説明

エポキシ樹脂組成物および複合材料中間体

【課題】高い耐熱性、耐衝撃性、機械強度を備えるとともに、貯蔵安定性や取扱性に優れることから、マトリックス樹脂として複合材料中間体を製造する場合における製造工程通過性が良好なエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】2官能エポキシ樹脂(A)と3官能エポキシ樹脂(B)とフェノール化合物(C)と、特定のポリアミド樹脂(D)が混合、加熱されたエポキシ樹脂成分を含有するエポキシ樹脂組成物である。ポリアミド樹脂(D)は、特定のポリエーテルエステルアミド(ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体)であり、ポリアミド成分と、ポリオキシアルキレングリコールおよびジカルボン酸からなるポリエーテルエステル成分との反応で得られるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機、自動車、一般工業等に用いられる複合材料中間体と、この複合材料中間体に好適に使用されるエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、硬化後の機械強度および剛性が高く、様々な基材に対して優れた接着性を有していることから、ガラス繊維や炭素繊維などの補強用繊維と組み合わされ、機械強度が高く、しかも軽い複合材料とされ、各種分野で使用されてきた。このうち、例えばゴルフクラブやテニスラケットに代表されるスポーツ分野においては、さらなる軽量化、低折損率が求められており、これらの要求を満足するために、複合材料にも高い性能が要求されるようになってきている。このような要求性能としては、特に、高い機械強度、耐衝撃性、耐熱性などを兼ね備えているということがある。
【0003】
例えば、耐熱性が要求される用途には、従来、N,N,N’,N’−テトラグリシジルメタン(TGDDM)を主成分とし、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(DDS)を硬化剤とするエポキシ樹脂組成物が広く使用されてきた。ところが、この組成物は耐熱性、剛性等には優れるものの、耐衝撃性が低い。そこで、耐衝撃性を付与するためにビスフェノールA型エポキシ樹脂に代表される2官能のエポキシ樹脂を主成分として用いることもあるが、その場合には耐熱性が低下してしまい、要求性能を満足しない場合が多い。また、耐衝撃性を改善する試みとして、エポキシ樹脂中にアクリロニトリル−ブタジエン共重合体などのゴム状ポリマーを添加し、エポキシ樹脂の硬化時にこのゴム状ポリマーからなるゴム層をミクロ相分離させる方法が提案されている。ところが、この方法でも、耐熱性や剛性が低下する傾向があった。
このように耐衝撃性と耐熱性との両立は従来非常に困難であった。
【0004】
また、例えば特許文献1および2などに開示されているように、耐熱性の高いエポキシ樹脂組成物に耐衝撃性を付与するために、ポリエーテルスルホン(PES)に代表される熱可塑性樹脂を添加する方法がある。
しかしながら、この方法で一定の効果を得るためには、熱可塑性樹脂の添加量を多くする必要があり、その結果、エポキシ樹脂組成物の粘度が上がってしまう。一般に、複合材料からなるゴルフシャフトやテニスラケットを製造する際には、エポキシ樹脂組成物を補強用繊維に含浸させた複合材料中間体(プリプレグともいう。)を材料とし、このプリプレグは、通常、離型紙(工程紙)上に塗布されたエポキシ樹脂組成物に対して、一方向に引き揃えた補強用繊維を加熱、加圧して、補強用繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させる方法で製造される。そのため、このようにエポキシ樹脂組成物の粘度が上昇すると、離型紙の表面にエポキシ樹脂組成物を塗布できなくなるおそれや、加熱・加圧により補強用繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸できなくなる可能性が生じ、複合材料中間体の製造工程通過性も著しく低下する。また、得られた複合材料中間体は、適度なタックや柔軟性など、複合材料中間体に求められる特性が不十分なものとなってしまう傾向がある。
【0005】
