説明

エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物及び当該組成物を用いた多層構造体

【課題】 EVOH樹脂にブレンドするだけで、ポリエステル系樹脂との接着性を向上させることができ、しかもブレンドした樹脂組成物の調製、多層構造体を安定的に製造できるEVOH樹脂組成物、及び当該樹脂組成物からなる層の少なくとも片面にポリエステル系樹脂層が設けられた多層構造体を提供する。
【解決手段】 (A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(EVOH樹脂)、及び(B)塩基性アミン化合物を含有し、好ましくはEVOH樹脂(A)100重量部あたり、(B)塩基性アミン化合物0.01〜10重量部含有されている。また、アルカリ土類金属、アルカリ金属、及び炭素数2〜4のカルボン酸を含有していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性樹脂を用いなくても耐剥離性に優れた多層構造体を得ることができるエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(以下、「EVOH樹脂」と称することがある)の組成物、およびこれを用いた多層構造体に関するものであり、特にポリエチレンテレフタレート(以下、「PET樹脂」と称することがある)等のポリエステル系樹脂と共射出成形、共押出成形して、耐剥離性に優れた多層構造体を得ることができるEVOH樹脂の組成物、及びこれを用いた多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂を延伸ブロー成形して得られる容器は、透明性、力学的特性に優れることから、幅広い分野で利用されている。そして、このポリエステル系樹脂製のフィルム、容器に、ガスバリア性を付与するために、EVOH樹脂を積層した多層構造体とすることが一般に行われている。
【0003】
ポリエステル系樹脂フィルムとEVOH樹脂フィルムとを積層した多層構造体については、ポリエステル系樹脂に対するEVOH樹脂の接着性が低いので、通常、接着性樹脂層(通常、酸無水物変性樹脂を使用)を介在させて積層している。
しかしながら、EVOH樹脂層と熱可塑性樹脂層間に接着性樹脂層を介在させることが非常に困難な成形方法による多層構造体においては接着性樹脂を用いることが最早不可能な場合がある。たとえば、PET/EVOH/PET構成の多層ボトルなどは共射出成形法によって製造されるが、共射出成形装置としては2種構成の成形機が市場の主流であるため、PET/EVOH層間に他原料である接着性樹脂を介在させることは装置上の理由により困難である。接着性樹脂を介在していない多層構造体では、EVOH樹脂層と熱可塑性樹脂層間が剥離するという問題が生じる。
【0004】
近年、ある特定化合物を含有させたEVOH樹脂とPET樹脂との延伸ブロー成形では、接着性樹脂を使用しなくても耐剥離性に優れることが見出されたことから、接着性樹脂を介在させずに積層した多層構造体の製造に適したEVOH樹脂組成物の開発、研究が進められている。
【0005】
例えば、特開2006−82236号公報(特許文献1)には、イオン性官能基を含有するEVOH樹脂を用いることが提案されている。具体的には、スルホン酸、カルボン酸等のアニオン性基、アミン、アンモニウム塩等のカチオン性基を含有する低分子化合物、高分子化合物を含有させることを提案している。含有方法としては、ケン化により得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH樹脂)にイオン性官能基含有成分を付加反応させて導入する方法や、付加反応させた後、エチレン−ビニルエステル共重合体をケン化してEVOH樹脂に変換する方法等が挙げられている(段落番号0050)。
また、実施例では、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムをランダム共重合させて得られた変性EVOH樹脂を用いている。
【0006】
特開2007−508167号公報(特許文献2)には、EVOH樹脂とエステル含有樹脂との積層体について、アミンポリマーをブレンドしたEVOH樹脂組成物では、エステル含有樹脂層との接着性が改善され、エステル含有樹脂層との耐剥離性が向上した旨が開示されている。具体的には、アルキレンイミンポリマー(特にポリエチレンイミン)を、EVOH樹脂にブレンドすることを提案しており、実施例では、分子量1200のポリエチレンイミンを2%配合したEVOH樹脂がポリエチレンイミンを用いたエステル含有層との積層体は、これをブレンドしていないEVOH樹脂とエステル含有層との積層体よりも耐剥離性に優れていたこと、さらにポリエチレンイミンの配合量を0.25−2%に増大させた場合に、配合量の増加とともに剥離発生が低下したことが示されている(段落番号0022、0023)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−82236号公報
【特許文献2】特開2007−508167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法では、イオン性官能基含有化合物をEVOHポリマー鎖自体に導入した変性EVOH樹脂を合成する必要があるため、EVOH樹脂の重合設備、条件の設定など、生産現場における汎用性に欠けるという問題があり、現在、製造されているEVOH樹脂にブレンドするだけで耐剥離性が改善されるEVOH樹脂組成物の開発が望まれる。
【0009】
一方、特許文献2は、ブレンドするだけで耐剥離性を改善できる化合物、及びこれをブレンドした樹脂組成物を提案している。しかしながら、反応性官能基を有するポリマーをブレンドする場合、EVOH樹脂の水酸基とブレンドしたポリマーとの官能基が反応する等の理由により、混練時の粘度が増大するといった問題を生じる場合がある。また、このように粘度が増大した樹脂組成物を溶融成形して得られた多層構造体には、フィッシュアイなどの外観不良が発生するおそれがある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、EVOH樹脂にブレンドするだけで、ポリエステル系樹脂との接着性を向上させることができ、しかもブレンドした樹脂組成物の調製、多層構造体を安定的に製造できるEVOH樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、EVOH樹脂への添加物について種々検討した結果、特定の低分子化合物を添加した場合、ポリエステル樹脂への接着性に優れ且つ高温での熱安定性にも優れ、接着性樹脂層を介在させることなく、ポリエステル樹脂層に直接積層させた積層構造体の提供可能な樹脂組成物を得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物(EVOH樹脂組成物)は、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物、及び(B)塩基性アミン化合物を含有する。(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物100重量部あたり、(B)塩基性アミン化合物0.01〜10重量部含有されていることが好ましい。
【0013】
前記(B)塩基性アミン化合物は、水に溶解したときの等電点(pI)が7以上である化合物であることが好ましく、より好ましくは、アルギニン、ヒスチジン、及びリジンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0014】
250℃、窒素雰囲気下で1時間保持した際の重量減少率が4重量%以下であることが好ましく、前記(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物は、下記一般式で示される1,2−ジオール単位を有していることが好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。)
【0017】
また、本発明のEVOH樹脂組成物において、アルカリ土類金属(C−ae)、アルカリ金属(C−a)、及び炭素数2〜4のカルボン酸(C−ca)を含有していることが好ましい。
【0018】
本発明の多層構造体は、上記本発明のEVOH樹脂組成物からなる層の少なくとも片面にポリエステル系樹脂層が設けられたものであり、共射出成形により成形されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のEVOH樹脂組成物は、ポリエステル樹脂との接着性に優れ、しかも熱安定性に優れているので、接着性樹脂を用いないでポリエステル系樹脂層と共押出、共射出成形することができる。
特に塩基性アミン化合物として、低分子のアミン化合物を用いた場合には、高温でEVOH樹脂と溶融混練しても、アミン系ポリマーで問題となるような粘度増加は認められないので、溶融成形性に優れ、特にロングラン成形に適しているという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
はじめに本発明の樹脂組成物について説明する。
【0021】
<EVOH樹脂組成物>
本発明のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂組成物(EVOH樹脂組成物)は、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化物(EVOH樹脂)を主成分とし、(B)塩基性アミン化合物を含有する。更に好ましい形態においては、EVOH樹脂組成物中のアルカリ金属、アルカリ土類金属、炭素数2〜4のカルボン酸を含むものであり、さらに好ましくはそれらの含有量が特定範囲内に調節されている。以下、各成分について詳述する。
【0022】
〔(A)EVOH樹脂〕
本発明で用いるEVOH樹脂とは、公知の樹脂であり、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位とを主とし、ケン化時に残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むもので、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記EVOH樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で、共重合可能なエチレン性不飽和単量体が共重合された共重合体ケン化物、又はEVOH樹脂を後変性することにより得られる変性EVOH樹脂を含む。
本発明においては、一般的に食品包装用のフィルムなどとして公知のEVOH樹脂を用いることができる。
【0023】
エチレンとビニルエステルモノマーとの重合(さらに後述するその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体を含む場合は、その他のエチレン性不飽和単量体との重合)は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などを採用できる。
得られたエチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法、すなわちエチレン−ビニルエステル系共重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。前記アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。前記酸触媒としては、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルホン酸などを用いることができる。この他、ゼオライト、カチオン交換樹脂などを、ケン化触媒として用いることもできる。
【0024】
上記ビニルエステルモノマーとしては、一般的に酢酸ビニルが用いられるが、他のビニルエステルモノマー、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等の、通常炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜10、特に好ましくは炭素数4〜7の脂肪族ビニルエステルを用いてもよい。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0025】
