説明

エアベルト装置

【課題】省スペース化及び軽量化を図ることができ、また操作性も良好なエアベルト装置を提供する。
【解決手段】座席の側方に可動ガイド7が上下方向に移動可能に配置されている。ショルダースルーアンカ11とラップスルーアンカ13との間には、中間ガイド12が設置されている。ウェビング6は、一端がタング4に接続され、これに引き続く部分がラップスルーアンカ13に掛けられて上方へ引き回され、次いで中間ガイド12に掛けられて下方へ引き回され、次いで可動ガイド7に掛けられて上方へ引き回され、次いでショルダースルーアンカ11に掛けられて車室内方へ引き回され、他端がエアベルト2の後端に接続されている。可動ガイド7は、ベルト9を介してELR8により下方に付勢されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の移動体の乗員を衝突時等に拘束するためのエアベルト装置に関するものであり、詳しくはエアベルトと、該エアベルトに連なるウェビングと、該ウェビングを巻き取るリトラクタとを有するエアベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアベルト装置として、特許文献1(特開平5−85301号公報)には、乗員の上半身の前面に沿って斜めに引き回される、膨張可能なエアベルトと、該エアベルトの下端が接続されたタングと、該エアベルトの上端に接続されたウェビングと、該タングに接続されたラップベルトと、該タングが装着されるバックル装置と、該ウェビングを巻き取るウェビング用リトラクタと、ラップベルトを巻き取るラップベルト用リトラクタとを備えたものが記載されている。バックル装置には、車両衝突時等の緊急時に作動して高圧のガスを発生するガス発生装置が連結されている。車両の衝突時等にガス発生装置が作動すると、エアベルトが膨張し、乗員が拘束される。
【0003】
この特許文献1のエアベルト装置にあっては、ウェビング用リトラクタとラップベルト用リトラクタとの2基のリトラクタが必要である。
【0004】
特許文献2(特開2000−203381号公報)には、1基のリトラクタによりエアベルト及びラップベルトの双方に張力を与えることができるエアベルト装置が記載されている。
【0005】
この特許文献2のエアベルト装置は、膨張可能なエアベルトと、該エアベルト内にガスを供給して膨張させるガス発生器と、該エアベルトの下端が接続されたタングと、該タングに一端が接続されたラップベルトと、該エアベルトの上端に一端が接続されたウェビングと、該ラップベルト及びウェビングのうちのいずれかの他端側を巻き取るためのリトラクタと、該ラップベルトが架けられた上下動可能なラップベルトガイドと、該ウェビングが架けられた上下動可能なウェビングガイドと、該ラップベルトガイドとウェビングガイドとを連結している連結部材とを備えている。ラップベルト及びウェビングのうちリトラクタによって巻き取られない方の他端は、車体に固定されている。特許文献2の実施の形態では、ラップベルトガイド及びウェビングガイドとしてそれぞれローラが用いられており、これら2個のローラが連結部材としてのフレームにより連結されている。
【0006】
この特許文献2では、ラップベルトガイドとウェビングガイドとが連結部材によって連結されているので、ラップベルト及びウェビングの一方に張力が加えられると、該連結部材を介して他方に対しても張力が伝達されるようになる。このため、リトラクタは1基で足りる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−85301号公報
【特許文献2】特開2000−203381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、特許文献1では2基のリトラクタが必要になり、コスト高である。
【0009】
特許文献2では、ラップベルト及びウェビングのうちリトラクタによって巻き取られない方の他端を車体に固定するためのスペースが必要である。また、ウェビング及びラップベルトをそれぞれ別々のローラに掛けるようにしているため、2個のローラ付フレームが必要となり、ローラ付フレームの大型化や、重量による慣性力から、ウェビングやラップベルトの引き出し時及び巻き取り時のフィーリングの悪化や、振動による揺れに起因した異音発生のおそれがあった。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、省スペース化及び軽量化を図ることができ、また操作性も良好なエアベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)のエアベルト装置は、先端及び後端を有する膨張可能なエアベルトと、該エアベルト内にガスを供給して膨張させるガス発生器と、該エアベルトの該先端が接続されたタングと、該タングが装着されるバックル装置と、一端及び他端を有し、該一端が該タングに接続され、該他端が該エアベルトの該後端に接続されたウェビングと、該ウェビングが掛けられた可動ガイドと、該可動ガイドを移動させるための緊急時ロック機構付リトラクタ(以下ELRという。)とを有し、該ELRは、ベルトと、該ベルトの巻取機構と、緊急時に該ベルトの引き出しを阻止するための緊急時ロック機構とを備えており、該ベルトが前記可動ガイドに接続されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2のエアベルト装置は、請求項1において、前記可動ガイドの移動を案内するための案内部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3のエアベルト装置は、請求項1又は2において、ショルダースルーアンカとラップスルーアンカとを備えており、該ショルダースルーアンカ及びラップスルーアンカに前記ウェビングが掛けられていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4のエアベルト装置は、請求項3において、車両緊急時に、前記ラップスルーアンカと、前記バックル装置に装着された前記タングとの間の前記ウェビングの長さの増大を