説明

エステル混合物

【課題】エステル混合物を提供する。
【解決手段】本発明は、芳香族カルボン酸のトリメチロールアルカンエステルと脂肪族カルボン酸のトリメチロールアルカンエステルと芳香族カルボン酸および脂肪族カルボン酸の両方のトリメチロールアルカンエステルとを含むエステル混合物と、その調製方法と、ポリマーのための可塑剤としてのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族カルボン酸のトリメチロールアルカンエステルと脂肪族カルボン酸のトリメチロールアルカンエステルと芳香族カルボン酸および脂肪族カルボン酸の両方のトリメチロールアルカンエステルとを含むエステル混合物と、その調製方法と、ポリマーのための可塑剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
可塑剤は、加工や使用に供するのに望ましい特性(たとえば可撓性や伸張性)を付与すべく脆性ポリマーや硬質ポリマー(たとえばポリビニルクロリド(PVC))に添加される物質である。
【0003】
そうした用途に供される可塑剤の重要な物質特性については、たとえば、(非特許文献1)および(非特許文献2)に記載されている。一般的には、液状可塑剤が使用される。それは、好ましくは、100,000mPa・s未満の粘度、170℃未満のポリビニルクロリド中溶解温度、および1mgKOH/g未満の酸価を有する。
【0004】
可塑剤として物質を使用する場合、それにより可塑化されたポリマー内にそれが実質的に永久に残存することもまた重要である。多くの可塑剤は、可塑化されたポリマーに接触する物質(たとえば他のポリマー)中に移行する傾向がある。滑剤または発泡剤さらには石鹸溶液により、可塑剤が浸出されることもある。可塑化されるポリマーとの相溶性が不十分である可塑剤は、加工後に表面上に沈積して望ましくないべたついたフィルムを生成する可能性がある。最後に、可塑剤は、その揮発性に起因して、可塑化ポリマー配合物から蒸発する可能性がある。これは、第1に、ポリマー配合物の望ましくない脆化を招き、第2に、低温表面上への可塑剤の同様に望ましくない沈着を招く。これらの現象はすべて、可塑化プラスチックから製造された物品が長期間にわたり高温に暴露されたときに特定の度合で生じる。これらのいわゆる高温用途の一例は、自動車のエンジンコンパートメントで使用されるケーブルシースとしての用途である。
【0005】
したがって、低い揮発性、良好な相溶性、および低い移行傾向を有する可塑剤を使用することが好ましい。
【0006】
リン酸エステルおよびスルホン酸エステルに加えて、特に、カルボン酸のアルキルエステルは、可塑剤として使用するのに有利な物質特性を有する。技術的に適切な可塑剤およびその使用については公知であり、たとえば、(非特許文献1)および(非特許文献3)に記載されている。物質の揮発性は、一般的には、分子量の増加に伴って減少する。したがって、使用されるエステルは、通常、単純エステルではなく、むしろ、分子量がより大きいことが理由で、好ましくは、多塩基性カルボン酸と一価アルコールとのエステル、一塩基性カルボン酸と多価アルコールとのエステル、または多塩基性カルボン酸と多価アルコールとのエステルである。後者のグループのエステルは、オリゴマーエステルまたはポリマーエステルを包含し、粘度が高いことが理由で、前者の2つのグループの低分子量エステルよりも加工が困難である。
【0007】
二塩基性および三塩基性のカルボン酸と一価アルコールとのエステルは、可塑剤として最も頻繁に使用される。その例は、フタル酸エステル(たとえばジ(2−エチルヘキシル)フタレート(DEHP))またはトリメリト酸エステル(たとえばトリオクチルトリメリテート(TOTM))である。揮発性が比較的高いことが理由で、高温用途に供する場合、ジ(2−エチルヘキシル)フタレートのようなジエステルは、一般的には不適当である。三塩基性トリメリト酸の対応するトリエステルであるトリオクチルトリメリテートは、高温用途に供される低揮発性可塑剤として定評がある。しかしながら、トリオクチルトリメリテートは、ジ(2−エチルヘキシル)フタレートよりも、加工が困難であり、入手が容易でなく、かつきわめて高価であるので、多くの用途に使用することはできない。
【0008】
いくつかのフタル酸エステル(たとえばジ(2−エチルヘキシル)フタレート(DEHP))は、最近、健康を害する疑いがもたれている。したがって、(非特許文献4)に準拠して、それらは、EUでは、妊性を損なう可能性および発生毒性を有する可能性があるものとして分類されなければならない。
【0009】
一塩基酸と二価アルコールとのエステルを同様に可塑剤として有利に使用することが可能である。たとえば、(特許文献1)には、種々のグリコールのジベンゾエートが可塑剤として記載されている。(特許文献2)に教示されているように、これらのジベンゾエートのうちのいくつか(たとえば、エチレングリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート)は、25℃において固体であるという欠点を有する。
【0010】
(特許文献3)、(特許文献4)、および(特許文献5)には、ジオールを脂肪族カルボン酸と芳香族カルボン酸との混合物と反応させることにより調製される混合エステルが記載されている。しかしながら、ジオールエステルは、揮発性が比較的高いので、多くの用途で許容されない。
【0011】
(特許文献6)には、ホットメルト接着剤調製物の可塑剤として、トリメチロールプロパントリベンゾエートという物質が提案されている。この物質は固体であるので、一般的には可塑剤として不適当である。
【0012】