本発明で用いるEVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて計測した値で、通常20〜60モル%、好ましくは25〜50モル%、特に好ましくは25〜40モル%である。エチレン構造単位の含有量が低すぎた場合は、高湿時のガスバリア性、耐水溶解性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎた場合、水酸基の含有量が相対的に減少しすぎることになるため、ガスバリア性およびPET樹脂との層間接着性が不足する傾向がある。
【0026】
前記EVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて計測した値で、通常90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、特に好ましくは99〜100モル%である。かかるケン化度が低すぎた場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0027】
前記EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5〜100g/10分であり、好ましくは1〜50g/10分、特に好ましくは2〜35g/10分である。MFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎた場合には粘度が高すぎて流動不良が生じて、スジ・ムラなどの外観不良を発生する傾向がある。
【0028】
(A)成分のEVOH樹脂は、エチレン、ビニルエステルモノマー以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を、例えば5モル%以下にて共重合されていてもよい。かかる単量体としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、3−ブテン−1,2−ジオール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタアクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類、アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0029】
本発明で用いられるEVOH樹脂は、上記のような共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合モノマーとして使用することにより変性された共重合体ケン化物の他、公知の方法により、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化などの後変性されたものであってもよい。
【0030】
変性EVOH樹脂のうち、特にヒドロキシ基含有α−オレフィン類を共重合したEVOH樹脂を用いた場合は、ブロー成形、真空成形などの二次加工性が良好になる点で好ましく、中でも1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂を用いることが好ましい。
【0031】
1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂とは、具体的には下記構造単位(1)を有するEVOH樹脂である。
【化1】

【0032】
[一般式(1)において、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【0033】
〜Rに用いることができる有機基としては、特に限定されず、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0034】
〜Rは、いずれも通常炭素数1〜30、特には炭素数1〜15、さらには炭素数1〜4の飽和炭化水素基または水素原子であることが好ましく、水素原子が最も好ましい。従って、R1〜R6がすべて水素であるものが最も好ましい。
【0035】
また、一般式(1)で表わされる構造単位中のXは、代表的には単結合である。従って、上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における最も好ましい構造は、R〜Rがすべて水素原子であり、Xが単結合である。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
【0036】
【化1a】

【0037】
尚、一般式(1)におけるXは、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、結合鎖であってもよい。結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2m−、−(CH2O)mCH2−等のエーテル結合部位を含む構造、−CO−、−COCO−、−CO(CH2)mCO−、−CO(C64)CO−等のカルボニル基を含む構造、−S−、−CS−、−SO−、−SO−等の硫黄原子を含む構造、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−等の窒素原子を含む構造、−HPO−等のリン原子を含む構造などのヘテロ原子を含む構造、−Si(OR)−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−等の珪素原子を含む構造、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−等のチタン原子を含む構造、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等のアルミニウム原子を含む構造などの金属原子を含む構造等が挙げられる(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数であり、通常1〜30、好ましくは1〜15、さらに好ましくは1〜10である。)。これらの結合鎖のうち、製造時あるいは使用時の安定性の点から、−CHOCH−、および炭素数1〜10の炭化水素鎖が好ましく、より好ましくは炭素数1〜6の炭化水素鎖、特に好ましくは炭素数1である。
【0038】
また、本発明で使用されるEVOH樹脂は、構造単位(1)を含有するEVOH樹脂と、該EVOH樹脂とは構造単位、エチレン含有量、ケン化度、分子量などが異なるEVOH樹脂のブレンド物であってもよい。
構造単位(1)を有するEVOH樹脂と構造単位が異なるEVOH樹脂としては、例えばエチレン構造単位とビニルアルコール構造単位のみからなるEVOH樹脂や、EVOH樹脂の側鎖に2−ヒドロキシエトキシ基などの官能基を有する変性EVOH樹脂を挙げることができる。エチレン含有量が異なるEVOH樹脂としては、エチレン含有量差が1モル%以上(さらには2モル%以上、特には2〜20モル%)のEVOH樹脂が好ましく用いられる。この場合、エチレン含有量以外の構成については、同じであっても異なっていてもよい。
前記EVOH樹脂のブレンド物の製造方法は特に限定されず、例えば(i)ケン化前の各EVAのペーストを混合した後ケン化する方法、(ii)ケン化後のEVOH樹脂をアルコール又は水/アルコールの混合溶媒に溶解させて得られる各EVOH樹脂の溶液を混合する方法、(iii)各EVOH樹脂をペレット状又は粉体で混合した後、溶融混練する方法などが挙げられる。
【0039】
本発明で用いられるEVOH樹脂(A)には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤などが含有されていてもよい。
【0040】
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)などの塩;または、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩などの塩等の添加剤を添加してもよい。これらのうち、特に、酢酸、ホウ酸およびその塩を含むホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加することが好ましい。
【0041】
また、ホウ素化合物を添加する場合、その添加量は、EVOH樹脂(A)100重量部に対してホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.001〜1重量部であり、好ましくは0.002〜0.2重量部であり、特に好ましくは0.005〜0.1重量部である。ホウ素化合物の添加量が少なすぎると、ホウ素化合物の添加効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。
【0042】
また、酢酸塩、リン酸塩(リン酸水素塩を含む)の添加量としては、EVOH系樹脂(A)100重量部に対して金属換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.0005〜0.1重量部、好ましくは0.001〜0.05重量部、特に好ましくは0.002〜0.03重量部である。かかる添加量が少なすぎるとその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。尚、EVOH樹脂(A)に2種以上の塩を添加する場合は、その総量が上記の添加量の範囲にあることが好ましい。
【0043】
なお、酢酸等の炭素数2〜4のカルボン酸、アルカリ金属、アルカリ土類金属については、後述のように、特定濃度範囲で本発明の樹脂組成物中に含有されることが好ましいことから、これらの添加物については、EVOH樹脂(A)として、予め、所定濃度範囲となるように、調節しておくことが好ましい。
【0044】
EVOH樹脂(A)に酢酸、ホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加する方法については特に限定されず、i)含水率20〜80重量%のEVOH樹脂(A)の多孔性析出物を、添加物の水溶液と接触させて、添加物を含有させてから乾燥する方法;ii)EVOH樹脂(A)の均一溶液(水/アルコール溶液等)に添加物を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法;iii)EVOH樹脂(A)と添加物を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法;iv)EVOH樹脂(A)の製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の有機酸類で中和して、残存する酢酸等の有機酸類や副生成する塩の量を水洗処理により調整したりする方法等を挙げることができる。
本発明の効果をより顕著に得るためには、添加物の分散性に優れるi)、ii)の方法、有機酸およびその塩を含有させる場合はiv)を併用する方法が好ましい。
【0045】
〔(B)塩基性アミン化合物〕
(B)塩基性アミン化合物とは、4%水溶液(25℃)におけるpHが7〜14となるアミン系化合物で、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4アンモニウム塩のいずれであってもよい。好ましくは第1級アミン又は第2級アミンを含有する化合物である。また、合成化合物に限らず、天然由来の化合物であってもよく、例えば、天然材料からの抽出物、微生物の二次生産物などであってもよい。但し、本発明で用いられる(B)塩基性アミン化合物は、低分子化合物に属するものであり、その分子量は、通常50〜300であり、好ましくは100〜200である。
【0046】
このような(B)塩基性アミン化合物としては、具体的には、脂肪族アルキルアミン、グアニジン系化合物、塩基性アミノ酸、メラミン系化合物、尿素系化合物、アンモニウム系化合物などを用いることができ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上組合せて用いてもよい。これらのうち、グアニジン系化合物または塩基性アミノ酸が、EVOH樹脂の熱分解や架橋による粘度増加などの熱安定性低下を引き起こさずにポリエステル系樹脂との接着力を改善できる点から、好ましく用いられる。
また、塩基性アミノ酸の場合、イオン性官能基として、アミノ基の他にカルボキシル基も有しており、このカルボキシル基が、EVOH樹脂中のOH基、ポリエステル系樹脂中のエステル結合と作用することが可能である。結果的として、EVOH樹脂とポリエステル系樹脂との双方に対して水素結合、化学結合などを形成することが可能であるために、EVOH樹脂に、ポリエステル系樹脂に対する接着性、耐剥離性を付与することができるものと考えられる。
【0047】
上記グアニジン系化合物としては、炭酸グアニジン、リン酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン等のグアニジン塩や重炭酸アミノグアニジンなどアミノグアニジン塩などが挙げられる。
