096】
この際、上部P2及び下部P3の上記反転により、区画部材50においてテンション(張力)の掛かっている領域が、これに直交する方向へ拡がっていく。区画部材50の上側の部材56に対しては上方へ向かうテンション(張力)が強まり、下側の部材57に対しては下方へ向かうテンション(張力)が強まる。これらのテンション(張力)の変化により、内開口部71を構成するスリットが上下方向に引っ張られて開きやすくなる。
【0097】
一方、重ね合わせ部61は非重ね合わせ部62に重ねられ、スリット(内結合部63)の延びる方向についての両端部において、外結合部54,55によってエアバッグ40の布部43,44に結合されている。そのため、重ね合わせ部61において外結合部54,55に近い部分では、重ね合わされた状態を維持しようとする力が強い。しかし、この力は、外結合部54,55から遠ざかるに従い小さくなり、スリット(内結合部63)の延びる方向についての中央部分、すなわち両弁体部73,74において最小となる。このため、スリットに直交する方向(上下方向)へ引っ張られた重ね合わせ部61は、弁体部73,74及びその近傍部分においてのみ同方向へ変形する。
【0098】
内開口部71がある程度開くと、重ね合わせ部61では、上流側膨張部47の高い内圧PIを受けた両弁体部73,74においてのみ、内開口部71を通って下流側膨張部48へ押し出される(反転される)。この内開口部71の上下方向の幅W1が狭いときには、先端部73T,74T同士が接触し合い、両弁体部73,74が先端部73T,74Tにおいて閉じている(図12(B)参照)。この状態は、内開口部71の上記幅W1が、各弁体部73,74の幅W2(図12(C)参照)の合計値(=2・W2)よりも狭い期間続く。
【0099】
そして、内開口部71の幅W1がこの合計値(=2・W2)よりも大きくなると、先端部73T,74Tが離れ(図12(C)参照)、上記流通規制が解除される。この規制解除により、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、内開口部71及び両弁体部73,74間を順に通って下流側膨張部48へ流出することを許容される。
【0100】
ここで、上述したように、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1の上記比(L3/L4)が大きくなる(楕円部PR1がスリットに直交する方向(上下方向)に長くなる)に従い、内開口部71を開かせるために大きな外力が必要となる。しかし、大きな外力が膨張部46に加われば、乗員拘束時にエアバッグ40から乗員Pの上半身(胸部PT等)に加わる荷重も大きくなる。
【0101】
この点、比(L3/L4)が「5.0」以下であれば、外力が加わっても、乗員Pに対する荷重は許容範囲に収まる。本実施形態では、比(L3/L4)が「5.0」よりも小さな「1.6」に設定されている。そのため、比(L3/L4)についての上記適切な設定により、内開口部71を開かせるために必要な外力が過大となることを抑制される。その結果、乗員拘束に伴い適度な大きさの外力が膨張部46に加わったときに、上記両方向のテンション(張力)の差が小さくなり、内開口部71が開くようになる。内開口部71が開く際に、乗員Pに過大な荷重が加わることが起こりにくい。
【0102】
上記膨張用ガスGの流出により、上流側膨張部47の内圧が上昇から低下に転ずる。ただし、ボディサイド部11は車内側へ依然として進入し続けていて、膨張部46が上流側膨張部47において乗員Pに押付けられるため、乗員Pの上流側膨張部47側の受圧面積は増加し続ける。
【0103】
また、進入量(ストローク)S2以降、膨張用ガスGにより下流側膨張部48が展開膨張を開始し、それに伴い同下流側膨張部48の内圧が上昇を開始する。また、内圧の上昇開始から少し遅れて、進入量(ストローク)がS3となったところで、車内側へ進入するボディサイド部11により、上流側膨張部47に加え、下流側膨張部48が乗員Pに接触し押付けられるようになる。乗員Pの上半身(胸部PT等)が上流側膨張部47及び下流側膨張部48によって拘束され始め、同乗員Pが下流側膨張部48の圧力を受ける面の面積(下流側膨張部48側の受圧面積)が増加し始める。
【0104】
なお、上流側膨張部47の内圧と下流側膨張部48の内圧とは、進入量(ストローク)S4以降、等しくなる。
上記のように、調圧弁70の開弁(進入量(ストローク)S2)後には、上流側膨張部47の内圧が低下するとともに下流側膨張部48の内圧が上昇する。また、乗員Pの上流側膨張部47側の受圧面積、及び下流側膨張部48側の受圧面積が時間差をもって増加する。このため、進入量(ストローク)S2以降、乗員Pが膨張部46の全体から受ける荷重、すなわち、上流側膨張部47から受ける荷重と下流側膨張部48から受ける荷重との合計は、膨張部46が区画されていない場合(図13の比較例)の最大値よりも低く、しかも略一定の値(所定値β)となる。
【0105】
また、膨張用ガスGの供給期間の初期には、乗員Pが膨張部46から受ける荷重が早期に増加すること、かつ、その後は同荷重が低い値(略所定値β)に維持されることから、膨張部46のエネルギ吸収量は、膨張部46が区画されていない場合(図13の比較例)のエネルギ吸収量と同程度となる。本実施形態のストローク−荷重特性は、膨張部46が区画されていない場合(図13の比較例)について、膨張部への膨張用ガスの供給期間の後半における荷重の高い領域(右上がりの斜線で示す部分Q)が、同供給期間の前半における荷重の低い領域(右下がりの斜線で示す部分R)にシフトしたような形態となる。部分Qと部分Rとでは形状が異なるが、面積は互いに略同一である。
