説明

エタノール含有水性製剤

【課題】エタノールを高濃度に含有する水性製剤に、ヒアルロン酸および/またはその塩を配合しているにもかかわらず、沈殿や濁りのない、透明な水性製剤を提供する。
【解決手段】エタノールを高濃度に含有する水性製剤に、平均分子量が10万以下であり、かつ、2%ヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液1部に対し、エタノール9部を加えたときに沈殿物が認められないことを特徴とする、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有せしめることにより、沈殿や濁りのない透明な水性製剤が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールを高濃度に含有する水性製剤中にヒアルロン酸および/またはその塩を配合しているにもかかわらず、ヒアルロン酸および/またはその塩由来の沈殿や濁りを生じない、透明な水性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は生体、特に皮下組織に存在するムコ多糖類であり、その高い保湿機能によりヒアルロン酸またはその塩として、化粧料の原料に広く利用されてきた。その一方で有機溶媒への溶解性は低く、高濃度のエタノール溶液中で沈殿を生じることから、エタノール濃度の高い組成物への配合は困難である。例えば、本出願人が、特開2004−269410号公報(特許文献1)にて開示しているように、ヒアルロン酸を含有するアルコール殺菌製剤において、特にエタノール濃度が70%超では、ヒアルロン酸又はその塩の含有量によっては沈殿を生じる場合がある。
【0003】
そこで、高濃度のエタノール水溶液中にヒアルロン酸を溶解させる試みがなされており、例えば、特許2873847号公報(特許文献2)では、酸性ムコ多糖と第4級アンモニウム塩とを共存させることにより、エタノールへの溶解性を高めるという内容が開示されている。また、特開2006−89388号公報(特許文献3)には、従来使用されていたヒアルロン酸ナトリウムに対して、疎水性の高いアセチル化ヒアルロン酸ナトリウムを低級アルコール殺菌製剤に配合することにより、殺菌製剤のアルコール濃度を高めることができると記載されている。しかしながら、製剤中に添加剤を加えたりヒアルロン酸の分子構造を修飾することなく、ヒアルロン酸またはその塩を高濃度のエタノール溶液中に透明溶解させることはこれまで成し遂げられなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2004−269410号公報
【特許文献2】特許2873847号公報
【特許文献3】特開2006−89388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、エタノールを高濃度に含有する水性製剤中にヒアルロン酸および/またはその塩を配合しているにもかかわらず、ヒアルロン酸および/またはその塩由来の沈殿や濁りを生じない、透明な水性製剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく、ヒアルロン酸について鋭意研究を重ねた結果、エタノールを高濃度に含有する水性製剤に、平均分子量が特定以下のヒアルロン酸および/またはその塩を配合するならば、意外にも、ヒアルロン酸および/またはその塩由来の沈殿や濁りが発生せず、透明な水性製剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)ヒアルロン酸および/またはその塩、並びに製剤全体に対してエタノールを50%以上含有する水性製剤であって、前記ヒアルロン酸および/またはその塩が以下の要件を満たすことを特徴とする水性製剤、
(a)平均分子量10万以下。
(b)2%ヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液1部に対し、エタノール9部を加えたときに沈殿物が認められない。
(2)前記ヒアルロン酸および/またはその塩が平均分子量5万以下である(1)の水性製剤、
(3)前記ヒアルロン酸および/またはその塩が平均分子量2万以下である、(1)又は(2)の水性製剤、
(4)前記ヒアルロン酸および/またはその塩が、分子量1万以下の成分の割合が40%以上、かつ分子量5万以上の成分の割合が5%以下の分子量分布である(2)又は(3)のいずれかの水性製剤、
(5)前記ヒアルロン酸および/またはその塩の含有量が、0.0001〜2%である(1)乃至(4)のいずれかの水性製剤、
(6)前記ヒアルロン酸および/またはその塩が、2%ヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液1部に対し、エタノール9部を加えたときの吸光度(A660)が0.1以下であることを特徴とする、(1)乃至(5)のいずれかの水性製剤、
