説明

エポキシ樹脂用硬化剤、エポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物

【課題】エポキシ樹脂に混合した際に硬化剤として優れた潜在性を発現するエポキシ樹脂用硬化剤を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を有するモノビニル単量体(a1)単位1〜99.9質量%、多官能性単量体(a2)単位0.1〜99質量%及びその他の単量体(a3)単位0〜30質量%(但し、(a1)〜(a3)単位の合計が100質量%)からなる重合体(A)と、イミダゾール化合物(B)との反応生成物であるエポキシ樹脂用硬化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂用硬化剤、エポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂硬化物は、接着性、機械的性質、熱的性質、電気的性質等に優れていることから、塗料、接着剤、電気・電子用絶縁材料等の各種用途に幅広く利用されている。これらのエポキシ樹脂硬化物は、1成分系又は2成分系のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる。
2成分系のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂成分と硬化剤成分とが別々に保管され、使用時に両者を計量・混合してエポキシ樹脂組成物とするため、計量ミス等の理由により、品質が不安定になるという課題を有する。このような課題を解決するため、1成分系のエポキシ樹脂組成物が種々提案されている。中でも、硬化剤としてイミダゾール化合物を用いるものは、エポキシ樹脂組成物の硬化性に優れ、耐熱性の高いエポキシ樹脂硬化物を与えることから、幅広く利用されている。
【0003】
イミダゾール化合物の、硬化剤としての潜在性を向上させる方法として、カルボキシル基を含有するミクロゲルとイミダゾール化合物との反応生成物が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、ここで提案されている方法では、イミダゾール化合物の、硬化剤としての潜在性は充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−67819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、エポキシ樹脂に混合した際に、硬化剤としての潜在性を有するエポキシ樹脂用硬化剤、前記エポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂とを含有するエポキシ樹脂組成物及び前記エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、カルボキシル基を有するモノビニル単量体(a1)単位1〜99.9質量%、多官能性単量体(a2)単位0.1〜99質量%及びその他の単量体(a3)単位0〜30質量%(但し、(a1)〜(a3)単位の合計が100質量%)からなる重合体(A)と、イミダゾール化合物(B)との反応生成物であるエポキシ樹脂用硬化剤(以下、「本硬化剤」という)を第1の発明とする。
【0007】
また、本発明の要旨とするところは、本硬化剤とエポキシ樹脂とを含有するエポキシ樹脂組成物(以下、「本エポキシ樹脂組成物」という)を第2の発明とする。
更に、本発明の要旨とするところは、本エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物(以下、「本エポキシ樹脂硬化物」という)を第3の発明とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、硬化剤としての潜在性、即ち貯蔵安定性及び硬化性に優れるエポキシ樹脂用硬化剤を得ることができ、例えば、一液型接着剤、シーラント、注型剤、積層剤、塗料等の各種用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の重合体(A)は、カルボキシル基を有するモノビニル単量体(a1)単位を含有する。
カルボキシル基を有するモノビニル単量体(a1)単位を構成するための原料であるカルボキシル基を有するモノビニル単量体(a1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、マレイン酸、モノメチルマレート、モノエチルマレート、フマル酸、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、イタコン酸、桂皮酸、クロトン酸、4−ビニルフェニル酢酸、p−ビニル安息香酸が挙げられる。単量体(a1)は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
単量体(a1)の中でも、重合体(A)の重合安定性の観点から、(メタ)アクリル酸、フタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルが好ましい。
尚、本発明において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」又は「メタクリレート」を表す。
【0010】
カルボキシル基を有するモノビニル単量体(a1)は、フタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル又はヘキサヒドロフタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルを主成分とすることがより好ましい。尚、「主成分」とは、「単量体(a1)を100質量%としたときに、50質量%以上含有すること」を示す。
