説明

エマルジョン燃料用乳化剤組成物とエマルジョン燃料及びその製造方法

【課題】高い燃焼効率が得られて排気ガス中のPMやNOx濃度も低減できるエマルジョン燃料として、エマルジョンの安定性、着火安定性、燃焼安定性、初期乳化性に非常に優れ、ボイラー等の鉄系金属材料に対する良好な防錆性を具備するものを提供する。
【解決手段】a)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルより選ばれる少なくとも一種のエーテル型非イオン界面活性剤55〜90質量%、b)脂肪酸エステル及びエチレンオキシド鎖を含む脂肪酸エステルより選ばれる少なくとも一種のエステル型非イオン界面活性剤5〜15質量%、c)アルキレングリコール1〜9質量%、d)モノニトロ化合物1〜5質量%、e)芳香族モノカルボン酸のアミン塩1〜5質量%、f)水0〜10質量%を含有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に安定性に優れたエマルジョン燃料を調製するのに好適な乳化剤組成物と、この乳化剤組成物を用いたエマルジョン燃料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エマルジョン燃料は、油類と水及び乳化剤を混合してエマルジョン化したものであり、燃焼器内で霧化して着火した際、燃料粒子に含まれる水分が高温雰囲気中で急激に沸騰して微爆発することにより、燃料粒子が更に細分化されて空気との接触面積を飛躍的に増大させる結果、燃焼効率が高くなり、排気ガス中のPM(煤等の微小塵埃粒子)発生量が減ると共に、燃焼ガス温度の低下によって排気ガス中のNOx(窒素酸化物)濃度も低減し、また油成分として重油、軽油、灯油等の通常の燃料油の他に機械油や植物油等の廃油を再利用できるといった多くの利点を有することから、省エネルギー及び環境保全の両面から普及が期待されている。しかるに、このようなエマルジョン燃料の有用性が提唱されてから久しいが、現状では農業ハウス用ボイラー等のごく限られた用途に試験的に採用されている程度で、燃料として広く普及するまでには至っていない。その原因は、次のようなエマルジョン燃料に特有の課題に対して十分な解決手段が見出されていないことによる。
【0003】
すなわち、このようなエマルジョン燃料としては、油中に水滴粒子が分散したW/O型エマルジョンと、水中に油滴粒子が分散したO/W型エマルジョンがあるが、燃焼性・着火性や防錆性の観点からW/O型エマルジョンを選択する場合が多い。ところが、W/O型エマルジョンは、エマルジョンの安定性に欠け、静置しておくと短時間で油水が分離することから、粘度を高めに設定したり、水滴粒子を細かくする等の工夫によって分離を抑制しているが、それでも十分な安定性を得ることが困難である上、油中含水量を多くするほど油水分離が早くなる傾向があった。このため、W/O型のエマルジョン燃料を使用する燃焼装置では、原料の油類と水及び乳化剤の各々の貯槽と、これら原料を混合してエマルジョン化する乳化装置を付設し、調製したエマルジョン燃料を燃料貯槽あるいは循環系内で常時攪拌状態で保持したり、調製したエマルジョン燃料を直接的に燃料導入部へ供給する必要があり、設備コストが非常に嵩む上に運転コストも高くつき、小規模な燃焼装置には経済面より適用できないという問題があった。
【0004】
一方、O/W型のエマルジョン燃料は、W/O型のエマルジョン燃料に比して安定性がよく、油分に対する水の比率を5〜90体積%と広範に設定でき、また粘度を乳化剤と水の量によって容易に調製できる利点があるが、油滴の周囲が水で包まれた状態であることから、基本的に着火安定性及び燃焼安定性が悪く燃焼開始も遅くなる上、水分の微爆発による油滴粒子の微細化作用が弱いために燃焼効率に劣り、またボイラー等の鉄系金属材料の発錆や腐食を生じ易いという難点があった。
【0005】
なお、従来より、W/O型及びO/W型を含めてエマルジョン燃料を調製するための乳化剤として、エマルジョンの安定性や燃焼効率の向上を謳うものが数多く提案されている。