(7)(1)乃至(6)の水性製剤を含有する化粧料、
(8)(1)乃至(6)の水性製剤を含有する殺菌製剤、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エタノールを高濃度に含有する水性製剤中にヒアルロン酸および/またはその塩が配合されているにもかかわらず、ヒアルロン酸および/またはその塩の沈殿や濁りのない、透明な水性製剤を提供することができる。したがって、ヒアルロン酸および/またはその塩の更なる利用拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
本発明の水性製剤とは、水に可溶である製剤をいう。本発明においては、特にエタノールを50%以上含有する製剤をいい、その他の成分として、水と混合可能な多価アルコール、低級アルコール等の溶媒や、水性製剤に溶解可能な増粘剤、防腐剤、油性成分、界面活性剤、色素、香料等を、本発明の効果を損なわない範囲で含むことができる。
【0011】
その他の成分の一例を挙げれば、次のとおりである。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ペンチレングリコール、イソプレングリコール、グルコース、マルトース、ショ糖、フルクトース、キシリトール、ソルビトール、マルトトリオース、エリスリトール等が挙げられる。
【0012】
低級アルコールとしては、例えば、メタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール等が挙げられる。
【0013】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、カラギーナン、アルギン酸塩、ペクチン、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、タマリンドガム、カンテン末、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0014】
防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0015】
油性成分としては、例えば、油溶性ビタミン類(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF、ビタミンK群のビタミン、ジカプリル酸ピリドキシン、ジパルミチン酸ピリドキシン、ジパルミチン酸アスコルビル、モノパルミチン酸アスコルビル、モノステアリン酸アスコルビル等のビタミン誘導体等)、油溶性ホルモン類(エストラジオール、エチニルエストラジオール、エストロン、ジエチルスチルペストロール等)、油溶性色素類(スダンIII、フルオレセン等)、油溶性紫外線吸収剤類(オキシベンゾン、2,5−ジイソプロピル桂皮酸メチル等)、動植物油類(アボガド油、オリーブ油等の動植物油、ジグリセリン脂肪酸エステル等の誘導体等)、高級脂肪族炭化水素類(スクワラン、スクワレン、流動パラフィン等)、高級脂肪酸類(ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸等)、高級アルコール(ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール等)、エステル油類(イソプロピルミリステート、オクチルドデシルミリステート等)、コレステロール等のステロール類、スフィンゴ脂質(セラミド、セレブロシド、スフィンゴミエリン等及びこれらの誘導体等)等が挙げられる。
【0016】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン[以下、POE−と略す]アルキルエーテル(POE−オレイルエーテル、POE−セチルエーテル等)、POE−分岐アルキルエーテル(POE−オクチルドデシルアルコール、POE−2−デシルテトラデシルアルコール等)、ソルビタンエステル(ソルビタンモノオレエート、ソルビタンイモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート等)、POE−ソルビタンエステル(POE−ソルビタンモノオレエート、POE−ソルビタンモノイソステアレート、POE−ソルビタンモノラウレート等)、グリセリン脂肪酸エステル(グリセリルモノオレエート、グリセリルモノステアレート、グリセリルモノミリステート等)、POE−グリセリン脂肪酸エステル(POE−グリセリルモノオレエート、POE−グリセリルモノステアレート、POE−グリセリルモノミリステート等)、POE−ジヒドロコレステロールエーテル、POE−硬化ヒマシ油脂肪酸エステル(POE−硬化ヒマシ油、POE−硬化ヒマシ油イソステアレート等)、POE−アルキルアリールエーテル(POE−オクチルフェノールエーテル等)、グリセロールエーテル(グリセロールモノイソステアレート、グリセロールモノミリステート等)、POE−グリセロールエーテル(POE−グリセロールモノイソステアレート、POE−グリセロールモノミリステート等)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ジグリセリルモノステアレート、デカグリセリルイソステアレート、デカグリセリルデカイソステアレートジステアリルジイソステアレート等)、高級脂肪酸(ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、オレイン酸等)の塩(カリウム、ナトリウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、リン脂質(ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール及びこれらのリゾ体)等が挙げられる。
【0017】
本発明の水性製剤は、平均分子量10万以下、好ましくは5万以下、より好ましくは2万以下であり、かつ、2%ヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液1部に対し、エタノール9部を加えたときに沈殿物が認められない、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有することを特徴とする。上記ヒアルロン酸および/またはその塩を使用することにより、ヒアルロン酸および/またはその塩由来の沈殿や濁りを生じないエタノール含有水性製剤が得られる。本発明においては、製剤全体に対して、エタノールを50%以上、好適には70%以上含有する水性製剤において、ヒアルロン酸および/またはその塩の析出を顕著に防止でき、効果的である。
【0018】
ここで、「ヒアルロン酸」とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。また、「ヒアルロン酸の塩」としては、特に限定されないが、食品又は医薬品として許容しうる塩であることが好ましく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0019】
また、本発明に使用するヒアルロン酸またはその塩の平均分子量は、10万以下であり、好ましくは5万以下であり、より好ましくは2万以下である。ヒアルロン酸またはその塩の平均分子量が前記値より大きいと、当該ヒアルロン酸および/またはその塩をエタノール含有水性製剤に配合した場合、保存中に、ヒアルロン酸および/またはその塩の沈殿や濁りが生じるからである。なお、本発明では、平均分子量の下限値を限定していないが、精製度の高いヒアルロン酸またはその塩の工業的生産性を考慮し、平均分子量5千以上が好ましい。
【0020】
本発明で規定される平均分子量の測定方法について説明する。
【0021】
本発明で規定される平均分子量は、ヒアルロン酸および/またはその塩の極限粘度から算出された分子量である。ヒアルロン酸および/またはその塩の極限粘度を求めるには、まず、複数のヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液を調製し、ウベローデ粘度計(柴田科学器械工業株式会社)におけるヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液の流下秒数および溶媒の流下秒数から、下記式1および式2に基づいて比粘度および還元粘度を算出する。この際、流下秒数が200〜1000秒になるような係数のウベローデ粘度計を用いる。また、ヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液の濃度は、該測定器に適する濃度を選択する。また、測定は30℃の恒温水槽中で行い、温度変化のないようにする。
(式1)

(式2)

【0022】
次いで、各ヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液について、得られた還元粘度を縦軸に、乾燥物換算のヒアルロン酸および/またはその塩濃度を横軸にプロットして検量線を作成し、前記ヒアルロン酸および/またはその塩濃度を0に外挿することにより、ヒアルロン酸および/またはその塩の極限粘度を得る。下記式3に基づいて、ヒアルロン酸および/またはその塩の極限粘度から平均分子量Mを求めることができる。
(式3)
極限粘度(dL/g)=K’Mα
(上記式3において、K’=0.036、α=0.78である。)
【0023】