硬化剤としての潜在性が向上することから、単量体(a1)は、フタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル又はヘキサヒドロフタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルを、70質量%以上含有することが更に好ましい。
【0011】
本発明の重合体(A)は、多官能性単量体(a2)単位を含有する。
多官能性単量体(a2)単位を構成するための原料である多官能性単量体(a2)としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。単量体(a2)は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
単量体(a2)の中でも、重合体(A)の重合安定性の観点から、アリル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0012】
本発明の重合体(A)は、必要に応じて、その他の単量体(a3)単位を含有する。
その他の単量体(a3)単位を構成するための原料であるその他の単量体(a3)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体が挙げられる。
【0013】
重合体(A)は、単量体(a1)単位1〜99.9質量%、単量体(a2)単位0.1〜99質量%及び単量体(a3)単位0〜30質量%(但し、(a1)〜(a3)単位の合計が100質量%)からなる。
重合体(A)は、単量体(a1)単位20〜99.7質量%、単量体(a2)単位0.3〜80質量%及び単量体(a3)単位0〜20質量%からなることが好ましく、単量体(a1)単位80〜99.5質量%、単量体(a2)単位0.5〜20質量%及び単量体(a3)単位0〜10質量%からなることがより好ましい。
重合体(A)は、単量体(a3)単位を含まないことが更に好ましい。
【0014】
重合体(A)100質量%中の単量体(a1)単位の含有率が1質量%以上であると、重合体(A)とイミダゾール化合物(B)との反応点が充分得られ、硬化剤としての潜在性が向上する。また、重合体(A)100質量%中の単量体(a1)単位の含有率が99.9質量%以下であると、得られるエポキシ樹脂組成物の増粘が抑制できる。
重合体(A)100質量%中の単量体(a2)単位の含有率が0.1質量%以上であると、重合体(A)が架橋構造となり、得られるエポキシ樹脂組成物の増粘が抑制できる。また、重合体(A)100質量%中の単量体(a2)単位の含有率が99質量%以下であると、重合体(A)とイミダゾール化合物(B)との反応点が充分得られ、硬化剤としての潜在性が向上する。
【0015】
重合体(A)の重合方法としては、公知の重合方法を用いればよく、例えば、乳化重合法、ソープフリー重合法、懸濁重合法、微細懸濁重合法が挙げられる。
これらの重合方法の中でも、イミダゾール化合物(B)との反応の観点から、粒子の形状を有する重合体(A)が得られる乳化重合法であることが好ましい。
【0016】
重合体(A)の粒子を乳化重合法により重合する際の乳化剤としては、公知の乳化剤を用いればよく、例えば、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤、反応性乳化剤が挙げられる。
【0017】
アニオン系乳化剤としては、例えば、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム等のカルボン酸塩;ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸アンモニウム等の硫酸エステル塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸アンモニウム、アルケニルスルホコハク酸アンモニウム等のスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0018】
カチオン系乳化剤としては、例えば、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩;ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロリド等のジアルキルジメチルアンモニウム塩;オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド等のベンザルコニウム塩が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0019】
ノニオン系乳化剤としては、例えば、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0020】
反応性乳化剤としては、例えば、(株)ADEKA製のアデカリアソープSE−10N、アデカリアソープSE−20N、アデカリアソープSR−10、アデカリアソープSR−20、アデカリアソープNE−10、アデカリアソープNE−20、アデカリアソープNE−30、アデカリアソープNE−40、アデカリアソープER−10、アデカリアソープER−20、アデカリアソープER−30、アデカリアソープER−40、アデカリアソープSDX−730、アデカリアソープSDX−731、アデカリアソープPP−70、アデカリアソープPP−710;三洋化成工業(株)製のエレミノールJS−2、エレミノールJS−20、エレミノールRS−30;花王(株)製のラテムルS−180A、ラテムルS−180、ラテムルPD−104;第一工業製薬(株)製のアクアロンBC−05、アクアロンBC−10、アクアロンBC−20、アクアロンHS−05、アクアロンHS−10、アクアロンHS−20、アクアロンRN−10、アクアロンRN−20、アクアロンRN−30、アクアロンRN−50、アクアロンKH−05、アクアロンKH−10、ニューフロンティアS−510;東邦化学工業(株)製のフォスフィノ−ルTXが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
