説明

エッチング装置および方法並びに太陽電池の製造方法

【課題】太陽電池製造のテクスチャエッチング工程において、従来に比してテクスチャ形成不良を抑えることができるエッチング装置を得ること。
【解決手段】シリコン基板100をエッチング液13中に浸漬してエッチングするエッチング装置であって、エッチング液13を貯留し、シリコン基板100をエッチングするエッチング槽11と、エッチング液13中に溶出した疎水性有機物を収集する疎水性有機物収集部15と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エッチング装置および方法並びに太陽電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン太陽電池は、無尽蔵なエネルギ源である太陽光を電気エネルギに変換する装置であるため、クリーンなエネルギ源である。シリコン太陽電池の製造においては、発電効率の向上に加え、量産における特性のばらつきをなるべく抑え、高い発電効率を有する太陽電池を安定的に製造することが重要である。
【0003】
太陽電池用の基板として用いられるシリコン(単結晶シリコン、多結晶シリコンを含む)基板は、光照射側の表面にテクスチャと呼ばれる微細な四角錐形状の凹凸を形成することで光吸収率を高め、発電効率を向上させることができる。表面にテクスチャを有するシリコン基板(以下、テクスチャ基板という)は、一般的に、例えばKOHやNaOHのアルカリ性溶液(濃度はたとえば0.05〜2.0mol/l)と、イソプロピルアルコール(濃度はたとえば0.05〜2.0mol/l)等との混合溶液としてのエッチング用の溶液(以下、エッチング液という)に、シリコン基板を70〜90℃程度の温度で数分から数十分程度浸漬するテクスチャエッチング工程を実行することによって形成される。テクスチャエッチングに用いられる装置の方式としては、バッチ処理式や枚葉処理式がある。
【0004】
このようなテクスチャエッチング工程においては、エッチング液中に溶存する不純物濃度にテクスチャの出来栄えが左右されるため、テクスチャ基板の面内不均一性が問題となる。面内不均一なテクスチャが形成されたテクスチャ基板では光の閉じ込め効果が不足するため、このような基板を用いて太陽電池セルを作製した場合には、特性の劣化につながる。
【0005】
たとえば、同一のエッチング液でシリコン基板のエッチングを複数回行うと、シリコン基板のドーパント金属(n型シリコン基板ならリンなど、p型シリコン基板ならボロンなど)の溶出によって、エッチング処理ごとにエッチング液中の陽イオン濃度が増加し、テクスチャが不均一になり、テクスチャ基板の光の反射率が上昇する。このようなテクスチャ形成の不均一性をもたらす原因であるエッチング液中の陽イオンを除去するために、エッチング装置の循環配管に金属の吸着剤を設置したり、電極を設置して電圧を印加することによって金属を析出させたり、pH調整や温度調整によって金属を析出させたりする機構を設置して、エッチング液中の金属不純物濃度を低下させる技術が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
また、溶液中への浸漬処理中に、オゾン処理によってシリコン基板に付着した有機物を除去することで、シリコンデバイスへの影響を抑制する手法も提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−278409号公報
【特許文献2】特開2005−136377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術でエッチング液中のドーパント金属を除去したり、特許文献2に記載の技術でシリコン基板に付着した有機物を除去したりしても、テクスチャ形成が不均一になってしまうという問題点があった。つまり、ドーパント金属の除去やシリコン基板に付着した有機物の除去のみでは、太陽電池特性を高めるためのテクスチャを効率的に形成することができなかった。
【0009】
この発明は、上記に鑑みてなされたもので、太陽電池製造のテクスチャエッチング工程において、従来に比してテクスチャ形成不良を抑えることができるエッチング装置および方法並びに太陽電池の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、この発明にかかるエッチング装置は、シリコン基板をエッチング液中に浸漬してエッチングするエッチング装置であって、前記エッチング液を貯留し、前記シリコン基板をエッチングするエッチング槽と、前記エッチング液中に溶出した疎水性有機物を収集する疎水性有機物収集部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、エッチング液中に溶出した疎水性有機物を収集するための疎水性有機物収集部を備えるようにしたので、エッチングに悪影響を及ぼすエッチング溶液中の溶出疎水性有機物をエッチングに影響を与えない様に収集するとともに、テクスチャ基板表面の疎水性有機物の残渣を抑制する結果、太陽電池セルの特性向上に有効なテクスチャを効率的にシリコン基板の表面に形成することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、エッチング液中の疎水性有機物の有無と、そのエッチング液で作成したシリコン基板の反射率との関係を示す図である。