例えば、分岐アルキル基を有する1価アルコールの酸化エチレン付加物とリグニンスルホン酸塩(特許文献1)、モノマー成分に重合性芳香族スルホン酸塩を含むアニオン性ポリマー(特許文献2)、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムとアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(特許文献4)、ソルビトールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル(特許文献5)、オレイン酸アルカノールアミドとアルコキシル化オレイン酸(特許文献6)、シリコーンオイル及びエタノールアミンとソルビタンコハク酸エステル(特許文献7)、ソルビトールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル、及びポリエチレングリコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル(特許文献8)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸エステル,アルキレングリコール,ソルビタンモノオレエートを含む組成物(特許文献9)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−240267号公報
【特許文献2】特開平8−3573号公報
【特許文献3】特開平9−111267号公報
【特許文献4】特開平9−111267号公報
【特許文献5】特開2004−123947号公報
【特許文献6】特開2004−528453号公報
【特許文献7】特開2008−280489号公報
【特許文献8】特開2009−179751号公報
【特許文献9】特開2010−51942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エマルジョン燃料が依然として普及していない現状から裏付けられるように、上記従来の提案のような様々な乳化剤を用いても、実際には、エマルジョンの安定性、着火安定性、初期乳化性、防錆性等において充分に満足できる性能を持つエマルジョン燃料は得られていない。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みて、高い燃焼効率が得られて排気ガス中のPMやNOx濃度も低減できるエマルジョン燃料として、エマルジョンの安定性、着火安定性、燃焼安定性、初期乳化性に非常に優れ、且つボイラー等の鉄系金属材料に対する良好な防錆性を具備するものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るエマルジョン燃料用乳化剤組成物は、a)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルより選ばれる少なくとも一種のエーテル型非イオン界面活性剤55〜90質量%、b)脂肪酸エステル及びエチレンオキシド鎖を含む脂肪酸エステルより選ばれる少なくとも一種のエステル型非イオン界面活性剤5〜15質量%、c)アルキレングリコール1〜9質量%、d)モノニトロ化合物1〜5質量%、e)芳香族モノカルボン酸のアミン塩1〜5質量%、f)水0〜10質量%を含有してなるものとしている。
【0010】
請求項2の発明に係るエマルジョン燃料は、油類100質量部に対し、請求項1記載のエマルジョン燃料用乳化剤組成物0.2〜2質量部と、水20〜80質量部とが混合されてなるものとしている。また、請求項3発明は、この請求項2のエマルジョン燃料がO/W型エマルジョンであるものとしている。
【0011】
請求項4の発明に係るエマルジョン燃料の製造方法は、油類100質量部に対し、請求項1記載のエマルジョン燃料用乳化剤組成物0.2〜2質量部を溶解させ、次いで水10〜50質量部を加えて攪拌混合し、静置して油水分離状態にしたのち、急速攪拌してO/Wエマルジョンを調製することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る乳化剤組成物を用いて得られるエマルジョン燃料は、着火安定性及び燃焼安定性に優れて通常の燃料油と同様に円滑に燃焼でき、且つ通常の燃料油よりも高い燃焼効率が得られて排気ガス中のPMやNOx濃度を低減でき、しかもエマルジョンとしての安定性に非常に優れ,静置状態で数週間以上にわたって油水分離を生じないことから、ボイラーや各種エンジン等の燃焼機関の燃料として一定した高品位で安定的に供給でき、既存の燃料タンクに通常の燃料油同様に貯留して利用できるので燃焼装置毎に乳化装置を付設する必要がなく、小規模な燃焼装置にも支障なく適用可能であり、また鉄系金属材料に対する良好な防錆性を有するから燃料貯槽やパイプライン、燃焼装置の接液部を腐食する懸念もない。
【0013】