【0106】
ところで、下流側膨張部48の上記展開膨張により、同下流側膨張部48が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消しようとする。下流側膨張部48は、ボディサイド部11と乗員Pの上半身の前半部(胸部PT)との間で、前方へ向けて、折り状態を解消(展開)する(図2参照)。
【0107】
このようにして、エアバッグ40が、乗員Pの上半身(胸部PT等)と、車内側へ進入してくるボディサイド部11との間に介在する。このエアバッグ40によって上半身(胸部PT等)が車内側へ押圧されて拘束される。そして、ボディサイド部11を通じて上半身(胸部PT等)へ伝わる側方からの衝撃がエアバッグ40によって緩和されて同上半身(胸部PT等)が保護される。
【0108】
ここで、乗員Pの上半身に対し側方から衝撃が加わった場合の耐衝撃性は、一般に、後半部において前半部よりも勝っている。これは、後半部には背骨があり、肋骨がその後部において背骨に接続されているのに対し、肋骨の前部は、上記背骨のような強度を有するものに接続されていないからである。そのため、エアバッグ40の展開膨張に伴い乗員Pの上半身に側方から作用する膨張部46の内圧は、前半部において後半部よりも低いことが望ましい。
【0109】
この点、本実施形態では、膨張部46は、前後方向については、区画部材50が、上半身の前半部と後半部との境界部分の近傍に位置するように展開膨張する。エアバッグ40の膨張部46が展開膨張した状態では、上半身の後半部の側方には上流側膨張部47が位置し、前半部の側方には下流側膨張部48が位置する(図2参照)。従って、エアバッグ40による乗員Pの拘束初期には、乗員Pの上半身のうち前半部よりも耐衝撃性の高い後半部は、早期に内圧が高くなる上流側膨張部47によって押圧される。また、同拘束初期には、乗員Pの上半身のうち耐衝撃性の比較的低い前半部は、内圧が上流側膨張部47ほど高くならない下流側膨張部48によって押圧される。
【0110】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)エアバッグ40の膨張部46を、面状の区画部材50により、膨張用ガスGが供給される上流側膨張部47と、上流側膨張部47の前側に隣接し、かつ上流側膨張部47を経由した膨張用ガスGが供給される下流側膨張部48とに区画する。この区画部材50には、車両10に対し衝撃の加わる方向(車両用シート12の幅方向)に延びるスリットからなる内開口部71と、一対の弁体部73,74とを有する調圧弁70を設ける。さらに、内開口部71での膨張用ガスGの流通方向に直交する面Sに対し区画部材50が投影される投影面PRを、楕円部PR1によって構成する。この楕円部PR1での、スリットに直交する方向の寸法L3の、スリットの延びる方向の寸法L4に対する比(L3/L4)を1.1〜5.0に設定している(図10)。
【0111】
そのため、上流側膨張部47による乗員拘束前には、内開口部71を閉じるとともに、両弁体部73,74を互いに接触させることで、内開口部71での膨張用ガスGの流通を規制し、上流側膨張部47の内圧を上昇させることができる。また、上流側膨張部47による乗員拘束時には、乗員Pに過大な荷重が加わらないようにしつつ内開口部71を開くとともに、両弁体部73,74を互いに離間させることで、内開口部71での膨張用ガスGの流通を許容し、上流側膨張部47の内圧を低下させ、下流側膨張部48の内圧を上昇させることができる。
【0112】
このように、内開口部71での膨張用ガスGの流通を適切に調整して上流側膨張部47及び下流側膨張部48の各内圧を好適に調圧することができる。
(2)2つの部材56,57の端縁58E,59E同士を合致させた状態で、両部材56,57の端部58,59同士を帯状に重ね合わせる。さらに、両重ね合わせ部61と非重ね合わせ部62との境界部分に設けた内結合部63によって両部材56,57を結合することにより、区画部材50を形成する。内結合部63の一部において両部材56,57の結合を解除させることにより、内開口部71を形成する。そして、両重ね合わせ部61において内開口部71に対応する箇所(近傍部分)を両弁体部73,74としている(図9)。
【0113】
そのため、2つの部材56,57における非重ね合わせ部62と重ね合わせ部61との境界部分を、一部を残した状態で結合することにより、区画部材50、内開口部71及び両弁体部73,74を一度に形成することができる。内開口部71の形成、及び両弁体部73,74の形成のために特別な作業を行わなくてもすむ。
【0114】
特に、両弁体部73,74が区画部材50に一体となっている。より正確には、一方の弁体部73が部材56に一体となり、他方の弁体部74が部材57に一体となっている。そのため、両弁体部73,74が区画部材50(部材56,57)とは異なる部品からなる場合に比べ、部品点数を少なくすることができる。また、同部品を区画部材50(部材56,57)に結合する作業を行わなくてもすむ。
【0115】
