説明

エアレイド不織布用合成短繊維

空気開繊性が良好であり、かつ品質に優れたエアレイド不織布を製造するのに好適な合成短繊維は、0.1〜45mmの繊維長と1〜30個の凹部を有する横断面形状を有し、この横断面形状において前記凹部の最大深さDの、最大開口部幅Lに対する比D/Lが0.1〜0.5の範囲内にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、エアレイド不織布用合成短繊維に関するものである。更に詳しく述べるならば、空気開繊性が良好であり、品位に優れたエアレイド不織布を製造するのに好適なエアレイド不織布用合成短繊維に関するものである。
【背景技術】
近年、生活用品、衛生材料、医療品など分野で、不織布が多く使用されている。最近では、高速で生産でき、嵩高性、通気性、通液性に優れたエアレイド不織布の研究・開発が進められている。このようなエアレイド不織布として、取扱い性や力学特性などに優れたポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂などの合成樹脂からなる短繊維を用いたものが多く提案されている(例えば、特許文献1等)。
エアレイド不織布用短繊維においては、高い空気開繊性を有することが重要であり、この特性の良否が得られるエアレイド不織布の品位を左右する。例えば、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載されているポリエチレンテレフタレート/高密度ポリエチレン芯鞘型複合繊維、及びポリプロピレン/高密度ポリエチレン芯鞘型複合繊維のように、繊維表面に高密度ポリエチレンからなる鞘層が露出しているエアレイド不織布用短繊維は、高い空気開繊性を有しており、このようなコンジュゲート短繊維から形成されたエアレイドウェブ中には、数十本の繊維が平行に揃って束を形成している未開繊繊維束及び、繊維が絡合して形成された毛玉などの欠点の生成が少なく、従来よりも改善されたウェブ品位を有する不織布を得ることができる。
しかしながら、前述の特許文献1などに記載されている短繊維及び特許文献2などに記載されているコンジュゲート繊維、すなわち高密度ポリエチレンからなる鞘成分を有するコンジュゲート繊維であっても、それが保有している水分単繊維繊度及び捲縮状態などの影響を受けて、ウェブ中に生ずる欠点の防止は、未だ不十分であって、得られる不織布の品質も不満足なものであった。
【特許文献1】WO97/48846号公報
【特許文献2】特開平11−81116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、繊維を形成する合成重合体の種類、単繊維の繊度、捲縮状態及び含有水分率に格別の制限がなく、各種機能付与剤を表面付着させても、空気開繊性が良好であり、かつ品質に優れた不織布を製造するのに好適なエアレイド不織布用合成短繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため、短繊維の断面形状に着目し、鋭意検討を重ねた結果、その断面形状によっては、繊維の有する水分の影響を受けにくく、空気開繊性が良好で、品質に優れたエアレイド不織布を得ることができることを見出し、本発明に到達した。さらに本発明者らが検討を進めた結果、水分だけでなく、繊度、捲縮数、繊維を構成する樹脂の種類にも、開繊性を低下させる要因があることを見出したが、上記断面形状を適切に設計することによってそれらの問題も同時に解消できることを見出した。
本発明のエアレイド不織布用合成短繊維は、0.1〜45mmの繊維長を有する合成短繊維であって、この合成短繊維が1〜30個の凹部を有する横断面形状を有し、前記横断面形状におけるD/L比〔但し、Dは、前記凹部の開口部を規定する1対の凸部に、その両方に接する接線を引いたとき、この接線と、前記凹部の底部との間の、前記接線に直角をなす方向に測定された距離の最大値を表し、Lは、前記接線と前記1対の凸部との2個の接点の間隔距離を表す〕
が0.1〜0.5の範囲内にあることを特徴とするものである。
本発明のエアレイド不織布用合成短繊維において、前記短繊維の水分含有率が、0.6質量%以上であるが、10質量%を超えないことが好ましい。
本発明のエアレイド不織布用合成短繊維において、前記短繊維が5dtex以下の繊度を有することが好ましい。
本発明のエアレイド不織布用合成短繊維において、前記短繊維が0〜5山/25mm又は、15〜40山/25mmの捲縮数を有することが好ましい。
本発明のエアレイド不織布用合成短繊維において、前記短繊維の少なくとも1部分が、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、高圧法低密度ポリエチレン樹脂、線状低密度ポリエチレン樹脂及びエラストマー樹脂から選ばれた少なくとも1種により形成されていることが好ましい。
本発明のエアレイド不織布用合成短繊維は、短繊維表面に、前記短繊維質量に対して、0.01〜10質量%の付着量で付着している少なくとも1種の機能剤をさらに含んでいてもよい。
本発明のエアレイド不織布用合成短繊維において、前記機能剤が、消臭性機能剤、抗菌性機能剤、難燃性機能剤及び害虫忌避性機能剤から選ばれることが好ましい。
【発明の効果】
本発明の合成短繊維を用いると、従来の短繊維では、開繊が困難と思われる高い水分率を有する状態であっても、欠点が少なく品質に優れたエアレイド不織布を得ることができる。また、本発明の短繊維を用いると、この短繊維が、細い繊度、高い捲縮数、又は低捲縮数(無捲縮を含む)であっても、あるいは高摩擦の樹脂或は機能剤により表面が被覆されていても、開繊が容易であり、かつ品質の高い不織布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の合成短繊維の断面形状の一例を示す説明図であり、図2−(a),(b)及び(c)は、それぞれ非複合繊維製造用紡糸孔の形状を示す説明図であり、図2−(A),(B)及び(C)は、それぞれ図2−(a),(b)及び(c)に示された紡糸孔を用いて製造された非複合繊維の断面形状を示す説明図であり、
図3−(a),(b),(c)及び(d)は、それぞれ、芯鞘型複合繊維製造用紡糸孔の形状を示す説明図であり、図3−(A),(B),(C)及び(D)は、それぞれ図3−(a),(b),(c)及び(d)に示された、紡糸孔を用いて製造された芯−鞘型複合繊維の断面形状を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のエアレイド不織布用合成短繊維は0.1〜45mmの繊維長を有し、かつその繊維軸に直角をなす横断面形状において、1〜30個の凹部を有するものであって、この凹部の最大深さDの最大開口幅Lに対する比D/Lは0.1〜0.5の範囲内にある。