また、このように熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を添加した場合には、熱硬化性樹脂の硬化条件の違いによって、得られる複合材料の機械強度が変化してしまうというおそれもある。すなわち、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を添加すると、得られる樹脂組成物には相分離構造が生じるが、相分離構造は熱硬化性樹脂の硬化条件に依存する。そして、相分離構造の変化は、硬化した樹脂組成物やこれを用いた複合材料の機械特性に対して大きな影響を与える。プリプレグからゴルフシャフト等の複合材料を成形する際、成形品の形、大きさ等により硬化条件を変更することが一般的であるため、硬化条件の違いによって機械強度が変化してしまうことは問題である。
【0006】
耐衝撃性を向上させる方法としては、熱可塑性樹脂の微粒子を配合する方法があるが、この方法では、配合される熱可塑性樹脂の特性がエポキシ樹脂組成物や複合材料の物性などに悪影響を及ぼすことが懸念される。例えば、エポキシ樹脂組成物の改質剤として汎用されるナイロン6微粒子は、高温高湿度環境下において通常4.5質量%吸湿するため、このような吸湿により複合材料の機械特性が低下するおそれもある。
【0007】
また、例えば特許文献3〜5などに示されているように、種々のポリアミド樹脂を使用してエポキシ樹脂を改質することも検討されている。しかし、これらに開示の技術を仮に複合材料中間体に適用したとしても十分な効果は得られない。
【0008】
さらに、特許文献6〜9、特許文献10〜11、特許文献12には、特定のポリアミド樹脂をエポキシ樹脂に添加して、複合材料中間体のマトリックス樹脂に使用することが記載されている。ところが、特許文献6〜9に記載の樹脂組成物を複合材料中間体に使用した場合、耐衝撃性の向上が不十分であるし、複合材料中間体の製造工程通過性が悪く、複合材料中間体の可使時間も短いという問題がある。また、特許文献10〜11に記載の技術では、マトリックス樹脂の硬化条件や混合状態などによって、マトリックス樹脂の相構造が変化し、その結果、マトリックス樹脂の物性が影響を受けやすいという問題がある。また、特許文献12の技術では、耐衝撃性は改善できても、市場の要求を満たす程度の剛性を確保することはできないなどの問題がある。
【0009】
そこで本出願人は、特許文献13において、複合材料中間体に要求される適度なタック、柔軟性などの特性や良好な製造工程通過性を維持し、さらに耐熱性、耐衝撃性などを兼ね備えた複合材料中間体として、2官能エポキシ樹脂、3官能エポキシ樹脂、フェノール化合物の反応物に、4官能エポキシ樹脂および芳香族アミン類を配合した樹脂組成物をマトリックス樹脂として使用する技術を提案している。
【0010】
しかしながら、最近では、複合材料に対する市場の要求性能はますます高くなり、さらに高い耐熱性、耐衝撃性などを併せ持つ材料が求められてきている。
また、特許文献13には、上述の樹脂組成物に、両末端がカルボキシル基のブタジエン−アクリロニトリル共重合体等のエラストマーをさらに配合することにより、より高い耐衝撃性が発現可能である旨記載されているが、エラストマーなどのゴム成分を単に配合すると、配合量に応じて耐衝撃性は向上するものの、耐熱性はやはり低下してしまう。
【特許文献1】特開昭58−124126号公報
【特許文献2】特開昭62−153349号公報
【特許文献3】特公昭40−1874号公報
【特許文献4】特開昭55−71771号公報
【特許文献5】特開昭56−152832号公報
【特許文献6】米国特許第2705223号明細書
【特許文献7】米国特許第2986539号明細書
【特許文献8】特開昭58−53913号公報
【特許文献9】特開昭63−99222号公報
【特許文献10】特開昭61−103992号公報
【特許文献11】特開昭64−6019号公報
【特許文献12】特開平3−203923号公報
【特許文献13】特許第3026372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、従来両立が困難であった高い耐熱性、耐衝撃性を備えるとともに、貯蔵安定性や取扱性に優れ、そのためマトリックス樹脂として複合材料中間体を製造する場合における製造工程通過性が良好で機械強度も維持したエポキシ樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、10〜90質量部の2官能エポキシ樹脂(A)と、0.5〜40質量部の3官能エポキシ樹脂(B)と、10〜50質量部のフェノール性水酸基を分子中に2つ以上有するフェノール化合物(C)との合計100質量部に対して、下記式(I)で示されるポリアミド樹脂(D)1〜45質量部が混合、加熱され、前記フェノール化合物(C)中に含まれるフェノール性水酸基の80%以上が反応したエポキシ樹脂成分を含有することを特徴とする。
【化1】