本発明に使用するヒアルロン酸および/またはその塩は、平均分子量10万以下、好ましくは5万以下、より好ましくは2万以下であることに加え、その分子量分布において、分子量1万以下の成分の割合が40%以上で、かつ、分子量5万以上の成分の割合が5%以下であることが好ましい。このような分子量分布のヒアルロン酸および/またはその塩を使用することにより、特にエタノール含有水性製剤に高濃度に配合した場合にも、ヒアルロン酸および/またはその塩の沈殿が起こりにくく、効果的である。
【0024】
本発明で規定される分子量分布は、ゲル濾過カラムを用いてヒアルロン酸および/またはその塩を液体クロマトグラフィー分析することにより得られる。ヒアルロン酸および/またはその塩は、反復構造単位(N−アセチル−D−グルコサミンおよびD−グルクロン酸)の数によって異なる分子量を有する複数の成分の混合物である。したがって、ゲル濾過カラムを用いてヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液について液体クロマトグラフィー分析を行うことにより、ヒアルロン酸および/またはその塩を構成する成分を分子サイズにより分離することができる。
【0025】
本発明におけるヒアルロン酸および/またはその塩の分子量分布は、HPLC分析装置(商品名「アライアンスPDAシステム」、日本ウォーターズ株式会社製)にゲル濾過カラム(商品名「Diol−120」、株式会社ワイエムシイ製)を接続して、ヒアルロン酸および/またはその塩の0.1%(w/v)水溶液を分析サンプルとして、この分析サンプルを液体クロマトグラフィー分析することにより測定することができる。
【0026】
液体クロマトグラフィー分析の条件は以下の通りとする。
カラム温度:40℃
流速:1mL/分
ヒアルロン酸および/またはその塩の0.1%(w/v)水溶液の注入量:20μL
移動相:0.003mol/L リン酸バッファー(0.15mol/L NaCl含有、pH7.0)
紫外線検出器:λ=210nmで測定
本発明に係るゲル濾過カラムを用いた液体クロマトグラフィーでは、保持時間が長いものほど低分子である。保持時間の長い順に、N−アセチルグルコサミン、D−グルクロン酸、ヒアルロン酸(二糖:繰り返し構造単位1つ)、ヒアルロン酸(四糖:繰り返し構造単位2つ)、ヒアルロン酸(六糖:繰り返し構造単位3つ)、ヒアルロン酸(八糖:繰り返し構造単位4つ)・・・のピークが得られる。各ピークにおける保持時間および分子量を算出し、この保持時間対分子量の検量線を求める(式4)。
【0027】
なお、後述の式4において、xは保持時間を示し、yは分子量を示す。次いで、式4に示される検量線から、所定の分子量(1万または5万)に対応する保持時間を算出し、これらの保持時間によりピークを分割することにより、所定の分子量範囲にある成分の割合を求める。また、各ピークが示す分子量は、分子量が既知のヒアルロン酸および/またはその塩の最小構成単位(二糖)について同様の方法で液体クロマトグラフィー分析して得られたクロマトグラム中のピークと照会することにより同定される。
【0028】
例えば、分子量1万以下の成分の割合は、式4に示される検量線から分子量1万に対応する保持時間を算出し、この保持時間以降の成分の吸収面積を全吸収面積で除すことにより求めることができる。同様に、分子量5万以上の成分の割合は、式4に示される検量線から分子量5万に対応する保持時間を算出し、この保持時間以前に成分の吸収面積を全吸収面積で除すことにより求めることができる。
【0029】
一例として、図1に示すクロマトグラムから得られた各分子量成分の繰り返し単位数および保持時間の関係を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
(式4)
y=−21.4x+1296.2x−26747.1x+189427.1
【0032】
本発明で用いる平均分子量10万以下、好ましくは5万以下、より好ましくは2万以下の低分子ヒアルロン酸および/またはその塩の代表的な製造方法を以下に述べる。なお、本発明で用いる低分子ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法は、これに限定するものではない。
【0033】
上記低分子ヒアルロン酸および/またはその塩の原料であるヒアルロン酸および/またはその塩(以下、「原料ヒアルロン酸およびその塩」ともいう)は一般に、鶏冠、臍の緒、眼球、皮膚、軟骨等の生物組織、あるいはストレプトコッカス属の微生物等のヒアルロン酸生産微生物を培養して得られる培養液等を原料として、これらの原料から抽出(さらに必要に応じて精製)して得られるものである。例えば、鶏冠より抽出される原料ヒアルロン酸および/またはその塩の分子量は通常200万から800万である。
【0034】