図1は、本発明の短繊維の一例の横断面形状を示す説明図である。図1において、短繊維1は、3個の葉状凸部2a,2b,2cと、これらの間に形成された3個の凹部3a,3b,3cを有している。1個の凹部、例えば、凹部3aの最大開口幅Lは、凹部3aの開口部の両端部を規定する2個の凸部2a,2bの輪郭線に対して引かれた接線4と、2個の凸部2a,2bの輪郭線との接点4a,4bの距離をもって表される。また、凹部3aの最大深さDは、接線4に直角をなす方向において、接線4から凹部3aの輪郭線との間の最大距離によって表される。他の凹部3b,3cのL値及びD値は、前記と同様にして測定することができる。
本発明の短距離の横断面形状において、すべての凹部のD/L比値は、0.1〜0.5の範囲内にあることが必要である。
本発明の短繊維において、その繊維長が、0.1mm未満では、得られる不織布の機械的強度が不十分になり、或は短繊維の凝集による繊維塊を生じ開繊が困難になる。一方、本発明の短繊維の繊維長が45mmより大きいと、開繊性が不十分になる。本発明の短繊維の好ましい繊維長は1〜45mmの範囲内にあり、より好ましくは3〜40mmの範囲内にある。
また、本発明の短繊維の断面形状において、D/L比が0.1未満では、得られる不織布内の繊維間に形成される空間が小さくなり、隣接する繊維が互に密着に近い状態となり、水分をトラップする機能が低下するため、空気開繊性が不十分となる。このため、品質の高いエアレイド不織布を得ることができない。一方、D/L比が0.5を超えると、隣接する短繊維の凹部と凸部とが嵌合することがあり、空気開繊性が低下する。好ましいD/L比は、0.15〜0.35の範囲内にあり、より好ましくは0.20〜0.30の範囲内にある。
本発明の短繊維の横断面形状において、凹部の数は、繊維1本当り1個以上であれば上記効果を発揮することができ、その数が多ければより開繊性は良好となる傾向にあるが、それが30個を超えるとD/L比を上記範囲内にすることが難しくなる。好ましい凹部の個数は、1繊維当り2〜20個の範囲内にあり、より好ましくは3〜10個の範囲内にある。
従来の短繊維では、水分含有率が高くなると、特に水分率が0.6質量%以上では、空気開繊性が悪くなり、不織布の品質が悪くなる。これに対して、本発明の短繊維では、水分率が高い状態においても空気開繊性が良好である。この原因は、短繊維同士の凝集を促す水分が繊維周面の凹部中にトラップされることにより、繊維表面に付着する水分量が低減されるためと推測される。ただし、水分率があまり高くなりすぎると、本発明の短繊維においても空気開繊性は不十分になる傾向にあり、短繊維の水分率は、0.6質量%以上であってもよいが、10質量%以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは3質量%以下である。
また、本発明者らは、本発明の短繊維では、上記のように水分率が高い場合だけでなく、繊度が小さい場合、捲縮数が高い場合及び低い場合、又は0の場合、及び繊維表面に高摩擦性の樹脂が存在する場合においても、空気開繊性を良好にすることができ、本発明の短繊維からは高品質のエアレイド不織布が得られることを見出した。
すなわち、従来の短繊維では、繊度が5dtex以下、特に2.5dtex以下では空気開繊が難しく、品位の高いエアレイド不織布が得られない。これに対し、本発明の短繊維では、繊維周面に適度な凹部が存在し、隣接する繊維との間に十分な空間が形成されるため、短繊維が密集していても、繊維間の空隙に空気流が流れ込みやすくなり、短繊維が十分に開繊されて品位の高いエアレイド不織布が得られる。ただし、あまり繊度が低すぎると本発明の短繊維であっても、空気開繊性が不十分になる傾向にあり、繊度は0.1〜5dtexの範囲内にあることが好ましく、特に、0.1〜2dtexの範囲内にあることがより好ましい。
さらに、従来の短繊維を開繊する場合、その捲縮数が、0〜5山/25mmの範囲内の、ノークリンプを含む低捲縮数領域にある場合、未開繊束が多発するという問題があり、一方、15山/25mm以上の高捲縮領域では、空気開繊中に、繊維の絡合による毛玉を生じやすいという問題がある。これに対して、本発明の短繊維では、前述の理由により空気開繊性が向上しており、未開繊束や毛玉の発生を減少でき、品位に優れたエアレイド不織布を得ることができる。したがって、本発明の短繊維では、低捲縮数領域を選択すれば、嵩のない平滑でフラットな不織布が得られ、一方、高捲縮数領域を選択すれば、嵩高で空隙率の高い不織布が得られる。いずれも、従来よりも未開繊束や毛玉状欠点が極めて少なく、品位に優れたものとなる。ただし、しかも、上記いずれの場合においても、捲縮数があまり大きくなりすぎると毛玉が発生しやすくなるため、高捲縮領域における捲縮数は15〜40山/25mmの範囲内が好ましく、より好ましくは15〜30山/25mmの範囲である。なお、上記の捲縮の形状は、ジグザグ型等の二次元捲縮、スパイラル型、オーム型等の立体捲縮等の何れであってもよい。
本発明の短繊維は、単一の樹脂からなるものであってもよく、或は、2種類以上の樹脂のそれぞれからなる領域を組み合わせて形成された複合繊維及び、ポリマーブレンド繊維であってもよいが、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、高圧法低密度ポリエチレン樹脂、線状低密度ポリエチレン樹脂、あるいは、エラストマー系樹脂のうち少なくとも1つが、短繊維表面の少なくとも一部を占めている短繊維であることが好ましく、このような短繊維において特に高い効果を発揮する。つまり、これらの樹脂からなる従来の短繊維は、繊維間の摩擦が高く、十分な開繊性が得られない。これに対して、本発明の短繊維では、その特定の断面形状によって、短繊維同士の接触面積が小さくなり、空気開繊中の繊維間の摩擦を小さくでき、空気開繊性を向上させ、品質の高いエアレイド不織布を得ることができる。
上記合成樹脂が繊維表面に存在する短繊維の形態としては、上記樹脂の1種からなる単一相繊維、前記樹脂の1種が、好ましくは、繊維の合計質量の50質量%以上の含有量で他の樹脂と溶融混練されたポリマーブレンドから形成された繊維、前記樹脂の1種が鞘成分として配置されている芯鞘複合繊維、あるいは偏心芯鞘型複合繊維、前記樹脂の1種が海成分として配されている海島複合繊維、前記樹脂の1種が繊維表面に配されるよう複合化された並列型、多層型、セグメントパイ型等の複合繊維等が挙げられる。