これらの乳化剤の中でも、重合体(A)の重合安定性の観点から、アニオン系乳化剤又は反応性乳化剤が好ましい。
アニオン系乳化剤としては、ドデシル硫酸アンモニウム、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸アンモニウムが好ましい。また、反応性乳化剤としては、アデカリアソープSR−10、アデカリアソープSR−20が好ましい。
【0022】
重合体(A)の粒子を乳化重合法により重合する際の乳化剤の使用量としては、使用する乳化剤の種類、単量体の種類、単量体の組成比、重合条件によって適宜決めることができるが、通常、単量体100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、乳化剤の使用量としては、得られる重合体(A)中の乳化剤の残存量を抑制する観点から、単量体100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。
【0023】
重合体(A)の粒子を得るための重合開始剤としては、特に制限はなく、水溶性、油溶性のいずれも用いることができる。
【0024】
重合開始剤としては、例えば、t−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、p−メンタンヒドロパーオキシド、イソブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、オクタノイルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジクロルベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジt−ブチルパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキシド、メチルシクロヘキサノンパーオキシド、ジイソブチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスジイソブチレート、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)のアンモニウム(アミン)塩、2,2’−アゾビス{2−[N−(2−カルボキシエチル)アミジノ]プロパン}四水和物、2,2’−アゾビス(2−メチルアミドオキシム)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルブチルアミドオキシム)二塩酸塩・四水和物、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕−プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド〕等のアゾ系化合物;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸化合物;過酸化水素;各種レドックス系触媒が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0025】
レドックス系触媒の酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、p−メンタンヒドロパーオキシドが挙げられる。
レドックス系触媒の還元剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸が挙げられる。
【0026】
これらの重合開始剤の中でも、重合安定性の観点から、過硫酸アンモニウム、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス{2−[N−(2−カルボキシエチル)アミジノ]プロパン}四水和物であることが好ましい。
【0027】
重合体(A)の粒子を得るための重合開始剤の使用量としては、単量体100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.05〜3質量部であることがより好ましい。
重合開始剤の使用量が0.01質量部以上であると、重合反応がスムーズに進行する。また、重合開始剤の使用量が5質量部以下であると、重合体(A)の粒子形状が良好となる。
【0028】
重合体(A)の粒子の質量平均一次粒子径としては、10〜10,000nmであることが好ましく、50〜5,000nmであることがより好ましく、100〜3,000nmであることが更に好ましい。
重合体(A)の粒子の質量平均一次粒子径が10nm以上であると、エポキシ樹脂へ配合した際にエポキシ樹脂組成物の増粘や分散不良を抑制することができる。また、重合体(A)の粒子の平均一次粒子径が10,000nm以下であると、カルボキシル基の含有量が多い重合体(A)を合成する際の分散安定性が良好となる。
【0029】
本発明のイミダゾール化合物(B)は、イミダゾール環を有するものであれば特に制限されない。