(式(I)中、Xは1〜10、Yは1〜10、Zは1〜20で、いずれも整数である。また、PAは下記式(II)である。
【化2】

(式(II)中、aは0〜2、bは0〜2、lは1〜10で、いずれも整数である。ただし、aとbとは同時に0になることはない。また、Cαは−(CHα−(αは2〜40の整数)である。そして、PA、PAはそれぞれ独立に、下記式(III)および/または(IV)であり、PEは下記式(V)である。
【化3】

【化4】

(式(III)、(IV)中、Cβは−(CHβ−(βは2〜40の整数)である。Rは−(CH−(dは1〜6の整数)である。そして、R、R’はそれぞれ独立に、HまたはCHである。)
【化5】

(式(V)中、mは3〜20の整数、nは1〜10の整数である。また、Rは−(CH−(eは2〜8の整数)である。Cγは−(CHγ−(γは2〜40の整数)である。)
前記フェノール化合物(C)は、下記式(VI)で示されるものであることが好ましい。
【化6】

(式(VI)中、Xは水素原子、炭素数が6以下のアルキル基、Brからなる群より選ばれる1種を示し、Yは直接結合、−CH−、−C(CH−、−SO−、
【化7】

からなる群より選ばれる1種を示す。)
前記エポキシ樹脂成分は、2官能エポキシ樹脂(A)および/または前記3官能エポキシ樹脂(B)と、前記ポリアミド樹脂(D)とが混合、加熱されたものに、少なくとも前記フェノール化合物(C)が混合、加熱されたものであることが好ましい。
本発明の複合材料中間体は、前記エポキシ樹脂組成物が補強用繊維に含浸したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い耐熱性、耐衝撃性を備えるとともに、マトリックス樹脂として複合材料中間体を製造する場合における製造工程通過性にも優れ、機械強度も維持したエポキシ樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、2官能エポキシ樹脂(A)と、3官能エポキシ樹脂(B)と、フェノール化合物(C)と、上記式(I)で示されるポリアミド樹脂(D)とが混合され、加熱されて得られるエポキシ樹脂成分を含有するものである。
(A)成分である2官能エポキシ樹脂とは、分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂であって、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、それらのブロム化エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、アルキル骨格を主鎖とするエポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂あるいはこれらを変性したエポキシ樹脂等をその代表例として挙げることができ、これらは1種単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。また、これらのうち例えばビスフェノール型エポキシ樹脂は、下記式(VII)で示される。
【0015】
【化8】