本発明で用いられるグアニジン系化合物としては、グアニジンの炭酸塩(4%水溶液(25℃)のpH=11.4)、リン酸塩(4%水溶液(25℃)のpH=8.8)、スルファミン酸塩(4%水溶液(25℃)のpH=7.7)を用いることができるが、アニオンの酸性が弱いほどポリエステル系樹脂との接着改善効果に優れる点から、炭酸塩である炭酸グアニジンが最も好ましい。
【0048】
上記塩基性アミノ酸としては、アルギニン(L体:pI=10.76)、カナバニン(L体:pI=7.93)、オルニチン(L体:pI=10.76)、ヒドロキシリジン(L体:pI=8.64)、リジン(L体:pI=9.74)、ヒスチジン(L体:pI=7.59)などが挙げられる。
本発明で用いられる塩基性アミノ酸とは、アミノ酸のうち塩基性を示すもので、等電点(pI:全体としての電荷が0となるpH)が7以上のアミノ酸をいう。アミノ酸は、分子中にアミノ基とカルボキシル基を有する両性電解質であり、アミノ酸残基部分に、アミノ基を有することで、塩基性となっている。
【0049】
アミノ酸は、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸だけでなく、他の修飾アミノ酸、人工アミノ酸であってもよい。このようなアミノ酸としては、例えば、アルギニン(L体:pI=10.76)、カナバニン(L体:pI=7.93)、オルニチン(L体:pI=10.76)、ヒドロキシリジン(L体:pI=8.64)、リジン(L体:pI=9.74)、ヒスチジン(L体:pI=7.59)などが挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、pIが9以上のアミノ酸であり、特に好ましくは10以上のアミノ酸である。
また、これらのうち、特に生体タンパク質を構成するアミノ酸であるアルギニン、リジン、及びヒスチジンからなる群より選ばれることが好ましく、ポリエステル層との接着性向上の点ではpI値が最も高いアルギニンが特に好ましい。
なお、これらのアミノ酸は、L体であっても、D体であっても、ラセミ体(DL体)であってもよいが、好ましくはL体である。L型アミノ酸は、天然に存在する物質であることから、食品包装材料に添加する添加剤としては環境に優しく、食品安全性に対する信頼性が高いという利点がある。
【0050】
上記メラミン系化合物としては、メラミン、ピロリン酸メラミン、硫酸メラミン、変性メラミン、メラミンシアヌレート等の低分子化合物が挙げられる。
上記尿素系化合物としては、低分子化合物である尿素又はその誘導体が挙げられる。
上記アンモニウム系化合物の具体例としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、ビステトラゾールジアンモニウム等が挙げられる。
【0051】
以上のような(B)塩基性アミン化合物は、アルカリとして作用できることから、共押出又は共射出成形時に、ポリエステルに作用してエステル結合の一部を分解し、次いで、その一部をEVOH樹脂のOH基との結合形成を可能にすることで、EVOH樹脂層とポリエステル系樹脂層との接着性向上に寄与できるのではないかと推測される。この点、アミン系ポリマーであっても、同様に、アミンに由来する窒素原子(好ましくはアミノ基またはイミノ基)の作用によりポリエステル系樹脂との接着性を向上させることができると考えられる。しかしながら、高分子化合物の場合、1分子鎖における反応点が多いため、樹脂組成物の調製において、EVOH樹脂と反応して三次元網目構造のポリマーを形成してしまうおそれがあり、その結果、溶融混練時の粘度増大をもたらし、溶融成形した多層構造体においてはフィッシュアイなどの外観不良が発生するおそれがあるのに対して、低分子化合物ではそのようなおそれがない点で優れている。
【0052】
さらに、低分子化合物では、高温でEVOH樹脂と溶融混練しても過度の粘度増加が起こりにくいという点から、芳香族ポリエステル系樹脂との多層構造体の製造に関して好ましい。後述するように、芳香族ポリエステル系樹脂層を含む多層構造体の製造では、EVOH樹脂の成形温度を芳香族ポリエステル系樹脂の成形温度にあわせて行う必要があり、両樹脂が合流するダイ温度は芳香族ポリエステル系樹脂の成形温度に見合った比較的高温に設定する必要がある。従って、高温でEVOH樹脂と溶融混練しても問題となるような粘度増加が認められないということは、前記多層構造体のロングラン成形に適しているという利点、ひいては、所望の効果を得るために、広範囲から配合量を選択できるという優位性もある。
【0053】
(B)塩基性アミン化合物の含有量は、(A)EVOH樹脂100重量部対して、0.01〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜2重量部である。塩基性アミン化合物の配合量が増大するほど、ポリエステル系樹脂との接着性改善効果は増大するが、樹脂組成物におけるEVOH樹脂の含有率が相対的に低下することになって、ガスバリア性低下をもたらす傾向にある。
【0054】
〔(C)アルカリ金属、アルカリ土類金属、炭素数2〜4のカルボン酸〕
ポリエステル系樹脂との接着性がより優れるという点で、本発明のEVOH樹脂組成物は、アルカリ土類金属、アルカリ金属、炭素数2〜4のカルボン酸を含有することが好ましい。さらには、アルカリ土類金属を特定濃度で含有するとともに、アルカリ金属、炭素数2〜4のカルボン酸に対する含有量比率が特定範囲に調節されたものである場合、ポリエステル系樹脂との接着性が非常に優れる点で好ましい。
【0055】
具体的には、下記要件(α),(β),及び(γ)を充足するように、アルカリ金属(alkali metal:「C−a」と略記することがある)、アルカリ土類金属(alkaline earth metal:「C−ae」と略記することがある)、炭素数2〜4のカルボン酸(carboxylic acid:C−ca」と略記することがある)を含有することが好ましい。
(α)アルカリ土類金属(C−ae)のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対する含有率が10超〜50ppm、
(β)アルカリ金属(C−a)のアルカリ土類金属(C−ae)に対する含有量比〔(C−a)/(C−ae)〕=0.001〜0.5、
(γ)炭素数2〜4のカルボン酸(C−ca)のアルカリ土類金属(C−ae)に対する含有量比〔(C−ca)/(C−ae)〕=5〜30。
【0056】
アルカリ土類金属は、ポリエステル系樹脂内に含まれるカルボキシル基とEVOH樹脂内に含まれる水酸基とのエステル化反応触媒として働き、ポリエステル系樹脂との接着性を向上させる効果を発揮することが期待できる。
本発明においては、アルカリ土類金属がEVOH樹脂に対して特定濃度で含有される(要件(α))とともに、アルカリ金属、炭素数2〜4のカルボン酸に対して、特定範囲に調節されていること(要件(β)及び要件(γ))が好ましい。
【0057】
EVOH樹脂は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物をケン化触媒に用いて製造されることから、ケン化時に副生する酢酸又はEVOHポリマー鎖末端に微量発生するカルボキシル基が、前記ケン化触媒を構成しているアルカリ金属と塩を形成する。従って、EVOH樹脂中には、通常、アルカリ金属が含まれており、未洗浄の状態では、アルカリ金属が、EVOH樹脂に対して金属換算で3000ppm程度含有されている。要件(β)は、アルカリ土類金属に対するアルカリ金属の含有量比が特定範囲であることを示すものであり、要件(β)を充足するために、必要に応じて、洗浄等により、アルカリ金属を除去されることもある。
【0058】
また、通常、EVOH樹脂の製造にあたり、重合用モノマー由来のカルボン酸が微量、残存したり、ケン化工程では、カルボン酸が微量(例えば10ppm未満)副生される。また、溶液のpH調整のためにカルボン酸を添加する場合もある。これらの理由から、通常、EVOH樹脂にはカルボン酸が含有されている。要件(γ)は、炭素数2〜4のカルボン酸の含有量が、通常、不純物として含有されている濃度以上であり、かつアルカリ土類金属に対して特定範囲に調節されていることを示すものである。
【0059】
(1)要件(α)について
アルカリ土類金属(C−ae)は、EVOH樹脂あたり、通常10超〜50ppm、好ましくは15〜45ppm、特に好ましくは20〜40ppm、最も好ましくは25〜35ppm含有される。
アルカリ土類金属が多すぎると、EVOH樹脂の熱分解が促進されて分解ガスが発生しやすくなり、特に高温で溶融成形した多層構造体において着色や気泡が発生する原因となる。一方、少なすぎると、ポリエステル系樹脂との層間接着性が不足して多層構造体での層間剥離が生じやすくなる。
【0060】
アルカリ土類金属(C−ae)としては、べリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して含有させることができる。これらのうち、好ましくはマグネシウム及びカルシウムであり、より好ましくはマグネシウムである。
【0061】
このようなアルカリ土類金属は、通常、低分子化合物(具体的には、塩,水酸化物等)として含有される。EVOH樹脂中における分散性の点から、好ましくは塩である。
【0062】
塩の場合、炭酸塩、炭酸水素塩等、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機塩であってもよいし、炭素数2〜11のモノカルボン酸塩(酢酸塩、酪酸塩、プロピオン酸塩、エナント酸塩、カプリン酸塩など)、炭素数2〜11のジカルボン酸塩(シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、スベリン酸塩、セバチン酸塩など)、炭素数12以上のモノカルボン酸塩(ラウリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、12ヒドロキシステアリン酸塩、ベヘン酸塩、モンタン酸塩)等の有機酸塩であってもよい。また、これらの混合物であってもよい。
【0063】
アニオンの酸性が弱いほどポリエステル系樹脂との接着改善効果に優れる点から、アニオンの酸性が弱い有機酸塩が好ましく用いられる。より好ましくは水溶性の低分子量化合物である炭素数2〜4のモノカルボン酸塩であり、さらに好ましくは酢酸塩、プロピオン酸塩であり、最も好ましくは酢酸塩である。
【0064】
リン酸塩は、アニオンの酸性が強く、ポリエステル系樹脂との接着性を低下させる原因となり得るので、リン酸塩として含有する場合には、後述するアルカリ金属塩のアニオンとの総量で、リン酸根として5ppm以下となるように含有させることが好ましい。ここで、リン酸根は、EVOH樹脂組成物の粉末試料を0.01規定塩酸水中で95℃、6時間処理した抽出液からイオンクロマトグラフィーで定量される値である。
【0065】
(2)要件(β)について
アルカリ金属(C−a)とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムをいい、これらは1種または2種以上混合して用いることができる。これらのうち、好ましくはナトリウムおよびカリウムであり、特にナトリウムが好ましい。
【0066】
アルカリ金属は、通常、低分子化合物(具体的には、塩,水酸化物等)として含有される。EVOH樹脂中における分散性の点から、好ましくは塩として含有される。
【0067】
塩の場合、炭酸塩、炭酸水素塩等、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機塩であってもよいし、炭素数2〜11のモノカルボン酸塩(酢酸塩、酪酸塩、プロピオン酸塩、エナント酸塩、カプリン酸塩など)、炭素数2〜11のジカルボン酸塩(シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、スベリン酸塩、セバチン酸塩など)、炭素数12以上のモノカルボン酸塩(ラウリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、12ヒドロキシステアリン酸塩、ベヘン酸塩、モンタン酸塩)等の有機酸塩であってもよい。また、これらの混合物であってもよい。
好ましくは有機酸塩であり、さらに好ましくは水溶性の低分子量化合物である炭素数2〜4のモノカルボン酸塩であり、特に好ましくは酢酸塩、プロピオン酸塩であり、最も好ましくは酢酸塩である。
【0068】
アルカリ金属(C−a)は、アルカリ土類金属(C−ae)に対する重量比〔(C−a)/(C−ae)〕が下記範囲を充足するように含有される。すなわち、〔(C−a)/(C−ae)〕にて、通常、0.001〜0.5、好ましくは(C)/(B)=0.005〜0.2、さらに好ましくは(C)/(B)=0.01〜0.1である。