(特許文献7)には、ポリメチロールアルカン(たとえばトリメチロールプロパン)と少なくとも1種の芳香族カルボン酸および少なくとも6個の炭素原子の脂肪族カルボン酸とのエステルが記載されている。これは、ビニルクロリドポリマーのための可塑剤として使用しうる。このエステルは、同一分子が芳香族カルボン酸および脂肪族カルボン酸の両方の基を含有する「混合エステル」として公知である。その一例は、トリメチロールプロパンジベンゾエートモノラウレートである。この「混合エステル」は、芳香族酸基だけまたは脂肪族酸基だけを含有するエステルの物理的混合物とは明確に区別される((特許文献7)の第5欄、第15〜17行を参照されたい)。(特許文献7)に特許請求されている「混合エステル」の合成は、二段階合成法を必要とする((特許文献7)の第5欄、第8〜15行を参照されたい)。この方法は、2つの異なる反応温度で行う必要があるので、時間と労力がかかるという欠点を有する。この調製方法が原因で、「混合エステル」を工業規模で調製することは困難である。
【0013】
(特許文献8)には、1〜50モル%の芳香族モノカルボン酸と99〜50モル%の脂肪族モノカルボン酸とよりなる混合物を、3〜6個の炭素原子および2〜4個のヒドロキシル基を有する一価アルコールでエステル化することにより、調製されるエステルが記載されている。この物質は、電気絶縁油として提案されている。可塑剤としての使用については言及されていない。
【0014】
(特許文献9)には、モノカルボン酸をトリエタノールメタン(3−(2−ヒドロキシエチル)ペンタン−1,5−ジオール)でエステル化することにより得られるエステルが記載されている。モノカルボン酸の代わりに、異なるモノカルボン酸の混合物(たとえば、芳香族カルボン酸と脂肪族カルボン酸との混合物)を使用することも可能である。特許請求されたエステルは、ポリビニルクロリド用の可塑剤として有用である。しかしながら、その調製に必要とされるトリエタノールメタン原材料が工業的に簡単な方法で調製できないうえに市販品として入手することもできないという重大な欠点を有する。
【0015】
(特許文献10)には、トリメチロールプロパンと安息香酸および2−エチルヘキサン酸とのエステルの混合物が記載されている。これは、可塑剤(好ましくはポリビニルクロリド用)として使用される。しかしながら、エチルヘキサン酸の使用は、(非特許文献5)の情報によれば毒性学的に論議の的になっているので回避すべきである。
【特許文献1】米国特許第2,956,978B1号明細書
【特許文献2】米国特許第6,184,278B1号明細書
【特許文献3】米国特許第2,585,448B1号明細書
【特許文献4】米国特許第3,370,032B1号明細書
【特許文献5】米国特許公開第2003/0023112A1号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第2 318 411A1号明細書
【特許文献7】米国特許第3,072,591号明細書
【特許文献8】米国特許第3,894,959号明細書
【特許文献9】米国特許第3,929,201号明細書
【特許文献10】国際公開第02/053635号パンフレット
【非特許文献1】デイヴィッド・F・カドガン(David F.Cadogan)、クリストファー・J・ホーウィック(Christopher J.Howick)著:「可塑剤(Plasticizers)」、ウルマン工業化学百科事典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry)、電子版、第6版、第1〜6章、ワイリー・VCH(Wiley−VCH)刊、ヴァインハイム(Weinheim)(2003年)
【非特許文献2】L・マイヤー(L.Meier)著:「可塑剤(Plasticizers)」、R・ゲヒター(R.Gaechter)、H・ミュラー(H.Mueller)編:プラスチック添加剤ハンドブック(Taschenbuch der Kunststoffadditive[Handbook of plastics additives])、第3版、p.357〜p.382,ハンザー・フェアラーク(Hanser Verlag)刊、ミュンヘン(Munich)(1990年)
【非特許文献3】L・マイヤー(L.Meier)著:「可塑剤(Plasticizers)」、R・ゲヒター(R.Gaechter)、H・ミュラー(H.Mueller)編:プラスチック添加剤ハンドブック(Taschenbuch der Kunststoffadditive)、第3版、p.341以降、ハンザー(Hanser)刊、ミュンヘン(Munich)(1990年)
【非特許文献4】危険物質に関する指令(Dangerous Substances Directive)67/548/EEC
【非特許文献5】W・J・スコット(W.J.Scott)、M・D・コリンズ(M.D.Collins)、H・ナウ(H.Nau)著;環境衛生特集(Environmental Health Supplements)、第102巻、第S11号、1994年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は、工業規模で簡単に調製可能であるとともに、有利な加工特性を有し、室温で液体でありかつ長期保存中に液体状態を保持し、低い揮発性および高い熱安定性を特徴とし、しかも毒性学的に論議の的になっている物質を最小限度で含む、ポリマーのための可塑剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、以下のものを含有するエステル混合物により達成される。
【0018】
(A)5〜22重量%の一般式(I)で示される化合物、
【0019】
【化1】