(第2実施形態)
次に、本発明を車両用サイドエアバッグ装置に具体化した第2実施形態について、図2、図3、図5、図6、図9等に加え、図14〜図17を参照して説明する。
【0116】
第2実施形態では、エアバッグ40の構成が第1実施形態と異なっている。図14は、エアバッグ40を乗員P及び車両用シート12とともに示している。図15は、エアバッグ40が非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールAMを示している。また、図16は、エアバッグモジュールAMの内部構造を示すべく、図15の非膨張展開状態のエアバッグ40が車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールAMを、車両用シート12及び乗員Pとともに示している。
【0117】
図14に示すように、エアバッグ40の形状・大きさは、標準的な体格を有する乗員P(大人)が、標準的な姿勢で着座している状況下で、エアバッグ40が車両用シート12及びボディサイド部11間で展開膨張した場合、上半身の多くの部分(腰部PPから胸部PT及び肩部PSにかけての部位)に対応する領域を占有し得るように設定されている。このエアバッグ40は、第1実施形態でのエアバッグ40よりも下方へ長い。
【0118】
図15及び図16(A)に示すように、第2実施形態では、折り線42がエアバッグ40の後端部に位置するように1枚の布片41が二つ折りされている。
膨張部46は、区画部材50により、上流側膨張部47及び下流側膨張部48に区画されている。区画部材50は、膨張部46が展開膨張したとき、乗員Pの上半身の後半部と前半部との境界部分の近傍に位置するように配置されている。上流側膨張部47は、乗員Pの上半身の後半部のうち、腰部PPの後部から肩部PSにかけての領域の側方で展開膨張する部位であり、上下方向に細長い。この上流側膨張部47による乗員Pの保護部位を区別するために、同上流側膨張部47の上部であって、肩部PSの後端PSRと中心PSCとを少なくとも含む領域の側方で展開膨張する部位を肩保護膨張部64というものとする。また、上記上流側膨張部47の下部であって、腰部PPの後部側方で展開膨張する部位を腰保護膨張部65というものとする。肩保護膨張部64は、展開膨張する過程で、シートバック14の破断予定部21(図3参照)を破断して、収納部18の外部へ飛び出す。これに対し、腰保護膨張部65は、シートバック14の内部で展開膨張する。なお、図14及び図16におけるエアバッグ40は、非膨張展開状態を示しており、腰保護膨張部65がシートバック14から前方に飛び出た状態で図示されている。
【0119】
一方、下流側膨張部48は、胸部PTの側方で展開膨張する部位であり、その大部分は、上記肩保護膨張部64の前側に位置している。
図17(A),(B)に示すように、区画部材50の投影面PRは、上半部に楕円部PR1を有している。この楕円部PR1では、寸法の比(L3/L4)が1.1〜5.0に設定されている。
【0120】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
上記の構成を有する第2実施形態のサイドエアバッグ装置では、内開口部71を構成するスリットは、衝撃の加わる方向である、車両用シート12の幅方向(車幅方向)に延びている。
【0121】
図3及び図16(A),(B)に示すように、車両10(ボディサイド部11)に対し、車両用シート12の側方から衝撃が加わると、インフレータ31から膨張用ガスGが上流側膨張部47に供給されて、同上流側膨張部47が展開膨張を開始する。上流側膨張部47の展開膨張時であって乗員Pを拘束する前には、区画部材50に対し、スリットに直交する方向(上下方向)や、スリットの延びる方向(車両用シート12の幅方向)にテンション(張力)が掛かって、同区画部材50が緊張状態になろうとする。
【0122】
ここで、図16(A),(B)及び図17(A),(B)に示すように、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、上記比(L3/L4)が1.1以上に設定されていて、区画部材50は、車両用シート12の幅方向に対するよりも、上下方向に長い形状をなしている。このことから、区画部材50では、車両用シート12の幅方向に対し、上下方向に対するよりも強いテンション(張力)が掛かりやすい。そのため、内開口部71は、開く方向よりも閉じる方向に強く引っ張られる。また、一対の弁体部73,74が上流側膨張部47内の膨張用ガスGによって押圧されて互いに接触する。上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、内開口部71を通じて下流側膨張部48へ流通することを規制され、専ら上流側膨張部47の内圧が上昇する。
【0123】
そして、上流側膨張部47が、折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消(展開)しながら膨張していくと、シートバック14のシートパッド16がエアバッグ40によって押圧され、破断予定部21(図3参照)において破断される。肩保護膨張部64は、その一部を収納部18に残した状態で、破断された箇所を通じてシートバック14から前方へ飛び出す。その後も膨張用ガスGの供給される肩保護膨張部64は、ボディサイド部11と、車両用シート12に着座した乗員Pの肩部PSとの間で前方へ向けて折り状態を解消しながら展開する(図2参照)。ボディサイド部11によって膨張部46が乗員Pの肩部PSに押付けられ始める。この押付けにより、肩部PSが車内側へ押圧される。