尚、アルカリ金属(C−a)は、EVOH樹脂当たり、通常、0.01超〜25ppmであり、好ましくは0.05〜10ppm、さらに好ましくは0.1〜5ppmである。
【0069】
特に、アルカリ金属にナトリウムが含まれる場合、ナトリウムは高温で溶融成形した際の熱着色や熱分解に及ぼす影響が大きいため、ナトリウム分の上限を上記条件より少なく設定することが好ましい。すなわち、アルカリ土類金属に対するナトリウム含有量の重量比((ナトリウム)/(C−ae))は、好ましくは0.001〜0.2であり、より好ましくは、0.001〜0.1である。
尚、ナトリウムは、EVOH樹脂あたり、通常0.01〜5ppm、好ましくは0.01〜2ppmである。
【0070】
また、リン酸塩は、アニオンの酸性が強く、ポリエステル系樹脂との接着力を低下させる原因となり得るので、リン酸アルカリ金属塩とリン酸アルカリ土類金属塩との総量で、リン酸根が5ppm以下となるようにすることが好ましい。ここで、リン酸根は、EVOH樹脂組成物の粉末試料を0.01規定塩酸水中で95℃、6時間処理した抽出液からイオンクロマトグラフィーで定量される値である。
【0071】
〔(C−a)/(C−ae)〕が高すぎると、アルカリ土類金属(C−ae)と共存した状態でアルカリ金属(C−a)の含有量が多すぎることを意味し、EVOH樹脂の着色が目立つようになるだけでなく、EVOH樹脂の耐熱性が低下する。このため、高温で溶融成形して多層構造体を製造する場合、生じた分解ガスにより、EVOH樹脂組成物層が発泡したり、発泡した近傍ではピンホールが生じるなど、外観が損なわれ、ひいてはEVOH樹脂組成物層のガスバリア性も損なわれる。
【0072】
ところで、EVOH樹脂は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムといった、アルカリ金属の水酸化物をケン化触媒に用いて製造されている。このような触媒中のアルカリ金属は、ケン化時に副生する酢酸ナトリウムとして、あるいはEVOHポリマー鎖末端に微量発生するカルボキシル基と塩を構成することにより、EVOH樹脂中に必然的に存在する。このような事情の下、EVOH樹脂中に存在するアルカリ金属量は、未洗浄の状態では、EVOH樹脂に対して3000ppm程度である。
【0073】
しかしながら、アルカリ金属量を上述の範囲内で含有させる場合、EVOH樹脂中にアルカリ金属が所定量以上に残存しているときには、通常時よりもさらにEVOH樹脂を洗浄することにより、アルカリ金属の含有率を上記特定微量に調節する。具体的に説明すると、水洗のみでは、上記特定微量濃度にまでアルカリ金属を除去することは困難である。従って、ケン化により製造されるEVOH樹脂を用いる場合、酢酸等の酸で洗浄した後、水洗したEVOH樹脂を用いることが好ましい。特に、ポリマー鎖末端のカルボキシル基と結合しているアルカリ金属については、酸で洗浄することにより効率よく除去することができる。
【0074】
但し、洗浄精度の向上、あるいは酸触媒存在下でケン化したEVOH樹脂のように、アルカリ金属がほとんど含有されていないEVOH樹脂を用いる場合、またはアルカリ金属含有量を調整したい場合等には、別途、アルカリ金属を添加することも差し支えない。
【0075】
(3)要件(γ)について
炭素数2〜4のカルボン酸(C−ca)は、モノカルボン酸、ジカルボン酸、飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のいずれであってもよいし、さらには分子内の炭素数2〜4の範囲内であれば、分岐を有するものであってもよいし、ヒドロキシル基等の置換基を有するカルボン酸であってもよい。具体的には、酢酸、酪酸、プロピオン酸のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸;グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸等のヒドロキシ酸;アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
中でもEVOH樹脂中の分散性の点から、炭素数2〜4のモノ又はジカルボン酸が好ましく、経済的な点から炭素数2〜4のモノカルボン酸がより好ましく、特に好ましくは、酢酸である。
【0076】
炭素数2〜4のカルボン酸(C−ca)は、従来は150〜250℃での溶融成形における耐熱性改善の目的でEVOH樹脂に適量配合させることが多かったが、本発明においては、アルカリ土類金属によって得られた接着性改善を阻害させずに、さらに後述する芳香族ポリエステル系樹脂などの高融点熱可塑性樹脂との共押出成形、共射出成形が可能なように、280℃近傍でのEVOH樹脂の熱分解を緩和する目的で配合される。
【0077】
炭素数2〜4のカルボン酸(C−ca)の含有量は、アルカリ土類金属に対する重量比〔(C−ca)/(C−ae)〕で、通常、5〜30、好ましくは10〜20である。
尚、炭素数2〜4のカルボン酸(C−ca)のEVOH樹脂あたりの含有量は、通常、50超〜1500ppm程度であり、好ましくは100〜1000ppm、更に好ましくは200〜700ppm、特に好ましくは250〜500ppm程度含有されることになる。
【0078】
〔(C−ca)/(C−ae)〕が低すぎると、即ちカルボン酸量が少なすぎると、耐熱分解性が低下し、280℃近傍では熱分解が顕著になり、高温で溶融成形した多層構造体において着色や気泡が発生する原因となる。一方、〔(C−ca)/(C−ae)〕が多すぎると、カルボン酸量が多すぎることを意味し、ポリエステル系樹脂との層間接着力が低下する傾向にある。
【0079】
ここで、EVOH樹脂の原料モノマーとして、酢酸ビニルを使用している場合、エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物には、ごく微量の酢酸が含有される。また、エチレン−酢酸ビニル系共重合体のケン化により製造されるEVOH樹脂の場合、不純物としての酢酸がごく微量(例えば10ppm未満)、副生する。また、上記アルカリ金属量を低減させるために、EVOH樹脂を酢酸等のカルボン酸水溶液で洗浄する場合においても、EVOH樹脂に、若干の酢酸等のカルボン酸が含有されている場合がある。
しかしながら、要件(γ)においては、炭素数2〜4のカルボン酸の含有量が、通常、不純物として含有されている濃度以上であり、アルカリ土類金属に対して特定多量、含有されているところに特徴がある。よって、要件(γ)を充足するためには、必要に応じて、別途EVOH樹脂にカルボン酸を添加する。
【0080】
なお、上記カルボン酸濃度は、乾燥して得られたEVOH樹脂組成物の粉末試料を95℃の熱水中で10時間処理した水抽出液から、イオンクロマトグラフィーで定量することにより測定される濃度である。従って、(C−ca)成分には、EVOHポリマー鎖に残存する未ケン化部分として化学結合しているカルボキシル基に由来するカルボン酸は含まれない。一方、アルカリ土類金属およびアルカリ金属がカルボン酸塩として含有され、そのカルボン酸が上記炭素数2〜4のカルボン酸である場合、当該金属塩由来の炭素数2〜4のカルボン酸イオンは(C−ca)成分に合算される。
【0081】
(4)含有量比率の調節
要件(α)(β)(γ)を充足する方法は特に限定しないが、EVOH樹脂(A)において、予め要件(α)(β)(γ)を充足させておくことが好ましい。具体的には、以下のような方法でEVOH樹脂を合成することで、要件(α)(β)(γ)を充足するEVOH樹脂を得ることができ、ひいては要件(α)(β)(γ)を充足した樹脂組成物を容易に調製することができる。
【0082】
通常、EVOH樹脂はエチレン−ビニルエステル系共重合体を、アルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態でアルカリ触媒存在下でケン化されたEVOH樹脂が市販されている。(A)EVOH樹脂として、アルカリ触媒存在下でケン化されたEVOH樹脂を用いた場合のEVOH樹脂組成物の製造方法は、EVOH樹脂を酢酸で洗浄する工程;EVOH樹脂を水で洗浄する工程;及び酢酸及びアルカリ土類金属を添加する工程を含む。
【0083】
アルカリ触媒を用いたケン化により、ビニルエステル由来の酸、当該由来の酸のアルカリ金属塩が副生することから、このようなケン化方法により製造されるEVOH樹脂には、通常、不純物として、ケン化触媒に使用したアルカリ金属、ケン化反応の副生物であるカルボン酸が含まれている。従って、アルカリ土類金属、アルカリ金属、及び炭素数2〜4のカルボン酸を、上記要件(α)(β)(γ)を充足するEVOH樹脂組成物を製造するためには、不純物として含まれるアルカリ金属濃度をさらに減少させるとともに、アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のカルボン酸濃度を調節する必要がある。
【0084】
アルカリ金属の除去は、EVOH樹脂を洗浄することにより行われる。かかる洗浄方法としては、例えば(i)高濃度のEVOH樹脂溶液(ペースト状)から得られたEVOH樹脂の多孔性析出物を酸や水で洗浄する方法、(ii)高濃度のEVOH樹脂溶液(ペースト状)を酸や水で洗浄する方法等が挙げられる。
【0085】
(i)の方法において、EVOH樹脂溶液から多孔性析出物を作製する方法としては、公知の方法が採用可能である。例えば、ケン化後のEVOH樹脂溶液を凝固液槽に、ストランド状に押出して凝固し、得られたストランド状のEVOH樹脂含水多孔質体を適当な長さにカッティングすることにより多孔性析出物の含水ペレットが得られる。得られた含水ペレットを、洗浄液と接触させることにより、効率よくアルカリ金属を除去することができる。
【0086】
(ii)の方法では、高濃度のEVOH樹脂溶液(ペースト状)を洗浄液と共に棚段付容器、攪拌容器、ニーダー等の内部で接触させることにより、効率よくアルカリ金属を除去することができる。
【0087】
以上のような洗浄を行うことにより、アルカリ金属を上記で特定した濃度の範囲にまで低減せしめたEVOH樹脂を得ることができる。
【0088】
洗浄液に用いる酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の水溶性の弱酸が挙げられ、これらのうち酢酸が好ましく用いられる。
また、洗浄液に使用する水としては、イオン交換水、蒸留水、濾過水など、不純物としての金属イオンを除去した水が好ましい。
【0089】
なお、EVOH樹脂としてエチレン−ビニルエステル系共重合体を酸触媒存在下で加水分解されたEVOH樹脂を用いる場合や、上記洗浄で、アルカリ金属の含有量が不足する場合、アルカリ金属を含有させてその含有量を調節することも可能である。例えば上記の水洗後に、アルカリ金属水溶液に浸漬する方法や、後述するアルカリ土類金属および炭素数2〜4のカルボン酸と共に添加する方法により、アルカリ金属の含有量を高めればよい。
【0090】
一方、アルカリ土類金属(C−ae)及び炭素数2〜4のカルボン酸(C−ca)についてはケン化により製造されるEVOH樹脂中に不純物として混入される濃度は非常に低いので、別途添加する必要がある。
アルカリ土類金属(C−ae)及び炭素数2〜4のカルボン酸(C−ca)を添加する方法としては、公知の方法を採用することが可能である。これらは別々に添加してもよいし、アルカリ土類金属のカルボン酸塩として添加しても差し支えない。
【0091】
アルカリ土類金属(C−ae)及び炭素数2〜4のカルボン酸(C−ca)の添加方法としては、例えば、(i)EVOH樹脂と、アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)とをドライブレンドする方法;(ii)(B)アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)を水等の溶媒に溶解した後、EVOH樹脂に混合する方法;(iii)アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩溶液)にEVOH樹脂を浸漬させる方法;(iv)溶融状態のEVOH樹脂に、アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)をブレンドする方法;(v)EVOH樹脂の水/アルコール溶液の含水多孔性質体を、アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)溶液に接触させる方法;(vi)EVOH樹脂の溶液に、アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)溶液を添加後、凝固槽中に析出させる方法;(vii)高濃度のEVOH樹脂溶液(ペースト状)に、アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)を接触させる方法等が挙げられる。