【0020】
〔式中、
Rは、HまたはC〜C−アルキル鎖であり、そして
は、1〜3個のC〜C−アルキル基により場合により置換されていてもよいC〜C14−アリール基である〕
【0021】
(B)26〜44重量%の一般式(II)で示される化合物、
【0022】
【化2】

【0023】
〔式中、
RおよびRは、それぞれ、先に定義したとおりであり、そして
は、直鎖状もしくは分枝状のC11〜C21−アルキル基である〕
【0024】
(C)28〜45重量%の一般式(III)で示される化合物、
【0025】
【化3】

【0026】
〔式中、
R、R、およびRは、それぞれ、先に定義したとおりである〕
【0027】
(D)6〜25重量%の一般式(IV)で示される化合物。
【0028】
【化4】

【0029】
〔式中、
RおよびRは、それぞれ、先に定義したとおりである〕
【0030】
R基は、好ましくは、一般式(V)で示されるトリメチロールアルカンから誘導される。
【0031】
【化5】

【0032】
〔式中、
Rは、HまたはC〜C−アルキル鎖である〕
【0033】
その例は、トリメチロールエタン(R=CH)またはトリメチロールプロパン(R=CHCH)である。本発明に係るエステル混合物は、複数の異なるトリメチロールアルカンのエステルを含みうる。R基は、特に、トリメチロールプロパンから誘導される。
【0034】
基は、好ましくは、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、4−tert−ブチル安息香酸、1−ナフトエ酸、または2−ナフトエ酸のような芳香族モノカルボン酸から、特に安息香酸から、誘導される。
【0035】
基は、好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、またはベヘン酸のような脂肪族モノカルボン酸から、特にラウリン酸から、誘導される。
【0036】
本発明に係るエステルは、好ましくは1mgKOH/g以下の酸価を有する。それは、好ましくは0.5mgKOH/g以下の酸価を有する(14頁参照)。
【0037】
本発明はまた、
a)1種以上のトリメチロールアルカンが、
b)108〜180mol%(100mol%のトリメチロールアルカンを基準にして)の1種以上の脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸または脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸誘導体および
c)120〜300mol%(100mol%のトリメチロールアルカンを基準にして)の1種以上の芳香族C〜C15−モノカルボン酸または芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体で、
d)150℃〜300℃の温度において、
エステル化される、
ことを特徴とする、本発明に係るエステル混合物に使用されるトリメチロールアルカンエステルの調製方法を包含する。
【0038】
本発明に係る方法の好ましい実施形態では、エステル化は、
e)触媒の助けを借りて、かつ/または
f)エステル化の揮発性副生物(たとえば水)を除去しながら、
実施可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に記載されているように、最初に存在するヒドロキシル基にアシル基が分配されるように、使用される反応物を反応させる。この結果として、反応生成物は、完全エステル化の後、常に、成分I〜IVの混合物である。そのため、それと同時に、エステル化法を成分I〜IVの混合物の調製法と見なしうる。
【0040】
カルボン酸またはカルボン酸誘導体は、同時にまたは逐次的にエステル化することが可能である。好ましくは、カルボン酸またはカルボン酸誘導体の混合物がエステル化に使用されるように、同時に行う。
【0041】
エステル化反応は、慣用的な触媒(たとえば、チタン(IV)イソプロポキシド、チタン(IV)ブトキシド、スズ(II)2−エチルヘキサノエート)および/または連行剤(たとえば、トルエンもしくはキシレン)の助けを借りて加速することが可能である。しかしながら、本発明に係るエステル混合物は、上述のトリメチロールアルカンと、使用されるカルボン酸の誘導体(たとえば、カルボン酸エステル、カルボン酸無水物、またはハロゲン化カルボニル)と、の反応により調製することも可能である。これらの方法およびさらなる方法については、当業者に公知であり、たとえば、W・リーメンシュナイダー(W.Riemenschneider):「有機エステル(Esters,Organic)」,ウルマン工業化学百科事典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry)、電子版、第6版、第5章,ワイリー・VCH(Wiley−VCH)刊、ヴァインハイム(Weinheim)(2003年)に記載されている。エステル化は、反応混合物中に存在するすべてのヒドロキシル基が完全転化されるまで行いうるかまたはそのほかに不完全転化の状態で終了させうる。存在するヒドロキシル基の90%超の転化を達成することが好ましい。エステルの実際の合成に加えて、その調製には、1つ以上の後処理工程、たとえば、水または水溶液による洗浄、漂白、蒸留、乾燥、濾過なども含まれうる。
【0042】
使用されるカルボン酸の合計は、100mol%のトリメチロールアルカンを基準にして、300mol%よりも少なくてもよいし、それに等しくてもよいし、それよりも多くてもよい。100mol%のトリメチロールアルカンを基準にして300〜350mol%のカルボン酸混合物を使用することが好ましい。
【0043】
反応の終了後、未転化カルボン酸の残分が反応混合物中に残存する可能性がある。これは、特に、100mol%のトリメチロールアルカンに対して300mol%に相当するよりも多くのカルボン酸を使用した場合または不完全転化の状態でエステル化を終了させた場合に予想される。本発明に係る調製方法では、未転化カルボン酸の残分は、場合により、以上に列挙した後処理工程のうちの1つ以上により反応混合物から除去される。
【0044】
使用される芳香族C〜C15−モノカルボン酸または芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体は、好ましくは、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、4−tert−ブチル安息香酸、1−ナフトエ酸、および/もしくは2−ナフトエ酸、またはこれらの酸の誘導体、あるいはそれらの混合物である。安息香酸を使用することが好ましい。
【0045】
使用される脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸または脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸誘導体は、好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、および/もしくはベヘン酸、またはこれらの酸の誘導体、あるいはそれらの混合物である。ラウリン酸および/もしくはパルミチン酸を使用することが好ましい。
【0046】
以下のものを使用することが、なかでも特に好ましい。
・トリメチロールアルカンとしてトリメチロールプロパン、