上記低分子ヒアルロン酸および/またはその塩は、酸性含水媒体中に原料ヒアルロン酸および/またはその塩を分散させて、酸性含水媒体を除去して得られた残留物を加熱乾燥することにより製造することができる。ここで、攪拌速度や攪拌時間を調整することにより、低分子化の度合いを調整することができる。また、上述の分散させる工程を、30〜70℃で1時間以内の加熱条件下で行うことにより、目的の分子量まで安定に低分子化することができる。より具体的には、粉末状の原料ヒアルロン酸および/またはその塩を、酸性含水媒体中に攪拌しながら添加して得られた分散媒を加熱することができる。あるいは、酸性含水媒体を予め加熱し、これに原料ヒアルロン酸および/またはその塩を添加し、温度を保持してもよい。
【0035】
上記製造方法において、含水媒体は、水を含む、ヒアルロン酸および/またはその塩の分散媒のことをいう。含水媒体に使用できる媒体は、ヒアルロン酸および/またはその塩の溶解性が低いことが好ましい。含水媒体に使用できる媒体は特に限定されないが、例えば液体であって、水に溶解する性質を有し、かつ、食品または医薬品の製造工程において使用できるものが好ましい。含水媒体に使用できる媒体としては、例えば、アルコール系媒体(例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなど)、ケトン系媒体(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等を挙げることができ、これらを単独または組み合わせて使用することができる。このうち、沸点の低さおよび価格の点で、メタノール、エタノール、およびアセトンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。含水媒体における含水量は特に規定されないが、含水量が多いと、ヒアルロン酸および/またはその塩が分散状態を維持できず、含水媒体に溶解するため、収率の低下を招くおそれがある。したがって、含水媒体の全量に対する水の割合は40%容量以下が好ましく、30%容量以下がより好ましい。
【0036】
また、上記製造方法において、含水媒体を酸性にするために使用するものとしては、例えば、塩酸や硫酸等の酸や酸性陽イオン交換樹脂が挙げられる。
【0037】
なお、平均分子量10万以下、好ましくは5万以下、より好ましくは2万以下の低分子ヒアルロン酸からヒアルロン酸の塩へと変換する方法、ならびに前記低分子ヒアルロン酸の塩からヒアルロン酸へと変換する方法は、特に限定されるわけではない。前記低分子ヒアルロン酸からヒアルロン酸の塩へと変換する方法としては、例えば、アルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アンモニウム等の水溶液)を用いて処理する方法が挙げられる。また、前記低分子ヒアルロン酸の塩からヒアルロン酸へと変換する方法としては、例えば、酸水溶液(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の水溶液)を用いて処理する方法や、酸性陽イオン交換樹脂を用いる方法が挙げられる。
【0038】
本発明のエタノール含有水性製剤において、上述した製造方法等により得られた平均分子量10万以下、好ましくは5万以下、より好ましくは2万以下の低分子ヒアルロン酸および/またはその塩の配合量は、0.0001〜2%が好ましく、0.001〜0.5%がより好ましい。ヒアルロン酸および/またはその塩の配合量が前記範囲より多くなると、ヒアルロン酸および/またはその塩の沈殿や濁りが発生する場合があり、本発明の目的である透明な水性製剤を得られないため好ましくない。一方、前記範囲より少なくなると、ヒアルロン酸および/またはその塩が有する保湿効果が現れにくく、商品価値が低くなるため好ましくない。
【0039】
本発明の水性製剤の製造方法は、本発明の必須の配合原料である上述した平均分子量10万以下、好ましくは5万以下、より好ましくは2万以下の低分子ヒアルロン酸および/またはその塩を、エタノール含有水性製剤に配合する工程を含む方法であれば特に限定されるものではない。ただし、ヒアルロン酸および/またはその塩は、高濃度のエタノール中で溶解しにくい性質を有するため、はじめに水または低濃度のエタノール中で溶解してから高濃度のエタノールで希釈する方法が、沈殿や濁りが生じにくく、好ましい。
【0040】
本発明の水性製剤を含有する化粧料は、特に限定されるものではないが、エタノールを高濃度に含有する化粧料に本発明の水性製剤を含有させることにより、本発明の効果を特に有効に活用できる。エタノールを高濃度に含有する化粧料として、例えば、収れん化粧水、洗浄用化粧水、プレシェーブローション、シェービングローション、アフターシェーブローション、アフターサンローション、ボディーローション、ヘアトニック、ヘアスプレー、デオドラントスプレー等消臭化粧品、香水等フレグランス化粧品、マウスウォッシュ、虫よけスプレー等が挙げられる。