【0016】
(B)成分である3官能エポキシ樹脂とは、分子中にエポキシ基を3つ有するエポキシ樹脂であって、その代表例としては、N,N,O−トリグリシジル−P−又は−m−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−4−アミノ−m−又は−5−アミノ−o−クレゾール、1,1,1−(トリグリシジルオキシフェニル)メタン等が挙げられる。 また、3官能エポキシ樹脂には、市販されている3官能エポキシ樹脂を用いることもでき、そのようなものとしては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製のEp630、YX−4、ハンツマン社製のMY0510、住友化学社製のELM−100、大日本インキ社製 EXD506等が挙げられる。これら3官能エポキシ樹脂は、1種単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
(C)成分であるフェノール化合物は、フェノール性水酸基を分子中に2つ以上有するものであって、例えば、上記(VI)の構造式を満たすものであり、具体的には、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラ3級ブチルビフェニル、ビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールF、ビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールS、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビス(キシレノール)が挙げられる。これらは1種単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
(D)成分であるポリアミド樹脂は、上記式(I)で示されるポリエーテルエステルアミド(ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体)である。このポリエーテルエステルアミドは、ポリアミド成分と、ポリオキシアルキレングリコールおよびジカルボン酸からなるポリエーテルエステル成分との反応で得られ、分子鎖中にアミド結合とエーテル結合とエステル結合とを有する重合体であって、エポキシ樹脂に高い相溶性を示すとともに、高温高湿度環境下における吸湿量が少ない。そのため、このポリエーテルエステルアミドを選択することで、高い耐熱性、耐衝撃性に加え、高温高湿度環境下における機械特性を満足するエポキシ樹脂組成物や複合材料を提供可能となる。
【0019】
式(I)中、PAは上記式(II)で示され、PEは上記式(V)で示される。また、式(II)中PAとPAは、それぞれ独立に、上記式(III)および/または式(IV)である。すなわち、PA、PAはいずれも、式(III)の構造のもの単独の場合と、式(IV)の構造のもの単独の場合と、式(III)の構造のものと式(IV)の構造のものとが混在している場合とがある。
【0020】
なお、式(I)中、Xは1〜10、Yは1〜10、Zは1〜20で、いずれも整数である。式(II)中、aは0〜2、bは0〜2、lは1〜10で、いずれも整数である。ただし、aとbとは同時に0になることはない。また、Cαは−(CHα−(αは2〜40の整数)である。
【0021】
また、式(III)および(IV)中、Cβは−(CHβ−(βは2〜40の整数)である。Rは−(CH−(dは1〜6の整数)である。そして、R、R’はそれぞれ独立に、HまたはCHである。
【0022】
さらに、式(V)中、mは3〜20の整数、nは1〜10の整数である。また、Rは−(CH−(eは2〜8の整数)である。Cγは−(CHγ−(γは2〜40の整数)である。
【0023】
ポリエーテルエステルアミドの製造方法は、均一で高分子量の重合体が得られる方法であれば、どのような方法でも採用できる。例えば、まず、ポリアミドオリゴマーを合成し、これにポリオキシアルキレングリコールとジカルボン酸を加え、減圧下で加熱して高重合度化させる方法が挙げられる。
【0024】
また、このようなポリエーテルエステルアミドとしては、市販品を用いることもできる。ポリエーテルエステルアミドの市販品としては、富士化成工業社製TPAEシリーズ(TPAE12、TPAE31、TPAE32、TPAE38、TPAE8、TPAE10、TPAE100、TPAE23、TPAE63、TPAE200、TPAE201、TPAE260、TPAE260)を例示できる。
これらのうちTPAE32は、式(I)で示されるものの混合物であって、式(I)〜(V)中、平均値として、X=Y=1、Z=7.26、a=0.16、b=0.84、l=2.23、α=10、β=34、d=2、m=14、n=1、γ=10、e=4である。また、RおよびR’はいずれもHである。また、TPAE32においては、PA、PAはいずれも、式(III)の構造のものと式(IV)の構造のものとが混在した状態となっている。