イミダゾール化合物(B)としては、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−(2’−メチルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−ウンデシルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−エチル,4−メチルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2−フェニル−3,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ヒドロキシメチル−5−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−3,5−ジシアノエトキシメチルイミダゾールが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらの中で、水溶性が高い、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールが好ましい。
【0030】
イミダゾール化合物(B)の使用量は、本エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性の観点から、重合体(A)が含有するカルボキシル基の化学量論量1に対して、イミダゾール化合物が含有するイミダゾール環の化学量論量が0.1〜1.2であることが好ましく、0.3〜1.0であることがより好ましい。
【0031】
本硬化剤は、重合体(A)中のカルボキシル基とイミダゾール化合物(B)のイミダゾール環を反応させて得られる。
重合体(A)中のカルボキシル基とイミダゾール化合物(B)のイミダゾール環を反応させる方法としては、例えば、10〜80℃で重合体(A)の粒子とイミダゾール化合物(B)を接触・混合させることにより達成できる。具体的には、重合体(A)を乳化重合法で製造し、得られたラテックスに室温で撹拌しながらイミダゾール化合物(B)を添加する方法が挙げられる。尚、前記方法において、イミダゾール化合物(B)は、予め水又はイソプロピルアルコール等の溶媒に溶解した溶液の状態で添加する方法が好ましい。得られた本硬化剤のラテックスは、公知の方法によって粉体として回収することができる。例えば、塩析又は酸析による方法、凍結乾燥、噴霧乾燥による方法が挙げられるが、噴霧乾燥による方法が好ましい。噴霧乾燥による方法であれば本硬化剤にかかる熱履歴が少ないため、本硬化剤の特性を損なうことが少ない。
【0032】
本硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化促進剤として使用することができる。本硬化剤を硬化促進剤として使用する際には、硬化剤として、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤;アミン系硬化剤;酸無水物硬化剤を添加することができる。
この際の硬化剤の配合量としては、エポキシ樹脂中のエポキシ基の化学量論量と硬化剤中のエポキシ基と反応する官能基の化学量論量とが同量となるように配合することが好ましい。
【0033】
エポキシ樹脂は、分子構造、分子量等には特に制限はない。エポキシ樹脂は、例えば、ジシクロペンタジエン型、クレゾールノボラック型、フェノールノボラック型、ビスフェノール型、ビフェニル型の各種エポキシ樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
本エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と本硬化剤を配合して得られるものである。
エポキシ樹脂への本硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1〜50質量部であり、0.2〜40質量部であることが好ましく、0.3〜35質量部であることがより好ましい。
本硬化剤の配合量が0.1質量部以上であると、充分にエポキシ樹脂を硬化させることができる。また、本硬化剤の配合量が50質量部以下であると、本エポキシ樹脂組成物中への分散が容易となり、また、本エポキシ樹脂組成物の著しい粘度上昇がなくなる。
【0035】
エポキシ樹脂と本硬化剤を配合する方法としては、公知の配合方法を用いればよく、例えば、3本ロールミル、ビーズミル、ボールミル、プラネタリーミキサーを用いる方法が挙げられる。
【0036】
本エポキシ樹脂硬化物は、本エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる。硬化条件としては、例えば、80〜150℃で1〜12時間加熱硬化する方法が挙げられる。
【0037】
本エポキシ樹脂硬化物は、一液型接着剤、シーラント、注型剤、積層剤、塗料等の各種用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を用いて本発明について説明するが、本発明は、これらの例によって限定されるものではない。
尚、実施例中において、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表すものとする。
【0039】
(1)固形分
重合体(A)の製造で得られたラテックスをアルミ皿に入れ、180℃のオーブン内で30分間保持し、ラテックスの水分を蒸発させ、乾燥前後の質量比からラテックスの固形分を算出した。
【0040】
(2)平均一次粒子径
重合体(A)の製造で得られたラテックスを脱イオン水で固形分濃度3%に希釈したものを試料として、粒度分布計(機種名「CHDF2000」、MATEC社製)を用いて質量平均での平均一次粒子径を測定した。
測定条件は、MATEC社が推奨する下記の標準条件で行なった。