本発明の短繊維に用いられるポリエステル系樹脂としては、(1)ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル類、(2)ポリ(α−ヒドロキシ酸)のようなポリグリコール酸又はポリ乳酸からなる重合体またはこれらの共重合体、(3)ポリ(ε−カプロラクトン)及びポリ(β−プロピオラクトン)から選ばれたポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)類、(4)ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシカプロレート、ポリ−3−ヒドロキシヘプタノエート、ポリ−3−ヒドロキシオクタノエート、及びこれらとポリ−3−ヒドロキシバリレート又はポリ−4−ヒドロキシブチレートとの共重合体などから選ばれたポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)類、(5)ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリネオペンチルオキサレートまたはこれらの共重合体などから選ばれた脂肪族ポリエステル類、並びに前記ポリエステル類(1),(2),(4),(5)に、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、及び5−ナトリウムスルホイソフタル酸のような金属スルホイソフタル酸などの1種以上を含む酸成分及び/又はエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール及び、ポリテトラメチレングリコールなどから選ばれた1種以上からなるグリコール成分を共重合したものなど、を例示できる。
また、本発明の短繊維に用いられるエラストマー樹脂として、ポリウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーを用いることができる。
本発明の短繊維に用いられるポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン若しくはプロピレンを主成分とし、それと少量のエチレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、若しくは4−メチルペンテン−1等のα−オレフィンとの結晶性共重合体を用いることができる。
さらに、本発明の短繊維に用いられるポリアミド系樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などを用いることができる。
本発明の短繊維に用いられるその他の樹脂として、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、フッソ樹脂等が例示できる。
また、前述の繊維形成用合成樹脂には、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、艶消し剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、着色顔料などが添加されていてもよい。
本発明の短繊維は、例えば下記の方法によって製造することができる。
すなわち、上記の繊維形成性合成樹脂を、所望断面形状繊維製造用の紡糸口金から溶融吐出し、500〜2000m/分で引き取り、未延伸フィラメント糸条を製造する。この際、単一のポリマー又はポリマーブレンドが用いられる場合は、これらの樹脂を溶融しこの樹脂溶融物を図2(a)及び(b)で示す紡糸孔を有する紡糸口金から押し出すことにより図2(A)及び(B)の横断面形状を有する繊維を得ることができる。図2−(A)に示されている横断面形状を有する繊維は、図1に示された繊維横断面形状を有する繊維と同様に、3個の凹部を有するものであり、図2−(B)に示されている繊維横断面形状においては、1個の凹部が形成されている。これら図2−(A)及び(B)の繊維は、いずれも単一種の繊維形成性合成樹脂又は2種以上の繊維形成性合成樹脂のブレンドから形成されたものである。また、芯鞘型複合繊維の場合は、2種類の樹脂を溶融し、この2種の樹脂溶融物をノズル孔前の円筒状ノズル内で芯鞘構造となるように合流させた後、図3の(a)〜(c)のノズル孔を有する紡糸口金から押し出すことにより、それぞれ、図3の(A)〜(C)に示された横断面形状を有する複合繊維を得ることができる。さらにこの溶融紡糸工程において、紡糸口金下で、フィラメント状溶融樹脂流に冷却風を吹き当てて、前記フィラメント状流を冷却固化する際に、冷却風のその風量及び冷却位置を適宜に調整することによって、得られる繊維の横断面形状におけるD/L比値を、0.1〜0.5の範囲内に調整することができる。得られた未延伸糸を、常温空気中、又は60〜95℃の温水中で1段あるいは多段延伸により、トータルで1.2〜5.0倍に延伸し、これに油剤を付与し、必要に応じて押し込みクリンパーなどを用いて捲縮を付与した後、所望の繊維長にカットすることにより本発明の短繊維を得ることができる。
図3−(A)に示されている横断面形状を有する繊維は、芯部11を形成する繊維形成性合成樹脂と、鞘部12を形成する他の繊維形成性合成樹脂とから芯−鞘型複合繊維に構成されているものであって、3個の凹部が形成されている。図3−(B)に示されている横断面形状を有する繊維も、互に異種の、芯部11形成用合成樹脂と鞘部12形成用合成樹脂とから芯−鞘型複合繊維に構成されているものであり、1個の凹部が形成されている。図3−(C)に示されている横断面形状を有する繊維は、芯部11を形成する合成樹脂と、鞘部12を形成する合成樹脂とから芯鞘型複合繊維に構成されたものであって、8個の凹部を有している。
上記工程において、用いられる上記油剤の組成には、格別の制限はないが、好ましくは、開繊性を良好にするため、炭素原子数10〜20のアルキルリン酸アルカリ金属塩30〜90質量%と、ポリジメチルシロキサン及び/又はポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングラフト重合ポリシロキサン10〜70質量%とを含む油剤を用いるのが好ましい。油剤付着率は0.01〜5質量%であることが好ましい。油剤付着率が0.01質量%未満であると、得られる短繊維からエアレイドウェブを形成する際に静電気が発生し易くなり、またそれが5質量%を超えると、繊維が互に付着して集束し易くなり、空気開繊性が悪化する。本発明の特定の異型断面形状を有する短繊維を用いると、繊維間接触面積が減少するので、短繊維の空気開繊性が、油剤による短繊維の摩擦特性変化による影響を受けにくくなるので、油剤に、親水性、撥水性、抗菌性、消臭性、芳香性、等の機能を付与する手段の多様性を拡大することが可能になる。