【0092】
EVOH樹脂の洗浄工程と、アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のカルボン酸の添加工程の順序は特に限定しないが、製造効率の観点から、洗浄後、添加する順序が好ましい。特に、上記(i)〜(v)の方法を採用する場合には、予め洗浄(必要に応じて乾燥)することにより、アルカリ金属を所定濃度にまで低減したEVOH樹脂組成物を用いることが好ましい。(vi)の方法では、添加後、得られた含水多孔質体を洗浄、乾燥してEVOH樹脂組成物ペレットを得るものである。(v)、(vi)の方法では、洗浄に供した含水多孔質体のペレットを、続けてアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩溶液に浸漬しており、乾燥工程を1回行うだけで済むので、生産上、有利である。ペレット内部における添加剤の濃度分布を均等にできる点で、(v)の方法が最も好ましい。
【0093】
なお、溶融混練は、押出機、バンバリーミキサー、ニーダールーダー、ミキシングロール、ブラストミル等の公知の混練機を用いることができる。例えば、押出機の場合、単軸または二軸の押出機等が挙げられる。溶融混練後、樹脂組成物をストランド状に押出し、カットしてペレット化する方法が採用され得る。
【0094】
乾燥は、公知の方法で行うことができる。すなわち、静置乾燥法、流動乾燥法およびこれらの方法を併用してもよい。場合によっては、ベント付きの押出機中で溶融混練しながら乾燥させても構わない。これらのうち、初めに流動乾燥法で乾燥し、引き続いて静置乾燥法で乾燥する方法が好適である。乾燥温度は特に限定しないが、通常70〜120℃ 程度の温度が採用され、乾燥が進むにつれて温度を上昇させることもできる。乾燥後の含水率は通常1重量% 以下であり、好適には0.5重量% 以下である。こうして得られた乾燥ペレットが、以後の成形工程に供される。
【0095】
尚、アルカリ土類金属(C−ae)、アルカリ金属(C−a)、炭素数2〜4のカルボン酸(C−ca)のいずれかの含有量が、上記要件(α),(β),(γ)のいずれかを満たさないEVOH樹脂組成物であっても、上記成分の含有量が異なるEVOH樹脂を少なくとも1種類以上ブレンドすることによって、要件(α),(β),(γ)の全てを満たすEVOH樹脂組成物を得ることが可能である。このようなブレンド物としては、例えば、アルカリ土類金属が10ppm未満に調節されたEVOH樹脂組成物とアルカリ土類金属が20ppm以上(好ましくは50ppm以上)のEVOH樹脂組成物のブレンド、(C−ca/C−ae)が5未満のEVOH樹脂組成物と(C−ca/C−ae)が15以上(好ましくは30以上)のEVOH樹脂組成物といった2種類以上のEVOH樹脂組成物のブレンド物などが挙げられる。
ブレンド物の調整方法としては、特に限定はなく、ペレット同士を混ぜ合わせる方法(ドライブレンド)や、混ぜ合わせたペレットを単軸押出機、二軸押出機等で溶融混練してストランド状に押出し、カットしてペレット状の樹脂組成物を得る方法などが挙げられる。
【0096】
〔(D)その他の添加物〕
本発明の樹脂組成物には、(A)EVOH樹脂、(B)塩基性アミン化合物、(C)アルカリ金属、アルカリ土類金属、炭素数2〜4のカルボン酸の他、必要に応じて、本発明の効果を損なわない限り(例えば、樹脂組成物全体の5重量%未満にて)、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等の可塑剤;飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン)等の滑剤;アンチブロッキング剤;酸化防止剤;着色剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;抗菌剤;不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等);充填材(例えば無機フィラー等);酸素吸収剤(例えば、ポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体の環化物等);界面活性剤、ワックス;分散剤(ステアリン酸モノグリセリド等)、熱安定剤、光安定剤、乾燥剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、共役ポリエン化合物などの公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0097】
前記共役ポリエン化合物とは、炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造であって、炭素−炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。共役ポリエン化合物は、2個の炭素−炭素二重結合と1個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ジエン、3個の炭素−炭素二重結合と2個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役トリエン、あるいはそれ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ポリエン化合物であってもよい。ただし、共役する炭素−炭素二重結合の数が8個以上になると共役ポリエン化合物自身の色により成形物が着色する懸念があるので、共役する炭素−炭素二重結合の数が7個以下であるポリエンであることが好ましい。また、2個以上の炭素−炭素二重結合からなる上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も共役ポリエン化合物に含まれる。
【0098】
共役ポリエン化合物の具体例としては、イソプレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素−炭素二重結合を2個有する共役ジエン化合物;1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素−炭素二重結合を3個有する共役トリエン化合物;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素−炭素二重結合を4個以上有する共役ポリエン化合物などが挙げられる。これらの共役ポリエン化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0099】
共役ポリエン化合物の添加量は、EVOH樹脂あたり、通常0.01〜10000ppmであり、好ましくは0.1〜1000ppmであり、特に好ましくは1〜100ppmであることがより好ましい。
なお、かかる共役ポリエン化合物は、EVOH樹脂に、あらかじめ含有されていることが好ましい。
【0100】
また、本発明の樹脂組成物は、EVOH樹脂以外の他の熱可塑性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などを含有してもよい。この場合、他の熱可塑性樹脂の含有率は、樹脂組成物全体の10重量%未満、さらに5重量%未満とすることが好ましい。
【0101】
また、本発明のEVOH樹脂組成物は、着色の原因となるアルカリ金属の含有量を低減しているので、ペレットの状態としてはもちろん、加熱後も着色が少ない。従って、外観、特に黄色味の着色が問題とされるような成形品の材料としても好適である。
【0102】
以上のような組成を有するEVOH樹脂組成物は、高温での熱安定性に優れ、特に280℃近傍での高温でもEVOH樹脂の熱分解が少なくて済む。具体的には、280℃で窒素雰囲気下で1時間保持した際の重量減少率が15重量%以下、好ましくは10重量%以下である。また、250℃で窒素雰囲気下で1時間保持した際の重量減少率が4重量%以下、好ましくは2重量%以下である。
【0103】
上記重量減少率とは、溶融成形中にEVOH樹脂が分解し、分解ガスが発生して減少した重量の割合を意味する。かかる分解ガスが発生すると、両側にポリエステル系樹脂、その他の熱可塑性樹脂層を設けた多層構造体においては発生ガスの脱気が積層された樹脂層によって遮られるため、樹脂組成物層に発生したガスによって気泡が生じたり、気泡の近傍ではピンホールが発生したりすることがある。この点、本発明のEVOH樹脂組成物では、高温熱分解によるガス発生量が少量に抑制されているので、EVOH樹脂組成物を中間層とした、ポリエステル系樹脂等の他の熱可塑性樹脂との多層構造体での外観不良を抑えることができる。
【0104】
このことは、250〜310℃の高温域で溶融成形しても外観に優れた成形物を得ることが可能であることを意味する。従って、芳香族ポリエステル系樹脂のような溶融成形温度領域が高温域にある熱可塑性樹脂との共射出、共押出成形が可能となり、接着性、外観に優れた多層構造体を得ることができる。
【0105】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の樹脂組成物は、以上のような成分を混合することによって調製できる。かかる混合方法としては、溶融混合法、溶液混合法等が挙げられる。塩基性アミン化合物は、通常、粉末の状態で市販されていることから、溶融混合法が好ましい。
【0106】
溶融混合法の場合、混合順序としては、例えば下記の方法が挙げられる。
(1)(A)EVOH樹脂、(B)塩基性アミン化合物を同時に溶融混練する方法、(2)(A)EVOH樹脂を予め溶融したところに、(B)塩基性アミン化合物を配合し溶融混練する方法;(3)予め樹脂(A)EVOH樹脂に(B)塩基性アミン化合物を過剰量含有させてブレンドした高濃度組成物(一般にマスターバッチとも呼ばれる)を製造しておき、かかる組成物に樹脂(A)EVOH樹脂を加えてブレンドし、(B)塩基性アミン化合物を希釈する。なお、アルカリ金属、アルカリ土類金属、炭素数2〜4のカルボン酸を含む樹脂組成物の場合、EVOH樹脂(A)として、予め、アルカリ金属、アルカリ土類金属、炭素数2〜4のカルボン酸を含有させたEVOH樹脂を用いることで、容易に調製することができる。また、(D)その他の添加物を配合する場合、その配合順序は任意である。
【0107】
溶融混練は、押出機、バンバリーミキサー、ニーダールーダー、ミキシングロール、ブラストミル等の公知の混練機を用いて行うことができる。例えば、押出機の場合、単軸または二軸の押出機等が挙げられる。溶融混練後、樹脂組成物をストランド状に押出し、カットしてペレット化する方法が採用され得る。
【0108】
塩基性アミン化合物は水溶性で、容易に水に溶解させることができるので、溶液混合法で樹脂組成物を製造することもできる。i)含水率20〜80重量%の(A)EVOH樹脂の多孔性析出物を、(B)塩基性アミン化合物の水溶液と接触させて、塩基性アミン化合物を含有させてから乾燥する方法;ii)(A)EVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)に(B)塩基性アミン化合物を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法等でも配合することができる。得られた含水ペレットは、熱風等により攪拌分散させながら行われる流動乾燥、静置乾燥などにより乾燥される。
【0109】
<成形方法、成形品、多層構造体>
〔成形方法〕
本発明のEVOH樹脂組成物は、各種成形物の材料として用いることができる。溶融成形により例えばフィルム、シート、カップ、チューブ、パイプやボトルなどに成形することができる。かかる溶融成形方法としては、公知の手法が採用可能である。例えば、押出成形法(T−ダイ押出、チューブラーフィルム押出(ブローアップ比:通常0.7〜6)、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法等が挙げられる。溶融成形温度は、通常150〜300℃の範囲から、適宜選択される。
【0110】
〔成形品〕
本発明のEVOH樹脂組成物は、単独で、フィルム、シート、容器、棒状体、管状体等の各種成形品材料として用いることもできるが、好ましくは、他の熱可塑性樹脂層を配した多層構造体である。