【図2】図2は、この発明の実施の形態1によるエッチング装置の概略構成を模式的に示す図である。
【図3】図3は、この発明の実施の形態2によるエッチング装置の概略構成を模式的に示す図である。
【図4】図4は、太陽電池セルの構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、この発明の実施の形態にかかるエッチング装置および方法並びに太陽電池の製造方法を詳細に説明する。なお、これらの実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下では、従来の工程におけるエッチング不良の要因について述べた後、それを解決する実施の形態を説明する。さらに、以下の実施の形態で用いられるエッチング装置や太陽電池の図は模式的なものであり、サイズや長さの比率などは現実のものとは異なる。
【0014】
本発明者等が実験を行った結果、テクスチャエッチング工程において、疎水性有機物が溶出したエッチング液を使用した場合と、疎水性有機物を含まないエッチング液を使用した場合のシリコン基板へのテクスチャの出来栄えと反射率に大きな差があることが判明した。この点について、以下に説明する。なお、この発明で、疎水性有機物とは、エッチング液に対する溶解性が低い有機化合物のことをいう。
【0015】
図1は、エッチング液中の疎水性有機物の有無と、そのエッチング液で作成したシリコン基板の反射率との関係を示す図である。図1に示されるように、疎水性有機物を含むエッチング液を使用した場合では、反射率は18%程度であるのに対して、疎水性有機物を含まないエッチング液を使用した場合では、反射率は12%程度に低下する。そのため、疎水性有機物を含むエッチング液を使用して形成したテクスチャ基板では、基板内部への光の吸収効率が悪く、このようなテクスチャ基板を用いて太陽電池セルを作製しても高い特性を期待できない。
【0016】
このように疎水性有機物を含むエッチング液では、疎水性有機物の濃度が上昇していくと、疎水性有機物、またはエッチングによって溶出する成分と疎水性不純物が相互作用してできた生成物の基板表面への付着が増大し、アルカリによるシリコンのエッチングを阻害するようになると考えられる。つまり、疎水性有機物(疎水性不純物)がエッチング液中にある程度以上の濃度で存在すると、エッチングの速度や均一性に悪影響を及ぼす。その結果、生成するテクスチャの形態が不良となったり、局所的な付着でテクスチャの形成ムラを生成したりすると考えられる。
【0017】
疎水性有機物の種類や混入経路には多様なものがある。主な混入経路として、エッチング液の原料や純水に含まれて混入するもの、シリコン基板に付着して持ち込まれるもの、シリコン基板を保持するウェハカセットにより持ち込まれるもの、空気中より浸入するもの、装置構成材の汚染によるものなどがある。
【0018】
原料に含まれるものとしては、イソプロピルアルコールのような溶剤系の原料に溶解している不純物であり、製造時の不純物だけでなく、途中で混入した潤滑油や防錆剤等である場合も多い。これらの不純物は、高級アルコールや各種の炭化水素、エーテル、エステル等がある。シリコン基板に付着して持ち込まれるものには、指紋に含まれる各種の脂肪酸やエステル類などのほか、潤滑油、防錆剤、フタル酸エステルやアジピン酸エステルのようなプラスチックの可塑剤などがある。これらはシリコン基板に容器や搬送部品を経由して付着するほか、空気中に微量に存在する蒸気が吸着して付着する場合もある。空気中からエッチング液に浸入するものとしては、熱源やスプレー粒子などから発生するオイルミストが問題になる場合がある。
【0019】
シリコン基板のドーパントの陽イオンのみを除去する特許文献1の手法ではこのような疎水性有機物を除去することができない。また、特許文献2のようにオゾンによる処理では、意図的に添加しているたとえばイソプロピルアルコールなどの有機物が先に分解されてしまうため、疎水性有機物のみを選択的に除去することは困難である。つまり、従来では、エッチング液中の疎水性有機物を除去する方法については提案されていなかった。このように、従来技術においては、十分に清浄なエッチング液を提供できないために、テクスチャ基板に、安定的に面内均一なテクスチャを形成することができないことが太陽電池における発電効率向上の妨げになるとともに、歩留まりの低下を招いていた。
【0020】
そこで、以下では、エッチング液中に存在する疎水性有機物を除去することによって、エッチング液中の疎水性有機物濃度を低下させることで、つまり溶出する疎水性有機物濃度をテクスチャエッチング反応に影響を与えない状態に保持することで、より良好なテクスチャエッチングを実現できる、すなわち反射率が低く抑制された均一なテクチャ基板を製造することができる実施の形態について説明する。
【0021】
実施の形態1.