しかして、請求項2の発明に係るエマルジョン燃料は、油類に対する乳化剤組成物及び水の配合量比率が特定範囲に設定されることから、上記の優れた性能を確実に具備するものとなる。また、請求項3の発明によれば、該エマルジョン燃料がO/W型エマルジョンからなるため、より優れた安定性が得られると共に、水含有率を広い範囲で調整できるという利点がある。一方、請求項4の発明によれば、上記の高性能なO/W型のエマルジョン燃料を確実に且つ容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)は実施例1のO/W型エマルジョン燃料の400倍顕微鏡写真図、(B)は市販のW/O型エマルジョン燃料の400倍顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のエマルジョン燃料用乳化剤組成物は、既述のように、
a)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルより選ばれる少なくとも一種のエーテル型非イオン界面活性剤55〜90質量%、 b)脂肪酸エステル及びエチレンオキシド鎖を含む脂肪酸エステルより選ばれる少なくとも一種のエステル型非イオン界面活性剤5〜15質量%、
c)アルキレングリコール1〜9質量%、
d)モノニトロ化合物1〜5質量%、
e)芳香族モノカルボン酸のアミン塩1〜5質量%、
f)水0〜10質量%
を含有してなるものである。
【0016】
主成分となる上記aのエーテル型非イオン界面活性剤としては、特に制約されないが、エチレンオキサイド付加モル数(以下、EOモル数と略称する)2〜15、好適には該EOモル数2〜8、HLB5〜15のものが推奨される。その好適な具体例としては、
EOモル数3〜7,HLB9〜13のポリオキシエチレンデシルエーテル、
EOモル数3〜6,HLB8〜12のポリオキシエチレンラウリルエーテル、
EOモル数3〜7,HLB6〜11のポリオキシエチレンオレイルエーテル、
EOモル数6〜8,HLB8〜12のポリオキシエチレンドバノールエーテル(ただし、ドバノールは三菱化学工業社製の炭素数8〜24の分岐型を含む高級アルコール混合物の商品名である)、
EOモル数6〜10,HLB11〜13のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、
EOモル数4〜10,HLB9〜12のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル
等が挙げられる。
【0017】
上記の例示したポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルは、いずれも常温で液状を呈するものである。なお、アルキル基がステアリル基のような長鎖で飽和型であるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、固体で溶けにくいため、取り扱い性の点で好ましくない。また、ポリオキシプロピレン系、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー系の非イオン界面活性剤は乳化分散性に劣るために好ましくない。
【0018】
副成分となる上記bのエステル型非イオン界面活性剤は、特に制約されないが、その好適な具体例として、
EOモル数2〜8,HLB12〜16のポリオキシエチレンラウリン酸エステル、
EOモル数4〜8,HLB10〜15のポリオキシエチレンオレイン酸エステル、
EOモル数4〜8,HLB12〜16のポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、 EOモル数4〜8,HLB10〜14のポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル、 ソルビタンモノ又はジオレイン酸エステル、
ソルビタンモノ又はジラウリン酸エステル
ソルビタンモノ又はジイソステアリン酸エステル
等が挙げられる。
【0019】
乳化剤組成物における上記a及びbの非イオン界面活性剤の配合比率は、既述のようにa成分が55〜90質量%、b成分が5〜15質量%である。これらa,b両成分共に、その比率範囲を逸脱した場合は、エマルジョンを形成できても安定性が不充分になる。
【0020】
上記c成分のアルキレングリコールは、上記a及びbの非イオン界面活性剤と協動してエマルジョンの安定性に寄与する成分であり、エチレングリコールやプロピレングリコール等が該当する。このc)成分の乳化剤組成物における配合比率は、既述のように1〜9質量%,特に好ましくは1〜5質量%であり、この比率範囲を逸脱すると、エマルジョンの安定性が低下する。
【0021】
上記d成分のモノニトロ化合物は、エマルジョン燃料の燃焼性向上剤として機能する成分であり、特に上記a〜c成分を含む乳化剤組成物を用いてエマルジョン化したエマルジョン燃料の着火安定性を確保するのに極めて有効である。このようなモノニトロ化合物としては、特に制約されないが、好適なものとしてニトロメタン、ニトロエタン、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン、ニトロベンゼン、2−エチルヘキシルニトレート等が挙げられる。