・芳香族C〜C15−モノカルボン酸として安息香酸、および
・脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸としてラウリン酸。
【0047】
本発明に係る調製方法では、最初に存在するヒドロキシル基にアシル基が分配されるように、使用される反応物を反応させる。この分配は、たとえば、ランダムでありうる。この分配の結果として、反応生成物は、完全エステル化の後、常に、上述の成分I〜IVの混合物である。
【0048】
本発明はまた、ポリビニルクロリド、ビニルクロリド系コポリマー、ポリビニリデンクロリド、ポリビニルアセタール、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリラクチド、セルロースおよびその誘導体、ゴムポリマー、たとえば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホニルポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム、アクリレートゴム、および/またはエピクロロヒドリンゴムのようなポリマーのための可塑剤としてのエステル混合物の使用を包含する。ポリビニルクロリドが好ましい。
【0049】
この場合、ポリビニルクロリドは、好ましくは、懸濁重合、乳化重合、またはバルク重合のように当業者に公知の方法でビニルクロリドから単独重合により調製される。好ましくは、本発明に係るエステル混合物は、20〜99%のポリビニルクロリド、好ましくは45〜95%のポリビニルクロリド、より好ましくは50〜90%のポリビニルクロリドとの混合物の状態で使用される。この混合物は、軟質ポリビニルクロリドとして公知であり、本発明に係るエステル混合物およびポリビニルクロリドに加えて、他の好適な添加剤をも含みうる。たとえば、安定剤、滑剤、充填剤、顔料、難燃剤、光安定剤、発泡剤、高分子加工助剤、耐衝撃性改良剤、光学的増白剤、帯電防止剤、および/または生物安定剤を存在させうる。
【0050】
本発明はまた、本発明に係る混合物を含むポリマーに関する。
【0051】
エステル混合物を利用して本発明に従って合成されるこれらのポリマーは、好ましくは、安定剤、滑剤、充填剤、顔料、難燃剤、光安定剤、発泡剤、高分子加工助剤、耐衝撃性改良剤、光学的増白剤、帯電防止剤、および/または生物安定剤、さらにはそれらの混合物のような添加剤をも含む。
【0052】
いくつかの好適な添加剤について、以下で詳細に説明する。しかしながら、提示された例は、本発明に係る混合物に何ら限定を加えるものではなく、むしろあくまでも例示を目的とした役割を果たすにすぎない。含有率データはすべて、重量%である。
【0053】
安定剤は、ポリビニルクロリドの加工中および/または加工後に放出された塩酸を中和する。安定剤は本発明に係るエステル混合物の好ましい実施形態およびそれから調製されるポリマーでは、有用な安定剤は、固体や液体の形態の慣用的なポリビニルクロリド安定剤すべて、たとえば、慣用的なエポキシ/亜鉛、Ca/Zn、Ba/Zn、Pb、またはSn安定剤、さらには酸結合性層状シリケート、たとえばハイドロタルサイトである。本発明に係るエステル混合物は、0.05〜7%、好ましくは0.1〜5%、より好ましくは0.2〜4%、特に0.5〜3%の含有率の安定剤との混合物の状態で使用可能である。
【0054】
滑剤は、ポリビニルクロリド粒子間で効果を生じて、混合、可塑化、および再造形の過程で摩擦力を抑制するはずである。好ましい実施形態では、本発明に係る混合物中に存在する滑剤は、ポリマーの加工用として慣用される滑剤すべてでありうる。たとえば、有用な滑剤は、炭化水素(たとえば、油、パラフィン、およびPEワックス)、6〜20個の炭素原子を有する脂肪アルコール、ケトン、カルボン酸(たとえば、脂肪酸およびモンタン酸)、酸化PEワックス、カルボン酸金属塩、カルボキサミド、およびカルボン酸エステル(たとえば、アルコールとしてエタノール、脂肪アルコール、グリセロール、エタンジオール、ペンタエリトリトール、および酸成分として長鎖カルボン酸を有するもの)である。本発明に係るエステル混合物は、0.01〜10%、好ましくは0.05〜5%、より好ましくは0.1〜3%、特に0.2〜2%の含有率の滑剤を有する混合物の状態で使用可能である。
【0055】
充填剤は、特に、可塑化ポリビニルクロリドまたはPVBの圧縮強度、引張強度、および曲げ強度、さらには硬度および耐熱変形性に対して良い方向に影響を及ぼす。本発明に関連して、混合物は、好ましい実施形態では、充填剤、たとえば、カーボンブラックおよび他の無機充填剤、たとえば、天然炭酸カルシウム(たとえば、チョーク、石灰石、および大理石)、合成炭酸カルシウム、ドロマイト、シリケート、シリカ、サンド、珪藻土、ケイ酸アルミニウム(たとえば、カオリン、雲母、および長石)をも含みうる。使用される充填剤は、好ましくは、炭酸カルシウム、チョーク、ドロマイト、カオリン、シリケート、タルク、またはカーボンブラックである。本発明に係るエステル混合物は、0.01〜80%、好ましくは0.1〜60%、より好ましくは0.5〜50%、特に1〜40%の含有率の充填剤を有する混合物の状態で使用可能である。
【0056】
本発明に係るエステル混合物を用いて配合される混合物は、好ましい実施形態では、得られた生成物を可能性のあるさまざまな用途に合わせて調整すべく顔料をも含みうる。本発明に関連して、無機顔料および有機顔料はいずれも、使用可能である。使用される無機顔料は、たとえば、CdSのようなカドミウム顔料、CoO/Alのようなコバルト顔料、およびCrのようなクロム顔料でありうる。使用される有機顔料は、たとえば、モノアゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾメチン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン、フタロシアニン顔料、ジオキサジン顔料、およびアニリン顔料でありうる。本発明に係るエステル混合物は、0.01〜10%、好ましくは0.05〜5%、より好ましくは0.1〜3%、特に0.5〜2%の含有率の顔料を有する混合物の状態で使用可能である。
【0057】
焼成の過程で易燃性および煙の発生を減少させるために、本発明に係る混合物は、好ましい実施形態では、難燃剤をも含みうる。使用される難燃剤は、たとえば、三酸化アンチモン、ホスフェートエステル、クロロパラフィン、水酸化アルミニウム、ホウ素化合物、三酸化モリブデン、フェロセン、炭酸カルシウム、または炭酸マグネシウムでありうる。本発明に係るエステル混合物は、0.01〜30%、好ましくは0.1〜25%、より好ましくは0.2〜20%、特に0.5〜15%の含有率の難燃剤を有する混合物の状態で使用可能である。
【0058】
光の作用により表面領域が損傷を受けないように、本発明に係るエステル混合物を含む混合物から製造された物品を保護すべく、混合物は、好ましい実施形態では、光安定剤をも含みうる。本発明に関連して、たとえば、ヒドロキシベンゾフェノン類またはヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール類を使用することが可能である。本発明に係るエステル混合物は、0.01〜7%、好ましくは0.1〜5%、より好ましくは0.2〜4%、特に0.5〜3%の含有率の光安定剤を有する混合物の状態で使用可能である。