図2は、この発明の実施の形態1によるエッチング装置の概略構成を模式的に示す図である。このエッチング装置は、エッチング液13を貯留するエッチング槽11を有する。エッチング槽11内には、エッチング対象であるシリコン基板100を保持するウェハカセット12が浸漬されている。ここでは、ウェハカセット12には、複数枚のシリコン基板100が保持され、同時にテクスチャエッチングが施される。
【0022】
エッチング槽11には、循環配管14が設けられ、循環配管14上には、エッチング液13の循環に使用するポンプ16が備えられている。ポンプ16によってエッチング液13は同図中の矢印の方向に循環される。また、図示していないが、エッチング槽11または循環配管14には、加熱手段としてのヒータが巻きつけられて設けられ、エッチング液13を所定の温度に加熱することができる。さらに、エッチング液13の撹拌が必要な場合には、エッチング槽11に図示しない撹拌手段を持たせることで、エッチング液13の撹拌が可能である。
【0023】
また、循環配管14には疎水性有機物を収集する疎水性有機物収集部15が備えられている。ポンプ16によって循環配管14にエッチング液13を循環させることで、エッチング液13に溶出した疎水性有機物を疎水性有機物収集部15で収集し、エッチング液13から取り除くことができる。なお、図2の例では、疎水性有機物収集部15は、循環配管14に設けられているが、エッチング槽11内に設けてもよい。この場合には、ウェハカセット12中のシリコン基板100に接触しないように、たとえばエッチング槽11の底部の側面に固定される。
【0024】
疎水性有機物収集部15は、たとえば疎水性表面を有する吸着剤を内蔵することによって形成される。この吸着剤は、その表面が疎水性であり、十分な表面積を有するものであれば、繊維状、粒状、板状、多孔体、それらの複合体など、各種の形態をとることができる。
【0025】
表面を疎水性とすることでエッチング液13中に過剰に存在する疎水性有機物を吸着剤表面に吸着させることができる。表面の疎水性は、吸着剤の表面積にも依存するが、エッチング中のテクスチャ基板の疎水性と同等以上であれば、疎水性有機物を吸着剤が吸着することでテクスチャ基板に吸着する分を抑制することができる。エッチング中のテクスチャ基板の疎水性は、エッチング状態やエッチング液13の組成によって変化するため、ひとつの値として決定することは困難である。そこで、この疎水性について各種の検討を行った結果、吸着剤の材質を平坦面に加工した場合の水の接触角が、60°以上のものであることが望ましく、80°以上のものがさらに望ましいことを見出した。接触角が60°未満の場合には、テクスチャ基板に吸着する疎水性有機物の量を十分に抑制できず、エッチングへの悪影響を抑制できない場合がある。
【0026】
吸着剤の表面積は、大きいほど疎水性有機物を効率よく吸着できる。吸着剤に接するエッチング液13の流速が十分大きいものであれば、テクスチャ基板の表面積と同等以上あれば効果が得られる。長期的に効果を維持するためには、さらに大きな表面積を有するようにすればよい。エッチング液13の寿命を考慮すると、吸着剤の表面積は、テクスチャ基板の表面積の5倍以上が望ましく、8倍以上がさらに望ましい。5倍未満では、エッチングを繰り返すうちにエッチングにばらつきが生じてくる可能性が高くなるからである。
【0027】
吸着剤は、上記の要件を満たせば、各種の形態を取り得る。ここでは、粒子状と繊維状の2種を取り上げて説明する。粒子状の形態では、平均粒径が7mm以下で1μm以上のものが望ましく、5mm以下で10μm以上のものがさらに望ましい。粒子を相互に結合させて多孔質形状とすることで取り扱いを容易にすることも可能である。平均粒径が7mmを超えるようなものでは、十分な表面積を得るための吸着剤の量が多くなりすぎ、エッチング液量や温度管理のためのコストが過大となってしまう。また、平均粒径が1μm未満では、疎水性有機物収集部15からの吸着剤の漏れ出しの虞が高くなるほか、吸着剤の取り扱いが困難になってしまう。
【0028】
また、繊維状の場合には、繊維径が、0.5mm以下で0.5μm以上のものが好ましく、0.1mm以下で1μm以上のものがさらに好ましい。繊維径が0.5mmを超えるようなものでは、十分な表面積を得るための吸着剤の量が多くなりすぎてしまう。繊維径が0.5μm未満のものでは、繊維の強度が低く扱いが困難な場合がある。また、繊維の長さは、繊維がエッチング液13に流れ出さないように、10mm以上あることが好ましい。繊維の断面は円形であってもよいが、表面積を大きくして不純物の吸着効率を増加させることも好ましい。繊維は、そのまま束ねた状態でも使用できるが、織布や不織布として使用することは、取り扱いの点で好ましい他、エッチング液13中の粒子状異物を除去するためのフィルタとしても機能させることができる利点がある。