阻止する緊急時ウェビング移動阻止手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5のエアベルト装置は、請求項3又は4において、前記ショルダースルーアンカとラップスルーアンカとの間に1個の中間ガイドが設けられ、前記ウェビングが該中間ガイドに掛けられており、該ウェビングのうち該中間ガイドと該ショルダースルーアンカ又はラップスルーアンカとの間の部分が前記可動ガイドに掛けられていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項6のエアベルト装置は、請求項3又は4において、前記ショルダースルーアンカとラップスルーアンカとの間に2個の中間ガイドが設けられ、前記ウェビングが該中間ガイドにそれぞれ掛けられており、該ウェビングのうち該2個の中間ガイド同士の間の部分が前記可動ガイドに掛けられていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項7のエアベルト装置は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記ELRは、前記ベルトの張力が設定値以上になると該ベルトの引き出しを許容するフォースリミッタ機構を備えていることを特徴とするものである。
【0018】
請求項8のエアベルト装置は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記バックル装置にガス発生器が設けられており、このガス発生器からのガスを前記エアベルトに導くためのガス通路が該バックル装置及び前記タングに設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明のエアベルト装置では、リトラクタが1基であり、また、可動ガイドが1個であるため、省スペース化、軽量化を図ることができる。
【0020】
本発明では、ウェビングの一端がタングに接続され、ウェビングの他端がエアベルトの後端に接続されているため、ウェビングを車体に留め付けるための部材及びスペースが不要である。
【0021】
請求項2の通り、上記可動ガイドの移動を案内するための案内部材を設けると、可動ガイドの揺れ、振動を防止することができる。
【0022】
請求項3の通り、ウェビングをショルダースルーアンカとラップスルーアンカとに掛けることにより、ウェビングをショルダー側及びラップ側にスムーズに引き出すことができる。
【0023】
請求項4の通り、車両緊急時にラップスルーアンカとタングとの間のウェビング長さの増大を阻止する緊急時ウェビング移動阻止手段を設けることにより、乗員拘束時にウェビングのラップ部(ラップスルーアンカとタングとの間の部分)に乗員から荷重が加えられても、このラップ部の長さが増大することが防止されるため、乗員をより効果的に拘束することができる。
【0024】
請求項5,6の通り、ショルダースルーアンカとラップスルーアンカとの間に中間ガイドを設け、ウェビングを該中間ガイドに掛けることにより、可動ガイドが掛けられる付近のウェビングの引き回し方向を下方や後方等に設定することができる。これにより、可動ガイドやELRの配置の自由度が向上する。
【0025】
請求項7の通り、ELRがフォースリミッタ機構を備えている場合には、乗員拘束時にベルトの張力が設定値以上になったときに、このフォースリミッタ機構が作動し、該ベルトの引き出しが許容される。これにより、可動ガイドがウェビング引き出し方向へ移動し、これに伴ってウェビングの引き出し長さが大きくなるので、ウェビング及びエアベルトから乗員に加えられる荷重を緩和することが可能となる。
【0026】
請求項8の通り、バックル装置にガス発生器を設けると共に、このガス発生器からのガスをエアベルトに導くためのガス通路を該バックル装置及びタングに設けることにより、エアベルト装置の構成をより簡易なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態に係るエアベルト装置のベルト装着状態を示す正面図である。
【図2】図1のエアベルト装置のベルト収納状態を示す正面図である。
【図3】図1のエアベルト装置の可動ガイド及びELR付近の斜視図である。
【図4】図1のエアベルト装置の可動ガイド及びその案内部材の斜視図及び断面図である。
【図5】緊急時ウェビング移動阻止機構を備えたラップスルーアンカの一例を示す縦断面図である。
【図6】図5のラップスルーアンカのウェビング移動阻止状態を示す縦断面図である。
【図7】図5のラップスルーアンカの変形例を示す縦断面図である。
【図8】緊急時ウェビング移動阻止機構を備えたラップスルーアンカの別の一例を示す縦断面図である。
【図9】図8のラップスルーアンカのウェビング移動阻止状態を示す縦断面図である。
【図10】別の実施の形態に係るエアベルト装置の側面図である。
【図11】別の実施の形態に係るエアベルト装置の側面図である。
【図12】別の実施の形態に係るエアベルト装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0029】
第1図は実施の形態に係るエアベルト装置のベルト装着状態を示す正面図、第2図はこのエアベルト装置のベルト収納状態を示す正面図、第3図はこのエアベルト装置の可動ガイド及びELR付近の斜視図、第4図(a)はこのエアベルト装置の可動ガイド及びその案内部材の斜視図であり、第4図(b)は第4図(a)のB−B線に沿う断面図である。
【0030】
この実施の形態では、エアベルト装置1は、先端及び後端を有する、膨張可能なエアベルト2と、該エアベルト2内にガスを供給して膨張させるガス発生器(図示略)と、該エアベルト2の先端が接続されたタング4と、該タング4が装着されるバックル装置5と、一端が該タング4に接続され、他端がエアベルト2の後端に接続された帯状のウェビング6と、該ウェビング6が掛けられた可動ガイド7と、該可動ガイド7を移動させるための緊急時ロック機構付リトラクタ(以下ELRという。)8等を有している。ELR8は、ベルト9と、該ベルト9の巻取機構(図示略)と、車両衝突時等の緊急時に該ベルト9の引き出しを阻止するための緊急時ロック機構(図示略)とを備えている。該巻取機構は、非ロック状態にあっては、ベルト9を巻取方向に付勢している。このベルト9の先端が可動ガイド7に接続されている。