【0059】
本発明に係るエステル混合物を内存させて含むポリマーは、好ましい実施形態では、安息香酸のモノアルキルエステル、モノ、ジ、トリ、もしくはポリアルキレングリコールの安息香酸ジエステル、モノカルボン酸とポリオールとのエステル、脂肪族ジカルボン酸のジアルキルエステル、芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステル、芳香族トリカルボン酸のトリアルキルエステル、アルカンスルホン酸のフェニルエステル、リン酸のアルキルエステルまたはアリールエステル、ジカルボン酸のポリエステル、さらにはそれらの混合物のようなさらなる可塑剤をも含みうる。ポリマーは、好ましくは、さらなる可塑剤として芳香族トリカルボン酸のトリアルキルエステルを含む。
【0060】
さらなる可塑剤の例は、以下のとおりである。
・安息香酸のモノアルキルエステル、たとえばイソノニルベンゾエート、
・モノ、ジ、トリ、もしくはポリアルキレングリコールの安息香酸ジエステル、たとえば、プロピレングリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジベンゾエート、特にそれらの混合物、
・モノカルボン酸とポリオールとのエステル、たとえば、安息香酸と酪酸とグリセロールとから取得可能なエステル化生成物、安息香酸とラウリン酸とグリセロールとから取得可能なエステル化生成物、安息香酸とラウリン酸とジエチレングリコールとから取得可能なエステル化生成物、または安息香酸とラウリン酸とネオペンチルグリコールとから取得可能なエステル化生成物、
・脂肪族ジカルボン酸のジアルキルエステル、たとえば、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート、
・芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステル、たとえば、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ベンジルブチルフタレート、ベンジルイソオクチルフタレート、ベンジルイソノニルフタレート、
・芳香族トリカルボン酸のトリアルキルエステル、たとえば、トリオクチルトリメリテート、
・アルカンスルホン酸のフェニルエステル、たとえば、ランクセス・ドイチュラント・GmbH(LANXESS Deutschland GmbH)製の製品メザモール(Mesamoll)(登録商標)、
・リン酸のアルキルエステルまたはアリールエステル、たとえば、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニル2−エチルヘキシルホスフェート、ジフェニルクレシルホスフェート、またはトリクレシルホスフェート、
・たとえば、アジピン酸またはフタル酸のようなジカルボン酸と、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、または1,6−ヘキサンジオールのようなジオールと、から調製可能なポリエステル。
【0061】
本発明に関連して、本発明に係るエステル混合物は、好ましい実施形態では、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ビニルアセテート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、分枝状もしくは非分枝状C〜C10−アルコールのアルコール成分を有するアクリレートおよびメタクリレート、スチレン、またはアクリロニトリルを基剤とするホモポリマーおよびコポリマーよりなる群から選択されるさらなるポリマーを含む混合物の状態で使用することも可能である。例としては、C〜C−アルコール(特に、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、および2−エチルヘキサノール)よりなる群から選ばれる同一のもしくは異なるアルコール基を有するポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−ブチルアクリレートコポリマー、メチルメタクリレート−ブチルメタクリレートコポリマー、エチレン−ビニルアセテートコポリマー、塩素化ポリエチレン、ニトリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンコポリマー、スチレン−アクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンエラストマー、およびメチルメタクリレート−スチレン−ブタジエンコポリマーが挙げられる。
【0062】
本発明に係るエステル混合物を用いて調製される混合物は、たとえば、パイプライン、ケーブル、ワイヤーシースの製造に、室内設計に、乗物や家具の組立てに、床仕上げ材、医療用品、食品包装材、ガスケット、フィルム、複合フィルム、複合安全ガラス用フィルム(特に、乗物分野や建築分野向け)、合成皮革、玩具、包装容器、接着テープフィルム、衣服、被覆材、さらには布用繊維に、有用である。
【0063】
本発明に係るエステル混合物は、良好な加工適性および低い揮発性を有する。本発明に係るエステル混合物を用いて製造される軟質ポリビニルクロリド物品は、特に、非常に良好な熱安定性を有することを特徴とし、強制エアオーブン内における熱エージングの過程で低い重量損失を呈しかつコンゴーレッド試験で高いHCl安定性を呈することにより特性付けられる。
【0064】
以下の実施例を参照しながら本発明について詳細に説明するが、これにより本発明に何ら限定を加えようとするものではない。
【0065】
[実施例]
指定された部は、重量基準である。
【0066】
実験方法
攪拌機、接触温度計、水分離器、還流冷却器、および調節装置付きホットプレートを備えた四口フラスコ中において、緩やかな窒素ストリーム下で、268.4部のトリメチロールプロパン、芳香族モノカルボン酸として464.1部の安息香酸および脂肪族モノカルボン酸として440.7部のラウリン酸、ならびに連行剤として120部のキシレンを溶融した。3.4部のチタンテトラ(イソプロポキシド)を触媒として添加し、攪拌しながら混合物を190℃で25.5時間煮沸した。この後、103部の水が分離した。190℃および3mbarにおいて3時間以内で揮発性成分を吸引除去した。反応生成物を単離して酸価を決定した。
【0067】
実施例1〜4および本発明に係らない比較例C1〜C3
表1に列挙された出発原料を用いて上記の方法により、本発明に係る化合物1〜4および本発明に係らない化合物C1〜C3を調製した。物質C1は固体である。それは、エタノールから再結晶させたものであり、82℃で融解する。
【0068】
エステル混合物の組成
プロトンNMR分光法によりエステル混合物の組成を決定した。この目的のために、トリメチロールプロパン基のCH基のシグナルを積分し、積分値から各成分の相対モル分率を計算した。モル質量を用いてモル分率から成分の重量分率を計算することが可能であり、表1には重量パーセント(重量%)として明記されている。
【0069】
表1からわかるように、出発原料の相対比を適切に選択すれば本発明に係る調製方法により本発明に係る組成のエステル混合物を簡単に調製することが可能である。
【0070】
【表1】