【0029】
吸着剤の材質は、疎水性表面を有するもので、エッチング中にエッチング液13によって劣化しないものが好ましい。ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系の樹脂はアルカリに対する耐久性が高く、低コストであるため好ましく用いられる。塩化ビニル、塩化ビニリデン等の塩素化樹脂、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)などのフッ素樹脂は、高い疎水性、耐久性のために好ましい。その他、アクリル樹脂やポリスチレンなどのビニル系の樹脂も使用可能である。また、これらの素材を組み合わせて使用することも好ましく、ポリプロピレン等の融点の高い材質の芯にポリエチレンを被覆することで、耐熱性とポリエチレンの熱融着性を兼ね備えた材質として、不織布等を形成しやすくしたり、ポリプロピレンの粉末をバインダとして他の材質の繊維や粒子による集合体を形成したりするなど、各種の材料を組み合わせて使う方法も可能である。
【0030】
上記の疎水性の樹脂以外に、セルロースやレーヨン等の親水性繊維を、シランカップリング剤等による反応やプラズマ等による疎水化処理を施して使用することも可能である。また、炭素繊維、金属繊維、金属箔、各種の金属酸化物や金属窒化物の粒子や板等も使用可能である。ただし、上記の繊維類、特にセルロースやレーヨン等の親水性繊維を用いる場合には、高純度のものを使用したり、予めアルカリ水溶液で洗浄したものを使用したりして、アルカリエッチング液13に不純物として溶出する成分が無いようにすることが望ましい。
【0031】
このような構成のエッチング装置でのエッチング方法について説明する。エッチング槽11にエッチング液13を満たした後、シリコン基板100を保持したウェハカセット12をエッチング槽11内に所定時間浸漬する。このとき、ポンプ16を作動させてエッチング液13の一部を循環配管14に導く。循環配管14を移動するエッチング液13は、疎水性有機物収集部15を通過することによって、エッチング液13中の疎水性有機物が除去され、再びエッチング槽11へと戻される。このようにして、エッチング槽11のエッチング液13中の疎水性有機物の濃度が所定値以下となるようにされる。その結果、疎水性有機物によって引き起こされていたテクスチャの面内不均一性を防止することができるため、高発電効率の太陽電池セルの製造を高い歩留まりで実現できる。所定時間、シリコン基板100をエッチング液13に浸漬した後、ウェハカセット12を引き上げ、エッチング処理が施されていない別のシリコン基板100を保持したウェハカセット12がエッチング液13中に浸漬され、同様の処理が繰り返し行われる。
【0032】
なお、吸着剤の使用時間が長くなると、疎水性有機物の除去効率が低下する。そのため、適切な時間毎に疎水性有機物収集部15中の吸着剤を新しいものと交換することで、効果を持続することが可能である。この実施の形態による吸着剤は、活性炭等での不純物除去での微小孔への分子の吸着とは異なり、疎水性表面に疎水性有機物を付着させるだけの作用を利用しているため、付着した不純物の除去は容易であるという利点がある。つまり、吸着剤を再利用することができる。
【0033】
吸着剤から疎水性有機物を除去する方法にはいくつかの方法があるが、最も確実に除去する方法は、イソプロピルアルコールなどのエッチング液13に添加されるアルコールなどの有機成分によって洗浄する方法である。この方法では、疎水性有機物は有機成分に溶解して除去される。また、エッチング液13に使用する成分を使用するため、吸着剤は洗浄後乾燥することなく使用できる。
【0034】
また、疎水性有機物の溶解性が、繰り返し使用による溶解性の疎水性有機物やケイ酸塩が含まれるようになったエッチング液13に対するものに比して、これらを含まない新しいエッチング液13に対するものの方が高いことを利用して吸着剤に付着した不純物を除去する方法もある。エッチング槽11のエッチング液13を新しいものに交換する時に、いくらかの新しいエッチング液13を、吸着剤を通して廃棄することで洗浄することが可能である。この方法では、一部のエッチング液13が無駄になるものの、特別な手間をかけることなく処理できるという利点がある。また、装置の工夫は必要であるが新しいエッチング液13への交換時ではなく、エッチングの途中でも新しいエッチング液13による吸着剤からの不純物除去は可能である。
【0035】