図2−(c)及び図3−(d)に記載の紡糸孔は、図2−(C)及び図3−(D)に記載の横断面形状を有する、従来の短繊維(比較例)の製造に用いられる。図2−(C)に示されている横断面形状は、円形であり、図3−(D)に示されている芯−鞘型横断面形状において、円形断面形状を有する芯部11が円形断面形状を有する鞘部12内に、配置されている。
上記本発明の短繊維からエアレイド不織布を成形するには、従来方法を用いることができる。本発明の短繊維を用いることにより品位の高いエアレイド不織布を得ることができる。具体的には、ウェブ1g当りに含まれる、未開繊繊維束及び、直径5mm以上の毛玉の合計数「欠点数」と定義した場合、この欠点数が10個以下であることが好ましい。前記未開繊繊維束とは、互に平行に集束したまま、開繊していない繊維束のうち、1mm以上の最大断面径を有するものを云う。本発明の短繊維によれば、エアレイド不織布の製造において発生する欠点数の極めて少なく、ウェブを安定して形成することができる。
本発明の合成短繊維は、各種機能剤、例えば、消臭性機能剤、抗菌性機能剤、難燃性機能剤、害虫忌避性機能剤の少なくとも1種を含んでいてもよい。本発明の短繊維においては、機能剤は、繊維形成用樹脂中に、混合されていてもよいが、短繊維表面に付着固定されていることが好ましい。
従来のエアレイド不織布用短繊維では、繊維表面上の機能剤付着量が高くなると、特に0.05質量%以上では、空気開繊性が悪くなり、不織布の品位が悪くなる。これに対して、本発明の短繊維では、機能剤付着率が、上記のように高い状態においても空気開繊性が良好である。この原因は、短繊維同士の凝集を促す機能剤またはその溶液やエマルジョンが、短繊維周面に形成された凹部にトラップされることにより、結果的に繊維表面に付着された機能剤の分布密度が低減されるためと推測される。機能性の観点から云えば、この凹部に機能剤が多くホールドされることにより、機能剤がその効果を出すために十分な量を付着できるということであるし、機能剤が液状で付与されていても、表面張力の関係で、エアレイド不織布成型中で高速の空気流の中にあっても、機能剤が脱落しにくいといった耐久性向上効果も発現する。ただし、機能剤付着率があまり高くなりすぎると、本発明の短繊維においても空気開繊性は低下する傾向にあり、付着率は0.01〜10質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜3質量%の範囲である。
機能剤を付着固定させる方法は、機能剤をより均一にかつ凹部に効率よくトラップさせるために、液状の機能剤、或はペースト状又は固状の機能剤を水溶液や有機溶剤(アルコール類やアセトン等)に溶解させた溶液、あるいはエマルジョンとして付与することが好ましい。機能剤をペースト状或は固体状のまま付与することは、凹部以外の繊維表面にも相当量の機能剤が付着することとなり、開繊性を阻害する原因となりうる。液状の機能剤は、オイリングローラー性やスプレー法など従来のオイリング方法によりトウの状態にある繊維に付与し、機能剤付与されたトウを短繊維にカットすることが好ましい。
機能剤の種類には特に限定はないが、油剤にブレンドに付与することが難しい表面加工機能剤としては、消臭剤、抗菌剤、難燃剤、害虫忌避剤等が挙げられる。
消臭剤としては、無機系のものよりも水または有機溶媒に溶け、均一に分散する有機系のものが好ましく、一例としては、椿等のツバキ科植物の葉部から抽出・分離して得られる液状抽出物が挙げられ、具体的には、白井松新薬(株)の緑茶乾留エキス S−100等を挙げることができる。これら消臭剤が有効に機能するには、付与量が0.01質量%以上、好ましくは、0.02質量%以上あることが必要である。
抗菌剤の一例としては、良く知られている4級アンモニウム系の剤が挙げられ、具体的には、日華化学(株)のニッカノンRB(N−ポリオキシエチレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウム塩)等を挙げることができる。また、(株)バイオマテリアルのST−7,ST−8,ST−9,ST−835,ST−836,ST−845等のアミノ配糖体(アミノ糖の単糖、複糖または多糖の配糖体)も好適な一例である。これら抗菌剤が有効に機能するには、付与量が0.01質量%以上、好ましくは、0.02質量%以上あることが必要である。
難燃剤の一例としては、ハロゲン化シクロアルカン化合物等が挙げられる。ここで、ハロゲン化シクロアルカン化合物とは、環状飽和炭化水素、或は少なくとも1個の環状飽和炭化水素を有する飽和炭化水素化合物の水素原子の少なくとも1部分がハロゲンにより置換された化合物である。かかる化合物の具体例としては、たとえば1,2,3,4,5,6ヘキサブロモシクロヘキサン、1,2,3,4、または1,2,4,6テトラブロモシクロオクタン、または1,2,5,6,9,10ヘキサブロモシクロドデカン、1,2ビス(3,4ジブロモシクロシクロヘキシル)1,2ジブロモエタンや、これらの臭素が塩素で置き換わったものなどをあげることができる。しかし、これらに限定されるものではない。良好な難燃性を呈するために、該ハロゲン化シクロアルカン化合物は0.5質量%以上付与することが好ましい。
害虫忌避剤の一例としては、3−フェノキシベンジル−dl−シス/トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパン−1−カルボキシラート(一般名:ペルメトリン)、2−ジメチル−3−(2−メチルプロペニル)シクロプロパンカルボン酸(3−フェノキシフェニル)メチルエステル(一般名:フェノトリン)、等のピレスロイド系化合物等が挙げられる。これら害虫忌避剤が有効に機能するには、付与量が0.01質量%以上、好ましくは、0.1質量%以上あることが必要である。
【実施例】
本発明を下記実施例により、更に具体的に説明する。但し本発明の範囲は実施例によって限定を受けるものではない。
なお、下記実施例及び比較例において、下記項目の測定を行った。
(1)極限粘度(〔η〕)
供試ポリエステル樹脂の極限粘度をオルトクロロフェノールを溶媒として、温度35℃で測定した。
(2)メルトフローレイト(MFR)