【0025】
エポキシ樹脂成分は、以上説明した(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、(D)成分とを混合し、加熱することで得られる。加熱の際には、必要に応じて触媒を加えてもよい。また、ここでの加熱は、フェノール化合物(C)中に含まれるフェノール性水酸基の80%以上が反応し、20%以下しか残存しない程度に行うことが必要である。20%を超えるフェノール性水酸基が未反応で残存していると、エポキシ樹脂成分やこれを含むエポキシ樹脂組成物の耐水性および貯蔵安定性が大幅に低下する。好ましくはフェノール性水酸基の反応率は90%以上である。
【0026】
エポキシ樹脂成分の調製方法としては、(A)〜(D)成分の混合物を、上述したようにフェノール性水酸基の80%以上が反応し、好ましくは反応が比較的穏やかに進行するような条件下で加熱すればよい。具体的には、触媒を用いない場合では、混合物を100〜150℃で5〜24時間加熱し、触媒を用いる場合では、混合物を100〜130℃で2〜6時間加熱する条件が適当である。
【0027】
より好ましいエポキシ樹脂成分の調製方法としては、(A)成分および/または(B)成分と、(D)成分とをあらかじめ混合して、150〜180℃で1〜6時間加熱し、(A)成分および/または(B)成分に(D)成分の少なくとも一部を溶解させ、その後、フェノール化合物(C)を少なくとも含む残りの必須成分を加えて、触媒を用いない場合では100〜150℃で5〜24時間、触媒を用いる場合では100〜130℃で2〜6時間加熱する2段階の調製法が挙げられる。このような調製法で得られたエポキシ樹脂成分を含有することにより、そのエポキシ樹脂組成物は高い耐熱性、耐衝撃性とともに、高温高湿度環境下における機械特性などをも有し、複合材料中間体のマトリックス樹脂に適したものとなる。
【0028】
なお、エポキシ樹脂成分の調製時に使用される触媒としては、エポキシ基とフェノール性水酸基の反応を適度に促進するものであれば特に制限ないが、トリフェニルホスフィン(TPP)が特に好ましい。触媒の量は反応がスムーズに進行する様に適宜設定すればよい。
【0029】
エポキシ樹脂成分は、上述のようにして調製できるが、その際の各成分の比率は、10〜90質量部の2官能エポキシ樹脂(A)と、0.5〜40質量部の3官能エポキシ樹脂(B)と、10〜50質量部のフェノール化合物(C)との合計100質量部に対して、ポリアミド樹脂(D)が1〜45質量部となる範囲とする必要がある。より好ましくは、20〜77質量部の2官能エポキシ樹脂(A)と、3〜35質量部の3官能エポキシ樹脂(B)と、20〜45質量部のフェノール化合物(C)との合計100質量部に対して、ポリアミド樹脂(D)が3〜25質量部である。
【0030】
各成分の比率をこのような範囲とすることにより、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物の耐衝撃性と耐熱性との両立が可能となり、複合材料中間体を製造する際の製造工程通過性にも優れる。特に耐熱性については、その指標となるガラス転移温度(G‘−Tg)が、硬化温度よりも20℃低い温度以上となり、非常に優れる。
ここで2官能エポキシ樹脂(A)の比率を10質量部以上とすることにより、エポキシ樹脂組成物の耐衝撃性が十分となり、90質量部以下とすることにより、エポキシ樹脂組成物の耐熱性の低下を抑えることができる。3官能エポキシ樹脂(B)の比率を0.5質量部以上としておけば十分な耐熱性が得られ、40質量部以下とすると、耐熱性と耐衝撃性との両立が達成できる。フェノール化合物(C)の比率を10質量部以上としておけば十分な耐衝撃性が得られ、50質量部以下としておけばエポキシ樹脂組成物を硬化させた際に密な架橋骨格が得られ、耐熱性を良好なものとできるだけでなく、20%以上のフェノール性水酸基が未反応で残存してしまうこともない。
また、ポリアミド樹脂(D)の比率が、(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して1質量部以上であれば、エポキシ樹脂組成物の耐衝撃性は十分なものとなり、45質量部以下であれば、エポキシ樹脂組成物の粘度を低く抑えられ、これを用いてプリプレグを製造する際の製造工程通過性が良好となる。さらに好ましいポリアミド樹脂(D)の比率は3〜25質量部である。
【0031】
このようにしてエポキシ樹脂成分を調製することにより、フェノール化合物(C)とポリアミド樹脂(D)とがそれぞれ島相(ソフトセグメント)で、2官能エポキシ樹脂(A)および3官能エポキシ樹脂(B)が海相(ハードセグメント)である海島構造のモルフォロジー制御が可能となった。