さらに、疎水性有機物の溶解性がエッチング液13の温度によって変化することを利用して吸着剤に付着した不純物を除去する方法もある。古くなったエッチング液13をエッチング槽11から排出する時に、エッチング時の温度以上に温度を上昇させて、吸着剤を通して排出することで、吸着した疎水性有機物を溶解させて除去することが可能である。エッチング液13全体の温度を上昇させる方法のほか、吸着剤再生用に一部のエッチング液13を昇温させて用いる方法、吸着剤部分だけの温度を上げて行う方法もある。これらの方法では、余分な廃棄物を生じることなく吸着剤から疎水性有機物が除去可能であるという利点がある。
【0036】
つぎに、具体的な吸着剤の例を挙げる。これらの例のいずれについても、疎水性有機物をテクスチャ形成に悪影響を及ぼさないレベルまで低減することができる。
【0037】
(1)ポリプロピレン繊維からなる不織布を用いる場合
メルトブロー法で作成した繊維径が2μmのポリプロピレン繊維からなる不織布を円筒形に巻き取って、直径100mmで長さ200mmの吸着剤を作成する。これを上下端に導入孔と排出孔を設けた内径100mmの円筒形の容器に封入して、疎水性有機物収集部15とする。このようにして作成された疎水性有機物収集部15に対して、疎水性有機物としてフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)を10ppm含むエッチング液13(イソプロピルアルコール2%、NaOH4%)を、50kg通過させると、疎水性有機物が0.5ppmに低減される。
【0038】
(2)ポリプロピレン粉末を用いる場合
平均粒径約200μmのポリプロピレン粉末を上記と同様の容器内に詰めて疎水性有機物収集部15とする。最初にイソプロピルアルコールで粉末を湿潤させた後、上記と同様、10ppmのフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)を含むエッチング液13を通すと、疎水性有機物が0.3ppmに低減される。
【0039】
(3)ポリプロピレン繊維を用いる場合
繊維径10μmで長さ200mmのポリプロピレン繊維100gの端部を束ねたものを吸着剤として使用して疎水性有機物収集部15とする。これをエッチング槽11に浸漬したまま、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)で微量汚染したシリコン基板100のエッチングを実施する。ポリプロピレンの束は浮き上がらず、また、エッチング中のシリコン基板100に接触しないようにエッチング槽11の底部の側面に固定してエッチングを行う。ポリプロピレン繊維を入れないでエッチングを行うと、エッチング液13中のフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)は32ppmまで上昇するが、ポリプロピレン繊維を入れたものでは0.9ppmまでの上昇に留まる。
【0040】
以上のように、この実施の形態1では、太陽電池用のシリコン基板100にテクスチャ構造を形成するエッチング装置において、テクスチャ構造の均一な形成に悪影響を及ぼす疎水性有機物を除去する疎水性有機物収集部15を設けたので、エッチング液13から疎水性有機物を所定の濃度以下とすることができる。その結果、シリコン基板100にテクスチャ構造を均一に形成することができるという効果を有する。
【0041】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2によるエッチング装置の概略構成を模式的に示す図である。このエッチング装置は、エッチング液13を貯留するエッチング槽11と、2つの疎水性有機物除去槽21a,21bとが循環配管14a〜14fで接続された構成を有する。この例では、エッチング槽11と2つの疎水性有機物除去槽21a,21bとが、直列に接続されている場合を示している。
【0042】
エッチング槽11内には、エッチング対象であるシリコン基板100を保持するウェハカセット12が浸漬されている。ここでは、ウェハカセット12には、複数枚のシリコン基板100が保持され、同時にテクスチャエッチングが施される。
【0043】
循環配管14aの一端は、エッチング槽11に接続され、他端は、循環配管14b,14cに分岐する。循環配管14cはバルブ31bを介して疎水性有機物除去槽21aに接続される。循環配管14a上には、エッチング液13を循環させるポンプ16aが設けられている。
【0044】