【0041】
本発明の水性製剤を含有する殺菌製剤とは、医療現場、食品製造現場等において使用可能な外用殺菌製剤や、食品の除菌剤、静菌剤等をいう。本発明の水性製剤をそのまま殺菌製剤として使用できるほか、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば、静菌効果を有する物質、増粘剤、保湿剤、その他の賦形剤等を含有することもできる。
【0042】
以下、本発明で用いる平均分子量10万以下、好ましくは5万以下、より好ましくは2万以下であり、かつ、2%ヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液1部に対し、エタノール9部を加えたときに沈殿物が認められない、低分子ヒアルロン酸および/またはその塩を用いた水性製剤について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0043】
〔調製例1〕平均分子量9千のヒアルロン酸
本調製例では、原料として、鶏冠より抽出、精製したヒアルロン酸ナトリウム(以下「HANa」ともいう)微粉末を準備した。この原料HANaの平均分子量は約210万、純度97%であった。
【0044】
まず、攪拌機およびジャケットを装備した300L容タンクに、0.5%硫酸含有80%含水アセトン(酸性含水媒体)110Lを満たし、攪拌しながら液温が60℃となるよう加熱した。ここで、80%含水アセトンは、アセトンを80(w/w)%含有し、水を20(w/w)%含有するものであり、0.5%硫酸含有80%アセトンは、硫酸を0.5(w/w)%含有し、80%含水アセトンを99.5(w/w)%含有するものである。60℃に達温後、攪拌しながら、準備した原料HANa微粉末6kgをタンクに投入した。硫酸含有含水アセトンの温度を60℃に維持するよう加熱を行いながら、原料HANa微粉末が分散状態となるように攪拌した。
【0045】
次に、15分間攪拌してから静置した後、上澄みの硫酸含有含水アセトンをデカンテーションにより除去することにより、沈殿物を得た。得られた沈殿物に、予め60℃に加熱した0.5%硫酸含有80%含水アセトン110Lを加え、同様に60℃に加熱しながら攪拌を15分間行い、この操作を合計3回繰り返した。
【0046】
次いで、硫酸含有含水アセトンを除去した後に得られた沈殿物に80%含水アセトン110Lを加え、硫酸除去の目的で攪拌を15分間行った。硫酸の残留がなくなるまでこの操作を繰り返した。
【0047】
さらに、含水アセトンをデカンテーションにより除去して残留物を得た。この残留物について遠心分離処理を行うことにより含水アセトンをさらに除去した後、真空乾燥機を用いて70℃にて減圧で12時間加熱乾燥した。
【0048】
以上の工程により、白色微粉末のヒアルロン酸5.3kg(収率約88%)を得た。このヒアルロン酸は、極限粘度より換算した平均分子量が9千であり、分子量分布において、分子量1万以下の成分の割合が49%以上でかつ分子量5万以上の成分の割合が0.5%であった。
【0049】
〔調製例2〕平均分子量3.5万のヒアルロン酸ナトリウム
本調製例では、原料として、調製例1で用いたHANa微粉末を準備した。
【0050】
まず、攪拌機を装備した300L容タンクに、2%塩酸含有73%含水エタノール(酸性含水媒体)110Lを満たし、攪拌しながら液温が50℃となるよう加熱した。ここで、73%含水エタノールは、エタノールを73(w/w)%含有し、水を27(w/w)%含有するものであり、2%塩酸含有73%含水エタノールは、塩酸を2(w/w)%含有し、73%含水エタノールを98(w/w)%含有するものである。50℃に達温後、攪拌しながら、準備した原料HANa微粉末6kgをタンクに投入した。塩酸含有含水エタノールの温度を50℃に維持するよう加熱を行いながら、原料HA粉末が分散状態となるように攪拌した。
【0051】
次に、15分間攪拌してから静置した後、上澄みの塩酸含有含水エタノールをデカンテーションにより除去することにより、沈殿物を得た。得られた沈殿物に、予め50℃に加熱した2%塩酸含有73%含水エタノール110Lを加え、同様に50℃に加熱しながら攪拌を15分間行い、この操作を合計3回繰り返した。
【0052】
次いで、塩酸含有含水エタノールを除去した後に得られた沈殿物に73%含水エタノール110Lを加え、塩酸除去の目的で攪拌を15分間行った。塩酸の残留がなくなるまでこの操作を繰り返した。
【0053】