【0124】
これに対し、上流側膨張部47の腰保護膨張部65はシートバック14内で展開膨張する。この腰保護膨張部65により、シートバック14における車外側の側部(サイドサポート部)の下部が押圧されて、前側や斜め前車内側へ膨らむ。この膨らんだサイドサポート部により、車両用シート12に着座している乗員Pの腰部PPの後部が車内側へ押される。
【0125】
そして、上記肩保護膨張部64による肩部PSの押圧と、腰保護膨張部65による腰部PPの押圧とによって、乗員Pが車内側へ移動させられる。この移動により、乗員Pとボディサイド部11との間隔が拡げられる(図2参照)。この際、肩部PSは、乗員Pの上半身のなかでも最も車外側(ボディサイド部11側)へ飛び出している部位である。そのため、膨張部46は、乗員Pの上半身のうち肩部PS以外の部位を押圧する場合に比べ、車内側への少ない膨張量で、同上半身(肩部PS)を車内側へ押圧し始める。しかも、膨張部46(肩保護膨張部64)による乗員Pの押圧は、同膨張部46(肩保護膨張部64)の展開膨張開始から短い時間で、すなわち、早い時期から開始される。また、乗員Pの上半身に対し側方から衝撃が加わった場合の耐衝撃性は、背中部分や胸部PTよりも肩部PSにおいて勝っている。そのため、早期に内圧の高くなる肩保護膨張部64によって肩部PSが強く押圧される。
【0126】
両弁体部73,74がそれらの面全体で密着した(閉じられた)状態で、上流側膨張部47内に膨張用ガスGが供給され続ける一方、ボディサイド部11の進入量が増えることで、同ボディサイド部11から加わる外力により、調圧弁70が開弁し始める。
【0127】
すなわち、膨張部46への膨張用ガスGの供給期間の途中からは、乗員拘束に伴う外力が加わって膨張部46が押圧されて変形する。これに伴い、区画部材50に対し車両用シート12の幅方向に強く掛かっていたテンション(張力)が減少し、上下方向に掛かるテンション(張力)が増加する。これらのテンション(張力)の変化により、両方向のテンション(張力)の差が小さくなって、内開口部71の変形が許容され、弁体部73,74の作動が許容されるようになる。
【0128】
内開口部71が上下方向にある程度開くと、両弁体部73,74が内開口部71を通って下流側膨張部48へ押し出される(反転される)。両弁体部73,74が互いに離間し、上記流通規制が解除される。この規制解除により、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、調圧弁70を通って下流側膨張部48へ流出することを許容される。
【0129】
ここで、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、上記比(L3/L4)が「5.0」以下に設定されているため、内開口部71を開かせるために必要な外力が過大となることを抑制される。その結果、乗員拘束に伴い適度な大きさの外力が膨張部46に加わったときに、上記両方向のテンション(張力)の差が小さくなり、内開口部71が開くようになる。内開口部71が開く際に、乗員Pに過大な荷重が加わることが起こりにくい。
【0130】
膨張用ガスGの流出により上流側膨張部47の内圧が低下し、下流側膨張部48の内圧が上昇し、同下流側膨張部48が展開膨張する。また、車内側へ進入するボディサイド部11により、上流側膨張部47に加え、下流側膨張部48が乗員Pに接触し押付けられるようになる。乗員Pの胸部PTが下流側膨張部48によって拘束され始める。
【0131】
下流側膨張部48が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消しようとする。ボディサイド部11と乗員Pの胸部PTとの間隔は、上記のように肩保護膨張部64及び腰保護膨張部65によって拡げられている。下流側膨張部48は、上記のように間隔を拡げられた空間において、前方へ向けて展開膨張する。胸部PTが下流側膨張部48によって車内側へ押圧されて拘束される。そして、ボディサイド部11を通じて胸部PTへ伝わる側方からの衝撃が下流側膨張部48によって緩和されて同胸部PTが保護される。
【0132】
このように、第2実施形態によれば、エアバッグ83による乗員Pの保護対象部位が増え、またエアバッグ83の展開膨張の態様が異なるものの、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、比(L3/L4)が1.1〜5.0に設定されていることから、上記(1),(2)と同様の効果が得られる。そのほかにも、次の効果が得られる。
【0133】
(3)膨張部46の上半部を、区画部材50により、前後2つの部位(肩保護膨張部64、下流側膨張部48)に区画する。区画部材50に調圧弁70を設けることで、膨張部46の展開膨張初期に下流側膨張部48を展開膨張させないようにしている。
【0134】
そのため、膨張部46の上記展開膨張初期に、仮に、下流側膨張部48が展開膨張する予定の領域(シートバック14の前方)に障害物が存在していても、その障害物が下流側膨張部48によって押圧されるのを抑制することができる。