専用の粒子分離用キャピラリー式カートリッジ及びキャリア液を用い、液性を中性、流速を1.4ml/分、圧力を28MPa、温度を35℃に保った状態で、脱イオン水で固形分濃度3%の希釈ラテックス試料0.1mlを測定に用いた。尚、標準粒子径物質として、粒子径既知の30〜800nmの中から選択した12点の粒子径の単分散ポリスチレン(DUKE SCIENTIFIC社製)を用いた。
【0041】
(3)アミン価
本硬化剤の粉末のアミン価を、JIS K7237に従い、指示薬滴定法により測定した。
【0042】
(4)貯蔵安定性
B型粘度計(機種名「BM型粘度計」、東京計器(株)製)を用い、40℃におけるエポキシ樹脂組成物の粘度の経時変化を観察し、初期粘度の2倍の粘度となる日まで測定し、その日数を貯蔵安定性の指標として比較した。
【0043】
(5)硬化温度
動的粘弾性測定装置(機種名「Rheosol G−3000」、(株)ユービーエム製)を用い、パラレルプレート18mm、ギャップ0.5mm、周波数1Hz、捻り角度1度、開始温度40℃、終了温度200℃、昇温速度4℃/分の条件で粘弾性の温度依存性を測定し、本エポキシ樹脂組成物の粘度が立ち上がる温度を読み取った。
【0044】
(6)ガラス転移温度(Tg)
動的機械的特性解析装置(機種名「EXSTAR DMS6100」、セイコーインスツル(株)製)を用い、両持ち曲げモード、昇温速度2℃/分、周波数10Hzの条件でtanδ曲線を測定し、tanδ曲線のピークトップの温度をガラス転移温度とした。
【0045】
(7)架橋密度
架橋密度(ρ)はゴム弾性理論により、ゴム状領域でのヤング率(E)から求められ、ρ=E/3φRTでから算出した。ここで、φはフロント係数(0.7〜1.6)、Rは気体定数、Tは絶対温度である。Eは、ガラス転移温度よりも40℃高い温度の値を用いた。φは1として計算した。
【0046】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却機、窒素導入管、単量体投入口及び温度計を備えた5口フラスコに脱イオン水380部を仕込み、70℃に昇温した。次いで、カルボキシル基を有するモノビニル単量体(a1)としてメタクリル酸25部、フタル酸−2−メタクリロイルオキシエチル74部、多官能性単量体(a2)としてエチレングリコールジメタクリレート1部、乳化剤としてジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸アンモニウム3部、脱イオン水100部からなる単量体混合物を調整し、ホモミキサー(機種名「ウルトラタラックスT25」、IKA社製)にて乳化液を作製した。
次いで、この乳化液をフラスコに仕込み、更に開始剤として脱イオン水20部に溶解させた過硫酸アンモニウム0.2部を加えて重合を開始した。重合反応に伴う発熱ピーク後、2時間保持して重合体のラテックスを得た。得られたラテックスの固形分は16.9%であり、平均一次粒子径は507nmであった。
【0047】
次いで、10%濃度の2−エチル−4−メチルイミダゾール水溶液256部を加えて、充分に混合し、硬化剤(1)のラテックスを得た。
この後、スプレードライヤー(機種名「L−8型」、大川原化工機(株)製)を用い、乾燥用ガスの入口温度140℃、出口温度70℃、及びアトマイザー回転数25,000rpmの条件で、硬化剤(1)のラテックスを噴霧し、硬化剤(1)の粉末を得た。得られた硬化剤(1)の粉末のアミン価は101であった。
【0048】
[実施例2〜6]
単量体、乳化剤及び10%濃度の2−エチル−4−メチルイミダゾール水溶液を、表1に記載の種類及び量に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硬化剤(2)〜(6)の粉末を得た。
【0049】
[比較例1]
単量体を表1に記載の種類及び量に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、重合体のラテックスを作製した。
得られた重合体のラテックスに10%濃度の2−エチル−4−メチルイミダゾール水溶液を256部加えたところ、ラテックスが著しく増粘したため、それ以後の操作は不可能であり、硬化剤の粉末を得ることはできなかった。
【0050】
[比較例2〜3]
単量体、乳化剤及び10%濃度の2−エチル−4−メチルイミダゾール水溶液を、表1に記載の種類及び量に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硬化剤(7)〜(8)の粉末を得た。
【0051】
【表1】

表1中の略号は以下の化合物を示す。
乳化剤(1):ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸アンモニウム
乳化剤(2):ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
乳化剤(3):反応性乳化剤(アデカリアソープSR−10((株)ADEKA製))
MAA:メタクリル酸
PA :フタル酸−2−メタクリロイルオキシエチル
HH :ヘキサヒドロフタル酸−2−メタクリロイルオキシエチル
EGDMA :エチレングリコールジメタクリレート
TMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
EA :エチルアクリレート
BA :ブチルアクリレート
EMI:2−エチル−4−メチルイミダゾール
【0052】
[実施例7]
硬化剤(1)の粉末及びビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「エピコート828」、ジャパンエポキシレジン(株)製)を表2に記載の量で配合し、遊星回転式非接触ミキサー(機種名「泡取り練太郎ARV−200」、(株)シンキー製)で混合した後、3本ロールミル(機種名「M80E」、EXAKT TECHNOLOGIES社製)を使用して3パス処理を行ない、エポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性及び硬化温度の評価結果を表2に示す。