【0031】
エアベルト2は、細長いバッグ(図示略)と、該バッグを囲むメッシュウェビング(図示略)とからなる。メッシュウェビングは帯形状の細長い平たい筒状のものである。メッシュウェビングは、幅方向には柔軟に伸縮するが、加熱延伸加工を施すこと等により長手方向には殆ど伸長しない構成のものとなっている。
【0032】
該バッグの少なくとも一部は、メッシュウェビングよりも太幅のものであり、メッシュウェビングとほぼ等幅に折り畳まれて細長い帯状とされている。このバッグの一端は、タング4に設けられたガス通路(図示略)に連通するようにタング4に連結されている。
【0033】
エアベルト2は、第1図の通り、座席(図示略)に着座した乗員の上半身の前面に沿って斜めに引き回される。
【0034】
ウェビング6は、従来の一般的なシートベルトと同様の材質のベルトよりなる。このウェビング6の前記他端は、縫合等によりエアベルト2の後端(上端)に連結されている。
【0035】
この実施の形態では、可動ガイド7は、第1,2図の通り、座席の側方において上下方向に移動可能に配置されている。この実施の形態では、該座席の側方に位置する車体のピラー部Pに、該可動ガイド7の案内部材10が設けられており、可動ガイド7は、この案内部材10に案内されて上下方向に移動する。ELR8は、この可動ガイド7及び案内部材10よりも下方に配置され、該ピラー部Pの下部又は車体の床部に取り付けられている。このELR8から上方にベルト9が引き出されて可動ガイド7に接続されている。即ち、この実施の形態では、可動ガイド7は、ELR8が非ロック状態にあるときには、該ELR8の巻取機構により、ベルト9を介して下方に付勢されている。
【0036】
この実施の形態では、可動ガイド7は、第3,4図の通り、ウェビング6が掛けられたローラ7aと、該ローラ7aを回転可能に保持したフレーム7bと、該フレーム7cから突設された1対のガイドピン7cとを備えている。該フレーム7bは、ローラ7aの下側から該ローラ7aの回転軸7dの両端側に回り込むように延在した略コ字形のものであり、このフレーム7bの両端側が該回転軸7dを支持している。このフレーム7bのうちローラ7aの下側に延在した部分にELR8のベルト9の先端が連結されている。ガイドピン7cは、このフレーム7bの両端側からそれぞれローラ7aの回転軸7dの延長方向に向かって突出している。なお、可動ガイド7は、ローラ7aの代わりに、非回転式のウェビング摺動面を有したものであってもよい。
【0037】
この実施の形態では、案内部材10は、第4図の通り、ピラー部Pに取り付けられた基片部10aと、該基片部10aの車両前方側及び後方側の両側辺部からそれぞれ車室内方へ立設された1対の起立片部10bと、該起立片部10bにそれぞれ設けられた、上下方向に延在するガイド溝10cとを有している。可動ガイド7は、ローラ7aの回転軸7dを車両前後方向として該起立片部10b,10b同士の間に配置され、両ガイドピン7cがそれぞれ両起立片部10bのガイド溝10cに摺動可能に係合している。これにより、可動ガイド7は、該ガイド溝10cに沿って上下方向に移動可能であり、且つ該ガイド溝10cの上端よりも上方への移動及び該ガイド溝10cの下端よりも下方への移動が規制されている。なお、案内部材10の構成はこれに限定されない。
【0038】
該ガイド溝10cの上下方向の長さ、即ち可動ガイド7の下方への移動限界位置から上方への移動限界位置までの距離(以下、可動ガイド7の移動可能距離という。)Lは、600〜1000mm特に800〜1000mmであることが好ましい。
【0039】
座席のピラー部Pと反対側には前記バックル装置5が設置されている。この実施の形態では、該バックル装置5にガス発生器が連結又は内蔵されており、このガス発生器からのガスを導くダクト(図示略)が該バックル装置5のタング対峙面にまで延在している。バックル装置5にタング4を装着すると、このバックル装置5のダクトにタング4の前記ガス通路が接続され、ガス発生器からエアベルト2にガスが供給可能となる。
【0040】
この実施の形態では、ウェビング6は、さらに、ショルダースルーアンカ11、中間ガイド12及びラップスルーアンカ13に掛けられている。第1,2図の通り、ショルダースルーアンカ11は、ピラー部Pの上部に、前後方向に回動可能に設置されており、ラップスルーアンカ13は、該ピラー部Pの下部又は車体の床部に設置されており、中間ガイド12は、ショルダースルーアンカ11とラップスルーアンカ13との間の高さにて該ピラー部Pに設置されている。中間ガイド12は、可動ガイド7の上方への移動限界位置と同高さか、それよりも上方に配置されていることが好ましい。
【0041】
ショルダースルーアンカ11、中間ガイド12及びラップスルーアンカ13は、それぞれ、可動ガイド7と同様に、ウェビング掛部として、ウェビング6の引き出し及び引き戻しに伴って回転自在なローラを備え、このローラにウェビング6が掛けられたものであってもよく、非回転式のウェビング摺動面を備え、このウェビング摺動面にウェビング6が摺動可能に掛けられたものであってもよい。
【0042】
ウェビング6は、第1,2図の通り、前記一端がタング4に接続され、これに引き続く部分がラップスルーアンカ13に掛けられて上方へ引き回され、次いで中間ガイド12に掛けられて下方へ引き回され、次いで可動ガイド7に掛けられて上方へ引き回され、次いでショルダースルーアンカ11に掛けられて車室内方へ引き回され、前記他端がエアベルト2の後端に接続されている。
【0043】
従って、可動ガイド7が上方へ移動すると、該可動ガイド7と中間ガイド12との間及び該可動ガイド7とショルダースルーアンカ11との間におけるウェビング6の長さが短くなるので、その分だけ、ショルダースルーアンカ11とエアベルト2との間及びラップスルーアンカ13とタング4との間におけるウェビング6の長さを大きくすることができる。また、可動ガイド7が下方へ移動すると、該可動ガイド7と中間ガイド12との間及び該可動ガイド7とショルダースルーアンカ11との間におけるウェビング6の長さが長くなり、これに伴ってショルダースルーアンカ11とエアベルト2との間及びラップスルーアンカ13とタング4との間におけるウェビング6の長さが短くなる。