(第3実施形態)
次に、本発明を膝保護用エアバッグ装置に具体化した第3実施形態について、図18〜図21を参照して説明する。
【0135】
図18に示すように、膝保護用エアバッグ装置は、標準的な体格を有する乗員P(大人)が、標準的な姿勢で着座している状況下で、前突等により車両に対し、車両用シート(図示略)の前方から衝撃が加わった場合に、乗員Pの前方から下肢に向けて展開膨張することにより、同乗員Pの脛部PDから膝部PKにかけての部位を保護するものである。膝保護用エアバッグ装置は、例えばステアリングコラム81の下方に設けられた収納部82に収納されている。なお、この収納部82は、インストルメントパネル80において助手席の乗員の前下方に設けられてもよい。
【0136】
車両に対し前突等による前方からの衝撃が加わると、膝保護用エアバッグ装置のエアバッグ83は膨張用ガスGにより展開膨張を開始し、収納部82から後方側へ出て、乗員Pの下肢とステアリングコラム81との間において、乗員Pの両足の脛部PDから膝部PKにかけての領域で展開膨張する。
【0137】
第3実施形態では、図18及び図19に示すように、膝保護用エアバッグ装置のエアバッグ83は、前後一対の布部83Aを、その周縁部に設けた周縁結合部84で袋状に結合することによって形成されている。エアバッグ83の膨張部85は、インフレータアセンブリ30が収容されるインフレータ収容部86と、膝部PKを保護する上流側膨張部87と、インフレータ収容部86内の膨張用ガスGを上流側膨張部87へ導く一対のガス通路部88と、上流側膨張部87の下流側(図19の下側)に位置する下流側膨張部89とを備えている。下流側膨張部89は、上流側膨張部87及びインフレータ収容部86間に形成されている。両ガス通路部88は、車両用シートの幅方向(車幅方向:図19の左右方向)についての下流側膨張部89の両側に形成されている。インフレータ収容部86及び両ガス通路部88と、下流側膨張部89とは、それらの間に正面略U字状に設けられた仕切り部91によって仕切られている。仕切り部91は、エアバッグ83の前後両布部83A間に布片を架設してなるテザーによって構成されてもよいし、前後両布部83Aを互いに接触させた状態で縫合(結合)してなるシームによって構成されてもよい。
【0138】
図19及び図20に示すように、上流側膨張部87及び下流側膨張部89間には、二つ折り状態の区画部材50が設けられている。区画部材50は、非膨張展開状態の膨張部85において、折り線51を対向端部52,53よりも上流側(図19、図20の各上側)に位置させた状態で配設されている。両対向端部52,53は、外結合部54,55によって対応する布部83Aにそれぞれ結合されている。区画部材50の折り線51に沿う方向の両端部(図19、図20の左右両端部)は、上記仕切り部91の一部(上端部)によって両布部83Aに結合されている。
【0139】
区画部材50は、上述した第1及び第2実施形態と同様、折り線51に沿う方向である車幅方向に並べられた2つの部材56,57からなる。両部材56,57は、折り線51に直交する方向へ延びる内結合部63によって結合されている。折り線51を跨ぐ部分では、両部材56,57を結合させる内結合部63が設けられていない。このように内結合部63が設けられていない部分である、結合を解除された箇所は、衝撃の加わる方向(車両用シート12(車両10)の前後方向)に延びるスリットからなり、上流側膨張部87と下流側膨張部89とを連通させる内開口部71を構成している。両部材56,57において、内開口部71の近傍には、一対の弁体部(図示略)が設けられている。
【0140】
図20及び図21に示すように、内開口部71での膨張用ガスGの流通方向に直交する面Sに対し区画部材50が投影される投影面PRは、楕円部PR1を有している。この楕円部PR1では、上記比(L3/L4)が、1.1〜5.0に設定されている。
【0141】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
上記の構成を有する第3実施形態の膝保護用エアバッグ装置では、図18〜図20に示すように、車両に対し、乗物用シートの前方から衝撃が加わると、インフレータ31から膨張用ガスGが噴出される。この膨張用ガスGが両ガス通路部88を通って上流側膨張部87に供給されることで、同上流側膨張部87が展開膨張を開始する。上流側膨張部87の展開膨張時であって乗員Pの下肢を拘束する前には、区画部材50に対し、スリットに直交する方向(車両用シートの幅方向、車幅方向)や、スリットの延びる方向(乗物用シートの前後方向)にテンション(張力)が掛かって、同区画部材50が緊張状態になろうとする。
【0142】
ここで、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、上記比(L3/L4)が、「1.1」以上に設定されている(図21参照)ため、区画部材50は、前後方向に対するよりも、車両用シートの幅方向(車幅方向)に長い形状をなしている。このことから、区画部材50では、前後方向に対し、車両用シートの幅方向(車幅方向)に対するよりも強いテンション(張力)が掛かりやすい。そのため、区画部材50は、開く方向よりも閉じる方向に強く引っ張られる。また、両弁体部が上流側膨張部87内の膨張用ガスGによって押圧されて互いに接触する。上流側膨張部87内の膨張用ガスGは、内開口部71を通じて下流側膨張部89へ流通することを規制され、専ら上流側膨張部87の内圧が上昇する。