尚、硬化剤(1)の粉末は、エポキシ樹脂100部に対して2−エチル−4−メチルイミダゾールが2.5部になるように配合した。
【0053】
[実施例8〜12、比較例4〜5]
硬化剤(1)の粉末の代わりに、硬化剤(2)〜(8)の粉末を表2に示す量で配合したこと以外は、実施例7と同様にして、エポキシ樹脂組成物を得た。
尚、硬化剤(2)〜(8)の粉末は、エポキシ樹脂100部に対して2−エチル−4−メチルイミダゾールが2.5部になるように配合した。
【0054】
【表2】

【0055】
[実施例13]
硬化剤(1)の粉末及びビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「エピコート828」、ジャパンエポキシレジン(株)製)を表3に記載の量で配合し、遊星回転式非接触ミキサー(機種名「泡取り練太郎ARV−200」、(株)シンキー製)で混合した後、3本ロールミル(機種名「M80E」、EXAKT TECHNOLOGIES社製)を使用して3パス処理を行ない、エポキシ樹脂組成物を得た。
得られたエポキシ樹脂組成物をガラスセルキャストに流し込み、175℃で3時間の条件で硬化させてエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度、架橋密度の評価結果を表3に示す。
尚、硬化剤(1)の粉末は、エポキシ樹脂100部に対して2−エチル−4−メチルイミダゾールが1.0部になるように配合した。
【0056】
[実施例14〜18、比較例6〜7]
硬化剤(1)の粉末の代わりに、硬化剤(2)〜(8)の粉末を表3に示す量で配合したこと以外は、実施例13と同様にして、エポキシ樹脂硬化物を得た。
尚、硬化剤(2)〜(8)の粉末は、エポキシ樹脂100部に対して2−エチル−4−メチルイミダゾールが1.0部になるように配合した。
【0057】
【表3】

【0058】
表1から明らかなように、所定比率の単量体(a1)〜(a3)単位からなる実施例1〜6の重合体(A)は、イミダゾール化合物(B)との反応を安定に進めることができ、硬化剤の粉末を得ることができた。
単量体(a2)単位を含まない比較例1の重合体(A)は、架橋構造とならないことから、イミダゾール化合物(B)との反応工程でラテックスが不安定となり、硬化剤の粉末を得ることができなかった。
【0059】
表2から明らかなように、本エポキシ樹脂組成物(実施例7〜12)は、貯蔵安定性に優れ、硬化剤としての潜在性が充分であることが確認された。
単量体(a3)単位の含有率が本発明の範囲から外れる硬化剤の粉末を配合した、比較例4及び5のエポキシ樹脂組成物は、貯蔵安定性が劣り、硬化剤としての潜在性が不充分であることが確認された。
【0060】
表3から明らかなように、本エポキシ樹脂硬化物(実施例13〜18)は、ガラス転移温度及び架橋密度が高くなり、高い耐熱性を有することが確認された。
単量体(a3)単位の含有率が本発明の範囲から外れる硬化剤の粉末を配合した、比較例6及び7のエポキシ樹脂硬化物は、ガラス転移温度及び架橋密度が高くはないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、エポキシ樹脂用硬化剤としての潜在性、即ち貯蔵安定性及び硬化性に優れるエポキシ樹脂用硬化剤を得ることができ、例えば、一液型接着剤、シーラント、注型剤、積層剤、塗料等の各種用途に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有するモノビニル単量体(a1)単位1〜99.9質量%、多官能性単量体(a2)単位0.1〜99質量%及びその他の単量体(a3)単位0〜30質量%(但し、(a1)〜(a3)単位の合計が100質量%)からなる重合体(A)と、
イミダゾール化合物(B)との反応生成物であるエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項2】
カルボキシル基を有するモノビニル単量体(a1)が、(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、マレイン酸、モノメチルマレート、モノエチルマレート、フマル酸、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、イタコン酸、桂皮酸、クロトン酸、4−ビニルフェニル酢酸、p−ビニル安息香酸から選ばれる1種以上である、請求項1に記載のエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項3】
カルボキシル基を有するモノビニル単量体(a1)が、フタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル又はヘキサヒドロフタル酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルを主成分とする、請求項1に記載のエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂用硬化剤とエポキシ樹脂とを含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物。

【公開番号】特開2011−74370(P2011−74370A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194592(P2010−194592)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】