供試合成樹脂のメルトフローレイト(MFR)を、JIS K 7210記載の方法に従って測定した。
(3)融点(Tm)
供試合成樹脂の融点(Tm)を、JIS K 7121記載の示査走査熱量測定法(DSC)に従って作成されたDSC曲線における吸熱ピーク温度により表した。
(4)軟化点(Ts)
供試合成樹脂により長さ126mm、幅12mm、厚さ3mmの試験片を作製し、この試験片をJIS K 7206に準拠するビカット軟化試験に供し、針状圧子が1mm侵入した時の伝熱媒体の温度を測定し、この温度により供試合成樹脂の軟化点(Ts)を表した。
(5)繊度
供試短繊維の繊度をJIS L 1015、7.5.1 A法に記載の方法により測定した。
(6)繊維長
供試短繊維の繊維長をJIS L 1015、7.4.1 C法に記載の方法により測定した。
(7)捲縮数、捲縮率
所定の繊維長に切断する前の、捲縮フィラメントトウより単繊維を採取し、その捲縮数及び捲縮率を、JIS L 1015 7.12に記載の方法により測定した。
(8)油剤付着率
所定質量(F)の繊維に、30℃のメタノールによる、浴比1:20の抽出処理を10分間施し、抽出液中の乾燥残査の質量を測定し、この測定質量値(E)を、前記繊維質量値(F)で除して算出された値(パーセント)をもって、油剤付着率を表した。
(9)短繊維の水分含有率
供試短繊維の水分含有率をJIS L 1015 7.2に記載の方法により測定した。
(10)凹部のD/L比
繊維横断面の顕微鏡写真(セクション写真)を撮影し、繊維横断面の輪郭をトレーシングペーパー上に写し取って、下記D,Lを定規で測定した後、下式に従って、D/L比を算出した。
D/L比=D/L
L:凹部の開口部の最大幅(開口部を形成する1対の凸部に接する接線を引いたとき、接線と、2個の凸部との接点の間隔長さをもって表す)
D:凹部の最大深さ(前記接線からそれに直角をなす方向に測定された凹部の最大深さ
(11)エアレイドウェブの欠点数
Dan−Webforming社のフォーミングドラムユニット(600mm幅、フォーミングドラムの孔形状2.4mm×20mmの長方形、開孔率40%)を用いてドラム回転数200rpm、ニードルロール回転数900rpm、ウェブ搬送速度30m/分の条件で、短繊維のみからなる目付30g/mのエアレイドウェブを制作した。ウェブの、ランダムに設定された10箇所から、各1gを採取し、これに含まれる、未開繊繊維束(最大断面径が1mm以上)と、直径5mm以上の毛玉との個数を計数し、エアレイドウェブ1g当りの前記未開繊繊維束及び毛玉の平均個数を算出し、その合計を算出し、この数値をもって、欠点数を表した。欠点数が10個以下のものを合格とした。
実施例1
MFRが20g/10分、Tmが131℃の高密度ポリエチレン(HDPE)と、120℃で16時間真空乾燥され、固有粘度〔η〕が0.61、Tmが256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)とを、各々別のエクストルーダーで溶融して、各々、温度250℃及び280℃の溶融樹脂とし、前者を鞘成分A、後者を芯成分Bとして用い、複合比率A:B=50:50(質量比)として、図3−(a)に示す形状の吐出孔を450孔有する芯鞘型複合紡糸口金を用い、鞘成分(A)用溶融樹脂流と芯成分(B)用溶融樹脂流とを、芯−鞘状に合流させ、それによって形成された芯−鞘状複合溶融樹脂流を、前記紡糸口金から溶融吐出させた。この際、口金温度は280℃、吐出量は150g/分に設定された。さらに、吐出された複合フィラメント状溶融樹脂流に、口金下30mmの位置で30℃の冷却風を吹き当てて空冷し、1150m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を75℃の温水中で3倍に延伸し、この延伸糸に、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変成シリコーン=80/20からなる油剤を0.22質量%付与し、この油剤付着延伸糸に、押込み型クリンパーで捲縮数17山/25mm、捲縮率8%の平面ジグザグ型捲縮を付与し、105℃で60分間乾燥し、この乾燥延伸糸をロータリーカッターで5mmの繊維長にカットした。このとき得られた短繊維の繊度は1.1dtexであり、図3−(A)に示す横断面形状を有する短繊維が得られた。試験結果を表1に示す。
実施例2及び3、比較例1
実施例2及び3、並びに比較例1の各々において、実施例1と同様にして芯−鞘型複合短繊維を製造した。但し、口金の吐出孔を、図3−(b),−(c)及び−(d)に示されている形状のものに変更した。試験結果を表1に示す。
比較例2
比較例2において実施例1と同様にして、芯−鞘型複合短繊維を製造した。但し、吐出された複合フィラメント状溶融樹脂流の冷却位置を口金下70mmに変更した。試験結果を表1に示す。
実施例4
実施例1と同様にして、芯−鞘型複合短繊維を製造した。但し、押込みクリンパーを使用せず、捲縮を付与しなかった。試験結果を表1に示す。
比較例3
比較例1と同様にして、芯−鞘型複合短繊維を製造した。但し、押込みクリンパーを使用せず、捲縮を付与しなかった。結果を表1に示す。
実施例5及び6
実施例5及び6の各々において、実施例1と同様にして、芯−鞘型複合短繊維を製造した。但し、押し込みクリンパーへの延伸糸の供給量および押し込み圧力を調整して、捲縮数を5山/25mm(実施例5)および40山/25mm(実施例6)に変更した。試験結果を表1に示す。
実施例7及び比較例4
実施例7においては、実施例1と同様にして、また比較例4においては、比較例1と同様にして、芯−鞘型複合短繊維を製作した。但し、油剤付着延伸フィラメント系を105℃で乾燥した後、水分を付与し、ギロチンカッターを用いて、0.1mmにカットした。得られた短繊維の水分率はいずれも10質量%であった。試験結果を表1に示す。
実施例8
実施例1と同様にして芯−鞘型複合短繊維を製作した。但し、口金の吐出孔を、図3−(c)に記載の放射状スリットの、スリット数を30本に変更したものを用いた。試験結果を表1に示す。
実施例9
実施例1と同様にして芯−鞘型複合短繊維を製造した。但し、短繊維の繊維長を45mmに変更した。試験結果を表1に示す。
【表1】

実施例10