【0143】
一方、前記衝撃により、乗物構成部材(インストルメントパネル80等)が乗物用シートの前方から乗員P側へ進入し、エアバッグ83が乗員Pの下肢に押付けられると、その下肢は主として上流側膨張部87によって拘束される。
【0144】
このときには、乗員拘束に伴い加わる外力によって膨張部85が押圧されて変形する。これに伴い、区画部材50に対し前後方向に強く掛かっていたテンション(張力)が減少し、車両用シート(車両)の幅方向に掛かるテンション(張力)が増加する。両方向のテンション(張力)の差が小さくなり、内開口部71が開かれる。両弁体部が互いに離間し、上記流通規制が解除され、上流側膨張部87内の膨張用ガスGは、内開口部71を通じて下流側膨張部89へ流出することを許容される。
【0145】
ここで、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、上記比(L3/L4)が「5.0」以下に設定されている(図21参照)ため、内開口部71を開かせるために必要な外力が過大となることを抑制される。その結果、乗員拘束に伴い適度な大きさの外力が膨張部85に加わったときに、上記両方向のテンション(張力)の差が小さくなり、内開口部71が開くようになる。内開口部71が開く際に、乗員Pの下肢に過大な荷重が加わることが起こりにくい。
【0146】
上記内開口部71を通じた膨張用ガスGの流出により上流側膨張部87の内圧が低下する。また、下流側膨張部89の内圧が上昇し、同下流側膨張部89が展開膨張する。膨張部85が、上流側膨張部87に加え下流側膨張部89においても乗員Pの下肢に押付けられるようになり、同下肢が上流側膨張部87及び下流側膨張部89によって拘束される。
【0147】
上記のように、上流側膨張部87による乗員拘束前には、内開口部71での膨張用ガスGの流通が規制されて、専ら上流側膨張部87の内圧が上昇する。また、上流側膨張部87による乗員拘束時には、乗員Pの下肢に過大な荷重が加わることなく、内開口部71での膨張用ガスGの流通が許容される。上流側膨張部87の内圧が低下し、下流側膨張部89の内圧が上昇する。
【0148】
また、乗員Pの下肢のうち、耐衝撃性の比較的高い膝部PKは、内圧が早く上昇する上流側膨張部87によって早期に拘束・保護される。また、耐衝撃性の比較的低い脛部PDは、上流側膨張部87よりも遅れて内圧が上昇する下流側膨張部89によってソフトに拘束・保護される。
【0149】
このように、第3実施形態によれば、エアバッグ83による乗員Pの保護対象部位が異なるものの、区画部材50の投影面PRにおける楕円部PR1では、比比(L3/L4)が1.1〜5.0に設定されていることから、上記(1),(2)と同様の効果が得られる。
【0150】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<区画部材50について>
・区画部材50における部材56,57の少なくとも一方は、折り線51に沿って2枚に分割されてもよい。
【0151】
・区画部材50の対向端部52,53は、エアバッグ40の布部43,44に対し、上流側膨張部47内で結合されてもよいし、下流側膨張部48内で結合されてもよい。
また、対向端部52,53の一方が上流側膨張部47内で結合され、他方が下流側膨張部48内で結合されてもよい。
【0152】
・内開口部71及び内結合部63は、区画部材50の折り線51に直交する方向に限らず、斜めに交差する方向に沿って設けられてもよい。
・区画部材50として、単一の部材(布片)からなるものが用いられてもよい。
【0153】
・重ね合わせ部61において、両弁体部73,74として機能するのは、内開口部71に対応する部分(内開口部71の近傍部分、より正確には、内開口部71と端縁58E,59Eとの間の部分)である。そのため、上流側膨張部47の展開膨張時に、両弁体部73,74の少なくとも先端部73T,74Tが接触して閉じられるのであれば、重ね合わせ部61において、内開口部71に対応しない部分(非近傍部分)の形態が変更されてもよい。例えば、重ね合わせ部61において内開口部71に対応しない部分(非近傍部分)については、部分的又は全体的に結合されてもよい。この結合の手段としては、縫合であってもよいし、接着であってもよい。このように変更されることで、重ね合わせ部61において内開口部71に対応する部分だけ両弁体部73,74として作動させ、対応しない部分が不要に動く現象、例えばばたつく現象を抑制することができる。
【0154】
そのほかにも、重ね合わせ部61において内開口部71に対応しない箇所の少なくとも一部に切欠きが入れられてもよい。
・区画部材50と両弁体部73,74とは、互いに異なる部材によって構成されてもよい。
【0155】
・二つ折り状態の区画部材50における折り線51は、エアバッグモジュールAMの上下方向に対し多少傾斜していてもよい。
・両内結合部63間の結合を解除される箇所は、必ずしも折り線51を跨ぐ部分に設けられなくてもよく、折り線51から、同折り線51に直交する方向へ外れた箇所に設けられてもよい。
【0156】
・両内結合部63間の結合を解除される箇所は、複数設けられてもよい。