【0044】
以下、エアベルト2やタング4を引っ張って、ショルダースルーアンカ11とエアベルト2との間及びラップスルーアンカ13とタング4との間におけるウェビング6の長さを大きくすることを、ウェビング6の引き出しといい、このショルダースルーアンカ11とエアベルト2との間及びラップスルーアンカ13とタング4との間におけるウェビング6の長さをウェビング6の引き出し長さという。また、可動ガイド7がELR8に引っ張られて下方へ移動し、これに伴って上記の通りウェビング6の引き出し長さが短くなることを、ウェビング6の引き戻しという。
【0045】
可動ガイド7がその下方への移動限界位置(即ちガイド溝10cの下端)まで移動した状態にあっては、ウェビング6のほぼ全体が引き戻されて、第2図に示すベルト収納状態となる。
【0046】
この実施の形態では、ラップスルーアンカ13は、車両衝突時等の緊急時に、ラップスルーアンカ13と、バックル装置5に装着されたタング4との間のウェビング6の長さの増大を阻止する緊急時ウェビング移動阻止機構が設けられている。この緊急時ウェビング移動阻止機構の詳細については後述する。以下、ウェビング6のうちラップスルーアンカ13とタング4との間の部分をラップ部といい、ショルダースルーアンカ11とエアベルト2との間の部分をショルダー部ということがある。
【0047】
この実施の形態では、ELR8は、さらに、該緊急時ロック機構が作動してロック状態となっているときにベルト9の張力が設定値以上になると該ベルト9の引き出しを許容するフォースリミッタ機構(図示略)を備えている。なお、本発明においては、ELR8は、必ずしもフォースリミッタ機構を備えていなくてもよい。
【0048】
これらの可動ガイド7、ELR8、ショルダースルーアンカ11、中間ガイド12及びラップスルーアンカ13は、ピラー部Pに装着されたピラーガーニッシュGによって覆われている。ピラーガーニッシュGの下部及び上部には、それぞれウェビング挿通口(図示略)が設けられており、ウェビング6の一端側及び他端側はそれぞれこれらのウェビング挿通口を通って車室内に引き出されている。
【0049】
このように構成されたエアベルト装置1は、車両が衝突等の緊急事態に遭遇していない平常状態にあるときには、第1,2図の通り、通常のシートベルト装置と同様に使用される。ELR8がベルト9に加える巻取力(張力)は可動ガイド7を介してウェビング6及びエアベルト2にも加えられ、該ウェビング6及びエアベルト2が乗員の上半身に軽くフィットする。
【0050】
車両が所定規模以上の衝突や転倒等の事故に遭遇した場合、このエアベルト装置1のガス発生器、ELR8の緊急時ロック機構、及びラップスルーアンカ13の緊急時ウェビング移動阻止機構が作動する。これにより、エアベルト2が膨張すると共に、ELR8からのベルト9の引き出しがロックされて可動ガイド7が上方へ移動不能となり、それ以上ウェビング6が引き出されないようになる。また、この実施の形態では、ラップスルーアンカ13の緊急時ウェビング移動阻止機構により、ウェビング6のラップ部の長さの増大が阻止される。この膨張したエアベルト2は、乗員の胸に加えられる衝撃を吸収する。
【0051】
前記の通り、このエアベルト2のメッシュウェビングは例えば加熱延伸加工が施されることによりベルト長手方向へは殆ど伸びないものとなっている。バッグが膨らんだときにメッシュウェビングの編目が横方向に広がり、その結果として、メッシュウェビングが長手方向に縮み、エアベルト2の長手方向の長さが短くなる。このようにエアベルト2の長手方向の長さが短くなると、エアベルト2が乗員に密着し、乗員をしっかりと拘束することが可能となる。
【0052】
この実施の形態では、ELR8はフォースリミッタ機構を備えている。そのため、この乗員拘束時にベルト9の張力が設定値以上になると、ELR8のフォースリミッタ機構が作動し、該ベルト9の引き出しが許容される。これにより、可動ガイド7が上方へ移動し、これに伴ってウェビング6の引き出し長さが大きくなるので、ウェビング6及びエアベルト2から乗員に加えられる荷重を緩和することが可能となる。なお、フォースリミッタ機構なしのELR8を用いた場合には、乗員拘束時にウェビング6に生じる張力により、ラップスルーアンカ13よりもショルダースルーアンカ11側において該ウェビング6自体を伸長させ、これにより該ウェビング6及びエアベルト2から乗員に加えられる荷重を緩和するように構成してもよい。
【0053】
この乗員拘束時には、ラップスルーアンカ13の緊急時ウェビング移動阻止機構により、ウェビング6のラップ部の長さが増大することが阻止されているので、このラップ部に乗員から荷重が加えられても、このラップ部の長さは増大しない。これにより、乗員をより確実に拘束することが可能である。なお、このようにラップスルーアンカ13が緊急時ウェビング移動阻止機構を備えていることにより、上記の通りフォースリミッタ機構が作動してウェビング6の引き出し長さが大きくなったり、ラップスルーアンカ13よりもショルダースルーアンカ11側においてウェビング6が張力により伸長したりした場合でも、より確実に、ウェビング6のラップ部により乗員の腰部を拘束し、且つウェビング6のショルダー部及びエアベルト2から乗員の上半身に加えられる荷重を緩和することが可能となる。
【0054】
このエアベルト装置1にあっては、ELR8が1基で足り、また、可動ガイド7も1個で足りるため、省スペース化、軽量化を図ることができる。
【0055】