120℃で16時間真空乾燥され、固有粘度〔η〕が0.61であり、Tmが256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を280℃において溶融し、この溶融樹脂を、図2−(a)に示す形状の吐出孔を450孔有する紡糸口金を通して吐出させた。この際、口金温度は280℃、吐出量は150g/分にコントロールされた。さらに、吐出されたフィラメント状溶融樹脂流に口金下35mmの位置で30℃の冷却風を吹き当てて空冷し、固化したフィラメント束を1000m/分で巻き取り、未延伸糸を作製した。この未延伸糸を、70℃の温水中で、3.2倍に延伸し、引き続いて90℃の温水中で、1.15倍に延伸し、得られた延伸糸に、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変成シリコーン=80/20からなる油剤を0.18質量%付与した後、これに押込み型クリンパーで捲縮数16山/25mm、捲縮率12%の平面ジグザグ型捲縮を付与し、130℃で60分間乾燥した。この乾燥延伸糸を、ロータリーカッターで5mmの繊維長にカットした。このとき得られた短繊維の繊度は1.0dtexであり、図2−(A)に示す繊維横断面形状を有する短繊維が得られた。試験結果を表2に示す。
実施例11及び比較例5
実施例11及び比較例5の各々において、実施例10と同様にして短繊維を作製した。但し、口金の吐出孔を、図2−(b)(実施例11)、(c)(比較例5)に対応する形状のものに変更した。試験結果を表2に示す。
比較例6
実施例10と同様にして短繊維を作製した。但し、吐出されたフィラメント状溶融樹脂流の冷却位置を口金下70mmに変更した。試験結果を表2に示す。
比較例7
実施例10と同様にして短繊維を製造した。但し、吐出されたフィラメント状溶融樹脂流の冷却位置を口金下20mmに変更した。試験結果を表2に示す。
実施例12及び比較例8
実施例12は、実施例10と同様にして、また比較例8は、比較例5と同様にして短繊維を製造した。但し、吐出量を100g/分、巻取速度1200m/分、70℃温水中の延伸倍率を2.85倍、捲縮数18山/25mmに変更した。試験結果を表2に示す。
実施例13及び比較例9
実施例13は、実施例10と同様にして、また、比較例9は比較例5と同様にして、それぞれ短繊維を製造した。但し、吐出量を680g/分、巻取速度900m/分、70℃温水中の延伸倍率を3.4倍、捲縮数9山/25mmに変更した。試験結果を表2に示す。
【表2】

実施例14
35℃で48時間真空乾燥され、固有粘度〔η〕が0.54であり、Tsが65℃の低軟化点共重合ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート(coPET;イソフタル酸40モル%、ジエチレングリコール4モル%共重合)と、120℃で16時間真空乾燥され、固有粘度〔η〕が0.61であり、Tmが256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)をそれぞれ別々のエクストルーダーで溶融して、それぞれ温度250℃及び280℃の溶融樹脂とし、前者を鞘成分A、後者を芯成分Bとして用い、複合比率A:B=50:50(質量比)で、図3−(a)に示す形状の吐出孔を450孔有する芯鞘型複合紡糸口金を通して、芯−鞘型複合フィラメント状に吐出させた。この際、口金温度は280℃、吐出量は300g/分であった。さらに、吐出されたフィラメント状溶融樹脂流に、口金下30mmの位置で30℃の冷却風を吹き当てて空冷し、1200m/分で巻き取り、未延伸糸を製造した。この未延伸糸を70℃の温水中で2.85倍に延伸し、引き続いて90℃の温水中で1.15倍に延伸した後、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変成シリコーン=80/20からなる油剤を0.25質量%付与した後、押込み型クリンパーで、捲縮数11山/25mm、捲縮率9%の平面ジグザグ型捲縮を付与した。この捲縮フィラメント糸を、55℃で60分間乾燥した後、ロータリーカッターで5mmの繊維長にカットした。このとき得られた短繊維の繊度は1.7dtexであり、図3−(A)に示す繊維横断面形状を有する短繊維が得られた。試験結果を表3に示す。
比較例10
実施例14と同様にして短繊維を製造した。但し、口金の吐出孔を、図3−(d)に対応する形状のものに変更した。試験結果を表3に示す。
実施例15
35℃で48時間真空乾燥され、固有粘度〔η〕が0.8であり、Tmが152℃であり、ハードセグメントがイソフタル酸15モル%共重合ポリブチレンテレフタレートであり、ソフトセグメントが平均分子量1500のポリテトラメチレングリコールであるポリエステル系エラストマー(EL)と、120℃で16時間真空乾燥され、固有粘度〔η〕が0.61であり、Tmが256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)とをそれぞれ別々のエクストルーダーで溶融して、それぞれ温度240℃及び280℃の溶融樹脂とし、前者を鞘成分A、後者を芯成分Bとして用い、複合比率A:B=50:50(質量比)で、図3−(a)に示す形状の吐出孔を450孔有する芯−鞘型複合紡糸口金を通して、芯−鞘型複合フィラメント状に吐出させた。この際、口金温度は280℃、吐出量は310g/分であった。さらに、吐出されたフィラメント状溶融樹脂流を、口金下30mmの位置で30℃の冷却風を吹き当てて空冷し、1100m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を70℃の温水中で2.6倍に延伸し、引き続いて90℃の温水中で1.15倍に延伸した後、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変成シリコーン=80/20からなる油剤を0.25質量%付与した後、押込み型クリンパーで捲縮数8山/25mm、捲縮率6%の平面ジグザグ型捲縮を付与した。この捲縮フィラメント糸を、70℃で60分間乾燥した後、ロータリーカッターで5mmの繊維長にカットした。このとき得られた短繊維の繊度は2.5dtexであり、図3−(A)に示す繊維横断面の短繊維が得られた。試験結果を表3に示す。
比較例11
実施例15と同様にして短繊維を製造した。但し、口金の吐出孔を、図3−(d)に示された形状のものに変更した。試験結果を表3に示す。
実施例16