・両弁体部73,74を含む一対の重ね合わせ部61は、膨張部46の展開膨張前に上流側膨張部47に代えて、下流側膨張部48に配置されてもよい。
【0157】
・長手方向に延びる折り線51に沿って折り返されることにより、相対向する対向端部52,53を接近させてなる二つ折り状態の区画部材50は、折り線51を対向端部52,53よりも下流側に位置させた状態で非膨張展開状態の膨張部46に配設されてもよい。この場合、両弁体部73,74を含む重ね合わせ部61が、膨張部46の展開膨張前に下流側膨張部48に配置されてもよい。
【0158】
・区画部材50の両部材56,57では、それらの端部58,59の端縁58E,59E同士が合致していない状態で、端部58,59同士が帯状に重ね合わされてもよい。
<膨張部46について>
・エアバッグ40は、その略全体が上記第1〜第3実施形態のように膨張部46からなるものであってもよいが、膨張用ガスGが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0159】
・膨張部46は区画部材によって3つ以上の部位に区画されてもよい。この場合、膨張部46において区画部材を挟んで膨張用ガスGの流れ方向に隣り合う2つの部位について、上流側(インフレータ31に近い側)に位置するものが上流側膨張部とされ、下流側(インフレータ31から遠い側)に位置するものが下流側膨張部とされる。そして、これらの上流側膨張部及び下流側膨張部間の区画部材に調圧弁が設けられる。
【0160】
・楕円部PR1における寸法L3,L4は、それらの比(L3/L4)が1.1〜5.0となることを条件に変更されてもよい。
・第2実施形態における腰保護膨張部65は、シートバック14のシートパッド16を破断して前方へ飛び出すものであってもよい。
【0161】
<インフレータアセンブリ30について>
・インフレータアセンブリ30はエアバッグ40の外部に設けられてもよい。この場合には、インフレータ31と上流側膨張部47とが管によって繋がれ、この管を介してインフレータ31からの膨張用ガスGが上流側膨張部47に供給されてもよい。
【0162】
<エアバッグモジュールAMの収納部18について>
・車両用シート12のシートバック14に代えて、ボディサイド部11に収納部18が設けられ、ここにエアバッグモジュールAMが組み込まれてもよい。
【0163】
<その他>
・本発明をサイドエアバッグ装置に適用した場合の保護対象は、胸部PT等(第1実施形態)、腰部PPから肩部PSにかけての部位(第2実施形態)に限られない。本発明は、胸部PTから頭部にかけての部位、腰部から頭部にかけての部位等、種々の部位を側突等の衝撃から保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0164】
・本発明は、シートバック14が車両の前方とは異なる方向、例えば側方を向く姿勢で車両用シート12が配置された車両において、その車両用シート12に対し側方(車両の前後方向)から衝撃が加わった場合に、同衝撃から乗員Pを保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0165】
・膝保護用エアバッグ装置としては、第3実施形態で説明したもの以外にも、エアバッグモジュールAMが、グラブボックスの開口部を開閉するグラブドアに設けられたものであってもよい。
【0166】
・本発明は、サイドエアバッグ装置(第1実施形態、第2実施形態)及び膝保護用エアバッグ装置とは異なる種類のエアバッグ装置にも適用可能である。
・本発明のサイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
【0167】
・本発明は、車両に限らず、航空機、船舶等のほかの乗物における乗物用シートに装備されるエアバッグ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0168】
10…車両(乗物)、12…車両用シート(乗物用シート)、40,83…エアバッグ、46,85…膨張部、47,87…上流側膨張部、48,89…下流側膨張部、50…区画部材、56,57…部材、58,59…端部、58E,59E…端縁、61…重ね合わせ部、62…非重ね合わせ部、70…調圧弁、71…内開口部(開口部)、73,74…弁体部、G…膨張用ガス、L3…スリットに直交する方向の寸法、L4…スリットの延びる方向の寸法、P…乗員、PR…投影面、PR1…楕円部、S…面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物への衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、乗物用シートに着座した乗員に接近した箇所で展開膨張する膨張部が設けられたエアバッグを備え、前記膨張部を、面状の区画部材により、前記膨張用ガスが供給される上流側膨張部と、前記上流側膨張部に隣接し、かつ前記上流側膨張部を経由した膨張用ガスが供給される下流側膨張部とを少なくとも含む複数の部位に区画し、前記乗員を前記膨張部で拘束するエアバッグ装置であって、
前記区画部材には、前記衝撃の加わる方向に延びるスリットからなる開口部と、一対の弁体部とを有する調圧弁が設けられ、