【0071】
エステル混合物の物理的特性
エステル混合物に重要な物理的データ(表2参照)を以下の方法により決定した。
粘度:ヘプラー(Hoeppler)落球粘度計によるDIN 53015(2001年)に準拠
流動点:DIN ISO 3016(1982年)に準拠
酸価:EN ISO 3682(1998年)に準拠
【0072】
【表2】

【0073】
可塑剤としてエステル混合物の取扱いおよび加工を行う場合、その粘度および流動点は、重要な特性パラメーターである。
【0074】
市販の可塑剤は、約10mPa・s〜10,000mPa・s超の粘度を有する液体である(たとえば、L・マイヤー(L.Meier)著:「可塑剤(Weichmacher)」、R・ゲヒター(R.Gaechter)、H・ミュラー(H.Mueller)編:プラスチック添加剤ハンドブック(Taschenbuch der Kunststoffadditive)、第3版、p.383−p.425、ハンザー・フェアラーク(Hanser Verlag)刊,ミュンヘン(Munich)(1990年)を参照されたい)。列挙された実施例は、この好ましい粘度範囲内にある。
【0075】
流動点は、液体が自由流動性を残している最低温度を意味する。列挙された実施例の流動点は非常に低いので、物質は、15℃超の慣用的な加工温度で非拘束自由流動を保持する。
【0076】
結晶化傾向
軟質ポリビニルクロリドの加工機は、液状可塑剤を使用できるように装備されている。最初は液状の可塑剤がたとえば保存中に完全結晶化または部分結晶化を起こすことは、望ましくない。なぜなら、再溶解または溶融および均一化が追加の作業工程を構成することになるからである。
【0077】
物質C1は、ホットメルト接着剤調製用の可塑剤として独国特許出願公開第2 318 411 A1号明細書で提案されている。C1は固体であるので、軟質ポリビニルクロリドを得るための通常の加工には適さない。
【0078】
米国特許第3,072,591B1号明細書には、ポリビニルクロリド用の可塑剤として物質トリメチロールプロパンジベンゾエートモノラウレートが提案されている。物質トリメチロールプロパンジベンゾエートモノラウレートのときと同じように2:1のモル比でベンゾイル基およびラウロイル基が存在するC2物質混合物は、室温で3週間保存した後、大量の結晶性沈殿を生成する。4℃における保存の過程では、4日後程度の早い時期に結晶化が開始される。したがって、C2は不十分な保存安定性を有するので可塑剤として不適当である。
【0079】
驚くべきことにかつ先行技術からは予想外なことに、本発明に係るエステル混合物は、室温で液体であるとともに結晶化を生じる傾向を何ら示さないという特筆すべき点を有する。表2の比較からわかるように、本発明に係るエステル混合物は、本発明に係らないエステル混合物とは異なり、際立って低い結晶化傾向により特性付けられる。60日間超にわたり4℃で保存した後でさえも、エステル混合物1〜4は、透明かつ液体の状態を保持する。
【0080】
溶解温度
ポリビニルクロリド中溶解温度は、可塑剤のゲル化能を記述するための重要な特性パラメーターである。170℃超の溶解温度を有する可塑剤は、その加工にあまりにも多くのエネルギーが必要とされるので採算が合わない。それに加えて、170℃超の溶解温度では、可塑剤とポリビニルクロリドとの間の相溶性が不十分になる恐れがある。
【0081】
本発明に係るエステル混合物1〜5は、良好なゲル化能を有する。酸成分が主にラウリン酸よりなる比較例C3は、170℃超の溶解温度を有するので、可塑剤として不適当である。
【0082】
揮発性
ブラベンダー(Brabender)H−A−G,E’湿分試験機の助けを借りて130℃までの可塑剤の加熱過程における重量損失を測定することにより、本発明に係るエステル混合物2および市販の可塑剤ジ(2−エチルヘキシル)フタレート(オクセノ・オレフィンヘミー・GmbH(Oxeno Olefinchemie GmbH)製の「フェスチノール(Vestinol)(登録商標)AH」、略号:DEHP)の揮発性を決定した。使用量を基準にしてパーセントとして重量損失を報告する。
【0083】
【表3】