循環配管14dの一端は、疎水性有機物除去槽21aに接続され、他端は、疎水性有機物除去槽21bに接続される。循環配管14dには、バルブ31cとポンプ16cが設けられている。循環配管14eの一端は、疎水性有機物除去槽21bに接続され、他端は、バルブ31dを介して循環配管14bと合流し、循環配管14fと接続される。循環配管14fにはポンプ16bが設けられ、その一方の端部はエッチング槽11に接続される。循環配管14bは、循環配管14aと循環配管14fとの間を接続するように設けられ、バルブ31aが設けられている。複数あるバルブ31a〜31dはエッチング液13の循環および運搬動作にしたがって適宜開閉される。また、循環配管14bは、疎水性有機物除去槽21a,21bを介さずにエッチング液13を循環させる際に使用される。
【0045】
疎水性有機物除去槽21aは、エッチング槽11で所定の回数(たとえば1回または複数回)シリコン基板100をテクスチャエッチング処理したエッチング液13に溶出した疎水性有機物を除去するためのエッチング液13の浄化槽である。
【0046】
疎水性有機物除去槽21aには、循環配管22aが設けられ、循環配管22a上には、エッチング液13の循環に使用するポンプ24aが備えられている。ポンプ24aによってエッチング液13は同図中の矢印の方向に循環することができる。また、循環配管22aには疎水性有機物を収集する疎水性有機物収集部23aが備えられている。ポンプ24aによって循環配管22a中にエッチング液13を循環させることで、エッチング液13に溶出した疎水性有機物を循環配管22aに設けられた疎水性有機物収集部23aで収集し、エッチング液13から取り除くことができる。
【0047】
疎水性有機物除去槽21bは、疎水性有機物除去槽21aで十分に疎水性有機物を除去したエッチング液13から疎水性有機物を除去し、エッチング液13中の疎水性有機物濃度をさらに低下させる。
【0048】
疎水性有機物除去槽21bには、循環配管22bが設けられ、循環配管22b上には、エッチング液13の循環に使用するポンプ24bが備えられている。ポンプ24bによってエッチング液13は同図中の矢印の方向に循環することができる。また、循環配管22bには疎水性有機物を収集する疎水性有機物収集部23bが備えられている。ポンプ24bによって循環配管22b中にエッチング液13を循環させることで、疎水性有機物収集部23bでさらに疎水性有機物の収集を行い、エッチング液13に含まれる疎水性有機物濃度を低下させる。このように疎水性有機物濃度を十分に下げたエッチング液13は、シリコン基板100のエッチング液13として再びエッチング槽11で使用されることになり、疎水性有機物除去槽21bはエッチング槽11への薬液供給のための薬液の待機槽としての役割も兼ねている。
【0049】
このような構成のエッチング装置でのエッチング方法について説明する。エッチング槽11にエッチング液13を満たした後、シリコン基板100を保持したウェハカセット12をエッチング槽11内に所定時間浸漬する。その後、ウェハカセット12を引き上げる。このような処理を所定の回数行った後、たとえばバルブ31a,31c,31dを閉とし、バルブ31bを開として、ポンプ16aを作動させてエッチング液13を疎水性有機物除去槽21aに移動させる。移動させた後、バルブ31bを閉じる。
【0050】
疎水性有機物除去槽21aでは、ポンプ24aを作動させて、エッチング液13の一部を循環配管22aに導き、疎水性有機物収集部23aを通過させる。これによって、エッチング液13中の疎水性有機物が除去され、再び疎水性有機物除去槽21aへと戻される。このようにエッチング液13を循環させることで、エッチング液13中に溶出した疎水性有機物を除去する。
【0051】
疎水性有機物除去槽21aで、たとえば疎水性有機物の濃度が所定値以下となった後、バルブ31a,31b,31dを閉とし、バルブ31cを開として、ポンプ16cを作動させて疎水性有機物除去槽21a中のエッチング液13を、疎水性有機物除去槽21bに移動させる。移動させた後、バルブ31cを閉じる。
【0052】
疎水性有機物除去槽21bでは、ポンプ24bを作動させて、エッチング液13の一部を循環配管22bに導き、疎水性有機物収集部23bを通過させる。これによって、エッチング液13中の疎水性有機物が除去され、再び疎水性有機物除去槽21bへと戻される。このようにエッチング液13を循環させることで、さらにエッチング液13中の疎水性有機物を収集し、エッチング液13に含まれる疎水性有機物濃度を低下させる。このように疎水性有機物濃度を十分に下げたエッチング液13は、シリコン基板100のエッチング液13として再びエッチング槽11で使用されることになる。
【0053】
なお、図3に示される装置では、たとえばエッチング槽11でエッチング処理を行っている際に、疎水性有機物除去槽21a,21bでのエッチング液13からの疎水性有機物除去処理が行われている。また、エッチング槽11からエッチング液13を疎水性有機物除去槽21aにポンプ16aで移動させた後、バルブ31a〜31dを適宜切り替えて、疎水性有機物除去槽21bからポンプ16bでエッチング槽11へと疎水性有機物が除去されたエッチング液13を移動させて、つぎのエッチング処理を続けて行うようにすることができる。