前記両弁体部は、前記上流側膨張部による乗員拘束前には、同上流側膨張部内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触することで、前記開口部での膨張用ガスの流通を規制し、前記上流側膨張部による乗員拘束時には、その拘束に伴い加わる外力により、前記区画部材を通じて撓んで互いに離間することで、前記開口部での膨張用ガスの流通を許容するものであり、
前記開口部での前記膨張用ガスの流通方向に直交する面に対し前記区画部材が投影される投影面は、前記スリットに直交する方向の寸法の、前記スリットの延びる方向の寸法に対する比が1.1〜5.0となる楕円部を有していることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記区画部材は、2つの部材の端縁同士を合致させた状態で端部同士を帯状に重ね合わせ、さらに前記両部材を、非重ね合わせ部と重ね合わせ部との境界部分で結合することにより形成され、
前記開口部は、前記両部材の結合部分の一部について結合を解除させることにより形成され、
前記重ね合わせ部において前記開口部に対応する箇所が前記両弁体部とされる請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグの前記膨張部は、前記乗物用シートの側方から前記乗物に加わる衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの側方で前方へ向けて展開膨張するものである請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記エアバッグの前記膨張部は、前記乗物用シートの前方から前記乗物に加わる衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの前方から前記乗員の下肢に向けて展開膨張するものである請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項1】
乗物への衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、乗物用シートに着座した乗員に接近した箇所で展開膨張する膨張部が設けられたエアバッグを備え、前記膨張部を、面状の区画部材により、前記膨張用ガスが供給される上流側膨張部と、前記上流側膨張部に隣接し、かつ前記上流側膨張部を経由した膨張用ガスが供給される下流側膨張部とを少なくとも含む複数の部位に区画し、前記乗員を前記膨張部で拘束するエアバッグ装置であって、
前記区画部材には、前記衝撃の加わる方向に延びるスリットからなる開口部と、一対の弁体部とを有する調圧弁が設けられ、
前記両弁体部は、前記上流側膨張部による乗員拘束前には、同上流側膨張部内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触することで、前記開口部での膨張用ガスの流通を規制し、前記上流側膨張部による乗員拘束時には、その拘束に伴い加わる外力により、前記区画部材を通じて撓んで互いに離間することで、前記開口部での膨張用ガスの流通を許容するものであり、
前記開口部での前記膨張用ガスの流通方向に直交する面に対し前記区画部材が投影される投影面は、前記スリットに直交する方向の寸法の、前記スリットの延びる方向の寸法に対する比が1.1〜5.0となる楕円部を有していることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記区画部材は、2つの部材の端縁同士を合致させた状態で端部同士を帯状に重ね合わせ、さらに前記両部材を、非重ね合わせ部と重ね合わせ部との境界部分で結合することにより形成され、
前記開口部は、前記両部材の結合部分の一部について結合を解除させることにより形成され、
前記重ね合わせ部において前記開口部に対応する箇所が前記両弁体部とされる請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグの前記膨張部は、前記乗物用シートの側方から前記乗物に加わる衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの側方で前方へ向けて展開膨張するものである請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記エアバッグの前記膨張部は、前記乗物用シートの前方から前記乗物に加わる衝撃に応じて供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの前方から前記乗員の下肢に向けて展開膨張するものである請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図10】
【図11】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2013−35535(P2013−35535A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−25252(P2012−25252)
【出願日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
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