MFRが50g/10分であり、Tmが158℃のポリプロピレン(PP)と、120℃で16時間真空乾燥され、固有粘度〔η〕が0.61であり、Tmが256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)とを、それぞれ別々のエクストルーダーで溶融して、それぞれ温度260℃と280℃の溶融樹脂とし、前者を鞘成分A、後者を本成分Bとして用い、複合比率A:B=50:50(質量比)で、図3−(a)に示す形状の吐出孔を450孔有する芯−鞘型複合紡糸口金を通して、フィラメント状芯−鞘型溶融樹脂流を吐出させた。この際、口金温度は280℃、吐出量は190g/分であった。さらに、吐出されたフィラメント状溶融物流に口金下30mmの位置で30℃の冷却風を吹き当てて空冷し、1150m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を75℃の温水中で2.9倍に延伸した後、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変成シリコーン=80/20からなる油剤を0.25質量%付与した後、押込み型クリンパーで捲縮数13山/25mm、捲縮率11%の平面ジグザグ型捲縮を付与した。この捲縮フィラメント糸を、105℃で60分間乾燥した後、ロータリーカッターで5mmの繊維長にカットした。このとき得られた短繊維の繊度は1.5dtexであり、図3−(A)に示す繊維横断面形状を有する短繊維が得られた。試験結果を表3に示す。
比較例12
実施例16と同様にして短繊維を製造した。但し、口金の吐出孔を、図3−(d)に示された形状のものに変更した。試験結果を表3に示す。
実施例17
MFRが20g/10分であり、Tmが113℃の高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)と、120℃で16時間真空乾燥され、固有粘度〔η〕が0.61であり、Tmが256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)とを、そぞれ別々のエクストルーダーで溶融し、それぞれ温度250℃及び280℃の溶融樹脂とし、前者を鞘成分A、後者を芯成分Bとして用い、複合比率A:B=50:50(質量比)で、図3(a)に示す形状の吐出孔を450孔有する芯−鞘型複合紡糸口金を通して、芯−鞘型複合フィラメント状に吐出させた。この際、口金温度は280℃、吐出量は200g/分であった。さらに、吐出されたフィラメント状溶融樹脂流に、口金下30mmの位置で30℃の冷却風を吹き当てて、空冷し、1100m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を75℃の温水中で2.8倍に延伸した後、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変成シリコーン=80/20からなる油剤を0.25質量%付与した後、押込み型クリンパーで捲縮数14山/25mm、捲縮率11%の平面ジグザグ型捲縮を付与した。この捲縮フィラメント糸を95℃で60分間乾燥した後、ロータリーカッターで5mmの繊維長にカットした。このとき得られた短繊維の繊度は1.7dtexであり、図3−(A)に示す繊維横断面形状を有する短繊維が得られた。試験結果を表3に示す。
比較例13
実施例17と同様にして短繊維を製造した。但し、口金の吐出孔を、図3−(d)に示す形状を有するものに変更した。試験結果を表3に示す。
実施例18
MFRが30g/10分であり、Tmが122℃の線状低密度ポリエチレン(LLDPE)と、120℃で16時間真空乾燥され、固有粘度〔η〕が0.61であり、Tmが256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)とを、それぞれ別々のエクストルーダーで溶融し、それぞれ温度250℃及び280℃の溶融樹脂とし、前者を鞘成分A、後者を芯成分Bとして用い、複合比率A:B=50:50(質量比)で、図3−(a)に示す形状の吐出孔を450孔有する芯−鞘型複合紡糸口金を通して、芯−鞘型複合フィラメント状溶融樹脂流を吐出させた。この際、口金温度は280℃、吐出量は200g/分であった。さらに、吐出されたフィラメント状溶融樹脂流に、口金下30mmの位置で30℃の冷却風を吹き当てて空冷し、1100m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を75℃の温水中で2.8倍に延伸した後、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変成シリコーン=80/20からなる油剤を0.25質量%付与した後、押込み型クリンパーで捲縮数13山/25mm、捲縮率11%の平面ジグザグ型捲縮を付与した。この捲縮フィラメント糸を95℃で60分間乾燥した後、ロータリーカッターで5mmの繊維長にカットした。このとき得られた短繊維の繊度は1.7dtexであり、図3−(A)に示す繊維横断面形状を有する短繊維が得られた。試験結果を表3に示す。
比較例14
実施例18と同様にして短繊維を製造した。但し、口金の吐出孔を、図3−(d)に示されている形状のものに変更した。試験結果を表3に示す。
【表3】

実施例19
MFRが20g/10分、Tmが131℃の高密度ポリエチレン(HDPE)と、120℃で16時間真空乾燥した固有粘度〔η〕が0.61、Tmが256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を各々別のエクストルーダーで溶融して、各々温度250℃と280℃の溶融樹脂とし、前者を鞘成分A、後者を芯成分Bとして用い、複合比率A:B=50:50(質量比)として、図3(a)に示す形状の吐出孔を450孔有する芯鞘型複合紡糸口金を用いて、複合化して溶融吐出させた。この際、口金温度は280℃、吐出量は150g/分であった。さらに、吐出ポリマーを口金下30mmの位置で30℃の冷却風で空冷し1150m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を75℃の温水中で3倍に延伸した後、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変成シリコーン=80/20からなる油剤を0.19質量%付与した後、押込み型クリンパーで捲縮数12山/25mm、捲縮率7%の平面ジグザグ型捲縮を付与し、105℃で60分間乾燥した後、オイリングローラーを用いて、白井松新薬(株)製の消臭剤S−100(商標、緑茶乾留エキス)の10質量%水溶液を水分率が1質量%(繊維への剤の理論付着量が0.1質量%)となるように捲縮系に付与し、ロータリーカッターで5mmの繊維長にカットした。このとき得られた短繊維の繊度は1.1dtexであり、図3−(A)に示す繊維横断面の短繊維が得られた。結果を表4に示す。