さらに、含水エタノールをデカンテーションにより除去して残留物を得た。この残留物について遠心分離処理を行うことにより含水エタノールをさらに除去した後、再び同タンクにて水100Lに溶解させて水溶液を調製した。この水溶液を攪拌しながら20%水酸化ナトリウム溶液を該水溶液に添加して、pH6.5とした。次いで、この水溶液をスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行った。
【0054】
以下の工程により、白色微粉末の低分子ヒアルロン酸ナトリウム5.1kg(収率約85%)を得た。このヒアルロン酸は、極限粘度より換算した平均分子量が3.5万であり、分子量分布において、分子量1万以下の成分の割合が40%未満でかつ分子量5万以上の成分の割合が1%超であった。
【0055】
〔実施例1〕
下記の配合の水性製剤を製した。つまり、調製例1で得られた平均分子量が9千のヒアルロン酸を、2%濃度となるように清水に溶解し、このヒアルロン酸水溶液1部をとり、そこにエタノールおよび清水を加えて、ヒアルロン酸濃度が0.2%に、エタノール濃度が70〜90%となるように水性製剤を製した。
【0056】
<配合割合>
エタノール 70%/80%/90%
ヒアルロン酸(調製例1) 0.2%
清水 残余
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
100%
【0057】
〔実施例2〕
実施例1の水性製剤で使用したヒアルロン酸の代わりに、調製例2で得られた平均分子量が3.5万のヒアルロン酸ナトリウムを使用する以外は、実施例1と同様に水性製剤を製した。
【0058】
〔実施例3〕
実施例1の水性製剤で使用したヒアルロン酸の代わりに、平均分子量10万のヒアルロン酸(商品名「ヒアルロンサンHA−L510」、キユーピー(株)製)を使用する以外は、実施例1と同様に水性製剤を製した。
【0059】
〔比較例1〕
実施例1の水性製剤で使用したヒアルロン酸の代わりに、平均分子量40万のヒアルロン酸ナトリウムを使用する以外は、実施例1と同様に水性製剤を製した。
【0060】
〔比較例2〕
実施例1の水性製剤で使用したヒアルロン酸の代わりに、平均分子量80万のヒアルロン酸(商品名「ヒアルロンサンHA−F」、キユーピー(株)製)を使用する以外は、実施例1と同様に水性製剤を製した。
【0061】
〔比較例3〕
実施例1の水性製剤で使用したヒアルロン酸の代わりに、平均分子量130万のヒアルロン酸(商品名「ヒアルロンサンHA−LQ」、キユーピー(株)製)を使用する以外は、実施例1と同様に水性製剤を製した。
【0062】
〔比較例4〕
実施例1の水性製剤で使用したヒアルロン酸の代わりに、調整例1の平均分子量9千のヒアルロン酸と、平均分子量40万のヒアルロン酸(商品名「ヒアルロンサンHA−LF」、キユーピー(株)製)を混合し、平均分子量が10万となるように調整したヒアルロン酸を使用する以外は、実施例1と同様に水性製剤を製した。
【0063】
〔試験例1〕
実施例1〜3、ならびに比較例1〜4で得られた水性製剤の状態について、沈殿、濁りの有無を目視で評価した。評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2より、本発明の平均分子量10万以下のヒアルロン酸および/またはその塩を配合した実施例1〜3の水性製剤は、いずれのエタノール濃度の場合も、平均分子量が10万超のヒアルロン酸および/またはその塩を配合した比較例1〜3で確認されたヒアルロン酸および/またはその塩の沈殿がなく、良好な性状であった。一方、比較例4においては、ヒアルロン酸の平均分子量は10万であるが、2%ヒアルロン酸水溶液1部に対し、エタノール9部を加えたときに沈殿物が認められており、いずれのエタノール濃度の場合においても透明製剤が得られなかった。また、平均分子量5万以下のヒアルロン酸および/またはその塩を配合した実施例1又は2の水性製剤は、エタノール濃度が90%の場合も、全く沈殿がみられず、濁りも確認されなかった。以上より、高濃度のエタノールを含有する水性製剤、具体的にはエタノールを50%以上含有する水性製剤に、沈殿を生じることなく安定にヒアルロン酸および/またはその塩を含有させるには、ヒアルロン酸および/またはその塩において、平均分子量10万以下であり、かつ、2%ヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液1部に対し、エタノール9部を加えたときに沈殿物が認められないものを用いることが必要であり、特に平均分子量5万以下のものが好ましいことが理解される。
【0066】
〔試験例2〕