多層構造体の場合、「他の熱可塑性樹脂層」を構成する熱可塑性樹脂としては、疎水性熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。例えば具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、環状ポリオレフィン、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したもの等の広義のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド、共重合ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル等のビニルエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。本発明においては、特にポリエステル系樹脂が有効に用いられる。
【0111】
〔ポリエステル系樹脂〕
ポリエステル系樹脂としては、脂肪族ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂のいずれを用いてもよい。好ましくは、剛性、耐熱性に優れている芳香族ポリエステル系樹脂を用いる。
【0112】
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結された熱可塑性重合体が挙げられ、具体的には、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が用いられる。
また、芳香族ポリエステル系樹脂としては、芳香族ジカルボン酸又はこれらのアルキルエステルとグリコールとを主として縮合重合した重合体が挙げられ、エチレンテレフタレート、エチレンナフタレートなどを主たる繰り返し単位とするポリエステルが好ましく用いられる。加工性、強度等を大幅に損なわない範囲で、エチレンテレフタレート、エチレンナフタレート構成単位以外のカルボン酸、グリコールが共重合されていてもよい。
【0113】
ポリエステル系樹脂を形成する酸成分としては、テレフタル酸、ナフタレン酸の他、イソフタル酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、コハク酸等の脂肪族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の脂環族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、p−オキシ安息香酸、オキシカプロン酸等のオキシ酸およびこれらのエステル形成性誘導体の他、トリメリット酸、ピロメリット酸等を挙げることができる。
【0114】
ポリエステル系樹脂を形成するグリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコールの他、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールの他、グリセリン、1,3−プロパンジオール、ペンタエリスリトール等を挙げることができる。
【0115】
エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とする芳香族ポリエステル系樹脂の場合、エチレンテレフタレート単位の含有量は、通常75〜100モル%、好ましくは85〜100モル%、さらに好ましくは95〜99.5モル%程度である。また、好ましい固有粘度(フェノールとテトラクロルエタンの50/50(重量比))の混合溶剤中、温度30℃にて測定)は、通常0.5〜1.3dl/gであり、好ましくは0.65〜1.2dl/g、特に好ましくは0.70〜0.90dl/gである。
【0116】
エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とする芳香族ポリエステル系樹脂の場合、エチレンナフタレートの含有量は、通常75〜100モル%、好ましくは85〜98モル%程度である。また、固有粘度は通常0.4〜1.2dl/g、好ましくは0.55〜1.0dl/g、特に好ましくは0.70〜0.90dl/gである。
【0117】
また、上記エチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂とエチレンナフタレート系ポリエステル樹脂とのブレンド物を用いることもでき、これらのブレンド物は、ガスバリア性や紫外線遮断性、溶融成形性が向上している点で好ましい。ブレンド比率は、通常エチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂が通常5〜90重量%、更には15〜85重量%であり、エチレンナフタレート系ポリエステル樹脂が通常95〜10重量%、更には85〜15重量%である。
【0118】
さらに、かかる芳香族ポリエステル系樹脂には諸特性を大幅に損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や添加剤を配合することも可能で、熱可塑性樹脂としては、MXD−6ナイロン、ポリカーボネート、ポリアリレート、液晶ポリマー等が挙げられる。
【0119】
近年の地球環境に対する影響への配慮から、ポリエステル系樹脂原料(酸成分及びグリコール成分)として、石油を精製して得られた原料に代えて、植物由来の原料を用いたポリエステル系樹脂(植物成分由来ポリエステル系樹脂)を用いてもよい。植物由来の酸成分としては、松などの木性植物、オレンジ・レモンなどの柑橘果実、天然繊維、油性植物、トウモロコシ(コーンシロップ)等に含まれるカレン、リモネン、リグニン、ヒドロキシメチルフルフラール、植物油などの成分から精製したものを用いることができる。植物由来のグリコール成分としては、さとうきび、テンサイ、トウモロコシ、ジャガイモ等などに含まれる糖、デンプンなどの成分、または、稲、麦、キビ、草植物等などに含まれるセルロースなどの成分から精製したものを用いることができる。
【0120】
〔多層構造体及びその製造方法〕
本発明の多層構造体は、本発明のEVOH樹脂組成物層を少なくとも1層有するものであればよい。
また、当該EVOH樹脂組成物層の片面又は両面に、他の熱可塑性樹脂層が積層される多層構造体の場合、必要に応じて樹脂組成物層と他の熱可塑性樹脂層との間に接着性樹脂層が介在されていてもよい。しかしながら、本発明のEVOH樹脂組成物層は熱安定性に優れているので、芳香族ポリエステル系樹脂のように、高温域で溶融成形する熱可塑性樹脂と共射出成形、共押出成形することができる。よって、接着性樹脂層が介在していなくても、接着性が良好であり、外観が良好な多層構造体を製造することができる。従って、本発明のEVOH樹脂組成物は、特に芳香族ポリエステル系樹脂との多層構造体とすることが好ましい。さらには、少なくとも芳香族ポリエステル系樹脂層/EVOH樹脂組成物層/芳香族ポリエステル系樹脂層という構造を有する多層構造体に供する原料として好適に用いることができる。
【0121】
多層構造体の層構成としては、特に限定しない。EVOH樹脂組成物層(以下、「EVOH層」と略記することがある)をI、ポリエステル系樹脂層をIIとするとき、I/IIの最小積層単位のみならず、II/I/IIの三層構造、さらにはII/I/II/I、II/I/II/I/II、II/I/II/I/II/I、II/I/II/I/II/I/II等の任意の組み合わせが可能である。更に、他の熱可塑性樹脂層や基材層をIIIとした場合、III/I/II、I/II/III、III/II/I/II/III、II/I/II/I/IIIなど、EVOH樹脂組成物層(I)及び/又はポリエステル樹脂層(II)に任意に他の熱可塑性樹脂層や基材(III)を組み合わせた多層構造体が可能である。
【0122】
また、本発明の多層構造体の各層の厚みは、層構成や用途に応じて変化させてもかまわない。通常は、EVOH層については1〜100μm(さらには5〜50μm)が好ましく、ポリエステル系樹脂層については20〜3000μm(さらには50〜1000μm)が好ましく、EVOH層が薄すぎる場合にはガスバリア性が不足することがあり、またその厚み制御が不安定となることがあり、逆に厚すぎる場合には耐衝撃性が劣ることがあり、かつ経済性が低下する傾向がある。またポリエステル系樹脂層が薄すぎる場合は耐圧強度が不足することがあり、逆に分厚すぎる場合は重量が大きくなり、かつ経済的でなく好ましくない。
また、EVOH層とポリエステル系樹脂層の厚みは、多層構造体中の同じ樹脂層の厚みを全て足し合わせた状態で、通常、ポリエステル系樹脂層の方が厚く、EVOH層/ポリエステル系樹脂層として、通常1/2〜1/100、好ましくは1/5〜1/60、さらに好ましくは1/10〜1/40である。
【0123】
尚、上記他の熱可塑性樹脂層としては、疎水性熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。例えば具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、環状ポリオレフィン、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したもの等の広義のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド、共重合ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル等のビニルエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
また基材層としては、例えば、紙、樹脂コート紙、合成紙、不織布、布、金属箔などを用いることができる。
【0124】
〔多層構造体の製造方法〕
本発明の多層構造体の製造方法について説明する。
本発明のEVOH樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂と共射出成形、共押出成形して多層構造体を作成するのに適している。
【0125】
多層構造体としてフィルムやシートを得る場合、共押出成形を採用するのが有効である。フィルムやシートなどの多層構造体は、次いで必要に応じて延伸処理を行ってもよい。かかる延伸処理とは熱的に均一に加熱された多層構造体をチャック、プラグ、真空力、圧空力、ブローなどにより、チューブ、フィルム状に均一に成形する操作を意味する。
前記延伸は、一軸延伸、二軸延伸(同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる)のいずれであってもよい。
延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法等、公知の手法が採用可能である。
【0126】
一軸延伸、二軸延伸(同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる)の場合、該延伸を行う温度は、多層構造体の温度(多層構造体近傍温度)で、通常40〜170℃、好ましくは60〜160℃程度の範囲から選ばれる。延伸倍率は、面積比にて、通常2〜50倍、好ましくは2〜20倍である。かかる延伸後、寸法安定性を付与するため、必要に応じて熱処理することも可能である。かかる熱処理は周知の手段で実施可能であり、例えば、上記延伸フィルムの緊張状態を保ちながら通常80〜180℃、好ましくは100〜165℃で、通常2〜600秒間程度、加熱することにより行う。
【0127】
フィルムやシート状の多層構造体は、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の二次加工に供することも可能である。特に、カップやトレイ等の成形された多層構造体を得る場合、フィルムやシート状の多層構造体を真空成形等の二次加工して製造することが好ましい。
【0128】
共押出又は共射出成形の場合、EVOH樹脂組成物の押出成形温度は150〜300℃(さらには160〜250℃)の範囲で適宜設定される。ここで、ポリエステル系樹脂と共押出成形する場合、ポリエステル系樹脂は通常230〜350℃(さらには250〜330℃)で押出成形を行う必要があることとの関係上、EVOH樹脂とポリエステル系樹脂とが合流するダイ温度も230〜350℃、さらには250〜330℃と、通常の押出温度よりも高温域に設定することになる。しかしながら、本発明のEVOH樹脂組成物は、高温での熱安定性に優れているので、このような高温域で溶融成形をおこなっても、粘度増加の問題は生じにくく、安定的にロングラン成形することが可能である。
【0129】
尚、他の熱可塑性樹脂層が積層された多層構造体の場合、EVOH樹脂組成物及びポリエステル系樹脂とともに共押出、共射出する方法、EVOH樹脂組成物及びポリエステル系樹脂からなる多層構造体(例えばフィルムやシート)に、他の熱可塑性樹脂を押出しする方法、他の熱可塑性樹脂のフィルム又はシート上に、EVOH樹脂組成物及びポリエステル系樹脂を共押出又は共射出する方法、EVOH樹脂組成物及びポリエステル系樹脂からなる多層構造体(例えばフィルムやシート)と他の熱可塑性樹脂フィルム又はシートとを、有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエチレンイミン系化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン系化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法などにより製造することができる。