【0022】
上記e成分の芳香族モノカルボン酸のアミン塩は、防錆剤として機能する成分であり、特に上記a〜c成分を含む乳化剤組成物を用いてエマルジョン化したエマルジョン燃料を長期保存する場合の燃料貯槽、パイプライン、燃焼装置の接液部等の腐食防止に非常に効果的である。このようなe成分としては、特に制約されないが、安息香酸、パラアミノ安息香酸、パラニトロ安息香酸、メタニトロ安息香酸等のアンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、モノエタノールアミン塩、モノイソプロピルアミン塩等が好適なものとして挙げられる。
【0023】
乳化剤組成物における上記d成分のモノニトロ化合物とe成分の芳香族モノカルボン酸のアミン塩の配合量比率は、それぞれ既述のように1〜5質量%の範囲であり、少な過ぎては充分な作用効果がえられず、逆に多過ぎてはエマルジョンの安定性が低下する。
【0024】
上記f成分の水は、e成分の芳香族モノカルボン酸のアミン塩を溶解させるための成分であり、乳化剤組成物全量中の10質量%以下の範囲で使用する。
【0025】
本発明のエマルジョン燃料は、油類100質量部に対し、上記の乳化剤組成物0.2〜2質量部と、水20〜80質量部とが混合されてなるものであり、着火安定性に優れて通常の燃料油と同様に円滑に燃焼でき、且つ通常の燃料油よりも高い燃焼効率が得られて排気ガス中のPMやNOx濃度を低減でき、しかもエマルジョンとしての安定性に非常に優れ,静置状態で数週間以上にわたって油水分離を生じず、また鉄系金属材料に対する良好を防錆性を発揮するものである。従って、このエマルジョン燃料は、ボイラーや各種エンジン等の燃焼機関の燃料として一定した高品位で安定的に供給でき、既存の燃料タンク等に通常の燃料油同様に貯留して利用できるので燃焼装置毎に乳化装置を付設する必要がなく、小規模な燃焼装置にも支障なく適用可能であり、また燃料貯槽やパイプライン、燃焼装置の接液部を腐食する懸念もない。
【0026】
ここで、油類とは、重油、軽油、灯油、種子油等の燃料油が代表的であるが、その他に機械油や植物油等の廃油で燃焼性の高いものも包含すると共に、燃焼性の低いものでも燃焼性の高いものとの混合形態とすることで使用可能となる。
【0027】
このようなエマルジョン燃料としては、O/W型とW/O型の両エマルジョン形態を包含するが、特にO/W型エマルジョンでは、より優れた安定性が得られると共に、水含有率を広い範囲で調整できるという利点がある。
【0028】
しかして、O/W型のエマルジョン燃料を調製するには、油類100質量部に対し、乳化剤組成物0.2〜2質量部を溶解させ、次いで水10〜50質量部を加えて攪拌混合し、次いで1分間以上、好適には3分間以上静置して油水分離状態にしたのち、急速攪拌する方法が推奨される。すなわち、上記静置で一旦は油水分離状態になった液が次の急速攪拌によって瞬時に白色のエマルジョンに転化するが、このエマルジョンは、水中に極めて微細な油滴粒子が均一に高密度で分散したO/W型のエマルジョン形態であり、長期にわたって油水分離及び変質を生じないという優れた特徴がある。
【0029】
図1に、後述する本発明の乳化剤組成物を用いて調整した実施例1のO/W型エマルジョン燃料の400倍顕微鏡写真Aと、市販のW/O型エマルジョン燃料の400倍顕微鏡写真Bを示す。両エマルジョン燃料は共にA重油/水の重量比が7/3のものであるが、両顕微鏡写真A,Bから明らかなように、本発明のエマルジョン燃料は水中に数μm前後の非常に細かく均一な油滴粒子が高密度で均質に分散した安定な水中油滴型構造を呈するのに対し、市販のエマルジョン燃料は油中に不揃いな大きさの水滴粒子が不均一に分散した不安定な油中水滴構造になっている。
【0030】
なお、上記エマルジョン燃料の調製に用いる混合機としては、通常の回転攪拌式ミキサーも使用可能であるが、ホモミキサー、ホモジナイザー、インラインミキサー、スタテックミキサー、モーションレスミキサー等の一般的に乳化用ミキサーとして汎用されるものが特に推奨される。これは、乳化用ミキサーの使用により、乳化剤組成物の使用量を少なくして高分散・高密度のエマルジョン燃料を調製できることによる。
【0031】
また、本発明のエマルジョン燃料に用いる水としては、静電気活水装置を用いて水分子をマイクロクラスター化したり、電解処理や波動水化処理を行う等、従来よりエマルジョンの安定性向上に有効とされている様々な処理手段を講じたものでもよい。
