説明

エネルギー損失分光装置の分析方法及びエネルギー損失分光装置を備えた透過電子顕微鏡

【課題】 本発明はエネルギー損失分光装置の分析方法及びエネルギー損失分光装置を備えた透過電子顕微鏡に関し、処理速度を向上させることができるエネルギー損失分光装置の分析方法及びエネルギー損失分光装置を備えた透過電子顕微鏡を提供することを目的としている。
【解決手段】 複数のスペクトルを一つの光電変換素子画像として記録する画像記録手段10と、その後該画像記録手段10からの画像を一括読み込みしてからピクセルの位置変換処理を行なって複数スペクトルに分割する画像処理手段12とを具備して構成される。この結果、エネルギー損失分光装置の処理速度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエネルギー損失分光装置の分析方法及びエネルギー損失分光装置を備えた透過電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
試料上に電子ビームを照射し、透過した電子のエネルギー損失スペクトルを得る装置として電子エネルギー損失分光装置(EELS)が知られている。試料を透過した電子ビームは試料に衝突することで、エネルギー損失を受けて、エネルギーが減少したものが透過してくる。この透過してきた電子のエネルギー損失は、試料の種類に応じて変化する。そこで、このエネルギー損失のスペクトルを得ることで、試料の構造を知ることができる。
【0003】
このEELS装置は、通常は透過電子顕微鏡に取り付けられて使用される。図4は透過電子顕微鏡(TEM)の外観図である。図において、1は電子ビームを発生する電子銃、2は電子銃1から発生した電子ビームを集光するコンデンサレンズ、3はコンデンサレンズ2の後段に設けられた試料ホルダである。
【0004】
4は試料ホルダ3に載置された試料を透過した電子ビームを集束する対物レンズ、5は対物レンズ4を通過した電子ビームを集束する中間レンズ、6は該中間レンズ5を通過した電子ビーム像を拡大する投影レンズ、7は電子ビーム像を観察する観察チャンバ、8は観察チャンバ7の電子ビームを受けてエネルギー損失スペクトルを得るアナライザ、9はアナライザ8を通過した電子ビームを集束するレンズシステム、10は電子ビーム像を電気信号に変換する検出器である。該検出器10としては、例えばCCDカメラが用いられる。
【0005】
図5は透過電子顕微鏡の他の外観図である。図4と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施例では、アナライザ8が中間レンズ5と投影レンズ6の間に設けられている。
【0006】
特に、結像光学系の途中に分析器を取り付ける場合、スペクトルを取得するだけでなく、特定のエネルギーの電子のみを取り出して画像化することができることから、需要が高まっている。アナライザよりも後方にはレンズが配置されており、画像を拡大したりスペクトルを拡大したりすることができるようになっている。
【0007】
アナライザのエネルギー分散面における分散能力は、通常1ボルトあたり数ミクロンメートルにすぎない。ここで、エネルギー分散とは、1ボルトだけ違うエネルギーの電子をどれだけの大きさに分離するかを表す指標のことである。一方、スペクトル記録媒体の分解能は、1ピクセルあたり10ないし20ミクロンメール前後であって、ピクセル数は数百ないし数千ピクセルである。
【0008】
一般に要求される最高のエネルギー分解能が0.5eV前後以下と、最大の取得エネルギーレンズ数百ボルト以上であり、それらを両立させるためには、アナライザのエネルギー分散面に生じるエネルギー損失スペクトルを強く拡大したり、拡大倍率を抑えたりというように、倍率可変することが必要であるので、アナライザ後方にレンズが配置してある。
【0009】
スペクトル記録媒体は、電子顕微鏡像記録媒体と兼用しており、2次元のCCDカメラを用いるのが一般的である。CCDカメラ10にスペクトル画像を記録し、それを読み出してコンピュータに転送し、電子エネルギーの強度分布を解析することにより、試料情報を得ようとするのが、電子エネルギー損失分光である。
【0010】
図6は、設定されたエネルギー分散方向に従ったエネルギー分散スペクトルを示す図である。設定されたエネルギー分散方向に従ったエネルギー分散スペクトルの取得を示している。図において、Aはスペクトル画像、Bはエネルギー分散スペクトルである。エネルギー分散スペクトルにおいて、横軸は電子エネルギー(dE)であり、同一のエネルギーを持つスペクトルの強度分布が示されている。
【0011】
従来のこの種のシステムとしては、投影レンズの倍率の変化に基づくエネルギー分散方向の回転を考慮したエネルギー分散方向を自動的に設定するようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−76664号公報(段落0008〜0015、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
最近の半導体デバイス等において、結晶の境目(界面)近傍においての元素分析や元素の電子状態を境界からの距離の依存としてとらえたりする場合には、電子の照射位置を変えつつ多数のエネルギーロススペクトルを取る必要がある。試料上の1点に電子を照射し、それで得られるスペクトルをCCDに記録し、読み出し、解析する。
【0013】
その時、スペクトル取得時間をできるだけ短縮することが重要になってくる。長時間をかけると、その間で試料がドリフトしたり、電子ビーム照射による試料ダメージ、試料汚染の問題が大きくなり、分析精度の低下が発生するからである。