また、基材が積層された多層構造体の場合、通常、EVOH樹脂組成物及びポリエステル系樹脂からなる多層構造体(例えばフィルムやシート)と、基材とを、有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエチレンイミン系化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン系化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法などにより製造することができる。
【0130】
かくして得られた多層構造体の形状は任意の形状を採用することができ、フィルム、シート、テープ等が例示される。また、得られる多層構造体は、必要に応じて、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、有機・無機物蒸着処理、製袋加工、深絞り加工等が施されてもよい。高いガスバリア性が要求される場合には、得られた多層構造体を基材にして、アルミニウム、アルミナ(Al23)、シリカ(SiOx、x=1又は2)などの金属あるいは無機物を蒸着させることが好ましい。
以上のようにして得られたフィルムやシート状の多層構造体は、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の二次加工に供することも可能である。二次加工により、カップ、トレイなどの広口容器を得ることができる。
【0131】
上記の如く得られたカップ、トレイ等からなる容器やフィルム、シートからなる袋や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、ペットフードなどの食品包装用途に非常に有用である。また、これらの容器やフィルム、シートで蓄肉包装する場合には、ケースレディ包装システム、真空スキンパック包装システムなどが採用される。
また、外観特性やガスバリア性、溶剤バリア性等に優れることから、農業用フィルム、壁紙用フィルム、バルーン、タイヤ用インナーライナー、真空断熱材などの各種用途にも有用である。
【0132】
〔多層中空容器及びその製造方法〕
本発明の樹脂組成物は、上記多層構造体のうち、特にタンクやボトル等の多層中空容器に好適に利用できる。多層中空容器は、共射出ブロー成形法、共押出ブロー成形法等により、好ましく製造されることができ、なかでも本発明のEVOH樹脂組成物は共射出二軸延伸ブロー成形法を好適に採用できる。
【0133】
共射出二軸延伸ブロー成形法とは、まず、少なくともEVOH層を中間層とし、その両側に他の熱可塑性樹脂層を配してなる、多層構造を有するプリフォーム(容器前駆体)を共射出成形により作製してから、これを加熱して金型内で一定温度に保ちながら縦方向に機械的に延伸し(ブロー成形)、同時あるいは逐次に加圧空気を吹き込んで円周方向に膨らませる方式である。
【0134】
多層構造を有するプリフォームを作製する場合、通常は、2台の射出シリンダーと多層マニホールドシステムを有する射出成形機を用い、単一の金型内に、溶融したEVOH樹脂組成物及び他の熱可塑性樹脂をそれぞれの射出シリンダーより、多層マニホールドシステムを通して同時あるいは時間をずらして射出することにより得られる。
【0135】
例えば、先に両外層用の他の熱可塑性樹脂を射出し、次いで中間層となるEVOH樹脂組成物を射出して、所定量のEVOH樹脂組成物を射出後に更に他の熱可塑性樹脂の射出を継続することにより、他の熱可塑性樹脂層/EVOH層/他の熱可塑性樹脂層の3層の構成からなり、中間のEVOH層が両側の他の熱可塑性樹脂層に完全に封入されたプリフォームが得られる。
【0136】
また、先に内外層用の他の熱可塑性樹脂を射出し、次いでEVOH樹脂組成物を射出して、それと同時に又はその後中心層となる他の熱可塑性樹脂を再度射出し、他の熱可塑性樹脂層/EVOH層/他の熱可塑性樹脂層/EVOH層/他の熱可塑性樹脂層の2種5層構成のプリフォームを得ることができる。
【0137】
かかるプリフォームの射出成形温度(シリンダー温度)は、他の熱可塑性樹脂の場合、樹脂の種類、融点、熱分解点により、通常150〜350℃の範囲で適宜設定される。芳香族ポリエステル系樹脂の場合、通常230〜350℃であり、さらには250〜330℃、特には270〜310℃である。かかる成形温度が低すぎる場合、芳香族ポリエステル系樹脂の溶融が不充分となることがある。
【0138】
EVOH樹脂組成物の射出成形温度(シリンダー温度)は通常150〜300℃であり、さらには160〜270℃、特には170〜260℃が好ましく、かかる範囲から、他の熱可塑性樹脂と合流する多層マニホールド部の温度に応じて、適宜設定される。
【0139】
EVOH樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とが合流する多層マニホールド部の温度は、通常射出成形温度(シリンダー温度)として高温に設定していた方の樹脂の成形温度にあわせて設定される。従って、他の熱可塑性樹脂として芳香族ポリエステル系樹脂を用いる場合、EVOH樹脂組成物と芳香族ポリエステル系樹脂とが合流する多層マニホールド部の温度は通常230〜350℃であり、さらには250〜330℃、特には270〜310℃が好ましい。本発明のEVOH樹脂組成物では、280℃でも窒素雰囲気下で1時間保持した際の重量減少率が15重量%以下といった、高温での耐熱分解性に優れているので、このようにマニホールド部温度を高温域に設定されるような共射出成形を安定的に行うことが可能である。
【0140】
また、EVOH樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とが流入する金型の温度は通常0〜80℃であり、さらには5〜60℃、特には10〜30℃が好ましく、かかる温度が低すぎる場合、金型が結露することがあるため、得られるプリフォームやボトルの外観性が低下することがある。逆に80℃を越えると、得られるプリフォームのブロー成形性が低下したり得られるボトルの透明性が低下したりすることがある。
【0141】
以上のようにして、多層構造を有するプリフォームが得られる。得られたプリフォームを直接そのまま、あるいは再加熱してブロー金型内で一定温度に保ちながら縦方向に機械的に延伸し、同時あるいは逐次に加圧空気を吹き込んで円周方向に膨らませることにより、目的とするボトルが得られる。
【0142】
射出成形されたプリフォームを温かい状態のまま、すぐに再加熱工程に送りブロー成形する方式(ホットパリソン法)と、射出成形されたパリソンを室温状態で一定時間保管した後、再加熱工程に送りブロー成形する方式(コールドパリソン法)のいずれも採用できる。一般的にはコールドパリソン法の方がボトルに充填物を充填した製品の生産性に優れる点で好ましく採用される。
【0143】
プリフォームの再加熱には、赤外線ヒーターやブロックヒーターなどの発熱体を用いて行うことができる。加熱されたプリフォームの温度は通常80〜150℃である。かかる温度が低すぎる場合、延伸の均一性が不充分となり得られる多層中空容器の形状や厚みが不均一となることがある。逆に高すぎる場合、芳香族ポリエステル系樹脂は結晶化が促進されるため、多層中空容器が芳香族ポリエステル系樹脂層を含んでいる場合、白化することがある。
【0144】
再加熱されたプリフォームは二軸延伸されて目的とする多層中空容器が得られる。一般的には、縦方向に1〜7倍程度、プラグやロッド等により機械的に延伸されてから、圧空力により横方向に1〜7倍程度延伸されて、目的とする多層中空容器が得られる。縦方向の延伸と横方向の延伸は、同時に行ってもよいし、逐次に行ってもよい。また、縦方向の延伸時に圧空力を併用することも可能である。
【0145】
以上のようにして得られた本発明の多層中空容器は、耐圧強度が通常25kg/cm2以上であり、さらには30kg/cm2以上であることが好ましい。なお、かかる耐圧強度は、耐圧試験装置(イーヴィック社製、KT−5000)を用いて測定した値である。
かかる多層中空容器の容量は任意に選択可能である。通常50mL〜10Lであり、好ましくは50mL〜5Lであり、特に好ましくは50mL〜2Lである。また、かかる多層中空容器の層構成として好ましくは、少なくともポリエステル系樹脂層/EVOH層/ポリエステル系樹脂層の構造を有するものであり、特には、芳香族ポリエステル系樹脂層/EVOH層/芳香族ポリエステル系樹脂層の2種3層の多層構造が好ましい。
【0146】
かくして得られた本発明の多層構造体は、カップ、トレイなどの多層広口容器や、タンク、ボトル等の多層中空容器として各種用途に有用である。好ましくは多層中空容器であり、特に好ましくは多層ボトルである。
これらの容器は一般的な食品の他、醤油、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌、食酢等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、清酒、ビール、みりん、ウィスキー、焼酎、ワイン等の酒類、炭酸飲料、ジュース、スポーツドリンク、牛乳、コーヒー飲料、ウーロン茶、紅茶、ミネラルウォーター等の清涼飲料水、化粧品、医薬品、洗剤、香粧品、工業薬品、農薬等各種の容器、特に、ビール、ワイン、炭酸飲料、ジュース、お茶、牛乳、コーヒー飲料等の飲料や、ソース、ケチャップ、ドレッシング等の調味料の容器として好ましく用いられる。
【実施例】
【0147】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0148】
〔測定評価方法〕
はじめに、以下の実施例で採用した測定評価方法について説明する。
(1)アルカリ金属(Na)含有率、アルカリ土類金属(Mg)含有率(重量%)
乾燥状態のEVOH樹脂又はEVOH樹脂組成物ペレットを灰化後、塩酸水溶液に溶解して、原子吸光分析法(日立社製の原子吸光光度計)によって測定を行い、標準液との吸光度の比率からアルカリ金属(Na)含有率、アルカリ土類金属(Mg)含有率を定量した。
【0149】
(2)酢酸の含有率(ppm)
乾燥状態のEVOH樹脂又はEVOH樹脂組成物ペレットを、凍結粉砕により粉砕した。得られた粉砕EVOH樹脂組成物を、呼び寸法1mmの篩(標準篩規格JIS Z−8801準拠)でふるい分けした。上記の篩を通過したEVOH樹脂組成物粉末10gとイオン交換水50mlを共栓付き100ml三角フラスコに投入し、冷却コンデンサーを付け、95℃で10時間攪拌抽出した。得られた抽出液2mlを、イオン交換水8mlで希釈した。前記希釈された抽出液を、イオンクロマトグラフィーを用いて定量分析し、酢酸量を定量した。定量に際しては、酢酸水溶液を用いて作成した検量線を用いた。
【0150】
(3)耐熱分解性(重量減少度:重量%)
乾燥状態のEVOH樹脂組成物ペレットを、250℃又は280℃窒素雰囲気下で1時間保持した。各温度の保持前後の重量を測定し、加熱前の重量に対する減少度(重量%)を算出した。評価には、熱重量測定装置「Pyris1 TGA」(パーキンエルマー製)を用いた。
【0151】
(4)ポリエステル系樹脂に対する接着性(PET/EVOH樹脂組成物/PET共押出フィルムのT−peel強度)
乾燥状態のEVOH樹脂組成物と、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(日本ユニペット社「BK6180C」 密度1.4g/cm3,融点250℃,固有粘度0.83dl/g)とを、フィードブロック3種5層の多層Tダイを備えた多層押出装置に供給して、PET層/PET層/EVOH樹脂組成物層/PET層/PET層の層構成(厚み:35/5/20/5/35μm)の多層フィルム(実質的には、厚み40/20/40μmの2種3層のフィルムに該当)を得た。得られた多層フィルムについて、オートグラフにてPET層とEVOH樹脂組成物層との間のT−peel強度を測定して、層間接着性を評価した。
【0152】
(共押出フィルム作製条件)
・中間層押出機(EVOH):40mmφ単軸押出機(バレル温度:230℃)
・上下層押出機(PET):40mmφ単軸押出機(バレル温度:280℃)
・中上下層押出機(PET):32mmφ単軸押出機(バレル温度:280℃)
・ダイ:3種5層フィードブロック型Tダイ(ダイ温度:260℃)
・引取速度:7m/分