【実施例】
【0032】
下記の乳化剤組成物A1〜A6及びB1〜B4について、それぞれ各成分を攪拌機で混合することによって調製した。なお、以下において%及び部とあるのは、質量%及び質量部を意味する。
【0033】
〔乳化剤組成物A1〕
ポリオキシエチレンドバノールエーテル(EOモル数6〜8,HLB8〜12) 73%
ポリオキシエチレンオレイン酸エステル 15%
プロピレングリコール 5%
ニトロメタン 2%
安息香酸のトリエタノールアミン塩 3%
水 2%
【0034】
〔乳化剤組成物A2〕
ポリオキシエチレンドバノールエーテル(乳化剤組成物A1と同じ) 75%
ポリオキシエチレンラウリン酸エステル 12%
プロピレングリコール 5%
ニトロエタン 3%
安息香酸のモノイソプロピルアミン塩 3%
水 2%
【0035】
〔乳化剤組成物A3〕
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EOモル数4〜10,HLB9〜13) 77%
ポリオキシエチレンオレイン酸エステル 10%
エチレングリコール 4%
2−エチルヘキシルニトレート 4%
安息香酸のモノイソプロピルアミン塩 3%
水 2%
【0036】
〔乳化剤組成物A4〕
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EOモル数4〜10,HLB9〜12) 77%
ソルビタンジオレイン酸エステル 8%
エチレングリコール 5%
2−エチルヘキシルニトレート 4%
安息香酸のモノエタノールアミン塩 4%
水 2%
【0037】
〔乳化剤組成物A5〕
ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(EOモル数6〜10,HLB11〜13) 80%
ポリオキシエチレンオレイン酸エステル 10%
エチレングリコール 2%
1−ニトロプロパン 2%
パラニトロ安息香酸のモノイソプロピルアミン塩 4%
水 2%
【0038】
〔乳化剤組成物A6〕
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(EOモル数2〜4,HLB6〜11) 74%
ポリオキシエチレンオレイン酸エステル 12%
プロピレングリコール 5%
ニトロエタン 4%
安息香酸のトリエタノールアミン塩 3%
水 2%
【0039】
〔乳化剤組成物B1〕
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(乳化剤組成物A6と同じ) 80%
ポリオキシエチレンオレイン酸エステル 10%
エチレングリコール 5%
ソルビタンモノオレエート 5%
【0040】
〔乳化剤組成物B2〕
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EOモル数4〜10,HLB6〜11) 80%
ポリオキシエチレンオレイン酸エステル 10%
エチレングリコール 5%
亜硝酸ナトリウム 3%
水 2%
【0041】
〔乳化剤組成物B3〕
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(乳化剤組成物B2と同じ) 88%
プロピレングリコール 5%
ソルビタンモノオレエート 7%
【0042】
〔乳化剤組成物B4〕
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(乳化剤組成物B2と同じ) 82%
ポリオキシエチレンオレイン酸エステル 9%
エチレングリコール 5%
8−エチルオクタデカン酸のトリエタノールアミン塩 4%
【0043】
実施例1〜6,比較例1〜4
後記表1記載の燃料油700部に対して同表記載の乳化剤組成物7部を添加して均一に混合し、この混合液に水300部をゆっくり加えて200〜300rpmで5分間攪拌したのち、そのまま3分間静置して油と水が上下2層に分離した状態とした。そして、この油水分離状態の液1Lを市販のインラインミキサー(ノリタケカンパニー社製のN10シリーズ,内径5mm,長さ10cm)に10分間通して急速攪拌することにより、白色の牛乳状を呈するO/W型のエマルジョン燃料を調製した。
【0044】
かくして得られた実施例1〜6及び比較例1〜4の各エマルジョン燃料について、それぞれ下記方法によって乳化安定性、防錆性、着火・燃焼性を試験した。その結果を表1に示す。
【0045】
〔乳化安定性〕
エマルジョン燃料100mlを共栓付きガラス製メスシリンダーに収容し、室温で10日間静置後の離油相,乳化相及び離水相の体積を測定した。
【0046】
〔防錆性〕