【0054】
なお、薬液や純水から新しくエッチング液13を作成する際は、薬液および純水の混合をエッチング槽11で行ってもよいが、上記したように、薬液や純水にも疎水性有機物が含まれている可能性があるので、薬液や純水に混合した疎水性有機物を除去するために疎水性有機物除去槽21aまたは疎水性有機物除去槽21bで新しいエッチング液13の混合を行う方が好ましい。また、ここでは疎水性有機物除去槽が2つある場合を示したが、3つ以上の疎水性有機物除去槽を使用してもよい。さらに、吸着剤の形態や材質および吸着剤の再生方法は、実施の形態1と同等のものや方法が使用可能である。
【0055】
実施の形態2では、エッチング液13に含まれる疎水性有機物を疎水性有機物除去槽21a,21bの疎水性有機物収集部23a,23bで吸着させることでエッチング液13内から取り除くようにしたので、疎水性有機物によって引き起こされていたテクスチャの面内不均一性を防止することができるという効果を有する。
【0056】
また、エッチング液13の寿命が伸びるため、エッチング液13の交換頻度を低減しエッチング液13使用量を削減することができ、薬液コスト、製造コストを削減することができるという効果も有する。また、エッチング液13の交換時間のロスによる太陽電池の製造効率の低下も回避できる。
【0057】
実施の形態3.
実施の形態1,2のエッチング装置でエッチング処理したシリコン基板を用いて、太陽電池を作成することができる。
【0058】
図4は、太陽電池セルの構造を模式的に示す断面図である。この太陽電池セルは、n型単結晶シリコン基板111のテクスチャ構造が形成された面(受光面)の上部に、p型の反転層112が形成され、n型単結晶シリコン基板111と反転層112とで光電変換層を形成している。また、反転層112上には反射防止膜113が形成され、受光面上の所定の位置には、反射防止膜113を貫通するように、所定形状の受光面側電極114が形成される。一方、n型単結晶シリコン基板111の受光面と対向する裏面上には、n型単結晶シリコン基板111中に光照射で発生した少数キャリアの再結合を防ぐことができるn型不純物が拡散されたBSF(Back Surface Field)層115が形成され、BSF層115上に、裏面側電極116が形成される。なお、BSF層115は、必要に応じて設けられる。
【0059】
このような太陽電池セルは、実施の形態1,2のエッチング装置によるエッチング処理で形成されたn型単結晶シリコン基板111のテクスチャ構造が形成された受光面上に、p型の反転層112を形成し、反転層112上に反射防止膜113を形成し、n型単結晶シリコン基板111の裏面にn型のBSF層を形成する。そして、反射防止膜113上に受光面側電極114を形成し、n型単結晶シリコン基板111の裏面上に裏面側電極116を形成する。以上によって、太陽電池セルを形成することができる。また、このようにして形成した太陽電池セルを複数配置し、隣接する太陽電池セル同士を直列または並列に電気的に接続することによって、良好な光閉じ込め効果を有し、光電変換効率に優れた太陽電池モジュールを実現することができる。
【0060】
なお、この例では、基板として単結晶シリコン基板を用いているが、これに限定されず、多結晶シリコン基板を用いてもよい。また、基板の導電型をn型としているが、p型としてもよい。その場合には、反転層112の導電型はn型となり、BSF層115の導電型はp型となる。
【0061】
従来のエッチング装置では、エッチング液13の原料や純水、シリコン基板、ウェハカセット、空気中、装置構成材の汚染などから溶出する疎水性有機物の溶出量が増大し、テクスチャ基板表面のテクスチャ形成不良によって、太陽電池セルの製造歩留まりを低下させていた。これに対し、この実施の形態3による方法で太陽電池を製造することで、テクスチャエッチング工程において、エッチング液13中の疎水性有機物の濃度を低く抑えることができるため、テクスチャを基板面内で均一に形成することができる。その結果、高い発電効率を有する太陽電池セルの製造歩留まりを高めることができる。
【0062】
実施の形態3によれば、実施の形態1,2で説明した疎水性有機物の濃度が所定値以下とされたエッチング液13を用いてエッチングされたシリコン基板を用いて、太陽電池セルを形成したので、高発電効率の太陽電池セルの製造を高い歩留まりで実現できるという効果を有する。
【符号の説明】
【0063】
11 エッチング槽
12 ウェハカセット
13 エッチング液
14,14a-14f,22a,22b 循環配管