・ロール温度:70℃
【0153】
(T−peel強度試験条件)
・装置:Autograph AGS-H(島津製作所製)
・ロードセル:50N
・試験方法:T−peel法(T型状にして剥離)
・試験片サイズ: 幅15 mm
・試験速度: 300 mm/min
【0154】
〔樹脂組成物ペレットNo.1−3の製造及び塩基性アミン化合物配合の効果〕
アルカリ土類金属を含有しない側鎖1,2−ジオール構造単位含有エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット(乾燥状態)(エチレン含有量32モル%、式(1a)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位1モル%、ケン化度99.7モル%、MFR12g/10分(210℃、2160gで測定)、揮発分0.23重量%、アルカリ金属(Na)含有量197ppm、酢酸含有量460ppm)(以下、「EVOH樹脂(A1)」と称することがある)100部に対して、表1に示すアミノ酸(和光純薬工業株式会社の試薬)を、表1に示す量だけ溶融混合し、得られた樹脂組成物を下記条件で溶融混練して、ストランド状に押出し、ペレタイザーでカットして、円柱形ペレットのEVOH樹脂組成物を得た。
【0155】
押出機:直径(D)30mm、二軸押出機
L/D=42
スクリーンパック:90/90メッシュ
スクリュ回転数 :160rpm
設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/H/D=190/210/220/220/220/220/220/220/220℃
吐出量:15kg/hr
【0156】
得られたEVOH樹脂組成物ペレットについて、下記評価測定方法に基づき、耐熱分解性、層間接着性を測定した。結果を表1に示す。
【0157】
【表1】

【0158】
アミノ酸を含有しないEVOH樹脂組成物を用いて得られた多層構造体(No.1)の接着性は、塩基性アミノ酸を含有するEVOH樹脂組成物を用いて得られた多層構造体(No.2,3)の接着性よりも劣っていた。
なお、溶融成形条件温度での重量減少は、アミノ酸を配合したいずれの場合も、アミノ酸を含有しない場合とほぼ同程度であったことから、耐熱性に与える影響は問題ないことが確認できた。
【0159】
〔樹脂組成物No.11−14の調製:塩基性化合物の配合量と溶融成形性の関係〕
上記で調製したEVOH樹脂(A1)100部に対して、アルギニン又はポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社の試薬、平均分子量約1800)を、表2に示す量だけドライブレンドし、溶融成形性を以下のようにして評価した。
温度280℃に設定されたトルク検出型レオメータ(ブラベンダー社製「プラスチコーダーPLE331」、ローラーミキサー:W50EHT)に、上記で調製した樹脂組成物ペレット55gを投入し、5分間予熱した後、回転数50rpmで溶融混練した時のトルク値(Nm)を経時的(溶融混練開始の5分後、10分後、60分後、120分後)に測定した。結果を表2に示す。
【0160】
【表2】

【0161】
配合量が2重量部に増大すると、ポリエチレンイミンでは、高温での溶融混練時の粘度増加が大きくなり、長時間安定的に溶融混練を行うことは困難であった(No.13)。ポリエチレンイミンでは、1分子鎖における反応点が多いため、配合量の増加に伴いEVOH分子との架橋によって高分子量の3次元網目構造体が加速的に精製されて急激な粘度上昇を生じたことを示したためと思われる。このように、短い溶融混練時間で顕著な粘度上昇を示す組成物は、成形機内で樹脂が硬化したり、フィッシュアイなどの外観不良の原因となるため、かかる点からも、溶融成形に適していない。
【0162】
一方、アルギニンの場合、配合量を2重量部に増大させても粘度増加は観察されず、長時間安定的に溶融混練を行うことが可能であった(No.11)。溶融混練時間が長くなっても顕著な粘度増加が認められない組成物は、高分子量の3次元網目構造体の生成が抑制されるため、ロングラン加工時のフィッシュアイ発生も少なく溶融成形に適している。
【0163】
また、接着強度増大のために、アミノ酸では、2重量部またはそれ以上の量を配合することが可能であるが、ポリエチレンイミンでは、溶融成形性との関係から、配合量を増大することは困難であることがわかる。
【0164】
〔樹脂組成物ペレットNo.21−24の調製:塩基性アミン化合物と、カルボン酸、アルカリ土類金属及びアルカリ金属との併用の効果〕
(1)カルボン酸、アルカリ土類金属、アルカリ金属の含有量比率を特定範囲に調節したEVOH樹脂ペレット(A2)の製造
冷却コイルを持つ1m3の重合缶に酢酸ビニルを500kg、メタノール80kg、アセチルパーオキシド300ppm(対酢酸ビニル)、クエン酸30ppm(対酢酸ビニル)、および3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを14kgを仕込み、系を窒素ガスで一旦置換した後、次いでエチレンで置換して、エチレン圧が43kg/cm2となるまで圧入して、攪拌しながら、67℃まで昇温して、重合率が50%になるまで6時間重合した。その後、重合反応を停止してエチレン含有量33モル%のエチレン−酢酸ビニル−ジアセトキシブテン三元共重合体を得た。
【0165】
該エチレン−酢酸ビニル−ジアセトキシブテン三元共重合体のメタノール溶液に、該共重合体中の残存酢酸基に対して、0.012当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を供給することにより、ケン化を行い、上述の側鎖1,2−グリコール結合を有する構造単位(式(1a)参照)を1.0モル%含有するEVOH樹脂のメタノール溶液(EVOH樹脂30%、メタノール70%)を得た。かかるEVOH樹脂のアセチルオキシ部分のケン化度は99.6モル%であり、乾燥後ペレットのMFRは13g/10分(210℃、荷重2160g)であった。
【0166】
得られたEVOH樹脂のメタノール溶液を冷水中に、ストランド状に押し出し、得られたストランド状物(含水多孔質体)をカッターで切断し、直径3.8mm、長さ4mmの樹脂分35%のEVOH樹脂の多孔性ペレットを得た。
【0167】
得られた多孔性ペレットを、EVOH樹脂中のナトリウム濃度2ppmとなるまで、濃度0.5%の酢酸水で洗浄した。その後、EVOH樹脂中の酢酸濃度3000ppm、及び水に対する酢酸マグネシウム濃度0.02重量%を有する酢酸/酢酸マグネシウム水溶液に浸漬した後、酸素濃度0.5%以下の窒素気流下中で110℃で8時間乾燥を行い、揮発分0.23重量%のEVOH樹脂組成物ペレット(以下、「EVOH樹脂(A2)と称することがある)を得た。
乾燥後のEVOH樹脂組成物ペレット(EVOH樹脂(A2))におけるアルカリ土類金属(Mg)含有量は26ppm、アルカリ金属(Na)含有量は0.6ppm、酢酸の含有量は330ppm、アルカリ金属(Na)/アルカリ土類金属(Mg)は0.023、g炭素数2〜4のカルボン酸(酢酸)/アルカリ土類金属(Mg)は12.7であった。このようなEVOH樹脂(A2)のペレットに、さらに、表3に示す塩基性アミン化合物を添加し、溶融混合して、樹脂組成物No.21−24を調製した。この樹脂組成物を、下記条件で溶融混練して、ストランド状に押出し、ペレタイザーでカットして、EVOH樹脂組成物の円柱形ペレットを得た。このペレットについて、280℃での耐熱分解性、及びポリエステル系樹脂に対する接着性を測定評価した。評価結果を表3に示す。参考として、塩基性アミン化合物を配合していないEVOH樹脂組成物ペレットについて、同様に評価した結果を、併せて示す。
【0168】
なお、塩基性アミン化合物としては、炭酸グアニジン(和光純薬工業株式会社の試薬)、L−アルギニン(和光純薬工業株式会社の試薬)、又はポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社の試薬、平均分子量約600)を用いた。
【0169】
(押出条件)
押出機:直径(D)32mm、二軸押出機
L/D=56
スクリーンパック:90/90メッシュ
ベント:すべて閉
スクリュ回転数 :200rpm
設定温度:C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/C9/C10/C11/C12/C13/C14/C15/C16/D
=120/190/200/200/200/200/200/200/200/200/200/200/200/200/200/200 ℃
吐出量:18kg/hr
【0170】
【表3】

【0171】
塩基性アミン化合物が配合されているNo.21−24は、参考例と比べて、いずれもPETに対する接着性が向上していた。しかしながら、塩基性アミン化合物として、ポリエチレンイミンを添加した場合では、低分子化合物である炭酸グアニジン、アルギニンを添加した場合と比べて、向上の程度が小さかった。おそらく、分子量が大きい塩基性アミン化合物の場合には、EVOH樹脂との相溶性不足によって一部の化合物同士による凝集が生じたのに対し、分子量が小さい塩基性アミン化合物の場合にはEVOH樹脂との相溶性が良好となり、塩基性アミン化合物が凝集せずにEVOH樹脂中に均一に分散されたことによって、より優れた接着改善効果を発揮したものと推測される。
【0172】
また、No.23とNo.2との比較から、塩基性アミン化合物を添加する場合において、樹脂組成物中のアルカリ金属、アルカリ土類金属、炭素数2〜4のカルボン酸を含有することにより、PETに対する接着性がより向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明のEVOH樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂との接着性に優れ、且つ高温でも熱分解しにくく粘度増加もほとんどなくて安定なので、高温で溶融成形されるポリエステル系樹脂と共押出成形、共射出成形に供することができ、接着強度に優れた多層構造体を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物、及び(B)塩基性アミン化合物を含有するエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項2】
(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物100重量部あたり、(B)塩基性アミン化合物0.01〜10重量部含有されている請求項1に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項3】
(B)塩基性アミン化合物は、水に溶解したときの等電点(pI)が7以上である請求項1又は2に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項4】
(B)塩基性アミン化合物は、アルギニン、ヒスチジン、及びリジンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項5】
250℃、窒素雰囲気下で1時間保持した際の重量減少率が4重量%以下である請求項1〜4のいずれかに記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項6】
(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物は、下記一般式で示される1,2−ジオール単位を有している請求項1〜6のいずれか1項に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【化1】


(式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。)
【請求項7】
アルカリ土類金属(C−ae)、アルカリ金属(C−a)、及び炭素数2〜4のカルボン酸(C−ca)を含有する請求項1〜6のいずれかに記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物からなる層の少なくとも片面にポリエステル系樹脂層が設けられた多層構造体。
【請求項9】
共射出成形により成形されたことを特徴とする請求項8に記載の多層構造体。

【公開番号】特開2012−107197(P2012−107197A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170765(P2011−170765)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】