このようにポリアミド樹脂(D)がエポキシ樹脂成分中に島相として固定されていると、得られたエポキシ樹脂組成物の硬化条件を種々変化させて加熱硬化させても、ポリアミド樹脂(D)は相分離することなく、ソフトセグメントの役割を担う島相としてエポキシ樹脂成分中に存在することができ、その結果、得られるエポキシ樹脂組成物は非常に高い耐衝撃性を発現する。さらに、ソフトセグメントとしては、ポリアミド樹脂(D)からなる島相に加え、フェノール化合物(C)からなる島相も存在している。よって、それぞれのソフトセグメントの相乗効果が発現し、どちらか一方のみからソフトセグメントが構成されている場合に比べて、得られるエポキシ樹脂組成物の耐衝撃性が非常に向上し、その結果、炭素繊維複合材料などの複合材料とした際に、190MPaを超える程度の高い衝撃後圧縮強度(CAI)が発現するものとなる。
また、ポリアミド樹脂(D)が島相としてエポキシ樹脂成分中に均一に存在し、少なくともその一部は骨格に組み込まれていると考えられるため、ポリアミド樹脂(D)の吸湿量を飛躍的に低減でき、従来困難であった高温高湿度環境下での複合材料の機械特性の低下が低減できる。
【0032】
また、ここでポリアミド樹脂(D)として、特に高温高湿度環境下においても吸湿量が少ない式(I)のポリエーテルエステルアミドを採用しているため、エポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として使用することで、複合材料の高温高湿度環境下での機械特性をさらに高めることが可能となった。
【0033】
エポキシ樹脂組成物は、以上説明したエポキシ樹脂成分の特性を維持できる範囲内で、他のエポキシ樹脂を含んでもよい。
他のエポキシ樹脂としては、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール等のアミン類を前駆体とするエポキシ樹脂および各種異性体、フェノール類を前駆体とするエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等、炭素−炭素2重結合を前駆体とするエポキシ樹脂として、脂環式エポキシ樹脂等ナフタレン等の多核骨格を有するエポキシ樹脂等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。さらに、エポキシ基の一部を熱可塑性樹脂やエラストマー、イソシアネート等で変性したエポキシ樹脂も使用できる。また、これらのエポキシ樹脂をブロム等で変性し、難燃性を付与したエポキシ樹脂も好ましく用いる。なお、その他のエポキシ樹脂の使用量は、エポキシ樹脂組成物中における全樹脂成分の40%以下が好ましい。
【0034】
さらに、エポキシ樹脂組成物には、両末端がカルボキシル基のブタジエン−アクリロニトリル共重合体等のいわゆるエラストマー成分、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリビニルブチラート等の熱可塑性樹脂成分が目的に応じて含まれてもよい。これら成分の使用量は、全体の物性バランスをくずさない範囲内で目的に応じて適宜設定すればよい。また、シリカ粉末、アエロジル、マイクロバルーン、三酸化アンチモン等の無機化合物を目的に応じて配合してもよい。
【0035】
エポキシ樹脂組成物は1種以上の硬化剤を含有でき、その種類、組み合わせには制限はない。また、その使用量も硬化剤の種類に応じた有効な量とすればよい。
具体的には、アミン系硬化剤としてはジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、N−アミノエチルピペラジン等の脂肪族系アミン化合物類、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、トリメチレン−ビス(4−アミノベンゾエート)等の芳香族系アミン化合物類、ジシアンジアミド等が挙げられる。その他、三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体をはじめ、ベンジルジメチルアミン、2−エチル−4−メチルイミダゾールに代表されるイミダゾール類、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が例示できる。また、酸無水物系硬化剤としては、メチルナジック酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、フタル酸無水物、ドデセニル無水コハク酸、無水クロレンディック酸、ピロメリット酸無水物等が挙げられる。
【0036】
これらのなかで特に好ましくは、芳香族系アミン化合物類の4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンおよびジシアンジアミドである。 芳香族アミン化合物類を使用する場合は、下記式(VIII)から計算されるエポキシ基に対する理論当量が90〜175%当量となる範囲で使用することが適当であり、100〜150%当量がより好ましい。90%当量以上とすることにより、エポキシ樹脂組成物は硬化が十分なものとなり、満足できる物性が得られ、逆に175%当量以下とすれば、架橋密度を適正な範囲とすることができ、耐熱性、耐溶剤性が良好なものとなる。
【0037】
【数1】