15,23a,23b 疎水性有機物収集部
16,16a〜16c,24a,24b ポンプ
21a,21b 疎水性有機物除去槽
31a〜31d バルブ
100 シリコン基板
111 単結晶シリコン基板
112 反転層
113 反射防止膜
114 受光面側電極
115 BSF層
116 裏面側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板をエッチング液中に浸漬してエッチングするエッチング装置であって、
前記エッチング液を貯留し、前記シリコン基板をエッチングするエッチング槽と、
前記エッチング液中に溶出した疎水性有機物を収集する疎水性有機物収集部と、
を備えることを特徴とするエッチング装置。
【請求項2】
前記疎水性有機物収集部は、前記エッチング槽の内部に、前記シリコン基板に接触しないように前記エッチング液中に浸漬されることを特徴とする請求項1に記載のエッチング装置。
【請求項3】
シリコン基板をエッチング液中に浸漬してエッチングするエッチング装置であって、
前記エッチング液を貯留し、前記シリコン基板をエッチングするエッチング槽と、
前記エッチング槽からの前記エッチング液を貯留し、前記エッチング液中の疎水性有機物を除去する疎水性有機物収集部を有する疎水性有機物除去槽と、
前記エッチング槽と前記疎水性有機物除去槽との間を接続する配管と、
前記配管を流れる前記エッチング液の流れを切り替えるバルブと、
を備えることを特徴とするエッチング装置。
【請求項4】
前記シリコン基板のエッチング時には、前記バルブを閉めて前記エッチング槽内に前記エッチング液を滞留させ、
前記シリコン基板のエッチング終了後に、前記バルブを開けて前記エッチング槽中の前記エッチング液を前記疎水性有機物除去槽へと移動させた後、前記バルブを閉めて前記疎水性有機物除去槽で前記エッチング液中の前記疎水性有機物を除去することを特徴とする請求項3に記載のエッチング装置。
【請求項5】
前記疎水性有機物除去槽を複数有することを特徴とする請求項3に記載のエッチング装置。
【請求項6】
前記疎水性有機物収集部は、疎水性表面を有する物質を内蔵することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のエッチング装置。
【請求項7】
前記疎水性表面を有する物質は、オレフィン系の樹脂、塩素化樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、およびビニル系の樹脂からなる群より選択される1つの材料または複数の材料の組み合わせから成ることを特徴とする請求項6に記載のエッチング装置。
【請求項8】
前記疎水性表面を有する物質は、表面を疎水性に改質した親水性物質であることを特徴とする請求項6に記載のエッチング装置。
【請求項9】
前記表面を疎水性に改質した親水性物質は、セルロースまたはレーヨンのうちの少なくとも1つまたは両者の組み合わせから成ることを特徴とする請求項8に記載のエッチング装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載のエッチング装置で前記第1導電型の前記シリコン基板の第1の面にテクスチャ構造を形成する工程と、
前記シリコン基板の前記第1の面側に、第2導電型のドーパントを有する反転層を形成する工程と、
前記反転層上に反射防止膜を形成する工程と、
前記シリコン基板の前記第1の面上に、前記反射防止膜を貫通するように受光面側電極を形成する工程と、
前記シリコン基板の前記第1の面と対向する第2の面に裏面側電極を形成する工程と、
を含むことを特徴とする太陽電池の製造方法
【請求項11】
シリコン基板をエッチング液に浸漬してエッチングするエッチング工程と、
前記エッチング液中に溶出した疎水性有機物を疎水性表面を有する物質を含む吸着剤に接触させて収集する疎水性有機物収集工程と、
を含むことを特徴とするエッチング方法。
【請求項12】
前記エッチング工程と前記疎水性有機物収集工程とは、同時に行われることを特徴とする請求項11に記載のエッチング方法。
【請求項13】
前記疎水性有機物収集工程は、前記エッチング工程の後、前記エッチング工程で使用した前記エッチング液に対して行われることを特徴とする請求項11に記載のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−98301(P2013−98301A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238807(P2011−238807)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】