このエアベルト装置1にあっては、ラップスルーアンカ13とショルダースルーアンカ11との間において、該ラップスルーアンカ13から上方に引き回されてきたウェビング6は、中間ガイド12に掛けられて下方へ引き回され、次いで可動ガイド7に掛けられて上方へ引き回された後、ショルダースルーアンカ11に掛けられている。このようにラップスルーアンカ13とショルダースルーアンカ11との途中で中間ガイド12によりウェビング6が折り返されるようにして可動ガイド7に掛けられているので、可動ガイド7が上下に移動したときには、実質的に、この可動ガイド7の移動距離の倍の長さのウェビング6が引き出されるか又は引き戻されるようになる。これにより、可動ガイド7の移動可能距離が比較的短くても、十分にウェビング6の引き出し長さを確保することができるので、可動ガイド7の設置スペースが比較的小さくても足りる。また、これにより、可動ガイド7を引っ張るためのベルト9の長さも比較的短くても足りるため、ELR8の小型化を図ることも可能である。
【0056】
また、このエアベルト装置1にあっては、ウェビング6の一端がタング4に接続され、ウェビング6の他端がエアベルト2の後端に接続されているため、ウェビング6を車体に留め付けるための部材及びスペースが不要である。
【0057】
この実施の形態では、可動ガイド7の移動を案内するための案内部材10が設けられているので、車両走行時やウェビング引き出し及び引き戻し時における可動ガイド7の揺れ、振動等を防止することができる。
【0058】
この実施の形態では、ウェビング6は、ショルダースルーアンカ11とラップスルーアンカ13とに掛けられているので、ウェビング6をショルダー側及びラップ側にスムーズに引き出すことができる。
【0059】
この実施の形態では、ショルダースルーアンカ11とラップスルーアンカ13との間に中間ガイド12を設け、ウェビング6を該中間ガイド12に掛けることにより、可動ガイド7が掛けられる付近のウェビング6の引き回し方向を下方に設定している。これにより、可動ガイド7をピラー部Pに沿って移動させることができるので、該可動ガイド7を座席とピラー部Pとの間の比較的狭いスペースにも設置することができる。
【0060】
この実施の形態では、バックル装置5にガス発生器を設けると共に、このガス発生器からのガスをエアベルト2に導くためのガス通路を該バックル装置5及びタング4に設けているので、エアベルト装置1の構成をより簡易なものとすることができる。
【0061】
次に、第5〜9図を参照して、緊急時ウェビング移動阻止機構を備えたラップスルーアンカの構成について説明する。
【0062】
<緊急時ウェビング移動阻止機構を備えたラップスルーアンカの第1の構成例>
第5図は、緊急時ウェビング移動阻止機構を備えたラップスルーアンカの第1の構成例を示す縦断面図、第6図はこのラップスルーアンカのウェビング移動阻止状態を示す縦断面図である。
【0063】
このラップスルーアンカ13Aは、ウェビング挿通口21を有するベース部20と、該ベース部20に対し上下方向に移動可能に取り付けられた移動体22と、該移動体22のベース部20に対する移動を規制する規制機構23等を有している。
【0064】
ベース部20は、板状のものであり、両板面をそれぞれ車体のピラー部P側及びこれと反対側(以下、車室内側という。)に向けるようにして配置され、その下部がボルト24により該ピラー部Pの下部又は車体の床部に前後方向回動可能に連結されている。ウェビング挿通口21は、ベース部20をその厚さ方向に(即ちピラー部P側から車室内側に向かって)貫通している。このウェビング挿入口21の上縁側には、該ベース部20のピラー部P側の板面から該ピラー部P側へ張り出した張出部25が設けられている。
【0065】
移動体22は、ベース部20の車室内側の板面に沿う主片部22aと、該主片部22aの車両前方側及び後方側の両側辺部からそれぞれピラー部P側へ張り出し、該ベース部20の車両前方側及び後方側を通って該ベース部20のピラー部P側に回り込んだ1対の回り込み部22bと、該ベース部20のピラー部P側において前記張出部25の下方に配設された締め付けプレート22cとを有している。該締め付けプレート22cは、ベース部20のピラー部P側の板面に沿って車両前後方向に延在しており、その延在方向の両端側は、両回り込み部22bにそれぞれ連結されている。これにより、移動体22は、該主片部22aと締め付けプレート22cとが一体に上下動可能なものとなっている。
【0066】
移動体22が規制機構23により移動を規制された状態(以下、平常状態という。)にあっては、第5図の通り、主片部22aの下端がウェビング挿通口21の下縁よりも上方且つ該ウェビング挿通口21の上縁よりも下方に位置している。また、締め付けプレート22cは、張出部25との間に所定の間隔をあけて該張出部25に対峙している。このとき、ウェビング挿通口21の上縁から主片部22aの最下端までの距離は、張出部25と締め付けプレート22cとの間の間隔よりも大きなものとなっている。
【0067】
主片部22aの下端部は、ウェビング挿通口21に挿通されたウェビング6が掛けられるウェビング掛部22dとなっている。このウェビング掛部22dの外面は、下方に向かって凸に湾曲した形状となっている。この実施の形態では、該ウェビング掛部22dの外面は、非回転式のウェビング摺動面となっている。
【0068】
規制機構23は、移動体22に係合する係合体23aと、該係合体23aを移動体22側に付勢したスプリング23bとを備えている。ベース部20の車室内側の板面のうち、上記の平常状態において移動体22の主片部22aと対向する領域には、この係合体23aとスプリング23bとを収容した凹所20aが設けられている。係合体23aは、該主片部22aに対し接近及び離反方向に変位可能に凹所20a内に収容されている。スプリング23bは、この係合体23aと凹所20aの底面との間に蓄力状態にて配置されている。
【0069】
移動体22の主片部22aのベース部20との対向面には、この係合体23aが係合する凹部22eが設けられている。この凹部22eの下縁側は、第5,6図の通り、ベース部20に接近するほど下方となるように傾斜した斜面22fとなっている。なお、このように凹部22eの下縁側を斜面22fとする代わりに、又はこれと共に、係合体23aの該凹部22eへの係合方向の先端側の下縁を、該先端側ほど上方となるように傾斜した斜面としてもよい。
【0070】