実施例1〜3、比較例1で得られた水性製剤の吸光度(A660)を測定した。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3より、本発明の平均分子量10万以下のヒアルロン酸および/またはその塩を配合した実施例1〜3の水性製剤は、吸光度(A660)が0.1Abs以下であった。また、平均分子量5万以下のヒアルロン酸および/またはその塩を配合した実施例1又は2の水性製剤は、エタノール濃度が高い場合にも吸光度(A660)の値が低い傾向があった。特に、平均分子量が2万以下であり、その分子量分布において、分子量1万以下の成分の割合が40%以上、かつ分子量5万以上の成分の割合が5%以下であるヒアルロン酸を配合した実施例1の水性製剤は、エタノール濃度が90%の場合にも吸光度(A660)の値はほとんど上昇しなかった。
【0069】
〔実施例4〕
実施例1で得られた水性製剤を使用して、下記の配合のプレシェーブローションを製した。得られたプレシェーブローションは、沈殿および濁りのない透明なローションであった。
<配合割合>
水性製剤(実施例1、エタノール濃度90%) 83.5%
スルホ石炭酸亜鉛 1.0%
イソプロピルミリスチン酸エステル 7.0%
イソプロピルパルミチン酸エステル 8.0%
香料 0.5%
――――――――――――――――――――――――――――――――
100%
【0070】
〔実施例5〕
実施例2で得られた水性製剤を使用して、下記の配合のデオドラントローションを製した。得られたデオドラントローションは、沈殿および濁りのない透明なローションであった。
<配合割合>
水性製剤(実施例2、エタノール濃度90%) 80.0%
パラフェノールスルホン酸亜鉛 2.0%
ジメチルポリシロキサン 13.0%
プロピレングリコール 3.0%
トリクロサン 0.1%
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 0.5%
香料 0.5%
清水 残余
――――――――――――――――――――――――――――――――
100%
【0071】
〔実施例6〕
実施例3で得られた水性製剤を使用して、下記の配合の外用殺菌製剤を製した。得られた殺菌製剤は、沈殿および濁りのない透明な製剤であった。
<配合割合>
水性製剤(実施例3、エタノール濃度80%) 96.5%
イソプロピルアルコール 3.5%
――――――――――――――――――――――――――――――――
100%
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、ヒアルロン酸のクロマトグラムの一例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸および/またはその塩、並びに製剤全体に対してエタノールを50%以上含有する水性製剤であって、前記ヒアルロン酸および/またはその塩が以下の要件を満たすことを特徴とする水性製剤。
(a)平均分子量10万以下。
(b)2%ヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液1部に対し、エタノール9部を加えたときに沈殿物が認められない。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸および/またはその塩が平均分子量5万以下である、請求項1記載の水性製剤。
【請求項3】
前記ヒアルロン酸および/またはその塩が平均分子量2万以下である、請求項1又は2記載の水性製剤。
【請求項4】
前記ヒアルロン酸および/またはその塩が、分子量1万以下の成分の割合が40%以上、かつ分子量5万以上の成分の割合が5%以下の分子量分布である、請求項2又は3記載の水性製剤。
【請求項5】
前記ヒアルロン酸および/またはその塩の含有量が、0.0001〜2%である請求項1乃至4のいずれかに記載の水性製剤。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸および/またはその塩が、2%ヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液1部に対し、エタノール9部を加えたときの吸光度(A660)が0.1Abs以下であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の水性製剤。
【請求項7】
請求項1乃至6の水性製剤を含有する化粧料。
【請求項8】
請求項1乃至6の水性製剤を含有する殺菌製剤。





【図1】
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【公開番号】特開2008−266261(P2008−266261A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114676(P2007−114676)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】