【0038】
また、硬化剤とともに硬化促進剤を1種以上使用してもよく、そのようなものとしては、イミダゾール誘導体、イミダゾールのカルボン酸塩や金属錯塩等またはジクロロフェニルジメチルウレア、フェニルジメチルウレアなどの尿素化合物、3級アミン化合物などが挙げられる。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上述したようなエポキシ樹脂成分を含有するため、耐熱性、耐衝撃性が優れている。また、貯蔵安定性と取扱性も備えていることから、複合材料中間体を製造する際の製造工程通過性が良好であり、複合材料中間体のマトリックス樹脂として使用するのに適している。このような複合材料中間体から得られた複合材料は、高強度で、耐衝撃性、耐熱性等の諸物性に優れたものとなる。
複合材料中間体を製造する際において、エポキシ樹脂組成物を含浸する補強用繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維等が挙げられ、これらはミルドファイバー状、チョップドファイバー状、連続繊維、各種織物等の形態で用いることができる。なかでも、引張強度450MPa以上、引張伸度1.7%以上の高強度・高伸度の炭素繊維が連続繊維状または各種織物状の形態となっているものが最も好適に用いられる。
エポキシ樹脂組成物を補強用繊維に含浸する方法としては特に制限はなく、通常の方法によればよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
各例で使用した各成分は以下の通りである。
(A)成分、他のエポキシ樹脂
・エピコート807(Ep807):ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、平均分子量:約312
・エピコート828(Ep828):ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、平均分子量:約340
(B)成分
・エピコート630(Ep630):ジャパンエポキシレジン社製、平均分子量318
(C)成分
・4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビス(2,6−キシレノール)(分子量402)
(D)成分
・TPAE32:富士化成工業社製、重合脂肪酸系のポリエーテルエステルアミド
硬化剤
・DICY:ジャパンエポキシレジン社製、ジシアンジアミド、品名:DICY7
・オミキュア94:PTIジャパン社製 フェニルジメチルウレア
・DDS:和歌山精化社製セイカキュアS 4,4’−ジアミノジフェニルスルホン
【0041】
[実施例1]
(A)成分であるEp807:58gと(D)成分であるTPAE32:6gとを混合して180℃で4時間加熱し、(A)成分に(D)成分を溶解させた後、さらに、(B)成分であるEp630:6gと、(C)成分である4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビス(2,6−キシレノール):35gを溶解させた。その後、100℃で、触媒であるトリフェニルホスフィン(TPP、キシダ化学社製):1.0gを加えて、 2時間加熱しエポキシ樹脂成分を得た。この際、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビス(2,6−キシレノール)のフェノール性水酸基の未反応量は1%以下であった。
次に、このエポキシ樹脂成分を60℃まで降温し、他のエポキシ樹脂としてEp828:10g、硬化剤および硬化促進剤としてDICY:3g、オミキュア94:3gを順次投入し、全体が均一になるまで十分に混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。表1に各成分の配合比をまとめる。
【0042】
得られたエポキシ樹脂組成物を真空脱泡した後、ガラス板に挟み、130℃で2時間硬化して樹脂板を得た。
得られた樹脂板について、JIS K6911に準拠して3点曲げ物性(強度、弾性率、伸度)を、ASTM D5045 SENB法に準拠して破壊靱性値(GIC)を、DMA法によりG’−Tg(ガラス転移温度)を測定した。これらの結果を表2に示す。
また、工程紙上に50g/m塗工できるようにギャップが調整された簡易コーターを用いて、得られたエポキシ樹脂組成物が60℃においてフィルム状に塗工できるかどうか評価した。50g/mのフィルムが均一に塗工できれば製造工程通過性は「良好」、均一に塗工できなければ「不良」と判断し、表2に示した。
【0043】
[実施例2〜6]
各成分の配合比を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製し、さらに、得られたエポキシ樹脂組成物を用いて樹脂板を製造し、実施例1と同様の測定を行った。
結果を表2に示す。
また、各例において、(A)成分中における4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビス(2,6−キシレノール)のフェノール性水酸基の未反応量は1%以下であった。
【0044】
[実施例7〜12]
各成分の配合比を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。さらに、得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、硬化条件を130℃×2時間ではなく180℃×2時間とした以外は実施例1と同様にして、樹脂板を製造し、実施例1と同様の測定を行った。
結果を表2に示す。
また、各例において、(A)成分中における4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビス(2,6−キシレノール)のフェノール性水酸基の未反応量は1%以下であった。また、DDSは、エポキシ基に対する理論当量が120%となるように配合した。
【0045】
[比較例1および3]
各成分の配合比を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。さらに、得られたエポキシ樹脂組成物を用いて樹脂板を製造し、実施例1と同様の測定を行った。
結果を表4に示す。
【0046】
[比較例2]
表3に記載の配合比で、(A)成分であるEp807と(D)成分であるTPAE32とを混合して180℃で4時間加熱し、(A)成分に(D)成分を溶解させた後、さらに、(B)成分であるEp630と、(C)成分である4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビス(2,6−キシレノール)を溶解させた。その後、加熱せずに60℃まで降温し、他のエポキシ樹脂としてEp828、硬化剤および硬化促進剤としてDICYおよびオミキュア94を順次投入し、全体が均一になるまで十分に混合して、組成物を調製した。加熱をしなかったため、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビス(2,6−キシレノール)のフェノール性水酸基の未反応量は80%であった。
次に、こうして得られた組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂板を製造し、実施例1と同様の測定を行った。
結果を表4に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
各実施例で得られた樹脂板はいずれも、3点曲げ物性が良好で、特に強度は目標値である120MPaを超えるものであった。また、G’−Tgも、目標値である「硬化温度よりも25℃低い温度(実施例1〜6では105℃、実施例7〜12では155℃)」を超える温度であって耐熱性が良好で、かつ、耐衝撃性の指標であるGIC値も目標値である400J/mを大きく上回るものであった。さらに、いずれの組成物も製造工程通過性が良好であり、複合材料中間体のマトリックスに適したものであることが示された。
【0052】
一方、ポリアミド樹脂(D)が含まれない場合(比較例1)は、得られる樹脂板の3点曲げ強度、G’−Tgや、その製造工程通過性は良好であったものの、耐衝撃性が不十分であった。ポリアミド樹脂(D)が過剰に含まれる場合(比較例3)では、樹脂板の耐衝撃性は良好であるものの、3点曲げ強度、G’−Tg、製造工程通過性が悪化し、各種特定の両立はできなかった。
また、(C)成分の添加後の加熱を行わなかった場合(比較例2)、ポリアミド樹脂(D)が樹脂板においてゲリマンダー状態に析出し、均一な樹脂板を作製できず、そのため、各種測定ができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜90質量部の2官能エポキシ樹脂(A)と、0.5〜40質量部の3官能エポキシ樹脂(B)と、10〜50質量部のフェノール性水酸基を分子中に2つ以上有するフェノール化合物(C)との合計100質量部に対して、下記式(I)で示されるポリアミド樹脂(D)1〜45質量部が混合、加熱され、前記フェノール化合物(C)中に含まれるフェノール性水酸基の80%以上が反応したエポキシ樹脂成分を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】