上記の平常状態においては、係合体23aがこの主片部22aの凹部22eに係合している。これにより、移動体22がベース部20に対し上方へ移動することが規制される。規制機構23(スプリング23bのバネ定数や凹部22eの深さ、斜面22fの角度等)は、移動体22に対し設定値以上の上向きの荷重が加えられたときには、係合体23aがスプリング23bの付勢力に抗して斜面22fに沿って摺動しながら凹部22eから抜け出し、移動体22の上方への移動を許容するように構成されている。
【0071】
ウェビング6は、第5図の通り、このラップスルーアンカ13Aのピラー部P側から張出部25と締め付けプレート22cとの間、ウェビング挿通口21、及びウェビング掛部22dの下側を通され、該ウェビング掛部22dに摺動可能に掛けられて車室内方且つ上方へ引き回されている。
【0072】
車両衝突時等の緊急時にウェビング6のラップ部に乗員からの荷重が加えられると、該ウェビング6からラップスルーアンカ13Aのウェビング掛部22dに対し上向きに荷重が加えられるようになる。そして、このウェビング掛部22dへの上向きの荷重が設定値以上になると、規制機構23による規制が解除され、移動体22がウェビング6に押されて上方へ移動する。この移動体22の上方移動により、第6図の通り、締め付けプレート22cが張出部25に接近し、これらの間にウェビング6が挟み込まれる。これにより、ウェビング6のラップ部側への移動が阻止され、該ラップ部の引き出し長さが増大することが防止される。このとき、乗員からウェビング6のラップ部に加えられる荷重が大きくなるほど、締め付けプレート22cと張出部25とがウェビング6を挟み付ける力も大きくなるので、より確実にウェビング6のラップ部側への移動を阻止することができる。
【0073】
なお、この実施の形態では、ウェビング掛部22dの外面は、非回転式のウェビング摺動面となっているが、第7図のラップスルーアンカ13A’のように、移動体22の主片部22aの下端に、ウェビング掛部として、ウェビング6の引き出し及び引き戻しに伴って回転自在なローラ22gを設け、このローラ22gにウェビング6を掛けてもよい。なお、第7図のラップスルーアンカ13A’のその他の構成は、第5,6図のラップスルーアンカ13Aと同様である。
【0074】
<緊急時ウェビング移動阻止機構を備えたラップスルーアンカの第2の構成例>
第8図は、緊急時ウェビング移動阻止機構を備えたラップスルーアンカの第2の構成例を示す縦断面図、第9図はこのラップスルーアンカのウェビング移動阻止状態を示す縦断面図である。
【0075】
このラップスルーアンカ13Bは、ウェビング挿通口31を有するアンカ本体30と、該アンカ本体30に回転軸32aを介して回転可能に取り付けられたウェビングガイド32と、ウェビング挿通口31の縁部31aと対峙しており、該ウェビングガイド32の回転に伴って該縁部31aに対し接近移動可能なロック体33と、ロック体33の該縁部31aへの接近移動を規制した規制部材(図示略)等を有している。
【0076】
アンカ本体30は、その下部がボルト34によりピラー部Pの下部又は車体の床部に前後方向回動可能に連結されている。この実施の形態では、アンカ本体30の上部にウェビング挿通口31が設けられており、該ウェビング挿通口31の下方にウェビングガイド32及びロック体33が配置されている。ロック体33は、ウェビング挿通口31のピラー部P側の縁部に対峙している。このロック体33の下側にウェビングガイド32が配置されている。アンカ本体30は、このウェビングガイド32及びロック体33の車両前方側及び後方側をそれぞれ囲む1対の側壁部30aを有している。
【0077】
ウェビングガイド32の回転軸32aは、その軸心線方向を車両前後方向として配設され、該軸心線方向の両端側がそれぞれアンカ本体30の両側壁部30aに支持されている。ウェビングガイド32は、この回転軸32aにより回転可能に支持された基端部32bと、該基端部32bから下方へ張り出したウェビング掛部32cとを有している。ウェビングガイド32は、回転軸32a回りに、該ウェビング掛部32cが下方を向いた姿勢から車室内側へ傾いた姿勢となるように回動可能となっている。ウェビング掛部32cの外面は、下方に向かって凸に湾曲した形状となっている。この実施の形態では、該ウェビング掛部32cの下端面は、非回転式のウェビング摺動面となっている。
【0078】
ウェビングガイド32の基端部32bから、ロック体33を上方へ移動させるためのアーム32dが延出している。このアーム32dは、第8図の通り、ウェビング掛部32cが下向きになっている状態(以下、この状態を平常状態という。)において、基端部32bから上方且つ車室内方へ向かって斜めに延出している。このアーム32dの先端部に、回転軸32eを介してロック体33の下端部が回動可能に連結されている。該回転軸32eは、その軸心線方向を車両前後方向として配設されている。
【0079】
アンカ本体30の側壁部30aには、それぞれ、ロック体33の移動を案内するガイド溝30b(第8図)が設けられている。このガイド溝30bは、ウェビング挿通口31の縁部31aに対し接近及び離反方向に延在している。ロック体33の車両前方側及び後方側の側面からはそれぞれガイドピン33aが突設されており、これらのガイドピン33aが該ガイド溝30bに摺動可能に係合している。これにより、ロック体33は、該ガイド溝30bに案内されてウェビング挿通口31の縁部31aに向かって接近移動可能となっている。
【0080】
平常状態においては、第8図の通り、ウェビング掛部32cが下向きとなっており、アーム32dが基端部32bから上方且つ車室内方へ向かって斜めに延出しており、ロック体33は、ウェビング挿通口31の縁部31aから離反した状態となっている。この状態からウェビング掛部32cが車室内側へ回動すると、第9図の通り、アーム32dは、該ウェビング掛部32cとは逆にピラー部P側へ回動し、このアーム32dに押されてロック体33がウェビング挿通口31の縁部31aに接近するようになる。
【0081】
前記規制部材は、例えばロック体33を該縁部31aから離反方向に付勢したスプリング等よりなる。この規制部材は、ウェビング掛部32cに対し設定値以上の車室内側への荷重が加えられたときには、ロック体33がアーム32dに押されてウェビング挿通口31の縁部31aに対し接近移動することを許容するように構成されている。