【0084】
実施例2のエステル混合物は、標準的可塑剤ジ(2−エチルヘキシル)フタレートよりも揮発性が低いことを特徴とする。
【0085】
ポリビニルクロリド配合物
さらに試験するために、エステル混合物1〜4および表4に列挙された添加剤を用いて、エポキシ/Zn型(エポキシ−亜鉛安定剤を有する)およびPb型(鉛安定剤を有する)の軟質ポリビニルクロリド配合物を作製した。
【0086】
【表4】

【0087】
最初に、記載の成分を室温で混合し、続いて、以下の条件下で圧延した。
ローラー:サーヴィテック・ポリミックス(Servitec Polimix)110L
温度:160℃
時間:10分間
フロントロールのローラー速度:20(rpm)
バックロールのローラー速度:24(rpm)
圧延シートの厚さ:0.7mm
【0088】
次に、冷却された圧延シートを以下の条件下でプレスしてフィルムを得た。
プレスタイプ:シュヴァーベンタン・ポリスタート(Schwabenthan Polystat)200T
温度:170℃
時間:10分間
圧力:400bar
フィルム厚さ:0.3〜1mm
【0089】
ポリビニルクロリド配合物の耐熱性
フィルムの耐熱性を以下の試験方法により決定した。
強制エアオーブン中保存:
1mmの厚さを有するサイズ30×30mmのフィルムを表5に指定された温度および時間で強制エアオーブン中に吊るして保存した。保存後、重量変化を測定し、使用したフィルムの重量を基準にして%で報告した。
【0090】
コンゴーレッド試験:
厚さ0.7mmの圧延シートから得た顆粒を用いて、1971年のDIN53381−1に準拠してコンゴーレッド試験を行った。200℃においてHCl放出の結果として起こる指示薬の色変化が目視可能になる時間を表5に列挙する。
【0091】
【表5】

【0092】
強制エアオーブン中における重量損失が最小であることおよびコンゴーレッド指示薬の変化前の時間が最大であることにより、耐熱性が高いことが示される。表5のデータから実証されるように、トリオクチルトリメリテートと比較して本発明に係るエステル混合物の熱安定性は平均的に良好である。
【0093】
移行
軟質ポリビニルクロリドから他のポリマー中への本発明に係るエステル混合物の移行を評価するために、上述のエポキシ/Zn型ポリビニルクロリド配合物から円形試験試料(Φ50mm)を作製し、両側にポリエチレンフィルム(アトフィナ・ラクテン(Atofina Laqtene)(登録商標)LDO0304)を接触させ、接触された試験試料を70℃の乾燥キャビネット中に保存し、5kgの錘で荷重を加え、試験試料の重量変化を12日間にわたり監視した。表6は、三重測定から得られた重量変化の平均値をもとの試料重量を基準にして重量%として再現したものである。
【0094】
【表6】

【0095】
測定された重量損失が大きいほど、移行によりポリエチレン中に移動したエステル混合物/可塑剤の量は多い。表7のデータから実証されるように、トリオクチルトリメリテート(TOTM)と比較して本発明に係るエステル混合物1および2の耐移行性は際立って良好である。
【0096】
抽出
液体媒体による軟質ポリビニルクロリドからの本発明に係るエステル混合物の抽出を評価するために、上述のエポキシ/Zn型ポリビニルクロリド配合物から円形試験試料(Φ60mm)を作製し、表7に指定された50mlの媒体で満たされたペトリ皿中に浸漬し、表7に指定された温度の乾燥キャビネット中に皿を10日間保存した。その後、洗浄した試験試料の重量変化を測定した。もとのサンプル重量を基準にして重量%として表7に再現する。
【0097】
【表7】

【0098】
測定された重量損失が大きいほど、抽出により媒体中に移動した可塑剤の量は多い。表7のデータから実証されるように、トリオクチルトリメリテートと比較して本発明に係る可塑剤1および2の耐抽出性は際立って良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)5〜22重量%の一般式(I):
【化1】

〔式中、
Rは、HまたはC〜C−アルキル鎖であり、そして
は、1〜3個のC〜C−アルキル基により場合により置換されていてもよいC〜C14−アリール基である〕
で示される化合物と、
(B)26〜44重量%の一般式(II):
【化2】

〔式中、
RおよびRは、それぞれ、先に定義したとおりであり、そして
は、直鎖状もしくは分枝状のC11〜C21−アルキル基である〕
で示される化合物と、
(C)28〜45重量%の一般式(III):
【化3】