【0014】
照射電子の密度を上げたり、CCDカメラの高感度化を行ない、スペクトルのCCDへの蓄積時間を短くできたとしても、例えば1/100秒とした場合でも、CCD画素数が2000×2000=4000000であった場合、A/D変換やコンピュータへの読み込みが100MHzであったとすると、読み込み時間は4秒かかってしまうことになり、読み込み時間こそが決定的なボトルネックとなることは明らかである。
【0015】
このことを解決するため、CCDビニングという機能を利用することができる。図7はCCDビニングの説明図である。図に示すようにN×NピクセルのCCDユニットがあったとする。CCDカメラのエリアの一辺を図に示すようにX方向、Y方向とした時、例えばY方向の画素を合計し、X方向の1次元ピクセルとしてまとめてしまってデータ数を減らし、動作スピード飛躍的に向上させることができる。図7に示す例の場合、Y方向の画素を全て足し合わせて、一行のX方向素子に電荷をチャージさせると、N×NピクセルがN×1ピクセルとなる。
【0016】
ところで、電子レンズは結像において像を回転させる働きがある。アナライザよりも後段に位置する電子レンズによるスペクトルの回転が問題になる。図6に示す図は、エネルギー分散方向が右下下がりに回転している。アナライザ後段に電子レンズを配置して拡大倍率を可変しなければならず、その時に電子レンズの強さを変えるときスペクトルを回転させてしまうからである。
【0017】
CCDに記録したスペクトル強度解析を行なう場合、エネルギー分散方向と垂直な方向に強度を投影して合計しなければならない。従って、スペクトルのエネルギー分散方向がCCDエリアの辺に平行でない場合、解析に先立って画像を回転させて分散方向を辺に一致させなければならない。
【0018】
このような処理を行なうためには、CCD画像読み出し時にビニング機能を利用することはできず、全ての画素を必ず読み出さなければならない。スペクトル方向によっては、全ての画素ではなく、一部分の切り出しで足りる場合があるが、それでもビニング利用に比べて著しく効率が悪い。
【0019】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、処理速度を向上させることができるエネルギー損失分光装置の分析方法及びエネルギー損失分光装置を備えた透過電子顕微鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(1)請求項1記載の発明は、複数のスペクトルを一つの光電変換素子画像として記録し、その後該画像を一括読み込みし、一括読み込みした画像に対してピクセル位置変換を行なって複数スペクトルに分割することを特徴とする。
(2)請求項2記載の発明は、複数のスペクトルを一つの光電変換素子画像として記録する画像記録手段と、その後該画像記録手段からの画像を一括読み込みしてからピクセルの位置変換処理を行なって複数スペクトルに分割する画像処理手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
(1)請求項1記載の発明によれば、複数のスペクトルを一つのCCD画像として記録し、この後該画像を一括読み込みし、一括読み込みした画像に対してピクセル位置変換を行なうことにより、処理速度を向上させることができる。
(2)請求項2記載の発明によれば、複数のスペクトルを一つのCCD画像として記録し、この後該画像を一括読み込みし、一括読み込みした画像に対してピクセル位置変換を行なうことにより、処理速度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態例を示す構成図である。図5と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、1は電子ビームを発生する電子銃、2は電子銃1から発生した電子ビームを集束するコンデンサレンズ、3はコンデンサレンズ2の後段に設けられた試料ホルダである。
【0023】
4は試料ホルダ3に載置された試料を透過した電子ビームを集束する対物レンズ、5は対物レンズ4を通過した電子ビームを集束する中間レンズ、8は中間レンズ5の後段に配置されたアナライザ、6は該アナライザ8を通過した電子ビーム像を拡大する投影レンズ、7は電子ビーム像を観察する観察チャンバ、10は電子ビーム像を電気信号に変換する光電変換素子群としてのCCDカメラである。
【0024】
12はCCDカメラ10の出力を受けて、スペクトル画像とエネルギー分散スペクトルを得る画像処理装置である。11は該画像処理装置12及び前記アナライザ8と接続され、アナライザ8を制御すると共に、画像処理装置12を制御する制御装置である。該制御装置11としては、例えばマイクロコンピュータが用いられる。13は該制御装置11と接続されたメモリである。該メモリ13には、複数のスペクトルを一つのCCD画像として記録し、その後で画像を一括読み込みしたものを記憶するようになっている。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0025】
本発明は、一つのCCD画像として複数のスペクトルを記録し、その後で一括読み込みしてから回転演算をして複数スペクトルに分割するという手法をとることにより、多数のスペクトルを取得した時に実効的に読み込み時間の短縮を図るものである。
【0026】
電子銃1から出射され、所定のエネルギーに加速された電子は、コンデンサレンズ2により集光されて試料ホルダ3上に載置されている試料(図示せず)に照射される。試料に照射された電子は、そのまま通過し、エネルギー不変のものと、試料を構成する原子にエネルギーを奪われ、自身はエネルギーを失うものの2つが混在して試料を通過して出てくる。