実施例20〜21、比較例15
実施例20〜21及び比較例15において、実施例19と同様にして芯鞘型複合短繊維を製造した。但し、口金の吐出孔を、各々図3−(b)、−(c)及び−(d)に対応する形状のものに変更した。結果を表4に示す。
実施例22
実施例19と同様にして芯鞘型複合短繊維を製造した。但し、口金の吐出孔を図3−(c)の放射状のスリット部分を30本有する口金に変更した。結果を表4に示す。
実施例23、比較例16
実施例23及び比較例16において、それぞれ実施例19及び比較例15とそれぞれ同様にして、芯鞘型複合短繊維を製造した。但し、付与する機能剤として、消臭剤S−100の代りに、日華化学(株)製の抗菌剤ニッカノンRB(商標、N−ポリオキシエチレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウム塩)の5質量%水溶液を、水分率が5質量%(繊維への剤の理論付着量が0.25質量%)となるように捲縮系に付与した。結果を表4に示す。
実施例24、比較例17
実施例24及び比較例17において、それぞれ、実施例19及び比較例15とそれぞれ同様にして芯鞘型複合短繊維を製造した。但し、付与する機能剤として、消臭剤S−100の代りに、第一工業製薬(株)製の難燃剤YM88(商標、ヘキサブロムシクロドデカン)の10質量%水系エマルジョンを水分率が10質量%(繊維への剤の理論付着量が1.0質量%)となるように捲縮系に付与した。結果を表4に示す。
実施例25、比較例18
実施例25及び比較例18において、それぞれ実施例19及び比較例15と同様にして、芯鞘型複合短繊維を製造した。但し、付与する機能剤として、消臭剤S−100の代りに、d−フェノトリン10%水性液を水分率が5質量%(繊維への剤の理論付着量が0.5質量%)となるように捲縮系に付与した。結果を表4に示す。
実施例26
120℃で16時間真空乾燥され、固有粘度〔η〕が0.61、かつTmが256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を280℃において溶融し、この溶融樹脂を、図2−(a)に示す形状の吐出孔を450孔有する紡糸口金を用いて吐出させた。この際、口金温度は280℃、吐出量は150g/分であった。さらに、吐出ポリマーを口金下35mmの位置で30℃の冷却風で空冷し1000m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を70℃の温水中で3.2倍に延伸し、引き続いて90℃の温水中で1.15倍に延伸した後、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変成シリコーン=80/20からなる油剤を0.18質量%付与した後、押込み型クリンパーで捲縮数16山/25mm、捲縮率12%の平面ジグザグ型捲縮を付与し、130℃で60分間乾燥した後、オイリングローラーを用いて、白井松新薬(株)製の消臭剤S−100(緑茶乾留エキス)の10質量%水溶液を水分率が1質量%(繊維への剤の理論付着量が0.1質量%)となるように捲縮系に付与し、ロータリーカッターで5mmの繊維長にカットした。このとき得られた短繊維の繊度は1.0dtexであり、図2−(A)に示す繊維横断面の短繊維が得られた。結果を表4に示す。
実施例27及び比較例19
実施例27及び比較例19のそれぞれにおいて、実施例26と同様にして短繊維を製造した。但し、口金の吐出孔を、それぞれ図2−(b)、(c)に対応する形状のものに変更した。結果を表4に示す。
【表4】

【産業上の利用可能性】
本発明の合成短繊維は、前述した繊維長と特定のD/L比値を有する異型断面形状を有している。このため、水分含有率が高く、従来開繊性不良で高品位のエアレイドウェブを得ることが困難と思われていた状態においても、また、短繊維が、細繊度、高捲縮、低捲縮(無捲縮を含む)、高水分率を有していても、あるいは高摩擦樹脂からなる短繊維であっても、欠点の少ない均一なエアレイド不織布を製造することができる。このため、本発明の合成短繊維は、エアレイド不織布の構成を多様化し、かつ機能化する点における貢献が極めて大きいものである。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜45mmの繊維長を有する合成短繊維であって、この合成短繊維が1〜30個の凹部を有する横断面形状を有し、前記横断面形状におけるD/L比〔但し、Dは、前記凹部の開口部を規定する1対の凸部に、その両方に接する接線を引いたとき、この接線と、前記凹部の底部との間の、前記接線に直角をなす方向に測定された距離の最大値を表し、Lは、前記接線と前記1対の凸部との2個の接点の間隔距離を表す〕
が0.1〜0.5の範囲内にあることを特徴とするエアレイド不織布用合成短繊維。
【請求項2】
前記短繊維の水分含有率が、0.6質量%以上であるが、10質量%を超えない、請求の範囲第1項に記載のエアレイド不織布用合成短繊維。
【請求項3】
前記短繊維が5dtex以下の繊度を有する、請求の範囲第1項に記載のエアレイド不織布用合成短繊維。
【請求項4】
前記短繊維が0〜5山/25mm又は、15〜40山/25mmの捲縮数を有する、請求の範囲第1項に記載のエアレイド不織布用合成短繊維。
【請求項5】
前記短繊維の表面の少なくとも1部分が、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、高圧法低密度ポリエチレン樹脂、線状低密度ポリエチレン樹脂及びエラストマー樹脂から選ばれた少なくとも1種により形成されている、請求の範囲第1項に記載のエアレイド不織布用合成短繊維。
【請求項6】
短繊維表面に、前記短繊維質量に対して、0.01〜10質量%の付着量で付着している少なくとも1種の機能剤をさらに含む、請求の範囲第1項に記載のエアレイド不織布用合成短繊維。
【請求項7】
前記機能剤が、消臭性機能剤、抗菌性機能剤、難燃性機能剤及び害虫忌避性機能剤から選ばれる、請求の範囲第6項に記載のエアレイド不織布用合成短繊維。

【国際公開番号】WO2005/080658
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510346(P2006−510346)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003541
【国際出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】