【0082】
中間ガイド12から下方へ引き回されてきたウェビング6は、第8図の通り、このラップスルーアンカ13Bのウェビング挿通口31に挿通され、このウェビング挿通口31の縁部31aとロック体33との間、ウェビングガイド32のピラー部P側、及びウェビング掛部32cの下側を通され、該ウェビング掛部32cに摺動可能に掛けられて車室内方且つ上方へ引き回されている。
【0083】
車両衝突時等の緊急時にウェビング6のラップ部に乗員からの荷重が加えられると、該ウェビング6からラップスルーアンカ13Bのウェビング掛部32cに対し上方且つ車室内側への荷重が加えられるようになる。そして、このウェビング掛部32cへの荷重が設定値以上になると、前記規制部材による規制が解除され、ウェビング掛部32cが車室内側へ回動し、これに伴ってアーム32dがピラー部P側へ回動し、このアーム32dに押されてロック体33がウェビング挿通口31の縁部31aに接近する。これにより、第9図の通り、ウェビング挿通口31の縁部31aとロック体33との間にウェビング6が挟み込まれ、該ウェビング6のラップ部側への移動が阻止され、該ラップ部の引き出し長さが増大することが防止される。このとき、乗員からウェビング6のラップ部に加えられる荷重が大きくなるほど、ウェビング掛部32c及びアーム32dを介してロック体33が縁部31a側へ強く押され、該ロック体33と縁部31aとがウェビング6を挟み付ける力も大きくなるので、より確実にウェビング6のラップ部側への移動を阻止することができる。
【0084】
なお、この実施の形態でも、ウェビング掛部32cの外面は、非回転式のウェビング摺動面となっているが、ウェビングガイド32の下端に、ウェビング掛部として、ウェビング6の引き出し及び引き戻しに伴って回転自在なローラを設け、このローラにウェビング6を掛けてもよい。
【0085】
[別の実施の形態]
上記の実施の形態では、可動ガイド7及びELR8等を座席の側方のピラー部Pに沿って配設しているが、可動ガイド7及びELR8等の配置はこれに限定されない。例えば、後部座席や、所謂2シータータイプの座席などのように、座席の後方に十分なスペースがある場合には、座席の後方に可動ガイド7及びELR8等を配置してもよい。第10〜12図は、それぞれ、このように構成されたエアベルト装置の側面図である。第10〜12図の各実施の形態では、座席の後方のトランクルームTに可動ガイド7及びELR8等を配置している。
【0086】
第10図のエアベルト装置1Aにおいては、可動ガイド7及びELR8は、トランクルームTの天井部tに沿って配置されている。ELR8は、可動ガイド7よりも車両後方側に配置され、該天井部tやトランクルームTの壁面等を構成する車体部材に取り付けられている。可動ガイド7は、該天井部tに沿って車両前後方向に移動可能とされており、且つベルト9を介してELR8により車両後方に付勢されている。この実施の形態でも、可動ガイド7の移動方向及び移動可能距離は、該車体部材に取り付けられた案内部材(図示略)によって規制されている。
【0087】
座席Zの背もたれ部の上部の後側にショルダースルーアンカ11が設置され、座席Zの背もたれ部の下部又は腰掛部の後側にラップスルーアンカ13が設置され、該ショルダースルーアンカ11とラップスルーアンカ13との間には、該ショルダースルーアンカ11に比較的近接して中間ガイド12が設置されている。
【0088】
ウェビング6は、第10図の通り、その一端がタング4に接続され、これに引き続く部分がラップスルーアンカ13に掛けられて上方へ引き回され、次いで中間ガイド12に掛けられて車両後方へ引き回され、次いで可動ガイド7に掛けられて車両前方へ引き回され、次いでショルダースルーアンカ11に掛けられて車室内方へ引き回され、他端がエアベルト2の後端に接続されている。
【0089】
このエアベルト装置1Aのその他の構成及びこのエアベルト装置1Aの作動は、前述の第1〜4図のエアベルト装置1と同様である。また、このエアベルト装置1Aにあっても、第1〜4図のエアベルト装置1と同様の作用効果が奏される。
【0090】
第11図のエアベルト装置1Bにおいては、可動ガイド7及びELR8は、トランクルームTの床部tに沿って配置されている。ELR8は、可動ガイド7よりも車両後方側に配置され、該床部tやトランクルームTの壁面等を構成する車体部材に取り付けられている。可動ガイド7は、該車体部材に取り付けられた案内部材に案内されて、該床部tに沿って車両前後方向に移動可能とされており、且つベルト9を介してELR8により車両後方に付勢されている。
【0091】
このエアベルト装置1Bにおいては、座席Zの背もたれ部の上部の後側にショルダースルーアンカ11が設置され、座席Zの背もたれ部の下部又は腰掛部の後側にラップスルーアンカ13が設置され、該ラップスルーアンカ13の上側に比較的近接して中間ガイド12が設置されている。
【0092】
ウェビング6は、第11図の通り、その一端がタング4に接続され、これに引き続く部分がラップスルーアンカ13に掛けられて車両後方へ引き回され、次いで可動ガイド7に掛けられて車両前方へ引き回され、次いで中間ガイド12に掛けられて上方へ引き回され、次いでショルダースルーアンカ11に掛けられて車室内方へ引き回され、他端がエアベルト2の後端に接続されている。
【0093】
このエアベルト装置1Bのその他の構成及びこのエアベルト装置1Bの作動も、前述の第1〜4図のエアベルト装置1と同様である。また、このエアベルト装置1Bにあっても、第1〜4図のエアベルト装置1と同様の作用効果が奏される。
【0094】
第12図のエアベルト装置1Cにおいては、可動ガイド7及びELR8は、トランクルームTの天井部tと床部tとの中間付近に配置されている。ELR8は、該トランクルームTの壁面等を構成する車体部材に取り付けられている。可動ガイド7は、該車体部材に取り付けられた案内部材に案内されて、該壁面に沿って車両前後方向に移動可能とされており、且つベルト9を介してELR8により車両後方に付勢されている。
【0095】