100mlのビーカーにエマルジョン燃料50mlを収容し、その液中に研磨した冷間圧延鋼の試験片(50×35×1mm)を浸漬し、室温下で10日間静置して発錆状況を調べ、次の3段階で評価した。
○:錆の発錆が全く認められない。
△:部分的に錆が認められる。
×:全面に錆が発錆し、エマルジョンが変色した。
【0047】
〔着火・燃焼性〕
灯油焚きバーナー燃焼装置を用いたエマルジョン燃料の着火・燃焼試験において、1時間の燃焼時間内に合計5回の着火と消火を繰り返し、着火・燃焼状態を調べて次の2段階で評価した。
○:5回とも着火して安定な燃焼がみられた。
×:1回以上の着火不良を生じた。



【0048】
【表1】

【0049】
上表から明らかなように、本発明の乳化剤組成物A1〜A6を用いて調製した本発明のエマルジョン燃料(実施例1〜6)は、燃料油が重油、軽油、灯油のいずれの場合でも、乳化安定性に優れて高品位のエマルジョン状態を長期間維持できる上、O/W型エマルジョンであるにもかかわらず良好な着火・燃焼性を示し、且つ防錆性にも優れている。これに対し、本発明の規定範囲から外れた乳化剤組成物B1〜B4を用いて調製したエマルジョン燃料(比較例1〜4)は、いずれも着火・燃焼性及び防錆性が悪く、且つ比較例1以外は乳化安定性も悪く良好なエマルジョン状態を維持できないことが判る。
【0050】
〔長期保存試験〕
前記の乳化剤組成物A1〜A6の各々を用い、重油700部に対して乳化剤組成物7部を添加して均一に混合し、この混合液に水300部をゆっくり加えて攪拌したのち、3分間静置して油と水が上下2層に分離した状態とし、これを市販のモーションレスミキサー(ナノクス社製のラモンドナノミキサー)にかけて急速攪拌することにより、白色の牛乳状を呈するO/W型のエマルジョン燃料を調製した。そして、得られた各エマルジョン燃料を燃料貯槽に収容して保存したところ、いずれのエマルジョン燃料も一カ月以上の経過で全く油水分離及び変質を生じなかった。
【0051】
〔加熱炉燃焼試験〕
上記の長期保存試験における1カ月経過後の各エマルジョン燃料を使用し、内径400mm,長さ2200mmの横型円筒形の加熱炉(炉体:フジテックインターナショナル社製、バーナー:加藤鉄工バーナー製作所社製のGPN−20)での8時間連続燃焼試験を行った結果、いずれのエマルジョン燃料でもデジタル温度罫で計測した炉の中心温度が1200℃に保たれ、約30%の含水燃料であるにもかかわらず100%重油使用時と同等の燃焼温度であった。
【0052】
〔車両走行試験〕
上記の長期保存試験における重油に代えて軽油700部を用いて同様に調製したO/W型のエマルジョン燃料を1カ月保存後に使用し、ディーゼルエンジントラック(車体重量2トン)の走行試験を行ったところ、通常燃料使用時に比較して燃費が20〜25%削減した上、排気ガスには煤等の不完全燃焼物質が殆ど認めらず、また排気塔のガス分析測定ではNOxの発生量が通常燃料使用時の1/5に低減していることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルより選ばれる少なくとも一種のエーテル型非イオン界面活性剤55〜90質量%、b)脂肪酸エステル及びエチレンオキシド鎖を含む脂肪酸エステルより選ばれる少なくとも一種のエステル型非イオン界面活性剤5〜15質量%、c)アルキレングリコール1〜9質量%、d)モノニトロ化合物1〜5質量%、e)芳香族モノカルボン酸のアミン塩1〜5質量%、f)水0〜10質量%を含有してなるエマルジョン燃料用乳化剤組成物。
【請求項2】
油類100質量部に対し、請求項1記載のエマルジョン燃料用乳化剤組成物0.2〜2質量部と、水20〜80質量部とが混合されてなるエマルジョン燃料。
【請求項3】
O/W型エマルジョンからなる請求項2記載のエマルジョン燃料。
【請求項4】
油類100質量部に対し、請求項1記載のエマルジョン燃料用乳化剤組成物0.2〜2質量部を溶解させ、次いで水10〜50質量部を加えて攪拌混合し、静置して油水分離状態にしたのち、急速攪拌してO/Wエマルジョンを調製することを特徴とするエマルジョン燃料の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−126759(P2012−126759A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276747(P2010−276747)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(597158539)旭油脂化学工業株式会社 (5)
【出願人】(509173085)株式会社コスゲン (2)
【Fターム(参考)】