〔式中、
R、RおよびRは、それぞれ、先に定義したとおりである〕
で示される化合物と、
(D)6〜25重量%の一般式(IV):
【化4】

〔式中、
RおよびRは、それぞれ、先に定義したとおりである〕
で示される化合物とを含有するエステル混合物。
【請求項2】
(A)10〜21重量%の一般式(I)で示される化合物と、
(B)34〜43重量%の一般式(II)で示される化合物と、
(C)29〜40重量%の一般式(III)で示される化合物と、
(D)7〜15重量%の一般式(IV)で示される化合物
〔ただし、前記式(I)〜(IV)中のR基、R基およびR基は、それぞれ、請求項1で定義したとおりである〕
とを含有するエステル混合物。
【請求項3】
前記R基が、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、4−tert−ブチル安息香酸、1−ナフトエ酸または2−ナフトエ酸のような芳香族モノカルボン酸から、特に安息香酸から、誘導されることを特徴とする、請求項1または2に記載のエステル混合物。
【請求項4】
前記R基が、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸またはベヘン酸のような脂肪族モノカルボン酸から、特にラウリン酸から、誘導されることを特徴とする、請求項1または2に記載のエステル混合物。
【請求項5】
前記R基が、一般式(V):
【化5】

〔式中、
Rは、HまたはC〜C−アルキル鎖である〕
で示されるトリメチロールアルカンから誘導されることを特徴とする、請求項1または2に記載のエステル混合物。
【請求項6】
前記R基が、トリメチロールプロパンまたはトリメチロールエタンのようなトリメチロールアルカンから、特にトリメチロールプロパンから、誘導されることを特徴とする、請求項1、2または5のいずれか一項に記載のエステル混合物。
【請求項7】
a)1種以上のトリメチロールアルカンが、
b)108〜180mol%(100mol%のトリメチロールアルカンを基準にして)の1種以上の脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸もしくは脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸誘導体および
c)120〜300mol%(100mol%のトリメチロールアルカンを基準にして)の1種以上の芳香族C〜C15−モノカルボン酸もしくは芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体で、
d)150℃〜300℃の温度において、
エステル化されることを特徴とする、エステル混合物の調製方法。
【請求項8】
e)触媒の助けを借りて、かつ/または
f)エステル化の揮発性副生物を除去しながら、
行われることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
110〜150mol%(100mol%のトリメチロールアルカンを基準にして)の1種以上の脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸もしくは脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸誘導体および300mol%(100mol%のトリメチロールアルカンを基準にして)に対する少なくとも残量の1種以上の芳香族C〜C15−モノカルボン酸もしくは芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体が使用されることを特徴とする、請求項7または8に記載のエステル混合物の調製方法。
【請求項10】
使用される前記トリメチロールアルカンが、トリメチロールプロパンまたはトリメチロールエタン、特にトリメチロールプロパンであることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一項に記載のエステル混合物の調製方法。
【請求項11】
・前記芳香族C〜C15−モノカルボン酸もしくは芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体が無置換型もしくはC〜C−アルキル置換型であってもよく、かつ/または
・前記脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸もしくは脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸誘導体が直鎖状もしくは分枝状で、飽和もしくはオレフィン性不飽和であってもよいことを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一項に記載のエステル混合物の調製方法。
【請求項12】
前記芳香族C〜C15−モノカルボン酸もしくは芳香族C〜C15−モノカルボン酸誘導体が、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、4−tert−ブチル安息香酸、1−ナフトエ酸および/もしくは2−ナフトエ酸、特に安息香酸、またはこれらの酸の誘導体あるいはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項7〜9または11のいずれか一項に記載のエステル混合物の調製方法。
【請求項13】
前記脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸もしくは脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸誘導体が、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸および/もしくはベヘン酸、特に、ラウリン酸および/もしくはパルミチン酸、またはこれらの酸の誘導体、あるいはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項7〜9、または11のうちのいずれか一項に記載のエステル混合物の調製方法。
【請求項14】
・トリメチロールプロパンが前記トリメチロールアルカンとして使用され、
・安息香酸が前記芳香族C〜C15−モノカルボン酸として使用され、かつ
・ラウリン酸が前記脂肪族C12〜C22−モノカルボン酸として使用されることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一項に記載のエステル混合物の調製方法。
【請求項15】
ポリビニルクロリド、ビニルクロリド系コポリマー、ポリビニリデンクロリド、ポリビニルアセタール、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリラクチド、セルロースおよびその誘導体、ゴムポリマー、たとえば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホニルポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム、アクリレートゴム、および/またはエピクロロヒドリンゴムのようなポリマーのための可塑剤としての請求項1に記載のエステル混合物の使用。
【請求項16】
請求項1に記載のエステル混合物を含むポリマー。
【請求項17】
安定剤、滑剤、充填剤、顔料、難燃剤、光安定剤、発泡剤、高分子加工助剤、耐衝撃性改良剤、光学的増白剤、帯電防止剤および/または生物安定剤、さらにはそれらの混合物のような添加剤を含むことを特徴とする、請求項16に記載のポリマー。
【請求項18】
さらなる可塑剤として、安息香酸のモノアルキルエステル、モノ、ジ、トリ、もしくはポリアルキレングリコールの安息香酸ジエステル、脂肪族二酸のジアルキルエステル、芳香族二酸のジアルキルエステル、芳香族三酸のトリアルキルエステル、アルカンスルホン酸のフェニルエステル、リン酸のアルキルエステルまたはアリールエステル、ジカルボン酸のポリエステル、さらにはそれらの混合物を含むことを特徴とする、請求項16または17に記載のポリマー。

【公開番号】特開2006−169246(P2006−169246A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−359405(P2005−359405)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】