このエアベルト装置1Cにおいては、座席Zの背もたれ部の上部の後側にショルダースルーアンカ11が設置され、座席Zの背もたれ部の下部又は腰掛部の後側にラップスルーアンカ13が設置されており、該ショルダースルーアンカ11とラップスルーアンカ13との間には、2個の中間ガイド12,12’が設置されている。これらの中間ガイド12,12’同士は、上下に位置を異ならせて配置されており、一方の中間ガイド12は、比較的ショルダースルーアンカ11に近接して配置され、他方の中間ガイド12’は、比較的ラップスルーアンカ13に近接して配置されている。
【0096】
ウェビング6は、第12図の通り、その一端がタング4に接続され、これに引き続く部分がラップスルーアンカ13に掛けられて上方へ引き回され、次いで前記他方の中間ガイド12’に掛けられて車両後方へ引き回され、次いで可動ガイド7に掛けられて車両前方へ引き回され、次いで前記一方の中間ガイド12に掛けられて上方へ引き回され、次いでショルダースルーアンカ11に掛けられて車室内方へ引き回され、他端がエアベルト2の後端に接続されている。
【0097】
このエアベルト装置1Cのその他の構成及びこのエアベルト装置1Cの作動も、前述の第1〜4図のエアベルト装置1と同様である。また、このエアベルト装置1Cにあっても、第1〜4図のエアベルト装置1と同様の作用効果が奏される。
【0098】
このエアベルト装置1Cのように中間ガイドを複数個設けることにより、ウェビング6の引き回しのレイアウトの自由度がより高いものとなる。
【0099】
なお、第10〜12図の実施の形態では、座席Zの後方において、可動ガイド7は、車両前後方向に移動可能に設置されているが、可動ガイド7を座席Zの後方に設置する場合にも、第1〜4図の実施の形態のように、可動ガイド7を上下方向に移動可能に設置してもよい。
【0100】
上記の各実施の形態は、いずれも本発明の一例を示すものであり、本発明は上記の構成に限定されない。
【0101】
例えば、上記の実施の形態では、座席の周辺の車体に可動ガイド及びELRを設置しているが、座席自体にこれらを設置してもよい。
【符号の説明】
【0102】
1,1A〜1C エアベルト装置
2 エアベルト
4 タング
5 バックル装置
6 ウェビング
7 可動ガイド
8 ELR
9 ベルト
10 案内部材
11 ショルダースルーアンカ
12,12’ 中間ガイド
13,13A,13A’13B ラップスルーアンカ
20 ベース部
21 ウェビング挿通口
22 移動体
22a 主片部
22c 締め付けプレート22c
22d ウェビング掛部
22e 凹部
22f 斜面
22g ローラ
23 規制機構
23a 係合体
23b スプリング
25 張出部
30 アンカ本体
30b ガイド溝
31 ウェビング挿通口
32 ウェビングガイド
32a 回転軸
32c ウェビング掛部
32d アーム
33 ロック体
33a ガイドピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端及び後端を有する膨張可能なエアベルトと、
該エアベルト内にガスを供給して膨張させるガス発生器と、
該エアベルトの該先端が接続されたタングと、
該タングが装着されるバックル装置と、
一端及び他端を有し、該一端が該タングに接続され、該他端が該エアベルトの該後端に接続されたウェビングと、
該ウェビングが掛けられた可動ガイドと、
該可動ガイドを移動させるための緊急時ロック機構付リトラクタ(以下ELRという。)と
を有し、
該ELRは、ベルトと、該ベルトの巻取機構と、緊急時に該ベルトの引き出しを阻止するための緊急時ロック機構とを備えており、
該ベルトが前記可動ガイドに接続されていることを特徴とするエアベルト装置。
【請求項2】
請求項1において、前記可動ガイドの移動を案内するための案内部材が設けられていることを特徴とするエアベルト装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、ショルダースルーアンカとラップスルーアンカとを備えており、
該ショルダースルーアンカ及びラップスルーアンカに前記ウェビングが掛けられていることを特徴とするエアベルト装置。
【請求項4】
請求項3において、車両緊急時に、前記ラップスルーアンカと、前記バックル装置に装着された前記タングとの間の前記ウェビングの長さの増大を阻止する緊急時ウェビング移動阻止手段が設けられていることを特徴とするエアベルト装置。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記ショルダースルーアンカとラップスルーアンカとの間に1個の中間ガイドが設けられ、前記ウェビングが該中間ガイドに掛けられており、
該ウェビングのうち該中間ガイドと該ショルダースルーアンカ又はラップスルーアンカとの間の部分が前記可動ガイドに掛けられていることを特徴とするエアベルト装置。
【請求項6】
請求項3又は4において、前記ショルダースルーアンカとラップスルーアンカとの間に2個の中間ガイドが設けられ、前記ウェビングが該中間ガイドにそれぞれ掛けられており、
該ウェビングのうち該2個の中間ガイド同士の間の部分が前記可動ガイドに掛けられていることを特徴とするエアベルト装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記ELRは、前記ベルトの張力が設定値以上になると該ベルトの引き出しを許容するフォースリミッタ機構を備えていることを特徴とするエアベルト装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記バックル装置にガス発生器が設けられており、このガス発生器からのガスを前記エアベルトに導くためのガス通路が該バックル装置及び前記タングに設けられていることを特徴とするエアベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−6524(P2013−6524A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140582(P2011−140582)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】