【0027】
その透過電子を対物レンズ4、中間レンズ5で規定の光学条件に電子を整えてアナライザ8に導く。アナライザ8から出てきた電子は、エネルギー毎に違った出射角度を持ち、それがスペクトルを形成する。このスペクトルを投影レンズ6で検出してCCDカメラ10に結像させる。試料中の界面近傍のエネルギーロススペクトルを取得する場合、試料に電子線を照射して、その照射位置を変えつつ、その時得られるスペクトルをCCDカメラ10に記録する。
【0028】
電子線の照射位置を変えるには、電子顕微鏡の照射レンズ系の電子線アライメントコイル(コイルA)を使用する。CCDカメラ10上のどの位置にスペクトルを投影するかは、結像レンズ系の電子線アライメントコイル(コイルB)を使用する。コイルAの条件を変えて照射位置を変更したら、コイルBの条件を変えてCCD上のスペクトル投影位置を変える。
【0029】
このように、試料上の電子線位置に依存した一連のスペクトルをCCDカメラ10に記録したならば、その後でCCD画像強度の読み込みを行なう。CCDカメラ10の画像データは、画像処理装置12に入力され、ディジタルデータに変換され、制御装置11を介してメモリ13に記憶される。
【0030】
制御装置11は、メモリ13に記憶された画像データに対して、必要な回転処理を行なう(詳細後述)。ここでいう回転とは、電子レンズを用いたことによる画像の回転を元に戻すための回転をいう。そして、個々のスペクトルに切り出して、試料の界面近傍の一連のスペクトル群とする。一つ一つのスペクトルをその都度CCD読み出しする場合に比較して、処理が高速になる。
【0031】
例えば、100個のスペクトルを一つのCCD画像として記録してまとめて読み出すと、読み出し時間を1/100とすることができる。
図2は本発明の動作説明図である。(a)はCCDカメラ10で記録した画像、(b)は制御装置11を介してメモリ13に記録した画像である。(c)は、メモリ13に記録した画像に対して回転補正を加えた後の画像である。(d)は回転補正した各スペクトル画像を切り出す処理である。
【0032】
ここで、(c)に示す回転補正処理は、従来公知の画像処理技術を用いて行なうことができる。図3は回転補正処理の一つで、ピクセル位置変換の説明図である。(a)はメモリ13に記憶された状態の画像、(b)は回転補正を行なった結果の画像である。図において、20は画像である。ここで、画像20上のピクセルをそれぞれa,b,cとする。a,b,cのアドレスは予め分かっている。そこで、回転している画像を回転前の状態に戻すためのピクセル位置変換処理を行なう。
【0033】
(b)に示すように、水平方向の画像に変換する場合、aのピクセル画像をa´の位置に、bのピクセル画像をb´の位置に、cのピクセル画像をc´の位置にそれぞれ割り当てていく。このような位置変換処理を行なうことで、画像の回転補正を行なうことができる。このピクセル位置変換処理は、制御装置11で行なってもよいし、画像処理装置12で行なってもよい。
【0034】
上述の実施の形態例では、光電変換素子としてCCDを用いた場合を例にとったが、本発明はこれに限るものではなく、他の光電変換素子、例えばCMOS等を用いることもできる。
【0035】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、複数のスペクトルを一つのCCD画像として記録し、この後該画像を一括読み込みし、一括読み込みした画像に対して画素位置変換を行なうことにより、処理速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態例を示す構成図である。
【図2】本発明の動作説明図である。
【図3】ピクセル位置変換の説明図である。
【図4】透過電子顕微鏡の外観図である。
【図5】透過電子顕微鏡の他の外観図である。
【図6】設定されたエネルギー分散方向に従ったエネルギー分散スペクトルを示す図である。
【図7】CCDビニングの説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 電子銃
2 コンデンサレンズ
3 試料ホルダ
4 対物レンズ
5 中間レンズ
6 撮影レンズ
7 観察チャンバ
8 アナライザ
10 CCDカメラ
11 制御装置
12 画像処理装置
13 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスペクトルを一つの光電変換素子画像として記録し、
その後該画像を一括読み込みし、
一括読み込みした画像に対してピクセル位置変換を行なって複数スペクトルに分割する、
ことを特徴とするエネルギー損失分光装置の分析方法。
【請求項2】
複数のスペクトルを一つの光電変換素子画像として記録する画像記録手段と、
その後該画像記録手段からの画像を一括読み込みしてからピクセルの位置変換処理を行なって複数スペクトルに分割する画像処理手段と、
を具備することを特徴とするエネルギー損失分光装置を備えた透過電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−284482(P2006−284482A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107494(P2005−107494)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】