(式(I)中、Xは1〜10、Yは1〜10、Zは1〜20で、いずれも整数である。また、PAは下記式(II)である。
【化2】

(式(II)中、aは0〜2、bは0〜2、lは1〜10で、いずれも整数である。ただし、aとbとは同時に0になることはない。また、Cαは−(CHα−(αは2〜40の整数)である。そして、PA、PAはそれぞれ独立に、下記式(III)および/または(IV)であり、PEは下記式(V)である。
【化3】

【化4】

(式(III)、(IV)中、Cβは−(CHβ−(βは2〜40の整数)である。Rは−(CH−(dは1〜6の整数)である。そして、R、R’はそれぞれ独立に、HまたはCHである。)
【化5】

(式(V)中、mは3〜20の整数、nは1〜10の整数である。また、Rは−(CH−(eは2〜8の整数)である。Cγは−(CHγ−(γは2〜40の整数)である。)
【請求項2】
前記フェノール化合物(C)は、下記式(VI)で示されるものであることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化6】

(式(VI)中、Xは水素原子、炭素数が6以下のアルキル基、Brからなる群より選ばれる1種を示し、Yは直接結合、−CH−、−C(CH−、−SO−、
【化7】

からなる群より選ばれる1種を示す。)
【請求項3】
前記エポキシ樹脂成分は、2官能エポキシ樹脂(A)および/または前記3官能エポキシ樹脂(B)と、前記ポリアミド樹脂(D)とが混合、加熱されたものに、少なくとも前記フェノール化合物(C)が混合、加熱されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物が補強用繊維に含浸したことを特徴とする複合材料中間体。


【公開番号】特開2007−217463(P2007−217463A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36819(P2006−36819)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】